大阪高等裁判所 平成17年(行コ)80号 判決 2006年2月10日
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が,控訴人に対し,平成15年4月21日付けでした特別土地保有税徴収猶予取消処分を取り消す。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1 事案の要旨
本件は,地方税法(平成15年法律第9号による改正前のもの。以下「法」という。)附則31条の3の2の規定により特別土地保有税の徴収猶予を受けていた株式会社Aが,被控訴人から徴収猶予の取消処分を受けたため,同社を承継した控訴人が,被控訴人に対し,同処分の取消しを求めた事案である。
原審は,控訴人の請求を棄却したため,控訴人は,原判決を不服として控訴した。
【以下,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」及び「第3 争点に対する判断」の部分を引用した上で,当審において,内容的に付加訂正を加えた主要な箇所をゴシック体太字で記載し,それ以外の字句の訂正,部分的加除については,特に指摘しない。】
2 法令の定め
(1) 特別土地保有税
特別土地保有税は,昭和48年に,土地保有に伴う管理費用の増大を通じて土地投機を抑制し,地価の安定を図るとともに土地の供給促進に資することを目的として創設された税制である。
当初は,住宅用地等の非課税土地(法586条)を除き土地の利用度を問わず一律に課税する仕組みを採っていたが,昭和53年に,事務所,店舗,工場施設等で恒久的な利用に供される土地(以下「免除土地」という。)について免除制度が創設された(法603条の2第1項)。
非課税土地については,非課税土地として利用することが確実な計画がある場合に徴収を猶予する制度が規定されていたところ(法601条),平成10年には,免除土地として利用することが確実な計画がある場合の徴収猶予制度が規定された(法603条の2の2)。
さらに,資金繰りの悪化等により徴収猶予を続けている土地が相当数存在することから,未利用地の有効利用を促進するため,平成11年に住宅・宅地供給事業に資する土地の譲渡に係る徴収猶予・納税義務の免除制度(以下「他人譲渡制度」という。)が創設され,平成13年及び平成14年度改正により拡充された(法附則31条の3の2)。なお,平成15年度改正により,平成15年1月1日以降,所有・取得された土地については,当分の間特別土地保有税の課税が停止されている(同改正後の地方税法附則31条)。
(2) 他人譲渡制度
法附則31条の3の2第1項は,次のとおり規定している。
市町村は,法601条第1項に規定する納税義務の免除に係る期間(省略),法602条第1項に規定する納税義務の免除に係る期間(省略)又は法603条の2の2第1項に規定する納税義務の免除に係る期間(省略)(以下本項において「免除期間」という。)が定められている土地の所有者等(省略)が,平成13年4月1日から平成15年3月31日までの期間(当該期間内に免除期間の末日がある場合には,平成13年4月1日から当該免除期間の末日までの期間)内に当該土地を譲渡した場合において,当該譲渡が非課税土地等予定地(当該譲渡の日から2年を経過する日までの期間(工場,事務所その他の建物若しくは構築物の建設又は大規模な宅地の造成に要する期間が通常2年を超えることその他の政令で定める理由がある場合には,政令で定める期間とする。以下本項及び第4項において「予定期間」という。)内に,当該譲渡を受けた者(以下,本項及び次項において「譲受者」という。)が,当該土地を法586条2項各号に掲げる土地(省略。以下本項において「非課税土地」という。)として使用し,若しくは使用させる予定であること,当該土地について法602条1項各号に掲げる者の区分に応じ当該各号に定める土地の譲渡(以下本項において「特例譲渡」という。)をする予定であること又は当該土地を法603条の2第1項の規定に該当する土地(以下本項において「免除土地」という。)として使用し,若しくは使用させる予定であることにつき市町村長の認定を受けた土地をいう。)のための譲渡に該当し,かつ,譲受者が,予定期間内に,当該土地を非課税土地として使用し,若しくは使用させたこと,当該土地について特例譲渡をしたこと又は当該土地を免除土地として使用し,若しくは使用させたことにつき市町村長の確認を受けたときは,当該土地の所有者等の当該土地に係る特別土地保有税に係る地方団体の徴収金(省略)に係る納税義務を免除するものとする。
3 争いのない事実等(認定に供した証拠(書証番号は枝番を含む。)は末尾に掲記)
(1) 控訴人は,全国に「B」,「C」,「D」を展開するスーパーであるが,平成13年12月31日,東京地方裁判所で会社更生手続開始決定(同裁判所平成13年(ミ)第4号)を受け,管財人E及び同Fが選任され,平成15年9月30日,同裁判所で更生計画案認可決定を受けたが,平成17年12月31日,同裁判所で会社更生手続終結の決定を受けた。
株式会社Aは,控訴人の関係会社で,控訴人が出店する店舗の開発行為や不動産事業を展開している会社であり,控訴人同様,平成13年12月31日,東京地方裁判所で会社更生手続開始決定(同裁判所平成13年(ミ)第5号)を受け(以下,同決定後の更生管財人を含めて「G」という。),平成15年9月30日,同裁判所で更生計画案認可決定を受けたが,更生計画により控訴人に吸収合併された。
(2) Gは,平成11年9月30日,別紙物件目録1記載の土地(以下「本件1土地」という。)を取得した。Gは,被控訴人に対し,本件1土地の取得及び保有に関し次のとおり合計5億7360万3100円の特別土地保有税を申告し課税を受けている(甲5から10まで)。
ア 平成11年度の土地取得に係る特別土地保有税
2億3858万9800円
イ 平成12年度の土地保有に係る特別土地保有税
1億1325万0800円
ウ 平成13年度の土地保有に係る特別土地保有税
1億1203万2000円
エ 平成14年度の土地保有に係る特別土地保有税
1億0973万0500円
(3) Gは,本件1土地について,鉄骨造13階建ての複合商業施設及び駐車場を建設する事業計画により,法603条の2の2の規定による免除土地として被控訴人に申請し,被控訴人から,平成11年度から平成13年度の上記特別土地保有税について,平成14年2月22日までの期間徴収猶予の決定を得ていた(甲5から9まで)。
しかし,Gは,本件1土地で予定した開発行為を実現することができず,平成14年2月20日,本件1土地を,本件1土地上に分譲マンションを建築する目的を表示してH株式会社(以下「H」という。)に譲渡し(甲11),同日,被控訴人に対し,他人譲渡制度の適用を求めて特別土地保有税非課税土地等予定地のための譲渡申出書を提出した(乙4)。
被控訴人は,同月27日,法603条の2の2の規定による前記徴収猶予を取り消し,法附則31条の3の2の規定に基づく他人譲渡制度の適用のため,同年8月19日までに特別土地保有税非課税土地等予定地認定申請がされた場合には,同認定の日まで徴収を猶予することとした(乙5)。
Gは,同年5月31日,被控訴人に対し,平成14年度分の特別土地保有税の申告をして徴収猶予を受け(甲10),同年8月6日,被控訴人に対し,Hが本件1土地に分譲マンション,オフィス,ホテル等複合ビルの建設を計画していることを理由に特別土地保有税非課税土地等予定地認定申請を行った(甲12)。
被控訴人は,同年12月3日,Gに対し,法附則31条の3の2第1項の規定に基づき同年2月20日から平成18年9月2日までの期間,特別土地保有税の徴収を猶予する決定(以下「本件猶予決定」という。)をした(甲13)。
(4) Hは,平成14年4月1日,会社分割をし,I株式会社がその事業の一部を承継した。Hは,同日,J株式会社(以下「J」という。)に吸収合併されて解散した。I株式会社は,同日,K株式会社(以下「K」という。)に商号変更し,本件1土地はKに承継された(甲22から26まで)。
Kは,平成14年11月5日,本件1土地を別紙物件目録2記載の土地(以下「本件2土地」という。)と同所5番33の土地に分筆し(甲3),平成15年3月25日,本件2土地の2分の1の共有持分をJに譲渡(以下「本件譲渡」という。)し(乙6,8,調査嘱託),同月26日,被控訴人に対し,本件譲渡に係る本件2土地の共有持分について法附則31条の3の2の規定の適用を受けるため特別土地保有税の非課税土地等予定地のための譲渡申出書を提出した(乙7)。
(5) 被控訴人は,Gに対し,本件譲渡により法附則31条の3の2の規定する要件に該当しなくなったとして,平成15年3月26日付けで本件猶予決定のうち本件2土地の共有持分割合により按分した次の合計1億6765万1600円の特別土地保有税について徴収猶予を取り消し(以下「本件取消処分」という。),平成15年4月21日付け通知書により通知した(甲14)。
ア 平成11年度の土地取得に係る特別土地保有税
6973万4600円
イ 平成12年度の土地保有に係る特別土地保有税
3310万0700円
ウ 平成13年度の土地保有に係る特別土地保有税
3274万4500円
エ 平成14年度の土地保有に係る特別土地保有税
3207万1800円
(6) Gは,本件取消処分を不服として,平成15年6月18日,大阪市長に対し審査請求をしたが(甲15),大阪市長は,同年12月24日,上記審査請求を棄却する裁決をした(甲17)。
これに対し,Gを承継した更生会社株式会社L管財人Eは,平成16年3月24日,本件取消処分の取消しを求めて本訴を提起した。同管財人は,同月31日をもって退任し,同管財人Fが本訴を承継したが,平成17年12月31日,同裁判所で会社更生手続終結の決定を受け,控訴人が本訴を承継した。
4争点
(1) 他人譲渡制度における「譲受者」は,直接の譲受者に限られるか否か。
(控訴人の主張)
他人譲渡制度における「譲受者」は直接の「譲受者」に限られないと解すべきである。
ア 法附則31条の3の2の譲受者を直接の譲受者に限定する規定や,譲渡を1回に限る規定はない。同条を納税者にとって不利益に解釈するのは,「疑わしきは国庫の利益に反して」の法理に反する。
イ 他人譲渡制度の規定は,バブル崩壊後資金繰りの悪化により相当数の土地がいわゆる塩漬け状態になっている状況を打破するため,土地の流動化,有効活用の促進を図る必要があることから規定,改正されたものであるが,土地の所有者等が「譲受者」に土地を譲渡する時点では「譲受者」が再譲渡を予定していなかった場合は,「譲受者」を直接の譲受者に限定する解釈に従うと,土地の所有者等は,自らが全くあずかり知らないところで,自らに選択権が全くない状態でなされた「譲受者」による再譲渡により,徴収猶予を取り消されるという法的に不安定な立場におかれることになるから,土地の処分を差し控えることになる。土地所有者等が徴税猶予取消処分によるリスクを避けるためには,譲受人との間で,譲受人が再譲渡をした場合について損害賠償の合意をすることが考えられるが,回収可能性という点で不安定な地位におかれることになる。また,かかる合意をすることは,「譲受者」の一部再譲渡等による資金融通を閉ざすことになり,「譲受者」の購買意欲を著しく後退させ,土地の譲渡を困難にしてしまうからである。
ウ 投機目的の不動産取引の抑制には,徴収猶予の予定期間内に予定された事業計画の完成を要求すれば足りる。特別土地保有税非課税土地等予定地認定申請書には「非課税又は特例譲渡の予定年月日」が記載され,それをもとに徴収猶予期間が明確にされている。「譲受者」が当初予定されていた特例譲渡に当たらない譲渡により再譲渡した場合や予定期間内に法附則31条の3の2の指定する譲渡や使用(若しくは使用させる)がなされなければ,特別土地保有税の目的及び同法条の条文から,徴収猶予取消処分がなされることは明らかである。
したがって,「譲受者」は直接の「譲受者」に限られないと解したとしても,特別土地保有税の目的や法附則31条の3の2の趣旨に反して当該土地が転々譲渡される不都合は生じない。
エ 法附則31条の3の2第1項は,「譲受者」が,当初から第三者への再譲渡を予定した特例譲渡による徴収猶予及び納税義務の免除の取扱いを規定している。これは,土地所有者等が「譲受者」が再譲渡を最初から既に予定している場合にのみ適用が可能であって,土地所有者等が「譲受者」に土地を譲渡した後に「譲受者」が土地の譲渡を企図し実行した場合には適用されない。
(被控訴人の主張)
法附則31条の3の2の解釈として,同条の「譲受者」が直接の譲受者を指すことは明確である。
ア 他人譲渡制度は,徴収猶予期間内の土地の譲渡については当該徴収猶予を取り消すという原則に対して,譲渡者と譲受者との間で土地の有効利用を条件とした譲渡が期待できることから認められたものであり,当該土地が譲受者から更に第三者に譲渡される等土地の転々譲渡が行われた場合においては,譲渡者と転々譲渡を受けた所有者との間では土地の有効利用を図る趣旨が承継されない不都合が生じるおそれがあることから,譲渡者と直接の譲受者との間における土地の譲渡に限り,政策的に徴収猶予の延長を認める制度を創設したものである。
本件猶予決定では,Gから譲渡を受けたHが特別土地保有税非課税土地等予定地認定申請書に記載された用途を完成させることが徴収猶予の条件となっているのであり,再譲渡により譲受者となったJによる完成が条件となっているのではない。
イ また,他人譲渡制度が適用される土地の所有者等は,法601条,602条及び603条の2の2の規定に基づく徴収猶予を現に受けている者であり,他人譲渡制度の適用を受けると当初の徴収猶予が取り消され,法附則31条の3の2を根拠とする新たな徴収猶予が適用されることになる。これは,他人譲渡制度の規定により救済されるのは1回のみとし,いたずらな徴収猶予期間の延長は認めないとする基本的考え方によるものである。本件譲渡によりJが譲受者となったことによって,Gが再度他人譲渡制度の適用を受けることができないことは明らかである。
(2) 本件譲渡は実質的に存在しないといえるか否か。
(控訴人の主張)
本件譲渡は,Mグループの不動産事業の再編に伴い,Hの吸収分割により,その事業の一部を承継したKから親会社であるJに対してされたもので,その後,KとJが本件2土地上に共同事業として高層ビル・マンション(以下「本件マンション」という。)を建設し,同土地の恒久的な利用を図ったものである。
Jの100パーセント子会社であるHは,会社分割によりKにその事業の一部を承継し,本件1土地はKが承継した。一方,分割後のHは,Jに吸収合併されて解散した。そして,本件1土地の一部であった本件2土地の2分の1の共有持分がKからJに譲渡されたのである。
本件2土地の譲渡だけを捉えれば,形としては別法人間での譲渡であるが,Mグループの不動産事業の再編の実態からすれば,Hを会社分割で事業承継した会社(K)とHを吸収合併した会社(J)との間での不動産の移転にすぎず,法附則31条の3の2が抑制しようとする転売には当たらない。「譲受者」であるHを承継したK自身も,Jの共同事業として本件2土地を含む本件1土地上にマンションを建築した。
そして,Hは,平成14年1月31日当時,Jの100パーセント子会社であること,本件2土地の登記名義はHのままで,Jに移転していないこと,本件マンションの建築確認申請は,Kを建築主としてされていること,本件譲渡の対象は,本件マンション敷地の共有持分であり,非譲渡土地との区別は不可能であることに,上記の取引経緯や,K及びJの関係を考慮すれば,本件譲渡は実質的に存在しないというべきであって,本件譲渡を理由に法附則31条の3の2第1項の適用を失わせることは不当である。
この点,地方税法73条の7が,法人の合併又は一定の場合の分割による不動産の取得について,形式的な所有権の移転に当たるとして,不動産取得税を課さないこととしていることや,特別土地保有税でも同様の扱いをしていること(同法587条)の実質的意義が本件にも当てはまるものである。
(被控訴人の主張)
KとJとは独立した法人格を有する以上,本件2土地の共有持分について転売がされた事実は明らかであり,その持分に相当する部分について徴収猶予が取り消される要件を具備している。
調査嘱託に対する回答のとおり,不動産取得税は,Jに対し課税された上で徴収猶予されていることから,実質的な所有権移転があったことは明らかである。
特別土地保有税は,土地の移転ないし移転後当該土地を保有すること自体に着目して課せられるものである以上,土地の所有者等について登記名義人を基準に判断すべきものではない。
建築基準法上,建築主は建築物の敷地の所有者や地上権者である必要はなく,本件マンションの建築主でないからその敷地の権利者でないとはいえない。本件マンションの販売に係る広告には,Jが事業主,売主として明記されており,Jが同マンション事業に参画していることは明らかである。
第3争点に対する判断
1 争点(1)(他人譲渡制度における譲受者の意義)について
(1)上記のとおり,特別土地保有税は,昭和48年に,土地保有に伴う管理費用の増大を通じて土地投機を抑制し,地価の安定を図るとともに土地の供給促進に資することを目的として創設された税制であるが,免除土地について免除制度が創設され(法603条の2第1項),免除土地として利用することが確実な計画がある場合の徴収猶予制度が規定された(法603条の2の2)。その上,バブル崩壊後資金繰りの悪化により相当数の土地がいわゆる塩漬け状態になっている状況から,土地の流動化,有効活用の促進を図るため,土地の所有者等が,自ら土地の有効利用を図ることを予定した徴収猶予期間内に予定した利用ができず当該土地を譲渡した場合,当該徴収猶予は取り消される原則の下,譲渡者と譲受者との間で土地の有効利用を条件とした譲渡が期待できる場合に,例外的に徴収猶予の継続を認める制度として他人譲渡制度が創設されたものである。
したがって,他人譲渡制度は,土地の有効利用の促進という立法目的のための制度であるとしても,あくまで例外的に徴収猶予の継続を認めるという制度にすぎないから,その文言を離れて,拡張して理解すべきものではない。
(2)控訴人は,租税法の解釈については,「疑わしきは国庫の利益に反して」の法理が存在するから,その法理に従って解釈すべきであると主張するが,仮にそのような法理が存在するとしても,その法理が妥当するのは,法文からは解釈が明らかではない場合であるところ,次に検討するように他人譲渡制度の法文の解釈上,「譲受者」とは土地の所有者等から当該土地の譲渡を直接に受けた者をいうと解すべきことは明らかであるから,控訴人主張の上記法理に従うべき場合でない。
ア 法附則31条の3の2第1項は,特別土地保有税の免除期間が定められている土地の所有者等が,当該土地を譲渡した場合,その譲渡を受けた者を「譲受者」とし,「譲受者」が予定期間内に当該土地を非課税土地等として使用したことなどについて市町村長の確認を受けたときは,納税義務を免除すると規定している。
同項の法文からすれば,土地の所有者等から当該土地の譲渡を受けた者を「譲受者」としていることは明らかであるから,この「譲受者」から当該土地の再譲渡を受けた者までを「譲受者」に含めることは法文の文言とは相容れない。
イ また,同項は,「譲受者」が,当初から第三者への再譲渡を予定した特例譲渡による徴収猶予及び納税義務の免除の取扱いも規定していることからすれば,同項が「譲受者」を土地の所有者等から当該土地の譲渡を受けた者であることを前提としていることは明らかである。
ウ さらに,同条2項は,土地の所有者等が,前記の規定の適用を受けようとする場合には,「譲受者」に対する土地の譲渡の日までに市町村長に対し,その旨の申出をしなければならないと規定しているから,その対象となる土地の譲渡は,「土地の所有者等」から「譲受者」への譲渡であることは明らかであり,したがって,同条にいう「譲受者」は,土地所有者等からの直接の譲受者であることは明らかである。
エ そして,法が同条の「譲受者」を土地の所有者等からの直接の譲受者に限定したのは,当該土地が転々譲渡された場合に,限りなくこの特例が適用されるとしたのでは不都合であることから,土地の所有者等にとってこの特例が適用されるのは1回限りとすべきであるという考え方によるものであり(乙2,11),この考え方に特段不合理な点はない。
(3) 控訴人は,他人譲渡制度の譲受者を直接の譲受者に限定する解釈は,土地の有効利用を阻害することになることを根拠に,法附則31条の3の2の「譲受者」を直接の譲受者に限定して解釈すべきではないと主張する。すなわち,土地の所有者等が「譲受者」に土地を譲渡する時点では「譲受者」が再譲渡を予定していなかった場合において,「譲受者」を土地所有者等からの直接の譲受者に限定する解釈に従うと,土地の所有者等は自らが全くあずかり知らないところで,自らに選択権が全くない状態で起きた事象である「譲受者」による再譲渡により,いつとも分からない状態で徴収猶予を取り消されるという法的に不安定な立場におかれることになると主張する。
しかし,上記のとおり,他人譲渡制度は,例外的な徴収猶予の継続を認めた制度にすぎず,法文の定めも上記のとおり明らかであるから,土地の所有者等に,控訴人の主張するリスクを負わせることとなっても,制度の在り方として不当なものとはいえないから,上記事情をもって,法文から明らかな上記解釈を左右するには至らない。
控訴人の主張するように,譲受者を直接の譲受者に限定しないことが土地の有効利用を一層促進することになるとしても,土地の有効利用を促進するために,いかなる要件の下で他人譲渡制度による特別土地保有税の徴収猶予及び納税義務の免除を認めるかは,土地政策税制としての立法論の問題であり,他人譲渡制度は,上記の限度で土地の有効利用を促進しようとしたものであるにすぎないものと理解できるから,上記のとおり,法附則31条の3の2の解釈として,同条の「譲受者」が直接の譲受者を指すことが明確である以上,控訴人の上記主張を採用することはできない。
2 争点(2)(本件譲渡の実質的不存在)について
控訴人は,本件2土地の登記名義や本件マンションの建築確認申請における建築主がKのままであること,Mグループの不動産事業の再編に伴う本件譲渡の経緯,KとJとの関係,マンション建設が両社の共同事業として行われていることなどを理由に,本件譲渡は実質的には不存在であるから,他人譲渡制度の適用を失わせるものではないと主張する。
しかし,証拠(乙6~8,調査嘱託)によれば,KとJは,別個の法人格を有する株式会社であること,Kは,平成15年3月25日,本件2土地の共有持分2分の1をJに対し,代金11億0300万円で売り,同日,代金全額を受領したこと,Jは,前同日,上記共有持分を取得するとともに,同土地の引渡し及び所有権移転登記に必要な一切の書類の引渡しを受けたことが認められる。
そして,これらの事実によれば,本件譲渡により,本件2土地の2分の1の共有持分は,Jに帰属したことは明らかであり,控訴人が主張する登記名義が変更されていないなどの各事実は,いずれもこの認定を左右するものではない。
このように,本件譲渡は,実質的にも存在するものであり,本件譲渡により,本件2土地の2分の1の共有持分について,Gが本件猶予決定時に予定したHによる土地の有効利用方法が達成できなくなった以上,この限度で,他人譲渡制度の適用の要件に欠けることになったといわざるを得ず,控訴人の上記主張を採用することはできない。
3 なお,控訴人は,「譲受者」であるH(正確に言えば同社を承継したK)が本件1土地について,法附則31条の3の2の本文にいう使用をしていることに変わりがないとして,①本件2土地は,投機目的等の特別土地保有税が抑制しようとした目的で再譲渡されたわけではない,②控訴人に対する徴収猶予の時点で想定されていた用途と全く別の用途で利用されたわけではなく,「譲受者」であるHを承継したK自身も,Jの共同事業として本件2土地を含む本件1土地上にマンションを建築したのであり,Mグループの不動産事業の再編に伴うKとJとの関係を見れば,「譲受者」によって使用されたといって過言ではないと主張している。
しかし,上記①の事実は,「譲受者」が当該土地を使用しているかどうかの判断に資すべき事実ではないし,上記②の事実によっても,上記2の認定説示に照らし,Jに本件2の土地の2分の1の共有持分を譲渡し,同社が共同事業者として加わっている(調査嘱託)のであるから,Kのみが同土地を使用しているとは認め難いことは明らかである。
よって,控訴人の主張は採用できない。
第4結論
以上の次第で,控訴人の請求は理由がないので棄却すべきところ,これと同旨の原判決は正当であるから,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松山恒昭 裁判官 小原卓雄 裁判官 吉川愼一)