大阪高等裁判所 平成18年(ネ)357号 判決 2006年8月29日
控訴人
甲野一郎
同訴訟代理人弁護士
川﨑祥記
被控訴人
丙川二美
同訴訟代理人弁護士
喜多芳裕
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,原判決別紙物件目録記載1及び2の不動産の各持分2分の1(以下「本件不動産部分」という。)につき,平成15年4月4日贈与を原因とする持分全部移転登記手続をせよ。
3 控訴人と被控訴人との間で,控訴人が本件不動産部分を有することを確認する。
第2 事案の概要
原判決「第2 事案の概要」の記載を引用する。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,太郎が控訴人に本件不動産部分を贈与した事実は認められるが,控訴人と被控訴人との関係はいわゆる対抗問題となり,控訴人の共有持分権に基づく請求を認容できないと判断する。その理由については,2のとおり補足するほかは,原判決「第3 争点に対する判断」の記載を引用する。ただし,6頁3行目の「同年」を「平成15年」と改める。
2 控訴人は,当審においても,民法990条により包括受遺者が相続人と同一の権利義務を有するとされることを根拠に,包括受遺者である被控訴人は,特定遺贈を受けたのとは異なり,太郎の義務を包括承継しており,控訴人との関係では民法177条にいう第三者ではないと主張する。
しかし,被相続人の意思に基づく財産の処分である点で,包括遺贈は,特定遺贈と同じである。包括遺贈も,遺贈の対象となる財産を個々的に掲記する代わりにこれを包括的に表示する実質を有するもので,その限りで特定遺贈とその性質を異にするものではないと解される。包括遺贈が被相続人の意思に基づく財産の処分である以上,その効力が生前贈与などのように生前に発生するか,被相続人の死亡時に発生するかにかかわりなく,それに基づく物権変動の効力は,登記がされるまでは,いずれも未完成であり,登記がされれば,その時点で完成すると解するのが相当である。実質的にみても,相続人の存在は,戸籍により明確に把握できるのに対し,遺贈の有無は,包括遺贈であれ特定遺贈であれ,外部からは当然には分からないのであるから,これによる所有権の移転が登記なしに第三者に対抗することができないと解することが,第三者の保護の見地からも妥当であるといえる。民法177条との関係では,包括遺贈による所有権の移転と特定遺贈による所有権の移転とを区別して考えることはできないというべきである。
そうすると,民法990条の規定にかかわらず,包括遺贈による所有権の移転は,民法177条にいう「不動産に関する物権の得喪及び変更」に該当し,そのような物権変動を受けた他の者との関係では,対抗問題になり,原則として,包括遺贈を受けた者が民法177条にいう「第三者」に該当すると解すべきである。
本件においては,控訴人が持分全部移転登記を経由していないから被控訴人に対して贈与に基づく本件不動産部分の取得を対抗できないし,そもそも,被控訴人が遺贈に基づく持分全部移転登記を経由しているから,控訴人は,被控訴人に対して,本件不動産部分の取得を主張することはできない。
なお,控訴人は,本件不動産部分が本件遺言上包括遺贈の対象から除かれているかのようにも主張する。しかし,本件遺言には,「私の財産は,全て,丙川二美に遺贈します。」とだけ記載され,特定の財産を除外する趣旨はうかがわれないし,贈与契約による所有権の移転も,登記されなければ完成しないのであるから,太郎が本件不動産部分を遺贈することは可能であるといわなければならない。
控訴人は,その他さまざまな主張をするが,これらは,いずれも,これまで述べたところに照らし,本件の結論を左右するとはいえない。
3 以上によれば,原判決は,相当である。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・竹中省吾,裁判官・竹中邦夫,裁判官・久留島群一)