大阪高等裁判所 平成18年(行コ)110号 判決 2007年3月27日
控訴人(第1審原告)
甲野太郎
上記訴訟代理人弁護士
水野武夫
同
末崎衛
同
元氏成保
被控訴人(第1審被告)
芦屋市
同代表者兼処分行政庁
芦屋市長 山中健
上記訴訟代理人弁護士
俵正市
同
小川洋一
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 芦屋市長が平成17年4月4日付けで控訴人に対してした別紙物件目録記載の土地に係る平成17年度固定資産税及び都市計画税賦課決定のうち,固定資産税の税額4万1300円,都市計画税の税額1万7700円を超える部分を取り消す。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
(1) 控訴人は,別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を所有し,同土地上に居住用建物を所有していたが,平成7年1月17日の阪神・淡路大震災(以下「本件震災」という。)により上記建物が損壊したため,同建物を取り壊し,以後は更地の状態で貸し駐車場として利用している。
本件土地は,本件震災当時,固定資産税及び都市計画税(以下,両税を「固定資産税等」という。)の課税上,小規模住宅用地に該当し,課税標準となるべき価格の6分の1及び3分の1を課税標準とする特例が適用されていたところ,同震災により損壊した家屋の敷地の用に供されていた小規模住宅用地については,震災後一定の期間,住宅用地として使用することができないと市町村長が認める場合に限り,住宅用地とみなして上記特例を適用するものとされた(地方税法<平成17年法律第5号による改正前のもの,以下「法」という。>附則16条の2第1項,以下「本件附則」という。)。
しかるところ,被控訴人は,本件土地について,平成17年度の賦課期日において,住宅用地として使用することができない場合に該当しないから,本件附則による軽減措置の対象とならないとして,本件附則を適用せずに課税標準価格を認定して固定資産税等の賦課決定(以下「本件決定」という。)をした。
本件は,控訴人が,本件決定は本件附則の解釈及び事実の認定を誤ってなされたものであると主張して,被控訴人に対し,本件決定のうち,本件附則を適用した上で算出した税額を超える部分の取消しを求めた事案である。
(2) 原審は,本件附則にいう「住宅用地として使用することができない」場合とは,当該土地の所有者が同土地を住宅用地として使用する意思を有していながら,震災の被害を原因とするやむをえない事由により,その意思を実現できない場合をいい,本件土地について,そのような事由は認定できないとして,控訴人の請求を棄却した。
(3) 控訴人は,これを不服として控訴し,請求の認容を求めた。
2 前提事実(証拠等を付記した以外は当事者間に争いがない。)
(1) 関係法令の定め
ア 住宅用地に対する固定資産税等の課税標準の特例
専ら人の居住の用に供する家屋の敷地の用に供されている土地(以下「住宅用地」という。)のうち,法349条の3の2第2項各号に定める住宅用地(200m2以下の住宅用地等)に該当するもの(以下「小規模住宅用地」という。)に対して課する固定資産税の課税標準は,当該土地に係る固定資産税の課税標準となるべき価格の6分の1の額とされており(法349条の3の2第2項),また,小規模住宅用地に対して課する都市計画税の課税標準は,当該土地に係る都市計画税の課税標準となるべき価格の3分の1の額とされている(法702条の3第2項)(以下,両規定による固定資産税等の課税標準の特例を「課税標準減額特例」という。)。
イ 本件震災に係る固定資産税等の特例
本件震災により滅失し,又は損壊した家屋の敷地の用に供されていた小規模住宅用地(以下「被災住宅用地」という。)のうち,平成17年度から平成22年度までの各年度に係る賦課期日において家屋又は構築物の敷地の用に供されている土地以外の土地の全部又は一部で平成7年度に係る賦課期日における当該被災住宅用地の所有者が所有するものに対して課する平成17年度から平成22年度までの各年度分の固定資産税等については,当該土地を平成17年度から平成22年度までの各年度に係る賦課期日において住宅用地として使用することができないと市町村長が認める場合に限り,当該土地を住宅用地とみなして,法の規定を適用するとされている(法附則16条の2第1項=本件附則=以下,ゴチック太字部分を「本件減額要件」という。)。
(2) 控訴人の生活関係
ア 控訴人は,昭和27年以降兵庫県芦屋市に居住し,昭和34年から昭和41年までは本件土地上に存在した建物に居住していたが,同年,大蔵事務官(国税庁職員)として採用され,各地で勤務し,福岡国税不服審判所長を最後に退職した。平成8年4月以降は,福岡県久留米市内の賃貸マンションに妻及び実母の3人で居住し,K大学法学部教授(租税法専攻)の地位にある(定年は平成19年3月)。
イ 控訴人は,平成5年3月に代金約6000万円で横浜市都筑区川和町内のマンション(床面積93.21m2)を購入し,平成12年6月には代金約3000万円で同市港北区太尾町内のマンション(床面積58.56m2,控訴人持分3分の2,同妻持分3分の1。娘夫婦に賃貸)を購入している。これらの購入代金は,妻の資金,住宅ローン等で支弁し,控訴人の退職金で借入金の一部を弁済したものの,なお残ローンの返済を続けている。
(以上,乙1,2,弁論の全趣旨)
(3) 本件土地の利用状況
ア 平成7年1月17日の本件震災当時,本件土地上には居住用建物が建っており,法349条の3の2第2項1号の小規模住宅用地に該当していたところ,同震災により建物が損壊したため取り壊されたものであるから,本件附則の定める被災住宅用地に該当する(弁論の全趣旨)。
イ 控訴人は,平成8年8月15日,有限会社ダイヤ商事との間で,本件土地につき,駐車場管理契約を締結し,周囲をコンクリートブロック及びフェンスで囲み,整地して砂利を敷き,トラロープで7区画分の駐車スペースを区切り,駐車場名,管理業者名・連絡先,芦屋駐車場部会加盟駐車場等の各看板を設置し,1台当たり月約2万円(賃料徴収額の5%は管理料)の貸し駐車場として利用している。なお,上記駐車場の一部には庭木が残されている(乙1,2,3・4の各1〜5,弁論の全趣旨)。
(4) 本件決定
芦屋市長は,平成17年4月4日付けで,控訴人に対し,本件土地につき,平成17年度固定資産税24万8200円及び同都市計画税5万3100円の賦課決定(本件決定)をした(弁論の全趣旨)。
なお,本件土地につき,平成17年1月1日時点で,本件附則が適用されない場合は,本件土地に係る平成17年度の固定資産税は24万8200円,同都市計画税は5万3100円であり,同附則が適用される場合は,それぞれ4万1300円と1万7700円となる(弁論の全趣旨)。
(5) 異議申立て
控訴人は,平成17年5月26日付けで,芦屋市長に対し,本件決定について異議申立てを行ったが,芦屋市長は,同年6月16日付けで,同異議申立てを棄却した。その理由の骨子は,被災住宅用地で本件減額要件,すなわち,住宅用地として使用する意思があるが,やむを得ない事由により住宅用地として使用することができない場合に該当する場合は,本件土地を住宅用地とみなして課税標準減額特例を適用するものとなるところ,その要件の判断は,市町村長が現況により客観的に認定するものであり,他の用途に供されていることが明らかな場合は,「当該土地を住宅用地とみなして」特例を適用することはできないと判断すべきであり,本件土地については,賦課期日現在,貸し駐車場として利用されている客観的事実から,本件減額要件に該当しないと認定したというものである(甲1)。
(6) 訴訟提起
控訴人は,平成17年12月13日,本件訴訟を提起した。
3 争点及び当事者の主張
本件の争点は,本件決定の適法性であり,具体的には,① 本件減額要件の意義(住宅用地として使用する意思の必要性),② 本件減額要件の立証責任の帰属,③ 平成17年度の賦課期日における本件減額要件,特に住宅用地として使用する意思の有無の3点が争われている。
(1) 本件減額要件の意義(住宅用地として使用する意思の必要性)について
〔控訴人〕
ア 本件附則は,本件震災により住宅用家屋が滅失又は損壊したために住宅用地として使用していない状況となった土地について,震災による甚大な被害に加えて,不可抗力で住宅を喪失した者に重い納税義務を強いることを避けるため,その後も従前のとおり住宅用地として取り扱い,課税標準減額特例を適用して,震災の被災者に対する支援を図り,復興を促進することを目的とするものである。
イ 本件附則の適用要件は,① 適用の対象となる土地が「被災住宅用地」であること,② 「各年度の賦課期日において家屋又は構築物の敷地の用に供されている土地以外の土地」であること,③ 「各年度の賦課期日において住宅用地として使用することができないと市町村長が認める場合」(本件減額要件)であることの3つである。
このうち本件減額要件については,物理的,法的又は経済的な障害があって,賦課期日現在において住宅を建設できない場合をいう。
ウ 被控訴人(原判決も同様)は,本件減額要件について,「被災住宅用地を住宅用地として使用する意思を有していながらこれを実現できないことについて,震災の被害を原因とするやむを得ない事由が存する場合をいう。」と解し,被災住宅用地を家屋又は構築物の敷地に使用していない場合でも,その他の用途に使用している場合は,一律に「住宅用地として使用する意思」を有していないと認定して,本件減額要件に該当しないとする。
しかし,本件減額要件には「住宅として使用する意思」というような要件は定められておらず,このような要件を加えることは租税法律主義に反するし,本件附則制定の趣旨にも反する。
エ 本件減額要件に該当するか否かは,このような「意思」を基準とするのではなく,「住宅用地として使用することができない」か「できる」かのみを判断すべきである。そして,上記のような本件附則の目的からして,本件震災が起こらなくても,所有者が自ら住宅用地としての使用を中止して別の用途での利用を行うのでない限り,本件震災がなければ当該土地は引き続き住宅用地として使用されたのであるから,上記附則を適用すべきである。
〔被控訴人〕
ア 本件附則の趣旨は,被災住宅用地について,当該土地所有者が同土地を住宅用地として使用する意思を有しながら,当該年度に係る賦課期日において本件震災の被害を原因とする,やむを得ない事由により住宅用地として使用することができない事由が存すると市町村長が認める場合に限り,当該土地を住宅用地とみなして,課税標準減額特例を適用するものである。ここでいう「市町村長が認める場合」とは,市町村長が現況により客観的に認定判断すべきものであり,当該土地が住宅用地以外の用途に使用されていることが客観的に明らかな場合には,特段の事情がない限り,「住宅用地として使用することができない」場合に該当しないと判断できる。
イ 控訴人の主張するように,本件附則の適用について,「住宅用地として使用する意思」を要件としないとすると,本件震災後に震災と無関係に住宅用地として使用しなくなった場合にも,課税標準減額特例が適用される事態が生じることになって,立法趣旨に反することになる。
ウ 本件附則の立法趣旨は,上記のように震災被災者に対する復興への支援であるから,住宅を再建する意思のない土地所有者を支援する必要はなく,「住宅用地として使用することができない」という要件の解釈として,「住宅用地として使用する意思」は当然の前提として含まれているのであって,租税法律主義に反するものではない。
(2) 本件減額要件の立証責任の帰属について
〔控訴人〕
本件減額要件の有無は,課税標準軽減特例の適用を決する事実であるから,課税要件に該当する。そして,課税要件事実の立証責任は課税庁が負担すべきである。しかるところ,被控訴人は,控訴人が本件土地を「住宅用地として使用することができない事情がないこと」を立証していないから,本件土地については,本件附則が適用されるべきである。
〔被控訴人〕
本件で問題となっているのは,課税についての軽減事由の有無であり,その存在は,それを主張する者が立証すべきことは,立証責任の分配の原則から当然のことである。
(3) 住宅用地として使用する意思の有無について
〔控訴人〕
ア 本件附則は,当初その適用を平成9年度までとされていたが,当初の予測と異なり,被災者の震災からの復興が十分でなく,住宅を再建することができない状況が続いているため,適用期間が繰り返し延長され,現在は平成22年度までとされている。
このような状況の中,被災者が住宅を再建するまでの間に構築物を建設しないで簡易な駐車場として第三者に賃貸し,その賃料を生活資金や住宅再建の資金に充てることは珍しいことではない。この場合,被災者は住宅を再建しない意思(すなわち当該土地を住宅用地として使用しない意思)で貸し駐車場として使用するのではなく,住宅を再建したいが,それができない状況において,「一時使用」としてしているに過ぎないのであって,本件震災からの経過年数に関わらないことである。本件附則の目的からして,このような場合は,まさに本件附則が適用されるべき場面である。
イ 本件減額要件について,仮に「住宅用地として使用する意思」が必要であると解するとしても,控訴人にはその意思があり,本件土地を駐車場にするに際して,アスファルト舗装をせず,駐車区画もロープを張っているだけであり,しかも駐車場としては妨げになる庭木も将来の住宅再建に備えて残しているのであって,住宅用地として使用する意思があることは明らかである。
ウ 課税庁である芦屋市長は,平成12年度までは本件土地を含む被災住宅用地で簡易駐車場として利用していた土地について,本件附則と同様の規定の適用を認めていたのであり,これは本件土地について,本件減額要件が存在することを認定していたことを意味するのであって,本件震災後現在に至るまで本件土地の使用状況に変化はない。したがって,本件土地について,本件附則が適用されるべきである。
〔被控訴人〕
ア 本件土地は,賦課期日(平成17年1月1日)現在において,貸し駐車場の看板,駐車場協会の加盟等がなされ,駐車場であることが外形的に明示されており,貸し駐車場として利用されている客観的事実から,控訴人において住宅用地として利用する意思を有していないと判断し,本件附則による「住宅用地として使用することできないと市町村長が認める場合」に該当するものでないと認定したものであり,本件決定に違法事由は存在しない。
イ 本件震災から5年が経過するまでは砂利敷等の簡易な駐車場について,住宅再建までの一時的な使用と判断して本件附則を適用してきたが,実態として,すべての場合に本件減額要件を満たしていたというわけではない。
第3 当裁判所の判断
1 本件減額要件の意義(住宅用地として使用する意思の必要性)について
(1) 本件附則は,本件震災直後に制定された同趣旨の附則が順次改定されたものであるところ,その趣旨は,200m2以下の住宅用地に家屋が存在し,小規模住宅用地として,固定資産税については通常の課税標準の6分の1,都市計画税についてはその3分の1とする課税標準減額特例を受けていた土地であっても,その家屋が滅失又は損壊した場合は,当然に非住宅用地となり,上記特例措置を受けられなくなるが,本件震災の場合,その被害が甚大かつ広域であり,住宅の再建まで相当の期間を要することが予想されることから,被災者を支援するため,住宅が再建されるまでの間の固定資産税等の負担が急増する事態を避ける特別措置を図ることとしたものである。
(2) 上記の趣旨からその要件は,① 本件震災直前の平成7年度に係る固定資産税等の賦課期日(平成7年1月1日)において,上記特例措置を受けていた被災住宅用地であること,② 附則で定められた各年度の賦課期日において家屋又は構築物の敷地の用に供されている土地以外の土地であること,③ 各年度の賦課期日において住宅用地として使用することができないと市町村長が認める場合であること,の3要件が定められた。そして,この特別措置を受けられる期間については,当初2年とされていたが,住宅復興が進まない状況に対応して,順次延長され,現在では,平成22年度までとされている。
(3) 控訴人の所有している本件土地が上記(2)①②の要件に該当していることは前提事実のとおりであり,本件の争点は③の要件(本件減額要件)の有無であるところ,③の要件についての本件附則の規定は「住宅用地として使用することができない」というものであり,これは,本件附則の文言からして,file_3.jpg本件震災によって土地が崩落するなど物理的に住宅建築ができない場合や,file_4.jpg区画整理事業の対象地となるなどして,それらの法的規制によって住宅建築が法的にできない場合や,file_5.jpg被災者の経済的事情から住宅建築の目処がたたない場合など,本件震災がなければ住宅を保持し得ていたのに,本件震災によって生じたこれらの障害によって住宅の再建が実現できない状況に至っている場合をいうものと考えられるが,本件附則の制定趣旨や「できない」という文言からして,これらの事由がある場合であっても(これらの事由がない場合は,そもそも「住宅用地として使用することができない」場合に当たらない。),被災者自身に住宅再建の意思がない場合(その場合には「しない」のであって,「できない」とは言わない。)には本件附則を適用する必要性も余地もないから,本件附則は,当然に,被災住宅用地の所有者において,住宅を再建する意思があることを前提とするものであると解するのが相当である。
(4) この点について,控訴人は,本件附則に「住宅用地として使用する意思」を必要とする旨の定めがないから,このような要件を加えることは租税法律主義に反し,本件附則制定の趣旨にも反するなどと主張する。しかし,租税法律主義は,課税要件を法定することにより行政庁の恣意的な徴税を排除し,国民の財産的利益が侵害されないようにするための原則であり,同原則から課税要件の明確化が要請されるが,他方,税法の対象とする社会経済生活上の事象の一切を法律により一義的に規定し尽くすことは到底困難であって,法律の定めるところの意味内容を合理的に解釈することは租税法律主義に反するものではない。そして,「住宅用地として使用する意思」の存在は,本件附則の趣旨及び文言から当然に導き出されることがらであるから,それが明記されていないからといって,そのような解釈が租税法律主義に違反するものとは到底言い難い。また,住宅を再建する意思のない者についてまで課税標準減額特例を適用しなければならない理由もないから,控訴人の上記主張は採用できない。
なお,控訴人は,所有者自らが住宅用地としての使用を中止して別の用途での利用を行う意図があったような場合でなければ,引き続き住宅用地とされていたはずであるのに,本件震災によって意に反して住宅を喪失したものである以上,本件附則を適用すべきであるとも主張する。確かに,遠隔地での勤務を余儀なくされている場合など,自宅があればたまには帰宅したり,他人に貸したりなどして使用し,遠隔地の勤務が解除されれば自宅に帰る心積もりをしており,本件震災によって,意に反して建物を喪失したものの,震災後もその意思は持ち続けているが,その地に戻る見込が立たないため,住宅を再建する適期でないと判断して建築を見合わせるような場合もあることは容易に推察できるところであって,そのような場合も本件震災による被害を受けたことは明らかである。しかしながら,本件附則がこのような場合まで対象としていると解することは,その文言に照らしても困難というほかはなく,控訴人の上記主張についても採用できない。
2 本件減額要件の立証責任の帰属について
控訴人は,本件減額要件の立証責任は課税庁にあると主張するが,本件附則が「住宅用地として使用することができない」と規定していることからして,これを適用するには,控訴人の主張するような住宅用地として使用するについての物理的,法的又は経済的な客観的障害事由の存在をその主張をする側において立証し,これが積極的に認定できることを要すると解すべきであり,これとは反対に,これらの障害事由の不存在を要件とする解釈をすることは,上記文言とも整合しない。
控訴人は,本件減額要件も課税要件の一つであるから当然に課税庁が主張立証をすべきであると主張するが,住宅用地として使用されていない土地については,通常の課税標準に従って課税されるのであって,本件減額要件の存在は,その課税についての軽減事由であるから,課税要件と同列に扱わなければならない理由はなく,軽減事由を主張する側に主張立証責任があると解するのが相当であり,控訴人の上記主張は採用しない。
3 住宅用地として使用する意思の有無について
(1) 上記のとおり,本件減額要件の存在については,控訴人に主張立証責任があるところ,控訴人は,本件震災による物理的,法的,経済的障害によって本件土地に住宅を建築できない具体的な事由については,何ら主張も立証もしていない。かえって,本件土地は平坦地であって有料駐車場として使用しているのであるから,物理的に住宅を建築することに障害があるとは考え難く,また,何らかの法的規制によって建築が制限されているような事情も全くうかがえない。さらに,控訴人の経済的事情についても,その具体的状況について何ら主張も立証もないから明らかではないが,前提事実で認定したような控訴人の職業,社会的地位,横浜市に2戸のマンションを所有していること,しかもそのうち1戸は本件震災後に取得したものであることなどからして,本件土地に住宅を再建できないような経済的状況にあるとも考え難い。
そうすると,もはや「住宅用地として使用することができない」との要件さえ認めることはできないから,その意思の有無を問うまでもないが,念のためその点についても検討しておく。
(2)ア 本件減額要件の有無の判断は市町村長に委ねられているところ,物理的,法的,経済的障害の有無については,できるだけ客観的な資料に基づいて判断すべきであるが,「住宅用地として使用する意思」の有無については,当該土地の所有者の主観にかかる面のあることは否定できない。しかし,それのみに依拠するのではなく,生活状況や当該土地の使用状況等の客観的な諸事情をも総合的に斟酌して判断するのが妥当でもあり,合理的でもあるというべきである。
イ ところで,本件附則は,被災住宅用地について,家屋又は構築物の敷地の用に供されている土地を除外するものとしているが,それ以外の使用については制限していないし,その使用によって収益を上げているか否かも問題としていない。したがって,控訴人が本件土地を外形的にも明確な形で有料駐車場としているからといって,それのみを理由として,他の用途に使用しているから「住宅用地として使用できない」のであって,本件震災を理由とする障害によるものではないと即断することは相当ではない。控訴人も指摘するとおり,住宅再建の意欲を持ちながらも経済的理由によってままならない状況があって,しかし,遊休地としておくより,簡易な駐車場や資材置き場として貸すなどしていくらかでも収入を得,それも一助として住宅再建を目指そうとすることも十分に考えられるし,そのような一時使用は,本件附則の趣旨に反するものとまではいえない。だからこそ,芦屋市は,本件震災から5年間は,そのような事例が多いと推定し,個別事情を斟酌することなく,有料の駐車場として利用している場合等にも一律に本件附則を適用していたものと考えられる。
その意味からすれば,本件決定に対する異議申立てに対し,芦屋市長が,「他の用途に供されていることが明らかな場合」は本件減額要件に該当しないと判断すべきであるとしている点は,それのみで本件減額要件の存否を決定するとするのであれば問題がないとはいえない。
ウ しかしながら,控訴人の場合,前提事実のとおり,① 勤務の都合とはいえ,昭和41年以来,本件土地上の建物には居住していないこと,② 本件震災前に横浜市に高額のマンションを購入していたこと,③ 本件震災後にも同市内でさらにマンションを取得していること,④ 本件震災後,1年半程したころから本件土地を有料駐車場として収益を上げ,既に10年余に及ぶこと,⑤ 本件土地における住宅建築について検討した形跡がないこと,⑥将来は本件土地に戻ると言いながら,具体的な計画も示していないことなどの事情が認められるのであって,これらの事情は,控訴人が被控訴人を相手取って平成14年に提起した同種訴訟(乙1,2)によって明らかとなっていた事実であることからすれば,被控訴人がこれらの事情をも斟酌して本件決定をしたことは容易に推測できるところであり,これらの事情を総合的に判断すれば,控訴人において,少なくとも平成17年度の賦課期日において,本件土地を住宅用地として使用する意思がないと判断したことは正当であって,その判断に何らの違法も見出し難い。
4 以上の次第であって,本件土地については,本件附則を適用する余地はないから,本件土地に係る平成17年度の固定資産税等について,課税標準減額特例を適用せずにそれらの税額を算定した本件決定は適法であり,これを取り消すべき理由はない。
5 よって,これと同旨の原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・井垣敏生,裁判官・森野俊彦,裁判官・大島雅弘)
別紙物件目録<省略>