大阪高等裁判所 平成18年(ネ)977号 判決 2006年10月26日
控訴人(原告)
株式会社近畿大阪銀行
同代表者代表取締役
A
同訴訟代理人弁護士
鈴木秋夫
被控訴人(被告)
Y
同訴訟代理人弁護士
古川幸伯
同
伊藤甲治
主文
1 原判決を次のとおり変更する。
(1) 控訴人の主位的請求を棄却する。
(2) Bと被控訴人とが平成14年3月12日にした別紙物件目録1記載の土地及び同目録2記載の建物の売買契約を取り消す。
(3) 被控訴人は、別紙物件目録1記載の土地について、別紙登記目録1記載の所有権一部移転登記の詐害行為取消を原因とする抹消登記手続をせよ。
(4) 被控訴人は、別紙物件目録2記載の建物について、別紙登記目録2記載の所有権一部移転登記の詐害行為取消を原因とする抹消登記手続をせよ。
2 訴訟費用は、第1審、第2審を通じて、被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 主位的請求
(1) Bと被控訴人とが平成14年7月2日にした別紙物件目録1記載の土地(以下「本件土地」という。)及び同目録2記載の建物(以下「本件建物」という。)の売買契約を取り消す。
(2) 被控訴人は、本件土地について、別紙登記目録1記載の所有権一部移転登記の詐害行為取消を原因とする抹消登記手続をせよ。
(3) 被控訴人は、本件建物について、別紙登記目録2記載の所有権一部移転登記の詐害行為取消を原因とする抹消登記手続をせよ。
3 予備的請求
主文第1項(2)ないし(4)同旨。
第2事案の概要
本件は、B(以下「B」という。)に対する債権を有する控訴人が、Bにおいてその所有する本件土地の持分20分の1及び本件建物の持分4分の1を実妹である被控訴人に売却した契約が詐害行為に当たるとして、その取消及び同契約に基づいてされた持分移転登記の抹消登記手続を、被控訴人に求めた事案である。
1 争いのない事実
(1) 控訴人は、株式会社なにわ銀行(以下「なにわ銀行」という。)と株式会社福徳銀行が合併して平成10年10月1日に成立した株式会社なみはや銀行(以下「なみはや銀行」という。)から、平成13年2月13日に営業譲渡を受けたことにより、なみはや銀行のBに対する債権を承継した。
(2) Bは、C(以下「C」という。)の妻であり、Cは平成7年1月24日死亡した。Cには、他の相続人として、Bとの間の子であるD(以下「D」という。)、E(以下「E」という。)及びF(以下「F」という。)がいる。
Cの相続財産たる主な不動産は、原判決別表(ただし、別表1行目8列目の「H15固定資産評価額」を「H15・16固定資産評価額」と、同欄2段目の「¥238,557,585」を「¥228,904,586」とそれぞれ改める。)のとおりであり、所有者欄記載の者が当該不動産を共同相続人間の遺産分割協議により取得した。
(3) 被控訴人は、Bの実妹である。
Bは、本件土地及び本件建物(原判決別表の番号<以下「番号」という。>1、2の1、2の2記載の不動産。以下「本件土地建物」という。)を単独で所有していたが、被控訴人に対し、平成14年7月2日に、同日売買を原因として、本件土地の持分20分の1、本件建物の持分4分の1につき、それぞれ所有権一部移転登記手続をした(以下、この登記を「本件移転登記」、この登記に対応する売買契約を「本件売買」という。)。
2 主たる争点とこれに対する当事者の主張の要旨
(1) 本件売買の日
(控訴人の主張)
ア 主位的主張
Bは、被控訴人との間で、平成14年7月2日、本件売買をした。
イ 予備的主張
アのとおりでないとしても、Bは、被控訴人との間で、平成14年3月12日、本件売買をした(以下、同日売買を前提にした主張を〔 〕書で示し、主位的主張と共通する部分は記載しない場合がある。)。
(被控訴人の主張)
本件売買は、平成14年3月12日にされた。
(2) 本件売買時の被保全債権額
(控訴人の主張)
ア 手形貸付債権 合計 3億5985万円〔3億6525万円〕
(ア) なにわ銀行のCに対する手形貸付
a なにわ銀行は、Cに対して、平成6年6月29日、弁済期を平成7年6月30日と定めて、手形貸付の方法により5000万円を貸し付けた(以下「本件手形貸付1」という。)。
上記貸付金の平成14年7月2日時点の残元金は785万円〔1325万円〕であった。
b なにわ銀行は、Cに対して、平成3年8月29日、弁済期を平成4年8月31日と定めて、手形貸付の方法により1億5000万円を貸し付けた(以下「本件手形貸付2」という。)。
上記貸付金の平成14年7月2日時点の残元金は1億5000万円〔同〕であった。
c(a) なにわ銀行は、Cに対して、昭和63年9月28日、弁済期を平成元年9月30日と定めて、外貨手形貸付の方法により97万US$(約1億3000万円)を貸し付けた。なにわ銀行及びBは、平成7年1月31日、外貨建債権を円建債権に振り替える旨合意した(以下「本件手形貸付3の1」という。)。
上記貸付金の平成14年7月2日時点の残元金は1億2900万円〔同〕であった。
なお、被控訴人の後記主張アの弁済の主張は否認する。
(b) 仮に、上記貸付けが認められないとしても、なにわ銀行は、平成元年9月28日、弁済期を平成2年9月30日と定めて、外貨手形貸付の方法により、91万US$を貸し付けた(以下「本件手形貸付3の2」という。)。
なにわ銀行及びBは、平成7年1月31日、外貨建債権を円建債権に振り替える旨合意した。
弁済期は上記円転されるまで延長されてきて、その後円貨として継続し、最終的に甲8の約束手形まで書き換えを継続してきた。
上記貸付金の平成14年7月2日時点の残元金は1億2900万円〔同〕であった。
d なにわ銀行は、Cに対して、平成元年9月11日、弁済期を平成2年5月11日と定めて、外貨手形貸付の方法により69万US$(約1億円)を貸し付けた。なにわ銀行及びBは、平成7年1月31日、外貨建債権を円建債権に振り替える旨合意した。(以下本件手形貸付4」という。)。
上記貸付金の平成14年7月2日時点の残元金は7300万円〔同〕であった。
(イ) Bの責任原因(選択的主張)
a 重畳的債務引受契約
Bは、平成8年2月29日、なにわ銀行に対し、Cの相続債務について、他の相続人であるD、E及びFが相続により承継した債務を重畳的に債務引受をし、Cの債務全部について責任を負う旨約した。
b 包括連帯保証契約
Bは、平成3年8月23日、なにわ銀行に対し、Cが、なにわ銀行との間の銀行取引約定に基づいて負担する一切の債務を、Cと連帯して保証する旨約した。(控訴人は、なにわ銀行と株式会社福徳銀行が合併して平成10年10月1日に成立したなみはや銀行から、平成13年2月13日に営業譲渡を受けたことにより、なみはや銀行のBらに対する債権を承継した。)
c 支払承諾についての連帯保証契約
Bは、平成3年9月30日、なにわ銀行に対し、Cが、なにわ銀行との間の支払承諾約定に基づいて負担する一切の債務を、Cと連帯して保証する旨約した。(控訴人は、なにわ銀行と株式会社福徳銀行が合併して平成10年10月1日に成立したなみはや銀行から、平成13年2月13日に営業譲渡を受けたことにより、なみはや銀行のBらに対する債権を承継した。)
d 約束手形の共同振出による合同責任
本件手形貸付1~4にかかる約束手形の書き換えに際し、B及びDは、連名で署名押印したので、所持人である控訴人やなにわ銀行等に対して、法律上、合同して支払う責任を有している。
e Bによる異議なき承諾(民法468条1項)
Bは、平成12年11月13日付け譲渡承諾書に署名押印し、Cの相続債務の2分の1ではなく、全額に相当する債務を自分が承継して、自分が負担していることを、控訴人に対して確認した。
イ 保証委託契約に基づく求償債権 残元金3億円(同)
(ア) Cとなにわ銀行の保証委託契約
a 富士火災海上保険株式会社(以下「富士火災」という。)は、Cに対して、平成3年9月30日、弁済期を平成6年9月30日と定めて3億円を貸し付けた。Cは、平成3年9月30日、なにわ銀行に対し、①Cは、上記借入をするについて、なにわ銀行に保証を委託し、なにわ銀行は、Cの委託を受けて、富士火災に対しCの富士火災に対する債務を保証する、②なにわ銀行は、Cに対して事前の通知を要せずに、任意に富士火災に代位弁済することができるとの内容の保証委託契約(以下「本件保証委託契約」という。)を締結した。なにわ銀行は、本件保証委託契約に基づき、同日、Cの借入金債務について、富士火災に対し連帯保証をした。
b 控訴人の代位弁済
その後、上記弁済期日は、平成12年9月29日、平成13年9月28日、平成14年9月30日と延長され、控訴人は、平成14年10月1日、上記連帯保証人として富士火災に対し、借入元金3億円及び利息金1万5616円を代位弁済した。
(イ) Bの責任原因(選択的主張)
a 重畳的債務引受契約
Bは、平成8年2月29日、なにわ銀行に対し、Cの相続債務について、他の相続人であるD、E及びFが相続により承継した債務を重畳的に債務引受をし、Cの債務全部について責任を負う旨約した。
b 包括連帯保証契約
Bは、平成3年8月23日、なにわ銀行に対し、Cが、なにわ銀行との間の銀行取引約定に基づいて負担する一切の債務を、Cと連帯して保証する旨約した。(その後、控訴人は、なにわ銀行と株式会社福徳銀行が合併して平成10年10月1日に成立したなみはや銀行から、平成13年2月13日に営業譲渡を受けたことにより、なみはや銀行のBらに対する債権を承継した。)
ウ 本件建物についての敷金及び保証金返還請求権 6200万円
(ア) Cは、平成2年8月1日、なにわ銀行との間で、本件建物の1階及び2階部分を、賃貸期間同日から平成12年7月31日まで、賃料月額150万円の約定で賃貸するとの合意をし(以下「本件賃貸借契約」という。)、その日に、なにわ銀行に対し、上記賃貸部分を引き渡した。なにわ銀行は、上記契約締結日に、Cに対し、本件賃貸借契約によって合意された敷金3000万円及び保証金4000万円を支払った。
(イ) Cは、平成7年1月24日に死亡し、Bが本件建物を相続し、本件賃貸借契約の賃貸人の地位を承継した。
(ウ) Bは、平成13年2月7日、控訴人との間で、同月13日付けをもってするなみはや銀行から控訴人への営業譲渡により、控訴人がなみはや銀行(なにわ銀行)の本件賃貸借契約の借主の地位の譲渡を受けることを承認し、敷金3000万円については、明渡完了後3か月以内に全額を返還し、保証金については、平成13年12月末日を第1回として毎年12月末日に400万円を9年間で返済する旨合意した。
(エ) 控訴人は、Bに対し、平成14年7月2日時点で、上記敷金3000万円〔同〕、保証金3200万円〔同〕の返還請求権を有していた。
エ 以上のとおり、控訴人は、Bに対し、平成14年7月2日時点で、本件手形貸付1残元金785万円〔1325万円〕、本件手形貸付2元金1億5000万円〔同〕、本件手形貸付3残元金1億2900万円〔同〕、本件手形貸付4残元金7300万円〔同〕、本件保証委託契約に基づく将来の求償債務元金3億円〔同〕、本件賃貸借契約に基づく敷金返還債務3000万円〔同〕、同保証金返還債務3200万円〔同〕、以上合計7億2185万円〔7億2725万円〕の債権を有していた。
(被控訴人の主張)
ア 控訴人の主張アについて
同(ア)a、bの事実は知らない。同(ア)c、dの事実は否認する。なお、同(ア)c(a)については平成2年3月9日までに弁済済みである。同(イ)の各事実は否認ないし争う。Bは、なにわ銀行の担当者から、BとDがそれぞれ2分の1の割合で債務を承継する、他方、FとEの債務については、免除し、ただ、相続した財産の限度において物上保証人として責任を負うとの説明を受け、それを信じて控訴人主張の本件手形貸付1ないし4に係る約束手形の書き換え、平成12年11月13日付け譲渡承諾書への署名押印等をしたものである。
イ 控訴人の主張イについて
同(ア)の事実は知らない。同(イ)の事実は否認ないし争う。Bは、なにわ銀行の担当者から、上記アのような説明を受け、それを信じて、控訴人主張の本件手形貸付1ないし4に係る約束手形の書き換え、平成12年11月13日付け譲渡承諾書への署名押印等をしたものである。
ウ 控訴人の主張ウの事実は争う。
控訴人主張の敷金返還請求権については、建物明渡時に賃貸人としての一切の債権を控除し、なお残額がある場合に発生するものであり、明渡前においては、発生及び金額は不確定な権利であって、債権者取消権の被保全権利ではあり得ない。
(3) 現在の被保全債権額
(控訴人の主張)
ア 本件保証委託契約に基づく連帯保証人としての代位弁済による求償債権 2億3971万0946円
(ア) 控訴人は、本件保証委託契約に基づく連帯保証人として、富士火災に対し、平成14年10月1日、借入元金3億円及び利息1万5616円の合計3億0001万5616円を代位弁済し、Bに対して同額の求償債権を取得した。
(イ) 上記求償債権額は、平成16年11月1日現在でも、次のとおり合計2億3971万0946円となる。
a 求償債権残元金 1億5963万6878円
b 確定遅延損害金 8007万4068円
(a) 求償債権元金3億0001万5616円に対する代位弁済の翌日である平成14年10月2日から最終内入日である平成16年6月17まで625日間の年14%の割合(年365日の日割計算)による遅延損害金7168万5479円
(b) 求償債権残元金1億5963万6878円に対する最終内入日の翌日である平成16年6月18日から平成16年11月1日まで137日間の年14%の割合(年365日の日割計算)による遅延損害金838万8589円
(以上合計2億3971万0946円)
イ なお、平成14年7月2日〔同年3月12日〕時点に存在した上記アの債権を除く債権は、控訴人が、その債権を被担保債権とする根抵当権を順次実行して回収した。
(被控訴人の主張)
控訴人の主張は争う。
(4) 本件売買時のBの無資力
(控訴人の主張)
ア Bの債務
Bは、平成14年7月2日〔同年3月12日〕時点で、次のとおりの債務を負っていた。
(ア) 控訴人に対する債務(被保全債権に係る債務)
a 本件手形貸付に係る債務
(a) 本件手形貸付1の貸付残元金 785万円〔1325万円〕
(b) 本件手形貸付2の貸付元金 1億5000万円
(c) 本件手形貸付3の1または2貸付残元金 1億2900万円
(d) 本件手形貸付4の貸付残元金 7300万円
b 本件保証委託契約に基づく将来の求償債務元金 3億円
c 資金・保証金 6200万円
(イ) 摂津水都信用金庫に対する債務 9955万円〔1億0060万円〕
Bは、平成8年2月7日、摂津水都信用金庫から1億5500万円を借り受けたところ、その平成14年7月2日現在の残元金債務は9955万円〔1億0060万円〕であった。
(ウ) 公租公課 〔554万3942円〕
Bは、平成14年3月当時、次の不動産の平成14年度固定資産税合計554万3942円の支払債務を負っていた。
1 豊中市の不動産 36万1968円
2 本件土地建物 387万1550円
3 番号3ないし6の土地 117万4034円
4 番号7及び8の土地建物 13万6390円
(合計 554万3942円)
イ Bの資産
(ア) 不動産
Bは、平成14年7月2日当時、次の不動産を所有していた。
a 本件土地建物
固定資産税評価額 2億6033万4162円
b 番号3ないし6の土地
固定資産税評価額 1億5007万3559円
c 番号7及び8の土地建物(自宅土地建物)
固定資産税評価額 4075万2622円
同土地及び建物については、債権額合計金5412万5080円の抵当権が設定されており、延滞税を考慮すれば、一般債権者に対する余剰は認められない。
d 番号9及び10の土地建物
固定資産税評価額 7503万9400円
(イ) 預金 平成14年3月12日当時 〔2025万2909円〕
(ウ) 上記のほかに、Bには一般債権の引き当てとなるべき換価価値のある資産は、特に見あたらなかった。
ウ 以上のとおり、本件売買がなされた平成14年7月2日〔同年3月12日〕当時、Bは、一般債権に対する引き当てとなる財産は、番号7及び8の土地建物(自宅土地建物)を除いた固定資産税評価額合計が4億8544万7121円〔5億0570万0030円<うち預金2025万2909円>〕のみであった。
一方、Bの債務額は、8億2140万円〔8億3339万3942円〕であり、うち控訴人に対して7億2185万円〔7億2725万円〕の債務を有している。
よって、Bは、控訴人に対し、平成14年7月2日当時、3億3595万2872円〔3億2769万3912円<うち預金2025万2909円>〕という大幅な債務超過に陥っていた。
(被控訴人の主張)
ア Bの不動産所有とその固定資産税評価額は認める。しかし、不動産の価格は時価で評価すべきであり、固定資産税評価額は、市町村の税務課にある固定資産課税台帳に登録されている土地や建物の評価額のことであり、時価の60ないし70%相当額とされているので、これを時価とするのは相当ではない。
イ 番号11ないし13の土地は、FとEが共有し、控訴人のための共同根抵当権(平成4年11月10日に設定登記された、極度額を11億円、債権の範囲を銀行取引、手形債権、小切手債権、債務者をC、根抵当権者をなにわ銀行とする根抵当権で、平成8年4月10日に、同年2月29日B及びDの重畳的債務引受を原因として、債務者を連帯債務者B、Dとする変更登記がされた根抵当権)が設定されているが、FとEは債務免除を受ける代わりに、相続した不動産の限度で物上保証人としての責任を負うことを甘受するということであり、その中には、当然、その責任のために不動産を失ったとしても債務を肩代わりしたBらには何らの請求もしない旨の意思、つまり、求償債権を放棄する意思も含まれていた。したがって、Bの無資力を判断するに当たっては、Bの債務額から、FとE所有の不動産の価額を控除すべきである。
ウ 番号14ないし17の土地は、Dが所有し、上記根抵当権が設定されているところ、DがBと重畳的債務引受をした連帯債務者であれば、DがBに求償債権を取得するのは、その負担部分に限られ、DとBとの負担部分は各2分の1であり、D所有の不動産の価額の2分の1は求償の対象とならないから、その金額はBの債務額から控除すべきである。
(5) 現在のBの無資力
(控訴人の主張)
ア 現在、Bは、本件土地(持分20分の19)及び本件建物(持分4分の3)の共有持分を有しているが、その固定資産税評価額は、本件土地が8205万9555円、本件建物が1億0689万4580円で、合計1億8895万4135円である。また、本件土地は共有になっていることから、本件建物には法定地上権は成立しない。
イ Bは、現在、他にも、番号7の土地(持分20分の19)及び番号8の建物(持分2分の1)の共有持分を有するが、Bの共有持分の固定資産税評価額は、番号7の土地が3135万1276円、番号8の建物が60万2541円で、合計3195万3817円である。
しかし、同土地及び建物については、F、D、Eを各債務者、大蔵省(現財務省)を抵当権者とする債権額合計5412万5080円の抵当権が設定されたままで、延滞税を考慮すれば、一般有権者に対する余剰は見込めないと考えられる。
ウ さらに、Bは、番号9の土地及び番号10の建物を所有しているが、同土地、建物の固定資産税評価額は、合計7503万9400円である。
しかし、同土地、建物には極度額1億8000万円の根抵当権が設定されていることから、余剰は見込めない状況である。
エ 現在、Bには、上記不動産の他には、一般債権の引当てとなるべき換価価値のある資産は、特に見あたらない。
なお、Bが所有していた番号3ないし6の各土地は、平成15年10月30日、競売により売却されている。
オ 以上のとおり、現在、Bが有する、一般債権に対する引当てとなる財産は、固定資産税評価額合計が1億8895万4135円の本件土地建物の共有持分のみである。
一方、Bは、控訴人に対して、平成16年11月1日時点で、合計2億3971万0946円の、何らの担保権の設定のない債務を負担している。
よって、Bは、平成16年11月1日時点でも、5075万6811円の債務超過に陥っており、今後も残元金1億5963万6878円に対する年14%の割合(年365日の日割計算)による遅延損害金が発生していくことから、債務超過の額が増加していくことになる。
(被控訴人の主張)
Bの不動産所有とその固定資産税評価額は認めるが、その余は争う。
(6) Bの害意
(控訴人の主張)
Bは、本件売買が控訴人を害するものであると認識していた。
(被控訴人の主張)
Bは、本件売買が控訴人を害するものであるとは認識していなかった。
(7) 被控訴人の善意
(被控訴人の主張)
被控訴人は、本件売買が控訴人を害するものであるとは認識していなかった。
(控訴人の主張)
被控訴人は、本件売買が控訴人を害するものであると認識していた。
第3当裁判所の判断
1 争点(1)(本件売買の日)について
本件移転登記の登記原因は、平成14年7月2日売買とされているが、証拠(乙1、証人B、被控訴人)によれば、その登記に係るBと被控訴人との間の実際の売買契約は、同年3月12日に締結されたことが認められる。したがって、平成14年7月2日売買の詐害行為を前提とする控訴人の主位的請求は理由がない。
2 争点(2)(本件売買時の被保全債権額)について
(1) 本件手形貸付1ないし4の債権 3億6525万円
ア 証拠(甲3、6ないし14、59、61ないし63、乙22ないし24)及び弁論の全趣旨によれば、なにわ銀行は、Cに対し、本件手形貸付1、2、3の1及び4の各貸付をしたこと、なにわ銀行とBは、平成7年1月31日、本件手形貸付3の2及び4につき、それぞれ外貨建債権を円建債権に振り替える旨合意したことが認められる。
他方、証拠(甲62、63、乙25)及び弁論の全趣旨によれば、平成元年9月28日、実質的に弁済期日(平成元年9月30日)の迫った本件手形貸付3の1の弁済期日を延長する趣旨で、なにわ銀行からCに対して本件手形貸付3の2の貸付を行い、その貸付金をもって本件手形貸付3の1の債務を完済する借り換えが行われ、これにより本件手形貸付3の1の債務は完済されたことが認められる。
イ 上記各証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件売買時点(平成14年3月12日、以下同じ)の本件各手形貸付の残元金は次のとおりであることが認められる。
(ア) 本件手形貸付1 1325万円
(イ) 本件手形貸付2 1億5000万円
(ウ) 本件手形貸付3の2 1億2900万円
(エ) 本件手形貸付4 7300万円
(合計 3億6525万円)
(2) 本件保証委託契約に基づく求償債権 3億円
ア 証拠(甲12ないし14)及び弁論の全趣旨によれば、富士火災は、Cに対して、平成3年9月30日、弁済期日を平成6年9月30日と定めて3億円を貸し付けたこと、Cは、平成3年9月30日、なにわ銀行との間で、本件保証委託契約を締結したこと、なにわ銀行は、本件保証委託契約に基づき、同日、Cの上記借入金債務について、富士火災に対し連帯保証をしたこと、その後、上記弁済期日は平成12年9月29日、平成13年9月28日、平成14年9月30日と延長され、控訴人は、平成14年10月1日、富士火災に対し、貸付元金3億円及び利息金1万5616円を代位弁済したことが認められる。
イ 上記認定事実によれば、本件売買時点で、なみはや銀行はCの債務承継者に対し、将来代位弁済することを条件として少なくとも上記貸付元金3億円の求償債権を有していたものと認められる。
(3) Cの債務についてのBの責任原因
ア 甲3(B、D、F及びEの作成に係るなにわ銀行宛ての「債務承継及び根抵当権変更契約書(兼相続届)」<平成8年2月29日付け>)には、その第1条に、「被相続人Cは平成7年1月24日死亡しました。被相続人が死亡日現在株式会社なにわ銀行に対して負担していた後記イ.記載の債務(これに付帯する一切の債務を含む。以下同じ。)につきましては、B及びDが株式会社なにわ銀行の承認を受けて、その全額につきBはE、F並びにDの及びDはE、F並びにBの債務を重畳的に債務引受し各契約上の地位を承継しましたので、被相続人が株式会社なにわ銀行に差し入れていました後記イ.記載の契約書の諸条項を承認のうえ、引続き債務履行の責を負います。」と記載され、B及びDが署名押印した欄には「相続人兼根抵当権設定者兼連帯債務者」と記載されていること、そして、上記の「後記イ.」には、本件手形貸付1ないし4にかかる各債務及び本件保証委託契約(平成3年9月30日付け支払承諾約定書に基づく支払承諾(富士火災)3億円に係るもの)に基づく将来の求償債務等の記載がされていることが認められる。
イ また、証拠(甲19ないし22、乙4ないし10)によれば、Cが、債務者を同人、根抵当権者をなにわ銀行、極度額11億円、債権の範囲を銀行取引、手形債権、小切手債権として、番号3ないし6、11ないし13、14ないし17の各不動産について設定登記していた根抵当権について、C死亡後(番号3ないし6については平成8年5月8日、番号11ないし15については同年4月10日、番号16、17については、同月24日)、「平成8年2月29日BはE、F並びにDの及びDはE、F並びにBの債務を重畳的引受」を原因とし、債務者(連帯債務者)をB及びDとする、根抵当権の変更登記が経由されたことが認められる。
ウ 上記甲3記載の第1条の文章にはやや分かりにくいところがあり、甲3記載の「記」の「イ.」の末尾には、「以上上記債務につきB2分の1、D2分の1を引き受けるものとする。」との、第1条の記載内容とは相容れないようにも読める記載がある。しかし、上記第1条は、その記載から、Bは、「記イ.」に記載されているCの他の相続人であるE、F及びDの相続債務を重畳的に引き受け、DはE、F及びBの相続債務を重畳的に引き受け、B及びDは、それぞれ各自の相続債務と上記重畳的に引き受けた各債務を合わせて、Cの債務全部の債務者となる趣旨のものと読み取ることができる。そして、上記甲3の契約書作成後、上記イのとおりの根抵当権変更登記がされていることを合わせれば、BとDは、甲3によって、なにわ銀行に対し、Cのなにわ銀行に対する債務全部について、連帯債務者として責任を負うことを約したものと認められる。
(4) 保証金返還債権 3200万円
ア 本件売買当時、Bが、控訴人に対し、本件賃貸借契約に基づき、3200万円の保証金返還債務を負担していたことは、当事者間に争いがない。
イ 本件売買当時、控訴人はBに対して本件賃貸借契約に基づく敷金3000万円を差し入れていたことは、当事者間に争いがないが、控訴人の敷金返還請求権は、本件賃貸借契約による建物の明渡後賃借人である控訴人の債務額を差し引いた残額について認められるものであるところ、本件賃貸借契約当時には、敷金から差し引かれるべき控訴人の債務額が確定していたことを認めるべき証拠はないから、上記敷金についての控訴人の債権は、被保全権利として認めることはできない。
(5) ところで、証拠(乙4ないし10)及び弁論の全趣旨によれば、番号11ないし13の各土地(FとEの持分各2分の1の共有)及び番号14ないし17の各土地建物(Dの所有)には、本件売買当時、極度額を11億円、債権の範囲を銀行取引、手形債権、小切手債権、連帯債務者をB及びD(当初の債務者Cから変更)とする根抵当権設定登記がされていたことが認められ、これに上記認定事実を合わせ考慮すれば、控訴人のBに対する本件手形貸付債権及び求償債権(債権額合計6億6525万円)については、物上保証がついていたことになるが、債権者は、物上保証のある場合であってもその債務者に直接債権全額の弁済を請求することができ、債務者は、これを拒むことができない関係にあり、債務者がその責任財産を減少させるときは、結局債務者に対する上記の請求権を実現できないことになるから、債権者は債権全額を被保全債権として主張して詐害行為取消権を行使することができるものと解される(なお、被控訴人は、番号11ないし13の各土地による物上保証につき、その所有者F及びEにおいてBに対する求償債権が発生した場合にも同人らはそれを請求しない(求償債権を放棄する)ことをBに約した旨の主張をするが、これを認めるに足りる証拠はない。)。
また、上記認定事実によれば、本件手形貸付債権及び求償債権については、BとDは連帯債務者であり、両者の負担部分は2分の1ずつと推認されるが、連帯債務者は債権者に対して債務全部について責任を負い、債権者は各連帯債務者に債権全部の行使をすることができるから、控訴人は、Bに対し、本件手形貸付債権及び求償債権の全部につき被保全債権として主張することができる。
(6) 以上によれば、本件売買当時における控訴人の被保全債権の額は、合計6億9725万円(内訳・本件手形貸付債権3億6525万円、本件保証委託契約に基づく求償債権3億円、保証金返還債権3200万円)となる。
3 争点(4)(本件売買時のBの無資力)について
(1) 債務
ア 控訴人に対する債務 6億9725万円
本件売買当時、Bが控訴人に対し、6億9725万円の債務を負担していたことは、前記認定のとおりである。
イ 固定資産税納付債務 554万3942円
Bが、本件売買当時、次の不動産の平成14年度固定資産税合計554万3942円の納付債務を負っていたことは、証拠(甲78、乙49)及び弁論の全趣旨により認められる。
① 豊中市の不動産 36万1968円
② 本件土地建物 387万1550円
③ 番号3ないし6の土地 117万4034円
④ 番号7及び8の土地建物(自宅土地建物) 13万6390円
(合計 554万3942円)
ウ 摂津水都信用金庫に対する債務 1億0060万円
証拠(乙32)及び弁論の全趣旨よよれば、Bは、平成8年2月7日の摂津水都信用金庫からの1億5500万円の借受金につき、本件売買当時、1億0060万円の残元金債務を負っていたことが認められる。
(2) 資産
当事者間に争いのない事実、証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 不動産
Bは、本件売買当時、次の不動産を所有していた。
(ア) 本件土地建物(番号1の土地、番号2の1・2の建物)(甲17)
(イ) 番号3ないし6の土地(甲23)
固定資産税評価額 1億5007万3559円
(ウ) 番号7及び8の土地建物(自宅土地建物)(甲26)
固定資産税評価額 4075万2622円
同土地及び建物については、債権額合計金5412万5080円の抵当権が設定されており、延滞税を考慮すれば、一般債権者に対する余剰は認められない。
(エ) 番号9及び10の土地建物(甲30)
固定資産税評価額 7503万9400円
イ 預金 平成14年3月12日当時 2025万2909円
ウ 上記のほかに、Bには一般債権の引き当てとなるべき換価価値のある資産は、特に見あたらなかった。
エ 以上によれば、本件売買時点において、Bの債務は合計8億0339万3942円であるのに対し、Bの資産は5億0570万0030円であったから、Bは債務超過の状態にあったと認められる。
被控訴人は、本件各不動産の本件売買当時の価格評価は、乙31(a不動産G作成の「平成14年3月時点譲渡価格について」)によるべきである旨主張する。しかし、乙31は、その記載に照らし、作成者は不動産業者であることが認められるが、不動産鑑定士の資格を有している者とは認められず、評価額算定の理由も具体性を欠き、その合理性を裏付ける資料の存在や評価額検討の過程も明らかでないといわざるを得ないから、これを採用することはできない。そして、本件においては本件各不動産の適正価格を評価する的確な証拠はないことや本件売買年度当時における地価動向等を考慮すると、本件各不動産の評価額については、固定資産税評価額によるのが相当と認められる。
4 争点(6)(Bの害意)について
証拠(証人B、乙1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば、本件売買については、Bと被控訴人との間で不動産売買契約書(乙1)が作成され、それには、売買代金額が2823万1250円(内訳・土地710万円、建物2012万5000円、消費税100万6250円)として記載されていること、本件売買の日と同日付けでBから被控訴人宛ての手付金282万3125円を領収した旨の領収書及び平成14年7月2日付けで上記売買代金の残金として2540万8125円を領収した旨の領収書が作成されていることが認められる。
そうすると、本件売買における代金額は、本件土地の20分の1及び番号7の土地(自宅土地)の20分の1の持分についての代金額710万円、本件建物の4分の1及び番号8の建物(自宅建物)の2分の1の持分についての売買代金額2012万5000円の合計2823万1250円(消費税込み)となるところ、平成14年度の固定資産税評価額によれば、本件土地の20分の1の持分の評価額は507万8763円、本件建物の4分の1の持分の評価額は3968万9722円、番号7の土地(自宅土地)の20分の1の持分の評価額は197万7377円、番号8の建物(自宅建物)の2分の1の持分の評価額60万2541円であり、その合計は4734万8404円(本件土地建物だけでも4476万8486円)となり、本件売買の売買代金額は固定資産税評価額の約60%の価額であったことが認められる。そして、Bは、証人尋問において、税務署に親族間の売買であることを告げて贈与税がかからないように固定資産税評価額等の値段を設定して固定資産税評価額の約2分の1を超える程度の値段で売却したと供述している。
これらのところからすれば、Bは、本件売買の当時、本件売買の対象が共有持分であることを考慮しても、代金額が時価をはるかに下回る金額での廉価売却であることは知っていたものと認められる。これに前記認定の本件売買当時の大幅な債務超過の状態を合わせ考慮すれば、Bは、本件売買がBの債権者を害することを知っていたものといわざるを得ない。
なお、本件土地建物は無担保物件であったこと、本件売買の契約書の売買物件の表示には、本件土地建物及び番号7、8の自宅土地建物(売買持分割合)のほかに、本件建物の「事務所備品並びに電気、水道、排水設備その他備品、設備一式」の2分の1、番号8の自宅建物の「家具、調度品並びに庭木、電気、ガス、排水設備その他一切の使用権」の2分の1の記載もされているところ、不動産(持分)売買の契約書に建物内の備品設備まで(自宅建物については家財道具類の使用権まで)売買の目的物として表示することは、不自然なことというべきであり(債権者からの債権執行を意識しそれに対する対応策として行われる場合などのほか、通常は見られないことである。)、このような売買契約書が作成されていることも、Bが上記認識を有していたことをうかがわせるものといえる。
5 争点(7)(被控訴人の善意)について
被控訴人は、Bと本件売買をした際、Bが無資力であることは知らなかったと主張し、その本人尋問において、その主張に沿い、「被控訴人は、40年間国立京都病院で働き、平成14年3月31日定年退職をした。被控訴人は、独身であり、老後の身の振り方や癌である実母の面倒を見る必要があったところ、叔母らがその実姉と一緒に住むことになったことを聞いて、Bと同居することを考えることになり、自己の退職金等運用先として、本件土地建物の持分を買って賃料を得ることを考え、控訴人が支店のため借り受けている本件土地建物等の持分を購入することにし、自宅土地建物の持分は、Bとの同居を考えて購入することにした。その際、被控訴人は、Bに対して、売買代金をできる限り安くして欲しいと頼み、代金額のことはBに任せた。本件土地建物に担保権が設定されていないことは知っていた。時価よりも相当低額で購入した。本件売買の直後の平成14年3月22日、控訴人の担当者から本件土地建物にテナントとして入っている控訴人の支店が閉鎖されることになったが、控訴人が新たなテナント等を世話すると言っていたので安心してそのまま本件売買の代金を支払った。平成14年7月2日付けで、被控訴人は、Bと、賃料を固定資産税相当額とする賃貸借契約を締結した。被控訴人は、Bが夫からの債務を引き継いだことを知っているが、具体的内容については知らない。本件土地建物からテナントが退去し、Bの不動産業は、いよいよ苦しくなった。被控訴人はタンス預金から現金として2000万円を支出して本件売買の代金を支払ったので、出金を証明できるものはない。」旨の供述をする。そして、乙82(被控訴人作成の陳述書)の記載も上記被控訴人の主張・供述に沿うものであり、また、Bの証言及び陳述書(乙81)の記載も、上記被控訴人の主張・供述等に沿うものである。そして、Bと被控訴人の間において、平成14年7月2日付けで、本件建物の持分4分の1を「賃貸物件」として、賃料を「固定資産税相当額」とする建物賃貸借契約証書が作成されていることが認められる(乙79、被控訴人)。
上記被控訴人の供述によれば、本件売買の代金額の決定は被控訴人においてBに任せたというのであり、これは、Bと被控訴人が実の姉妹の関係にあることを考慮しても、正常な取引行為とは考え難いところがあるだけでなく、本件売買がBの側の事情に基づき、被控訴人がこれに協力する形で行われたものであることを強く窺わせるものといえる。また、被控訴人は、本件土地建物について賃料収入を得ることを目的としていたと供述しながら、本件土地建物のみならず、Bの自宅の持分まで取得したことになっているし、その自宅の持分の取得は、Bとの同居を考えてした旨供述しながら、被控訴人は現在まで同居を開始していない(被控訴人)。さらに、本件売買の売買代金額が被控訴人からBに支払われた旨の領収書が作成されており、証人B及び被控訴人ともその支払があった旨供述するが、そのような高額の金銭の出金や入金が行われれば、通常であればそれを客観的に裏付ける何らかの資料(預金通帳等)が存在すると思われるが、そのような資料が存在する形跡はない(提出されていない。)のであり、このことは、被控訴人とBとの間で本件売買の代金の授受が行われたことに疑問を差し挟むべき事情といえる。しかも、被控訴人は、上記認定の本件建物についての賃貸借契約の賃料をこれまでまったく支払っていないことが認められるところ(被控訴人)、このことは、上記建物賃貸借契約書が真実建物賃貸借をする意思で作成されたものではなかったことを疑わせるものといえる。
これらの点を合わせ考慮すれば、Bの被控訴人との本件売買は、Bの依頼に基づいて、被控訴人においてBの負債状況を認識した上、本件売買をすることによってBの債権者の執行を妨げる目的の下に行われたことが強く疑われ、証人B及び被控訴人の上記供述等をもって、被控訴人が、本件売買当時、本件売買によりBの責任財産が減少し、債権者を害することになることを知らなかったことを認めることはできず、他にその事実を認めるに足りる証拠はない。被控訴人の主張は理由がないというべきである。
6 争点(3)及び(6)(現在の被保全債権額及びBの無資力)について
(1) 証拠(甲19ないし22、74、乙4ないし10)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人が、Bを債務者とする根抵当権を順次実行してBに対する債権の一部を回収したこと、控訴人は、本件保証委託契約に基づき富士火災に対し、平成14年10月1日、借入元金3億円及び利息1万5616円の合計3億0001万5616円を代位弁済し、同額の求償債権を取得したが、Bは、平成16年11月1日時点で、その求償債権残元金1億5963万6878円、確定遅延損害金(求償債権元金3億0001万5616円に対する代位弁済日の翌日である平成14年10月2日から最終内入日である平成16年6月17日まで625日間の年14%の割合<年365日の日割計算>による遅延損害金)7168万5479円、遅延損害金(求償債権残元金1億5963万6878円に対する最終内入日の翌日である平成16年6月18日から平成16年11月1日まで137日間の年14%の割合<年365日の日割計算>による遅延損害金)838万8589円の合計2億3971万0946円の債務を負担していたところ、現在もその債務は残っていることが認められる。
(2) Bには、本件売買当時存在した控訴人に対する3200万円の保証金債務は弁済されずに現在も残存していると認められ(弁論の全趣旨)、また、Bは現在控訴人に対する2736万6250円の敷金返還債務を負担していること(甲74、弁論の全趣旨)が認められる。
(3) Bは、番号7及び8の自宅土地建物を所有しており、その平成16年度の固定資産税評価額は合計3420万6426円であるが(甲27)、他方で、同土地建物には、大蔵省(現財務省)を抵当権者とする5421万5080円の抵当権が設定登記されている(甲24)ことが認められ、これからすれば、同土地建物には余剰価値はない。
また、Bは、番号9及び10の土地建物を所有しており、その平成16年度の固定資産税評価額は合計7213万5100円であるが(甲32、33)、同土地建物には、摂津水都信用金庫を根抵当権者とする極度額1億8000万円の根抵当権が設定登記されているところ、その被担保債権として現在9955万円が存在していること(乙32、弁論の全趣旨<同金額が返済されたことを認めるべき証拠はない。>)が認められるから、同土地建物に余剰価値はない。
(4) Bが所有していた番号3ないし6の土地は、平成15年10月30日、競売により売却されていることが認められる(甲19ないし22、弁論の全趣旨)。
(5) 以上によれば、現在、控訴人の被保全債権の引当てとなるBの財産は、固定資産税評価額合計が1億8895万4135円の本件土地建物の共有持分だけであるから、Bは無資力の状態にあることは明らかである。
7 以上によれば、控訴人の主位的請求は理由がないから棄却し、予備的請求は理由があるから認容すべきである。
よって、原判決を変更することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 竹中省吾 裁判官 竹中邦夫 矢田廣髙)
<以下省略>