大阪高等裁判所 平成18年(ラ)1006号 決定 2006年12月26日
主文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は,抗告人の負担とする。
理由
1 抗告の趣旨及び理由
抗告人は,大阪地方裁判所が,平成16年11月30日,基本事件(甲事件)について(同裁判所平成16年(モ)第8751号),大阪高等裁判所が,平成17年11月30日,基本事件(丙事件)(同裁判所平成17年(ウ)第1448号)及び平成18年3月30日,基本事件(丁・戊事件)(同裁判所平成18年(ウ)第273号)について,それぞれした訴訟上の救助付与決定について,大阪地方裁判所が平成18年10月17日に行った訴訟費用支払決定(以下「原決定」という。)に対し,「原決定を取り消す。」との裁判を求めて即時抗告した。その理由は,別紙抗告理由書に記載のとおりである。
2 当裁判所の判断
(1) 一件記録によれば,①大阪地方裁判所は,平成17年10月14日,基本事件(甲・乙事件)について,請求棄却,訴訟費用は抗告人負担の判決を言い渡したこと,②抗告人は,この判決を不服として,平成17年11月2日,控訴を提起したこと(基本事件(丙事件)),③これに対し,大阪高等裁判所は,平成18年3月9日,控訴棄却,控訴費用は抗告人負担の判決を言い渡したこと,④抗告人は,この判決を不服として,平成18年3月24日,上告提起及び上告受理を申し立てたこと(基本事件(丁・戊事件)),⑤最高裁判所は,平成18年10月3日,上告棄却,上告不受理,上告費用及び申立費用は抗告人負担の決定を言い渡したこと,⑥この上告審決定は,同日(平成18年10月3日),抗告人に書留郵便に付する送達の方法により告知されたこと,⑦この上告審決定は,同日(平成18年10月3日),確定したことがそれぞれ認められる。
(2) 以上の認定事実によれば,上記上告審決定(抗告人敗訴決定)が確定したのであるから,抗告人に対し,上記各訴訟上の救助付与決定に係る基本事件の訴訟費用7万0400円(内訳は原決定添付計算書のとおり)を国庫に支払うことを命ずるのが相当である。
(3) 抗告人は,勝訴の見込みがなくなったこと,すなわち,敗訴が確定したことをもって訴訟費用を取り立てることはできず,いまだ資力の回復しない抗告人に対し支払決定をするのは違法であると主張するが,訴訟上の救助付与決定は,裁判費用等の支払を一時猶予するにすぎず,訴訟の結果により最終的な裁判費用等の負担者が確定した場合には,それに従ってその費用を負担しなければならないところ,抗告人は,基本事件において,全部敗訴し,各審級における訴訟費用は抗告人の負担とするとの判決・決定が確定したのであるから,訴訟上の救助付与決定は,すでに裁判費用等の支払を一時猶予するとの目的を達成してその効力は消滅したものといわなければならない。したがって,抗告人の資力の回復の有無を問うことなく,支払を命じた原決定に違法はないというべきであり,これに反する抗告人の主張は理由がない。
(4) よって,原決定は相当であり,本件抗告は,理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり決定する。
(別紙)
大阪地方裁判所平成18年(ワラ)第197号
(基本事件・大阪地方裁判所平成16年(ワ)第12571号事件等)
抗告理由書
抗告人 X
平成18年10月27日
大阪高等裁判所御中
抗告人 X
記
大阪地方裁判所が平成18年10月17日に為した決定に対する抗告事件の抗告理由は次のとおりである。
抗告の理由
一、 訴訟上の救助を付与された当事者が敗訴した場合、国は猶予した訴訟費用を無条件に取り立てることができるかについては明文の規定が一切ないところであり、高等裁判所の判例においてもこれを否定するものも存在し、争いのあるところである。
二、 すなわち、民事訴訟法第84条は、訴訟費用を取り立てることができる場合を限定的に定めている規定であり、その要件である無資力状態からの離脱が認められないのに訴訟費用を取り立てることが可成と言えるか否かである。
ここでは民事訴訟法が勝訴の見込みの消失をもって訴訟費用取立を可成としていない点に着目すべきである。
勝訴の見込みがなくなった、すなわち本件で言えば敗訴が確定したことを以て訴訟費用を取り立てることは同条に照らして不可なり言うべきである。
三、 民事訴訟法第85条は、次のように定めている。
「・・・支払を猶予した費用は、これを負担することとされた相手方から直接に取り立てることができる。」
ここで、同法は「相手方」と定めており、これすなわち、訴訟救助の申立の相手方である。同法はこれを「これを負担することとされた当事者から直接に取り立てることができる。」としていない。そのように規定せずに敢えて「相手方から」と規定している。
よって、整理すると、同法のいわんとするところは、「訴訟救助申立人が敗訴しても申立人からは猶予した費用を取り立てることができない」である。
四、 判例によっても、「訴訟費用は各自弁とする旨の和解が成立したことだけで訴訟費用を取り立てることはできない」(昭和50年1月28日大阪高裁民八決定・昭和49年(ラ)261号、時報781号81頁)
とするものなど、抗告人主張と同様の解釈を取るものが多数存在する。
添付した決定謄本のとおり、大阪高等裁判断も抗告人主張を支持している。
抗告人は多数の民事事件当事者であり、訴訟費用を支払えないとして訴訟救助を受けているが、その全ての訴訟費用を敗訴時に資力の回復が認められないうちにいきなり支払えということになると支払不可能である。提訴するに際しても、敗訴した場合に直ちに支払猶予を解かれるとすれば手数料はかなり高額であることから提訴することが恐怖のために困難となり、勝訴の困難な国家賠償請求事件を目的とする抗告人の訴訟活動は成り立たなくなり、今後の訴訟活動に壊滅的な打撃を受けることになる。(抗告人は訴訟戦術上の理由で多数の訴訟を行なっているが、公務員の犯罪が明らかになるなどそれが功を奏している点が多数ある。例えば国を被告とする平成16年(ワ)第12570号事件は今も大阪地裁に係属中であるが、このような事案は今まで誰もおかしいと注目しなかったことに注目し、常識をくつがえすような犯罪があることを明らかにしようとするものである。既に国家は絶対信頼できるものではないことが出てきている。)これすなわち、憲法上の裁判を受ける権利、国に損害賠償を求める権利が事実上制約されるということにほかならない。
大阪高等裁判所が、如何なる法解釈をするのかを見極めたい。(なお、申立人は勝訴の困難な訴訟の請求額を下げたり、勝訴の可能性の高い訴訟については総力を挙げて証拠収集活動を行ない、勝訴率を高めたりするなど、訴訟費用の弁済の実現に力を注いでいる。偽造文書を使われてのきなみ敗訴が確実視される事件が相次いでいるが、敗訴するとおぼしき事件については当該事件の訴訟費用を支払うこととなろうとも、偽造文書による損害の回復を求める他訴に於いて上記訴訟費用額の損害賠償を加えて請求するという工夫も行なう予定である。)
五、 今回は全部敗訴だが、原審の解釈をとれば一部勝訴の場合に問題が生ずる。
訴訟上の救助は強制執行の手数料等についてもその効力が及ぶから、事件の完結と共に当然に訴訟救助の効力が失われるとすることはできない。
そうすると、一部勝訴の場合には、訴訟救助取消し決定が訴訟費用取り立てに先行して必要であるということになるが、その要件は、民事訴訟法第84条より無資力状態からの離脱がなければならないことになっており、全面勝訴の見込みの消失は取消しの理由にはならない。
他方、訴訟救助の効力があるにもかかわらず、今までの訴訟費用についての取立てはできるということになれば、強制執行の手数料の支払猶予を与えている目的と完全に矛盾してしまうのである。常識的に考えても強制執行で金員の獲得に成功してから取立てることになろう。
そうすると、一部勝訴の場合には、訴訟救助の効力が失われていない以上、訴訟費用の取り立てができないということになるのである。
これと全部敗訴の場合とで、訴訟救助の効力が訴訟終了後も及ぶか否かという点について異なる取扱をするには合理的矛盾が残るから、本件の場合にも、取り立てには無資力からの離脱を理由とする救助取消し決定が先行されるべきである。
六、 訴訟終結後(判決確定後)に申し立てされた訴訟記録閲覧制限申立事件などの申立手数料、郵送料について訴訟救助申立を為すことも可能であるから、これについて訴訟救助が付与されることもある。
しかし、この場合、申立が全面的に認められても、相手方が存在しない以上、訴訟費用たる申立手数料や郵送料を負担するのは申立人しかいないことになる。
このとき、原審のように事件完結後、訴訟救助の付与決定の効力が事件終結後には当然に失われるとする解釈をとるならば、直ちに訴訟費用を納めなくてはならないことになり、訴訟救助申立はほとんど実益のないものと言えることになる。申立手数料を支払えないために、申立ができない結果となり、裁判を受ける権利が損なわれる。
訴訟救助の制度が機能しない結果のなる。
やはり、資力の回復を申立手数料取り立ての要件とすべきである。
七、 原審と同じ裁判官により構成された裁判所により、別の事件でも同様の決定が出されており、抗告人を取り巻く状況はかなり悲壮であることを参考までに附記いたします。取り立てられる額は非常に高額になり、生活を脅かす脅威となる。このような決定が維持されるなら、権利の主張を断念せざるを得ない。抗告人としてもむやみに訴訟を起こしているものではないことをはっきりと申し上げておきます。どうでもよい訴訟を起こすから悪いのだというのであれば、是非、大阪地裁平成16年(ワ)第12570号事件の記録に目を通して頂きたいと思います。訴訟を起こさなければならなかった原因が一体抗告人のみに存在するのか、それが必ず分かると確信しております。理解して欲しいと思います。
八、 民事訴訟法には、はっきりと、「敗訴したらただちに猶予を解く」とは明記されていない。このように、はっきりと警告しないでいると、裁判を起こす際にもこれを知らずに起こし、不意にあとで大変な目にあうことになる。もし、書いていれば勝訴の難しい国家賠償請求は断念するという貧困者が大半だから、大変な目にあうことは少なくとも防げる。
法文に明記されていないこのような貧困者にとって重要な事項を、おそらくこうだろうと解釈だけでもっていかれてはたまらない。
国家に過ちを認めさせるより、金銭で苦しめられず平穏に暮らす方がよい。
以上