大阪高等裁判所 平成17年(行コ)92号 判決 2006年12月13日
主文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨
主文同旨
2 控訴の趣旨に対する答弁
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は,控訴人の負担とする。
第2事案の概要等
1 事案の要旨(本件控訴に至る経緯)
(1) 当事者等
ア 参加人A株式会社(以下「参加人A」という。)は,平成11年9月16日に設立された遊技場の経営等を目的とする株式会社であり,参加人有限会社B(以下「参加人B」という。)は,平成11年10月14日に設立された遊技場の経営等を目的とする有限会社である。
イ 被控訴人は,平成14年3月7日,医療法44条に基づき,京都府知事により設立認可された医療法人であり,代表者は,医師C(以下「C医師」という。)である。
ウ 控訴人は,後記本件各営業許可申請につき,許可権限を有する公安委員会である。
エ C医師(個人)は,原判決別紙物件目録(2)記載の建物(以下「本件建物」という。)において,医療法1条の5第2項所定の「患者を入院させるための施設を有する診療所」(以下「有床診療所」という。)を開設するための医療法27条に基づく構造設備の使用の許可(以下「構造設備使用許可」という。)を得た上で,平成11年3月8日,C医院という名称の診療所(以下「旧診療所」という。)を開設した。
(2) 参加人らは,平成12年2月28日,控訴人に対し,原判決別紙物件目録(1)記載の建物(以下「本件営業所」という。)の東側部分及び西側部分に「ぱちんこ屋」を開設するため,営業許可申請(以下「本件各営業許可申請」という。)をした。
本件営業所の所在地及びその周辺地域は,京都府の風俗営業法施行条例(昭和34年3月25日京都府条例第2号。以下「本件条例」という。)3条1項記載の第2種地域に属しているところ,本件建物は,本件営業所の所在地から100m以内の距離にある。
(3) 控訴人は,平成12年5月25日,本件営業所の所在地から100m以内の本件建物に旧診療所が存在することを理由として,本件各営業許可申請につき,いずれも不許可とする旨の処分をした(以下「本件各不許可処分」という。)。
(4) 参加人らは,本件各不許可処分の取消しを求める訴訟(以下「前件訴訟」という。)を京都地方裁判所に提起したところ,同裁判所は,平成14年1月25日,参加人らの請求をいずれも認容し,本件各不許可処分を取り消す旨の判決(以下「本件取消判決」という。)を言い渡した。
これに対して,控訴人が控訴したが,大阪高等裁判所は,平成14年11月13日,控訴人の控訴を棄却する旨の判決(以下「本件控訴審判決」という。)を言い渡した。控訴人は,これに対して,上告及び上告受理申立てをしたが,最高裁判所は,平成15年7月11日,上告棄却及び上告不受理の決定をし,本件取消判決は確定した。
(5) 被控訴人は,平成14年7月12日,本件建物において有床診療所(患者入院施設を2床とする)を開設するための構造設備使用許可を受けた上で,同年7月15日,本件建物において,医療法人社団D医院という名称の診療所(以下「本件診療所」という。)を開設した。
(6) 控訴人は,本件取消判決が確定したことを受けて,本件各不許可処分を是正するため,本件各営業許可申請について再審査をし,平成15年9月11日,当該申請について,本件営業所における風俗営業(ぱちんこ屋)を許可する旨の処分(以下「本件各許可処分」という。)をした。
(7) 被控訴人は,平成15年12月12日,本件各許可処分の取消を求める趣旨の本件訴訟を提起した。
参加人らは,行政事件訴訟法22条(平成16年法律第84号による改正前のもの。以下同じ。)に基づき,原審において,本件訴訟に参加した。
(8) 原審は,本件診療所は,旧診療所と異なり,本件各許可処分時において,有床診療所に当たるということができる,このように判断することは本件取消判決のいわゆる拘束力に反するものではない,本件各許可処分は,本件条例に定める不許可事由があるのにされたことになるから違法であるとして,本件各許可処分を取り消した(原判決)。
(9) これに対し,控訴人が控訴したのが本件である。
2 基礎となる事実は,次のとおり付加等するほか,原判決の該当部分(2頁24行目から6頁25行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決3頁1行目の末尾に「(以下「公安委員会」という。)」を挿入する。
(2) 同3頁19行目の「以下「本件条例」という。)3条1項は,」を「以下「本件条例」という。)は,風営法4条2項2号,同法施行令6条2号に基づき,3条1項において,」と改め,同頁24行目の「規定している」の次に「(乙36,37)」を挿入する。
(3) 同4頁4行目の「されていた。」に続けて「これらの用語の意味は,同義であると解される[弁論の全趣旨]。」を挿入する。
(4) 同4頁17行目の「は又」を「又は」と訂正し,同頁20行目の「いる」の後に「(甲12)」を挿入する。
(5) 同5頁19,20行目の「ベッドはなくなった」の次に「(なお,本件仮処分決定に定められた期間が経過した同年9月1日に,ベッド2台が再び搬入された。)」を挿入する。
(6) 同6頁5行目の「平成14年1月25日」の次に「(平成13年10月19日口頭弁論終結[乙1])」を,同頁6行目の「判決」の次に「(本件取消判決)」を,同頁8行目の「同裁判所は,」に続けて,「平成14年7月17日に口頭弁論を終結し(乙2),」を各挿入し,同頁9行目の「本件取消判決」を「本件控訴審判決」と改める。
3 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 従前の争点及び主張
[争点1]
本件各許可処分は,本件診療所が本件条例3条1項所定の有床診療所に該当することを否定してされたものとして違法であるか(本件各不許可処分後の事情変更の有無,本件取消判決の拘束力の内容,違法判断の基準時)
ア 被控訴人
原判決8頁8行目の次に改行して,次のとおり付加するほか,原判決の該当部分(7頁5行目から8頁8行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
「エ 以上のとおりであって,本件診療所は,実質的にみても,旧診療所とは異なるので,再度の処分をするに当たり,本件取消判決の拘束力は及ばない。
オ 法人格の濫用に関する控訴人及び参加人らの主張は,争う。
被控訴人には,C医師個人との間に,財産,業務,収支の混同等はなく,法人格の形骸化との評価を免れ得ないような状況は全く存在しない。
C医師が,医療法人の設立を企図した理由は,医療法人にすれば,管理者を置くことによって,複数の医療機関を開設できるからである。」
イ 控訴人
次のとおり付加するほか(なお,(イ)の主張は,当審における新主張であり,参加人らも同旨の主張をしている。),原判決の該当部分(8頁10行目から9頁2行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(ア) 原判決8頁18行目の次に改行して,次のとおり加える。
「すなわち,控訴人は,前件訴訟において,本件各許可処分が正当であるとする根拠として,患者が診療所に一定の時間収容される可能性があれば,診療所の周辺の静穏や清浄な風俗環境を保持する必要性を否定することはできないから,本件条例にいう有床診療所とは,字義どおり,治療のため,患者を一定の時間収容することができれば足りると解すべきであり,旧診療所は,この意味において,第1次医療機関として高度医療機関に転院させるまでの治療のため,患者を一定の時間収容することのできる「患者の収容施設」すなわち,有床診療所に当たると主張してきた。
しかるに,本件控訴審判決により修正された後の本件取消判決は,控訴人の上記主張を採用せず,「本件条例3条1項所定の「患者の収容施設を有する診療所」か否かの判断に当たっては,その診療所の開設者がこれを設けた動機,目的のいかんによってその判断が左右されるものではなく,あくまでも「患者の収容施設を有する」実体があるか否かによって判断すべきものではあるが,このような実体を有する診療所といえるためには,診療と治療のため患者をその施設に収容し(入院させ),安全に管理することのできる人的,物的な態勢が日常的に整えられていることを要するものというべきである。」と判示したのである。」
(イ) 同9頁2行目の次に改行して,次のとおり加える。
「ウ 上記のとおり,C医師個人経営に係る旧診療所と被控訴人の経営する本件診療所は,実質的に同一であり,旧診療所を経営していたC医師と被控訴人の代表者は同一人であって,被控訴人の持つ法人格は形骸に過ぎないものというべきであるから,C医師と被控訴人との人格が異なることを前提とする,本件訴訟における被控訴人の主張は,許されないものというべきである。
すなわち,C医師及び被控訴人は,旧診療所の有床診療所性が否定され,本件各不許可処分が判決によって取り消されたことから,本件取消判決の影響が及ぶことを免れる目的で医療法人を設立したものである。このような医療法人設立は,法律の適用を回避するために法人格を濫用したものというほかなく,被控訴人が,本件診療所は有床診療所性を有しており,本件各営業許可申請を不許可にすることは本件取消判決の拘束力に反しない旨の主張をすることは許されないというべきである。」
ウ 参加人ら
原判決9頁6行目の「処分の」の次に「違法性」を挿入するほか,原判決該当部分(9頁4行目から同頁11行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。
[争点2及び3]
当事者らの主張は,原判決11頁7,8行目を「したがって,本件各許可処分には,何らの手続違背もない。」と改めるほかは,原判決該当部分(9頁12行目から11頁8行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。
(2) 当審における新たな争点
[争点1の2]
前件訴訟の控訴審口頭弁論終結時に既に存在していた,本件各不許可処分の理由とは異なる不許可事由が前件訴訟の弁論で主張されなかった場合において,前件訴訟に係る本件取消判決確定の後,当該不許可事由の存在を理由として,再度の不許可処分をすることの許否
ア 控訴人及び参加人ら
仮に,本件診療所が有床診療所に該当するとしても,本件診療所は,本件取消判決の控訴審口頭弁論終結(平成14年7月17日)の前である同月15日の時点において既に開設されており,控訴人は,当該事由を前件訴訟において主張して,本件各不許可処分の維持を主張することができたにもかかわらず,それを主張せず,その結果として本件取消判決がされ,これが確定したのであるから,控訴人は,参加人らの本件各営業許可申請に対し,本件診療所の存在を理由として,再度の不許可処分をすることは許されないものと解すべきである。このように解さなければ,本来であれば,当初の申請の時点で許可処分を与えられていた筈の参加人らが漸く本件取消判決の確定によって得た地位は,全く無意味に帰することになり,前件訴訟の司法救済の趣旨を失わせるものというべきである。
イ 被控訴人
控訴人及び参加人らの主張は,そのように解すべき根拠はないから,争う。
仮に,そのように解されるとしても,本件診療所が,平成14年7月12日にその構造設備使用許可を受け,同年7月15日に開設した(旧診療所の廃止届がされたのは,同年7月18日である。)だけでは,本件診療所の有床診療所としての実体が備わったということはできない。
すなわち,本件診療所は,有床診療所であるから,「基本診療料の施設基準等に関する告示」(平成14年3月8日厚生労働省告示第73号)及び「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについての通知」(平成14年3月8日保医発0308002)により「有床診療所入院基本料の施設基準に係る届出」を京都社会保険事務局長に対してなし,施設基準に適合するか否か,要件の審査を受け,受理の決定を経て受理番号を得る必要があるのであって,本件診療所が当該届出を京都社会保険事務局に提出したのは,前件訴訟の控訴審口頭弁論終結後である平成14年7月19日であり,京都社会保険事務局によって審査がなされ,本件診療所に有床診療所入院基本料の受理通知がされ,受理番号「(診入院)第×××号」が付されたのは,同年8月29日である。
本件診療所は,そのほか,法令,告示等が求める各種の申請,届出等をし,これらが行政機関によって適法なものと認められて受理されることによって,初めて有床診療所としての実体が備わるのである(これらの各種届出等が受理されたのは,いずれも前件訴訟の控訴審口頭弁論終結後のことである。)。
したがって,本件診療所に医療法人としての有床診療所の実体が備わったのは,前件訴訟の控訴審口頭弁論終結時である平成14年7月17日以降であるから,控訴人及び参加人らの主張は,その前提を欠くものというべきである。
第3当裁判所の判断
1 旧診療所が本件条例3条1項所定の有床診療所に該当しないとした本件取消判決(本件控訴審判決により修正後のもの)の認定判断の大要は,次のとおり付加等するほかは,原判決11頁12行目から同13頁1行目までに記載されているとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決11頁20行目の次に改行して,次のとおり加える。
「医療法が,病院,診療所等の開設及び管理に関し必要な事項並びにこれらの施設の整備を推進するために必要な事項を定めること等により,医療を提供する体制の確保を図り,もって国民の健康の保持に寄与することを目的としていること(同法1条)と,これとの関連で,風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律が,良好な風俗環境を保全するため風俗営業の許可に制限を設けていること(同法4条2項2号)の趣旨及び目的に照らして考えると,患者を一定時間その施設で管理することができれば,安全に管理することができる人的,物的な態勢が日常的に整えられていなくとも,本件条例3条1項所定の「患者の収容施設を有する診療所」(有床診療所)に該当するというような解釈は,採用するに由ないものであるというほかない。」
(2) 同11頁21行目の「イ」の次に「旧診療所には,『心療内科,皮膚科,整形外科 労災・生活保護法 指定医療機関』と書かれた看板や診療時間等が書かれた看板が掲げられていた。また,」を挿入し,同行目の「別紙平面図のものとおおむね同一であって,」を「原判決別紙平面図のとおりであり,」と改める。
(3) 同12頁25行目から同13頁1行目末尾までを次のとおり改める。
「旧診療所は,患者を入院させることができないのは勿論,患者を一定時間安全に管理することのできる人的,物的な態勢が日常的に整えられている状態でもなかったといわざるを得ない。」
2 本件各許可処分時までの本件診療所の実態については,原判決挙示の証拠のほか,甲57の1・2,当審における被控訴人代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば,次のとおり付加等するほか,原判決13頁8行目から同14頁3行目までに記載の事実を認めることができる。
(1) 原判決13頁8行目の「本件診療所」から同頁10,11行目の「設置されている。」までを次のとおり改める。
「本件診療所は,旧診療所の物的設備をそのまま引き継いだものであるところ,その平面図は,本判決別紙平面図のとおりであり,旧診療所とほぼ同一である(受付カウンターの向きが変更されている点が異なる。)。本件建物2階の病室(9.72m2)には,患者入院用のベッド2台が設置されているが,これは,本件仮処分期間経過後,再搬入されたものである。」
(2) 同14頁3行目の次に改行して,次のとおり加える。
「オ 上記イないしエのように,看護師の夜間における勤務態勢が予定されておらず,また,夜間に医師が本件診療所内において緊急の事態に即座に対応してその責任の下に治療行為に携わるような態勢も確立しているとはいえない本件診療所の状況は,旧診療所時代における状況と基本的には同じであり,また,患者が本件診療所2階の病室に設置されたベッドで経過観察した場合においても,国民健康保険団体連合会ないし社会保険診療報酬金に対して,入院措置を執ったことを前提とする診療報酬の請求を一切行わない取扱いも,旧診療所時代から一貫した診療所としての方針であり(旧診療所時代においては,本件仮処分の執行により,病室からベッドが搬出された後は布団が敷かれていたことは本件取消判決認定のとおりであるが,本件仮処分にいう仮の禁止期間が経過した後においては,再びベッドが搬入されたことは上記認定のとおりであり,布団が敷かれていた当時においても,そのような措置が講じられたということは,患者がその上で一定の時間経過観察を受けることがあったことを推認させるというべきである。),更に,本件診療所において診療を受けた患者につき資料を提供して他の病院に入院治療等を依頼することも,旧診療所から引き続いて行ってきたことで,これらのことはいずれも,本件診療所が開設されてから,格別改められたものではない。」
3 前記基礎となる事実に証拠(甲1,2,43,62の1ないし3,63の1・2,65ないし67の各1・2,68,69,70の1,2,71ないし74,75の1・2,乙4,5,6ないし8の各1・2,9,10の1・2,11,12,13ないし21の各1・2,30,31,原審証人E)並びに弁論の全趣旨によれば,更に,次の事実が認められる。
(1) 被控訴人は,平成12年3月9日に医療法人設立認可申請をし,平成14年3月7日に設立認可を受けた。
(2) 本件診療所は,平成14年7月12日開設許可を受け,同日,構造設備使用許可申請(平成14年5月16日)についても,その許可を得た。
(3) 被控訴人は,平成14年7月15日に59名,同月16日に44名,同月17日に47名の患者を診療し,以後,休診日を除き,連日患者の診療を行った。
(4) 本件診療所の開設届は,前件訴訟の控訴審口頭弁論終結時(平成14年7月17日)より後である平成17年7月18日に,同月15日を開設日としてされた(なお,医療法8条は,診療所開設後10日以内に都道府県知事に届出をしなければならない旨定め,届出は開設後にされることを前提としている。)。
(5) 本件診療所は,以下のとおり,診療所開設に伴う各種の申請,届出等をし,あるいは,これらが受理された(もっとも,いずれも,診療所開設が平成14年7月15日にされたことを前提とし,同日からの算定開始,開設,指定等を求めたものであり,また,そのようなものとして受理されている。)。
ア 平成14年7月18日
労災保険取扱指定医療機関変更届出受理
イ 同月19日
有床診療所入院基本料の施設基準に係る届出
同年8月29日
同受理
ウ 同年7月19日
結核予防法指定医療機関指定申請受理
エ 同月19日
生活保護法指定医療機関指定申請受理
オ 同月29日
保険医療機関届出の受理
カ 同月31日
保険医協会への医療機関開設者・管理者変更届
キ 同年8月5日
医師会への医師会費銀行引去念書提出
ク 同月9日
介護給付費の請求及び受領に関する届出受理
ケ 同月13日
保健医療機関指定コード付与
コ 同年9月21日
京都府への法人設立届受理
サ 同月24日
税務署への法人設立届受理
(6) 控訴人が,本件取消判決の確定を受けて,本件各営業許可申請につき調査し,内部的に審議し,その結果として,本件各許可処分をするに至った経緯は,次のとおりである。
ア 平成15年7月24日,控訴人の定例会において,上告審において,本件取消判決が支持されて確定し,今後本件各営業許可申請について改めて審査を行うという今後の対応方針が了承され,当該事務を担当する京都府警察本部生活安全企画課において,次のような調査を実施した。
(ア) 本件各営業許可申請に係る参加人らの営業所が構造設備の基準及び場所的基準等に適合しているか否かについての現場調査
(イ) 都市計画法上の用途地域指定の有無内容(照会・回答)
(ウ) 児童福祉施設該当の有無(照会・回答)
(エ) 被控訴人についての医療法人設立認可の有無(照会・回答)
(オ) 被控訴人の法人登記申請添付書類の閲覧
(カ) 被控訴人の診療所開設許可及び構造設備使用許可の有無(照会・回答)
(キ) 参加人らの営業所周辺及び本件診療所の現場調査
(ク) 本件診療所の夜間開院の有無に関する現場調査
(ケ) 本件診療所の構造設備等の見取図等の写し入手(照会・回答)
(コ) 本件診療所に係る診療報酬請求等の事実調査(照会・回答)
(サ) 旧診療所と本件診療所における患者入院施設の構造設備の差異の確認(照会・回答)
京都市保険福祉局長からの回答は,本件仮処分の執行後,旧診療所を確認した時点においては,構造設備について審査したものでなく,また,両診療所についての構造設備の差異については審査項目でないことから,現時点での差異については回答することはできない,というものであった(なお,控訴人が本件各不許可処分をする際にされた事前調査において,旧診療所から裁判所の仮処分決定により患者収容施設[ベッド等]が撤去された場合,当該診療所が「患者収容施設を有する診療所」に該当するか否か,との警察署長の照会に対し,京都市保険福祉局長は「患者収容施設の実態の有無により判断すべきことであり,具体的事例に則して個別に検討が必要である。」と回答している。)。
(シ) 本件診療所における患者を入院させるための態勢等についての調査(照会・回答)
京都市保険福祉局長からの回答は,患者入院施設を有する診療所における患者を入院させるための態勢については,開設者,管理者において当然に備えるべきものとされており,医療法に基づく診療所の構造設備の使用を許可するに当たっての審査項目でないことから,把握していない,本件診療所については,患者入院施設を有する診療所として,診療所構造設備の使用を許可している,というものであった。
イ 平成15年8月21日の控訴人の定例会において,上記調査結果を踏まえて,旧診療所と本件診療所の共通点(関与医師が同じであること,外観,構造,設備,態勢も同じであること,入院実績がないこと)及び相違点(開設者及び入院設備の点)を比較考慮したほか,本件仮処分決定を考慮することの要否をも検討した上,委員全員一致で,旧診療所と本件診療所は実質的に同一であるとの判断に至り,これらが異なるものであることを前提にして,本件診療所には保護対象施設該当性があるとの取扱いはできないとの結論に達した。
その際,旧診療所と本件診療所の異同を判断するに当たり,名義の差異を重視すべきであるとの意見は出されなかった。
また,本件各許可処分の事務処理担当職員(生活安全企画課課長補佐)は,席上,学説等の調査結果に基づき,本件取消判決の趣旨からすると,前件訴訟の控訴審口頭弁論終結前に本件診療所が開設されているということを前提にして,同じ理由で同じ処分はできないという趣旨の説明をし,更に,他に問題がなければ,警察本部長の専決によって本件各許可処分を行うことの当否についても審議を求めたところ,そのような場合には専決処理して差し支えない旨の了解が得られた。
ウ 平成15年9月11日午前,前記の当該事務担当課において,当日現在において,規制区域内には他に有床診療所は存在しないこと等を照会の上確認し,他に許可処分を与えることにつき障害のないことを確認した上で,警察本部長の専決により,本件各許可処分をすることにつき,決裁が行われ,同日午後開催の控訴人の定例会において,その旨の報告が行われ,その了承を得た上で,参加人らに対し,本件各許可処分に係る許可証が交付された。
4 争点1(本件各許可処分の違法性の有無,本件診療所の有床診療所該当性,本件取消判決の拘束力の内容,違法判断の基準時等)について
(1) 行政処分が違法なものであるかあるかどうかは,処分時を基準として判断すべきものであり,このことは,本件各許可処分についても妥当するものというべきである。その理由は,原判決14頁11行目から同16頁2行目までに説示するとおりであるから,これを引用する。
したがって,本件各許可処分の違法性の有無は,その処分時である平成15年9月11日を基準時として判断されるべきものである。
参加人らは,本件のような場合には,当初の本件各不許可処分時を基準として判断すべきものと主張し,これに沿う意見書もあるが(丙1,46),当裁判所としては,採用しない。
(2) ところで,行政庁は,取消判決に拘束され(行政事件訴訟法33条1項),不許可処分の取消判決があった場合には,当該取消判決の趣旨に従い,改めて許可申請に対する処分をする必要がある(同条2項)。
そして,本件取消判決は,本件各不許可処分時(平成12年5月25日)においては,当時の旧診療所は,本件条例3条1項の有床診療所には当たらないと認定して,本件条例3条1項の有床診療所に当たる旧診療所が本件営業所から100m以内に存在することを理由としてされた本件各不許可処分を取り消したものであるから,本件各不許可処分時には旧診療所が本件条例3条1項の有床診療所には当たらないとの判断につき拘束力が生じることは明らかであり,旧診療所がそのままの状態で上記基準時まで存続していたとすれば,本件取消判決の拘束力が直接に及び,控訴人としては,これと異なる認定判断をすることは許されないものというべきである。
しかし,本件においては,旧診療所そのものでなく,旧診療所の廃止後,本件建物に新たに設置されたとされる本件診療所が本件各許可処分時(平成15年9月11日)において,本件条例3条1項所定の有床診療所に該当するか否かを認定判断した上で,本件各許可処分の違法性の有無を検討すべきものであるから,この両診療所が異なるものと認定されるとすれば,本件診療所が有床診療所に該当すると認定判断することは,格別,上記の本件取消判決の拘束力に反するものではないというべきである。
(3) しかしながら,そのような場合であっても,当裁判所としては,本件取消判決(本件控訴審判決により修正後のもの)と同様,本件条例3条1項所定の有床診療所に該当するか否かの認定判断に当たっては,その診療所の開設者がこれを設けた動機,目的のいかんによってその判断が左右されるものでなく,あくまでも「患者の収容施設を有する」実体があるか否かによって判断すべきものではあるが,このような実体を有する診療所といえるためには,診療と治療のため患者をその施設に収容し(入院させ),安全に管理することのできる人的,物的な態勢が日常的に整えられていることを要するものというべきであり,患者を一定時間その施設で管理することができれば,安全に管理することのできる人的,物的な態勢が日常的に整えられていなくとも,上記の有床診療所に該当すると解釈することはできないものと解するのが相当であると判断する。そして,このことは,医療法上,有床診療所は,診療上のやむを得ない事情がある場合を除いては,同一の患者を48時間を超えて入院させることのないように努めなければならないものとされていること(13条。換言すれば,診療所といえども,その限度で患者を安全に管理することが要請されていること),医療に携わる実務家の間では,外来医療と入院医療とは性質が異なるものと認識されており,後者は,施設の責任において患者の観察,管理,治療に当たるものであるから,自ずから,その施設,設備,人員もその目的に従って整備されなければならないのであって,単に構造設備の使用許可を受けてベッドを設置しているだけでは足りず,入院患者の管理治療に携わる当直医師や深夜(準深夜)勤務の看護師の準備をしておくことが当然と認識されているものと認めることができる(丙23の1ないし4,弁論の全趣旨)。
(4) これを本件についてみるに,本件診療所における態勢は,上記認定のとおりであって,旧診療所の物的設備をそのまま引き継いだだけでなく,看護師の夜間における勤務態勢は予定されておらず,また,夜間に医師が緊急の事態に即応できる態勢も確立しているとはいえない状況にあり,更に,患者を本件診療所2階の病室に設置されたベッドで一定時間経過観察した場合においても,国民健康保険団体連合会ないし社会保険診療報酬金に対して,入院措置を執ったことを前提とする診療報酬の請求を一切行わない取扱いをしており,本件診療所において診療を受けた患者につき資料を提供して他の病院に入院治療等を依頼することも,旧診療所から引き続いて行ってきたことであり,これらのことは,いずれも,旧診療所時代から同様の取扱いであって,本件診療所が開設されてから,格別改められたものではないというのであるから,実質的にみて,診療所としての実態に何ら変更はないというべきである。そうすると,本件の事実関係の下では,上記の説示に照らし,本件診療所は,診療と治療のため患者を当該施設に収容し(入院させ),安全に管理することのできる人的,物的な態勢が日常的に整えられていたものと認定判断することはできないものというべきである。控訴人が本件各許可処分に当たってした上記の調査結果(弁論の全趣旨に照らせば,その調査方法及び調査の範囲は,その事務を担当する行政機関として適切なものと認めることができ,その過程に格別遺漏があったものということはできない。)も,これに符合するものとみることができる。
なお,旧診療所と本件診療所とは,C医師個人と同医師が代表者を務める医療法人である被控訴人とで,開設の主体を異にしているけれども,本件条例の趣旨に照らし,その不許可事由該当性の判断に当たっては,このことが重要な判断要素になるとまでは解し難い。
また,旧診療所時代においては,本件仮処分の執行により,病室からベッドが搬出された後は布団が敷かれていたものであり,本件取消判決における旧診療所の有床診療所該当性否定の認定判断は,そのような設備状況における判断であるとせざるを得ないが,ベッドと布団とで医療法上の差異があるわけではないのみならず,単にベッドが設置されていたということだけで,入院患者の安全な管理に必要な人的手当を欠く態勢における診療所を有床診療所として認定することが適切でないことは,上記説示に照らし明らかというべきであるから,上記の点があるからといって,本件診療所が有床診療所に該当すると認めることができないとの上記判断が左右されるものではない。
(5) なお,原判決は,上記の判断枠組みに従うとしても,ア 旧診療所については,本件仮処分決定の執行によって,入院患者用のベッドが全くない状態となったのに対し,本件診療所には,病室に2床のベッドがある,イ 事後的にではあるが,京都市保健福祉局長が,本件各不許可処分当時の旧診療所について,有床診療所に該当せず,医療法27条に基づく許可(構造設備使用許可)の効力は存続し得ないものとの判断を示していたのに対し,本件診療所については,そのような事情はない,ウ 旧診療所については,平成12年4月までに,経過観察や安静のためにベッドに横になった患者がいるとの事実が認定されなかったが,本件診療所については,上記ベッドにおいて一定時間経過観察する場合があった,との3点において,本件取消判決の考慮要素とした事情と異なるとして,本件診療所が有床診療所に当たると認定判断している。
しかし,アの点が上記判断枠組みにとって重要な事実と評価すべきでないことは上記したとおりであり,イの点も,行政当局が現在のところ,本件診療所の有床診療所性につき積極的な否定的判断をしていないというだけであって,上記判断を左右するものとはいい難い。また,ウの点については,旧診療所において,布団が敷かれていた当時においても,事実上その必要性があったからこそそのような搬入措置が執られたと認めるのが相当であり,患者がその上で一定の時間経過観察を受けたことがあったことが推認できることは前記説示のとおりであるから,これまた,本件取消判決と異なる事情と評価することが適切とはいえない。
したがって,原判決の指摘も,上記判断を左右するものではない。
(6) 以上によると,本件各許可処分の違法性判断の基準時である処分時(平成15年9月11日)の時点においても,本件診療所が本件条例3条1項所定の有床診療所に該当するとは認めることはできないものというべきである。
そうすると,本件各営業許可申請については,本件営業所から100m以内に有床診療所があるとの事実があることにより,本件条例3条1項の不許可事由があるということにはならないものというべきである。
5 争点1の2(前件訴訟の控訴審口頭弁論終結時に既に存在していた,本件各不許可処分の理由とは異なる不許可事由が前件訴訟の弁論において主張されなかった場合において,前件訴訟に係る本件取消判決確定の後,当該不許可事由の存在を理由として,再度の不許可処分をすることの許否)について
(1) 当審における新たな上記争点にかんがみ,更に敷衍するに,仮に上記4のように解さない場合であっても,見方によっては,本件診療所が本件条例3条1項所定の保護対象施設に該当するとも解すべき余地のある根拠事情は,前件訴訟の控訴審口頭弁論終結前に既に生じており,このことを前件訴訟において主張することができたと認められる前件訴訟の後記経過に照らせば,その主張をすることなく本件取消判決が確定した後においては,控訴人は,もはや,当該事由の存在を理由として本件各営業許可申請に対し,不許可処分をすることは許されないものと解するのが相当である。
その理由は,以下のとおりである。
(2) 上記3に認定したところによると,前件訴訟の控訴審口頭弁論終結時である平成14年7月17日以前の時点において,旧診療所は廃止され,それに代わるものとして,本件診療所が,本件建物において,旧診療所の物的設備を引き継ぎ,所要の開設許可及び構造設備使用許可を得て,患者に対する診療を現実に開始しているのであるから,本件診療所は,上記前件訴訟の控訴審口頭弁論終結時において,既に実体として存在していたものといわざるを得ない。
この点に関し,被控訴人は,本件診療所が有床診療所としての実体を具備していると認定するためには,単に診療所が開設されたというだけでは不十分であり,その主張するような各種の申請,届出が受理されることを要し,これらの手続が終了したのは,前件訴訟の控訴審口頭弁論終結後のことである,と主張する。
しかし,本件診療所が上記口頭弁論終結時以前に現実の診療行為を開始していることは上記のとおりであって,被控訴人主張の各種届出は,すべて業務開始に伴う,付随的な事務手続に関するものであるから(なお,これらはいずれも,平成14年7月15日の開設日を前提とするものであることは上記認定のとおりである。),前件訴訟の控訴審口頭弁論終結時の前の時点において,既に本件診療所は実在していたという上記事実認定を左右することはできないものというべきである。
(3) ところで,前件訴訟は,旧診療所が有床診療所に当たることを根拠として控訴人が平成12年5月25日にした本件各不許可処分の当否を巡って提起されたものであり,第1審では,その根拠が否定されて本件取消判決がされ,控訴審では,引き続き,その審理が継続していたのであるから,本件取消判決を不服として控訴した控訴人としては,その主張の正当性の根拠である旧診療所の動静に注意を払い,その正当性を補強する事由があれば,それを口頭弁論における主張,立証に反映させた上で控訴審判決を受けるべきであったというべきである。そして,上記の本件診療所が新たに開設されており,かつ,これが有床診療所に該当するというのであれば,この事由は,本件各不許可処分の正当性を事後的にではあれ根拠づけるに足りるものというべきであるから(本件診療所は,形式的には,旧診療所とは異なる診療所ではあるが,旧診療所と同一の本件建物内で旧診療所の物的設備をそのまま引き継いで開設されているという前記の事実関係の下においては,その物理的連続性及び関連性を実質的に考慮するならば,司法上も,本件各不許可処分を正当化するに足りる事由として主張することが可能であったと評価するのが相当である。),控訴人としては,この事由を当該事実を基礎づける立証とともに前件訴訟の口頭弁論に上程するのが,訴訟当事者として信義則上求められる訴訟活動というべきである。
そして,控訴人が,このような主張立証をすることが可能であったにもかかわらず,そのような行為に出ることなく,本件取消判決(本件控訴審判決で修正後のもの)を受け,更に,これが確定したものであるとすれば,被処分者である参加人らとしては,控訴人は,その後,本件各営業許可申請に対して再審査する際には,もはや,本件診療所が有床診療所に当たることを理由として,再び不許可処分をすることはないものと信頼するのはいわば当然であり,処分後に生じた事情の存在を理由に,保護されるべき上記信頼に背くような行政活動をすることは,信義則に反するものとして許されないものというべきである。このように解さなければ,参加人らが提訴以来上告審までの長い時間をかけて漸く手にした本件取消判決は,殆ど無意味となり,その意味で前件訴訟による司法的救済は,無価値に帰することになるともいうべきである。
(4) そこで,控訴人において,前件訴訟における上記事由に関する主張立証が可能であったかどうかにつき検討する。
確かに,本件診療所の開設が許可されたのは,前件訴訟の控訴審口頭弁論終結の直前である平成14年7月12日(現実の開設日は同月15日)であるから,これのみをみれば,この事実を前訴において追加主張することは困難であったとみる余地もあろう。
しかしながら,本件診療所については,既に平成12年3月9日に医療法人設立認可申請がされ,上記口頭弁論終結の4か月以上前の平成14年3月7日には設立認可がされていること,控訴人としては,旧診療所の動静につき注意を払うべきことが期待されていることは上記のとおりであり,しかも,本件仮処分決定が発令され,その内容が前記のようなものであったことを認識していた(原審証人Eの証言)のであるから,旧診療所の業務形態の推移や状況についてはとりわけ慎重に継続調査を実施して最新の情報を収集しておく必要があったともいえることなどの事情に照らせば,控訴人が,前件訴訟の控訴審口頭弁論終結前の時点において本件診療所開設の事実を把握することが著しく困難であったとまでは認め難いものというべきである(前件訴訟においては,旧診療所存続の事実の有無[平成14年7月14日廃止]は訴訟の結論に直接影響する重要な事実であるにもかかわらず,その点に関する主張を全く欠いているし,その結果,旧診療所と本件診療所との関係,それらの同一性の有無についても一切審理の対象となっていないのであって,これらのことを,処分庁である控訴人として認識することが不可能であったとは認め難いのである。)。更に,控訴人が,本件各許可処分をするに当たって,前件訴訟の控訴審口頭弁論終結前に本件診療所が開設されていることをも,その考慮事項としているという事実も,このことを裏付けるものとみることができる。
(5) 以上によると,控訴人は,前件訴訟において,上記事由を主張立証をすることが可能であったにもかかわらず,そのような行為に出ることなく,その結果として,本件取消判決(本件控訴審判決で修正後のもの)が確定したものとみることができるから,その後に至って,本件各営業許可申請を再審査するに当たり,控訴人としては,もはや,本件診療所が有床診療所に当たることを理由として,再び不許可処分をすることは,信義則に反するものとして許されないものというべきである。
6 争点2(名義貸しの有無)について
(1) 被控訴人は,本件営業所におけるぱちんこ店の営業は,Fが参加人らの名義を借りて,その計算で行っている旨主張する。
(2) 証拠(甲3,丙36)及び弁論の全趣旨によれば,株式会社Gは,その所有する本件営業所を参加人Aに対して賃貸して賃料収入を得る予定であったところ,営業不振に陥り,借入金の返済に窮した結果,ぱちんこ店営業,不動産の賃貸等を目的とするFに営業譲渡したこと,Fは,平成15年7月11日,本件営業所の所有権を取得し,参加人Aに対して本件営業所を賃貸していることが認められる。しかしながら,参加人Aが,上記認定の態様をもって,実質的には,Fに対して風俗営業(ぱちんこ店)の名義貸しをしているということを認めるに足りる証拠はない。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
7 争点3(手続違背の有無)について
(1) 被控訴人は,本件各許可処分は,「異例に属するもの」であるから,本件専決規程2条ただし書により,警察本部長は専決できず,控訴人の決裁を受けて処理しなければならない事案であるのに,京都府警察本部長が本件専決規程に基づいて専決処分したものである,したがって,本件各許可処分は,その手続に重大な瑕疵があり,取り消されるべきである旨主張する。
(2) 京都府警察本部長が本件専決規程に基づいて専決処分したことについては争いがないところ,本件各許可処分は,前記認定の手続に従い,本件診療所の保護対象施設性を検討するという過程を経た上で,控訴人(公安委員会)が実質的に関与した上で行われているものと評価することができる。
したがって,本件の事実関係の下では,控訴人がその権限に属する事務処理に関する意思決定をすべて補助機関である京都府警察本部長に委ねたということはできず,実質的にみると,本件各許可処分は,控訴人の意思決定によるものと評価しても妨げないものである。
そうすると,本件取消判決によって,判断の枠組みがいちおう提示されていることから,本件が,もはや複雑あるいは高度な判断を要しないもの(本件専決規程2条ただし書にいう「異例に属するもの」でないこと)といえるかどうかはともかくとして,その手続に重大な瑕疵があるとみることはできないものというべきである。
8 以上によると,他に本件各許可処分を違法とすべき事由に関する主張はないから,上記いずれの理由によるにせよ,本件各許可処分は適法というべきであり,それ故,被控訴人の本件請求は,理由がなく,棄却すべきである。
そうすると,これと異なり,これを認容した原判決は相当でなく,本件控訴は,理由があるものというべきであるから,原判決を取り消した上,被控訴人の本件請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中壯太 裁判官 髙山浩平 裁判官 村田龍平)