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大阪高等裁判所 平成17年(ネ)731号 判決 2007年1月18日

主文

1  原判決を以下のとおり変更する。

2  控訴人らは,株式会社C(本店所在地大阪府吹田市甲町乙番丙号)に対し,連帯して金53億4350万円及びこれに対する平成16年2月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。

4  訴訟費用は,第1,第2審を通じてこれを2分し,その1を控訴人らの負担とし,その余を被控訴人の負担とする。

5  この判決2項は仮に執行することができる。

事実

第一控訴の趣旨

一  控訴人A

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の控訴人Aに対する請求を棄却する。

3  訴訟費用は,第1,第2審とも,被控訴人の負担とする。

二  控訴人B

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の控訴人Bに対する請求を棄却する。

3  訴訟費用は,第1,第2審とも,被控訴人の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

株式会社C(以下「C社」という)は,定期訪問レンタルサービスから店舗販売によるフードサービスまで,さまざまな業態でいわゆるフランチャイズビジネスを展開する会社であるが,その一部門として,ドーナツやアメリカンコーヒー等を小売販売するEフランチャイズ事業を展開している。

被控訴人は,平成15年1月14日(後記5の訴え提起請求の到達の日)当時,6か月前より引き続きC社の株式を有する株主である。

控訴人Aは,平成11年4月C社の専務取締役(フードサービス事業グループ担当)に就任し,平成13年6月これを退任した。

控訴人Bは,平成12年6月C社の取締役(フードサービス事業グループ内のEフランチャイズ事業本部長)に就任し,平成13年12月取締役を退任した。

2  いわゆる◎◎事件

(1) 混入

C社は,Eフランチャイズ事業本部が担当して,商品名を「◎◎」と呼称する中華饅頭(以下「◎◎」という)の販売を企画し,株式会社D(以下「D」という)にその製造を委託し,Dの系列会社の中国の工場での製造に係る◎◎を輸入し,これを平成12年4月からテスト販売し,同年10月からは本格的に販売していた。

上記◎◎には,当時の食品衛生法(平成11年法律第160号<平成13年1月6日施行>による改正前のもの)6条(現行の食品衛生法10条に相当する。以下,当時の食品衛生法を「食品衛生法」という)に違反し,人の健康を損なうおそれのない場合として厚生大臣(平成12年当時,以下同様)が定めていない(日本国内で使用が禁じられている)添加物である酸化防止剤t-ブチルヒドロキノン(以下「TBHQ」という)が混入していた(以下「本件混入」ともいう)が,C社は,同混入の事実を把握していなかった。ところが,この事実は,株式会社F(以下「F」という)の代表取締役Gの知るところとなった。

(2) 認識

Eフランチャイズ事業本部内の商品本部プロダクトマネージャー統括部長であるTは,平成12年11月30日,Gから,◎◎に食品衛生法6条が禁止する添加物であるTBHQが混入している旨の指摘を受け,上司である控訴人Bにその旨報告し,控訴人Bは,上司である控訴人Aにその旨報告し,控訴人らは,同混入の事実を確認した上,同年12月2日,Dに対し,◎◎の製造の停止を指示し,Dは,中国の工場の操業を停止させた。

その後,Dは,TBHQの代わりに添加物として食品衛生法上認可されているHPW-43E(ビタミンE)を使用することとし,平成12年12月6日,中国の工場における◎◎の製造を再開した。

(3) 販売継続

控訴人らは,TBHQ混入の◎◎の在庫品について,同混入の事実を公表することなく,かつ,出荷停止,販売禁止,廃棄処分等の措置をとることもなく,全国のE店舗において販売を継続する(以下「本件販売継続」という)こととし,平成12年12月2日から同月20日頃までの間に,その販売個数は約300万個に達した。

(4) 口止め

控訴人らは,本件混入の事実を隠蔽するため,F又はその代表者Gに対し,口止め料として6300万円を支払うこととし,C社から,平成12年12月13日800万円,同月15日2500万円,平成13年1月18日3000万円,合計6300万円を拠出して支払った。

(5) 発覚までの経緯

C社の控訴人らを除く役員らも,平成13年5月頃までには,本件混入及び口止め料支払の各事実を認識するに至り,役員会は,同年9月,その決議により,同各事実に関する調査のため「E調査委員会」を設置し,同年11月,同委員会から報告書の提出を受けたが,それ以上に,TBHQ混入の◎◎の正確な販売数量や在庫確認等の調査を行うこともなく,本件混入に関する事実を一切公表することもなかった。この間,控訴人Aは同年6月C社の専務取締役を退任し,控訴人Bは同年12月取締役を退任した。

平成14年5月20日,マスコミにより,C社が販売した◎◎に日本国内で使用が禁じられているTBHQが混入していた旨の報道がなされた。

平成14年5月23日,C社本社は,大阪府警による食品衛生法違反の嫌疑に基づく捜索を受けた。

平成14年5月31日,C社は,大阪府知事より,食品衛生法6条違反のTBHQ混入の◎◎の販売を理由に,中国で製造された◎◎につき,仕入及び販売の禁止の行政処分を受けた。

3  責任(法令違反ないし善管注意義務違反)

控訴人らは,食品製造販売会社であるC社の取締役会を構成する取締役として,また,C社の食品部門を担当しその陣頭指揮をとる取締役として,C社の利益のため,食品を製造販売するに当たっては,食品衛生法等の法令を遵守し,食品製造販売会社の生命線ともいうべき食品の安全性を確保し,食品の安全性に関する消費者の信頼を構築,維持,発展させるべき善管注意義務を負うところ,以下のとおり,◎◎の販売に関して,食品衛生法に違反し,上記善管注意義務に違反する行為をした。

(1) 本件混入につき法令遵守体制構築義務違反

前記2(1)のとおり,C社は,◎◎の製造をDに委託し,Dが中国の工場で製造した◎◎を輸入したものであるが,控訴人らは,C社の食品部門担当の取締役として,C社が販売する食品の安全性及びそれに対する消費者の信頼の維持等のために負うC社に対する善管注意義務を具体的に履行するため,C社内に食品の品質管理部門を設置し,同部門をして,販売食品の品質管理に当たらせるとともに,販売する食品の製造を他の業者に委託するような場合には(特にその製造場所が外国で食品衛生に関する法令を異にするような場合には尚更),その原材料や添加物等に関する詳細な仕様書の提出を義務付けさせるとともに,当該業者からの食品の納入に際しては受入検査を実施させ,食品衛生法に違反する物質の混入をチェックさせるなど,法令遵守を徹底させる体制を構築整備すべき義務(法令遵守体制構築義務)を負うにもかかわらず,これを怠り,C社内に品質管理部門を設置することも,品質管理体制を整備することもなく,品質管理を委託業者に丸投げし,法令遵守のチェックを他人任せとし,法令遵守体制を構築することもなく放置していたところ,Dに◎◎の製造を委託するに際しても同様であったことから,本件混入の事実をチェックすることができない事態を招いた。

(2) 本件混入認識後の本件販売継続等の措置につき食品衛生法違反及び善管注意義務違反

前記2(2)のとおり,控訴人らは,遅くとも平成12年12月2日までに,◎◎に食品衛生法6条の禁止添加物であるTBHQが混入している事実を確認したものであるが,同条違反の場合の同法30条,33条の刑事罰の存在からしても,C社の食品部門担当の取締役として,法令を遵守し,C社が販売する食品の安全性及びそれに対する消費者の信頼の維持等のために負うC社に対する善管注意義務を具体的に履行するため,本件混入の事実を確認した以上,直ちに◎◎の販売を中止し,速やかに事実を公表し,関係当局に通報し,購入者に注意を促し,販売済みの◎◎の回収のための措置をとるとともに,原因を究明し,責任の所在を明確化し,再発防止措置をとるなどするほか,消費者に対して情報を提供し,謝罪し,被害弁償を申し出るなど,消費者の信用失墜の防止のための対応策をとるべき義務があったにもかかわらず,これを怠り,前記2(3)のとおり,同法を無視し,◎◎の販売を中止することなく,逆に継続し(本件販売継続),本件混入の事実を公表することも,関係当局に通報することも,購入者に注意を促すことも,回収のための措置をとることも,消費者に対して情報を提供することも,謝罪や被害弁償の申出をすることもなく,逆に本件混入の事実を隠蔽しようとした。

(3) 口止め料につき善管注意義務違反

控訴人らは,C社の取締役として,実体のない契約を締結してC社に対価を支払わせるなど無用な支出をさせて損害を生じさせない善管注意義務,違法行為を認識した場合直ちに取締役会に報告すべき善管注意義務及び違法行為を隠蔽するための口止め料を支払ってはならない善管注意義務を負うものであるところ,これを怠り,前記2(4)のとおり,控訴人らは,◎◎へのTBHQ混入の事実を隠蔽するため,F又はGに対し,業務委託料名下に口止め料としてC社から6300万円を拠出して支払った。

4  損害

(1) 信用失墜回復関係費用等 105億6100万円

控訴人らの前記3(1),(2)の行為によって,C社は,販売した◎◎に食品衛生法6条の禁止添加物であるTBHQが混入していた旨及びその事実が判明した後もこれを公表しないで隠蔽していた旨のマスコミ報道がなされた結果,その信用を著しく毀損され,その影響でC社の販売食品の売上げの大幅な減少を来たし,下記イないしホのとおり,その販売に当たっていたE加盟店等から営業補償を求められたほか,失われた信用を回復するための費用や売上回復のためのキャンペーン費用等に多額の出費を余儀なくされる損害を被った。

イ E加盟店営業補償 57億5200万円

ロ キャンペーン関連費用 20億1600万円

ハ CS組織員さん優待券及びSM・MM等特別対策費用等 17億6300万円

ニ 新聞掲載・信頼回復費用 6億8400万円

ホ 飲茶メニュー変更関連費用 3億4600万円

ヘ 小計 105億6100万円

(2) 口止め料 6300万円

控訴人らの前記3(3)の行為によって,C社は,控訴人らがF又はGに対して口止め料として支払った6300万円相当の損害を被った。

(3) 合計 106億2400万円

5  訴訟提起請求

被控訴人は,C社に対し,平成15年1月10日付「株主代表訴訟のための提訴の通知書」によって,控訴人らの取締役としての責任を追及する訴えを提起するよう請求し,同書面は同月14日到達したが,到達後30日を経過するも,C社から同訴えの提起はなく,C社の監査役から,同年3月17日付通知書によって,同訴えの提起をしない旨の回答を受けた。

6  結論

よって,被控訴人は,控訴人らに対し,会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成17年法律第87号)による改正前の商法(以下「旧商法」という)267条2項,266条1項5号に基づき,C社に対して金106億2400万円及びこれに対する請求の趣旨拡張の申立書送達の日の翌日である平成16年2月24日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金を連帯支払するよう求める。

二  請求原因に対する認否

<控訴人A>

1 当事者

請求原因1は認める。

2 いわゆる◎◎事件

(1) 混入

請求原因2(1)のうち,C社は,Eフランチャイズ事業本部が担当して,◎◎の販売を企画し,Dにその製造を委託し,Dの系列会社の中国の工場での製造に係る◎◎を輸入し,平成12年4月からそのテスト販売を開始したことは認めるが,その余は争う。

(2) 認識

請求原因2(2)は争う。

(3) 販売継続

請求原因2(3)は争う。

(4) 口止め

請求原因2(4)のうち,C社から,Fに対し,3300万円を支払ったことは認めるが,その余は争う。

(5) 発覚までの経緯

請求原因2(5)のうち,平成14年5月20日,マスコミにより,C社が販売した◎◎に,日本国内で使用が禁じられているTBHQが混入されていた旨の報道がなされたこと,同月23日,C社本社が,大阪府警による食品衛生法違反の嫌疑に基づく捜索を受けたこと,同月31日,C社が,大阪府知事より,食品衛生法6条違反のTBHQ混入の◎◎の販売を理由に,中国で製造された◎◎につき,仕入及び販売の禁止の行政処分を受けたことは認めるが,その余は争う。

3 責任

請求原因3頭書は争う。

(1) 本件混入につき法令遵守体制構築義務違反

請求原因2(1)は争う。

C社は,株式会社H(以下「H」という)との間において,平成4年に,飲茶点心類の製造に関して技術提携の覚書を交わし,これにより,Hは,C社が指示する品質の商品開発を行い,製造業者に対し,開発したレシピを開示し,技術指導を行い,製造を行わせることとなっており,◎◎についても,Hが,同覚書の趣旨に従い,その原材料を分析し,C社に通知していれば,TBHQが混入することはなかったものである。Hは,I株式会社(以下「I」という)の傘下の有力企業であり,食品添加物関係を専門とし,C社と上記のように技術提携をしているのであるから,C社が本件混入に関して検査,点検する義務はない。控訴人Aに本件混入につき法令遵守体制構築義務違反はない。

(2) 本件混入認識後の本件販売継続等の措置につき食品衛生法違反及び善管注意義務違反

請求原因3(2)は争う。

控訴人Aは,平成12年11月30日,控訴人Bから,Dが中国で製造した◎◎にTBHQが混入している旨の連絡を受け,控訴人Bに対し,◎◎につき,中国での製造中止,出荷及び販売の各停止並びに国内外の全品の廃棄処分を指示した。これに対し,控訴人Bから,uに◎◎の検査を依頼しているので,結果が出るまで待ってほしいとの申出があり,その結果を待つこととした。同年12月2日,検査結果が出て,TBHQは検出されなかったものの,中国の工場でTBHQを使用していることが確認できたことから,控訴人Aは,再度,◎◎の全品廃棄処分を指示したのに対し,Eフランチャイズ事業本部内の商品本部プロダクトマネージャー統括部長であるTから,TBHQはアメリカ,中国では使用が許可されており,毒性は問題にならず,人体に影響はない旨の説明を受けたほか,控訴人Bから,日本国内の店頭在庫の◎◎につき,出荷及び販売を停止すると,大混乱が生じて収拾がつかなくなる旨,加盟店に迷惑をかけられないので,店頭在庫5日分は販売させたい旨強く主張され,現場の意見がそうであるならば,それに従うということで,同店頭在庫の販売につき了解し,中国での在庫及び国内での物流在庫については廃棄処分するよう指示した。ところが,控訴人Bらは,中国での在庫及び国内での物流在庫も販売し,控訴人Aは,後日,大阪府警での取調の際に,その事実を知った。以上の次第で,控訴人Aは,上記店頭在庫5日分の販売を了承したのは,TBHQが人体には影響がないことと販売停止による販売店の混乱を避けることのためであった。なお,控訴人Aは,本件混入の事実をマスコミ等に公表しなかったが,控訴人Aにそのような公表義務はない。また,控訴人Aは,平成13年2月8日,C社の当時の代表取締役Jに対し,本件混入の事実や上記店頭在庫を廃棄せず販売した事実を報告し,他の役員らに対しても,その前後頃には同各事実を告げるなどしたが,後日,役員らも,同各事実を公表しない旨決定している。このことは,控訴人らが同各事実を公表しなかったことの追認でもあるから,控訴人AがC社に迷惑をかけていることにはならない。本件混入認識後の本件販売継続等の措置につき控訴人Aに責任はない。

(3) 口止め料につき善管注意義務違反

請求原因3(3)は争う。

6300万円は口止め料ではなくFに対する資金援助である。

平成12年7月当時,C社は◎◎の試験販売を行っていたが,Dから納入してくる◎◎には不良品が多く,加盟店や顧客からクレームが寄せられ,C社はその処理に追われ,Dに対し厳しく注意していたものの,一向に改善されず,調べてみると,Dは中国法人に生産を丸投げし,品質管理が十分にできていないことがわかるなどしたことから,控訴人Bから控訴人Aに対し他に◎◎の製造業者がいれば紹介してほしい旨の申入があった。これを受けて,控訴人Aは,同年5月頃,C社の協力会社であるL株式会社の社長であるMから中国関係に強い業者として紹介を受けたFの代表取締役Gが,C社との取引に係るポテトの輸入に関して実績があったことなどから,Dの◎◎の品質に問題があるのであれば,Fに対して◎◎の製造を依頼するのも1つの選択肢であると考え,控訴人Bに対し,Gを紹介した。控訴人Bらの検討の結果,C社は,Fに対し,同年7月頃,◎◎の試作品の製造を依頼することとなり,控訴人Aは,Fに◎◎製造のノウハウを開示するよう控訴人Bに命じたが,その部下のTがD及びその下請の株式会社K(以下「K」という)と結託し,容易に開示に応じなかったため,Fによる◎◎の製造が遅れていたところ,ようやく◎◎の油脂成分の内容を聞き出したFが,製品の検査の手配をしていた過程で,本件混入の事実が判明したものである。これにより,控訴人Aは,Dによる◎◎の製造がFにシフトする事態が生じるのではないかと考え,控訴人Bに対し,Fを支援して早急に工場の生産ラインを整備させる旨,支援金額を一任する旨伝え,同年12月31日にはFに対する委託手数料3300万円の支出の稟議につき承認した。同支出は名目は委託手数料であるが,実質は資金援助である。控訴人Aは,後日,Fに対する資金援助額が合計で6300万円に達した旨聞いたが,それまでの経緯からすると,その程度の金額なら当然であると考えている。

4 損害

(1) 信用失墜回復関係費用等

請求原因4(1)は争う。

仮にC社が請求原因4(1)のような出費をしたとしても,上記出費が全て損害といえるか疑問であり,上記出費を決定し実行した取締役らが全額負担すべきものであり,控訴人Aの行為と上記出費との間には相当因果関係がない。

このような損害が発生した理由は,◎◎にTBHQが混入されていたことばかりではなく,その公表に追い込まれたことや公表に際して記者会見で虚言を繰り返したことなどにあり,控訴人Aのせいではない。すなわち,控訴人Aは,D製造の◎◎に異物混入等の事故が相次いだため,Fに口頭で◎◎の製造を依頼し,これに応じてFは相当の資本を投入して中国の新工場での生産を開始し,C社に供給を開始していたのに,C社の新体制下の役員らは,FないしGを陥れようとするE調査委員会の公正さを欠いた調査結果に基づき,一方的にFないしGを悪として,Fとの取引を打ち切るという愚挙に出たばかりか,Gを恐喝罪で告訴するなどの傲慢な態度に出たため,Gの反発を招き,Gが本件混入の事実を監督行政官庁に通告し,記者会見を行うなどするに及び,これを聞いたC社担当者が,あわてて本件混入の事実を公表せざるを得ないこととなったものであり,このような新体制下の経営陣の不適切な対応が,Fとの無用のトラブルを引き起こし,控訴人らがせっかく守ろうとしていたC社の利益を損なうことになったものである。C社の記者会見による公表には,TBHQ混入の◎◎の販売期間,販売中止時期,販売数量等につき虚偽があり,そのためGから資料をもって反論され,その都度訂正を繰り返す不手際を見せたため,マスコミを通じて,一般消費者にC社のイメージを一層悪化させる事態を招いたものである。

また,控訴人Aが前記3(2)のとおり本件混入の判明という切迫した状況下で店頭在庫5日分の販売を許可しただけであるところ,実際にはこれが無視され,店頭在庫のみならず,流通在庫や中国在庫までをも含めて製造済の◎◎はすべて販売されたものであるが,これはDやKと意を通じたC社内部の実務担当者のTがおこなったことである。

さらに,仮に本件混入の通知を受けた直後にその事実を公表したとしても,既に平成12年4月から同年11月まで◎◎を販売してきたのであるから,食品衛生法違反の事実に変わりはなく,マスコミ報道されることにより,C社の信用低下及び加盟店の売上減少は避けられなかったから,信用回復経費や加盟店補償等は控訴人Aの関与がなくても発生していたのであるから,控訴人Aが全額負担すべきものではない。

ところで,本件混入は製造受託者であるDが引き起こしたことであり,DはC社に対し債務不履行責任を負うから,上記信用回復経費や加盟店補償等の請求はまずDに対して行うべきものであり,この点からも,控訴人Aが全額責任を負うべきものではない。

なお,E加盟店営業補償57億5200万円は,加盟店オーナーで作る団体「E共同体」が福利活動などのために積み立ててきた基金約50億円を使用し,1店舗当たり400万円ずつ返還したものであるから,C社の損害ではない。また,C社は本件混入の判明後,TBHQを混入しない◎◎を製造していたが,その問題のない◎◎も廃棄して3億円の損失を計上しており,この損失が飲茶メニュー変更関連費用3億4600万円として請求されているが,控訴人Aが負担すべきものではない。

(2) 口止め料

請求原因4(2)は争う。

C社がFに支払った6300万円は口止め料ではなく,資金援助であり,C社は損害を被っていない。

また,6300万円の支払の経緯は,後記<控訴人B>の請求原因に対する認否3(3)のとおりである。Fの7000万円の要求はHに対するものであり,C社そのものは何らの要求も受けていないし,ましてや脅迫など受けていなかった。6300万円は,C社とHの親会社のIとの関係維持のため,C社がHに代わってFに立替支払い,後日Hから回収することにしたものであり,現にC社がHに支払うロイヤリティ(業務委託手数料)を減額することにより2年間で回収している。

5 訴訟提起請求

請求原因5は争う。

<控訴人B>

1 当事者

請求原因1のうち,C社は,定期訪問レンタルサービスから店舗販売によるフードサービスまで,さまざまな業態でいわゆるフランチャイズビジネスを展開する会社であるが,その一部門として,ドーナツやアメリカンコーヒー等を小売販売するEフランチャイズ事業を展開していること,被控訴人は,平成15年1月14日当時6か月前より引き続きC社の株式を有する株主であること,被控訴人Bは,平成12年6月C社の取締役(フードサービス事業グループ内のEフランチャイズ事業本部長)に就任し,平成13年12月取締役を退任したことは認めるが,その余は争う。

2 いわゆる◎◎事件

(1) 混入

請求原因2(1)は認める。

(2) 認識

請求原因2のうち,Eフランチャイズ事業本部内の商品本部プロダクトマネージャー統括部長であるTは,平成12年11月30日,Gから,◎◎にTBHQが混入している旨の指摘を受け,Eフランチャイズ事業本部長である控訴人Bにその旨報告したこと,同年12月2日,Dが中国の工場の操業を停止させたこと,Dは,TBHQの代わりに食品衛生法上認可されているHPW-43E(ビタミンE)を使用することとし,中国の工場における◎◎の製造を再開したことは認めるが,その余は争う。

(3) 販売継続

請求原因2(3)のうち,控訴人らは,TBHQ混入の◎◎の在庫品について,同混入の事実を公表することなく,かつ,出荷停止,販売禁止,廃棄処分等の措置をとることもなく,全国のE店舗において販売を継続することとしたことは認めるが,その余は争う。

(4) 口止め

請求原因2(4)のうち,C社から,平成12年12月13日800万円,同月15日2500万円,平成13年1月18日3000万円,合計6300万円を拠出したことは認めるが,その余は争う。

(5) 発覚までの経緯

請求原因2(5)のうち,「E調査委員会」が設置されたこと,マスコミが報道するまで本件混入に関する事実は一切公表されなかったこと,控訴人Aは平成13年6月C社の専務取締役を退任し,控訴人Bは同年12月取締役を退任したこと,平成14年5月20日,マスコミにより,C社が販売した◎◎に日本国内で使用が禁じられているTBHQが混入していた旨の報道がなされたこと,同月23日,C社本社が,大阪府警による食品衛生法違反の嫌疑に基づく捜索を受けたこと,同月31日,C社が,大阪府知事より,食品衛生法6条違反のTBHQ混入の◎◎の販売を理由に,中国で製造された◎◎につき,仕入及び販売の禁止の行政処分を受けたことは認めるが,その余は争う。

3 責任

請求原因3頭書は争う。

(1) 本件混入につき法令遵守体制構築義務違反

請求原因3(1)は争う。

C社は,Iの系列会社であるHとの間において,平成4年に,飲茶点心類の製造等に関する技術開発提携契約を締結し,その品質やレシピ等につき,Hに対し,全面的な企画・指導・管理を委託しているが,その下において,専門の食品製造メーカーであるD及びj株式会社(以下「j」という)に対し,◎◎の製造を委託した(そのうちDから再委託を受けたKがその子会社である株式会社Nに再々委託し,同社が中国の関連会社であるO有限公司の中国工場<O工場>で製造させた◎◎に使用されたショートニング<油脂成分>にTBHQが混入していたものである。当該TBHQ混入のショートニングは,Kが供給したものであり,e株式会社の製造に係るものである)。◎◎の製造及び技術指導に当たった取引業者は,いずれも日本の大手企業ないしその系列企業であり,品質管理や安全面等において十分な水準に達しており,C社は,これらの業務遂行能力等につき評価検討を行った上で,これらを取引業者として選定したものであり,◎◎の製造に際しては,あらかじめ原材料規格書を徴求して,製造過程を吟味するなどした。これら取引業者が日本国内で販売を予定されている◎◎の製造に関して,食品衛生法で禁止されている添加物であるTBHQを使用するなど通常起こりえないことであり,C社としては予想だにしないことである。C社としては,禁止添加物の使用等製造上の違法行為が起こらないようにと考えればこそ,敢えて直接中国製造メーカーに生産させないで,Hとの技術提携の下で日本国内大手メーカーに製造委託したものである。このように,C社は,◎◎の受入につき,社会通念上最大限の配慮をし,通常食品を外部業者に委託して製造する場合に必要とされる品質管理上の注意義務は十分に果たしていたものである。このような体制は,当時の商慣習等に照らしても不合理不適切ということはできず,控訴人Bに本件混入につき法令遵守体制構築義務違反はない。

(2) 本件混入認識後の本件販売継続等の措置につき食品衛生法違反及び善管注意義務違反

請求原因3(2)は争う。

控訴人Bは,平成12年11月30日,部下のTから,Fの社長Gが◎◎にTBHQが含まれていると言ってきた旨の報告を受け,同人に対し,国内の検査機関に◎◎につきTBHQの検出検査を委託するよう指示し,同年12月2日,控訴人Aに対し,本件混入の事実を報告するとともに,中国の工場での◎◎の製造中止につき了解を求め,その了解を得て,同工場の操業停止を指示した。同月8日,控訴人Bは,Tから,同検出検査の結果,◎◎からTBHQが検出されなかった旨の報告を受けた。同日,控訴人らは,国内在庫分の◎◎を廃棄するか販売するかを協議し,その際,控訴人Bは,控訴人Aに対し,①TBHQは欧米等では十数か国で使用が許可されていること,②WHOでも毒性非検知とされ,1日摂取許容量(体重1kg当たりの最大値)も当初の0.2mg(体重50kgの人の場合10mg)から0.7mg(同場合35mg)に増大されていること,③◎◎の皮の部分に用いられたショートニングに含まれるTBHQの量は平均して約0.1mg,最大でも約0.12mgであり,体重50kgの人が1日平均350個(少なくとも291個)の◎◎を食べてはじめてWHOの1日摂取許容量に達する程度のものであり,◎◎にTBHQが混入しているといっても,通常生命・健康への危険性はないこと,④日本でTBHQが許可されていないのは,その危険性を憂慮されてのことではなく,既にこれに代わる強力な抗酸化性の添加物が承認されているため,改めて許可の申請をする実益がないからにすぎず,仮に申請をすれば使用承認がされる可能性が高いとの指摘がなされていること,⑤C社が国内の検査機関に◎◎の検査を委託したところ,TBHQは検出されなかったこと,以上の事実等を説明した上で,12月の繁忙期に入った現時点において突然◎◎の製造・供給を停止し,在庫を回収し,破棄し,ショートニングを切り替え,再生産をするようなことになれば,月600万ないし700万個の販売実績のある全国約1100のE店舗の混乱は大きく,大変な事態になるので,国内在庫分の◎◎は販売した方がよいのではないかとの自己の見解を述べたところ,控訴人Aは,「分かった。国内(在庫)分は販売しよう。」と回答し,国内在庫分の◎◎の販売を継続することに決定した。控訴人Bは,控訴人Aが当時C社のナンバー2に当たる専務取締役としてE事業に関する最終決定責任者であったことから,控訴人Aの同決定はC社としての正式決定事項であると受け取った。控訴人Bは,平成12年11月30日以降,可能な限り原因究明及び応急措置策等を講じ続けていた。しかし,平成13年1月には一方的にEフランチャイズ事業本部長を解任されて別部署に異動させられ,同年6月の株主総会において代表取締役のJが退任するなどし,取締役の構成が従来のいわゆるJ体制から代表取締役P及び同Q及び取締役Rらによる体制に一新された後は,控訴人Bは,◎◎の問題について,Rらから「この件は一切自分たちで処理するからBは立ち入るな」などと命令され,全く関与することはできなくなった。そこで,控訴人Bは遅くとも同年9月「E調査委員会」設立の前までに取締役及び従業員を辞職する旨の届出を提出したが,放置され,同年12月に取締役のみ辞任(実質は解任)の扱いを受けた。したがって,控訴人Bは,同年9月には取締役の地位を退任していたものというべきであり,同月以降の出来事に関しては,取締役とはいえず,取締役としての善管注意義務は負わないというべきである。なお,その間も,控訴人Bは,代表取締役Pら当時のC社の経営陣に対し,随時本件混入につき被害回復措置をとるよう上申していたが,新経営陣によって無視され,封殺された。このため,平成14年5月20日のマスコミ報道に至るまで,C社は本件混入に関して公表等を含め何らの措置もとらないまま経過したものである。

ところで,企業の経営に関する判断は,不確実かつ流動的で複雑多様な諸要素を対象にした専門的,予測的,政策的な判断能力を必要とする総合的なものであり,その裁量の幅はおのずと広いものであるから,取締役の経営判断により結果的に会社に損失をもたらしたとしても,それだけで取締役に善管注意義務違反があるということはできない。このような経営判断の性質に照らすと,取締役の現実の経営判断の当否が問題となった場合には,取締役であればどのような経営判断をなすべきであるかを掲げた上で,それと現実の経営判断との対比によって当否を論じるのは相当ではなく,実際の経営判断そのものを対象として,その経営判断の前提となった事実の認識について不注意な誤りがあったかどうか,また,その事実に基づく意思決定の過程が通常の企業人として著しく不合理なものでなかったかどうかという観点から当否を論じるべきものであり,前提となる事実認識に不注意な誤りがあり,その事実に基づく意思決定の過程が通常の企業人として著しく不合理なものである場合にはじめて,取締役の経営判断は許容される裁量の範囲を逸脱したものとなり,取締役に善管注意義務違反があると解されるべきものである(いわゆる経営判断の原則)。上記国内在庫分の◎◎の販売継続の経営判断は,本項第二段の①ないし⑤の各事実を前提にしたものであるが,その事実認識には不注意な誤りがあるとはいえない。また,控訴人らは,上記事実認識を前提に,12月の繁忙期に入った時点において突然国内在庫分の◎◎の販売を停止し,在庫切れを来すことは,月600万ないし700万個の販売実績のある全国約1100のE店舗の混乱は大きく,甚だしい売上げ減は避けられず,多数の販売店の信頼と経営に深刻な打撃を与えかねないことなどを考慮し,最低限,中国の工場におけるショートニングの切替えが可能となるまでの間,国内在庫分につき販売を継続する旨の判断をしたものであるが,この意思決定過程は,企業人として不合理であったとまでの評価を受けるものではない。したがって,控訴人らの上記国内在庫分の◎◎の販売継続の経営判断は,許容される裁量の範囲を逸脱したものとはいえず,取締役の善管注意義務に違反するものとはいえない。なお,◎◎にTBHQが使用されていることを認識した後,その国内在庫分の販売を継続する行為(本件販売継続)は,形式的には食品衛生法6条,30条に違反するが,その実質的違法性は皆無か又は著しく低いから,経営判断の原則の適用は否定されないものというべきである。

取締役の会社に対する責任を規定した旧商法266条1項5号の「法令」は,会社(株主)の財産・利益の保護を規定するような実質的意義の会社法規定に限定されるところ,食品衛生法は,直接的には食品の安全と公衆(市民)衛生の向上・増進を目的とし,同法6条も,名宛人は食品販売者たる事業者であるとはいえ,その利益は顧客ないし消費者一般といった公衆の衛生や健康に向けられ,これを会社の財産・利益を保護するための規定とみることはできないから,取締役に同法6条違反があったとしても,直ちに旧商法266条1項5号の「法令」違反にはならない。また,取締役に会社を名宛人として遵守すべき法令一般について当該法令違反行為があった場合でも,取締役の会社に対する善管注意義務違反と評価できない場合には,同号の「法令」違反との評価はされないものというべきであるところ,前段のとおり,控訴人らの食品衛生法6条違反の上記販売継続行為は,取締役の善管注意義務に違反するものとはいえないから,旧商法266条1項5号の「法令」違反にも該当しないものというべきである。

(3) 口止め料につき善管注意義務違反

請求原因3(3)は争う。

6300万円は,HがFに対して負担する損害賠償金の立替払をしたものであり,口止め料ではない。

すなわち,Fの代表者Gは,平成12年12月初め,Hの代表取締役Uに対し,Fが度々要求したにもかかわらずHからレシピ等に関する必要な情報の提供がないなど,Hによる品質管理不足等の結果,Fが設備投資だけで7000万円近くの負担を余儀なくされているとして,その賠償を求める旨の通知をした。これに関し,控訴人Bは,同月8日,Hの代表取締役Uと話し合ったが,その際,同人から,上記損害賠償金をC社が支払う旨控訴人Aが了解したとの話を告げられた。これを聞いて,控訴人Bは,控訴人Aが,C社の最重要取引先であるIの系列会社であるHに対し,Fに対する直接的な賠償金を負担させることは得策ではなく,この事態を早急に解決し,Hとの関係を安定した状態に戻す必要があるとの判断の下に,専務取締役の専決権限を行使し,C社が賠償金の一時的な立替払をすることを内諾したものと理解し,この件に関しては,基本的には控訴人Aの判断のとおりに処理する必要があると考えた。そこで,控訴人Bとしても,HがFに対して損害賠償責任を負う可能性が皆無とはいえない反面,上記のとおり,HはIの系列会社であり,HとC社が独自に製造委託したFとの間の賠償問題に関し,Hに負担をかけることは,今後のIないしHとの取引関係に悪影響を及ぼすことが見込まれるため,Hに負担をかけないで,この事態を早期に解決し,安定した取引関係を維持する必要性があることから,C社がHのために一時的な立替払をすべき案件である旨の見解をとりまとめ,それに加えて,従来からの技術提携契約による業務委託におけるHの技術指導や品質管理等にはかなりの問題があり,その業務内容とC社から支払っているロイヤリティ(業務委託手数料)との間に不均衡が生じており,その料率の低減の必要があり,この際,その低減が実現すれば,実質的にC社の一時的な立替払の負担も回収でき,将来は収益にも繋がる旨の見解をもとりまとめ,これらの見解を控訴人Aに対し提示し,「C社において(一時的に)肩代わりすべきものでよろしいですか。」とその正式指示を求めたところ,控訴人Aはこれを了承し,「C社で肩代わりせよ。」と正式に同立替払を指示し,「金額と支払方はBに任せる。」と言った。これを受けて,控訴人Bは,Gと話し合い,Fの設備投資額にほぼ見合う6300万円を同立替払額とする旨合意した。同立替額の支払について,控訴人Bは,全額を名目上C社からFに対する業務委託費(実質は上記のとおりHのための一時的な立替払であり,後にHからのロイヤリティの料率低減で回収予定)として支出処理する予定であったが,一度に現金で支出することは経理上の問題があったので,ひとまず3300万円をC社から業務委託費として支払い,残金3000万円をC社の取引業者であったm株式会社から控訴人Bが資金提供を受けて支払った。控訴人Bは,同3000万円についても,後日C社からの業務委託費として処理する予定であったが,この件の担当から外されたため,その事後処理ができなかった(なお,後日C社は,上記6300万円全額を控訴人A担当の接待交際費扱いで経理処理した)。Hは,控訴人Bに対し,同月15日,ロイヤリティの料率を1.6%から1%に低減する旨回答し,これにより,C社の負担は軽減され,上記6300万円は2,3年で回収することが可能であった(なお,Hのロイヤリティの料率低減の問題は,本件混入につきFが指摘したことに端を発したものであり,それ以前から交渉が持たれていた事実はない。そのことは,HがC社に対し同日謝罪とロイヤリティの料率低減の申入を同時にしたことからも明らかである)。また,乙ウ第68号証(C社とHの作成名義の平成12年10月1日付「覚書」と題する書面)は,押印のない未完成文書であることやHの代表者名を誤って記載しているなど,虚偽の文書であることが明らかである)。

4 損害

(1) 信用失墜回復費用等

請求原因4(1)は争う。

仮にC社が請求原因4(1)のような出費をしたとしても,控訴人Bの行為と同出費との間には因果関係はない。

すなわち,上記出費は,控訴人Bが取締役を事実上退任した平成13年9月又は遅くとも名目上も退任した同年12月以降に,控訴人Bが全く関与しないところで,決定され実行されたものである。取締役P及び同Rは平成12年12月中に,取締役Q及び監査役Sは遅くとも平成13年6月頃までに,いずれも本件混入の事実を確認していた。その頃,C社の役員体制が一新され,新しく経営陣となったP,Q,Rらは,控訴人Bに対し,◎◎の問題には一切タッチしないよう言い渡していたが,控訴人Bは,「今後,本件混入問題がFを通じて公にされるであろう。」,「事前の会社としての対応はどうされるのか」などと上申していたのに対し,Pらの返答は,「Fとの取引は打ち切って訴訟を提起する。TBHQについては公になるならなったでかまわない。」というものであり,決して事実を公にしようという姿勢ではなかった。その後,本件混入の事実がマスコミ報道等により公になったことに端を発して,C社は上記出費を余儀なくされることになったものである。したがって,C社の損害が拡大したのはPらの姿勢や判断等に原因があり,C社の同出費はPらの行為の結果というべきである。

仮に控訴人Bが平成12年11月末に本件混入を認識した時点でその販売を中止したとしても,同年4月から同年11月までに既に1000万個前後の◎◎が販売されており,この事実を消費者が知った場合,それだけで十分にC社が販売する食品の安全性に不信不安を抱き,その結果,C社の食品販売事業の信用が失われ,売上が減少する蓋然性があるから,被控訴人主張の請求原因4(1)のC社の損害はいずれにしろ回避できなかったものというべきであり,控訴人Bの行為が法令違反であるとしても,同損害との間には相当因果関係はないものというべきである。

(2) 口止め料

請求原因4(2)は争う。

5 訴訟提起請求

請求原因5は認める。

三  抗弁<控訴人B>

1  違法阻却事由

仮に食品衛生法6条違反の本件販売継続が旧商法266条1項5号の法令違反に該当するとしても,請求原因に対する控訴人Bの認否3(2)第二段①ないし⑤の各事実に照らすと,食品衛生法の趣旨である公衆の衛生・健康に対する実質的違法性は皆無かほとんどないものと評価することができるから,旧商法266条1項5号の法令違反については実質的な違法性は阻却される。

また,仮に控訴人Bに請求原因3(2)のとおり本件販売継続等の措置につき善管注意義務違反があるとしても,前段と同様の理由により,違法性は阻却される。

2  責任阻却事由

(1) 請求原因3(2)の善管注意義務違反

仮に控訴人Bに請求原因3(2)のとおり本件販売継続等の措置につき善管注意義務違反があるとしても,請求原因に対する控訴人Bの認否3(2)第二段①ないし⑤の各事実に加えて,Eの約1100店に及ぶE店舗の経営混乱及び売上低下の回避の必要性,控訴人Aの長年のC社及びEにおける影響力,控訴人AによるC社としての本件販売継続の判断及び決定,控訴人Bが平成12年6月に就任したばかりの平取締役にすぎないことなど勘案すると,控訴人Bに対し,本件販売継続につき敢えて異議を唱えてこれを中止させる行為に出ることを求めることは酷に過ぎ,期待可能性が乏しいから,その責任は阻却される。また,本件混入を公表しなかったなどの措置についても,控訴人BがC社の20数名の取締役のうちの1年目の平取締役であるなどの地位,発言力等のほか,控訴人Bができる限り被害回復措置をとるようPら新役員らに対し,上申し続けていたが,無視されていたことや,平成13年9月以降事実上取締役とはいえなくなっていたことなどからすると,控訴人Bが敢えて公表等の行為に出るにつき期待可能性は乏しいから,その責任は阻却される。

(2) 請求原因3(3)の善管注意義務違反

仮に控訴人Bに請求原因3(3)のとおり6300万円の支払につき善管注意義務違反があるとしても,請求原因に対する控訴人Bの認否3(3)第三段のとおり,HがFに対して損害賠償責任を負う可能性が皆無とはいえないこと,HはIの系列会社であり,HとC社が独自に製造委託したFとの間の賠償問題に関し,Hに負担をかけることは,今後のIないしHとの取引関係に悪影響を及ぼすことが見込まれるため,Hに負担をかけないで事態を早期に解決し,安定した取引関係を維持する必要性があったこと,従来から業務委託におけるHの技術指導や品質管理には問題があり,その業務内容と対価との間には不均衡が生じており,ロイヤリティの料率の低減の必要があったこと,現にHに対する業務委託手数料率は1.6%から1%に低減したことなどの諸事情に加え,控訴人Aの長年のC社及びEにおける影響力,控訴人Bが平成12年6月に就任したばかりの平取締役にすぎないことなど勘案すると,控訴人Bに対し,6300万円の支払につき敢えて異議を唱えてこれを中止させる行為に出ることを求めることは酷に過ぎ,期待可能性が乏しいから,その責任は阻却される。

3  過失相殺

仮に控訴人Bに請求原因3(2)のとおり本件販売継続等の措置につき善管注意義務違反並びに請求原因3(3)のとおり6300万円の支払につき善管注意義務違反があるとしても,控訴人Bは,上司であった控訴人Aから指示を受け,これをC社の会社としての正式決定事項であると認識して,忠実に実行したものであり,他の取締役等によって,その中止を求められることもなかったほか,遅くともC社の役員体制が一新された平成13年6月以降,新たに経営陣となったP,Q,Rらから◎◎の問題には一切タッチしないよう言い渡されたものであるが,控訴人Bは,「今後,本件混入問題がFを通じて公にされるであろう。」,「事前の会社としての対応はどうされるのか」などと上申したのに対し,Pらの返答は,「Fとの取引は打ち切って訴訟を提起する。TBHQについては公になるならなったでかまわない。」というものであり,決して事実を公にしようという姿勢ではなく,その後,本件混入の事実がマスコミ報道等により公になったことに端を発して,C社は請求原因4の出費を余儀なくされることになったものであり,C社の損害が拡大したのはPらの姿勢や判断等に原因があり,同出費はPらの行為の結果というべきであるから,控訴人Bの同各善管注意義務違反行為は,C社の長年にわたる会社としての組織系統或いは管理体制上の問題性から起因したものといえる。このような場合,損害賠償制度の根本にある公平の原則ないし信義則に照らし,過失相殺の規定が適用ないし類推適用されるべきである。

4  損益相殺

(1) 本件販売継続による販売利益等

C社は,本件販売継続によりその販売利益及びフランチャイズ店舗からのロイヤリティを得ているから,その総額は損害額に対する損益相殺に供すべきものである。

(2) ロイヤリティの減少分

C社がHのため6300万円を一時的に立替払したことによって,C社はHとの間の技術指導契約に基づくロイヤリティの支払が減少するという利益を享受しているから,その総額は損害額に対する損益相殺に供すべきでものある。

(3) その後の販売利益

C社は,平成12年12月から平成14年5月までの間,◎◎の販売を継続し,これにより販売利益を得ているから,その総額は損害額に対する損益相殺に供すべきものである。

四  抗弁に対する認否

抗弁はいずれも争う。

理由

一  当事者

請求原因1の事実は,被控訴人と控訴人Aとの間に争いがない。

請求原因1のうち,C社は,定期訪問レンタルサービスから店舗販売によるフードサービスまで,さまざまな業態でいわゆるフランチャイズビジネスを展開する会社であるが,その一部門として,ドーナツやアメリカンコーヒー等を小売販売するEフランチャイズ事業を展開していること,被控訴人は,平成15年1月14日当時6か月前より引き続きC社の株式を有する株主であること,控訴人Bは,平成12年6月C社の取締役(フードサービス事業グループ内のEフランチャイズ事業本部長)に就任し,平成13年12月取締役を退任したことは,被控訴人と控訴人Bとの間に争いがない。

二  いわゆる◎◎事件

請求原因2(1)のうち,C社は,Eフランチャイズ事業本部が担当して,◎◎の販売を企画し,Dにその製造を委託し,Dの系列会社の中国の工場での製造に係る◎◎を輸入し,平成12年4月からそのテスト販売を開始したこと,請求原因2(4)のうち,C社から,Fに対し,3300万円を支払ったこと,請求原因2(5)のうち,平成14年5月20日,マスコミにより,C社が販売した◎◎に日本国内で使用が禁じられているTBHQが混入されていた旨の報道がなされたこと,同月23日,C社本社が,大阪府警による食品衛生法違反の嫌疑に基づく捜索を受けたこと,同月31日,C社が,大阪府知事より,食品衛生法6条違反のTBHQ混入の◎◎の販売を理由に,中国で製造された◎◎につき,仕入及び販売の禁止の行政処分を受けたことは,被控訴人と控訴人Aとの間に争いがない。

請求原因2(1)の事実,請求原因2(2)のうち,Eフランチャイズ事業本部内の商品本部プロダクトマネージャー統括部長であるTは,平成12年11月30日,Gから,◎◎にTBHQが混入している旨の指摘を受け,Eフランチャイズ事業本部長である控訴人Bにその旨報告したこと,同年12月2日,Dが中国の工場の操業を停止させたこと,Dは,TBHQの代わりに食品衛生法上認可されているHPW-43E(ビタミンE)を使用することとし,中国の工場における◎◎の製造を再開したこと,請求原因2(3)のうち,控訴人らは,TBHQ混入の◎◎の在庫品について,同混入の事実を公表することなく,かつ,出荷停止,販売禁止,廃棄処分等の措置をとることもなく,全国のE店舗において販売を継続することとしたこと,請求原因2(4)のうち,C社から,平成12年12月13日800万円,同月15日2500万円,平成13年1月18日3000万円,合計6300万円を拠出したこと,請求原因2(5)のうち,「E調査委員会」が設置されたこと,マスコミが報道するまで本件混入に関する事実は一切公表されなかったこと,控訴人Aは平成13年6月C社の専務取締役を退任し,控訴人Bは同年12月取締役を退任したこと,平成14年5月20日,マスコミにより,C社が販売した◎◎に日本国内で使用が禁じられているTBHQが混入していた旨の報道がなされたこと,同月23日,C社本社が,大阪府警による食品衛生法違反の嫌疑に基づく捜索を受けたこと,同月31日,C社が,大阪府知事より,食品衛生法6条違反のTBHQ混入の◎◎の販売を理由に,中国で製造された◎◎につき,仕入及び販売の禁止の行政処分を受けたことは,被控訴人と控訴人Bとの間に争いがない。

上記各争いのない事実に加えて,甲第1,第2号証,第3号証の1,2,第4号証の1ないし3,第5号証,第71号証,第75号証の1,3ないし5,8,10,第84号証の1,2,第95ないし第97号証,乙イ第5,第6号証,ウ第1ないし第14号証,第17号証,第18号証の1の2,第24号証の1,2,第25号証,第26号証の1ないし4,第28ないし第31号証,第32号証の1ないし4,第33号証の1,2,第34ないし第37号証,第39,第40号証の各1,2,第41ないし第44号証,第46号証,第50ないし第52号証,第54,第55号証,第58ないし第62号証,第64ないし第68号証,第70ないし第72号証,エ第1ないし第3号証,第4号証の1,第9号証の1ないし3,当審控訴人らの各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

1  決裁権限

C社は,平成12年末当時,大別して五つの事業部門(生産本部,訪販事業グループ,ケアサービス事業グループ,フードサービス事業グループ,レントサービス事業)と管理部門(人事本部,総務本部,経理本部等)を擁していた。フードサービス事業グループは担当専務取締役控訴人Aが総括責任者であり,同グループにはフードサービス事業本部及びEフランチャイズ事業本部があり,前者の責任者である本部長は取締役bであり,後者の責任者である本部長は取締役控訴人Bであった。

C社の平成12年末当時の稟議規定では,全事業部門は「完全資金独算会社」と称され,権限と責任を各事業部門の責任者に委譲することとされ,各事業部門ごとに案件に対する金額による決裁範囲が定められ,その額は,部門内スタッフ,スタッフ責任者,部門責任者,担当役員,総括責任者の順に大きくなり,総括責任者の決裁範囲を超える案件については,経営情報担当専務取締役Q又は役員協議会が決裁権限を有するものとされ,ただ,他企業との業務委託契約の締結等に関する案件に限っては,関係部門の役員及び経営情報担当専務取締役Qの決裁確認の上,役員協議会が最終決裁の権限を有するものとされていた。上記稟議規定上,Eフランチャイズ事業本部の案件に関しては,3000万円以下につき控訴人Bの単独決裁権限,3000万円超1億円以下につき控訴人らの共同決裁権限が認められていた。

2  Hとの技術提携覚書

前記1に遡る平成4年当時,C社のE事業本部(Eフランチャイズ事業本部の当時の名称)は,事業展開の一環として飲茶点心類を導入することを企画し,同年11月13日,Iの子会社で餃子専門店等を経営しているHとの間で,以下のような内容を含む技術提携覚書を交わした。

(1)  E事業本部は,事業の新商品として飲茶点心類を取り扱い,Hは,同本部が希望する飲茶点心類につき,開発提案を行うとともに,レシピを開示しかつ技術指導をして,生産供給体制を支援する。

(2)  飲茶点心類は,E事業本部とHが協議し決定した製造業者に同本部が製造を委託するものとし,同本部が指定する流通業者を通じて,同本部が主宰統括する加盟店の店舗に直接納品させる。

(3)  Hは,(2)の製造業者に対し,自己の権利に属するレシピを開示し,かつ技術指導を行い,E事業本部の指示する品質の商品開発と製造を行わしめる。

(4)アE事業本部は,Hに対し,飲茶点心類の商品開発委託金として1億円を支払う。

イ E事業本部は,Hの商品の開発提案,レシピの開示技術指導の対価として,年間2億円を上限として,同本部が主宰統括する加盟店に対する飲茶点心類全類の納品価格の2パーセント相当の生産技術協力費を支払う。ただし,この上限額については,正式導入開始後6年を経過したときに双方協議の上見直しをする。

ウ ア,イの支払方法等については,E事業本部とHの間で別途協議の上決定する。

3  Dとの取引開始

C社は,平成10年頃から,D(平成5年JASDAQ上場<旧店頭登録>)からワンタン麺及びワンタンスープの具材として冷凍ワンタン等を仕入れるようになった。

Dは,ラーメンのフランチャイズチェーン(昭和40年代以降)や中華ファミリーレストラン(平成9年以降)等を経営し,Dグループは,生ラーメン,蒸し餃子,冷凍ワンタン等を製造販売し,Dの子会社である株式会社tは,食品及び食材の輸入及び販売事業等を行っていた。

C社は,Dからの仕入れ開始に先立ち,仕入先として適切かどうかの選定を行った。C社では,仕入先の選定に関しては「新規仕入先選定マニュアル」を策定しており,同マニュアルには,新規仕入先を選定するに当たっては,①情報の収集分析(現地調査,信用調査等による必要な情報の収集,書類審議<信用調査の結果が一定水準以上の場合>,工場調査<生産体制・品質管理体制の調査>),②購買条件の交渉,③仕入先決定,④契約という段階を経ることのほか,その過程で「新規仕入先評価表」(例えば,仕入先につき「品質管理能力」という項目を設け,着眼点として「品質管理が組織的かつ機能的に実施されているか」とか「過去に発生したクレームに対して適切な処理を行ったか」等を挙げて,評価コメントさせるなど)や「新規仕入先提案書」を作成することなどの細目が定められていた。

Dに関しては,上記マニュアルに従って担当者により調査評価が行われ,新規仕入先評価表及び新規仕入先提案書が作成されたが,その新規仕入先評価表には,総合評価(経営力,コスト力,技術力,C社への協力度)として100点満点の76点が付され,評価者の所見・コメントとして,「品質管理センターを置き,原材料と製品の検査実施を徹底している。」として,10点満点中7点(5点が平均点)の評点が付され(なお,現に,Dでは,自社工場製品を始め,社外と取引する商品,原材料につき成分,味,細菌数,その他の品質が決められた基準の範囲内にあるか検査し,基準外のものにつき入出荷停止等の指示を行う部署として,品質管理センターを設置している),その新規仕入先提案書には,Dの主な仕入先及び主な販売先が報告記載されていたほか,品質管理に関して,Dが材料受入検査部門及び出荷検査部門を有し,自社工場による生産を行い,下請工場を利用していないことなどが報告記載され,新規取引先として何の問題もない旨の担当者所見が付されていた。

C社は,上記新規仕入先評価表及び新規仕入先提案書等を資料として,稟議の上,平成10年7月22日,Dからの仕入れを決定した。

4  ◎◎販売事業の開始

平成11年になって,C社のEフランチャイズ事業本部は,従前から取引の実績のあるH,j及びDと共同で◎◎を開発して販売することを企画し,平成12年4月には半年後の本格販売を目指して◎◎の試験販売を始めることとなった。◎◎は,Hの指導の下にj及びDがそれぞれに中国の委託先工場で製造したものを,Eフランチャイズ事業本部に供給することになっていた。

Dは,当初より,◎◎をKを通じて中国のO有限公司に製造委託し,Eフランチャイズ事業本部に対しては,Dが供給責任を,Kが品質責任を負い,その関連会社であるqが輸入を担当することとなっており,その旨C社も承知しており,DからC社に交付された原材料規格書にも明記されていた。

Eフランチャイズ事業本部が,Dから供給を受ける◎◎につき徴求した平成12年7月13日付の原材料規格書中には,上記D,K及びqに係る事実関係等のほか,「製品概要」欄に上記供給責任や品質責任等の記載,「配合表」欄には,原材料名,重量(百分率),原産国・生産地等の記載がなされ,アレルギー成分等特記の必要な成分として,動物性油脂(豚脂)及び肉系成分(豚肉)の記載等がなされていた。なお,上記「配合表」欄には,原材料名ショートニングにつき,重量を「1.74%」,規格・指定等を「パーム油100%」,原産国・生産地等を「中国・e」とする旨の記載があった。

O有限公司は,麺類,中華点心の製造及び販売を事業内容とするKが中国内で設立に関与した会社であり,その工場は,平成9年に農林水産省食肉加工食品認定工場となり,平成10年にISO9002認証を取得し,平成14年にはHACCP認証を取得した。

Kは,昭和40年5月に株式会社fとして設立された株式会社であり,中国所在の工場としてO有限公司を擁するほか,日本国内にも2か所の工場を有していた。

Eフランチャイズ事業本部は,平成12年10月1日,Dとの間で,以下のような内容の◎◎製造委託契約を締結した。

(1)  製造供給量は月産400万個を目処とし,店舗数,売上げの増減により変動する。

(2)  製造供給日は平成12年10月とする。

(3)  ◎◎の仕様は開発したレシピ・原材料規格書に基づく。

(4)  価格は別途協議の上決定する。

(5)  品質管理・衛生管理は万全を期し,Eの基準を満たす。

(6)  生産工場はHACCP又はISO9001の基準に準ずる工場とする。

(7)  発注期間は平成12年10月から平成13年9月までとし,双方話し合いにより1年ごとに更新する。

(8)  その他の事項については,双方話し合いによって決定する。

Eフランチャイズ事業本部は,平成12年10月1日,jとの間で,Dとの間とほぼ同様(但し,製造供給量は月産200万個<Dの半分>を目処とする)の◎◎製造委託契約を締結した。

5  C社における違法行為防止に関する取組等

(1)  危機管理行動チェックリスト

C社は,平成12年当時,既に危機管理体制構築の一環として,「危機管理行動チェックリスト」を策定していたが,その中で,考えられる危機の種類として「企業の過失・犯罪」を取り上げ,社内における違法行為について,内部告発等があれば総務本部及び監査役が対応し,関係機関からの摘発があれば「法務奉行」という担当者を中心に特別対応チームを編成して対応し,社会問題化したり企業責任が追及されたり社内から逮捕者が出たりした場合には全社緊急対策本部を設置して対応するなどの方針を定めるなどしていた。また,「欠陥商品」については,顧客からのクレームや消費者協会等の改善指摘があれば該当事業本部が対応し,訴訟になった場合には「PL奉行」という担当者を中心に特別チームを編成して対応し,顧客への被害が多数発生したり製品を回収したりする事態になるなどの場合には全社緊急対策本部を設置して対応する方針を定めるなどしていた。

(2)  稟議規定

C社は,平成12年末当時,稟議規定において,経営上の重要な問題,特に「お客様,加盟店,支店,店,工場,取引先等の問題・課題」について,担当役員は役員協議会に報告することを義務付けていた。

(3)  社員研修

C社は,平成12年末当時,すべての新入社員に対し,社員として遵守すべき内容を記載した「<教育マニュアル>新人働きさん教育テキストⅠ,Ⅱ,Ⅲ」を配布するとともに,新人研修において,このテキストの内容をすべて説明し,周知徹底を図っていた。「<教育マニュアル>新人働きさん教育テキストⅢ」の中には,ミスや突発的な問題は素早い対応が望まれるため,最優先で報告すること,連絡が遅れた分だけ事態が悪化すること等が記載されている。

(4)  危機管理セミナー

C社は,平成12年7月13日,a火災海上保険株式会社顧問を招き,「g集団食中毒事件の問題点と反省点~「危機管理」の欠如で被害拡大~」と題して,いわゆる危機セミナーを開催した。同セミナーでは,g株式会社の大阪工場が製造し出荷した製品による集団食中毒事件が発生した際に隠蔽するなどして社会的に批判されたことが取り上げられ,前後して発生したh株式会社の目薬への異物混入事件で同社が損失を覚悟で短時間で公表し250万個の製品の回収を決定し完了させたこととの比較等が行われ(g株式会社の隠蔽体質については大きな社会的非難が巻き起こり,消費者の離反や同社の大幅な売上低下が顕著であったのに対し,h株式会社の率先した事実公表と商品回収の措置についてはさしたる非難の声も上がらず,消費者の離反や売上低下を来した形跡もない),前者の問題点として,社内ルール違反(事実の確認の欠如,報告連絡の欠如,現場と管理部門との連携の欠如,製品の回収指示の遅延,製造工程の問題,工場に保管されるべき洗浄記録の欠落,責任体制の欠如),マスコミ対策の不十分さ(マスコミ<広報危機>対策の不十分,マスコミに対する隠ぺい<ミスリード>の事実,窓口一本化対策の不徹底),反省点(対応策)(事実確認と実態調査,経営トップの認識,プロジェクトチームの編成,事件事案への基本方針の決定,監督省庁への報告連絡,関係部門の連携協力,製品回収の決定,広報対策の推進,被害<消費者,量販店,関係業者等>補償対策の推進,訟務対策の推進)等が指摘され,解説論評がなされた。

(5)  経理規定等

C社の経理本部(平成12年末当時本部長取締役W)は,C社の単独及び連結の各予算及び各決算に係る業務(具体的には,月次決算報告,経営資料作成,営業報告書作成,株主総会資料作成,予算対比管理,予算実績進捗把握,国際会計基準経営基盤作成,連結決算処理統一基準策定等)を行っていた。

C社においては,前記1の稟議規定の範囲内で各事業部門に権限が委譲され,各事業部門内で,その統括責任者及び担当役員の責任の下に,伝票入力から証票等のチェック及び伝票の承認行為に至るまでの処理が完結するシステムが採用され,これにより,上記承認行為がなされれば,関連する仕訳データの処理及び銀行振込手続等も自動的に行われ,経理本部は関与しない仕組みになっていた。もちろん経理本部には伝票等も回ってこない。また,随時更新される最新の経理データを,いつでも誰でも検索,照会,ダウンロードすることが可能な経理システムが採用され,すべてのデータについて履歴が保持され,入力,変更及び承認のいずれについても,いつ,誰が,何をしたのかが時系列で記録される仕組みとなっていた。平成12年4月1日から平成13年3月31日までの仕訳レコード件数は,借方と貸方を別々に数えると,422万8026件(1か月平均35万2336件(小数点以下四捨五入,以下同じ),1日平均1万7617件(1か月の稼働日数を20日として計算))であった。

6  Fの参入問題

フードサービス事業グループ担当専務取締役控訴人Aは,平成12年5月頃C社の協力工場を経営するL株式会社の代表取締役であるMからFの代表取締役Gの紹介を受け,同人が中国からポテトを安く調達できるというので,C社の新規事業であるポテトアンドジュース事業部の事業部長kに紹介し,C社とFとの間に,サンプル品のやりとりの後,平成12年11月,冷凍じゃがいも400トンの取引が成立した。

一方で,控訴人Aは,平成12年7月頃,控訴人Bに対し,Gを紹介し,中国でいわゆる顔が効くということで,Fに◎◎の製造をやらせてみてはどうかと提案し,その旨は,控訴人Bの部下でEフランチャイズ事業本部内の商品本部プロダクトマネージャー統括部長であるTが知るところとなったが,Tは,◎◎の共同開発者であるjとDから需要に応じた供給を受けていて特段の支障はないこと,Fがこれまで食品製造とは縁のなかった建設業者であること,これ以上◎◎の供給業者を増やすと,適正な製造供給体制の維持が困難になる可能性があることなどを指摘して,Fの◎◎事業への参入に消極意見を述べた。これに対し,控訴人らは,Gの中国における顔があるので,つながりを持っておきたいなどとして,Tに対し,取引をする方向での検討を促した。そこで,Tは,控訴人らの意向を受け,Fにつき品質,衛生,安定供給,価格等の条件さえ整えば,◎◎供給業者として参入させる方向で検討することとなった。

その後,Fから◎◎の試作品等が何度か持ち込まれ,試作品の検討等が行われたが,いずれもC社が求める水準に達せず,また,TやHの担当者らがFの中国における協力工場を視察するなどしたが,当該工場の衛生管理や製造能力等に問題があり,改善の必要があるなどのことから,上記参入の話は一向に進まず,Gは,Hが協力してくれないなどと不満を言うようになっていた。他方,Tは,控訴人らに対し,平成12年10月頃,Fの中国における協力工場の衛生管理や製造能力等に問題があることなどを報告するとともに,既に◎◎の本格販売に向けてj関係の2工場及びD関係の1工場が条件を完備していることから,現状ではこの3工場で◎◎の供給は間に合う旨報告するなどしていたが,控訴人らがFを◎◎供給に参入させようという姿勢に変わりはなかった。

7  本件混入の判明及び本件販売継続

DがKを通じて◎◎の製造を委託した中国のO有限公司が原材料として使用したショートニングには食品衛生法上日本で使用が許されていない添加物(抗酸化剤)であるTBHQが含まれていた(TBHQ(グラム)/重量(キログラム)=0.00012グラム/0.12キログラム=0.001グラム/キログラム)。

Gは,Fの◎◎の試作品製作の過程において,DがC社に供給している◎◎に,食品衛生法上日本では使用が許されていない添加物であるTBHQが混入したショートニングが使用されていることを知り,平成12年11月30日,Mを伴い◎◎の試作品を持参してEフランチャイズ事業本部を訪れ,その試食の会合の席上,TやHの社長であるUらに対し,本件混入の事実を告げ,「これは大問題だ。これが世間に知れたら社会問題に発展する。どうするつもりや。」などと凄んだ。

Tは,驚愕し,直ちに控訴人Bに対し,その旨報告した。控訴人Bは,本件混入に関する事実確認を命じる一方で,Gに対する対応は自らが行う旨告げた。控訴人Bは,電話で,出張中の控訴人Aに,上記経過を報告した。他方,Tは,ショートニングの製造元であるe株式会社を通じて,検査機関であるuに,◎◎2検体を送って,TBHQ混入の有無の検査を受けるよう依頼し,また,中国に出張している部下に連絡をとり,現地での調査,配合表の確認等を命じた。

C社から連絡を受け,O有限公司は,ショートニングの仕入先であるe株式会社に問い合わせ,仕入れたショートニングに日本で使用が許されていない添加物TBHQが含まれていることを確認したため,平成12年12月2日,自社工場における◎◎の製造を停止した。同日,Tに対し,前記中国に出張中の部下から,食品衛生法上日本では使用が許されていないTBHQが◎◎のショートニングに使われていることを確認した旨,上記工場における製造が停止された旨の報告がなされた。

Tは,控訴人Bに対し,上記経過を報告し,控訴人Bは,控訴人Aに対し,同様報告した。その際,◎◎の在庫品の廃棄が話題に上ったが,控訴人Bは,控訴人Aに対し,今直ちに販売を中止するとE加盟店等に対する影響が大きい旨,国内の公的機関に◎◎の食品分析を依頼しており,同月6日に結果が出る旨,販売の中止や在庫品の廃棄は待って欲しい旨告げたところ,控訴人Aはこれを了承した。その結果,この時点では,◎◎の販売をどうするかについて何らの措置をとられることはなく,販売が継続されることになった。なお,jから供給されている◎◎については,日本で使用が許されている抗酸化剤を使用していることが確認された。

Gは,Tに対し,C社のGに対する◎◎の発注書の交付を要求するようになり,Tが,控訴人Bに対し,その旨報告すると,控訴人Bは,Tに対し,Eフランチャイズ事業本部取締役本部長控訴人B作成名義のF宛平成12年12月5日付「MD肉まん製造依頼書」の作成を命じ,同月4日これをGに交付した。同依頼書には,依頼の前提条件として,下記(1)ないし(7)の趣旨の記載があった。

(1)  製造供給量は全量の3分の1(月産200万個)を目処とする。

(2)  製造供給日は平成13年2月を目処とする。

(3)  現行と同品質(味・外観・大きさ・使用原材料)であること。

(4)  価格は工場出し価格29.53円とする。

(5)  品質管理・衛生管理には万全を期し,Eの基準を満たすこと。

(6)  生産工場はHACCP又はISO9001の基準に準する工場であること。

(7)  発注期間は平成13年1月から同年12月までとする。

当時,C社としては,Fが◎◎供給業者として合格水準に達する試作品の製造や生産体制の整備にほど遠く,上記(1)ないし(7)の前提条件を充たし得るような状況にはなく,到底製造依頼書を交付し得る段階には至っていなかったが,控訴人Bは,前記試食会におけるGの様子から,Gの要求に従わなければ,本件混入の事実の外部漏洩もあり得ると考え,少なくとも現時点での漏洩を回避する必要を感じ,やむを得ず上記依頼書の交付に応じることとしたものであった。

平成12年12月6日,uによる検査結果証明書がC社に届いた。同証明書には,検体となった◎◎2個につき,いずれもTBHQが不検出であった旨の記載がなされていた。もっとも,同検査は,定量下限0.01グラム/キログラムのものであったことから,◎◎へのTGHQ混入量が前記のとおり0.001グラム/キログラムであったことからすると,当初より不検出の結果が出ることは予想されていた。

Tは,控訴人Bに対し,上記検査結果を報告し,控訴人Bに対し,指示を仰いだ。

控訴人Bは,控訴人Aに対し,本件混入の判明につき一連の経緯を説明し,◎◎の在庫品を廃棄するか否かについて指示を仰いだ。その際,控訴人Bは,TBHQ混入の◎◎の販売は,形式上は食品衛生法6条に違反するが,◎◎の検体の検査結果ではTBHQが検出されなかったこともあり,含まれていても微量であり,人体に害はないことや,年末の繁忙期に,突然◎◎の製造供給を停止し,在庫品を回収破棄し,本件混入を公表するなどし,ショートニングを切り替え,再生産をするような事態となった場合,月産600万個を超える販売実績のある加盟店を含む全国約1100のEの店舗に与える影響,混乱,損害は大きく,大変な事態になることが懸念されることなどを話し,TBHQ混入の◎◎の在庫品についてはこのまま販売を継続し(本件販売継続),加盟店等への供給を続け,懸念される混乱と損害を回避してはどうかなどと提案したところ,控訴人Aもこれを了承した。その際,あわせて,本件混入の事実が公になることを回避するため,FをC社の◎◎事業に参入させることとし,Fに対し今後の試作品の品質向上や生産供給体制の整備等を促すことも話し合った。

控訴人らによる本件販売継続の方針決定の結果,C社によって,Dが供給したTBHQ混入の◎◎は,平成12年4月にテスト販売を開始以来,同年10月に本格販売開始を経て,同年12月20日頃までの間に,合計1314万個が販売された。そのうち,C社が本件混入を告げられた翌日の同月1日以降に販売された個数は約300万個であった。その中には,当時の日本国内の在庫分のほか,中国内の在庫分で同月7,8日に通関した68万4000個,同月10日船積み,同月15日通関した65万6560個が含まれていた。

8  Fに対する6300万円の支払の経緯

平成12年12月7日,Gが,Hの社長Uを伴って,Eフランチャイズ事業本部を訪れ,Tに対し,「TBHQのことは俺がおさえる。一番悪いのはHだ。中国の関係者は俺がおさえている。Hの責任については後で話しがしたい。」などと言い,次いで,別室でUと2人きりにするよう要求し,その上で,Uに対し,HがFに対する商品開発指導を怠ったことによる損害賠償として7000万円の支払を要求し,その旨は控訴人Aも了解済みである旨告げた。Uは,Gの要求に困惑し,その旨Tに告げて,対応につき相談し,Tは,控訴人Bに直接相談するよう促した。

平成12年12月8日,Uが控訴人Bを訪問し,上記7000万円の請求を受けて困惑している旨等を告げた。控訴人Bは,Gが控訴人Aも了解済みであるなどと言っていることから,Uに対し,控訴人Aに会って話をするよう求めた。Uが,控訴人Aを訪ねたところ,控訴人Aは,Gに対する誠意がないなどと一方的にUを非難し,Uは,反論する暇もなかった。その際,控訴人Aは,控訴人Bに対し,この問題の対応を委ねた。これを受けて,控訴人Bは,Uと面談し,「今重要なのは関係者の口を封じること。万一本件混入の事実が漏れたら大変なことになる。Hとしてはロイヤリティをもらっている以上責任が発生する。これは契約の問題ではなく,信義の問題だ。Gの口封じをしなければならない。これはGをうまくビジネスに巻き込む方向で対応してほしい。Fの◎◎を誠意を尽くして立ち上げさせてほしい。」などと話した。

他方,控訴人らは,GのHに対する要求については,HがIの子会社であるため,Hに金銭の負担を求めると,Hを通じてIに本件混入の事実が漏れる可能性があるほか,C社とIとの取引関係の円満な維持の観点からしても,Hに負担をかけることは得策ではないことから,Gの口を封じるには,Gの要求する金銭をC社が肩代わりするしかないとの結論に達した。そこで,その日のうちに,控訴人Aは,専務室にGを呼び出し,「Hに要求している金はC社が支払う。いくらほしいのか。」と質問し,Gが「7000万円」と返答したことから,控訴人Aは,控訴人Bに対し,その具体的な交渉を任せる旨告げた。これを受けて,控訴人BはGと別室で話し合い,C社からFに対する支払額を6300万円とし,平成12年12月中に3300万円,平成13年1月中旬に3000万円を支払う旨合意した。

控訴人Bは,上記3300万円の支払に関し,経理担当責任者のZに対し相談し,以下のような名目及び方法をとることとした。

まず,当面の出金については,平成12年12月11日,Eフランチャイズ事業本部から経理本部宛に「異物混入調査費用」名目による控訴人Bに対する300万円の小切手による仮払いを依頼する方法により,同月12日,控訴人B名義の預金口座に同額の振込を受け,同月13日これを引き出して,Gに対し現金300万円を交付した。次いで,同月12日,Eフランチャイズ事業本部から経理本部宛にFに対する500万円の小切手による仮払いを依頼し,同月13日,小切手を発行させるとともに,G名義の預金口座に同額を振り込ませた。同月15日,Eフランチャイズ事業本部から経理本部宛に「異物混入」名目で,控訴人Bに対する2500万円の振込みによる仮払いを依頼する方法により,その旨経理システムに入力処理の上,Zが現金2500万円を準備し,控訴人Bの代わりに,Gにこれを手渡し,経理システム上は同月19日控訴人B名義の預金口座に同額振込の操作を行った。Zは上記2500万円の手渡しの際,GからF作成名義の同日付業務委託料(手付金分)800万円及び同日付業務委託料(残金)2500万円の各領収書を徴した。

他方,稟議上の出金名目については,業務委託手数料とするのがよいということになり,平成12年12月13日付で,C社のEフランチャイズ事業本部取締役本部長控訴人BとG及びFとの名義で,C社がG及びFに対し◎◎の製品供給(月間200万個)業務を委託し,委託料を平成13年の1年間,年額3300万円とする旨の虚偽の業務委託契約書を作成し,同月15日付で,3300万円の支払につき,「昨今,異物混入が相次ぎ,客に不安を与え,Dとjだけでは不安定要素を払拭しきれないことから,Fと業務委託契約を結ぶ。」などとして,Zに稟議決裁書を準備させ,控訴人らにおいて稟議を承認する旨の決裁をした形をとった。しかし,本来稟議規定上経るべき役員協議会による最終決裁はもとより関係部門の役員や経営情報担当専務取締役Qの決裁確認も経なかった。なお,当時,Dとjの供給する◎◎につき,消費者から虫や毛髪等の異物混入のクレームが寄せられることはあったが,膨大な販売量に比較すると,多いとはいえず,想定の範囲内であり,その点が特段Dとjの供給に関する不安定要素として取り沙汰される状況にはなかった。

Hは,控訴人らの求めに応じる形で,平成12年12月15日,C社のEフランチャイズ事業本部宛に,「一連の管理責任不徹底のお詫びと今後の事業発展に向けての弊社開発体制の再提案」と題する書面を提出した。同書面には,今回の一連の件につき深く反省するとともに,事業提携の原点に返り,今後事業のますますの発展に寄与するため,研究開発体制の再確認と強化を図ってゆきたい旨,そのために,飲茶点心類の積極的な開発提案,C社に対するレシピの開示による商品化支援,C社指定の製造業者に対するレシピの開示による商品化支援,商品化に対する技術協力,商品化後の技術協力,製造販売中の飲茶点心類の積極的な改良改善の提案等を実施する旨,平成13年1月1日からロイヤリティを1%に変更する旨が記載されていた。なお,上記ロイヤリティに関する記載は,Hは,C社との間で,平成12年10月1日,「◎◎」の生産技術協力費を同年12月31日までの納品分については納品価格の1.6パーセントとし,平成13年1月1日以降の納品分については納品価格の1パーセントとする旨の覚え書きを交わしており,その旨を再確認したものであった。

Hは,平成12年12月15日,Dに対し,「C社様「◎◎」技術協力のお詫びと今後にむけての協力のお願い」と題する書面を提出し,Dの「◎◎」廃棄損の一部として500万円を負担したい旨提案したが,Dはこれを受領しなかった。

控訴人Bは,Fに対して支払うべき残金3000万円については,当初適当な名目で経理部門から引き出す予定であったが,よい考えも思い浮かばず,支払期限も迫ってきたため,とりあえず,C社の取引先でEの加盟店でもあるm株式会社のn社長に3000万円の融通を依頼し,平成13年1月18日自己名義で同会社から同年3月15日を返済期日として同額を借り入れた上,同日Gに対し同額を交付して,C社からの支払の肩代わりをした。その際,Gから領収書を徴することはしなかった。

その後まもなく,控訴人BはEフランチャイズ事業本部長から他の部署に異動となったため,本部長としてGに対して肩代わり支払をした3000万円につき名目上の会計上の処理をすることができなくなり,借入先のm株式会社に対する返済に窮することとなった。

9  その後の経過

平成13年2月頃,当時のC社の代表取締役社長Jは,Mから◎◎への未認可添加物TBHQ混入の事実を知らされ,控訴人らを呼んで事情を聞いたが,控訴人らが,検査によってもTBHQが検出されなかったことや,新たにFと業務委託契約を締結するなどして,問題に対しては既に対処済である旨報告したところ,Jは,それ以上特段追及することもなく,これといった指示もしなかった。

控訴人らは,Fの◎◎の生産供給体制や品質管理体制等の整備等を待っていたが,期待に添うようなことにはならなかった。

C社のEフランチャイズ事業本部内の品質管理室室長rは,平成13年4月20日,Fが◎◎を実際に製造を委託する予定の工場(同年3月当初予定の製造工場が変更された後のもの)を調査し,Tに対し,設備が完成状態ではなく,最終判断できる段階に至っていないが,今のままでは不適格である旨,同年5月7日に設備が完成した段階でようやく「適格とは認められないが,要注意の取引先としては取引を開始することが可能である評価」を想定している旨,同日に設備は最低限整うことになるが,品質管理体制は未熟であり,少なくとも,不備を自主的に発見し,改善できるまでには至っていない旨報告した。

上記rは,平成13年5月11日に再度前記工場を調査し,Tに対し,前回の指摘項目が,施設及び設備については改善されている旨,C社の指摘とは別に行政からの改善指導があり,大規模な改修工事をしており,その工事がまだ終わっておらず,セメントは未乾燥で,ペンキ塗り立ての状態にある旨,総合評価は適格取引先ではなく要注意取引先である旨報告した。

他方,C社では,平成12年から平成13年にかけて,製造事業関係部門の競合業者との間で不正な取引行為をしたとして公正取引委員会から警告を受けたり,浄水器等の商品の不具合が複数回発生し,新聞に社告を出して回収交換を行ったり,取締役会長であるJ(平成13年4月社長辞任)と加盟店の一部との間の紛争に起因して同年6月には本社周辺でデモ行進が計画されたことにより,Jが役員を辞任することになったりなどの問題が続発していたが,そんな中で,同年5月頃には,控訴人Bから3000万円の返済を受けられないm株式会社のn社長がその旨をC社の役員らに漏らすようになり,同年7月頃には,Gが,控訴人Bを訪れ,◎◎の業務委託に関し,金銭の支払に関する申し入れをしたが,その際の状況につき,Tから報告を受けたZは,控訴人Bに会い,話を聞いた結果,C社とFとの◎◎の業務委託契約や金銭の支出に関して不明朗な点があり,控訴人BがGによって相当に追い込まれているのではないかと考え,C社の当時の監査役で弁護士のSに対し,その旨の相談をしたところ,これを契機に,Sから報告を受けた当時の社長であるPの指示で,Fに関する調査が開始され,同月20日S及び取締役Rが控訴人Bから事情聴取をした結果,本件混入の事実やGに対する6300万円の支払のほか,控訴人Bによる3000万円の肩代わり支払の事実を知るに至った。ところが,P,S,Rらは,本件混入については,TBHQが検査によっても検出されず,実害もなく,日時も経過しているとして,主な調査対象とはせず,専ら,6300万円の支払の不明朗性やFの取引業者としての適性等を専ら調査対象とし,検討を行った。その結果,6300万円の支払につき問題ありと判断し,また,控訴人Bが肩代わりした3000万円につき領収書を徴していないとのことであったので,控訴人Bに領収書を徴しておくよう指示した。これを受けて,控訴人Bは同年9月10日Gに会い,同年1月18日付で2万円及び2998万円の各領収書を徴した。

一方で,C社は,平成13年9月10日,Fに対し,①中国当局の輸出許可,国内輸入許可の目処等の輸出入許認可状況,②現在までに生産し備蓄している「◎◎」の数量,③現在の生産数量(日産)及び生産計画等の報告を求めた。これに対し,Fは,同月13日,①中国当局の輸出許可は取得済みであり,国内輸入許可についても,同月末ころに手続が完了する見込みである,②同月12日現在で「◎◎」約72万個を備蓄している,③現在の生産数量は日産5万5000個で,10月又は11月を目処に日産8万個という生産計画を立てているといった内容を報告した。

C社は,平成13年9月18日,社外取締役のsが代表取締役社長のPに対し,本件混入の事実やGに対する6300万円の支払に関し,調査委員会の設置を提言したことに基づき,その旨の調査のために,「E調査委員会」を発足させた。同委員会は,取締役のb(当時フードサービス事業本部長)を委員長とし,Z(当時Eカンパニー社長),W(経理本部長),監査役のSのほか,社内からT,V(監査部部長),Y(Eカンパニー総務部法務管理主任),E加盟店の社長Xの合計8名で構成された。その目的は,主として担当者の処分と今後の方針等について検討することにあった。

この間,C社は,それまでの調査結果から,Gが本件混入の事実に関する口止め料として控訴人Bに6300万円を支払わせたものと判断し,Gの経営するFはC社の取引相手としては不適切であるとして,控訴人らがFに交付した業務委託契約書等に係る取引関係は解消すべきものとの結論に達した。ただ,穏便に契約関係を解消するためには,上記業務委託契約書中の解約条項(書面による2か月前の予告により解約できる)に従った手順を踏むのが妥当ということになり,平成13年10月15日,Z及びTらがGに面談して,上記条項に従って業務委託関係を同年12月末日限り解消する旨通告し,その旨の文書を交付しようとしたが,Gがその受領を拒否したため,同年10月31日到達の同月30日付通知書をもって,Fに対し,業務委託契約及びFに対する◎◎製造依頼を同年12月末日をもって解約する旨の意思表示をした。

E調査委員会は,平成13年10月1日から同年11月5日までの間に合計5回,委員会が開催され,社内関係者からの事情聴取に基づき,C社とFとの交渉経過等について調査し,平成13年11月6日付けで,P社長宛に調査報告書を提出した。上記調査報告書には,同委員会の所見として,本件販売継続及び6300万円の支払については,控訴人らに善管注意義務違反が認められる旨等が記載され,担当者の処分その他今後の方針等については,Fとは速やかに取引関係を解消しなければならない旨,同委員会の調査にかかる情報の開示については,性質上,慎重を期する必要があるので,その時期,方法,内容等について十分留意されたい旨等が記載されている。

C社は,E調査委員会の調査報告書の提出を受けて,平成13年11月29日開催の取締役会において,本件販売継続及び6300万円の支払に関し,控訴人Bの取締役辞任(同年9月辞任申出)を受理すること,控訴人Aとの間で取締役辞任後締結していた顧問契約を解約すること,Zを1か月間100分の10の減給とすることなどの処分のほか,控訴人Bがm株式会社から借り入れた3000万円をC社が負担することなどを決定した。なお,同3000万円は平成14年3月に接待交際費名目でm株式会社に対して支払われた。

他方,C社は,本件混入の事実について,平成13年11月末頃までに自ら積極的には公表するまでのことはしない旨の方針を固めた。

Fは,上記C社からの業務委託契約の解約通告の後も,契約関係の存続を主張し,中国の契約工場で製造した◎◎の納入を続けた。C社は,前記のとおり業務委託契約書中の解約条項に従った手順を踏むこととした手前,平成13年12月末までは納入される◎◎を受領していたが,平成14年1月以降はその受領を拒否した。

そこで,Fは,平成14年3月9日,C社を被告として,前記業務委託契約書に基づく契約上の地位の存在を主張して,契約上の地位確認請求訴訟を大阪地方裁判所に提起した。

以上のとおり認められ,甲第95ないし第97号証,乙イ第5,第6号証,乙エ第3号証,第4号証の1,当審における控訴人らの各本人尋問の結果中,上記認定に反する部分は,上記認定に供した証拠関係に照らし,採用し難く,他に上記認定を左右する証拠はない。

三  責任(法令違反ないし善管注意義務違反)

1  本件混入につき法令遵守体制構築義務違反

被控訴人は,請求原因3(1)のとおり主張する。

しかし,前記二2ないし4の認定事実によれば,C社は,取引先の選定のために策定済の「新規仕入先選定マニュアル」に従って,平成10年,Dとの取引開始に当たって,Dの従来の蒸し餃子や冷凍ワンタン等の製造販売等の事業実績や品質管理能力(品質管理を組織的かつ機能的に実施しているかどうか)等を調査検討の上,評価を行い,Dが現に品質管理センターを置いて原材料と製品の検査実施を徹底している事実等を勘案の上,仕入先として適切との判断を下したものであり,同マニュアルにおける選定基準の内容や選定過程も合理的なものと認められ,平成12年に◎◎の製造を委託するまでの間,Dから供給を受けた商品について品質上の問題が発生した形跡はなく,C社としては,Dが従来から◎◎と類似の商品の製造販売の実績を有し,かつ,原材料と製品の検査実施を徹底していることを前提に,◎◎の製造を依頼し,DがC社に対する供給責任を負い,Dの関連会社であるKが品質責任を負い,Kを通じて製造委託したO有限公司(当時農林水産省食肉加工食品認定工場及びISO9002認証取得)が製造する旨を確認の上,原材料の原産国・生産地等の記載のある原材料規格書を徴求し,品質に疑いが生じた場合の追跡可能性を確保の上,◎◎の製造委託に至ったものというべきであり,これらD関連業者の品質管理等に疑義を抱かせるような事情は見当たらないほか,◎◎の共同開発に当たるHによる飲茶事業全般に係る技術指導や監督等(その能力はC社に勝る)が期待できる状況にもあり,C社のDに対する◎◎の製造委託に関して契約締結上何らかの過誤があったとはいい難く,また,その後の製品供給過程にも特段の過誤は見出し難い。

被控訴人は,請求原因3(1)において,C社が食品の安全性や消費者の信頼の維持のために社内に食品管理部門を設置して販売食品の品質管理に当たり,他の業者に食品製造を委託する場合には品質管理や食品衛生法違反等の法令遵守を徹底させる体制を構築整備すべきであったのに,これを怠った旨主張する。

しかし,一般に,食品を販売する会社が,他の業者に食品製造を委託する場合に,当然にかつ一律に,自社内に食品管理部門を設置し,独自に検査等をしなければならないとか,製造過程に自社の人材を派遣しなければならないとかいうことはできず,そうしなければ,品質管理や食品衛生法違反等の法令遵守を徹底させる体制を構築整備したことにならないとする道理も見当たらない。食品を販売するにつき,その安全性や消費者の信頼を維持するためには,信用と実績のある製造委託先を選定し,契約に当たって能力のある専門業者としての委託先に品質管理の徹底を義務付け監視するなどの方策もあり得るところであり,現に,C社は,信頼のおける取引先の選定マニュアルを策定し,これに従って能力のある専門業者に依頼することによって,契約上販売食品の品質管理を徹底しようとするものであり,それなりの措置を講じていたことは,前記認定のとおりであり,食品管理部門を設置していなかったことをもって直ちに品質管理や法令遵守に落ち度があったとはいい難い。本件においては,食品製造の専門業者であるHの指導監督及びDの製造管理体制の中にあって,本件混入が見過ごされたのであるが,前記二認定の経緯からすると,O有限公司におけるショートニングの採用の際に何らかの過誤があったやにうかがわれるところ,C社ないし控訴人らを含む当時の役員らがこれを阻止し得る状況にあったとはいい難く,これをもって,直ちにC社ないし控訴人らを含む当時の役員らに品質管理や食品衛生法違反等の法令遵守を徹底させる体制構築整備の懈怠があったとも評価し難い。

他に控訴人らに品質管理ないし法令遵守体制構築義務違反があったことを首肯させるような事実を認めることはできない。上記主張は採用できない。

2  本件混入認識後の本件販売継続等の措置につき食品衛生法違反及び善管注意義務違反

(1)  法令違反及び善管注意義務違反

まず,前記二7認定のとおり,控訴人らは,Dの製造した◎◎に,平成12年当時の食品衛生法6条に違反し日本では使用が許されていない添加物であるTBHQが混入していることを認識しながら,その販売を継続すること(本件販売継続)を決定し,実行に移させたものであり,これが当時の同条に違反する行為であることは明らかである。

ところで,旧商法266条1項5号にいう「法令」には,取締役を名あて人とし,取締役の受任者としての義務を一般的に定める同法254条3項(民法644条),旧商法254条ノ3の規定及び取締役がその職務遂行に際して遵守すべき義務を個別的に定める規定のほか,会社を名あて人とし,会社がその業務を行うに際して遵守すべきすべての規定が含まれると解するのが相当であるところ(最高裁第二小法廷平成12年7月7日判決・民集54巻6号1767頁),食品衛生法6条は,食品を販売する会社であるC社を名あて人とし,同社がその業務を行うに際して遵守すべき規定であるから,旧商法266条1項5号にいう「法令」に当たるものというべきである。

次に,控訴人らは,本件混入を認識しながら本件販売継続を行ったばかりか,その事実を公表することなく,逆にその事実が外部に漏洩することを防止するため,本件混入の事実の通報者であるGに対し,口止め料を支払ったことは,前記二7,8認定のとおりであり,控訴人らは,前記二9認定のとおり,平成13年2月頃,Mから本件混入の話を聞いた当時の代表取締役社長のJから呼び出されて,質問されるまで,Jや役員協議会に報告した形跡もない。

この点に関しては,前記二1認定のとおり,C社がフードサービス事業部門を擁する大企業であり,前記二4認定のとおり,D製造に係る◎◎が月産400万という膨大な個数である上に,食品衛生法は,同法6条違反につき同法30条,33条の刑事罰を規定していることからすると,本件混入の事実の判明は,社会的に極めて大きな影響を及ぼすことが予想され,C社にとっては極めて深刻な事態というべきところ,前記二5認定のとおり,C社は平素より「危機管理行動チェックリスト」を策定するなどして危機管理体制の構築に努め,経営上重要な問題に関する稟議規定も存し,当時g株式会社の製品による集団食中毒事件における隠蔽体質が社会的な批判を巻き起こした折柄,当該事件に関し,講師を招いて危機管理セミナーを開催し,h株式会社が目薬への異物混入につき損失覚悟で直ちに公表し大量の製品の回収の措置をとった事例との比較をするなどして,危機管理の欠如に対する反省点,対応策等を含む問題点の解説論評等がなされて間がない時期でもあったことからすると,C社としては,危機的状況においては,役員らに対し,g株式会社の愚を繰り返さずh株式会社に倣った適切な危機管理を求めていたことは明らかであるから,C社のフードサービス事業部門の責任者で取締役である控訴人らとしては,直ちに事態の深刻性を認識し,速やかに危機管理体制の正常な発動を促すべく,稟議規定に従い役員協議会に対する報告を行い,社会問題化や企業責任の追及が懸念されることから,「危機管理行動チェックリスト」に従い全社緊急対策本部の設置を提言するなどし,さらにはTBHQ混入の◎◎の販売中止回収,関係当局への通報,事実の公表,購入者に対する注意喚起,情報提供等の措置をとるなど,C社の信用失墜の防止と消費者の信頼回復のために努力すべき善管注意義務があったものというべきである。ところが,実際控訴人らがとった行動は,上記のとおり事実の隠蔽であり,役員協議会に報告することも,危機管理体制の発動を促すこともなく,C社の信用失墜の防止と消費者の信頼回復のための措置をとることもなかったものであり,それは,C社が危機的状況において役員に期待する行動規範に反することはもちろん,C社の信用を著しく毀損し,消費者の信頼を失わせるもの以外の何物でもなく,C社の利益に反するものであり,上記善管注意義務に反するものというべきである。

控訴人Aは,その請求原因に対する認否3(2)のとおり,◎◎の店頭在庫5日分の販売を了承したのみである旨主張し,乙イ第5,第6号証,エ第4号証の1,当審における控訴人A本人尋問の結果中にはこれに沿う部分があるが,甲第95,第97号証,乙エ第3号証,当審における控訴人B本人尋問の結果に照らし,容易に信用し難く,また,前記二7認定のとおり,実際に販売されたのは日本国内及び中国の在庫分約300万個であり,控訴人BやT或いは現場担当者が控訴人Aの指示に敢えて反しなければならないような事情は見当たらないほか,Dは◎◎の供給の3分の2を担っており,本件販売継続が加盟店に対する突然の◎◎の供給停止に伴う混乱を回避するためになされたことからすると,店頭在庫5日分のみの販売継続ではその後の供給が追いつくとは到底考え難いことなどに照らしても,上記主張は採用の限りではない。また,控訴人Aは,自らに本件混入の事実を公表する義務はないとも主張するが,当時の状況におけるC社のフードサービス事業部門の責任者で取締役である者の負うべき善管注意義務の内容並びにその一環として事実の公表の措置が含まれることは,上記説示のとおりであり,上記主張は採用の限りではない。さらに,控訴人Aは,平成13年2月8日に当時のJ社長に本件混入の事実等を報告し,他の役員らにもその旨告げるなどしたのに,後日役員らも公表しなかったことをもって,自らが公表しなかったことを追認されたことになるとして,自らに責任がない旨主張するが,公表しないという選択が,役員としてC社に対する善管注意義務違反に当たることは,上記説示のとおりであり,他の役員が控訴人Aの善管注意義務違反行為に同調したからといって,控訴人Aの責任が否定されるものではなく,上記主張は採用できない。

控訴人Bは,その請求原因に対する認否3(2)のとおり,◎◎の国内在庫分の販売を指示したのみである旨主張し,甲第95号証,乙エ第3号証,当審における控訴人B本人尋問の結果中にはこれに沿う部分があるが,甲第97号証に照らし,容易に信用し難く,また,上記のとおり,控訴人Aの主張と齟齬するほか,前記二7認定のとおり,実際に販売されたのは日本国内及び中国の在庫分約300万個であり,控訴人BやT或いは現場担当者が控訴人Aの指示に敢えて反しなければならないような事情は見当たらないことなどに照らしても,上記主張は採用の限りではない。また,控訴人Bは,◎◎の販売継続につき,当時C社のナンバー2でE事業の最終決定責任者である控訴人Aの決定であるから,その決定はC社としての正式決定であるとして,これに従った旨主張し,自らに責任はない旨主張するかのごとくであるが,本件混入の判明時における控訴人Bの取締役としてのC社に対する善管注意義務は上記説示のとおりであり,これに反する控訴人Aの決定ないし指示があったからといって(それが控訴人AのC社に対する善管注意義務に違反することは上記説示のとおり),それがC社に対する善管注意義務に優先するいわれはなく,上記主張は採用できない。さらに,控訴人Bは,平成13年1月にEフランチャイズ事業本部長を解任されて別部署に異動させられ,同年6月に取締役の構成が一新され,新体制下の役員から◎◎問題への関与を拒否され,同年9月には取締役及び従業員としての辞職届を提出し,同年12月に取締役を解任されたとして,同年9月には取締役の地位を退任していたものというべきであり,同月以降の出来事については取締役としての善管注意義務を負わない旨主張するが,仮に上記のような経緯があるからといって,前記説示に係る本件混入認識後の本件販売継続等の措置につき控訴人Bの食品衛生法違反及び善管注意義務違反の責任が消滅するいわれはない。さらに,控訴人Bは,新体制の社長のPらに対し,本件混入につき被害回復の措置をとるよう上申していたが,無視され,封殺された旨主張するが,後述するように,新体制の経営陣が,控訴人らによるFないしGに対する6300万円の支払及び業務委託契約の適否に疑惑を抱き,FないしGとの関係解消を検討している際に,控訴人Bが,Fとの取引を打ち切ると,Gが本件混入の事実を公表する旨警告し,Gとの関係継続を求めた事実はうかがえるにしても,本件混入につき被害回復の措置をとるよう上申していた事実を認めるに足りる証拠はなく,上記主張は採用できない。

ところで,控訴人Bは,その請求原因に対する認否3(2)第三段のとおり,①TBHQが十数か国で使用許可され,②WHOで毒性非検知とされ,③◎◎への混入量が微量で健康被害が考えられず,④日本で許可されていないのは申請されていないことによるもので,⑤現に検査結果では非検出であったことなどを挙げて,年末の繁忙期に突然◎◎の製造供給を停止し,在庫を回収破棄し,在庫切れを来すことは,加盟店等の多数の販売店の信頼と経営に深刻な打撃を与えかねないことから,これを回避するため,ショートニングの切り替えに必要な期間,販売を継続することは,いわゆる経営判断の原則上,不合理ではなく,取締役の経営判断として許容される裁量の範囲を逸脱しているとはいえず,控訴人らの本件販売継続等の行為は,善管注意義務違反に当たらない旨,本件販売継続は形式的には食品衛生法6条,30条に違反するが,その実質的違法性は皆無か著しく低いから,経営判断の原則の適用は否定されない旨主張する。しかし,上記①ないし④の事実があるとしても(なお,上記⑤については,前記二7認定のとおり,検査の定量下限が◎◎へのTBHQ混入量を上回っており,当初より不検出の結果が出ることは予想されていたのであるから,これを経営判断の原則適用の前提とすることはできない),現に食品衛生法6条違反の事実は動かし難く,消費者の食品衛生に関する関心が高く,企業による事実や情報の隠蔽に対する社会的な批判の厳しい折柄,C社が重大な事態に陥っていることは明らかであったのであるから,前記説示のとおり,控訴人らとしては,直ちに事態の深刻性を認識し,速やかに危機管理体制の正常な発動を促すべく,稟議規定に従い役員協議会に対する報告を行い,社会問題化や企業責任の追及が懸念されることから,「危機管理行動チェックリスト」に従い全社緊急対策本部の設置を提言するなどし,さらにはTBHQ混入の◎◎の販売中止回収,関係当局への通報,事実の公表,購入者に対する注意喚起,情報提供等の措置をとるなど,C社の信用失墜の防止と消費者の信頼回復のために努力すべき善管注意義務があったものというべく,決して,自らの手前勝手な判断で行動してはならなかったことに変わりはない。上記①ないし④の事実を根拠に,食品衛生法6条違反につき実質的違法性がないことにつき自信があるのであれば,h株式会社が行ったように,その旨公表して消費者の理解を得るべく努力するのが筋であり,控訴人らがしたように,C社が被る当面の販売停止や在庫廃棄に伴う損害を回避するただそれだけの目的で,事実を隠蔽し,販売を継続することは,消費者の食の安全衛生に関する心理を無視して自社の目先の利益を優先するものにほかならず,明らかに消費者を軽視するものであり,消費者からの重大な反発を招き,C社に対し,当面の損害回避によって得られる利益を遙かに超える深刻な損害をもたらすであろうことは,g株式会社の事例によっても,容易に想像できたものである。したがって,本件に経営判断の原則適用の余地はないものというべきであり,上記主張は到底採用の限りではない。

なお,控訴人Bは,その請求原因に対する認否3(2)末段のとおり主張するが,食品衛生法6条違反が旧商法266条1項5号の法令違反に当たることは,前述のとおりであり,この点は,最高裁第二小法廷平成12年7月7日判決(民集54巻6号1767頁)によっても明らかであり,また,経営判断の原則上の観点からも,本件販売継続につき控訴人らの善管注意義務違反は免れないことは,上記説示のとおりであり,上記主張は採用できない。

(2)  違法阻却事由

控訴人Bは,抗弁1のとおり,仮に法令違反及び善管注意義務違反があるとしても,実質的な違法性が阻却される事由がある旨主張するが,この点に関しては,前記(1)説示のとおりであり,違法阻却事由があることを首肯させるような事実は見当たらないところであり,他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(3)  責任阻却事由

控訴人Bは,抗弁2(1)のとおり,仮に善管注意義務違反があるとしても責任阻却事由がある旨主張する。しかし,前記(1)の①ないし⑤の点や,約1100に及ぶE店舗の経営混乱及び売上低下の回避の必要性をもって,控訴人らの責任を免れさせる事由となし得ないことは,前記(1)の後から二段目に説示したとおりである。

控訴人Bは,控訴人AのC社及びEにおける影響力や控訴人Bの1年目の平取締役としての立場を根拠に,控訴人Aの決定した本件販売継続につき敢えて異議を唱えてこれを中止させる行為に出ることを求めることは酷に過ぎ,期待可能性に乏しいなどとも主張する。しかし,控訴人Bは,C社の取締役であり,C社に対して取締役としての善管注意義務を負うものであり,控訴人Aの言いなりになるべき存在ではないのであるから,控訴人Aの存在や発言によって,控訴人Bの善管注意義務が免除されるべきいわれはない。また,前記二7認定のとおり,本件販売継続を提言したのは控訴人Bであり,控訴人Aはこれを了承したものであり,控訴人Bが控訴人Aの言いなりにならざるを得なかったといった状況にあったとはいえないから,この点からも,上記主張は採用の限りではない。

控訴人Bは,自らの1年目の平取締役の立場のほか,Pら新役員に対しできる限り被害回復措置をとるよう上申し続けていたが,無視されていたことや,平成13年9月以降事実上取締役といえなくなっていたことなどを理由に,控訴人Bが敢えて本件混入の事実の公表等の行為に出ることは期待可能性が乏しいなどとも主張する。しかし,自らの1年目の平取締役の立場をもって期待可能性の乏しい理由とすることができないことは,上記説示のとおりであり,また,控訴人Bが,Pら新役員に対しできる限り被害回復措置をとるよう上申し続けていたのにこれを無視されていたなどという事実を認め難いことは,前記(1)の後から三段目に説示したとおりである。さらに,平成13年9月以降事実上取締役といえなくなっていたとする点については,仮にそうであったとしても,それ以前に控訴人Bが行った本件販売継続等における善管注意義務違反が消滅するいわれはない。上記主張は採用できない。

3  口止め料につき善管注意義務違反

(1)  善管注意義務違反

前記二7,8認定のとおり,控訴人AがFをC社への◎◎供給に参入させる姿勢を見せるものの,Fが参入のための試作品の品質向上並びに工場の衛生管理や製造能力等に関し,C社の要求する水準に達しないため,参入の話が一向に進まず,GがHにつき協力してくれないなどと不満を言うようになっていた状況下において,Gが上記試作品製作過程において本件混入の事実を知り,平成12年11月30日の試食会においてTやHの社長Uらにその旨告げ,「これが世間に知れたら社会問題に発展する。」などと凄んだことにより,控訴人らも本件混入の事実を確認するに至り,本件販売継続等を決定する一方で,Gの試食会における様子から,Gの要求に従わなければ,本件混入の外部漏洩もあり得ると考え,これを回避する必要から,同年12月4日,Gの要求のままに,Fに対し,未だ◎◎の供給業者としての水準に達する見込みも乏しいのに,◎◎の製造依頼書を交付し,また,同月7日,Gが,Hの社長Uを伴い,Eフランチャイズ事業本部を訪れ,Tに対し,「TBHQのことは俺が押さえる。Hの責任について話しがしたい。」などと言い,次いで,別室で,Uに対し,Fに対する商品開発指導を怠ったことによる損害賠償として7000万円を請求し,困惑するUが,Tを通じて,控訴人らにその件を訴えることになり,同月8日,Uが控訴人Aに会ったところ,控訴人AがUを一方的に非難するのみで,Uに反論する暇もなく,そんなUに対し,控訴人Bが,「万一TBHQ混入の事実が漏れたら大変なことになる。Hにも責任がある。Gの口を封じなければならない。Gをビジネスに巻き込む方向で対応してほしい。」などと話すなどの経緯の後,控訴人らは話し合い,Gの要求どおりHに金銭を負担させると,Hの親会社のIに本件混入の事実が漏れる可能性があり,C社とIとの取引関係の円満な維持の観点からも,Hに負担をかけるのは得策ではないとして,Gの口を封じるには,要求している金銭をC社が肩代わりするしかないとの結論に達し,同日控訴人Aの一任を受けた控訴人BがC社からFに対して6300万円を支払う旨約し,その後,Fに同月15日3300万円,平成13年1月18日3000万円が入金されたものである。

以上のような経緯のほか,その支払に関しても,前記二8認定のとおり,C社とFとの間の業務委託に関する稟議もないのに,平成12年12月13日の時点で,F側に対して800万円が支払われ,うち300万円については,C社から控訴人Bに対する「異物混入調査費用」名目の仮払いの後に,控訴人BがGに現金を手渡すという特異な方法がとられていること,前記二1認定のとおり,C社では稟議規定上,他企業との業務委託契約の締結等に関することは,関係部門の役員及び経営情報担当専務取締役Qの決裁確認の上,役員協議会が最終決裁する権限を有するとされているのに,前記二8認定のとおり,虚偽のC社とFとの間の業務委託契約書を作成し,フードサービス事業グループ内においては,上記業務委託契約の締結及び業務委託料3300万円につき,稟議,決裁の形をとっただけで,上記稟議規定上の関係部門の役員及び経営情報担当専務取締役Qの決裁確認も,役員協議会の最終決裁も受けなかったこと,同月15日の2500万円の支払についても,「異物混入」という名目で経理処理がされ,ZがGに現金を手渡し,その後にC社から控訴人Bの口座に同額を振り込むという操作を行うなど,特異な方法がとられていること,残りの3000万円については,控訴人Bが個人的に借金をしてまでGに交付し,当初領収書を徴してもいないなど,この点も特異であること,これら諸事情に加えて,証拠上,FのHに対する損害賠償請求に係る7000万円の具体的な根拠は一切不明であり,そもそもHがFに対する商品開発指導を怠ったことをうかがわせるような事実も何ら見当たらないところであり,控訴人らが7000万円要求の根拠をGに問い合わせた形跡すらないことをもあわせ考慮すると,6300万円の支払は,Gに対する本件混入の事実についての口止め料であったと認めるのが相当である。

控訴人Aは,その請求原因に対する認否3(3)第二段のとおり,6300万円の支払がFに対する資金援助である旨主張し,乙イ第5,第6号証,当審における控訴人A本人尋問の結果中にはこれに沿う部分があるが,甲第95ないし第97号証,当審における控訴人B本人尋問の結果に照らし,容易に信用し難く,前記口止め料との認定を左右するには足りない。

また,控訴人Aは,その請求原因に対する認否3(3)末段のとおり,Dからの納入に係る◎◎に不良品が多く,クレームが寄せられ,C社がその処理に追われ,Dに厳しく注意していたものの改善されず,調べてみると,Dが中国法人に生産を丸投げし,品質管理を十分にしていなかった旨主張し,乙イ第5,第6号証,当審における控訴人A本人尋問の結果中にはこれに沿う部分がある。しかし,前記二4認定のとおり,Dは,当初より,◎◎をKを通じて中国のO有限公司に製造委託し,Eフランチャイズ事業本部に対しては,Dが供給責任を,Kが品質責任を負い,その関連会社であるqが輸入を担当することとなっており,その旨C社も承知しており,DからC社に交付された原材料規格書にも明記されており,製造を担当するO有限公司は,麺類,中華点心の製造及び販売を事業内容とするKが中国内で設立に関与した会社であり,その工場は,平成9年に農林水産省食肉加工食品認定工場となり,平成10年にISO9002認証を取得し,平成14年にはHACCP認証を取得したものであり,これらの事実は,乙ウ第14,第43,第44,第50号証並びに弁論の全趣旨によって明らかに認めることができ,上記主張のような状況にあったとはいえない。さらに,控訴人Aは,Dの◎◎に問題があることから,Dによる◎◎製造がFにシフトする事態が生じるのではないかと考え,Fに早急に工場の生産ラインを整備させたとも主張し,乙イ第5,第6号証,当審における控訴人A本人尋問の結果中にはこれに沿う部分があるが,Dの◎◎に問題があったとする部分については,上記説示のとおりそのような状況は見当たらない上に,前記二6認定のとおり,Tは,控訴人Aに対し,jとDによる◎◎の供給で需要は足りており,Fが食品製造と縁のない建設業者であり,これ以上◎◎の供給業者を増やすと,適正な製造供給体制の維持が困難になる可能性を指摘して,消極意見を述べ,しかも,Fの持ち込む試作品の品質がC社の求める水準に達せず,Fの中国における協力工場の衛生管理や製造能力等に問題があるなど,Fが◎◎供給に参入する話は一向に進まない状況にあったものであり,これらの事実は,甲第4号証の2,乙ウ第14号証並びに弁論の全趣旨によって認めることができ,上記主張のような状況が存したとはいえない。なお,控訴人Aは,TがD及びKと結託して,Fに◎◎製造のノウハウの開示に応じなかったとも主張するが,これをうかがわせるような証拠はない。

控訴人Bは,その請求原因に対する認否3(3)のとおり,6300万円の支払がHのFに対する損害賠償金の立替払である旨主張し,乙エ第3号証,当審における控訴人B本人尋問の結果中にはこれに沿う部分があるが,証拠上,FのHに対する損害賠償請求に係る7000万円の具体的な根拠は一切不明であり,そもそもHがFに対する商品開発指導を怠ったことをうかがわせるような事実も何ら見当たらず,控訴人らが7000万円要求の根拠をGに問い合わせた形跡すらないことは,上記説示のとおりであり,HがFに対して損害賠償債務を負っていたといいがたく,その立替払も考え難いところであり,6300万円が口止め料であるとの前記認定を左右するには足りない。

控訴人Bは,C社がHとの技術提携契約において支払っているロイヤリティを従来の1.6%から1%に低減することによって2,3年で回収することを前提にして,6300万円の立替払をしたとも主張し,前記二8認定のとおり,Hは,控訴人らの求めに応じる形で,平成12年12月15日,C社のEフランチャイズ事業本部宛に「一連の管理責任不徹底のお詫びと今後の事業発展に向けての弊社開発体制の再提案」と題する書面(乙ウ第14号証資料⑥)を提出し,同書面中には,平成13年1月1日からロイヤリティを1%に変更する旨の記載があるところ,同書面は,作成の経緯や内容から見て,本件混入やFの参入等に関してC社とHとの間に生じた事態の穏便な沈静化を図る趣旨に基づくものと解されるほか,ロイヤリティに関しては,同年10月1日に交わした覚書(乙ウ第68号証)による合意事項を再確認したものであるから,これをもって,6300万円がHのFに対する損害賠償の立替払の証左ともなし難い。なお,控訴人Bは,ロイヤリティの低減は本件混入をGが指摘したことに端を発したものであり,乙ウ68号証については,押印のない未完成文書であることやHの代表者名を誤って記載していることを指摘して,これを虚偽の文書であるなどと主張する。確かに,同号証のC社の記名欄に押印はなく,Hの代表取締役社長の名として「o」との記載がある。しかし,甲第95,第97号証,乙ウ第14号証並びに弁論の全趣旨によれば,Hの代表取締役は,平成12年12月当時はUであったが,同年10月1日当時はoであったことが認められ,乙ウ第68号証の「H代表取締役o」名下の印影と,乙ウ第14号証資料⑥の「H代表取締役U名下」の印影とを対比すると,同一であることが認められるから,乙ウ第68号証は,H代表取締役oの作成に係る文書と推認でき,少なくともHからC社に対し同日時点でロイヤリティ低減を明記した同文書が差し入れられたものと認められるから,上記主張は採用の限りではない。

ところで,控訴人らは,C社の取締役として,実体のない契約を締結してC社に対価を支払わせるなど無用な支出をさせて損害を生じさせない善管注意義務を負い,また,C社に違法な行為や実態があるを認識した場合には,C社の社会的信用失墜防止のために,直ちに取締役会に報告して,違法な行為や実態を是正し,適法状態を回復し,関係当局への通報,被害関係者への謝罪,損害賠償等の適切な対応策を講じるなどすべき善管注意義務があり,したがって,違法な行為や実態を隠蔽し,これを知った第三者に口止め料を支払うような,明らかに反社会的でC社の企業としての信頼を失墜させるような行為をしてはならない義務を負うものというべきである。

控訴人らが本件混入の事実の隠蔽のための口止め料として6300万円を支払ったことは,前記説示のとおりであるところ,これがC社の取締役としての上記善管注意義務に違反することは明らかである。

(2)  責任阻却事由

控訴人Bは,抗弁2(2)のとおり,仮に6300万円の支払につき善管注意義務違反があるとしても,責任阻却事由がある旨主張するが,以下のとおり採用できない。

すなわち,上記主張のうち,控訴人AのC社及びEにおける影響力及び控訴人Bの1年目の平取締役の立場を根拠に,控訴人Bが控訴人Aに6300万円の支払に異議を唱えて中止させることは期待可能性が乏しいとの点については,控訴人Bは,C社の取締役であり,C社に対して取締役としての善管注意義務を負うものであり,控訴人Aの言いなりになるべき存在ではないのであるから,控訴人Aの存在や発言によって,控訴人Bの善管注意義務が免除されるべきいわれはないく,加えて,前記二7認定のとおり,本件販売継続を控訴人Bが提言し,控訴人Aが了承し,これを実施した後,Gの口止めをせざるを得ない状況に立ち至った成り行きからしても,上記主張の点は到底採用の限りではない。

上記主張のうち,ロイヤリティの1.6%から1%への低減の点については,前記(1)説示のとおり,6300万円の支払よりも前から,これと関係なく,C社とHとの間で話し合われていた事柄であるから,上記低減をもって,責任阻却の根拠とはなし難く,採用の限りではない。

上記主張のうち,HがFに対して賠償責任を負う可能性が皆無といえないとの点については,「可能性が皆無といえない」との理由で,C社の取締役としてC社をして6300万円もの支出をさせること自体異常かつ不自然である上に,前記(1)説示のとおり,FのHに対する損害賠償請求に係る7000万円の具体的な根拠は一切不明であり,そもそもHがFに対する商品開発指導を怠ったことをうかがわせるような事実も何ら見当たらず,控訴人らが7000万円要求の根拠をGに問い合わせた形跡すらないことからすると,上記の点をもって,責任阻却の根拠とはなし難く,採用の限りではない。

上記主張のうち,C社とHの親会社であるIとの安定した取引関係の維持の必要があることにつき配慮したとの点については,6300万円の本来の趣旨は口止め料であったことは前記のとおりであるから,上記のような配慮が支払の動機の一部として混在していたとしても,それをもって,責任阻却事由とはなし難く,採用の限りではない。

四  損害

1  信用失墜回復関係費用等

(1)  認定

甲第4号証の1ないし3,第9号証の1ないし3,第10号証の1ないし6,第11号証の1ないし8,第12号証の1ないし6,第13号証の1,2,第14号証,第15号証の1ないし3,第16号証,第17号証の1,2,第18号証,第19号証の1ないし3,第20,第21号証,第22号証の1ないし3,第23,第24号証,第25号証の1,2,第26ないし第31号証,第68,第71号証,第75号証の1,3ないし5,8,10,乙ウ第18号証の1,2の各2,第19号証の3の2,5の2,第67,第71,第72号証,エ第1号証並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

C社の本件販売継続については,厚生労働省又は農林水産省への匿名による通報があり,平成14年5月15日,保健所が大阪府下のE店8店舗に立入検査をしたことをきっかけとして,同月20日,pからC社に対し取材がされた。そこで,C社は,同日,記者会見をして,本件販売継続の事実を公表した。翌21日以降,新聞等のマスコミによって,C社の本件販売継続等に係る事実が報道された。特に,C社が食品衛生法上使用が許されていない添加物を含んだ◎◎の販売を故意で継続するという食品衛生法違反行為を行った点,当該事実を指摘した業者に口止め料として6300万円を支払った点,更に当時の社長であったJにより隠ぺいの指示がなされた点等の疑惑が大きく取り上げられ,批判の対象とされ,一般消費者からも非難の声が高まった。他方では,TBHQが欧米等では十数カ国で使用が許可され,WHOでは毒性非検知とされ,◎◎に含まれている量では健康への影響はなく,日本で許可されていないのは他に良い抗酸化性の添加物が許可されているからで,仮に申請すれば許可される可能性が高い旨の指摘や報道もあった。

大阪府は,平成14年5月31日,C社に対し,食品衛生法6条違反のTBHQ混入の◎◎の販売を理由に,中国で製造された◎◎につき,仕入及び販売の禁止の行政処分をした。

C社は,その日,上記処分を受けて,Pの報酬を3か月間全額カットすること,Qを代表取締役副社長から代表取締役専務に降格し,その報酬を3か月間30パーセントカットすること,Rを常務取締役から取締役に降格し,その報酬を3か月間20パーセントカットすること並びにb,Z,c及びdの取締役報酬を3か月間20パーセントカットすることなどの処分を決定した。

C社は,平成14年6月20日開催の取締役会において,「C社再生委員会」の発足を決定した。同委員会は,労使合意の上で,有識者,加盟店,役員OB,従業員,株主,消費者の各代表者等によって構成され,同年9月までの間に8回の会合を持ち,本件販売継続や6300万円の支払等に関し事実調査や意見聴取等を行い,同月25日に報告書を提出した。同委員会は,なぜ本件混入が生じたのか,なぜ本件販売継続や6300万円の支払等のような事態が生じたのか,なぜ事実発覚後も経営陣が適切な措置を講じなかったのかという3局面に分けて検討を行い,問題点として,食品メーカーとしての食品の安全に関する基礎的な知識の欠如,企業集団内の利害のみを考えて一般消費者の視点を忘却したこと,業者の口封じにより企業の脆弱性や隠蔽体質が露呈したことなどを指摘し,企業再生の方策として,経営陣の一新,加盟店問題への取組,E部門の分社化,企業集団全体の意識改革,消費者の意見や苦情を直接くみ上げるシステムの構築等を提言した。

C社及び控訴人らは,いずれも,平成15年9月4日,本件販売継続の一部につき,食品衛生法違反の罪で,罰金20万円の略式命令を受けた。

一連の本件販売継続に関するマスコミ報道や行政処分等により,C社は企業として著しくその信用を失墜し,消費者離れが進み,E加盟店の売上の大幅減少を来たすなどの損失を被り,C社は,下記イないしホのとおりの出費を余儀なくされた。

イ E加盟店営業補償

C社は,本件販売継続に関するマスコミ報道や行政処分等の後のE加盟店の売上減少につき,同加盟店から補償の要求を受け,話し合いの結果,各加盟店毎の平成14年5月21日から同年9月30日までの減収額(同一期間における過去3年の平均売上高と比較した場合の減収額)に,過去3年の平均限界利益率を乗じた利益相当額を補償することを余儀なくされ,その総額は57億5200万円に達した。

ロ キャンペーン関連費用

C社は,本件販売継続に関するマスコミ報道や行政処分等を受けて,一定期間,Eフランチャイズ事業の営業活動及び販売活動を自粛し,その後,信頼回復及び売上回復のためにキャンペーンを行ったが,上記自粛により不要となった販促ツール(景品類)の回収費用及び実施前に中止されたキャンペーンの中止までに要した費用並びに自粛後のキャンペーン費用合計20億1600万円の支出を余儀なくされた。

ハ CS組織員さん優待券及びSM・MM等特別対策費用等

C社は,本件販売継続に関するマスコミ報道や行政処分等を受けて,Eフランチャイズ事業の信頼回復及び売上回復の方策の一環として,顧客向けに優待券を発行し,顧客が加盟店で使用した優待券を加盟店から引き取ることとし,そのための出費を余儀なくされ,また,その影響が及んだクリーンサービス事業につき対策費用,サービスマスター事業及びメリーメード事業につき加盟店等への営業支援費用等の出費を余儀なくされ,その総額は17億6300万円に達した。

ニ 新聞掲載・信頼回復費用

C社は,本件販売継続に関するマスコミ報道や行政処分等を受けて,信頼回復及び売上回復のため,新聞広告を掲載し,セールチラシの折込み等を実施し,或いは店頭でのお知らせポスター等を制作するなどし,これらの費用として合計6億8400万円の支出を余儀なくされた。

ホ 飲茶メニュー変更関連費用

C社は,本件販売継続に関するマスコミ報道や行政処分等を受けて,◎◎等の販売を中止せざるを得なくなり,その在庫品,仕掛品或いは賞味期限切れ商品の廃棄,飲茶メニュー変更を余儀なくされ,これら廃棄損等の合計額は3億4600万円に達する。

ヘ 合計(イないしホ) 105億6100万円

以上のとおり認められ,上記認定を左右する証拠はない。

上記認定事実並びに前記三2の説示によれば,控訴人らの食品衛生法違反及び善管注意義務違反に係る本件混入の隠蔽及び本件販売継続により後日その発覚を経て,C社は信用失墜等に伴う売上低下の事態に陥り,その信頼回復及び売上回復のために105億6100万円の出費を要したものというべきである。

ところで,控訴人らにとって本件混入そのものにつき善管注意義務違反を問う余地がないことは,前記三1説示のとおりであるが,仮に控訴人らが前記三2説示に係る善管注意義務違反を犯すことなく,善管注意義務に忠実に直ちに◎◎の販売を中止し,本件混入を公表するなどの適切な措置をとったとしても,本件混入そのものによって一定程度の信用の失墜ないしE加盟店の売上低下は回避できず,その信用失墜ないし売上低下による営業補償,販売自粛,信用回復及び売上回復のためのキャンペーン,新聞掲載,飲茶メニューの変更等の措置をとらざるを得ず,そのためにそれ相応の出費を要する筈のものと解するのが相当である。

そうだとすれば,控訴人らの上記善管注意義務違反等の本件販売継続等の行為と相当因果関係にあるC社の信用失墜回復関係費用等の損害額は,上記105億6100万円から控訴人らが善管注意義務等を尽くした場合においてもC社に生じたであろう信用失墜回復関係費用等の損害額を控除した残額と認めるべきものである。

そこで,控訴人らが善管注意義務等を尽くした場合におけるC社に生じたであろう信用失墜回復関係費用等の損害額を考察するに,この点は容易に具体的な数値の算出は困難ではあるが,前記二5認定のとおり,g株式会社の隠蔽体質については大きな社会的非難が巻き起こり,消費者の離反や同社の大幅な売上低下が顕著であったのに対し,h株式会社の率先した事実公表と商品回収の措置についてはさしたる非難の声も上がらず,消費者の離反や売上低下を来した形跡もないことに加えて,上記認定のとおり,本件混入の隠蔽及び本件販売継続の発覚後のマスコミ報道では,特に,C社が食品衛生法上使用が許されていない添加物を含んだ◎◎の販売を故意で継続するという食品衛生法違反行為を行った点,当該事実を指摘した業者に口止め料として6300万円を支払った点,更に当時の社長であったJにより隠ぺいの指示がなされた点等の疑惑が大きく取り上げられ,非難の対象とされた一方で,TBHQが欧米等では十数カ国で使用が許可され,WHOでは毒性非検知とされ,◎◎に含まれている量では健康への影響はなく,日本で許可されていないのは他に良い抗酸化性の添加物が許可されているからで,仮に申請すれば許可される可能性が高い旨の報道もなされていたことなどからすると,控訴人らが善管注意義務を尽くし,いち早く販売を中止し,商品を回収し,消費者に対し事実関係を公表し,謝罪するなどの措置をとっていれば,信用失墜や売上低下は限定的なものにとどまり,加盟店への補償や信頼回復及び売上回復のためのキャンペーン等に要する出費もさほどの額に達しなかった可能性が高いものというべきであり,上記発覚後の出費105億6100万円の半額を超えることはなかったものと認めるのが相当である。

したがって,控訴人らの善管注意義務違反等の本件販売継続等の行為と相当因果関係にあるC社の信用失墜回復関係費用等の損害額は,少なくとも上記105億6100万円の半額に当たる52億8050万円と認めるのが相当である。

(2)  認定の補足

控訴人Aは,その請求原因に対する認否4(1)のとおり,控訴人Aの行為とC社の出費との相当因果関係を争うが,以下のとおり,採用できない。

すなわち,控訴人Aは,控訴人らがFに◎◎の製造を依頼して納入させる段取りを付け,C社の利益を守ろうとしていたのに,C社の新体制下の役員らがGを悪と決めつけてFとの取引を打ち切るという愚挙に出たことが,Gによる本件混入の公表という事態を招いたとして,今回のC社の損害はこれら役員らの行為によるものであって,控訴人らの行為と相当因果関係がない旨主張する。しかし,前記三3説示のとおり,6300万円が口止め料であり,C社とFとの虚偽の平成12年12月13日付業務委託契約書の作成も口止め工作の一環としてなされたもので,正規の稟議を経ていないものであり,Fの◎◎製造能力は本来C社が要求する水準に達していなかったのであるから,新体制の役員らがこれを問題視するのは当然というべきであり,また,新体制の役員らが,Gと控訴人Bとの関係に疑惑を持ち,Fとの取引を打ち切るに至る経緯は,前記二9認定のとおりであり,やむを得なかったものというべきであるから,これをもって愚挙とは到底いい難い。むしろ,このような事態を招いたそもそもの原因は,本件混入の外部漏洩を怖れて,Gに口止め料を支払い,◎◎の製造能力も十分でないのに,正規の稟議を経ることもなく,C社とFを取引させようとした控訴人らの側にあり,新体制の役員らの行為は,その不合理を是正しようとしたものというべきであるから,これをもって,前記(1)認定の控訴人らの善管注意義務違反の行為とC社の出費のうち52億8050万円との相当因果関係を否定する理由とはなし得ない。上記主張は採用の限りではない。

次に,控訴人Aは,新体制の役員らによる本件混入の公表の記者会見の際の不手際が,マスコミを通じて消費者にC社のイメージを一層悪化させる事態を招いたとも主張するが,前記(1)説示のとおり,マスコミ報道の主な非難の対象は,本件混入を隠蔽し,口止め料を払ってまで,本件販売継続をしたことにあり,これが消費者の離反を招き,C社の信用失墜及び売上低下を来したものというべく,上記記者会見の不手際が独自にC社の損害を拡大したことまでを首肯させるような事情は見出し難い。

また,控訴人Aは,本件販売継続に関し,自らは店頭在庫5日分の販売を許可しただけである旨,Tがこれを無視して国内の流通在庫のみならず中国の在庫まで販売した旨主張するが,店頭在庫5日分の販売を許可しただけであるとの点に関しては,前記三2(1)第五段説示のとおり,採用の限りではなく,Tがこれを無視して国内の流通在庫のみならず中国の在庫まで販売したとの点については,これをうかがわせるような事情は全く見当たらないところであり,これまた採用の限りではない。

さらに,控訴人Aは,本件混入はDが引き起こしたことであり,DはC社に債務不履行責任を負うから,信用回復経費や加盟店補償等の請求はまずDに行うべきものであるとも主張する。しかし,前記(1)説示のとおり,控訴人らの善管注意義務違反の行為と相当因果関係にある損害は,C社に現に生じた損害から控訴人らが善管注意義務を尽くした場合でも生じる損害を控除した残額部分であるところ,当該残額部分は控訴人らの行為によって独自に生じたものであり,仮にDの債務不履行があったとしても,これによって生じたものではないから,Dの債務不履行によって,控訴人らが当該残額部分に対する責任を免れる筋合いはない。

なお,控訴人Aは,その請求原因に対する認否4(1)末段において,E加盟店営業補償及び飲茶メニュー変更関連費用がC社の損害ではない旨主張するが,甲第75号証の3,5,6,8,乙ウ第68号証に照らし,採用の限りではない。

控訴人Bは,その請求原因に対する認否4(1)のとおり,控訴人Bの行為とC社の出費との相当因果関係を争うが,以下のとおり,採用できない。

すなわち,控訴人Bは,平成13年6月頃一新されたC社の役員らに対し,Fを通じて本件混入問題が公にされることを警告していたのに,新体制の役員らがこれを無視し,本件混入を公にしなかった姿勢が,C社の多額の出費の原因となった旨主張するが,上記説示のとおり,マスコミ報道の主な非難の対象は,本件混入を隠蔽し,口止め料を払ってまで,本件販売継続をしたことにあり,これが消費者の離反を招き,C社の信用失墜及び売上低下を来したものというべく,その根本原因を作ったのは,控訴人らというべきであり,新体制の役員らがこれら根本原因を認識した後,直ちには公表せず,マスコミの取材を受けてはじめて公表した経緯は,前記二9認定のとおりであり,新体制の役員らが公表を遅らせたことが認められるが,これがC社の損害拡大にどの程度影響したか不明であり,仮に影響があるとしても,控訴人らの本件混入隠蔽,口止め料支払及び本件販売継続といった行為の重大性との比較において軽微なものといわざるを得ず,前記(1)認定の控訴人らの善管注意義務違反の行為とC社の出費のうち52億8050万円との相当因果関係の存在を左右するに足りるものとは認め難い。

なお,控訴人Bは,仮に控訴人らが平成12年11月末に本件混入を認識した時点で◎◎の販売を中止したとしても,同年4月から同年11月までに既に1000万個前後の◎◎が販売されており,この事実を消費者が知った場合,それだけで十分にC社が販売する食品の安全性に不信不安を抱き,その結果,C社の食品販売業の信用が失われ,売上が減少し,被控訴人主張のC社の損害はいずれにしろ回避できなかったとして,控訴人らの本件販売継続とC社の損害との間に因果関係はないとも主張する。確かに,仮に控訴人らが前記三2説示に係る善管注意義務違反を犯すことなく,善管注意義務に忠実に直ちに◎◎の販売を中止し,本件混入を公表するなどの適切な措置をとったとしても,一定程度の信用の失墜ないしE加盟店の売上低下は回避できず,その売上低下による営業補償,販売自粛,信用回復及び売上回復のためのキャンペーン,新聞掲載,飲茶メニューの変更等の措置をとらざるを得ず,そのためにそれ相応の出費を要する筈のものと解するのが相当であり,控訴人らの善管注意義務違反等の本件販売継続等の行為と相当因果関係にあるC社の信用失墜回復関係費用等の損害額は,C社が現実に出捐を余儀なくされた金額から控訴人らが善管注意義務等を尽くした場合においてもC社に生じたであろう信用失墜回復関係費用等の損害額を控除した残額と認めるべきものであることは,前記(1)説示のとおりである。しかし,同時に,前記二5認定のとおり,g株式会社の隠蔽体質については大きな社会的非難が巻き起こり,消費者の離反や同社の大幅な売上低下が顕著であったのに対し,h株式会社の率先した事実公表と商品回収の措置についてはさしたる非難の声も上がらず,消費者の離反や売上低下を来した形跡もないことに加えて,前記(1)認定のとおり,本件混入の隠蔽及び本件販売継続の発覚後のマスコミ報道では,特に,C社が食品衛生法上使用が許されていない添加物を含んだ◎◎の販売を故意で継続するという食品衛生法違反行為を行った点,当該事実を指摘した業者に口止め料として6300万円を支払った点,更に当時の社長であったJにより隠ぺいの指示がなされた点等の疑惑が大きく取り上げられ,非難の対象とされた一方で,TBHQが欧米等では十数カ国で使用が許可され,WHOでは毒性非検知とされ,◎◎に含まれている量では健康への影響はなく,日本で許可されていないのは他に良い抗酸化性の添加物が許可されているからで,仮に申請すれば許可される可能性が高い旨の報道もなされていたことなどからすると,控訴人らが善管注意義務を尽くし,いち早く販売を中止し,商品を回収し,消費者に対し事実関係を公表し,謝罪するなどの措置をとっていれば,信用失墜や売上低下は限定的なものにとどまり,加盟店への補償や信頼回復及び売上回復のためのキャンペーン等に要する出費もさほどの額に達しなかった可能性が高いものというべきであることも,前記(1)説示のとおりであるから,控訴人Bが主張するように,C社に現実に生じた損害がいずれにしろ回避できなかったとは到底いい得ないところであり,控訴人らの本件販売継続とC社の損害との間に因果関係はないとする上記主張は採用の限りではない。

2  口止め料

6300万円が口止め料であることは,前記三3(1)説示のとおりであり,これにより,C社は無用の出費をし,6300万円の損害を被ったものと認めるのが相当である。

五  過失相殺

控訴人Bは,抗弁3のとおり,本件販売継続等の措置並びに6300万円の支払につき善管注意義務違反があるとしても,過失相殺をすべきである旨主張するが,以下のとおり採用できない。

すなわち,上記主張のうち,控訴人Bが上司であった控訴人Aから指示を受け,これをC社の会社としての正式決定事項であると認識して,忠実に実行し,他の取締役による制止も受けなかったことをもって過失相殺の根拠とする点については,前記二7,8認定のとおり,本件販売継続は控訴人Bが提言して控訴人Aが了承し,6300万円の支払は控訴人Aの一任を受けて控訴人Bが具体化したものであり,いずれも取締役である控訴人らの共同により実施された善管注意義務違反行為というべく,また,仮に他の取締役がこれらの善管注意義務違反行為を知りながらこれを制止しなかったとすれば,それも善管注意義務違反というべきところ,このことは,控訴人ら及び他の取締役がいずれもC社に対して善管注意義務違反をしている関係が生じるにすぎず,控訴人Bの善管注意義務違反に対し,控訴人Aないし他の取締役の善管注意義務違反をもって,C社の過失として,過失相殺に供し得る関係が生じるわけではないから,それ自体失当である。

また,控訴人Bが,平成13年6月頃一新されたC社の役員らに対し,Fを通じて本件混入問題が公にされることを警告していたのに,新体制の役員らがこれを無視し,本件混入を公にしなかった姿勢が,C社の多額の出費の原因となったとの点については,このような新体制の役員らの行為は,C社に対する善管注意義務違反となるものというべきであるが,このことは,控訴人B及び新体制の役員らがいずれもC社に対して善管注意義務違反をしていることに外ならず,控訴人Bの善管注意義務違反に対し,新体制の役員らの善管注意義務違反をもって,C社の過失として,過失相殺に供し得る関係が生じるわけではないから,それ自体失当である。

さらに,控訴人Bの善管注意義務違反行為は,C社の長年にわたる会社としての組織系統或いは管理体制上の問題点から起因したものといえるから,公平の原則ないし信義則に照らし,過失相殺の規定が適用ないし類推適用されるべきであるとの点については,C社に長年にわたる会社としての組織系統或いは管理体制上の問題点があったことを認めるに足りる証拠はないほか,控訴人らの本件販売継続及び6300万円の支払における善管注意義務違反は,その内容自体からして,取締役としての資質の問題以外の何物でもなく,組織系統或いは管理体制上の問題点に起因するものとは認め難く,採用の限りではない。

六  損益相殺

1  本件販売継続による販売利益等

控訴人Bは,抗弁4(1)のとおり,本件販売継続によりその販売利益及びフランチャイズ店舗からのロイヤリティを損益相殺に供すべきである旨主張する。ところで,損益相殺は,被害者が損害発生の原因事実によって利益を受ける場合にこれを損害額から控除することを指すが,C社の損害発生の原因事実は,◎◎の販売における食品衛生法6条違反に基づくC社の信用失墜及び売上低下であるところ,本件販売継続に係る◎◎の販売利益及びフランチャイズ店舗からのロイヤリティは,◎◎の販売そのものに伴う利得であるにすぎず,C社の損害発生の原因事実(すなわち◎◎の販売における食品衛生法6条違反に基づくC社の信用失墜及び売上低下)によって受けた利益でないことは明らかであり,損益相殺の対象となるものではない。上記主張は採用できない。

2  ロイヤリティの減少分

控訴人Bは,抗弁4(2)のとおり主張するが,C社のHとの間の技術提携契約によるロイヤリティの減少は,6300万円の支払と無関係であることは,前記三3(1),(2)説示のとおりであるから,これをもって損益相殺の対象とすることはできない。上記主張は採用の限りではない。

3  その後の販売利益

控訴人Bは,抗弁4(3)のとおり,平成12年12月から平成14年5月までの◎◎の販売による利益を損益相殺に供すべきである旨主張するが,前記1と同様,上記販売利益は,◎◎の販売そのものに伴う利得であるにすぎず,C社の損害発生の原因事実(すなわち◎◎の販売における食品衛生法6条違反に基づくC社の信用失墜及び売上低下)によって受けた利益でないことは明らかであり,損益相殺の対象となるものではない。上記主張は採用できない。

七  訴訟提起請求

請求原因5の事実は,被控訴人と控訴人Bとの間に争いがない。

請求原因5の事実は,甲第7号証の1ないし4,第8号証並びに弁論の全趣旨によってこれを認めることができる。

八  結論

以上によれば,被控訴人の請求は,被控訴人らに対し,前記四1(1)の信用失墜回復関係費用等52億8050万円と前記四2の口止め料6300万円との合計53億4350万円及びこれに対する請求の趣旨拡張の申立書送達の日の翌日である平成16年2月24日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金をC社に連帯して支払うことを求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担について民事訴訟法67条2項,65条1項本文,64条,61条を,仮執行宣言について同法310条本文,259条1項を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡邉安一 裁判官 矢延正平 裁判官 川口泰司)

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