大阪高等裁判所 平成18年(行コ)26号 判決 2006年12月22日
控訴人・附帯被控訴人(第1審被告)
兵庫県教育委員会
(以下「控訴人」という。)
上記代表者委員長
平田幸廣
上記訴訟代理人弁護士
岸本昌己
上記指定代理人
竹内弘明
外5名
被控訴人・附帯控訴人(第1審原告)
馬場健一
(以下「被控訴人」という。)
主文
1 原判決を次のとおり変更する。
(1) 控訴人が被控訴人に対し平成14年6月17日付けでした非公開決定中,別紙2,3,6ないし13の各「非公開部分」欄の緑色文字で着色された部分に係る非公開決定を取り消す。
(2) 被控訴人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,第1・2審を通じ,これを8分し,その1を被控訴人の負担とし,その余を控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 申立て
1 控訴の趣旨
(1) 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
(2) 被控訴人の請求を棄却する。
2 附帯控訴の趣旨
(1) 原判決中被控訴人敗訴部分を取り消す。
(2) 控訴人が被控訴人に対し平成14年6月17日付けでした非公開決定中,別紙2ないし15の各「非公開部分」欄の青色着色部分を除く赤色斜線部分に係る部分を取り消す。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
(1)ア 兵庫県は,平成12年3月28日,情報公開条例(平成12年3月28日条例第6号。以下「本件条例」という。)を制定・公布し,本件条例は,同年4月1日,施行された。
本件条例には,次のとおりの規定がある。
(ア)(公文書の公開義務)
実施機関は,公開請求があったときは,当該公開請求に係る公文書に次の各号のいずれかに該当する情報(以下「非公開情報」という。)が記録されている場合を除き,請求者に対し,当該公文書を公開しなければならない(6条本文)。
個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,特定の個人を識別することができるもののうち,通常他人に知られたくないと認められるもの又は特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの(同条1号)
(イ)(部分公開)
実施機関は,公開請求に係る公文書の一部に非公開情報が記録されている場合において,当該非公開情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは,請求者に対し,当該部分を除いた部分について当該公文書を公開しなければならない。ただし,当該部分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認められるときは,この限りでない。(7条)
イ 被控訴人は,控訴人に対し,平成14年4月19日,本件条例に基づき,学校体罰に関する公文書の公開請求をしたところ,控訴人は,被控訴人に対し,同年6月17日,別紙1文書目録記載の各公文書(以下,同目録記載の各文書については,その文書番号に従って,「第1‐1文書」などといい,総称して「本件各文書」ということがある。)について,本件各文書に記録された情報は,本件条例6条1号前段,同号後段の非公開事由に該当することなどを理由として,その一部を非公開とし,その余を公開とする旨の一部公開決定(以下,同決定のうち,非公開部分に係る決定を「本件非公開決定」という。)をした。
ウ 本件は,被控訴人が,本件条例に基づき,本件各文書を構成する別紙2ないし15の各文書の各「非公開部分」欄のうち,赤色斜線部分に係る情報は,本件条例6条の非公開事由に該当しないなどと主張して,控訴人に対し,本件非公開決定のうち上記情報を非公開とした部分の取消しを求める事案である。
(2) 本件の主要な争点は,本件非公開決定の適法性であり,具体的には,① 本件各文書に記録された情報は,本件条例6条1号前段(以下,単に「前段」という。)の非公開事由に該当するか否か,② 本件各文書に記録された情報は,本件条例6条1号後段(以下,単に「後段」という。)の非公開事由に該当するか否か,③ 部分公開の当否,である。
(3) 原審は,① 第1‐2文書に記録された情報は,前段の非公開事由に該当する,② 第2‐1‐1文書に記録された情報のうち,「関係者の住所・氏名等」欄の「被害生徒①」,「被害生徒②」,「被害生徒③」の属性に関する情報,「発生日時及び場所」欄の被害生徒①に関する部分の情報,「状況」欄及び「学校においてとった措置及び今後必要とする措置」欄の「5月11日(木)」部分の情報は,前段の非公開事由に該当し,その余の情報は,前段の非公開事由に該当しない,③ 第2‐1‐2文書,第2‐1‐3?5文書に記録された情報は,前段の非公開事由に該当する,④ 第2‐1‐6文書に記録された情報のうち,報告部分に記録された情報は,前段の非公開事由に該当し,冒頭部分に記録された情報は,前段の非公開事由に該当しない,⑤ 第2‐2‐1文書に記録された情報は,前段の非公開事由に該当しない,⑥ 第2‐2‐2文書に記録された情報のうち,「関係者の住所・氏名等」欄の被害生徒の属性に関する情報及び「原因と状況」欄の「7月9日」部分に記録された情報は,前段の非公開事由に該当し,その余の情報は,前段の非公開事由に該当しない,⑦ 第2‐2‐3文書に記録された情報のうち,報告部分及び見取図に記録された情報は,前段の非公開事由に該当し,冒頭部分に記録された情報は,前段の非公開事由に該当しない,⑧ 第2‐3‐1文書に記録された情報は,前段の非公開事由に該当しない,⑨ 第2‐3‐2文書に記録された情報のうち,「関係者の住所・氏名等」欄の情報,「原因と状況」欄の2ないし6段落目の情報,「乙とその保護者に対してとった措置」欄の「8月28日(金)」の「17時30分ころ」部分,同「17時44分」部分,「9月23日(水)」部分の情報,「教職員に対してとった措置」欄の「9月8日(火)」の「8時20分」部分の情報,「男子バレーボール部父母の会に対してとった措置」欄の「8月31日(月)」の「19時00分」部分の情報,「今後必要とする措置」欄の情報,「その他参考となる事項」欄の情報は,前段の非公開事由に該当し,その余の情報は,前段の非公開事由に該当しない,⑩ 第2‐3‐3文書に記録された情報のうち,報告部分中の加害教員の属性に関する情報は,前段の非公開事由に該当し,冒頭部分に記録された情報及び報告部分中の加害教員の勤務状況等に関する情報は,前段の非公開事由に該当しない,⑪ 第2‐3‐4文書に記録された情報のうち,報告部分に記録された情報は,前段の非公開事由に該当し,冒頭部分に記録された情報は,前段の非公開事由に該当しない,⑫ 第3‐1・2文書に記録された情報は,前段の非公開事由に該当する,⑬ 第2‐1‐6文書,第2‐2‐3文書及び第2‐3‐4文書の冒頭部分に記録された情報は,後段の非公開事由に該当しない,などと認定説示し,また,⑭ 部分公開について,本件条例7条は,非公開事由に該当する独立した一体的な情報を更に細分化し,その一部を非公開とし,その余の部分にはもはや非公開事由に該当する情報は記録されていないものとみなして,これを公開することを実施機関に義務付けていると解することはできない,独立した一体的な情報の具体的範囲は,別紙16ないし24記載の赤線で囲まれた部分のとおりである,などと認定説示し,本件請求について,本件非公開決定中,別紙2ないし15の各「非公開部分」欄の青色着色部分に係る部分を取り消し,被控訴人のその余の請求を棄却する旨の判決を言い渡した。
(4) 控訴人は,非公開情報の認定に誤りがあるなどとして,原判決中控訴人敗訴部分を不服として本件控訴を提起し,また,被控訴人は,非公開情報の認定や部分公開の解釈に誤りがあるなどとして,原判決中被控訴人敗訴部分を不服として本件附帯控訴を提起した。
2 前提事実(証拠等を掲げた部分以外は当事者間に争いがない。)
(1) 被控訴人は,本件条例1条1項の実施機関である控訴人に対し,平成14年4月19日,本件条例4条に基づき,次のアないしウの公文書の公開を請求をした。
ア 「教職員に係る係争中の争訟事件等の調査について」と題する文書のうち,体罰に係る懲戒処分等(地方公務員法29条に基づく懲戒処分及び訓告等職務上の義務違反に対する監督上の処置)が記録されている部分(ただし,平成13年度提出分。)
イ 公立小・中学校,県立学校(養護学校を含む)における体罰に係る事故報告書(ただし,平成13年度に控訴人に提出されたものであり,教職員の反省文,顛末書,診断書,事情聴取記録,その他の一切の添付文書等を含む。)
ウ 各市町教育委員会等から提出された体罰に係る教職員処分に係る報告書(ただし,平成13年度作成・提出分。)
(2) 控訴人は,被控訴人に対し,平成14年6月17日,請求された文書の一部に,前段,後段の非公開事由に該当する情報が記録されていることなどを理由として,同情報が記録されている部分を非公開とする旨の本件非公開決定をし,その余の部分を公開する旨の一部公開決定をした。
(3) 本件各文書の作成経緯,構成,記載内容及び非公開部分等
ア 本件各文書
本件訴訟において,前段ないし後段の非公開事由該当性が争いとなっている情報が記録されている文書は,別紙1文書目録記載の各公文書(本件各文書)である。
イ 第1文書
第1文書の作成経緯,構成,記載内容及び非公開部分は,次のとおりである(乙1の1・2)。
(ア) 作成経緯
第1文書(別紙2・16の文書)は,控訴人の事務局教職員課長が,文部科学省初等中等教育局初等中等教育企画課長の依頼によって,その所管に係る公立学校において発生した体罰事案における教職員に対する平成12年度(平成12年4月1日から平成13年3月31日まで)の処分状況等について調査し,これを平成13年度に文部科学省に報告した文書である。
(イ) 構成
第1文書は,送付文書(第1‐1文書)と報告書本文(第1‐2文書)で構成されている。
(ウ) 記載内容
a 第1‐1文書には,文書番号,作成年月日,作成者,あて先等が記載されている。
b 第1‐2文書には,整理番号1?29ごとに,処分年月日,区分(当事者責任,監督者責任),懲戒処分の種類(免職,停職,減給,戒告),合計,訓告等,諭旨免職,総計の各欄と当事者責任による被処分者(人)(学校種,教職経験,担当教科),体罰を受けた児童生徒(人),被害の状況(人),体罰の件数(件),体罰の態様(件),体罰時の状況(場面<件>,場所<件>)の各欄が設けられ,人数あるいは件数については数字で,当事者責任による被処分者欄には学校種を「小」,「中」等と,担当教科を「社会」,「理科」等と記入例(文部科学省の作成した記入例。以下同じ。)に従った記入方法で,体罰を受けた児童生徒欄には数,学校種及び学年を「4(中2)」等と記入例に従った記入方法で,被害の状況欄にはAないしLのアルファベットによる記号で,体罰の態様欄及び体罰時の状況欄にはAないしFのアルファベットによる記号で,記載されている(その形状,体裁や内容は,マジックで消してあるほか,別紙16記載のとおりである)。
c なお,第1文書には,体罰を行った教職員(以下「加害教員」という。)の氏名等や体罰を受けた生徒(以下「被害生徒」という。)の氏名等,個人を直接識別できる情報は記録されていない。
(エ) 非公開部分
第1‐1文書には,本件非公開決定により非公開とされた部分は存在しない。
第1‐2文書には,別紙2の「非公開部分」欄記載のとおり,本件非公開決定により,加害教員の「教職経験」欄の全部及び「担当教科」欄の一部(整理番号21及び23に係る部分)に記録されている情報が非公開とされた。
ウ 第2文書の作成経緯,構成,記載内容及び非公開部分
第2文書の作成経緯,構成,記載内容及び非公開部分は,次のとおりである(乙2,乙3の1・2,乙4の1?3,乙18,弁論の全趣旨)。
(ア) 作成経緯
第2文書は,兵庫県内の公立学校の学校長が,同校に所属する教職員が生徒に対して体罰を行ったことについて調査し,これを控訴人又は各市町村の教育委員会に報告した文書である。
(イ) 第2‐1文書の構成
第2‐1文書は,兵庫県立高等学校における体罰発生報告書(「体罰の発生について(報告)」と題する文書)(第2‐1‐1文書,別紙3・17の文書)と付属書類(第2‐1‐2?6文書)とからなっているが,付属書類は,被害生徒の診断書1通(第2‐1‐2文書,別紙4の文書),被害生徒の治療費の領収書3通(第2‐1‐3?5文書,別紙5の文書),加害教員作成に係るてん末書1通(第2‐1‐6文書,別紙6の文書)で構成されている。
(ウ) 第2‐1文書の記載内容
a 第2‐1‐1文書
上記文書は,「体罰の発生について(報告)」と題する文書である(その形状,体裁や内容は,マジックで消してあるほか,別紙17記載のとおりである。)。
このうち,送付文書部分には,送付年月日,作成者,あて先,加害教員の勤務先及び氏名等が記載されている。
また,報告文書部分には,別紙3の項目欄のとおり,① 加害教員の氏名,性別,生年月日などの加害教員の属性に関する事項,② 被害生徒の氏名,性別,生年月日などの被害生徒の属性に関する事項,③ 体罰発生の日時及び場所に関する事項,④ 体罰発生の原因及び状況に関する事項,⑤ 体罰に係る事実関係の確認方法に関する事項,⑥ 学校においてとった措置及び今後必要とする措置に関する事項などが記載されている。
このうち,上記④及び⑥の具体的な記載内容は,別紙3の「3 状況」欄及び「5 学校に置いてとった措置及び今後必要とする措置」欄のとおりである。
なお,上記④ないし⑥の部分においては,加害教員が「甲」,被害生徒が「乙」と略称により表示されているため,同部分には,加害教員及び被害生徒を直接識別し得る情報は記録されていない。
b 第2‐1‐2文書
上記文書は,医師作成の被害生徒の診断書である。
これには,別紙4の項目欄のとおり,被害生徒の氏名,生年月日など被害生徒の属性に関する事項,被害生徒の診断結果に関する事項などが記載されている。
c 第2‐1‐3?5文書
上記各文書は,治療に対する医療費の領収書である。
これらには,別紙5の項目欄のとおり,被害生徒の氏名,生年月日など被害生徒の属性に関する事項,医療費の窓口請求額に関する事項などが記載されている。
d 第2‐1‐6文書
上記文書は,加害教員作成の顛末書である。
これには,年月日,所属学校,作成者氏名及びあて先を記載した部分と本文とがある。
このうち,本文の具体的内容は,別紙6の「非公開部分の概要」欄記載のとおりである。
(エ) 第2‐2文書の構成
第2‐2文書は,尼崎市立小学校における体罰発生報告書(「体罰の発生について(報告)」と題する文書)(第2‐2‐2文書,別紙8・19の文書)と送付文書(阪神南教育事務所長が上記体罰発生報告書を兵庫県教育長に送付した進達書であり,「教職員の体罰に係る報告について(進達)」と題する文書)(第2‐2‐1文書,別紙7・18の文書)で構成されているが,上記体罰発生報告書には,さらに付属書類として,加害教員作成に係る顛末書(「体罰顛末書(報告)」と題する文書)(第2‐2‐3文書,別紙9の文書)が添付されている。
(オ) 第2‐2文書の記載内容
a 第2‐2‐1文書
上記文書は,「教職員の体罰に係る報告について(進達)」と題する送付文書である(その形状,体裁や内容は,マジックで消してあるほか,別紙18記載のとおりである。)。
同文書には,別紙7のとおり,体罰発生報告書の送付年月日,作成者,あて先,加害教員の勤務小学校及び氏名等が記載されている。
b 第2‐2‐2文書
上記文書は,「体罰の発生について(報告)」と題する文書である(その形状,体裁や内容は,マジックで消してあるほか,別紙19記載のとおりである。)。
このうち,送付文書部分の記載は,第2‐1‐1文書と同じであり,また,報告文書部分には,別紙8の項目欄のとおりであり,これも第2‐1‐1文書とほぼ同様である。
c 第2‐2‐3文書
上記文書は,加害教員作成の顛末書である。
同顛末書には,年月日,所属学校,作成者氏名及びあて先を記載した部分と本文とがある。
このうち,本文の具体的内容は,別紙9の「非公開部分の概要」欄記載のとおりである。
(カ) 第2‐3文書の構成
第2‐3文書は,高砂市立中学校における体罰発生報告書(「体罰の発生について(報告)」と題する文書及び「体罰の発生について」と題する文書)(第2‐3‐2文書<別紙11・21の文書>,第2‐3‐3文書<別紙12・22の文書>)と送付文書(東播磨教育事務所長が上記体罰発生報告書を兵庫県教育長に送付した送付書であり,「人事に関する調査結果等について」と題する文書)(第2‐3‐1文書,別紙10・20の文書)で構成されているが,上記体罰発生報告書には,さらに付属書類として,加害教員作成に係る顛末書(第2‐3‐4文書,別紙13の文書)が添付されている。
(キ) 第2‐3文書の記載内容
a 第2‐3‐1文書
上記文書は,「人事に関する調査結果等について」と題する送付文書である(その形状,体裁や内容は,マジックで消してあるほか,別紙20記載のとおりである。)。
同文書には,別紙10のとおり,体罰発生報告書の送付年月日,作成者,あて先,加害教員の勤務中学校及び氏名等が記載されている。
b 第2‐3‐2文書
上記文書は,「体罰の発生について(報告)」と題する文書である(その形状,体裁や内容は,マジックで消してあるほか,別紙21記載のとおりである。)。
このうち,送付文書部分の記載内容は,第2‐1‐1文書と同様であり,また,報告文書部分には,別紙11の項目欄のとおりであり,これも第2‐1‐1文書とほぼ同様である。
c 第2‐3‐3文書
上記文書は,「体罰の発生について(報告)」と題する文書である(その形状,体裁や内容は,マジックで消してあるほか,別紙22記載のとおりである。)。
このうち,送付文書部分の記載は,第2‐1‐1文書と同様であり,また,報告文書部分の記載は,別紙12の項目欄のとおりであり,これも第2‐1‐1文書とほぼ同様である。
d 第2‐3‐4文書
上記文書は,加害教員作成の顛末書である。
同顛末書には,年月日,所属学校,作成者氏名及びあて先を記載した部分と本文とがある。
このうち,本文の具体的内容は,別紙13の「非公開部分の概要」欄記載のとおりである。なお,この中には,合同合宿に参加した生徒の氏名が記載されている。
(ク) 非公開部分
a 第2‐1文書には,別紙3ないし6の各「非公開部分」欄記載のとおり,本件非公開決定により非公開とされた部分がある。第2‐1‐2文書ないし第2‐1‐6文書は全部非公開となっている。
b 第2‐2文書には,別紙7ないし9の各「非公開部分」欄記載のとおり,本件非公開決定により非公開とされた部分がある。第2‐2‐3文書は全部非公開となっている。
c 第2‐3文書には,別紙10ないし13の各「非公開部分」欄記載のとおり,本件非公開決定により非公開とされた部分がある。第2‐3‐4文書は全部非公開となっている。
エ 第3文書の作成経緯,記載内容及び非公開部分
第3文書の作成経緯,記載内容及び非公開部分は,次のとおりである(乙5の1・2)。
(ア) 作成経緯
東播磨教育事務所長が,兵庫県教育長あてに作成した文書で,加害教員及びその上司である学校長に対し,懲戒処分通知書を交付した旨の報告書(「懲戒処分通知書交付報告書」と題する文書であり,加害教員に対するものが第3‐1文書<別紙14・23の文書>,学校長に対するものが第3‐2文書<別紙15・24の文書>である。)である。
(イ) 記載内容
第3文書には,作成年月日,作成者,あて先,懲戒処分通知書の交付年月日,交付場所,立会人,交付状況に関する事項などが記載されていて,その記載項目や記載内容の概要は,別紙14及び15記載のとおりである。
なお,第3文書には,懲戒処分を受けた加害教員及び学校長の氏名,所属学校が記載されている。
(ウ) 非公開部分
第3文書には,別紙14,15の各「非公開部分」欄記載のとおり,本件非公開決定により非公開とされた部分がある。
(4) 異議申立て等
ア 変更決定
控訴人は,被控訴人に対し,平成15年2月3日,本件非公開決定に不適切な部分があったとして,本件非公開決定のうち,次の(ア)の部分を非公開とした部分を公開し,次の(イ)ないし(エ)の部分を公開した部分を非公開とする旨の変更決定をした(甲4)。
(ア) 第2‐1‐1文書の「発生日時及び場所」欄の被害生徒①に対する体罰の発生日時の記載
(イ) 第2‐1‐1文書の「状況」欄の「(体罰発覚の経緯)」部分の1行目に記載された新聞社名
(ウ) 第2‐3‐2文書の「原因と状況」欄の3段落目の「同じように」に続くボールを当てた箇所
(エ) 第2‐3‐2文書の「原因と状況」欄の4段落目の「乙に聞くと」に続く痛い箇所(乙4の2の2頁)
イ 異議申立て
(ア) 被控訴人は,本件非公開決定のうち,本件各文書の別紙2ないし15の各「非公開部分」欄を非公開としたことを不服として,平成14年9月4日,控訴人に対し,異議申立てをした(なお,上記アのとおり,本件非公開決定は,異議申立て後にその一部が変更されている。)。
(イ) 控訴人は,被控訴人に対し,平成15年11月6日,本件非公開決定のうち,上記変更決定により非公開とする旨変更された新聞社名が記載されている部分(上記ア(イ))を取り消し,同部分を公開することとし,その余の部分に係る異議申立てを棄却する旨の異議決定をした(甲6)。
ウ 本件訴えの提起
被控訴人は,控訴人を被告として,原審に対し,平成16年1月26日,本件非公開決定のうち別紙2ないし15の各「非公開部分」欄の赤色斜線部分の取消しを求める本件訴訟を提起した。
(5) 本件条例
本件条例には,公文書の公開義務及び部分公開について,前記1(1)アのとおりの規定がある。
3 争点及び当事者双方の主張
(1) 本件各文書に記録されている別紙2ないし15の各「非公開部分」欄の赤色斜線部分に係る情報(ただし,適条欄に「6‐1‐前」と記載された情報)は,前段の非公開事由に該当するか否か。
〔控訴人〕
本件非公開決定のうち,上記部分に係る情報は,前段の非公開事由に該当する。理由は次のとおりである。
ア 第1文書について
(ア) 前段の「特定の個人を識別することができるもの」とは,公開の対象となっている当該文書中の氏名,住所その他の記述等により特定の個人を識別することができる場合だけでなく,他の情報と照合することにより特定の個人を識別することとなる場合も含むと考えるべきである(以下,他の情報と照合することにより特定個人の識別可能性を判断する手法を「モザイクアプローチ」という。)。
そして,上記「他の情報」とは,一般人が通常入手し得る関連情報を指すと考えるべきであり,一般的な新聞報道や書籍等に限定されるべきではなく,情報公開条例により入手できる情報等,入手可能な資料もこれに含まれると考えるべきである。
(イ) これを本件に即して考えると,体罰に関する情報の詳細を記録した第2文書は情報公開により入手することができ,それによって,いずれの市町村内の学校において発生した体罰事故であるかということと,加害教員の性別が判明するが,第1文書において,加害教員の担当教科及び教職経験年数を公開すれば,控訴人が保有する兵庫県内の教職員の履歴を記載した人事記録カード,学校要覧及び第2文書と第1文書とを照合することにより,加害教員の氏名等の個人識別情報が判明することとなる。
この点,人事記録カードは情報公開請求により入手することができ,学校要覧は各学校に対する交付請求や情報公開請求により入手することができる。したがって,人事記録カード及び学校要覧は,上記「他の情報」に当たると考えるべきである。
(ウ) そして,加害教員の個人識別情報が判明すれば,第1文書により,当該加害教員が,懲戒処分等を受けたことが明らかとなるが,懲戒処分等を受けたという情報は,公務遂行等に関して非違行為があったということを示すにとどまらず,公務員の立場を離れた個人としての評価をも低下させる性質を有する私事に関する情報というべきであるから,懲戒処分等を受けた情報は,前段の非公開事由に該当すると考えるべきである。
(エ) 以上のとおり,第1文書に記載された加害教員の担当教科及び教職経験年数を公開すると,どのような教員が懲戒処分等を受けたかが明らかとなるから,第1文書に記録された加害教員の担当教科及び教職経験年数に関する情報は,前段の非公開事由に該当する。
イ 第2文書について
(ア) 加害教員との関係における前段該当性
a 体罰発生報告書が作成される趣旨は,地方公務員法29条に定める懲戒処分等の監督処分を適正に行うための情報収集の方法の1つとして,具体的な体罰に関する情報を報告させることにある。したがって,体罰発生報告書の作成は,懲戒処分等をする手続の1つの段階であるといえ,その先には懲戒処分等が原則として予定されている。
b そうすると,公務員である教職員にとって,体罰発生報告書によって体罰の発生の報告がされたという情報は,体罰を理由とした懲戒処分等を受ける蓋然性のある立場に置かれたということを示す情報であるといわざるを得ない。
c そして,懲戒処分等を受ける蓋然性がある立場にあるということと,懲戒処分等を受けたことは,個人としての評価を低下させる点において大差がない。まして,本件のごとく既に懲戒処分等がされた後における公文書公開にあっては尚更である。
d また,教職員による児童生徒に対する体罰は厳に禁じられているのであるから,公務員として恥ずべき行為であり,かかる不名誉な情報は,個人としての評価を低下させる性質のある情報として,私事に関する情報という性質を持つものである。
e したがって,体罰を行ったことを調査,報告されたという情報は,公務員の私事に関する情報に当たり,前段の非公開事由に該当すると考えるべきである。
f 以上のとおり,第2文書(特に体罰発生報告書)には,加害教員の氏名等の個人識別情報及び加害教員が体罰を行ったことを調査,報告されたという情報が記録されているから,加害教員との関係において,第2文書中の別紙3ないし13の「非公開部分」欄の情報は,前段の非公開事由に該当すると考えるべきである。
(イ) 被害生徒及びその保護者との関係における前段該当性
a 第2文書には,被害生徒及びその保護者の氏名等の個人識別情報,体罰自体に関する事項,体罰後における被害生徒の保護者と学校との間で行われた面談の内容,意見の交換,謝罪状況,保護者から抗議があったことが新聞に報道されたことなどが詳細に記載されているところ,このような情報は,被害生徒及び保護者にとって,通常知られたくない情報に当たる。
b また,加害教員が特定されれば,被害生徒が容易に特定され得ることとなるから,加害教員の個人識別情報は,被害生徒の個人識別情報でもあると考えるべきである。
c したがって,第2文書中の別紙3ないし13の「非公開部分」欄の情報は,被害生徒及びその保護者との関係においても,前段の非公開事由に該当すると考えるべきである。
(ウ) 第2‐1‐1文書,第2‐2‐2文書及び第2‐3‐2文書について
体罰発生報告書のうち,「報告文部分」欄及び「関係者の住所・氏名等」欄の項目に相応する非公開情報は,特定個人識別情報であり,その他の欄の非公開情報は,個人特定情報あるいはそれにつながる情報であるか,被害生徒の学校における生活態度,被害生徒の親の言動や被害生徒の健康状態など通常他人に知られたくないと認められる情報であり,前段の非公開事由に該当することは明らかである。
ウ 第3文書について
(ア) 第3文書には,懲戒処分を受けた加害教員及び学校長の氏名が記載されているところ,上記ア(ウ)のとおり,懲戒処分を受けた情報は,公務員個人の私事に関する情報であり,通常知られたくない情報に当たる。
(イ) また,第2文書の場合と同様,加害教員及び学校長の氏名が明らかになることにより,被害生徒が容易に特定されることとなる。
(ウ) したがって,第3文書中の別紙14,15の「非公開部分」欄の情報は,前段の非公開事由に該当すると考えるべきである。
〔被控訴人〕
本件非公開決定のうち,別紙2ないし15の「非公開部分」欄の赤色斜線部分に係る情報(ただし,適条欄に「6‐1‐前」と記載された情報)は,前段の非公開事由に該当しない。理由は次のとおりである。
ア 第1文書について
(ア) 第1文書には,氏名等個人を直接識別できる情報は記録されていない上,その記述の多くが記号化されていて,匿名性は高い。
したがって,第1文書に記録されている情報は,そもそも特定の個人の個人情報とはいい得ないものというべきである。
(イ) 控訴人は,加害教員の担当教科及び教職経験年数を公開すれば,人事記録カード及び学校要覧とつき合わせることにより,加害教員を特定することができる旨主張するが,これらの資料により得られる情報は,モザイクアプローチによる場合の「他の情報」には当たらないと考えるべきである。
すなわち,特別な調査をしなければ入手し得ないような情報や,その所在が容易に思い付かないような書籍等からの情報については,一般に入手可能な情報とはいえないから,このような情報は,モザイクアプローチによる場合の「他の情報」には含まれないものと解すべきところ,あえて個人特定のために人事記録カードの情報公開請求をするような詮索的調査によって得た情報は,そもそも「他の情報」として考えるべきではない。
また,学校要覧は,毎年すべての公立学校で作ることが義務付けられているものではなく,その作成及び記載内容は各学校の裁量に任されている上,兵庫県には多数の学校が存在している。したがって,学校要覧を詮索的に収集調査することも,一般人が通常容易にし得ることではないから,学校要覧は「他の情報」として考えるべきではない。
(ウ) 以上のとおり,第1文書に記録されている教職経験及び担当教科に関する情報を公開したとしても,懲戒処分等を受けた加害教員を識別することはできないから,このような情報は前段の非公開事由に該当しない。
イ 第2文書について
(ア) 被害生徒及びその保護者の個人識別情報とは異なり,加害教員の個人識別情報や体罰を行ったことに関する情報は,前段の非公開事由には該当しないと考えるべきである。
(イ) すなわち,公務員の職務の遂行に関する情報は,公務員個人の私事に関する情報でない限り,「個人に関する情報」に当たらないと考えるべきであるところ,懲戒処分等を受けた情報は私事に関する情報に当たるとしても,公務員たる教職員が,その職務を遂行するに当たり,学校教育法上禁止されている体罰を行ったことに関する情報は,公務員の職務の遂行に関する情報そのものであり,私事に関する情報ではない。
したがって,第2文書には,体罰に関する事項が記載されているのみであり,懲戒処分等に関する事項が記載されているわけではない以上,第2文書には,加害教員の私事に関する情報は記録されていないと考えるべきである。
(ウ) また,公務員たる教職員が体罰を行った場合,それは公務員である教職員の適格性にかかわる問題として公的側面を持つというべきであり,被害生徒及びその保護者のプライバシーと加害教員のプライバシーの要保護性には,顕著な差があるというべきであるから,この意味においても,加害教員の個人識別情報及び体罰を行ったという情報は,加害教員の私事に関する情報には当たらないと考えるべきである。
(エ) この点,控訴人は,体罰の調査,報告は,後の懲戒処分等を当然に予定してされるものであるため,このような情報は,加害教員の私事に関する情報である旨主張する。
しかし,公務員の職務の遂行に係る情報の存在とそのための「調査・報告」は不即不離であり,一方を他方から切り離すことはできない。体罰を行ったこと自体に関する情報は公務員個人の私事に関する情報には当たらないが,それに関し調査,報告を受けた情報は公務員個人の私事に関する情報であるとすると,当該公務員にとっておもしろくない調査,報告に係る情報はすべて非公開とし得ることになる。体罰が懲戒の理由とされ,第2文書が加害教員の懲戒処分等の基礎資料として使用されるとしても,私事の側面を持つのは懲戒を受けた事実であって,その原因行為ではない。原因行為はあくまでも公務員の職務の遂行に係る情報である。
(オ) 以上のとおり,第2文書のうち,別紙3ないし13の「非公開部分」欄の赤色斜線部分に係る情報は,前段の非公開事由には該当しないと考えるべきである。
ウ 第3文書について
第3文書には,体罰発生報告書と同内容の情報が記録されているが,被害生徒の個人識別情報は記録されていない。したがって,第3文書に記録されている情報は,前段の非公開事由に該当しないと考えるべきである。
(2) 本件各文書に記録されている別紙4ないし6,9及び13(診断書,領収書及び顛末書)の各「非公開部分」欄の赤色斜線部分に係る情報(ただし,適条欄に「6‐1‐後」と記載された情報)は,後段の非公開事由に該当するか否か。
〔控訴人〕
ア 診断書には,傷病名のみならず,症状や今後の診療方針などが記載されていて,いわばカルテにおける結論部分が記載されている。そうすると,診断書には,病歴や身体の障害などの情報が記載されているということができる。
イ また,領収書の存否は,医師による診察の存否を示すほか,領収書の枚数は,通院ないし入院の回数を示し,また,複数の領収書についてその書式が異なっているのならば,複数の病院に通院ないし入院していたことを示すものである。
ウ さらに,顛末書には,教員の体罰を行った動機,その後の心境,誰に何回どのように謝罪したか,自己が教員の資質に欠けているのではないかと猛省している様などの内心に関する事項が記載されている。
エ 以上の点にかんがみれば,これらの文書に記録されている情報は,当該本人がその流通をコントロールすることが可能であるべきであり,たとえ加害教員及び被害生徒を識別できないとしても,これを公開することによりなお個人の権利利益を害するというべきであるから,後段の非公開事由に該当すると考えるべきである。
〔被控訴人〕
ア 上記各文書に記載されている情報は,他の公開されている部分と比べて特に個人の人格との密接な関連性があるとは到底思われるものではない。
イ したがって,上記各文書に記録されている情報は,後段の非公開事由に該当しないと考えるべきである。
(3) 部分公開の当否,すなわち,本件条例は独立した一体的な情報の一部を公開することを実施機関に義務付けているか否か,また,義務付けていないとして本件各文書における独立した一体的な情報の範囲はどの部分か。
〔控訴人〕
ア 総論
(ア) 公文書公開請求制度は,行政が保有する情報を処理・加工の上,住民に提供する機能まで付与するものではなく,公開請求時点において存在する記録をあるがままの状態で公開するものであり,公文書の作成目的を離れて,報告に値する情報か否かを判断することはできない。そして,最高裁平成8年(行ツ)第210号,第211号同13年3月27日第三小法廷判決・民集55巻2号530頁(以下「平成13年最判」という。)は,情報公開条例の部分公開に関する規定は,非公開事由に該当する独立した一体的な情報を更に細分化し,その一部を非公開とし,その余の部分を公開すべきことを実施機関に義務付けているものではない旨判示している。
本件条例制定時には,既に行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号。以下「情報公開法」という。)は公布されていて,本件条例は,情報公開法との調整をした上で,制定されたものであり,本件条例において,独立した一体的な情報を単位として情報公開を行うことを予定していたことは明らかであるから,上記最高裁判決の法理を排除する理由はない。
そして,独立した一体的な情報を細分化して公開することは,実施機関の裁量に委ねられたものと考えるべきであり,現に控訴人においては,そのような裁量的公開を実施しているものではあるが,これを義務的とすることは相当でないし,実施機関の裁量に濫用が認められる等の場合は格別,そうでない限りは,司法審査は及ばないというべきである。
(イ) したがって,平成13年最判にいう「独立した一体的な情報」が,本件条例における義務的公開の対象であると考えるべきであり,具体的には,独立した一体的な情報の範囲は,当該情報が記載された部分の物理的形状,記述の内容,作成名義,作成目的,当該文書取得原因等を総合した上,社会通念に従って判断すべきである。
(ウ) 被控訴人は,情報公開法制における非公開情報の定め方に係る個人識別型とプライバシー型とを区別し,平成13年最判の射程は,プライバシー型を採用する本件条例には及ばない旨主張するが,同最判の法理はプライバシー型に及ぶというべきである。
また,被控訴人は,本件条例の制定の際の議論から立法者意思を推測するが,立法過程で様々な意見が出されるのは当然であって,審議の過程で出た意見を参考にすることはあっても,条例の規定を超えて実施機関を拘束するものと考えるべきではない。本件条例が非公開とすることを予定しているプライバシー情報は,個人情報を含む一定のまとまりのある情報,すなわち独立した一体的な情報であることは明らかであるし,部分公開をする際に区分して除くべき非公開情報は,当該独立した一体的な情報であることは文理上明らかである。
以上のとおり,本件条例の規定,平成13年最判の趣旨にかんがみれば,本件条例において,上記最判の法理を排除する理由は見当たらない。
イ 第1文書における独立した一体的な情報の範囲について
(ア) 第1‐2文書の作成目的は,加害教員による体罰を理由として,当該加害教員又は同人を監督する立場にある者に対してされた懲戒処分等の概要を文部科学省に報告することにある。
(イ) 第1‐2文書には,平成12年度に懲戒処分等をした事案のそれぞれにつき,整理番号,処分年月日,区分,懲戒処分等の種類,被処分者の学校種,教職経験,担当教科,被害児童生徒数,被害の状況,体罰の件数,体罰時の状況などが記載され,整理番号(1ないし29)ごとの各欄の記述が,全体として1つのまとまりのある単位となっている。
(ウ) したがって,第1‐2文書は,整理番号ごとの合計29個の独立した一体的な情報から成り立っているものと考えるべきである。
ウ 第2文書における独立した一体的な情報の範囲に関する主位的主張
(ア) 送付文書と体罰発生報告書とは,その物理的形状が明らかに異なっている。
したがって,送付文書と体罰発生報告書は,それぞれが別の独立した一体的な情報を構成していると考えるべきである。
(イ) 次に,体罰発生報告書本文と付属書類の区別についてであるが,診断書には被害生徒の症状等に関する事項が,領収書には医師が医療費を受領したことに関する事項が,顛末書には体罰に関することのいきさつ及び加害教員の心情の吐露に関する事項がそれぞれ記載されているが,これらの物理的形状,作成名義,作成目的,当該文書取得原因は明らかに体罰発生報告書本文と異なるものである。
したがって,付属書類は,体罰発生報告書本文とは別であり,かつ,そのそれぞれが独立した一体的な情報を構成していると考えるべきである。
(ウ) 体罰発生報告書は,加害教員に対する地方公務員法29条による懲戒処分等の監督処分の適正を確保し,また,体罰の再発防止を検討するために作成される文書である。
そして,体罰の再発防止という観点からは,体罰が行われた経緯はもちろんのこと,1つの体罰を契機として,学校においてどのような措置を講じたのか,また,どのような措置を講じるべきであるのかということを検討することが重要となる。
そうすると,体罰発生報告書は,加害教員が体罰を行った経緯が記載されている部分や当該学校においてとった措置などが記載されている部分が,全体として,適正な監督処分及び体罰の再発防止を検討するための1つのまとまりを持った情報となっているのであり,時間・場所を異にする個々の報告を別異の報告と捉える必要性も有益性もないから,各体罰発生報告書ごとに,その全体が独立した一体的な情報を構成していると考えるべきである。
ただし,第2‐1‐1文書については,1人の加害教員が,3人の被害生徒に対して,時間,場所,原因を異にして行った3件の体罰に係る情報が記録されているから,同文書中には,3つの異なる体罰に関する独立した一体的な情報が存在していることとなる。
エ 第2‐1‐1文書,第2‐2‐2文書及び第2‐3‐2文書における独立した一体的な情報の範囲に関する予備的主張
上記ウの主張が認められない場合には,上記各文書に記録されている独立した一体的な情報の範囲について,予備的に,次のとおり主張する。
(ア) 独立した一体的な情報の範囲をより厳格な視点で考えた場合,上記各文書に記録されている情報は,① 記号番号,作成年月日,作成名義人,あて先,文書の表題の記載により構成されている部分,② 加害教員,被害生徒及びその保護者の属性(氏名,住所,負傷の程度等)に関する事項により構成されている部分,③ 体罰行為の原因,態様の内容などの体罰行為及び調査に関する事項により構成されている部分,④ 体罰行為後における学校の措置,影響に関する事項により構成されている部分に分けることができる。そして,上記③,④の情報は,②の情報と結合して,それぞれ独立した一体的な情報を構成すると考えるべきである。
(イ) したがって,仮に,各体罰発生報告書ごとに,その全体が独立した一体的な情報を構成しているとまではいえないとしても,上記①により構成される情報,②,③により構成される情報,②,④により構成される情報が,それぞれ1つのまとまりを持った独立した一体的な情報を構成すると考えるべきである。
オ 第3文書における独立した一体的な情報の範囲について
第3文書(第3‐1文書及び第3‐2文書)には,加害教員に対する懲戒処分通知書の交付年月日,交付場所,立会人,交付状況が記載されているが,同文書の物理的形状,作成名義,作成目的,当該文書取得原因からして,同文書全体が独立した一体的な情報を構成すると考えるべきである。
〔被控訴人〕
ア 総論
(ア) 平成13年最判によれば,極めて広範囲の非公開決定が是認されることとなり,情報公開制度が保障した情報公開請求権の権利性が著しく狭められることとなる。したがって,上記最判の射程範囲は限定的に考えるべきであり,本件においては,同最判の射程は及ばないと考えるべきである。
本件条例7条は,公文書の公開等に関する条例(昭和61年条例第3号。以下「旧条例」という。)9条を引き継ぎ,情報公開法6条1項を参照して新しく規定し直したものである。本件条例は,非公開情報のうち個人情報について,プライバシー型を採用していて,個人識別型を採用する情報公開法とは基本的な立場を異にしている。本件条例の制定に際しては,情報公開法6条2項のような形での部分公開は,旧条例の下で実施されてきたところであり,本件条例の解釈上当然可能であると理解されていたので,あえて同条項のような規定は必要がないものとして取り入れられなかったのである。
本件条例の立法者意思が上記のとおりであるとすると,本件条例は,部分公開を採用していると解釈すべきであって,個人識別型と比較して非公開の範囲を限定する趣旨で採用したプライバシー型による情報公開の範囲を著しく狭めるような解釈をすることは不当である。
(イ) また,仮に,本件において,平成13年最判の射程が及ぶとしても,控訴人が主張する基準では,あらゆる情報が「独立した一体的な情報」となりかねず,判断基準として不明確であり,予測可能性,安定性に欠け,実施機関の恣意を許す結果になる危険が大きい。
(ウ) さらに,控訴人は,非公開事由に該当するか否かとは別に,「独立した一体的な情報」の範囲を確定しようとしているが,平成13年最判は,あくまでも「非公開事由に該当する独立した一体的な情報」(以下「非公開独立一体情報」という。)と判示していて,非公開事由と離れて,独立した一体的な情報の範囲を確定すべきであるとは判示していない。
したがって,控訴人の上記解釈は誤りである。
(エ) 平成13年最判に従うならば,独立した一体的な情報の範囲は,非公開事由の判断と併せてするべきであり,具体的には,氏名等個人識別が可能となる部分と,一般人であれば通常知られたくないと考えられる必要最小限の部分のみが,非公開独立一体情報を構成すると考えるべきである。
(オ) これを本件に即して考えると,被害生徒にとっては,自分が体罰を受けたことが,一般人であれば通常知られたくないと考えられる必要最小限の部分である。そして,それを構成するのは,被害生徒の個人名等個人識別部分及び体罰が行われたことが分かる必要最小限の記載部分となる。
また,加害教員にとっては,体罰の行使は公務員の職務遂行行為であるから,この点に関する情報は一般人であれば通常知られたくないと考えられる必要最小限の部分とはいえず,自分が懲戒処分等を受けたことのみが必要最小限の部分に当たる。そして,それを構成するのは,加害教員の氏名等個人識別部分及び懲戒処分等が行われたことが分かる必要最小限の記載部分となる。
なお,仮に,加害教員が体罰を行ったことそれ自体が,懲戒処分等につながる蓋然性があるなどの理由で,一般人であれば通常知られたくないと考えられる必要最小限の部分としての性格を持つものとすれば,それを構成するのは,加害教員の氏名等個人識別部分及び体罰が行われたことが分かる必要最小限の記載部分である。
イ 第1文書における独立した一体的な情報の範囲について
(ア) 第1文書に加害教員の役職,氏名といった特定個人識別部分が存在するならば,その部分と懲戒処分等を受けたことに係る情報とが,体罰事案ごとに非公開一体情報となる。しかし,第1文書には加害教員を直接識別し得る部分は存在しない。
(イ) したがって,第1文書には,非公開独立一体情報は存在しないと考えるべきである。
ウ 第2文書における独立した一体的な情報の範囲について
(ア) 送付文書について
a 加害教員にとって保護されるべき情報は,懲戒処分等を受けたことであるが,送付文書自体に,加害教員が懲戒処分等を受けた情報は記録されていない。
また,送付文書には,被害生徒の個人識別情報は一切記載されていないから,被害生徒にとって保護されるべき情報は記録されていない。
b したがって,送付文書には,非公開独立一体情報は存在しないと考えるべきである。
c 仮に,加害教員が体罰を行ったこと自体が,懲戒処分等につながる蓋然性があるなどの理由で,加害教員にとって保護されるべき情報としての性格を持つ場合には,「体罰」の文字(ただし,第2‐2‐1文書のみ)と加害教員の氏名が,非公開独立一体情報を構成すると考えるべきである。
(イ) 体罰発生報告書について
a 上記(ア)のとおり,加害教員にとって保護されるべき情報は,懲戒処分等を受けたことであるが,体罰発生報告書自体に,このような情報は記録されていない。
b したがって,体罰発生報告書には,加害教員との関係においては,非公開独立一体情報は存在しないと考えるべきである。
c もっとも,被害生徒のプライバシーは保護されるべきであるから,「体罰」の文字の記載,「関係者の住所・氏名等」欄の被害生徒の住所,氏名,保護者氏名,負傷の程度の記載,「原因と状況」欄(ただし,第2‐1‐1文書においては「状況」欄)の「どのような体罰が,どのような原因でなされ,その結果どのような被害が生じたか」ということに関する必要最小限の記載については,非公開独立一体情報を構成することとなる。
d また,仮に,加害教員が体罰を行ったこと自体が,懲戒処分等につながる蓋然性があるなどの理由で,加害教員にとって保護されるべき情報としての性格を持つ場合には,上記事項に加えて,「関係者の住所・氏名等」欄の加害教員の住所,氏名の記載も,非公開独立一体情報を構成することとなる。
e これに対し,「発生日時及び場所」,「確認の方法」,「学校においてとった措置及び今後必要とする措置」,「その他参考となる事項」欄の各記載,及び「原因と状況」欄(ただし,第2‐1‐1文書においては「状況」欄)のうち,上記cの必要最小限の記載を超える部分については,加害教員にとって懲戒処分等の基礎となる体罰そのものについての情報ではなく,また,被害生徒にとって自分の受けた体罰そのものについての情報でもないから,非公開独立一体情報には当たらないと考えるべきである。
(ウ) 付属書類について
a 診断書(第2‐1‐2文書)及び領収書(第2‐1‐3?5文書)には,加害教員の個人識別情報や体罰に関する情報は記録されていないので,加害教員との関係においては,非公開独立一体情報は存在しないと考えるべきである。
また,被害生徒にとって保護されるべき情報は,体罰を受けたことであるが,診断書には,このような情報は記録されていない。
もっとも,診断書に記載された被害生徒の個人識別情報を公開することにより,被害生徒が特定されることとなるから,被害生徒の個人識別情報に限り,非公開独立一体情報を構成すると考えるべきである。
b 顛末書(第2‐1‐6文書,第2‐2‐3文書,第2‐3‐4文書)は,体罰発生報告書と同様に考えるべきであり,被害生徒の個人識別情報及び「どのような体罰が,どのような原因でなされ,その結果どのような被害が生じたか」ということに関する必要最小限の記載のみが非公開独立一体情報を構成すると考えるべきである。
また,仮に,加害教員が体罰を行ったこと自体が,加害教員にとって保護されるべき情報としての性格を持つ場合には,上記事項に加えて,加害教員の個人識別情報も,非公開独立一体情報を構成することとなる。
エ 第3文書における独立した一体的な情報の範囲について
加害教員及び学校長にとって保護されるべき情報は,懲戒処分等を受けたことであるから,第3文書においては,加害教員及び学校長の氏名並びに「懲戒処分」,「処分」の文言が,非公開独立一体情報を構成すると考えるべきである。
第3 当裁判所の判断
当裁判所は,(1) 被控訴人が公開を求める本件各文書の各記載部分のうち,第2‐1‐1文書の加害教員の身長・体重の記載,被害生徒の属性に関する記載(ただし,被害の状況等を除く。),「状況」の「乙①のバレー部員としての立場に関する部分」,第2‐1‐2?6文書の各本文,第2‐2‐2文書の加害教員の身長・体重の記載,被害生徒の属性に関する記載,「原因と状況」の「被害生徒の兄弟及びその学年」,第2‐2‐3文書の本文,第2‐3‐2文書の加害教員の身長・体重,被害生徒の属性に関する記載(ただし,被害の状況等を除く。),「原因と状況」の「乙の立場」,第2‐3‐3文書の加害教員の身長・体重,第2‐3‐4文書の本文並びに第3‐1・2文書は,前段の非公開事由に該当し,その余は該当しないと認め(争点(1)),(2) 第2‐1‐2?5文書と第2‐1‐6文書,第2‐2‐3・4文書(各顛末書)の各本文は,後段の非公開事由に該当し,各顛末書の各冒頭部分は後段の非公開事由に該当しないと認め(争点(2)),(3) 本件条例は,独立した一体的な情報であるかどうかをもって公開の範囲を区分することなく,情報の一部についても公開することを実施機関に義務付けていると解することが相当である(争点(3))から,被控訴人の控訴人に対する本件請求は,前段該当部分・後段該当部分の公開を求める部分を除き,理由があるものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 争点(1)(本件各文書に記録されている別紙2ないし15の各「非公開部分」欄の赤色斜線部分に係る情報<ただし,適条欄に「6‐1‐前」と記載された情報>は,前段の非公開事由に該当するか否か)について
(1) 事実の認定
前記前提事実,証拠(<証拠略>)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
ア(ア) 旧条例8条1号は,次のとおり規定していた。
実施機関は,次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている公文書については,公文書の公開を行わないことができる(本文)。
個人の思想,宗教,健康状態,病歴,住所,家族関係,資格,学歴,職歴,所属団体,所得,資産等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,特定の個人が識別され得るもののうち,通常他人に知られたくないと認められるもの(1号)
(イ) 旧条例の解釈・運用を担当していた部署である兵庫県文書課は,旧条例について,解釈運用の手引(甲40)を作成し,その中で,趣旨若しくは解説において,8条について,次のように説明していた。
a 本条は,公文書公開制度における原則公開の例外である適用除外事項を具体的に類型化して規定したものであって,適用除外事項に該当する情報が記録されている公文書について公開の請求があった場合は,実施機関は公開を拒むことができることを明らかにしたものである。
b 8条1号は,公文書公開制度において個人のプライバシーを最大限に保護し,個人の尊厳と自由を守るために定めたものである(個人のプライバシーは,個人の尊厳に直接かかわる権利であること,いったん侵害されると事後的に回復が困難であること等から,個人のプライバシーに関する情報が記録された公文書については,非公開としなければならない。)。
c 「特定の個人が識別され得るもの」とは,氏名,住所等により特定の個人が直接識別されるものだけでなく,その情報だけでは特定の個人が直接識別されないが他の情報と関連付けることにより間接的に特定の個人が識別され得るものを含むものである。
d 「通常他人に知られたくないと認められるもの」とは,特定の個人の主観的判断のいかんを問わず,社会通念に照らして判断すると他人に知られたくないと思うことが通常であると認められる情報をいう。
イ 兵庫県知事は,公文書公開審査会に対し,平成10年10月1日付けで旧条例の改正について諮問し,公文書公開審査会は,平成11年12月20日付けで,次のとおり答申をした(甲38)。
(ア) 条例改正の必要性
a 旧条例制定後の事情の変化
県民の公文書公開制度に対する理解と関心が着実に進み,条例制定当時年間100件に満たなかった公開請求が,ここ数年,条例制定当時にはなかった大量一括請求等もあり,平成10年度には3万7千余件にのぼるなど,件数のみならず請求人数も著しく増加している。
また,全庁OA化の進展に伴い,情報の記録媒体として,フロッピーディスク,磁気テープ等の電磁的記録が利用されるようになり,これらに記録される情報の量が飛躍的に増大している。
b 法律との調整
情報公開法は,地方公共団体の条例,判例,諸外国の法律等を踏まえて制定されたもので,目的規定に政府の説明する責務という新たな概念が規定され,対象機関や対象情報,非公開情報の整理等についても,参考にすべき点が少なくない。
また,情報公開法41条では,地方公共団体は,この法律の趣旨にのっとり,法律との整合が図られるよう条例の見直しが要請されている。
c 地方分権に伴う情報公開の一層の推進
地方分権の推進によって機関委任事務が廃止され,自治事務が増加することにより,地方公共団体の自己決定権が拡充されることとなった。したがって,地方分権に伴う行政体制の整備という観点からも,県政の公正の確保と透明性の向上を図り,県民の県政への参加を促進するため,県政に関する情報公開を一層進めることが必要である。
(イ) 旧条例改正に当たっての基本的な考え方
a 旧条例は,公開を原則としつつも,個人の尊厳の確保のため,個人のプライバシーを最大限に保護することとして,「公開原則」と「個人のプライバシー情報保護のための最大限の配慮」を制度運営の基本姿勢としてきた。今後もこの基本原則は維持する。
b 県政のより一層の公正の確保と透明性の向上を図る。
(ウ) 旧条例改正に向けての提言
a 知る権利及び説明責任
「知る権利」及び「説明責任」を規定する。
県民の「知る権利」を尊重するとともに,県民に「説明責任」を果たす旨の規定を設ける。
b 非公開情報の整備?公開・非公開の枠組み(8条本文関係)
公開・非公開の枠組みを見直すとともに,公益上の理由による裁量的公開の規定を設ける。
「実施機関は,公開請求があったときは,公開請求に係る公文書に非公開情報のいずれかが記録されている場合を除き,請求者に対し,当該公文書を公開しなければならない」旨の規定に改める。
「実施機関は,公開請求に係る公文書に非公開情報が記録されている場合であっても,公益上特に必要があると認めるときは,請求者に対し,当該公文書を公開することができる」旨の規定を設ける。
<説明>
旧条例は,非公開情報が記録されている公文書については,公開を行わないことができる旨規定している。この規定の趣旨は,非公開情報が記録されている公文書については,原則公開の例外として,公開を拒否する権限を実施機関に付与するものであるが,同時に非公開情報が記録されていない公文書については,公開しなければならないという趣旨も含まれている。しかしながら,この規定の仕方では,原則公開の趣旨が理解されにくいため,原則公開の考え方をより明確に,分かりやすくするため,実施機関は非公開情報が記録されている場合を除いて,公文書を公開する義務があることを明らかにする旨の規定に改めることが適当である。
c 個人に関する情報(8条1号関係)
旧条例のいわゆるプライバシー型を維持しながら規定の整備を行う。
ただし,特定の個人を識別できなくても,なお個人の権利利益を保護すべき場合もあるため,「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,特定の個人を識別することができるもののうち,通常他人に知られたくないと認められるもの又は特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」という旨の規定に改める。
<説明>
(a) 情報公開法は,個人に関する情報について,いわゆる個人識別型(個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるもの)を採っている。この方式では,後記(b)に記載している公領域情報等個別に規定している例外を除いた特定の個人を識別することができる情報は,すべて非公開となるが,個人に関する情報を非公開とする趣旨が個人のプライバシーの保護であることにかんがみれば,このような画一的,形式的な基準では,非公開とする範囲が拡大されすぎるおそれがあるため,原則公開の考え方からすれば,より実質的な基準である,当該情報が通常他人に知られたくないと認められるものに該当するかどうかということでもって判断する旧条例のいわゆるプライバシー型(個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるもののうち,通常他人に知られたくないと認められるもの)が適当である。
(b) 情報公開法は,個人識別型としつつ,そのただし書で,公領域情報(法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報),人の生命等を保護するため公開が必要な情報及び公務員情報をその例外として公開することとしているが,旧条例では,これらはいずれも「通常他人に知られたくないと認められるもの」に該当しないと解釈して公開することとしているため,これらを本号の例外として特に規定する必要性は認められない。
(c) 「特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」(例 個人の識別性を除去した未公表の著作物,カルテ)については,個人情報保護のため,非公開とすべき要請が強いものの,本号が適用されるためには,特定の個人を識別することができることが前提であることから,旧条例の解釈で非公開とするためには,情報の性質によって個人の識別性の程度に差を設けることが必要となる。しかしながら,そのような取扱いは不明確であるため,特定の個人を識別することはできない場合であっても,情報の内容によって非公開にできる余地を残した規定に改めることが適当である。
ウ 公文書審査委員会の会議の資料とされた「非公開情報の項目比較」と題する書面には,旧条例と情報公開法案とを比較して,個人情報については,「一般に県のプライバシー型の方が公開範囲が広い」とする記載がある。
エ 兵庫県議会は,本件条例案を審議の上議決し,本件条例は,平成12年3月28日,公布された。
本件条例の6条の規定は次のとおりである。
(本文)実施機関は,公開請求があったときは,当該公開請求に係る公文書に次の各号のいずれかに該当する情報(以下「非公開情報」という。)が記録されている場合を除き,請求者に対し,当該公文書を公開しなければならない。
(1号)個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,特定の個人を識別することができるもののうち,通常他人に知られたくないと認められるもの又は特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの
オ 本件条例の解釈・運用を担当する部署である兵庫県企画管理部管理局文書課県民情報室は,本件条例について,情報公開事務の手引(甲37)を作成し,その中で,本件条例の解釈運用基準として,次のように示している。
(ア) 前文
県が保有する情報の公開は,県民の県政への参加を促進し,公正で透明な県民に開かれた県政を実現するために不可欠なものであり,本県ではこれまでから,その積極的な推進に努めてきたところである。
いま,本格的な地方分権と公民協働の時代を迎え,情報公開の重要性はますます高まってきており,成熟社会にふさわしい兵庫の新時代を創造していくためにも,これを一層充実していかなければならない。
このような認識に基づき,公文書の公開を請求する権利を明らかにするとともに,県民の「知る権利」を尊重し,県の諸活動を県民に説明する責務を果たすため,情報公開制度の一層の整備を進め,もって地方自治の本旨に即した県政の推進と県民生活の向上に寄与することを目的として,この条例を制定する。
<解説>
「知る権利」とは,情報公開制度との関係では,行政が保有する情報の公開を求める権利をいい,本県では,原則公開を旨とする運用を支える考え方として,旧条例制定以来,一貫して用いられてきた指導理念である。
(イ) 2条1項
実施機関は,公文書の公開を請求する権利が十分に保障されるようにこの条例を解釈し,及び運用するものとする。
<解説>
本項は,この条例の解釈運用に当たっての基本的な指針として,公文書の公開を請求する権利を十分に保障するように努めなければならないと定めたものである。
具体的には,6条各号に規定する非公開情報に該当するかどうかを判断するに当たっては,原則公開を基本として行うものであることなどに留意することが挙げられる。
(ウ) 6条本文
<趣旨>
本条は,公開請求に係る公文書に非公開情報が記録されている場合を除き,当該公文書を公開しなければならない(原則公開)という,公文書公開制度における基本的な考え方を定めたものである。
<解説>
a 「当該公文書を公開しなければならない」とは,実施機関には,原則として公開請求に係る公文書を公開する義務があるという趣旨である。
b 公開請求に係る公文書の一部に非公開情報が記録されている場合は,7条に規定する部分公開の扱いに留意しなければならない。
(エ) 6条1号
<趣旨>
本号は,公文書公開制度において個人のいわゆるプライバシーを最大限に保護し,個人の尊厳と自由を守るために定めたものである。
<解説>
a 本号は,個人のプライバシーは,個人の尊厳に直接かかわる権利であること,いったん侵害されると事後的に回復が不可能であること等から,個人のプライバシーに関する情報が記録されている公文書については,非公開とする趣旨である。
なお,「個人に関する情報」,「特定の個人を識別することができるもの」及び「通常他人に知られたくないと認められるもの」の意味については,旧条例の解釈・運用に関する解釈運用の手引(甲40)と同旨の解説をしており,公務員の職務の遂行に関する情報は「通常他人に知られたくないと認められるもの」には含まれないとしている。
b 「特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」とは,カルテ,反省文等個人の人格と密接にかかわる情報や未公表の著作物等個人の識別性のある部分を除いて公開しても,なお個人の正当な権利利益を害するおそれがある情報をいう。
本件条例は,これまで,おおむねこの手引の解釈運用基準に則って,運用されてきた。
カ 控訴人は,懲戒処分等の公表基準について,次のとおり定め(甲18),公表している(甲19)。
(ア) 処分時に公表の対象とする懲戒処分等
懲戒免職,職務執行に関連する事案(ただし,軽微なものは除く。),私的な行為に係る事案のうち,社会的影響が大きいなど重大な事案
(イ) 公表する項目
氏名,学校名,職名,年齢,性別,処分程度,処分理由
(ウ) 施行
この基準は,平成14年度の懲戒処分等から適用する。
(2) 前段の規定の趣旨等
ア 控訴人は,本件各文書に記録されている別紙2ないし15の各「非公開部分」欄の赤色斜線部分に係る情報(ただし,適条欄に「6‐1‐前」と記載された情報)は,前段の非公開事由に該当する旨主張する。
イ そこで,まず,前段の規定の趣旨等について検討すると,本件においては,前記(1)で認定したとおり,① 兵庫県においては,旧条例について,公文書の原則公開の趣旨を明らかにした上で,個人のプライバシーを保護するため,前段と同様の例外規定を設けていたこと,この規定の解釈運用に当たっては,実施機関の裁量を認めたものではない旨が解釈運用の手引上明示されていたこと,② 兵庫県知事の諮問を受けた公文書公開審査会は,平成11年12月20日付けの答申の中で,県民の公文書公開に対する関心の高まりや,地方分権の推進等にも触れ,旧条例の公開を原則とし,個人のプライバシーを保護する旨の基本姿勢を維持しつつ,県民の「知る権利」及び県民に対する「説明責任」を明示する規定を設け,公開・非公開の枠組みについては,非公開情報が記録されていない公文書については公開しなければならないという趣旨を明らかにする規定改正をし,情報公開法におけるいわゆる個人識別型では非公開とする範囲が拡大されるおそれがあるとして,従前からのいわゆるプライバシー型を採用し,特定の個人を識別できなくてもなお個人の権利利益を保護すべき場合もあるとして,後段の規定を加えるなどして,県政に関する情報公開を一層進めることが必要である旨提言・意見等を述べていること,③ 本件条例の運用を担当する部署である兵庫県企画管理部管理局文書課県民情報室は,本件条例について,「情報公開事務の手引」を作成し,その中で,(a) 2条1項について,同項は,この条例の解釈運用に当たっての基本的な指針として,公文書の公開を請求する権利を十分に保障するように努めなければならないと定めたものであり,本件条例6条各号に規定する非公開情報に該当するかどうかを判断するに当たっては,原則公開を基本として行うものであることに留意を求めていること,(b) 本件条例6条について,同条は,公開請求に係る公文書に非公開情報が記録されている場合を除き,当該公文書を公開しなければならない(原則公開)という,公文書公開制度における基本的な考え方を定めたものである旨その趣旨を説明していること,(c) 前段について,「個人に関する情報」,「特定の個人を識別することができるもの」,「通常他人に知られたくないと認められるもの」の意味について具体的な解釈基準を示しながら,公務員の職務の遂行に関する情報は,「通常他人に知られたくないと認められるもの」に当たらず,これらの情報が記録されている公文書については,公開しなければならないものと考えられる旨説明していること,④ 本件条例は,これまで,おおむね上記手引の解釈運用基準に則って,運用されてきたこと,などを認めることができる。
ウ そして,これらの事実関係を前提とすると,前段の要件のうち,① 「個人に関する情報」とは,個人の氏名,住所,思想,信条,健康状態,学歴,職業,所属など個人の属性を示すすべての情報をいうと解することが相当であり,② 「特定の個人を識別することができるもの」とは,氏名,住所等により特定の個人を直接識別することができる場合だけでなく,その情報だけでは特定の個人を識別することはできないが,他の情報と比較的容易に関連付けることができ,そのことにより,間接的に特定の個人を識別することができる場合を含む趣旨ではあるが,本件条例の趣旨等にかんがみると,いわゆるモザイクアプローチを採用するとしても,これによって特定の個人を識別することが,通常の手段方法によって取得できる他の情報によって,相当程度の蓋然性をもってできる場合のみをいい,特別な手段方法をもって取得できる他の情報と関連付ければ,特定の個人を識別することができる可能性があるというにすぎない場合を除くものと解することが相当であり,③ 「通常他人に知られたくないと認められるもの」とは,社会通念に照らして判断すると,他人に知られたくないと思うことが通常であると認められる情報をいい,公務員の職務の遂行に関する情報は,これに当たらないと解することが相当である,ということができる。
エ この基準に従って,前段と体罰に係る情報の関係について検討すると,① 同情報のうち,被害生徒及びその保護者にとって,被害生徒が加害教員から体罰を受けたという部分や体罰の前後にされた加害教員その他の教職員と被害生徒及びその保護者とのやりとりに関する部分は,被害生徒が不適切な行為等をし,これに対し加害教員が体罰を加えたような場合を想定すれば,被害生徒にとっても,そのような経緯は知られたくない情報であると考えられ,社会通念上他人に知られたくないと思うことが通常であると認められる情報であるといえるから,被害生徒及びその保護者を識別することができる限り,このような情報は前段の非公開事由に該当すると解することが相当であるが,② 加害教員が被害生徒に対し体罰を行ったという情報は,教育現場における教育指導等の過程で発生するものであって,加害教員との関係でみると,まさに公務員である教職員の職務の遂行に関する情報であるといわざるを得ず,したがって,このような情報は前段の非公開事由に該当しないと解することが相当であり,③ また,体罰が加えられる前の加害教員と被害生徒等とのやり取りに関する部分や,体罰が加えられた後の加害教員その他の教職員と被害生徒及びその保護者等とのやり取りに関する部分についても,加害教員その他の教職員との関係でみると,同様に公務員である教職員の職務遂行に関する情報であるといわざるを得ず,このような情報は前段の非公開事由に該当しないと解することが相当である,ということができる。
他方,前段と懲戒処分等に係る情報の関係について検討すると,加害教員その他の教職員の職務の遂行に関する情報は,公務員個人の私事に関する情報が含まれる場合を除き,前段の非公開事由に該当しないと解すべきところ,加害教員その他の教職員が懲戒処分等を受けたことは,公務遂行等に関して非違行為があったということを示すにとどまらず,公務員の立場を離れた個人としての評価をも低下させる性質を有する情報というべきであるから,私事に関する情報の面を含むものということができ,そうすると,このような情報は前段の非公開事由に該当すると解することが相当である。
オ これに対し,控訴人は,公務員である教員にとって,体罰発生報告書によって体罰の発生の報告がされたという情報は,体罰を理由とした懲戒処分等を受ける蓋然性のある立場に置かれたということを示す情報であるといわざるを得ず,懲戒処分等を受ける蓋然性がある立場にあるということと,懲戒処分等を受けたことは,個人としての評価を低下させる点において大差がなく,体罰を行ったことを調査,報告されたという情報は,公務員の私事に関する情報に当たり,前段の非公開事由に該当する旨主張する。
しかしながら,公務員の職務の遂行に関する情報は,前段の要件のうち,「通常他人に知られたくないと認められるもの」には当たらないと解すべきであり,そのことは,本件条例がその前文で示している,情報の公開が県民の県政への参加を促進し,公正で透明な県民に開かれた県政を実現するために不可欠なものであり,県民の「知る権利」を尊重し,「説明責務」を果たすとの基本理念に沿ったものであるというべきである。
そして,県の諸活動に関する情報の大部分は,兵庫県の公務員の職務の遂行に関する情報である現状を前提とすると,本件条例が,兵庫県の公務員の職務の遂行に関する情報が記録された公文書について,公務員個人の社会的活動としての側面があることを理由に,これを非公開とすることができるものとしているとは到底解することができない。また,県の諸活動を県民に説明する責務は,単に適切に行われた公務員の職務の遂行に関する情報についてのみ向けられているのではなく,非違行為など違法・不当と評価され得るような公務員の職務の遂行に関する情報についても向けられていると解すべきであって,控訴人の主張するように懲戒処分等を受ける蓋然性のある立場に置かれたということを示す情報であるから公務員の私事に関する情報であるという理由によって,体罰発生報告書によって体罰の発生の報告がされたという情報が前段の非公開情報であるとすることは,本件条例の趣旨・目的に明らかに反するといわざるを得ない(本件条例の趣旨・目的と同様の条例を制定し公文書公開の運用をしている川西市教育委員会は,同市公文書公開審査会から,「公務員たる教師がその職務を遂行するに当たり,学校教育法上禁止されている体罰を行った場合,それは公務員たる教師としての適格性に係わる問題として公的な側面を持ち,そのような違法行為がされた具体的事情は市民の正当な関心事であると考えられ,その再発防止のために具体的事実を公表することは,一般に公教育に対する市民の信頼を高めることにつながる」として,加害教師の氏名を公開すべきであるとの答申を受け,加害教師の氏名を原則公開とする方針を決定し<甲21>,また,東京都品川区教育委員会も同様の方針を採用している<甲24?30>。)。
そうすると,控訴人の上記主張は採用することはできない。
(3) 本件各文書の前段該当性
ア 第1‐2文書(懲戒処分等一覧)について
第1‐2文書の記載内容等は,前提事実(3)イに示したとおりであるところ,同文書には,加害教員の氏名等や被害生徒の氏名等の個人を直接識別できる情報は記載されておらず,被控訴人が本件訴訟で公開を求める整理番号1?29の各教職経験欄と整理番号21及び23の各担当教科欄を公開することによって,特定の個人を識別することができると評価することはできず,したがって,前段の要件のうち,「特定の個人を識別することができるもの」との要件に該当すると認めることはできない。
控訴人は,体罰に関する情報の詳細を記録した第2文書は情報公開によって入手することができ,その結果,いずれの市町村内の学校において発生した体罰事故であるかということと加害教員の性別が判明することになるが,第1文書において,加害教員の担当教科及び教職経験年数を公開すると,控訴人が保有する兵庫県内の教職員の履歴を記載した人事記録カード,学校要覧及び第2文書と第1文書とを照合することによって,加害教員の氏名等の個人識別情報が判明することとなるので,本件第1‐2文書の上記部分は,「特定の個人を識別することができるもの」との要件に該当する旨主張する。
しかしながら,「特定の個人を識別することができるもの」とは,前記のとおり,その情報だけでは特定の個人を識別することはできないが,他の情報と比較的容易に関連付けることができ,そのことによって,間接的に特定の個人を識別することができる場合を含む趣旨ではあるが,本件条例の趣旨等にかんがみると,いわゆるモザイクアプローチを採用するとしても,本件条例が前提とするのは一般人が通常入手し得る関連情報と照合することによる方法であり,同方法によって特定の個人を識別することが相当程度の蓋然性をもってできる場合のみをいい,単に特定の個人を識別することができる可能性がある場合を除くものと解することが相当であって,控訴人の上記主張するような方法をもって,特定の個人を識別することができる可能性はあるとはいえても,このような探索的かつ迂遠な方法によって特定の個人を識別する可能性があることをもって,相当程度の蓋然性があるとは言い難い。なお,本件条例3条は,請求権者に対し,適正な公開請求に努めること及び公文書の公開によって得た情報を適正に使用しなければならないことという責務を課しており,このことをも考慮すれば,控訴人の主張するような探索的かつ迂遠な方法による特定可能性までを考慮することは,本件条例の趣旨・目的と相容れないものというべきである。
そうすると,控訴人の上記主張は,採用することができず,他に第1‐2文書の上記部分が「特定の個人を識別することができるもの」との要件に該当すると認めるに足りる立証はない。
イ 第2‐1‐1文書(体罰発生報告書)について
(ア) 送付文書部分について
上記部分には,特定の兵庫県立高等学校の学校長が,控訴人に対し,体罰が発生したことを報告する旨の情報が記録されているところ,このような情報は,当該学校長の職務の遂行に関する情報であると解すべきであって,前段の要件のうち,「通常他人に知られたくないと認められるもの」との要件に該当しない。
控訴人は,学校名が公開されると被害生徒が識別されるので,被害生徒との関係で,上記部分は上記要件に該当する旨主張する。
しかしながら,学校名を公開したからといって,バレーボール部に所属する1年生及び2年生という以上に特定の被害生徒を識別することができるとは認められないから,控訴人の上記主張は採用することはできない。
また,控訴人は,加害教員との関係で,上記部分は上記要件に該当する旨主張するが,加害教員が被害生徒に対し体罰を行ったという情報が前段の非公開事由に該当しないことは先に説示したとおりである。
以上のとおりであって,第2‐1‐1文書の送付文書部分には,前段の非公開事由に該当する情報が記録されていると認めることはできない。
(イ) 「関係者の住所・氏名等」欄に記録された加害教員の属性に関する情報について
加害教員との関係で体罰情報が前段の非公開事由に該当しないと解しても,加害教員の特定としては,通常,氏名,性別,年齢,校務分掌等のみをもって足りるというべきであって,身長・体重は公務員である教職員の職務の遂行に関する情報とは認めることはできないので,同情報は前段の非公開情報に該当するというべきである。
これに対し,控訴人は,加害教員が特定されると,被害生徒が容易に特定され得ることとなるから,加害教員の個人識別情報は,被害生徒の個人識別情報でもある旨主張する。
しかしながら,学校名を公開した場合と同様,加害教員の氏名等が公開されたとして,特定の被害生徒を識別することができると認めることはできないから,控訴人の上記主張は採用することができない。
以上のとおりであって,第2‐1‐1文書の「関係者の住所・氏名等」欄に記録された加害教員の属性に関する情報については,加害教員の身長・体重を除き,前段の非公開事由に該当する情報が記録されていると認めることはできない。
(ウ) 「関係者の住所・氏名等」欄に記録された被害生徒の属性に関する情報について
被控訴人が求める公開部分は,被害生徒の年齢,身長・体重及び負傷の程度等であるが,上記情報のうち,負傷の程度以外は,学校名,加害教員名が開示されたことを前提とすれば,特定の被害生徒を識別することができる情報というべきであって,前段の非公開事由に該当する。しかし,負傷の程度については,それ自体で被害生徒を識別できる情報とはいいがたいから,前段該当性を認めることはできない。
(エ) 「発生日時及び場所」欄に記録された情報について
体罰発生の日時・場所を公開することによって,被害生徒との関係で,特定の被害生徒を識別することができると認めることはできない。被害生徒①に関する部分は,場所として「組」が記録されているが,このことをもってして,特定の被害生徒を識別することができるとはなお認められないから,同部分も同様である。
(オ) 「状況」欄に記録された情報について
同部分に記録された情報の具体的な内容は,別紙3の「3 状況」欄のとおりであり,同部分には,体罰が加えられる前の加害教員と被害生徒等とのやり取りに関する部分や体罰が加えられた後の加害教員その他の教職員と被害生徒及びその保護者等とのやり取りに関する部分などが記載されていると認められるところ,これらのやり取り等は,加害教員その他の教職員との関係でみると,公務員である教職員の職務遂行に関する情報であるといわざるを得ず,このような情報は前段の非公開事由に該当しないと解することが相当であることは前記説示したとおりであり,また,被害生徒及びその保護者等との関係でみると,同部分においては,加害教員が「甲」,被害生徒が「乙」と表示されているので,同部分を公開するとして,次の部分を除き,特定の被害生徒及びその保護者を識別することができるとは認められないから,前段の非公開事由に該当するということはできない。
なお,同欄のうち,「乙①のバレー部員としての立場に関する部分」は当該被害生徒のバレー部員としての立場が公開されると,学校名の公開と併せて,特定の被害生徒を識別することができるといえるから,同部分のみは前段の非公開事由に該当すると解することが相当である。
これに対し,控訴人は,同欄には,体罰後における被害生徒の保護者と学校との間で行われた面談の内容,意見の交換,謝罪状況などが詳細に記載されているところ,このような情報は,被害生徒及び保護者にとって,通常知られたくない情報に当たる旨主張し,さらに,これらの情報は,個人の特定につながる情報や学校名の特定につながる情報であるとか,被害生徒の学校における生活態度や被害生徒の保護者の言動に関する情報であるとか指摘する。
しかしながら,前段の非公開事由といえるためには,「通常他人に知られたくないと認められるもの」との要件を満たすだけでは足りず,その前提として,「特定の個人を識別することができるもの」との要件を満たすことが求められているのであって,単に個人の特定につながる情報であるなどと指摘するのみで(なお,控訴人の主張するような人事記録カードや学校便覧を情報公開などによって入手する方法によって,特定の個人を識別することができる可能性はあるとはいえても,このような探索的かつ迂遠な方法による特定の個人の特定の可能性を考慮することは,本件条例の趣旨・目的と相容れないものというべきであることは先に説示したとおりである。),上記部分について後者の要件に係る事実の立証がない本件においては,非公開事由に当たる旨をいう控訴人の上記主張は理由がない。
また,控訴人は,加害教員の個人識別情報は,被害生徒の個人識別情報でもある旨主張するが,これが採用できないことは先に説示したとおりである。
以上のとおりであって,第2‐1‐1文書の「3 状況」欄に記録されたやり取り等は,上記「乙①のバレー部員としての立場に関する部分」を除き,前段の非公開事由に該当する情報が記録されていると認めることはできない。
(カ) 「学校においてとった措置及び今後必要とする措置」欄に記録された情報について
同部分に記録された情報の具体的な内容は,別紙3の「5 学校においてとった措置及び今後必要とする措置」欄のとおりであり,また,同部分においては,加害教員が「甲」,被害生徒が「乙」と表示されているため,同部分には,加害教員及び被害生徒を直接識別し得る情報は記録されていないことは,前提事実記載のとおりである。
同欄には,謝罪の際保護者が述べた言葉などが記載されているが,職務遂行に関する情報であり,前段の非公開事由に該当しないことは既述のとおりであり,また,被害生徒及びその保護者等との関係でみても,上記記載方法からして,特定の被害生徒及びその保護者を識別することができるとは認められないから前段の非公開事由に該当するということはできない。
以上のとおりであって,第2‐1‐1文書の「5 学校においてとった措置及び今後必要とする措置」欄に記録された内容は,前段の非公開事由に該当する情報が記録されていると認めることはできない。
ウ 第2‐1‐2文書(診断書)について
上記文書には,被害生徒の氏名,住所,生年月日,傷病名,診断結果,作成日付,医師名が記録されているところ,被控訴人が開示を求めているのは「傷病名,診断結果,作成日付,医師名」のみであって,このような情報は,特定の被害生徒を識別することができる情報であるとはいいがたいから,前段の非公開事由には該当しない(後段該当性は後に判断する。)。
エ 第2‐1‐3?5文書(領収書)について
上記文書には,患者番号,被害生徒である患者の氏名,住所,生年月日,窓口請求額,医師名が記録されているところ,被控訴人が開示を求めているのは「窓口請求額,医師名」のみであって,これも特定の被害生徒を識別することができる情報とはいえず,前段の非公開事由には該当しない(後段該当性については後に判断する。)。
オ 第2‐1‐6文書(顛末書)について
上記文書には,年月日,所属学校,作成者氏名及びあて先を記載した部分と本文とがあるところ,本文には,加害教員が体罰を行うに至った経緯,被害生徒の負傷内容,体罰後の加害教員の言動,加害教員の体罰後の反省状況,心情,決意などが記載されているが,これら部分のほぼすべてにわたって,被害生徒については仮名等ではなく実名で記載されていることが推認できるし,また,加害教員の反省状況,心情や決意などは加害教員の人格と密接に結びついたものであって公務員である教職員の職務遂行に関する情報であるということは困難であり,特定の個人の主観的判断のいかんを問わず,社会通念に照らして判断すると,他人に知られたくないと思うことが通常であると認められる情報であるといえる。
そうすると,このような情報は,特定の被害生徒を識別することができる情報であるといえ,また,通常他人に知られたくないと認められる情報であるといえるから,前段の非公開事由に該当する。
以上のとおりであって,第2‐1‐6文書のうち,年月日,所属学校,作成者氏名及びあて先を記載した部分は前段の非公開事由に該当する情報が記録されていると認めることはできないが,本文は同号前段の非公開情報に該当する情報が記録されていると認めることができる。
カ 第2‐2‐1文書(体罰の進達書)について
上記文書には,阪神南教育事務所長が,兵庫県教育長に対し,兵庫県尼崎市教育委員会から加害教員の所属校及び氏名を特定したうえで,体罰が発生したことを報告する旨の情報が記録されているところ,このような情報は,第2‐1‐1文書の送付文書部分と同様,当該教育事務所長の職務の遂行に関する情報であると解すべきであって,前段該当性は認められない。
以上のとおりであって,第2‐2‐1文書には,前段の非公開事由に該当する情報が記録されていると認めることはできない。
キ 第2‐2‐2文書(体罰発生報告書)について
(ア) 冒頭部分について
上記部分には,特定の尼崎市立小学校の学校長が,控訴人に対し,体罰が発生したことを報告する旨の情報が記録されているが,このような情報が前段該当性を有しないことは先に説示したとおりである。
控訴人は,学校名が公開されると被害生徒が識別されるなどと主張するが,学校名を公開したからといって,6年生の女子児童という以上に特定の被害生徒を識別することができるとは認められないから,同主張は採用することはできない。
また,控訴人は,加害教員との関係で,上記部分は上記要件に該当する旨主張するが,教職員の職務の遂行に関する情報であって,採用しがたいことは既述のとおりである。
(イ) 「関係者の住所・氏名等」欄に記録された加害教員の属性に関する情報について
上記部分の情報については,第2‐1‐1文書の「関係者の住所・氏名等」欄について述べたのと同様であり,加害教員の身長・体重は前段に該当する情報と認められるが,それ以外の部分については,前段の非公開事由に該当する情報が記録されていると認めることはできない。
(ウ) 「関係者の住所・氏名等」欄に記録された被害生徒の属性に関する情報について
被控訴人が求める公開部分は被害生徒の身長・体重のみであるが,上記情報は,学校名及び加害教員の情報が開示されていることを前提とすれば,特定の被害生徒を識別することができる蓋然性の高い情報であって,前段の非公開事由に該当する。
(エ) 「発生日時及び場所」欄に記録された情報について
体罰発生の日時・場所を公開することによって,被害生徒との関係で,特定の被害生徒を識別することができると認めることはできない。
(オ) 「原因と状況」欄に記録された情報について
同部分に記録された情報の具体的な内容は,別紙8の「3 原因と状況」欄のとおりであり,また,同部分においては,加害教員が「甲」,被害生徒が「乙」と表示されているため,同部分には,加害教員及び被害生徒を直接識別し得る情報は記録されていない。
そして,同部分の情報については,「被害生徒の兄弟及びその学年」を記載した部分(なお,「掃除時間の事柄に関する生徒の名前」を記載した部分は,被控訴人において公開を求めていない。)は,当該部分が公開されると,学校名の公開と併せて,特定の被害生徒を識別することができるといえるから,同部分のみは前段の非公開事由に該当すると解することが相当であるが,それ以外の部分については,第2‐1‐1文書の「状況」欄の情報について述べたとおりであり,いずれも前段の非公開事由に該当しないと解することが相当であり,この点に関する控訴人の主張についても,前述同様に採用しがたい。
(カ) 「確認の方法」欄に記録された情報について
同部分に記録された情報の具体的な内容は,別紙8の「5 確認の方法」欄のとおりであり,同部分には,叩かれた後の部位の状態が記載されているが,このような情報がどのような理由で前段の非公開事由に該当するのかについて控訴人は的確な主張立証をしないから,同情報をもって前段の非公開事由に該当するということはできないし,他に同部分には,加害教員及び被害生徒を直接識別し得る前段該当の情報は記録されていない。
(キ) 「その他参考となる事項」欄に記録された情報について
同部分に記録された情報の具体的な内容は,別紙8の「8 その他参考となる事項」欄のとおりであり,被害生徒の保護者とのやり取り等が記載されているが,被害生徒は「乙」と表示されているのみで,特定の被害生徒及びその保護者を識別することができるとは認められないし,ほかに加害教員及び被害生徒を直接識別し得る前段該当の情報は記録されていない。
ク 第2‐2‐3文書(顛末書)について
上記文書の記載内容は先に示したとおりであり,第2‐1‐6文書とほぼ同様(上記文書には見取図が添附されている。)であるところ,同文書と同様に本文(見取図についても生徒の実名を用いていると推認できる。)の情報については,特定の被害生徒を識別することができる情報であるといえ,また,通常他人に知られたくないと認められる情報であるといえるから,前段の非公開事由に該当する。
以上のとおりであって,第2‐2‐3文書のうち,年月日,所属学校,作成者氏名及びあて先を記載した部分は前段の非公開事由に該当する情報が記録されていると認めることはできないが,本文・見取図は前段の非公開情報に該当する情報が記録されていると認めることができる。
ケ 第2‐3‐1文書(送付書)について
上記文書には,東播磨教育事務所長が,兵庫県教育長に対し,特定の教職員に係る人事の調査結果を報告する旨の情報が記録されているところ,このような情報は,第2‐1‐1文書の送付文書部分と同様,当該教育事務所長の職務の遂行に関する情報であると解すべきであって,前段の非公開事由に該当する情報が記録されていると認めることはできない。
コ 第2‐3‐2文書(体罰発生報告書)について
(ア) 冒頭部分について
上記部分には,特定の高砂市立中学校の学校長が,高砂市教育委員会に対し,体罰が発生したことを報告する旨の情報が記録されているところ,このような情報が前段に該当しないことは,第2‐2‐2文書の冒頭部分について述べたとおりである。
(イ) 「関係者の住所・氏名等」欄に記録された加害教員の属性に関する情報について
上記部分の情報についても,第2‐1‐1文書の「関係者の住所・氏名等」欄について述べたのと同様,身長・体重を除き,前段の非公開情報に該当するとは認められない(なお,被控訴人は,同部分に記載された加害教員の住所については,その公開を求めていない。)。
これに対する控訴人の主張がいずれも採用できないことも先に述べたとおりである。
(ウ) 「関係者の住所・氏名等」欄に記録された被害生徒の属性に関する情報について
上記情報中,被控訴人が開示を求めるのは,生年月日,学年・組,身長・体重,負傷の程度等であるが,負傷の程度等を除けば,いずれも特定の被害生徒を識別することができる情報であって,前段の非公開事由に該当する。負傷の程度等については既述のとおり前段に該当するとはいえない。
(エ) 「発生日時及び場所」欄に記録された情報について
体罰発生の日時・場所を公開することによって,被害生徒との関係で,特定の被害生徒を識別することができると認めることはできない。
(オ) 「原因と状況」欄に記録された情報について
同部分に記録された情報の具体的な内容は,別紙11の「3 原因と状況」欄のとおりであり,また,同部分においては,加害教員が「甲」,被害生徒が「乙」と略称により表示されているため,同部分には,加害教員及び被害生徒を直接識別し得る情報は記録されていない。
同部分の記述のうち,「乙の立場」を記載した部分は,当該部分が公開されると,学校名の公開と併せて,特定の被害生徒を識別することができるといえるから,同部分のみは前段の非公開事由に該当すると解することが相当であるが,その余の部分については,第2‐1‐1文書の「状況」欄の情報について述べたとおり,前段に該当する非公開情報とは認められない。また,この点に関する控訴人の主張が採用できない理由も先に述べたところと同一である。
(カ) 「学校においてとった措置及び今後必要とする措置」欄に記録された情報について
同部分に記録された情報の具体的な内容は,別紙11の「3 原因と状況」欄のとおりであり,また,同部分においては,加害教員が「甲」,被害生徒が「乙」と略称により表示されているため,同部分には,加害教員及び被害生徒を直接識別し得る情報は記録されていない。
そして,同部分の情報についての判断は,第2‐1‐1文書の「学校においてとった措置及び今後必要とする措置」欄について述べたとおりであり,いずれも前段の非公開事由に該当しないと解することが相当である。
(キ) 「その他参考になる事項」欄に記録された情報について
同部分に記録された情報の具体的な内容は,別紙11の「6 その他参考となる事項」欄のとおりであり,また,同部分においては,加害教員が「甲」,被害生徒が「乙」と略称により表示されているため,同部分には,加害教員及び被害生徒を直接識別し得る情報は記録されておらず,同部分の情報が前段に該当しないことは,第2‐2‐2文書の「その他参考になる事項」欄について述べたとおりである。
サ 第2‐3‐3文書(提出書)について
(ア) 冒頭部分について
上記部分には,特定の高砂市立中学校の学校長が,高砂市教育委員会に対し,体罰が発生したことを報告する旨の情報や加害教員の氏名が記録されているところ,このような情報が前段に該当しないことは,第2‐1‐1文書の送付文書部分について述べたところである。
(イ) 「関係者の住所・氏名等」欄に記録された加害教員の属性に関する情報について
同欄に記載された情報が,加害教員の身長・体重の点を除き,前段の非公開情報に該当しないことは,第2‐1‐1文書で述べたとおりである(なお,被控訴人は,同部分に記載された加害教員の住所については,その公開を求めていない。)。
(ウ) 「その他参考となる事項」欄に記録された情報について
同部分に記録された情報の具体的な内容は,別紙12の「2 その他参考となる事項」欄のとおりであり,また,同部分においては,加害教員が「甲」と略称により表示されているため,同部分には,加害教員及び被害生徒を直接識別し得る情報は記録されておらず,他に前段の非公開情報に該当する情報の存在が認められないことは,第2‐2‐2文書の「その他参考となる事項」欄について述べたのと同様である。
シ 第2‐3‐4文書(顛末書)について
上記文書には,作成者氏名及びあて先,事故状況等を記載した部分と本文とがあるところ,本文には,加害教員が体罰を行うに至った経緯,事故後の処置,加害教員の体罰後の反省状況,心情,決意などが記載されているが,これら本文のほぼすべてにわたって,被害生徒や合宿に参加した生徒については略称ではなく実名で記載されていることが推認できるし,また,加害教員の反省状況等が職務遂行に関する情報と認めがたいことは第2‐1‐6文書について説示したとおりである。
したがって,上記部分の情報は,他人に知られたくないと思うことが通常であると認められる情報であり,かつ,特定の被害生徒を識別することができる情報であるといえるから,前段の非公開事由に該当する。
以上のとおりであって,第2‐3‐4文書のうち,作成者氏名及びあて先,事故状況等を記載した部分は前段の非公開事由に該当する情報が記録されていると認めることはできないが,本文は同号前段の非公開情報に該当する情報が記録されていると認めることができる。
ス 第3‐1・2文書(懲戒処分通知交付報告書)について
(ア) 冒頭部分について
上記文書の冒頭部分には,懲戒処分通知書の交付者が特定の加害教員に対し,懲戒処分通知書を交付したことを報告する旨の情報が記録されている。
加害教員その他の教職員の職務の遂行に関する情報は,公務員個人の私事に関する情報が含まれる場合を除き,前段の非公開事由に該当しないと解すべきところ,加害教員その他の教職員が懲戒処分等を受けたことは,公務遂行等に関して非違行為があったということを示すにとどまらず,公務員の立場を離れた個人としての評価をも低下させる性質を有する情報というべきであるから,私事に関する情報の面を含むものということができ,そうすると,このような情報は,先に説示したところからして,前段の非公開事由に該当すると解することが相当である。
(イ) 報告部分について
同文書の報告部分には,懲戒処分通知書の交付者が特定の加害教員に対し,懲戒処分通知書を交付したことを報告する旨の情報に加え,バレーボール部における被害生徒の地位などが記録されている。
そうすると,同部分は,上記(ア)の点に加え,特定の被害生徒を識別することができる情報が記録されているといえ,このような情報は,前段の非公開事由に該当する。
以上のとおりであって,第3‐1・2文書は,前段の非公開事由に該当する情報が記録されていると認めることができる。
セ 小括
以上の認定・判断によれば,被控訴人が公開を求める本件各文書の部分のうち,第2‐1‐1文書の加害教員の身長・体重の記載,被害生徒の属性に関する記載(ただし,負傷の程度等を除く。),「状況」の「乙①のバレー部員としての立場に関する部分」,第2‐1‐6文書の本文,第2‐2‐2文書の加害教員の身長・体重の記載,被害生徒の属性に関する記載,「原因と状況」の「被害生徒の兄弟及びその学年」,第2‐2‐3文書の本文,第2‐3‐2文書の加害教員の身長・体重,被害生徒の属性に関する記載(ただし,負傷の程度等を除く。),「原因と状況」の「乙の立場」,第2‐3‐3文書の加害教員の身長・体重,第2‐3‐4文書の本文及び第3‐1・2文書は,前段の非公開事由に該当し,その余は該当しない。
2 争点(2)(本件各文書に記録されている別紙4ないし6,9及び13の各「非公開部分」欄の赤色斜線部分に係る情報<ただし,適条欄に「6‐1‐後」と記載された情報>は,後段の非公開事由に該当するか否か)について
(1) 前記1(1)で認定した事実によれば,後段にいう「特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」とは,カルテ,反省文等個人の人格と密接にかかわる情報や未公表の著作物等個人の識別性のある部分を除いて公開しても,なお個人の正当な権利利益を害するおそれがある情報をいうものと解することが相当である。
(2) 控訴人が,本件各文書のうち後段に該当する旨を主張するのは,第2‐1‐2文書(診断書),第2‐1‐3?5文書(領収書),第2‐1‐6文書(顛末書),第2‐2‐3文書(同)及び第2‐3‐4文書(同)であるところ,上記各顛末書のうち本文は,いずれも前段に該当することは前記説示したとおりであるが,上記各文書は,いずれも後段にいう「特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」に該当すると認めることができる。
(3) しかしながら,上記各顛末書の各冒頭部分に記録された情報は,前記1で認定したとおりであって,これらの情報は,作成年月日,作成者(加害教員)の氏名やあて先などの事項であるから,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるものと認めることはできない。
したがって,上記各顛末書の各冒頭部分に記録された情報は,後段の非公開事由に該当するとはいえない。
3 争点(3)(部分公開の当否,すなわち,本件条例は独立した一体的な情報の一部を公開することを実施機関に義務付けているか否か,また,義務付けていないとして本件各文書における独立した一体的な情報の範囲はどの部分か)について
(1) 前記前提となる事実,証拠(甲1,14,15,37?40,42,乙2,3の1・2,4の1?3)及び弁論の全趣旨によれば,前記1(1)で認定した事実に加え,以下の事実を認めることができる。
ア 旧条例9条は,実施機関は,公文書の公開請求に係る文書に前条各号のいずれかに該当する情報が記録されている部分がある場合において,当該部分とそれ以外の部分とが容易に,かつ,公文書の公開の請求の趣旨を損なわない程度に分離できるときは,当該情報に係る部分を除いて,公文書の公開を行わなければならない,と規定していた。
イ 旧条例の解釈・運用を担当する部署であった兵庫県文書課は,旧条例について,解釈運用の手引(甲40)を作成し,その中で,9条について,次のように説明していた。
<趣旨>
本条は,公文書の公開・非公開の決定をする場合において,公開を行わないことができる場合を除き,請求のあった公文書の一部の公開を行うことについて明らかにしたものである。
<解説>
(ア) 本条は,公文書の公開の請求に対して可能な限り公文書を公開しようとする趣旨から設けられたものであり,「当該部分とそれ以外の部分とが容易に,かつ,公文書の公開の請求の趣旨を損なわない程度に分離できるとき」は,当該公文書の全部を非公開とするのではなく,適用除外事項に該当する情報が記録されている部分(以下「非公開部分」という。)以外の部分を公開しなければならないことを規定している。
(イ) 「容易に」とは,非公開部分とそれ以外の部分(以下「公開部分」という。)との分離について,公文書を汚損し,又は破損せず,かつ,過度の費用,時間等を要しないことをいう。
(ウ) 「公文書の公開の請求の趣旨を損なわない」とは,公文書の公開の請求の趣旨から判断して,請求者が知りたいと思う公文書の内容が,非公開部分を除いても十分に知り得る場合をいう。
<運用>
(ア) 「請求の趣旨」については,請求書の「請求する公文書の件名又は内容」の欄の記載事項等に基づき,判断するものとする。
(イ) 部分公開の方法は,おおむね次のとおりとする。
a 非公開部分と公開部分とが別の頁に記載されている場合は,次のいずれかの方法により,公開部分のみを閲覧に供する。
(a) 非公開部分を取り外す。
(b) 非公開部分をクリップではさみ,又は袋をかけて,閉鎖する。
(c) 公開部分のみを乾式複写機等で複写する。
b 非公開部分と公開部分とが同一の頁に記載されている場合は,次のいずれかの方法により,公開部分のみを閲覧に供する。
(a) 非公開部分を覆って乾式複写機等で複写する。
(b) 該当頁のすべてを乾式複写機等で複写し,非公開部分をマジック等で消し,それを再度複写する。
(c) 非公開部分にマスクをかける。
なお,部分公開の場合の写しの交付の方法については,a及びbの場合に準ずるものとする。
そして,同課は,旧条例9条について,おおむね上記のとおり運用していた。
ウ(ア) 情報公開法6条は,次のとおり規定している。
a 行政機関の長は,開示請求に係る行政文書の一部に不開示情報が記録されている場合において,不開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは,開示請求者に対し,当該部分を除いた部分につき開示しなければならない。ただし,当該部分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認められるときは,この限りではない。(1項)
b 開示請求に係る行政文書に前条第1号の情報(特定の個人を識別することができるものに限る。)が記録されている場合において,当該情報のうち,氏名,生年月日その他特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除くことにより,公にしても,個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるときは,当該部分を除いた部分は,同号の情報に含まれないものとみなして,前項の規定を適用する(2項)。
(イ) なお,情報公開法6条2項は,要綱案の段階では,不開示情報の中の個人識別情報の例外規定として設けられていた(要綱案第6(1)ロ)。そして,同要綱案について,行政改革委員会は,平成8年12月16日付け情報公開法制の確立に関する意見の中で,考え方として,「イ 保護される利益 (略)本要綱案では,特定の個人が識別され得る情報を開示すると,一般に,プライバシーを中心とする個人の正当な権利利益を害するおそれがあることから,いわゆる『個人識別型』を基本として不開示情報を定め,その中から開示すべきものを除くという手法を採ることとした。すなわち,個人に関する情報であって,特定の個人が識別され又は他の情報と照合することにより識別され得るものを事項的な不開示情報として定めた上(第6第1号本文),一般的に当該個人の利益保護の観点から不開示とする必要のないもの及び保護利益を考慮しても開示する必要性の認められるものを,例外的に不開示情報から除くこととした(同号ただし書)。(略)エ 個人識別性のある部分を除いた個人情報 個人に関する情報のうち,社会生活上の情報等にあっては,個人識別性がない状態であれば,これを開示しても,プライバシーを中心とする個人の正当な権利利益を害するおそれがないと認められるものが少なくない。そこで,個人に関する情報のうち,氏名その他個人識別性のある部分を除くことにより,開示しても個人の正当な権利利益を害するおそれがないと認められることとなる部分の情報を,例外開示情報とした(第6第1号ただし書ロ)。したがって,組織体の構成員としての個人の活動に関する情報は,本号の適用については,多くの場合,その情報のうち氏名等の個人識別性のある部分を除いた上で,活動内容等に関する部分の情報が開示されることになるであろう。(略)」と説明していた。その後,要綱案第6(1)ロは,「不開示情報としての個人に関する情報の中核的な部分である個人識別性のある部分は同規定に該当しても開示されないのであるから,不開示情報の規定における例外として位置付けるよりも,むしろ,氏名等を消すことによって個人に関する情報の部分を開示することに法的根拠を与えることを考慮し,部分開示の一場合として位置付けることが適当である」との考え方(総務庁行政管理局情報公開法制定準備室「行政機関の保有する情報の公開に関する法律案<仮称>」説明資料<平成9年12月12日>)により,情報公開法では,部分公開の規定である6条2項として規定されるに至った。
エ 兵庫県の公文書公開審査会の平成11年12月20日付け前記答申には,部分公開に関して言及した箇所はない。しかし,上記答申は,前記1(1)で認定したとおり,個人に関する情報(8条1号関係)に関して言及した箇所で,「情報公開法は,個人に関する情報について,いわゆる個人識別型(個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるもの)を採っている。この方式では,公領域情報等個別に規定している例外を除いた特定の個人を識別することができる情報は,すべて非公開となるが,個人に関する情報を非公開とする趣旨が個人のプライバシーの保護であることにかんがみれば,このような画一的,形式的な基準では,非公開とする範囲が拡大されすぎるおそれがあるため,原則公開の考え方からすれば,より実質的な基準である,当該情報が通常他人に知られたくないと認められるものに該当するかどうかということでもって判断する現行条例のいわゆるプライバシー型(個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるもののうち,通常他人に知られたくないと認められるもの)が適当である。」,と説明し,また,同審査会の議論の過程では,前記1(1)で認定したとおり,情報公開法のように個人識別型にすると公開する情報に差が出てきて,これまで原則公開としてきた兵庫県の運用とのずれが出てくる旨の委員の意見があった。そして,これらを踏まえると,上記答申は,旧条例の改正については,① 非公開情報に係る規定の整理については,いわゆる個人識別型ではなく,旧条例以来のいわゆるプライバシー型を採用し,② 情報公開法による公開の範囲と比較して,原則公開の立場で,より広く公文書を公開することを考えており,③ 部分公開については旧条例の範囲を狭めることは考えていなかったものと容易に推認することができる。
オ 本件条例の解釈・運用を担当する部署である兵庫県企画管理部管理局文書課県民情報室は,本件条例について,情報公開事務の手引(甲37)を作成し,その中で,本件条例7条の解釈運用基準として,次のように示している。
<趣旨>
本条は,公開請求に係る公文書の一部に非公開情報が含まれている場合,当該公文書の全部を非公開とするのではなく,非公開情報とその他の情報とを区別することができるときは,後者については公開しなければならないことを定めたものである。
<解説>
(ア) 「容易に区分して除くことができる」とは,過度の費用,時間等を要さずに,非公開情報とその他の情報を分離できることをいう。
(イ) 「有意の情報が記録されていないと認められるとき」とは,非公開情報を除いた残部が,それ自体としては無意味な文字,数字のみとなる場合等をいう。ただし,何が「有意な情報」かについては,実施機関と請求者との見解が異なる場合もあり得ることから,「有意な情報」ではないと明確に判断できる場合以外は,部分公開を行う運用が望ましい。
なお,旧条例9条と本件条例7条は,規定の文言の整理はされているものの,実質的には同旨の規定であって,上記手引には,前記認定した旧条例の下での解釈運用の手引の記載内容を否定する趣旨の記載は全くない。
カ(ア) 東京都公文書の開示等に関する条例(昭和59年東京都条例第109号)10条は,開示の請求に係る公文書のうち,非開示条項に該当することにより開示しないことができる情報とそれ以外の情報とが併せて記録されている場合において,開示しないことができる情報に係る部分とそれ以外の部分とを容易に分離することができ,かつ,当該分離により開示の請求の趣旨が損なわれることがないと認められるときは,開示しないことができる情報に係る部分を除いて公文書の開示をするものと規定していた。
(イ) 東京地方裁判所は,平成4年10月15日,同条例10条について,① 同条例10条は,請求された情報に非開示条項に該当する部分とそうでない部分が混在している場合には,全部を非開示とはせず,可能な限り非開示部分を除いて開示することとして,開示を原則とし非開示を例外とする同条例の趣旨(3条)をできるだけ活かそうとするものである,② したがって,同条例9条1号に該当し,非開示とすることができる公文書であっても,特定の個人を識別し得る情報を削除することにより,特定の個人が識別され得ることなく,かつ,請求の趣旨が損なわれない程度に情報の一部を開示することができるときは,当該部分を削除して開示すべきであると解するのが相当である,などと説示・判断する判決を言い渡し(同裁判所平成2年(行ウ)第135号同4年10月15日民事第3部判決・判時1436号6頁),同事件の控訴審である東京高等裁判所は,平成9年5月13日,上記部分に関し,上記判決の説示・判断と同旨の判断をする判決を言い渡した(同裁判所平成4年(行コ)第115号,同第116号同9年5月13日第7民事部判決・高民集50巻2号173頁,判時1604号39頁)。同訴訟において,実施機関である東京都知事は,これら判決のいう部分公開の実務・運用を前提としその上で開示できない理由(数量が膨大である,一部開示では文書としての態をなさない,など)を主張をしているのみであって,これら判決のいう部分公開の実務・運用は,地方公共団体の情報公開条例において,明文の規定はなく一般的に行われてきた。
キ 第2‐1‐1文書の加害教員の身長・体重の記載,被害生徒の属性に関する記載(ただし,被害の程度等を除く。),「状況」の「乙①のバレー部員としての立場に関する部分」,第2‐2‐2文書の加害教員の身長・体重の記載,被害生徒の属性に関する記載,「原因と状況」の「被害生徒の兄弟及びその学年」,第2‐3‐2文書の加害教員の身長・体重,被害生徒の属性に関する記載(ただし,被害の状況等を除く。),「原因と状況」の「乙の立場」,第2‐3‐3文書の加害教員の身長・体重(以上は,前記1のとおり,前段に該当する記載部分である。)は,いずれも該当頁のすべてを乾式複写機等で複写し,非公開部分をマジック等で消し,それを再度複写する方法で,極めて容易に区分して除くことができる。
(2) 本件条例は,その7条で部分公開の規定を設けていて,同規定や本件条例の他の部分には,情報公開法6条2項のような明示的な規定はない。しかしながら,上記(1)で認定した事実によれば,① 旧条例9条は,実施機関は,公文書の公開請求に係る文書に前条各号のいずれかに該当する情報が記録されている部分がある場合において,当該部分とそれ以外の部分とが容易に,かつ,公文書の公開の請求の趣旨を損なわない程度に分離できるときは,当該情報に係る部分を除いて,公文書の公開を行わなければならない,と規定していたこと,その上で,旧条例の解釈運用を担当する部署であった兵庫県文書課は,旧条例9条について,解釈運用の手引(甲40)の中で,同条は,公文書の公開の請求に対して可能な限り公文書を公開しようとする趣旨から設けられたものであり,「当該部分とそれ以外の部分とが容易に,かつ,公文書の公開の請求の趣旨を損なわない程度に分離できるとき」は,当該公文書の全部を非公開とするのではなく,非公開部分以外の部分を公開しなければならないことを規定している旨解説し,その運用として,非公開部分と公開部分とが同一の頁に記載されている場合は,a 非公開部分を覆って乾式複写機等で複写する,b 該当頁のすべてを乾式複写機等で複写し,非公開部分をマジック等で消し,それを再度複写する,c 非公開部分にマスクをかける,のいずれかの方法により,公開部分のみを閲覧に供する旨説明していたこと,そして,同課は,旧条例9条について,おおむね上記のとおり解釈・運用していたこと,そして,これらの事実によれば,兵庫県は,旧条例の下で,前記東京都公文書の開示等に関する条例の下での東京都の解釈・運用と同様,部分公開については,独立した一体的な情報であるかどうかをもって公開の範囲を区分することなく,情報の一部についても公開することを実施機関に義務付けているものとして,解釈・運用してきたものと認められること,② 公文書審査会の前記答申は,旧条例の改正については,a 非公開情報に係る規定の整理については,いわゆる個人識別型ではなく,旧条例以来のいわゆるプライバシー型を採用し,b 情報公開法による公開の範囲と比較して,原則公開の立場で,より広く公文書を公開することを考えていたが,c 部分公開については旧条例の範囲を狭めることは考えていなかったこと,これらを前提とすると,公文書審査会は,前記答申をするに当たって,情報公開法6条2項のような規定を設けないことで,旧条例の改正によって,部分公開の運用が狭められるものとは全く考えていなかったと容易に推認できること,③ その上で,兵庫県は,本件条例を制定・公布したものであること,そして,本件条例は,前文で,「県が保有する情報の公開は,県民の県政への参加を促進し,公正で透明な県民に開かれた県政を実現するために不可欠なものであり,本県ではこれまでから,その積極的な推進に努めてきたところである。いま,本格的な地方分権と公民協働の時代を迎え,情報公開の重要性はますます高まってきており,成熟社会にふさわしい兵庫の新時代を創造していくためにも,これを一層充実していかなければならない。このような認識に基づき,公文書の公開を請求する権利を明らかにするとともに,県民の『知る権利』を尊重し,県の諸活動を県民に説明する責務を果たすため,情報公開制度の一層の整備を進め,もって地方自治の本旨に即した県政の推進と県民生活の向上に寄与することを目的として,この条例を制定する。」と規定し,また,2条1項で,「実施機関は,公文書の公開を請求する権利が十分に保障されるようにこの条例を解釈し,及び運用するものとする。」と規定するなど,「知る権利」及び「説明責任」の基本理念の下で,本件条例の解釈運用に当たっての基本的な指針として,公文書の公開を請求する権利を十分に保障するように努めなければならないと定め,原則公開を基本として行うものであることを強調していること,この条例の制定は,前記答申の趣旨に則ったものであること,④ 本件条例の解釈・運用を担当する部署である兵庫県企画管理部管理局文書課県民情報室は,本件条例について,情報公開事務の手引(甲37)を作成し,その中で,本件条例7条の解釈運用の基準を示しているところ,その中には,旧条例の下での解釈運用の手引の記載内容を否定する趣旨の記載は全くないこと,などを認めることができるのであって,これらの事実を踏まえると,部分公開についていえば,本件条例は,情報公開法6条2項のような明示的な規定を有しないものの,旧条例と同様,独立した一体的な情報であるかどうかをもって公開の範囲を区分することなく,非公開情報が記録された部分を除き情報の一部についても公開することを実施機関に義務付けているものと解することが相当である。
そうすると,同様の条項を有するものの,本件条例と比較して,条例制定の趣旨・目的が明らかに異なるといえる大阪府公文書公開等条例(昭和59年大阪府条例第2号)の規定を前提する平成13年最判の説示するところは,本件と事案を異にするので,同最判は本件に適切ではなく,同最判をもって本件条例における部分公開の解釈についてるる述べる控訴人の主張は,その前提を異にするものとして,採用することはできない。
以上のとおり,本件条例は,独立した一体的な情報であるかどうかをもって公開の範囲を区分することなく,非公開情報が記録された部分を除き情報の一部についても公開することを実施機関に義務付けているものと解することが相当であるから,控訴人は,前段・後段の非公開事由に該当する情報が記録されていると認める記載部分を除き,情報の一部であるかどうかを問わず,本件各文書のうち,被控訴人が公開を求める部分の公開をしなければならない。
これに対し,控訴人は,本件条例においては,平成13年最判の法理が妥当し,独立した一体的な情報を細分化して公開することは,実施機関の義務ではない旨主張するが,同判決は本件と事案を異にすることは前記説示したとおりである上,上記①ないし④に説示したところに照らし,その主張を採用することはできない。
なお,独立した一体的な情報であるかどうかで公開の範囲を区別することとすると,体罰発生報告書についていえば,原審が判断したように加害教員の属性に関する情報を開示すべきという見解を採りながらも,加害教員の住所が記録されているか否かで,第2‐1‐1文書や第2‐2‐2文書の当該部分は公開すべきこととなり,第2‐3?2文書の当該部分は公開すべきでないこととなるが,そもそも被控訴人において住所の公開を求めていない本件訴訟で,このような結論が妥当なものとはいえないことは自然な発想であるといえ(住所記載部分のみをマジックで消してその余の部分を公開すれば足りることであるし,兵庫県は,従前からこのような運用をしてきたことは前記説示したとおりである。),このことからしても,控訴人の主張を採用することはできないというべきである。
そして,本件各文書のうち,情報の一部のみが本件条例6条1号前段に該当すると認められる記載部分は,いずれも該当頁のすべてを乾式複写機等で複写し,非公開部分をマジック等で消し,それを再度複写する方法で,容易に区分して除くことができることは前記認定したとおりである。
(3) 以上のとおり,本件条例は,部分公開についていえば,情報公開法6条2項のような明示的な規定を有しないものの,旧条例と同様,独立した一体的な情報であるかどうかをもって公開の範囲を区分することなく,非公開情報が記録された部分を除き情報の一部についても公開することを実施機関に義務付けているものと解することが相当であるから,争点(3)についての控訴人の主張は,その余について検討するまでもなく,理由がない。
4 結論
以上によれば,被控訴人の控訴人に対する本件各請求は,前段該当部分・後段該当部分の公開を求める部分を除き,理由がある。
よって,本件控訴及び本件附帯控訴に基づき原判決を上記趣旨に変更し,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 井垣敏生 裁判官 小池一利 裁判官 大島雅弘)
別紙
1 文書目録<省略>
2?15 非公開部分表<省略>
16?24<省略>