大阪高等裁判所 平成19年(う)171号 判決 2007年9月12日
上記の者に対する道路交通法違反、労働基準法違反被告事件について、平成18年11月15日京都地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官藤田義清出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役1年に処する。
平成18年6月8日付け公訴事実第2については、被告人は無罪。
理由
本件控訴の趣意は、主任弁護人水野武夫、弁護人元氏成保、同藤内健吉連名作成の控訴趣意書記載のとおりであるが、論旨は、量刑不当の主張であり、要するに、被告人を懲役1年2月に処した原判決の量刑は重過ぎて不当であり、刑の執行を猶予するのが相当である、というのである。
第1職権調査
1 しかし、論旨に対する判断に先立ち、職権をもって検討すると、原判決は理由不備の違法により破棄を免れない。以下、説明する。
2 問題となるのは、原判決の(罪となるべき事実)第1の2である。その要旨(前提事実及び他の訴因に関する記載を省略し、共同被告人に関する記載を整理するなどしたもの)は、以下のとおりである。「被告人は、Y2と共謀の上、被告人が代表者を務める会社の業務に関し、労働者の過半数を代表する者との間で時間外労働に関する協定を締結し、自動車運転者に対して、法定労働時間を超えて延長することができる時間は、1か月につき130時間などと定め、労働基準監督署に届け出ていたのであるから、上記協定時間を超えて労働させてはならないのに、労働者であるBをして、1か月130時間を超えて、(1)平成17年11月16日から同年12月15日までの間に15時間30分の、(2)同月16日から平成18年1月15日までの間に38時間15分の、それぞれ時間外労働をさせた。」
この原判示第1の2の(1)及び(2)の各事実は、その記載自体から明らかなとおり、月単位の時間外労働協定違反の事実である(もっとも、検察官においては異論があるものと思われるが、この点については後述する)。そして、原判決は、「法令の適用」において、原判示第1の2の(1)及び(2)について、いずれも労働基準法32条1項、119条1号を適用している。
しかし、同法32条1項は、「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。」という規定であり、週単位の時間外労働を規制するものであって、月単位の時間外労働協定違反を規制するものではない。そうすると、原判示第1の2の(1)及び(2)については、認定された事実と適用された法令が一見して食い違っているように思われるのである。そこで、この点に関連して、労働基準法の時間外労働に関する罰則規定がいかなるものなのかについて検討する必要が生じる。
労働基準法32条1項は週単位の時間外労働を規制し、同条2項は日単位の時間外労働を規制しているところ、同法36条は、要するに、使用者が、労働者の過半数で組織する労働組合(それがないときは労働者の過半数を代表する者)との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出るなど一定の要件を満たした場合には、同法32条等の規定にかかわらず、その協定で定めるところによって労働時間を延長することができる旨を定めている。このいわゆる「36協定」の締結及びその遵守が、同法32条1項及び2項の時間外労働に関する同法119条1号の罰則規定のいわば免責事由になっていると解される。36協定は、日単位及び週単位の時間外労働協定に限らず、月単位の時間外労働協定であっても許容される。36協定を締結しているにもかかわらず、その協定で定めた限度を超えて時間外労働をさせた場合には、免責事由が認められないことから、いわば元に戻って、同法32条1項及び2項違反が成立することになる。週単位や日単位の時間外労働協定が存在する場合には、それが遵守されなくても、同法32条1項が定める週40時間や同条2項が定める1日8時間を超える部分が直ちに違法な時間外労働となるわけではなく、それらの協定による延長可能時間を超える部分が違法な週単位あるいは日単位の時間外労働となる。以上は、労働基準法の時間外労働に関する罰則規定についての一般的に承認された解釈であるということができる。
これを本件について見ると、被告人は、原判示第1の2の(1)及び(2)のとおり、月単位の時間外労働協定に違反しているのであるから、免責事由が認められず、したがって、その月に含まれる週について、同法32条1項違反が成立し得ることになる。しかし、同法32条1項は、あくまで週単位の時間外労働を規制するものなのであるから、それらの事実は、月単位の時間外労働協定違反の事実としてではなく、週単位の時間外労働の事実として構成されなければならないことはいうまでもない。
もっとも、文献(青林書院・刑事裁判実務体系「7労働者保護」157頁以下)によれば、1か月の期間を単位として延長可能な時間を36協定で締結した場合には、本来、1週間ないし1日単位の規制しかしていない同法32条が、その文言を離れて、1か月単位の規制までをするように修正されると考える見解があるようである。しかし、同文献の著者も同旨の指摘をしているように、労働基準法は、週単位又は日単位の時間外労働を罰則をもって規制し、月単位の時間外労働については直接の規制を設けず、また36協定違反については罰則を設けていないところ、上記のような見解は、時間外労働規制に関する同法の基本的な立場を逸脱するものである上に、解釈によって新たな構成要件を創設するものといわざるを得ず、採用できないことが明らかである。
以上に検討したところからすれば、原判示第1の2の(1)及び(2)の月単位の時間外労働協定違反の事実は、犯罪を構成しない事実というべきである。上記の事実は、平成18年6月8日付け公訴事実第2と同内容のものであるところ、当該公訴事実については、刑訴法336条の「被告事件が罪とならないとき」に該当することになるから、これについて被告人は無罪であることが明らかである(なお、同公訴事実が同法339条1項2号の「起訴状に記載された事実が真実であっても、何らの罪となるべき事実を包含していないとき」に該当するとまではいえない)。
(ところで、(罪となるべき事実)の記載と条文の文言との整合性については、休日労働に関する原判示第1の3についても問題がないではない(同事実の要旨は、「36協定により、法定休日の範囲を超えて労働させることができる休日は、2週を通じ1回だけと定めていたのに、平成17年12月24日から平成18年1月6日までの2週間にわたり、1日の休日も与えず、もって、協定休日の範囲を超えて労働させた」というものであるが、労働基準法35条1項は、「使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならない。」というものである)。しかし、これについては、36協定に違反していることから免責事由が認められず、したがって、上記の2週間を構成する各1週間について、本来は、それぞれ同法35条1項違反が成立することになるが、2週間単位で36協定が締結されている趣旨を踏まえて、それらを包括的に評価することにより、結局、上記の2週間について1個の同法35条1項違反が成立すると解することができるのであるから、原判示第1の3の事実は、同法35条1項違反の事実として不適切ではない)
3 なお、検察官は、当審において、平成18年6月8日付け公訴事実第2(旧訴因)について予備的訴因変更請求を行ったが、当裁判所はこれを許可しなかった。以下、この点について補足して説明する。
旧訴因の要旨(前同様に記載を省略・整理したもの。後述する新訴因の要旨についても同じ)は、「被告人は、自己の経営する会社の業務に関し、同社が、同社の労働者の過半数を代表する者との間で、書面により、平成17年4月16日から同18年4月15日までの時間外労働に関する協定を締結し、自動車運転者に対して、法定労働時間を超えて延長することができる時間は、1か月につき130時間と定め、同17年4月15日、大津労働基準監督署長に届け出ていたのであるから、上記協定時間を超えて労働させてはならないのに、労働者Bをして、上記会社の事務所等において、1か月130時間を超えて、同年11月16日から同年12月15日までの間に15時間30分、同月16日から同18年1月15日までの間に38時間15分の合計53時間45分の時間外労働をさせた」というものである。
他方、上記予備的訴因変更請求書記載の訴因(新訴因)の要旨は、「被告人は、自己の経営する会社の業務に関し、同会社の労働者の過半数を代表する者との間で、書面により、平成17年4月16日から平成18年4月15日までの時間外労働に関する協定を締結し、法定労働時間を超えて延長することができる時間は、1か月につき130時間などと定め、同17年4月15日、大津労働基準監督署長に届け出ていたのであるから、法定労働時間及び上記協定による各延長時間等の範囲を超えて労働させてはならないのに、労働者Bをして労働させるに当たり、上記会社の事務所等において、別表記載のとおり、平成17年12月7日から同月13日までの週及び同月9日から同月15日までの週を通じた週、並びに、平成18年1月6日から同月12日までの週及び同月9日から同月15日までの週を通じた週において、それぞれ、1週間の法定労働時間を超え、上記協定による延長時間1か月130時間を除く15時間30分及び38時間15分の合計53時間45分の時間外労働をさせた」というものである(別表は省略する)。
そこで、旧訴因と新訴因との間に公訴事実の同一性が認められるかどうかについて検討する。この点、検察官は、本件訴因変更請求に際しての意見書(平成19年7月11日付け)において、新訴因の審判の対象は旧訴因と同一の一定期間内の違法な時間外労働の事実であり、基本的事実関係に変更はない旨主張している。確かに、両訴因を構成する労働時間ないし労働日を見ると、時間外労働の各累計時間数は同一であり、新訴因の違反に係る週は、旧訴因の違反に係る月に包含されている。しかし、およそ時間外労働というのは、法定労働時間や時間外労働協定といった一定の規範に照らさなければ観念できないものなのであるから、時間外労働を構成する労働日ないし労働時間が基本的に同一であるとしても、違反している規範を異にしている場合には、それらの時間外労働は社会通念上別個の事実であり、両立し得るものであって、基本的事実関係を異にすると解すべきである(もっとも、それらの規範について、一方が適用される場合には他方は適用されないといった関係があれば別論であり、この点は、週単位の時間外労働(労働基準法32条1項)と日単位の時間外労働(同条2項)の関係が法条競合なのか、併合罪なのかという問題にも現れている。両者の関係を日単位の時間外労働が優先する法条競合とする古い裁判例もあるが、週単位の時間外労働と日単位のそれとを対比して見た場合に、どちらがより悪質であるとか、どちらが基本的な違反形態であるなどと一般的にいえるものではなく、それぞれの違反の持つ社会的ないし規範的な意味合いは具体的場合によって様々なのであって、両者は両立し得るものと解すべきである。そこで、本件、すなわち月単位の時間外労働協定違反と週単位の時間外労働の関係について見るに、現行法上、時間外労働協定違反についての罰則規定は存在しないのであるから、月単位の時間外労働協定違反と週単位の時間外労働が別罪を構成することはなく、その意味で、月単位の時間外労働協定違反と週単位の時間外労働の関係と、週単位の時間外労働と日単位の時間外労働の関係を全く同様に見ることはできない。しかし、本件のように、犯罪を構成しない訴因についての訴因変更が問題となる場合には、新旧両訴因が別罪を構成するかどうかはもとより重要ではない。問題は事実の両立性であり、「月単位の違反と週単位の違反の関係」と「週単位の違反と日単位の違反の関係」との関係を別異に解すべき理由はないということである)。旧訴因は、月単位の時間外労働協定違反を内容とするものであるから、週単位の時間外労働を内容とする新訴因とは、基本的事実関係を異にするというべきである。
もっとも、検察官は、そもそも旧訴因を月単位の時間外労働協定違反の事実とは見ていないのである。すなわち、検察官は、前記意見書において、本件のように、週単位の時間外労働協定が存在せず、月単位の時間外労働協定(130時間まで延長可能というもの)が存在する場合には、各週ごとに、1週間40時間を超える時間外労働、すなわち同法32条1項違反に係る時間外労働時間部分を特定した上、その部分を36協定上の1か月の始期から順次合算して、その合計時間数が130時間に到達する許容枠の限界時点を特定し、その限界時点以降の時間外労働を、違法な時間外労働と特定すべきであり、旧訴因もそのようにして同法32条1項違反の時間外労働のうち、違法な時間外労働時間を特定して構成されているものであるところ、本件訴因変更請求は旧訴因をより詳細にするためになされているものである旨主張している。要するに、旧訴因は、「1か月130時間を超えて時間外労働をさせた」といってはいるものの、月単位の時間外労働協定違反を内容とするものではなく、そのような形で、違法な週単位の時間外労働を特定したものである、という趣旨と解される(このような理解によれば、原判示第1の2の(1)及び(2)の事実も、月単位の時間外労働協定違反の事実ではなく、週単位の時間外労働の事実であることになる)。しかし、週単位の時間外労働協定が存在せず月単位の時間外労働協定が存在する場合の週単位の時間外労働の構成の仕方についての検察官の主張の当否はともかくとして、旧訴因が週単位の時間外労働を内容とするものであるという点については、旧訴因には違反に係る週が全く示されていないのであるから、これが週単位の時間外労働を内容とするものであるとは到底解されない。検察官の冒頭陳述や論告要旨の記載内容に照らしても、検察官が起訴当時前記意見書のような立場に立っていたとは思われない。旧訴因の罰条として労働基準法32条1項が挙げられていることや、時間外労働協定違反についての罰則規定が存在しないことに照らして、旧訴因の内容を合目的的に理解するにしても、やはり前記意見書のような理解には無理があるといわざるを得ない。
なお、前述のとおり、新訴因は、要するに、平成17年12月7日から同月13日までの週及び同月9日から同月15日までの週を通じた週、並びに、平成18年1月6日から同月12日までの週及び同月9日から同月15日までの週を通じた週において、それぞれ、1週間の法定労働時間を超え、上記協定による延長時間1か月130時間を除く15時間30分及び38時間15分の合計53時間45分の時間外労働をさせたというものである。しかし、「平成17年12月7日から同月13日までの週及び同月9日から同月15日までの週を通じた週において」というのは、それ自体趣旨がよく分からない。その「通じた週」というのを、同年12月7日から同月15日までの9日間を意味するものと解するにしても、週単位の時間外労働の事実を起訴するのに、犯行日の1週間が特定できていないというのでは、訴因が不特定なものといわざるを得ない(「平成18年1月6日から同月12日までの週及び同月9日から同月15日までの週を通じた週」についても同様である)。
以上のとおりであるから、旧訴因の月単位の時間外労働協定違反の事実と、新訴因の週単位の時間外労働の事実とでは基本的事実関係を異にしており、両訴因の間には公訴事実の同一性が認められないというべきである。
(なお付言するに、前述したとおり、新訴因は訴因としての特定性に問題があるといわざるを得ないが、根本的な問題は、いわゆる36協定が労働基準法32条1項の週単位の時間外労働及び同条2項の日単位の時間外労働の免責規定として扱われるという解釈が実務上定着しているにもかかわらず、労働基準法が、月単位の時間外労働協定を許容する一方で、それが免責規定として週単位ないし日単位の時間外労働にどのように影響するかについての手当てを欠いている点にある。立法的な解決が望まれるところである)
4 以上のとおり、原判決は、そもそも犯罪を構成しない事実を「罪となるべき事実」として認定した上で、これに対し適用できないことが明らかな法令を適用したものであるところ、この誤りは重大であって、理由不備に該当するというべきである。
第2破棄自判
よって、論旨に対する判断を省略して、刑訴法397条1項、378条4号により原判決を破棄し、同法400条ただし書に従い、被告事件につき更に次のとおり判決する。
(罪となるべき事実)
原判決の(罪となるべき事実)第1の1の(1)から(6)まで、第1の3及び第2に記載のとおりである。
(証拠の標目)
原判決に記載のとおりである。
(法令の適用)
原判決の(法令の適用)の「2 被告人Y及び被告人Y2」の項の2行目から3行目に「判示第1の2の(1)及び(2)の各所為は、いずれも刑法60条、労働基準法119条1号、32条1項に、」とあるのを削除し、12行目から13行目までに「訴訟費用は」とあるのを「原審における訴訟費用は」と訂正するほかは、上記「2 被告人Y及び被告人Y2」の項に記載のとおりである。
(量刑の理由)
本件は、石油製品の運送等を営む会社の代表取締役である被告人が、(1)平成17年12月中の合計6労働日において、同会社の労働者に、労働基準法及びいわゆる36協定が許容する1日の労働時間の限度を超えた違法な時間外労働をさせ、(2)同年12月24日からの2週間にわたり、1回の休日も与えず、協定休日の範囲を超えて労働をさせた、という各労働基準法違反と、(3)同社の配車担当者と共謀の上、同会社の自動車運転者であるBが、平成18年2月12日、過労により正常な運転をすることができない状態でタンクローリーを運転することを容認した、という道路交通法違反の事案である。上記Bは、同月13日、高速道路で居眠り運転をし、渋滞のため停車中の車両に時速約90キロメートルで追突するなどして、合計11台を巻き込み、3名を死亡させ、6名を負傷させる重大な交通事故を起こしたものである。
被告人の会社では、繁忙期となる冬季には、かねてタンクローリーの運転者に長時間労働をさせてきており、労働基準監督署から是正勧告や口頭注意を受けていたが、運転者の退職や受注量の増加により状況は更に悪化し、本件事故の1か月ほど前には運輸支局による監査を受け、本件事故の10日前には文書警告処分を受けていた上、部下からも問題を指摘されるなどしていた。それにもかかわらず、被告人は、受注量を減少させるなどの抜本的措置を取らないまま業務を続け、一人の運転者に往復約5時間の運行を1日に3往復もさせるなどし、上記Bの事故前3か月における1か月当たりの労働時間は、労使協定の上限である320時間を約99時間から約187時間も超過していた。その他の運転者についてもおむね同様の状態にあったものであり、運転者の過労による重大な交通事故がいつ起こっても不思議でない状況にあったといわざるを得ない。その結果引き起こされた本件事故は、前述のとおり極めて重大かつ悲惨なものであり、死亡した被害者の遺族は、被告人に対して厳しい処罰感情を抱いている。
被告人は、会社の代表者として業務全般を統括し、配車担当者に対する指導監督責任を負っていたばかりか、運転者らが著しい過労の状態にあることを十分認識していたにもかかわらず、不十分な対策を講じただけで、結局は会社の利益追求を優先させて、本件事故を引き起こすに至らしめたといわざるを得ないのであって、その責任はまことに重大である。
弁護人は、被告人が受注量を減少させなかったのは私利を図ったわけではなく社会一般が被る不利益を考慮したためであるなどと主張しているが、被告人の会社が灯油やガソリンを社会に行き渡らせるためには本件のような重大な事故を引き起こす危険があっても構わないなどと考える者が広く存在するはずはないのであって、そのような主張は到底採用できない。また、被告人が運転者の長時間労働を改善しなければならないとの気持ちも有しており、運転者の新規雇用などの努力を一定限度行っていたことは確かであるが、それだけのことで被告人の責任を大きく減じることができないことは明らかである。
他方、被告人は、事実関係を認めて反省の態度を示している。被告人は一般前科を有しておらず、社会人として真面目に生活してきたものであって、もとより犯罪に親和性を有するような者ではない。本件事故により傷害を負った被害者とは示談が成立しており、死亡した被害者の遺族に対しては、任意保険による相応の損害賠償が見込まれる。
以上の事情を総合考慮して主文のとおり刑を定めたが、付言するに、タンクローリーで石油製品等を運送するという、それ自体高度の危険性を有する業務を行うにつき、繁忙期に限ってのこととはいえ、著しい長時間労働を運転者に対して恒常的に行わせるなどということは、いかなる理由をもってしても容認することはできないのであり、現に本件のような痛ましい事故が発生した中で、その最大の原因を作った者というべき被告人に執行猶予を付するようなことは、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも到底許されないことである。
(一部無罪の理由)
既に述べたとおり、平成18年6月8日付け公訴事実第2は罪とならないから、これについては刑訴法336条により無罪の言渡しをする。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 陶山博生 裁判官 西田時弘 裁判官 丸山徹)