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大阪高等裁判所 平成17年(ネ)3272号 判決 2007年3月29日

主文

1  原判決中控訴人Y1に関する部分を次のとおり変更する。

(1)  控訴人Y1は、被控訴人X1に対し、1353万9901円及びこれに対する平成17年11月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を、被控訴人X2に対し、571万0515円及びこれに対する同日から支払済みまで年5分の割合による金員を、被控訴人X3に対し、163万6186円及びこれに対する同月18日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。

(2)  被控訴人らの控訴人Y1に対するその余の請求をいずれも棄却する。

2  原判決中控訴人Y2及び同エクセル・ゼミナール有限会社に関する部分を取り消す。

3  被控訴人らの控訴人Y2及び同エクセル・ゼミナール有限会社に対する各請求をいずれも棄却する。

4  訴訟費用は、第1、2審を通じ、控訴人Y2及び同エクセル・ゼミナール有限会社と被控訴人らとの関係では、全部被控訴人らの各負担とし、控訴人Y1と被控訴人らとの関係では、これを10分し、その1を被控訴人らの、その余を控訴人Y1の各負担とする。

5  この判決は、第1項(1)に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人ら

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

(3)  訴訟費用は第1、2審とも被控訴人らの負担とする。

2  被控訴人ら

(1)  本件各控訴をいずれも棄却する。

(2)  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第2事案の概要

1  本件は、控訴人Y1(以下「控訴人Y1」という。)が、被控訴人らに対し、米国債を購入してその運用による利益を挙げて配分するなどと虚偽の投資話を繰り返し持ちかけ、その都度、投資金名下に被控訴人らから金員を騙取したところ、被控訴人らは、これらの騙取について、控訴人Y1が民法709条に基づく賠償責任を負うだけでなく、その妻の控訴人Y2(以下「控訴人Y2」という。)は旧有限会社法30条の3に基づいて、控訴人エクセル・ゼミナール有限会社(以下「控訴人会社」という。)は、旧民法44条、民法715条に基づいて、上記の騙取による被控訴人らの損害を賠償する責任があるなどと主張し、控訴人ら各自に対し、被控訴人X1(以下「被控訴人X1」という。)が1540万円とその遅延損害金の支払を、被控訴人X2(以下「被控訴人X2」という。)が660万円とその遅延損害金の支払を、被控訴人X3(以下「被控訴人X3」という。)が220万円とその遅延損害金の支払を求めた事案である(遅延損害金の起算日はいずれも訴状送達の日の翌日で、控訴人会社については平成17年9月5日、その余の控訴人らについては同月3日である。)。

2  控訴人らは、原審の口頭弁論期日に出頭しなかったため、被控訴人らの主張する請求原因事実を全部自白したものとみなされ、被控訴人らの請求を全部認容する原判決が言い渡された。これに対し、控訴人らが控訴した。

3  前提となる事実(争いがない事実及び証拠上容易に認められる事実)

(1)  控訴人会社は、平成11年7月16日に設立された資本金300万円の有限会社であり、登記簿上、中学生向け英語通信教育やそれに付帯する英語教材の販売及び輸入、外国株式、債券への投資及び調査企画を目的とし、その取締役は、控訴人Y2である。控訴人Y1は控訴人Y2の夫である。

(2)  被控訴人X1(昭和○年○月生)は、神戸市北区で歯科医院を開業している歯科医師であり、その妻の被控訴人X2(昭和○年○月生)との間に、長男のA(昭和○年生)、長女のB(昭和○年生)及び二男のC(昭和○年生)がいる。被控訴人X3(昭和○年生)は、被控訴人X1の兄で、西宮市に居住する会社員(元医師)である(甲26)。

4  被控訴人らの主張

(1)  控訴人Y1は、米国債を購入したことも購入する意思もないのに、被控訴人らに対し、米国債を購入して投資利益を挙げてそれを分配するとの虚偽の投資話を繰り返し持ちかけ、「グループで米国債を購入しているが、率がいい」「絶対に間違いないから心配しなくて良いですよ」などと言うなどして、虚偽の投資の勧誘をし、平成12年8月から平成15年6月4日までの間に、別紙・不法行為事実一覧表(以下「別表」という。)の番号1ないし10のとおり、10回に亘り、その旨を誤信した被控訴人らから、投資金名下に合計2200万円をみなと銀行六甲道支店の「ベルマンコーポレーションY1」名義の普通預金口座(<省略>)(以下「本件口座」という。)に送金させてこれを騙取した(以下、別表の番号に従って「表①の事実」「表②の事実」などという。なお、訴状添付の不法行為事実一覧表の1ないし4、8の事実の各被欺罔者欄に被控訴人X1の記載がないが、記録上、被控訴人らの主張として、被控訴人X1もそれらの騙取行為の被欺罔者であると主張されているものと解される。)。

(2)  表①の事実についての補足

控訴人Y1は、上記と同趣旨の虚偽の投資の勧誘をして被控訴人X1及び同X2を欺罔し、一旦、平成11年5月6日、同被控訴人らから、被控訴人X1、同X2及びAの3人の名義で各150万円(合計450万円)の支払を受け、更に、同年6月9日、B名義で150万円を本件口座に送金させてこれを受領したが、平成12年8月ころ、被控訴人X2及び同X1に対し、「これまでは1口150万円であったが、1口が200万円に変更になったので、それまでの被控訴人X1、同X2及びAの3名義合計450万円分とB名義150万円分を合わせて1口200万円分を3口の合計600万円分に変更して預り証を発行する必要がある。」などと虚偽の事実を述べ、前記の被控訴人X1ほか2名名義の合計450万円及びB名義の150万円を、一旦、被控訴人らに返還した。そして、控訴人Y1は、再度、そのように欺罔された被控訴人X1及び同X2から、平成12年8月31日、合計600万円(被控訴人X2、A及びBの各名義で各200万円)の送金を受けてこれらの金員を騙取した。

(3)  表②ないし⑤、⑦ないし⑩の事実についての補足

控訴人Y1は、上記と同趣旨の虚偽の投資の勧誘を繰り返し、その旨誤信した被控訴人X1と同X2から、別表のとおり、平成13年5月28日から平成15年6月4日までの間に、8回にわたり、C又は被控訴人X1あるいは被控訴人X2名義で200万円又は100万円を、逐次、本件口座に送金させてこれを騙取した。

(4)  表⑥の事実についての補足

控訴人Y1は、平成14年1月25日ころ、すでに欺罔されていた被控訴人X1を通じて、その兄の被控訴人X3に対し、上記と同趣旨の虚偽の投資の勧誘をし、同月28日、そのように誤信した被控訴人X3から投資金名下に200万円を送金させてこれを騙取とした。

(5)  被控訴人らの損害

ア 被控訴人X1は、表①の事実中のA及びB名義分の騙取金合計400万円、表②ないし⑤、⑧の事実による騙取金合計1000万円及び弁護士費用140万円の損害を被った。

イ 被控訴人X2は、表①の事実中の被控訴人X2名義分の騙取金200万円、表⑦⑨⑩の事実による騙取金合計400万円及び弁護士費用60万円の損害を被った。

ウ 被控訴人X3は、表⑥の事実による騙取金200万円及び弁護士費用20万円の損害を被った。

(6)  控訴人会社の責任

ア 控訴人会社は、実際には、英語通信教育及び英語教材の販売輸入を行ったことはなく、専ら外国株式、債券への投資を目的としていた。

イ 控訴人Y1は、控訴人会社の実質的な経営者であり、その機関か又は少なくとも被用者の立場にあり、控訴人会社の活動は、控訴人Y1の活動を通じて行われ、控訴人Y2もそれを黙認していた。控訴人Y1の前記各詐欺行為は、控訴人会社の従業員であったD1ことD及びEを利用してされた。

ウ 控訴人Y1の前記各詐欺行為は、控訴人会社の職務の執行についてされた。

エ 控訴人Y1の前記各詐欺行為は、控訴人会社の名前が使用してされた。控訴人Y1は、自宅を娘であるFに競落させてその後にその登記名義を控訴人会社に移転するなど自らの財産を隠匿して、被害者からの責任追求を免れるために、控訴人会社を利用し、別紙物件目録の不動産を控訴人名義にしている。このように、控訴人Y1は、控訴人会社の法人格を濫用している。

オ したがって、控訴人会社は、旧民法44条1項、民法715条に基づいて、又は法人格否認の法理に基づいて、被控訴人らの前記損害を賠償する義務を負う。

(7)  控訴人Y2の責任

ア 控訴人Y2は、みなと銀行六甲道支店の「エクセル・ゼミナール(有)取締役Y2」名義の口座(以下「控訴人会社口座」という。)が開設されており、控訴人会社口座には多額の金員が入金され、数十万、百万単位のカードによる引き出しがされており、控訴人Y2は、月額72万円の報酬を得ていたもので、このように不自然に多額の金員が入金されているのを知っていた。また、控訴人Y1の前記各詐欺行為は、控訴人会社の事務所や設備を使用してされたもので、控訴人Y2は、控訴人Y1の前記各詐欺行為についての監督義務又は中止を求めるなどの適切な対処をする義務を少なくとも重過失によって怠った。また、控訴人Y2は、平成15年12月、被控訴人X1及び同X2が出資金の返還を求めて控訴人Y1宅を訪れた際、「え、X1さんにも迷惑をかけていたの、これまでは新たに加入してくる人から送金を受けて、返金を希望する人の穴埋めに使っていた、11月末に全部引き揚げたので、順次手続をして返金する。X1さんのところには12月25日までには返金できる。」などと虚偽の説明をした。

イ 控訴人Y2は、旧有限会社法30条の3に基づき、被控訴人らの前記損害を賠償する義務を負う。

(8)  よって、控訴人ら各自に対し、被控訴人X1は、上記(5)アの合計1540万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成17年9月3日から(ただし、控訴人会社に対しては同月5日から)支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を、被控訴人X2は、上記(5)イの合計660万円及びこれに対する同月3日から(ただし、控訴人会社に対しては同月5日から)支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を、被控訴人X3は、上記(5)ウの合計220万円及びこれに対する同月3日から(ただし、控訴人会社に対しては同月5日から)支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

5  控訴人らの認否

(1)  被控訴人らの主張(1)ないし(4)のうち、表②ないし⑤、⑦ないし⑩の事実中、別表記載のとおりの各日時に各金額の金員を騙取したことは認めるが、その余は争う。

(2)  被控訴人X3主張の表⑥の事実は認める。

(3)  被控訴人らの主張(5)のうち、表(6)の事実により被控訴人X3が200万円を騙取されたことは認め、その余は争う。刑事事件においては、被控訴人X1の被害額が200万円、被控訴人X2の被害額が2100万円とされている。

(4)  同(6)は争う。控訴人Y1は、被控訴人らに対し、自分はグループを作って個人的に外国へ投資しているなどと勧誘して米国債の詐欺行為を行ったもので、これらの行為は、控訴人会社と取引をしたとは考える余地のない行為である。金員が振り込まれた本件口座も、控訴人Y1の口座である。控訴人会社は、平成11年3月から平成14年9月までに、ゴム印、チラシ印刷費など106万600円、チラシ30万枚の配布業者への支払約500万円など合計約600万円を使用し、全国約10箇所で新聞折り込み広告を入れて英語等の通信教育事業を行った。しかし、10名程度の受講者しか集まらず、事業を軌道に乗せることができずに、自然廃業した。その後、控訴人会社は、何らの事業も行っていない。

(5)  同(7)は争う。控訴人Y1と控訴人Y2は、家計をそれぞれ別にしていたもので、控訴人Y2自身も、控訴人Y2と同Y1との間の3名の娘と共に、控訴人Y1から欺罔されて米国債の購入名下に金員を騙取されており、控訴人Y1が米国債を購入しないで虚偽の購入システムを運用していることは全く知らなかった。控訴人Y1が家族以外の者を欺罔して詐欺行為をしたのは、平成10年6月ころ以降である。控訴人Y1は、平成15年10月ころに米国債の募集を停止し、同年12月に配当金の支払を停止した。平成17年1月に、控訴人Y1の一連の詐欺事件がマスコミで報道された。

6  控訴人らの主張

(1)  控訴人Y1は、米国債への投資名下に金員を騙取したが、解約金の返還として、被控訴人らに対し、被控訴人X1名義分として元本分200万円、被控訴人X2分として元本分900万円を返還したほか、刑事事件において配当金名下の支払があったとされた被控訴人X1名義分18万5000円、被控訴人X2名義分263万1463円、被控訴人X3名義分14万5000円をそれぞれ支払った(甲33・3頁)。

(2)  控訴人Y1は、被害弁償として、平成17年11月25日、被控訴人X1に対して41万円を、被控訴人X2に対して49万円を、同年17日、被控訴人X3に対して42万円をそれぞれ指定口座に振り込んで支払った(乙1ないし3)。

7  被控訴人らの上記6に対する認否

(1)  控訴人らの主張(1)は争う。控訴人Y1が配当金名目で支払った金員は、あくまで被控訴人らを欺罔して、次の出資金を支出させるための手段であり、損害の一部返済があったということはできないし、また、不法原因給付であって、それらは損害額に充当されるものではない。

(2)  控訴人の主張(2)は認める。

第3当裁判所の判断

1  前提となる事実、当事者間に争いがない事実、甲1ないし79、乙1ないし28及び弁論の全趣旨によれば、次のとおり認められる。

(1)  控訴人Y1(昭和○年○月○日生)は、昭和50年4月11日、チェーンの輸出等を業とする日本タバード工業株式会社を設立した(乙5・資料2、乙14・資料1)。同社は、好景気時にはその年商が約50億円にもなったが、昭和59年ころ以降その業務が不振となり、平成7年2月ころには約5億円の負債を抱えるに至り、同月28日、解散して清算手続に入った(乙14・資料1)。控訴人Y1は、平成6年12月21日、別に、a株式会社も設立したが(乙14・7頁)、同社も、平成8年7月12日、神戸地方裁判所において破産宣告を受けた。控訴人Y1は、更に、平成11年7月16日、控訴人会社を設立し(乙22)、その取締役には控訴人Y2(昭和○年○月○日生)が就任した。控訴人Y1は、妻の控訴人Y2らと3名の子供と共に、神戸市灘区内に居住していた。

(2)  被控訴人X1(昭和○年○月○日生)とその妻の被控訴人X2(昭和○年○月○日生)は、神戸市<以下省略>に居住し、被控訴人X1は、歯科医師として、神戸市北区で歯科医院を開業していた。被控訴人X2は、主婦であったが、週に一度同歯科医院の手伝いをしていた。被控訴人X1と同X2との間の長男がA(昭和○年生)、長女がB(昭和○年生)、二男がC(昭和○年生)で、平成12年から平成15年当時、いずれも学生であった。

被控訴人X1と同X2は、平成3年7月ころからテニス仲間として、控訴人Y1及び同Y2夫婦と家族ぐるみで付き合うようになった。被控訴人X3(昭和○年○月○日生)は、被控訴人X1の兄で、兵庫県西宮市内に居住していた(甲30)。

(3)  控訴人Y1は、平成9年7月ころには、収入も仕事もなく、妻の控訴人Y2に生活費を渡すこともできないようになった。控訴人Y1は、他人から金員を騙取しようと計画し、クレジットカードで新幹線回数券を購入して、それを金券ショップで売却して、その売却代金を取得する方法の詐欺行為を計画したほか、米国債を購入する意思もないのに、米国債を購入して投資利益を挙げてそれを分配するとの虚偽の投資話を知人らに持ちかけて投資の勧誘をし、知人らから、投資金名下に金員を騙取する計画を立て、遅くとも、平成10年3月ころから、知人らに対し、次々と、上記の趣旨の虚偽の投資話を持ちかけて投資の勧誘をし、その旨誤信した者から、その投資金名下にペイパーカンパニーであるベルマンコーポレーションの肩書のある控訴人Y1の本件口座に200万円あるいは400万円等の金員を入金させて、これを騙取するようになった。

(4)  控訴人Y1は、平成11年1月ころ、被控訴人X1と同X2に対し、控訴人Y1が貿易商であった経験を生かして米国債を個人で購入して運用しており、高配当が出る、1口150万円で元本保証である、証券会社を通すと証券会社の手数料と為替の手数料で利益はないが、私は直接アメリカで国債を買っているから元本保証で配当金も国内の銀行より高額になることが保証できるし、それだけのことができる自信があるなどと言って虚偽の投資話しを持ちかけて欺罔し、被控訴人X1及び同X2をその旨誤信させた(甲26、29、32)。

(5)  控訴人Y1は、繰り返し、同趣旨を述べて被控訴人X2及び同X1を欺罔し、いずれも投資金名下に、平成11年1月20日に300万円(被控訴人X1及び同X2名義分各150万円)を、同年5月6日に450万円(被控訴人X1、同X2及びA名義分各150万円)を、同年6月9日に150万円(B名義分)を、それぞれ本件口座に送金させた(甲26、32)。

(6)  控訴人Y1は、平成11年4月12日、被控訴人X1や同X2に対し、上記(5)の300万円分の配当分として12万0600円(被控訴人X1及び同X2分各6万0300円)を支払い、同月23日に元本分として300万円を返済した。また、上記(5)の450万円及び150万円の配当分として、平成11年7月14日から平成12年5月18日までの間に、被控訴人X1、同X2及びA名義の各口座に、ベルマンコーポレーション名義で、合計65万2800円を振り込んで支払った(甲26の100、101頁)。

(7)  控訴人Y1は、更に、平成12年8月ころ、被控訴人X1及び同X2に対し、「これまでは1口150万円であったが、1口が200万円に変更になったので、それまでの被控訴人X1、同X2及びAの3名義合計450万円分とB名義150万円分を1口200万円で3口分に変更して預り証を発行する必要がある。」などと虚偽の事実を述べ、前記(5)の平成11年5月6日の450万円分と同年6月9日の150万円分の各元金について、平成12年8月25日に400万円を、同月28日に200万円を、一旦、それぞれ被控訴人X1に送金して返還し(甲32・40頁の一覧表)、その上で、再度、同月31日、欺罔された被控訴人X1及び同X2から、本件口座に合計600万円(被控訴人X2、A及びB名義で各200万円)の送金を受けてこれらの金員を騙取した(甲32・40頁)(表①の事実)。

(8)  控訴人Y1は、その後、平成13年5月から平成15年6月4日までの間に、表②ないし⑤、⑦ないし⑩の事実のとおり、前後8回にわたり、その都度、被控訴人X1及び同X2に対して同趣旨の虚偽の投資の勧誘をして欺罔行為を繰り返し、誤信した同被控訴人らから、投資金名下に合計1400万円を本件口座に振込入金させ、これらの金員を騙取した。控訴人Y1は、これらの騙取した金員で米国債を購入したことはなく、これらの金員を、他に同様の欺罔行為によって金員を騙取した者らへの配当金名下の金員の支払や自らの生活費等に充てた。

(9)  また、控訴人Y1は、平成14年1月25日、被控訴人X1に同趣旨の勧誘をしたところ、上記の趣旨で誤信していた被控訴人X1が兄の被控訴人X3に「米国債の購入に空きができたので、1口200万円だけど預けてみないか。ベルマンコーポレーションのY1さんには、お兄さんからの振込があることは連絡しておくけど。」などと言い、このようにして、被控訴人X1を通じて被控訴人X3を欺罔し、その旨を誤信した被控訴人X3から、同年1月28日、投資金名下に200万円を本件口座に送金させて、これを騙取した(表⑥の事実)。

(10)  被控訴人X2は、平成15年9月ころ、投資金として預けた金員から1口分を解約して、自動車の購入代金に充てようと考え、控訴人Y1にその旨の連絡をして同月15日までに200万円を送金して欲しいと依頼したが、その送金がなかった。結局、控訴人Y1は、平成17年1月8日、控訴人Y2、控訴人会社のパート従業員のD及びEと共に、詐欺の容疑で兵庫県警察に逮捕された。その後、控訴人Y1は、被控訴人らに対する表②ないし⑩の事実(ただし、表②ないし④、⑧の事実の被欺罔者は被控訴人X2のみ。)の詐欺行為及び他の被害者らに対する同種の詐欺行為等で起訴され、平成18年1月26日、神戸地方裁判所において、詐欺罪で懲役6年の判決を受け(甲37、この判決を「刑事判決」という。)、間もなく、この刑事判決は確定した。刑事判決においては、他の被害者に対する詐欺行為と共に、罪となるべき事実として、表②ないし⑩の事実(ただし、表②ないし④、⑧の事実の被欺罔者は被控訴人X2のみ。)に係る騙取行為が認定された(表①ないし⑩の事実に係る各騙取行為を、一括して、以下「本件詐欺行為」という。)。

2  被控訴人らは、控訴人会社について、旧民法44条1項、民法715条又は法人格否認の法理に基づいて、被控訴人らの上記損害を賠償する義務を負うと主張する。

しかし、本件各証拠上、控訴人会社を代表する取締役は、控訴人Y2であって、控訴人Y2自身が、被控訴人らに対する本件各詐欺行為を行ったことを認めるに足りる証拠まではないから、法人の代表者が不法行為を行ったことを前提とする法人自体の不法行為責任を肯認することはできない。

また、前記1の認定事実と前記1の冒頭掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、控訴人Y1の本件各詐欺行為は、専ら控訴人Y1が、妻である控訴人Y2や他の家族に秘匿して個人で行ったものであり(被控訴人らは、D1ことDやEを利用してされたとの主張もするが、そのような事実を認めるに足りる証拠がない。)、しかも、その欺罔行為も、前記のとおり、あくまで控訴人Y1が個人として米国債を購入するなどと告げて行われたもので、その投資話を持ちかけられた被控訴人X1や同X2、それに被控訴人X3においても、控訴人会社の職務についての投資勧誘ではなく、控訴人Y1個人が米国債を購入して運用することを前提とした勧誘であることを十分承知していたことが認められる。したがって、本件各詐欺行為は、控訴人会社の事業の執行についてされたものでないことは、その態様においても、被控訴人らの認識においても明らかであるといわざるを得ない。その他、本件各詐欺行為が、控訴人会社の職務について行われたことを窺わせる証拠はない。控訴人会社の民法715条に基づく責任を肯認することもできない。

被控訴人らは、更に、控訴人Y1は控訴人会社の実質的な経営者であったとか、法人格否認の法理に基づく責任等も主張するが、本件各証拠上、本件各詐欺行為による被控訴人らの損害について、控訴人会社の責任を肯認し得る事情は認められない。なお、乙1ないし3によれば、控訴人Y1は、後記のとおり、被控訴人らに一部の被害弁償金を支払った際、控訴人会社名義でしたことが認められるが、このことは前記認定判断を左右するものではない。

そうすると、被控訴人らの控訴人会社に対する請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。

3  次に、被控訴人らは、控訴人Y2は、会社法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律25条、旧有限会社法30条の3に基づいて、被控訴人らの上記損害を賠償する義務を負うとの趣旨の主張をする。

しかしながら、被控訴人らの上記主張は、控訴人Y2は控訴人会社の取締役として損害賠償責任を負う旨の主張であると解されるところ、被控訴人らの上記損害について控訴人会社が法的責任を負わないこと、そもそも、本件各詐欺行為は、控訴人会社の職務についてされたものではなかったことは、前記のとおりであるから、控訴人Y2について、本件詐欺行為について、控訴人会社の取締役であることによる監督義務や防止義務を観念することができないのであって、いずれにしても、被控訴人らのこの点の主張は失当である。

また、被控訴人らの主張の中に、控訴人Y2は、本件各詐欺行為に関与したもので、控訴人Y1と共に、共同不法行為者として責任を負うとの趣旨の主張と解される部分がないではないが、被控訴人らは、当審第4回口頭弁論期日において、控訴人Y2と控訴人Y1の共同不法行為は主張しない旨陳述しているところであって、いずれにしても、被控訴人らの控訴人Y2に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

4  前記1の認定事実、弁論の全趣旨によれば、被控訴人X1と同X2は夫婦で同居生活をしており、長男、長女及び二男は本件詐欺行為による出資金名下の金員を出捐したとはいえないから、控訴人Y1の本件各詐欺行為によって、被控訴人X1は、表①の事実によるA及びB名義分の各200万円、表②ないし⑤、⑧の事実による騙取金合計1000万円の総合計1400万円を騙取されたもので、被控訴人X2は、表①の事実によるX2名義分の騙取金200万円、表⑦、⑨、⑩の事実による騙取金合計400万円の総合計600万円を騙取されたもので、被控訴人X3は表⑥の事実の200万円を騙取されたものというべきである。

5  控訴人らの主張について検討する

(1)  前記認定事実と甲26、32、33及び弁論の全趣旨によると、控訴人Y1は、平成12年9月から平成15年9月まで、本件各詐欺行為に係る投資金の配当金名下に、逐次、被控訴人X1に対して合計140万8792円を、被控訴人X2に対して合計42万0021円を、被控訴人X3に対して合計14万5000円を支払ったことが認められ(甲32の40頁以下・顧客X親族にかかる米国債出資状況一覧表参照)、これらの支払金額分は、被控訴人らの損害がそれだけ減少するのであるから、それぞれの騙取額からそれらの金額を控除した額が損害額になるというべきである。なお、この点に関する控訴人らの主張(1)中の被控訴人X1及び同X2に関する金額は不明確ではあるが、記録上、上記認定の内容を含む趣旨の主張をしているものと解される。

(2)  被控訴人らは、控訴人Y1が配当金名目で支払った金員は、あくまで被控訴人らを欺罔して、次の出資金を支出させるための手段であり、損害賠償義務の一部返済があったということはできないし、また、不法原因給付であって、それらは損害額に充当されるものではないなどと主張するが、被控訴人らが、上記の配当金名下の金員の支払を受けるのは、騙取行為と同一の原因によって利益を受けることになり、公平の見地から、それらの金額を被控訴人らの騙取額から控除して損益相殺的な調整を図る必要があるというべきであるから(最高裁平成5年3月24日大法廷判決・民集47巻4号3039頁参照)、被控訴人らの上記主張は採用できない。

(3)  そうすると、前記認定事実と弁論の全趣旨によって認められる弁護士費用を加えると、被控訴人X1の損害は、1259万1208円と弁護士費用120万円の合計1379万1208円、被控訴人X2の損害は、557万9979円と弁護士費用55万円の合計612万9979円、被控訴人X3の損害は、185万5000円と弁護士費用18万円の合計203万5000円ということになる。

(4)  控訴人Y1は、被控訴人X1に対して1379万1208円、被控訴人X2に対して612万9979円、被控訴人X3に対して203万5000円と、それぞれ、上記の各金額に対する被控訴人らが請求する平成17年9月3日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負うものであったところ、控訴人らの主張(2)、すなわち、被害弁償として、平成17年11月25日、被控訴人X1に対して41万円が、被控訴人X2に対して49万円が、同年17日、被控訴人X3に対して42万円がそれぞれ指定口座に振り込む方法で支払われたことは当事者間に争いがない。

(5)  なお、控訴人らは、更に、元本の返済として、被控訴人X1名義分200万円及び被控訴人X2名義分合計900万円を支払ったと主張するが、前記認定事実及び前記1掲記の各証拠によれば、それらは、本件各詐欺行為以前に被控訴人X1及び同X2から支払われた投資金名下の金員についてのもので、本件各詐欺行為に関するものとは認められないから、控訴人らの上記の点に関する主張は失当である。

(6)  被控訴人らそれぞれについて、前記の各被害弁償を、まず、支払日までの遅延損害金に充当すると、控訴人Y1の支払義務は、次のとおりとなる。

ア 被控訴人X1に対し、1353万9901円とこれに対する平成17年11月26日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金

イ 被控訴人X2に対し、571万0515円とこれに対する平成17年11月26日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金

ウ 被控訴人X3に対し、163万6186円とこれに対する平成17年11月18日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金

6  結論

(1)  控訴人Y1に対する被控訴人X1の請求は、前記5(6)アのとおりに、被控訴人X2の請求は、前記5(6)イのとおりに、被控訴人X3の請求は、前記5(6)ウのとおりにそれぞれ変更すべきである。

(2)  控訴人会社及び控訴人Y2に対する被控訴人らの請求は、いずれも理由がないから、これらを認容した原判決のこの部分を取消し、被控訴人らの控訴人会社及び控訴人Y2に対する請求をいずれも棄却することとする。

(3)  よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡邉等 裁判官 八木良一 樋口英明)

(別紙)物件目録<省略>

不法行為事実一覧表<省略>

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