大阪高等裁判所 平成17年(ネ)207号 判決 2005年11月11日
控訴人・被控訴人
奈良市(以下「一審原告」という。)
同代表者市長
藤原昭
同訴訟代理人弁護士
田中幹夫
被控訴人・控訴人
勝山株式会社(以下「一審被告」という。)
同代表者代表取締役
パーカー由夏子
同訴訟代理人弁護士
小松英宣
主文
1 原判決中一審原告敗訴部分を取り消す。
2 一審被告は,一審原告に対し,原判決別紙物件目録記載2及び3の各土地につき,昭和51年2月4日都市計画法第40条第2項の規定による帰属を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
3 一審被告の控訴を棄却する。
4 訴訟費用は,第1,2審とも,一審被告の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 一審原告
(1) 主文と同じ
(2) (原判決別紙物件目録記載2及び3の土地についての予備的請求)
一審被告は,一審原告に対し,原判決別紙物件目録記載2及び3の土地につき,昭和54年2月10日時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよ(当審で追加)。
2 一審被告
(1) 原判決中一審被告敗訴部分を取り消す。
(2) 一審原告の請求を棄却する。
第2 一審原告の請求の趣旨(原判決は,原審における請求のうち,2(1)を除き認容した。)
1 一審被告は,一審原告に対し,原判決別紙物件目録記載1,4,5及び6の各土地につき,昭和51年2月4日都市計画法第40条第2項による所有権帰属を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
2(1) 主文第2項と同じ。
(2) 第1,1(2)と同じ(当審追加予備的請求)。
3 一審被告は,一審原告に対し,原判決別紙物件目録記載7及び9の各土地につき,昭和52年3月9日都市計画法第40条第2項による所有権帰属を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
4 一審被告は,一審原告に対し,原判決別紙物件目録記載8の土地につき,昭和56年3月4日都市計画法第40条第2項による所有権帰属を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
5 一審被告は,一審原告に対し,原判決別紙物件目録記載10の土地につき,昭和54年2月10日時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
第3 事案の概要
次のとおり改めるほかは,原判決「第2 事案の概要」の記載を引用する。
(1) 2頁第2,1の上の行の「争っている」の次に「(訴えの利益も争う。)」を加える。
(2) 3頁(2)の本文8,9行目の「都市計画法32条に基づく協議を成立させた。」を「協議を成立させた。」と改める。
(3) 3頁(3)の上5行目の「4ないし6」を「5及び6」と改める。
(4) 3頁(3)の本文1行目から4頁1行目までを次のとおり改める。
「 一審被告は,奈良県知事に対し,昭和50年,分譲住宅の用に供するため,207番から219番まで及び4602番(いずれも当時の地名及び地番)の合計3500.69m2にわたる地域の開発行為の許可を申請し,同年10月28日受理された。申請書は,乙6のうち,本件訴訟記録の406枚目(以下,本件訴訟記録の冒頭から付けられた枚数を示す場合には,【】内に記載する。)のとおりである。一審被告は,この申請に先立ち,一審原告の建築指導課,水道局,土木課,下水道課,清掃部清掃課,公園緑地課,奈良警察署との間で協議を成立させた。」
(5) 4頁下から10行目の「2日に」を「ころ,」と改め,4頁下から6,7行目の「都市計画法32条に基づく協議を成立させた。」を「協議を成立させた。」と改める。
(6) 5頁(6)の上2行目の「なお,」から次行末尾までを次のとおり改める。
「なお,原判決別紙物件目録記載2及び3の土地は,昭和50年ころから同1の土地などと合わせて一筆の土地を構成していた。しかし,一審被告は,平成14年7月1日,同1の土地から同2及び3の土地を分筆し,その後,同1,同2,同4から8及び同10の土地について,平成15年9月3日受付により,原因を同年8月1日設定として,極度額7000万円,債務者一審被告,根抵当権者株式会社グランディとする根抵当権設定登記を経由した。(甲36から45)」
(7) 5頁2の上に次のとおり加える。
「1の2 本案前の争点(訴えの利益)
(一審被告の主張)
本件開発区域内の土地については,仮に一審被告ではなく一審原告が管理者であるとしても,都市計画法40条1項が適用され,一審原告は,その所有権を原始取得するから,単独で所有権を取得した旨の登記ができる。したがって,本件訴えのうち本件開発区域内の土地に関する部分は,訴えの利益を欠く。
(一審原告の主張)
本件開発区域内の土地は,都市計画法40条1項ではなく,同条2項により,一審原告の所有となる。都市計画法は,登記について特段の定めを置かないから,原則どおり共同申請が必要であり,現在の名義人が協力しなければ,登記手続を請求せざるをえない。
よって,本件訴えは,訴えの利益を有し適法である。」
(8) 6頁4行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「エ 本件開発区域内にはもともと公園がなく,一審被告が主張している旧公共施設と新公共施設との対応関係は,全くバランスを欠く。都市計画法40条1項において新旧公共施設が同種,同数量,同価値であることまで要求されていないとしても,本件において同項が適用されるとはいえない。また,用途廃止された旧公共施設用地は,同項にいう従前の公共施設の用に供していた土地とはいえない。」
(9) 6頁(2)の上4行目から1行目を次のとおり改める。
「 仮に本件開発区域内に設置された道路及び公園の管理者が一審被告であると認められなかったとしても,その用地については,都市計画法40条1項が適用され,同条2項は適用されない。
都市計画法40条1項にいう『従前の公共施設に代えて』とは,従前の公共施設に代わる機能を有する公共施設という趣旨であり,その構造,規模等が同一であることを要しない。本件開発区域に設置された道路及び公園は,全体として,従前の里道及び水路(付替水路を除く)に代わるものであり,同項が適用される。
原判決別紙物件目録記載2から4の土地は,本件開発区域外にあり,そもそも都市計画法40条2項の適用対象外である。」
(10) 8頁第3の上に次のとおり加える。
「(6) 時効取得の成否(原判決別紙物件目録記載2及び3の土地につき・予備的請求)
(一審原告の主張)
原判決別紙物件目録記載2及び3の土地は,一審原告の市道に隣接する同目録記載10に隣接する土地で,一審被告が本件開発工事の第1期工事に際し,同時に道路とする工事が行われ,昭和48年1月31日ころには道路として完成された。そして,昭和51年2月3日には,上記土地を含む当時奈良市<番地略>の土地が公共施設である道路として,都市計画法36条による完了公告が行われ,原判決別紙物件目録記載2及び3の土地は,それ以後市道の延長として,一審原告の管理の下に一般市民の利用に供されている。一審被告は,上記土地について昭和54年2月10日に所有権移転登記を経由した。
一審原告は,上記登記時にもその20年後である平成11年2月10日にも,原判決別紙物件目録記載2及び3の土地を占有していた。
一審原告は,上記土地を時効により取得したから,当審第1回口頭弁論期日(平成17年4月15日)において,上記時効を援用する。
(一審被告の主張)
一審原告の占有を否認し,時効取得の成立を争う。」
第4 当裁判所の判断
1 事実経過等
次のとおり改めるほかは,原判決「第3 争点に対する判断」1の記載(8頁下から3行目から16頁2の上の行まで)を引用する。
(1) 9頁4行目の「同開発区域内のもの」の次に「(第3期工事の区域を除く)」を加える。
(2) 9頁(ア)の上冒頭の「4831頁」を「【284枚目】」と改める。
(3) 10頁イの4行目の「都市計画法32条」の次に「(平成12年法律第73号による改正前のもの。以下同じ。)」を加え,10頁イの7行目及び11頁9行目の各「18頁」の次にそれぞれ【345枚目】を加える。
(4) 12頁エ(イ)の2行目の「124番」を削る。
(5) 12頁アの1行目の「4月23日」を削る。
(6) 13頁(ウ)の上の行の「乙5」を「乙6」と改める。
(7) 13頁イの1行目の「4月」を削る。
(8) 14頁2行目の「9月には」から次行の「乙6,」までを次のとおり改める。
「12月4日付けで,都市計画法32条に基づき,奈良県知事の書面による同意もされた。この書面には,法40条1項の規定の適用がある従前の公共施設としては水路のみが,これに代えて新たに設置される公共施設としては上記付替水路のみが,それぞれ記載され,里道は,用途廃止の申請を要する従前の公共施設として記載されたが,法40条1項の規定の適用がある従前の公共施設としては記載されていない。また,この協議において,原判決13頁(イ)の里道は用途廃止することとされた。この里道用地は,現に用途廃止の手続が執られ,国から一審被告に払い下げられた。(乙6,【374枚目】,」
(9) 16頁エの上の行末尾に次のとおり加える。
「一審被告は,国から,その後,上記水路用地の払下げを受けた(証人松本博雅)。」
2 本案前の争点(訴えの利益)について
都市計画法は,同法40条各項による所有権の取得に関し,不動産登記につき特段の定めを置かないから,ある土地につき同条1項又は2項による所有権移転登記を求める者は,その土地の名義人が所有権移転登記に協力しなければ,登記手続を請求せざるを得ない。「同条に定められた所有権の取得が原始取得であるから単独で登記手続ができる。」という根拠も見いだせない。
そうすると,本件訴えは,その利益を有し,適法である。
3 争点(1)(都市計画法40条2項による所有権帰属の成否)について
(1) 開発区域内の土地についての都市計画法40条1項の適否
ア これまで認めた事実によれば,本件開発区域において,公園は,本件開発全体を通じ,開発行為前には存在しなかったと認められる。そして,これまで認めた事実によれば,道路も,第3期工事の区域においては,開発行為前には,国又は地方公共団体の所有地上には存在せず,第1期工事及び第2期工事の区域においては,開発行為前にあった里道は,周囲が農地であり幅員も2m未満のものがかなりあったのに対し,本件開発工事後に設置されたものは,本件開発全体を通じ,宅地の中にあり幅員も6m(一部4m)である。これまで認めた事実,証拠(乙5から7)及び弁論の全趣旨によれば,本件開発工事後に設置された道路が申請時の計画におおむね従い舗装されたことが認められる。以上の事実によれば,開発行為前の道路(里道)は,自動車による通行には適しなかったが,本件開発工事後に設置された道路は,自動車も余裕をもって通行できると認められる。なお,証拠(乙5から7)及び弁論の全趣旨によれば,道路の地下に排水管(雨水用と汚水用)が設置され,道路上から排水管に雨水などを導くため道路脇に雨水桝が設けられたことが認められるが,農地における排水と宅地における排水とでは,内容が異なると考えられる。
以上によれば,公園は,従前対応する施設がなかったのであるから,都市計画法40条1項にいう「従前の公共施設に代えて新たな公共施設が設置された」場合にあたらないというべきである。また,道路についても,本件の事案においては,第3期工事の区域内には国有又は地方公共団体所有地上の道路が従前存在せず,第1期工事及び第2期工事の区域についても,従前のものと本件開発工事後のものとは機能的に大きく異なるということができるから,本件開発工事により設置された道路に従前の道路(里道)や水路としての機能を代替する部分があるとしても,やはり上記の場合にあたらないというべきである。
イ また,都市計画法40条1項は,「従前の……土地で国又は地方公共団体が所有するものは,……開発許可を受けた者に帰属するものとし,これに代わるものとして設置された……土地は,その日においてそれぞれ国又は当該地方公共団体に帰属する」と規定する。この文言は,土地区画整理法105条1項のように,従前国が所有していた土地上の公共施設に代わる公共施設の用地が国に帰属するとか,従前地方公共団体が所有していた土地上の公共施設に代わる公共施設の用地が当該地方公共団体に帰属するとまでは明記していないけれども,上記のような「それぞれ……帰属する」との都市計画法の文言からは,土地区画整理法105条1項と同趣旨であると解される。そうすると,都市計画法40条1項は,新設される公共施設の用地と従前の公共施設の用地とが管理者と事業者との間で当然に交換される趣旨の規定と解される。本件において,同項が適用されるのであれば,従前の施設に代えて新たに設置される公共施設の用地は,国に帰属することとなると解される。
しかし,これまで認めたとおり,本件開発工事により設置された公園及び道路の管理者及び所有者は,都市計画法32条所定の協議において,一審原告とされた。そして,これまで認めたとおり,奈良県知事による都市計画法32条所定の同意も,里道は,用途廃止申請手続を要する従前の公共施設として扱われ,少なくとも第2期工事における同意書においては,都市計画法40条1項の規定の適用がある従前の公共施設としては扱われず,里道用地は,現に用途廃止の手続が執られた後一審被告に払い下げられた。これらのことによれば,本件開発区域において新たに設置された公園及び道路は,一審原告,一審被告の間では,都市計画法32条所定の協議が成立した時点において,都市計画法40条1項ではなく同条2項に該当するものとして扱われ,国の機関としての奈良県知事も,そのことを予定して都市計画法32条所定の同意を行い,同法上の開発の許可も,そのことを前提として行われたといえる。
他方,都市計画法40条2項が,新設された公共施設の用に供する土地を,同条1項に規定するもの及び開発許可を受けた者がみずから管理するものを除き,同法39条所定の管理者の所有とするのは,公共施設の管理者とその用に供する土地の所有者を一致させ,その権利関係を簡明にする趣旨であると解される。本件の取扱いは,これに沿うともいえるのであり,これまで認めた事実によれば,一審原告や奈良県知事による上記のような取扱いが,都市計画法の趣旨に反し誤りであるとまではいいがたい。
ウ 一審被告は,他の地方公共団体における都市計画法40条1項の適用例を挙げ,前記ア及びイのような解釈を採れば都市計画法40条1項が適用される場面がなくなるなどとして,「従前の公共施設に代えて新たな公共施設が設置される」との要件を極めて広く解する趣旨の主張をする。そして,それに沿うかのような通達(都市計画法に基づく許可を要する開発行為に伴う国有財産である公共施設の取扱いについて<昭和47年8月1日建設省会発第686号・乙22>)も存在する。
しかし,都市計画法29条所定の開発許可は,さまざまな場合を含み,本件事案のような場合に同法40条1項の適用が認められなかったとしても,一般的に同項の適用場面がなくなるとはいえない。本件においても,これまで認めた事実によれば,第2期工事において,従前の水路とおおむね同一の機能を有する付替水路が新設され,これについては,都市計画法40条1項が適用された。また,一審被告が主張する他の地方公共団体の取扱いについては,従前の公共施設と新たに設置された公共施設との違いが明らかでないし,他の地方公共団体の取扱いがただちに都市計画法の解釈を決めるということもできない。上記通達も,「新たに設置される公共施設が従前存在した公共施設の機能とごく一部でも重なれば必ず都市計画法40条1項が適用される。」とまでいう趣旨かどうかは明らかでないし,そもそも通達を根拠に都市計画法の解釈が決まるということはできない。
なお,本件書類1から3の作成者は,その体裁に照らし,一審被告側であると認められるが,一審被告の認識により都市計画法の適用法条が当然に決まるとはいえない。したがって,これらの書面に里道等が都市計画法40条1項に該当することを前提とする記載があることは,上記の結論を左右しない。
以上によれば,本件の事実関係を前提とすれば,少なくとも本件開発区域内にあることが明らかな道路及び公園の用地(原判決別紙物件目録記載1,5から9)については,都市計画法40条2項の対象となる。
(2) 原判決別紙物件目録記載2及び3の土地について
ア これに関しては,これまで認めた事実,各項末尾に記載した証拠及び弁論の全趣旨により,次の事実が認められる。
(ア) 現在,原判決別紙物件目録記載2,3及び10の土地の南東隣には水路の用地が,その南東隣には里道の用地がある。この水路用地及び里道用地は,原判決別紙物件目録記載2,3及び10の土地付近から東北側及び南西側に伸びる道路の敷地になっており,奈良市道(西部892号線)に指定されている。この奈良市道は,原判決別紙物件目録記載2及び3の土地付近から東北側においては,幅が細くなっているが,上記土地から南西側においては,幅が6m以上あり,他の同様の幅の市道と複数箇所で交わっている。また,この奈良市道は,原判決別紙物件目録記載2及び3の土地付近から東北側においては,北西側において幅2.5m程度の水路に接している。この水路は,原判決別紙物件目録記載2及び3の土地付近から北西側に曲がっている(以下この部分を「水路の屈曲部分」という。)。水路の屈曲部分の西隣には,かつて里道があったが,用途廃止・払下げにより一審被告の所有となり,昭和50年に<番地略>に合筆された。上記旧里道用地のうち原判決別紙物件目録記載2の土地の隣接部分が,平成14年7月1日の分筆により同3の土地となった。(甲23,28,31,50,乙20,31)
(イ) 西部892号線は,一審被告が本件開発工事の第1期工事につき開発許可申請をした当時(昭和47年),原判決別紙物件目録記載10の土地の南西端付近から南西寄りは幅6m程度になっており,その周辺も宅地化されていた。西部892号線は,このころすでにこの付近において市道の認定を受けていた。(甲22,23,50,乙5【320,321枚目】)
(ウ) 一審被告は,第1期工事の申請の際,原判決別紙物件目録記載2,3及び10の土地の少なくとも一部並びにその南東隣にある水路用地及び里道用地を含む区域(長さ約39m,工事後の道路幅約6m)につき,道路状に整備する工事(以下「市道拡幅工事」という。)についても一審原告の承認を求め,一審原告は,工事完了時にはその敷地を分筆して一審原告に寄付することなどの条件の下に,これを承諾した。一審被告は,昭和48年1月ころ,この拡幅工事をおおむね完成した。なお,本件開発地域からの排水管(雨水用と汚水用とがある。)は,本件開発許可の申請時,原判決別紙物件目録記載1の土地から同2の土地を経由し,さらに直角に曲がってその南東隣の水路用地及び里道用地を経由し,前記(ア)の水路の屈曲部分付近で水路に接続する計画であり,現にそのように設置された。(乙5【297,298,308,310,322枚目】,31)
イ 以上によれば,原判決別紙物件目録記載2及び3の土地は,本件開発工事の初期においても,市道拡幅工事の対象となって本件開発区域への進入路の一部を構成したり排水管を通過させるなど,本件開発と密接な関係を有していたということができる。原判決別紙物件目録記載2及び3の土地が同1の土地の一部とされたのも,一審被告自身,本件開発と密接な関係があるとの認識を有していたことを反映していたと推認できる。そうすると,市道拡幅工事により設置された道路は,都市計画法39条及び40条2項にいう「開発行為に関する工事により設置された公共施設」に該当し,原判決別紙物件目録記載2及び3の土地は,同項にいう上記「公共施設の用に供する土地」に該当するということができる。
なお,一審被告は,特に,原判決別紙物件目録記載3の土地につき,昭和50年に払下げを受けた旧里道用地の一部であって本件開発とは無関係であると主張する。しかし,乙5のうち区域外における市道拡幅工事の図面【298枚目】においては,市道拡幅工事の範囲は,水路の屈曲部分のごく近くまで及び,旧里道用地の一部を含んでいると認められる。このこととこれまで認めた事実によれば,市道拡幅工事の区域は,原判決別紙物件目録記載3の土地の一部を含んでいると認められる。そうであれば,本件の開発行為との関係を否定することはできず,一審被告の主張を採用することはできない。
(3) 原判決別紙物件目録記載4の土地について
証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によれば,原判決別紙物件目録記載4の土地は,現在原判決別紙物件目録記載1の土地と一体となった道路状の部分の敷地であり,細長い形状であり,その最大幅は,約1mであると認められる。
一審被告は,この土地が当初の開発区域外の土地であるのに誤って道路にされたと主張する。
しかしながら,第1期工事が行われた昭和48年ころの測量の精度を前提とした場合,上記土地が本当に開発区域外にあるといえるかは,本件証拠上にわかに断定できない。また,仮に一審被告の主張どおりであるとしても,上記土地は,その位置関係(原判決別紙図面2)からみて,都市計画法39条及び40条2項所定の「開発行為に関する工事」により設置された公共施設の用地に該当するというべきである。一審原告の主張も,その趣旨に解することができる。
以上によれば,原判決別紙物件目録記載4の土地についても,都市計画法40条2項の対象となる。
4 争点(2)(都市計画法40条2項所定の「開発許可を受けた者がみずから管理する」場合への該当の有無)について
一審被告は,第一次的に,自らが本件開発区域内の道路や公園を管理しており都市計画法所定の管理者であると主張する。
しかしながら,本件開発区域内の道路及び公園の管理者は一審原告と認めるべきである。その理由については,原判決「第3 争点に対する判断」3の記載(17頁3の本文1行目から18頁4の上の行まで)を引用する。
5 争点(3)(同時履行の抗弁権)について
前記のとおり,原判決別紙物件目録記載1から9の土地は,都市計画法40条2項により一審原告の所有地となる。したがって,同条1項の適用を前提とする一審被告の主張は,その前提を欠き,採用することができない。
6 争点(4)(信義則違反)について
これまで認めたとおり,本件開発工事の事前協議において,本件開発区域内の新設道路については,舗装完了(第1期)又は市道認定(第2期)までは事業者である一審被告において維持管理することとされていたことが認められる。そして,前記のとおり,舗装は完了している。
また,証拠(乙20)及び弁論の全趣旨によれば,本件開発区域内の道路については市道の認定がされておらず,登記名義が一審原告でないことが市道認定の妨げになっている可能性があると認められる。登記名義の移転について,原判決「第3 争点に対する判断」1(4)イ(15,16頁)のとおり,第3期工事の事前協議にあたり,一審被告と一審原告土木課との間で,「公共施設の用に供する土地の所有権移転登記については,開発行為完了告示された際に即刻登記手続を完了すること(なお,一次開発行為地も含めるものとする。)」との協議が行われたことからすると,少なくともこの時点においては,一審原告が所有権移転登記を受けることを拒否したとは認められない。しかし,それより後の時点では,一審原告が一審被告に対して登記を請求したかどうかが明らかでない。第3期工事において設置された公園の用地につき,都市計画法40条2項による帰属ではなく寄付を原因とする所有権移転登記がされたことなどからすると,一審原告が,都市計画法の趣旨に反し,管理の負担を嫌って一審被告に管理させ,所有権移転登記も受けなかった可能性を否定できない。そうであれば,一審原告自らが第2期工事の区域における一審被告の管理義務の消滅を妨げていることになりかねない。
なお,証拠(乙12,45,証人松本博雅)及び弁論の全趣旨によれば,一審被告が一審原告に対し下水道施設の引継を申請し,その際道路の所有者を一審被告と表示したのに対し,一審原告が異議をとどめた形跡がないこと,一審原告の水道局職員が,一審被告に対し,平成17年5月,本件開発区域内の道路につき一審被告の所有地であるからその内部にある排水管の工事を承諾してほしい旨の書面を送ったことが認められる。これは,本件開発区域内の道路が一審被告の所有地であることを,一審原告において認めるかのような行動であるともいえる。
しかし,仮に一審原告が所有権移転登記を受けたり管理行為をすることを拒んだとしても,本件開発区域内の公園及び道路の管理者が開発許可当時から一審原告と定められ,一審原告が将来にわたりこれらを管理すべき立場に置かれていることには変わりがない。そして,都市計画法40条2項の趣旨が,公共用施設の管理者とその用地の所有者とを一致させるところにあること,本件開発区域内の道路が相当規模の面積を有し一般的には地方公共団体による管理が望ましいことからすると,一審原告の所有権取得や一審原告への所有権移転登記を否定することには,慎重にならざるをえない。証拠(乙19,証人上田繁夫,同松本博雅)及び弁論の全趣旨によれば,一審被告は,少なくとも平成12年には,水道工事代の返還が(道路等の)移管の交換条件であるとして一審原告への所有権移転登記手続を拒んだことが認められるが,一審被告が,本件開発工事の計画以来,管理等につき根拠のない負担を強いられたというのであれば,それは,別途解決されるべき問題であるというほかない。
本件においては,証拠(甲32)及び弁論の全趣旨によれば,本件開発区域内に居住する住民の中に,一審原告による所有管理を求める者が相当数あることが認められる。また,一審被告は,地目を公衆用道路に変更する前に課税されたとの主張をするが,そのことを的確に裏付ける書類等は見当たらず,そのような事実があったことを証拠上認定することはできない。
以上のこと及びこれまで認めた本件の経過によれば,信義則違反を理由に一審原告の所有権移転登記手続請求を否定することはできない。
7 争点(5)(時効取得の成否<原判決別紙物件目録記載10の土地>)について
これまで認めた事実,証拠(甲8,45,乙16,31,証人仙波宏)及び弁論の全趣旨によれば,上記土地は,前記の市道拡幅工事により,事実上市道として公共の用に供され,このことにより一審原告が上記土地の占有を開始したこと,その後,一審被告が上記土地につき昭和54年2月10日受付により所有権移転登記を経由したこと,一審原告がその時点においても20年後である平成11年2月10日においても上記土地を上記のとおり占有し,現在に至ることが認められる。なお,前記のとおり,上記土地は,昭和55年5月20日,変更年月日を昭和51年1月28日として,地目を公衆用道路に変更する旨の登記がされた(原判決12頁オ)。
一審被告は,一審原告の占有を否認し,市道拡幅が完了しておらず寄付も行われないままその請求権が時効消滅したなどと主張し,一審原告の時効取得を争う。しかし,これまで認めた土地の位置関係等によれば,上記土地は,本件開発区域内にある原判決別紙物件目録記載1,7及び8などの土地とは異なり,市道の一部を構成すると認められ,一審原告が占有管理していたと認め得る。そして,占有が民法にいう所有の意思に基づくことは法律上推定されるのであり,本件全証拠によっても,それを否定するだけの事実は認められない。一審被告の主張を採用することはできない。
昭和54年2月10日から20年が経過したこと,一審原告が取得時効を援用したことは,当裁判所に顕著である。
そうすると,上記土地については,一審原告の取得時効が成立するというべきである。
8 以上によれば,一審原告の請求(原判決別紙物件目録記載2及び3の土地については主位的請求)は,すべて認容されるべきである。原判決は,一部相当でないこととなる。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・竹中省吾,裁判官・竹中邦夫,裁判官・久留島群一)