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大阪高等裁判所 平成18年(行コ)54号 判決 2006年11月08日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  控訴人が平成15年7月17日付けでした,身体障害者療護施設「A」設置に伴う補助金の交付申請について,被控訴人が何らの処分をしないことが違法であることを確認する。

第2事案の概要

1  事案の要旨

(1)  本件は,社会福祉法人である控訴人が,神戸市長に対し,身体障害者療護施設の整備費にかかる補助金の交付申請をしたところ,同市長から応答がないまま相当期間が経過したとして,同市長の不作為の違法の確認を求める事案である。

(2)  原審は,身体障害者更生援護施設の整備に対する間接補助金交付の具体的根拠規定はないから,控訴人が神戸市長に対してする身体障害者更生援護施設の整備に対する補助金の交付申請なるものがあっても,これを行政事件訴訟法3条5項にいう「法令に基づく」申請に当たるといえるかは疑問であるし,これを措いても,本件で控訴人が申請行為として主張する,整備計画書の提出行為によっては,補助金交付申請があったとは認められないこと等を説示し,「法令に基づく申請」という不作為の違法確認訴訟の前提要件を欠くとして,訴えを却下した。

(3)  控訴人は,これを不服とし,原判決の取消しと請求の認容を求めて控訴した。

2  前提事実(かっこ内摘示の証拠等によって認める。)

(1)  控訴人は,平成12年9月28日に設立認可された知的障害者や精神障害者等の通所授産施設の設置経営等を目的とする社会福祉法人である(甲1~3,弁論の全趣旨)。

(2)  控訴人は,平成15年7月17日,被控訴人の保健福祉局障害福祉部に,身体障害者療護施設「A」の整備計画書(以下「本件整備計画書」という。)を提出した。本件整備計画書は,当該整備対象施設の予定地(神戸市α),定員予定(90名),規模(鉄筋コンクリート造地下1階地上3階建,4051.50m2),アクセス,立地,整備の理念及び施設長の履歴等の記載並びに当該施設の図面からなる書面である。ただし,補助金に関する記載はされていない(甲1,弁論の全趣旨)。

(3)  控訴人は,平成15年7月25日ころ,被控訴人の保健福祉局障害福祉部障害相談課調査係の職員宛てに,障害者の地域参加及び就労支援のための控訴人の取り組みについての報告書を添付書類とともに提出した(甲2,弁論の全趣旨)。

(4)  社会福祉法人が社会福祉事業を行うについての間接補助金交付制度の概要は,次のとおりである。

ア 社会福祉法人とは,社会福祉事業を行うことを目的として,社会福祉法の定めるところにより設立された法人をいう(社会福祉法22条)。ここにいう社会福祉事業には,身体障害者福祉法上の身体障害者療護施設を経営する事業が含まれている(同法2条1項,2項4号)。

イ 身体障害者療護施設は,身体障害者福祉法上の身体障害者更生援護施設に属し,身体障害者であって常時の介護を必要とするものを入所させて,治療及び養護を行う施設をいう(同法5条1項,30条)。社会福祉法人は,社会福祉法の定めるところにより,身体障害者療護施設を含む身体障害者更生援護施設を設置することができるが(身体障害者福祉法27条4項),これを受けて,社会福祉法上,社会福祉法人が身体障害者療護施設を経営しようとするときは,その事業の開始前に,当該施設を設置しようとする地の都道府県知事に必要事項を届け出なければならないこと等の定めがある(同法62条1項)。

ウ 補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下「補助金適正化法」という。)によれば,補助金等(国が国以外の者に対して交付する補助金等)の交付の対象となる事業等を「補助事業」(2条2項),補助事業等を行う者を「補助事業者等」(2条3項)といい,補助金等を直接又は間接に財源の全部又は一部として,国以外の者が相当の反対給付を受けないで交付する給付金で,当該補助金等の交付の目的に従って交付するもの等を「間接補助金等」(2条1項,4項)といい,間接補助金等の交付の対象となる事業を「間接補助事業」(2条5項),間接補助事業を行う者を「間接補助事業者等」(2条6項)という。

エ しかるところ,身体障害者福祉法及びその他の法令には,身体障害者更生援護施設の整備(創設,増改築等)につき間接補助金を交付する旨の明文規定は存在しない。社会福祉法58条1項は,厚生労働省令又は地方公共団体の条例で定める手続によることを前提に,国又は当該地方公共団体のする社会福祉法人に対する補助金支出等をすることができる旨規定し,同条項に基づき制定された同法施行規則8条は,国が交付する直接補助金につき規定するが,社会福祉法人に対する間接補助金の交付手続を定めた厚生労働省令又は神戸市の条例は存在しない。

オ 社会福祉施設等施設整備費及び社会福祉施設等設備整備費の国庫負担(補助)について(平成3年11月25日厚生省第409号厚生事務次官通知)の別紙「社会福祉施設等施設整備費及び社会福祉施設等設備整備費国庫負担(補助)金交付要綱」(以下「国庫補助金交付要綱」という。)は,社会福祉法人の設置する身体障害者更生援護施設の施設整備事業が,都道府県又は指定都市若しくは中核市(以下「都道府県等」という。)を補助者とする間接補助事業の対象となる旨を定めている(乙3・19頁)。

カ 補助金適正化法は,補助金等の交付手続につき定めるが,間接補助金等の給付手続についての規定はない。国庫補助金交付要綱にも,前記給付手続に関する規定はない(乙3)。

キ 被控訴人が定めた神戸市民間社会福祉施設整備費等補助金交付要綱(以下「神戸市補助金交付要綱」という。)は,民間の社会福祉施設の整備拡充のための補助金の交付等に関する事項を定めるが,これには次の規定がある(乙2)。

(ア) 補助金の交付を受けようとする者は,補助金交付申請書(様式第1号)を市長に提出しなければならない(6条)。

(イ) 市長は,前条の規定による申請書を受理したときは,その申請内容を審査のうえ,適当と認めたときは,補助金の交付決定を行い,その旨を交付決定通知書(様式第2号)により,申請者に通知するものとする(7条1項)。

(5)  社会福祉事業についての間接補助金交付の実際の手続の概要は,次のとおりである(甲11の1~11,12の1~12,乙3,弁論の全趣旨)。

ア 都道府県等は,施設建設を予定している社会福祉法人等の設置者,すなわち間接補助事業者から提出のあった施設建設計画等を明らかにした事業計画書について内容を審査する。

イ 当該都道府県等は,対象となった補助事業について,必要な予算措置を行うとともに,併せて毎年1ないし2月ころに,厚生労働省に対し協議書を提出して国庫補助協議を行う。

ウ 厚生労働省は,都道府県等に対してヒアリングを行い,都道府県等が提出した協議書の内容を審査し,国庫補助協議を経て適切と認められたものにつき,新規事業分に関しては,5ないし7月ころ,都道府県等に対し国庫補助の内示を行う。

エ 都道府県等は,厚生労働省からの国庫補助決定の内示を受けた後,間接補助事業者に補助金交付の内示を行う。

オ 間接補助事業者において,都道府県等に対し(神戸市の場合であれば神戸市補助金交付要綱に従って)補助金交付申請書を提出する。

カ 都道府県等は,間接補助事業者に補助金を交付する。

キ 都道府県等は,8月末日までに,関係書類を添えて間接補助事業に係る補助金の交付申請書を地方厚生(支)局長に提出し,その後,地方厚生(支)局長は,補助金交付決定をする。

3  争点と当事者の主張

(1)  間接補助金交付申請権の有無

〔被控訴人〕

以下の理由により,そもそも,控訴人には,神戸市長に対する間接補助金交付申請権はないから,本件整備計画書の提出が「法令に基づく申請」と評価される余地はない。

ア 行政庁が社会福祉法人に対し補助金を交付する趣旨は,施設整備費等を資金的に援助することにより,当該法人が運営する福祉サービス事業を通じた地域的な福祉政策の実現・向上を図ることにある。したがって,その利益享受主体は,当該社会福祉法人ではなく,地域の障害者等,福祉サービスの利用者であるから,社会福祉法人たる控訴人に間接補助金交付申請権を認めるべき理由はない。

イ 身体障害者更生援護施設等の整備に対する補助金支出の根拠は,国の予算措置であり,これについて都道府県等の権限は一切及ばない。したがって,社会福祉法人たる控訴人に間接補助金交付申請権を認め,その反面として神戸市長がこれに対する応答義務を負うとすれば,何ら処分権限のない行為について申請権を認めることになり,不当である。

ウ 前提事実記載の間接補助金の交付までの手続の流れから明らかなように,本件の間接補助金の交付は,当該間接補助事業等につき,当該都道府県等(の行政庁)が主体となって国に対し申請すること,したがって,当該事業を補助事業とするか否かについての自主的決定権を有することを当然の前提とするものである。したがって,間接補助事業者が提出した整備計画を全て国に提出し,補助金交付申請を行う義務はなく,国庫補助協議や,都道府県等に対する国庫補助があったことの内示等の,間接補助金交付申請の前段階で都道府県等が行う手続を,補助金の交付申請前手続として,間接補助事業者である控訴人の権利に含めるのは相当ではない。

〔控訴人〕

以下の理由から,控訴人に神戸市長に対する間接補助金交付申請権があることは明らかである。

ア 補助金適正化法上も間接補助事業者等に対する間接補助金の交付が予定されていること,神戸市は同法26条により補助金交付にかかる事務の一部を厚生労働大臣から委任されていること,社会福祉施設等施設整備費及び社会福祉施設等設備整備費の国庫負担(補助)について(平成3年11月25日厚生省第409号厚生事務次官通知)も,間接補助事業者が補助金交付請求権を有することを前提としていると解されること,その他厚生労働省設置法や地方自治法の規定ぶりからしても,身体障害者療護施設設置者が間接補助金の支給を求め得ることが優に読みとれるのであって,根拠規定に欠けるところはない。

イ 被控訴人主張のようにある事業を国の間接補助事業とするか否かが都道府県等の自主決定に全面的に委ねられるべきものとすると,当該事業者は,この決定の正当性を争う余地がなくなり(握りつぶしを放置することになる。),不当であることは明らかである。予算不足等を理由とする社会福祉行政の切り捨てや,地域エゴの独断から弱者を保護し,社会福祉行政の全国一定水準の確保の要請を充たし,憲法25条の精神を全うするためには,間接補助金交付申請権が認められる必要がある。その結果として,本件整備計画書等の必要書類が提出された時点で,被控訴人としては,これをとりまとめて,交付申請前手続として,厚生労働省に提出し,内示を仰ぐべき義務が存することになるのである。

ウ 本件においては,以下の経緯があり,信義則上も神戸市長が間接補助金交付申請を放置することは許されない。

(ア) 控訴人は,当初,知的障害者通所授産施設「B」の整備を神戸市β所在の土地において計画していたが,開発制限によりこの計画が頓挫し,γ所在の土地(721m2。以下「γ土地」という。)と被控訴人所有のδ所在の土地(5243m2。以下「本件土地」という。)を代替地候補として検討していた。本件土地は広大であったので,控訴人はこれを分割して譲り受けたい旨被控訴人に懇請していたが容れられず,γ土地を購入する方針で検討を進めることになった。

(イ) しかし,被控訴人は,その後,知的障害者通所授産施設のみならず,身体障害者施設の整備も視野にいれて本件土地を購入することを控訴人に強く勧め,γ土地の購入・整備を止めるように働きかけてきた。控訴人はこれに応じ,γ土地の購入を取りやめて被控訴人から本件土地を2億4643万円で買い入れ,その一部で「B」を竣工し,その補助金交付手続も完了した。控訴人は,その残地において,身体障害者療護施設「A」を設置運営する計画を立てていた。

(ウ) 以上の経緯は,被控訴人が十分理解していることであり,控訴人が間接補助金なしに身体障害者療護施設の設置運営をしていくことが不可能であることも,十分に知悉していた。

(2)  間接補助金交付申請の事実の有無

〔控訴人〕

以下の理由により,控訴人は,本件整備計画書の提出をもって,現実に間接補助金の交付申請行為をしたものというべきである。

ア 本件整備計画書の提出は,争点(1)において主張したとおり,被控訴人から施設整備のための用地を買い入れる等の事情を踏まえてされたものである。したがって,これは単なる相談,事前協議ではなく,具体的に補助金交付手続の発動を求めているものであり,そのことは被控訴人も十分理解していた。

イ 仮に,本件整備計画書の提出が交付申請前の手続だとしても,それが補助金交付申請に至る必要不可欠な先行行為であることは明らかであって,補助金交付申請とは不離の関係にある。神戸市長が上記手続を進捗させずに放置することを肯認するなら,補助金交付申請権はないに等しく,救済の途も閉ざされることとなり,不当である。

ウ 間接補助事業者から補助金交付申請書類が提出された場合,これに対し補助金を交付するか否かの実質的決定権を有しない都道府県等としては,上記書類を全てとりまとめて厚生労働省に送付する義務があり,その前提として,間接補助事業者が提出すべき必要書類の作成については,当該社会福祉法人との事前協議を尽くし,援助,助言を行い,書類を不備のないものとする責務を負っている。そして,被控訴人と控訴人とは,書類の追加等の指導を通じて事前協議を尽くし,提出書類に特段の不備はなかった。

しかるところ,国が,都道府県等に対して,間接補助事業者からの補助金交付申請を受け付ける法的権限を与えた以上,被控訴人が受け付けた,不備のない本件整備計画書の提出による補助金交付申請は,厚生労働省が受け付けたのと同視することができる。

〔被控訴人〕

ア 争点(1)に主張したとおり,控訴人による間接補助金交付申請権が存在しない以上,申請行為も観念し得ない。

イ 平成15年7月17日の本件整備計画書の提出は,補助金交付申請ではなく,手続的には最初の段階である施設整備計画の相談に過ぎない。

(3)  神戸市長の応答(不作為)の有無

〔控訴人〕

ア 上記のとおり,控訴人は,平成15年7月17日に本件整備計画書を提出して補助金交付申請をしたが,これに対し,神戸市長は,今日に至るまで何ら応答をしない。

イ 被控訴人主張の後記事実は,適法な応答があったと評価することができないものである。

(ア) 控訴人は,本件整備計画書を提出した際,必要書類を障害相談課C係員(以下「C係員」という。)に提出するように指導を受け,これに応じて同係員に必要書類を提出したところ,同係員は「控訴人の活動状況が分かる資料を追加提出するように」と控訴人に指導をした。そこで,控訴人は,同月25日,同係員宛てに,障害者の地域参加及び就労支援のための控訴人の取り組みについての報告書を送付した(前提事実(3))。このように,C係員は,控訴人の申請に対して否定的な回答をしてはいない。

(イ) C係員は相談課の一係員に過ぎず,控訴人の補助金申請に対しての処分権限を有しないから,同係員の言動をもって被控訴人の応答があったことにはならない。

(ウ) 平成15年12月25日付けで神戸市保健福祉局長から送られてきた「通知書」(身体障害者療護施設は東部地域に欲しい,神戸市の財政が極めて厳しく,施設建設は厳しい状況にある等の記載がある。乙1),平成16年3月30日付けで神戸市(代理人弁護士)から送られてきた「ご通知」と題する書面(本件土地購入当時に身体障害者療護施設の建設を約束した事実がないこと等の主張が記載されている。乙4)が法律上の応答に当たらないことは,国からの照会に対する回答中で被控訴人自身が認識しており,その書面の体裁(神戸市長名が現れていなかったり,控訴人の申請内容に対する諾否についての記載がなかったり,理由の記載がなかったりする。)からいっても,控訴人の申請に対する応答とは到底評価できない。

〔被控訴人〕

ア 控訴人の主張は争う。争点(1)のとおり,控訴人には間接補助金交付申請権自体が存在しないのであるから,本件整備計画書の提出に対し特段の対応をしなかったとしても,行政事件訴訟法3条5項の意味における違法となるものではない。

イ 仮に,本件整備計画書の提出をもって,「法令に基づく申請」を行っているとの前提に立ったとしても上記提出の後,神戸市長の補助職員は,「身体障害者療護施設は神戸市の西の方に偏っているので,西には要らない。もし,建設するとすれば,東の方にほしい。」と述べ,控訴人の施設整備計画を被控訴人の補助事業として認めるつもりはないという旨の回答をしたから,上記整備計画書の提出に対する応答はされている。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)(間接補助金交付申請権の有無)

(1)  不作為の違法確認の訴えは,行政庁が法令に基づく申請に対し,相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにもかかわらず,これをしない場合において認められる訴えであり,処分又は裁決についての法令に基づく申請をした者に限り,これを提起することができる(行政事件訴訟法3条5項,37条)。

そして,「法令に基づく申請」とは,当該法令上明文で定められている場合に限らず,当該法令に根拠を置く法制度として,特定の者に対し,行政庁が応答義務を負うような申請権が付与されていると認められる場合をも包含するが,そこにいう「応答」とは,処分又は裁決という性格のものでなければならない。すなわち,不作為の違法確認の訴えは,行政庁が処分又は裁決をすべき義務に違反した状態を違法が現実化したものとみて,裁判所が判決によってこれを確認し,この判決に拘束力を認め,行政庁に対して申請について何らかの処分又は裁決を行う義務を課すことにより,この処分又は裁決に対する取消訴訟を可能ならしめることを目的とするものであって,換言すれば,取消訴訟の補充的・前駆的性質の訴訟形態なのである。したがって,不作為の違法確認の訴えの範囲は,取消訴訟を提起しうる処分の範囲を超えるものではあり得ないと解されるのであり,その意味において,問題となっている行政庁の応答が処分性を有するものであるかが法令に基づく,「申請」に当たるか(申請権があるか)否かを決することになるというべきである。

(2)  控訴人の主張は,神戸市長に対して間接補助金交付申請をしたことを前提に,これに対する応答がないことを違法であるというものであるところ,神戸市長に対する間接補助金交付申請の手続を具体的に定めるのは,上記のとおり神戸市補助金交付要綱であって,ほかに,この点に関する法律,政令や神戸市の条例は存在しない。身体障害者福祉法3条,社会福祉法6条,神戸市民の福祉をまもる条例(甲13)34条等の諸規定も,国,地方公共団体及び神戸市長の一般的責務を定めるにとどまり,住民や社会福祉法人について,具体的な権利の存在を予定したものではないし,その実現手続を定めたものでもない。さらに,前提事実(4)ウないしカのとおり,補助金適正化法も,補助事業者に対する補助金等の交付の申請及び決定について定めるものの(第2章),間接補助金等の給付手続を具体的に定めているわけではない。

しかるところ,地方公共団体のする補助金の支給(地方自治法232条の2)は,本来私法上の贈与の性質を有するものというべきであり,そもそも公権力の行使という性格は希薄である。これを公権力の行使と認めるためには,補助金支給を申請することのできる地位に権利性を付与したと認めるに足りる法令の規定が必要というべきである(社会福祉法人に対する補助金の支給に関する社会福祉法58条1項<厚生労働省令又は当該地方公共団体の条例で定める手続に従うべきものとされている。>は,このことを前提とするものと解される。)が,神戸市補助金交付要綱は条例や命令ではなく,神戸市長が被控訴人の内部規則として制定したものであって,法令としての拘束力があるとはいえない。立法者が条例等の法令の形式を選択せず,あえて要綱という方式を選択している以上,これを法令と同視するような解釈は取りえないというべきである。

そうすると,神戸市補助金交付要綱に基づいて神戸市長のする補助金交付決定(7条1項)あるいは間接補助事業者等補助金の交付を受けようとする者からする補助金交付申請(6条)に対する神戸市長の拒否は,いずれもこれを行政処分と認めることはできないし,まして,交付決定に至るまでに手続上予定されている,事業計画書の内容審査を踏まえて被控訴人が必要な予算措置をとり,厚生労働省に協議書を提出し,国庫補助協議を行い,厚生労働省からの国庫補助の内示を受けて間接補助事業者に補助金交付の内示をすること等は,間接補助事業者との間の公法上の権利義務関係に基づいてするものとは考えられず,要するに,神戸市補助金交付要綱の予定する間接補助金支給手続の過程において,行政処分が行われる余地はないものと解される。

(3)  したがって,本件整備計画書の提出をもって間接補助金交付申請行為と評価できるか否か(争点(2))にかかわらず,そもそも,これに対して行政処分性を有する応答がされるとは考えられず,したがって,不作為の違法確認訴訟の前提としての「法令に基づく申請」がされる余地がないのであるから,控訴人に間接補助金交付申請権があるということはできない。

(4)  以上のように解することにつき,控訴人は,間接補助金の交付を希望する事業者からする申出を都道府県等が握りつぶし,これに対して事業者側の対抗手段がないという事態を縷々懸念しているところである。しかしながら,先に説示したとおり,要綱に基づく補助金の交付ないしその拒否には本来行政処分性が認められないというべきであり,その性質は私法上の贈与ないしこれに類似の契約であると解されるから,その契約が締結され,あるいは締結の準備段階において一方当事者の信頼が不当に損なわれるなどの事態が生じた場合には,本来,民事訴訟によって(不作為の違法確認訴訟で認容判決を得た後,別途取消訴訟を提起するという迂路を経ずに)解決されるべきものと解されるのであって,事業者保護の要請が没却されることには必ずしもならないというべきである。

2  結論

以上のとおりであって,その余の争点を検討するまでもなく,控訴人の訴えは不適法と解されるから,却下すべきであり,これと同旨の原判決は結論において相当である。

よって,本件控訴には理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井垣敏生 裁判官 森野俊彦 裁判官 大島雅弘)

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