大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成17年(行コ)2号 判決 2006年5月19日

控訴人(1審原告)

甲野一郎

訴訟代理人弁護士

秋田仁志

坂本団

豊永泰雄

奥村裕和

被控訴人(1審被告)

都市基盤整備公団承継人

独立行政法人都市再生機構

代表者理事長

小野邦久

同代理人

鈴木貴雄

訴訟代理人弁護士

飯田和宏

訴訟復代理人弁護士

藤本清

尾崎一浩

松本光右

主文

1  原判決中,控訴人敗訴部分を次のとおり変更する。

(1)  被控訴人が控訴人に対し平成15年3月10日付けでした原判決別紙不開示決定目録記載の各文書を不開示とする旨の処分における同目録1(1)及び(2),2(1),3(1)並びに4(1)及び(2)記載の各文書中,同目録記載1(1)のうち地権者が個人である土地に係る契約金額,支払額,補償金額,補償契約日の部分を除く文書及び同(2)のうち地権者が法人である土地に係る部分を除く文書並びに2(1),3(1)並びに4(1)の各文書を不開示とする処分を取り消す。

(2)  控訴人のその余の請求を棄却する。

2  訴訟費用は,1,2審を通じてこれを3分し,その1を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1  控訴の趣旨

1  原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対し平成15年3月10日付けでした主文1(1)前段の処分(以下「本件各処分」という。)のうち,原判決別紙不開示決定目録1(1)及び(2),2(1),3(1)並びに4(1)及び(2)記載の各文書(以下「本件各文書」という。)を不開示とした処分(ただし,そのうち,同目録1(2)の文書の地権者が法人である土地に係る部分は除く。)を取り消す。

3  訴訟費用は1,2審とも被控訴人の負担とする。

第2  事案の概要

1  本件は,独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(平成15年7月16日法律第119号による改正前のもの。以下「法」という。)3条に基づき,被控訴人が行っている関西文化学術研究都市に係る高山第2工区(以下,単に「高山地区」という。),田原地区及び祝園地区の土地区画整理事業及びこれに基づく宅地分譲事業(以下「本件事業」という。)に関する法人文書を対象とする開示請求を行った控訴人が本件各処分を受けたため,そのうち,本件各文書に係る部分の取消しを求めた事案である。

原判決は,控訴人の上記開示請求中,本件各処分のうち,高山地区丈量図(上記目録記載1(2))の地権者が法人である土地に係る部分を不開示とした部分を取り消し,その余の請求をいずれも棄却したので,控訴人が,敗訴部分の取消しを求めて控訴を提起した。

2  本件の争いのない事実等,争点及び当事者の主張は,後記3のとおり,当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決第2の2及び3に記載のとおり(ただし,原判決別紙不開示決定目録1(2)のうち地権者が法人である土地に係る部分は除く。)であるから,これを引用する。ただし,原判決5頁22行目の「地権者名,」を削除する。

3  当審における当事者の主張

(控訴人)

(1) 競合関係の存否と開示を要する範囲

被控訴人の事業と民間事業者のそれとが競合関係にあるかどうか,被控訴人の事業にかかる情報を公開した場合に,当該競合事業者との関係で,被控訴人の「企業経営上の正当な利益」を害するおそれがあるかどうかは,法の趣旨,目的に鑑み,慎重に吟味されなければならない。被控訴人の宅地分譲事業と民間事業者のそれとは,資金調達手段(国や地方公共団体から資金援助を受けているか否か),用地提供者の税法上のメリット,インフラ整備に係る地方公共団体の協力の有無,自らが土地区画整理事業の実施者になりうるか否か,販売方法が土地の分譲か定期借地権の設定又は譲渡か等の点で大きく異なっており,両者が同じスタートラインに立って競争しているとはいい難い。特に高山地区については,本件各処分より10年以上後に実際の分譲が開始される予定であるのに対し,周辺の民間事業者の宅地分譲事業は現に分譲中であり,被控訴人が実際の分譲を開始するころには既に終わっている可能性が高い。これらの相違点を具体的に検討することなしには,被控訴人の宅地分譲事業と民間事業者のそれとが競合関係にあるか否か,上記「おそれ」に法的保護に値する程度の蓋然性が認められるか否かを判断することはできない。

また,法5条2号イの解釈に関しても,その法人の公益性の大小により非公開とすることができる情報の範囲が異なると解されること,同条4号トの解釈においては,事業の主体が国,独立行政法人等,地方公共団体又は地方独立行政法人であることから,民主的運営と財政的責任を担保するための情報公開が不可欠であり,国民による監視が妨げられないよう規定の適用においては慎重な利益衡量が必要とされること,同条2号イと同条4号トが別個に定められていることなどの事情からすれば,同条2号イと同条4号トの範囲は異なってしかるべきであり,民間事業者に関するある情報が同条2号イに該当するとして非公開にできるとしても,同じ情報が被控訴人のような独立行政法人等に関する場合は,同条4号トにより非公開とすることはできないことも当然にあり得ると考えるべきである。

(2) 被控訴人の宅地分譲事業における企業経営上の正当な利益を侵害する競合者の不存在

ア 高山地区について

高山地区事業によるニュータウンの街開きは平成25年を予定していた(証人渡邉泰之)。しかし,計画予定地内で絶滅危惧種のオオタカの営巣が確認され,被控訴人が設置したオオタカ調査検討会がオオタカの調査を進めていたところ,今般,オオタカの巣でヒナが1羽かえったことがわかり,同検討会は調査を平成17年の夏まで継続することを決めたため,平成17年度中を予定していた着工がさらに1年以上延期されることになった(甲51,52)。このように分譲開始が10年以上先となる宅地開発事業において,現在何らかの販売競争が始まっているわけではなく(証人渡邉泰之),10年以上先の競合者が現在具体的に想定されているわけでもない。したがって,高山地区についていえば,そもそも競合者が存在しない。

イ 田原地区及び祝園地区について

田原地区及び祝園地区について,被控訴人は,現在では定期借地権の設定という形で宅地を建物所有者に利用させており(乙17,甲32,54),このような形態の宅地供給事業は近隣に存在しない(証人渡邉泰之,甲55〜57)。宅地の分譲と定期借地権の設定では,土地を所有するかと賃借するかという重要な点について,購入者の意向が大きく変わることになるし,初期に必要な費用が全く異なることから,両地区について被控訴人が近隣の宅地販売業者と競合しているとはいえない。

(3) 本件各文書の不開示情報該当性

ア 土地取得台帳について

(ア) 土地取得台帳と価格決定過程

一般に,事業者は販売価格の決定に際し,取得原価のほか,製造費用等の経費,競合事業者の販売価格・販売状況及び地域における需給バランス等種々の要素を考慮するものであるから,取得原価だけがわかっても,価格決定過程は推測し得ない。したがって,仮に価格決定過程は競合事業者との関係で秘匿されるべき情報であるとの考え方が正当であったとしても,取得原価は競合事業者との関係で秘匿されるべき情報であるとの帰結は導き得ない。

さらに,次のとおり,土地価格については,その特殊性から,製造業の場合以上に原価情報から価格決定過程を推測することは困難なのであるから,仮に原価情報がわかれば価格決定過程を推測し得るとの一般論が正しいとしても,上記論理は土地価格には当てはまらない。

(イ) 宅地分譲事業の特殊性

a 土地価格は,企業や個人の需給バランスや購買力など現実の経済活動の影響を極めて強く受けるほか,土地税制や住宅税制,あるいは都市計画や用地地域の変更,再開発計画の有無など国や地方自治体の政策の影響も大きい。また,実需がなくとも,容易に投資の対象となりうるため,金利政策などの影響も強く受ける。さらには,昨今の政府の不良債権処理政策により,金融機関の貸付の担保物件が多く放出され,供給量が増加したように,金融政策とも関連する。そして,売れない在庫不動産を多く抱えることは,保有コストを増大させるだけでなく,不動産業者のキャッシュフローを悪化させるので,場合によれば,利益が出なくとも売却価格を引き下げて売りに出す。また,このような経済的な要因だけではなく,当該不動産の周辺の環境や利便性がどうかといった個別の地理的要因にも大きく左右される。このように,宅地の販売価格の決定方法は通常の製造業の販売価格の決定方法とは大きく異なる。このことは,取引事例比較法という不動産鑑定の手法で土地の価格を鑑定するにあたって,その土地の取得原価を考慮しないことからも裏付けられる。

b 国土交通事務次官から出されている「不動産鑑定評価基準」(甲58)にも,上記のことが次のとおり述べられている。「不動産は,土地の持つ諸特性に照応する特定の自然的条件及び人文的条件を与件として利用され,その社会的及び経済的な有用性を発揮するものである。そして,これらの諸条件の変化に伴って,その利用形態並びにその社会的及び経済的な有用性は変化する。」「不動産の価値(又は賃料)は,通常,過去と将来とにわたる長期的な考慮の下に形成される。今日の価格(又は賃料)は,昨日の展開であり,明日を反映するものであって常に変化の過程にあるものである。」「不動産の現実の取引価格等は,取引等の必要に応じて個別的に形成されるのが通常であり,しかもそれは個別的な事情に左右されがちのものであって,このような取引価格等から不動産の適正な価格を見出すことは一般の人には非常に困難である。」「(不動産価格)の予測は,市場参加者がとるであろう合理的な行動を不動産鑑定士等が代わって行うものであるので,十分に合理的かつ客観的であることが必要であり,その予測にはおのずと限界があることを銘記しなければならないものである。」

c 本件に関していえば,高山地区事業の予定地が買収された平成6年から原審の口頭弁論終結時である平成16年までの間,奈良県の住宅地の地価は,約38.31%も下落しており,未だに下落傾向は続いている(甲59)。生駒市の人口も増加から横ばいに転じているので(甲35),今後も値下げ圧力は続くものと考えられる。このような状況においては,本件土地取得台帳に記載された土地の取得価格に,測量費,造成費,事務費,広告宣伝費並びに20年間以上の管理費及び金利などの経費を上乗せし,それに利益も加算して価格を設定しても,到底市場で勝負できるような価格にならないはずである。実際には,土地の取得価格にこだわらず,市場で売れる価格を設定するほかない。事実,被控訴人は,分譲住宅の販売事業において,全国各地で値下げ販売を行っており(甲60),上記事実を裏付けている。

(ウ) 本件宅地造成工事費の予測の困難性

宅地造成工事の工事原価の幅は極めて広い上,高山地区におけるように,傾斜地で宅地造成工事の対象面積も大きく,かつ立木のあるような土地の宅地造成工事費の算定は容易でなく,したがって,その予測も極めて困難である。

(エ) 高山地区事業における現実の事業の進捗状況

被控訴人の前々身である旧住宅・都市整備公団が高山地区事業の予定地の買収を始めたのは平成6年であり(乙18),同地区が市街化区域に編入されたのは,平成12年11月である。したがって,平成6年の用地買収当時,高山地区事業の予定地は市街化調整区域であり,地目も当然,農地や山林であった。一方,前記のとおり,同事業における宅地の分譲開始は平成25年以降とされている。また,これはあくまで現時点での予定であって,高山地区事業予定地で発見された絶滅危惧種のオオタカの保護策がまとまっていないことや,独立行政法人となり,より事業の採算性を厳しく問われるようになった被控訴人が,今後高山地区事業をさらに見直す可能性も否定できないことから,分譲開始がさらにずれ込む可能性は低くない。

分譲開始時における分譲価格の設定は,用地買収から分譲開始までの,さらには分譲開始後の地価の値動き,宅地造成に要した経費,他社の分譲価格の設定状況や分譲開始時の需給動向など,種々の要素を考慮してなされるものである。

用地の取得原価もその要素の一つであることは確かだが,高山地区事業のように,市街化区域編入前の当時,農地や山林であった土地の取得原価がわかったとしても,それより20年以上も後の分譲価格は到底推測できない。なぜなら,原審の口頭弁論終結時で,すでに用地買収から約10年経過しており,この間,地価は大きく変動し,固定資産税など管理費の負担も莫大な額にのぼっている。さらに,原審の口頭弁論終結時より約10年後の地価の動向やそれまでに要する管理費や造成費の金額,約10年後の他社の分譲価格の設定状況や地域の需給動向などを予測し,被控訴人が売り出す個別の宅地ごとの譲渡価格を推測することなど到底不可能である。したがって,競合業者が被控訴人が販売する宅地の譲渡価格等を推測し得るとすることは,高山地区事業の現実を全く無視した空論にすぎない。仮にそれが推測できたとしても,その後10年間で変動が予想される地価の動向,造成費の相場,他社の分譲価格の動向及び地域の需給動向などによって,そのような推測価格はすぐに陳腐なものとなりうるのであって,競合業者にとっては何の意味もない。

(オ) 高山地区事業の宅地分譲事業が平成25年以降であるのに対し,木津川台は平成元年から(甲61),精華台は平成11年から(甲62),それぞれ分譲を開始している。高山地区事業の宅地分譲が開始する頃には,木津川台と精華台の両地区の宅地分譲が終了している可能性が高い。その意味で,これらの地区における事業を競合事業ととらえるのは,そもそも誤りである。仮に10年以上後の時点でも両地区の宅地分譲が終了していない可能性があるとしても,その程度の可能性では,前記譲渡価格の予測不可能性も考慮に入れると,「企業経営上の正当な利益を害するおそれ」が法的保護に値する程度の蓋然性に至っているとは到底いえない。

(カ) 管理原価は固定資産税などを意味するものと思われるが,競合業者において,平成25年までの各年度ごとの固定資産税の税額を個別の土地ごとに概算であっても予測することなどできるはずもない。造成原価にしても,いつから造成工事が始まるかもわからず,開発予定地は山有り谷有りで起伏に富んだ地形であるのに(甲19の1・2),個々の土地ごとの造成原価を概ねにしても計算できるはずがない。さらに,宅地の販売価格は,単純に取得原価に管理原価や造成原価を上乗せすれば算出できるというようなものではない。

イ 丈量図について

(ア) 丈量図には当該土地の地番,土地の形状及び実測面積の情報が含まれているが,いずれも土地に関する客観的な情報というべきであり,古くから不動産登記制度によって広く公示されている。そして,土地の形状及び実測面積については,誰でも計測しようと思えば可能であって,プライバシーとして秘匿すべき理由は全くない。このような公共的性格を有する土地についての客観的な情報は,プライバシーとして保護すべき必要性は低く,かつ開示されるべき必要性は高いのであるから,法5条1号の不開示情報には該当しないというべきである。

(イ) 仮に丈量図に記載されている情報が,法5条1号の「個人に関する情報」に該当するとしても,ただし書イに該当することは明らかというべきである。

境界の座標値及び実測面積等については,不動産登記簿や公図上の記載が必ずしも正確ではないことから,「隣地所有者の立ち会いの上,確認した隣地境界に基づいて土地の形状及び実測面積を記載した」丈量図の記載とは異なっている場合があり得る。その意味では,形式論理的には,これらの情報は「法令の規定により公にされている情報」には当たらないかもしれない。しかし,これらが,少なくとも「公にすることが予定されている情報」に該当することは疑いない。いうまでもなく,不動産登記制度は,不動産についての実体的物権変動を正確かつ迅速に公示することにより不動産取引の安全と円滑を図るために存在し,当然のことながら,その記載はできる限り実体関係に符合していることが求められる。すなわち,第1に不動産の物体的状況(所在や地積,形状等)に関する登記簿の記載が実体と符合することが必要であり,第2に,不動産に関する権利変動についての登記簿の記載が実体関係と符合することが必要である。わが国の不動産登記法も,かかる要請に応えることを目的としているのはいうまでもない。そうすると土地の形状や実測面積について,公図や不動産登記簿上の地積の表示が正確でない場合があるとしても,これらの記載が実体とそれほど大きく異なる場合はそれほど多くないと考えられる上,不動産登記法の法目的からすれば,公図や不動産登記簿には,できる限り正確な土地の形状や地積を反映させることが期待されているのであるから,「隣地所有者の立ち会いの上,確認した隣地境界に基づいて土地の形状及び実測面積を記載した」「境界位置の座標値及び実測面積等」の丈量図記載の情報こそが,本来不動産登記法が公示することを期待している情報なのである。したがって,「境界位置の座標値及び実測面積等」の情報も不動産登記法により「公にすることが予定されている情報」に当たるというべきである。

ウ 土地取得状況報告書について

土地取得状況報告書の土地取得に関する年間計画及びその進捗率に関する情報について,田原地区及び祝園地区は既に土地取得が終了しており(田原地区の文書は平成2年4月末日現在,祝園地区の文書は平成4年1月末日現在),高山地区についてもほとんど終了している。したがって,そのような情報は戦略的な情報とはなり得ない。

エ 収入累計調書,計画文書について

(ア) 分譲宅地収入累計調書

収入累計調書に記載された情報が公開されても価格決定過程や譲渡価格などは何も分からず,当該情報は,被控訴人の重要な内部管理情報などではない。すなわち,分譲宅地収入累計調書は,「累計調書」であって,既に販売された宅地分譲事業の収入状況を累計として報告するために作成された文書であるから,個々の宅地に関する情報は,全体の中に埋没しており,それらを特定して推測することは不可能である上,そこに記載されているのは,過去に販売された宅地の収入状況であって,被控訴人が今後販売する宅地等に関する収入ではない。さらに,収入累計調書の情報は,既に販売済みの宅地に関するものであり,販売広告などを通じて公開済みの情報から知りうるものであって,あえて秘匿する必要性に欠けている。

(イ) 計画文書について

計画文書のうち1枚目の記載情報は,いずれも累計的な数字であり,被控訴人における分譲事業の施設毎の累計を示したに過ぎず,個々の分譲宅地の価格決定過程に関する情報は含まれていないから,仮に価格決定過程の秘匿について被控訴人が正当な利益を有しているとしても,当該利益の侵害につき具体的な蓋然性はない。計画文書のうち二,三枚目の記載情報は,原価情報を含んでいるが,いずれも既に売却済みの物件に関する情報であり,今後販売する物件に関する情報ではない。したがって,原判決の論理によっても,被控訴人の正当な利益につき侵害発生の具体的な蓋然性はなく,また,二枚目の譲渡単価,三枚目の年間賃料などの情報は,既に販売広告などによって公開済みの情報であって(乙17,甲32,54),これらを秘匿する理由はない。

(被控訴人)

(1) 控訴人の主張(1)は争う。

(2) 同(2)のア,イは争う。

(3) 同(3)アの(ア)ないし(カ)は争う。

控訴人は,高山地区の分譲開始時期が先のことである点を問題にしているが,原価情報は,両者の期間をも加味しつつ,相手方の経営分析等を可能とする情報であることに変わりはない。

仕入と販売期間の如何によって,当該情報の性質(企業情報該当性)が左右されるものではない。宅地造成工事費についても,各種資料等による工事費や各種補正率等で,ある程度の地形を造成する場合の工事費や諸経費率の概算を積算することは可能であるし,さらに,当然宅地販売よりも相当前の段階で,区画整理事業の事業計画が縦覧されるのであるから,競合事業者はより詳細に将来予測が可能なのである。

また,控訴人が,田原地区及び祝園地区について,定期借地権設定による土地供給しか行われていないかのように主張している点は誤りである。施設用地については継続的に販売されており,昨年秋には居住用宅地の供給も行われているし(乙27の1〜8,28の1・2),今後,より一層のキャッシュフローの確保を求められていることから(乙29の1・2),所有権の分譲が増加することとなる。

(4) 同(3)イの(ア)ないし(イ)は争う。

不動産登記において,登記簿上の所有者が,真の所有者と一致することが望ましいとはいえようが,そのことと,「一致することが,法令の規定により予定されている」か否かとは別の問題である。控訴人の主張では,いかなる「法令の規定」をもって,法5条1号ただし書イの要件に該当するとするのか明らかでないが,不動産登記は申請主義が原則であり(不動産登記法16条1項,旧不動産登記法25条1項),いわゆる表示登記は,強制されているが(不動産登記法36条1項,47条1項等),権利に関する登記は強制されていない。

(5) 同(3)のウは争う。

競合事業者において,既に行ってきた行動に基づき相手方の戦略を分析しうる情報が戦略的情報に該当しないとの控訴人の主張は不当である。

(6) 同(3)エの(ア),(イ)は争う。

計画文書に記載された情報は,競合事業者において,被控訴人における分譲宅地の譲渡価格の価格決定過程を分析・推知することのできる重要な情報である。また,譲渡単価,年間賃料は,募集の際,各宅地についてパンフレット等に標記しているが,計画文書においては,各宅地ごとに記載されているものではなく,1回の募集にかかる数区画がまとめて記載され,その中で,契約がなされたものについての平均(単価),合計(賃料)が記載される。すなわち,当該文書に記載されている数値(情報)は,販売の際における画地ごとの単価・賃料とは,意味も内容も異なるものである。

第3  当裁判所の判断

1  引用に係る原判決争いのない事実と証拠(甲3,10,11,15〜17,51,52,乙1〜4,6,12,16〜19,27,28,証人渡邉泰之。書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1)  関西文化学術研究都市は,京都府・大阪府・奈良県の3府県にまたがる京阪奈丘陵に計画された研究都市であり,昭和62年6月,関西文化学術研究都市建設促進法の制定により,国及び地方公共団体が関与すべき,近畿圏における主要なプロジェクトとされた。

(2)  被控訴人(特に必要がない限り,被控訴人の前身である住宅・都市整備公団等と区別しない。)は,旧住宅・都市整備公団が改組された都市基盤整備公団(解散)の一切の権利義務を平成16年7月1日に承継した独立行政法人であるが,研究都市の開発予定地区のうち,大阪府四條畷市の田原地区,京都府精華町の祝園地区,奈良県生駒市の高山地区等に土地区画整理事業を施行することとなった。被控訴人は,土地区画整理事業に伴い,開発予定地区内の地権者から土地を取得し,造成した上で,住宅需要者に宅地を譲渡又は賃貸する業務を行っている。

(3)  被控訴人及びその行う事業の性格・特徴は次のとおりである。

ア 被控訴人は,「地方公共団体,民間事業者等との協力及び役割分担の下に,人口及び経済,文化等に関する機能の集中に対応した秩序ある整備が十分に行われていない大都市地域その他の都市地域における健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動の基盤整備として居住環境の向上及び都市機能の増進を図るための市街地の整備改善並びに賃貸住宅の供給及び管理に関する業務を行い,並びに都市環境の改善の効果の大きい根幹的な都市公園の整備を行うこと等により,国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与する」(都市基盤整備公団法1条)という公益的目的の達成のために設立された特殊法人であり,民間業者ではない。そして,被控訴人は,予算,事業計画及び資金計画並びに決算に関し,国土交通大臣が任命する委員(同法11条)と被控訴人の総裁から構成される運営委員会(同法10条)の議決を受けなければならないとされ(同法9条),被控訴人の総裁及び監事は国土交通大臣が任命し,副総裁及び理事は総裁が国土交通大臣の認可を受けて任命する(同法19条)。

業務執行についても,被控訴人の業務の基本方針は国土交通大臣が定めるものとされ(同法29条),国土交通大臣が直接指示を下すこともあり(同法30条),その他,国土交通大臣が広範な許認可権限を有している(同法34条,35条,36条等)。

財務及び会計に関しても,ほとんどすべての局面で国土交通大臣の認可が必要である(同法5章)。そして,国土交通大臣は包括的な監督権限や検査権限をも有している(同法6章)。

これは本件事業についても同様であり,被控訴人は本件事業の施行規程及び事業計画を定め,国土交通大臣の認可を受けなければならず(土地区画整理法71条の2第1項),この事業計画を定めるに当たっては,地元の地方公共団体の長の意見を聴かなければならないとされている(同法71条の3第3項)。

イ 被控訴人の役員人事については,総裁,副総裁,理事及び監事合計14名の役員のうち,10名が中央省庁出身者である。財務面においても,平成14年度決算報告書によれば,2兆9401億9259万8000円の総収入のうち,政府及び地方公共団体からの資本収入(甲12)が710億5000万円(2.41%),国庫補助金が521億9920万円(1.77%),政府資金借入(財政投融資)が9148億7400万円(31.11%)となっており,これら3つの収入を合計した金額は1兆0381億2320万円(35.30%)である。

ウ 被控訴人は,本件事業のようなニュータウン整備事業に関しては,既に着手済みのものに限定して行うとしている(甲14)。これは,平成13年12月に閣議決定された「特殊法人等整理合理化計画」に基づく措置で,同計画では,①新規の宅地分譲事業は廃止する,②現在事業を実施中の資産についての時価評価の結果を踏まえ,採算性に問題があるプロジェクトの見直し,既に取得した土地の処分等を早急に進め,含み損の大幅な圧縮を図るとともに,できる限り多くの継続事業を速やかに終了させることが定められた。このように,被控訴人にとって,本件事業は,残務処理的な性格が強く,損切りを速やかにすることによって,被控訴人の損失を穴埋めするための国庫負担を少なくすることが政府によって要求されている。また,「都市基盤整備公団の業務に関する基本方針」によれば,宅地分譲事業は,特例として実施する業務であり,同事業からの撤退は,再開発等に必要となる分譲住宅を除き,遅くとも10年を目途に完了することとし,その大半は5年以内に完了することが求められている。現に,被控訴人は,上記②を受けて,高山地区における本件事業の採算性を見直し,当初の計画を半分に縮小した。

エ(ア) 本件事業は,利益を上げるというより,むしろ地元の地方公共団体の強い要望があること及び国家プロジェクトの1つであるということに重点がある。

(イ) 本件事業予定地がある生駒市において,民間業者がニュータウン整備事業を行う場合は,学校・公民館・消防署等の用地,道路,公園,上下水道等を自らの費用負担で整備し,原則として,無償で生駒市に譲渡しなければならない。民間業者は,このようなインフラ整備事業費を分譲価格に転嫁して回収を図る。しかし,本件事業においては,関西文化学術研究都市建設促進法(昭和62年法律第72号)7条に基づき,これらのインフラ整備の一部の事業費を国,奈良県及び生駒市が負担することになっている。

(4)  高山地区事業の概要は次のとおりである。

ア 同事業は,平成5年8月,奈良県知事,生駒市長等から開発要請を受け,被控訴人が本件事業の施行者となって行われ,平成6年3月から土地取得が開始されたが,被控訴人の土地取得は,地権者との協議と合意に基づいて行われ(土地収用等の手続はない。),これを公平かつ円滑に行うため,実測面積に基づいて契約内容を決定することとされ,まず公簿面積に基づいて原契約を締結した上,隣地所有者の立会いの下に測量により実測面積を確定し,これに基づいて変更契約を締結するという方法が採用された。

イ 具体的な手順は,まず,被控訴人において,開発予定地区の地権者に対し,計画の概要を説明する説明会を開催し,地権者から概ね計画についての合意が得られた段階で,小さな集落ごとに説明会を実施し,その際に鑑定評価に基づいて算出した土地の買取り希望価格(希望単価)を提示した後,個々の地権者のところへ被控訴人の職員が出向き,個別に土地買取りの交渉を行い,その結果,地権者の合意が得られた場合には契約を締結するというものである。

ウ 本件各処分のされた平成15年3月の時点では,同事業における土地取得は一部を残してほぼ終了していた。また,同時点で,土地区画整理事業のための関係機関との協議は未だ続行中で,造成工事は平成17年以降に着工となる予定であり,街開き(分譲開始)は平成25年ころになる見込みであった。

(5)  田原地区及び祝園地区においても,前項イ,ウと同様の方法で土地取得等がなされたが,それらの土地取得は,田原地区では平成2年ころ,祝園地区では平成4年ころに終了しており,田原地区については平成16年ころから,祝園地区については平成11年ころから分譲が開始されている。

(6)  本件事業の予定地近くの木津川台地区では近畿日本鉄道株式会社及び近畿不動産株式会社により,精華台地区では京阪電気鉄道株式会社,三井不動産株式会社及び野村不動産株式会社により開発が行われ,木津川台地区では平成元年から,精華台地区では平成11年から分譲が開始されている。

(7)  本件各文書のうち,土地取得台帳と丈量図は,現地において主として地権者との状況把握に用いられ,土地取得状況報告書,収入累計調書及び計画文書(ただし,高山地区事業のものは,分譲が未だ開始されていないため,いずれも存在しない。)は,被控訴人本社において主として経営判断の資料として用いられ,都市整備事業実施計画を策定する際の原資料ともなっている。

2  土地取得台帳に記載された情報の不開示情報該当性(争点(1))

(1)  地権者が個人の場合(法5条1号該当性)

ア 法5条1号は,ただし書に掲げる情報を除き,「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」を不開示情報と規定している。

イ 同号にいう「個人に関する情報」については,「事業を営む個人の当該事業に関する情報」が除外された以外には文言上何ら限定されていないから,個人の思想,信条,健康状態,所得,学歴,家族構成,住所等の私事に関する情報に限定されるものではなく,個人にかかわりのある情報であれば,原則として同号にいう「個人に関する情報」に当たると解するのが相当である。

土地取得台帳は,前記引用に係る原判決第2の2(5)アのとおりのものであって,これに記載された情報は,契約者名,土地の所在地・地目・公簿及び実測面積,仮登記及び本登記年月日,契約年月日,契約金額及び支払額並びに補償金額及び補償契約日であり,地権者が個人の場合,これらの情報は,いずれも個人にかかわりのある情報といえるから「個人に関する情報」に該当する。そして,これらの情報は,特定の個人を識別することのできる情報であるか,不動産登記簿,公図等や土地取得台帳上の他の情報と照合することにより特定の個人を識別し得る情報というべきであるから,法5条1号の「個人に関する情報であって,……他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるもの」に該当する。

ウ しかしながら,法5条1号ただし書イは,「法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定された情報」は開示しなければならないと規定しているところ,前項記載の情報のうち,契約者名,土地の所在地・地目・公簿及び実測面積,仮登記及び本登記年月日並びに契約年月日は,不動産登記簿及び公図等によって「公にされ,又は公にすることが予定された情報」であるか,これから容易に知りうる情報にすぎず,同号ただし書イに該当することが明らかである。

被控訴人は,①地権者ないし契約者と登記簿上の所有者が異なる場合もあるとか,②一般に隣地所有者の立会の上で測量された実測面積と公簿面積とは異なる旨主張するが,①の点については,被控訴人が土地取得をしたことに係る所有権の移転,当該土地の所在,地番及び地積,並びに売主である個人地権者の住所及び氏名は,一般に不動産登記簿に登記されて公示されるものであるところ,被控訴人は,本件において,いかなる土地が主張のような状態になっているか等について特段の主張,立証を行っていない以上,上記認定判断を妨げるに足りないというべきであるし,②の点についても,実測面積は,不動産登記制度(公図等を含む。以下同じ。)が公にするものとしている土地の客観的な属性にほかならず,仮に当該実測面積が公簿面積より正確なものであるとしても,それは,技術的な制約等がなければ,不動産登記制度が本来実現しようとしているものにすぎず,他方,かかる情報の秘匿を特に要するものとすべき合理的な理由も見出せないから,当該実測面積は,少なくとも「公にすることが予定された情報」に該当するというべきである。

なお,被控訴人は,これらの情報が「公にすることが予定された」というためには,不動産登記法等によって強制されていることを要するとも主張するが,真実の実体的権利関係等の公示を関係当事者に対する強制によって実現するか否かは,同法等の趣旨,目的に照らして選択されるべき立法政策の問題にすぎないから,この点に関する被控訴人の主張も採用することができない。

エ 次に,契約金額及び支払額は,不動産登記制度によって公示されるものではなく,通常は一般人の知り得るところではない上,前記認定事実等によれば,本件土地取得に関して土地収用等の手続があるわけではなく,その契約金額等も,最初に被控訴人から鑑定評価に基づく買取り希望価格が地権者に提示されるとはいえ,その後の交渉自体は各地権者との間で個別に行われるもので,具体的な契約金額等も両者の間の自由な合意によって決定されるものにすぎない。また,補償金額及び補償契約日は,取得土地上に立木がある場合等に被控訴人から地権者に支払われることがある補償にかかわるものであって,通常,一般人がその詳細を知り得るものでないことは明らかであるから,他に特段の主張立証のない本件においては,以上の情報が「法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定された情報」に当たるということはできない。

オ したがって,土地取得台帳に記載された情報中,地権者が個人である土地に係るもののうち,契約者名,土地の所在地・地目・公簿及び実測面積,仮登記及び本登記年月日並びに契約年月日は,いずれも法5条1号ただし書イに該当し,契約金額及び支払額並びに補償金額及び補償契約日はこれに該当しないというべきである。

(2)  地権者が法人等の場合(法5条2号イ該当性)

ア 法5条2号イは,法人その他の団体(国,独立行政法人等及び地方公共団体を除く。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって,公にすることにより,当該法人等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものを不開示情報としている。

イ 地権者が法人等の場合,土地取得台帳に記載された情報は,いずれも法人等に関する情報であり,これらの情報が同号イに規定する不開示情報に該当するというためには,これらの情報を「公にすることにより,当該法人等又は当該個人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある」と認められることを要する。

そして,その場合の「おそれ」とは,法1条の趣旨に照らし,単に正当な利益等が害される可能性が存するのみでは足りず,その侵害発生の蓋然性が法的保護に値する程度に認められる場合をいうものと解されるところ,上記情報のうち,契約金額及び支払額並びに補償金額及び補償契約日を除く情報については,前記ウでみたとおり,不動産登記簿及び公図等によって「公にされ,又は公にすることが予定された情報」であるか,これから容易に知りうる情報にすぎない。また,その余の情報についても,前記エでみたとおりのものではあるが,法人の資産の一部にかかわるだけのものにすぎず,既にみたような公的な性格をも併有する被控訴人が行う土地区画整理事業の前提としての土地提供にかかわるものであるから,これらの情報が開示されたとしても,直ちに当該法人地権者の競争上又は事業運営上の地位,社会的信用その他正当な利益が損なわれるとは認め難い。

被控訴人は,法人の財産に関する情報は,意に反して公開されない利益があると主張するが,プライバシーの保護が直接問題となる個人情報の場合とは異なり,法人等に関する情報を不開示とするためには,当該情報の公開による侵害発生の蓋然性が法的保護に値する程度に存在することが主張,立証されることが必要であることは上記のとおりであるから,単に被控訴人の意に反して公開されない利益があるというだけでは,その正当な利益が害されるおそれが法的保護に値する程度に認められるということはできないし,他にこれによって被控訴人の正当な利益が害されるおそれがあるものと認めるに足りる証拠もない。

ウ したがって,土地取得台帳に記載された情報中,地権者が法人である土地に係るものは,法5条2号イの不開示情報に該当しないというべきである。

(3)  法5条4号ニ該当性

ア 法4号は,柱書において「国の機関,独立行政法人等又は地方公共団体が行う事務又は事業に関する情報であって,公にすることにより,次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」を不開示情報と定め,同号ニにおいて,「契約,交渉又は争訟に係る事務に関し,国,独立行政法人等,地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ」を掲げている。

イ 被控訴人は,本件事業地区内の土地所有者には,既買収地の地権者が多数含まれており,今後,本件事業を施行する上で,これらの土地所有者から長期間の協力を得なければならないところ,現時点において土地取得台帳に記載された情報を公にすることにより,被控訴人における事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある旨主張し,今後地権者の協力を要する例として,起工承諾(土地区画整理事業の事業区域内の工事を施行するため,権利者の従前地を事前に借地すること)と補償交渉等(事業の推進のため,土地区画整理法78条に基づく移転補償の交渉をいい,早期に任意の移転を行ってもらうため,交渉を行うこと)において協力を得られなくなるおそれを挙げている。

ウ 同号イにいう「おそれ」についても,単に正当な利益等が害される可能性が存するのみでは足りず,その侵害発生の蓋然性が法的保護に値する程度に認められる場合をいうものと解されるところ,被控訴人は,これを裏付ける資料として,乙25(地権者からの聴き取り記録)を提出しているが,それ自体少数の地権者の聴き取り結果にすぎず,聴き取りの対象者の抽出方法も明らかでない上,他方で,本件においても,地権者の団体から生駒市議会議長に対して事業の早期着工を求める請願書等が提出されていること(甲9の1〜3),本件事業予定地内の地権者は,本件事業により換地を取得することを予定しており,その換地は,通常,事業前の山林や田畑等とは異なり,整然と区画整理され,公共道路に接続し,電気,ガス,上下水道なども完備された宅地であるから,宅地を取得することによって,地権者は多大な社会生活上の利益及び経済的利益を得ることになることから,上記情報が公開されたからといって,現実に,本件事業予定地内の地権者が本件事業に協力しなくなるという事態までは想定しにくく,上記証拠のみによっては,侵害発生の蓋然性を法的保護に値する程度にまで認められるものとはいえず,他にこの点を認めるに足りる証拠はない。

(4)  法5条4号ト該当性

ア  法5条4号は,柱書において「国の機関,独立行政法人等又は地方公共団体が行う事務又は事業に関する情報であって,公にすることにより,次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」を不開示情報と定め,同号トにおいて,「国若しくは地方公共団体が経営する企業又は独立行政法人等に係る事業に関し,その企業経営上の正当な利益を害するおそれ」を掲げている。

イ  土地取得台帳は,引用に係る原判決前記第2の2(5)ア記載のとおり,被控訴人が本件事業に係る土地区画整理事業に伴い,高山地区の地権者から取得した土地の一覧表であり,被控訴人が地権者との間で締結した契約管理のために作成された文書である。よって,土地取得台帳に記載された情報は,同号柱書の「独立行政法人等」が行う「事務又は事業に関する情報」に該当し,そのうち,「契約金額」欄には,土地ごとの取得価格が,「支払額」欄には,被控訴人が契約者に実際に支払った代金額が記載されているところ,一般に,事業者がある商品等を取得・製造し,これを販売又は賃貸しようとする場合,取得原価,製造費用等の経費,競合事業者の販売価格・販売状況及び地域における需給バランス等種々の要素を考慮して価格決定を行うのが通常であることに照らせば,これらの情報には,被控訴人において取得した土地を造成し,販売又は賃貸する際に設定される譲渡価格又は賃料等の原価に係る情報としての側面がある。そして,一般的には,競合事業者がその点の情報を得ることにより,競争上,何らかの有利な地位を占める可能性がないわけではないことは否定できない。

しかしながら,国又は地方公共団体が経営する企業又は独立行政法人が行う事業は,公共的性格を有すると同時に他の企業との間に競争関係に立つことがあるが,これらの企業又は独立行政法人等には,その公益的な性格と同時に,国や地方公共団体が経営していることもしくは独立行政法人等であることから,民主的運営と財政的責任を担保するための情報公開が不可欠である。この点,被控訴人及びその行う本件事業が,単なる民間事業者及びその行う宅地分譲事業等とは異なり,一定の公共性,共益性を伴うことは,前記1(3)のアないしエでみたとおりであるし,さらに,法が,国民主権の理念にのっとり,法人文書の開示を請求する権利等を定めることにより,独立行政法人等の保有する情報の一層の公開を図り,もって独立行政法人等の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにすることを目的としていること(法1条)に鑑みれば,単に正当な利益等が害される一般的な可能性が存するのみでは足りず,その侵害発生の蓋然性が法的保護に値する程度に認められなければならず,被控訴人において,当該具体的な競合状況等の下に,その点の主張,立証をする必要があるというべきである。

ウ  この点に関し,被控訴人は,当該地区において取得した土地については,土地区画整理事業によって造成が行われた後,これらを住宅需要者らに譲渡又は賃貸等する予定であるところ,土地取得台帳に記載された契約金額は,被控訴人が取得した土地の原価である。宅地分譲事業は,他の民間事業者と競合関係にあり,事業によって収益を上げる必要があるところ(乙5),販売土地の原価について,他の事業者がこれを公開しないにもかかわらず,被控訴人のみが開示することは被控訴人の企業経営上の正当な利益を害する旨主張する。

しかしながら,被控訴人は,前記情報が原価にかかわる情報であることを理由に,以上の点を一般的,抽象的に述べるだけであって,そのおそれが法的保護に値する程度の蓋然性を有している点の具体的な主張,立証が尽くされたものとはいい難い。他方,前記認定事実によれば,高山地区事業においては,土地取得はほぼ終了しているものの,未だ土地区画整理事業の着工にも至っておらず,分譲開始は平成25年が予定されているというのであり,競合事業者の存在の点についても,証人渡邉泰之は,高山地区に関しては,将来的に個人の事業者等が競合する可能性を指摘しているにすぎない。仮に,民間の競合事業として,木津川台地区や精華台地区での宅地分譲事業を想定したとしても,木津川台地区では平成元年から,精華台地区では平成11年から既に分譲が開始されているのに対し,高山地区で分譲が開始されるのは,上記のとおり平成25年の予定であるから,上記情報が公開されたとしても,被控訴人の競争的地位が著しく侵害されるものとも考えにくい。

被控訴人は,分譲開始が平成25年であっても,その時点の販売価格を算定することはさほど困難を伴わないかのごとく主張するが,被控訴人自身は,その具体的な推計方法を明らかにしていないのみならず,かえって,後記のように造成価格等の算出自体が困難を伴う上,土地価格や金利,固定資産税額,被控訴人自身の販売政策等の多くの変動要因を抱えることは明らかであり(甲52,63,弁論の全趣旨),殊に,高山地区におけるように,現実に競合状態が発生するまでに時間的間隔がある場合には,その予測には一定の限界があるものというべきである。

エ  中でも,本件事業に係る被控訴人の取得土地は山林等が多いと考えられるから,被控訴人の分譲宅地の分譲価格決定に係るコストの多くの部分は宅地造成工事費が占めるものと考えられ,その中で土地の取得費用の占める割合は比較的小さいと考えられるところ,次のとおり,宅地造成工事費の予測自体,相当に困難であるというべきである(甲19の1・2,20,63,乙12,弁論の全趣旨)。

(ア)  高山地区事業の予定地は,総合計で288ヘクタールと広大であり,当面先行して開発されることになった部分だけでも140ヘクタールある。現況は,山林,田,畑,湖沼などとなっており,これを宅地化するためには大規模な土木工事が必要となる。また,現地は,山林がかなりの部分を占めているので,かなりの高低差があり,また工事にあたって樹木の伐採等も必要となる。さらに,面積が広い分,土質も様々であり,強固な岩盤等の存在も予測される。

(イ)  土木工事費は一般に,工事原価,一般管理費等及び消費税相当額によって構成され,工事原価はさらに直接工事費と間接工事費によって構成される。直接工事費は,工事の種類により各工事部門を工種,種別,細別及び名称に区分し,その区分ごとに材料費,労務費及び直接経費によって構成される。間接工事費は共通仮設費及び現場管理費からなる。一般管理費等は一般管理費と適正な利潤からなり,一般管理費とは,通信交通費,広告宣伝費,交際費,地代及び家賃など工事施工業者の経常的な経費全てを含む。

(ウ)  宅地造成工事の工事原価は,非常に幅が広い。このような差は,労務費の相違や機械調達の難易によっても生じるが,最大の原因は土質の相違である。土木工事の対象となる土地の土質と水脈の状態が整地費や地盤改良費に大きく影響を与えるからである。

(エ)  傾斜地の宅地造成工事費は特に算定が困難である。高山地区事業の予定地には傾斜地が多い。傾斜地の宅地造成工事費は,その傾斜度によって金額が大きく異なる(甲63の330頁,332頁,335頁の各表を参照)。また,蓮田,池沼その他特殊な形状等により一般的な相場で算定することが不適当な場合や,傾斜度が30度を超えるような場合は,工事費がケースバイケースなので個別に算定するほかない。

(オ)  本件宅地造成工事の工事面積は広大であり,従って土質も様々である。また,土質の違いによって整地費や地盤改良費は大きく変化する。したがって,本件では,宅地造成工事費の算定は困難を極める。本件では面積が広い分,強固な岩盤等の存在も予測され,その場合には岩盤を破砕するため特殊な機械が必要になり,その分経費がかさむことになる。

(カ)  それに加えて,立木がある場合は,その補償費や抜根費用が別途必要になるし,業者の施工能力によっても工事費は異なり得る。

オ  また,被控訴人は,競合する他の事業者が公開していないにもかかわらず,被控訴人のみが上記情報の公開を余儀なくされること自体が,企業経営上の正当な利益を害すると主張するかのごときであるが,正当な利益の内容については,経営主体,事業の性格,内容等に応じて判断する必要があり,その開示の範囲は同条2号の法人等とでは当然異なり,国又は地方公共団体が経営する企業に係る情報の不開示の範囲は,より狭いものとなることも法の当然に予定するところであるところ,民間事業者は利潤の追求を目的として設立されるものであるのに対し,既にみたように,被控訴人が,これとは異なる目的で設立され,一定の範囲で行政庁の監督を受けるとともに,国民への説明とその監視のもとに置かれることが要請されることを考慮すると,個々の競争上の不利益は相対的に考慮されざるを得ず,被控訴人の正当な利益は,上記要請との関係で相応の譲歩を強いられ,一定の情報の開示によって,その開示を要さない他の民間事業者との関係で,一般的,抽象的な意味での競争上の不利益が考えられるとしても,そのことのみで法5条4号トにいう正当な利益を害することにはならないというべきである。

カ  したがって,上記情報の公開による侵害発生の蓋然性が法的保護に値する程度に認められるということはできず,他にこの点を認めるに足りる証拠はない。したがって,土地取得台帳に記載された情報は,法5条4号トが定める不開示情報に該当するといえない。

(5)  以上によれば,土地取得台帳のうち地権者が個人である土地に係る契約金額,支払額,補償金額,補償契約日の部分を除く部分を不開示にした処分は違法である。

3  丈量図に記載された情報の不開示情報該当性(争点(2))

(1)  地権者が個人の場合(法5条1号該当性)

ア 法5条1号にいう「個人に関する情報」については,個人にかかわりのある情報であれば,原則として同号にいう「個人に関する情報」に当たると解すべきことは既にみたとおりであるところ,丈量図に記載された情報は,当該土地の地番,土地の形状及び実測面積と,周辺隣地の地番及び境界位置の座標値並びに座標求積表及び実測面積であり(なお,乙39),地権者が個人の場合,その所有する土地に関する情報は,個人にかかわりのある情報といえるから「個人に関する情報」に該当する。

イ 丈量図に記載された情報のうち,当該土地及び周辺隣地の地番,土地の形状,境界位置の座標値及び実測面積は,これらを高山地区における不動産登記簿,公図等の他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなる情報であるから,これらの情報は,法5条1号の「個人に関する情報であって,……他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるもの」に該当する。

ウ 法5条1号ただし書イは,「法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定された情報」は開示しなければならないと規定しているところ,前項記載の情報のうち,当該土地及び周辺隣地の地番,土地の形状,境界位置等は不動産登記簿及び公図等によって公にされた情報であるということができるし,前記方法によって特定され得る個人名も不動産登記簿上で公にされたものにすぎない。また,座標求積表(同表に座標値の記載があるとすれば,その点については後記のとおりである。)は,実測面積の算出根拠を示すものにすぎないから,そもそも個人識別情報とはいえず,これを公にすることにより個人の権利利益を害するおそれがあるといえないことも明らかである。

もっとも,土地の形状,境界位置,座標値及び実測面積については,不動産登記簿や公図上の記載が必ずしも正確とはいえないことから,厳密な意味では「法令の規定により又は慣行として公にされた情報」に該当しないこともあり得るが,これらの情報も,少なくとも「公にすることが予定された情報」に該当するというべきである。けだし,丈量図に記載されたこれらの情報は,不動産登記制度(公図等を含む。)が公にすることを予定している土地の所在や地積,形状等の不動産の客観的な属性にほかならず,仮に,丈量図に記載された情報が,不動産登記簿及び公図上の情報よりも正確なものであるとしても,それは,技術的な制約等がなければ,本来,不動産登記制度が実現しようとするものにすぎない上,それらの情報の秘匿を要するものとすべき合理的な理由も見出せないからである。

被控訴人は,丈量図における「境界」が隣地所有者の立会の上で確認した地点に基づくものであることから,その結果算出された面積(実測面積)についても,性質的にも数値的にも,公簿面積と異なる旨主張するが,上記立会いは,本来あるべき公法上の境界を確認するためになされたものと推認されるところであり,公法上の境界と無関係に,これとは別異の境界線を合意するためのものであったことをうかがわせるような特段の事情を認めるに足りる証拠もないから,上記被控訴人の主張は採用することができない。

また,被控訴人は,土地の所在や地番も必ずしも不動産登記簿の記載とは一致しないから法5条1号ただし書イに該当しないとか,不動産登記法は,権利に関する登記について登記を強制するものではないから,この点を登記に反映させることは不動産登記制度の予定するところではないとも主張するようであるが,前者の点については,前記の説示がそのまま妥当する上,仮に一部にそのような土地が存するとしても被控訴人は,いかなる土地がそのような事態になっているかについて具体的に特定した主張,立証を行っていない以上,丈量図に記載された情報は,いずれも同ただし書イに該当するものというべきであるし,後者の点についても,被控訴人指摘の点は,対抗要件制度という技術的な理由によるものにすぎず,前記判断を左右するものではない。この点に関する被控訴人の主張も採用することができない。

エ したがって,地権者が個人の場合に丈量図に記載された情報は,法5条1号ただし書イの情報に該当するから,地権者が個人である土地の丈量図を不開示にした処分は違法である。

4  土地取得状況報告書に記載された情報の不開示情報該当性(争点(3))

(1) 土地取得状況報告書は,被控訴人が土地取得を実施中の地区について,土地取得に係る費用を,毎月1回,支社長から本社担当部長に報告するために作成された文書であって,同報告書に記載された情報は,前記引用に係る原判決第2の2(5)ウのとおりであって,「全体計画」は,機関決定がされた用地取得面積,登記地目ごとの用地購入費及び補償区分ごとの補償費等の総額であり,「年間計画」は,全体計画のうち,当該年度における取得面積,用地購入費及び補償費等の総額である。「用地購入費」は登記地目ごと,「補償費等」は補償区分ごとの当月分,年度計,地区総累計の金額を記載しており,「支出済金額」欄には前年度以前契約分と当年度契約分に区分し,当月分・年度計・地区総累計に区分して用地購入費及び補償費等を記載している。

(2) 被控訴人は,土地取得状況報告書には,被控訴人における土地取得の原価及び仕入れ状況,事業計画の内容及び進捗状況等の被控訴人における経営戦略に属する情報が含まれており,このような情報を,他の事業者との競合の中で,被控訴人のみが上記情報の公開を余儀なくされることは,企業経営上の正当な利益を害するおそれ(法5条4号ト)がある旨主張する。

しかしながら,前記1及び2(4)の認定説示を前提として考えると,まず高山地区の土地取得状況報告書については,同報告書が,同地区全体の地目ごと,補償区分ごとの契約金額等の総計を記載しているものにすぎないこと,進捗率等についても,開示が問題となっているのは平成15年2月分のみである(原判決別紙不開示決定目録参照)上,この時点では土地取得自体はほとんど終了していると考えられること(被控訴人は,この点について特段の反証をしていない。)からして,これが被控訴人主張のような企業経営上の戦略に属する情報としての側面を有するとしても,その戦略的意義は小さく,これらを公開したとしても,競争上の地位が害される等,被控訴人の企業経営上の正当な利益が害されるおそれが,法的保護に値する程度の蓋然性をもって存在するものとは認め難い。

次に,田原地区,祝園地区の土地取得状況報告書についてみると,進捗率等の点については,これらの地区の土地買収は既に終了しているから,その戦略的意義が乏しいことは高山地区の報告書について述べたのと同様であるし,これらの地区においては既に分譲が開始されており,現に木津川台地区,精華台地区における民間事業者の分譲事業との競合が生じていることがうかがわれるとはいえ,同報告書が,同地区全体の地目ごと,補償区分ごとの契約金額等の総計を記載しているものにすぎないことや,被控訴人の田原地区,祝園地区における既分譲地(定期借地権の設定によるものを含む。)については,既に販売価格等が広告によって明らかになっていること(甲54,乙27の1〜8,28の1・2)を考慮すれば,競争上の地位が害される等の被控訴人主張のおそれは,いまだ抽象的可能性の域にとどまっているといわざるを得ず,これをもって,被控訴人の企業経営上の正当な利益が害されるおそれが,法的保護に値する程度の蓋然性をもって存在するものとすることはできない。

なお,被控訴人が,競合する他の事業者が公開していないにもかかわらず,被控訴人のみが上記情報の公開を余儀なくされること自体が企業経営上の正当な利益を害するかのごとく主張している点が相当でないことは,既にみたとおりである。

(3)  したがって,各土地取得状況報告書に記載された情報は,法5条4号トの不開示情報に該当しないから,これらの報告書を不開示にした処分は違法である。

5  収入累計調書,計画文書に記載された情報の不開示情報該当性(争点(4))

(1)  収入累計調書について

ア  収入累計調書は,電子計算機によって管理されたデータで月に一度出力され,債権管理にも利用されているものであるが(乙18),これには,前記引用に係る原判決第2の2(5)エのとおり,被控訴人の分譲宅地による割賦金並びに賃貸宅地の保証金及び賃料の年度収入額等が,地区ごとに記載されており,基本的には,そこに記載された情報は,既に分譲された物件についてのものにすぎないものということができる(もっとも,同調書には,元金(即金譲渡価格と管理原価の差額)又は純賃料,造成原価又は公課の当月累計額と当年度累計額も記載されている。)。

被控訴人は,収入累計調書には,被控訴人が宅地分譲事業を行っている各地区における,割賦金の収納額や原価(取得原価,造成原価)等が記載され,これらの文書は,被控訴人における宅地分譲事業に関する状況,及びこれに基づいた今後の計画内容等に関する情報であり,経営戦略に関する情報であって,競合する事業者がある中で,被控訴人のみがこれらの情報を公開されることによる不利益は深刻であり,法5条4号ニ及び同号トに該当するなどと主張するが,競合事業者のある中で,被控訴人のみがこれらの情報を公開されることの不利益の点は既にみたとおりであるし,法5条4号ニ及び同号ト所定のおそれについても,上記のような抽象的な主張をするだけで,具体的な主張,立証をしておらず,本件全証拠によってもこれを認めるに足りない。

イ したがって,収入累計調書に記載された情報は,法5条4号ニ及び同号トの不開示情報に該当するとはいえないから,同文書を不開示とした本件各処分は違法である(ただし,高山地区については,分譲が開始されていないため,資料自体が存在しない。)。

(2)  計画文書について

ア  計画文書は前記引用に係る原判決第2の2(5)オのとおり,被控訴人の収入見込額及び分譲宅地・賃貸宅地の供給計画に関する内部資料で,被控訴人本社において保管され,経営分析や経営戦略,経営計画(都市整備事業実施計画等)の立案等に用いられるものであって,これには,分譲宅地の譲渡価格等のみならず,価格決定過程を推測させる各種の情報や経営の資料となり得る詳細かつ具体的な情報が集約されている。

このような情報は,一体として,競合者が存在する宅地分譲事業において企業秘密に属する情報ということができる。このような情報が公にされれば,被控訴人の宅地分譲,宅地賃貸等の事業内容,経営内容が直接,具体的に明らかとなってしまい,被控訴人と分譲事業において現に競争関係にある他の事業者(田原地区及び祝園地区。なお,高山地区については計画文書自体が存在しない。)は被控訴人の事業におけるコスト,収入,経営状況の全容を容易に把握し,譲渡価格の決定過程を検討し,被控訴人より安価な譲渡価格を設定するための方策を講じたり,被控訴人の事業計画と自己の事業計画を比較検討することにより,競争上有利な立場に立つことが可能になることが認められる。

そうすると,被控訴人の公共性等を考慮に入れても,当該情報の開示は,被控訴人の企業経営上の正当な利益を害するおそれが認められ,かつ,そのおそれは法的保護に値する程度の蓋然性を有しているというべきである。

イ したがって,計画文書に記載された情報は,法5条4号トの不開示情報に該当するから,その余の不開示情報該当性を検討するまでもなく,同文書を不開示とした処分は適法である。

第4  結論

その他,原審及び当審における当事者提出の各準備書面記載の主張に照らし,原審及び当審で提出,援用された全証拠を改めて精査しても,当審の認定判断を左右するほどのものはない。以上によれば,控訴人の請求は,主文1項(1)記載の限度で理由があり,その余の請求は理由がない。

よって,原判決を上記の趣旨に変更し,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・若林諒,裁判官・小野洋一裁判官・中村心は転任につき署名押印することができない。裁判長裁判官・若林諒)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例