大阪高等裁判所 平成18年(ラ)278号 決定 2006年4月26日
抗告人(申立人) X
同代理人弁護士 本島信
相手方(相手方) 再生債務者株式会社aゴルフクラブ管財人 Y
主文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は、抗告人の負担とする。
理由
第1本件抗告の趣旨及び理由
1 抗告の趣旨
原決定を取り消す。
2 抗告の理由
抗告人の主張する抗告の理由は多岐にわたるが、その骨子は、民事再生手続によることが債権者の一般の利益になるとして、抗告人の会社更生手続開始申立てを棄却した原決定は、会社更生法41条1項2号所定の「債権者の一般の利益の適合性」の判断を誤った違法があるというものである。
第2前提となる事実
一件記録によれば、次の事実が認められる。
1 相手方等の構成について
(1) 相手方は、ゴルフ場経営を目的として、昭和44年10月31日、資本金4億3000万円で設立された会社であるが、現在は、昭和45年に設立された信和ゴルフ株式会社(以下「信和ゴルフ」という。)の100パーセント子会社である。そして、信和ゴルフは、その100パーセント子会社である株式会社チェリーヒルズゴルフクラブ、株式会社ゴールデンバレーゴルフ倶楽部、株式会社ジャパンクラシックカントリー倶楽部(以下「ジャパンクラシック」という。)、株式会社滋賀カントリー倶楽部(以下、相手方を含むこれら子会社を一括していうときは「関連ゴルフ会社」という。)の他、国内外の12社(うち3社は休眠会社)の会社で形成する信和ゴルフグループの中核的な会社である。
(2) 信和ゴルフの全株式は、持株会社である信和ゴルフサービス(以下「信和ゴルフサービス」という。)が所有し、関連ゴルフ会社の全株式は、いずれも信和ゴルフが所有している。そして、信和ゴルフサービスの資本金は、Aが全額を出資したものである。また、信和ゴルフ及び関連ゴルフ会社はいずれも、代表取締役がAであり、取締役も同一の者が就いている。
(3) 信和ゴルフの従業員は44名で、労働組合は存在しない。また、関連ゴルフ会社には、後記2、(2)に述べる事情により、いずれも従業員はいないし、労働組合も存在しない。
2 相手方等の財産及び債務の状況等について
(1) 信和ゴルフは、ゴルフ場や施設(以下「ゴルフ場等」という。)を国内2箇所で有しているほか、ハワイ法人を介して、ハワイでゴルフ場、ホテル施設等を所有していた。また、関連ゴルフ会社は、それぞれゴルフ場等を所有し、当該ゴルフ場を経営していた。
(2) いわゆるバブル経済崩壊後にゴルフ場の収入が激減したことから、関連ゴルフ会社は、平成4年以降、いずれもそのゴルフ場等を信和ゴルフに賃貸し、信和ゴルフが国内の信和ゴルフグループのゴルフ場全部を経営するようになった。しかし、信和ゴルフは、平成15年以降、そのゴルフ場全部の業務を、Aが全株を所有しているジャパンゴルフマネジメント株式会社に委託した。
この結果、信和ゴルフは、ゴルフ場の収入から、経費、業務委託手数料を控除した残額を受領し、関連ゴルフ会社に賃料を支払い、関連ゴルフ会社の収入は、信和ゴルフから受領する賃料のみとなった。
(3) 信和ゴルフと関連ゴルフ会社のゴルフ場は、いずれも預託金制のゴルフ場であり、それぞれ多数の会員を擁するとともに、信和ゴルフ及び関連ゴルフ会社は多額の預託金返還債務を負担している。
その状況は、再生手続開始申立書によれば、申立時点で別紙1のとおりであって、預託金返還債務総額は約1251億1200万円にのぼる。
また、信和ゴルフグループのゴルフ場の開設資金には、主としてそれぞれの会社が募集した預託金と信和ゴルフが日本債券信用銀行(以下「日債銀」という。)から調達した借入金が充てられた。
さらに、ハワイ法人とゴルフ場への投資の総額(貸付けを除く。)は約709億円で、ハワイのゴルフ場の預託金、日債銀からの借入金のほか、大量のジャパンクラシックの会員権の追加募集により得た預託金が充てられた。
(4) 関連ゴルフ会社は、いずれも信和ゴルフが日債銀から調達した上記借入金債務について連帯保証し、かつ、そのゴルフ場等の土地建物に担保として根抵当権等を設定した。その後、株式会社整理回収機構(以下「RCC」という。)は、経営破綻した日債銀の有する上記貸付金債権及び担保権を承継した。なお、信和ゴルフは、関連子会社やハワイ法人の日債銀に対する借入金債務について連帯保証していた。
(5) RCCは、信和ゴルフグループ全体について再生手続開始の申立てを要求していた。これに対し、信和ゴルフグループの経営者は、RCCの主導による再建では、ゴルフ場が外資系企業に売却される可能性が高く、ゴルフ会員に対して著しい不利益を及ぼすと判断して、自主再建を目指すこととした。この方針の下に、信和ゴルフは、抗告人ほか1名の弁護士を代理人として、RCCに対し調停を申し立て、平成14年11月12日、関連ゴルフ会社も参加して、概ね以下の内容の調停が成立した。
ア 信和ゴルフは、RCCに対し、借入金及び連帯保証債務合計729億9459万9249円のうち78億円を、同年12月27日から平成26年12月31日まで、所定の金額により分割で支払う。
RCCは、78億円が期限の利益を喪失することなく完済されたときは、信和ゴルフに対する残債務を免除する。
イ 上記の他、信和ゴルフは別にハワイのゴルフ場等を売却して、その売却代金相当額をRCCに弁済する。この弁済は、まずハワイ法人の借入金債務について充当し、次いで信和ゴルフの借入金債務に充当する。さらに、信和ゴルフは、ゴルフ場以外の特定不動産を売却して、その売却代金相当額をRCCに弁済する。ただし、この弁済によっても、アの78億円の弁済額は変更されない。
ウ 関連ゴルフ会社及び関連子会社並びにAは、アの債務につき連帯保証する。
エ RCCは、信和ゴルフ及び関連ゴルフ会社等が再生手続開始を申し立てた場合、この調停と同じ内容の再生計画案に同意し、信和ゴルフ及び関連ゴルフ会社に対して有する別除権協定に応じる。
(6) ハワイのゴルフ場等は、平成15年12月末までに売却され、その代金約241億円がRCCに支払われた。
(7) 信和ゴルフ及び関連ゴルフ会社の清算貸借対照表による資産、負債の額及び担保の設定状況は、再生手続開始申立書によると、申立て時点で別紙2のとおりであり、いずれも大幅な債務超過の状態にある。なお、いずれの会社も、上記記載以外には金融機関に対する債務はない。
そして、上記清算貸借対照表を基にした一般債権に対する予想配当率は、信和ゴルフが約0.15パーセント、関連ゴルフ会社はいずれも0パーセントである。
3 民事再生手続の進捗等について
(1) 相手方は、平成16年8月24日、大阪地方裁判所に対し、再生手続開始を申し立て(同裁判所平成16年(再)第48号)、同裁判所は、同月31日午前10時、再生手続開始の決定をした。
また、信和ゴルフ及び相手方を除くその余の関連ゴルフ会社は、同年10月13日、大阪地方裁判所に対し、再生手続開始を申し立て(同裁判所平成16年(再)第58号ないし第62号)、同裁判所は、いずれの会社についても、同月20日午前10時、再生手続開始の決定をする(以下、上記民事再生事件を一括していうときは「再生事件全件」という。)とともに、再生事件全件の監督委員としてY弁護士(以下「Y監督委員」という。)を選任した。
(2) 信和ゴルフ及び相手方を除く関連ゴルフ会社は、平成17年8月4日、再生裁判所に対し、それぞれ再生計画案(修正)を提出し、Y監督委員は、同月11日、再生裁判所に対し、上記各再生計画認可の決定をすることが相当であるとの意見書を提出した。
上記各再生計画案は、平成17年9月20日、いずれも90パーセントを超える同意を得て可決され、再生裁判所は、同月26日、上記各再生計画を認可する決定をした。
(3) 相手方及び相手方の預託金会員で構成するaゴルフクラブを護る会は、平成17年5月31日、再生裁判所に対し、それぞれ再生計画案を提出した。これに対し、Y監督委員は、同年7月11日、再生裁判所に対し、管理命令をした上での再生計画認可の決定をすることが相当であるとの意見書を提出し、再生裁判所は、同月21日、相手方について、管理命令を発令して、管財人にY弁護士を選任した。
Y管財人は、平成18年1月31日、再生裁判所に対し、再生計画案を提出し、97パーセントを超える同意を得て可決され、再生裁判所は、同年3月15日、上記再生計画を認可する決定をした。
なお、相手方及びaゴルフクラブを護る会が提出していた各再生計画案は、取り下げられた。
4 会社更生手続の進捗等について
(1) 抗告人は、平成17年1月13日、大阪地方裁判所に対し、信和ゴルフ及び関連ゴルフ会社に対する債権者であるとして、これら会社に対して会社更生手続開始を申し立てた(同裁判所平成17年(ミ)第3号ないし第8号、以下、一括していうときは「更生事件全件」という。)。
同裁判所は、同日、更生事件全件の調査委員として、再生事件全件の監督委員であるY弁護士(以下「Y調査委員」という。)を選任した。
(2) Y調査委員は、大阪地方裁判所に対し、更生事件全件につき、平成17年1月26日に、「更生手続開始をすることについて、それを阻害する事由はない。」との調査報告書を、同年3月24日に、「民事再生手続によることが債権者の一般の利益に適合するとして、更生手続を開始しないこともあながち不合理な判断ではないと思料する。」との追加調査報告書を、同年5月31日に、「会社更生手続によるよりも、民事再生手続によることが、債権者の一般の利益に資するものとの判断に至り、会社更生手続開始の申立ては棄却すべきであると思料する。」との最終調査報告書をそれぞれ提出した。
さらに、Y調査委員は、同年7月11日、同裁判所に対し、相手方に対する会社更生手続開始申立事件について、「民事再生手続によることが、債権者の一般の利益に適合するものであり、会社更生手続開始の申立ては棄却すべきであると思料する。」との最終調査報告書(2)を提出した。
(3) 大阪地方裁判所は、平成17年7月15日、信和ゴルフ及び相手方を除く関連ゴルフ会社に対する会社更生手続開始申立事件について、「会社更生手続によるよりも、再生手続によることが債権者の一般の利益に適合するものと認められる。」との理由で、抗告人の更生手続開始申立てを棄却するとの決定をした。
(4) 大阪地方裁判所は、平成18年2月16日、相手方に対する会社更生手続開始申立事件について、「会社更生手続によるよりも、再生手続によることが債権者の一般の利益に適合するものと認められる。」との理由で、抗告人の更生手続開始申立てを棄却するとの決定をした。
5 再生計画等の内容について
(1) 信和ゴルフの再生計画の骨子は、以下のとおりである。
ア 再生債権元本の95パーセントに相当する額及び再生手続開始後の利息、遅延損害金の全額の免除を受ける。その免除を受けない金額について、平成18年5月末日を第1回とし、10回にわたり毎年5月末日に、その10パーセント相当額を支払う。
イ ただし、相手方を除く関連ゴルフ会社の再生債権のうち、貸付金債権たる再生債権について、平成28年5月末日を第1回とし、10回にわたり毎年5月末日に、その10パーセント相当額を支払うが、保証債務の事前求償債権たる再生債権については全額の免除を受ける。
ウ 信和ゴルフの保有するゴルフ場の預託金返還請求権を有する者については、再生手続開始前に退会した債権者と再生手続開始時の会員に区分し、前者については、一定の条件で会員に戻ることができるし、会員は退会するか否かを選択できる。退会を選択した会員については、上記アの免除、弁済の定めによるが、全額の弁済を受けるまで継続会員と同様の負担で施設を利用できる。退会を選択しなかった会員以外の者(継続会員)からは、その再生債権元本の70パーセントに相当する額及び再生手続開始後の利息、遅延損害金の全額の免除を受ける。この継続会員に対しては、上記免除後の額を新預託金の額面とし、再生計画認可決定確定の日から10年を経過した日以降毎年5月末日限り、毎年1億7000万円を限度として、抽選で定めた順序に従い、一定の利息を付加して支払う。また、継続会員は、信和ゴルフサービスから、会員権1口に信和ゴルフの株式1株を無償で信託譲渡を受けることができる。
エ 別除権者のうち、RCCの再生債権については、別除権不足額が確定したときに免除を受ける。
オ その他の別除権者の再生債権については、上記アによるが、弁済期の到来している債権については、別除権不足額が確定した旨の通知後1月以内に支払う。
カ 相手方を除く関連ゴルフ会社が有する、信和ゴルフのRCCに対する連帯保証に基づく事前求償債権については、その全額について免除を受ける。
(2) 相手方を除く関連ゴルフ会社の再生計画の再生計画の骨子は、上記(1)、ア、ウと同旨であるほか、他の関連ゴルフ会社が再生債権を有する場合は、信和ゴルフの再生計画案の上記(1)、イと同様の劣後的取扱いを受け、RCCが有する信和ゴルフの債務についての連帯保証債権については、全額免除を受けることとされているほかは、信和ゴルフの再生計画と同一内容である。
(3) 相手方の再生計画は、以下の点で、他の関連ゴルフ会社の再生計画と相違しているが、その他は信和ゴルフの再生計画とほぼ同一内容である。
ア 第1回目の弁済時期を平成18年9月末日、毎年の弁済期を9月末日とする。
イ 信和ゴルフや関連ゴルフ会社及び関連子会社が有する再生債権については、相手方が反対債権を有するときは、これと対当額で相殺した上で、その残額の免除を受ける。
ウ 継続選択会員については、93パーセントに相当する額及び開始後に利息等債権の全額の債務の免除を受け、免除後の残額から1001円を控除した額を、6回に均等分割して、平成28年9月末日を第1回として、以降毎年9月末日限りを第2回から第5回、第6回目を再生計画認可決定確定の日から15年が経過した日の前月末日限り支払う。
また、継続選択会員は、信和ゴルフより、会員権1口に対し、相手方の株式1株を1円で譲り受け、相手方がその代金を代位弁済する。上記1円の請求権については、権利変更後の債務と相殺する。
再生計画認可決定確定の日から10年を経過した日以降、毎年8月末日までに退会の意思表示をした者に対し、その年の9月末日限り、1000円を支払う。
エ RCCの別除権は、協定成立後に受戻しをするが、信和ゴルフに対する保証債務の事前求償債権たる再生債権については、免除をするとの定めはされていない。
6 その他
(1) 信和ゴルフ及び相手方を除く関連ゴルフ会社は、それぞれRCCとの間で、平成17年12月28日、それぞれが所有する不動産に設定された根抵当権を受け戻し、その受戻額及び別除権不足額を確定し、受戻額について10か年で弁済すること、その弁済完了後根抵当権は消滅すること、提出されている再生計画案に賛成すること等を内容とする協定書を締結した。また、相手方についても、RCCとの間に、同様の協定が締結される見込みである。
(2) また、相手方を除く関連ゴルフ会社は、これより前の同年7月27日、再生裁判所から、信和ゴルフに対して有している保証債務を負担したことに基づく事前求償債権について、信和ゴルフの再生計画上100パーセント免除すること、信和ゴルフの債務について担保を提供した関連ゴルフ会社が、別除権協定による分割弁済をすることにより信和ゴルフに対して有する求償権について、予め放棄すること、上記求償権以外の債権について、信和ゴルフや他の関連ゴルフ会社に対して有する債権については、当該再生計画上、他の債権者の弁済が終了した後に、95パーセントを免除し、5パーセント相当額を10年間毎年均等額に分割して弁済を受けることの許可を得ている。
第3当裁判所の判断
1 一般的な判断基準について
(1) 会社更生法は、既に再生手続開始手続が進行している株式会社である再生債務者に対し、債権者から更生手続開始の申立てが行われた場合、原則として、更生手続を優先する(同法24条1項1号)が、再生手続によることが債権者の一般の利益に適合する場合は、更生手続申立てを棄却することとして、更生手続優先主義を修正している(同法41条1項2号)。
そして、上記のような場合、更生手続と再生手続のいずれが債権者の一般の利益に適合するかについては、更生手続と再生手続の制度の相違や双方の手続の進捗状況等を踏まえた上で、債権者に対する弁済の時期や額のみならず、事業継続による債権者の利益の有無、資本構成の変化等による債権者の企業経営参加の要否と可能性等を総合的に判断する必要があるといえる。
(2) また、株式会社の再建という観点から、会社更生法及び民事再生法を見ると、一般的には、経営者の交代、株式の減資等の組織変更や担保権の行使の制約の必要性、あるいは優先債権の権利変更の必要性がある場合は、更生手続によることが望ましいといえる。
2 本件における債権者の一般の利益の適合性について
(1) 本件においては、上記第2に認定した信和ゴルフと関連ゴルフ会社の資本の関係、担保設定状況、賃貸借契約や経営委託契約による経営の実体、財産や債務の関係等からすると、信和ゴルフと関連ゴルフ会社は、同一の経営者によって一体の会社のようにして経営がされていたものであり、その債務関係も密接不可分な関係であり、そのうちの1社でも再建ができないときは、その余の会社も再建が困難となることが認められるから、信和ゴルフと関連ゴルフ会社の再建を図るについても、同一の手続や手法によることが望ましいといえる。
(2)ア 前提となる事実によれば、信和ゴルフや関連ゴルフ会社の株式は、実質上、信和ゴルフや関連ゴルフ会社の代表取締役であるAが保有し、同人がオーナーとして、その経営権を掌握していたと認められる。そして、バブル経済の崩壊という状況を考慮しても、同人の経営者あるいは株主としての道義上の責任は相当大きいものがあることは否定できない。しかし、抗告人や若干の者を除く多数の債権者らは、再生手続による再建に反対をしていないことや、Aら経営陣について、損害賠償責任まで求める意見等があるとは窺えないこと、この点について、仮に現在の経営陣の損害賠償責任を追及しなければならない事由があるとした場合でも、再生手続上の損害賠償査定制度等(民事再生法〔以下「法」という。〕143条以下)で対応することができると考えられる。
また、Y調査委員の追加調査報告書等によれば、信和ゴルフ及び関連ゴルフ会社は、再生手続開始申立後に債権者説明会を開催し、あるいは経営会議に金融機関を参加させるなどしており、誠実に民事再生手続を遂行しようとしていると認められる。
以上からすると、経営政策上の観点から、Aが任意に役員を退くことは十分な検討課題であるといえても、現在の経営陣全員を強制的に排除しなければならないまでの事由を見いだすことはできない(抗告人の主張については後記のとおりである。)。
イ さらに、信和ゴルフや関連ゴルフ会社については、既にいずれも再生計画が認可され、最大の担保権者であるRCCとの間でも、信和ゴルフ及び相手方を除く関連ゴルフ会社については既に別除権につき協定が成立し、相手方についても、近くRCCとの間で別除権について協定が締結される見込みであることからすると、RCCやその他の別除権者の担保権の行使を制約しなければならない必要性は認められない。そして、いずれの債権者も、経営への参加措置を求めているとは認められない。
他方、預託金返還債権者に対しては、認可された再生計画において、株式の譲渡等の方法により、それぞれの会社経営に対する発言権を確保する措置が講じられている。
ウ 加えて、従業員は関連ゴルフ会社にはおらず、信和ゴルフ及び関連ゴルフ会社には退職金等を含めて優先債権を有する債権者は存在しないし、労働組合もないから、管財人を選任して、従業員との雇用関係等を調整したり、優先債権の権利変更を考慮する必要もない。
エ 以上によれば、信和ゴルフ及び関連ゴルフ会社について、法律上の制度の利用の観点から更生手続を選択しなければならない必要性はないといえる。
(3) 本件においては、一般債権者の大半が預託金返還請求権を有するゴルフ会員債権者であるところ、これらの者が更生手続を求めていることが窺えないことに加え、更生手続によると、再建のためにスポンサーを募る必要があると考えられるが、この手法ではゴルフ会員債権者のゴルフ場利用権に配慮した更生計画を策定することは相当に困難であると考えられる。しかし、既に認可された再生計画では、この利用権等の確保措置が講じられており、これら預託金返還債権者の利益が配慮されていることが認められる。
また、破産した場合の予測清算配当率は、信和ゴルフが約0.15パーセント、関連ゴルフ会社が0パーセントであるところ、再生計画等によれば、相手方の弁済率は7パーセント、相手方を除く関連ゴルフ会社の弁済率は5パーセントである。
さらに、本件においては、既に再生手続が相当程度進んでいるところ、改めて更生手続を採用することは、多大な費用や期間を必要とすると考えられる。
その上、一件記録によっても、信和ゴルフ及び関連ゴルフ会社は、現時点では円滑な運営が行われていて、問題があることは窺えない。
以上の他、本件において、更生手続を採用することにより、上記再生手続による弁済率やゴルフ場利用権あるいは弁済時期等より、有利な条件を得られると認めるに足りる資料はない。
(4) 以上の事情を総合して考慮すると、本件においては、更生手続より再生手続による方が債権者の一般の利益に適合するというべきである。
3 抗告人の主張について
(1) 経営者交代、組織変更の必要性について
ア 抗告人は、信和ゴルフ及び関連ゴルフ会社の代表取締役であるAは、①信和ゴルフ及び関連ゴルフ会社に不動産投資等で巨額の損害を与えた、②信和ゴルフ及び関連ゴルフ会社が債務超過の赤字会社であるのに、30億円をかけて社長用社宅として豪邸を建築した、③ゴルフ会員権者から低額で会員権を買い取り、それを信和ゴルフ及び関連ゴルフ会社に対して額面で引き取らせて約3億円の利益を得た、④信和ゴルフ及び関連ゴルフ会社の資金で、自己のペーパーカンパニーに高級マンションを購入させ、信和ゴルフに家賃を負担させて、賃借している、⑤信和ゴルフがハワイに送金した15億9300万円の使途が不明である、⑥信和ゴルフ及び関連ゴルフ会社において採用しているゴルフ場運営の再委託システムは、経費が二重にかかる上に関連ゴルフ会社においても経費が発生しているなど不透明な点がある、⑦抗告人の債権について偏頗弁済の申込みを行ったほか、信和ゴルフ、チェリーヒルズ及びジャパンクラシックについて、法律上会計監査を受ける義務があるのに、会計監査を受けていないなど、モラルハザードないしは遵法精神が欠如しており、したがって、再生手続を申し立てたのは、巨額の会員預託金返還請求権を削減することを目論んでいるものである、と主張する。
イ しかし、相手方の再生手続において、aゴルフクラブを護る会の構成員である再生債権者が、相手方の提出した再生計画案に反対して、これと異なる再生計画案を提出していたこと等を勘案して、再生裁判所が管財人を選任していることからすると、上記主張は、本件については、そもそも失当である。以下、念のために、抗告人の上記主張を検討するが、以下に述べるとおり、必ずしも、経営陣の交代や減資等の組織変更の必要性は認められない。
まず、①の投資及び②の社長用社宅の建築等について、Aが、取締役として裁量を逸脱した違法不当なものであると認めるに足りる証拠はない。③の会員権の買取りについては、一件記録によれば、当時、日債銀の倒産により新規融資が得られなくなり、RCCから借入金の返済が迫られることが予想されたため、運転資金の確保等のために資金の移動を図ることを目的に行ったことが窺われ、個人的に利得を得る目的で行ったとは認められないし、上記による保有資金は、その後すべて信和ゴルフ及び関連ゴルフ会社に返還されていることが認められる。④のマンションの購入や賃借等についても、一件記録から認められる経緯や購入資金、賃借条件等から、違法不当であるということはできない。⑤の使途不明金があると認めるに足りる証拠はない。⑥の再委託システムの経費等については、委託システムの採用以前の経費と対比しても、不当に経費が計上されているとは認められない。⑦については、抗告人に弁済を申し入れた債権は、抗告人が信和ゴルフらの代理人として行ったRCCとの調停に関する弁護士報酬債権であり、そのことだけで偏頗弁済の申入れと評価することはできないし、また、会計監査を受けていなかったことから、Aを経営陣から排除しなければならないほどに遵法精神が欠如していると評価することもできない。
その上、信和ゴルフや関連ゴルフ会社が、更生手続や任意整理による再建方法を採用したとしても、上記認定の資産と負債の状況からすると、ゴルフ会員権債権者の権利について大幅な権利変更等は免れないといえるから、再生手続開始を申し立てただけで、Aが不当にゴルフ会員権債権者の権利の削減を目論んだものであるとはいえず、その申立てが違法不当であるということはできない。
ウ また、抗告人は、真の株主責任を実現するには、100パーセント減資をするべきであるのに、再生計画の条項からすると76パーセントの株式譲渡しかされないことになり、再生手続では真の株主責任を追及したことにはならず、そのためには更生手続によるべきであると主張する。
しかし、上記認定の経営者や株主の行為状況からして、本件において、必ず100パーセントの減資を行わなければならないということはできないのであり、認可された再生計画による株式責任の程度をもって違法ということもできない。したがって、本件において、株式責任の追及のために、更生手続によらなければならない必要性はない。
(2) 担保権行使の制約等の必要性について
抗告人は、相手方が、信和ゴルフのRCCに対する債務を担保するために、その所有不動産に設定した根抵当権及び連帯保証契約は、更生手続において否認すべきものであり、これを否認することにより債権者に対する弁済率は高くなるのに、相手方の再生手続では、監督委員及び管財人は否認権行使をしておらず、更生手続で否認権を行使させる必要があると主張する。
一件記録からすると、相手方が、信和ゴルフの債務を担保するために根抵当権を設定した当時は、ゴルフ会員権の相場が上昇しており、会員の新規募集等による資金調達が容易な時期であったことが窺えること等からすると、相手方の上記担保提供行為が、詐害行為等の否認行為の対象となると認められるかには疑問があるが、いずれにしても、相手方の再生手続においては管財人が選任されており、管財人は否認権が行使できるから、上記否認権行使のために更生手続によらなければならない理由はなく、抗告人の上記主張を根拠として、更生手続によるのが、債権者の一般の利益に適合するとはいえない。
(3) 再生計画認可の違法性について
抗告人は、相手方について認可された再生計画は、管財人が、信和ゴルフらとRCCとの間で成立した調停条項で、RCCが相手方に対する連帯保証請求権を免除しているのに、その免除をしていない前提でその債権を計上して清算配当率5パーセントと算定しているが、免除を前提とする清算配当率は約6.3パーセントであり、民事再生法174条2項4号の不認可事由がある、と主張する。
しかし、上記調停条項では、信和ゴルフが、所定の金額を弁済したときは、残債務を免除するとされて、将来に相手方の連帯保証債務についても免除の効果が生じることがあり得るにすぎず、既に債務免除の効果が発生していることを前提として清算配当率を算定すること自体不適法であり、認可された再生計画に、上記不認可事由があるとはいえない。
(4) その他、抗告人は、原決定の不当性について縷々主張するが、いずれも原決定の事実認定等を非難するにすぎず、いずれの主張によっても、再生手続より更生手続が、債権者の一般の利益に適合するとはいえないから採用できない。
4 以上によれば、抗告人の本件申立ては、会社更生法41条1項2号に該当するものであり、その余の点について判断するまでもなく、これを棄却すべきものである。
よって、原決定は相当であり、本件抗告は理由がないから、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 武田和博 裁判官 松山文彦 楠本新)
<以下省略>