大阪高等裁判所 平成18年(行コ)40号 判決 2007年6月26日
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
主文同旨。
第2事案の概要
1 本件は,被控訴人が運営するa病院(以下「本件病院」という。)の原判決別紙1物件目録記載の各不動産(以下「本件不動産」という。)及び償却資産(以下「本件償却資産」といい,本件不動産と併せて「本件不動産等」という。)が,地方税法(平成15年法律第9号による改正前のもの。以下「法」という。)348条2項12号の非課税規定にいう「民法第34条の法人で学術の研究を目的とするものが,その目的のため直接その研究の用に供する固定資産」に該当するとして,本件不動産等に係る平成14年度固定資産税・都市計画税の各賦課決定処分(ただし,いずれも平成15年2月3日に税額変更された後のもの)の取消しを求めた事案である。
原審は,被控訴人の請求を認容し,上記各処分を取り消したところ,控訴人がこれを不服として控訴した。
2 前提事実並びに争点及び当事者の主張は,次のとおり付加訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」第2の2及び3(原判決2頁9行目から6頁15行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決2頁11行目末尾の次に行を改め次のとおり加える。
「法342条1項は,「固定資産税は,固定資産に対し,当該固定資産所在の市町村において課する。」と規定し,法341条は「固定資産とは土地,家屋及び償却資産を総称する。」(1号),「土地とは田,畑,宅地,塩田,鉱泉地,池沼,山林,牧場,原野その他の土地をいう。」(2号),「家屋とは住家,店舗,工場(発電所及び変電所を含む。),倉庫その他の建物をいう。」(3号),「償却資産とは土地及び家屋以外の事業の用に供することができる資産(鉱業権,漁業権,特許権その他の無形減価償却資産を除く。)でその減価償却額又は減価償却費が法人税法又は所得税法の規定による所得の計算上損金又は必要な経費に算入されるもののうちその取得価額が少額である資産その他の政令で定める資産以外のもの…をいう。」(4号)と規定し,法343条1項は「固定資産税は,固定資産の所有者…に課する。」と規定している。
法702条1項は「市町村は,…当該市町村の区域で…市街化区域内に所在する土地及び家屋に対し,その価格を課税標準として,当該土地又は家屋の所有者に都市計画税を課することができる。」と規定している。」
(2) 原判決2頁21行目から同22行目にかけての「この規定に基づいて設けられた地方税法施行令」を「これを受け,平成15年3月31日政令第128号により改正された地方税法施行令」に改める。
(3) 原判決3頁4行目末尾に「(甲50,125,乙15)」を加え,同9行目から同10行目にかけての「行政実例昭和27年6月3日」を「昭和27年6月3日地財委税第664号地方財政委員会事務局市町村税課長回答(立川市長照会)」に,同16行目の「行政実例昭和44年8月28日」を「昭和44年8月28日自治固第80号群馬県総務部長あて自治省固定資産税課長回答」に改める。
(4) 原判決3頁25行目の冒頭から末尾までを削る。
(5) 原判決4頁3行目の「本件各処分」を「各処分(以下「本件各処分」という。)」に改め,同7行目の「本件各変更処分」を「各変更処分(以下「本件各変更処分」という。)」に改める。
(6) 原判決4頁17行目冒頭から18行目末尾までを次のとおり改める。「本件の争点は,本件不動産等が法348条2項12号に該当するかであり,特に同号後段の「直接その研究の用に供する固定資産」に該当するか否かを巡って争われた。」
(7) 原判決6頁11行目から12行目にかけての「原告の本件不動産等の利用状況」から同15行目末尾までを次のとおり改める。
「研究実績の報告状況等からすれば,本件病院は臨床医学の研究機関としての実体を有し,それを目的として組織化されているものであって,本件不動産等は本件病院の施設,その敷地及び医療機器等であるから,本件不動産等は「直接その研究の用に供する固定資産」に該当する。」
第3当裁判所の判断
1 当裁判所が証拠等により認定する事実は,次のとおり付加訂正するほかは,原判決が「事実及び理由」第3の1(原判決6頁17行目から18頁4行目まで)において認定する事実と同一であるから,これを引用する。
(1) 原判決6頁19行目の「78,82から93まで,」を「82から86まで,91から93まで,」に改め,同20行目の「114から119まで,」を「127,」に改める。
(2) 原判決6頁24行目の「原告は,」を「被控訴人の寄附行為には,被控訴人は,」に改め,7頁3行目の「事業を行う」を「事業を行うと記載されており,被控訴人の登記簿の「目的等」の欄にも同様の記載がある」に改める。
(3) 原判決7頁5行目から6行目にかけての「役員」を「構成員」に改める。
(4) 原判決7頁8行目の「甲11」を「甲10,11」に改め,「102まで」の次に「,127」を加える。
(5) 原判決7頁10行目の「定期発行している」を「定期刊行している」に改める。
(6) 原判決7頁21行目の「臨床研究」を「臨床医学研究」に改める。
(7) 原判決8頁5行目冒頭から同11行目末尾までを削る。
(8) 原判決8頁12行目の「臨床研究」を「臨床医学研究」に改める。
(9) 原判決8頁15行目から16行目にかけての「設置している(甲112)。」を「設置し,各研究科からいつでもアクセス可能な状態にしている(甲112,127)。」に改める。
(10) 原判決8頁18行目冒頭から19行目の「主催したりしている」までを「被控訴人は,多数の医学研究学会を主催し,また,本件病院の医師は多数の学会発表や論文発表により本件病院における研究成果を報告している」に改める。
(11) 原判決11頁2行目の「患者側の」を「患者側の立場からの」に改める。
(12) 原判決11頁14行目の「発表した」の次に「(甲72の23頁)」を加える。
(13) 原判決12頁12行目の「中央処置スペース」を「中央採血室」に改める。
(14) 原判決13頁15行目から16行目にかけての「甲52の44頁,」を「甲52の1頁以下,44頁,」に改める。
(15) 原判決13頁22行目の「19」の次に「頁」を加え,同23行目の「栄養相談室」の前に「4階の」を加える。
(16) 原判決14頁1行目の「心臓リハビリルーム」の前に「4階の」を加える。
(17) 原判決14頁13行目から14行目にかけての「各研究者の研究データを蓄積し,データベースの作成に寄与する」を「各研究者の研究データの蓄積,データベースの作成に寄与する」に改める。
(18) 原判決15頁14行目から15行目にかけての「甲51の47頁」を「甲51の3頁」に改める。
(19) 原判決15頁16行目の「特別会議室・各応接室」の前に「6階の」を加える。
(20) 原判決15頁18行目及び22行目の各「甲51」を「甲51の3頁」に改める。
(21) 原判決15頁24行目の「臨床情」を「臨床情報」に改める。
(22) 原判決16頁7行目の「16階」を「屋上」に改める。
(23) 原判決17頁17行目の「甲74,」を「甲63,」に改める。
2 法348条2項12号について
法348条2項12号(以下「本号」ということがある。)は,「民法第34条の法人で学術の研究を目的とするものがその目的のため直接その研究の用に供する固定資産については,固定資産税を課することができない。」と規定しているところ,本号は,「民法第34条の法人で学術の研究を目的とするもの」という要件(以下「前段要件」ということがある。),「学術研究のため直接その研究の用に供する固定資産」という要件(以下「後段要件」ということがある。)に分けることができる。そこで,以下,被控訴人が前段要件を満たすか否か,本件不動産等が後段要件を満たすか否かについて順次検討する。
(1) 前段要件について
ア 「民法第34条の法人で学術の研究を目的とするもの」にいう学術の研究とは,日本学術会議法(平成16年4月14日法律第29号による改正後のもの。)10条,11条に定める区分によって示されるような意味における人文科学を中心とする科学,生命科学を中心とする科学並びに理学及び工学を中心とする科学の各分野における学理的研究並びにその応用に関する研究をいい,「目的とするもの」とは,当該法人の定款又は寄附行為の目的条項に学術の研究を行う趣旨を掲げ,かつ,その組織,運営及び活動の実体からみて学術の研究という目的に副っているものと認められるものをいう(昭和49年9月2日最高裁判所第一小法廷判決・民集28巻6号1033頁参照)。
イ これを前提に被控訴人が前段の要件を満たすかを検討するに,1(1)において認定したように,被控訴人の寄附行為には,医学に関する総合研究を行い,あわせて京都大学医学部における学術の研究を助成し,研究の成果の普及を図り,もって学術,文化の発展に寄与することを目的とし,その目的を達成するために,①医学に関する総合研究所の設置経営,②臨床医学研究用病院の付設,③京都大学医学部における学術研究に対する助成,④研究成果の発表及び刊行,⑤その他目的を達成するため必要な事業を行うことが掲げられている。そして,日本学術会議法(平成16年法律第29号による改正前のもの)10条に定める区分においては,その自然科学部門第7部は,「医学,歯学,薬学」を掲げていたもので,「医学」に関する総合的研究はこれに当たる。また,平成17年9月16日政令299号による改正前の日本学術会議法施行令(昭和59年政令第160号)2条の別表第7部は「生理科学,病理科学,診療科学,社会医学,歯科学,薬科学」を挙げており,②の臨床医学は,このうち,「診療科学」に当たるものと認められる。したがって,被控訴人は,寄附行為の目的条項に学術の研究を行う趣旨を掲げている法人といえる。
ウ また,①被控訴人は医学に関する総合研究を行うとともに,京都大学医学部における研究を助成するなどの目的を達成するために,本件病院を臨床医学研究用病院として付設したこと,②被控訴人の評議員会や理事会の構成員の多くは京都大学医学部教授等京都大学医学部の関係者であり,また,本件病院の多数の医師が,京都大学医学部等に教員として派遣されていること,③本件病院は,各研究科診察室,各研究科病棟,臨床検査部,病理解剖室及び動物実験室など臨床医学研究のために必要な部屋と研究機器を備えており,臨床研修病院に指定されていること,④本件病院は,臨床医学研究に必要な診療情報等をデータベース化して,各研究科からいつでもアクセス可能な状態にしていること,⑤本件病院は,患者等に対し,薬の治験や研究目的での診療について協力や承諾を求める態勢を整えていること,⑥本件病院は,毎年,文部科学省から科学研究費補助金の交付を受けていること,⑦本件病院の医師らが各研究科の診療行為を通して,診断及び治療方法の改善に関する研究を行い,研究の成果を論文発表や学会等によって報告していることなどの前記1において認定した事実によれば,被控訴人は,「医学に関する総合研究所」と「臨床医学研究用病院」とを兼ねた組織として本件病院を設立し,臨床医学研究を含む医学の総合的研究を行っているといえるのであって,その組織,運営及び活動の実体からみて上記研究という目的に副っているものと認められる。
エ 以上の次第で,被控訴人は民法第34条の法人で学術の研究を目的とするものに当たるというべきである。
(2) 後段要件について
ア 法348条2項12号は,民間学術研究機関がわが国の学術及び産業の振興上重要な使命を有することにかんがみ,これに対し財政的援助を行い,学術の研究の遂行を容易にすることを目的として規定されたものである(民間学術研究機関の助成に関する法律1条参照)。このような法の趣旨と本号の文言とに照らせば,本号の「学術研究のため直接その研究の用に供する固定資産」とは,常態として直接に学術研究の目的に供される固定資産及びそれを物理的又は機能的に維持管理するために通常必要とされる固定資産をいうものと解するのが相当である。すなわち,学術研究のため直接研究の用に供されなければならず,単に間接的に学術研究に役立っているにすぎないだけでは足りないし,単に一時的に供されるものであったり,主として他の用途に供されるものであってはならず,常態的に供されることを要するというべきである。
イ 以上を前提に,本件不動産等が上記の要件を満たすかどうか検討する。
甲第127号証及び弁論の全趣旨に前記引用に係る原判決「事実及び理由」第3の1(8)に認定の事実を総合すると,被控訴人の所有する固定資産はすべて本件病院の施設,その敷地及び医療機器等であることが認められる。そして,被控訴人が研究の対象とする学術内容は上記(1)において摘示したところであり,甲第127号証によれば,寄附行為に掲げられた各事業活動は,最高意思決定機関である評議会の意思と執行機関である理事会の統轄のもとに,すべて本件病院内において,本件病院の事業活動として行われていることが認められる。このことからしても,上記1において認定した各事実に照らしても,本件病院は,医学に関する総合研究を行い,併せて京都大学医学部における学術の研究を助成し,研究の成果の普及を図るという目的のもとに,各部門が有機的に結合し,各施設が機能的に設置されていることが認められるのであって,本件不動産等(本件病院の施設,その敷地及び医療機器等)の少なくともその大部分が常態として直接に学術研究の目的に供されているといえる。このことは,本件不動産等のうち,臨床医学研究のための研究室や図書室などにおいては明確であるが,診療室や病棟も同様のことがいえる。すなわち,甲第77号証によれば,臨床医学研究の中心となるのが臨床研究であり,臨床研究とは,医療における疾病の予防方法,診断方法及び治療方法の改善,疾病原因及び病態の理解並びに患者の生活の質の向上を目的として実施される医学系研究で,人を対象とするものをいうこと,臨床医学研究の中心となる研究態様は,「診療的研究」と呼ばれるもので,治療的関係にある被験者の診断・治療に関わる研究であること,診療的研究には,被験者の診療経過を通じて得たデータを後からまとめる「後ろ向き診療的研究」と事前に立案した研究計画に基づいて診療した結果として得たデータをまとめる「前向き診療的研究」とがあり,「前向き診療的研究」は,さらに,意図して一定の診療行為を行う実験的研究と観察的研究とに分けることができること,臨床医学研究の中心的研究態様である診療的研究においては,診療行為自体が自然科学研究における観察や実験に相当するもので,診療行為は臨床医学研究を構成する本質的で核心的要素というべきものであることが認められるのであって,診療行為実践の場である診療室や病棟も臨床医学研究を含む医学の総合的研究を行っている学術研究機関たる被控訴人が常態として直接に学術研究の目的に供していると評価することができるからである。
したがって,本件不動産等のうち,臨床医学研究のための研究室や図書室などはもとより,診療室や病棟なども臨床医学研究のために使用されていると認められるのであって,これらも常態として直接に学術研究の目的に供される固定資産に含まれるというべきであり(昭和44年8月28日自治固第80号群馬県総務部長あて自治省固定資産税課長回答参照),これを物理的又は機能的に維持管理するために必要な施設もこれに準じて扱うべきである。これに対し,職員の宿舎,福利厚生施設及び他の者に貸し付けられている店舗などは,職員の働きやすい環境を整備し,あるいはその福利厚生のために供され,そのことを通じて間接的に学術研究に役立っているということはできるが,「直接」その研究の用に供される固定資産ということはできないと解される(平成15年政令第128号による改正後の地方税法施行令50条の5参照)。
ウ これに対し,控訴人は,本件病院を含め,病院事業の主たる目的は患者を治療することにあり,病院に備え付けられている固定資産は,直接には患者を治療することに使用されているのであって,同資産が臨床医学研究のために使用されていると認められる場合でも,それは間接的に臨床医学の用に供されているに過ぎないと主張する。確かに,診療や治療のみを目的とした医療行為は臨床医学研究とはいえないが,本件病院は,前記認定の目的のもとに設立された被控訴人が,その目的達成のための必要な事業を行うために付設された臨床医学研究用病院(前記引用に係る原判決「事実及び理由」第3の1(1))であって,臨床医学研究を目的の一つとしており,人的・物的両面において臨床医学研究施設としての実体を有し,本件病院における診療行為及び診療結果を基に多数の研究発表がされており,さらに,本件病院においては,医療行為及びその結果,患者属性・病名及び病歴等の診療情報はすべて研究データとして取り扱われていることもまた前記認定のとおりであり,これらによれば,本件病院における診療行為は,診療や治療だけを目的とする病院における診療行為とは性質を異にし,それ自体が,学術研究機関における臨床医学研究行為の主要な部分を占めると認められるから,臨床医学研究行為たる診療行為の用に供されている固定資産は,当然,直接その研究の用に供されているということになる。すなわち,本件病院における診療や治療行為は医学の研究という目的のために行われているといえるから,本件病院における診療や治療行為は直接医学研究のためのものということができるのであって,このことは,「病院」が国民の健康の保持増進のために医業を提供する施設とされていること(医療法1条の2第2項)や診療や治療行為が患者の健康の保持,増進及びその回復という目的を有することと矛盾するものではない。
また,控訴人は,通常の病院に備え付けられていないもので直接に研究の用に供している固定資産が直接その研究の用に供する固定資産であり,研究実験室,貯蔵室,実験動物飼育室などについてはこれに当たるがその他の固定資産はこれに当たらないとの主張をしている。しかし,この主張は医学に関する学術研究を基礎医学の研究に限定することにほかならない。「民法第34条の法人で学術の研究を目的とするもの」にいう学術の研究の意義は(1)アにおいて説示したところであり,控訴人の主張は採用できない。
さらに,控訴人は,本件不動産等が,他の研究の用途以外にも使用されており,常態として研究の用途に供されるということはできないという趣旨の主張もしているが,控訴人が主張する他の用途とは診療や治療行為を指していると解されるところ,これらが本件病院においては臨床医学研究行為そのものであることは既に説示したとおりである。本件不動産等は恒常的かつ専らこの研究の目的に供されるのであるから,常態的に学術研究の用に供されるといえることは明らかである。
よって,控訴人の上記各主張はいずれも採用できない。
3 各施設について
2に説示したように,本件不動産等の少なくともその大部分が法348条2項12号に該当するといえるが,本件病院内の各施設について,その使用実態と研究の方法等に照らし,個別,具体的にみた場合においても,常態として直接に臨床医学研究の目的に供される固定資産及びそれを物理的又は機能的に維持管理するために通常必要とされる固定資産といえるか否かを以下検討する。
(1) 本件不動産等のうち,本館の各研究科診察室,各研究科病棟,各種検査室,手術室及びリハビリテーションセンター等は,臨床医学研究において不可欠な診療行為を行う施設であるから,これらは常態として直接に臨床医学研究の目的に供されている施設であると認められる。また,研究実験室及び動物飼育室等は,動物に対する手術や解剖を行い,新たな治療法を開発するなどのために使用されているから,臨床医学研究の目的に供されている施設である。
(2) 書庫・カルテ庫は,大量の症例・カルテ等を保管している場所であるが,臨床医学研究には,大量の症例等の分析が不可欠であるから,臨床医学研究の目的に供されている施設である。図書室は,臨床医学研究に関する文献等が備えられている施設であり,同研究を行う上で必要な知識や情報を得るために設置された施設であるから,常態として直接に臨床医学研究の目的に供されている施設である。
(3) 会議室・αホール・医局等は,各研究者が研究結果を分析したり,他の研究者と意見交換したり,研究成果を発表する場であるから常態として直接に臨床医学研究の目的に供されている施設である。
(4) その他,前記引用に係る原判決「事実及び理由」第3の1(8)に記載した施設は,すべて常態として直接に臨床医学の研究の目的に供されているか,又はこれらの施設を物理的又は機能的に維持管理するために通常必要な施設と解すべきである。
(5) 前記引用に係る原判決「事実及び理由」第3の1(9)に記載した施設は常態として直接に臨床医学の研究の目的に供されているか,又はこれらの施設を物理的又は機能的に維持管理するために通常必要な施設とそうでない施設に分かれる。すなわち,
ア 廊下,エレベーター,エスカレーター,パイプスペース,機械室,事務部,エントランスホール,患者待合スペース及び職員更衣室等は,それ自体は臨床医学研究の目的に供されている施設には当たらないが,臨床医学研究を行う各施設を物理的又は機能的に維持管理するために通常必要とされる施設であると認められる。
イ これに対し,職員食堂(5階),職員休憩ラウンジ(5階),病棟ラウンジ(5階),レストラン(5階),喫茶ラウンジ(2階),花屋(1階),コインロッカー(1階),売店(B1階),理髪店(B1階),駐車場(B1階),格納庫(B3階),保育室とその関連施設(西館1階)は,他の者に貸し付けられている店舗等,職員の福利厚生目的で設置されたもの,臨床医学研究に必ずしも必要とはいえないもの(B1階の駐車場)又は利用状況が明らかでないもの(格納庫)などであり,臨床医学研究の用に供している施設を維持管理するために通常必要とされる固定資産とは認められない。
4 まとめ
(1) 3において説示したとおり,本件病院本館及び同西館は,非課税部分が多いとはいえ,いずれも課税部分と非課税部分が混在する建物であるから,その構成割合に応じて按分して課税すべきである。ただし,エレベーター,エスカレーター,機械室,パイプスペースなどは,職員食堂,職員休憩ラウンジ,レストラン等の課税部分の施設を物理的又は機能的に維持管理するためにも通常必要であるから,その全部を非課税とすべきではなく,各建物ごとに,課税部分と非課税部分との構成割合に応じて按分するのが相当である。
上記各建物の敷地の用途は,各建物の用途と同様であるというべきであるから,上記各建物の敷地は,各建物と同様の比率で按分して課税するのが相当である。
償却資産については,その所在場所が課税部分か,非課税部分であるかによって,課税の可否を決するのが相当であり,その所在場所が課税,非課税かは3において説示したとおりである。
なお,控訴人は本件不動産等の大部分を非課税とすると,他の通常の病院との間で税負担において不公平が生じ,租税平等主義に反する旨主張するが,本件不動産等が本号に該当すると認められる場合,本号の適用があるのは当然であり,租税平等主義に反するかどうかを論じる余地はない。
(2) 以上からすると,本件病院西館の一部である研究実験室及び動物飼育室等のみを「直接その研究の用に供する固定資産」であると認定し,本件病院の各研究科診察室及び病棟等上記各施設は「直接その研究の用に供する固定資産」に該当しないという判断に基づいて行った控訴人の本件各処分は,法348条2項12号の適用を誤った違法な処分であるといえる。
したがって,本件各処分(ただし,平成15年2月3日に税額変更された後のもの)を取り消すべきである。その取消しの範囲については,上記認定に従った場合の具体的な課税標準を認定することはできないから(控訴人においても,本件不動産等について上記基準に従った場合の具体的な課税額の算定を試みたが,試算にとどまらざるを得なかった(控訴人の平成19年1月15日付け第2準備書面2頁,同年2月20日付け第3準備書面4頁以下参照)),その全部を取り消すのが相当である(最高裁判所平成17年7月11日第二小法廷判決・民集59巻6号1197頁参照)。
5 以上の認定及び判断の結果によると,被控訴人の本件各請求は理由があるからこれを認容すべきである。当裁判所の上記判断と同旨の原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 渡邉等 裁判官 八木良一 裁判官 樋口英明)