大阪高等裁判所 平成18年(ネ)1401号 判決 2007年3月09日
大阪府●●●
平成18年(ワネ)第383号控訴人・
X(以下「一審原告」という。)
平成18年(ワネ)第401号被控訴人
同訴訟代理人弁護士
三木俊博
同
田端聡
同
大西賢一
同
中嶋弘
東京都中央区京橋一丁目7番1号
平成18年(ワネ)第383号被控訴人・
東海東京証券株式会社(以下「一審被告」という。)
平成18年(ワネ)第401号控訴人
同代表者代表取締役
●●●
同訴訟代理人弁護士
●●●
主文
1 一審原告の控訴に基づいて,原判決を次項のとおり変更する。
2(1) 一審被告は,一審原告に対し,4068万6818円及びこれに対する平成12年12月1日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 一審原告のその余の請求を棄却する。
3 一審被告の控訴を棄却する。
4 訴訟費用は,第1,2審を通じて,これを10分し,その5を一審原告の負担とし,その余を一審被告の負担とする。
5 この判決は,第2項(1)に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
(平成18年(ワネ)第383号事件)
1 一審原告
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 一審被告は,一審原告に対し,8543万4830円及びこれに対する平成12年12月1日から完済まで年6分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも一審被告の負担とする。
(4) 仮執行宣言
2 一審被告
(1) 一審原告の控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は,一審原告の負担とする。
(平成18年(ワネ)第401号事件)
1 一審被告
(1) 原判決を取り消す。
(2) 一審原告の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも一審原告の負担とする。
2 一審原告
(1) 一審被告の控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は,一審被告の負担とする。
第2事案の概要等
本件は,一審原告が,平成4年9月から平成12年12月初旬までの間に,一審被告と行った株式売買等の委託取引のうち,平成10年9月から平成12年12月初旬に取引が終了するまでの約2年3月の間に,一審被告の外務員が一審原告を勧誘して行わせた取引は,一審原告の投資経験,証券取引の知識,投資意向,財産状態に照らすと,証券取引における適合性原則違反,過当取引,誠実公正義務違反に当たるから,一審被告について不法行為(使用者責任)あるいは債務不履行が成立するとして,損害賠償(商事法定利率による年6分の割合による遅延損害金を含む。)を請求する事案である。
原判決は,一審原告の主張する不法行為の成立及びこれによる損害の発生を認めた上で,過失相殺を行い,一審被告に対して,損害額(弁護士費用を含む。)の15パーセントの額及び民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を命じ,その余の請求を棄却した。これに対して,一審原告は,過失相殺をするべきでないとして敗訴部分の取消し等を求め,一審被告は,上記取引に違法性等はないから不法行為や債務不履行が成立することはないとして敗訴部分の取消し等を求め,それぞれ控訴した。
1 争いのない事実
(1) 当事者等
ア 一審原告は,大正●●●年●●●月●●●日生まれの女性であり,昭和26年1月にY(以下「亡Y」ともいう。)と婚姻してから現在まで,専業主婦をしている。
A(以下「A」という。)及びB(以下「B」という。)は,一審原告と亡Yとの間の子である。
亡Yは,昭和61年2月14日に死亡し,一審原告,A及びBが遺産を相続した。
イ 一審被告は,証券業を営む株式会社である(平成12年10月に商号変更する前の商号は,東京証券株式会社)。
一審被告は,平成4年9月から平成12年12月初旬に取引が終了するまでの間,一審原告と証券売買等の委託取引(以下「本件全取引」という。)を行った。
ウ 一審原告との本件全取引を担当した一審被告の外務員は,当初は森●●●(以下「森●●●」という。)であったが,同人が平成9年2月末に本店に異動したので,同年3月から宮●●●(以下「宮●●●」という。)に交替した。
エ 森●●●は,昭和63年4月に東京証券株式会社に入社し,平成3年12月から平成9年2月まで一審被告の高槻支店に勤務し,その後本店に異動した。
宮●●●は,平成3年4月に東京証券株式会社に入社し,平成9年2月に高槻支店勤務となり,平成10年3月に同支店が京都支店に統合されたことによって京都支店所属となり,平成14年3月に中津川支店に異動した。
(2) 一審原告は,訪問セールスに来た森●●●の勧誘により,一審原告名義の取引口座(以下「原告名義取引口座」という。)を高槻支店に開設し,平成4年9月から取引を開始した。その後,一審原告は,平成6年4月にB名義の取引口座(以下「B名義取引口座」という。)を,次いで,同年8月にA名義の取引口座(以下「A名義取引口座」という。)を順次同支店に開設し,これら3口の取引口座を使って本件全取引を行った。同取引の内容は,原告名義取引口座において,当初は金貯蓄取引の更新を継続的に行い,平成5年7月から株式取引等の委託取引を開始し,B名義取引口座及びA名義取引口座においては,口座開設当初から株式取引等の委託取引を行った。
原告名義取引口座における取引の具体的内容を時系列で整理すると,原判決別紙X月別取引銘柄一覧表記載のとおりである(ただし,同表の「買付単価」欄に対応する各記載及び「買付時金額」欄に対応する各記載を除く。また,同表の項目欄の「売却枚数」を「数量」と改める。)。
B名義取引口座における取引の具体的内容を時系列で整理すると,原判決別紙B月別取引銘柄取引一覧表記載のとおりである(ただし,同表の「買付単価」欄に対応する各記載及び「買付時金額」欄に対応する各記載を除く。また,同表の項目欄の「売却枚数」を「数量」と改める。)。
A名義取引口座における取引の具体的内容を時系列で整理すると,原判決別紙A月別取引銘柄一覧表記載のとおりである(ただし,同表の「買付単価」欄に対応する各記載及び「買付時金額」欄に対応する各記載を除く。また,同表の項目欄の「売却枚数」を「数量」と改める。また,以下においては,上記3口座を総称して「原告ら名義取引口座」といい,原判決別紙X月別取引銘柄一覧表,同別紙A月別取引銘柄一覧表及び同別紙B月別取引銘柄取引一覧表を総称して「別紙月別取引銘柄一覧表」という。)。
(3) 宮●●●は,平成11年12月ころ,一審原告が長期保有の意図で銀行の貸金庫に株券を保管している株式(以下「本件金庫株」という。)について,証券税制の変更による不利益を回避するために,一度売却した上で買い戻すのが得策であるから,本件金庫株の売却とその買戻しを任せてほしいと一審原告に述べて勧誘した。
一審原告は,同月17日ころ,原判決別紙預託株券目録記載の株式の株券(以下「本件預託株券」という。)を,各株券の名義に応じて原告ら名義取引口座にそれぞれ預託し,宮●●●がこれを証券取引市場で売却した。その売却代金の合計は約5600万円であった。
宮●●●は,一審原告に対し,本件金庫株を買い戻すのは,それらの株価が値下がりするのを待って実行することにして,その間,上記売却代金を別の証券取引等に投資するように勧めた。一審原告は,宮●●●の勧めに反対しなかった。
その後,一審原告は,宮●●●に対し,本件金庫株の買戻しの実行を要請した。ところが,宮●●●は,本件金庫株の売却代金で購入した株式の株価等が下がっているので買戻資金の手当がつかないと答えて,直ちに本件金庫株の買戻しをしなかった。
(4) 一審原告は,平成12年11月,宮●●●に対し,原告ら名義取引口座について,時価で評価した口座残高の報告を求めた。
宮●●●は,同月28日,一審原告に対し,上記残高は総額で6700万円である旨の虚偽の報告をした。
その後,宮●●●は,一審原告に対し,上記報告は虚偽であって,上記残高の真実の額は約3000万円であると訂正する報告をした(同報告の時期については当事者間で争いがある。)。
2 争点及び争点に対する当事者の主張
争点及び争点に対する当事者の主張は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「2 争点及び争点に対する当事者の主張」(原判決4頁9行目から同15頁16行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決6頁25行目末尾に続けて改行の上,次のとおり加える。
「エ 以上のとおり,一審原告は,エース証券での取引のほか,一審被告の外務員2名による適合性原則に違反する証券取引等の勧誘を受けて証券取引等を行ったことによって損害を被った。一審原告が一審被告と行った取引全体(本件全取引)のうち,平成10年9月から平成12年12月初旬に取引が終了するまでの間に原告ら名義取引口座で行われた一審被告との取引(以下「本件問題取引」という。)は,一審被告の外務員である宮●●●が適合性原則に違反して一審原告に行わせたものであるから,本件問題取引について,一審被告は損害賠償責任がある。」
(2) 同8頁10行目末尾に続けて改行の上,次のとおり加える。
「したがって,一審原告は,宮●●●が行った本件問題取引の内容や損益について十分把握していたものである。」
(3) 同11頁11行目の「取引」の次に「(すなわち本件問題取引)」を加える。
(4) 同13行目の「1526万2817円」の次に「(以上合計約6900万円)」を加える。
(5) 同13行目末尾に続けて改行の上,次のとおり加える。
「一審原告は,本件問題取引によって,後記のとおり約7800万円の取引損を被っているところ,その中には,本件問題取引の手数料である上記の約6900万円が含まれている。証券投資としての証券取引においては,当該取引に要する手数料等の諸経費の負担を含めてその損益を算定すべきである。本件問題取引において,上記の手数料総額と取引損との間の比率は異常というべきであって,宮●●●が手数料稼ぎの意図で本件問題取引を行ったことを如実に示すものである。」
(6) 同16行目の「一連の取引」を「本件問題取引」と改める。
(7) 同20行目の「以降」の次に「(すなわち,本件金庫株の売却を委託したときから後)」を加える。
(8) 同12頁1行目の「逆手に取って」を「得ていることを利用して」と改める。
(9) 同13頁4行目から同6行目までを削除する。
(10) 同14頁3行目の「平成12年11月」の前に「約1年が経過した」を加える。
(11) 同15行目から同17行目までを削除する。
(12) 同20行目の「上記宮●●●の一連の違法行為によって,」を「宮●●●が平成10年9月から平成12年12月初旬に取引が終了するまでの間に行った,上記の違法行為によって」と改める。
(13) 同15頁3行目から同7行目までを,次のとおり改める。
「本件問題取引によって生じた一審原告の損害は上記のとおりであるところ,その一部である本件金庫株の売却に始まる取引の詳細は別紙取引銘柄一覧表記載のとおりであり,同表を通覧すれば,宮●●●が一審原告に金庫株の売却を勧誘し,その売却代金を使って様々な株式等の短期的取引を行って手数料稼ぎをしたことが容易に看取できる。そして,上記の取引による損害は,原判決別紙「平成11年12月17日以降の損害一覧表」記載のとおりであって,その損害額だけを取り出すと,次のとおりである。」
(14) 同15頁16行目末尾に続けて改行の上,次のとおり加える。
「(5) 過失相殺
(一審被告の主張)
過失相殺は,本件事案に応じて裁判所がその裁量権に基づいて行うべきものであるところ,過失相殺の前提となるべき一審原告に関する事情は,前記の(1)及び(2)の各「(被告の主張)」欄で主張したとおりである。
(一審原告の主張)
本件問題取引の実態は前記のとおりであって,その違法性の程度が甚だしいだけでなく,宮●●●の行った手数料稼ぎにより,一審被告は約6900万円の手数料収入を得たことからすると,一審原告の被った損害について過失相殺をすれば,手数料の取得を事実上容認することになり不当である。仮に,損害の公平な分担を図る趣旨で過失相殺を行うとしても,その割合は極めて限定されるべきである。」
第3争点に対する判断
1 一審原告は,本件問題取引について適合性原則違反(争点(1))及び過当取引(争点(2))の主張をするので,まず,一審原告の証券投資歴,本件問題取引の開始から終了に至る経緯及び本件問題取引の内容等の事実関係について検討する。
上記の事実関係として,当裁判所が認定する事実は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」の「1 判断の前提とする事実」(原判決15頁19行目から同30頁22行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決15頁20行目の「22」の次に「,25の1ないし5,32,」を加える。
(2) 同16頁4行目から同5行目にかけての「原告が夫から」を「一審原告,A及びBが亡Yから」と改める。
(3) 同6行目の「X」を「一審原告」と改める。
(4) 同11行目の「証券取引」を「投資目的で証券取引」と改める。
(5) 同18頁15行目から同19頁23行目までを,次のとおり改める。
「一審原告は,森●●●を外務員として徐々に信頼するようになった。そのため,森●●●が,一審原告に対して,平成7年12月下旬に,森●●●の営業上の実績を上げるために,一審原告が保有していた電力株等の株券を原告ら名義取引口座に入庫する便宜を図って欲しいと依頼すると,一審原告は依頼に応じて,一審原告,A及びB名義の株券を入庫して,平成9年春ころに出庫するまで預託を続けていた。
ウ 一審原告は,森●●●を担当者として一審被告と株式売買等の取引をするについて,株価の値動きについては常に関心を持ち,チャートブックや新聞の株式欄に目を通していただけでなく,株式新聞などの専門紙や,チャートブック,会社四季報等を自宅に備えていたし,森●●●も,チャートブックや会社四季報を一審原告宅に届けたりした。これらの資料により,一審原告は,株式投資に関する情報を集めていた。
エ しかし,実際に,投資対象とする株式の銘柄等を選定して,その売買委託の注文を出すについては,一審原告は,森●●●が推奨する銘柄のすべてを購入していたわけではなく,森●●●の勧めを受け入れなかったこともあったが,森●●●の勧めに従うことが多かった。また,森●●●の勧める銘柄を購入する際も,一審原告自身が納得の上で購入しており,取引内容について,自分なりに把握に努めていた。
そのほか,一審原告は,住友系の銘柄について関心を持ち,これらに対する投資意欲を有していたほか,近畿通信建設及び関西汽船の株式については,直接株式投資の判断に関係する事情ではない個人的な事情や好みを有していて,森●●●の意見等を参考にすることなく売買取引を行ったりした。
オ 一審原告は,本件全取引のうち森●●●が担当者として関与していた取引は,森●●●による事実上の一任売買であったと主張し,その理由として,一審原告は,エース証券との取引についてアドバイスをしてくれる森●●●を信頼していたので,一審原告の証券投資の知識・経験の乏しさを補ってくれる森●●●が推奨する銘柄の売買をいわれるまま売買していたと説明し,これに沿う証拠(甲15,原審における一審原告)も存在する。
しかし,一審原告の上記主張は,次の理由により採用することはできない。すなわち,前記認定事実によれば,一審原告は,保有していた電力株の入庫を森●●●が要請すればそれに応じたこともあり,また,エース証券に対する訴訟を提起するについて,森●●●は,エース証券での一審原告の取引の実態の分析に協力していたと認められる。これらの事情によると,一審原告は,森●●●に対してそれ相応の信頼感を持っていたことが推認できる。
しかし,前記認定事実によれば,一審原告は,株価の値動きに関心を持ち,森●●●から銘柄の推奨を受けても,これを断ることもあり,推奨銘柄の購入も,自らが得た知識,情報に基づいて自分なりに納得の上で購入していたと認められる。したがって,一審原告と森●●●との間で,森●●●が推奨する銘柄のかなりの部分について,一審原告が森●●●の意見を尊重していたことは十分窺われるけれども,一審原告が,森●●●に対して,森●●●が一審原告に断ることなくその一存で株式取引をすることまで許していたとか,森●●●の投資判断に一審原告が盲従することによって,森●●●が事実上一任売買を行っていたと認めることはできない。
以上のとおりであるから,一審原告の上記主張は採用することができず,一審原告が,森●●●を担当者として行った一審被告との取引は,多くの場合,森●●●の意見を一審原告が採用して,同人自らが行っていたというべきである。」
(6) 同20頁22行目から同21頁1行目までを,次のとおり改める。
「エ 森●●●は,一審原告の求めに応じ,一審原告とエース証券との取引の実態を解明する作業に協力した。そのために,一審原告とともに数回にわたって太平洋法律事務所に出向き,一審原告及び三木弁護士とともに上記取引の問題点を検討し,エース証券での取引の問題点について意見を述べた。それとともに,意見を文書化した上で,一審被告の内部資料を添付して,三木弁護士に渡した。
森●●●が,三木弁護士に渡した文書は,売買検証報告書(甲16の添付文書)と題する文書であって,それには,おおよそ次の内容が記載されている。
エース証券との取引に関する顧客勘定元帳等の資料から看取できる事項のうち,取引期間,売買回数,トータル損益,委託手数料合計,平均建玉日数,売買頻度,1回当たり平均損益,平均約定金額,平均手数料等の数字を見た限りでは,次の点について疑問がある。①顧客の利益を無視した回転売買になっていないか。②利益よりも委託手数料優先になっていないか。③短期売買を繰り返しその銘柄情報,投資成果,又は状況報告などは正確になされていたか。④家族口座が他に2口座あり,顧客の性質からそれぞれの売買についてすべてを把握していたとは言いがたいのではないか。以上の4点である。結論的に,森●●●は,上記取引は一任勘定売買に近く,健全なものではないところ,かなりの損失が発生しているのに,十分な説明と善後策の協議がされていないことなどを考えると,適合性の原則(資力,投資経験にあった取引)を尊重したものではないと判断する。以上であった。」
(7) 同21頁6行目の「エース証券での行われた」を「エース証券で行われた」と,同19行目の「適度に増殖させる」を「適度な利殖をはかる」と,それぞれ改める。
(8) 同23頁10行目末尾に続けて改行の上,次のとおり加える。
「宮●●●が一審原告の担当となって間もない時期に,一審原告が宮●●●の勧めに従った株式取引をして上記の利益をあげた経過は次のとおりである。
(ア) 平成9年3月25日,一審原告がアロカ株2000株を売却
(イ) 同月26日,一審原告が住友シチックス株3000株,兼松日産農林株2000株,日本電産株400株,トーカロ株1000株を売却
(ウ) 同日,一審原告がセコム株2000株を買付(買付代金総額1338万円)
(エ) 同年4月9日 一審原告がセコム株2000株を売付(売却代金705万8847円及び704万8945円の合計1410万7792円)
一審原告は,上記(ウ)と(エ)のセコム株の売買取引をして,2週間で72万7792円の売買益を得た。」
(9) 同20行目から同25行目までを削除する。
(10) 同26行目から同26頁3行目までを,次のとおり改める。
「(7)宮●●●による売買取引の再開
ア 一審被告は,平成10年11月ころ,一審原告が宮●●●に対して,原告ら名義取引口座における取引を一任したと主張する。
しかし,本件証拠をみても,一審原告と宮●●●が明示的に一任売買の合意をしたことを示す的確な証拠はないし(宮●●●は,原審の証人尋問において,上記主張に沿う供述をするけれども,その供述内容は,一審原告が,宮●●●の判断で売買取引をして,月額50万円の利益をあげるように宮●●●に言ったというだけであって,宮●●●がこれを承諾したこと,あるいは,それ以降において宮●●●が一審原告に月額50万円の利益を実際に取得あるいは確保させていた事実があるなどとは供述していないし,その後において50万円の利益確保が両者間の話題となったことがあったことを示す証拠もないから,宮●●●の上記供述のみで一任売買の合意がされたと認めることはできない。),両者が一任売買の合意をする具体的な必要性があったことを窺わせる証拠もない。以上によると,一審被告の上記主張は採用できないから,結局,平成10年9月から,宮●●●が,一審原告から売買取引の注文を受託したとして証券市場で執行していたのは,一任売買の合意に基づくものではなかったというべきである。
イ 前記のとおり,約10か月間株式等の取引をしていなかった一審原告は,平成10年7月に取引を再開しているところ,同月以降の取引についてみると,おおよそ次のとおりである。
(ア)平成9年7月ころから平成10年11月ころまでの原告ら名義取引口座における取引内容は次のとおりである。
(原告名義取引口座)
a 平成9年11月から平成10年6月まで
取引なし
b 平成10年7月
2取引日でニューウイング98-7など2銘柄を買付(代金総額約220万円)
同月7日 エーシーエムアメリカンインカムを1200口売付
c 平成10年8月
取引なし
d 平成10年9月
5取引日で東燃株など5銘柄を買付(代金総額約2100万円)
5取引日で東燃株など9銘柄を売付
e 平成10年10月
6取引日で東京証券株など5銘柄を買付(代金総額約2800万円)
6取引日でトヨタ自動車株など10銘柄を売付
(B名義取引口座)
a 平成9年6月から平成10年9月まで
取引なし
b 平成10年10月
6取引日で四国電力株など6銘柄を買付(代金総額約1600万円)
4取引日で四国電力株など6銘柄を売付(代金総額約1900万円)
c 平成10年11月
5取引日で日本株ダブル・ベアなど5銘柄を買付(代金総額約380万円)
4取引日でブル225オープンなど2銘柄を売付
(A名義取引口座)
a 平成9年9月から平成10年9月まで
ほとんど取引なし
b 平成10年10月
7取引日で北海道電力株など6銘柄を買付(代金総額約2600万円)
6取引日で北海道電力株など10銘柄を売付(代金総額約2700万円)
c 平成10年11月
6取引日で日本株ダブル・ベアなど3銘柄を買付(代金総額約1800万円)
6取引日でブル225オープンなど2銘柄を売付
(イ) 以上のとおり,平成10年9月からは,取引中止以前の取引と対比すると,比較にならないほど多い,かなりの数量の株式等の売買取引が原告ら名義取引口座において行われていることが認められる。
その詳細は,前記のとおり,別紙月別取引銘柄一覧表の同月以降の取引欄に記載のとおりである。
(ウ) 同月からの上記取引については,宮●●●は,一審原告と一任の合意をしていないのに,自らの投資判断に基づいて売買取引を行うようになり(以下「本件一任売買」という。),一審原告には,事後的に上記取引の内容及び損益を報告すれば足りると考えていた。
(エ) 一審原告は,宮●●●が上記態様の取引をしている間も,株価の値動きについては新聞の株価欄,会社四季報,チャートブックなどに目を通していて,宮●●●が,チャートブックを一審原告宅に持っていくこともあった。また,一審原告は,関西汽船などの関心のある銘柄については,自ら銘柄を指定して売買することもあった。
ウ 上記で認定した本件問題取引の推移と取引の内容及び態様等を通観すると,前記のとおり,宮●●●は,森●●●からの引継ぎの際,一審原告がエース証券を相手に訴訟を提起していることを知らされ,また,自らも,エース証券の一審原告に対する取引は無断売買ではないかと思ったのであるから,一審原告がエース証券の外務員から不利益な証券取引を行わされて損失を被るような人物であることを当然知っていたといえる。そこで,宮●●●は,このような人物である一審原告の証券取引を自分が主導して,自分の投資判断でその投資資金を運用しようとし,他方,一審原告においても,前記のとおりセコム株で効率的に取引利益を確保できる勧誘をした宮●●●の投資判断に依拠して,利益をあげようとしたことが推認できる。
エ そして,宮●●●は,短期的に利益を確保する意図で,値動きの大きな店頭登録銘柄の株式に順次投資したり,株式市況の動向から受ける影響が逆方向の値動きになって現れる性格を持つ投資信託をほぼ同時並行的に取引対象とするなど,投資意図や思惑が不明確で投資活動としての合理性が保たれているとは思われない取引を継続した。」
(11) 同26頁26行目から同27頁22行目までを,次のとおり改める。
「(イ) 一審原告と宮●●●は,宮●●●が一審原告宅を訪問した際に,証券投資に関する情報等が話題となったかどうかについて,異なる説明をする(原審における各供述)けれども,本件問題取引をめぐる一審原告と宮●●●との関係が前記のとおりであることからすると,両者の間では,投資対象とする株式等の銘柄の選定等について,宮●●●が主導的立場に立って意見を述べ,これを聞いた一審原告がそれに追従する立場であったと推認するのが相当である。
カ 以上で認定,検討したところによると,本件問題取引は,一審原告が主張する傾向ないし特徴(原判決9頁19行目から同11頁8行目までの記載)を有していることが明らかである。そして,上記傾向ないし特徴は,本件問題取引が,一審被告の主張する株式投資の手法(原判決12頁14行目から同13頁3行目までに記載)に即して行われたことを示しているものであるところ,上記手法は,一審原告の証券投資の目的,方針に適合するものであるとは認め難いものである。
すなわち,一審原告は,昭和62年ころから株式投資を開始したものであるところ,本件問題取引開始よりも以前の取引は,新聞の株価欄,会社四季報,チャートブックなどに目を通し,月に何度か訪問してくる証券会社の外務員から情報等を聞くなどの方法によって,投資判断が可能な取引であったが,本件問題取引は,上記のような投資手法に基づいて行われているものであるから,新聞の株価欄に目を通す等の情報収集では,投資判断をすることが極めて困難といえる態様のものであるといわなければならない。したがって,本件問題取引に至るまでの一審原告の株式投資歴がかなり長いこと,一審原告が上記のとおり株価の動向を定期刊行物等で把握していたこと,関西汽船等の特定の数銘柄について自らの判断で売買をしていたこと等があるからといって,本件問題取引(ただし,関西汽船株及び近畿通信建設株を除く。)について,一審原告が,株式投資の判断を自己責任で行いうるほどの情報を収集したり,取引知識や投資経験を有していたと認めるには抵抗があるというべきである。」
(12) 同28頁13行目から同29頁9行目までを,次のとおり改める。
「イ 宮●●●は,A名義取引口座において,平成12年1月28日,公募株であるマクニカ株1000株の買付に成功し(代金総額1000万円),本件預託株券の売却代金で上記買付代金の払込みをして,同年2月16日,これを売却した(代金総額1562万7570円)結果,約20日で562万7570円の利益を出した。
ウ 一審原告は,宮●●●から上記売却代金をマクニカ株の投資に流用して上記の売買益を得たことを聞いたが,宮●●●が上記売却代金を流用したことについて非難はしなかった。
宮●●●は,本件預託株券の売却代金を他の株式投資等で運用することについて,一審原告の承諾を得ないでこれを実行した。
これ以後,宮●●●は,この本件預託株券の売却代金を,本件一任売買取引の資金として運用したが,同年4月以降,株式相場は下落基調となり,一審原告の本件問題取引においても,評価損が増大していった。」
(13) 同29頁12行目の「相場の下落の影響で」を「売却代金を投資した株式等が,相場の下落傾向の中で値下がりしていて,これらを売却してもその代金額で金庫株の」と改める。
(14) 同30頁2行目の「被告」から同3行目の「減らすとともに,」までを削除する。
(15) 同5行目から同19行目までを,次のとおり改める。
「イ 一審原告が,上記問い合わせに対する宮●●●からの回答等で本件一任売買取引の実態を知った経緯は次のとおりである。
(ア) 一審原告が,宮●●●に対して,原告ら名義取引口座に預託中の株式の時価総額を問い合わせたのに対して,宮●●●は,平成12年11月28日午前9時17分,照会のあった残高について,メモを作成して京都支店のファックスで一審原告に送信した(甲9)。
同メモには,次のとおり記載されている。
① 投資信託の時価が4169万円
内訳 投資信託13銘柄についての口数等
村田製作所EB債の株数等
② 株式の時価が2528万円
内訳 株式6銘柄についての株数等
③ 以上の資産総額6700万円
(イ) 一審原告は,同日付で,一審原告,A,Bの各名義で一審被告宛の残高確認書を作成した(乙82,84,86)。
(ウ) 宮●●●は,そのころ,一審原告に要請されて,Aに金庫株の買戻し資金の不足のため買戻しができていない旨を説明する手紙を出した。宮●●●の手紙を見て驚いたAは,受け取った上記の手紙を,平成12年12月1日14時17分,一審原告にファックスで送信した。
(エ) 宮●●●は,同年12月4日現在における,原告ら名義取引口座にある株式,投資信託等の数量と時価等についてメモを作成した。同メモには,次のとおり記載されている(甲25の3,4)。
一審原告名義 858万円 内訳は5銘柄
A名義 1414万円 内訳は6銘柄
B名義 1000万円 内訳は8銘柄
以上の合計は3272万円
(オ) 宮●●●は,上記メモを作成したほか,売却した本件金庫株の買戻しに要する金額を,同月4日の時点による株価に基づいて算出した一覧表を同日付で作成して,上記メモに添付した。同表には,原判決添付の預託株券目録と比べて,銘柄及び株数の一部が欠落しているものの,ほぼこれと同様の銘柄及び株数を買うには,一審原告について1294万円,Aについて1981万円,Bについて1903万円(以上合計5178万円)の買付資金を要することになる旨が記載された。
(カ) 宮●●●は,同月4日,上記メモ等を一人暮らしをする一審原告の留守中に同人宅に届けた。
(キ) 同月5日午後6時ころ,宮●●●とその上司の佐●●●課長が一審原告方を訪問して,本件預託株式の買戻しの実行方法等について説明したが,具体的な見通しは立たないとの結論であった(甲25の1)。」
2 争点(1)及び(2)について
(1) 証券会社の義務について
証券会社の義務については,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」の「2 争点(1)ないし(3)について」の「(1)」(原判決30頁24行目から同32頁5行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
ア 原判決31頁8行目冒頭から同10行目の「ものではない。」までを,次のとおり改める。
「 他方,証券取引市場に一般投資家の参加を図ることは,国民経済上好ましいことであるから,上記自己責任の原則を維持しつつ,一般投資家に対して,自己責任を問い得る条件を付与して同市場への参入を容易にすることが,健全な証券取引市場の発展にとって必要であることはいうまでもないところである。したがって,証券会社が一般投資家に証券取引を勧誘するについては,適切な方法と態様による勧誘をすることが要請されるものである。」
イ 同23行目の「投資を勧誘」から同32頁1行目までを,次のとおり改める。
「,一般投資家の自己決定権を損なう投資勧誘をしてはならない法的義務がある。この法的義務には,顧客となった一般投資家と証券会社とが継続的に取引を続ける関係になっている場合に,当該顧客を担当する証券会社の外務員が的確な投資勧誘を行ったそれまでの実績によって,顧客が当該外務員を信頼し,その投資勧誘に事実上追従するようになっている状態において,当該外務員が顧客の信頼を利用して,顧客の自己決定権を損なう投資勧誘をしてはならないことも含まれるものである。したがって,証券会社及びその外務員は,顧客から取引の一任を受けたり,事後報告をすることで足りる等の了解を得ている場合において,当該顧客が明示的または黙示的に示している基本的な投資方針あるいは投資意向に反するような取引を上記一任や了解に基づいて行ってはならない義務がある。それだけでなく,上記の一任や了解を得ていない場合においても,上記方針や意向と異なる投資勧誘を行うときは,その点を顧客に具体的,明示的にわかりやすく説明して,顧客の自己決定権が損なわれることのないようにしなければならない義務を負うものであって,顧客から信頼を得ているということで,この説明義務がなくなるものではないというべきである。」
(2) 一審原告の投資経験,証券取引の知識,投資意向,財産状態等について
一審原告の投資経験,証券取引の知識,投資意向,財産状態等については,次のとおり補正するほかは,原判決の32頁7行目から同38頁20行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
ア 原判決32頁末行目の「平成10年11月」を「平成10年9月」と改める。
イ 同34頁4行目の「段階に至って,」から同7行目末尾までを次のとおり改める。
「段階では,一審原告は,信用取引ないし一任取引が損失を被るリスクのある投資方法であることを自己の経験を通して学んでいたと推認することができる。」
ウ 同36頁7行目から同8行目にかけての「本格的な株式投資を指向していた」を「投機的な株式投資を行うこともときには選択していた」と改める。
エ 同9行目から同13行目までを,次のとおり改める。
「ウ しかし,一審原告は,亡Yの遺産である株式のうち,本件金庫株を含めて,東京電力株等の電力株,東京ガス株等のガス会社株,住友電気工業株等の住友系の主力企業株等の優良銘柄は,前記の事情で証券取引に使う目的以外の事情で一時的に高槻市店の口座に預託したことがあるものの,基本的には長期保有の目的で銀行に預けていたものである。したがって,一審原告は,それ以外の株式等に限定して,証券投資の原資に充てていたものと認められる。しかも,一審原告が,証券投資に関する情報を収集する方法は,株価の動向を掲載する定期刊行物等に目を通すほかは,訪問してくる証券会社の外務員の話を聞く程度であったから,一審原告は,気持ちの上で,証券投資を日常的かつ継続的に行って取引益を獲得することを意図していたけれども,その実質は,余裕資金をその限度で証券市場で安全に運用する程度のことであって,到底,全面的に投機的な株式売買を行うとの意図に基づいて証券取引を行おうとしていたとはいえない。」
オ 同19行目の「資産を有し」から同行末尾までを,「資産を保有していることによって,比較的多額の余裕資金を証券投資に充てることができる一般投資家であった。」と改める。
(3) 本件問題取引の特徴について
本件問題取引の特徴については,次のとおり補正するほかは,原判決の39頁8行目の「前記認定事実」から同41頁26行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
ア 原判決40頁15行目末尾に続けて改行の上,次のとおり加える。
「しかし,本件問題取引を構成する個々の取引は,前記のとおり,証券投資としての思惑や意図が不明確なまま短期的な売買を行っているものであり,結果的に手数料の負担が過大なものになっていることに照らすと,短期的取引で,売付額と買付額との売買差益だけをみて,それが黒字になっていることだけで,それらの取引に問題がないということは相当ではない。」
イ 同41頁6行目の「行われることにも合理性がある」を「行われることに全く合理性がないといい切ることはできない」と改める。
ウ 同7行目から同9行目までを,次のとおり改める。
「 このように,以上の取引手法が,直ちに不合理であるということにはならないとしても,上記取引手法は,極めて専門的な性格を帯びているものであり,したがって,主として新聞等の証券欄の株価を見ながら,1か月に数回訪問してくる外務員から取引に関する知識を取得しつつ,余裕資金を運用している高齢の専業主婦が行う手法として正常なものであり,何らの問題もないとは到底いえないというべきである。
したがって,一審原告が取引主体となっている本件問題取引について,上記のような取引手法で取引が行われていること自体が,その正常性を疑わせるものである(証券投資の方法として上記の手法があることを理由として,本件問題取引を正常なものであると説明する宮●●●の供述及び一審被告の主張に理由があるとすることはできない。)。」
エ 同10行目の「しかしながら」を「そして」と改める。
オ 同25行目から同26行目までを削除する。
(4) 本件問題取引のうち本件金庫株の売却及び買戻し等について
本件問題取引のうち本件金庫株の売却及び買戻し等については,次のとおり補正するほかは,原判決の42頁2行目から同43頁7行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
ア 原判決42頁2行目から同8行目までを,次のとおり改める。
「ア 本件金庫株の売却以降の取引は,本件問題取引の一部であるから,本件問題取引についてすでに検討したことが当てはまるものであるけれども,本件金庫株の売却及びその売却代金の使途に関する事実によれば,本件問題取引に関する前記の検討結果が裏付けられていることは,次のとおりである。」
イ 同14行目の「行動であると」を「行動であるかのようにも」と改める。
ウ 同18行目の「売却されたものと認められる。」を「売却されたかのようにも認められる。しかし,宮●●●が,その後に本件金庫株の売却代金を使った使途に照らすと,宮●●●が一審原告に本件金庫株の売却を勧めた動機付けとしては,その売却代金を一審原告の証券投資の原資とすることを意図していたことが大きかったと推認するのが相当である。したがって,一審原告は本件金庫株の売却自体については納得していたとしても,それは,宮●●●の上記意図を知らないままにされたものといわなければならない。」と改める。
エ 同43頁1行目の「宮●●●自身」から同7行目までを,次のとおり改める。「宮●●●は,平成11年12月末ころ本件金庫株を売却した直後の平成12年1月末にタイミングよくマクニカ株の公募に当選して同年2月に約560万円の売買益を得たことで,一審原告の信頼をさらに得て,これを利用して上記売買代金約5600万円を自分が事実上運用できるように,一審原告を誘導したものと推認できる。」
(5) 本件問題取引に関する宮●●●の認識について
ア 前記の認定事実と前記各証拠によると,本件問題取引に関して宮●●●の認識として次のことが認められる。
a 宮●●●は,前任者の森●●●から引継ぎを受ける際に,一審原告はエース証券の外務員によって手数料稼ぎ等の違法行為の被害を受けている投資家であるとの説明を聞いていたものであるから,一審原告が,証券取引歴の長さや投資資金の額の大きさに比べると,それほど証券取引に熟達した投資家ではないことを知っていたと推認できる。
b 宮●●●は,エース証券の外務員が一審原告を勧誘して行わせた証券取引等について,いかなる点で問題があると批判されているかについて,前記の事情で聞き知っていたから,自分が一審原告に対して行った本件問題取引は,エース証券の上記勧誘と比較すれば,それ以上に問題があるとの批判を受けるものであることを認識していたと推認できる。
c エース証券の取引を分析した森●●●の前記売買検証報告書の記載によると,本件問題取引ほど著しい特徴を有していないエース証券の取引について,それが外務員の勧誘行為として相当問題があることを森●●●は容易に認識できたものであるから,約6年の外務員経歴を有する宮●●●が本件問題取引の問題性を認識し,理解していなかったとは考えられない。
d 本件問題取引において,わずか2年3か月間で一審原告が一審被告に支払った手数料の総額は,順次累積していって,最終的に約6900万円もの高額になっていることに照らすと,そのことを宮●●●が承知していなかったとは考えられない。ところが,宮●●●はそのことを一審原告に一切告げていないのであるから,このような宮●●●の態度は,本件問題取引について,一審原告の利益を全く考慮していなかったことを窺わせるものといえる。
e 宮●●●は,本件金庫株の売却代金額が,一審原告がそれまでに投資資金として注ぎ込んでいた金額よりもはるかに多額であるのに,マクニカ株で利益を得たことなどを利用して,投資資金の金額の点で従来の一審原告の投資資金の枠から大きく逸脱した証券投資をなし崩し的に行っている。そのことは,宮●●●が上記の逸脱を認識していながら,一審原告にそれを告げなかったものと推認できる。
f 宮●●●は,本件問題取引が,多種多様な銘柄の株式や投資信託等を短期的に頻繁に売買することで利益をあげることをねらっているのであるから,一審原告において,証券市場の動向を常時注視して,取引のタイミングを外さないように適切な投資判断をすべきことが要求されているところ,宮●●●は,一審原告がそれほど証券取引に熟達した投資家ではないことを知っていたのであるから,一審原告が本件問題取引にきちんと対応できない状況下で本件問題取引を行っていることがわかっていたはずである。
g 宮●●●が,一審原告から原告ら名義取引口座の残高を照会された際に,真実は約3000万円程度であるにもかかわらず,6700万円である旨の虚偽のメモを作成して回答したことは,一審原告に真実を告げると自己の立場が不利益になると考えたことを示すものであり,そのことは,上記照会を受けるまでに,宮●●●が行ってきた本件問題取引が,一審原告にその結果を負わせることのできるものではないと,宮●●●が考えていたことを示すものと認められる。
イ 以上によると,宮●●●は,一審原告の投資方針が,基本的には亡Yの遺産のうち,長期保有のために銀行等に預けている株式以外の余裕資金で運用益を取得しようとするものであり,投資対象とする銘柄も,個人的な好みがある数種の銘柄のほかは,優良銘柄を考えていたことを承知していながら,一審原告が,証券投資に関する情報等を一般的な定期刊行物で収集するほかは,外務員の勧誘に依存するだけにとどまっていることを知って,自分が担当者となったころの投資勧誘により一審原告が利益を得たことで,一審原告の信頼を得たことを利用して,本件問題取引の開始時から一審原告に適合しない取引に誘導し,取引の勧誘を徐々に拡大させ,一審原告が当初予定していた額をはるかに超過する額を投資資金として投入させて,過当な取引を継続し,高額の取引手数料を支払わせたものというべきである。
(6) 以上で検討したところによると,本件問題取引は,それまでに一審原告が経験していた証券取引等とは,投資対象の選択,投資金額,投資の手法等の面で,質的に異なるものであり,しかも,一審原告が大まかに設定していた証券投資の枠組みを著しく逸脱しているものであるから,一審原告の従来の投資経験では対応しきれないものであるにもかかわらず,一審原告はそのことを明確には認識できていなかったものであり,他方で,宮●●●は,一審原告から信頼されていることを利用して,積極的,かつ,なし崩し的に一審原告を本件問題取引に導き入れたものということができる。
そうすると,宮●●●が,一審原告に対して本件問題取引を勧誘したことは,一審原告が自己責任を負うべき状況の下で証券取引を行うことを妨げたことになるといわなければならない。
以上で述べてきたところによると,本件問題取引は適合性原則に違反し,かつ,過当取引に当たるというべきである。ただし,上記認定のとおり,関西汽船株及び近畿通信建設株については,一審原告は,自己の判断で取引を行っていたものであるから,この取引については,適合性原則違反や過当取引の問題は生じないとするのが相当である。
(7) 損害及び過失相殺について
損害及び過失相殺については,次のとおり補正するほかは,原判決の43頁22行目から同44頁18行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
ア 原判決44頁1行目末尾に続けて改行の上,次のとおり加える。
「そして,上記の損害額は,原告ら名義取引口座の残高について,本件問題取引の開始直前と終了時の額の差額と,同口座への入出金額の差額に基づいて算定したものであるが,それには,本件問題取引から除外した関西汽船株及び近畿通信建設株の取引の損益(平成12年8月11日の関西汽船株8000株の売却による売却損128万0739円,平成10年9月21日の近畿通信建設株5000株の売却による売却損239万2005円,以上合計367万2744円)及び本件問題取引の開始直前と終了時の額の差額の算定に,本件問題取引開始前に買い付けられ,同終了時に口座に残っている関西汽船株2000株の評価損(1株当たり14円で合計2万8000円)が含まれているので,これらの合計370万0744円を上記損害額から控除すべきである。
したがって,一審原告の本件問題取引による損害の合計は7397万3636円となる。」
イ 同2行目から同3行目までを削除する。
ウ 同4行目の「その一方で」を「ところで」と改める。
エ 同16行目の「前記損害」から同18行目までを次のとおり改める。
「一審原告が,株式投資についてそれほど熟達した投資家ではないにもかかわらず,そのことを自覚することなく,証券会社の外務員に依存して証券投資を行ったことが,前記の損害の発生及び拡大の原因となったことは否定しようがない事実である。しかし,他方で,前記のとおり,宮●●●は,一審原告がこのような投資家であることを承知していながら,一審原告から信頼を得ていることを利用して本件問題取引の勧誘をしたものであり,この点における宮●●●の違法性は大きいといえる。
したがって,一審原告と宮●●●の双方に関する以上の事情を考慮するならば,上記損害に対する一審原告の過失の割合は,5割と見るのが相当であるから,本件においては5割の過失相殺をするのが相当である。
そうすると,一審被告は一審原告に対して,上記7397万3636円の損害の5割の額である3698万6818円を賠償すべきことになる。したがって,弁護士費用の額としては370万円を認めるのが相当である。」
(8) 以上のとおりであるから,一審被告は,一審原告に対して,4068万6818円(3698万6818円と370万円の合計)及びこれに対する不法行為後の日である平成12年12月1日から完済まで民法所定年5分の割合による遅延損害金(不法行為に基づく損害賠償金の遅延損害金には,商法514条の適用はない。)を支払うべき義務がある。
したがって,これと異なる原判決は,上記の限度で不当であり変更すべきであるから,一審原告の控訴は理由があり,一審被告の控訴は理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 武田和博 裁判官 楠本新 裁判官 辻本利雄)