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大阪高等裁判所 平成17年(行コ)96号 判決 2006年12月19日

主文

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

主文と同旨

第2事案の概要

本件は,被控訴人が,京都市においては,告示により一定の条件に合致する道を一括して建築基準法42条2項所定の道路(以下「2項道路」という。)と指定しているところ,被控訴人所有の原判決別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という。)の西南に隣接する同目録記載2の土地(以下「本件通路部分」という。)は2項道路に当たらないとして,控訴人に対し,本件通路部分について2項道路指定処分(以下「本件指定処分」という。)が存在しないことの確認を求める事件である。

原審裁判所は,被控訴人の請求を認容した。これに対し,控訴人が控訴した。

1  基礎となる事実(末尾に証拠等を掲げたもののほかは,争いのない事実)

(1)ア  本件土地は被控訴人が所有する土地であり,本件土地及び本件通路部分の現況は,原判決別紙図面1(以下単に「図面1」という。)のとおりである。本件通路部分の西南側は水路となっている。

イ  昭和27年当時の本件土地及びその周辺の概況は,原判決別紙図面2(以下単に「図面2」という。)のとおりである。

本件通路部分は,図面2のB点(以下,単に「B点」などという。)とC点間の道の南端部分であって,本件土地はその北東側に位置する。

現在,A点とB点間の道とa点で交差する形で,道路(α線)が存在する。また,a点,B点及びC点間の道は,大正9年4月1日,旧βにおいて路線認定し,昭和58年1月31日,市道(γ線)として区域決定及び供用開始がされている(甲21)。

(2)  旧δ,旧ε及び旧ζの区域を除く京都市の区域については,建築基準法の第3章の規定は,昭和25年11月23日(以下「基準時」という。)から適用されている。

基準時当時の本件土地及びその周辺の概況は,昭和27年に修正された図面2のとおりである。基準時当時,A点とB点間の道には現に建築物が立ち並んでいたが,B点,C点及びD点間の各道には建築物は存在しなかった。また,基準時当時,A点,C点及びD点においては,幅員4メートル以上の東西に通じる道路に接続していたが,B点においては,幅員4メートル以上の道路には接続していなかった。

(3)  特定行政庁であった京都府知事は,昭和25年12月8日京都府告示820号(以下「本件告示」という。)により,基準時現在,旧δ,旧ε及び旧ζの区域を除く京都市の区域において現に建築物が立ち並んでいる幅員4メートル未満1.8メートル以上の道で,袋路を除くものを包括的に2項道路に指定した。なお,現在では控訴人が京都市における建築基準法上の特定行政庁である。

(4)  被控訴人は,平成15年ころ,本件土地上の建物の増築工事を行うにあたって,京都市都市計画局審査課の担当者から本件通路部分が2項道路である旨を告げられ,同年10月10日,本件土地のうち,本件通路部分の南西側の境界線から本件土地側に水平距離4メートルの線までいわゆるセットバックをすることとして,建築確認を受けた。

2  争点

本件通路部分は,基準時において,現に建築物が立ち並んでいる道であるとの2項道路の要件を満たしていたか否か。

(1)  控訴人の主張

ア 基準時において,B点より北側及びD点より南側にいずれも集落が存在しており,B点とD点間の道は,上記各集落を結ぶ生活道路であった。

建築基準法42条2項が将来的に幅員4メートル道路の存在する健全な市街地形成を目指している趣旨からすれば,道路が2項道路に該当するか否かは,特定区間に建築物が立ち並んでいるか否かのみではなく,同特定区間によって結ばれる道の両端に両集落が存在し建築物が立ち並んでいることを考慮し,これら両集落の建築物の立ち並びも含めて一体としての道路と判断すべきである。

したがって,B点とD点間の道は,現に建築物が立ち並んでいる道である。

イ また,建築基準法42条1項は,同法第3章の規定における道路を,幅員4メートル以上の1項各号に定める道路であるとし(以下同条1項に定める道路を「1項道路」という。),2項において,1項に該当しない道路についても,一定の要件の下に特定行政庁が指定したものについても道路とみなされる規定をおいている(2項道路)。この内容は,幅員4メートル未満の道については,特定行政庁が指定したものについて,原則として道路中心線から2メートルの線を道路境界線とみなすこととしたうえ,基準時に道路内に存在していた建築物を直ちには撤去しないでよいが,その改築時から同法44条が適用されることとして,将来的に幅員4メートルの道路が確保されることで,原則に戻ることとしたものである(以下1項道路,2項道路を含む,同法42条に定められている道路全体を「法上の道路」という。)。

そして,建築基準法が,建築物の利用者の交通,安全,防火,衛生及び避難等を確保するという観点から,道路の幅員を4メートル以上必要としていることを考慮すると,建築物に接する道は,現実に4メートル以上の幅員の道路か,みなし道路に接続することが必要であるから,その当然の結果として,建築物に接する道に関する,ある法上の道路と他の法上の道路との間は,原則として,4メートル以上の幅員の道路であること(現実に4メートル以上の幅員かみなし道路であること)が必要である。

したがって,基準時にその間に建築物のある道の区間は,原則として,法上の道路に接続しているべきであり,その全区間が2項道路として指定されていることになる。

本件告示が,一括指定する2項道路について,「袋地を除く」として袋地を一括指定の道路から除いた趣旨も,本来の道路を袋地ではなく,幅員4メートル以上の道路(同法42条1項)と考え,その本来の道路で接続することを目指していることの表われと理解すべきである。

ウ ところで,基準時当時,A点及びC点においては,幅員4メートル以上の東西に通じる法上の道路と接続していたが,B点においては,幅員4メートル以上の法上の道路には接続していなかった。

そうすると,基準時において,A点とC点間の道は,そのうちA点からB点までの道部分にのみ建築物が立ち並んでいたところ,B点においては,幅員4メートル以上の法上の道路にはつながっていなかったが,A点及びC点において,幅員4メートル以上の東西に通じる法上の道路に接続していたから,A点とC点間の道を全体として,基準時に現に建築物が立ち並んでいる道として2項道路に当たると解すべきである。

被控訴人は,仮に,A点とB点間の道だけでなく,B点から先の道を2項道路とみることができても,A点とB点間の道は,B点とC点間の道に通じるだけでなく,B点から西方への道にも通じているから,直ちにB点とC点間の道を2項道路と解することはできない旨主張するが,A点とC点間の道は,大正9年4月1日,旧βによって道路として認定されており,B点から西方への道より主要な道路であることを考慮すると,B点とC点間の道は2項道路に当たるというべきである。

(2)  被控訴人の主張

ア 基準時において,B点とD点間の道には,建築物は存在しないから,同道は,現に建築物が立ち並んでいる道ではなかった。

建築基準法42条2項の規定は,基準時において接道義務を充足しない建築物を建て替えまで適法に存続させるための救済措置であり,また,同法42条の建築制限による財産権の制限は,公共の福祉のため必要最小限にとどめる趣旨であるから,ある道が2項道路に該当するか否かは,上記趣旨により判断されるべきである。

したがって,対象通路に接する建築物が全くないのに,単にその道が,その両端に存在する集落を結んでいたことをもって,その対象通路を現に建物が立ち並んでいる道であるということはできない。

また,B点以北の集落とD点以南の集落とは,それぞれ独立の道路を有していたものであるから,B点とD点間の道を2項道路と指定する必要性もない。

イ 控訴人は,2項道路は両端において法上の道路に接続すべきであると主張するが,このような見解はまったく独自の考えであり,建築基準法42条2項の規定の解釈を誤ったものである。

以下に述べるとおり,2項道路の両端のいずれにおいても法上の道路に接続すべき理由はない。

(ア) 建築基準法42条は,道路の定義をしているが,その構造形態に関して,幅員の点を除き,何ら定めるところがない。ただし,同法が,道路に対し,敷地の利用を支障なからしめるという役割を期待していることから見て,同法の道路であるためには,沿接する敷地を利用するについて,防火上,避難上,交通上支障のない構造形態を備えていることが要求されているものと解すべきである。

(イ) しかしながら,建築基準法42条2項のみなし道路の規定は,この構造形態についての一般基準がそのまま該当しなくても同法上の道路とするものであるとするのがその趣旨である。

すなわち,同法上の道路は,防火上,避難上,交通上支障のない構造形態を備えていることが要請されるため,同法42条1項本文は,その幅員を4メートル以上と定めているが,他方,(旧)市街地建築物法時代のなごりで,各地に4メートルに満たない道が多数存在し,これらの狭い道について,直ちに4メートル以上に拡幅しなければならないことにすると,これらの道路に面する既存建築物を除却または移転せざるをえず,これらの建築物の権利者に酷な結果となるため,これを回避しようとしたものである。

以上のとおり,建築基準法の道路の基本的解釈基準と2項道路の立法趣旨に照らすと,みなし道路(2項道路)とすることの要件として,両端が法上の道路に接続することの解釈根拠は存在しないし,控訴人の主張である「両端が法上の道路につながっていてこそ,避難,防災,安全,交通,衛生等に支障なきを期した機能を道路として果たせる。」との論旨は,2項道路の立法趣旨を外れたものとなる。

控訴人の解釈論を採用するならば,逆に,両端が法上の道路につながっていない道は,建築基準法42条2項の要件を備えた道路でないことになり,法文以上の要件を求めることになる。

(ウ) また,特に支障のない限り,行き止まり道でも,建築基準法上の道路に該当しうると解釈されており,このことからも,2項道路の両端が法上の道路につながっていることが要求されるものではないことが明らかである。

ウ 本件においては,基準時において,A点とB点間の道部分にのみ建築物が立ち並んでいたが,B点とD点間の道には建築物が立ち並んでいなかったから,A点とB点間の道は2項道路であるが,B点とD点間の道路は2項道路でなく,法上の道路とはいえない。

仮に,A点とB点間の道だけでなく,B点から先の道を2項道路とみることができても,A点とB点間の道は,B点とC点間の道に通じるだけでなく,B点から西方への道にも通じているから,直ちにB点とC点間の道を2項道路と解することはできない。

いずれにしても,B点とC点間ないしB点とD点間の道を2項道路と解することはできない。

第3当裁判所の判断

1  認定事実

証拠(甲2ないし11,20,21,32,33,乙5,6,8,なお,枝番のあるものはすべて含む)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が。認められる。

(1)  旧δ,旧ε及び旧ζの区域を除く京都市の区域については,建築基準法の第3章の規定は,昭和25年11月23日の基準時から適用されている。

特定行政庁であった京都府知事は,本件告示(昭和25年12月8日京都府告示820号)により,基準時現在,旧δ,旧ε及び旧ζの区域を除く京都市の区域において現に建築物が立ち並んでいる幅員4メートル未満1.8メートル以上の道で袋路を除くものを包括的に2項道路に指定した。なお,現在では控訴人が京都市における建築基準法上の特定行政庁である。

(2)  基準時当時の本件土地及びその周辺の概況

ア 基準時当時の本件土地及びその周辺の概況は,昭和27年に修正された図面2のとおりである。

基準時当時,A点とB点間の道には現に建築物が立ち並んでおり,その幅員は4メートル未満1.8メートル以上であった。B点とD点間の道の幅員も4メートル未満1.8メートル以上であったが,その道には建築物は存在しなかった。また,基準時当時,A点,C点及びD点においては,幅員4メートル以上の東西に通じる1項道路に接続していたが,B点においては,幅員4メートル以上の道路には接続していなかった。

本件通路部分は,B点とC点間の道路の南端部分であって,本件土地はその北東側に位置し,基準時当時,C点を東西に通じる1項道路に接していた。

イ 基準時当時,B点から北側に集落が存在し,その集落には商店街はなく,その住民は,当時η通と呼ばれているA点からC点を経てD点に至る道を通って,D点から南側にある集落にある商店街に買い物に行っており,η通をいわば生活道路として利用していた。また,B点よりも北側にθが,その西側にιが,D点よりも南側にはκがあり,付近の住民は,正月にこれらのお寺に晴れ着を着てお参りするのが慣わしであり,そのお参りのため,η通を通っていた。さらに,北の集落から南の集落へ,反対に南の集落から北の集落への行き来にも,η通が常時使われていた。

ウ 現在,A点とB点間の道とa点で交差する形で,道路(α線)が存在する。また,a点,B点及びC点間の道は,大正9年4月1日,旧βにおいて路線認定し,昭和58年1月31日,市道(γ線)として区域決定及び供用開始がされている。

(3)  被控訴人は,平成15年ころ,本件土地上の建物の増築工事を行うにあたって,京都市都市計画局審査課の担当者から本件通路部分が2項道路である旨を告げられ,同年10月10日,本件土地のうち,本件通路部分の南西側の境界線(本件通路部分の南西側は水路となっている。)から本件土地側に水平距離4メートルの線までいわゆるセットバックをすることとして,建築確認を受けた。

2  争点(本件通路部分が2項道路の要件を満たしていたか否か)についてA点からB点の道には,基準時当時,建築物が建ち並んでいる等の1認定事実に照らせば,本件告示に定める要件に該当し,2項道路の指定があったと解。することができるしかしながら,道路とは,一定の長さをもったものであり,建物が存在する前面区域のみに2項道路の指定があったとは解することができず,建物のある道部分と一体となって同一の効用のある部分にも,2項道路の指定があったと見るべきである。この道路としての一体性,効用の同一性(以下「道路の一体性・同一性」という。)については,建築基準法の趣旨,基準時当時の道路の客観的状況,通行状況等の諸般の事情,2項道路の指定は私権の制限を伴う側面もあること等を総合して判断すべきものである。以下,この点につき検討する。

(1)  建築基準法の趣旨・目的について

建築基準法42条1項本文は,法上の道路の基本を幅員4メートル以上の道路とした。この規定は,これに接する敷地上の建物の利用者の避難,防災,安全,交通,衛生等を期するため,一定の都市空間を解放し,都市環境の整備を図る目的に出たものである。また,同法43条1項は,上記と同様の目的で,建築物の敷地は,法上の道路に2メートル以上接しなければならないとした。

これによると,建築基準法施行当時,幅員4メートル未満の道に接する敷地上の建物は多数存在していたところ,それら建物の増改築は,同法43条1項の接道義務に違反することになり,不可能となる。これら多数存在する既存建物等が増改築できないとなると,これら建物の権利者に酷な結果となる。そこで建築基準法42条2項の規定が設けられたのである。すなわち,建築基準法は,道路幅員として最低4メートル必要であることを堅持した上,建築基準法施行当時,現に建築物が建ち並んでいる幅員4メートル未満の道で特定行政庁の指定したものを,建築基準法3章の道路とみなし(2項道路),その道路の中心点から2メートルの線(その道路が,がけ地や川等に沿う場合は,その境界線から道の側に水平距離4メートルの線)を道路の境界線とみなすこととした。2項道路の指定により,既存建物は,同法44条に違反する建築物となるが,同法3条2項により,その建物の除去義務が課されることはないとされている。しかし,同条3項4号所定の増築,改築,大規模の修繕等をする場合は,同法44条の建築制限により,増築,大修繕等する場合は,その線までの既存建物を除去ないし移転しなければならない上,増改築する場合の新たな建物は,その線まで,建築できないこと(いわゆるセットバック)とした。その結果,時の経過とともに次第に幅員4メートルの道路が確保されていくこととなり,基準時に立ち並んでいる建築物がすべて建て替えられたときには,当然のこととして,現実にも,幅員4メートル以上の道路を妨げるような建築物は存在しないこととなり,建物の利用者の避難,防災,安全,交通,衛生等を期するため,一定の都市空間を解放し,都市環境の整備を図る目的が達成されることとなる。

(2)  上記(1)の建築基準法の趣旨・目的に照らせば,道路の一体性・同一性を判断するに当たり,特別な事情がない限り,その道路の両端が他の法上の道路と接続している最小区域が重要な判断基準となると考える。

(ア) すなわち,建物の利用者の避難,防災,安全,交通,衛生等を期するため,一定の都市空間を解放し,都市環境の整備を図る目的を達成するためには,2項道路の両端が法上の道路に接続しており,その道路は,いわゆるとおり抜けできる必要性があるといわなければならない,特に,消防車,救急車等については,その必要性は著しく高いといわなければならない。

また,建築物の利用者にとって,前面道路の一方だけが法上の道路に通じる状態であるよりも,左右の法上の道路のいずれの方向にも出ることができ,左右のいずれの方向からも入って来ることのできることが有益であることは間違いない。この点からしても,同法は,建築物の立ち並んでいる道について,原則として2項道路を含め法上の道路に接続することを予定しているものと考えられる。

さらに,本件告示は,一括指定する2項道路について,「袋地を除く」として袋地を一括指定の道路から除いているが,これは,同告示が建築基準法をより具体化したもので,その趣旨は,同告示が,原則として,2項道路を袋地ではなく,2項道路を含め幅員4メートル以上の法上道路で接続するものと考えてのことと思われる。もっとも,建築基準法は,例外的には袋地状態の2項道路の指定を認めるもので,そのすべてを禁止したものではないと理解すべきである。

加えて,被控訴人主張のように,現に建築物が建ち並んでいる道を厳格かつ分断して解釈し,2項道路の両端が法上の道路に接続することを要求されるものではないとの見解では,以下のとおり,具体的に考察したとき,不都合,不自然な点があると考えられる。すなわち,①本件において,被控訴人は,A点とB点間の道は2項道路であるが,B点とC点間の道は2項道路ではないと主張し,確かに,A点とB点間の道に現実に立ち並んでいる建築物は明らかにC点までよりA点に近いから,そのように解する余地は十分あるが,その建築物がA点とC点まで距離が同じような場合,いずれの道を2項道路とみるのか,両方とも2項道路とみるのか明確ではない。②そもそも,被控訴人の見解によると,B点とC間の道は法上の道路でないから,その間に新たな建築物を建築しようとする者が,4メートルの幅員がとれるようセットバックをしても,そもそも法上の道路に接続しないため,その建築が認められない可能性がある。被控訴人もそのような建築が認められないとの見解ではないようなので,整合性に欠けることにもなると思われる。

(イ) 被控訴人は,仮に,A点とB点間の道だけでなく,B点から先の道を2項道路とみることができても,A点とB点間の道は,B点とC点間の道に通じるだけでなく,B点から西方への道にも通じているから,直ちにB点とC点間の道を2項道路と解することはできない旨主張する。しかしながら,A点とC点間の道は,大正9年4月1日,旧βによって道路として認定されていることや上記1(2)イの道路の使用状況等に照らすと,基準時当時,B点から西方への道より主要な道路であったと認められること(甲21,弁論の全趣旨)に照らすと,被控訴人の上記主張は採用できない。

(3)  上記のとおり,道路の一体性・同一性を判断するに当たり,特別な事情がない限り,その道路の両端が他の法上の道路と接続している最小区域が重要な判断基準となると考えられるところ,この基準に従えば,A点からB点を経てC点に至る道は,その両端において法上の道路に接続しており,その間に,法上の道路に接続する箇所は存在しないので,A点からB点を経てC点に至る道路は,道路の一体性・同一性があるということができる。そして,本件においては,この道路の一体性・同一性の判断を覆すに足りる事情を認めるに足りる証拠は存在しない。さらに,基準時の道路としての利用状況は,上記1(2)イのとおりであり,少なくとも,A点からB点を経てC点に至る道路は,付近住民において一体性・同一性のあるものとして利用されている。これらのこと等を考えれば,A点からB点を経てC点に至る道路を一体性・同一性のあるものとして,その全体について,本件告示によって2項道路として指定されたと認めるのが相当である(なお,C点から先は,C点で1項道路に接続しており,道路の一体性・同一性を認めることができない。)。

(4)  これに対し,被控訴人は,建築基準法42条2項の趣旨及び同条項によって道路とみなされた土地の所有者が一定の権利の制限を受けること(同法44条1項,45条)を考慮すると,幅員4メートル未満の道が2項道路に当たるか否かは,ある程度の長さを有し,独立して道としての効用を果たし得る最小限の区間を基準に検討すべきであって,その区間を超えて,さらに遠方の位置にある建物等のために必要かどうかで判断するのは相当ではないと主張する。

しかしながら,上記(1)ないし(3)で判断したとおり,A点からB点を通ってC点に至る道は,一体性・同一性のあるものであって,独立して道としての効用を果たしうる最小限の区間であるということができる。

また,上記1の認定のとおり,基準時当時からC点を東西に通じる1号道路に接する被控訴人土地の所有者は,B点とC点間の道を2項道路として指定を受ける利益はあまりなく,かえって増改築の際,建築の制限を受けるという不利益を被るが,上記のとおり,A点とB点間の道に立ち並んでいる建築物の所有者はA点に通じる2項道路だけでなく,C点に通じる2項道路を通って法上の道路に通じる期待はかなり高いものとは考えられるうえ,B点とC点間の道が2項道路として指定されたことにより,その道路を利用して新たに建築物を建築したいとの利用者の期待も高いと考えられることなどに照らすと,本件指定処分により被控訴人が被控訴人土地の所有者として受ける不利益はその権利に内在する受忍の限度内ということができる。したがって,被控訴人の上記主張は採用できない。

次に,被控訴人は,B点とC点間の道を利用し,P1が平成9年に京都市λ×××番11宅地上に共同住宅を,P2が平成12年に同所×××番15宅地上に一戸建住宅をそれぞれ建築した際,京都市は,上記道を非道路であるとの認定のもとに,前面道路が4メートルの幅員になるように京都市に寄付ないしセットバックさせて建築確認をしたと主張するが,それらの際,京都市がB点とC点間の道を非道路であると認定していたことを認めるに足りる的確な証拠はない。

その他,上記(3)の認定判断を左右する事実関係を認めるに足りる証拠は存在しない。

(5)  以上によれば,本件道路部分は,2項道路にあたることが明らかである。

第4結論

以上のとおりであるから,被控訴人の請求は理由がないから,これと異なる原判決を取り消したうえ,被控訴人の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 横田勝年 裁判官 東畑良雄 裁判官 植屋伸一)

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