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大阪高等裁判所 平成17年(行コ)56号 判決 2007年2月27日

主文

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  京都府知事が,控訴人らに対し,それぞれ平成11年1月6日付でした障害基礎年金を支給しない旨の決定をいずれも取り消す。

3  被控訴人国は,控訴人らに対し,それぞれ金2000万円を支払え。

4  訴訟費用は,第1,第2審とも,被控訴人らの負担とする。

5  3につき仮執行宣言

第2事案の概要

1  請求の内容等

本件は,控訴人らが,①被控訴人社会保険庁長官に対し,控訴人Aの平成10年10月8日付国民年金法の障害基礎年金の裁定請求及び控訴人Bの同月14日付同裁定請求につき,京都府知事がそれぞれ平成11年1月6日付でした障害基礎年金を支給しない旨の決定(以下,両決定を指す場合「本件各処分」,控訴人Aに対する決定を指す場合「控訴人Aに対する本件処分」,控訴人Bに対する決定を指す場合「控訴人Bに対する本件処分」という。)には,憲法25条,14条に違反する事由があり,国民年金法30条の4の類推適用等をしない違法事由があるなど(控訴人Bについては,予備的に同法30条1項の初診日の認定判断を誤った違法事由がある)として,その取消を求めるとともに,②被控訴人国に対し,同法の立法に関する国会議員及び内閣の行為に国家賠償法1条1項の違法事由,故意,過失があるなどとして,そのため控訴人らが障害基礎年金の支給を受けられなかったことなどを理由に,それぞれ慰謝料として2000万円の支払を求める事案である。

原審裁判所は,控訴人らの請求をいずれも棄却した。

これに対し,控訴人らがいずれも控訴し,前記第1のとおりの判決を求めた。

2  国民年金法の規定と改正の経緯(本件に関連する部分)

原判決2頁5行目から同7頁4行目までのとおりであるから,これを引用する。

3  基礎となる事実関係(争いのない事実のほか,証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)

原判決7頁7行目から同8頁21行目までのとおりであるから,これを引用する。但し,以下のとおり補正する。

原判決7頁7行目の「A」及び同行目の「,以下「原告A」という。)」を削除する。

原判決7頁11行目の「傷害を負い,」の次に「同日を初診日として大阪市α所在のC病院において受診し,」を付加する。

原判決7頁15行目の「B」及び同行目の「,以下「原告B」という。)」を削除する。

原判決7頁22行目の「3月には結婚」を「4月には婚姻」に改める。

第3争点

1  本件各処分取消請求関係

(1)  国民年金法が,昭和34年法において学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,昭和60年改正においても学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,及び控訴人らすでに生じていた学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったこと,平成元年改正後においても,同様に学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったことが,憲法25条,14条に違反するか(争点1-1)

(2)  控訴人らの障害基礎年金の裁定請求につき国民年金法30条の4を類推ないし拡張解釈して適用すべきか(争点1-2)

(3)  学生除外規定の対象となる学生に対し任意加入制度に関する個別の告知,教示をすべきか(争点1-3)

2  控訴人Bに対する本件処分の取消請求関係

控訴人Bの障害の原因となった疾病の初診日はいつか(争点1-4)

3  国家賠償請求関係

(1)  国会議員が,昭和34年法において学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,昭和60年改正においても学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,及び控訴人らすでに生じていた学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったこと,平成元年改正後においても,同様に学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったこと,内閣が,上記のように,学生を強制加入の対象とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給し,学生無年金障害者に対する救済措置を講じる旨の法律案を提出しなかったことにつき,国家賠償法上の違法があるか,また,国会議員及び内閣に同法上の故意過失があるか(争点2-1)

(2)  京都府知事が,控訴人らの障害基礎年金の裁定請求につき国民年金法30条の4を類推ないし拡張解釈して適用しなかったことが,国家賠償法上違法があるか(争点2-2)

(3)  社会保険庁長官らが,学生除外規定の対象となる学生に対し任意加入制度に関する個別の告知,教示をしなかったことが,国家賠償法上違法であるか(争点2-3)

(4)  控訴人らの損害の有無及び額(争点2-4)

第4争点についての当事者の主張

1  本件各処分の効力(争点1-1から争点1-4までのまとめ)

(1)  被控訴人社会保険庁長官の主張

原判決9頁19行目から同10頁11行目までのとおりであるから,これを引用する。但し,以下のとおり補正する。

原判決9頁25行目の「国民年金法」から同10頁初行の「違反しないこと」までを「国民年金法が,昭和34年法において学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,昭和60年改正においても学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,及び控訴人らすでに生じていた学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったこと,平成元年改正後においても,同様に学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったことが,憲法25条,14条に違反しないこと」に改める。

(2)  控訴人らの主張

原判決10頁13行目から同11頁22行目までのとおりであるから,これを引用する。但し,以下のとおり補正する。

原判決10頁14行目の「エ」を「エ及びカ」に改める。

原判決10頁22行目の「オ及びカ」を「オ,カ及びキ」に改める。

原判決10頁24行目の「本件処分」を「本件各処分」に改める。

2  争点1-1(国民年金法が,昭和34年法において学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,昭和60年改正においても学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,及び控訴人らすでに生じていた学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったこと,平成元年改正後においても,同様に学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったことが,憲法25条,14条に違反するか)について

(1)  控訴人らの主張

ア 国民年金制度の概要と問題点等

原判決12頁2行目から同14頁3行目までのとおりであるから,これを引用する。

イ 国民年金法に関する憲法適合性判定基準

原判決14頁5行目から同頁22行目までのとおりであるから,これを引用する。但し,以下のとおり補正する。

原判決14頁5行目の前段として以下のとおり付加する。

「社会保障立法の中でも個人の生命,生存に直結する事柄については立法府の裁量の範囲は相対的に狭くなるものというべきであるから,社会保障給付における別異取扱に関する立法の合憲性判定に際しては,より慎重な態度が必要とされるところ,①差別を受けたと主張する者の境遇が社会におけるいわゆる少数派に属すること,②不利益な取扱に対する救済を求めようとして政治的過程に働きかけてもそれが反映される機会が少なく,司法的救済に頼らざるを得ないこと,③救済を求める利益が当人にとって重大であることといった要素が見られる場合には,裁判所は法律の設けた差別が合理的であるか否かを単純に審査するのではなく,上記の要素を考慮に入れて,法律の目的や手段が合理的であるか否かに立ち入って審査する,いわゆる「厳格な合理性の基準」に従って判断すべきである。」

原判決14頁5行目の「受給者の範囲」の前に「仮に上記「厳格な合理性の基準」によらないとしても,」を付加する。

原判決14頁14行目の末尾に以下のとおり付加する。

「ところで,社会保障立法は,憲法25条との関連で広範な立法裁量が認められていることを根拠に,憲法14条との関連においても広範な立法裁量が認められるとの議論があるが,最高裁昭和57年7月7日大法廷判決(民集第36巻第7号1235頁)が判示したように,憲法25条の違憲審査の枠組と憲法14条の違憲審査の枠組とは別個に考えるべきものであり,社会保障制度の設計に当たって立法府に広範な裁量があるからといって,憲法14条の違憲審査基準が緩和され,社会保障給付において不合理な差別があってよいことにはならない。」

ウ 国民年金法の違憲性

国民年金法が,昭和34年法において学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,昭和60年改正においても学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,及び控訴人らすでに生じていた学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったこと,平成元年改正後においても,同様に学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったことは,後記エないしケのとおり,著しく合理性を欠き,憲法25条,14条に違反する。

エ 昭和34年法において学生を強制加入の対象外としたことの不合理性

原判決15頁4行目から同17頁20行目までのとおりであるから,これを引用する。但し,以下のとおり補正する。

原判決15頁4行目の「平成元年改正以前の国民年金法」を「昭和34年法」に改める。

原判決15頁5行目の「外したことには」を「外したことは,「厳格な合理性の基準」によっても,「合理性の基準」によっても」に改める。

原判決15頁11行目の「これらは」から同頁13行目の末尾までを以下のとおり改める。

「昭和34年法の立法時において,学生除外規定の合理性に関し,上記①②の事実(①については,特に拠出能力の点,②については,特に卒業後被用者年金各制度の適用者になるのが通例及び保険料掛け捨ての各点)が議論された形跡はない。これらは,単に現時点で回顧的に立法の合理性を擁護するために主張された後付けの理屈である。したがって,①②の事実は,立法当時認識されていなかったというべく,立法の根拠,前提となる事実,すなわち立法事実とはいえない。仮にそのような事実があったとしても,当時としては「保険料負担能力のない学生に保険料納付義務を課さない」ということが考えられていた程度であるから,そのことが上記立法の立法目的であったというべきである。ところで,上記立法目的を達成するための手段として,学生を強制加入の対象から除外したことは,次の(ウ)及び(エ)にも述べるとおり,目的と手段の合理的関連性を欠き,著しく不合理である。」

原判決15頁末行の「特に,」の次に「後の」を付加する。

原判決16頁24行目の「及び昭和60年の時点」を「法」に改める。

原判決17頁8行目の「また,」の次に「後の」を付加する。

原判決17頁17行目の「このように」から同頁20行目の末尾までを以下のとおり改める。

「このように,昭和34年法が,「保険料負担能力のない学生に保険料納付義務を課さない」ことを立法目的として,この立法目的を達成するための手段として,学生を適用除外するという著しく不合理な方法をとったため,障害年金を受給する資格のない重度障害者を大量に生み出す結果となったものである。その不合理は任意加入制度によって治癒されるものではない。そのことは,保険料免除制度のない任意加入を学生に期待することそれ自体が上記立法目的と矛盾する上に,任意加入者がごく僅かのため,任意加入者制度そのものが機能しなかったことからも明らかである。したがって,学生を強制加入の対象から除外する昭和34年法は,20歳以上の者のうち学生と学生でない者とについて,その社会的身分によって著しく不合理な差別的取扱を行うものである。」

オ 昭和34年法において初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたことの不合理性

原判決17頁23行目から同18頁10行目までのとおりであるから,これを引用する。

カ 昭和60年改正においても学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,及び控訴人らすでに生じていた学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったことの不合理性

原判決18頁13行目から同頁22行目までのとおりであるから,これを引用する。但し,以下のとおり補正する。

原判決18頁16行目の「進学できるようになったこと」を「進学できるようになったほか,昭和30年代後半から急速に発展したモータリゼーションにより交通事故が激増し,それにより重度障害を負うものも急増したと推認されること」に改める。

原判決18頁22行目の末尾に以下のとおり付加する。

「特に,障害者団体によって,昭和50年代以降,無年金障害者に対する障害年金の給付を求める運動が活発に行われ,これらの活動を通じて,学生無年金障害者の存在やその問題性,劣悪な生活環境からの救済の必要性が広く知られるようになり,当時の厚生省や衆参両院議員らに対する要望,要請,陳情等が繰り返されたこともあって,国民年金審議会や社会保険審議会或いは国会においてもこの点が取り上げられ,その救済のために,仮適用,保険料納付猶予,保険料低額負担,初診時未成年者障害年金支給規定の適用等の具体的な提案もなされ,長期間にわたり議論が繰り返された。また,国際的には,昭和50年に国連障害者権利宣言が採択され,昭和56年は「完全参加と平等」をテーマとした国際障害者年とされ,我が国の厚生白書においてもノーマライゼーションの理念(障害者を個人として尊重し健常者との実質的平等を目指す)が規定され,障害者の自立,ことに経済的自立(所得保障)に関する認識が高まっていた。さらに,昭和35年から昭和60年にかけて障害年金の支給対象者の範囲の拡大,事後重症制度の導入,支給要件の緩和等の措置がなされるなど,障害年金の充実のための法改正も進められていた。そのほか,昭和34年法により任意加入制度が創設されたにもかかわらず,昭和62年度末の時点でも学生の任意加入は全体の1.25%に過ぎないことからして,昭和60年改正当時には,任意加入制度が機能不全に陥っており,制度自体の欠陥が創設当時よりも一層鮮明になっていたものであり,制度の欠陥によって生じた無年金者を救済しなければならない状況に立ち至っていた。

このように,昭和60年改正時には,障害者の所得保障の必要性に関する認識も高まり,障害年金の充実拡大の措置がとられる一方で,昭和34年法の学生除外規定の著しい問題性,任意加入制度の欠陥,救済の必要性等が明らかとなっていたにもかかわらず,相変わらず,学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととし,20歳以上の学生のみ任意加入しない限り無年金障害者となり得る状態のまま放置されたものである。」

原判決18頁22行目の次に改行して,以下のとおり加える。

「遅くとも昭和60年改正時における上記のような政治,社会,文化の一般的な状況に照らすならば,昭和34年法立法時の違憲性がより鮮明になっていたばかりか,さらに,当時すでに生じていた控訴人ら学生無年金障害者が苛酷な状況にあることは,昭和60年改正時の改正法審議において報告されていたのであるから,その救済の必要性は明白であったのに,同人らに対し,何らかの年金等を受給できるようにすることなく放置したことは著しく不合理な措置といわねばならない。」

キ 平成元年改正後においても学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったことの不合理性

原判決18頁23行目から同19頁10行目までのとおりであるから,これを引用する。但し,以下のとおり補正する。

原判決18頁23行目の「にもかかわらず」から同頁25行目の「また,」までを削除する。

原判決19頁10行目末尾に次のとおり加える。

「昭和60年法改正時においても,国民年金制度における学生の取扱いについては今後検討が加えられ,必要な措置が講ぜられるものとする(附則4条1項)とされていたのであり,控訴人らすでに生じている学生無年金障害者の救済の必要性については,行政府,立法府ともに十分に認識していたのに放置したことの違憲違法性は明らかである。」

ク 控訴人らの生活状況

原判決19頁12行目から同20頁3行目までのとおりであるから,これを引用する。

ケ まとめ

以上のように,国民年金法が,昭和34年法において学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,昭和60年改正においても学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,及び控訴人らすでに生じていた学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったこと,平成元年改正後においても,同様に学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったことは,著しく合理性を欠き,明らかに立法裁量を逸脱,濫用したものと見ざるを得ず,控訴人らを含む学生無年金障害者が健康で文化的な最低限度の生活を送ることができない状態に放置し,その生存権を侵害するものであるから,憲法25条に違反するとともに,控訴人らを含む学生無年金障害者に対し,20歳以上の学生以外の者及び20歳未満の初診時未成年障害者の双方に不合理な差別を強いるものであり,憲法14条1項に違反するものというべきである。

(2)  被控訴人らの主張

ア 社会保険方式による拠出年金としての国民年金制度

原判決20頁6行目から同21頁4行目までのとおりであるから,これを引用する。

イ 国民年金法に関する憲法適合性判定基準

憲法14条1項は,不均等な法的取扱の禁止を保障し,合理的理由のない差別を禁止する趣旨のものであるところ,国民年金制度のように憲法25条の規定の要請に応える社会保障制度に関する立法における立法府の裁量は広範であるから,そのような法令が憲法14条違反の問題を生じる場合は極めて限定されるものというべきであり,合理的理由を全く欠いた差別的取扱をし,明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるを得ないような場合に限られるというべきである。

ウ 国民年金法の合憲性

国民年金法が,昭和34年法において学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,昭和60年改正においても学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,及び控訴人らすでに生じていた学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったこと,平成元年改正後においても学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったことは,後記エないしケのとおり,不合理ではなく,憲法25条,14条に違反しない。

エ 昭和34年法において学生を強制加入の対象外としたことが不合理でないこと

原判決21頁7行目から同22頁14行目までのとおりであるから,これを引用する。

オ 昭和34年法において初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたことが不合理でないこと

原判決22頁17行目から同23頁20行目までのとおりであるから,これを引用する。

カ 昭和60年改正においても学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,及び控訴人らすでに生じていた学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったことが不合理でないこと

控訴人らの主張カのとおり,昭和60年改正当時,進学率が大幅に高くなり,学生数が増加したとしても,定型的に所得のない学生に保険料納付義務を負わせるべきではなく,強制加入とした場合に親に保険料を負担させる結果となるとか,強制加入とした上で,保険料を免除し,保険料の納付を猶予する制度を設けた場合,学生と同世代で稼得活動に従事し保険料を負担している者との公平を欠くとかの問題が存したことに変わりはなく,現に,後の平成元年改正の際にも,学生を強制加入とすることにつき上記のような問題を根拠とする反対論があったものであり,昭和60年改正の際において,学生除外規定が存続したことが不合理であったとはいえない。また,仮に重度障害者が増加したとしても,国民年金が老齢年金を中心とした制度であることに変わりはなく,上記増加があるからといって,直ちに学生除外規定の合理性が左右されるわけではない。さらに,障害者団体により,昭和50年代以降,無年金障害者に対する障害年金の給付を求めるなどの運動がなされ,審議会や国会における審議において,学生無年金障害者の問題について議論がなされていたとしても,政府や国会においては,常に様々な問題が提起され,提起された諸問題の中から審議検討し取捨選択の上必要に応じて順次問題解決のための立法がなされてゆくものであり,提起された問題をその時点で直ちに解決する立法をしなければ,立法行為に過失があるというものではない。国会審議等において,学生無年金障害者の救済のために,仮適用,保険料納付猶予,保険料低額負担,初診時未成年者障害年金支給規定の適用等の具体的な提案もなされたというが,このように様々な解決案が提案されること自体,どの解決案にも難点があるということであり,この問題の困難さを示すものである。そのほか,昭和35年から昭和60年にかけて障害年金の充実のための法改正が進められた点については,これらは,国民年金に加入し保険料を納付する者に関して行われたものであるから,国民年金に加入しておらず保険料も納付していない学生に関して,同様の救済措置をとるべき義務が生じることにはならない。なお,昭和60年改正により,障害福祉年金が障害基礎年金に一本化されたとの点については,初診時未成年障害者に対する障害基礎年金には国庫が特別に高率の費用負担をし,障害者自身は従来どおり保険料を拠出する必要はないから,同改正前の障害福祉年金と同様に所得制限等種々の制限が定められており,社会福祉的色彩の濃い制度であることに変わりはなく,上記一本化をもって直ちに学生除外規定の合理性が左右されることにはならない。

キ 平成元年改正後においても学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったことが不合理ではないこと

原判決23頁23行目から同24頁19行目までのとおりであるから,これを引用する。但し,以下のとおり補正する。

原判決23頁23行目の「また,」を削除する。

ク 控訴人らの生活状況

控訴人らの主張クは争う。

ケ まとめ

以上のように,国民年金法が,昭和34年法において学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,昭和60年改正においても学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,及び控訴人らすでに生じていた学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったこと,平成元年改正後においても学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったことは,不合理ではなく,憲法25条,14条に違反しない。

3  争点1-2(控訴人らの障害基礎年金の裁定請求につき国民年金法30条の4を類推ないし拡張解釈して適用すべきか)について

(1)  控訴人らの主張

原判決25頁2行目から同頁9行目までのとおりであるから,これを引用する。但し,以下のとおり補正する。

原判決25頁2行目の前段として以下のとおり付加する。

「初診時未加入学生障害者は,定型的に見て稼得活動に従事していないことや所得保障の必要性が高いことなどの点において,初診時未成年障害者と異なるところはなく,また,前者については,平成元年改正までは任意加入の方法があったとしても,任意加入制度は機能しておらず,保険料免除もないなど,実質的には国民年金に加入できない状況にあり,国民年金に加入できない点においても,後者と異なることはなかった。」

原判決25頁5行目の「このように」の次に「類推ないし拡張」を付加する。

原判決25頁8行目の「上記のような」の次に「類推ないし拡張」を付加する。

(2)  被控訴人らの主張

原判決25頁11行目から同頁15行目までのとおりであるから,これを引用する。但し,以下のとおり補正する。

原判決25頁11行目の「前記」の次に「2(2)」を付加する。

原判決25頁12行目の「が設けており」を「を存置し」に改める。

原判決25頁12行目の「が支給されない」を「を支給しないこととした」に改める。

原判決25頁13行目の「違反するものではないから」を「違反するものではなく,また,初診時未加入学生障害者と初診時未成年障害者とは大きくその立場を異にしている上に,控訴人ら主張のような類推ないし拡張解釈をすることは国民年金制度の基盤の否定につながるから」に改める。

4  争点1-3(学生除外規定の対象となる学生に対し任意加入制度に関する個別の告知,教示をすべきか)について

(1)  控訴人らの主張

原判決25頁18行目から同26頁22行目までのとおりであるから,これを引用する。但し,以下のとおり補正する。

原判決26頁16行目の末尾に改行して以下のとおり付加する。

「控訴人Aは,昭和44年4月京都の大学に入学したが,当初は大阪府松原市の実家から通学していたため,京都市発行の「市民しんぶん」を購読する可能性は全くなく,同市の方でも,他地域から同市の大学に通学する大学生らに対する広報活動をしていなかった。控訴人Aは,20歳を過ぎた昭和46年4月から同市内に間借りをして下宿生活を始めたが,町内会にも入っておらず,自治会を通じた連絡事項も届けられることはなく,「市民しんぶん」の配布を受ける機会もなかった。したがって,控訴人Aが「市民しんぶん」を通して国民年金の任意加入制度を知り得る状況にはなかった。

控訴人Bは,向日市に居住し,京都の大学に通学していたが,向日市の「広報向日市」を見たこともない。」

(2)  被控訴人らの主張

原判決26頁24行目から同28頁12行目までのとおりであるから,これを引用する。但し,以下のとおり補正する。

原判決27頁24行目の「広報紙」の次に「(京都市の場合は「市民しんぶん」,向日市の場合は「広報向日市」)」を付加する。

5  争点1-4(控訴人Bの障害の原因となった疾病の初診日はいつか)について

(1)  控訴人Bの主張(予備的主張)

原判決28頁15行目から同31頁5行目までのとおりであるから,これを引用する。

(2)  被控訴人社会保険庁長官の主張

原判決31頁7行目から同33頁25行目までのとおりであるから,これを引用する。

6  争点2-1(国会議員が,昭和34年法において学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,昭和60年改正においても学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,及び控訴人らすでに生じていた学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったこと,平成元年改正後においても学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったこと,内閣が,上記のように,学生を強制加入の対象とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給し,学生無年金障害者に対する救済措置を講じる旨の法律案を提出しなかったことにつき,国家賠償法上の違法があるか,また,国会議員及び内閣に同法上の故意過失があるか)について

(1)  控訴人らの主張

原判決34頁9行目から同37頁7行目までのとおりであるから,これを引用する。但し,以下のとおり補正する。

原判決35頁3行目の「キ」を「ク」に改める。

(2)  被控訴人国の主張

原判決37頁9行目から同38頁8行目までのとおりであるから,これを引用する。

7  争点2-2(京都府知事が,控訴人らの障害基礎年金の裁定請求につき国民年金法30条の4を類推ないし拡張解釈して適用しなかったことが,国家賠償法上違法であるか)について

(1)  控訴人らの主張

原判決38頁16行目から同頁20行目までのとおりであるから,これを引用する。但し,以下のとおり補正する。

原判決38頁16行目の「さらに,」を削除する。

(2)  被控訴人国の主張

京都府知事が,控訴人らの障害基礎年金の裁定請求につき国民年金法30条の4を類推ないし拡張解釈して適用する余地がないことは,前記3(2)のとおりである。

8  争点2-3(社会保険庁長官らが,学生除外規定の対象となる学生に対し任意加入制度に関する個別の告知,教示をしなかったことが,国家賠償法上違法であるか)について

(1)  控訴人らの主張

原判決38頁12行目から同頁15行目までのとおりであるから,これを引用する。

(2)  被控訴人国の主張

社会保険庁長官らに任意加入制度に関する個別の告知,教示の義務がないことは,前記4(2)のとおりである。

9  争点2-4(控訴人らの損害の有無及び額)について

(1)  控訴人らの主張

原判決38頁末行から同39頁16行目までのとおりであるから,これを引用する。

(2)  被控訴人国の主張

原判決38頁18行目のとおりであるから,これを引用する。

第5当裁判所の判断

1  判断の要旨

(1)  本件各処分の効力(争点1-1から争点1-4までのまとめ)について

ア 控訴人Aに対する本件処分

控訴人Aの京都府知事に対する障害基礎年金の裁定請求に係る障害の原因となった負傷の初診日は昭和49年1月2日であり,当時同控訴人は22歳の学生であり,国民年金に任意加入していなかったことは,前記第2の3のとおりであるから,障害基礎年金の支給要件である「初診日に被保険者であること」を充足しないものというべきである。

ところで,国民年金法が,昭和34年法において学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,昭和60年改正においても学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,及び控訴人らすでに生じていた学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったこと,平成元年改正後においても,同様に学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったことは,不合理ではなく,憲法25条,14条に違反しないことは,後記2のとおりであり,控訴人らの障害基礎年金の裁定請求につき国民年金法30条の4を類推ないし拡張解釈して適用すべきものとはいえないことは,後記3のとおりであり,学生除外規定の対象となる学生に対し任意加入制度に関する個別の告知,教示をすべきものともいえないことは,後記4のとおりである。

以上によれば,控訴人Aに対する本件処分は適法であり,その取消請求は理由がない。

イ 控訴人Bに対する本件処分

控訴人Bの京都府知事に対する障害基礎年金の裁定請求に係る障害の原因となった疾病の初診日は昭和57年1月17日であることは,後記5のとおりであり,当時同控訴人は21歳の学生であり,国民年金に任意加入していなかったことは,前記第2の3のとおりであるから,障害基礎年金の支給要件である「初診日に被保険者であること」を充足しないものというべきである。

ところで,国民年金法が,昭和34年法において学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,昭和60年改正においても学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,及び控訴人らすでに生じていた学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったこと,平成元年改正後においても学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったことは,不合理ではなく,憲法25条,14条に違反しないことは,後記2のとおりであり,控訴人らの障害基礎年金の裁定請求につき国民年金法30条の4を類推ないし拡張解釈して適用すべきものとはいえないことは,後記3のとおりであり,学生除外規定の対象となる学生に対し任意加入制度に関する個別の告知,教示をすべきものともいえないことは,後記4のとおりである。

以上によれば,控訴人Bに対する本件処分は適法であり,その取消請求は理由がない。

(2)  国家賠償請求(争点2-1から争点2-3までのまとめ)について

国会議員が,昭和34年法において学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,昭和60年改正においても学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,及び控訴人らすでに生じていた学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったこと,平成元年改正後においても学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったこと,内閣が,上記のように,学生を強制加入の対象とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給し,学生無年金障害者に対する救済措置を講じる旨の法律案を提出しなかったことが,国家賠償法上違法であるとはいえないことは,後記6のとおりであり,京都府知事が,控訴人らの障害基礎年金の裁定請求につき国民年金法30条の4を類推ないし拡張解釈して適用しなかったことが,国家賠償法上違法であるとはいえないことは,後記7のとおりであり,社会保険庁長官らが,学生除外規定の対象となる学生に対し任意加入制度に関する個別の告知,教示をしなかったことが,国家賠償法上違法であるとはいえないことは,後記8のとおりである。

以上によれば,控訴人らの国家賠償請求はいずれも理由がない。

2  争点1-1(国民年金法が,昭和34年法において学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,昭和60年改正においても学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,及び控訴人らすでに生じていた学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったこと,平成元年改正後においても学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったことが,憲法25条,14条に違反するか)について

(1)  国民年金制度

原判決40頁17行目から同54頁19行目までのとおりであるから,これを引用する。但し,以下のとおり補正する。

原判決40頁17行目の「(2)」を削除する。

(2)  憲法25条,14条

原判決39頁23行目から同40頁16行目までのとおりであるから,これを引用する。但し,以下のとおり補正する。

原判決39頁23行目の「(1)」を削除する。

原判決40頁12行目から同頁16行目までを以下のとおりに改める。

「また,憲法14条1項は,国民に対し絶対的な平等を保障したものではなく,差別すべき合理的な理由なくして差別することを禁止している趣旨と解すべきであるから,事柄の性質に即応して合理的と認められる差別的取扱をすることは,何ら同条項の否定するところではない(最高裁昭和39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁)が,憲法25条の趣旨にこたえて制定された国民年金法において,受給者の範囲,支給要件,支給金額等の規定につき,憲法14条1項抵触の有無を判断するに当たっては,前記のように憲法25条の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は立法府の広い裁量にゆだねられ,それが著しく合理性を欠き,明らかに裁量の逸脱,濫用と見ざるを得ないような場合を除き,裁判所が審査判断するに適しない事柄であることを前提として,何ら合理的な理由のない不当な差別的取扱があるかどうかを検討しなければならない。」

原判決40頁16行目の末尾に改行して以下のとおり付加する。

「控訴人らは,前記第4の2(1)イのとおり,社会保障立法は,憲法25条との関連で広範な立法裁量が認められていることを根拠に,憲法14条との関連においても広範な立法裁量が認められるとの議論があるが,最高裁昭和57年7月7日大法廷判決(民集第36巻7号1235頁)が判示したように,憲法25条の違憲審査の枠組と憲法14条の違憲審査の枠組とは別個に考えるべきものであり,社会保障制度の設計に当たって立法府に広範な裁量があるからといって,憲法14条の違憲審査基準が緩和され,社会保障給付において不合理な差別があってよいことにはならない旨主張する。確かに,上記最高裁判決は,憲法25条の趣旨にこたえて制定された法令において受給者の範囲,支給要件,支給金額等につき何ら合理的理由のない不当な差別的取扱をするときは別に憲法14条違反の問題を生じることは否定し得ないところである旨説示しており,この説示によれば,広範な立法裁量ゆえに憲法25条違反の問題がないからといって,直ちに憲法14条違反の問題が生じないというものではないといい得るが,他方で,上記最高裁判決は,憲法14条違反の有無に関し,憲法25条違反の有無の判断に供した諸点をも加味して総合的に判断する旨の説示をしており,また,最高裁平成元年3月2日第一小法廷判決(裁判集民事156号271頁)は,国民年金法の国籍条項等に関し,憲法25条の論点においては,立法府の裁量事項に属するとして同条違反はない旨判断する一方で,憲法14条の論点においては,同条項等による取扱の区別は,上記立法府の裁量の範囲に属することを理由に,合理性が否定できないとして,憲法14条違反はない旨判断しており,さらに,最高裁平成13年3月13日第三小法廷判決(訟務月報48巻8号1961頁,判例地方自治215号94頁)は,国民年金法改正における国籍条項の削除に関し,憲法25条の論点においては,立法府の裁量事項に属するとして同条違反はない旨判断する一方で,憲法14条の論点においては,上記改正により生じる取扱の差異は,上記立法府の裁量の範囲に属することやその他諸事情に照らして総合的に判断すると,何ら合理的理由のない不当な差別的取扱であるとはいえないと説示して,憲法14条違反はない旨判断しており,これら諸判例からすると,憲法25条の趣旨にこたえて制定された法令につき,憲法14条違反の有無を判断するに当たっては,立法府の広い裁量にゆだねられている事実等を前提に,その他諸事情をもあわせ,総合的に合理性の有無を検討すべきものと解される。

なお,控訴人らは,前記第4の2(1)イのとおり,社会保障立法の中でも個人の生命生存に直結する事柄については立法府の裁量の範囲は相対的に狭くなるのであるから,社会保障給付における別異取扱に関する立法の合憲性判定に際しては,より慎重な態度が必要とされるところ,①差別を受けたと主張する者の境遇が社会におけるいわゆる少数派に属すること,②不利益な取扱に対する救済を求めようとして政治的過程に働きかけてもそれが反映される機会が少なく,司法的救済に頼らざるを得ないこと,③救済を求める利益が当人にとって重大であることといった要素が見られる場合には,裁判所は法律の設けた差別が合理的であるか否かを単純に審査するのではなく,上記の要素を考慮に入れて,法律の目的や手段が合理的であるか否かに立ち入って審査する,いわゆる「厳格な合理性の基準」に従って判断すべきであるなどとも主張する。確かに,憲法25条をうけて制定される社会保障立法には,それを要する政治的,社会的,経済的な要因が存在するのであり,それらの個別立法の目的・趣旨によっては,憲法14条に照らして立法の裁量的判断に広狭の差が生じる場合があり,したがって裁判所の事後審査がこれを前提としてなされる場合のあることは否定できないが,これらは,上記説示のその他の事情に包含して理解されるべきものである。」

(3)  国民年金法の憲法適合性の有無

国民年金法が,昭和34年法において学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,昭和60年改正においても学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,及び控訴人らすでに生じていた学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったこと,平成元年改正後においても,同様に学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったことは,後記(4)ないし(7)のとおり,不合理とはいえず,憲法25条,14条に違反するとはいえない。

(4)  昭和34年法において学生を強制加入の対象外としたことの合理性の有無

原判決54頁22行目から同58頁23行目までのとおりであるから,これを引用する。但し,以下のとおり補正する。

原判決55頁3行目の「しかし,」の次に「前記(1)認定の国民年金法制定時の検討,議論の経緯からも明らかなように,」を付加する。

原判決55頁5行目の「前記のとおり」を削除する。

原判決55頁8行目の「取り入れたものであって,」を「取り入れたものである。」に改める。

原判決55頁8行目の「前記」から同頁10行目の末尾までを以下のとおり改める。

「前記(1)認定のとおり,国民年金制度を創設するに当たっては,拠出制と無拠出制のいずれを基本にするかについて検討されたが,昭和34年法においては,自ら保険料を納付し,その納付金額に応じて年金を受領する仕組みに基づいて,老齢を中心として予測できる将来の事態に,自らの力でできるだけの備えをするという自己責任の原則を前提とすることが,制度の発展に有意義であるとの見解の下,他方で,無拠出制を基本とした場合,国の財政負担が膨大となり,将来の国民に過度の負担を負わせることになりかねず,これを避けようとすれば,年金額等の制度の内容は社会保障制度の名に値しないほどの不十分なものとなりかねず,また,その時々の財政事情等により給付が左右されるなどの弊害があることなどが指摘されるなどし,結局,拠出制を制度の基本に据えることとし,ただ,制度発足時点において既に高齢,障害等の事故が発生している者,他制度から移行したことなどにより加入期間が短いため拠出制の年金の支給要件を満たすことができない者等に対しては,その対象を限定して,経過的,補完的に拠出制年金より低額の無拠出制の福祉年金を給付することとしたものであり,このような拠出制を基本とする制度設計は,至極合理的なものというべきである。さらに,被保険者を20歳以上60歳未満の国民としたのは,被保険者は将来に備えるために保険料を拠出するのであるから,稼得活動に従事している者とするのが妥当であり,その範囲を画するに当たり,雇用関係を前提としない者を対象とする国民年金制度においては,通常稼得活動に入っていると考えられる年齢層として上記の国民が考えられたからであり,そのこと自体も,制度設計上の可能な選択肢として合理性を有するものというべきである。以上のように,国民年金制度の基本的な制度設計において,憲法25条に抵触するような事情は認められないものというべきである。

控訴人らは,前記第4の2(1)エ(ウ)において,国民年金制度は,必ずしも現に稼得活動に従事する者のみを対象とした制度ではないとし,その理由として,20歳以上の者を現実の就労の有無を問わないで強制加入の対象とし,現実に就労していない者に対しては保険料免除で対応することとし,また,20歳未満の者も,立法当初は障害福祉年金の対象という形で国民年金制度に取り込まれていることなどを挙げる。確かに,前述のとおり,国民年金制度は,雇用関係を前提としない者を対象とするため,被保険者の範囲を雇用関係の有無によって画することができず,通常稼得活動に入っていると考えられる年齢層として一律に20歳以上60歳未満の者を考えたものであるから,現に稼得活動に従事する者のみを対象としているものではないという点においては,そのとおりである。しかし,被保険者資格は,技術的,政策的な側面から画一的に設定せられるべきものであり,上記のように,通常稼得活動に入っていると考えられる年齢層として20歳以上60歳未満の者を考えたものである以上,雇用関係の有無を前提としていないとしても,国民年金制度が稼得活動従事者に対する保障を本質とするものであることに変わりはないものというべきである。控訴人らは,20歳未満の者が国民年金制度に取り込まれていることを指摘するが,当初の国民年金法は,20歳の前と後とで被保険者資格に差異を設け,20歳未満では被保険者になり得ないため,あらかじめ障害に対する備えをすることが不可能であるから,補完的に福祉的施策として障害福祉年金を支給することとして,20歳以上の者とは趣旨の異なる取扱をしているものであり,上記補完的な取扱をしているからといって,直ちに国民年金法が稼得活動従事者に対する保障を本質とすることが否定されることにはならない。よって,控訴人らの上記主張は採用できない。」

原判決55頁11行目の「前記のとおり」の前にイの二段落として以下のとおり付加する。

「控訴人らは,前記第4の2(1)エ(イ)のとおり,昭和34年法の立法時において,学生除外規定の合理性に関し,①学生は稼得活動に従事しておらず,類型的に稼得能力がないと考えられたため,その拠出能力が問題となった事実(特に,拠出能力の点),②学生は国民年金に加入していても,卒業後,被用者年金各制度の適用者になるのが通例であるから,国民年金の対象者から除外され,多くの場合は,学生の間に納付した保険料が掛け捨てになることが予想された事実(特に,卒業後被用者年金各制度の適用者になるのが通例及び保険料掛け捨ての各点),以上①②の事実が立法過程で議論された形跡はなく,これらは,単に現時点で回顧的に立法の合理性を擁護するために主張された後付けの理屈であるから,①②の事実は,立法当時認識されていなかったというべく,立法の根拠,前提となる事実,すなわち立法事実とはいえない旨主張する。しかし,①の事実については,常識的に見て,当時としても,学生は稼得活動に従事しておらず,類型的に稼得能力がないものと,一般的に認識されていたものと考えられるほか,乙34(339頁,第31国会衆議院社会労働委員会昭和34年3月10日会議録)によれば,坂田国務大臣が,保険料の納付期間を20歳から60歳までの40年間とする点について,「一般的にこの年齢の間であるならば所得が得られておるだろう,つまり,20歳になるならば所得活動に入る,こういうふうに考えられます・・・もちろん学生等の場合においては問題がございましょうけれども,一般的に申し上げますとそういうようなことが言えるんではなかろうか・・・」などと答弁し,これに対し,答弁の相手方らも特段反論していないことが認められ,これによれば,同大臣は,通常学生が稼得活動に従事しておらず,類型的に稼得能力がない旨の認識を当然の前提にして答弁をし,答弁の相手方らも同様であったものと推認できるところ,これを左右する証拠はない。このように,通常学生が稼得活動に従事しておらず,類型的に稼得能力がない以上,拠出能力もないと考えるのが一般的であるというべきであることからすると,①の事実が立法当時認識されていなかったとは到底いい難い。次に,②の事実のうち,卒業後被用者年金各制度の適用者になるのが通例との点については,乙32(国民年金法の解説)によれば,厚生省年金局長小山進次郎が著した昭和34年10月発行の国民年金法の解説には,学生が強制適用から除外されることにつき,学校を卒業し社会に出た後は被用者年金制度に加入する者が非常に多いことが予想されるからであるとの記載があることが認められ,これによれば,当時,このような認識が一般的であったことが推認できる。また,保険料掛け捨ての点については,前記(1)イ認定のとおり,昭和34年法では,国民年金と他の公的年金との被保険者期間の通算措置に関する規定を設けておらず,それについては,速やかに検討を加えた上,別に法律をもって処理されるべきものとしていたのであるところ,国民年金と他の公的保険との通算措置に関しては,一方から他方に移行した場合に,前者の被保険者期間が後者のそれに通算がなされず,前者の保険料が後者のそれとの関係で掛け捨てになることが問題視され,その点の調整解決が課題となっていたのであるから,仮に学生が国民年金の被保険者となり,卒業後に被用者年金制度に加入することになれば,自動的に上記通算措置に関する問題が生じることは明らかであることからすると,当然,上記の点も認識され,検討の対象となっていたものと推認するのが相当である。したがって,②の事実が立法当時認識されていなかったとは到底いい難い。上記主張は理由がない。

さらに,控訴人らは,前記第4の2(1)エ(イ)のとおり,昭和34年法の立法時において,「保険料負担能力のない学生に保険料納付義務を課さない」ということが考えられていた程度であるから,そのことが上記立法の立法目的であったというべきであるとして,上記立法目的を達成するための手段として学生を強制加入の対象から除外したことは,目的と手段の合理的関連性を欠き,著しく不合理である旨主張するが,この点は,国民年金制度が,拠出性を基本として制度設計されたことから,類型的に稼得能力がない学生に当然に保険料を課することの問題性から任意加入にとどめたものであり,学生を当然に被保険者と位置づけ,保険料納付義務を課さないとの見地から制度が検討されながら,立法目的と手段を逆転した立法がなされたとの経過事実は認めがたく,上記主張は前提を欠くものとして採用できない。」

原判決55頁11行目の「前記のとおり,平成元年改正に至るまで」を「前記(1)ア(エ)認定のとおり,昭和34年法では,」に改める。

原判決55頁14行目の「問題があること」の次に「,学生は,通例,大学を卒業して,社会に出た後は被用者年金制度に加入することになるところ,学生を強制加入の対象とすると,多くの場合は,卒業後就職して被用者年金制度に加入して,国民年金の対象者から外れることとなるが,その場合には学生時代に納付した保険料が掛け捨てになること」を付加する。

原判決55頁16行目の「乏しいもので,」から同頁18行目の末尾までを「乏しいといった事情は,昭和34年法制定当時から,その後も変わらず存在し続けているものと考えられる(もっとも,後の昭和60年改正により各年金制度間の通算の問題が解決されたことから,上記保険料の掛け捨ての問題は解消された)。」を付加する。

原判決55頁21行目の「前記のとおり」を「前記(1)ア認定のとおり」に改める。

原判決55頁25行目の「前記認定のとおり」を「前記(1)エ認定のとおり」に改める。

原判決57頁11行目の末尾に改行して以下のとおり付加する。

「要するに,昭和34年法が,学生を強制加入の対象から除外したのは,国民年金制度が稼得活動従事者に対する保障を基本とし,被保険者が保険料納付義務を負うため,類型的に稼得活動に従事していない学生に保険料納付義務を負わせることには問題があると考え,学生は卒業後被用者年金各制度に加入するのが通例と考えたことによるものである。そして,国民年金が老齢年金を中心とした制度でもあるため,学生にとって当面の加入の必要がそれほど大きくない状況にあったことや,障害年金の関係でも,学生である期間中の障害の発生率もかなり低いものであったことからして,原則的に学生を強制加入の対象から除外し,例外として,保険料を負担してでも非加入の不利益を回避したい者のために任意加入の道を開いたものであり,このことは,制度設計のあり方として合理的な選択肢のひとつというべきであり,これをもって不合理とはいえない。

控訴人らは,学生を強制加入の対象とした上で,学生納付特例制度等のように申請による保険料免除制度等を採用すれば足りた旨主張する。しかし,通常稼得活動が可能な20歳に達した後も稼得活動に従事することなく学生であることを選択した者に対し,保険料を免除した上,障害年金を給付することは,稼得活動に従事して保険料を負担する他の20歳以上の者と比べると,学生のみを優遇し,不公平であるとの指摘も可能であり,現に,平成元年改正法の国会審議の際においても,この点の議論がなされたことは,前記(1)エ(ウ)b認定のとおりであったほか,学生の強制加入や保険料負担の問題について様々な見解があり,種々検討が重ねられ,紆余曲折を経て平成12年改正により学生納付特例制度が創設されたものであることは,前記(1)ウないしオ認定の経緯のとおりである。このような複雑な利害や判断が絡む問題については,その時々の社会条件,一般的な国民生活の状況や稼得能力及び保険料負担の実態,世論等の社会情勢等を考慮するとともに,それ自体財政負担を要する事態でもあるから,国の財政事情等をも総合した高度の専門技術的考察に基づいた政策的判断を要することは明らかである。したがって,学生を強制加入の対象とした上で,学生納付特例制度等のように申請による保険料免除制度等を採用しなかったからといって,直ちに制度設計が不合理であったとすることはできない。」

原判決58頁10行目の末尾に改行して以下のとおり付加する。

「控訴人らは,前記第4の2(1)エ(オ)のとおり,昭和34年法が「保険料負担能力のない学生に保険料納付義務を課さない」ことを立法目的としながら,保険料免除制度のない任意加入を学生に期待することは,それ自体立法目的と矛盾するとも主張する。しかし,「保険料負担能力のない学生に保険料納付義務を課さない」ことのみが立法目的であるとはいえないことは,前述のとおりである。もっとも,学生を,稼得能力がないことを理由に強制加入の対象から除外しながら,保険料免除制度を伴わない任意加入制度を設けることは,別途,学生及び世帯主の経済的格差による加入未加入の区別を生む側面はあるが,学生を一律に強制加入の対象から除外した理由が上記のとおりであってみれば,拠出性社会保険との制度設計に矛盾抵触しない範囲で学生を被保険者とすることは,なお制度の選択決定として合理性を失うものでないと解せられる。

また,控訴人らは,前記第4の2(1)エ(オ)のとおり,学生除外規定により学生が障害年金を受給することができないことの不合理性を主張する。確かに,障害年金に限定して論ずれば,被保険者となる必要性は,学生とそれ以外の者とに変わりはないから,学生をせめて障害年金の受給につき強制加入の対象とするという制度選択も考えられないわけではない。しかし,前述のように,国民年金における保険料は老齢年金の支給をその目的の中心として設定されていることから,その大半が老齢年金に充てられ,障害年金に充てられるのはごく一部であることや,学生の期間中の障害の発生率がかなり低いことなどからすると,障害年金の必要性のみに着目して学生を強制加入の対象とすることは,立法の必要性と対比して学生ないし世帯主に大きな負担を生じさせることとなって,その合理性に疑問の余地がないではなく,また,老齢年金と障害年金を切り離して,障害年金についてのみ学生を強制加入の対象とするといった制度設計も考えられないわけではないが,学生に関する問題のみを理由に,国民全体の年金制度設計において,保険料のごく少額の障害年金制度を別途創設するか,あるいは任意加入制度により上記問題の解決を図るかの選択は立法裁量の範囲内にあると考えられ,したがって,学生が障害年金につき強制適用の対象とならなかったことをもって,直ちに不合理であったとすることもできない。」

原判決58頁13行目の「のみならず」から同頁14行目の「においても」を「おいて」に改める。

原判決58頁17行目から同頁18行目にかけての「前記(2)ア(エ)b」を「前記(1)ア(エ)b」に改める。

原判決58頁23行目の末尾に改行して以下のとおり付加する。

「控訴人らは,前記第4の2(1)エ(オ)のとおり,学生を強制加入の対象から除外する昭和34年法は,20歳以上の者のうち学生と学生でない者とについて,その社会的身分によって著しく不合理な差別的取扱を行うものである旨主張する。しかし,学生とそうでない者との間の取扱の差異が生じた理由は,これまでに詳述してきたとおりであり,上記取扱の差異には,国民年金の制度設計上の合理的な理由があるものというべきである。上記主張は採用できない。」

(5)  昭和34年法において初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたことの合理性の有無

原判決59頁13行目から同60頁20行目までのとおりであるから,これを引用する。但し,以下のとおり補正する。

原判決59頁13行目の「旧法」を「昭和34年法」に改める。

原判決59頁20行目の「(2)ア(キ)」を「(1)ア(キ)」に改める。

原判決59頁25行目から同60頁2行目までを削除する。

原判決60頁11行目の末尾に改行して以下のとおり付加する。

「補足するに,前述のように,国民年金が拠出制を基本とし,稼得活動に従事し得る年齢層である20歳以上60歳未満の者を被保険者とする制度として設定されたものであるから,初診時未成年障害者に対する無拠出制年金である障害福祉年金は,基本的には国民年金法の被保険者となり得ない者に対する福祉的施策の一環として,補完的な制度として創設され,昭和34年法に包摂されたものというべきである。したがって,初診時未成年障害者に対する障害福祉年金は,原則的な制度に対する福祉的な見地からする特別の例外的な制度であり,初診時未成年障害者に当たらないか当たるかによって,適用される法規定は,原則規定と例外規定に明確に区別され,別に律せられるべきものであるから,初診時未成年障害者に適用されるべき例外規定が,それ以外の者に適用されるべきことにはならない。控訴人らは,初診日を20歳未満とする初診時未成年障害者と20歳以上とする学生無年金障害者とは,稼得能力がなく保険料負担が困難という点で全く差異がなく,初診日が20歳の前か後かという偶然的要素で差別すべきではないなどとも主張するが,国民年金制度は20歳未満の者と20歳以上の者とでは全く別の制度設計をしており,それが不合理でないことは前述のとおりであるから,学生無年金障害者を初診時未成年障害者と同様に扱わないからといって,直ちに不合理ということにはならない。稼得能力がなく保険料負担が困難という点で全く差異がないとしても,前述したように,国民年金制度は,稼得能力の有無や保険料負担の可否という点のみを基本原理にして設計された制度でないのであるから,上記差異がないという事実は,初診時未成年障害者に適用すべき例外規定を,学生無年金障害者に適用すべき根拠とはなし得ない。また,実質的に見ても,学生無年金障害者にも初診時未成年障害者のための障害福祉年金を支給することになれば,20歳以上の者のうち学生についてのみ国民年金に加入しておらず,保険料を負担していなくても障害福祉年金を支給することになるが,そうなると,保険料を納付していなかった20歳以上の学生でない者が障害福祉年金を受給できることは制度上考えられないのであるから,両者間に不公平が生じ,不合理である。」

原判決60頁19行目の「憲法14条,25条に違反する」を「不合理である」に改める。

(6)  昭和60年改正においても学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,及び控訴人らすでに生じていた学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったことの合理性の有無

原判決58頁24行目の冒頭から同59頁8行目の「い。」までのとおりであるから,これを引用する。但し,以下のとおり補正する。

原判決58頁24行目の前に以下のとおり五段落を付加する。

「昭和60年法は,全国民共通の基礎年金制度を導入し,各年金制度間の通算の問題を解消させるとともに,国民年金の被保険者の範囲を拡大し,障害福祉年金を廃止して障害基礎年金に一本化し,無拠出に係る初診時未成年障害者も,一定の要件の下に,拠出に係る障害者と同様に障害基礎年金を受給することができるようにするなどの改正を経たが,学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこと,及び控訴人らすでに生じていた学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったことにつき,従来と変わりはなかったことは,前記第2の2(2),第5の2(1)ウ認定のとおりである。

上記各年金間の通算の問題の解消は,昭和34年法が学生除外規定を設けた理由のうち,保険料掛け捨ての問題が消滅したことを意味するが,その余の理由として挙げられていた,学生が類型的に稼得活動に従事しておらず,保険料負担能力が一般に乏しいといった事情は,相変わらず存在し続けていたほか,このような学生を国民年金の制度上どのように位置付けるかについて,様々な考えがあり,昭和60年当時はもとより,平成元年改正まで種々の議論がなされていたことは,前記2(1)ウ,エ認定のとおりであり,これら事実関係に照らすと,昭和60年改正時点において,学生除外規定の合理性が失われていたとはいい難い。また,同改正時点において初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたことについても,前記(5)説示の昭和34年当時の状況と基本的には変化があったとはいえず,その合理性が失われていたとはいい難い。

従前障害福祉年金を受給していた無拠出に係る初診時未成年障害者も,一定の要件の下に,拠出に係る被保険者である障害者と同様に障害基礎年金を受給することができるようになった点については,その改正の内容からして,拠出制を基本とし,20歳をもって被保険者を区分する国民年金の制度設計そのものに変更を生じたわけでなく,補完的福祉的施策を強化したものと解すべきものであり,これをもって,直ちに学生除外規定や初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないことの合理性を左右する事情とも認め難い。

その他,被保険者の範囲が拡大された点については,これにより無年金障害者になり得る者が減少したことになり,結果として学生のみが取り残されたかのような観がないではないが,学生に関しては種々の議論があったことは,前述のとおりであり,学生以外の部分で被保険者の範囲が拡大されたことをもって,直ちに学生除外規定や初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないことの合理性を左右する事情とも認め難い。

また,昭和50年代から,障害者団体等によって,学生無年金障害者を含む無年金障害者に対する障害に関する年金の給付を求める運動として,厚生省との交渉,請願活動,衆参社会労働委員会の議員に対する陳情等が繰り返され,国民年金審議会等において,この問題が取り上げられ,学生除外規定のあり方につき引き続き検討を要するなどの指摘がなされ,衆参社会労働委員会の審議等において,学生無年金障害者の発生を防止するために,学生も強制加入とし,保険料を半額にするとか,初診時未加入学生障害者にも初診時未成年障害者年金支給規定を適用するとかの提案がなされ,あるいは学生無年金障害者に対する救済措置に関する意見が出されるなどしたことは,前記(1)ウ認定のとおりであり,昭和50年に国連障害者権利宣言が採択され,昭和56年の国際障害者年を契機にノーマライゼーション(障害者を個人として尊重し健常者との実質的平等を目指す)の理念が普及するなどしたことは公知の事実であり,このような状況からすると,昭和60年改正当時は,学生無年金障害者の問題の認知や障害者に対する社会の認識のあり方等の点において,かなりの変化があったものというべきである。しかし,他方,学生の保険料負担能力に疑問があるとして,学生を直ちに強制加入の対象とすることについては未だ議論があり,任意加入の道が開かれた20歳以上の学生と,およそ制度的に加入の道が開かれていない20歳未満の初診時未成年障害者を同列には扱い難いとし,任意加入できるのにそうしなかった期間中の傷病による障害について,過去にさかのぼって年金支給の対象とすることは困難であるなどの議論もあり,そのほか,直ちに学生を強制加入の対象とすると,学生が類型的に稼得活動に従事しておらず拠出能力がないことに変わりはなく,従来の保険料免除基準が本人及び世帯主の所得を基準としており,同居の場合には免除の対象ともならないため,結局,学生の親が学費の負担に加えて学生の保険料まで負担する結果となるとして,この点の解決策を検討する必要が指摘されるなどし,種々の議論を経て,昭和60年改正の際には,学生除外規定の削除は見送られることとなり,ただ,無年金障害者の問題は,今後の課題とされ,衆参両院においては,今後検討を加え,無年金者が生ずることのないよう努力することとするなどの付帯決議等がなされたことも,前記(1)ウ認定のとおりであり,学生無年金障害者の問題の解決の必要性は認識されていたものの,どのような解決策があるかについては未だ議論検討の過程にあり,一義的に解決策があるといった状況にはなかったものというべきである。したがって,上記のような社会情勢の変化や学生無年金障害者の問題の解決の必要性の認識等は見られるとしても,それらをもって,直ちに,国民年金が拠出制を基本とし,稼得活動従事者に対する保障を基本とする制度設計をしていること自体の合理性を揺るがすものとまではいい難く,類型的に稼得活動に従事しておらず拠出能力がないとされる学生につき,昭和60年改正時において,今後検討の必要は認めつつも,強制加入の対象外とし,任意加入に委ねることとしたことをもって,直ちに不合理であるということもできない。また,控訴人らは,すでに生じていた学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったことが著しく不合理であると主張するが,昭和60年改正法が学生除外規定を削除しなかったことが不合理といえないことは上記説示のとおりである以上,これと立法目的を同一とするこの主張も採用できない。」

(7)  平成元年改正後においても学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったことの合理性の有無

原判決60頁23行目から同64頁2行目までのとおりであるから,これを引用する。但し,以下のとおり補正する。

原判決60頁23行目の「前記」から同頁25行目の「いえないのである。」までを以下のとおり改める。

「平成元年改正により20歳以上の学生も強制加入の対象とされたが,それより前まで,初診時未加入学生障害者に障害に関する年金が支給されないものとされてきたことが不合理といえないことは,これまでに説示してきたとおりである。」

原判決61頁16行目の「初診時未加入学生障害者」を「学生無年金障害者」に改める。

原判決61頁17行目の「憲法に違反する」を「不合理である」に改める。

原判決63頁9行目の「(2)カ」を「前記(1)カ」に改める。

原判決64頁2行目の末尾に「なお,これまで説示してきたところによれば,国会が上記のような救済措置を立法しなかったからといって,国民が憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するため所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合(最高裁平成17年9月14日大法廷判決,民集59巻7号2087頁)には該当しないものというべきであり,この点からも,国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではない。」を付加する。

(8)  まとめ

前記(4)ないし(7)のとおり,国民年金法が,昭和34年法において学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,昭和60年改正においても学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,及び控訴人らすでに生じていた学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったこと,平成元年改正後においても学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったことは,不合理であったとはいえないから,憲法25条に違反するとはいえない。

また,国民年金法が,昭和34年法において学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,昭和60年改正においても学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,及び控訴人らすでに生じていた学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったこと,平成元年改正後においても学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったことが不合理といえないことに加えて,そのような立法がなされた由縁については前記(4)ないし(7)のとおりであることをもあわせ考慮すると,そのような立法によって20歳以上の学生と20歳以上の学生でない者及び20歳未満の初診時未成年障害者との間に生じる取扱の差異に生じていたことなどについても,合理的な理由があるものというべきであり,憲法14条違反の問題が生じるとはいえない。

3  争点1-2(控訴人らの障害基礎年金の裁定請求につき国民年金法30条の4を類推ないし拡張解釈して適用すべきか)について

控訴人らは,第4の3(1)のとおり主張するが,国民年金法が,昭和34年法において学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,昭和60年改正においても学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,及び控訴人らすでに生じていた学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったこと,平成元年改正後においても学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったことが,不合理といえず,憲法25条,14条に違反するとはいえないことは,前記2説示のとおり(特に,初診時未成年障害者と初診時未加入学生障害者とを別異に取り扱うことが不合理でないことは,前記2(5)説示のとおり)であるから,国民年金法30条の4(昭和34年法57条)の「初診日において20歳未満であった者」を「初診日において20歳未満の者又は学生」と解釈すべき根拠はないものというべきであり,上記主張は理由がない。

4  争点1-3(学生除外規定の対象となる学生に対し任意加入制度に関する個別の告知,教示をすべきか)について

原判決64頁16行目から同65頁20行目までのとおりであるから,これを引用する。但し,以下のとおり補正する。

原判決65頁2行目の「甲70,」の次に「甲83,」を付加する。

原判決65頁3行目の「乙12の7,」の次に「乙48の1ないし8,乙49の1ないし22,」を付加する。

原判決65頁4行目の「D大学在学中」から同頁5行目の「居住していた」までを「昭和44年4月京都市所在のD大学に入学し,大阪府松原市の実家から通学し,昭和46年4月頃から京都市内に下宿するなどして通学していた」に改める。

原判決65頁6行目の「記事」の次に「(老齢や障害に備えて加入を勧誘する記事を含む。)」を付加する。

原判決65頁20行目の「及び国家賠償」を削除する。

5  争点1-4(控訴人Bの障害の原因となった疾病の初診日はいつか)について

(1)  統合失調症

原判決65頁23行目から同67頁25行目までのとおりであるから,これを引用する。但し,以下のとおり補正する。

原判決65頁23行目の「乙23」の次に「,乙50,乙51」を付加する。

原判決66頁18行目の「制御できるようになった。」の次に「統合失調症において,薬物療法は,病勢を制止し,症状を消退させる効果のみならず,その再発を防止する効果があり,継続的な薬物療法によって,再発が大きく抑制される。」を付加する。

(2)  経緯

原判決68頁初行から同72頁17行目までのとおりであるから,これを引用する。但し,以下のとおり補正する。

原判決68頁初行の「甲3,」の次に「甲4,」を付加する。

原判決68頁16行目の「薬の投与は」を「薬は」に改める。

原判決68頁16行目の「が投与されてから,」を「の処方を受けた後」に改める。

原判決68頁17行目の「投与がされる」を「処方を受ける」に改める。

原判決68頁17行目の「投与されていなかった」の次に「(この間もカウンセリングを受けることは続けていた)」を付加する。

原判決68頁18行目の「投与が続けられた」の次に「(カウンセリングも同様続けられた)」を付加する。

原判決70頁8行目の「統合失調症」の次に「(当時の呼称,精神分裂病)」を付加する。

原判決71頁4行目の「することが決まった」を「式を挙げることが決まった(婚姻の届出は同年4月1日である。)」を付加する。

原判決72頁15行目の末尾に「なお,Eは,問診やF病院のカルテ等の検討の結果,控訴人Bに昭和59年1月当時発症した疾病は統合失調症であったと判断している。」を付加する。

原判決72頁16行目の「原告Bは,平成9年」を「控訴人Bは,G病院医師であるE作成に係る平成9年10月29日付診断書(精神障害者保健福祉手帳用,「精神疾患の病名」欄に「精神分裂病」と,「初診年月日」欄に「昭和59年1月17日」と記載したもの)に基づき,同年」に改める。

(3)  初診日

前記(2)認定のとおり,控訴人Bは,昭和57年1月17日,異常行動によりF病院で受診し,心因反応の診断名で,同年3月14日まで入院治療を受けた後,それ以降,概ね少なくとも月1回程度同病院に通院し,抗精神病薬の投与やカウンセリングの治療を受けるようになり,昭和63年3月12日に医師から「これで治療終了。具合が悪いときは早めに来ること」と告げられるまで,これを継続した(この間,昭和59年7月20日に7日分の抗精神病薬の処方がなされてから同年12月21日まで,昭和62年12月12日に同様7日分の処方がなされてから昭和63年3月12日まで,それぞれ投薬治療を受けず,カウンセリングのみを受けていた時期を含む)こと,上記治療終了の告知から約3週間経過した同年4月1日に異常を訴えて通院を再開し,従前とほぼ同様に抗精神病薬の投与やカウンセリングの治療を受けるようになり,平成3年3月に結婚式を挙げる頃まで,これを継続したこと,その頃から同年9月頃までは同病院に通院することもなく,抗精神病薬の投与やカウンセリングの治療を受けることもなかったが,同月頃婚家の祭りの心労等から精神的に不安定になり異常行動が見られ,同月27日以降再び同病院に通院し,抗精神病薬の投与やカウンセリングの治療を受け続けていたが,異常行動が昂進し,平成4年9月1日同病院に入院して治療を受け,同月11日退院し,それ以降,同病院に通院し,抗精神病薬の投与やカウンセリングの治療を受け続けていたこと,この間,平成7年3月28日から同年4月11日まで,同年7月3日から同年9月5日までそれぞれ同病院に入院して治療を受けたこと,平成8年2月からは京都府立H病院に転院し,平成9年1月からはG病院に転院し,統合失調症との診断名により治療を継続していること,以上の経緯から明らかなように,控訴人Bに対する治療は,昭和59年1月17日から今日までの間,F病院の医師から治療終了を告げられた昭和63年3月12日から再度異常を訴えて受診した同年4月1日までの間及び婚姻した平成3年3月頃からまたもや異常行動が現れて受診した同年9月27日までの間に中断したことを除いて,終始継続されてきたものであるところ,上記治療期間中,控訴人Bの症状は,概ね安定し経過良好の時期もあったものの,病院における投薬やカウンセリングにもかかわらず,精神的に不安定となり,関係妄想,意欲減退,自傷行為の企図等が現れるなどの状態を繰り返し,徐々に悪化してきたものである。控訴人Bの病状につき,F病院の医師は昭和63年10月には統合失調症である旨診断し,G病院のE医師も同様に診断し,あわせて問診やF病院のカルテ等の検討の結果,昭和59年1月発症した疾病も統合失調症であった旨判断している。また,上記治療の中断期間のうち前者の期間は,医師の治療終了の判断後僅か2週間あまりで再び症状が発現しており,後者の期間は,それに先立ち,医師が治療終了の判断をしたわけではなく,その直前頃に,Iに対しては自殺の危険を告げ,一般的な注意をするなどしていた状態下にあり,同期間経過後の異常行動発現後は従前と同様の病状経過を辿っている。このような治療の継続状況,治療期間中の病状の推移,診断病名が統合失調症であること,治療中断に至る経緯,中断期間経過後の病状等に加えて,前記(1)の統合失調症の一般的病態等をも合わせ考慮すると,控訴人Bの疾病は,昭和59年1月の発症当時から統合失調症であり,これが病勢の強弱を繰り返し,ときに一時的な軽減消退状態に向かう時期等を経るなどして,徐々に悪化してきたものと認めるのが相当である(昭和63年3月12日のF病院の医師の「治療終了」との告知も,「具合が悪いときは早めに来ること」との留保付であったことや,約2週間経過後に早くも異常が現れて治療を再開していることなどからして,病勢が一時的な軽減消退状態を呈していたものと認めるのが相当である。また,平成3年3月から同年9月までの治療中断についても,医師の判断によるものではなく,同月には心労等から異常行動が現れてその後は従前と同様の病状経過を辿っていることなどからして,その期間中特段の異常行動が見られなかったとしても,結婚という環境の変化により一時的に病勢が軽減消退していたものと認めるのが相当である。)。

したがって,控訴人Bの統合失調症の初診日は昭和59年1月17日というべきである。

(4)  社会的治癒の有無

原判決72頁19行目から同76頁17行目までのとおりであるから,これを引用する。但し,以下のとおり補正する。

原判決73頁初行の「においても,」の次に「仮に医学的には治癒に至っていない場合であっても,「医療を行う必要がなくなって社会復帰している」という状態が確認できるときは,これを「社会的治癒」と称し,」を付加する。

原判決73頁3行目の「そして」を「ところで」に改める。

原判決73頁8行目の「主張し,」を「主張する。」に改める。

原判決73頁9行目から同74頁8行目までを以下のとおり改める。

「しかし,上記主張は,医師E個人の独自の意見(甲10,証人E)に基づくものであり,これが精神医学界における一般的な見解であることを首肯させるに足りる証拠はない。もっとも,近年,患者や家族の利益を重視する立場から,統合失調症は治らないとする従前からの悲観的治癒観を克服し,統合失調症は再発しやすいが治る疾病であることを前提に,症状が消退し一定期間安定的な社会生活を送ることができていれば,統合失調症から回復したものと見るべきであるとの見解が有力に主張されるようになっていることは,前記(1)のとおりであり,上記E医師の意見もこれに沿うものと解されるが,上記見解自体は,純粋に統合失調症の治癒に関する医学的な学説というよりも,よりよい治療に向けての医師としての積極的な取組や患者と家族に希望を与える治療展開のための実践的なスローガンといった意味合い或いは政策的側面といったものを多分に含むものというべく,これをもって,直ちに国民年金法における統合失調症の社会的治癒の判定の指針ないし基準とすることには客観性の見地から些か躊躇を感じざるを得ない。さらに,上記E医師の意見が薬物治療の有無を問わないとしている点については,投薬しなくても症状が発現しない者と投薬によってはじめて症状の発現が抑えられている者とを同列に扱うことになって不合理である上に,投薬により病状を軽減消退させている患者を治癒といった範疇で捉えること自体,社会通念上疑問なしとしない。また,統合失調症は治癒が困難で,病勢の制止等において薬物療法が極めて重要であることは,前記(1)のとおりであるところ,薬物の投与の有無に関係なくその社会的治癒を論じること自体,その病態と治療の実際から遊離するものといわざるを得ず,統合失調症のみそのように特異な基準で社会的治癒を論じなければならない根拠も見出し難い。かえって,前記(1)のとおり,統合失調症においては,薬物療法は,病勢を制止し,症状を消退させる効果のみならず,その再発を防止する効果があり,継続的な薬物療法によって,再発が大きく抑制されるものであり,このような薬物療法の重要性からすると,薬物療法が行われている者について,医療を行う必要がなくなったとは到底認め難く,社会的治癒があったとはいい難いものというべきである。上記主張は採用できない。」

原判決74頁9行目の「以上の観点から,」を「ところで,控訴人Bは,障害の原因となった疾病である統合失調症の初診日は,はじめて統合失調症につき医師の診療を受けた平成9年1月14日である旨,また,昭和59年1月から診療を受けていた疾病が統合失調症であったとしても,昭和60年1月11日(若しくは昭和61年3月1日)から昭和63年3月31日までの期間又は平成元年8月13日から平成3年9月26日までの期間に社会的治癒の状態になっていたのに,その後再び症状が現れて,それが障害の原因となったのであるから,初診日は,症状が再び現れた後に医師の診療を受けた日である昭和63年4月1日又は平成3年9月27日である旨主張する。しかし,上記主張のうち,はじめて統合失調症につき医師の診療を受けたのが平成9年1月14日であるとする点は,前記(2)認定のように,昭和63年10月19日F病院において統合失調症との診断により治療を受けてきた(なお,前記(2)認定のとおり,F病院の診療録等には「心因反応」や「非定型精神病」といった記載もあるが,これらは統合失調症の確定診断に至るまでの暫定的な診断或いは当時の病名である精神分裂病という診断名を回避するためになされたものと考えられる。)事実,その後平成8年2月に京都府立H病院に転院し,平成9年1月14日G病院に転院した事実に照らし,採用の限りではない。そこで,昭和60年1月11日(若しくは昭和61年3月1日)から昭和63年3月31日までの期間又は平成元年8月13日から平成3年9月26日までの期間に」に改める。

原判決74頁13行目の「前記」の次に「(2)」を付加する。

原判決75頁6行目の「3月31日」を「3月12日」に改める。

原判決75頁7行目の「すぎなかった」を「すぎず,同月13日から同月31日までは病勢が一時的に軽減消退していたにすぎなかった」に改める。

原判決75頁16行目の「前記」の次に「(2)」を付加する。

原判決75頁17行目の「結婚し」を「結婚式を挙げ」に改める。

原判決76頁9行目の「9月26日」を「3月頃」に改める。

原判決76頁11行目の「ぎなかった」を「ぎず,同月頃から同年9月頃に異常行動が現れるまでは病勢が一時的に軽減消退していたに過ぎなかった」に改める。

原判決76頁15行目の「は,証拠上認められず」を「をうかがわせるような事実は見当たらないところであり」に改める。

(5)  まとめ

以上によれば,控訴人Bの障害の初診日は昭和59年1月17日というべきであり,控訴人Bの初診日を平成9年1月14日,昭和63年4月1日又は平成3年9月27日とする主張は採用できないから,控訴人Bに対する本件処分は,初診日の認定において正当であり,適法である。

6  争点2-1(国会議員が,昭和34年法において学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,昭和60年改正においても学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,及び控訴人らすでに生じていた学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったこと,平成元年改正後においても学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったこと,内閣が,上記のように,学生を強制加入の対象とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給し,学生無年金障害者に対する救済措置を講じる旨の法律案を提出しなかったことにつき,国家賠償法上の違法があるか,また,国会議員及び内閣に同法上の故意過失があるか)について

国民年金法が,昭和34年法において学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,昭和60年改正においても学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,及び控訴人らすでに生じていた学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったこと,平成元年改正後においても学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったことは,不合理であったとはいえず,憲法25条,14条に違反するとはいえないことは,前記2説示のとおりである。

以上によれば,国会議員が,昭和34年法において学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,昭和60年改正においても学生を強制加入の対象外とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給しないこととしたこと,及び控訴人らすでに生じていた学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったこと,平成元年改正後においても学生無年金障害者に対する救済措置を講じなかったこと,内閣が,上記のように,学生を強制加入の対象とし,初診時未加入学生障害者に無拠出制障害年金を支給し,学生無年金障害者に対する救済措置を講じる旨の法律案を提出しなかったことにつき,国家賠償法上の違法事由があるとはいえないところであり,他に上記違法事由の存在を認めるに足りる証拠もない。

7  争点2-2(京都府知事が,控訴人らの障害基礎年金の裁定請求につき国民年金法30条の4を類推ないし拡張解釈して適用しなかったことが,国家賠償法上違法であるか)について

国民年金法30条の4(昭和34年法57条)の「初診日において20歳未満であった者」を「初診日において20歳未満の者又は学生」と解釈すべき根拠がないことは,前記3説示のとおりであるから,京都府知事がそのような解釈をしなかったことをもって,国家賠償法上の違法事由があるとはいえないところであり,他に上記違法事由を認めるに足りる証拠もない。

8  争点2-3(社会保険庁長官らが,学生除外規定の対象となる学生に対し任意加入制度に関する個別の告知,教示をしなかったことが,国家賠償法上違法であるか)について

社会保険庁長官らに,学生除外規定の対象となる学生に対し任意加入制度に関する個別の告知,教示をすべき義務があるとはいえないことは,前記4説示のとおりであるから,それをしなかったことをもって,国家賠償法上の違法事由があるとはいえないところであり,他に上記違法事由を認めるに足りる証拠もない。

9  結論

以上によれば,控訴人らの請求はいずれも理由がないから棄却すべきところ,これと同旨の原判決は正当であるから,本件控訴はいずれも理由がない。

よって,本件控訴をいずれも棄却し,控訴費用の負担について民事訴訟法67条1項,65条1項本文,61条,行政事件訴訟法7条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡邉安一 裁判官 松本清隆)

裁判官矢延正平は転補のため,署名押印することができない。裁判長裁判官 渡邉安一

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