大阪高等裁判所 平成18年(行コ)101号 判決 2007年1月25日
控訴人(原審原告)
X
同訴訟代理人弁護士
中尾誠
同
井関佳法
被控訴人(原審被告)
京都府
同代表者兼処分行政庁
京都府労働委員会
上記委員会代表者会長
西村健一郎
同訴訟代理人弁護士
松浦正弘
同指定代理人
A
ほか2名
被控訴人(原審参加人)
京都市
同代表者京都市公営企業管理者
B
同訴訟代理人弁護士
森田雅之
同
坂本正寿
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求める裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 京都府労働委員会が京労委平成16年(不)第2号京都市不当労働行為救済申立再開事件について平成17年7月29日付でした棄却命令を取り消す。
(3) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
2 被控訴人ら
主文同旨
第2事案の概要
1 事案の概要
(1) 控訴人は,京都市交通局施設部車両課において主事として勤務し,同交通局の職員により組織される京都交通労働組合の組合員でありかつ同組合技術部a支部支部長であったが,平成11年4月1日付けで,その意に反してb営業所庶務係長に昇任させられた。
控訴人は,京都府労働委員会(当時の名称は「京都府地方労働委員会」)に対し,上記異動は労働組合法7条3号に規定されている支配介入に基づく不当労働行為に当たると主張して,被控訴人(原審参加人)を被申立人として救済の申立をしたが,平成17年7月29日,京都府労働委員会は同救済申立を棄却する旨命令した。
本件は,控訴人が,上記命令には事実誤認及び法律判断を誤った違法があると主張してその取消しを求める事案である。(以下,京都市交通局を「交通局」,京都交通労働組合を「本件組合」,上記異動を「本件異動」,上記救済申立に対する棄却命令を「本件命令」という。)
(2) 原審は,本件異動は,控訴人の本件組合における組合員資格を喪失させるものではあるが,本件異動のような係長昇任の人事異動が直ちに組合活動に対する侵害となるのではなく,支配介入の成否は,当該人事異動の組合活動に対する影響及び人事異動にかかる業務上の必要性の有無等をも総合的に判断して決する必要があるとした。そのうえで,①控訴人は,本件組合や同組合の少数派であるめざす会の組織運営に直接関与する地位にはなかったこと,本件異動後も本件組合の活動やめざす会の勢力に影響はなかったこと,交通局と本件組合の間に敵対的関係が続いていたのではなかったことなどから,本件異動が組合活動に与えた影響が大きかったとはいえない,また,②控訴人は,対人折衝能力が評価されて相当の能力を要する業務に従事するようになったこと,交通局は,本件異動前から組織の活性化のため,現業職員を事務管理職に積極的に登用する方針を採用していたこと,控訴人と同期入局者の約半数が本件異動時には係長級に昇任したことなどから,本件異動に業務上の必要性があったことを否定することはできないとして,③以上等を総合して,本件異動を支配介入と評価することはできないと判断し,控訴人の請求を棄却した。
(3) 控訴人は,原判決を不服として控訴した。
2 争いのない事実,争点及びこれに関する当事者の主張は,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」のうち「2 争いのない事実」及び「3 争点及びこれに関する当事者の主張」に摘示されているとおりであるから,これらを引用する。
第3当裁判所の判断
1 判断の骨子
当裁判所も,上記第2の1(2)に示した原審の理由の要旨と同様の理由により,本件異動は交通局による支配介入に基づく不当労働行為には当たらないから,控訴人の救済申立を棄却した本件命令は相当であり,その取消を求める本件請求は理由がなく棄却すべきであると判断する。
その理由の詳細は,次のとおり補正し,控訴人の補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第3 争点に対する判断」に説示されているところと同じであるからこれを引用する。控訴人が原判決の事実認定について種々述べる点も,結局,上記認定判断を左右するに至らない。
(1) 原判決9頁12行目の「全国部落解放京都市協議会副議長」を「全国部落解放運動京都市協議会副議長」に訂正する。
(2) 同12頁18行目の「総括主事」を「統括主事」に訂正する。
2 控訴人の補充主張に対する判断
(1) 支配介入に関する判断基準について
控訴人は,支配介入が労働組合ではなく労働者にとっての団結権の保護と捉える場合,本件のように,組合ないし組合員の意思ないし決定によることなく控訴人の本件組合における組合員資格を喪失させ,また,組合支部長の地位を剥奪するという行為は,そもそも支配介入に当たると解すべきであるなどと主張している。
しかしながら,仮に,労働者個人の団結権及び団体行動権の保護の観点から支配介入に当たるか否かを判断するとしても,配転や昇任は人事権行使の一態様として使用者の裁量に基づいて行われるものであり,これよりも労働者個人の団結権及び団体行動権の保護が当然に優先されるべきものとまでは解されないから,当該昇任が結果的に組合員資格を喪失させるような場合であっても,そのことからこのような昇任を伴う異動が直ちに支配介入に当たるとはいえない。控訴人は自らの生き方として労働組合員として退職したいなどと強調するが,そのような主観的な組合帰属の願望を直接保護することが支配介入の問題となるのではない。支配介入に当たるか否かの判断は,原判決の理由説示を引用して示したとおり,当該人事異動について,具体的人選の合理性,組合活動に対する影響及び業務上の必要性の有無等の諸般の事情をも総合考慮して判断するのが相当である。
したがって,控訴人の上記主張は採用できない。
(2) 本件異動の組合活動に対する影響等について
控訴人は,控訴人の組合活動に対する影響に関しては,本件組合の本部や主流派との関係ではなく,めざす会との関係が問題とされるべきであるなどと主張している。
なるほど,労働組合内の一部の集団に対する支配介入であってもそれにより不当労働行為が成立する場合があるとは考えられるし,また,控訴人は,本件異動当時,めざす会所属のただひとりの支部長であり,本件組合内においても,相当の発言力ないし影響力をもっていたといえる。
しかしながら,原判決の理由説示を引用して示したとおり,控訴人は発言力ないし影響力こそ相当程度あったものの,それは,組合活動家としてというよりは,むしろ組合運動外の活動やその人柄によるもので,また,めざす会の組合活動という観点から見ても,控訴人は,めざす会の執行部を構成する代表役員という地位にあったのではなく,会の運営に直接携わっていたのではないし,本件異動が,本件組合内におけるめざす会の勢力に影響を与えてその勢力が減少したというのでもない。
また,交通局の人事担当者が本件組合の役員選挙前に,主流派である育てる会の選挙に向けたレセプションに出席したことをもって,交通局が育てる会に肩入れし,めざす会を敵対視しているとまでは認められず,その他にこれを認めるに足る適切な証拠もない。
更に,本件異動当時,本件組合の組合員約2200人から2300人のうち,主流派の育てる会の会員約250人に対して,めざす会の会員は約200人であったが,めざす会から組合の三役等役員が選出されたことはなく,組合の各支部において選出される中央委員もめざす会は40人中4人にとどまっていたのであるから,交通局が,めざす会の勢力拡大等を懸念し,合理化計画であるプログラム21を円滑に推進するために,控訴人を活動から排除してめざす会を弱体化する必要があったなどとは到底考えられない。
したがって,本件異動がめざす会の組合活動に与える影響が大きかったとか,交通局がめざす会の弱体化を図って本件異動を画策したなどとはいえず,これに反する控訴人の補充主張は採用できない。
(3) 本件異動の業務上の必要性について
控訴人は,控訴人の昇任は,試験採用者等を除いた50人中,主任を経ていない者としては2人,鉄道部門からバス部門への他部門の異動では1人にすぎず異例さが際だっており,また,人選は当該部局からではなくC次長の意向にもとづくものであり,直接の上司からの意向打診はないなど,通常とは異なる不自然なものであるなどと主張している。
しかしながら,原判決の理由説示を引用して示したとおり,控訴人の昇任は,京都市職員任用規則に従ったものであって手続に問題はないし,控訴人の対人折衝能力が評価されてこれを活かす職場に配転されたのである。また,本件異動により,控訴人と同期の在職者(昭和37年養成工)のうち半数が係長以上となったが,人事異動のあり方としては何ら不自然ないし不合理ではなく,控訴人が上記のように一定の評価を受けていたことや,現実にその能力を発揮していたこと(<証拠省略>)などからすれば,本件異動に交通局の業務上の必要性があったといえる。更に,控訴人は,その活動歴からすれば昇任を容易に受け入れるとは思われないことや通常とは異なる昇任であったことなどから,控訴人と長期間親しくしてきたDやCが,直接控訴人を説得したとしても不合理ないし不自然であるとはいえないし,不当労働行為意思を推認させるものとも断じ得ない(<証拠省略>)。
また,控訴人が,平成15年4月1日,社団法人京都市交通局協力会に派遣されたのは,原判決の認定事実(第3の1(7))を引用して示したとおり,控訴人の前任者が病気治療のために入院することを理由として異動を希望していたところ,対人折衝能力等の観点から控訴人が適任であると判断されて後任に選任されたのであり,左遷であるとは認め難い(原判決は上記のように認定しているのであるから,単に,平成15年の異動が本件異動から4年経過した後になされたというだけで,平成15年の異動との関係において,本件異動の業務上の必要性が否定されないと判断しているのではない。)。
したがって,本件異動については,業務上の必要性があったと認められるのであり,これに反する控訴人の補充主張は理由がない。その他控訴人が原判決について種々主張する点も本件の上記結論を左右するに足りない。
3 したがって,原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小田耕治 裁判官 富川照雄 裁判官 三宅康弘)