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大阪高等裁判所 平成18年(ネ)1663号 判決 2007年1月23日

控訴人・附帯被控訴人(以下「控訴人」という。)

甲野花子

訴訟代理人弁護士

松葉知幸

澤登

板野充倫

被控訴人・附帯控訴人(以下「被控訴人」という。)

甲野太郎

訴訟代理人弁護士

若尾令英

主文

1  本件控訴に基づき,原判決主文3項を次のとおり変更する。

被控訴人は,控訴人に対し,1739万円を支払え。

2  本件控訴及び附帯控訴に基づき,原判決主文4項を次のとおり変更する。

被控訴人は,控訴人に対し,被控訴人が中小企業金融公庫から退職手当を支給されたときは,別紙1「退職手当財産分与計算式」記載の計算式によって求められる退職手当財産分与額の金員を支払え。

3  控訴人のその余の本件控訴及び被控訴人のその余の附帯控訴をいずれも棄却する。

4  訴訟費用は,第1,2審及び本訴・反訴を通じて,これを3分し,その1を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求める裁判

1  控訴人

(1)  原判決を次のとおり変更する。

(2)  控訴人と被控訴人とを離婚する。

(3)  控訴人と被控訴人との間の長女葉子(昭和63年11月*日生)の親権者を控訴人と定める。

(4)  被控訴人は,控訴人に対し,300万円を支払え。

(5)  被控訴人は,控訴人に対し,原判決別紙物件目録記載の不動産(ただし,同目録中「マンションA」を「マンションB」と改める。)について,財産分与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

(6)  被控訴人は,控訴人に対し,長女葉子の養育費として,離婚成立の日から平成20年11月まで月額20万円ずつを支払え。

(7)  被控訴人の請求を棄却する。

(8)  被控訴人の附帯控訴を棄却する。

(9)  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

(1)  本件控訴を棄却する。

(2)  原判決中,被控訴人敗訴部分を取り消す。

(3)  控訴人と被控訴人との間の長女葉子(昭和63年11月*日生)の親権者を被控訴人と定める。

(4)  控訴人は,被控訴人に対し,300万円及びこれに対する平成16年10月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(5)  被控訴人は,控訴人に対し,1103万円を支払え。

(6)  被控訴人は,控訴人に対し,被控訴人が中小企業金融公庫から退職手当を支給されたときは,440万円を支払え。

(7)  訴訟費用は,第1,2審とも控訴人の負担とする。

(8)  (4)につき仮執行宣言

第2  事案の概要

1  当事者間に争いのない前提となる事実

被控訴人(夫。昭和26年9月*日生,55歳)と控訴人(妻。昭和32年12月*日生,口頭弁論終結時48歳)は,昭和63年2月15日に婚姻した夫婦であり(婚姻当時,被控訴人36歳,控訴人30歳),その間には,昭和63年11月*日に出生した長女葉子(18歳)がいる。

被控訴人と控訴人は,平成15年8月から別居して現在に至っている。被控訴人は,現在,中小企業金融公庫Z支店長として勤務先のZ市内に住んでいる。控訴人は,もともと専業主婦で,現在,兵庫県西宮市内にある被控訴人所有の「マンションB」***号室のマンション(原判決別紙物件目録記載の建物。以下「自宅マンション」という。)に長女と共に住んでいる。

被控訴人は,平成15年10月,控訴人に対し,離婚を求めて夫婦関係調整の調停を申し立てたが,平成16年4月12日,調停は不成立となった。

2  本件の請求(本訴及び反訴)

本件の本訴請求は,被控訴人が,控訴人に対し,①民法770条1項5号に基づき離婚を求めるとともに,②長女の親権者を被控訴人と定めることを求め,かつ,③慰謝料300万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

反訴請求は,控訴人が被控訴人に対し,①民法770条1項5号に基づき離婚を求めるとともに,②長女の親権者を控訴人と定めることを求め,かつ,③慰謝料300万円の支払,④財産分与を原因とする自宅マンションの所有権移転登記手続,⑤平成16年9月から長女が成人に達するまで月額10万円(原審)の養育費の支払,をそれぞれ求めた事案である。

3  原審の判断

原審は,①被控訴人の本訴離婚請求及び控訴人の反訴離婚請求をいずれも認容し(主文1項),②長女の親権者を控訴人と定め(主文2項),③財産分与として,被控訴人から控訴人に対し,離婚時に1585万円(主文3項),被控訴人が中小企業金融公庫から退職金を支給されたときに550万円(主文4項)の各支払を命じ,④長女の養育費として,判決確定の日が属する月の翌月から平成20年11月(長女が20歳に達する月)まで毎月10万円の支払を命じ(主文5項),⑤被控訴人の本訴慰謝料請求及び控訴人の反訴慰謝料請求をいずれも棄却した(主文6項)。

4  本件控訴及び附帯控訴の申立て

控訴人は,原判決中,控訴人の敗訴部分並びに養育費及び財産分与に関する判断を不服として,本件控訴を提起した。なお,養育費については,原審における申立てとは異なり,離婚成立の日から平成20年11月まで月額20万円の支払を求めた。

被控訴人は,本件控訴の棄却を求めるとともに,原判決中,被控訴人の敗訴部分並びに親権者の指定及び財産分与に関する判断を不服として,附帯控訴を提起した。なお,財産分与については,離婚時に1103万円,退職金を支給されたときに440万円の各金額を超える支払を命じた部分のみを不服とするものである。

5  争点及びこれに関する当事者の主張

後記第3において判断する当審における補充主張があるほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第3 争点及びこれに対する当事者の主張」記載のとおりであるから,これを引用する。

第3  当裁判所の判断

1  判断の大要

当裁判所の判断の要旨は,次のとおりである。

(1)  離婚請求及び親権者の指定について

本訴及び反訴の離婚請求は,いずれも理由があり,長女の親権者は,控訴人と定めるのが相当である。

(2)  慰謝料請求について

婚姻破綻の責任が夫婦のいずれか一方にあるとは認められない。また,婚姻破綻の過程における言動について,夫婦のいずれか一方に,慰謝料の支払原因となるほどの違法性のある行為があったとも認められない。

したがって,本訴及び反訴の慰謝料請求は,いずれも理由がない。

(3)  退職手当を除く財産分与について

財産分与の基礎となる夫婦共同財産の形成に当たっての婚姻期間中の控訴人の寄与割合は,専業主婦であったことを考慮しても,5割と認めるのが相当である。

自宅マンションは,その取得資金の相当部分に被控訴人が婚姻前に有していた財産が充てられ,控訴人が自宅マンションを財産分与で取得して代償金を被控訴人に支払うことは,実際上困難である。したがって,自宅マンションは,離婚後も被控訴人が所有し,被控訴人から,控訴人に対し,金銭により財産分与をするのが相当である。その金額は,原審の認めた1585万円より154万円多い1739万円とするのが相当である。

(4)  退職手当の財産分与について

中小企業金融公庫の退職手当については,その支給は,ほぼ確実であるものの,金額について現時点で確定的な予測をすることは困難である。

したがって,別紙1「退職手当財産分与計算式」記載の退職手当財産分与額のとおり,実際の支給額(手取額)から,控訴人の寄与割合に相当する割合を定めて支払を命ずるのが相当である。退職手当の支給額に対する控訴人の寄与割合は,勤続期間に占める婚姻同居期間の割合も考慮し,現時点で退職した場合において支給額の4分の1の割合とするのが相当である。

(5)  養育費について

控訴人は,金銭による相当額の財産分与(財産分与の対象となる夫婦共同財産は,長女を含む家族のための財産でもある。)を受けられること,及び,被控訴人は,現時点では,控訴人が長女と共に住んでいる被控訴人所有の自宅マンションからの退去を求める申立てをしていないことなどを考慮すると,養育費は,月額10万円とするのが相当である。

以上の判断の詳細は,以下のとおりである。

2  婚姻の経過及び離婚原因について

婚姻の経過に関する当裁判所の認定事実は,原判決の「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」1記載のとおりであるから,これを引用する。

当裁判所も,上記婚姻の経過によれば,被控訴人と控訴人の婚姻関係は,完全に破綻し,修復の見込みもないといえるから,民法770条1項5号所定の婚姻を継続し難い重大な事由が存在するものと判断する。その理由は,原判決の「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」2記載のとおりであるから,これを引用する。

3  親権者の指定について

当裁判所も,長女の親権者を控訴人と定めるのが相当であると判断する。その理由は,原判決の「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」3記載のとおりであるから,これを引用する。

なお,被控訴人は,当審において,控訴人は,テニススクールに週1回通っていながら,体調が悪く働けないとして婚姻費用の増額を求めており,離婚に備えて自ら働き子供の生活を守るという姿勢がみられず,控訴人には親権者としての自覚・責任感がなく,親権者としての適格性が欠けていると主張する。

しかし,控訴人はもともと専業主婦であった一方,被控訴人は中小企業金融公庫の幹部職員として高額の収入があったのであるから,専業主婦であった控訴人が,別居後も被控訴人による婚姻費用分担に依存し,就職しないで長女の監護養育を続けてきたからといって,直ちに控訴人に親権者としての自覚・責任感がないといえるものではない。まして,そのことから,控訴人に親権者としての適格性がないといえるものでもない。

被控訴人の上記主張は,採用できない。

4  本訴及び反訴の慰謝料請求について

当裁判所も,被控訴人の本訴慰謝料請求及び控訴人の反訴慰謝料請求は,いずれも理由がないものと判断する。

その理由は,原判決の「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」4記載のとおりであるから,これを引用する。

5  財産分与の対象とすべき財産について

財産分与の対象とすべき財産(実質的な夫婦共有財産)に関する当裁判所の認定判断は,当審における主張等に鑑み次のとおり改めるほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」5(1),(2)(16頁12行目から26頁3行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  自宅マンションについて

ア 原判決16頁下から12行目の「ア 自宅マンション 2268万円」を「ア 自宅マンション 2517万円」と改める。

イ 17頁末行から19頁3行目までの全文を次のとおり改める。

「上記認定事実によれば,自宅マンションの購入資金とされた被控訴人名義の三菱信託銀行梅田支店の貸付信託(ビッグ)の解約金1486万5624円は,その口座が結婚の翌年である平成元年9月に開設され(乙26),その後,毎年12月のボーナス時期に多額の預入れがされていることからすれば(乙25,26),その全額が,被控訴人の給与・ボーナス等の収入を原資として婚姻後に形成された財産であると認めるのが相当である。

被控訴人は,ビッグのうち平成2年12月20日までに預け入れた270万円は,被控訴人が婚姻前からの特有財産の移動を終えて作成した財産目録(甲13)に記載があり,婚姻前からの預金を充てたものであると主張する。

しかし,甲13号証は,その作成日付によれば,既に婚姻後約3年経過した平成3年1月28日に作成されたものであり,しかも,ビッグの記載の前に,「学資保険(第一生命)」,「郵便貯金(葉子)」,「郵便貯金(花子)」など,子のための保険及び妻子名義の貯金の記載があり,更に妻花子名義の郵便貯金の預入日の記載をみると,婚姻前の昭和59年のものから順次記載されている。このような作成時期及び記載内容からすれば,甲13号証が,被控訴人の婚姻前の特有財産のみを記載した財産目録であるとは,到底認められない。

したがって,甲13号証の記載に基づく被控訴人の上記主張は,根拠に乏しく採用できない。

被控訴人は,明治生命の一時払養老保険の満期金についても,甲13号証の記載に基づき,被控訴人の特有財産を自宅マンションの購入資金に充てたものであると主張する。

しかし,甲13号証は,上記認定のとおり被控訴人の特有財産のみを記載したものではない上,その記載によれば,明治生命の一時払養老保険は,婚姻の翌年である平成元年3月17日に妻の控訴人を受取人として契約したものであることが認められるから,これを被控訴人が婚姻前に形成した財産と認めるべき根拠とはならない。

以上のとおり,自宅マンションの購入資金として被控訴人の特有財産が充てられた金額は,ワイドの解約金1681万円(1万円未満切捨)に限られ,ほかに,これを認めるべき証拠はない。」

ウ 19頁4行目から同10行目までの全文を次のとおり改める。

「(ウ) したがって,自宅マンションの評価額から,取得価額に占める被控訴人の特有財産が原資とされた割合を控除して夫婦の実質的共有財産部分を算出すれば,自宅マンションの評価額のうち財産分与の対象とみるべき額は,次の計算式のとおり2517万円となる。

3785万円×(1−1681万円÷5020万円)=2517万円(1万円未満切捨)」

(2)  退職手当について

19頁11行目から21頁下から8行目までの全文を次のとおり改める。

「イ 退職手当

被控訴人は,昭和51年4月から中小企業金融公庫の職員として勤務し,55歳となった現在まで30年8か月勤続し,定年まで勤務したとしても5年以内に退職することが見込まれる(甲25,被控訴人本人)。そして,中小企業金融公庫においては,職員が退職したときは,別紙2「職員退職手当支給規程」(甲17。以下「規程」という。)に定めるところにより職員に退職手当を支給することとされている(規程1条,2条)。

退職手当の金額は,基準俸給額(退職当時の本俸の額。ただし,満57歳を超えて勤務する職員については,退職当時の本俸の額と満57歳の誕生日の前日における本俸の額のいずれか高い額)に規程4条に定める支給割合を乗じて得た金額とされている(規程3条)。

支給割合は,勤続30年で100分の5000であり(規程4条1号ないし4号),勤続30年を超える場合は,これに勤続30年を超える勤続期間1年につき100分の100を加えるが(規程4条5号),最大でも100分の5500をこえないこととされている(規程4条柱書のただし書)。

ただし,職員が懲戒処分を受け,又は禁こ以上の刑に処せられたことにより退職させられた場合には,退職手当は支給せず(規程7条1項),自己の都合により退職する場合又は規程7条1項の規定する事由に準ずる事由により退職させられた場合には,退職手当の額から,これに100分の50以内の割合を乗じて得た額を減額することができるとされている(規程7条2項)。

また,勤続期間において公庫厚生年金基金の加算適用加入員であったときは,勤続期間30年をこえる場合には,規程3条による退職手当の額から,その額に100分の3の割合を乗じて得た額を減額することとされている(規程7条の2)。

以上によれば,被控訴人が中小企業金融公庫を退職したときは,被控訴人に対し,規程に基づく退職手当が支給されることには,ほぼ確実な見込みがあるといえる。そして,退職手当には勤労の対価の後払いの性質があり,かつ,婚姻から別居までの期間は,15年5か月余りで,控訴人が,その間,専業主婦として,被控訴人の勤務の継続に寄与してきたと認められることからすると,被控訴人が支給を受ける退職手当には,少なくともその一部には,夫婦が共同して形成した財産としての性質があり,これを考慮して,退職手当の支給額の一部を財産分与することが相当と認められる。

しかし,実際に支給される退職手当の額は,なお,定年まで5年程度の期間があることを考えると,それまでの間に退職手当の算定基礎である本俸が変動することにより,あるいは退職事由の如何により,相当程度変動する可能性が残されている。ちなみに,規程では,自己都合退職の場合,定年退職の場合の2分の1程度に減額される可能性もある。更には,退職手当に関する制度自体に変更が生ずる可能性もないとはいえない。

そうすると,本件の場合において退職手当を財産分与するについては,あらかじめ特定の額を定めるのではなく,実際に支給された退職手当の額(退職手当に係る所得税及び住民税の徴収額を控除した額)を基礎として,退職時までの勤続期間に基づいて定まる割合を乗じて得られる額とすべきである。そして,この割合は,後に詳述するとおり,実際の支給額のうち勤続期間30年に対応する額に,勤続期間30年分の退職手当額についての控訴人の寄与割合4分の1を乗じた金額とすべきである。」

(3)  被控訴人名義の預貯金について

ア みずほ銀行の定期預金について

21頁下から5行目から同下から3行目までの全文を次のとおり改める。

「みずほ銀行の定期預金のうち50万円は,被控訴人が婚姻前から管理している給与の振込口座と一体となった定期預金で(甲15,弁論の全趣旨),平成2年9月20日には既に預金されていたことからすれば(甲13),婚姻前に被控訴人がした預金が継続しているものであり(甲25の6頁),被控訴人の特有財産と認めるのが相当である。」

イ 中小公庫互助会積立金について

22頁1行目の「497万8239円」を「497万8209円」と改め,同4行目の「3万3330円」を「3万3300円」と改め,同5行目の文末に改行して,次のとおり加える。

「被控訴人は,平成3年1月時点で互助会積立金が99万8000円であったことを根拠として(甲13。実際は特別積立金を合わせて111万0586円である。),このうち結婚前の積立金相当額80万円は,被控訴人の特有財産として財産分与から控除すべきであると主張する。

しかし,昭和63年当時の積立金が,払戻しがされないまま平成3年1月まで積み立てられたことを認めるに足る証拠はない。むしろ,乙10号証と甲21号証を対比すれば,平成15年7月から平成17年12月までの間に,互助会積立金が494万4909円から591万9513円に増加し,2年5か月の間の増加分だけで97万4604円に上っている。この事実からすれば,結婚3年後の平成3年1月時点で約111万円の積立金があったとしても,その程度の金額は,すべて結婚後の積立てにより形成された財産であると考えることもできる。いずれにしても,積立額の推移に照らせば,結婚前の積立金がそのまま平成3年1月時点で残っていたことの証明はないといわざるを得ない。

したがって,平成15年8月時点の積立金の全額を財産分与の対象財産とするのが相当である。」

(4)  被控訴人名義の保険について

ア 22頁9行目の「エ 原告名義の保険 348万円」を「エ 被控訴人名義の保険 418万円」と改める。

イ 第一生命のこども学資保険について

22頁下から8行目の「114万6700円」を「184万6700円」と改め,同下から3行目の「解約返戻金は,」から同末行の「試算され」までを次のとおり改める。

「解約返還金は,184万6700円(返還金額114万6700円+学資金据置金70万円。学資金が据え置かれていることにつき,乙30)と試算され」

(5)  控訴人名義の預貯金について

ア 23頁下から11行目の「オ 被告名義の預貯金 153万円」を「オ 控訴人名義の預貯金 163万円」と改める。

イ 定額郵便貯金について

23頁下から6行目の「定額郵便貯金290万5000円」を「定額郵便貯金300万5000円」と改め,同下から5,6行目の「合計499万0337円」を「合計509万0337円」と改め,24頁下から9行目の「合計額499万0337円」を「合計額509万0337円」と改め,同下から8行目の「153万7045円」を「163万7045円」と改め,24頁下から6行目の文末に改行して,次のとおり加える。

「控訴人は,協栄生命保険の一時払養老保険100万円は,満期時には170万円となっていると主張するが,これを認めるべき証拠はない。

また,控訴人は,平成5年におばが亡くなった際に母からもらったお金(控訴人の主張によれば60万円)もある旨供述するが(控訴人調書4項),仮にそのような事実があったとしても,それが現在の控訴人名義の預貯金として残されていることを認めるべき証拠はない。」

(6)  希望グループ保険について

26頁3行目の文末に改行して,次のとおり加える。

「希望グループ保険(甲11)については,解約返戻金があることを認めるに足る証拠はない。」

6  財産分与における夫婦の寄与割合について

当裁判所も,本件の財産分与における夫婦の寄与割合は,各2分の1とみるのが相当であると判断する。その理由は,原判決(26頁下から13行目から同下から4行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。

7  退職手当を除く財産の財産分与について

以上によれば,退職手当を除き,財産分与の対象となる財産は,以下のアないしオの合計4220万円となり,上記寄与割合に基づき夫婦のそれぞれが離婚に当たり取得すべき財産の価額を算出すれば,その2分の1に当たる2110万円となる。

ア  自宅マンション    2517万円

イ  被控訴人名義の預貯金 914万円

ウ  被控訴人名義の保険  418万円

エ  控訴人名義の預貯金  163万円

オ  控訴人名義の保険   208万円

合計(ア〜オ)    4220万円

被控訴人が自宅マンションを取得した上で金銭により財産分与をして清算するとすれば,被控訴人は,控訴人に対し,離婚に当たり夫婦の一方が取得すべき財産の価額2110万円から控訴人名義の財産額(エとオの合計)371万円を控除した1739万円を支払うべきこととなる。この場合でも被控訴人は,預貯金,保険等の金融資産の額,中小企業金融公庫の幹部職員である被控訴人の収入及び信用,更には担保権設定のない自宅マンションを所有していることからすれば,これを支払う十分な資力があると認められる。そして,現在,控訴人と長女は自宅マンションに住んでいることを考慮しても,1700万円を超える金員を財産分与として受ければ,控訴人と長女が,自宅マンションの近くに新たな住まいを探すことも可能であり,生活の連続性も保たれると考えられる。

他方で,控訴人が自宅マンションを取得するとすれば,自宅マンションの評価額3785万円に控訴人名義の財産額371万円を加えた4156万円から,被控訴人が取得すべき財産の価額2110万円を控除した2046万円を被控訴人に対して代償金として支払うべきことになる。自宅マンションの評価額のうち,財産分与の対象価額を超える部分は,被控訴人の特有財産を原資としているから,控訴人は,これを取得するためには,その代償をも支払うべきであるからである。しかし,控訴人は,もともと専業主婦で現在無職無収入であり,控訴人名義の金融資産の額は,財産分与の対象とならない部分を含めても,預貯金509万円,簡易保険310万円の合計819万円にすぎない。そうすると,控訴人が自宅マンションを取得した場合には,控訴人には,被控訴人に対する代償金を支払う資力があるとは認められないし,仮に借入等によりこれをまかなうとすれば,かえって生活が困難になるおそれすらある。

したがって,自宅マンションは,被控訴人が取得することとし,被控訴人から控訴人に対し,離婚に際しての金銭による財産の清算として,1739万円の財産分与の支払を命ずるのが相当である。

8  退職手当の財産分与について

上記のとおり,夫婦の間の婚姻期間中の財産形成についての寄与割合2分の1,現時点で退職した場合の勤続期間約30年,別居までの婚姻期間はその勤続期間の2分の1の約15年であるから,仮に,現時点で退職した場合には,被控訴人は,控訴人に対し,退職手当が支給されたときに,実際に支給される退職手当(ただし,所得税及び住民税の徴収額を控除した額)の4分の1の割合の額を財産分与として支払うこととするのが相当である。すなわち,勤続期間に占める婚姻同居期間の割合2分の1に,夫婦間の寄与割合2分の1を掛けて得られる4分の1の割合の財産分与をするのが相当であるからである。

ただし,現時点で退職した場合の支給割合は,基準俸給額の100分の5000(50か月分)であるが,平成19年3月以降に退職する場合には,勤続期間が31年になり,以後勤続期間1年につき支給割合100分の100(1か月分)増えることになる。そして,勤続期間が今後31年を超えることにより支給割合が増えることによる退職手当の増加については,控訴人の寄与はない。そして,この勤続期間の増加による支給割合の上昇は,支給割合が100分の5500(55か月分)に達するまで認められている。

そうすると,勤続期間が30年を超えて退職した場合には,実際に支払われる退職手当のうち,勤続期間30年の場合の支給割合(100分の5000)に相当する退職手当の額に対し,上記4分の1の割合を掛けるのが相当である。

勤続期間が30年を超える場合において,勤続期間30年の場合の支給割合に相当する退職手当の額の割合は,次のとおりとなる。

勤続31年の場合(平成19年3月以降,平成20年2月以前に退職した場合) 51分の50

勤続32年の場合(平成20年3月以降,平成21年2月以前に退職した場合) 52分の50

勤続33年の場合(平成21年3月以降,平成22年2月以前に退職した場合) 53分の50

勤続34年の場合(平成22年3月以降,平成23年2月以前に退職した場合) 54分の50

勤続35年以上の場合(平成23年3月以降に退職した場合) 55分の50

以上によれば,被控訴人が控訴人に対し,退職手当の財産分与として支払うべき額は,別紙1「退職手当財産分与計算式」記載の計算式によって求められる退職手当財産分与額のとおりとなる。

9  養育費について

当裁判所は,養育費は月額10万円とするのが相当であると判断する。その理由は,当審における申立て及び主張に鑑み次のとおり改めるほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」6記載のとおりであるから,これを引用する。

原判決28頁下から10,11行目の「算定した額は20万円となり」から同下から8行目の文末までを次のとおり改める。

「算定すれば,18万円ないし20万円程度の養育費が相当であると一応認められる。しかし,控訴人は,上記認定判断のとおり,現に819万円の控訴人名義の金融資産を有し,そのうち371万円は夫婦の実質的共有財産であると認められる上に,被控訴人から金銭により1739万円の財産分与(財産分与の対象となる夫婦共同財産は,長女を含む家族のための財産としての性格も有するといえる。)を受けることになること,そして,被控訴人は,本件訴訟においては,控訴人や長女に対し被控訴人所有の自宅マンションからの退去を求める申立てをしておらず,控訴人らは自宅マンションに居住していることなどを考慮すると,現時点においては,養育費の額は,月額10万円とするのが相当である。そして,その期間は,長女が20歳に達するまでとするのが相当である。」

第4  結論

以上によれば,原判決のうち,①本訴及び反訴の離婚請求を認容し,長女の親権者を控訴人と定めた部分(原判決主文1,2項),②被控訴人から控訴人に対し月額10万円の養育費の支払を命じた部分(原判決主文5項),及び,③本訴及び反訴の慰謝料請求を棄却した部分(原判決主文6項)は,いずれも相当である。

これに対し,原判決の財産分与の申立てに対する判断は,①離婚の際における金銭の支払額(原判決主文3項),②退職手当の財産分与の方法(原判決主文4項)のいずれについても,相当でない。

よって,本件控訴に基づき,原判決主文3項を変更して財産分与として離婚の際に支払うべき額を154万円増額して1739万円の支払を命じ(主文1項),かつ,本件控訴及び附帯控訴に基づき,原判決主文4項を変更して退職手当の財産分与について別紙1「退職手当財産分与計算式」により将来実際に支給される退職手当の額を基礎として算出した金額の支払を命ずることとし(主文2項),その余の本件控訴及び附帯控訴は,いずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小田耕治 裁判官 富川照雄 裁判官 小林久起)

別紙1 退職手当財産分与計算式

退職手当財産分与額=退職手当支給額(ただし,所得税及び住民税の徴収額を控除した額)÷4×50÷A

(計算式の説明)

Aは,被控訴人が中小企業金融公庫を退職した時期に応じて次の数値を用いる。

平成19年2月以前に退職した場合 A=50

平成19年3月以降,平成20年2月以前に退職した場合 A=51

平成20年3月以降,平成21年2月以前に退職した場合 A=52

平成21年3月以降,平成22年2月以前に退職した場合 A=53

平成22年3月以降,平成23年2月以前に退職した場合 A=54

平成23年3月以降退職した場合 A=55

別紙2 職員退職手当支給規程<省略>

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