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大阪高等裁判所 平成17年(ネ)3056号 判決 2006年5月19日

控訴人(甲事件原告)

A野太郎

他10名

控訴人(乙事件原告)

B山松夫

他5名

控訴人ら訴訟代理人弁護士

関戸一考

乕田喜代隆

武田純

白倉典武

被控訴人(両事件被告)

近畿税理士会

同代表者会長

池田隼啓

同訴訟代理人弁護士

池上健治

的場俊介

佐古祐二

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は、控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人らに対し、原判決添付別紙二請求額一覧表の各「請求額」欄記載の金員及びこれらに対する同一覧表の各「起算日」欄記載の日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

第二事案の概要

一  事案の要旨

本件は、被控訴人の会員であり、被控訴人が大同生命保険相互会社(以下、組織変更後の大同生命保険株式会社を含めて「大同生命」という。)と締結していた団体定期保険契約及び拠出型企業年金保険契約に基づく各保険制度に被保険者として加入していた控訴人らが、大同生命の株式会社への組織変更に際して被控訴人に割り当てられた株式の売却代金について、上記保険制度への加入契約には、これを保険料負担者である控訴人らに属するものとする黙示の合意がある、あるいは、実質的には控訴人らに帰属すべきものであるにもかかわらず、同代金を控訴人らに支払わず、これを雑収入に計上したとして、団体保険制度への加入契約、不当利得又は不法行為に基づき、被控訴人に対し、それぞれ原判決添付別紙二請求額一覧表の各「請求額」欄記載の金員(合計九五万六二六六円)及びこれらに対する訴状送達日の翌日である同一覧表の各「起算日」欄記載の日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。

原審は、控訴人らの請求をいずれも棄却したため、控訴人らは、原判決を不服として控訴した。なお、一審原告C川竹夫及び同D原梅夫は、控訴をしなかったため原判決が確定し、同E田春夫は、控訴をしたが、当審で訴えを取り下げ、被控訴人がこれに同意したため、同E田春夫との間での本件訴訟は終了した。

【以下、原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」及び「第三 当裁判所の判断」の部分を引用した上で、当審において、内容的に付加訂正を加えた主要な箇所をゴシック体太字で記載し、それ以外の字句の訂正、部分的加除については、特に指摘しない。】

二  争いのない事実等(認定に供した証拠は末尾に掲記)

(1)  控訴人らは、いずれも税理士であり、被控訴人の会員である。

(2)  被控訴人は、税理士法四九条一項により、大阪国税局の管轄区域に設立された税理士会であり、昭和三九年七月一日、大阪税理士会ほか四税理士会の合併により大阪合同税理士会(昭和五九年六月二〇日に現在の名称へと変更された。)として成立した。

(3)  大阪税理士会と大同生命とは、昭和三〇年九月一九日、団体保険契約である団体定期保険契約(以下「本件団体保険契約」といい、この契約に基づく現行の保険制度を「本件グループ保険」という。)を締結した。この契約に係る保険期間は一年であり、現在まで更新を重ねている。なお、上記のとおり、大阪税理士会ほか四税理士会の合併により大阪合同税理士会が成立したことにより、本件団体保険契約は、大阪合同税理士会に引き継がれた。

(4)  大阪合同税理士会と大同生命とは、昭和四六年一〇月一日、団体保険契約である拠出型企業年金保険契約(以下「本件年金保険契約」といい、本件団体保険契約と合わせて「本件各保険契約」という。また、本件年金保険契約に基づく現行の保険制度を「本件年金保険」といい、本件グループ保険と合わせて「本件各保険」という。)を締結した。

(5)  被控訴人と大同生命とは、昭和六二年八月一日、団体保険契約である医療保障保険(団体型)契約を締結した。

(6)  控訴人A野太郎(以下「控訴人A野」という。)を除く控訴人ら及びその従業員らは、被控訴人との間で、それぞれ、原判決添付別紙三記載のとおり、本件グループ保険に加入する契約をした。

また、控訴人A野は、被控訴人との間で、原判決添付別紙三記載のとおり、本件年金保険に加入する契約(以下、これらの契約を合わせて「本件各加入契約」という。)をした。

(7)  被控訴人は、配当金等の管理に関して「近税グループ保険等配当金管理運営規程」(以下、平成一五年一月二一日改正後の「近税グループ保険等配当金等管理運営規程」と合わせて「管理運営規程」という。)を定めている。

(8)  大同生命は、平成一四年四月一日、保険業法八六条所定の手続を経て相互会社から株式会社への組織変更(以下「本件組織変更」という。)を行った。

(9)  大同生命は、同法八九条一項に基づき、補償基準日である平成一三年三月三一日現在において大同生命保険相互会社の社員であった者に対し、組織変更計画書の定めるところにより、大同生命保険株式会社の株式の割当てを行い、上記株式の割当てとして、被控訴人に対し、大同生命保険株式会社の株式九一二・〇二九八三五〇株(以下「本件株式」という。)の割当て(以下「本件株式割当て」という。)を行った。

保険契約ごとの割当て株式数は、以下のとおりである。なお、端数処理の関係上、上記ア、イ、ウの合計は上記本件株式の数と一致しない。

ア 団体定期保険 六八九・九六八六六六八株

イ 拠出型企業年金保険

五七・八〇二九〇〇二株

ウ 医療保障保険(団体型) 一六四・二五八二六八二株

(10)  被控訴人は、平成一四年四月三日、上記割当て株式のうち整数部分である九一二株を売却し、同月一〇日、上記株式の売却代金のうち売却費用を控除した二億七三六〇万〇九一九円を受領した。

また、被控訴人は、同月一八日、大同生命から、端株の売却代金七七六九円を受領した。

以上の受領額の合計は、二億七三六〇万八六八八円(以下「本件売却代金」という。)である。

(11)  被控訴人は、口頭弁論終結日までに、本件売却代金を、次のとおり処分した(公租公課負担を含む。)。

ア 近税グループ保険等配当金等特別会計繰入金 六〇〇〇万円

イ ICカード負担金 三〇〇〇万円

ウ 固定資産取得引当預金積立額(会館取得費用) 九三六〇万円

エ 公租公課 七四九一万八七〇〇円

(12)  上記の残額に受取利息(四四四九円)を加えた一五〇九万四四三七円は、現在も処分されないまま留保されている。

三  争点

(1)  本件合意の成否

(控訴人らの主張)

次の各事情からすれば、控訴人らと被控訴人とは、本件各加入契約に際して、本件株式の売却代金を加入者に還元するとの黙示の合意をした(以下「本件合意」という。)ものであるから、被控訴人には、控訴人らに対し、本件各加入契約に基づいて、本件売却代金を支払う義務がある。

ア 本件各保険契約において、その保険料はすべて加入者が負担している一方、被控訴人が本件各保険契約上の事務処理をする対価は、別に委託事務費が保険料の割戻分として大同生命から被控訴人に支払われているから、経済的負担はすべて加入者に帰せられている。

団体生命保険契約においては、(ア)企業などの団体が従業員や取締役などの構成員を被保険者として自己の保険料負担において加入する保険契約と、(イ)団体自身は保険料を負担せず、被保険者たる構成員から保険料を徴収して単にこれを保険会社に払い込むだけの保険契約とがある。

(ア)のような団体生命保険契約においてさえ、団体保険制度の趣旨に反するような利益を団体が取り込むことについては、これを契約の合理的意思解釈により制限しようとする裁判例が有力となっている。

これに対し、本件のような(イ)の団体生命保険契約の場合、被控訴人は、形式的に保険会社に対し、保険料の払込事務を行うだけで、その保険料をすべて被保険者から徴収し、自らは保険料を全く負担しない契約となっている。すなわち、このタイプの団体保険契約は、①団体を契約者として保険料をまとめて払い込む形式の保険契約を行うことにより、保険会社は、団体の構成員を大量に顧客に取り込むことが可能になる上、保険加入手続や保険料の徴収等についての事務処理コストを削減することができる、②他方で、加入者の側から見れば、保険会社側の上記のようなメリットが還元される結果、一般の保険契約に比べて割安な保険料で保険に加入することができるという点にメリットがあることから、契約の一括取扱いの便宜上、団体を形式上の保険契約者にしているにすぎない。したがって、(ア)と比較しても、格段にその当事者的地位は低く、実質的には、被保険者を主体とする生命保険契約の事務代行者と変わらない地位にあるといえる。このような契約の特質は、被控訴人が保険会社に収めた保険料の中から事務受託費の支払を受けていることに現れている。

イ 本件団体保険契約の約款には、団体保険契約の対象となるべき「会社、事業所、官公庁、労働組合、共済組合、互助会、協同組合、同業組合等」を指す「団体」という概念と、「同一の保険契約に属する被保険者の集団」を指す「被保険団体」という概念とが規定されており、「団体」を当事者とする保険契約と「被保険団体の代表者」を当事者とする保険契約の二種が存在するが、これは、団体自身が保険料を負担している場合は「団体」を保険契約者とし、団体自身は保険料を負担せず、被保険者から徴収する場合は「被保険団体の代表者」を保険契約者とするものと解するのが上記約款の合理的な解釈である。

本件では、控訴人ら被保険者が保険料を全額負担しており、被保険者の集団の親睦と意見交換を図る場として「加入者懇談会」が毎年開催されてきたのであるところ、本件各保険契約の保険証券に「大阪合同税理士会会長山本義雄」と記載されているのは、被保険団体の代表者として被控訴人の代表者の氏名を借用したにすぎないものであり、契約の実質的当事者は控訴人ら被保険者であるから、被保険者らとの内部関係において、契約から生じる経済的利益は、控訴人らに還元すべきであり、これが被控訴人の代表者あるいは団体である被控訴人に帰属することはない。

ウ 被控訴人は、本件グループ保険の案内パンフレットに、「この制度は、会員・従業員のみなさまとご家族の生活保障を目的としており」と記載しており、保険契約上の利益の還元主体は被保険者であることを予定している。

エ 本件団体保険契約の約款は、制度趣旨として、「この保険は、…団体を対象とする団体保険で、団体の所属員等を被保険者とし、これらの者の遺族および所属員等の生活保障を目的とするものであり」と明記しており、本件団体保険契約上の利益の還元主体は被保険者であることを予定している。

オ 被控訴人は、本件各保険契約の約款や管理運営規程に株式割当てに関する明文の定めがない以上、保険契約者に割り当てられた株式を還元すべき対象は存在しないから、これをすべて被控訴人が取得しても問題はないと主張する。

しかし、逆に、加入者と被控訴人の間に、上記各約款や管理運営規程に明文の定めのない保険契約上の利益はすべて被控訴人が取得することを認めるという合意もないから、被控訴人がこれを取得できるとの結論にはならない。

カ 管理運営規程によれば、配当金の八〇パーセントが現在の加入者に払い戻され、残る二〇パーセントも加入者相互の福利厚生の目的に使われるのであり、被控訴人は、配当金について被控訴人が利益を得ることを全く予定していない。

配当金は、保険会社に当期に生じた剰余金の配分であり、株式割当てが長年保険会社に蓄積されてきた利益を一括して保険契約者に配分するものであることからすれば、株式割当てと配当金は同じに扱われるべきである。

管理運営規程に配当金以外の定めがないのは、配当金以外の利益を想定することができなかったからにすぎない。配当金を被保険者に還元するとの定めは、受益(経済的利益の享受)と負担(保険料支払)の一致という考え方に基づくものであるから、同規程に定める「配当金」とは、「保険契約から生じる一切の経済的利益」を意味する例示的記載にすぎない。

また、本件株式が被控訴人に割り当てられたこと自体は、もともと被控訴人の代表者に相互会社の議決権が付与されていたことと同じく、やむを得ないが、その議決権が被保険者の代表として行使されなければならないのと同様に、これが大同生命の組織変更により株式となっても、その議決権は被保険者の代表として行使されなければならず、その利益配当も被保険者に還元すべきものであった。本件株式の売却代金は、株式から生じる経済的利益として利益配当と共通するものであるから、被保険者に還元すべきものであって、被控訴人が被保険者の意思を十分に諮ることなくこれをすべて取り込んだことは違法である。

キ 加入者が本件各保険に加入するのは、個人の保険よりも保険料が安いというメリットがあるからに過ぎず、その点を除けば個人で保険に加入するのと同様の意識であって、団体に特別の利益を与えるという意識はない。

ク 本件グループ保険発足当時、加入者は互助会的な団体である「大税グループ保険組合」を形成し、昭和四三年三月、被控訴人理事会において大税グループ保険組合規約(以下「本件組合規約」という。)が制定された。この組合は、昭和五五年六月にその実体を失い、その財産は被控訴人に承継されたが、被控訴人がその財産を一般会計と厳格に区別した特別会計として管理し、その使途を管理運営規程によって拘束していることからすれば、本件各保険契約から生じる収益金は、被控訴人ではなく加入者全体のものとするという明確な認識が読み取れる。

(被控訴人の主張)

ア 相互会社を保険者とする団体保険は、保険契約者(社員)と保険料の負担者(加入者)とが異なることが当然の前提とされており、その上で、株式会社への組織変更の際には、「社員」に対して株式を割り当てるものと客観的に法定されているのであって(保険業法八九条一項)、加入者は、そのような保険制度に加入したにすぎない。

イ 加入者は、保険金の給付や古希祝金・長寿祝金等の保険契約上の利益を得ることを期待して加入したのであって、組織変更とそれに伴う株式割当てまで予測して加入したものではない。

ウ 管理運営規程は、被控訴人の内規であり、これが当然に控訴人らと被控訴人との契約内容になるわけではない。本件グループ保険の募集パンフレットには、管理運営規程のような記載はないから、これが上記契約内容になっているということはない。

エ また、株式の売却代金と配当金は、その性格が異なり、同列に論じることはできない。

オ かつて存在した大税グループ保険組合は、組合としての実体を備えておらず、被控訴人の福祉制度であるにすぎないし、規約も、本件グループ保険の制度が発足して一二年も経ってから制定されている。また、控訴人らのいう特別会計は、あくまでも被控訴人の特別会計なのであり、被控訴人の判断において特別会計を取り崩すことができる。

(2)  不当利得の成否

(控訴人らの主張)

ア 本件では、控訴人ら加入者の負担した保険料によって被控訴人に本件売却代金の利得が生じ、これを被控訴人が取得することによって控訴人らに本件売却代金又は保険料相当の損失が生じている。

よって、控訴人らは、不当利得(民法七〇三条、七〇四条)に基づき本件売却代金分の利得の返還を求める権利がある。

イ 不当利得の成否における「法律上の原因」の有無は、権利の形式的帰属ではなく、実質的公平の観点から、どこに当該利益を帰属させるのが妥当かにより決せられるべきであるから、被控訴人が、保険契約者として本件株式割当てを受けたことから、受益に法律上の原因があるとはいえない。

ウ 保険契約とは、保険料の負担義務と保険サービスの提供義務とが対価関係に立つ双務契約であるから、保険サービスの受益者と保険料負担者とが一致することは、保険契約の本質的要請である。事実、本件各保険においても、保険料は、加入者が実質負担しており、反面、加入者は、保険金の受取人を任意に指定でき、配当金も被控訴人を通じて個々の加入者に還元される。

被控訴人が保険会社から株式割当てを受けるのは、形式的に保険契約者とされているからに過ぎず、被控訴人は、実質的には加入者の事務代行者であるから、本件売却代金は加入者に払い戻されるべきである。

エ 仮に、本件株式が被控訴人に実質帰属すると解すれば、加入者たる会員とそうでない会員との間で大きな不公平が生ずる。なぜならば、加入者である控訴人会員は、被控訴人会員全体の中で少数派であるから、被控訴人の内部的多数決原理により本件売却代金の処分方法が決せられるならば、多数派である非加入者会員の意向に沿って処分され、保険料を実質負担してきた加入者たる会員の意見が圧殺されることは目に見えているからである。

オ 過去において前記大税グループ保険組合が存在し、被控訴人がこれを承継しつつもその財産は現在でも特別会計として、被控訴人一般会計から厳格に分離されていることからしても、本件株式は、実質的には加入者らに帰属すると解すべきであり、その売却代金の帰属も加入者らであると解すべきである。

カ 被控訴人は、本件グループ保険を維持管理してきたのは被控訴人であり、被控訴人の労苦があったからこそ、本件株式割当てを受けるに至ったのだから、本件売却代金は被控訴人が取得すべきであると主張する。

しかし、被控訴人は、加入者が支払った保険料の一部について大同生命から割戻しを受けており、制度の運営管理についての対価は十分に得ているのであって、重ねて本件売却代金を取得すべき合理的な理由は何ら見いだせない。

(被控訴人の主張)

ア 控訴人らは、被控訴人と大同生命とが締結している本件各保険契約を前提として、被控訴人との間で本件各加入契約を締結して本件各保険に加入したものであるところ、本件株式割当ては、本件各保険契約により被控訴人が取得した大同生命保険相互会社の社員たる地位に基づくものであり、その地位に基づき割り当てられた本件株式は、単に形式的にではなく、実質的にも被控訴人に帰属する。

そうすると、本件株式割当てを加入者たる控訴人らが受けることができる余地はなく、本件売却代金を控訴人らが取得できないとしても、それはそもそも控訴人らの損失ではない。

また、本件組織変更に伴って、組織変更時の保険契約者の保険契約上の権利義務に変更が生じたことはなく、加入者の保険契約上の地位にも変動は生じていないから、この点からも加入者たる控訴人らに損失がない。

イ 本件株式が、形式的のみならず実質的にも被控訴人に帰属するのは前述のとおりであるから、本件売却代金の管理処分も被控訴人にゆだねられており、被控訴人がその団体自治により適正な手続に従って取得する限りは、法律上の原因がある。

被控訴人は、諸般の事情を総合的に考慮して、本件売却代金を一般会計に組み入れた上、前記争いのない事実等のとおり処分すると理事会において決定し、平成一五年六月二〇日開催の定期総会に諮ってその機関決定を得たのであり、適正な手続を経ている。

したがって、被控訴人が本件売却代金を取得したことには法律上の原因がある。

ウ 控訴人らは、本件株式ないし本件売却代金が被控訴人に帰属するならば、加入者たる被控訴人会員とそうでない被控訴人会員との間に不公平が生ずると主張する。

しかし、この主張は、被控訴人が本件グループ保険の制度発足のために検討を重ね、保険会社と折衝し、長年にわたって制度を維持管理してきたという事実を無視するものであり、また、そもそも保険料が、一定の偶発的事故が発生したときに財産的給付を行うというサービスと対価関係に立つものであることを無視した議論であって、是認できない。

エ なお、本件売却代金二億七三六〇万〇九一九円の使途は、六〇〇〇万円を加入者の福利厚生目的である特別会計に繰り入れているほか、ICカード負担金及び会館取得費用は、公益法人たる被控訴人が公益的活動を行う基盤整備のために資するものであり、残額は、被控訴人の健全な運営のための資金として保留しているものであって、これらの使途は、被控訴人の公益法人としての目的にかなうものである。

特別会計への繰り入れのほかに、加入者に直接配分を行うことは、公益法人たる被控訴人の性格に照らせば、補償基準日現在の加入者の保険料負担を考慮しても、被控訴人の財産管理のあり方としては相当でない。

(3)  不法行為の成否

(控訴人らの主張)

上記のとおり、控訴人らは、本件各加入契約又は不当利得返還請求権に基づき本件株式売却代金の支払を求める権利を有する。しかし、被控訴人は、控訴人らの上記権利を侵害し、本件株式売却代金を自らの固有財産として一般会計に取り込んでしまった。

かかる行為は不法行為(民法七〇九条)に該当するから、控訴人らは、被控訴人に対し、損害賠償として、本来支払を求め得る株式売却代金相当額及び弁護士費用の支払を求める。

(4)  損失又は損害

(控訴人らの主張)

ア 株式割当ては、補償基準日において資格を有する保険契約者のみが権利者たり得るから、割当て株式の持分割合は、当該補償基準日の属する年度の支払保険料に応じて算出すべきである。

そして、本件株式割当ての補償基準日は、平成一三年三月三一日であるので、当該補償基準日が属する年度に控訴人らが負担した保険料の金額を、当該年度において被控訴人が団体として大同生命に支払った保険料総額で除して控訴人ら個々の保険料負担割合を算出し、これに本件株式売却代金総額を乗じたものが、個々の加入者(控訴人ら)の損失又は損害であると解すべきである。

その具体的な額は、原判決添付別紙二請求額一覧表の各「株式売却代金」欄記載の金員である。

イ 控訴人ら各自において、株式売却代金をほしいままに処分されたことに伴って、精神的苦痛を被ったところ、これを慰謝するためには上記アの額に相当する額の慰謝料を要する。

ウ 弁護士費用として、控訴人らに各自一万円を下らない損害が発生している。

(被控訴人の主張)

大同生命が被控訴人に対して行った本件株式割当ては、本件各保険契約の締結当初から補償基準日までの間の支払保険料に基づく寄与分計算により行われたものであって、被控訴人が本件各保険を企画し、多年にわたり維持、管理してきた功績に対するものというべきであり、この被控訴人の功績と現加入者が被控訴人に支払った(例えば一年間の)保険料の負担額とが直接結びつくものではない。

第三当裁判所の判断

一  争いのない事実等に《証拠省略》を総合すれば、次の事実が認定できる。

(1)  被控訴人が、本件グループ保険の加入者を募集するために作成したパンフレット(昭和五五年度版)には、保険金給付のほか、「主な特典…(この特典は当税理士会独自の制度です。)」として、終身保障及び長寿祝金の給付がされると記載されているが、契約者配当金や、組織変更に伴う割当て株式の帰属に関する記載は存在しない。また、「制度の内容」として、「割安な掛金で大きな保障がえられます。」「簡単な手続(診査なし)でご加入できます。」との記載がある。

(2)  被控訴人が、本件グループ保険の加入者を募集するために作成したパンフレット(平成一二年度版)には、保険金給付のほか、古希祝金及び長寿祝金が給付されると記載されているが、契約者配当金や、組織変更に伴う割当て株式の帰属に関する記載はない。また、「この制度は、会員・従業員の皆さまとご家族の生活保障を目的としており、割安な保険料で大きな保障が得られます。」「簡単な手続(診査なし)でご加入いただけます。」と記載されている。

(3)  被控訴人が、本件年金保険の加入者を募集するために作成したパンフレット(平成一四年度版)には、一時金又は年金の給付のほかに何らかの給付があるとの記載はなく、契約者配当金や、組織変更に伴う割当て株式の帰属に関する記載もない(以下、上記の各パンフレットを合わせて「本件各パンフレット」という。)

(4)  本件グループ保険への加入契約の申込みは、被控訴人ないし大同生命が作成した「近畿税理士会グループ所得補償保険制度加入申込書」(以下「本件申込書」という。)に必要事項を記入してこれを被控訴人に提出することによって行われる。

本件申込書のいずれの部分にも、契約者配当金や、組織変更に伴う割当て株式の帰属に関する記載は存在しない。

本件年金保険への加入契約の申込みも、同様の方法によって行われる。

(5)  大同生命の本件団体保険契約の普通保険約款(甲一。以下「団体保険約款」という。)は、同保険の趣旨を、「団体を対象とする団体保険で、団体の所属員等を被保険者とし、これらの者の遺族および所属員等の生活保障を目的とするものであり、被保険者が死亡しまたは所定の高度障害状態になった場合に死亡保険金または高度障害保険金を支払う仕組の保険」と定めている(同約款冒頭部分)。

なお、大同生命が被保険者ないしその定める保険金受取人に対してする給付を定めた条項は、保険金の支払に関するもの(一九条一、二項、二一条一項)以外にはない。また、同約款には、一定の要件の下で大同生命から保険契約者に契約者配当金を給付することを定めた条項(四三条)があるが、配当金を加入者へ再配分すべきことを定めた条項はない。

(6)  大同生命の本件年金保険契約の普通保険約款(甲三。以下「年金保険約款」といい、団体保険約款と合わせて「本件各約款」という。)は、同保険の趣旨を、「企業等においてその所属員が保険料を拠出することによる年金制度の実施について、その確実な保障と円滑な運営をはかること」と定めている(同約款冒頭部分)。

(7)  本件各約款中には、本件組織変更前において、組織変更を前提とした規定が置かれていなかった。

(8)  被控訴人が本件各契約に係る保険料を負担するなど何らかの出捐をしているとの事実はない。

(9)  大同生命は、被控訴人に対し、毎年、事務費として相当の金銭を支払っており、例えば、平成一三年度の事務費として、① 本件グループ保険につき二五三四万二〇六七円を、② 本件年金保険につき二三七万四六三〇円を、③ 医療保障保険につき五七万三三三六円を支払った。

なお、被控訴人は、日本システム収納株式会社(以下「日本システム収納」という。)に対して、保険料の振替え事務を委託し、その費用を支払っている。例えば平成一三年度は、① 本件グループ保険につき七〇八万〇三五五円を、② 本件年金保険につき四〇万七一五四円を、③ 医療保障保険につき一九万〇四三五円を支払った。

(10)  被控訴人は、管理運営規程を定めており、同規程中には、次のような定めがあった。

ア 「この規程は、近畿税理士会が大同生命保険相互会社と契約する団体定期保険(以下「近税グループ保険」という。)…について、各保険会社から交付される配当金の適正な管理、運営と制度の健全な充実、発展を図り、もって加入者の福祉向上に資することを目的とする」(一条)。

イ 「近税グループ保険の配当金のうち、その八〇%は前年度から引き続き加入した者に配当するものとする」(二条一項)。

ウ 「前条〔二条〕第一項により割り戻した配当金の残額は、次の各号に定める各諸制度〔古希祝金制度、長寿祝金制度及び会員制ビラ利用制度〕の運営資金及び必要経費に充当する」(三条)。

エ 「この特別会計に剰余金が生じたときは、加入者の福祉向上並びに制度の充実、発展のための資金として積み立てるものと」し、この「積立金は、これを他の目的に使用することはできない」(六条一、二項)。

(11)  被控訴人の会務執行規則六八条三号は、「規程」の制定及び改廃を、理事会の決議によって行うものと定めている。

(12)  控訴人らのうち、原判決添付別紙三加入状況一覧表において「従業員の加入」欄に「あり」と記されている者は、いずれも、従業員に係る保険料をも自己の計算において負担していた。

二  争点(1)(本件合意の成否)について

(1)  前記争いのない事実等記載のとおり、控訴人らは、被控訴人との間で、それぞれ、本件各加入契約を締結して、本件各保険に加入した。

そして、前記一で認定した事実によれば、本件各加入契約は、被控訴人が、大同生命の承諾を得て、加入者を被保険者として当該保険制度に加入させる義務を負い、加入者(又はその事業主たる控訴人会員)が、被控訴人が保険契約上大同生命に対して負担する所定の保険料のうち当該加入者に係る部分を指定口座からの振替えによって負担する義務を負うとの内容を含む契約であることが認められる。

控訴人らは、本件各加入契約には上記以外の合意も含まれており、団体保険制度の制度趣旨、保険加入の際の説明文書、他の保険契約上の利益の還元に関するルールなどの事情を総合勘案すれば、控訴人らと被控訴人とは、本件各加入契約に際して、黙示に本件合意をしたと主張している。

ところで、大同生命保険相互会社定款(乙二)五条一項は、「当会社の保険契約者は、剰余金の分配のない保険契約を除き、すべて社員となる。」と定めていた。そして、保険業法八九条一項は、「相互会社の社員は、組織変更計画書の定めるところにより、組織変更後の株式会社の株式の割当てを受けるものとする。」と規定している。したがって、本件株式は、大同生命保険相互会社の社員であった被控訴人に帰属するものとすることが法律の明文によって認められる。

(2)  控訴人らは、被控訴人は、形式的に保険会社に対し、保険料の払込事務を行うだけで、その保険料をすべて被保険者から徴収し、自らは保険料を全く負担せず、かえって被控訴人が保険会社に収めた保険料の中から事務受託費の支払を受けているタイプの団体保険契約では、契約の一括取り扱いの便宜上、団体を形式上の保険契約者にしているにすぎず、被控訴人は、実質的には、被保険者を主体とする生命保険契約の事務代行者と変わらない地位にあるとし、また、本件団体保険契約の約款には、「団体」を当事者とする保険契約と「被保険団体の代表者」を当事者とする保険契約の二種が存在するが、団体自身は保険料を負担せず、被保険者から徴収する場合は「被保険団体の代表者」を保険契約者とするものと解するのが上記約款の合理的な解釈であるとし、また、本件では、被保険者の集団の親睦と意見交換を図る場として「加入者懇談会」が毎年開催されてきたものであるところ、本件各保険契約の保険証券に「大阪合同税理士会会長山本義雄」と記載されているのは、被保険者団体の代表者として被控訴人の代表者の氏名を借用したにすぎないものであり、契約の実質的当事者は控訴人ら被保険者であると主張している。

(3)  しかし、控訴人らは、本件団体保険契約は「被保険団体の代表者」を保険契約者とする旨主張しながら、本件の場合、団体としての実態を有さず、集団に過ぎないことを自認しているし、また、上記認定の事実関係に照らしても、実態を有する被保険団体の存在は認定するに至らないことに加え、本件団体保険契約の保険証書(乙九)には、保険契約者として団体名「大阪合同税理士会」代表者「山本義雄」との記載があるから、その文面上、本件団体保険契約は、「団体」である被控訴人が保険契約者であることは明らかである。

《証拠省略》によれば、本件各保険への勧誘パンフレットがいずれも被控訴人名義で作成され、そこに「本制度は、近畿税理士会が生命保険会社と締結したこども特約付団体定期保険契約…に基づき運営されます」、「当年金共済は、近畿税理士会が大同生命保険株式会社と締結した拠出型企業年金保険契約に基づき運営します。」などと明記されていること、問い合わせ先に被控訴人の事務局が指定され、本件グループ保険独自の特典が広報されていること、この特典は、被控訴人の理事会によって制定改廃が可能である管理運営規程によって運営されていることが認められるから、被控訴人が、その会員等の福利厚生のために、その事業として、本件各保険を主体的に運営しており、それによって、被控訴人の団体としての独自の利益を有していることは明らかである。したがって、本件各保険契約の当事者は、名実ともに被控訴人であるというべきであり、これの実質的当事者が控訴人ら被保険者であるとする控訴人らの主張は採用できない。

(4)  もっとも、本件株式が保険契約者に帰属することが法律によって定められていても、保険契約者と加入者との間において、上記株式の売却代金をどのように帰属させるかは、当事者間の合意によって決することができる問題であり、あらかじめこれを定めておくこともできる。

そこで、前記一で認定した事実を基に、控訴人ら主張の本件合意の存在を推認できるか否かを判断する。

(5)  まず、前記一(1)から(4)までで認定した事実のとおり、本件各パンフレット及び本件申込書には、大同生命が組織変更された場合に関する記載はなく、これらのパンフレット及び申込書は、そもそも組織変更自体を想定せずに作成されたものと考えられる。したがって、本件各加入契約そのものに関する書面から、本件株式の売却代金を加入者に帰属させるとする当事者の意思を推認することはできない。

この点、控訴人らは、「この制度は、会員・従業員の皆さまとご家族の生活保障を目的としており」とするパンフレットの記載から、本件株式が加入者に帰属するという当事者意思が推認されると主張するが、同パンフレットには、上記のとおり、組織変更に関する記載がない上、上記記載は、本件グループ保険契約に関する一般的な制度目的を記載したものにすぎず、このような記載から、上記の意思を推認することはできない。

そして、本件各パンフレット及び本件申込書のその余の記載によっても、上記当事者意思を推認することはできない。

(6)  次に、本件各加入契約の解釈に当たっては、本件各保険契約の内容をも斟酌する必要があるが、同契約の内容は、特段の定めなき限り、本件各約款によって確定すると解すべきである。そして、前記認定のとおり、本件各約款には組織変更を前提とした規定はないから、本件各約款は、そもそも組織変更自体を想定していなかったものと考えられる。

控訴人らは、団体保険約款(甲一)の「この保険は、…同業組合等の団体を対象とする団体保険で、団体の所属員等を被保険者とし、これらの者の遺族および所属員等の生活保障を目的とするものであり、」という文言から、同約款は保険契約上の利益を加入者ないしその指定する者に還元すべきことを予定しているとして、同約款から本件株式を加入者に帰属させるとする当事者の意思を推認することができると主張する。

しかし、同約款の上記部分が「被保険者が死亡しまたは所定の高度障害状態になった場合に死亡保険金または高度障害保険金を支払う仕組の保険です。」と続けられていることや、同約款の他の規定からすれば、同約款は、本件各保険が保険事故に際して指定された者に死亡保険金ないし高度障害保険金を支払うことによって遺族等の生活保障をすることを目的とすることを定めているにとどまり、この契約関係から生ずるすべての利益を加入者ないしその指定する者に帰属させるべきことを定めたものとまで解することはできない。

なお、団体保険約款は、組織変更を前提とした規定を置いておらず、割当て株式の帰趨については約款の文言のみから判断することはできないともいい得るが、保険契約者に契約者配当金を給付することを定める四三条においても、これを加入者に再配分すべきことまで定められていないことは前記のとおりである。そうすると、同約款が、保険金以外の給付をもすべて加入者に還元すべきであるとの態度をとっていると解釈することもできず、同約款の規定から、大同生命が組織変更に際して割り当てる株式を加入者に帰属させるとする当事者の意思を推認することはできない。

(7)  控訴人らは、保険料はすべて加入者が実質負担しているから、被控訴人が本件売却代金を保持することができると本件各加入契約を解釈することは不合理であると主張する。

しかし、前記認定の本件各パンフレットの記載内容及び弁論の全趣旨によれば、団体保険には、廉価な保険料で保険に加入できるというメリットがあり、通常、このメリットを享受するために団体保険への加入を希望する者が多いと推認できることからすれば、保険料をすべて加入者らが負担する場合であっても、そのことから、保険契約者が保険会社から受ける利益をすべて加入者に分配すべきことが加入契約の内容となっていると解することまではできない。

(8)  控訴人らは、契約者配当金の一部を加入者に配分し、残部を加入者の福祉厚生のために特別会計にプールする扱いとしている管理運営規程の定めからすれば、本件売却代金についても同様の扱いをすべきであって、これが控訴人らと被控訴人との間の合理的意思であると主張する。

確かに、管理過営規程は、本件グループ保険の配当金のうち八〇パーセントを前年度から引き続き加入した者に配当し、これにより割り戻した残額を、古希祝金制度、長寿祝金制度及び会員制ビラ利用制度の運営資金並びに必要経費に充当することとしている。

しかし、前記のとおり、本件各パンフレットや本件申込書には配当金の給付について何ら記載されていないから、配当金給付が本件加入契約の内容となっているとはいえないのであって、あくまでも、管理運営規程により、その給付を受ける地位が創設されているものとみるのが相当である。

したがって、管理運営規程の上記規定から本件株式を加入者に帰属させるとする当事者の意思を推認することはできない。

(9)  控訴人らは、管理運営規程に配当金以外の定めがないのは、配当金以外の利益を想定することができなかったにすぎないから、同規程に定める「配当金」とは、「保険契約から生じる一切の経済的利益」を意味する例示的記載にすぎないと主張しているが、保険契約から生じる一切の経済的利益を被保険者に還元するとの趣旨は、上記管理運営規程からうかがうことはできない。すなわち、控訴人らは、受益(経済的利益の享受)と負担(保険料支払)の一致という考え方から同規程に定める「配当金」の給付が定められていると主張するが、上記のとおり、被控訴人は、その会員等の福利厚生を図るという団体独自の利益を有しているものと認められるから、「配当金」の給付が定められていることから、直ちに保険契約から生じる一切の経済的利益を被保険者に還元することが定められているとはいえないのである。

(10)  なお、控訴人らは、配当金と本件株式とが保険会社に生じた利益の分配という点では何ら変わりないと主張している。

この点、相互会社における契約者配当金が剰余金の分配という性格を有しているのは確かであるが(保険業法五八条一項ほか同法の諸規定も「剰余金の分配」という語を用いている。)、株式会社においてこれに当たるのは、株主に対する利益配当であって、株式そのものではない。そして、組織変更に際して割り当てられる株式は、相互会社の社員権が組織変更によって株式に転化したものであるから、契約者配当金とは根本的に異なるものである。控訴人らの主張は、契約者配当金と割当て株式の性質の違いを看過するものであって採用できない。

また、控訴人らは、本件株式が被控訴人に割り当てられても、その議決権は被保険者の代表として行使されなければならず、その利益配当も被保険者に還元すべきものであるから、本件株式の売却代金は、株式から生じる経済的利益として利益配当と共通するものであり、被保険者に還元すべきものであると主張するが、被控訴人は、上記のとおり、団体としてその会員等の福利厚生を図る目的で本件グループ保険の契約当事者となっているのであるから、これに割り当てられた株式もその団体の内部意思の決定によって行使されるべきものであって、被保険者の団体の利益のために行使すべきものであるとは直ちに言えない。よって、控訴人らの上記主張は採用できない。

(11)  控訴人らは、本件グループ保険が、かつて存在した「大税グループ保険組合」の団体保険を名義上被控訴人に承継させただけのものであり、以前は事務代行手数料等も同組合が管理していたとして、本件グループ保険の実質的当事者は加入者の総体である被保険団体であるから、本件株式の売却代金も被保険団体を構成する個々の加入者に割り当てられるべきであるとも主張している。

そこで検討するに、《証拠省略》によれば、現在の管理運営規程は、本件組合規約(乙五二)を受け継いで制定されたものであり、同規約に基づく配当金積立金が、管理運営規程六条の積立金に引き継がれていることが認められる。しかし、《証拠省略》によれば、本件グループ保険が昭和三〇年に発足した際に、被控訴人の前身である大阪税理士会の保険制度として募集がされていること、上記組合には独自の規約が存在していたものの、その規約には、「本組合は、大阪合同税理士会…が、大同生命保険相互会社…と契約する大税グループ保険の加入者を組合員とする。」(四条)、「本組合の委員長は税理士会の厚生部長とし、副委員長及び委員は委員長が推せんし、大阪合同税理士会々長が委嘱する。」(八条)との規定があったこと、日本システム収納との振替え事務の委託契約が昭和四九年三月一日付けで締結されているが、これを締結したのは、同組合ではなく被控訴人であったことが認められる。これらの事実によれば、大税グループ保険組合は、「組合」という名称にかかわらず、実質的には被控訴人の福利厚生制度の一つとして位置付けられるものであり、被控訴人から独立した組織であったと認めることはできない。

そうすると、管理運営規程が本件組合規約を引き継ぐものであり、その積立金も引き継がれているといっても、それは、被控訴人の福祉制度及び会計制度が変更されたにすぎず、本件各加入契約の内容に影響を及ぼすものではない。

(12)  以上のとおり、控訴人らと被控訴人とが、本件株式ないし本件売却代金を加入者に帰属させるとの合意がされたという合理的意思を有していたことを認めるに足りる証拠はなく、この点についての控訴人らの主張は理由がない。

三  争点(2)(不当利得の成否)について

(1)  控訴人らは、何らの経済的な負担をしていない被控訴人が本件売却代金を得ることは結論において不当であるから、不当利得(民法七〇三条、七〇四条)に基づき、被控訴人に対して株式売却代金の引渡しを求める権利があると主張しているので、以下検討する。

(2)  被控訴人は、本件株式を取得してこれを売却し、本件売却代金という利益を得ているから、被控訴人には利得があったといえる。

(3)  本件株式は、上記のとおり、法律上、大同生命保険相互会社の社員であった被控訴人に帰属すべきものである。したがって、本件株式が被控訴人に帰属することについては法律上の原因があるといえる。

(4)  そして、本件株式が被控訴人に帰属する以上、被控訴人は、その処分権限を取得することになるから、控訴人らと被控訴人との間で本件売却代金を控訴人らに帰属させる合意をしたなど、何らかの積極的な事情がない限り、被控訴人が本件売却代金を保持することに法律上の原因がないことにはならないというべきである。そして、控訴人らと被控訴人とが、本件売却代金を加入者に帰属させる合意をした事実を認定することができないのは、上記のとおりである。

(5)  控訴人らは、被控訴人が本件売却代金を保持することは結論において明らかに不当であるから、不当利得の制度趣旨である実質的公平の観点からすれば、被控訴人の利得には法律上の原因がないと主張している。そこで、その根拠とするところを順次検討する。

ア 控訴人らは、保険契約が保険料支払義務と保険サービスの提供義務とが対価関係に立つ双務契約であり、保険料を実質負担しているのは控訴人らであるから、事務代行者にすぎない被控訴人は、その保持している利得を加入者に還元すべきであると主張する。

しかし、保険契約において保険料の対価となっているのは保険事故に際しての保険金給付義務であり、その性質を有しない給付は、当該契約によってその内容であると特に定められるのでない限り、保険契約の内容とはならないというべきである。

本件で問題となっているのは、保険会社である大同生命が、本件組織変更をするに際して発行した本件株式の交換価値であるところの本件売却代金であるが、組織変更に伴う割当て株式は、保険相互会社の社員権の代替物であって、保険金給付に類するものではない。

また、本件売却代金を控訴人らに帰属させることが本件各保険契約の内容になっていたといえないことは、前記のとおりである。

したがって、控訴人らの上記主張は採用できない。

イ なお、前記のとおり、本件各保険を主体的に運営しているのは被控訴人であるというべきであるから、被控訴人が控訴人ら加入者の事務代行者に類すべきものであるとする控訴人らの主張は失当である。

ウ 控訴人らは、本件株式が被控訴人に実質的にも帰属するとすれば、その処分方法につき、少数派である加入者たる会員の意見が、多数派である加入者でない会員に圧殺されることになって不公平であると主張している。

しかし、本件株式が被控訴人に帰属すること、本件各保険への加入者の通常の意図が、個人保険よりも廉価な保険料で保険に加入できるというメリットを享受しようとするところにあることは、前記のとおりである。

したがって、本件株式の処分については、被控訴人がその団体としての内部の意思決定によって定めることができるのであって、本件株式が被控訴人に属し、被控訴人の団体としての意思決定によってその処分方法が決せられ、その過程で少数派(もとより少数派であるかどうかも、本件各保険への加入状況如何によるものであり、不動のものではない。)である加入者らの意見が反映されなかったとしても、それはやむを得ないものというべきであって、これがために著しい不公平が生じ、被控訴人の本件売却代金保持が法律上の原因なきものとなることはない。

エ 控訴人らは、被控訴人が大同生命から加入者の支払った保険料の割戻しを受けており、制度の運営管理についての対価を受けているから、重ねて本件売却代金を取得すべき合理的な理由がないとも主張している。

確かに、前記のとおり、被控訴人は、大同生命から毎年事務費を受け取っており、本件各保険に係るその額は、平成一三年度において二八五九万〇〇三三円である。

しかし、上記受取事務費は、あくまでも被控訴人が大同生命から事務費として受け取っているのであり、これが控訴人ら加入者が実質負担している保険料の割戻しに当たると認めるに足りる証拠はない。

オ 控訴人らは、本件各保険が控訴人会員らに対する福利厚生制度であるならば、本件売却代金を控訴人ら加入者に返還すべきとの結論になるはずであると主張するが、福利厚生制度である限り、その収益をすべてその加入者に分配しなければならないということにはならない。

また、本件各保険が、関連する給付ないし収益をすべて加入者に還元することを予定しているとはいえないことは、前記のとおりである。

さらに、管理運営規程の定めをもってしても、本件株式売却代金を加入者に還元すべきであるといえないことも、前記のとおりである。

カ 控訴人らは、過去において前記大税グループ保険組合が存在していたことなどを理由に、本件株式が加入者らに実質帰属すると解すべきであると主張するが、この点も、前記と同様の理由から、採用することができない。

キ 以上、検討したところによれば、控訴人らが被控訴人の利得の不当性の根拠として挙げる主張は、いずれも採用できないから、被控訴人の利得に法律上の原因がないと認めることはできない。

(4)  小括

そうすると、控訴人らとの関係で、被控訴人の利得に法律上の原因がないとはいえないから、その余の点について判断するまでもなく、控訴人らの被控訴人に対する不当利得返還請求権は成立しない。

四  争点(3)(不法行為の成否)について

控訴人らは、本件各加入契約又は不当利得に基づき本件売却代金の支払を求める権利が存することを前提として、被控訴人が本件売却代金を一般会計に取り込んだことが不法行為に該当すると主張している。

しかし、控訴人らが本件各加入契約に基づく請求権及び不当利得返還請求権のいずれも有することが認められないことは、前記二及び三において説示したとおりであり、控訴人らの上記主張は、その前提を欠いている。

第四結論

よって、控訴人らの請求は、いずれも理由がないので棄却すべきところ、これと結論を同じくする原判決は正当であるから、本件控訴をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松山恒昭 裁判官 小原卓雄 吉川愼一)

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