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大阪高等裁判所 平成17年(ネ)2518号 判決 2006年9月14日

主文

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は,控訴人に対し,金3500万円及びこれに対する平成13年9月21日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

4  この判決は,第2,第3項について,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

主文と同旨

第2事案の概要等

1  事案の概要

本件は,被控訴人との間で船舶を保険の目的として動産総合保険契約を締結していた控訴人が,船舶が火災により焼損したとして,被控訴人に対し,同保険契約に基づき,損害保険金3500万円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成13年9月21日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めたところ,被控訴人が,①控訴人に偶然な事故であることの立証責任があること,②上記火災は,火災発生当時,控訴人の前代表者であったA及び控訴人から船舶の保守管理を委託されていたBの共謀(故意)に基づき発生したものであるから,動産総合保険普通保険約款(以下「約款」という。」)3条1項1号又は2号の保険金を支払わない場合に当たること,③Aには保険契約時及び保険金請求時に不実の申告をしたから,約款15条の告知義務に違反し,同保険契約を解除できること,④損害額が3500万円であることは争うとして,控訴人の支払請求を拒絶した事案である。

原審裁判所は,上記火災は,放火の具体的態様は明らかでないものの,偶然の事故によるものであるとは認められず,A及びBの関与の下で発生したものと推認することができ,したがって保険契約者又は保険の目的の管理の委託をされた者の故意により損害が生じた場合に該当するから,被控訴人は保険金の支払を拒絶することができるとして控訴人の請求を棄却した。

そこで,これを不服とする控訴人が本件控訴を提起した。

なお,被控訴人は,上記主張に加えて,仮に保険金の支払義務があるとしても,船舶に装着されたエンジンは,控訴人の所有に属しないから,その代金相当額2100万円を保険金請求権から控除すべきである旨の主張を追加した。

2  争いのない事実,争点及び当事者の主張は,後記3,4において当審における双方の主張を付加するほか,原判決「事実及び理由」欄第2「事案の概要」の1,2(原判決2頁5行目から17頁2行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

ただし,原判決「争いのない事実」(1)の「Aは,医師で,」から「でもあり,」(原判決2頁6行目から7行目にかけて)を「Aは,医師であり,平成11年11月23日当時,控訴人(平成16年4月に有限会社Cを組織変更)の代表取締役であったが,同年11月9日辞任した。」と改める。

3  当審における控訴人の主張

(1)  主張立証責任

事故が偶然的なものかどうかの点に関し,最高裁判所は,平成18年6月1日,画期的な判決を言い渡し,「偶然なる一定の事故」とは「保険契約成立時に発生するかどうか不確定な事故すべてを指す。」として,商法629条又は契約約款により「偶然の事故によって生じた損害に対して保険金が支払われることとなっている場合でも,保険金の請求者は,事故原因の偶然性について立証すべき責任を負わない。」と判示した。

本件は,動産総合保険であり,自動車保険ではないが,本質的には同種の損害保険であり,本件約款1条には「すべての偶然な事故による損害に対して損害保険金を支払います。」との定めがあるので,上記判例の理論を適用することができる。

したがって,控訴人は,本件火災の発生の偶然性について主張立証責任を負わない。

(2)  原判決の不当性-発火の原因等についての事実誤認

ア 点火源である火花について

(ア) 原判決は,電気火花が燃料軽油(以下「軽油」という。)に引火する場合には,軽油が引火点(引火が起きる最低温度)である60度以上に達しなければならないところ,本件船舶の機関室内の温度によって,軽油が引火点まで引き上げられたかどうかは明らかではないとする。

しかし,軽油の引火点は50度ともされているし,機関室内の温度のみによって軽油が引火点まで引き上げられるか否かを論じている点で誤っている。機関室内には,軽油をガス状にする機関(排気管やターボ等)が存在するから,軽油がどのような状態で機関室内で存在していたかを検討すべきであるのに,原判決はこの点について審理していない。

(イ) 被控訴人は,引火点に達した軽油が引火しても一瞬爆発的に燃え上がるだけで炎は消え,滞留していた軽油に引火することもない(気化した軽油の爆発的な燃焼は,端緒としての引火にはならない。)旨主張し(乙第22,第23号証),原判決も同趣旨を判示する。

しかし,一瞬爆発的に燃焼することは,始めのきっかけの引火で,このような引火は1回あれば充分である。この熱で,漏れていてガス化している燃料油又は継続的に漏れている燃料がその炎で暖められてガス状になり(ガス状になるのは引火点になることと同じ),その表面が燃焼し,更にその熱で回りに燃焼するものがあれば,それらを含めて火勢は大きくなるから,上記見解は,このことを看過しており不当である。

また,①被控訴人の行った実験は,空気の供給が全くない状況で行われたものであること,②被控訴人は,乙第23号証の「グラフ1」のとおり70度以上の温度になった時点で実験を行ったとしているが,過熱した状態(70度)の軽油を室内に噴霧するまでの間及び軽油が室内に噴霧されたときに70度に維持しているとの証拠はないこと,③同号証の写真9によると,ライターで点火しても軽油に着火しなかったとあるが,実験室内が60度以上であり,軽油が引火点に達していたとの証拠もないこと,④同号証の写真12によると,炎は自己消火し,実験室内に付した軽油に引火せず,FRPへ延焼することもなかったとあるが,室内の軽油の温度が引火点に達していたとの証拠もないこと,⑤室内の軽油に引火しなかったのであれば,FRPに延焼しないのは当然であることに照らすと,上記実験は不完全なものである。

(ウ) 以上から,電気火花が点火源となり,着火物を引火させたとは認められないとした原判決は間違っている。

イ 電気配線被膜が長時間にわたって加熱されて燃焼し,その火が点火源になるか否かについて

(ア) 原判決は,液体の対流現象を考慮すると,軽油は,漏出して滞留した油面付近において,電気配線被膜が長時間燃焼した場合にのみ引火すると考えられるが,本件では30分足らずの間に急激に火災が拡大していて,発見時には既に機関室が激しく炎上していたから,上記機序で本件火災が発生したとは考え難いとする。

しかし,火災が発生するためには,船底に滞留した軽油の油面に引火する必要はなく,本件機関室内に暖められた霧状又はガス化した軽油があれば,電気配線被膜が加熱し,一寸でも燃焼すれば一瞬にして火災となるものである。

したがって,滞留した軽油の油面に引火するか否かを論じた原判決は不当である。

(イ) 被控訴人は,排気管は二重構造であり,その表面温度は排気ガスの温度よりも低温であるから,軽油を引火させることはできない旨主張する。

しかし,排気管の構造から表面温度が低くなるとしても,その温度が引火点(60度)以下であるとの証拠はないし,乙第23号証によると,実験室で200度に加熱された管があれば,室内は50度以上の温度になるとされていることからすれば,排気管の表面温度で機関室内が引火点に達し得ることは明白である。

ウ 本件袋ナットの緩みから漏出した軽油の量について

(ア) 原判決は,本件船舶の船底に563.13リットルの軽油が滞留していたことを前提にしているが,これがそもそも間違っている。燃料の漏出量の算出方法の1つを取ってみても,原判決のいう境界線(燃焼部分と非燃焼部分の境)の位置なるものを,軽油を静止の状態で水平にして認定している。

しかし,船は,絶えず,ローリング・ピッチングをしているので常に水平ではなく,溜まり油の表面も動き,焼損部は静止し水平になっている場合の油の表面よりかなり高い位置に生じるから,上記大量の軽油の境界線が37.9センチの位置に生じたり,定規で引いたような横方向の一直線の境界線ができるはずはない。

(イ) したがって,焼損部の痕跡から正確な軽油の量を計測することは無理であり,本件船舶のローリング等を考慮して境界線の位置を考えるべきであるのに,原判決はこの点について検討しておらず,不当である。そして,滞留した軽油が563.13リットルではなく,本件袋ナットから出た10リットルの軽油でも,その下に海水等が存在すれば,37.9センチの高さに焼毀痕ができる可能性もある。

エ 軽油の滞留について

(ア) 原判決のいう563.13リットルは,本件船舶機関室の船底のストリンガー及びロンジ(以下,両者を「ストリンガー等」という。)に残された黒い境界線様の燃焼痕跡を基にして,その境界線以下の容積を算定したものである。常識的にみれば,この黒い境界線の上部は燃焼し,下部は燃焼しなかったと判断すべきものと思われるが,原判決は,これを採用せず,乙第20号証の報告書を引用して同境界線を燃焼開始時点の軽油の液面線であるとの被控訴人の主張を採用した。

(イ) 確かに,乙第20号証の実験によると,容器に軽油と助燃料のガソリンを入れ,ライターで点火して1分間これを燃焼させた上で消火し,そのFRP板に残った痕跡を調べたところ,軽油の液面から上の部分に燃焼の痕跡が残ったとされる。

しかし,僅か1分間の燃焼では,易燃物のガソリンが燃えるだけで軽油が燃焼しなかったことは想像できるから,この実験は為にする実験にすぎない。

(ウ) 本件船舶は,発火後,約2時間燃え続けて沈没しており,船底に軽油があれば,ほとんどが燃え尽き,機関室壁面や骨材に焼毀痕を残したはずであるから,563.13リットルの液面下に焼毀痕が残っていないのであれば,それはそれだけの液体が燃えなかった証左であり,量の多さからも軽油ではないとみるべきである。また,563.13リットルの軽油が燃え残ったのであれば,着火時に存した軽油は莫大となり,本件船舶の燃料タンクには収まりきらないはずである。

(エ) 以上の事実を考慮せず,本件船舶の船底には大量の軽油が滞留していたとの認定をした原判決は事実を誤認したものである。

(3)  原判決の不当性-審理不尽の違法

原判決はA及びBの関与を基礎づける事情を認定しているが,審理不尽の違法を免れない。

ア 本件火災当時の乗員

当時,Aは,本件船舶に設置したD社製主機関2基(左舷と右舷の2基。以下「本件エンジン」といい,原判決のいう「新主機関」を「本件エンジン」と読み替える。)の試運転をしていた。

Aが,本件火災の前日にBと本件船舶に乗船したのも試運転としてであるし,本件火災発生時に3名(2名は女性)を本件船舶に乗船させたのは本件船舶を接待用にも使用することから,4名程度の人数で航行した場合の喫水状態・スピードを試験するためであった。

イ 類似火災との遭遇

Bは,複数回の船舶の火災に関与しているが,本件火災は本件袋ナットの緩みに起因しており,Bの体験は偶然かつ希有な例である。

なお,D社のドイツ人技師は,本件エンジンのナットのチェックをしておらず,本件エンジンの振動によって本件袋ナットの緩みが生じ,本件火災が発生したと考えられる。

ウ 保険事故歴

本件船舶が4度保険事故に遭ったのは,中古船であったことによるものであり,決して不自然ではない。

エ 動機の不存在

控訴人は,平成7年7月11日,本件船舶を3500万円で購入したが,当時の売値は約7000ないし約8000万円であり,本件火災当時も3500万円程度の価値は充分にあった。また,控訴人は,本件船舶に満足しており,本件火災の8か月前には2100万円をかけて本件エンジンに取り替え,当日には,約2000万円の現金を積んでいた。したがって,本件船舶を故意に焼毀して,高々3500万円の保険金を取得することはあり得ない。

他方,Bは,本件船舶が焼損すると,控訴人という顧客を失い,損害を被るから,放火をするはずはない。

オ 本件袋ナットの緩みの異常に関する指摘

Bは,機関室を点検したが,本件袋ナットの緩み等の異常を認めなかった。しかし,これは咄嗟のことで点検が客観的に不十分であり,異常に気づかなかったものと考えられる。

カ 異音の発生

A,友人のE及びFは,本件火災の直前,本件船舶の機関室から生じた「キーン」という異音を聞いている(甲第14,第15号証)。この異音は,本件エンジンの燃焼状態に変化が生じたことを意味し,同時点で左舷エンジンの№3シリンダーへの燃料が漏れ始め,シリンダーの1つが抜け,バランスの悪い状況となったため,いったん左舷エンジンが停止したともいえる。

ここに至り,Aは,Bに救援を求め,その指示に従い,発電機を回し,バッテリーを充電し,片肺で本件船舶を航行させた(乙第14,第16号証)。

他方,Bは,本件エンジンの左舷エンジンに目立った機械的異常を認めなかったが,前同様,不注意で見過ごしたともいえる。Eは,4級小型船舶免許を有するが,異音発生後,ハッチを開けて機関室内を確認したが,目視では何の異常も認めなかったのであり,同様,Bが機関室内を目視したが,ガソリンと異なり,軽油にはそれほど異臭がないので,エンジンの異常に気づかなかったとも考えられる。

キ 放火行為を行った場合の危険性

本件船舶は,本件火災当時,沖合約2キロの夜の海上にあり,乗船者が初冬の時期に海中に投げ出される可能性もあったから,AやBに本件火災について故意があれば,両名は,殺人罪の実行行為をも行ったことになる。

しかし,Aは,本件火災後,新しい船を購入しており,Bも資産家であることは別件訴訟でも事実上証明されているから,放火・殺人を犯してまで3500万円の保険金を取得しなければならないほど,両名は物心共に貧しくはない。

なお,A及びBは,関係当局によって厳しい取調を受けたが,本件火災は,刑事事件として立件されていない。

ク 計画性

Bが本件船舶に合流したのは仕事であること,本件火災当日は祝日であるが,多くのレジャー用船舶が本件火災発生場所付近の海域を航行したり,G所有のH号が本件船舶の救援のため,殊更,付近を航行していたとの証拠もないことからしても,本件火災の計画性を認めることはできない。

ケ 放火を行う時間的余裕

Bは,本件船舶の異常を改善するため,フライングブリッジで本件船舶を必死に航行させていたのであり,放火をする時間的余裕はなかった。

被控訴人が行った半密閉容器における2時間燃焼継続実験(乙第50号証)によると,ガストーチでも簡単には軽油に着火せず,継続的に燃焼させるには20分程度の時間を要したところ,Bは,本件船舶に乗船後,直ちに機関室に入って主機関を点検し,以後,機関室内には立ち入らず,本件船舶を航行させていたから,Bにおいて,機関室へ出入りして何回も着火行為を繰り返すとか,約20分間も本件船舶の機関室内に留まり,軽油が燃焼するのを機関室で20分も見守っている余裕はなかったことが明らかである。

この点につき,被控訴人は,機関室に入らなくても着火物に少量のガソリン等を染み込ませておけば,滞留している軽油に引火すると主張する。しかし,ガソリンに引火しても,直ちに滞留している軽油の温度が引火点に達することはなく,このような着火で軽油に漸次拡大していくためには何回もガソリンに引火させることが必要であるから,発火装置でそのようなことはできない。

コ 本件火災発生の原因

本件エンジンの振動に起因して高圧管と噴射ポンプとの結合部に不具合が生じ,Bが本件船舶に乗船してきた以前から本件袋ナットの緩みが生じた。この緩みが生じた初期の段階では,必ず,軽油は霧状に噴霧し,些細な火源があれば火災が生じることは必至であり,飛散した燃料(霧状ではガスに近いが,粒状では遠くに飛ぶ。)は,高温の熱源(排気管等)によってガス化し,本件船舶の機関室にガスが充満している状況となるため,ほんのちょっとした点火源の存在で引火することになる。そして,噴出している霧状・粒状の燃料に伝播し,次第に火炎が大きくなって,下に落ちた燃料まで燃え広がったものであり,Bがハッチを開けた際,酸欠状態であった機関室に酸素が供給されて燃え上がり,本件火災に至ったものである。

サ A及びBの行動

原判決は,結論として「本件火災はA及びBの関与の下で発生したものと推認することができ,この推認を覆すに足る証拠は存在しない。」と判示する。

しかし,Aは,本件火災当日午前11時ころ,Eら3名を同乗させ,a沖で魚釣りをし,午後4時頃帰途についたが,本件船舶のエンジンの調子が悪いので,午後4時50分頃,Bに応援を頼んだ。

Bは,Aから要請を受けたが,当時乗船していたI号を勝手に使用できないことから,無線でH号に応援を要請した。Bは,帰港したI号に午後5時頃乗り込み,午後5時20分頃,漸く本件船舶に乗り移り,Jが本件火災を発見した午後6時頃まで,本件船舶を操舵していた。

他方,Aは,以後,Bに運転を任せると,機関室上のキャビンでEらとワインを飲みながら談笑していたものである。

以上のような経過からみると,本件船舶を焼毀しようとしていた者の行動としては極めて不自然であり,両名の共謀の事実もあり得ない。

シ まとめ

以上によると,本件火災は,自然発生的なものであって,A及びBが共謀したことはもとより,両名の関与を基礎づける事情もないから,被控訴人の主張する事故招致免責の抗弁は理由がない。

(4)  損害額についての被控訴人の主張に対する反論

被控訴人は,本件エンジン代金2100万円については未だ支払がなく,控訴人は所有権を取得していないから,損害を被っておらず,本件保険金額から控除すべき旨主張する。

しかし,Bは,本件エンジンをKから買い受け,控訴人に転売して本件船舶に設置し,引渡はすでに終わっているのであり,控訴人は,Bに対し,代金支払債務2100万円を免れることができないのであるから,控訴人がその支払をしていないからといって,本件保険金額から2100万円を控除すべき理由はない。

4  当審における被控訴人の主張

(1)  主張立証責任

被控訴人は,原審以来,偶然性の立証責任が控訴人にあるとしても,事故招致免責の立証責任は被控訴人にあることを前提として,本件火災が人為的放火以外にはあり得ないことを立証してきたものであり,原判決もそのように判断したにすぎない。

(2)  控訴人の事実誤認の主張に対する反論

ア 点火源が火花であるとの点について

(ア) 控訴人は,電気火花の発生機序に関する主張を変遷させた末,「オルタネーターの軸受け部分と回転部分との摩擦や接触によって電気的な火花を発生させた」とか「オルタネーターが脱落したときに羽が何かに当たって折損し,機械的に火花を発生した」(甲第4号証)などと主張する。

しかし,Bは,本件火災の約30分前にオルタネーターが正常な状態で固定されていることを確認していたこと,仮にAが「キーン」という異常音を聞いたとしても,その時期は,Bが乗船する前であり,かつ,本件火災発生の1時間以上も前であって,以後,異常音を聞いた者はいないことから,オルタネーターの摩擦や,脱落したオルタネーターの機械との接触による火花の発生があったことは認められない。

したがって,本件火災の直前に電気火花を生じるような着火源があったことを前提とする控訴人の主張は成立しない(なお,実験によると,軽油は火花を火源として引火しないことも明らかである。乙第20号証)。

(イ) 控訴人は,原審の最後に,「オルタネーターが脱落してVベルトも脱落し,冷却清水ポンプが作動しなくなったため,左舷エンジンが高温状態となり,その排気管に拡散した軽油が付着して発火し,その炎が延焼して船底に滞留していた約10リットルの軽油に引火した。」「気化した軽油の爆発的燃焼の熱で機関室内に漏れてガス化した軽油に引火し,火勢は大きくなった。」旨主張した。

しかし,同主張も,次のとおり客観的事実と矛盾し,成り立たないことが明らかである。

① 軽油の飛散は,本件袋ナットの狭い隙間を通過するから,燃料ポンプ内の圧力よりもかなり低い圧力で漏洩する。したがって,「何らかの物体に当たった後は,さらに四方八方に飛び散る」とか「上下左右のあらゆる方向に軽油が飛散していた」との控訴人の主張する事態は起きない。

② 本件袋ナットが完全に緩んでいた場合には,軽油が流出しても,その位置からして排気管の高温部に触れることはない。また,仮に本件袋ナットの緩みが軽く,軽油が噴出したとしても,その位置関係から排気管の高温部に飛散する可能性は少ない(乙第29号証)。

③ Vベルトの脱落により,冷却清水ポンプが停止したとしても,本件エンジンの冷却海水ポンプはギア駆動であるから,主機関の主軸が回転している限り,冷却海水の供給は止まらず,排気管の冷却が続き(同号証),控訴人主張のような過熱状態になることはない。

④ 排気管の構造は二重構造になっており,排気管表面温度は排気ガス温度よりもはるかに低い温度になる(同号証)から,軽油を引火させることはできない。

⑤ 実験結果によると,ガスバーナーで350度以上に熱した銅管の表面に引火点以上の70度以上に加熱した軽油を噴霧器で吹き付けても,軽油は発火に至らなかった(同号証)。

⑥ 噴霧状の軽油にライターの火を近づけ,引火点に達し,噴霧状の軽油が引火しても,一瞬,爆発的に燃焼するだけで,その後は空気中の可燃性混合気体が消滅するため,継続した燃焼・火災には結びつかず,炎は消え,FRPやベニヤ板はもとより,滞留していた軽油に引火することもない(同号証)。

⑦ 仮に,排気管に付着した液状の軽油が自己発火したとしても,排気管から立ち上がる炎が,いかにして船底に滞留する軽油に延焼するのかについては,全く説明がつかない。

⑧ 左舷排気管のラギングについて,上部が黒く,下が白く変色しているのであり,この状況は右舷側にも認められることから,排気管そのものが下から加熱を受けた事実が認められるのであり,排気管に付着した軽油が自己発火したとの事実に符合しない。

⑨ 控訴人がいうような爆発的な燃焼が起きたとすれば,機関室上部にいたAが何らかの異常を感じるはずであるが,同人は,甲第1号証,乙第14号証において,白煙が上がるのを確認するまで,特段の異常を感じていないと述べているのであるから,爆発的燃焼が発生したことを推認させる客観的事実はない。

(ウ) 原判決は,着火源が電気火花であろうが,排気管が高温になったことによる軽油の発火であろうが,霧状に噴出した軽油を着火物とする火炎ではあり得ないことを判示したものであるから,実験結果及び客観的事実に基づく正当なものである。

イ 電気配線被膜が長時間にわたって加熱されて燃焼し,その火が点火源になるか否かについて

電気配線被膜の加熱があったことを推認させる事実は全くなく,また,霧状又はガス化した軽油の爆発的燃焼では,本件機関室の周りの物に着火しないことは明らかである。

ウ 本件袋ナットの緩みから漏出した軽油の量について

控訴人は,原判決の認定した船底に滞留した軽油量の計算に誤りがある旨主張した上,本件袋ナットから漏出した10リットルの軽油であっても,本件船舶のローリング等により,原判決認定のような境界線存在の位置を考えることも可能であると主張する。

しかし,Bが機関チェックを行ってからの最長時間を30分とし,かつ,最大出力状態を前提に漏出した軽油最大値を算定すると10リットルであり,10リットルであれば船底からわずか2.63センチの高さまでにしかならない(乙第41号証)。したがって,同油量が,ローリングにより最大37.9センチの高さに印象された横方一直線の焼毀痕となることはあり得ない。ローリングが原因ならば2.63センチから37.9センチまでの間に燃焼痕がなければならないが,同号証のとおり,ストリンガー等の焼毀模様境界線は横方向の直線であり,それよりも低い位置に燃焼痕はないのである。

よって,船底に滞留している液体が563.13ではなく,10リットルでもあり得るとする控訴人の主張は理由がないし,同号証から窺える機関室床面の焼毀模様によると,ストリンガー等の一定の高さに印された焼毀痕により下部は,何ら加熱を受けておらず,FRPの白い状態のままであるから,液体が滞留していたことは明らかであって,その量が563.13リットルであるとした原判決に誤りはない。

エ 船底に滞留した液体が軽油であると判断した根拠について

(ア) 控訴人は,563.13リットルが燃えずに残ったということは,それが軽油ではないとみるべきである旨主張する。

しかし,①ストリンガー等の上部が加熱を受けた結果,黒く変色していること(乙第41号証),②当該燃焼痕の印象模様を確認するため,軽油を使用したFRPの燃焼実験を行ったところ,同号証と同様の焼毀痕跡を得られたこと(乙第20号証),③左舷エンジンの冷却水タンクが下部より溶融している事実は,船底部付近から立ち上がる強い火炎が存在したことを推認させること(乙第41号証)から,船底に滞留した液体は可燃性液体であり,しかも本件火災に先立ち,大量の可燃性液体が船外から持ち込まれた事実はないから,同液体は軽油であったと特定される。

(イ) 次に,上記のとおりストリンガー等に黒い燃焼痕跡が生じるには,①他の燃焼物による加熱を受けること,又は②FRPに付着した軽油自体が燃焼することのいずれかしか考えられない。

まず,①につき検討すると,滞留した液体が不燃性であった場合には,滞留液以外の可燃物の燃焼によって発生した加熱がなければ,ストリンガー等に焼毀痕跡が生じることはない。ストリンガー等は,左舷エンジンと右舷エンジンの中央部の下部に位置するが,周囲はエンジンしかなく可燃物はないし,気化した軽油が何らかの着火源により爆発的に燃焼したとしても,機関室内の酸素を消費した後,一瞬にして燃焼が終わるから,継続的な火熱源となることはなく焼毀痕は残らない。

次に,ストリンガー等に軽油が横方一直線に付着し,それが一様にFRP表面で燃焼すれば,同様の焼毀痕跡が残る。しかし,控訴人の主張する燃料ポンプは,左舷エンジンの左側下部にあり,シリンダー燃料管締め付け部の緩みにより軽油が流出したとしても,それが乙第41号証(5頁写真52)の右舷機側の船底部にあるストリンガー等の上部だけに横方一直線になって一様に付着することはあり得ない。しかも,その付着した軽油に着火する着火源が必要になるが,これもその周囲にはない。

したがって,船底に滞留した液体が不燃性であった場合,客観的に残存しているストリンガー等上部に定規で画したような焼毀痕跡は残らないから,船底に滞留した液体はやはり燃焼軽油であったというべきである。

(ウ) もっとも,船底に滞留した不燃性の液体としては,①ビルジ(雨水,汚水),②冷却清水タンク内の清水,③二次冷却用海水も考えられる。

しかし,残存していたビルジの量は,せいぜい16ないし38リットルであり,清水は,タンクの下部が溶損し,清水が船底に滞留した可能性のある最大量としても58リットルにすぎない。

また,海水は,海水フィルターが焼損し,そこから海水が流入するケースが考えられるが,乙第22号証のとおり,仮に海水が流入してきたとしても,海水の高さ(喫水線)まで浸水が続き,本件のストリンガー等に印象している高さで浸水が止まることはあり得ない。

したがって,船底に滞留した液体の中で,不燃性の液体が含まれていた可能性はあるが,それは海水ではなくビルジや一次冷却水であり,これを合算しても,74ないし96リットルにしかならず,その余の滞留液体のほとんどが軽油であったというべきである。

(エ) そこで,残存した液体563.13リットルに,本件火災によって消費した軽油量を加えた数値について検討するに,本件船舶の燃料タンクの大きさ,並びに乙第50号証,原審証人Bの証言に照らし,当初の62パーセントの軽油が火災後に残存したとして計算すると,本件火災直前の本件船舶の滞留軽油量は,753.4リットル(上記(ウ)の不燃性液体を96リットルとした場合)又は788.9リットル(同じく不燃性液体を74リットルとした場合)と算出される。

そして,不燃性液体を74リットルとして,これを滞留軽油量と合計すると,862.9(788.9+74)リットルとなり,これを基に船底からの滞留高を計算すれば,40.2センチであり(乙第51号証),2時間燃焼後に滞留した563.13リットル,滞留高37.9センチと大差がない。

(オ) 以上のとおり,2時間燃焼後の残留量から計算される当初滞留量は,上記証人Bの証言する「548ないし678リットル」と大差はなく,ビルジや清水等一部の不燃性液体が混在していたとはいえ,船底に滞留した液体は軽油であるという事実を認定することは十分に可能である。

(3)  控訴人の審理不尽の違法の主張に対する反論

控訴人は,原判決がA及びBの関与を認定したことについて審理不尽の違法を免れない旨主張するが,本件火災につき,両名の関与を基礎づける事情は次のとおり存在するから,上記批判は理由がない。

ア 救命が確実な状況下での本件火災であるから,女性2名を含む乗客4名(Bを含めると5名)が乗船していたとしても,当然に本件火災についての人為的関与を否定する根拠とはならない。

イ 類似火災の発生

Bは,本件より9か月前の平成11年2月23日,高砂市bの海上で発生した本件と同様の海上火災にあったLにも船舶管理責任者という立場で乗船しており,同火災は機関室船底に溜まった大量の液体から出火したという人為的火災であった疑いがある。同種の船舶の火災事故を起こしたことは偶然とは言い切れない。

ウ 保険事故歴

本件船舶が4回位保険事故に遭っており,不自然である。

エ 動機

Aは,プレジャーボートを高速で運転することを趣味としており,今回も本件船舶のエンジンを485馬力から600馬力のエンジンに換装し,旧エンジン以上の速度を期待していたが実現できず,不満を抱いていた。そこで,このまま本件船舶の引き渡しを受けると,換装工事代金2100万円の支払を余儀なくされることから,これを払わず,新たな高速運転の可能な船舶の購入を企て,放火による保険金取得を図った可能性がある。

オ 本件袋ナットの緩み

Bは,機関室を点検したが,本件袋ナットの緩みの異常を指摘しなかった。しかし,6個のシリンダーの燃料管締め付け部は均等に締め付けるものであるのに,本件袋ナットのみが緩んだことからすると,締め付け不十分により自然に緩んだものではなく,Bが人為的にこれを緩めた可能性もある。

このことは,本件火災発生の5日前の平成11年11月18日にD社のドイツ人技師が機関をチェックして,異常がないことを確認していること(乙第7号証)からすれば,本件火災発生前の締め付けが不十分であったこともあり得ないことからも首肯できる。

カ 異音の発生

E及びFともに,大きな異音を聞いていたのであれば,事故直後の事情聴取時に何らかの説明をするはずであるところ,これをしなかったのに,その後,陳述書(甲第14,第15号証)において,その点に関する供述をしていることに照らすと,同陳述書はAらの供述に合わせるため,作為的に作られたものと考えるのが自然である。

また,Bが合流して左舷エンジンを始動させた後,「キーン」という音は一切発生していない。Bは,本件船舶の左舷エンジンの異常があったため,Aから呼ばれて合流したものであり,異常に備えてVベルトまで持参している。ところが,左舷エンジンは特段の修理をしなくても始動し,異音も発生しなかったというのであり,特段の手当を行わないまま異常が解消することはあり得ないから,元々,機械の異音の発生自体がなく,AとBが申し合わせて虚偽の供述を主張したものと認めるのが相当である。

さらに,異音は,Bの乗船前に発生したというのであれば,その時点までに機関室内で火花が生じており,本件袋ナットの緩みによる軽油の漏出も,Bが本件船舶を運転し始めた頃ではなく,左舷エンジンが停止した以前から始まっていたことになるから,控訴人主張の自然火災はBが乗船する前に発生していたはずであるところ,現実にはそのような事実はないという不合理を生じている。

キ 放火行為の危険性

控訴人は,繰り返し,放火行為の危険性を強調するが,船底に滞留した軽油に引火しても,それは爆発的な発火ではなく,急激な炎でもなく,漸次,拡大していく燃え方をするものである。

本件船舶が沖合2キロ以上の位置にあったとしても,付近に船舶がいれば,全く問題なく避難することができる。A及びBは,H号の伴走を熟知していたため,本件船舶で火災が発生しても,生命の危険まで生じないことを承知していた。

ク 計画性

Bは,H号を使用して本件船舶に合流したが,以後,H号は本件船舶と伴走し,救援艇となることを予測していたものであり,本件火災は,Bによって綿密に計画されていたものといえる。

ケ 放火を行う時間的余裕

Bは,合流後,真っ先に入った機関室内で工作後,遠隔装置(機関室に存在する配線を利用したもの)や遅延発火装置(ローソク等)を使用し,かつ,着火物に少量のガソリン等を染みこませておけば着火させることは可能であった。

コ 本件火災の発生原因に関する控訴人の主張について

(ア) 機関室の船底に滞留した液体は560リットル余りであり,これに海水は含まれていないところ,機関室から大量の軽油反応が検出された(乙第9号証)ことからすれば,上記可燃性液体は軽油である。

これほどの大量の軽油は,燃料タンクからの漏出に起因すると考えるほかない。圧力のかかっていない燃料タンクの配管が自然的事由により損傷することは考えられないし,仮に偶然的事由によりタンクが損壊し,軽油が流出したとしても,ビルジポンプにより自動的に船外に排出される仕組みになっているので,軽油が機関室船底に滞留することはない。

これに対し,燃料タンクのリターンパイプを切断すると,エンジンを作動させながら,軽油を船底へ流出させることができ,ビルジポンプのフロートスイッチの配線を切断する,フロートの稼働部に物を詰めてフロートが浮かばないようにする,ビルジポンプのヒューズを取り外すなどの簡単な方法で,ビルジポンプが作動しない状況を作り出せば,容易に軽油を船底に滞留させることが可能となる(乙第44号証)。

これだけ大量の軽油が燃料タンクから流出し,かつ,船外に排出されていない事実は,何者かが人為的に燃料タンクから軽油を漏出させ,ビルジポンプを作動させない工作をした結果であるとみるのが自然である。

(イ) さらに,前記オのとおり,本件袋ナットだけが自然に緩んだというのは不自然であるし,本件袋ナットのガタツキを発見したのは,Bであり,同人は,袋ナットの開閉に必要な専用スパナを所有している。

そうすると,本件袋ナットが緩んだというのは,Bらが行ったといわざるを得ない。

サ AとBの共謀を窺わせる事情

両者は,口裏を合わせ,以下の虚偽の事実を供述している。

(ア) Bは,M等からの事情聴取に際し,本件火災1か月前の右舷オルタネーターの脱落の件について一切言及せず,本件火災の直前に実施されたドイツ人技師による点検時にも,この点を特に指摘していない。

しかるに,Bは,原審での弁論手続の終盤の平成15年5月になって,陳述書(甲第5号証)で初めて上記主張を行ったが,AもBの同主張を承知していた。

そうすると,両名は,自然発火を仮装するため,本件火災発生1か月前の右舷オルタネーターの脱落という架空の事実を作り上げたものである。

(イ) 両名とも帰港時に「キーン」という音が発生したとの事実を仮装主張している。

(ウ) Bは乗船後,直ちに機関室に入ったが,これは本件火災の工作を行うために機関室に入ったことを窺わせる。

(エ) A及びBは,前日,本件船舶で本件火災当時と同じ場所を航行し,下見と準備をしていたと考えられから,両者の関与の下に本件火災が発生したというべきである。

前記のとおり,本件袋ナットは,人為的に緩められたと考えられるのに,両者は自然火災を装っている。

(オ) Bは,当初携帯電話でAに連絡を取るため,無線で本件船舶に呼びかけたが,H号のGが無線を傍受して中継に入った旨述べていた。しかし,その際の言葉は,Aに呼びかける言葉ではなく,「N号がc付近を片肺で運航中」という言葉であって,第三者に聞かせるような言葉であった。

他方,Aは「H号に本件船舶を引っ張ってもらおうと思い,無線でH号を呼んだが,交信できなかった(乙第14号証)と述べながら,陳述書(甲第1号証では),「G船長は飲酒運転の常習で,Hに来てもらっても何の意味もない。」とし,異なる供述をした。ところが,原審における控訴人代表者尋問において,「甲第1号証の内容は書きすぎで,G船長に救助を頼んでもよかった。」と供述を変遷させている。

しかし,そうであれば,Aは,H号に直接救助を求めるべきであるが,Gに対し,「大丈夫です。」と言って救助を断ったため,H号はマリーナに帰港した。ところが,BはH号で本件船舶の救助に向かい,本件船舶に乗ると,H号をして本件船舶の後から追尾させている。

以上は,Bを本件船舶に乗船させるための工作であるとともに,火災の際の救助態勢を整えたというほかはない。

シ まとめ

以上のとおり,本件火災には,控訴人主張の本件火災の発生原因には,容易に払拭できない疑問点が存在しており,A及びBの行動等を考慮すると,本件火災は,両名が共謀して惹起したものである。

したがって,被控訴人は,事故招致免責により,本件保険金の支払を免れることができる。

(4)  控訴人主張の損害について

控訴人とKとの間で,本件船舶に搭載されていたエンジンの売買契約が成立しておらず,代金の支払も未了であれば,エンジンは控訴人の所有物ではないから,本件保険契約の対象にはならない。

仮にエンジンが搭載された時点で所有権が移転したとしても,控訴人は代金支払をしていないから,経済的な損害を被っていない。

したがって,仮に本件保険金の支払義務があるとしても,損害を算定する際には,3500万円の本件船舶取得価格から,本件エンジンの代金額2100万円を控除すべきである。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所は,控訴人の主張する保険金請求は理由があり,原判決は取消を免れないと判断するものである。

その理由は,「判断の前提となる事実」について,原判決が「事実及び理由」欄第3の1(原判決17頁4行目から28頁7行目まで。ただし,(6)の部分〔23頁末行から26頁11行目まで〕を除く。)に認定するところを引用するほか,2以下に認定・説示するとおりである。

2  偶然性の主張立証責任について

商法629条及び同法641条の規定の趣旨からすれば,損害保険契約においては,損害保険金の支払を請求する者は,事故の発生が被保険者の意思に基づかないものであることにつき,主張・立証すべき責任を負わないと解されることは,最高裁判所平成18年6月1日第一小法廷判決,同裁判所同月6日第三小法廷判決(裁判所時報1413号4頁,5頁)の示すとおりである。

本件保険契約は,損害保険契約であり,本件約款1条が「すべての偶然な事故による損害に対して損害保険金を支払います。」との定めを置いているから,控訴人は,本件火災の発生の偶然性について主張立証責任を負わないというべきであり,したがって,控訴人は,本件保険契約に基づいて,保険金を請求する場合には,火災により損害が生じたことを主張立証すれば足り,保険者である被控訴人において,本件火災の発生について,控訴人に故意又は重過失がある(事故招致免責)ことを主張立証すべきである。

3  事故招致免責について

被控訴人は,本件火災が控訴人の本件火災当時の代表取締役であるA及び当時本件船舶の保守管理の委託を受けていたBが,共謀して,本件火災を惹起したものであるから,控訴人に対し,本件約款の事故招致免責により,本件保険金の支払義務を負わない旨主張する。

そこで,まず,原判決認定の前記「判断の前提となる事実」に加え,本件火災発生と救助までの事実経過を認定した上で,控訴人側に本件火災を惹起するような動機等の諸事情があるかどうか,本件火災の原因が被控訴人主張のとおり人為的(A及びBの共謀等)に惹起されたものであると認められるか否かについて,以下,順次検討する。

(1)  本件火災発生と救助までの経過

甲第1ないし3,第5ないし9号証,第14,第15号証,乙第14,第16,第17,第19,第26号証,原審証人Bの証言,原審控訴人代表者Aの尋問の結果(以下「Aの原審供述」という。)によると,次の事実が認められる。

ア Aは,平成11年11月23日(勤労感謝の日),E及び同人の婚約者とFを誘って,午前10時30分ころ,dマリーナからe沖まで約1時間航行し,海上で太刀魚釣りを楽しんだ。

他方,Bは,同日,Oの誘いで,午前10時頃から,I号でf島までクルージングに出かけた。

イ Aは,午後4時頃,帰途につき,dマリーナに向けて,本件船舶を時速約30ノットで,約20分ほど航行させたところ,突然「キーン」という音とともに,その速度が落ちる事態が生じた。Aは,異常に気づき,直ちにエンジンをスローにした上,ギアをニュートラルにして停船し,左舷エンジンの回転計を確認したところ,ゼロを示して赤色のランプが全部点灯していた。そこで,Aは,Eと2人で機関室のハッチを開けて内部を確認したところ,本件エンジン(左舷・右舷の各エンジン)はアイドリング状態で作動しており,特に燃料漏れなどの異常は認められなかった。

しかし,Aが操舵室に戻り,エンジンを空ぶかししたところ,右舷エンジンの回転計は上がったが,左舷エンジンの回転計は上がらず,再度「キーン」という異音が発生した。そこで,Aは,いったん左右のエンジンを止め,暫くしてから再始動させようとしたところ,右舷機はすぐに始動したが左舷機はセルモーターが回っている様子がなくエンジンは始動しなかった。

ウ Aは,午後4時30分ころ,操舵室からBに携帯電話で上記トラブルを説明して助言を求めたところ,バッテリーが上がった可能性がある旨の指摘を受けた。そこで,Aは,その指示どおり,不要な電源は全て切った上,左右のバッテリーを繋ぐ並列スイッチを入れて操作し,右舷エンジンのみを始動させ,7ないし8ノットでゆっくりと航行を開始したところ,右舷エンジンだけで走行中は「キーン」という音は止まっていた。その際,Aは,船内の操舵室からは前方が見にくいことから,フライングブリッジ(オープンエアの操舵室で3階にある)へ上がって操船を行っていた。しかし,既に午後4時30分を回り,周囲は薄暗く(当日の日没時刻は午後4時49分),右舷エンジンのみの片肺航行では操舵が思うように行えない上に,不慣れな夜間航行(7ノットないし8ノットでは帰港が夜遅くになると予想された。)に不安を覚え,Bに本件船舶の位置を知らせて来援を求めた。

これに対し,Bは,周辺の船舶に公開無線で「Nがc付近を片肺で走行中」との呼びかけを行った。

当時,Gは,H号で,たまたま本件船舶付近を航行していたことから,これを聞きつけ,「N大丈夫か。」との無線連絡をした。これに対し,Aは,大丈夫である旨応答したことから,N号は,そのままdマリーナに向かった。

エ 他方,Bは,直ちに救援に赴こうとしたが,I号を勝手に使用できない上,帰路のI号を運転する人員も必要であることから,dアリーナに帰港したばかりのH号のGに依頼してこれに乗船し,Aと無線連絡で位置関係を確認し合いながら,午後5時30分ころ,c沖を航行していた本件船舶に辿り着いた。

Bは,Aの説明から,左舷エンジンの不具合は発電機の不良にある可能性があると考え,エンジンと発電機を繋ぐVベルトを携帯し,Aらに「大丈夫ですかと声を。」かけながら,操舵室に入った。ここに至り,Aは,Bが駆けつけてくれたことから,キャビンのソファに座り,他の同乗者とワインを飲みながら,歓談を始めた。

オ Bは,エンジンを空ぶかしをして電圧を上げ,左舷エンジンのセルモーターを回したが,左舷エンジンの回転計はゼロを指したままであったため,左舷エンジンは回転していないと判断した。

そこで,Bは,Vベルトを携えて,ハッチを開けたままの状態で,機関室内に入り,左のエンジンを確認したが,異音も聞こえず,正常に作動しているように見えたことから,操舵室の左舷エンジンの回転計が故障しているにすぎないと考え,それ以上の念入りなチェックをせず,機関室を一通り見回した程度で,約5分程度に機関室を退出した。

Bは,Aらに対し,左舷のエンジンも始動した旨を告げると,日没が過ぎ,操舵室の着色ガラス越しでは操舵しにくいことから,フライングブリッジで操縦を開始し,片肺航行と比較して2倍程度の速度で本件船舶を操船し始めた。

他方,Gは,Bを送り届けた後,追走を依頼されたわけではなかったものの,本件船舶の調子が再度悪くなることを懸念し,本件船舶の左舷後方から追走していた。

カ 本件船舶は,Bが運転を再開してから30分程度経過した午後6時ころ,dマリーナがあるg港入口の赤ブイ付近に差し掛かった際,急に「ガクン」という衝撃のもとに減速し,左側に急旋回を始めた。

Bは,警報ランプの点灯はなかった(前記のとおり,Aは,バッテリーの消耗を防ぐため,不要な電源を全て切っていたことから,同ランプも作動しなかったものと推認される。)が,両舷エンジンの回転数が徐々に下がっていたことから,エンジンをニュートラルに戻して停船した。

その際,冷却清水温度上昇警報装置等の各種警報装置が作動することはなかったが,暫くして,Eは,キャビン出入口付近の配電盤から白い煙が噴出しているのを発見し,大声で緊急事態を告げた。他方,Bも,左舷エンジンが再度停止したことから,機関室の様子を調べるためデッキを降りて来た。

そこで,BとAは,機関室のハッチを開けたところ,機関室内は赤い炎が充満し,甲板上に10センチ程度まで吹き出るほどであったことから,直ちにハッチを閉めた。

Bは,機関室内が既に火の海であり,消火は不可能であると判断し,Aらに船首に移動して避難するよう指示するとともに,H号が救助に来るから安心するよう述べた。これに対し,Aは,本件火災のため,本件船舶が急に爆発したり,急激に燃焼するかもしれないとの恐怖と不安を抱き,消火活動をする間もなく他の同乗者とともに船首部分に移動した(Bは,自己が保守管理していたプレジャーボート「L」の火災の際には,バケツリレーや消火器で消火したが,本件火災の際には既に機関室内が炎上していたことから,消火不能と判断し,消火活動をしなかった。)。

キ 以上の経過を辿り,Bは,無線でGに救援を求めたところ,約5分後,H号が本件船舶に隣接したことから,A以下5名は,私物等を本件船舶内に放置したまま,無事H号に避難した。

その際,Gは,H号の同船者やBに消火器を手渡して消火活動を行おうとしたところ,Bが手遅れであると述べたことや,自らも爆発の危険を感じ,消火活動を行わなかった。

本件船舶は,約1時間半にわたり燃焼を続け,午後7時半ころ(争いのない事実),Aらが見守る中で沈没した。EらやFは,A及びBの行動や態度に格別不信感を覚えることもなかった。

ク なお,この間,Bは,本件船舶に合流する以前から本件火災発生後にかけて,Kの次長であるPに対し,携帯電話で「Nのダイナモが不調で,A先生が片肺で走っている。国産でもいいから,ダイナモを交換してくれ。」「Nは1800rpm(回転)で航行中だが,1800rpmしか回転が出ない。なぜやろう。」「船が燃えている。」などと随時連絡していた。

ケ その後,Aは,平成12年3月ころ,本件船舶に代わる船を新たに4200万円で購入した。

以上の事実が認められ,同認定を覆すに足りる証拠はない。

(2)  上記認定の事実を前提とすると,A又はBが,あるいは両名が共謀して,故意に本件火災を発生させたとの事実を認めるには足りないというべきである。

すなわち,

ア 動機について

(ア) 上記(1)に認定の事実に加え,甲第1,第5号証,第21,第22号証の各1ないし5,第23号証の1ないし3,前記証人Bの証言,Aの原審供述によると,①本件船舶は,平成7年7月11日,3500万円で購入されたが,本件火災時までに4年余りを経過したにすぎず,充分に使用可能であって,Aも最高速度が思ったほど出ないと感じたほかは,本件船舶自体に格別の不満はなかったこと,②本件船舶には,当時,Q社製のエンジンが装着されていたが,控訴人は,平成11年3月ころ,2100万円で本件エンジンを購入したもので,本件船舶を将来的にも使用する予定であったこと,③控訴人はA一族の同族会社であるところ,Aは,病院経営者として相当の収入を上げており,経済的にも逼迫した状況にはなかったこと,④Aは,船舶の構造,エンジンの仕組み,軽油の引火・発火性,その爆発力等に関する詳細な知識がなく,本件火災が発生したときは,本件船舶が爆発するのではないかとの恐怖感を抱いたこと,⑤Aは,Bが駆けつけた後は,ワインを飲みながらEらと談笑してリラックスしていたことが認められ,これらの事実に照らすと,Aは,本件船舶を依然使用する意思があったのみならず,自己及び他人の生命・身体の危険を犯してまで3500万円相当の保険金の詐取を企てなければならないほど逼迫した経済状況にはなく,Aには,被控訴人主張の方法で本件船舶を焼毀するのに必要な知識があったとも認められないのであるから,上記のような大きな危険を冒す行為を計画実行する動機があったとは考えられない。

被控訴人は,Aは,エンジンの換装後も最高速度は実現せず,大きな不満を抱いていたことから,2100万円の換装工事代金の支払を免れ,高速の出る新船舶の購入を考え,放火による保険金取得を図った可能性がある旨主張するが,単なる憶測の域を出ないのみならず,上記認定の事実に照らして採用できない。

(イ) 他方,Bについても,本件船舶を焼損しても,自らに保険金が入ることはないのみならず,かえって月額15万円の保守管理の委託料(乙第15号証)を受けている控訴人という顧客を失うことになるのであって,他人の財産を侵害するほか,自己及び第三者の生命・身体に対する危険を及ぼす放火行為を行う動機があったとは考え難い。

確かに,Bは,後記ウ①の保険事故の際には,保険金の支払請求を自ら行い,保険金の支払先を自らの銀行口座にするなどし,同事故により必要となった作業に関する費用及び部品代を保険金の中から支払を受けたことが認められる(乙第5号証の3及び5,前記証人Bの証言)ものの,同②③の保険事故の際に,同様の処理が取られたことを認めるに足りる証拠はないこと,本件火災は,本件船舶自体の焼損による沈没であり,この保険事故につき,Bが控訴人に日当程度の費用以上の債権を取得するとは考えられないこと,3500万円にも及ぶ多額の保険金の支払に関し,B名義の口座に振り込むことを控訴人が指定するとは考え難いし,仮に指定したとしても,被控訴人側がこれに同意するとは考えられないことに照らすと,上記の点も,Bによる本件船舶の放火を行う動機が認められないとの前記判断を左右するものではない。

イ Bの本件火災類似の事故体験について

Bは,レジャー用船舶の保守管理業を営んでいる者であり,平成8年10月ころから,控訴人所有の本件船舶の保守管理を委託されていた者であるが(前記争いのない事実(2),前記証人Bの証言,Aの原審供述),平成11年2月23日,プレジャーボート「L」に乗船していた際,同船舶の機関室から出火する事故に遭遇したこと,h海難審判庁は,平成12年11月22日,同船の船底に可燃性液体が滞留していた可能性が高いとしながらも,軽油が発火源とは認められないとし,発火原因を明らかにできない旨の裁決をしたことが認められる(甲第5号証,乙第25号証)。

しかし,上記の事故があったことから,直ちに本件火災がBによる故意による放火であると認めることはできない。

ウ 本件船舶の事故歴について

甲第7,第9号証,乙第5号証の1ないし5によると,本件船舶については,購入後から本件火災までの間,次の3件の保険事故が生じた。

① 平成8年12月20日 フロントガス破損

② 平成10年7月4日  プロペラ破損

③ 同年11月8日    オーバーヒート

しかし,控訴人において,損害保険に加入している場合にこれを使用することが不合理とはいえないのみならず,上記の各事故と本件火災とは内容的にも損害の金額としても全く異なるものであって,これらの事実があったとしても,AないしBが本件火災を引き起こしたことを窺わせるものとはいえない。

エ 放火行為の危険性について

前記(1)認定の事実によると,本件火災当時は既に,日没により周囲の海は暗かった上,本件船舶は沖合約2キロの海上にあって,万一,沈没ないし救援する船舶がなかった場合には,A及びBはもとより,女性2名を含む同乗者3名の生命・身体を損なう現実的危険性があったこと,被控訴人主張のような大量の軽油を使用して本件火災を引き起こした場合には,予測を超えた事態が生じる可能性もなかったとはいえないこと,A及びBが,Gの運転するH号の当日の航行予定・航路の詳細を知っていたことを認めるに足りる証拠はないことに照らすと,A又はBが,被控訴人主張の方法を用いて,故意に本件火災を惹起したというのは,余りにも危険性が大きく不自然である。

オ 計画性について

被控訴人は,BがH号から本件船舶に乗り移った後,以後,H号が本件船舶に伴走し,救援艇となることを綿密に計画していた旨主張する。

しかし,①予め計画的に,夜間,海上で本件船舶に放火し,女性2名を含む5名が安全に脱出するためには,脱出用の船舶を確実に確保しておく必要があるところ,Bは,自ら,複数の船舶を管理し,これらを利用しやすい立場にありながら,前記認定のとおり,当日使用していたI号を脱出用の船として使用せず,偶然に帰港したH号に協力を要請したにすぎないのであって,Bのこのような行動をもって,放火の計画性を推認するのは不自然・不合理であること(真に計画的に火災を計画していたのであればI号を使用するため,帰港時間を調整し,操縦者を確保するのが自然である。),②被控訴人主張のとおり,H号を救援艇と考えていたのであれば,BないしAにおいて,本件船舶の航行に追走するよう要請するのが自然であるところ,前記認定のとおり,H号のGは,万一の場合を考慮して,自らの判断で追走したにすぎず,BないしAから,Gに対し,追走を依頼したわけではないこと,③本件火災当日は祝日であるが,日没後も多くのレジャー用船舶が本件火災発生場所付近の海域を航行していたとの事実を認めるに足りる証拠はなく,本件火災発生時は日没をはるかに超えており,レジャー用船舶の多くは帰港済みの時間帯であったこと(H号,I号も同様であった。),④本件船舶に被控訴人主張の方法で放火しようとしても,本件船舶の火災発生時期,発生場所,本件船舶が炎上する速度,救援艇の確保の可能性,女性2名を含む乗船者の予測不可能な行動の可能性等,余りにも不確定要素が強いこと,⑤このような状況下で,Aは,Eら3名と飲酒しながら,本件火災が発生するまで談笑していたものであること,以上の事情に照らすと,A及びBが本件火災を計画していたというのは著しく不自然である。

このことは,仮に本件火災を装い,保険金を詐取する計画があったのであれば,ドイツ人技師によるチェックを受けた直後の時期を殊更避けるのが自然である(検査直後であれば故障個所が存在しないとの見方をされやすい。)のに,その僅か5日後に,控訴人が主張するような本件エンジンのトラブルを原因とする本件火災を惹起したというのはいかにも不自然であることからも窺うことができる。

カ 放火を行う時間的余裕について

被控訴人は,Bが機関室内で工作後,遠隔装置や遅延発火装置を使用した上,着火物に少量のガソリン等を染みこませる方法で着火させる方法があるから,放火の時間的余裕があった旨主張する。

しかし,当審提出の乙第50号証(半密閉容器における2時間燃焼継続実験)によると,同燃焼実験を試みたところ,ガストーチでも簡単には着火せず,大量の軽油に着火させて継続的に燃焼をさせるには20分程度の時間を要したことが認められるところ,前記認定のとおり,Bは,乗船後,機関室に5分程度入って主機関を点検して以後,機関室内には立ち入らず,フライングブリッジで本件船舶を航行させていたことに照らすと,Bが何回も着火行為を繰り返すとか,約20分間も軽油が燃焼するのを機関室で見守っているなどの行為をする余裕がなかったことは明らかであるから,被控訴人の上記主張は採用できない。

のみならず,本件火災の際,被控訴人主張のとおりガソリンが使用されたことはもとより,Bがガソリンを携帯したり本件船舶内にガソリンが保管されていてBがこれを使用したことについても,これを認めるに足りる証拠は全くない。

キ 本件袋ナットの緩み

被控訴人は,①Bは,本件袋ナットの緩みの異常を指摘しなかったこと,②6個のシリンダーのうち,本件袋ナットのみが緩んだことは不自然であること,③本件火災発生の直前にD社のドイツ人技師が機関に異常がないことを確認していること(乙第7号証)からすれば,Bが人為的に本件袋ナットを緩めた可能性もある旨主張する。

しかし,①については,前記3(1)オに認定のとおり,Bは,機関室内で異音も聞こえず,エンジンが正常に作動しているように思われたことから,操舵室の左の回転計が故障しているにすぎないと考え,それ以上の念入りなチェックをしなかったため,本件袋ナットの緩みの異常に気づかなかったと考えられること,②については,甲第19号証によると,駆動中のエンジンは常時自己振動している上,本件船舶のようにプロペラスクリューとエンジンが適合しない場合には異常振動が生じ易く,本件袋ナットが緩む可能性を否定できないから,袋ナットのうち,一部が緩んだとしても不自然であるとまではいえないこと,③については,乙第7号証によると,上記技師は,袋ナットをチェックをしていないことが認められ,これらに照らすと,本件袋ナットの緩みが走行中に自然に生じた可能性を否定することはできず,したがって,このことから直ちに,BないしAの人的関与を認めることはできないというべきである。

ク そのほか,被控訴人は,AとBが異常音が発生したこと等について口裏を合わせて虚偽の事実を供述している旨主張するが,Bは,原審における証人尋問において,本件火災の1か月前に異常音を聞いたが,本件火災の当日は異常音を聞かなかった旨証言するのに対し,Aは,原審における本人尋問において,本件火災の直前に異常音を聞いたが,Bから1か月前に異常音がしたとの報告を聞いたことはない旨供述しているのであって,両者が必ずしも口裏を合わせて同一の証言・供述をしているとはいえない上,両者の共謀を窺わせる事情として指摘するその余の被控訴人の主張がいずれも採用できないことも,上記アからキまでの説示から明らかである。

(3)  次に,本件火災の原因について検討する。

ア 被控訴人の主張する本件火災の発生経過

被控訴人は,本件船舶の船底には,燃料タンクから流出した軽油を含む液体が少なくとも563.13リットル滞留していたこと,燃料タンクの軽油を流出させるにはリターンパイプを切断する方法があること,軽油を滞留させるには,ビルジポンプの作動を停止する必要があるが,それにはフロートスイッチの配線の切断,フロートの稼働部の浮力の妨害,ヒューズを取り外す等の方法があること,軽油に着火させる方法としては,少量のガソリン等を着火材として使用し,遠隔操作・時限発火等の方法があること等を主張し,乙第19ないし24号証,第28ないし39号証,第41ないし53号証(第48号証以下は当審提出),原審証人Rの証言中にはこれに沿う部分がある。

(ア) 船底の滞留物について

確かに,ストリンガー等の上部が加熱を受けた結果,黒く変色していること(乙第41号証),被控訴人の燃焼実験(乙第20号証)によると,容器に軽油と助燃料のガソリンを入れ,ライターで点火して1分間これを燃焼させた上で消火し,そのFRP板に残った痕跡を調べたところ,軽油の液面から上の部分に燃焼の痕跡が残ったことが認められるから,本件船舶のストリンガー等に残存した被控訴人主張の燃焼境界線まで軽油が滞留していた可能性がないではない。また,左舷エンジンの冷却水タンクが下部より溶融している事実は,船底部付近から立ち上がる強い火炎が存在したことを疑わせるものである(乙第41号証)

しかしながら,①上記実験は,僅か1分間の燃焼実験にすぎず,易燃物のガソリンが燃えただけで,軽油が燃焼しなかった可能性が高いから,本件のように機関室内で約1時間半燃焼を継続した場合に,液面がどの程度低下し,かつ,周囲にどのような影響・焼毀痕を残すかは必ずしも明らかでないこと,②本件船舶は,発火後,約1時間半燃えて沈没したのであるから,船底に軽油があれば,相当部分が燃え尽きて液面が低下し,同部分にまで焼毀痕を残したはずであるのに,被控訴人主張の563.13リットルの液面下には焼毀痕が残っていないことからすれば,滞留していた液体の相当部分が不燃物であった疑いを払拭しきれないこと,③本件船舶の軽油の容量は両舷合わせて1300リットルであり,出航時の軽油の積載量は,その70ないし80%(910ないし1040リットル)であったと認められるが(乙第19,第22号証),出航後の軽油の消費量及び本件火災による消費量を認定することは困難であること,④本件船舶は約1時間半燃焼して沈没したところ,甲第4号証によると,被控訴人主張の方法で,船底に溜まった大量の軽油に着火させたとすれば,格別の事情のない限り,その火力により本件船舶の左右のFRPの燃焼状態に大きな相違が生じることはないことが認められるのに,前記「判断の前提となる事実」(7)のとおり,本件船舶の左舷側が右舷側に比べて圧倒的に焼損し,大きな不均衡を生じていること,⑤被控訴人は,海水取入口のフィルターが熱によって全部ないし部分的に熔解して海水が船底に浸水したとしても,海水は本件船舶の喫水線まで浸水するはずである旨主張し,前記証人Rの証言中にはこれに沿う部分があるが,他方,前記「判断の前提となる事実」(1)コによれば,ビルジポンプの排出能力は2台で毎分合計40リットルであり,同証言によると,海水フィルターは本件船舶の喫水線よりも下に位置していることが認められるから,ビルジポンプが作動して海水等が船外に排出される場合には,海水が喫水線よりも下方の位置(前記の燃焼境界線)辺りまで浸水するにとどまる可能性もないではないこと,⑥前記認定の(1)の事実,甲第4,第10,第19号証,乙第22,第41号証によると,本件袋ナットから噴出した軽油は約10リットルであったと推認されるところ,その一部は船底に落下して,船底に溜まった上記海水ないし冷却タンクから漏出した真水の表面に滞留し(この場合の軽油の厚さは約2.63センチ程度),ストリンガー等に沿って滞留していた面と,機関室内の燃焼によりタール状の黒色物(乙第19号証41頁参照)等の老廃物が付着した面との間に,上記燃焼境界線のような痕跡が生じた可能性もあること(液体のほとんどが軽油の場合であろうと,海水等の不燃物で軽油が表面に滞留していたにすぎない場合であろうと,被控訴人主張の燃焼境界線よりも下方に焼毀痕を生じないことは同じである。),⑦また,BないしAが,被控訴人主張のリターンパイプを切断したり,ビルジポンプの作動を停止(フロートスイッチの配線を切断,フロートの稼働部の浮力の妨害,ヒューズを取り外す等)させて,燃料タンクから軽油を船底に滞留させたことを認めるに足りる証拠は全くないことを総合勘案すると,船底に大量に滞留していた液体のほとんどが軽油であったとは直ちに認められないというべきである。

なお,被控訴人は,原審においては,上記燃焼境界線が燃焼開始時点の軽油の液面線であるとの前提で,滞留していた軽油を含む液体量を563.13リットル程度であると主張し,原判決もこれに従った認定をしていたところ,当裁判所の釈明を経て,前記第2の4(2)エ(エ)のとおり,燃焼前の滞留軽油量を753.4ないし788.9リットルと主張するに至ったものであって,この点からしても,船底に滞留していた軽油を含む液体が563.13リットルであって,これが本件火災の原因となったとする被控訴人の前記主張は,にわかに採用することができない。

(イ) 着火方法について

被控訴人は,ガソリン等を着火材として使用し,遠隔操作・時限発火等の方法で着火させることにより,滞留した軽油に着火させることができる旨主張する。

しかし,船底に大量の軽油が滞留していたことを前提とする被控訴人の主張が採用できないことは上記のとおりである上,AないしBが,上記手段を講じて着火したとの事実を認めるに足りる証拠もない。

(ウ) 以上によると,本件火災が被控訴人主張のとおりの機序で,A及びBの共謀ないしその関与の下に惹起されたものであるとは認めることができない。

イ 他方,控訴人は,①エンジンの振動に起因して高圧管と噴射ポンプとの結合部に不具合が生じ,Bが本件船舶に乗船してきた以前から本件袋ナットの緩みが生じたこと,②この緩みが生じた初期の段階では,必ず,軽油は霧状に噴霧し,些細な火源があれば火災が生じることは必至であり,飛散した燃料(霧状ではガスに近いが,粒状では遠くに飛ぶ。)は,高温の熱源(排気管等)によってガス化し,本件船舶の機関室にガスが充満している状況となるため,ちょっとした点火源の存在で引火すること,③同引火は,噴出している霧状・粒状の燃料に伝播し,次第に火炎が大きくなって,下に落ちた燃料まで燃え広がり,Bがハッチを開いた際,酸欠状態であった機関室に酸素が供給されて燃え上がり,本件火災に至ったものであることを主張するのに対し,被控訴人は,以下のとおり反論する。

(ア) まず,Bが本件袋ナットを人為的に緩めた可能性がある旨の主張が採用できないことは前記のとおりである。

(イ) 次に,被控訴人は,乙第29号証による実験の結果,350度以上に熱した鋼管等に霧状の軽油が飛散しても,自己発火に至らなかった旨,仮に排気管に付着した軽油が着火したとしても,瞬間的に可燃性蒸気が燃焼し,燃え尽きると終了し,可燃物がないので,以後,燃焼は生じない旨主張し,甲第18,乙第41号証,前記証人Rの証言中にはこれに沿う部分がある。

しかし,①甲第19号証,上記証人Rの証言によると,乙第29号証による実験は,飛散した軽油が高温部分に接して自己発火する状況の設定として,鋼管内部をガスバーナーの炎で加熱し,一点の表面温度が摂氏350度に達した時点で加熱を中止し,この点に向けて軽油を噴霧していることが認められること,②しかし,加熱を中止した場合には,表面温度は急下降し,発火に必要な高温を維持できず,軽油の噴霧を継続しても発火に至らなかったものと推認されるのであり,加熱を継続した場合には発火していた可能性があること,③実際の排気管内部には摂氏400度程度の高温ガスが流れており,飛散した軽油が付着しても高温化した排気管の表面温度が低下することはなく,その場合には自己発火ないし引火した可能性を否定できないことに照らすと,この点に関する被控訴人の上記主張及びこれに沿う上記各証拠は直ちに採用することはできない。

(ウ) また,被控訴人は,引火点に達した軽油が引火しても,一瞬爆発的に一気に燃え上がるだけで炎は消え,滞留していた軽油に引火することもない旨主張し,乙第22,第23号証中には,これに沿う部分もある。

しかし,上記証拠に加え,前記「判断の前提となる事実」(1),乙第6号証によると,①控訴人の行った乙第23号証による実験は,空気の供給がないままの実験室(50cm×50cm×50cm)内で行われたものにすぎないのに対し,本件船舶の機関室は,両舷に2箇所ずつの吸気口(1箇所は吸気ファン方式)が設置されていた上,本件船舶の規模(長さ13.20m,全幅4.25m),並びにその下部構造(ハル,居住室,機関室,操舵室)の位置関係から概算すると,機関室は幅員約4m,奥行き約2.5mであり,高さも相当程度あって,エンジン・燃料タンク,ストリンガー等があるため,実験室内部の平板な状況とは明らかに異なる状況となっているから,空気の供給の有無,噴出したガス化した軽油の場所における濃淡,内部温度等において実験室とは燃焼の前提条件が異なること,②実験室においても,ガス化した軽油は爆発的に燃えた後,直ちに鎮火するとは限らず,炎が次第に収縮していく過程も窺える(乙第23号証)から,機関室内部において空気やガス化した軽油の継続的な供給がある場合には,控訴人主張のとおり,一瞬爆発的な燃焼は,はじめのきっかけの引火にすぎず,このような引火があれば,この熱でガス化している軽油又は継続的に漏れている軽油がその炎で暖められてガス状になり,その表面が燃焼し,更にその熱で周りに燃焼するものがあれば,それらを含めて火勢は大きくなる可能性を払拭しきれないことに照らすと,上記実験室での結果を直ちに信用することはできない。

(エ) 以上によると,本件火災の原因についての控訴人の主張に対する被控訴人の上記各反論は,いずれもにわかに採用することができず,本件袋ナットから噴出した軽油がガス化し,発火ないし引火した可能性も全く否定し去ることはできないから,この点に関する控訴人の主張が不当なものとして,一蹴することはできない。

(4)  前記(1)に認定の事実,殊に,①本件火災に至るまでの経過,②A及びBの本件火災前後の行動・態度,③その発生時期・地点,④本件船舶の状況,⑤H号に乗り移るまでの経過,⑥消火活動をしなかった理由,⑦本件火災後の状況等に加え,(2)及び(3)の検討結果を総合勘案すると,本件火災に至った具体的な原因は不明であるというほかなく,AないしBが共謀ないし単独で本件火災を惹起したとは認めることはできないから,被控訴人主張の事故招致免責の抗弁を認めるには足りないといわざるを得ない(なお,甲第37号証によると,i海上保安署は,本件火災について放火の疑いで調査したが,火災の原因の特定ができず,A及びBを被疑者として立件することはできなかった事実が認められ,これも本件火災の原因の特定が困難なことを窺わせるものである。)。

4  不実申告による免責の主張について

(1)  前記争いのない事実4記載のとおり,本件約款15条は,第1項において,保険契約者又は被保険者が,保険の目的について損害が生じたことを知ったときは,遅滞なく,書面をもって被控訴人に通知し,かつ,被控訴人の要求する証拠書類等を提出しなければならない旨を定め,第2項において,被保険者が前項の書類中に不実の記載をし,又は隠ぺいをしたときは,被控訴人は保険金を支払わない旨規定しているところ,その趣旨は,保険金の支払の要否,その額を判断するに際し,不実の説明・申告をした場合には保険金を支払わないこととし,不正な保険金請求を阻止して保険制度の適正妥当な運用を確保するところにあり,したがって,不実申告免責を理由に保険金の支払を拒否できるのは,保険事故の発生原因事実や損害額の算定作業に影響を及ぼすような重要事項について虚偽の申告をしたり,不法に保険金を請求することを目的として故意に虚偽の供述をする等,信義誠実の原則上許されない目的のもとに不実の申告をした場合に限られると解するのが相当である(最高裁判所昭和62年2月20日第二小法廷判決民集41巻1号159頁参照)。

(2)  Aの不実申告の主張について

ア 被控訴人は,まず第1に,本件船舶は,S社からTに売り渡されたものであったのに,Aは,S社から直接に控訴人がこれを購入したとの虚偽の申告をし,なぜ控訴人が所有権を有しているのか未だ明らかでない旨主張する。

しかし,前記争いのない事実,「判断の前提となる事実」(2),甲第21,第22号証の各1ないし5,第23号証の1ないし3,乙第3号証の2,第10号証,Aの原審供述によると,Tは,平成7年1月11日,S社から,本件船舶を3500万円で購入したが,Tは,控訴人と同様,Aを中心とする同族会社であり,控訴人及びTは当時いずれもAが唯一の出資者であったこと,控訴人は,本件船舶を控訴人所有に属するものとして税務申告や会計処理していること,本件エンジンは2100万円相当であり,本件船舶に設置され,両者は一体となったこと,控訴人は,本件船舶及び本件エンジンについて本件保険契約を締結したことが各認められ,この間,Tはもとより,被控訴人から,本件船舶が控訴人の所有であることについて格別異論を挟まれたことを認める証拠がないことを併せ考えると,本件船舶及び本件エンジンは,控訴人の所有に属すると認めるのが相当であるから,控訴人が本件船舶を自己の所有物として申告したことが虚偽のものであるとは認められない。

また,被控訴人は,本件船舶を購入した際,Uと称する船舶を300万円で下取りに出した事実を申告しなかった旨主張するが,同事実は,本件保険契約の締結ないし損害額の算定等に関する重要な事項であるとはいえないから,これを申告しなかったことが免責事由に当たるということはできない。

イ 次に,被控訴人は,Aが本件船舶内に数千万円の現金を置いていたと主張していることの信用性を問題視するが,そもそも本件船舶内の現金は本件保険契約の付保事項ではないから,その保管状況についての申告内容の真偽を問わず,免責事由には当たらないというべきである。

ウ 第3に,被控訴人は,Aが,本件保険契約は,Wを代理店として初めて締結した契約であると申告しながら,実際は,昭和59年ころから,X保険をはじめとする他の保険会社とWを代理店として保険契約を締結していた事実を申告しなかったことを免責事由として主張する。

しかし,Wを代理店とする保険契約の締結の経緯について真実でない部分があったとしても,これは本件火災の発生原因事実や損害額の算定作業に影響を及ぼすような重要事項には当たらないから,これも本件保険契約の免責事由とすることはできない。

エ そのほか被控訴人は,Aが,Fらを釣りに誘った時期や,H号と本件船舶の位置関係に関する不実申告を主張するが,前者は,本件保険契約とは関係のない事項であるし,後者についても,本件火災の責任原因,損害額の算定に何ら影響を及ぼす事項ではないから,いずれも採用することができない。

(3)  Bの不実申告の主張について

被控訴人は,本件火災当日におけるBの不自然な行動及び本件火災についての虚偽供述等が不実申告に当たる旨主張する。しかし,それらはいずれも本件火災がA及びBによる放火であることを前提としているところ,本件において,両名による放火の事実が認められないことは前記認定・説示のとおりであるし,Bが,殊更,虚偽の申告をしたとの事実を認めるに足りる証拠もない。

(4)  以上のとおり,不実申告を理由とする被控訴人の免責の主張は,いずれも採用することができない。

5  損害額について

被控訴人は,控訴人が本件エンジンの所有権を取得していないから,損害を被っておらず,本件保険金額から控除すべき旨主張する。

しかし,前記「判断の前提となる事実」(2),甲第21号証の4,第22,第23号証の各3,乙第3号証の1,2,第4号証の3,第10,第12,第14号証,前記証人Bの証言及びAの原審供述によると,本件エンジンは,本件保険契約の更改前である平成11年7月までには,売買契約に基づき,控訴人所有の本件船舶に設置され,その所有権は買主たる控訴人に移転し,引き渡しが完了したこと,控訴人は,本件火災により,本件船舶及び本件エンジンを焼損したが,本件エンジンの売買代金2100万円の支払義務を免れるものではないこと,もともと本件船舶は3500万円で取得されたものであり,被控訴人も,本件船舶及び本件エンジンが控訴人の所有であることを前提として,保険金額3500万円の本件保険契約の更改契約を締結したことがそれぞれ認められ,これらの事実に照らすと,本件船舶及び本件エンジンの価格は3500万円を下らないと認めるべきであり、したがって、控訴人は,本件船舶及び本件エンジンの所有者であり,本件火災によりそれらの価格合計3500万円相当の損害を被ったものと認められる。

以上により,本件保険金額3500万円から本件エンジンの代金額2100万円相当額を控除すべき理由はない。

第4結論

以上によれば,控訴人が被控訴人に対し,本件保険契約に基づき,損害保険金3500万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成13年9月21日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める請求は理由があり,これを棄却した原判決は失当である。

よって,原判決を取り消し,控訴人の請求を全部認容することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大和陽一郎 裁判官 菊池徹 裁判官 市村弘)

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