大阪高等裁判所 平成18年(行コ)41号 判決 2007年10月25日
主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が平成15年1月23日付けでA鉄道株式会社に対してした鉄道事業法8条2項に基づく西大阪延伸線西九条~B鉄道株式会社難波間の工事施行認可を取り消す。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1 本件は,A鉄道株式会社(以下「A」という。)の西大阪延伸線(西九条駅からB鉄道株式会社〔以下「B」という。〕B難波駅)計画予定地の近隣住民等である控訴人らが,被控訴人が行った鉄道施設の工事施行認可(以下「本件認可」という。)につき,西大阪延伸線計画(以下「本件工事計画」という。)は,列車走行により周辺住民に受忍限度を超える騒音被害を生じさせるものであって,鉄道事業法(以下「事業法」という。)8条2項の「国土交通省令で定める規程」である鉄道に関する技術上の基準を定める省令(平成13年12月25日号外国土交通省令第151号〔当時〕,以下「技術基準省令」という。)6条に適合せず,同省令のその他の規程にも適合しない違法があり,また,本件認可の前提となる鉄道事業許可(事業法4条,5条),道路敷設許可(同法61条1項但書),都市計画決定が違法でありその違法が承継されるなどと主張して,本件認可の取消を求めた事案である。
2 法令等の定め,前提事実,争点及び当事者の主張は,以下のとおり当審における補充主張を付加する他は,原判決「事実及び理由」第2・1ないし3に記載のとおりであるからこれを引用する(なお,営業法,実施基準,騒音対策の指針,解釈基準,評価条例,技術指針,専門委員会,本件各事業,本件各事業許可,本件敷設許可,本件評価,本件評価書,中央復建,本件工事,本件区間,森藤式,F,G等の略語を,原判決と同じ用法で用いる。)。
ただし,4頁12~15行目を「事業法8条1項の規定により工事の施行の認可を申請しようとする者は,事業法施行規則10条1項各号に掲げる事項を記載した工事施行認可申請書を提出するとともに,この申請書には,同条2項各号に掲げる書類及び図面を添付しなければならない(事業法施行規則10条1,2項)。」と改める。
〔控訴人ら〕
(1) 原告適格
控訴人X100(1審原告番号100)は本件事業地の周辺に居住し,騒音等によって健康又は生活環境に被害を受けるものであり,他の自然人である控訴人らと同様に原告適格が認められるべきである。
また,法人である控訴人らも本件事業地の周辺で事業を行うものであり,騒音,振動によって直接に被害を受けるところ,かかる被害は一般的公益の中に吸収されるものではなく個別的利益として保護されるべきであり法人にも原告適格が認められるべきである。
さらに,土地収用法3条7号は,土地を収用し又は使用することができる公共の利益となる事業として鉄道事業を挙げており,事業地内の不動産に権利を有する者は,違法な施行認可がされれば,自己権利地の収用,土地への事業者の立入りや一時使用を甘受せざるを得ない立場に立たされるから,不利益を被る者として原告適格が認められるべきである(もっとも,原判決は別の理由で原告適格を認めた)。
(2) 技術基準省令6条(著しい騒音の防止)の適合性
ア 技術基準省令6条適合性の判断内容(本件評価書と本件認可の関係)
工事施行認可の要件は,事業基本計画への適合性及び技術基準省令への適合性である(事業法8条2項)。そして,同省令につき被控訴人自ら解釈基準(<証拠省略>)を示し,「著しい騒音」を騒音レベル数値で明示している。かかる関連法規の内容からすれば,認可要件である技術基準省令6条の適合性は,解釈基準で示された騒音レベル数値を基準として判断されるべきであり,数値による一義的・画一的判断こそ法の要求するところである。
そして,本件評価書(大阪市環境影響評価条例に基づく環境影響評価書,<証拠省略>)の他に騒音予測数値を示した判断資料はないから,被控訴人が本件評価書に依拠して技術基準省令6条の適合性を判断したのは明らかであり,本件評価書における騒音予測内容に,看過しがたい過誤等がある場合には,本件認可はその基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこと,あるいは判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないことにより,違法として取り消されるべきである。
被控訴人は,原審平成15年8月26日付準備書面17頁<省略>以下で,「本件工事計画は,大阪市が実施した環境影響評価による騒音の予測結果に照らしても,技術基準省令6条の規定に適合している」,「被告は本件認可に当たり,送付された大阪市環境影響評価書における列車の走行に伴う騒音の予測結果を参考としているところ,大阪市環境影響評価書によると,列車の走行に伴う騒音の予測結果は,地上1.2m,近接側軌道中心からの距離12.5mにおける等価騒音レベルが昼間につき52ないし59dB,夜間につき48ないし54dBであり,解釈基準の定める騒音レベルを満たしている」と主張しながら,その後,本件評価書の正当性は本件認可の適法性に影響を与えないと主張を変遷させた。また,評価書の内容に不相当な部分があっても,記載の予測値が解釈基準の数値に合致するか否かの判断は可能である。仮に,合致していなければ認可しなければよく,解釈基準の数値への合致さえ判断せず,単に「努力」「可能性」の判断で足りるとする被控訴人の立場では,事業者の申請内容に対して,明確な審査基準がなく充分なチェックもできないから,監督責任の放棄に等しい。解釈基準の6条関係部分には数値の他に,被控訴人が主張するような判断を行うべきとの記載はない。
環境影響評価について事後調査が予定されることからすれば,恣意的なデータ操作による評価書作成は考え難いとの論理は,環境への悪影響が予測されても,計画を修正して事業を進めれば足りるとの意を是認することであり,環境影響評価制度の本質を無視する独自の解釈である。事後調査は,事業実施後に発生しうる予想外の悪影響を懸念しての制度であって,事後修正を図るための手段ではない。
森藤式(在来鉄道の騒音予測方法)の採用を前提とした予測の不確実性を考慮するとしても,環境影響評価の本質は,事前の調査,予測,評価による合理的意思決定であり,環境に対して負荷を与える可能性について常に安全側で検討することが求められ,認可権者の立場にある被控訴人は事業者に対して複数の予測計算を義務づけて慎重に判断すべきものである。
イ 本件評価書の内容
(ア) 森藤式を独自に改変した点について
森藤式は,従来の石井教授による予測手法と同じく,騒音源を転動音,構造物音,車両機器音の3つに分けた上で,転動音の音源パワーレベルは,列車速度,レール表面及び車輪踏面状態,軌道種別に依存すると明記しており,構造物種別を挙げていない。構造物の吸音や反射特性は別に評価する構造物音に含まれており,転動音に影響しないから,転動音の算出において構造物種別を考慮するのは誤りである。
本件工事計画の高架構造はスラブ軌道であり,森藤式はスラブ軌道の転動音パワーレベルを100~105dBとするところ,本件評価書は95dBと設定して森藤式を逸脱している。弾性マクラギ直結軌道(防振軌道)がスラブ軌道に比べて床面の凹凸が多いとはいえず,写真(<証拠省略>)によっても床面の凹凸にそれほど差があるように見えないし,防振軌道の転動音抑制効果について文献はない。
森藤式はパワーレベル値に幅を持たせつつ中央値の採用を推奨するところ,本件評価書は,橋梁部・堀割構造部の転動音,高架構造部の構造物音につき森藤式の下限値を採用した。また,パワーレベルの設定は,実測した列車毎に具体的条件(列車長,両数,速度等)を森藤式に代入して得られた計算値と,実測値を比較検証して行うもので,実測値とその具体的条件しか対象になっておらず,予測を適用する計画の内容は無関係である。そもそも,パワーレベルを設定する際の計算値と実測値の検証は,1対1の相関関係になることを目指しながら行われ,実測値の前提条件と計算値の前提条件が異なるようでは1対1の相関関係を目指す意味が失われるから,むしろ予測対象である計画内容を前提条件に折り込んではならない。
技術指針(大阪市環境影響評価技術指針,<証拠省略>)は,第三者が検証可能な程度に評価の予測内容の根拠を説明することを求める趣旨で,予測についての基本的事項として,予測の前提条件等の明確化(予測手法の特徴とその適用範囲,予測の前提条件,予測に用いた原単位やパラメーター等につき,その設定根拠・妥当性を明確にすること)を求めるところ,その旨の説明は本件評価書に全く記載がない。
事業法10条の完成検査や評価条例28条の事後調査は,その実態に照らすと,事業者による恣意的操作を防止できず,工事施行認可の不備を是正し得ない。
(イ) 実測データ等の恣意的取扱い
a 本件評価書には,堀割構造部の実測値25m地点のデータを除いた理由が記載されておらず,また,真に25m実測値だけを除外したのであれば,本件評価書133頁図5.4.8(3)のプロット数は,174点(列車数58本×3地点)になるはずであるが,プロットはその半数以下しかなく,実測値を恣意的に取捨選択したと推察される。
b 実測地点No4が上り線(防振軌道構造コンクリート道床)と下り線(単なるスラブ軌道)との軌道構造が異なることは実測の際に明らかなはずであり,なぜ実測したのか不可解であること,高架構造部の実測列車38本のうち,上りが18本であるから,実測点が72点(列車数18本×4地点)であるのに,本件評価書133頁図5.4.8(1)のプロット数が30点足らずと少ないこと等からすれば,実測値を恣意的に取捨選択したと推察される。また,橋梁部については直下の実測値が10dB高く読み違えられており,同(2)のプロット数は,実測地点No2,3をまとめれば,直下の値を除いても合計180点(列車数60本×3地点)になるはずであるが,遠く及ばず,恣意的な取捨選択と推察される。
c 甲9評価2頁図2<省略>は,本件評価書133頁の実測値と予測値の比較が杜撰であることを示すため,あえて本件評価書が設定したパラメーターを用いて全ての実測値をプロットしたものであるところ,Fが検討した図1と比べて,図2は斜め45度の線の上側(危険側)にプロット数が多く,本件評価書133頁各図は実測値よりも予測値が低く抑えられたものである。
(ウ) 予測対象地点数について
騒音対策の指針(<証拠省略>)の記載は予測のための実測データを測定する地点の選定についてのものであり,予測地点に関するものではない。実測地点は,実測作業に費用がかかるため予算上の制約があるが,予測地点は,実測データを基にコンピュータで計算する地点にすぎないから,沿線全地点の予測をすることも容易かつ可能である。本件評価書においても,近接住宅が著しい騒音に曝されることがコンター図から明らかであるから,被控訴人が主張する防音壁の設置も予測内容の不十分さを補うものではない。
また,技術指針(<証拠省略>)における,予測地点は現地調査における調査地点を基本とするとの記載は,一般的に事業実施前後の状況を比較することを念頭において規定したためかかる文言になったところ,本件工事計画は新設であって,現地調査の実測点と事業計画地の予測地点が異なるから,実測地点数と同じ予測地点数では充分でないし,本件評価書は騒音が最大となる地点をあえて外している(<証拠省略>)。
そして,実際の列車のデータからすれば,堀割構造部,橋梁部×2,高架構造部毎に,80点以上(上下線20本以上×4地点)が予測値と比較すべき実測値であり,16点(4地点×4距離)で実測したとしても,意味のある数字とならない。
(エ) 専門委員会の本件評価書についての検討
専門委員会は25名で構成されるが,騒音専門家は1,2名しかいないし,当日配布される資料に基づき2時間程度で複数の事業を審議して思いついた意見を述べる程度のものにすぎず,原資料に遡った検討やデータの矛盾を細かくチェックする能力はない。住民意見は聞き置くだけの扱いであり,専門委員会の検討は,技術的専門的な正確性を担保する実効性がない。
ウ Fによる再計算(甲9<証拠省略>,以下「甲9評価」という。)について
甲9評価の予測値が解釈基準の数値を超える地点No④は,地点数として本件評価書の予測地点4か所のうち4分の1を占め,超過の程度も大きい。本件工事計画は全線延長3.4kmであるところ,列車走行騒音が問題となる地上走行部分は合計0.9kmであり,できる限り多くの地点を予測対象地点として採るべきであったのに,わずか4地点しか予測対象としていない。甲9評価は,本件評価書の原資料にもとづいて全く同じ予測条件で再計算を行ったため,予測地点を同じく4点としただけであり,わずかな予測地点の中の1地点においてさえ,基準を超える数値が予測されたことが重視されるべきである。
エ Fによる騒音予測(甲99<省略>,以下「甲99評価」という。)について
(ア) 甲99評価は,甲9評価と同様に,本件評価書の実測データと森藤式を採用して,地上部分の全沿線にわたって,解釈基準に定められた地点(地上1.2m,水平距離12.5mの地点)を,軌道の周辺空間において平面的立体的に予測するとともに,これに周辺の建物の状況に重ね合わせ,地上高さに応じた平面でそれぞれ水平に切って,各高さにおける騒音状態とその広がりを表示したものである。
但し,森藤式は,線路は平坦・直線,列車は低速走行を条件とするところ,本件工事計画の地上部分は,堀割,高架,橋梁,高架と軌道構造が変化しながら,線路が傾斜又はカーブしているため,地上部分のうちカーブと傾斜がある部分については,微分法の発想を用いて,数十m単位の直線かつ平坦(高さ一定)の線路部分に分割し,軌道をこれら線路部分が連なっているものと近似させて,各線路部分に森藤式を適用し,各部分の高さは各区間の平均値とした。また,森藤式は線路が無限に延びていると前提しているため,区分した線路の長さに合わせて受音点から見た両端の角度として取り出して角度補正し,各受音点について全区間からの暴露騒音を合成した。
(イ) 甲99評価によると,昼間(午前7時~午後10時)において,難波行き側で予測地点No③の難波寄りからNo④を越える辺りまでの間,西九条行き側でNo③の難波寄り約50mの辺りからNo④を越える辺りまでの間で,解釈基準の数値を超える騒音が発生することが予測され,その騒音レベルは堀割に入る直前が最高で63dBになる。
夜間(午後10時~翌午前7時)において,難波行き側でNo③西九条寄りからNo④過ぎ約50mまでの間で,西九条行き側でNo③地点からNo④難波寄り約50mまでの間で,解釈基準の数値を超える騒音が発生することが予測され,その騒音レベルは堀割に入る直前が最高で58dBになる。
したがって,解釈基準の数値を超える区域は,およそNo③からNo④地点の約300m(本件工事計画の地上部分の約3分の1)の九条中通線沿線にわたり,その程度も最高3~4dB超過するものであり,本件評価書による騒音予測は極めて不十分なものであって,これを唯一の判断資料としてなされた本件認可には裁量権を逸脱した違法がある。
(ウ) 地上部分について,難波行き側と西九条行き側の各軌道中心から水平距離50mの範囲の建物について,昼間は,堀割から地上に出てくる部分において,3階(地上7.2m)以上の高さにおいて65~70dBの騒音に曝され,6・8階では九条中通線に面する住宅において70dB以上の騒音に曝される。
夜間は,堀割から地上に出てくる部分において,2階(地上4.2m)以上の高さで60dBを超える騒音に曝され,4階以上では九条中通線に面する住宅で65dBを超える騒音に曝される。
なお,仮に,被控訴人が主張するように6m防音壁によって約10dBの騒音低減が見込まれるとしても,近接住宅では,昼70dB以上,夜65dB以上の騒音が予測される。
したがって,近接住宅につき予測される騒音被害は深刻かつ広範囲に及び,計画内容を一見すれば地上部分において沿線住宅に騒音被害を発生させることが容易に予想できるから,できるだけ多数の予測地点を採るべきであったし,解釈基準の予測地点より近接している住宅を考慮してその実態に即した騒音予測をすべきであった。しかるに,本件認可においては,地上部分の僅か4点(現住建物区域では予測地点①,③,④の3点)しか予測しておらず,近接住宅の暴露騒音を無視した内容となっており,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しなかった違法がある。
(エ) 被控訴人は,甲9・99評価は科学的根拠のない一つの予測にすぎずこれのみによって本件認可を違法ということはできないと主張するが,本件評価書も森藤式を採用したとする以上,森藤式の予測式としての不確実性は,甲9・99評価の反論足り得ない。
また,被控訴人は,甲99評価が沿線全部について予測するために角度補正を行ったことについて,一般的に確立された科学的評価手法といえないと主張する。しかし,道路騒音については「騒音に係る環境基準について」(平成17年5月26日環境省告示第45号)を受けて,幹線道路について道路から50mの範囲の沿線全部の騒音予測が全国的に行われており,鉄道騒音については未だ確立された手法はないものの,環境省が既に実施していることに鑑みれば,被控訴人は控訴人らが行った全沿線予測やその手法を非難する立場にはない。甲99評価は,Fが現在の音響理論を理解したうえで無理なく適用しながら行ったものであり,予測手法や得られた結果は科学的に妥当である。沿線住民の騒音被害に鑑みれば,点の評価だけでは極めて不十分なことは明らかであり,被控訴人としては,早急に道路騒音と同様に面の評価を実施すべきであり,さらに市街地を走行する鉄道は高架であることが通常である実態に鑑みれば,鉄道沿線の高層階を含む各住戸についても,立体的な騒音評価を実施すべきである。
被控訴人は,道路騒音と鉄道騒音では,騒音の特性が異なるなどとして,甲99評価の手法を否定するが,同手法は,道路騒音の手法を適用したわけではなく,森藤式を応用したにすぎないし,道路騒音と鉄道騒音の特性の違いは関係ない。また,騒音対策の指針が評価地点を点と設定しているとしても,かかる点は沿線全体にわたって線的に存在し,全線について評価することは可能であるし,そもそも認可権者である被控訴人は,鉄道沿線における騒音被害の発生を防止する立場から,沿線全体にわたる予測手法を開発し,確立し,推奨すべき立場に在るのであって,自らの怠慢を棚に上げて甲99評価を非難できない。
オ 近接住宅の著しい騒音について
技術基準省令6条の適合性については,解釈基準に定められた地点(地上1.2m,水平距離12.5mの地点)以外の地点における騒音の発生も考慮しなければならないところ,本件評価書においても,解釈基準の数値を上回る騒音が予測されており,高さ6mの防音壁の設置決定については客観的資料や図面すらないし,その材質,費用,防音効果,設置決定を認めるに足りる証拠はない。
のみならず,高さ6mの防音壁等本件認可後の対策をもって,工事着手後又は鉄道輸送施設完成後の充実・改善という本件認可後の事情をもって事後的に解釈基準を満たすとすることは違法判断の基準時を処分時とする最高裁判例にも違反する。
被控訴人は,近接住宅への配慮も十分なされていると主張するが,その具体的内容は,本件評価書140頁以下のコンター図により軌道周辺の騒音状況を明らかにしていること,専門委員会からその点の指摘があったこと,大阪市長による意見があったことにすぎない。
カ あてはめ(小田急事件最高裁判決との関係)
小田急事件最高裁判決は,鉄道事業認可の違法性の判断について,都市計画が適法であることを前提としたうえで,高架式を採用した点において裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるとはいえないと判示して,住民側の上告を棄却した。
しかし,本件と小田急事件では,①小田急事件は,従前の在来鉄道を複々線化及び連続立体交差化する大規模改造であるのに対し,本件は全くの新設工事であること,②小田急事件の行政処分は都市計画事業認可であり,その前提となる都市計画変更決定の適法性が問題とされたのに対し,本件は工事施行認可であること,③小田急事件当時の鉄道騒音に関する基準は新幹線鉄道騒音に係る環境基準しかなく,しかも都市計画決定や事業認可の要件でもなかったのに対し,本件認可当時,在来鉄道騒音に関する基準としては騒音対策の指針が定められ,かつ,これが解釈基準とされていたことから事案が異なり,工事施行認可は,工事計画が事業基本計画及び技術基準省令に適合していれば認可をしなければならない(事業法8条2項)とされており,都市計画のように諸般の事情を総合的に考慮したり,政策的技術的な見地から判断する必要はなく,技術基準省令6条適合性の判断にしても,解釈基準の数値への適合性を判断すればよいから,ほとんど裁量の余地はないものである。したがって,工事施行認可に行政庁の裁量があるとしても,その範囲は極めて限定されており,最高裁判決の裁量権の逸脱濫用に関する審査基準,特に「その内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り」として裁量の範囲を広く解する部分は,そのまま本件に当てはまらない。
そして,本件認可に際しては,環境影響評価の内容について十分に配慮すべきところ,本件評価書の内容は,一般に確立された科学的な評価方法に反した手法で行われたなどの重大な過誤があり,正しく環境影響評価が行われていれば,騒音予測値は本件工事計画の地上部分の3分の1において解釈基準を満たさない結果であったはずである。
よって,最高裁判決の示した基準に則れば「その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠く」あるいは「判断の過程において考慮すべき事情を考慮しない」として,本件認可は違法となる。
(3) 技術基準省令8条(応急復旧の体制)の適合性
工事施行中であっても自然災害,工事設計・施行上の過失や手抜きなどの人為的災害などが生じる可能性はあり,それらの災害等に備えた体制が必要である点は,運転開始後と変わりはない。特に,本件のように大規模工事が数年にわたって継続される場合は,工事期間中になんらかの災害等に遭遇する可能性も高く,それらの危険が市街地において現実化すれば沿線住民に甚大な危害を及ぼす。監督庁も,「鉄道の建設,改良等の工事に伴う事故の防止について」(昭和49年2月21日鉄土第12号通達)及び「鉄道・軌道の建設,改良等の工事に伴う事故の防止について」(平成3年3月15日官鉄施第26号・地施第56号各通達)において,工事期間中の安全管理体制の確保を事業者に求めており,工事施行中においても応急復旧の体制を定めることが求められている。本件では,上記体制は定められていないから,同条に違反する。
(4) 技術基準省令39条(道路との交差)の適合性
技術基準省令39条が平面交差を禁止したのは,平面交差をした場合の危険性(軌道への自動車の進入の危険性)と交通渋滞の問題を生じさせないためである。しかるに,本件工事によれば,原判決別紙6地図④の交差点は高さ制限され従来通行可能であった大型車両の通行が遮断され,同⑥の交差点は完全に遮断されて通行不能となり,生活道路が分断されるところ,踏切を設置して交通障害の解消の努力をしている場合には禁止規定に抵触するが,踏切を設置せずに通行不能にした場合はこれに抵触しないというのでは,本末転倒である。「平面交差」とは,鉄道が存しない場合に通常通行可能な車両等の通行が阻害される形態で鉄道と道路が交差することを指すというべきである。
(5) 鉄道事業許可の違法性
ア 本件認可の取消について,鉄道事業許可の違法性の承継が認められるところ,行訴法10条1項は,行政訴訟による救済範囲を拡大することを目指して行われた平成17年の行訴法改正の趣旨を没却しないよう拡大解釈されなければならない。
かかる観点から,事業法5条1項1号を見るに,同条が「その事業の計画が経営上適切なものであること」を鉄道事業許可の要件とした趣旨は,鉄道事業の特殊性から,万一事業者が経営難に陥り,人員削減や保守点検の省略等のコスト削減をした場合,環境対策がないがしろにされたり,運行の安全性が確保されず大惨事に繋がるという問題があることにあるから,同条項は特定の者の利益を保護するために設けられた処分要件ではなく,鉄道利用者のみならず広く沿線住民を含めた国民一般を保護する趣旨を含むと解される。
したがって,控訴人らの自己の利益に関係があり,事業法5条1項1号の「経営の適切性」を欠くことを理由として取消を求めることは,行訴法10条1項によって制限されない。
そして,違法性の承継を認める以上,事業法5条1項1号の「経営の適切性」が認められるかを判断しなければならないところ,本件各事業は必要性に乏しく,誤ったデータと予測手法に基づく過大な需要・収支予測に基づくものであり,経営の適切性は認められない。
イ 本件工事計画は,①技術基準省令に反する上,要員計画に問題があって輸送の安全上適切とはいえず,②環境対策が欠如し,災害対策も不十分であるなど事業の遂行上適切な計画を有しているとはいえない。
ウ したがって,本件各事業許可は違法であり,その違法性を承継した本件認可も違法である。
(6) 道路敷設許可の違法性の承継
工事施行認可と道路敷設許可は,本件各事業の完成のためには不可欠な同一官庁の許認可であり,同一の目的を有する一連の行為であるから,本件敷設許可の違法性は本件認可に承継される。すなわち,工事施行認可も道路敷設許可も,鉄道事業の工事施行にあたり必要性と周辺等に与える影響との調整を図るものであり,その趣旨・目的は同じであるし,両者が有効でなければ工事施行は許されないから,法律上当然に一方が他方の有効性を前提としており,両者のいずれが先行するかは問題とされないが,先行処分と後行処分は相結合して工事施行に関する効果を目指し,これを完成させるものである。
そして,「やむを得ない理由」(事業法61条1項ただし書)があるかは,鉄道敷設の必要性の程度,当該道路以外への敷設の可能性,鉄道事業の実現性(用地買収の可能性等),当該道路への敷設による弊害(周辺への悪影響,道路管理上の問題等),代替手段(地下化等)の有無などを総合して判断すべきであり,本条項の適用が問題とされる例のほぼ全ては,鉄道軌道そのものの道路敷設ではなく,鉄道線路(駅舎も通路に含む)のうち,地下道から地上への出入口を道路(歩道)に設置せざるを得ない場合であり,近年においては,鉄道軌道そのものを道路に敷設することを許可することは皆無である上,「やむを得ない理由」の審査には,通達等によって,道路に敷設する鉄道施設が必要最小限なものであること等の観点からの審査が必要とされているところ,本件では代替案を検討しないまま許可しており,必要な審査が尽くされていない。
したがって,本件敷設許可は違法であり,その違法性を承継した本件認可も違法である。
(7) 種々の違法状態の作出
工事施行によって違法状態が作出されたり,助長されることが予見可能な場合には,当該工事計画は違法な計画であることを意味し,「適切な計画」に該当しないものとして事業法5条1項3号の要件を満たさない。
本件工事が施行された場合,①鉄道により,現時点で違法状態を生じている環境騒音,道路交通騒音を悪化させる著しい騒音が生じること,②鉄道により振動感覚閾値である55dBを超過する振動が生じること,③鉄道により健康被害をもたらすレベルの低周波音が生じる可能性があること,④本件事業の嵩上式・地表式の軌道の一部は周辺住民が居住する住宅から1m未満の距離に建設される部分があり,それらの住居等の日照阻害は甚大であること,⑤嵩上式・地表式部分を建設することにより大きな障害物が生じるため一層の電波障害が生じること,⑥嵩上式・地表式の軌道の位置する地盤は軟弱であり,地震が起きれば液状化する可能性がある上,地下線への移行を予定している位置は,過去に氾濫を起こした安治川に極めて近接しており洪水等の場合に鉄道路線へ浸水する危険が高く,また,災害の場合の一時避難所は,一般に小学校の校区ごとに設定されているところ,九条地区と九条南地区の一時避難所である九条北小学校校区は軌道により東西に分断されるため,本件事業の施行によって災害時の住民の移動が著しく阻害され,災害対策基本法に違反すること,⑦交差点が東西に分断され,高齢者や障害者にとって日常生活に多大の負担を強いられ,大型車両等が通行できなくなったり,迂回を強いられて通学路に危険が生じたり,交通渋滞が生じたり,近隣の商店街が利便性と活気を失うおそれがあるなど,社会的弱者に負担を強い,交通渋滞による種々の問題を引き起こし,沿線地区の特質を無視するためその発展を阻害して退廃を招くなど都市計画法13条1項本文・13号等に違反することなど,種々の違法状態を作出する。
〔被控訴人〕
(1) 原告適格
争う。
(2) 技術基準省令6条(著しい騒音の防止)の適合性
ア 技術基準省令6条適合性の判断内容(本件評価書と本件認可の関係)
被控訴人の技術基準省令6条適合性の判断は,実施基準(技術基準省令の実施に関する基準)に解釈基準に定める数値の記載があることのほか,工事計画において騒音の発生を低減させる配慮がなされていること(バラスト道床,コンクリート道床,防振構造,バラスト散布可能性,ロングレール敷設),線路外に漏れる騒音が少なくなる措置が採られているあるいは講ずることが可能であること(防音壁の設置あるいは設置可能性)を確認し,被控訴人が有する知見に照らして,「将来解釈基準に定める数値を実現することが可能であるか否か」について行うから,当該工事計画を前提とした一定の数値(予測値)は必要ではなく,被控訴人の判断は本件評価書に依拠したものではなく,本件評価書の正当性は本件認可の適法性に関係しない。
加えて,条例に基づく環境影響評価については,被控訴人にその正当性を判断する義務も権限もなく,補正を求める条例上の手段もないから,本件評価書の正当性の有無は被控訴人の本件認可に影響を与えないと解すべきである。
イ 本件評価書の内容
(ア) 独自の改変について
本件評価書において恣意的操作などありえない。環境影響評価は事後調査も予定されることからすれば,恣意的操作により評価書を作成するとは考え難い。評価書上,結論に至るまでに選択した数値や手法について,どの程度根拠を説明するのが適切かは格別,評価書上説明がないからといって,直ちに恣意的操作がなされたとはいえない。加えて,森藤ら論文(<証拠省略>)でも,予測手法によっては異なる結果が出うるとされており,ある予測手法により得られた一つの予測結果が解釈基準に定める数値を超えることをもって,当然に技術基準省令6条適合性を否定する根拠とならない。
そして,森藤式で例示された音源パワーレベル数値は,ロングレール,防音壁以外に特別な騒音対策がとられていない線路条件を前提とするところ,本件の「弾性マクラギ直結軌道」(レールが設置されているマクラギの下面・側面を弾性材で被覆し,その周囲にコンクリートを充填してマクラギを固定した,レールから構造物に伝わる振動が低減される軌道であり,スラブ軌道に比べて,床面の凸凹の多い形態であるため,音の乱反射が生じ,転動音の抑制効果がある)と線路条件が直接対応しないことから,本件評価書では,森藤式の平均値(スラブ軌道100~105dB,バラスト軌道95~100dB)を使用するのではなく,これを参考としながらも,森藤ら論文に記載されている「騒音データを音源モデル式に代入して逆算する」方法で,最も適正な数値を割り出して採用したものであり,森藤式の平均値を下回る音源パワーレベルの設定値があるものの,合理性はある(<証拠省略>)。
(イ) 実測データ等の取扱いについて
掘割,橋梁2か所,高架の各構造ごとに,直下(堀割No1地点では3m地点),6.25m(高架No4地点では10m地点),12.5m(橋梁No2地点では11m,同No3地点では10m),25mの4点(合計16点)において,上下合わせて20本以上の列車通過時において実測がなされている。
その上で,掘割構造については,25m地点を除く他の3地点の実測値について,予測式に代入の上,最も再現性の良い数値が転動音の音源パワーレベルとして設定された。25m地点を除いた理由は,周辺に住宅立地が認められ,その影響が及ぶ可能性があるためと説明されるところ(<証拠省略>),鉄道騒音については,家屋等の遮蔽・反射の影響を無視できないが,実際に家屋等の影響を正確に評価することはきわめて困難とされるから(<証拠省略>),かかる除外には合理性がある。
高架構造については,直下のデータから構造物音の音源パワーレベルを設定し,最も再現性の良い数値が転動音の音源パワーレベルとして設定された。構造物音は,車両の走行時に高架橋等の部材の振動から発生する騒音であるから,直下のデータがこれを代表するものと考えるのは合理的である。なお,133頁図5.4.8(1)の図に示された点が実測点の数に比べて少ないのは,No4地点における軌道構造が,上り線は本件工事計画と同じ防振軌道構造のコンクリート道床であるが,下り線は通常のスラブ軌道であったため,本件工事計画と同じ条件である上り線のデータのみを使用したものである。
橋梁構造については,軌道から6.25m,10・11m,25mの実測値から最も再現性の良い転動音・構造物音の音源パワーレベルが設定された。直下のデータを除いた理由は,予測モデル検証の際,橋梁直下のデータのみ実測値が相対的に高くなり,実測値と予測モデルによる計算値との間で整合性(現況再現性)が得られず,他の3地点の値との比較から実測値が異常であると判断されて(実際は実測値が10dB高く読み違えられていたと推測される。),資料から除かれたものである。なお,残りのデータを使用して,モデルの検証を行って音源パワーレベルを導き出したところ,かかるデータを使用せずに得られた実測値と予測モデルによる計算値の相関係数は0.787でありかなり高い相関があるとされるから(<証拠省略>),橋梁直下のデータを使用しなかったことが予測の適切性に影響したとは考え難い。
なお,No2地点の25m地点のデータにつき,本来,騒音計の時間重み特性をslowとして計測すべきところをfastとして計測した誤りが存するが,継続的な騒音については,その間に衝撃的な騒音が入らなければfast/slowのいずれに設定しても,測定値にほとんど差は生じないところ,実際の記録紙には衝撃性の騒音が見受けられなかったことから,slowに設定して計測した場合との差はほとんどないと考えられるから,かかる設定の誤りがプロット図及び予測結果に与えた影響はない。
実測地点No4において,上記を前提とした騒音レベル最大値の実測値と計算値の比較結果を45度の線で表した本件評価書133頁各プロット図は,甲9評価2頁図2と同様,予測値と実測値がほぼ1対1の対応を示すから,本件評価書の現況再現性に問題はない。専門委員会も,都市計画決定権者からの提出資料を基に,現況再現性が良好であることを検証した上で,予測モデルのパラメータ等の設定は妥当と判断した。
(ウ) 予測対象地点数について
環境影響評価は,環境に著しい影響を与えるおそれのある行為の実施・意思決定に当たり予め環境への影響について適正に調査,予測又は評価を行い,その結果に基づき,環境の保全について適正に配慮しようとするものであり,予測はその目的を実現するのに必要な範囲で適切に行われていれば足りるところ,技術指針は,「予測範囲は現況調査の調査範囲に準じ,予測地点は現地調査における調査地点を基本とし,高さ方向を含めて,影響が最大となる地点等を複数選定すること」とし,(<証拠省略>),本件での予測地点は,高架,掘割,橋梁の各鉄道構造別に,影響が最大となると思われる地点を対象としており,選定は適切になされている。
そして,予測地点の設定が妥当であることは,専門委員会においても確認されている(<証拠省略>)。
ウ 甲9・99評価に関する控訴人らの主張に対する反論
(ア) 甲9・99評価も一つの予測にすぎず,これをもって本件評価書を不十分なものとし,本件認可を違法とすることはできない。
すなわち,Fが依拠した森藤式は,現時点において騒音の予測手法として信用性はあるが,それにより算出された予測値をもって,列車が現実に走行した場合に発生する騒音の数値と同視するには精度が不足しており,一義的に正確な予測結果を導き出せるわけではない。
したがって,仮に技術基準省令6条適合性判断において,環境影響評価による予測値と解釈基準の数値を比較する方法を採った場合でも,ある手法により得られた予測結果が解釈基準の数値を超えることをもって,当然に適合性を否定できない。ましてや,Fは,環境影響評価はベスト追求型であり騒音予測においても安全側の数値を代入すべきとの立場に立って評価する旨証言しており(<証拠省略>),予測結果もかかる観点から作成されたといえるから,なおさらその結果のみをもって本件認可が違法であるとすることはできない。
(イ) 甲99評価は,角度補正を加えて予測を行ったとされるが,森藤式は,鉄道騒音の要因を定量的に十分に把握するための基準条件として,線路が平坦・直線であることとするから,かかる条件そのものに補正を加えた予測手法が森藤式によるといえるのかは疑問である。
また,道路交通騒音においては,自動車を音源として空間全体に放射する「無指向性」の点音源が連続的に配置されるところ,鉄道騒音においては,一編成の列車長内に点音源が連続して並ぶ有限長線音源であり,かつ,点音源は列車の進行方向に対し直角の方向に鋭い指向を示す指向性を有しており,両者は騒音の特性・特質が異なる(<証拠省略>)。角度補正なる手法は,鉄道騒音の予測手法として一般には用いられておらず,この手法に基づき鉄道騒音を予測することの科学的根拠,妥当性について十分な検証がなされていない。
控訴人らが指摘する「騒音に係る環境基準について」においても,「この環境基準は,航空機騒音,鉄道騒音及び建設作業騒音には適用しないものとする」とされ(<証拠省略>),鉄道騒音に同基準を適用する合理性がない。
(ウ) したがって,工事施行認可段階において騒音予測を行い,その予測数値が解釈基準の数値を下回ることをもって技術基準省令6条適合性が認められるとの立場に立ったとしても,本件評価を排斥して,甲9・99評価に拠る理由はない。
エ 近接住宅の著しい騒音について
解釈基準は,類型的に地上1.2m・水平距離12.5m地点を基準としていること,騒音対策の指針において「測定点と異なる場所において鉄道騒音が問題となる場合には,参考のため,当該問題となる場所においても併せて測定を行うことが望ましい」とされているにもかかわらず(<証拠省略>),解釈基準ではこれに触れていないこと,環境庁在来鉄道騒音指針検討会報告書において「騒音対策の指針に対する適合性を調査するために騒音を測定する場合は,以下の条件(注・解釈基準と同じ)を満たす屋外の場所を測定点として選定するものとする」とされていること(<証拠省略>)等に照らせば,解釈基準に定める地点以外について基準値を超える蓋然性を問題として技術基準省令6条適合性を判断する根拠はない。
本件評価書は,高架構造部,橋梁部,掘割構造部について地域の騒音を代表する4点を測定したもので,騒音対策の指針が定める測定点の選定に沿う。
本件認可後も適切な防音壁を設置するなどの対策を施すことが可能であることは,認可時の事情として考慮し得ることで,判断の基準時を誤ったものではない。すなわち,列車走行による騒音は現実に走行して初めて発生するものであるから,本件認可時点で騒音発生の蓋然性が認められるか検討するに際し,その後に対策が取られる見込みがあったかを検討し,これを考慮することは判断基準時を誤ったものといえない。本件においては,技術指針に則り,各予測地点において軌道中心から100m,高さ40mの範囲における等価騒音レベルの断面コンターによる予測を行い,その予測結果を前提として,都市計画決定権者から,「評価地点よりも線路に近接した住宅や中高層住宅等では,騒音の指針値等を超える地点がある。そのような箇所では高欄の嵩上げ,消音バラストの散布等の騒音対策,防振低減効果のより大きい防振材を用いた軌道の採用等の振動対策が考えられるが,今後その適用方法,効果の検討を行い,必要に応じて適切な措置を講じることとする。さらに,供用後に事後調査を行い,予測結果の検証を行うこととする」との見解が示され(<証拠省略>),この見解を踏まえてAが近接・中高層住宅の騒音防止対策として,透明板等を利用した高さ6mの防音壁の設置を決定したものであり(<証拠省略>),これにより10dB程度の減音効果が期待できる(<証拠省略>)。
オ 小田急事件最高裁判決との関係
近接住宅は解釈基準の予測地点と同視することはできず,鉄道騒音予測の果たすべき機能からみて,解釈基準の予測地点以外の地点の騒音数値を予測して考慮しなければ考慮すべき事項を考慮しなかったことになるものではない。
(3) 技術基準省令8条(応急復旧の体制)の適合性
争う。
(4) 技術基準省令39条(道路との交差)の適合性
争う。
(5) 鉄道事業許可の違法性
第二種鉄道事業と第三種鉄道事業の許可の違法は一体として判断すべきとしたが,許可の判断は個々の事業として基準に適合するかを審査して行われるから,第二種鉄道事業者に対する鉄道事業許可の違法が,直ちに第三種鉄道事業者の許可の違法に結びつくものではない。
事業法5条1項1号が,控訴人らの主張する個別的利益を保護する趣旨まで含むとする根拠はない。
(6) 道路敷設許可の違法性の承継
争う。
(7) 種々の違法状態の作出
争う。なお,事業法8条2項によれば,工事施行認可における違法事由は,事業基本計画あるいは技術基準省令に適合しないことに尽きる。
第3当裁判所の判断
1 原告適格について
原判決「事実及び理由」第3・1記載のとおりであるからこれを引用する。すなわち,控訴人らはるる主張するが,控訴人X100(1審原告番号100)を除く自然人である控訴人らには,本件認可の取消訴訟の原告適格を認めることができるが,X100(1審原告番号100)及び法人である控訴人らには,原告適格を認めることはできず,その訴えは不適法である。
2 本件認可の違法について(技術基準省令との関係)
(1) 技術基準省令6条(著しい騒音の防止)適合性について
ア 技術基準省令6条適合性の判断内容(違法性判断の基準等)
(ア) 技術基準省令の解釈基準の位置づけ
工事施行認可の要件は,工事計画が事業基本計画及び鉄道営業法1条の国土交通省令で定める規程(技術基準省令)に適合することであり(事業法8条2項),技術基準省令は騒音につき,鉄道事業者が省令の実施に関する基準(実施基準)を定めて遵守しなければならないこと(3条)及び著しい騒音の防止に努めなければならないこと(6条)を定めているところ,実施基準を定めているか否かは具体的に特定された事項であるものの,遵守しているか否かは価値判断を含み裁量の幅が広く,また,著しい騒音の防止に努めることも価値判断を含み裁量の幅が広いと同時に,工事施行認可段階では現実の列車の運行はなされておらず将来の騒音の程度を想定しつつ判断されるものであり,現実に取られる騒音防止措置も未だ確定していないものであるから,いずれも,その判断は,認可主体である行政庁の裁量によるというべきであって,裁判所が工事施行認可の決定の適否を審査するに当たっては,当該決定が裁量権の行使としてされたことを前提として,その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合,又は,事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるとすべきものと解するのが相当である。
しかるところ,工事施行認可に関する事業法等の規定が,鉄道事業に伴う騒音等によって,当該事業地の周辺地域に居住する住民に健康又は生活環境の被害が発生することを防止することも目的とするものであり,被控訴人は,騒音問題が生じることを未然に防止する上で目標となる当面の指針を定めた環境庁大気保全局長通達である騒音対策の指針(<証拠省略>)を受けて技術基準省令の解釈基準(<証拠省略>)を国土交通省鉄道局長通達として策定し,その前書きで「解釈基準を定めるにあたっては,鉄道の輸送の用に供する施設及び車両の構造及び取扱いについて,列車の運転等に伴って生ずるすべての人や物に及ぼしうる危険を,技術的実現性や経済性を踏まえ,できる限り小さくするものとすることを前提として,これまでの実績,現在の技術水準,技術開発の動向等を考慮して,現時点で妥当と考え得る省令等の具体的な考え方を示すこととした。これらの解釈に示される事項は,省令に適合しているものとして取り扱われることとなるが,これらの解釈によらない事項を否定するものではない。これらの解釈については,以上の考え方のもとに,国における許認可等の審査や鉄道事業者による実施基準作成の拠り所とするものであり,この趣旨を十分に踏まえ,鉄道輸送の安全性の確保などが図られるよう,管下鉄道事業者を指導することとされたい」としたうえで,6条につき普通鉄道の新設に際しての騒音レベルを,「沿線屋外の地上1.2mの高さにおける近接側軌道中心線から水平距離が12.5mの地点における等価騒音レベルを,昼間(7時~22時)が60dB以下,夜間(22時~翌7時)が55dB以下」と具体的数値をもって定めているから,当該定めは,技術基準省令6条に関する審査基準ないし裁量基準といえ,同条に定める「著しい騒音の防止に努めること」という認可要件の裁量権の範囲の逸脱又は濫用に関する裁判所の審査の際,少なくとも「沿線屋外の地上1.2mの高さにおける近接側軌道中心線から水平距離が12.5mの地点における等価騒音レベルが,昼間(7時~22時)が60dB以下,夜間(22時~翌7時)が55dB以下」であることが判断の基礎となる重要な事実に該当すると解され,その判断に誤りがある場合には,「その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合」に該当し,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となる場合があると解すべきである。
この点,被控訴人は,列車の走行に伴う騒音の程度は,現実に列車が走行しなければ明らかにならず,工事施行認可段階ではどれだけの騒音が発生するかは不確実な予測にすぎないこと,騒音防止措置については施設完成後も充実・改善の余地があり得ること等を根拠として,工事施行認可の際には,解釈基準に定める騒音レベルを上回らないようにするための努力がされているか,具体的には実施基準において解釈基準に示された数値基準と合致する指針値が規定されていること,当該実施基準に適合させるために工事計画において騒音の発生を低減させるための配慮がされていること,線路外に漏れる騒音が少なくなるような措置が採られていること又は講ずることが可能であることを確認すれば十分であり,その後,事業者が実施基準遵守義務を果たしていない場合には,完成検査等の過程を通じて事業者に対して所要の措置を講ずることで,列車が現実に運行される際に,騒音対策の指針に定められた具体的な騒音レベルを超えないことが担保されるなどと主張する。
しかし,上記主張のうち,「解釈基準に定める騒音レベルを上回らないようにするための努力がされているか」という事項が工事施行認可段階で「解釈基準に定める騒音レベル」そのものの数値自体を前記裁判所の審査における判断の基礎となる重要な事実とならないという趣旨であれば,普通鉄道の新設に際しての騒音レベルを,「沿線屋外の地上1.2mの高さにおける近接側軌道中心線から水平距離が12.5mの地点における等価騒音レベルを,昼間(7時~22時)が60dB以下,夜間(22時~翌7時)が55dB以下」とするとの自ら定めた解釈基準の具体的な規定内容に反し,かつ,鉄道が未だ運行しておらず騒音の予測が前提となる新設に際しての騒音レベルにつき具体的数値を定めたことに反しているから,採用することができず,「実施基準において解釈基準に示された数値基準と合致する指針値が規定されていること」という事項は,技術基準省令3条で必要とされる当然の認可要件であって当該の関係で判断されるべきものであり,技術基準省令6条の認可要件判断に持ち込むべきものでないかも,採用できない。そして,どれだけの騒音が発生するかは工事施行認可段階ではあくまでも予測であって,予測であることに伴う不確実性は避け得ないが,<証拠省略>によれば,科学的・合理的予測方法があることが認められるし,騒音防止措置については鉄道輸送施設完成後も充実・改善の余地があるが,工事施行認可に関する事業法等の規定が,鉄道事業に伴う騒音等によって,当該事業地の周辺地域に居住する住民に健康又は生活環境の被害が発生することを防止することも目的とするものであり,国土交通省が,工事施行認可の認可要件,その内容たる技術基準省令を定め,騒音問題が生じることを未然に防止する上で目標となる当面の指針を定めた騒音対策の指針を受けた技術基準省令の解釈基準を定め,審査基準ないし裁量基準である解釈基準中に普通鉄道の新設につき具体的数値をもって騒音レベルを定めた以上は,被控訴人の上記主張は不相当というべきである。
(イ) 環境影響評価書との関係
一定規模(10km以上)の鉄道の建設に関しては,環境影響評価法が適用され(同法2条2項1号ハ,同法施行令別表第1・3ホ),事業者が作成した評価書は免許等を行う者に送付され(22条1項),送付を受けた者は事業者に対して評価書について環境の保全の見地から意見を述べることができ(24条),対象事業に係る免許等を行う者は,当該免許の審査に際し,評価書の記載事項及び24条の書面に基づいて,当該対象事業につき,環境の保全について適正な配慮がなされるものであるかどうかを審査しなければならないとされるが(33条・横断条項),本件工事計画は,事業区間の距離が3.4kmであり同法の対象事業にあたらないため,同法上は被控訴人が本件評価書の内容を含めて上記配慮がなされるものであるかどうかを審査する義務を負うものではない。
他方,本件工事計画は,評価条例(大阪市環境影響評価条例)の対象事業(同条例2条2項,別表(2))であり,かつ大阪市を決定権者とする都市計画対象事業であり,大阪市が環境影響評価を実施することとなり,大阪市は西大阪鉄道に協力を依頼し,同社は騒音予測等を中央復建に依頼して本件評価書を作成させたものであり,その写しは,平成14年12月20日付で国土交通省に送付されたものである。但し,評価条例には,環境影響評価法33条と同様の規定はなく,許認可権者に評価書の記載内容等に基づいて環境保全について適正な配慮がなされるものであるかどうかを審査する義務はないから,同条例上は被控訴人が本件評価書の内容を含めて上記配慮がなされるものであるかどうかを審査する義務を負うものではない。
(ウ) 小括
そうすると,解釈基準所定の数値は前記重要な事実に該当するものであるが,工事施行認可は,実際に列車の運行が開始される前になされるものであって,本件工事計画により設置される軌道と各種防音設備の下で現実に発生する列車走行の騒音を実際に測定して判定できるものではなく,本件工事計画と類似する現実の列車走行箇所における騒音の実測データを基に予測するとの手法に拠らざるを得ず,現時点で最も科学的・合理的な方法によるものではあっても,予測としての不確実性があることは否定し得ず,本件工事計画が環境影響評価法の対象事業であるものでもないから,当該数値のみをもって本件認可の適否を決定することはできず,裁判所は,前記解釈基準所定の数値を含め,本件工事計画の内容,すなわち,軌道・レールの構造・材質・機能,地盤の特質,車輌の構造,列車の速度・運行回数・頻度,騒音防止設備の有無・程度等,認可審査段階で予測ないし認識し得る技術基準省令6条所定の認可要件に必要かつ十分な事情を対象として審査し,かかる諸事情を総合考慮した結果,本件認可につき,その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合,又は,事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等により判断内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認める場合に限り,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるとすべきものと解するのが相当である。
イ 騒音予測評価について
控訴人らは,本件評価書における騒音予測内容に,看過しがたい過誤があり,甲9・99評価に照らしても,解釈基準所定の数値の判断に重大な事実誤認があると主張するところ,かかる騒音予測評価をもって本件認可につき,その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなるなどと主張するので,各評価につき以下検討する。
(ア) 本件評価書について
本件評価書は,本件工事計画と類似する箇所における鉄軌道騒音の実測調査を行った上で(実測地点No1・堀割構造部〔阪神電鉄本線野田駅・梅田駅間〕,No2・橋梁部及びNo3・橋梁部〔同西大阪線出来島駅・福駅間〕,No4・高架構造部〔同線左門殿川橋梁・神崎川橋梁〕),「鉄軌道騒音の予測に当たっては,高架構造部,橋梁部,掘割構造部が存在することから,広い条件での適用可能な予測手法である森藤らの提案式(森藤式)を用いることとした」としつつ,予測地点No①(高架構造部)につき昼間52dB,夜間48dB,同②(橋梁部)につき昼間58dB,夜間54dB,同③(高架構造部)につき昼間56dB,夜間51dB,同④(堀割構造部)につき昼間59dB,夜間54dBと,いずれも解釈基準の数値を下回る騒音予測をしたところ(<証拠省略>),以下のとおり,控訴人らは本件評価書につき多くの問題があると主張する。
a 独自の改変について
(a) 控訴人らは,森藤式は,騒音源を転動音,構造物音,車両機器音の3つに分けた上で,転動音の音源パワーレベルは,列車速度,レール表面及び車輪踏面状態,軌道種別に依存すると明記しており,構造物種別を挙げていないところ,本件評価書は転動音を構造種別に算出したが,構造物の吸音や反射特性は別に評価する構造物音に含まれており,転動音に影響しないから,転動音の算出において構造物種別を考慮するのは誤りであり,森藤式では不都合な結果となるため勝手に改変したと主張する。
確かに,森藤式は,転動音の音源パワーレベルは,列車速度,レール表面及び車輪踏面状態,軌道種別に依存すると明記しており,構造物種別を挙げていないこと(<証拠省略>),本件評価書は転動音を構造種別に算出したこと(<証拠省略>)が認められるが,他方,本件評価書の作成にあたったH(受託コンサルタントDの技術士)の陳述書(<証拠省略>)によれば,構造によって吸音や反射特性は異なるから構造によっても転動音の音源パワーレベルは異なるとの見解に立つ余地があることが認められ,森藤式もこれを否定する趣旨とまでは認められないから,森藤式を用いることとしたとしつつした上記の点をもって直ちに過誤と認めることはできない。
(b) 控訴人らは,本件工事計画の高架構造はスラブ軌道であり,森藤式はスラブ軌道の転動音パワーレベルを100~105dBとするところ,本件評価書は95dBと設定したから,森藤式を逸脱していると主張する。
確かに,森藤式はスラブ軌道の転動音パワーレベルを100~105dBとすること(<証拠省略>),本件評価書はスラブ軌道の高架構造部の転動音パワーレベルとして95dBを基礎としたこと(<証拠省略>)が認められるが,他方,森藤式は,ロングレール,防音壁以外に特別な騒音対策がとられていない線路条件を前提として,音源パワーレベル数値を100~105dBとしていて,森藤式が考慮していない具体的な騒音対策の例示として,転動音・車両機器音につき軌道面の吸音化(バラスト散布等),構造物音につきバラストマット・弾性まくらぎ等を挙げ,騒音に対する追加対策の効果は音源パワーレベル算出のモデル式に補正値を加算して評価されると明言している(<証拠省略>)。しかるところ,本件工事計画で採用された「弾性マクラギ直結軌道」は,上記弾性まくらぎに相当すると認められるから,その材質・形状(レールが設置されているマクラギの下面・側面を弾性材で被覆し,その周囲にコンクリートを充填してマクラギを固定した,レールから構造物に伝わる振動が低減される軌道)からして,森藤式が前提とするスラブ軌道に比べて,抑音効果があると認められ(<証拠省略>),森藤式の下限値を5dBを下回る音源パワーレベルの設定が直ちに合理性を欠き過誤とまで認めることはできない。
(c) 控訴人らは,森藤式は音源パワーレベル値に幅を持たせつつ中央値の採用を推奨するところ,本件評価書は,理由の説明なく,橋梁部・堀割構造部の転動音,高架構造部の構造物音につき森藤式の下限値を採用したもので,予測値を低く算出するため恣意的に下限値を採ったと主張する。
確かに,本件評価書は橋梁部の転動音(バラスト軌道・95db),堀割構造部の転動音(スラブ軌道・100dB),高架構造部の構造物音(スラブ軌道・83dB)につきそれぞれ森藤式の下限値を採用したことが認められる(<証拠省略>)が,他方,それでも設定された音源パワーレベル値は,森藤式によるパワーレベル値の範囲内にとどまるし,また,前記bのとおり本件工事計画で採用された弾性マクラギ直結軌道は,森藤式が前提とするスラブ軌道に比べて,抑音効果があると認めうるから,かかる森藤式の範囲内のパワーレベルの設定が直ちに合理性を欠くとはいえない。
また,控訴人らは,森藤式で例示された音源パワーレベル値は,ロングレール,防音壁以外に特別な騒音対策がとられていない線路条件を前提としていることから,本件工事計画の条件には直接対応しないとの被控訴人の反論に対して,パワーレベルの設定は,実測した列車毎に具体的条件(列車長,両数,速度等)を森藤式に代入して得られた計算値と,実測値を比較検証して行うもので,実測値とその具体的条件しか対象になっておらず,予測を適用する計画の内容は無関係であり,パワーレベルを設定する際の計算値と実測値の検証は,1対1の相関関係になることを目指しながら行われ,実測値の前提条件と計算値の前提条件が異なるようでは1対1の相関関係を目指す意味が失われるから,むしろ予測対象である計画内容を前提条件に折り込んではならないとも主張する。
しかし,前記(b)の説示のとおり,森藤式自体,例示された音源パワーレベル数値が,ロングレール,防音壁以外に特別な騒音対策がとられていない線路条件を前提としており,騒音に対する追加対策の効果が音源パワーレベル算出のモデル式に補正値を加算して評価されるとしているのであって,森藤式が考慮していない具体的な騒音対策の例示として,転動音・車両機器音につき軌道面の吸音化(バラスト散布等),構造物音につきバラストマット・弾性まくらぎ等を挙げているのであるから,森藤式で考慮されていない本件工事計画における防音対策を予測値の計算にあたって考慮するのは合理性があるといえ,かかる主張は採用し難い。
(b) 控訴人らは,技術指針(<証拠省略>)が,予測の前提条件等の明確化(予測手法の特徴とその適用範囲,予測の前提条件,予測に用いた原単位やパラメーター等につき,その設定根拠・妥当性を明確にすること)を求めるところ,本件評価書にその旨の記載がされていないと主張する。
確かに,本件評価書に上記説明の記載はなく,予測方法の詳細を評価書中に記載することは望ましいといえるが,他方,評価書(準備書)については,騒音専門家も含む専門委員会で検討が行われ,予測モデル・手法等につき控訴人らの主張と同様の指摘も含む住民らの詳細な意見も踏まえて,音源パワーレベルの設定方法等につき都市計画決定権者,事業者からの説明(線路構造別に音源パワーレベルを設定することの妥当性等)や資料提出を受けた検討の結果,予測モデルのパラメータ設定等は妥当であるとされたものであり(<証拠省略>),評価書内に手法の説明がないことを直ちに過誤と認めるのは相当でない。
b 実測データ等の取扱いについて
(a) 控訴人ら,本件評価書は,実測地点No2(橋梁部)の25m地点のデータにつき,本来,騒音計の時間重み特性(動特性)をslowとして計測すべきところをfastとして計測した誤りがあると主張する。
確かに,かかる設定が認められ(<証拠省略>),鉄軌道騒音の騒音測定については騒音計のslow動特性を用いてピークレベルを読みとるのが適当な手法であるとも認められるが(<証拠省略>),他方,これが予測結果に与えた具体的な影響は控訴人らの主張立証によっても明らかでないうえ,継続的な騒音については,その間に衝撃的な騒音が入らなければ騒音計の動特性をfast/slowのいずれに設定して測定しても,測定値にほとんど差は生じず,実際の記録紙には衝撃性の騒音が見受けられなかったことから,slowに設定して計測した場合との差はほとんどないと考えられるともされること(<証拠省略>)等に照らすと,かかる設定をもって予測結果に影響したことを認めるに足りず,本件評価書に直ちに過誤があると認めることはできない。
(b) 控訴人らは,本件評価書において,理由が明記されないまま除外された実測データが多々あり,プロット数が少なく,恣意的にデータが取捨選択されたなどと主張するので,以下検討する。
ⅰ 実測地点No1(堀割構造部)の実測値25m地点の実測データが除かれていること,その理由が本件評価書に記載されておらず,住宅立地状況の写真が添付されているわけではないことが認められるところ(<証拠省略>),除外の理由は,周辺に住宅立地が認められ,その影響が及ぶ可能性があるためと説明される(<証拠省略>)。しかるに,森藤式において,市街地の騒音を予測する場合は,家屋等の遮蔽・反射の影響を無視できないが,実際にその影響を正確に評価することは極めて困難であり,建物の遮蔽・反射の効果はその場その場の建物の状況に応じて改めて考慮すべき問題であるとされており(<証拠省略>),これをもって住宅立地の認められる地点の実測データを除外する趣旨とまでは解されず,本件評価書にその理由が明記されていないことにも照らすと,かかる除外は予測結果の正確性に対する疑問を生じさせるものであり,かかる除外を過誤と推認すべきである。
ⅱ 実測地点No4(高架構造部)の下り線の実測データが除かれていること,その理由が本件評価書に記載されておらず,軌道構造の現地写真が添付されているわけではないことが認められ(<証拠省略>),かかる除外は予測結果の正確性に対する疑問を生じさせうるものではあり,軌道構造が異なるのに実測した理由も明らかでない。他方,下り線のデータを除いた理由は,実測した結果が下り線が上り線に比べて総じて大きくなっており,その理由が実測地点No4における軌道構造が,上り線は本件工事計画と同じ防振軌道構造のコンクリート道床であるが,下り線は通常のスラブ軌道であったため,本件工事計画と同じ条件である上り線のデータのみを使用したとのHの陳述(<証拠省略>)があることに照らすと,かかる除外をもって直ちに恣意的であるとか本件評価書の過誤とまでいえない。
ⅲ 実測地点No2,3(橋梁部)の直下の実測データが除かれていること,その理由が本件評価書に記載されていないことが認められ(<証拠省略>),かかる除外は予測結果の正確性に対する疑問を生じさせうるものである。そして,このデータを除いた理由は,予測モデル検証の際,橋梁直下のデータのみ実測値が相対的に高くなり,実測値と予測モデルによる計算値との間で整合性(現況再現性)が得られず,他の3地点の値との比較から実測値が異常であると判断されたからであり,かかる不整合が生じたのは,実測値が10dB高く読み違えられていたからと説明されるから(<証拠省略>),残りのデータを使用して導出した音源パワーレベルによる計算値と実測値の相関係数が0.787とかなり高いといえるにしても(<証拠省略>),最大の騒音が実測されたであろう直下のデータを使用しなかったことは予測結果に影響したはずであり,これをもって本件評価書の過誤といえる。
ⅳ 以上の実測データの除外により,騒音レベルの最大値の実測値と計算値(予測値)の比較結果図面(<証拠省略>)におけるプロット数は実測点よりも少なくなっていることが認められるところ,かかるプロット数の減少は予測結果の正確性に対する疑問を生じさせうるものであり,少なくとも前記ⅰ,ⅲのデータ除外は過誤といえるものである。なお,控訴人らは,前記認定にかかる除外のみによっては説明できないプロット数の減少があり,実測値が恣意的に取捨選択されたと推察されるとも主張するが,上記除外データの他に個別具体的にどのデータがプロットされなかったのか直ちには明らかでなく,恣意的な取捨がなされたとまで認めるに足りない。
被控訴人は,本件評価書133頁各図は,甲9評価2頁図2<省略>と同様,実測値と予測値がほぼ1対1の対応を示しており,現況再現性に問題はないと主張するが,同図2は,Fが本件評価書が設定したパラメーターを用いて全ての実測値をプロットしたものであるところ,図2は斜め45度の線の上側(危険側)によりプロット数が多いものであって両評価書のプロット図が必ずしもほぼ1対1の対応を示しているとまでいえず,また,上記のとおり本件評価書につき現況再現性に何ら問題がないとまではいえない。
以上の検討によれば,少なくとも,前記ⅰ,ⅲのデータが除外されたことは過誤といえ,これに対応するデータがプロットされない結果となったことも過誤といえるが、前記ⅱのデータがプロットされなかったことは過誤とまでは認められないものである。
c 予測対象地点数について
控訴人らは,本件工事計画は全線延長3.4kmであるところ,列車走行騒音が問題となる地上走行部分は合計0.9kmであり,できる限り多くの地点を予測対象地点として採るべきであったのに,わずか4地点しか予測対象としていないと主張する。
確かに,本件工事計画は全線延長3.4km,列車走行騒音が問題となる地上走行部分は合計0.9kmであるところ,実測地点は4地点,予測地点も4地点であるが(<証拠省略>),他方,技術指針は「予測範囲は現況調査の調査範囲に準じ,予測地点は現地調査における調査地点を基本とし,高さ方向を含めて,影響が最大となる地点等を複数選定すること」とするから(<証拠省略>),本件工事計画においては,高架,掘割,橋梁といった構造別に,騒音の影響が最大となると思われる予測地点を最低1地点選定する限りにおいて,技術指針に反するとは直ちにいえないし,専門委員会においても,予測地点の設定は妥当なものと考えられると結論づけられている(<証拠省略>)。また,解釈基準は,騒音レベルを定める地点につき「沿線屋外の地上1.2mの高さにおける近接側軌道中心線から水平距離が12.5mの地点」を定めるのみであり,特に測定地点・予測地点の数に関して何ら定めていないし(<証拠省略>),解釈基準は騒音対策の指針を受けて策定されたところ,同指針は解釈基準と同様の地点のうち,「鉄道用地の外部であって,なるべく地域の騒音を代表すると思われる屋外の地点」を測定点として選定するものと定めるが,測定地点・予測地点の数に関しては何ら定めていない(<証拠省略>)。
したがって,より多くの予測地点を設定するのが望ましいものではあっても,本件評価書の予測地点が4地点であることを直ちに過誤と認めることはできない。
また,控訴人らは,騒音対策の指針は,測定地点の選定に関するものであり予測地点に関するものではなく,測定地点は,実測作業に費用がかかるため予算上の制約があるが,予測地点は,実測データを基にコンピュータで計算する地点にすぎないから,甲99評価のように沿線全地点の予測をすることも容易かつ可能であるとも主張する。しかし,技術指針,解釈基準,騒音対策の指針のいずれにも予測地点の数に関する定めがない以上,これが4地点であることを直ちに過誤と認めることはできない。
さらに,控訴人らは,甲99評価を基に本件評価書は騒音が最大となる地点をあえて外していると主張するが,甲99評価をもって直ちにそう認定できるかは後記エのとおり疑義があるし,これをもっても,本件評価書の作成において騒音が最大となる地点をあえて外したとまで認めるに足りない。
d 以上の検討によれば,本件評価書は,前記b(b)のとおり,実測データの取扱いにつき,実測地点No1の25mデータの除外(同ⅰ),同No2・3の橋梁直下データの除外(同ⅲ)及びそれに伴う比較結果図面のプロット数の減少(同ⅳ)の点は過誤といえるが,前記a,b(a),cのとおり,その他の控訴人ら指摘の点はこれをもって直ちに過誤ないし恣意的操作とまでは認められないものである。
したがって,本件評価書は,上記ⅰ,ⅲ,ⅳの点を除く部分を判断資料とすることができ,これによれば,予測地点No①・③(高架構造部)においては解釈基準所定の数値をクリアーしているということができ,同②(橋梁部),同④(堀割構造)に関しては判断資料とするのは相当でないというべきである。
(イ) 甲9評価について
a 甲9評価は,<証拠省略>によれば,概略以下の手順により作成され,以下のとおり予測されたことが認められる。
(a) 本件評価書が用いた実測データを逐次照合してデータの読み間違い(前記b(b)ⅲ)を適切に修正し,同ⅰ,ⅱのデータを含めて実測データを除外することなく,森藤式により予測した。
(b) ①転動音,②構造物音,③車両機器音につき,堀割構造部は③+①,高架構造部・橋梁部は③+①+②であるから,まず③の最大値を求め,前記(a)の実測データから差し引いて①の寄与を求め,①は鉄道構造に関わらず同じ大きさであるとの前提の下,それぞれの実測データから③と①を差し引いて②の寄与を求め,①ないし③それぞれのパワーレベル値を算出した。
(c) これを森藤式の予測モデルに再代入して,各列車毎に算出した計算値(最大値)がそれぞれの実測データ(最大値)をよく再現できていれば設定したパワーレベル値が妥当であることが検証されるところ,各構造につき計算値を横軸,実測値を縦軸としてプロットすると,斜め中心線を中心に均等にバラツキがあり,パワーレベル値が妥当に設定されていることが判った。
(d) その結果,甲9・3頁<省略>のとおり,予測地点No①(高架構造部)につき昼間56dB,夜間52dB,同②(橋梁部)につき昼間58dB,夜間54dB,同③(高架構造部)につき昼間59dB,夜間55dB,同④(堀割構造)につき昼間62dB,夜間58dBと予測した。
本件評価書の予測値と比較すると,予測地点No①は昼夜とも4dB上回り,同②は昼夜とも一致し,同③は昼間が3dB,夜間が4dB上回り,同④は昼間が3dB,夜間が4dB上回るところ,同④においてのみ,解釈基準の数値より昼間が2dB,夜間が3dB上回ることとなる。
b しかるに,甲9評価は,転動音の音源パワーレベルを構造物種別に設定していない点(前記(ア)a(a)参照),スラブ軌道の高架構造の転動音パワーレベルを100~105dBの範囲を基礎として設定した点(同(b)参照),高架構造部の構造物音につき森藤式が推奨する幅のある音源パワーレベル値のほぼ中央値を採用した点(同(c)参照)は森藤式により整合するといえるし,また,実測データを修正するなどして全て採用してプロット図を作成した点(同b(b)参照)は,実測データを無駄にせずに予測をしたともいえる。
しかしながら,甲9評価は,本件工事計画が前提とする騒音を低減させる配慮(防振構造,高さ約6m等の相当な防音壁の設置)を考慮していないことが明らかである。
そうすると,甲9評価は,予測地点No①ないし③については解釈基準の数値を超えると予測するものでなく,同④について解釈基準の数値を昼間2dB,夜間3dB超えると予測するものであるも,上記本件工事計画が前提とする騒音低減措置を考慮していないことに照らすと,上記の数値が本件工事計画の騒音予測の数値として妥当なものと断定はできず,解釈基準所定の数値をクリアーしているか否かにつき事実誤認があったとまではいい難い。
c しかるに,控訴人らは,甲9評価による予測値が解釈基準の数値を超える地点数は本件評価書の予測地点4か所のうち4分の1を占め,超過の程度も大きく,わずかな予測地点の中の1地点においてさえ,基準を超える数値が予測されたことが重視されるべきであると主張する。
確かに,甲9評価における予測は,予測地点No④地点のみ解釈基準の数値より昼間が2dB,夜間が3dB上回るものではあり,解釈基準が基礎とした前記騒音対策の指針(<証拠省略>)の考え方に照らせば,同基準が定める予測地点(沿線屋外の地上1.2mの高さにおける近接側軌道中心線から水平距離が12.5mの地点)は同地点よりも軌道に近い場所・遠い場所のいずれをも含む地域の騒音を代表する地点として選定されたものと考えられ,同地点において予測される騒音が解釈基準の数値を超える程度が2~3dBであることをもって直ちに問題ではないとするのは相当でないが,他方,上記のとおり,同数値が本件工事計画の騒音予測の数値として妥当なものと断定できず,仮に,同数値を前提とするとしても,現実にどれだけの騒音が発生するかは工事施行認可段階では予測であることに伴う不確実性があって,騒音防止装置については鉄道輸送施設完成後も充実・改善の余地があり,超過幅が上記の程度である限りは,実際に後記ウ(イ)のように適切な防音壁を設置するなどの対策により解釈基準を満たすことは十分可能であると認められること(<証拠省略>)などからすれば,少なくとも甲9評価での上記数値超過をもって直ちに解釈基準所定の数値をクリアーしているか否かにつき事実誤認があったとまではいい難い。
(ウ) 甲99評価について
a 甲99評価は,甲99及び弁論の全趣旨によれば,以下の手順により作成され,予測されたことが認められる。
(a) 騒音を平面的・立体的に予測し,沿線に分布する住宅における騒音被害状況を戸別に定量的に把握することを目的とし,本件評価書の実測データを採用し,森藤式に準拠して,地上部分の全沿線にわたって軌道の周辺空間(地上1.2mの地点)において平面的(軌道中心から東西約50mの範囲)に予測し,これに周辺の建物の状況に重ね合わせて立体的(建物1~6階,8階,13階部分)に予測して,各高さにおける騒音状態とその広がりを表示した。
森藤式は,線路は平坦・直線,列車は低速走行を条件とするところ,本件工事計画の地上部分は,堀割,高架,橋梁,高架と軌道構造が変化しながら,かつ線路が平坦・直線でないため,地上部分のうちカーブと傾斜がある部分については,微分法の発想を用いて,数十m単位の直線かつ平坦の線路部分に分割し,軌道をこれら線路部分が連なっているものと近似させて,各線路部分に森藤式を適用し,各部分の高さは各区間の平均値とした。森藤式は線路が無限に延びていることを前提とするため,区分した線路の長さに合わせて受音点から見た両端の角度として取り出して角度補正し,各受音点について全区間からの暴露騒音を合成した。
沿線の建物による音の回折・反射の影響は考慮していない。
(b) その結果,昼間において,難波行き側で予測地点No③の難波寄りから同④を越える辺りまでの間,西九条行き側で同③の難波寄り約50mの辺りから同④を越える辺りまでの間で,解釈基準の数値を超える騒音が発生することが予測され,その騒音レベルは堀割に入る直前が最高で63dBになる。また,夜間において,難波行き側で同③西九条寄りから同④過ぎ約50mまでの間で,西九条行き側で同③地点から同④難波寄り約50mまでの間で,解釈基準の数値を超える騒音が発生することが予測され,その騒音レベルは堀割に入る直前が最高で58dBになる。
上記予測によれば,解釈基準の数値を超える区域は,およそ予測地点No③から同④の約300mの九条中通線沿線にわたり,その程度も最高3~4dBを超過するものとなる。
b 甲99評価は,前記aのとおり,森藤式に準拠したとつつ,微分法の発想を用いて線路部分を分割し,かつ角度補正も加えて予測を行ったとされるが,森藤式は鉄道騒音の要因を定量的に把握するための基準条件として,線路が平坦・直線であることを前提とするから,かかる条件そのものに補正を加えた予測手法が森藤式によるといえるのかは疑問なしとしないし,かかる手法が鉄道騒音の予測手法として確立されたものであることを認めるに足りる的確な証拠はない。また,前記aのとおり,沿線の建物による音の回折・反射の影響は考慮していないとするところ,森藤式においても,市街地の騒音を予測する場合は,家屋等の遮蔽・反射の影響を無視できず,その効果は建物の状況に応じて補正値を考慮しなければならないとしており,かかる考慮がされていないことは甲99評価の信頼性に対する疑問を投げかけるものといえる。
この点,控訴人らは,道路騒音については,「騒音に係る環境基準について」(平成17年5月26日環境省告示第45号・<証拠省略>)を受けて,幹線道路について道路から50mの範囲の沿線全部の騒音予測が全国的に行われているなどと主張するが,上記告示は「鉄道騒音に適用しないものとする」と明確にその適用を除外しているから(<証拠省略>),同告示をもっては上記手法を直ちに正当化できない。
これに前記(イ)b,cでの検討を加えると,少なくとも甲99評価をもって直ちに解釈基準所定の数値をクリアーしているか否かにつき事実誤認があったとまではいい難い。
ウ 近接住宅の著しい騒音について
(ア) 被控訴人は,技術基準省令6条適合性の判断は,実施基準に解釈基準と合致する指針値が規定されていることなど解釈基準に定められた測定地点(沿線屋外の地上1.2m,近接側軌道中心線からの水平距離12.5mの地点)における指針値の適合性を判断すれば足り,上記以外の地点における騒音の発生を考慮することはないと主張する。
確かに,技術基準省令は,鉄道施設等の構造及び取扱いについて,必要な技術上の基準を定めるものであり(同1条),解釈基準(<証拠省略>)は,鉄道施設等の構造及び維持管理並びに運転取扱いに関して,技術水準等を踏まえ,技術基準省令等の内容を具体化,数値化した標準的な解釈を定めたものであって,その内容は鉄道施設自体の一般的な構造等に関する基準が中心となっている。しかし,技術基準省令6条は「鉄道事業者は,列車の走行に伴い発生する著しい騒音の防止に努めなければならない」と規定するのみであり,解釈基準においても「住宅を建てることが認められていない地域及び通常住民の生活が考えられない地域」には基準を適用しないとするなど,鉄道施設の立地状況による考慮がされないわけではない。そして,解釈基準の基礎となった騒音対策の指針(<証拠省略>)では,「3 その他」において,線路に著しく近接した施設等があらかじめ存在していた場合など,特殊な事情により騒音問題が発生する場合には,必要に応じた対策を講じることを規定している。しかも,前述したように(前記1〔原判決第3・1(2)〕),工事施行認可に関する事業法等の規定は,鉄道事業に伴う騒音等によって,当該事業地の周辺地域に居住する住民に健康又は生活環境の被害が発生することを防止することもその趣旨及び目的とするものであり,騒音等によってかかる著しい被害を直接的に受けるおそれのある個々の住民に対して,そのような被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解されることに照らせば,解釈基準に定められた測定地点よりも鉄道施設に近接した住居等に著しい騒音被害が発生する蓋然性が認められる場合には,裁判所の審査における判断の基礎となる重要な事実に該当すると解すべきであって,被控訴人の主張は採用できない。
(イ) <証拠省略>によれば,西大阪延伸線は,特に九条3丁目地区において既存の住居等に近接して高架構造の鉄道施設が新設される計画となっており,当該近接・中高層住宅では,本件評価書における騒音予測でも,解釈基準に定められた地点よりも鉄道軌道に近接した地点において,最大で昼間72.5dB,夜間70dB程度(予測地点No④)の騒音が生じるものと予測されたと認められる(<証拠省略>)。
しかし,本件評価においては,環境の保全及び創造の見地からの意見や公述意見で,上記高架隣接地の住民に対する騒音被害等についての懸念等が表明され,専門委員会でも,至近住宅及び中高層住宅について生活環境の保全のための適切な措置を講じる必要があるとの評価が示され(<証拠省略>),準備書に対し,評価条例20条に基づき専門委員会の意見を踏まえて大阪市長から「本路線における生活環境の保全のため,住宅等の立地状況に十分配慮し,必要に応じて適切な騒音・振動対策を講じること。また,供用後,事後調査により予測結果の検証を行うこと」との意見が述べられ,これに対し,都市計画決定権者から,「評価地点よりも線路に近接した住宅や中高層住宅等では,騒音の指針値等を超える地点がある。そのような箇所では高欄の嵩上げ,消音バラストの散布等の騒音対策,防振低減効果のより大きい防振材を用いた軌道の採用等の振動対策が考えられるが,今後その適用方法,効果の検討を行い,必要に応じて適切な措置を講じることとする。さらに,供用後に事後調査を行い,予測結果の検証を行うこととする」との見解が示されたものである(<証拠省略>)。
そして,Aは,上記意見を踏まえ,また,国土交通省からの情報提供を受けて,平成15年1月から現地調査等を行った上で,上記近接・中高層住宅の騒音防止対策として,透明板等を利用した高さ約6mのセミシャッター型防音壁の設置等を決定しており(ただし,材質等の詳細は決まっていない。),その設置が可能であり,これにより,音の伝播経路が遮蔽され,音源と受音点とを結ぶ線(音線)の遮蔽の程度(行路差)に応じて相応の防音効果があると認められる(<証拠省略>)。
かかる事実によれば,本件認可当時,近接・中高層住宅についても著しい騒音被害が発生しないような対策を講じる必要性が認識されており,上記防音壁の設置を考慮すると,上記騒音予測数値もこれを低減した数値として考慮せざるを得ず,近接・中高層住宅における上記騒音値の予測をもって,上記近接・中高層住宅において著しい騒音被害が発生する蓋然性があったとはいえず,事実誤認があったとはいえない。
(ウ) この点,控訴人らは,高さ6mの防音壁を設置するためには,高架構造物の構造計算において高さ1.5m程度の防音壁設置とは根本的に条件が異なり,本件認可にかかる設計を前提としてはそのような防音壁の設置は不可能であると主張するが,前記(イ)のとおり,本件工事に基づく高架構造で上記防音壁が設置可能であると認められ,その他,上記騒音防止対策により近接・中高層住宅での騒音被害の防止が可能である認定を覆すに足りる証拠はない。
また,控訴人らは,適切な防音壁を設置するなどの対策により解釈基準を満たすことが十分可能とするのは,本件認可後の事情をもって事後的に解釈基準を満たすとしたもので,違法判断の基準時を誤るなどと主張するが,前記(イ)の判断は,別段本件認可後に新たに生じた事情をもって事後的に解釈基準を満たすとしたものではなく,本件認可当時の事情として,本件工事計画により現実に設置される騒音防止設備が,発生する騒音の程度に応じてこれを更に拡充することができる構造となっていることが審査段階で予測ないし認識することが可能な状況であったことを考慮したにすぎないから,かかる主張は採用できない。
なお,甲9・99評価は上記の防音壁の防音効果等の騒音防止対策を考慮に入れて予測したものでもないから,これを基に,近接住宅につき予測される騒音被害が深刻かつ広範囲に及び,控訴人らにおいて受忍限度を超える重大な騒音被害が発生する蓋然性があるとまで認めるに足りない。
エ 結論
被控訴人は,事業法施行規則10条の資料をもって,事業者が届け出た実施基準に解釈基準と合致する指針値が規定されていること,線路実測図から線路構造及び線路中心線から左右100m内の建物の連たん状況及び河川・道路の状況,橋梁区間においては騒音が著しい無道床鉄桁橋梁が採用されていないこと,工事計画,実施基準,橋梁及び土留擁壁区間の構造物の断面図等の各種図面から防音壁の設置があること又は設置が可能なこと,バラスト道床あるいはコンクリート道床を採用し,コンクリート道床は防振構造で消音バラストを散布可能なこと,当該区間はロングレールが敷設されること等を確認し,これらの仕様等がこれまでの騒音数値に関する知見に照らし,工事計画において騒音の発生を低減させる配慮がなされており,線路外に漏れる騒音が少なくなる措置が採られているあるいは講ずることが可能であることを確認して,本件工事計画が解釈基準に定める数値を基準として「著しい騒音の防止に努めている」と判断に至るなどして本件認可をしたものである(<証拠省略>)ところ,前記イのとおり,甲9・99評価をもって,直ちに解釈基準所定の数値の判断に重大な事実誤認があるとまではいえず,近接・中高層住宅における騒音値の予測もセミシェルター型の防音壁の設置により低減した数値として考慮すると重大な事実の誤認といえないから,本件認可において技術基準省令6条適合性を認めた被控訴人の判断が,その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合,又は,事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められるものではなく,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となると認めることはできない。
(2) 5条(危害や防止)適合性について
原判決「事実及び理由」第3・2(1)イ(ア)記載のとおりであるからこれを引用する。
(3) 8条(応急復旧の体制)適合性について
原判決「事実及び理由」第3・2(1)イ(イ)記載のとおりであるからこれを引用する。
この点,控訴人らは,工事施行中であっても自然災害,工事設計・施行上の過失や手抜きなどの人為的災害などが生じる可能性はあり,それらの災害等に備えた体制が必要である点は,運転開始後と変わりはなく,本件のように大規模工事が数年にわたって継続される場合は,工事期間中になんらかの災害等に遭遇する可能性も高く,それらの危険が市街地において現実化すれば沿線住民に甚大な危害を及ぼすから,工事施行中においても応急復旧の体制を定めることが求められているなどと主張する。しかし,引用にかかる原判決の認定・説示のとおり,技術基準省令8条の応急復旧の体制の規定は,公共交通機関である鉄道施設における安全及び安定的な輸送の確保が公共の利害に大きく影響するものであることから,運転事故や災害等により鉄道施設の輸送機能が損なわれた場合に,応急復旧の体制を予め定めておくことでなるべく早く輸送機能を回復させ,もって公共の福祉を図る趣旨のものと認められるから,かかる体制は,列車運行後における鉄道施設の応急復旧体制を意味するものであって,列車運行時までに定められれば足り,工事施行認可の要件とはならないものと解するのが合理的であるから,上記主張は採用できない。
(4) 第3章第2節(線路線形等)の技術基準適合性について
原判決「事実及び理由」第3・2(1)イ(ウ)記載のとおりであるからこれを引用する。
(5) 20条6項(建築限界)及び27条1項(災害等防止設備)適合性について
原判決「事実及び理由」第3・2(1)イ(エ)記載のとおりであるからこれを引用する。
(6) 28条1項(橋りょう下等の防護)適合性について
原判決「事実及び理由」第3・2(1)イ(オ)記載のとおりであるからこれを引用する。
(7) 39条(道路との交差)適合性について
原判決「事実及び理由」第3・2(1)イ(カ)記載のとおりであるからこれを引用する。
この点,控訴人らは,技術基準省令39条が平面交差を禁止したのは,平面交差をした場合の危険性と交通渋滞の問題を生じさせないためであり,本件工事によれば,原判決別紙6<省略>地図④の交差点(交差点④)は高さ制限され,同⑥の交差点(交差点⑥)は完全に遮断されるところ,踏切を設置して交通障害の解消の努力をしている場合には禁止規定に抵触するが,踏切を設置せずに通行不能にした場合はこれに抵触しないというのでは,本末転倒であるから,平面交差とは,鉄道が存しない場合に通常通行可能な車両等の通行が阻害される形態で鉄道と道路が交差することを指すと主張する。しかし,引用にかかる原判決の認定・説示のとおり,技術基準省令39条本文は,立体交差や,交差を設けないで交通を分断することの一切を禁じているものではなく,交通事故の防止や交通の円滑化を目的として踏切道による平面交差を原則として禁じるものであるところ,交差点④は立体交差しているにすぎず,交差点⑥は鉄道線路により分断されるにすぎず平面交差するものではなく,いずれも同条本文に抵触するものではないから,上記主張は採用できない。
(8) 以上によれば,本件工事が技術基準省令に適合するとした被控訴人の判断は相当であり,違法な点はない。
3 本件認可のその他の違法について
(1) 都市計画決定の違法性について
原判決「事実及び理由」第3・2(2)ア記載のとおりであるからこれを引用する。
(2) 鉄道事業許可の違法性について
控訴人らは,鉄道事業許可と工事施行認可は,当該事業者の事業内容の確認及びそれに沿った設備建設という鉄道事業開設に向けた一連の行為について,専ら鉄道事業者の申請の便宜上又は立法技術上の都合から別の行政手続になっているだけであり,事業法は鉄道事業許可において申請した施設について一定期間内に工事施行の認可を申請しなければならないと定めており,当該事業者の施設を含む事業内容の確認(鉄道事業許可)及びそれに沿った設備建設という鉄道事業開設(工事施行認可)が一連の行為であり一体性があり,鉄道事業許可の違法は工事施行認可の違法となるなどと主張する。
確かに,工事施行認可は,「鉄道事業の許可を受けた者」(事業法7条),すなわち「鉄道事業者」に対してされるものであり,鉄道事業者が定めた鉄道施設についての工事計画が,鉄道事業許可申請の際に提出された事業基本計画及び技術基準省令に適合するか否かを判断する手続であること(同法8条2項),その申請期限は鉄道事業許可の際に指定され(同条1項),その期限は正当な理由がある場合に限って国土交通大臣によって延長されること(同条3項),その期限までに工事施行認可の申請がされなかったり,その申請が却下されたりした場合は,鉄道事業許可の取消事由に当たること(同法30条),鉄道事業許可も工事施行認可も国土交通大臣が行うこと,第二種鉄道事業と第三種鉄道事業とは,本来の鉄道事業である第一種鉄道事業を分担する内容のものであり(同法2条),第三種鉄道事業許可は第二種鉄道事業許可と同時にするものとされること(同法5条3項)等は,かかる主張に沿うものといえる。
しかし,行政処分には公定力があるから,これに瑕疵があったとしても権限のある機関によって取り消されない限り有効とされ,先行行為の違法が当然に後行行為に承継されることはないのが原則であるところ,事業法4条1項7号は許可申請書の記載事項として「その事業の開始のための工事の要否」を定め,同法8条1項ただし書は鉄道施設の工事施行認可申請につき「工事を必要としない鉄道施設については,この限りでない」と定めるなど,鉄道事業は鉄道施設に関する工事を伴わないものもあり得,実際に,阪神電鉄は本件阪神事業(第二種鉄道事業)の許可申請に際し,事業の開始のための工事は必要ないとしていること(<証拠省略>),上記許可を受ければ直ちに経営が可能となるのではなく,実際に経営を始めるためには,工事施行認可,工事の完成検査(同法10条),車両の確認(同法13条),旅客の運賃及び料金の認可(同法16条)等の手続を経る必要があること,第三種鉄道事業許可は第二種鉄道事業許可と同時にするものとされるものの,これのみをもって直ちに第二種鉄道事業者に対する鉄道事業の許可と第三種鉄道事業者に対する工事施行の認可が一体の関係にあると言い難いこと等からすれば,鉄道事業許可は工事施行認可に時間的に先行する処分ではあるものの,鉄道事業許可に続いて工事施行認可が必要とされない場合も想定され,同許可・認可により直ちに鉄道事業が開始できるものではないから,両者が相結合して一つの効果を完成する一連の行為であるとまではいえない。そして,鉄道事業の許可に瑕疵があれば,格別にその瑕疵を理由として抗告訴訟を提起し,その違法性を争うことができるのであるから,工事施行認可の取消訴訟において鉄道事業許可の違法事由の有無を審理判断しなければならない必要性はない。
したがって,本件は違法性の承継が認められるべき場合ではなく,控訴人らの主張は採用できない。
なお,仮に鉄道事業許可の違法性が本件認可に承継されるとしても,控訴人らの主張する経営上適切(事業法5条1項1号)でない,輸送の安全上適切(同項2号)でない及び事業の遂行上適切な計画(同項3号)でないとの違法事由はこれを採用できない。
すなわち,事業法5条1項1号は,鉄道事業が国民の日常生活及び経済活動に与える影響の大きさ等に鑑み,良質な輸送を安定的かつ継続的に供給することができる者を選定する趣旨で,事業基本計画がかかる経営を行う上で適切なものであるかを,申請者の想定する収支見積もり,資金計画等に照らして審査するための基準を定めたものであり,控訴人らの個別の権利利益を保護する趣旨を含むものとまでは認められないから,上記主張は,行訴法10条1項の自己の法律上の利益に関係のない違法を主張するものであって失当である。
この点,控訴人らは,行政訴訟による救済範囲を紘大することを目指した平成17年行訴法改正の趣旨を没却しないよう同法10条1項を拡大解釈しなければならず,同条項は特定の者のみの利益を保護するために設けられた処分要件に関する違法事由はその特定の者のみが主張しうるという程度に主張を制限する範囲を限定すべきであり,かかる観点からすると事業法5条1項1号の趣旨は,事業者が経営難に陥りコスト削減をした場合,環境対策がないがしろにされたり,運行の安全性が確保されず大惨事に繋がるという問題があることにあるから,鉄道利用者のみならず広く沿線住民を含めた国民一般を保護する趣旨を含むなどと主張する。しかし,上記改正において行訴法10条1項は何ら改正されていないことからすると,直ちに上記主張にかかる拡大解釈をすべきとはいえないし,また,事業法5条1項の規定の体裁上,運行の安全性全般に関しては,同項2号がこれを規定するものと解されるから,かかる点を同項1号の対象と見るのは困難であって,同主張は採用できない。
また,事業法5条1項2号は,施設の概要,要員の配置計画等,事業基本計画が輸送の安全を確保する上で適切なものであるかを審査するための基準を定めたものであるところ,輸送の安全性が確保されなければ同時に沿線住民に被害ないし影響が生じる場合を想定し得,その利益の保護という観点にも関連する側面があるといいうるから,その違反の主張をもって行訴法10条1項の自己の法律上の利益に関係のない違法の主張とするものでないという余地があるものではある。しかし,本件各事業計画及び本件工事の計画に安全上及び環境対策上違法な点がないことは,前記2のとおりであるから,控訴人らの主張は採用できない。
さらに,事業法5条1項3号は,上記1,2号の規定する他に,事業の遂行上適切な計画を有するかを審査するための基準を定めたものであり,環境・災害対策をもこれに含める余地はあり,沿線住民の利益の保護という観点にも関連する側面があるといいうるから,その違反の主張をもって行訴法10条1項の自己の法律上の利益に関係のない違法の主張とするものでないという余地があるものではある。しかし,本件各事業計画及び本件工事計画に環境等の対策上違法な点がないことは,前記2のとおりであるから,控訴人らの主張は採用できない。
この点,控訴人らは,本件工事計画は,技術基準省令に反する上,要員計画に問題があって輸送の安全上適切とはいえず,環境対策が欠如し,災害対策も不十分であるなど事業の遂行上適切な計画を有しているとはいえないとも主張するが,以上のとおり採用できない。
(3) 道路敷設許可の違法性について
原判決「事実及び理由」第3・2(2)ウ記載のとおりであるからこれを引用する。
この点,控訴人らは,工事施行認可と道路敷設許可は本件各事業の完成のために不可欠な同一官庁の許認可であり,同一の目的を有する一連の行為であるから,本件敷設許可の違法性は本件認可に承継されるなどと主張する。しかし,引用にかかる原判決の認定・説示のとおり,事業法8条の工事施行認可と事業法61条1項ただし書の道路敷設許可は,その趣旨,目的は異なり,鉄道施設の工事が常に鉄道線路の道路への敷設を伴うわけではなく,鉄道線路を道路に敷設する場合であっても,必ずしも道路敷設許可が工事施行認可に先立つわけではなく,工事施行認可は道路敷設許可の存在を前提要件とするものではなく,道路敷設許可と工事施行認可が同一の目的を追求する一連の行為ということもできないから,道路敷設許可の違法は工事施行認可の違法事由にはならないから,上記主張は採用できない。
(4) 違法状態作出の違法性について
原判決「事実及び理由」第3・2(2)エ記載のとおりであるからこれを引用する。
この点,控訴人らは,本件工事が施行された場合,著しい騒音,振動,低周波音,日照阻害,電波障害,地震時の液状化・洪水時の浸水・災害時の住民移動の阻害などの災害対策基本法の違反,住民の日常生活の多大な負担,通学路の危険,交通渋滞,近隣の商店街の活気の喪失等の問題を引き起こすなど,種々の違法状態を作出すると主張する。しかし,引用にかかる原判決の認定・説示のとおり,前記2(1)の判断で示したとおり,本件工事の施行により控訴人らに騒音等の重大な環境被害が生じることが予測されるものとはいえず,証拠<省略>に照らしても,控訴人らが指摘する騒音,振動,低周波音,日照,電波障害及び災害対策上の問題等において,重大な環境被害が発生することを認めることはできず,他に本件工事の施行により違法状態が生じることを認めるに足りる的確な証拠はないから,上記主張は採用できない。
第4結諭
以上によれば,本件認可に違法な点は認められない。
その他,原審及び当審における当事者提出の各準備書面記載の主張に照らし,原審及び当審で提出,援用された全証拠を改めて精査しても,以上の認定,判断を覆すほどのものはない。
以上によれば,控訴人らの請求はいずれも理由がないから,これと同旨の原判決は相当であって,本件控訴はいずれも棄却を免れない。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判官 若林諒 小野洋一 菊地浩明)
<以下省略>