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大阪高等裁判所 平成17年(ラ)549号 決定 2005年11月11日

東京都豊島区東池袋三丁目1番1号

抗告人(原審相手方・基本事件被告)

株式会社クレディセゾン

同代表者代表取締役

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同代理人弁護士

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京都市●●●

相手方(原審申立人・基本事件原告)

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同代理人弁護士

功刀正彦

主文

1  本件抗告を棄却する。

2  抗告費用は,抗告人の負担とする。

理由

第1本件抗告の趣旨及び理由

別紙「抗告状」及び「抗告理由書」記載のとおりである。

第2当裁判所の判断

1  本件抗告は,相手方の申し立てた文書提出命令について,原決定が申立ての一部を認め,その余を却下したのに対し,抗告人が認容部分について抗告をしたものであるから,原決定が命じた文書の提出義務の有無について検討する。

2  抗告人が,平成3年1月18日,相手方との継続的な融資取引を開始したことは,当事者間に争いがない。

証拠(乙1)と弁論の全趣旨によると,抗告人は,上記取引の開始とともに同取引の履歴について,貸金業法19条に定める帳簿又はこれに代わる同法施行規則16条3項,17条2項に定める書面(電磁的記録を含む。)の作成を開始したと一応認めることができる。

以上によれば,抗告人は,上記取引履歴を記載した文書について,民事訴訟法220条3号後段により,提出義務がある。

3  抗告人は,平成3年5月11日以降の相手方との取引履歴を記載した文書であるとして,「請求高一覧」と題する文書を乙第9号証として提出するとともに,同月10日までの取引履歴の保存方法を平成3年に行った事務の合理化により変更したとの理由で,同日以前の取引履歴を記載した文書は廃棄したから存在しないと主張する。

同号証において,最も古い取引履歴の日付は,91年(平成3年)5月27日であるが,同号証の記載全体をみると,同号証は,毎月10日を締め日とした月次の取引履歴を記載していることが読み取れるから,同号証には,同月11日以降の上記取引の履歴が記載されているかのようである。

4  ところが,抗告人が,相手方との上記取引履歴のうち,平成6年5月10日以降の取引履歴を記載して作成したとして,相手方に交付した「計算書(1)」と題する文書(甲第6号証)は,上記「請求高一覧」とは,書式が全く異なるだけでなく,記載内容にも違いがある(一例を挙げると,平成6年5月10日欄に対応する残債務額が,甲第6号証では「297039」,乙9号証では,「94/05」欄の94年(平成6年)5月10日締めの残高が「237039」となっている。)。

また,抗告人が,相手方との上記取引履歴のうち,平成9年10月14日以降の取引履歴を記載して作成したとして,相手方に交付した「計算書(1)」と題する文書(甲第4号証)は,書式と記載項目は上記甲第6号証と同一であるが,各項目欄に記載されている数字が一部異なっている(一例を挙げると,平成9年11月4日欄に対応する残債務額が,甲第4号証では「270278」,甲第6号証では「147256」となっている。)。

5  以上で認定した事実によると,抗告人が,本件取引履歴を記載した文書であると称する上記3通の文書は,書式だけでなく,項目欄のうちの重要な部分(債務残高)等に不一致があり,3通の文書のうちのどの文書が,上記取引について真実の履歴を記載したものであるかを確定しようがない。

抗告人が,異なる内容の記載されている上記3通の文書について,その都度,本件取引履歴を記載した文書であると説明していることに照らすと,甲第4号証及び甲第6号証よりも後で提出され,その内容について抗告人代理人作成の報告書や抗告人の担当者の陳述書(乙第19号証)があるからといって,乙第9号証が,平成3年5月11日以降の本件取引履歴を正確に記載した文書であるとの抗告人の説明を直ちに信用できるかについては疑問が残るといわざるを得ない。さらに,乙第9号証の表題が「請求高一覧」となっていることからすると,同号証の基になる取引履歴を記載した文書が存在し,その文書に基づいて相手方に請求するための「請求高一覧」が作成されたのではないかとの疑いを払拭することができない。

以上に,同号証と同様に,本件取引履歴を記載した文書とされている甲第4号証及び同第6号証の2通の文書と乙第9号証との関係について抗告人から何らの説明もないことを合わせ考慮すると,同号証が提出されたことで,平成3年5月11日以降の取引履歴を記載した文書が提出されたものと認めることはできない。

6  次に,平成3年1月18日から同年5月10日までの取引履歴に関する文書が廃棄されたかどうか,について検討する。

乙第9号証に関する抗告人の説明が,にわかに措信できないことからすれば,抗告人が提出した乙第4号証,同第8号証,同第10号証及び同第19号証(いずれも平成3年1月18日から同年5月10日までの取引履歴を記載した文書を廃棄した事情を示す資料)の記載も,にわかに措信しがたいというべきである。

他に,上記廃棄の事実を示す資料はない。

7  以上によれば,原決定は相当であり,本件抗告は理由がないから,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 武田和博 裁判官 楠本新 裁判官 鈴木和典)

<以下省略>

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