大阪高等裁判所 平成18年(く)370号 決定 2006年8月30日
主文
本件即時抗告を棄却する。
理由
第1主任弁護人の抗告の趣旨及び理由
基本事件の公判前整理手続において,弁護人らが被告人についての不起訴裁定書の開示の裁定を請求したところ,大阪地方裁判所は,平成18年8月11日,本件において不起訴裁定書は弁護人の主張との関連性及び開示の必要性がいずれも低く,開示することが相当とはみられないとして,上記請求を棄却する旨決定した。しかしながら,原決定は不起訴裁定書について弁護人の主張との関連性及び開示の必要性の程度を誤って評価しており不当である。さらに,弁護人らは原決定後に公訴権の濫用の主張をする旨明らかにしているのであるが,この主張に関連しても不起訴裁定書の開示の必要性は高い。いずれにせよ原決定は不当であるから,これを取り消した上,検察官は弁護人に対し不起訴裁定書の開示をせよとの裁判を求める。
第2抗告理由に対する判断
本件公訴事実の概要は,被告人が,共犯者と共謀の上,被害者を強姦し,さらに,これが合意に基づくものであるように装うために被害者に「今回の事にかんして何も思っていません」などの文言を紙に書くように強要したというものである。
まず,主任弁護人の主張のうち,不起訴裁定書は基本事件における弁護人の主張(原決定時になされていたもの)との関連性及び開示の必要性がいずれも高いとの点について検討する。
弁護人らは,本件公判前整理手続において,被告人が強姦について共犯者と共謀をしたことはなく被害者とは合意の上で性交に及んだのであり,被害者において上記の文言を紙に記載したことはあるが被告人がこれを強要したのではなく,また,これを強要することについて共犯者と共謀したことはない旨の主張を予定している旨述べた上で,被害者及び共犯者の供述の信用性を争点の一つとして提示している。そして,被告人については,被害者及び共犯者の取調べを経た上で,当初,起訴猶予処分とされているのであるから,被害者及び共犯者の供述の信用性を判断するためにも不起訴裁定書の開示の必要性は高いとも主張する。しかしながら,不起訴裁定書は被害者及び共犯者の供述そのもののような原証拠とは異なり原証拠等をもとにして検察官が意見を付した上で作成した事件処理手続上の書面にすぎないのであって,被害者及び共犯者の供述の信用性を判断するために,そのような不起訴裁定書を用いるべき必要性は認められない。本件においては,不起訴裁定書について,弁護人の主張との関連性及び開示の必要性はいずれも低いといわなければならない。この点について原決定の判断に誤りはない。
次に,主任弁護人の主張のうち,原決定後に弁護人らが追加して公訴権の濫用の主張をするに至っており,この関連で不起訴裁定書の開示の必要性は高いとの点について検討する。
本件においては,上記のとおり当初被告人について起訴猶予処分がなされたが,検察審査会により不起訴処分不当の議決がなされ,再捜査の上,本件公訴提起がなされるに至ったという事情がある。主任弁護人は当初の不起訴裁定書の内容を検討しなければ公訴権の濫用の有無が判明しない旨主張する。しかしながら,ある公訴提起が公訴権の濫用に該当するかどうかは,言い換えれば,証拠もないのに,または,明確に無罪であることを知りながら,被告人に不利益を科することなどを目的としてあえて公訴を提起するなどといった故意に裁量を逸脱して公訴を提起したかどうかという問題であり,上記のような事情が認められる本件において,そのような問題について判断をするに当たって,当初なされた起訴猶予処分についての不起訴裁定書に記載された検察官の意見等を検討する必要があるとは認められない。原決定後の事情を考慮しても,本件においては,不起訴裁定書と弁護人らの主張との関連性及びその開示の必要性はやはり低いといわざるを得ない。原決定を取り消さなければならない事情は存しない。
以上を総合すると本件即時抗告は理由がないのであるからこれを棄却することとし,主文のとおり決定する。
第3適用法令
刑事訴訟法426条1項
(裁判長裁判官 島敏男 裁判官 小島正夫 裁判官 伊藤寿)