大阪高等裁判所 平成17年(行コ)97号 判決 2006年6月21日
主文
1 原判決を次のとおり変更する。
(1) 被控訴人が控訴人に対し平成16年8月31日付けでした法人文書部分開示決定処分のうち,別紙取消請求一覧表の「番号」欄「3」記載の部分を不開示とする部分を取り消す。
(2) 控訴人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを5分し,その1を被控訴人の,その余を控訴人のそれぞれ負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が,控訴人に対し,平成16年8月31日付けでした法人文書部分開示決定処分のうち,別紙取消請求一覧表記載の各部分を不開示とした部分を取り消す。
3 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1 事案の要旨
本件は,控訴人が,独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(以下「法人情報公開法」という。)4条1項に基づき,被控訴人に対し,学校法人aに係る平成15年度分私立大学等経常費補助金(以下「私学助成」という。)に関する法人文書の開示請求をしたのに対し,被控訴人がその一部を不開示とする部分開示決定処分をしたため,上記不開示とした決定の取消しを求めた事案である。
原審は,被控訴人が,本件取消請求部分について,法人情報公開法5条2号イ又は4号に該当するとし,これを不開示とした処分は適法であるとして,控訴人の請求を棄却した。
控訴人は,原判決を不服として控訴した。
2 前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張については,次のとおり「当審における主張」を付加するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」中,「1 前提事実」及び「2 争点」に記載のとおりであるから,これを引用する。
3 当審における主張(なお,その余の主張は,「第3 当裁判所の判断」中に記載した。)
(1) 平成15年度学生定員・現員調査票(別紙一覧表番号1ないし3)について
ア 被控訴人
aは,本件処分当時(平成16年8月31日),平成15年度(2003年(平成15年)5月1日現在)の学生数をインターネット上で公開していなかった。
そして,aが,過去に平成15年度の学生数をインターネット上で公開していたとしても,本件処分時点において,不利益を避けるため公開を取りやめる場合もありうることからすると,平成15年度学生定員・現員調査票(大学)及び(大学院)の各学生数の情報を開示しても,aの競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがないとはいえない。
イ 控訴人
aは,平成17年1月15日当時,平成15年度の学生数を閲覧できる状態においていた。
第3当裁判所の判断
【以下,原判決「事実及び理由」中の「第3 争点に対する判断」の部分を引用した上で,当審において,内容的に付加訂正を加えた主要な箇所をゴシック体太字で記載し,それ以外の字句の訂正,部分的加除については,特に指摘しない。】
1 法人情報公開法5条2号イ(利益侵害情報)該当性について
(1) 本件学生現員等情報について
ア 証拠(甲3の9から3の11まで,3の22,3の27,乙1から5まで,9,乙20,証人b)によれば,①本件調査は,私立学校の教育条件及び経営に関する情報の収集・調査及び研究の一貫として行われているものであり,本件調査の提出率は,例年ほぼ100%の高い率を保ち,調査の集計・分析の結果は,入学志願動向速報のような刊行物や経営診断グラフ等の資料として私立学校関係者に還元される以外に,関係行政機関やマスコミなどに公表されていること,②本件調査は,各学校法人に対し,依頼文書に調査目的として,「私立学校の財務状況,教育研究条件及び専任教職員の個別状況等を把握することにより,事業団業務遂行上の基礎・参考資料及び私学関係予算要求のための資料とし,併せて学校法人の経営の参考に供することを目的として実施しており,その他の目的で使用することはありません。」と記載して依頼し,任意に行われていること,③学校法人にとって,学生納付金は収入の約80%を占めており,学生現員等の情報はこれと直結するものであり,募集要項等により公表されている授業料や入学金に人数を乗ずることにより,学部,学科ごとの詳細な納付金収入の内訳を算出することが可能となること,④日本私立大学団体連合会,日本私立短期大学協会,日本私立中学高等学校連合会,日本私立小学校連合会及び全日本私立幼稚園連合会から成る全私学連合は,被控訴人に対し,平成15年2月25日付けで,法人情報公開法に基づく私立大学等の個別学校の入学者数等のデータの無原則な公表について,ⅰ私学の経営に重大な影響を及ぼす懸念,ⅱ被控訴人の調査業務に対する信頼関係の喪失,ⅲ被控訴人への非協力学校法人の増加などを理由に,これに反対する意見書を提出していること,⑤平成15年度学生定員・現員調査票(大学院)には,入学者数の記載はないことが認められる。
イ 上記によれば,本件学生現員等情報(ただし,平成15年度学生定員・現員調査票(大学院)の入学者数を除く。以下同じ。)は,学校法人の経営状態や収入に直結する法人内部の情報であり,また,定員充足率の情報は,定員充足率の低い大学が経営的に危ない大学と短絡的に即断され,学生募集等に不当な影響を与えるおそれがある情報ということができる。したがって,これらの情報は,公表されることにより,学校法人等の競争上の地位その他正当な利益を害する蓋然性が高いものと認めることができ,本件学生現員等情報は,一般的には法人情報公開法5条2号イの利益侵害情報に当たるというべきである。
ウ しかし,証拠(甲20,乙18の1・2)によれば,aは,各学部学科ごとの学生数を毎年5月1日現在の学生数確定後にインターネット上で公開し,翌年の学生数をインターネットで公開した場合には,前年度の学生数はインターネットから削除する扱いをしていること,ちなみに平成15年5月1日現在の上記学生数は同月16日にインターネット上で公開され,翌年の学生数が公開されたのは平成16年6月2日であり,公開されていた平成15年5月1日現在の学生数はそのころインターネット上から削除されたことが認められる。
上記の事実からすると,本件学生現員等情報のうち,平成15年度学生定員・現員調査票(大学)及び(大学院)の各学生現員の情報については,aにおいて少なくとも平成15年5月16日から平成16年6月2日ころまでインターネット上で公開していたのであるから,被控訴人においてこれを開示しても,aの競争上の地位その他正当な利益を害するおそれはない。したがって,本件学生現員等情報のうち上記各学生現員情報は利益侵害情報に該当するということはできない。上記判示は,学校法人等が,学生現員数等の情報を公開する法的義務を負っているとの控訴人の主張にかかわらず認められることである。
エ 被控訴人は,当審において,①特定の年度の学生数をインターネット上で公開しているかどうかは当該開示請求に対する開示等決定がされた時点で判断しなければならず,当該学校法人等で不利益を避けるため,公開を取り止める場合もあるから,過去においてこれを公開していたというだけでは足りないとか,②実際上も過去に公開していたというだけでは,開示請求を受けた側でその公開の有無を確認することはできないなどと主張し,上記判示を批判する。
確かに,本件処分当時(平成16年8月31日)には,aは,インターネット上で平成15年5月1日現在の学生数を公開していなかったことは上記認定のとおりであるが,aでは,毎年定期的に各年度の学生数が確定次第インターネット上で公開する取扱いをしており,その限度ではaとして保護されるべき権利,競争上の地位その他の正当な利益は存在しないものとしていることが容易にうかがわれるのであるから,上記①の主張は理由がないというべきである。また,上記②についても,被控訴人としては,開示請求を受けてその是非を検討するに当たって,aに照会すればその情報が公開されていたかどうかについて,すみやかに回答が得られるのであるから,理由のないことは明白である。
(2) 本件対象学生数等情報について
本件対象学生数等情報は,学部ごとの対象学生数又はこれを推計できる情報であるところ,上記のとおり,aにおける各学部の学生数情報が利益侵害情報に当たらない以上,本件対象学生数等情報も利益侵害情報に当たらない。
(3) 本件留年者情報について
ア 留年者数は,成績評価の方針など各私立学校の教育理念の下での結果を示すものであり,その多少は,本来,大学のレベルや学生の質を直ちに反映するものではない。しかし,実際には,留年者の多い大学が,質の良くない学生の多い大学あるいは卒業の難しい大学等と短絡的に即断され,その公表が,当該大学の学生募集に影響を与える可能性は十分にある。したがって,本件留年者情報は,公にすることにより,学校法人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある利益侵害情報に当たるというべきである。
イ 控訴人は,aが,留年者情報をインターネット上で公開していることから(甲20),これを開示してもaの正当な利益を害するおそれはないと主張している。
しかし,甲20(aが公開しているインターネット画面からプリントアウトしたものであることは弁論の全趣旨により認める。)及びaに対する調査嘱託の結果(回答:平成18年4月14日付け)によれば,aがインターネット上で公開しているのは,「5回生以上」の学生数であること,上記にいう「5回生以上」とは,最短の修業年限(4年)を超えて在籍している者及び休学期間履歴があるために入学以降最短の修業年限(4年)で卒業できなかった者を意味するものであることが認められるところ,上記事実によれば,aがインターネット上で公開している「5回生以上」の学生数は,留年者数と同一でないことが明らかである。
よって,aが,インターネット上で留年者情報を公開していることを前提とする控訴人の主張は理由がない。なお,甲3の11,甲33の1(80頁)によれば,平成15年度留年者調査票(大学)に記載される「1年留年者」とは,修業年限を超える在籍期間が1年以内の者(なお,休学期間は学則の定めにかかわらず,在籍期間に含む。)であることが認められるところ,そうであるとすると,平成15年度留年者調査票(大学)にいう1年留年者と上記「5回生以上」とは明らかに概念を異にするものであり,この意味においても,aが,留年者数を公開しているとはいい難い。
(4) 私学助成違憲と不開示情報について
ア 控訴人は,私学助成が違憲であり,不当に利益を得ている学校法人等の活動を不開示とすべき合理的な理由があるとはいえず,法人情報公開法の目的に照らして,不開示とすることができないと主張する。
しかし,仮に私学助成が憲法に違反するとしても,これにより学校法人等の活動がすべて違憲,違法となるものではなく,その活動が保護に値しないものとなるものでもない。私学助成に関する文書であっても,その記載内容が当該学校法人等の利益侵害情報に当たれば,その情報は保護されるべきであり,不開示とする合理的な理由があるというべきであるから,控訴人の上記主張は採用することができない。
イ 控訴人は,当審において,私学助成が合憲か否かの判断は,本件処分の適法性を判断するにあたって,不可欠な前提であり,私学助成が違憲であれば,学校法人等の補助金交付申請行為も違憲違法であると解するのが自然であるとなおも主張する。
しかし,上記判示のとおり,私学助成が違憲かどうかという問題と,私学助成を受けた学校法人等の活動が法的保護に値するかどうかという問題は異なるのであって,私学助成が違憲であるかどうかにかかわらず,学校法人等の有する法人情報が保護に値するかどうかを情報公開法にいう不開示事由があるか否かにより判断すべきであり,当該情報が利益侵害情報に該当すれば,不開示とする合理的な理由があるというべきである。したがって,私学助成が合憲か否かが本件処分の適法性を判断するについて不可欠な前提であるとの控訴人の主張は理由がない。
(5) 補助金情報の公開義務について
ア 控訴人は,適正化法,大学設置基準2条,本件情報提供通知(甲25),私立学校法改正通知(甲12)等を根拠に,本件取消請求部分を含む補助金に関する情報を,すべて公開する義務があると主張し,また,文部科学省が,定員超過率を開示する取扱いをしており(甲19),不開示は許されないと主張している。
しかし,適正化法等には,補助金に関する文書の公開義務を定めた規定はなく,補助金に関する情報をすべて公開すべき法的根拠はない。学校法人の財務情報公開の促進が図られ,私立学校法が一部改正されて,学校法人が,事業報告書等の書類を各事務所に備えて置き,当該学校法人の設置する私立学校に在学する者その他の利害関係人から請求があった場合には,正当な理由がある場合を除いて,これを閲覧に供しなければならないと定められているが(同法47条2項),利害関係を有しない何人にも写しの交付を含む公開が認められているものではなく,事業報告書の記載内容についても,私立学校法改正通知では各学校法人にゆだねられており(甲12),学生数等の情報の公開が義務付けられているものではない。また,文部科学省は,学部学科の設置認可申請書に記載された定員超過率に限ってこれを開示しており,一般的に,定員超過率又は学生数を開示する扱いをしているわけではない(乙8)。
したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
イ 控訴人は,当審において,法人情報公開法5条2号イの解釈からすれば,aが,何ら対価もなく公金を得ていること,私立大学等経常費補助金を申請することは当該学校法人の任意であることに照らせば,aと被控訴人には,公金の使い道を説明する義務があり,学生現員数等情報を開示されても受忍すべきであると主張している。
しかし,法人情報公開法5条2号イの解釈と控訴人主張の上記事実からaと被控訴人において,公金の使い道を説明すべき義務が発生したり,学生現員数等情報の開示を受忍すべきであるとの結論に直ちに至るものではないので,控訴人の上記主張は採用できない。
また,控訴人は,文部科学省の情報公開審査会答申は,定員超過率又は学生数について,特定の行政文書について判断したものに過ぎず,設置認可申請書に限って開示すべきと判断したわけではないと主張している。
しかし,乙8によれば,当該学校法人がする新たな学科の「設置認可申請時における定員超過率は,(適正な教育条件(水準,内容)を保っていることを示すものであるから,学校法人の正当な利益を害するおそれがあるものとは認められないことを理由として,)これを開示すべきである。」と判断する一方(乙8の9頁),認可直後の新設学科における入学定員超過率及び平均入学定員超過率については,(学校法人の正当な利益を害するおそれがあるものと認められるとして,)不開示情報(利益侵害情報)に該当すると判断している(乙8の11頁)ことが認められることからすると,文部科学省は,上記のとおり,学部学科の設置認可申請書に記載された定員超過率に限ってこれを開示すべきとしているものと解するのが相当であり,一般的に定員超過率又は学生数を開示する扱いをしているわけではないというべきである。
さらに,控訴人は,甲37を提出して,文部科学省が,学部学科の設置認可申請書に記載された定員超過率に限って定員超過率等を開示するとしているわけではないと主張している。しかし,甲37は,およそ,「既設の大学等の状況」における定員超過率について開示すべきものと判断しているわけではなく,あくまで「大学等の認可申請時」における定員超過率については,既設の大学等が適正な教育条件を保ってきたことを示すものであるから,学校法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものとは認められないことを理由として,開示すべきとしているものであるから,控訴人の主張は理由がない。
なお,大学や学部の設置の認可基準と補助金交付の基準が同一ではなく,仮に,補助金の交付を受けていたとしても,必ずしも,当該学校法人が適正な教育条件を保ってきたことを示すことになるものではないと考えられることから,定員超過率等の開示が,当該学校法人にとって,正当な利益が害されるおそれがないとは到底いえないというべきであり,大学や学部の設置に認可の場合と同列に扱うことはできない。
2 法人情報公開法5条4号(事務支障情報)について
(1) 理由追加の可否について
控訴人は,本件処分通知書に記載のない法人情報公開法5条4号(事務支障情報)に当たることを不開示理由として追加することは,行政手続法8条に違反し許されないと主張する。
しかし,行政手続法8条1項本文が処分の理由を示さなければならないと定める目的は,①処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制すること,②処分の理由を相手方に知らせて不服申立てに便宜を与えることにある。上記の目的は,処分理由を具体的に記載して通知することで実現されるから,同項が,更に処分理由の差替え,追加を制限する趣旨まで規定したものと解することはできない。本件訴訟において,被控訴人は,不開示理由を追加して主張することができると解すべきである。
(2) 法人情報公開法5条4号(事務支障情報)該当性について
ア 控訴人は,基礎的事実関係が同一なものについては主たる不開示条項(法人情報公開法5条2号イ)のみを主張することができ,その他の条項(同条4号)を援用することはできないと主張するが,各不開示条項はそれぞれ別個の趣旨に基づき規定されたものであり,複数の不開示条項の適用を否定する根拠はなく,控訴人の主張は失当である。
イ 被控訴人の業務内容,基礎調査及び補助金交付事務について
証拠(乙20,証人b)(なお,個別の証拠については,かっこ内に掲記した。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
(ア) 被控訴人の業務内容
被控訴人は,日本私立学校振興・共済事業団法23条に基づき,学校法人に対して補助金を交付すること,学校法人に対して助成金を交付すること,私立学校の教育条件及び経営に関し,情報の収集・調査及び研究を行うこと等の業務を行っているが,これら業務は,同法1条にいう「私立学校の教育の充実及び向上並びにその経営の安定」の目的のために相互に補完し,密接に関連して行われるものであり,別個に独立したものではない。また,それぞれの業務の担当部署の一応の区分があるが(例えば,補助金交付については助成部補助金課,情報収集については私学情報データベース課等),それぞれの業務が単一の部署のみで処理されることはほとんどない。
(イ)基礎調査の手続について
被控訴人は,毎年4月上旬ころ,各学校法人に対して,依頼書(乙5の1・2)及び調査票等を送付して基礎調査を行っている。この基礎調査の回答期限は,5月上旬,同月末及び6月末に分かれ,回答方法は,インターネットでデータを送信する方法,フロッピーディスクで提出する方法,書面で提出する方法の3つの方法がある(乙3,5,9)。
基礎調査票には,①学校法人の概要,②学生・生徒・児童・幼児数等,②’学生・生徒・児童・幼児一人あたりの納付金,③教員・職員数,③’大学等専任教員等・個人票,大学等専任職員・個人票,④土地面積・建物面積等,⑤資金収支計算書,⑥人件費支出内訳表,⑦消費収支計算書,⑧寄付金内訳表,⑨貸借対照表の合計25の帳票がある。このうち,②の3帳票と③’の4帳票の合計帳票の各データは,補助金の算定資料としても使用している(乙3,9)。
各学校法人から基礎調査に対する回答がなされると,被控訴人のデータベース課で,コンピュータに入力する。その後,入力されたデータを点検し,間違い等が発見された場合には,各学校法人に対して問い合わせるなどして,適宜訂正がなされる。そして,毎年,8月ないし9月ころ,基礎調査に基づくデータベースが完成する。
データベースが完成すると,データベース課から各課に対し,必要なデータが送られる(乙11,12)。各課に送られた基礎調査のデータは,融資業務,補助金業務,経営相談センター業務,情報サービス業務等に不可欠な資料として使用される。
(ウ)補助金交付事務について(甲33の1)
被控訴人は,毎年4月初旬,関係学校法人に対し,提出期限を同月下旬と定めて,補助金にかかる事務担当者名簿の提出依頼書等(乙15,16)を送付する。その後,この事務担当者名簿を提出した学校法人に対し,6月ないし7月ころ,補助金事務研修会(甲33の1・2)を実施する。
被控訴人は,これと並行して,補助金算定の基礎となるデータを収集するが,その方法として,まず,基礎調査に基づいて収集する方法と関係学校法人に対して,別途,調査票を送付してデータを収集する方法とがある。前者については,補助金課が,9月ころ,データベース課から基礎調査にかかるデータ(上記の②及び③’の各データ)を受け取り,後者については,被控訴人において,毎年6月ころ,関係学校法人に対し,7月中旬を提出期限として,基礎調査の対象となっていない留年者数等について,調査票の提出を依頼しており(乙17),提出されたデータについては,補助金課で入力・チェックしている。
その後,補助金課は,各データに基づいて専任教員等給与費,専任職員給与費及び教育研究経常費の3費目について補助金額を計算し,11月ころ,被控訴人から,関係学校法人に対し,補助金額の第一次内示を行い,その内示に基づく補助金の交付申請書が提出された後,12月ころ,補助金の第一次概算交付を行うが,上記3費目のうち,教育研究経常費の算定には,(基礎調査で収集した)学生数データが使用される(もっとも,8月下旬ころに,各種調査票の見直し依頼がなされる。)。そして,翌年2月ないし3月ころ,最終的な概算補助金額が決定した段階で,被控訴人から関係学校法人に対し,その内示を行い(甲3の17~22),そのころ,関係学校法人から被控訴人に対し,その内示に基づく補助金の交付申請書(甲3の2・3~16・27)が提出され,3月ころ,その最終概算交付を行う。
被控訴人は,5月下旬ころ,関係学校法人に対し,事業の実績報告書や計算書類等(甲3の23~26)の提出を求め,8月ころ,補助金額の最終的な確定を行って,当該学校法人との間で精算を行う。
ウ 前記1の事実に上記認定事実を併せれば,本件調査は,各学校法人の任意の協力の下,高い回答率(ほぼ100%-証人b)により信頼性やデータ内容の正確性を確保しているものであること,被控訴人が行う経営診断や経営相談など,私立学校に対する各種支援業務はこのような本件調査によって可能となっていること,本件取消請求部分は,一般的には,その公表により当該学校法人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれのあることが認められる。そうであるとすると,仮に法人情報公開法に基づき,本件取消請求部分を開示することになれば,学生現員数等の情報公開に消極的な学校法人の中には,今後,自校の同種情報が開示されるリスクを嫌い,被控訴人の調査への協力に躊躇し,本件調査に応じないものが増える蓋然性が高いし,調査への提出率が下がれば,これまで蓄積されてきた本件調査データの継続性が損なわれ,入学志願動向速報等の本件調査の成果物の信頼性が失われることにもなる(乙20,証人b)。したがって,本件取消請求部分は,これを公にすることにより被控訴人の業務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもので,法人情報公開法5条4号の事務支障情報に当たると認められる。
前記のとおり,aは,自ら学生数情報を公開していると認められるが,aにおいて,被控訴人が学生現員数等を開示することを予定しているとまではいえず,また,被控訴人がaについて上記個別的な事情によって学生現員数等を開示した場合,その個別的事情を当然には知り得ない他の学校法人が,今後,本件調査に協力することに躊躇し,被控訴人の情報収集提供業務の適正な執行に支障を及ぼすおそれがあることに変わりはない。
なお,仮に被控訴人が開示請求を受けた際,関係する学校法人に対し,常に法人情報公開法14条の意見書提出を求める取扱いをし,そのことが各学校法人に周知されれば,学校法人の個別的な事情を考慮した開示決定をしても,被控訴人の情報収集提供業務に支障を及ぼすおそれはなくなると予想されるが,上記取扱いがされていない現状では,前記のとおり解するのが相当である(控訴人は,上記解釈が,同法14条の解釈を誤ったものであるとし,開示請求者に義務付けられているのは,開示請求書の提出及び手数料の納付だけであり,開示請求にかかる第三者にその旨を伝えることが義務付けられているわけではないと主張しているが,その主張が控訴人の誤解に基づくものであることは,上記の判示に照らして明らかである。また,控訴人は,被控訴人が,開示請求に対して適切な調査検討を行う法的義務があるにもかかわらず,調査検討や第三者保護手続を懈怠している被控訴人を免責し,控訴人を不利益に扱うことは極めて不当であると主張しているが,そもそも,本件における争点は,控訴人が不開示決定の取消を求めている文書部分が,不開示情報に該当するか否かであり,上記主張は本件とは無関係であるといわざるを得ない。)。
ほかに,本件取消請求部分が法人情報公開法5条4号(事務支障情報)に該当するとの認定を覆すに足りる証拠はない。
エ 控訴人は,当審において,学校法人基礎調査と私立大学等経常費補助金交付事務とは根本的に異なったものであることを強調したのに,学校法人基礎調査に対する支障のみを判断しているし,そもそも,控訴人が開示請求した文書は,学校法人基礎調査に関する文書ではないと主張している。
しかし,上記認定事実によれば,被控訴人では,各部署においてそれぞれ担当業務を処理しているが,それらの業務は別個独立のものではなく,相互に関連しあっていること(さらにいえば,甲33の1の22頁「(2)平成15年度事務予定の4月及び5月の業務内容にある「専任教員・職員調査票提出依頼送付,学生定員・現員調査票提出依頼送付(4月),専任教員・職員調査票,学生定員・現員調査票締切(5月)」は,データベース課が行うものであること(上記認定事実及び弁論の全趣旨),データベース課で取得した情報(専任教員・職員調査票,学生定員・現員調査票)については,補助金課においても使用していること)が認められるのであって,控訴人が主張するような両者が全く異なる事務であるということはできない。また,私立大学等経常費補助金交付申請書の添付資料は,基礎調査によって収集したデータを出力・印刷したものであることからすると,これら添付資料の内容を公開することは,基礎調査によって収集したデータを公開することに等しいといわなければならない。そうすると,補助金交付申請書の添付資料が公開されると,上記判示のとおり,これまで蓄積させてきた本件調査データの継続性が損なわれ,本件調査の成果物の信頼性が失われることにもなるから,被控訴人の業務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼす可能性があるというべきである。よって,控訴人の主張は理由がない(なお,平成15年度留年者調査票(大学)については,本件基礎調査に基づいて収集された情報ではないが,利益侵害情報に該当するから,そのうちの1年留年者を開示しないことについて,正当な理由があることについては前記認定・判示のとおりである。)。
この点,控訴人は,学生現員数等情報を公開することで,補助金交付事務に支障を生じるおそれのあることが主張,立証されなければならないと主張している。しかしながら,被控訴人では,補助金交付事務のみを行っているものではなく,上記のとおり,複数の事務を行っており,しかも,これら事務は相互に密接に関連しあっており,学生現員数等情報を公開することによって被控訴人の業務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼす可能性があることが認められるのであるから,あえて補助金交付事務に支障の生じるおそれのあることまで主張・立証するまでもないというべきである。よって,控訴人の主張は失当である。
3 編入学調査票の理由付記について
(1)前提
当審における当裁判所からの求釈明について,当事者間で主張のやりとりがなされている点にかんがみ,若干補足して説明する。
甲2(法人文書開示決定通知書)には,「1 開示する法人文書の名称」として,「学校法人aに係る私立大学等経常費補助金に関する法人文書(15年度)。(別紙参照)」として,別紙には原判決添付別紙「私立大学等経常費補助金資料に係る開示文書及び不開示部分の理由説明」(別紙理由説明)が付けられており,別紙理由説明には,「NO」欄1ないし24の文書が記載されており,さらに上記通知書には,被控訴人が控訴人に対し,開示する法人文書の種類,数量等として,「24種類,87枚」と記載されている。そして,法人文書の開示方法として被控訴人から控訴人に交付された甲3の1(法人文書の開示の実施について)では,番号1ないし25と番号を付して開示する法人文書を特定して開示している(もっとも,甲2に添付されている別紙理由説明には,甲3の1の番号「14」の「私立大学退職金財団掛金支出調査票」が掲げられていないが,これには不開示部分がなく,甲3の1で,開示する文書として特定しているから,被控訴人において開示した法人文書であることは明らかであり,同文書を開示文書としたため甲2では,24文書であったものが甲3の1では25文書となったものと思われる。)。ところが,甲3の1によれば,控訴人に開示された文書は番号1~25の文書であり,その枚数を数えると83枚となる。ところが,甲3の1によって開示された文書は,実際には番号1~25記載の文書(83枚)に加えて「平成15年度 学生定員・現員調査票(編入学)」(編入学調査票)の文書4枚(合計87枚)であり,上記番号1~25の文書は,記載の番号順に綴られているが,編入学調査票は,番号25の文書に続けて綴られており,しかも,甲2にも甲3の1にも,開示する法人文書として掲げられていない。
このような事実関係から,当裁判所としては,果たして編入学調査票について,開示決定がなされたものかどうかについて疑義があったことから,その点について明らかにするよう求めたのである。
これに対し,被控訴人は,上記文書についても開示決定に基づき開示しているとの釈明がなされたものである。したがって,本件においては,編入学調査票についても,被控訴人が開示決定のうえ開示をしたことを前提として判断することとする。
(2) 本件処分通知書(甲2)に添付された別紙理由説明には,被控訴人も明確に認めるように,編入学調査票について何らの記載がない。
ところで,被控訴人は,編入学調査票のうち,学生現員を不開示とした理由について,本件処分通知書の2項に不開示理由が示されており,その記載によれば,編入学調査票のなかには,「公にすることにより法人の正当な利益を害するおそれがある情報」が含まれているため,その部分について法人情報公開法5条2号イに基づいて不開示としたことが容易に了知しうるから,理由付記に欠けるところはないと主張している(なお,編入学調査票のうち,不開示とされた部分は,「学生現員」に限らず「調査票作成責任者の印」及び「調査票作成担当者・所属・氏名」についても不開示とされているが,この点について,控訴人は,取消を求めていないので特に問題としない。)。
確かに,本件処分通知書の1枚目の2項には,「不開示とした部分とその理由」として,「別紙のとおり,上記文書の中には以下に掲げる情報が記載されており,法第5条第1号及び法第5第2号イに該当するため,これらの情報が記録されている部分を不開示とします。」と記載した上,「(1)」に「個人情報(個人のプライバシー)に該当する情報(教職員の給与月額等)」,「(2)」に「公にすることにより法人の正当な利益を害するおそれがある情報(学生充足率,決算書の小科目等)。」と記載されている。そして,別紙理由説明において,各文書毎に「不開示部分」,「不開示条項」,「不開示理由」を特定して示している(甲2)。これらの記載からすると,被控訴人は,開示対象となる法人文書のうち,不開示とする部分とその理由を本件処分通知書本文と別紙理由説明とによって明らかにしており,本件処分通知書本文のみでは不開示部分の特定もその理由も明らかにされていないものと認めるのが相当である。そして,上記「前提」で認定のとおり,別紙理由説明には編入学調査票の記載は文書の特定も不開示部分及びその理由の記載も全くなく,甲3の1(法人文書の開示の実施について)に編入学調査票の記載はないものの,末尾に同文書が添付されているというのである。
このような本件処分通知書の記載あるいは開示の方法をもって編入学調査票の不開示部分の不開示理由が記載されているといえるかが問題となる。被控訴人は,編入学調査票のうち,学生現員を不開示とした理由について,本件処分通知書の2項に不開示理由が示されており,その記載によれば,編入学調査票のなかには,「公にすることにより法人の正当な利益を害するおそれがある情報」が含まれているため,その部分について法人情報公開法5条2号イに基づいて不開示としたことが容易に了知しうるから,理由付記に欠けるところはないと主張するのであるが,本件処分通知書に編入学調査票に関する記載が全くないのであるから,後の開示に当たって同文書が添付され,不開示部分を特定して開示されたからといって,不開示理由を明らかにしたことにはならないことは当然である。加えて,上記「公にすることにより法人の正当な利益を害するおそれがある情報(学生充足率,決算書の小科目等)。」との理由は,単に,法人情報公開法5条2号イの概括的,抽象的な規定を引き写したに等しいものに過ぎず,その具体的理由を示したものとは到底いえないばかりか(このことは,本件処分通知書添付の別紙理由説明の「不開示理由」欄に記載された理由がかなりの具体性をもって示されていることと対比しても明らかである。),そもそも,本件処分通知書の1枚目は,その2項に「別紙のとおり,」とあることから明らかなように,別紙理由説明を前提としており,別紙理由説明に記載された不開示理由をまとめて概括的,抽象的に記載したものにすぎず,これをもって,別紙理由説明に記載されていない文書(学生定員・現員調査票(編入学))にかかる不開示理由を補完するものとは到底いえず,不開示の理由とすることはできないといわなければならない。
この点,開示された編入学調査票を見れば,編入学調査票の不開示部分は学生現員数であることは明らかであるところ,本件処分通知書の記載によれば,編入学調査票の不開示部分の不開示理由が法人情報公開法5条2号イであることは容易に理解できると考えられないではない。しかし,上記判示から明らかなように,本件処分通知書には編入学調査票の記載は全くなく,開示に当たって同文書が添付されたというに過ぎないのであるから,行政手続法8条が行政庁が拒否処分を書面によりするときは,処分理由を書面により示さなければならないと定めている趣旨に徴しても,上記のような事情をもって編入学調査票の不開示処分に理由が付記されたものと解することは到底できないというべきである。
(3) そうすると,編入学調査票の不開示部分について,不開示の理由が付記されたとはいえないから,上記不開示処分は,行政手続法8条所定の理由の付記要件を欠く違法なものといわざるを得ない。
(4) よって,控訴人の,上記違法を理由とする別紙一覧表の「番号」欄「3」記載の取消請求を求める部分については,理由があるというべきである。
4 結論
以上によれば,本件取消請求部分のうち,別紙一覧表の「番号」欄「3」記載にかかる取消請求部分については理由があるから認容し,その余は,法人情報公開法5条2号イ又は4号に該当し,これを不開示とした本件処分(上記取消請求部分を除く。)は適法であるから棄却すべきところ,これと結論を異にする原判決は一部失当であるから,主文のとおり変更することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松山恒昭 裁判官 小原卓雄 裁判官 吉岡真一)
別紙取消請求一覧表
番号
帳票
取消請求部分
1
平成15年度学生定員・現員調査票(大学)
全5枚(甲3の9)
学生現員
入学者数
定員充足率
2
平成15年度学生定員・現員調査票(大学院)
全5枚(甲3の10)
学生現員
入学者数
3
平成15年度学生定員・現員調査票(編入学)
全4枚(甲3の27)
学生現員
4
平成15年度留年者調査票(大学)
全5枚(甲3の11)
1年留年者(編入者含)
1年留年者(編入者)
1年留年者(編入者除)
5
平成15年度学生に係る補助金配分額計算表
全1枚(甲3の22)
現員(「編現員」も含む)
対象学生数
経常的経費