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大阪高等裁判所 平成19年(ネ)1401号 判決 2009年1月15日

当事者の表示

別紙当事者目録のとおり

主文

1  一審原告X1,同X2,同X3,同X4の本件各控訴をいずれも棄却する。

2  その余の一審原告らの控訴に基づき,原判決中同一審原告らに係る部分を次のとおり変更する。

3  一審被告は,一審原告X5に対し120万円,同X6に対し80万円,同X19に対し120万円,同X22に対し60万円,同X7,同X8,同X9,同X10,同X11,同X12,同X13,同X14,同X15,同X16,同X18,同X20,同X23に対し,各40万円及びこれに対する同X23については平成15年10月31日から,その余の同一審原告らについては平成15年2月20日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  一審原告X5,同X6,同X7,同X8,同X9,同X10,同X11,同X12,同X13,同X14,同X15,同X16,同X19,同X18,同X20,同X22,同X23のその余の請求を棄却する。

5  一審被告の本件各控訴をいずれも棄却する。

6  一審原告X1,同X2,同X3,同X4の各控訴に係る控訴費用は,同一審原告ら各自の負担とし,一審被告の控訴に係る控訴費用は一審被告の負担とし,一審原告X5と一審被告との間の訴訟費用(一審被告の控訴費用を除く。)は第1,2審を通じてこれを5分し,その2を一審被告の,その余を同一審原告の負担とし,一審原告X6と一審被告との間の訴訟費用(一審被告の控訴費用を除く。)は第1,2審を通じてこれを10分し,その3を一審被告の,その余を同一審原告の負担とし,一審原告X19と一審被告との間の訴訟費用(一審被告の控訴費用を除く。)は第1,2審を通じてこれを5分し,その2を一審被告の,その余を同一審原告の負担とし,同X7,同X8,同X9,同X10,同X11,同X12,同X13,同X14,同X15,同X16,同X18,同X20,同X23と一審被告との間の訴訟費用は第1,2審を通じてこれを10分し,その1を一審被告の,その余を各一審原告ら各自の負担とし,一審原告X22と一審被告との間の訴訟費用は第1,2審を通じてこれを5分し,その1を一審被告の,その余を同一審原告の負担とする。

7  この判決は,第3項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  一審原告ら

(1)  原判決を次のとおり変更する。

(2)  一審被告は,一審原告X1,同X2,同X3,同X4に対し,各300万円及びこれに対する平成14年11月29日から支払済まで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  一審被告は,一審原告X5,同X6,同X7,同X8,同X9,同X10,同X11,同X11,同X12,同X13,同X14,同X15,同X16,同X19,同X18,同X20,同X22に対し,各300万円及びこれに対する平成15年2月20日から支払済まで年5分の割合による金員を支払え。

(4)  一審被告は,一審原告X23に対し,300万円及びこれに対する平成15年10月31日から支払済まで年5分の割合による金員を支払え。

(5)  訴訟費用は,第1,2審とも一審被告の負担とする。

(6)  仮執行宣言

2  一審被告

(1)  原判決中一審被告敗訴部分を取り消す。

(2)  一審原告X5,同X6,同X19の各請求をいずれも棄却する。

(3)  訴訟費用は,第1,2審とも一審原告X5,同X6,同X19の各負担とする。

第2事案の概要

事案の概要は,以下に加除訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」及び「第3 争点に関する当事者の主張」の各項に摘示のとおりであるから,原審第2事件原告X17(原判決の原告17)及び同X21(同21)に関する主張部分を除いて,これを引用する。

なお,略称については,原判決の例による。また,証拠の引用において,枝番の表示を省略したものは,その枝番のすべてを引用する趣旨である。

1  原判決3頁9行目から同12行目までを,以下のとおり改める。

「1 本件は,一審被告の従業員又は従業員であった一審原告らが,違法な配転命令を受けたとして,慰謝料を請求している事案である。

なお,一審原告X4は,上記慰謝料請求のほか,原審において,配転先である一審被告大阪支店(茨木)に勤務すべき労働契約上の義務がないことの確認と,配転元である一審被告大分支店において勤務すべき労働契約上の地位にあることの確認を請求していたが,前者については,当該請求に係る訴えを却下した原判決に対して控訴の申立てをせず,後者については,当審において,当該請求に係る訴えを取り下げた。

また,原審第2事件原告X17(原判決の原告17)及び同X21(同21)は,その請求を棄却した原判決に控訴の申立てをしていないので,これらの一審原告については,原判決が確定している。」

2  原判決12頁11行目の「企業等」から同14行目の「総称」までを「企業等から出される業務上の要求や企業等に存する問題点等を分析し,より効率的かつ円滑な業務運営を図ることができるようなシステムを企画・提案して,これを受注し,受注したシステムを構築・保守・運用することを目的とする営業」と改める。

3  原判決18頁7行目から同13行目までを削り,同17行目の次に,改行の上,以下のとおり加える。

「 なお,一審原告X4については,当審において,慰謝料請求事由として,同一審原告を大分支店に再配転する義務があるのにこれを履行しなかったことを原因とする債務不履行又は不法行為の主張が付加された。」

4  原判決31頁2行目から同17行目までを,以下のとおり改める。

「(8) 争点8(本件配転命令において適正な手続が執られていたか否か)について

異職種配転及び遠隔地配転を命じる際,使用者には,労働者に対する十分な説明義務と事情聴取義務があり,配転命令を受ける労働者に対する不利益に配慮した適正な手続がとられるべきである。

その際の説明義務の内容・程度は,個別の労働者が受ける具体的な不利益に配慮するため,配転が必要とされる理由,配転先における勤務形態や処遇内容,配転元への復帰予定等について,可能な限り具体的かつ詳細な説明をすべきものである。

しかし,一審被告がした説明は,本件計画の策定・公表段階において,異職種・遠隔地配転があり得ることを述べ,勤務地についても,市場性の高いエリア等を中心として勤務地を問わず勤務するとしたにとどまるもので,配転先における勤務形態や処遇については,実際とは異なる企画・戦略や法人営業業務に従事するとの虚偽の説明をしたにすぎず,配転元への復帰予定については,何の説明もしていない。本件計画の必要性の説明は,個別の従業員に対する配転の必要性の説明になるものではないし,一審原告らが配転の必要性や,配転先での職務内容を質問しても,何ら具体的な回答をしなかったものである。

また,通信労組が,個別の配転命令に関して個人対応を拒否していない(通信労組が個人対応を拒否したのは,雇用形態選択の際だけである。)のに,一審原告らからの事情聴取義務を履行せず,本件配転命令3の後に一審原告X19についての団交の場で,介護の必要を訴えたにもかかわらず,一審被告は,四六時中の介護の必要はない,寝たきりであれば別だが,との態度を示して,瀕死の状態でない限り家庭事情は配慮しないとの態度をとり続けたものである。

さらに,一審被告においては,その前身である旧電電公社の時代から,配転に際しては,転勤希望調書や自己申告表の提出,管理職との面談により,従業員本人の意向確認を行うシステムが存在していたにもかかわらず,本件配転命令に当たってはそれを履践せず,かつ,配転の内示や打診からわずか1週間ないし10日程度の短期間で本件配転命令を発令した。

したがって,一審被告は,本件配転命令において適正な手続をとったものではない。」

5  原判決36頁25行目の次に,改行の上,以下のとおり加える。

「(ウ) 仮に,一審原告X4に対する本件配転命令1が違法でないとしても,一審被告は,本件訴訟において,一審原告X4がHTLV-Ⅰウィルスのキャリアであることを認識した以上,同一審原告を速やかに地元の大分支店に再配転する義務があるというべきである。

一審被告は,一審原告X4が本件配転命令1により単身赴任していることの不利益性は十分に認識しているし,大分支店には,同一審原告が本件計画の実施前に担当していた業務や,ソリューション営業,契約事務等,同一審原告の担当できる業務が存在しており,同一審原告を大分支店に再配転することにつき障害はない。」

第3当裁判所の判断

1  争点1(一審原告らの労働契約における勤務地又は職種の限定の有無)について

当裁判所も,一審原告らの労働契約において,勤務地又は職種を限定する旨の約定はなかったと判断するが,その理由は,原判決94頁2行目の次に,改行の上,以下のとおり加えるほかは,原判決が,その91頁8行目から同94頁12行目までに説示するとおりであるから,これを引用する。

「 たしかに,証拠(例えば<証拠省略>)によれば,一審原告らの多くは,機械職や線路職等として,それぞれに専門性が高い職掌に就き,種々の資格を取得したり講習を修了してきた事実を認めることができるけれども,他方で,旧電電公杜のころから,そこで営まれている電気通信業務の在り様が,技術の進展や,その他の様々な社会経済的要因によって変化していく性質のものであることも見易い道理であり,例えば,電報業務の縮小に伴って機械職,営業職,事務職へ転換する(一審原告X5,同X20,同X22),電話交換職で採用されたが,その後に電話による注文受付業務に転換する,直営工事の廃止に伴って職種及び勤務場所が変更されるなどといった職種の転換や,業務の拡大・縮小・廃止に伴う勤務場所の変更も現実に生じているのであり(<証拠省略>,原審一審原告X18),このような職掌の転換や配置転換は,実際の場では多くは従業員の意向を聴取し同意を得て行われ,また,近畿圏では近傍の組織への配置転換に止まっていたにしても,旧電電公社のときを含めて,雇用契約において元々予定されていたというべきである。

さらに,一審原告らは,一審原告らについて事実上長期にわたって勤務地及び職種が限定されてきたことは,法的効果のあるものと捉えられるべきであるとも主張するが,それは,旧電電公社やNTTが,その経営環境に重大な変化が生じることなく安定した経営を続けている場合には,使用者がそのような人事政策を採ることを事実上期待することはできても,後に判断するように,本件計画時点のように,一審被告にとって,その経営環境に重大な変化が生じており,大規模な構造改革を回避できない状況下においてまで,一審被告にそのような従業員の人事政策に係る制約を課することは相当とはいえないし,ましてや,そのような事実上の労使関係に法的拘束力があるとは考え難い。」

2  争点2(本件計画の必要性の有無)について

当裁判所も,本件計画については,平成14年5月の段階でこれを実施する必要性を認めることができると判断するが,その理由は,以下に付加訂正するほかは,原判決が,その94頁14行目から同103頁24行目までに説示するとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決94頁末行の「責務を負うこととされており(NTT法3条)」を「責務を負うとともに,少なくとも同一都道府県の区域内では他の電気通信事業者の設備を介することなく通信を媒介することのできる通信設備を設置して電気通信業務を営むことを義務づけられており(NTT法3条,2条3項)」と,同95頁2行目の「限定されており」を「限定されていたり,主務大臣の認可を得て新たな業務を行う場合にも,電気通信事業の公正な競争の確保に支障を及ぼす恐れによる制約を受けるなど」と,それぞれ改め,同10行目の「一審被告は,」の次に「地域電気通信事業の経営を維持するためにも,グループ全体として」を加え,同12行目から同20行目までを,以下のとおり改める。

「 このようなことから,NTT,NTT東日本及び一審被告は,平成11年11月17日,3社の連名で,『中期経営改善施策について』と題する文書(<証拠省略>)により,本件中期施策を発表した。本件中期施策は,平成14年度末までの3年間で,業務の集約や営業拠点の大幅な統廃合により東西地域会社合わせて約2万1000人の人員削減,年間1500億円の設備投資の削減,各種経費の削減,成果業績主義の徹底などを行い,これにより,平成14年度において東西両会社で合計約3500億円(一審被告につき1900億円)の収支を改善し,同年度における経常利益を合計約1400億円(一審被告につき300億円)と試算するものであった。

ただし,この試算は,接続料の算定において長期増分費用方式が取り入れられない前提のものであった。

これに引き続いて,平成12年4月には,『NTTグループ3カ年経営計画について』と題する文書が発表され,これにより,固定電話事業については,本件中期施策を推進して。競争に対応するとともに,移動体通信事業やインターネット関連事業の展開,国際化,技術力強化などの経営方針が示された。同計画では,一審被告の経常損益は,平成12年度において,合理化前▲1530億円,合理化後▲840億円,平成13年度は,同▲1500億円,▲180億円,平成14年度は,同▲1670億円,250億円と予想されていたが,後記の長期増分費用方式が導入された場合には,これよりも収益が悪化することが示されていた。

(以上について,<証拠省略>)」

(2)  原判決96頁2行目から同7行目までを,以下のとおり改める。

「(イ) 一審被告は,新規の電気通信事業者が参入してくる中で,これらの事業者から得られる接続料(新規参入の電話事業者がNTTの市内回線網を利用する際に支払う料金)を重要な収入源と見込んでいたが,平成11年ごろ以来,日米規制緩和協議において,その引下げが問題とされ,平成12年7月に,NTTの抵抗にもかかわらず,同年4月に遡って,それから2年間で約20%引き下げることで,日米両政府の合意が成立した。この合意は,短期間で大幅な引下げとなるに止まらず,NTTが主張していた接続料の算定における実績原価方式(現にある設備の構築及び維持に要するコストをもとに計算する方式)を排除し,長期増分費用方式(現にあるのと同等の設備を最新の技術で最も低廉な価格で構築した場合のコストをもとに計算する方式)を採用したもので,これによって,将来には,接続料がさらに引き下げられる可能性を有するものであったし,接続料の2倍がNTTの市内通話料である3分10円を下回ったことにより,従来,NTT東西が独占してきた市内電話にも,新規の電気通信事業者が参入することができるようになり,本格的な競争が始まるとされるものであった。(<証拠省略>)」

(3)  原判決96頁18行目の「得なくなり」の次に「(平成12年12月段階で,平成13年5月1日から3分8.8円としていたものを,平成13年4月になって,さらに同8.5円に引き下げた。)」を加え,同19行目の次に,改行の上,以下のとおり加え,同20行目の「以上について,」の次に「甲B5,」を加える。

「 加えて,このような競争環境にあって,公正競争の確保の見地から,NTT各社は,支配的事業者として,その営業活動に厳しい制約(例えば,NTTグループが一体として登録勧奨を行うことが認められないこと)が課せられることとされ,平成13年3月には,そのような方向でのNTT法等の改正案が国会に提出されることとなった。」

(4)  原判決96頁25行目から同97頁15行目までを,以下のとおり改める。

「ウ 一審被告の損益状況

一審被告が郵政大臣に提出して認可を得た平成12年度(平成12年4月1日から平成13年3月31日)の事業計画は,営業収益2兆6360億円(うち音声伝送収入1兆9040億円),営業費用2兆7290億円,営業外損益を含めた経常損益▲990億円(赤字)というものであったが,同年11月に取りまとめられた同年度の中間決算は,営業収益1兆3152億円(うち音声伝送収入9574億円),営業費用1兆3473億円,営業外損益を含めた経常損益▲430億円(通期予測では▲920億円と赤字幅が縮小している。)というものであり,平成13年5月に取りまとめられた平成12年度の決算は,営業収益2兆6395億円(うち音声伝送収入1兆8899億円),営業費用2兆7399億円,営業外損益を含めた経常損益▲1058億円というもので,事業計画との間に,それほど大きな差異のないものであったが,平成11年度(平成11年7月1日から平成12年3月31日)の決算(1年に換算した数値)に比べても,経常損失の額は拡大していた。

同様の平成13年度の事業計画は,営業収益2兆5540億円(うち音声伝送収入1兆7390億円),営業費用2兆6290億円,営業外損益を含めた経常損益▲840億円というものであったが,同年11月に取りまとめられた同年度の中間決算は,営業収益1兆2690億円(うち音声伝送収入8538億円),営業費用1兆2768億円,営業外損益を含めた経常損益▲755億円というものであり,平成14年5月に取りまとめられた平成13年度の決算は,営業収益2兆4067億円(うち音声伝送収入1兆6655億円),営業費用2兆5734億円,営業外損益を含めた経常損益▲1705億円というもので,事業計画を大きく上回る経常損失を計上することとなった。

このような結果となったのは,平成11年度には2兆0135億円(年換算)あった音声伝送収入が,平成12年度には1兆8899億円に,平成13年度には1兆6655億円に,それぞれ減少したのに,営業費・施設保全費・減価償却費を主体とする営業費用を,これに見合うだけ低減できる収益構造になかったことに原因するものであった(このうち,減価償却費は特に低減することの難しい費目といえる。)。

このようなことから,一審被告では,平成12年度中から,将来において更なる経常損失の拡大が生じるものと予測し,平成14年度に経常損益を黒字化するとの本件中期施策での目標を達成することは困難であると認識するに至った。

(以上について,<証拠省略>,原審証人A)

なお,この点に関し,一審原告らは,一審被告が,平成12年度の段階で,平成14年度以降に約1500億円規模の赤字が継続することが予測されたと主張していることを,証拠による裏付けのない主張であると強く非難しているところ,たしかに,平成12年度中(本件3カ年計画及びこれに続く構造改革の概要が示された平成13年4月よりも前の時期)に,一審被告において,平成14年度以降にそのような赤字が継続することを予測したことを示す書面等の客観的な証拠は提出されていないし,前記のとおり,平成12年度中間決算も,それ自体としては,同年度の事業計画よりも経営悪化の程度が抑えられると予測するものであり,平成13年度の事業計画も,平成12年度よりも赤字幅が減少するとの見通しを示すものであって,いずれも一審被告の主張に反するものとも考えられる。しかしながら,平成12年度中における,一審被告の経営環境は,前記イで認定したとおりであり,同年度中間決算以後の経過は下記エで認定するとおりであって,一審被告において,公表している情報とは別に,一層の経営環境の悪化を予測し,それに基づいて組織改編を含む経営戦略を構築することは,企業経営上,当然になされて然るべきことである。このことは,後記エで認定するとおり,一審被告が,NTT労組に対して,平成13年2月に退職・再雇用制度の導入を示唆していることや,同年3月には,NTT労組により,一審被告から提供された経営情報をもとにして作成されたと推認され,ほぼ一審被告の認識に副うものと推認される文書(<証拠省略>)が作成されたことによっても裏付けられているというべきである。

そうすると,平成12年度中に,一審被告において,経常赤字の具体的な金額はともかくとして,平成13年度において現実のものとなったような将来における相当額の赤字の発生を予測し,それに対応するために大規模な収益構造の転換を図る必要があるとの認識を有していたことは明らかといわなければならない。

エ 構造改革(本件計画)に至る経過

(ア) 一審被告は,平成12年9月22日に,「NTT西日本の経営改善施策の取組について」と題する文書(<証拠省略>)を発表し,本件中期施策による経営改善策に加えて,情報流通営業体制の再構築として,本社及び支店の組織を改編して,電気通信業務以外の新たな事業分野への進出を強化するとともに,今後1年間で3500人規模の希望退職を募集することとした。

(イ) NTT労組では,平成13年1月ごろから,雇用と構造改革を最重視した闘争方針が採用され,同年2月には,NTTとNTT労組で行っていた経営協議会の席上で,NTT側から,平成13年度の3カ年経営計画の基本的考え方として,退職・再雇用制度等雇用の多様化の検討も含まれることが示されるに至った。

(ウ) 平成13年3月に至って,NTT労組西日本本部エムイー関西支部の名義で,「MEにおける今後の事業展開と課題」と題する文書(<証拠省略>)が作成されたが,同文書では,電気通信事業を取り巻く種々の情勢について分析し,一審被告では,社員1人あたりの売上高にも,他の電気通信事業者と比較して大きな違いがあることをも示した上,競争環境の変化により,現状では毎年1000億円規模の赤字の可能性があるとして,これまで一審被告が担っていた設備の運営業務を全体として既存子会社であるME社にシフトし,現場の業務はさらにME子会社に担当させるとともに,50歳になった社員に雇用形態を選択させ,人員移行を図るといった。本件計画と類似した事業のモデルが提案された。

(エ) このような経過を経て,平成13年4月16日,NTTは,「NTTグループ3カ年経営計画(2001~2003年度)について」と題する文書(<証拠省略>)を公表し,平成12年4月に策定した前記の3カ年経常計画に,その後の市場構造の変化等を織り込んだものとして,新たな3カ年経営計画(本件3カ年計画)を策定し,次いで,同年5月8日,通信労組に対し,「NTT西日本の構造改革に伴う労働条件諸制度等の見直し等について」と題する文書を提示して,構造改革(本件計画)の要旨を提示した(<証拠省略>)。これらの内容は,前提事実(2)ア(ア),(イ)のとおりである。

なお,このような構造改革の要旨については,NTT労組に対しては,同年4月6日ごろに既に説明されていた(<証拠省略>)。

(オ) その後の経過は,前提事実(2)ア(ウ)ないし(カ)のとおりである。

(以上について,<証拠省略>)」

(5)  原判決97頁16行目冒頭の「エ」を「オ」と改め,同17行目の「経営環境を踏まえ,」の次に「上記エのような経過を経て,」を,同98頁15行目の「OS会社が」の次に「新事業を開拓して業容を拡大し,」を,それぞれ加え,同99頁8行目冒頭の「オ」を「カ」と改め,同11行目から13行目までを,以下のとおり改める。

「 これにより,一審被告は,平成14年度には,営業収益2兆2150億円に対して経常利益449億円,平成15年度には,同2兆1668億円に対し905億円とする経営改善効果(営業費用の大幅な低減)を得ることとなった(<証拠省略>)。」

(6)  原判決100頁7行目の次に,改行の上,以下のとおり加える。

「 そもそも,NTT自身が上場会社であり,一審被告らNTT法上の地域会社は,その基幹業務を担っていたものであるから,そのような地域会社が赤字経営であることは,NTTの経営政策上も好ましくないことは明らかである。」

(7)  原判決101頁2行目の次に,改行の上,以下のとおり加える。

「 本件計画は,一審被告の営業収益の主要部分(約3分の2)を占める音声伝送収入が毎年1000億円以上も減少していくことを前提として,それに耐えることのできる営業費用削減の方策として行われたものであるところ,希望退職の募集による人件費の削減の効果は1回限りのものであるから,経費削減の方法としては補助的なものといわざるを得ず,これをもって本件計画に代わりうる,そうでなくても本件計画を緩和するに足る経費削減の方法ということはできない(このことは,一審原告らが主張する他のコスト削減事由についても同様である。)。」

(8)  原判決102頁23行目の「<証拠・人証省略>」の前に「乙D38の1,」を,同24行目の「指導や助言」の次に「及び電気通信技術に対する研究」を,それぞれ加え,同103頁初行の次に,改行の上,以下のとおり加える。

「 一審原告らは,NTTは,グループ会社からの株式配当金で成り立つはずであり,「上納金」と揶揄されるコンサルティング料(<証拠省略>)や,基盤的研究開発費用の負担は,廃止ないし軽減されるべきであると主張するが,NTTが,単にグループ会社に対する株主権を行使するだけでなく,研究所を含めて3000人を超える人員を抱えており(<証拠省略>),グループ全体の経営戦略の策定や,技術研究を行っていると認められることからすると,グループ会社が,そのようなNTTの業務に対する対価を支払うこと(NTTを維持するための経費を分担すること)は,やむを得ないことというべきである。」

(9)  原判決103頁18行目から19行目にかけての「自体を不当と言うことはできない。」を「は,営業収益が年々減少することに対応のできる営業費用削減の方策の根幹をなすものとして,他の方策で代置できない意義を有するもので,まことにやむを得ないものであったといわなければならない。」と改める。

3  争点3(本件計画が脱法的なものであったか否か)について

上記争点に対する当裁判所の判断は,原判決がその103頁末行から同104頁13行目までに説示するのと同一であるから,これを引用する。

4  争点4(本件計画が年齢による差別に当たるか否か)について

上記争点に対する当裁判所の判断は,原判決がその104頁15行目から同107頁8行目までに説示するのと同一であるから,これを引用する。ただし,原判決106頁25行目の「<証拠省略>」の前に「甲A9,」を,同107頁初行の「上記証拠によると,」の次に「一審被告は,本件計画の策定段階からキャリアスタッフ制度を廃止することを明らかにしており(<証拠省略>),現実にも」を,同3行目の「認められる。」の次に「<証拠省略>」を,それぞれ加える。

5  争点5(本件配転命令における業務上の必要性の有無)について

(1)  事実関係

前記前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。

ア 60歳満了型の従業員の人員配置についての一審被告の方針

(ア) 前記引用の原判決第4の2(1)オ(本判決による補正後のもの)のとおり,一審被告らが実施した構造改革においては,従前一審被告の本体において担当していた業務の大半をOS会社に委託して,構造改革後の一審被告本体は,企画・戦略をはじめとする限られた業務のみを担当することとし,特に,営業関係では,大口ソリューション営業に特化するものとされた。

なお,ここにいうソリューション営業とは,単に商品を販売するにとどまるのではなく,企業等から出される業務上の要求や企業等に存する問題点や課題等を分析し,より効率的かつ円滑な業務運営を図ることができるようなシステムを企画・提案し,受注したシステムを継続的に保守・運用するところまでを,トータルに営業することをいうものであり,SI(システムインテグレーション。信頼性・拡張性に優れたシステムを構築すること),NI(ネットワークインテグレーション。最適のネットワークシステムを提供すること),MI(メンテナンスインテグレーション。システムの運用・保守をトータルにサポートすること)の3分野が観念されるが,これらの各分野を,NTTのリソースを活用して,統合されたサービスとして提供しようとするものであった。

一審被告におけるソリューション営業は,AM(アカウントマネージャー)と呼ばれる営業担当者と,SE(システムエンジニア)と呼ばれる技術担当者によって実施されており,AMが顧客からのヒアリング等を通じて,顧客の要望や抱えている問題点を把握・分析し,効率的かつ円滑な業務運営がはかれるようなシステムを提案し,SEが,具体的なシステムを設計・構築したり,その保守・運用等を行うという体制になっていた。

一審被告におけるその具体的内容は,次のようなものである。

企業向けには,種々の業務処理(人事給与,受発注,就業管理など)のためのシステム(ソフトウェア及びハードウェア)の開発,企業内におけるネットワークの構築,テレビ会議システムの提供,地方自治体向けには,文書管理,電子申請,電子入札,会議録検索などのシステムの開発,といった企画を提案し,受注することをいうものであり,その顧客としては,著名な企業を含む多数の企業や,地方自治体,大学が名を連ねているものである。

比較的小規模な事業者に対する営業の具体例として,たとえば,印刷業の顧客からの,顧客の印刷データの急な修正要望等に対して応えることが可能で,コストパフォーマンスに優れ,セキュリティのあるネットワークがほしいとの要望に対し,本社と支店間をインターネットVPN(インターネットを用いた仮想的な専用線サービス)を提案する,複数店舗を有する小売業の顧客からの,ネットワークのランニングコストを下げ,高速化を図りたいとの要望に対し,データセンタ・情報センタ等の間をワイドLANプラス(複数拠点のLANを統合するサービス)で結び,店舖からデータセンタへは地域IP網を通じてフレッツIDSLで接続するというネットワークを提案するといった内容のものであった。

(前提事実(2)エ(イ),<証拠省略>)

(イ) 構造改革による上記のような業務の変更のため,一審被告においては,本件計画の策定当時,51歳以上の従業員(約3万人)のほとんどの者が退職・再雇用を選択するものと想定し,それらの者については,担当していた業務の移行先であるOS会社において再雇用されるという見通しを有していた。

しかし,平成13年10月ころに行われた上司との面談(定期的に行われていたもの)において意向の把握を行ったところ,60歳満了型を選択する意向を有する者及び意向の把握に応じなかったり,いまだ意向の固まっていない者が最大で1000名程度生じる可能性があること,また,その大半がOS会社に業務委託する予定の業務に従事している者であることが判明した。そこで,一審被告は,平成13年11月末ころ,60歳満了型の従業員を,原則として,大阪,京都及び兵庫といった京阪神の地域,並びに名古屋の地域を中心とした大規模支店に配置し,当初は電話1,2回線を有する小規模なユーザーに対する営業の業務(フレッツADSLや,Bフレッツの販売)を担当させるという方針を立てた。

そして,一審被告は,この方針を前提として,平成13年12月中旬ないし平成14年1月初旬ころ,従業員に対し,60歳満了型とは,①一審被告の本社若しくは支店の業務(企画・戦略,設備構築,サービス開発,法人営業等の業務)に従事するか,又はOS会社以外のグループ会社に出向し,定年である60歳まで勤務する形態であり,②市場性の高いエリア等を中心として勤務地を問わず,成果業績に応じて高い収入を得る機会を追求する意欲を持った従業員に応える雇用形態であることを周知した。

(以上について,<証拠省略>,原審証人A,原審証人B,原審一審原告X22,原審一審原告X1)

(ウ) 前記(イ)のとおり,60歳満了型の従業員を,京阪神及び名古屋地区の大規模支店に配置して,小規模なユーザーに対する営業を担当させることとしたのは,これらの従業員は,営業の経験がないか,経験に乏しいため,高度のスキルを要する大口ソリューション営業に就けることができないこと,小規模な事業者のうち,3回線以上を有する事業者については,OS会社であるアクト社が,AMを配置してアウトバウンド営業(営業担当者の訪問などにより積極的に売込みをかける営業形態を意味する。)を行い,それ未満の事業者については,従前どおりにインバウンド営業(顧客からの商品の注文の連絡があるのを待って販売するという,受動的な営業形態を意味する。)で対応する方針であったことから,アクト社の営業との競合を避ける必要があったこと,京阪神及び名古屋地区は,市場規模が大きく,他の通信事業者の参入もあって,競争が激化しており,小規模なユーザーに対しても営業活動を強化する必要があったこと。京阪神及び名古屋地区の大規模支店以外の支店では,60歳満了型の従業員は少数であり(例えば,構造改革により廃止された和歌山支店では2名),ある程度の人数をまとめて組織化する方が,企業経営上,効率的であると考えられることなどによるものと推測される。

(以上について,<証拠省略>,原審証人A,原審証人B,原審証人C)

(エ) 平成14年1月末を期限として行われた雇用形態についての意向確認の結果,60歳満了型の従業員が平成13年10月における予想の約半数である463名となることが確定した(前記引用の原判決摘示の前提事実(2)イ(ア)f,g,エ(ウ)参照)。また,この60歳満了型の大半が,実際にもOS会社に業務委託される業務に従事している営業経験のない者であることが判明し,これら60歳満了型の従業員にソリューション営業を担当させるとするには,知識やスキルの不足が懸念された。

このため,一審被告は,原則として,57歳以上の従業員については,定年までの期間が短いことから,ソリューション営業への職種転換は行わないこととした。

また,一審被告は,ソリューション営業への職種転換に当たって,本件スキル転換研修を実施することとし,本件スキル転換研修の修了者に対して本件スキル判定を行い。その判定結果を踏まえて,各支店の人員状況や受入希望のほか,支店間のスキルの不均衡(習熟度の高い者又は低い者が一定の支店に集中することなど)が生じないようにする等を考慮の上,京阪神及び名古屋の各支店のソリューション営業部門に配置することとした。

なお,60歳満了型の従業員のうち,新たにOS会社以外のグループ会社に出向する者,現に同様のグループ会社に出向中で当該グループ会社の管理,監督すべき役職に就いている者等については,ソリューション営業への職種転換は行わないこととし,ソリューション営業の即戦力となる者についても研修の対象から除外したため,本件スキル転換研修の対象者は366名となった。

(以上について,<証拠省略>,原審証人B)

(オ) さらに,一審被告は,この本件スキル転換研修の対象者のうち,病気や介護等の個人的事情を有する者や,配転を行うとその所属する労働組合に活動上の問題が生ずる者(労働組合から「交渉団長」及び「窓口(正)」〔団体交渉の事務を行う中心となる者〕として通知されてきた者)については,各所属元の判断等により,転居を伴う配置転換を見合わせ,その一部の者についてはソリューション営業への職種転換も行わないこととし,これにより,本件スキル転換研修の対象者366名のうちの26名については,本件スキル転換研修を受講させず,配転も行わないこととした。

なお,一審被告は,本件スキル転換研修後にも,修了者のうちの5名については,その個人的事情を考慮して,配転を見合わせた。また,この他に,一旦配転した後に判明した事情により,元の所属支店に復帰させた者もあった。

(以上について,<証拠省略>,原審証人B)

(カ) 一審被告は,平成14年4月以降,大阪において,上記の本件スキル転換研修の対象者に対して同研修を実施した。本件スキル転換研修は,1回当たりに受け入れられる人数に限りがあったことから,平成14年4月,5月,6月,10月,11月及び12月の6回に分けて行われた。

本件スキル転換研修においては,①集合研修(2週間程度の座学やロール・プレイング等。その内容は,行動理論,商品知識,ネットワークの基礎的知識,ソリューション営業の基礎と実践に及ぶものであった。),及び②業務研修(2週間程度の大阪支店の地区におけるソリューション営業の実践。支店営業担当者やインストラクターに同行しての営業の体験。)が実施された。その際,上記各内容についての教材(テキストや市販の書籍)が利用された。なお,10月,11月及び12月に実施された回においては,研修実施前に各支店における研修を受けていた状況等を踏まえ,業務研修(前記②)を1週間に短縮し,また,大阪支店からの受講者については,研修実施前に営業の実践が相当程度されていたことから,業務研修(前記②)を実施しなかった。

このほか,一審被告は,本件スキル転換研修の事前学習用のウェブサイト(ソリューション営業入門と,LANやインターネットの知識)や,スキルアップのための自学自習のための手段(通信教育及びウェブ学習。その内容は,コンピュータの知識から,法務・財務・マーケティング・語学等に及んでいる。)についても用意していた。

ただし,本件スキル転換研修は,従前に,営業職等への転換に際して行われていた研修が,10か月ほどにも及ぶものであったのに比べて,非常に短期間のものであった。

(以上について,<証拠省略>,原審証人B)

(キ) 一審被告は,本件スキル転換研修の受講者に対して,その修了時にテストを行うなどして,最も習熟度の高い「SA」から,「A」,「B」,「C」及び最も低い「D」までの5段階で本件スキル判定を行った。

そして,一審被告は,「SA」ランクの受講者については,最も市場性の高い大阪支店又は名古屋支店に配置することとした。また,その他のランクの受講者については,①東海,北陸地方の支店に所属する者は名古屋支店に,②中国地方の支店に所属する者は大阪支店に,③四国,九州地方の支店に所属する者は,大阪支店(ただし,一部は兵庫支店)又は名古屋支店に配置することとした。また,④京阪神及び名古屋の各支店に所属する者は,原則として所属元の支店に配置することとしたが,スキルの不均衡が生じないようにするため,大阪支店と京都支店との間,大阪支店と兵庫支店との間において,一定の配置換えを行った。

(以上について,<証拠省略>,原審証人B)

イ 大阪支店等における60歳満了型の従業員の人員配置の方針等

(ア) 本件計画による大阪支店の変容

本件計画の実施前には,大阪支店の営業部門は,①大規模ユーザーを対象としてソリューション営業を行うビジネスユーザソリューション営業部,②大阪府下のエリア別に中小規模ユーザーを営業対象とするビジネスユーザ営業部,③電話等による注文受付(116センタ),故障修理受付(113センタ)及び料金回収等を行うパーソナルユーザ営業部で構成されていた。また,本件計画前に大阪支店が担当していた大規模ユーザー及び中規模ユーザーの合計は,約6万6000社であった。

構造改革により,一審被告の担当する営業業務は,大口ユーザーに対するソリューション営業に特化することとなったことから(前記2(1)エ参照),一審被告は,支店において担当するソリューション営業の対象となる顧客(一審被告本社のソリューション営業本部が担当するユーザーを除く。)を,100億円以上の売上高を有するユーザー,地方公共団体及び経営戦略上支店で受け持つこととしたユーザーに限定し,それ以外の営業業務の大半についてはOS会社に業務委託することとした。なお,ここでいう経営戦略上受け持つユーザーとは,過去に大きな受注のあったユーザー,月額通信料の大きなユーザー,医師会といった団体に加入しているユーザーをいうものであり,それぞれ,システムのメンテナンス,将来の大口受注,関係者への波及効果等による商機が期待できるものであった。

これにより,構造改革後に大阪支店が担当するユーザーを選定したところ,約3800社(企業約3000,各種団体約340,行政・省庁機関約500)にまで減少することとなった。

そこで,大阪支店において営業部門の組織の見直しを行うこととし,このうち特に規模の大きい約800社については従前からの営業担当者(AM)が引き続き担当するように配慮しつつ,業種業態別に,第1ソリューション営業部(製造,建設,通信等),第2ソリューション営業部(流通,サービス,金融等),及び第3ソリューション営業部(公共(行政),教育等)に区分して,その営業担当者を配置した。

また,その余の約3000杜については,地域ごとに区分し,大阪北ソリューション営業部,大阪中央ソリューション営業部,及び大阪南ソリューション営業部の3つの営業部において担当することに再編成された。

これらの各ソリューション営業部に配置された営業担当者は,グループに編成され,それぞれ「第○営業担当」と称された。

その上,大阪支店と大阪所在のOS会社との間での事業所の割付作業を行う必要があったが,極力自社ビルを使用して賃貸ビルの利用を解消する等の方針で作業を行い,本件計画の実施により,営業部門の事業所数を37か所から13か所に減少させることとした。

なお,本件計画により,従前の和歌山支店が大阪支店に統合されることとなった。

(以上について,<証拠省略>,原審証人C)

(イ) 大阪支店等における60歳満了型の従業員の配置と営業の実際

平成14年2月ころ,大阪支店(統合前の和歌山支店を含む。)の従業員のうちの111名の者が60歳満了型として扱われること,これらの者に加え,大阪府下のグループ会社に所属していた者等のうち106名の者も60歳満了型として扱われること,また,これら合計200名を超える者が大阪支店のソリューション営業部に配属される予定であることが決定された。

これを受けて,大阪支店では,これらの者を,大阪北・中央・南の各ソリューション営業部の特定の営業担当(北第7,第11,第13,中央第11,第13,南第9,第10など)に,集中して配置し,1,2回線を有する小規模ユーザーに対するブロードバンド商品(フレッツADSL,Bフレッツ)の販売の営業活動に当たらせた。

その営業活動の実情は,各人が,1000件を超えるユーザーのリストを与えられ,そのユーザーを訪問して,上記の営業を行うというものであり(ただし,一審原告X22は,主査の地位にあったためか,やや異なる。),そのリストには,雑多な業態の事業者が記載されていたが,実際に訪問すると,およそインターネットの利用の契機のないユーザーも含まれているものであった。また,一審原告らの配置された営業担当には,50歳以下の従業員も配置されており,そのような従業員は,それぞれ担当の顧客を持ち,営業活動を行っていたが,一審原告らと50歳以下の従業員との間には,ほとんど交流がなく,一審原告らが,担当顧客を持つ従業員に同行して,ソリューション営業の実際を経験したり補助するということもなかった。

なお,大阪支店においては,支店独自の研修も実施しており,その中には,一審被告の提供する電話商品(料金割引メニュー)やインターネット接続サービスの知識の習得に関するもののほか,ソリューション営業の入門に関する研修もあったが,これもごく入門的な内容(訪問と聞き取りのノウハウ)に止まるものであった。

また,兵庫支店においては,支店(一審原告X2)や出先の営業部(一審原告X23)に配置した後,平成14年9月から平成15年3月まで,プレソリューション営業実践研修と称する支店独自の研修を実施し,その研修の名目で60歳満了型の従業員を一団として処遇し,大阪支店と同様の営業活動を行わせることとした。

(以上について,<証拠省略>,原審証人C)

(ウ) 一審被告の主張について

以上の認定に関し,一審被告は,上記の60歳満了型の従業員に担当させる業務につき,これらの従業員を大口ソリューション営業に重点的に配置する予定ではあるものの,当初は小規模ユーザーに対する営業活動を行う中でスキルを高めることが適当であるとして,上記のとおり小規模ユーザーに対する営業活動をさせたにすぎないと主張し,原審証人A及び原審証人Bは,その趣旨を証言又は陳述している(<証拠省略>,原審証人A,原審証人B)。

しかしながら,上記認定のようなソリューション営業の実際と,それに必要とされるスキルの内容,現実に一審原告らが担当した営業の内容,本件スキル転換研修の内容,さらには,長期間の営業職転換のための研修を受け,ソフトウェアベンダー系の各種資格も有し,数年間の営業経験のある一審原告X7でさえも,他の一審原告と同様の業務を行わせていること(<証拠省略>)等に照らすと,実際にソリューション営業を行うには,ソフトウェア・ハードウェア・通信手段を組み合わせて,顧客の業務処理を効率化する具体的な方法を提案をする相当高度の技能(スキル)が必要とされることが明らかであり,営業の心がけや技法,ネットワーク等の基礎,商品知識等を座学やロールプレイで学んだだけで,そのような技能が体得できるとは考えられないし,また,60歳満了型の従業員が実際に行っていたブロードバンド商品(フレッツADSL,Bフレッツ)の販売は,要するに高速回線によるインターネットの利用を勧誘するに止まるもので,顧客の業務上の問題に応じた具体的な解決手段を提供するものではないから,そのような営業を繰り返しても,上記のような技能が身につくものともいうことができない。

そうすると,一審被告としては,建前はともかく,現実には,一審被告内部ではそれまで担当していた実業務のなくなった60歳満了型の従業員につき,当初から大口ソリューション営業を担当するスキルを身につけることまでは期待することなく,OS会社の営業とも競合しない営業対象として,他の通信事業者との競争が激化している地域における,1,2回線というごく小規模なユーザーを選定し,これに対する営業活動を行わせることとしたものと認めるほかはない。

よって,上記の一審被告の主張は採用できない。

たしかに,一審被告は,平成17年4月1日までに,大口ソリューション営業へのステップアップ者が21名あるとして,そのリストを提出している(<証拠省略>)。しかしながら,同リストによる大口ソリューション部門への配転があったにしても,それらの従業員につきどのようなスキルアップを認めたのかという具体的な内容が明らかでないことに加えて,上記のとおり,1,2回線ユーザーへの販売活動と,ソリューション営業の実際の営業活動との内容の落差が大きく,現実問題として60歳満了型の従業員にはOJTによるスキルアップの機会も用意されていなかったと認められること,一審被告自身が,福岡支店や大分支店において60歳満了型でソリューション営業の部門に配置されている従業員について,実際にはソリューション営業を担当していないとかバックヤード業務(AMの補助的業務)を担当していたに過ぎなかったと主張していること(当審における一審被告準備書面(12),同(14)),その他原審証人C1の証言等に照らして,そのような配転が,文字通りスキルアップによるものかどうかには,疑問があるといわざるを得ず,これをもって上記認定を覆すに足るものとはいえない。

ウ 本件配転命令1(第1事件一審原告ら)

一審原告X1他3名(第1事件一審原告ら)に対する本件配転命令1の発令の状況は,原判決が,その114頁14行目から同115頁9行目までに説示するとおりであるから,これを引用する。

エ 本件配転命令2(第2事件及び第3事件一審原告ら)

一審原告X5他19名(第2事件及び第3事件一審原告ら〔控訴をしなかった一審原告を含む。〕)に対する本件配転命令2の発令の状況は,原判決が,その115頁11行目から同15行目までに説示するとおりであるから,これを引用する。

オ 名古屋支店の状況

構造改革前後の名古屋支店の状況については,以下に付加訂正するほかは,原判決が,その115頁17行目から同117頁3行目(148頁左段29行目)までに説示するとおりであるから,これを引用する。

(ア) 原判決115頁22行目の「料金回収等」の前に「116による電話注文の受付や」を加える。

(イ) 原判決116頁15行目の「第1ソリュー」から同17行目の「こととした。」までを「第1ソリューション営業部には,全部門のAMに技術支援をする『ソリューションSE担当』という部門を置いたほか,企画部門を設けて,全営業部の統括的な機能を持たせることとした。」と改め,同19行目(148頁左段17行目)の「これらの他,」の次に「愛知県全域にまたがる営業戦略の策定,」を加え,同24行目の「この組織の見直しにより」を「本件計画により50歳以上のAMが退職・再雇用を選択するため,そのようなAMの担当していた顧客については,AMの変更が必要となることや,本件計画の実施前の希望退職等により,116による電話注文の受付を担当する人員が不足したが,構造改革の実施までの期間において,その欠員を埋めることができるのは,ビジネスユーザー営業部のAMしかなく,同AMを構造改革前に116担当に異動させる必要があったことから,」と改める。

カ 名古屋BフレッツPT

(ア) 一審被告は,本件計画の実施当時,従来の固定電話の収入に依存するのではなく,情報流通企業へと変革を図る方針を定め,インターネット接続に関するサービスを取りそろえるなどしていたが(前記引用の原判決第4の2(1)ア参照),今後のインターネット接続サービスにおいては,その通信速度の速さから,光ファイバー接続によるものが主流を占めるものと考え,Bフレッツ(光ファイバーによるインターネット接続サービスである。前記引用の原判決摘示の前提事実(5)イ(ア)参照)の販売に力を入れる考えを持っていた。

名古屋支店の地域では,一審被告は,名古屋市内の一部において,平成13年11月から,Bフレッツの提供を開始しており,同市内での光ファイバーによるサービスをほぼ独占していた。

ところが,平成14年4月23日,中部電力が同年秋から名古屋市内において光ファイバーによるサービスの提供を開始すると報道発表するに至り,名古屋地区での同サービスの競争激化が予想されたこと(既に,関西圏では,特に既設マンションへの光ファイバーの設置において,関西電力系の事業者〔ケイオプティコム〕に大きく劣後している状況にあった。)から,一審被告では,名古屋支店における営業業務の在り方について,早急に対策を講じる必要が生じた。

そこで,名古屋支店においては,Bフレッツの積極的な販売の推進が販売戦略として示されることとなり,また,平成14年6月上旬に一審被告の本社で開催された支店長会議では,光ファイバーについての新規参入事業者に対抗するためには,マンション等の集合住宅の早期囲い込みが最優先で行われるべきである旨の方針が示されるに至った。

これを受けて,名古屋支店の営業企画部においては,名古屋支店地域におけるBフレッツの積極的な販売の推進のための方策について検討することとなった。

光ファイバーの営業につき,マンション等の集合住宅が最優先とされたのは,集合住宅への光ファイバーの設置は,各住戸まで光ファイバーを引き込むのではなく,マンション内の共有スペースまで大容量(100Mbps)の光ファイバーを設置し,そこからは集合VDSL装置により光信号を高周波の電気信号に変換し,既存の電話線(屋内配線)を通じて各住戸に到達させるという方法によることが一般的で(Bフレッツマンションタイプがこの方式である。),その場合には,1つのマンションに1事業者が集合VDSL装置を設置すると,他の事業者が新たな光ファイバーを引き込んで集合VDSL装置を設置することは難しく,その結果,先行事業者が,そのマンションの住民全部のインターネット接続サービスを受注することができるというメリット(囲い込み)があったからである。

(以上について,<証拠省略>,原審証人D,原審証人E)

(イ) ところで,前記オで引用した原判決がその116頁4行目から同117頁3行目までに説示する(本判決前記オによる補正を含む。)とおり,本来,構造改革の実施後は,名古屋支店は,全ユーザーを対象とする営業戦略の策定と大口ユーザーに対する営業のみを行い,中小規模ユーザーに対する営業についてはアクト名古屋社が担当することとされていた。そして,マンションに対する営業では,新築マンションは,ユーザー別に,名古屋支店ソリューション営業部又はアクト名古屋社が担当し,既設マンションは,アクト名古屋社の担当で,同社では,50戸以上のマンションについてアウトバウンド営業及びインバウンド営業を行い,50戸未満のマンションは,インバウンド営業のみを行う(20戸未満のマンションに対する勧奨商品はBフレッツファミリータイプ〔光ファイバーを直接住戸内に引き込む方式で,マンションでは屋内配管に余裕がないと事実上導入が難しいとされる。〕とされていた。)という体制となっていた。

そのため,名古屋支店において50戸未満のマンションに対してアウトバウンド営業を行う部署は存在していなかった。

(以上について,<証拠省略>,原審証人D)

(ウ) そこで,一審被告においては,平成14年7月,名古屋市内の20戸以上のマンションに対するBフレッツの販売推進を一審被告名古屋支店とアクト名古屋社とが分担して行うこと,また,一審被告名古屋支店においては,従前からあった各ソリューション営業部ではなく,同年9月1日付けで営業企画部に新たに設置する「Bフレッツ販売推進PT」(以下「名古屋BフレッツPT」という。)というプロジェクトチームにおいて担当することを決定した。

具体的な営業体制としては,平成14年7月段階で,名古屋支店の地域を,概略,東西の2地域に区分して,アクト名古屋社が担当する地域(東エリア)と,一審被告名古屋支店が担当する地域(西エリア)とに区分し,一審被告名古屋支店では20名(SEを除く。),アクト名古屋社では66名の体制を組むことが想定され,名古屋支店の必要人員は,名古屋支店及び九州地区からの営業経験者を充てることとされた。

また,これと併せて,京阪神地区の60歳満了型の従業員を,20戸未満のマンションに対するアウトバウンド営業に充てることが企画された。

その後,同年9月には,より具体的な営業体制が構想され,人員体制は,名古屋BフレッツPTと,アクト名古屋社の「HIKARI推進室」が,それぞれ段階的に増員して,体制の充実化を図ることとされ,営業活動は,当面は,ターゲットを名古屋市内の20戸以上の物件とし,そのような物件リストに基づくローラー実施,マンション管理会社の代理店化,ウェブを通じて申込みをしてきたユーザーをトリガー(営業のきっかけ)として管理会社及びオーナーへのアプローチを図ること,集合VDSL装置設置用ラックを小型化して設置スペースがないことを理由とする失注を回避すること,マンションデータベースの作成が企画された。そして,営業の基本パターンとして,①ポスティング→②理事会提案→③設備調査→④加入以降アンケートの実施→⑤住民総会への参加→⑥設備設置契約→⑦利用申込受付→工事,という流れが想定されていた。

ただし,この計画の中では,20戸未満のマンション及び一戸建て住宅に対しては,名古屋BフレッツPTにおいて,アウトバウンド営業を行うことが企画されたのみで,同PT発足後の同年9月になっても,具体的な営業活動や営業の戦略は定められていなかった。

(以上について,<証拠省略>,原審証人D)

(エ) 名古屋BフレッツPTは,平成14年9月1日に発足した。

同日時点では,企画グループ(販売活動に関する各種企画,販売戦略の立案等を行う。)は4名,SEグループ(Bフレッツに必要な機器の設置のための調査や,その設置方法の検討といった,技術的な支援業務を行う。)は18名,販売グループ(Bフレッツを中心とする商品の販売を行う。)は営業代行社員(アクト社からの派遣社員)24名であった。

また,同月25日時点のプロジェクトの進捗状況は,訪問663物件,受注56物件,代理店化9社見込,ラックは5種類を用意,データベースは同年10月中旬スタートに向けて準備中,というものであった。

その後,同年10月に名古屋支店から営業担当者8名が着任し,20戸以上のマンションに対する営業を担当する販売第1グループを形成し,同年11月には,販売第1グループに11名(名古屋支店1名,九州地区からの転入10名)が着任するとともに,60歳満了型の従業員9名(名古屋支店1名,大阪支店8名)が着任して,20戸未満のマンションに対する営業を担当する販売第2グループを形成し,同年12月には,販売第1グループに1名(本社),販売第2グループに8名(名古屋支店3名,大阪支店4名,熊本支店1名),平成15年2月に販売第2グループに3名(京都支店,福岡支店,熊本支店)が着任し,販売第1,第2グループがそれぞれ20名の体制となった。このうち,一審原告X13他9名(一審原告番号13~22)の着任状況は,原判決摘示の前提事実(2)オ(エ),(カ)b(b)のとおりである。

その他,平成14年10月には,一戸建て住宅への営業のため,営業代行社員25名が追加され,同年11月には,SEグループにSE12名が追加された。

(以上について,<証拠省略>,原審証人D,原審証人E,原審一審原告X22)

(オ) 販売第2グループでは,平成14年11月11日に,着任した従業員の勉強会を開催し,Bフレッツの概要,マンションへの営業の方法,受注の流れ等について,教材を用いて学習した。

その後,外販活動を行ったが,その内容は,販売第2グループにおいて,4,5名で班を形成し,各班で,販促用のチラシ(挨拶文)を作成して,パンフレットとともに封筒に詰め,それを支店側から渡されたマンションのリストに基づいて,各マンションに戸別にポスティングする,その数日後に,戸別訪問して,Bフレッツの導入(または,より簡易な光ファイバー接続サービスで,ネオメイト名古屋社の商品であるシャネオンの導入)を勧誘するというものであった。

しかし,Bフレッツマンションタイプの設置には,8件以上の受注見込み(ユーザーの申込意向確認)が必要とされていたこと,販売第2グループに渡されていたマンションのリストは,20戸未満のマンションであり,その受注見込み数が8件に達している物件はほとんどなかったこと,小規模のマンションでは,ワンルームマンションや昼間に不在の住戸が多く,訪問営業は訪問自体ができないことが多かったことなどから,販売第2グループの営業成果はほとんど上がらないものであった。

そうであるにもかかわらず,販売第2グループは,販売第1グループとは,衝立で仕切られたスペースに席を設けられ,販売第1グループと交流して,販売のためのノウハウを共有することもなく,営業成果を上げるためのノウハウを与えられることもなく,平成16年10月になるまで,メンバーの要求にもかかわらず,課会が開かれたことは1回に止まり,グループリーダーの会議も開催されていないという状態であった。また,ポスティング後の戸別訪問は,上記のとおり成果が上がらないことから,平成15年6月ないし7月ごろには中止となり,以後は,もっぱらポスティングのみをして,後はユーザーからの連絡を待つという営業形態となった。その状態で,平成15年5月以降は,10戸以下の非常に小規模な集合住宅のリストも与えられ,これに対しても営業活動を行うこととなった。

結局,販売第2グループの営業成果としては,当初は,Bフレッツファミリー100の販売(各住戸まで光ファイバーを引き込む方式で,マンションの囲い込みの効果がない。)があったのが主たるものであり,その後,受注の基準が引き下げられたこと(8戸以上の受注見込みから1受注プラス4受注見込みとなった。)により,ようやくBフレッツマンションタイプの受注が得られるようになったに止まるものであった。

(以上について,<証拠省略>,原審及び当審一審原告X22,当審一審原告X19)

(カ) 一審被告の主張について

上記の点に関し,一審被告は,名古屋BフレッツPTは80名ないし100名の体制を想定し,人員の不足を京阪神エリアからの60歳満了型社員の配転で賄う必要があったと主張し,原審証人Dや原審証人Eもそれに副う証言や陳述(<証拠省略>)をしているところ,たしかに,前記のとおり,名古屋市において,マンションに対する光ファイバーの設置に係る競争が激化することが予想され,マンションの「囲い込み」の必要が高かったことが認められ,20戸以上のマンションについては,具体的な営業方針を策定した上,営業経験者に営業活動を担当させることとし,PTの発足後間もない時期(営業代行社員のみによって営業活動が行われている時期)にあっても,具体的な営業成果が上がっていたと認められるところである。

しかしながら,こと20戸未満のマンションを営業の対象とした販売第2グループについてみると,一審被告作成の資料によっても,これらについても名古屋支店によるアウトバウンド営業をすることが決定されたことが窺えるのみで,当初は具体的な人員規模の策定もなく(<証拠省略>に「NTT20名」とあるのは,後の販売第2グループを含まない人員数と認められる。),具体的な営業戦略も策定されず,PTの発足後にも,営業活動の対象に含まれるとされておらず(<証拠省略>),現実に行われた営業活動の実態も,上記のとおり,営業成果の上がる可能性の乏しいものであり,かつ,営業成果を上げるための創意工夫も与えられず,これを形成するための援助もあったとは認められないのであるから(これらの点に関する原審及び当審一審原告X22の供述並びに一審原告らの陳述〔<証拠省略>〕が,虚偽を述べているとは認められない。),このような実情に照らしてみると,名古屋BフレッツPTにつき,販売第1グループの設置まではともかく,販売第2グループの設置について,一審被告が主張するほどの業務上の必要性があったとは到底認めることができない。

キ 名古屋MI担当(本件配転命令3について)

(ア) 従来から,システムの新規導入に比べると,MI業務(前記のとおりユーザー設備の運用・保守を集中して行うサービスに係る業務を意味し,不正侵入のチェックやセキュリティー対策等も含まれる。)は,一般にあまり注目されない分野であった。

しかし,MI業務は,①既に多くの企業ではシステム化が進んでおり,既に導入されたシステムやネットワークの運用や管理を専門家に任せたいというニーズが高まってきていたこと,②システムの運用や管理を受注することで,ユーザーを囲い込むことができ,システムの更改等の際に新たな契約を獲得する機会が得られること,③MI業務の売上高は,新規導入に比べると小さいが,契約期間中に安定した収入が得られることなどから,重要な業務であると認識されるに至っていた。

そのようなことから,一審被告においては,平成14年2月ころ,各支店においてMI業務を強化するように指示がされ,名古屋支店においてもそのための体制の整備が課題となるに至った。しかし,名古屋支店においては,同年3月にはプレ構造改革(前記オ(イ)参照)が予定されていたために,本件計画の実施が一段落した後に,MI業務の体制の強化を図ることとした。

なお,一審被告における保守契約は,一審被告が受注したシステムの構築に合わせて,あるいは,受注したシステムの瑕疵担保期間が満了する頃に,AMにおいて,保守契約の営業を行って受注するもので,一審被告においては,顧客からの連絡により保守手配を行う基本的な保守契約から,システムを監視して異常を発見する,システムの運用を引き受けるといった付加価値の高い保守契約まで,いくつかのメニューを提供していた。

(以上について,<証拠省略>,原審証人F)

(イ) MI業務には,①営業担当者(AM)がユーザーに対して保守契約を勧めるに当たって使用する保守見積書の作成や,保守提案書(運用や保守を勧めるについてのプレゼンテーション資料)の作成補助,営業担当者に同行してする保守管理についての提案(同行提案),②保守契約の締結に至った場合,保守・修理を実際に行う委託業者(本件計画実施後は,多くの場合,OS会社であるネオメイト各社である。)との業務委託契約の調整及び発注,③保守手引書(その内容は後記のとおり)の作成などが含まれる。

本件計画の実施前には,名古屋支店にはMI業務の担当者が20名程度おり,前記①ないし③の業務を担当していた。ところが,本件計画の実施後,そのうちの15名が退職・再雇用を選択することとなり,MI業務に残るのは5名のみとなった。

一方,本件計画の実施後,名古屋支店に残る業務は,前記の①(「MI提案業務」と呼ばれていた。)のみとなる予定であり,②及び③についてはOS会社(株式会社エヌ・ティ・ティ ネオメイト名古屋。以下「ネオメイト名古屋社」という。)に業務委託される予定であったし,また,前記オ(イ)のとおり,名古屋支店が担当するユーザー数が大幅に減少することから,差し当たっては,5名で業務を行うことは可能と考えていた。

また,一審被告(名古屋支店)からアクト名古屋社に移管される多数のユーザーについて,その保守契約の当事者を一審被告(名古屋支店)からアクト名古屋社に引き継がなくてはならず,また,保守・修理業者の変更等が生じることから,保守手引書の修正作業を行うべきこととなったが,この作業については一時的なものであり,60歳満了型の従業員(本件スキル転換研修までの待機者)を,暫定的に4名配置することで対応可能と考えていた。

このように,一審被告では,平成14年3月ころには,差し当たっては,これら合計9名でMI業務を行うことは可能と考えていた。

(以上について,<証拠省略>,原審証人F)

(ウ) しかし,一審被告は,名古屋支店においては,前記(イ)の②(業務委託契約の調整及び発注)及び③(保守手引書の作成)の業務をネオメイト名古屋社に業務委託する方針を転換し,その一部の業務の担当に,60歳満了型の従業員を充てることとした。

これにより,名古屋支店第1ソリューション営業部ソリューションSE担当の中に,MI業務を行うセクション(MI担当)が設けられることとなった。

MI担当は,構造改革時(平成14年5月)には,従前からのMI担当5名と,名古屋支店の60歳満了型の従業員4名が配置されており,同年7月に同様の従業員3名が名古屋支店内から追加配置され(その中には定年まで2,3年の者が含まれていた。),翌8月にソリューションSE担当の中から5名が配置換えされて,同年10月には16名の体制となった。次いで,同年11月に,大阪支店から9名,兵庫支店から1名(一審原告X5ほか7名〔一審原告番号5~8,10~12,23〕を含む。)の60歳満了型の従業員が着任し,同年12月には大阪支店から2名(一審原告X9〔一審原告番号9〕を含む。)が着任した。この11月に10名が着任した時点で,MI担当は,保守見積書作成と委託業者との契約を行うMI提案グループと,保守手引書の作成を行うMIサポートグループに分割され(ただし,同月8日現在の配席表〔<証拠省略>〕上は,いずれも「MI(アウトソーシング)」と表示されている。),MI提案グループにはスキルの高い6名を配置し,MIサポートグループには,従前からMI業務を担当していたその他の6名と,阪神地区からの転入者12名(同年12月の転入者を含む。)を配置した。

(以上について,<証拠省略>,原審証人F,原審証人G,原審一審原告X23)

(エ) 上記のMIサポートグループの業務は,次のようなものであった。

a 保守手引書について

保守手引書とは,保守契約期間中の故障発生時の対応を記載した書面で,顧客別に,保守内容(定額保守・スポット保守の別や,故障受付時間帯が24時間かそれ以外かなど),ネットワーク構成図,保守区分図(ネットワーク構成機器のうち,一審被告の保守対象となる設備を図示したもの),IPアドレスや回線番号情報,保守対象物品の一覧表,故障連絡体制図,故障処理フロー(故障発生の連絡から原因特定と対応に至る手順),顧客の連絡先,保守対象機器のベンダー(供給者)側の保守担当部門等が,一定の書式に従って記述された書面である。

保守契約を受注した場合には,AM担当において,保守契約書を基に保守条件書を作成し,これを,ソリューションSE部において同一文書で表題の異なる保守仕様書とし,これに,故障連絡体制図,故障処理フロー,ベンダー側の情報(ベンダー名,電話番号等)を付け加えて,保守手引書が作成されることになる。なお,ここにいう故障連絡体制図とは,顧客側及び一審被告側の故障連絡窓口の電話番号と,一審被告側の故障連絡窓口から故障修理手配をすべき業者の連絡窓口が記載されているものであり,故障処理フローとは,故障の受付から,故障の切り分け,故障別の修理手配先を流れ図で示したものである。

b 保守手引書の修正・整備

構造改革により,保守手引書に記載された一審被告の保守担当部署が変更となったり,OS会社に移管されたりしたことから,保守手引書に記載された会社名や部署名等を変更する必要が生じたことに加えて,従前は,保守手引書が一審被告において利用されていたため,本件計画前に行われたシステムの変更について,MI担当がその変更内容について手書きのメモ程度で対応していた事例があり,それが電子データに反映していないものもあったところ,保守契約の当事者がアクト名古屋社に変更されたり,実際に保守業務を担当するのがネオメイト名古屋社になったりすることになったため,そのような変更点をチェックし,電子データに反映させるなどして,整備された保守手引書を,アクト名古屋社やネオメイト名古屋社に引き継ぐ必要が生じた。

そこで,MIサポートグループでは,当初(平成14年11月から平成15年3月ごろまで),この保守手引書の修正及び整備と称される作業を行った。

しかし,その作業は,構造改革によって変更された社名や部署名の変更を入力し,それによって修正された保守手引書を印刷するという作業であり,単純な事務作業にすぎなかった。

c 保守手引書の作成

保守手引書の修正作業は,平成15年3月ごろ修了したため,MIサポートグループでは,平成14年12月ごろからMIサポートグループの一部の者に,平成15年5月ごろからはその全員に,保守手引書の作成業務を行わせた。

保守手引書の作成手順は,前記aのとおりであり,基本的な情報は保守仕様書によって与えられており,これに付加すべき故障連絡体制図,故障処理フロー,ベンダー側の情報も,機器の構成によって自ずと決定されるものであるから,これらを図解にして示す点で,スキルを要するものとはいえるが,ネットワークの知識や機器に関する知識が直接に役立つというものではなく,基本的には単純作業の域を出ないものである。

また,保守手引書の作成は,構造改革により,本来はアウトソーシングされるべき業務であった(平成14年11月8日現在の配席図〔<証拠省略>〕において,MIサポートグループが,「MI〔アウトソーシング〕」と表示されているのは,その趣旨を示すものともいえる。)。

d 保守見積書の作成

平成15年の途中から,MIサポートグループの一部の者が,保守見積書の作成を行うようになった。

保守見積書とは,AMが顧客にMI提案を行うときに用いる文書で,MI企画担当が作成する場合には,ネオメイト社に保守見積りを依頼した上,ネオメイト社の見積書を基に,支店内でのツールを用いて作成するものとされていた。

しかし,MIサポートグループにおいても保守見積書を作成するようになった頃から,新規の保守見積書はフロントSEという担当者が作成するようになって,MIサポートグループが作成する保守見積書の件数は減少した。

e MI業務支援システム(「たもつくん」)

「たもつくん」とは,名古屋支店のMI業務支援システムの呼称で,MI業務の進捗管理や,保守契約状況をデータベースとして管理するものであって,これを参照することにより,システムを構築した案件で保守契約の営業をしていなかったり,瑕疵担保期間が満了して保守契約を締結すべき時期にある案件を見出すことのできるものである。

MIサポートグループの中では,一審原告X23ほか数名が,同データベースの入力作業を担当したが,その入力内容は,ユーザーの住所氏名,機器の名称・設置日・設置事業所,保守ベンダー名などであり,これらを保守見積書等に基づいて,その情報を入力する作業で,基本的には単純作業であった。

(以上について,<証拠省略>,原審証人G,原審一審原告X23)

(オ) 平成15年4月ごろに,従来のMI提案グループとMIサポートグループは,それぞれ「MI企画」,「MIサポート」と名称を変更した。

次いで,平成16年5月に,ソリューションSE担当がビルを移転した際に,MI企画に「たもつくん」業務を移して,一審原告X23らをMI企画に所属させるなどしたが,それぞれの担当業務に特段の変化はなかった。

この間,名古屋支店では,MIビジネス勉強会などの名称で,保守契約の内容に関する知識,MI業務の内容,保守見積の演習,営業の実例等を内容とする勉強会を開催し,一審原告らを含むMIサポートグループからも参加者を出している。

また,平成15年5月や7月に,「MIサポート担当への期待」や「MIサポート担当の目標」と題する文書が作成されて配布され,その中で,保守品質の向上や保守調整業務の改善のほか,見積業務月30件,大型案件への参画年6件等という目標が示された。しかし,MIサポートグループには,これらの文書に示されたほどの業務が割り当てられたとは認められない。

(以上について,<証拠省略>,原審証人G,原審一審原告X23)

(カ) 一審被告の主張について

一審被告は,MIサポートグループの形成に至る経過について,構造改革の直前にネオメイト名古屋社との間で担当業務の調整がなされて,名古屋支店で担当する業務が増え,MI業務の停滞が生じ,その解消とMI業務の強化のために人員を必要としたと主張し,原審証人Fも,これに副う証言及び陳述(<証拠省略>)をしている。

しかしながら,構造改革のような大規模な組織変更にあたっては,遺漏のないように事前に綿密に計画が練られた上で実行されるのが当然であり,それが実行される直前に,名古屋支店においてのみ,本来アウトソーシングされることが予定され,それに従って支店側の組織体制が形成されていた業務について,その方針を転換するという構造改革の基本趣旨に反する変更がなされるというのは,極めて不自然であること,原審証人Fも,そのような担当業務の変更が必要となった具体的な事情について何ら説明をしていないこと,OS会社を設立する趣旨の中には,新事業による業容の拡大が含まれていることからして,OS会社における人員の配置や人材の活用は柔軟に行うことができたと推測され,MI業務のような数十人規模の業務(その中には保守手引書の修正のような一時的な業務も含まれる。)を一審被告に戻すことは,なおさら不自然であることなどからして,一審被告の主張する上記の経緯を認めることはできない。

また,原審証人Gは,平成14年5月から8月までの間にMI業務に配置した60歳満了型の従業員は,MI業務のスキルのある者であり,同年11月以降に着任した一審原告らを含むMIサポートグループの従業員についても,MIビジネスのスキルを習得して,スキルアップすることを期待していたと証言及び陳述(<証拠省略>)している。

たしかに,前記(エ),(オ)で認定のとおり,一審原告らの担当業務は,保守手引書の修正から作成へ,また一部の者については保守見積書の作成へと移り変わっているし,勉強会の開催など,座学ではあるがスキルアップの機会もあり,MIサポートグループに対する高い期待を表明した文書も存在している。しかしながら,現実にMIサポートグループが担当していた業務は,比較的単純な作業に止まるものであること,MIサポートグループに配属された60歳満了型の従業員からは誰一人としてMIビジネスの現場に出た者はいなかったこと,MIサポートグループから京阪神エリアに再配転された一審原告らが,再配転後にそのスキルを活用できる業務に就いていたとも認められないこと,保守手引書の修正や作成の業務は,本来OS会社にアウトソーシングされる業務であったこと,保守見積書の作成業務にしても,次第に多くがフロントSEの担当に移り,それでソリューションSE担当の業務に不都合が生じたとも認められないこと,MIサポートグループに係る人事異動の経緯については,一審原告X23の証言及び陳述(<証拠省略>)がむしろ具体的詳細であることなどに照らすと,上記原審証人Gの証言及び陳述をそのまま採用することはできないし,MIサポートグループに対する期待に関する文書も,文面どおりに受け取ることのできないものといわなければならない。

そうしてみると,結局のところ,MIサポートグループの業務は,名古屋支店において,60歳満了型の従業員に担当させるべき業務として,OS会社の業務及び名古屋支店内の他の部署において担当可能な業務から切り分けられたものと認めるほかはないことになる。

(2)  業務上の必要性についての判断

上記認定事実に,前記2(争点2:本件計画の必要性)において認定判断したところや,配転に伴って生じる一般的な不利益を併せ考えると,本件配転命令1及び本件配転命令2については,その業務上の必要性を肯定することができるが,本件配転命令3については,既に一定の業務に就いている60歳満了型の従業員に新幹線通勤または単身赴任の負担を負わせる配転を実施してまでする業務上の必要性を認めることはできない。

ア 本件配転命令1について

前記2で説示したとおり,一審被告における構造改革は,一審被告の事業における構造的な問題点(有線電気通信におけるユニバーサルサービスの義務を課せられる一方で,それを支える固定電話からの収入〔音声伝送収入〕が年々減少していくこと)を解消する手段であり,他の方法をもってしては代え難く,かつ,これを一時に実施することにも,企業経営上の合理性があったと認められるところであり,したがって,構造改革に伴って実施された本件計画にも企業経営上の必要性と合理性があったことは明らかである。

そして,上記認定事実からすると,本件計画が実施されることにより,60歳満了型を選択し,あるいはこれを選択したとみなされる500名に近い従業員の大半については,従前担当していた業務がアウトソーシングされてなくなったため,これに代わる業務を担当させる必要が生じたが,一審原告らがそうであるように,これらの従業員の多くは,従前は機械職や線路職であり,営業職の経験のある者も比較的小規模な事業者に対する営業に従事しており,一審被告に残された業務の中で担当する人員の多い大口ソリューション営業に就けるだけのスキルを有しないことから,ある程度の業務量のある新たな業務を創出する必要が生じ,そのような業務として選択されたものが,市場規模が大きく,ブロードバンド商品の販売にかかる競争が激化していた京阪神及び名古屋地区における1,2回線を有するユーザーに対するブロードバンド商品販売のアウトバウンド営業であったものである。

これと併せて,60歳満了型の従業員は,全体としての数は多いものの,特に地方では支店単位でみると少人数であり,そのような少数で分散した従業員の職掌を転換し,新たな業務に就かせる場合には,分散したままで処遇するのではなく,一定人数を集結させて,一団として処遇することの方が,企業の組織運営上効率的である(例えば,1支店において上記業務に従事する者が2,3名である場合,それに監督者をつけて1部署とすることは非効率である。)ということもできる。

たしかに,50歳を超えた従業員について,転居を伴う配転をすることは,それに伴うストレスが心身にさまざまな影響を及ぼすもので,若年者に比して,その負担は重いものと考えられ(後記9(2)参照),一審原告X1,一審原告X2,一審原告X4は,単身赴任中に,単身赴任との因果関係はともかくとして現実に健康状態の悪化を経験している。

しかし,そのような点を考慮してもなお,配転元で担当していた業務のなくなった従業員に対する新たな業務を創出する必要性や,一定の従業員を集結させて処遇する企業組織上の必要性は否定することができず,また,これにより上記一審原告らが担当した業務が,成果を上げにくい性質の業務であったにせよ,京阪神地区のブロードバンド市場における競争の状況に照らして,無意味なあるいは必要性のない業務ともいうことができないのであるから,そのような意味において,京阪神及び名古屋地区以外の支店に勤務していた一審原告X1他3名を阪神地区に異動させて,新たな業務に就けたことには,高度のものではないにしても,業務上の必要性があったというべきである。

よって,本件配転命令1には,業務上の必要性が認められる。

イ 本件配転命令2について

本件配転命令2を受けた一審原告らについて,従前担当していた業務以外の新たな業務を担当させる必要があったことは,前記アにおいて説示したと同様であり,これらの業務は,大阪北・中央・南の各ソリューション営業部の特定の営業担当において担当することとされていたのであるから,当該営業部への配転(勤務場所の変更)を命じることにも,業務上の必要性があることは明らかである。

ウ 本件配転命令3について

本件配転命令3を受けた一審原告らは,名古屋BフレッツPT販売第2グループ,又は名古屋支店第1ソリューション営業部ソリューションSE担当のMIサポートグループの業務を担当したものであるところ,これらの業務については,60歳満了型の従業員に担当させる業務として創出されたものと認めざるを得ないこと,いずれも,成果を上げることが非常に困難であったり,単純で機械的なものであったり,一時的なものであり,そうでなくてもOS会社や名古屋支店内の他の部署においても担当することが可能な業務であったことなどからすると,これらの業務について,構造改革から数か月が経過し,60歳満了型の従業員が,それぞれに業務を割り当てられていた後に,さらに新たに1部署を設けて60歳満了型の従業員を集結させ,これを担当させる業務上の必要性は,ないとはいえないものの,その必要性は乏しかったといわざるを得ない。

そして,本件配転命令3を受けた一審原告らについていえば,同一審原告らは,構造改革とこれに伴う本件計画の実施により,大阪支店や兵庫支店において,1,2回線を有するユーザーに対するアウトバウンド営業の業務を既に担当していたものであり,これにより,従前担当していた業務をなくした従業員が担当すべき新たな業務の創出,及び,これらの従業員を一定の集団として組織するという,一審被告の業務上の必要性は一旦は満たされたものということができるところであり,その後に,同業務が終了したり,業務量が減少したとも認められないのであるから,構造改革時に存在した上記の業務上の必要性が満たされた状態が,なお継続していたというべきである(その点で,本件配転命令1とは,前提を異にするものである。)。そして,これら大阪支店における業務よりも名古屋支店におけるBフレッツ販売,MIサポートの業務の方が,業務上の必要性が高かったと認めるに足る証拠もない。

このことに,本件配転命令3は,これを受けた一審原告らに対して,長時間の新幹線通勤又は単身赴任を余儀なくさせるものであったことを併せ考えると,本件配転命令3については,そのような負担を負わせてまで従業員を配転しなければならない程の業務上の必要性を認めることはできない。

(3)  一審原告らの主張について

これに対して,一審原告らは,本件配転命令1及び本件配転命令2についても業務上の必要性はなかったと主張する(原判決第3の1(5)アないしウ)。

ア 本件配転命令全般について(一審原告らの主張(5)ア)

(ア) OS会社への在籍出向又はOS会社に委託した業務の引取りについて(一審原告らの主張(5)ア(ア))

一審原告らの上記主張は,本件配転命令全般について,まず,一審原告らをOS会社に在籍出向させたり,一審被告がOS会社に委託した業務を引き取るなどして,従来と同様の仕事を行わせるべきであったと主張するものである(一審原告らの主張(5)ア(ア))。

しかし,前記4で引用した原判決が,その105頁12行目がら同106頁10行目(144頁右段14~45行目)において説示するとおり,一審原告らをOS会社に在籍出向させなかったのは,賃金の減額が生じているOS会社に再雇用された一審被告の元従業員と,従前どおりの賃金が維持されている60歳満了型の一審被告従業員とが,同じ職場で同様の職務を担当した場合,両者の間に不公平感が生じることが考えられるため,そのような不都合を避けようとしたものであり,このような理由により一審原告らをOS会社に在籍出向させなかったことを不合理ということはできない(本件計画が51歳以上の従業員に退職・再雇用か,60歳満了型かの選択を求めたのは,給与水準の高い高齢の従業員の人件費負担を軽減する目的によるものと考えられ,そうである以上は,できるだけ多くの従業員が退職・再雇用を選択するよう誘導する意味からも,60歳満了型を選択し,あるいはそれとみなされた従業員の在籍出向を認めないことは,一面やむを得ないことといえる。)。

また,本件計画を実施する必要があったことについては,前記2で判断したとおりであるが,OS会社に委託した業務を引き取ることは,本件計画の趣旨に反することになる。

一審原告らは,福岡BBタスクフォースでは,退職・再雇用を選択した従業員と60歳満了型を選択した従業員が同一の職場で同一の業務をしていて,特段の問題を生じていないと指摘するところ,たしかに,証拠(<証拠省略>)によれば,一審被告の福岡支店においては,平成15年度に入っても光ファイバー接続の販売が目標数を大きく割り込んでいる状態であり,販売体制を強化する必要が生じたことから,福岡BBタスクフォースとの名称で福岡支店とOS会社からそれぞれ人員を調達して販売体制を組むことになったこと,集められた人員には,退職・再雇用のOS会社の従業員と60歳満了型の従業員(元の所属はソリューション営業部や設備部)が含まれていたこと,これらの者も,混在して同一の班を形成し,販売活動に当たったこと,福岡BBタスクフォースは,当初平成15年10月から平成16年3月までの一時的なプロジェクトチームとされたが,その後1年間延長され,その後さらに延長されたこと,の各事実を認めることができる。

たしかに,この事実からすると,60歳満了型の従業員を在籍出向させることも,事実として不可能ではないとはいえるけれども,福岡BBタスクフォースの設置目的からして,同プロジェクトチームは,結局は臨時的なものといわざるを得ないのであって,同様の60歳満了型の従業員の在籍出向を一般的に行うことは,本件計画の趣旨に反し,一審被告の組織運営上も不都合であることは否定できないというべきである。

よって,一審被告が原則として60歳満了型の従業員の在籍出向を認めないとし,一審原告らにもその原則を適用したことを違法ということはできない。

また,一審原告らは,一審原告らの元所属した支店においても,一審原告らにふさわしい業務が存在すると主張するところ,たしかに,証拠(<証拠省略>)によれば,一審原告X4が元所属していた大分支店においても,60歳満了型の従業員が,大口ソリューション営業の部署に所属して,営業活動を行っていること,支店には,契約事務や施工監督に係る事務が残存していること,一審原告X2は,徳島支店に再配転された後,代理店の開発業務に従事していたこと,の各事実を認めることができる。しかしながら,これを一審被告の主張(当審準備書面(12))と対比してみると,一審原告らが指摘する大分支店の従業員は,それぞれ事情があって元所属した支店に残された者であること,その担当していた業務も,補助的なものであるか,そうでなければある程度のスキルを要するものであって,必ずしもこれを一般化して,60歳満了型の従業員であれば誰しも担当できる業務であったとまでいうことはできないし,一審原告らの主張する主任技術者の業務も,後進の育成上若年者に担当させることが相当といえる業務と考えられるところである。

そうすると,個別にみれば,支店においても60歳満了型の従業員に担当させることのできる業務があることは,直ちに本件配転命令1及び本件配転命令2の業務上の必要性を否定する事情になるということはできない。

一審原告らの上記主張は,いずれも採用できない。

(イ) 若年労働者を配転すべきであるとの主張について(一審原告らの主張(5)ア(イ))

一審原告らの主張は,異職種への配転を行うに当たっては,適応能力の高い若年労働者を配転させるのが合理的であり,51歳以上の従業員を異職種へ配転させることには合理性がないというものである。

しかしながら,前記(2)ア,イで説示したとおり,60歳満了型の従業員に1,2回線ユーザーに対するブロードバンド商品の営業の業務を行わせたのは,本件計画の実施により,同従業員に担当させるべき業務が存在しなくなったことから,これに担当させるべき業務として新たに上記業務が創出されたことによるものであり,上記業務に配転すべき従業員を,60歳満了型の従業員とするか,若年の従業員とするかの,いずれが適当かという問題とは異なるものである。

よって,一審原告らの上記主張は,前提を異にするものであって,採用できない。

(ウ) 経済的合理性がないとの主張について(一審原告らの主張(5)ア(ウ)。なお,一審原告らの主張(5)ウ(イ)も同様の主張と考えられる。)

一審原告らの上記主張は,本件配転命令1及び2により一審原告らに与えられた業務は,収益を期待できない業務であり,不合理であるというものである。

たしかに,上記本件配転命令1及び2により一審原告らに与えられた,1,2回線ユーザーに対するブロードバンド商品の販売の業務は,実績の上がりにくい業務であったことは明らかであるが,前記(2)ア,イで説示したとおり,60歳満了型の従業員に上記業務を担当させたのは,本件計画の実施により,同従業員に担当させるべき業務が存在しなくなったことから,これに担当させるべき業務として,OS会社の業務とも競合せず,ある程度の業務量のある業務として,新たに上記業務が創出されたことによるものであり,その限りでは収益性を問うところではなかったと考えられるし,当該業務に,ブロードバンド商品の販売に係る競争の激しい京阪神地区における一審被告の企業戦略としての意味も認められない訳ではないから,一審原告らの上記主張によっても,本件配転命令1及び2の業務上の必要性は否定できないというべきである。

イ 本件配転命令1について(一審原告らの主張(5)イ)

前記(1)ア(1)で認定のとおりのソリューション営業の実情に照らすと,一審原告らは,いずれも,支店に残された大口ソリューション営業に必要とされるスキルを有していなかったものであり,そのような一審原告らを所属元の支店における大口ソリューション営業に就けることは,そもそも不合理であったといわなければならない。

この点に係る一審原告らの主張は採用できない。

ウ 本件配転命令2について(一審原告らの主張(5)ウ)

一審原告らは,本件配転命令2により一審原告らに与えられた,1,2回線ユーザーに対するブロードバンド商品の販売の業務は,本件計画による一審被告の業務と位置づけられておらず,そのような営業活動を続けても大口ソリューション営業を担当できるスキルは習得できないし,そもそも一審被告は,そのようなスキルアップを期待していなかったと主張するところ,前記(1)アで認定説示したとおり,一審原告らの上記主張は,必ずしも事実に違うものではないというべきであるけれども,そうであるからといって,本件配転命令2について,業務上の必要性が否定できないことは,前記(2)で説示したとおりである。

一審原告らの上記主張は,本件配転命令2の業務上の必要性を否定するものとはいえない。

6  争点6(本件配転命令が不当な動機・目的に基づくものであるか否か)について

上記争点についての当裁判所の判断は,原判決138頁22行目から同139頁初行までを,以下のとおり改めるほかは,原判決がその138頁16行目から同140頁10行目までに説示するとおりであるから,これを引用する。

「 本件配転命令1及び2に関する限り,各配転命令に業務上の必要性が認められることは,前記5(2)で説示したとおりである。

一審原告らは,60歳満了型の従業員を配転する必要性はなく,回避可能であったとか,配転先の業務が配転のために作られた虚構であるとも主張するが,その主張を採用できないことは,前記5(3)及び同(2)で説示したとおりである。

さらに,一審原告らは,本件配転命令は,退職・再雇用への同意を強要するための,脅しや騙しであるとか,退職・再雇用に応じなかったことに対する報復・見せしめであるとも主張する。たしかに,構造改革や本件計画の趣旨からして,一審被告においては,できるだけ多くの従業員が退職・再雇用を選択することを期待していたことは明らかであり,証拠(<証拠省略>)によれば,平成13年10月以降の上司との面談の場で,上司から一部不当というべき発言がなされている事実も認められないわけではないが,本件配転命令1及び2に関する限りでは,その趣旨は,前記5(2)で説示し,同(3)で補足したところにあると認めざるを得ないのであって,これを退職・再雇用への同意の強要であるとか,退職・再雇用に応じなかったことに対する報復・見せしめと認めるには至らない。

加えて,一審原告らは,配転先での就業態様からも,本件配転命令について不当な動機・目的が認められると主張するところ,たしかに,本件配転命令1及び2によって一審原告らが担当した業務が,成果の上がりにくいものであり,他の部署とのノウハウの共有等といった成果を上げるための積極的な方策が採られていたとも認められないけれども,前記のとおりの本件配転命令1及び2の趣旨に照らすと,そのような業務が創出されたこともやむを得ないところがあるというべきであり,上記業務の態様から,一審被告に不当な動機・目的があるとまで推認することはできない。」

7  争点7(本件配転命令が不当労働行為に該当するか否か)について

(1)  事実関係

上記争点に関し,前提事実及び証拠によって認められる事実は,原判決がその140頁14行目から同143頁14行目までに認定するとおりであるから,これを引用する。

(2)  不当労働行為性に対する判断

本件配転命令が不当労働行為に当たるかについては,本件配転命令についての業務上の必要性の有無及びその程度を考慮して,一審被告の反組合的意思(不当労働行為意思ないし支配介入意思)の有無等について総合的に判断すべきであると考えられる。

この観点から本件配転命令についてみるに,前記2で認定説示したとおり,一審被告における構造改革による組織の改編とそれに伴う業務の見直し及び人員の再配置(OS会社への移行)については,他の手段によっては代え難いものであり,その業務上の必要性は高度なものであったというべきであるところ,前記5で認定説示したとおり,本件配転命令1及び2に関する限りでは,本件計画が実施されたことにより,アウトソーシング対象業務に従事していた60歳満了型の従業員について,担当すべき業務がなくなったため,競争が激化していた地域において同従業員が担当すべき新たな業務を創出して,これを担当させるとともに,同従業員を一審被告の組織上効率的に処遇する目的でなされたものと認められるから,本件配転命令1及び2を発することは,業務上やむを得なかったものといえ,そのこと自体から,一審被告に不当労働行為意思があったと推認することはできないし,他に,これがあると認めるに足る証拠もない。

(3)  一審原告らの主張について(原判決摘示の一審原告らの主張(7))

ア 一審原告らは,その所属する通信労組が,使用者である一審被告に対して,常に労働者の要求を対置して活動をしてきたものであるところ,

① 一審被告は,本件計画について,最大の労働組合であるNTT労組の協力を取り付ける一方で,通信労組に対しては,本件3カ年計画の告知を遅らせる,本件計画の意向確認手続について労働組合として組織的に対応する旨の要求をしたのに,これを無視し,同組合員である一審原告らに個別面談に応じることを業務命令であるとして強制する,配転についても団体交渉で扱うことを求めたが,それに関する団体交渉を拒否するといった,不当な対応をしたこと

② 本件配転命令は,通信労組の組合員を狙い打ちにしたもので,これにより,地方都市における通信労組の地方組織(支部)に甚大な影響が生じたこと

③ 本件配転命令2と同時期に,大阪支店内の通信労組の組合員を大阪支店内の別のビルに相互に配転するという「玉突き配転」をしたこと

を挙げて,本件配転命令が不当労働行為にあたると主張する。

イ たしかに,本件計画の実施に至るまでの団体交渉の経過は,前記(1)のとおりであって,一審被告は,通信労組との間では,本件計画の内容について,労働条件に関する事項以外は,経営に関する事項であるとして,詳細な回答をせず,議論もしてこなかったもので,そのことは,経営協議会という団体交渉とは異なる場で,経営に関する情報を開示して議論をしてきたNTT労組とは,対応が異なるところであり,本件3カ年計画に基づく構造改革による労働条件の変更の提案については,NTT労組との間に差別があったとして,地方労働委員会において不当労働行為にあたると判断されているところである(<証拠省略>)。

しかしながら,組合員全体を通じる労働条件に関わる事項以外の事項については,それを団体交渉事項とする趣旨の協約等がない限り,使用者が団体交渉に応じなくとも不当労働行為であるということはできないところ,本件計画の意向確認手続は,個々の労働者を配転するかどうかという個別の労働条件に関わる事項であるから,一審被告が,意向確認手続や個々の配転について団体交渉に応じなかったことは,不当労働行為にあたるものではなく,そこに不当労働行為意思を認めることもできない。

また,本件計画の実施により,本件配転命令1を含めて,地方の支店から京阪神及び名古屋地区の支店に,相当数の60歳満了型の従業員が配転されたから(前記5(1)ア(オ)~(キ)),これによって,元々少数組合である通信労組の地方組織の構成員が減少し,その組織が弱体化する方向での影響を受けたことを推認することができるところであるが,本件配転命令1を含む地方の支店から京阪神及び名古屋地区への配転に業務上の必要性があったことは,前記5(2)で説示したとおりであって,60歳満了型の従業員に担当させるべき新たな業務の創出と,一審被告の組織運営上の効率性の点から,やむを得ないものであったと認められるし,組合活動上必要な者については,配転を見合わせるなどの配慮もしていることからすると,本件配転命令1について,不当労働行為意思があったと推認することはできないというべきである。

さらに,一審原告らは,本件配転命令2について,玉突き配転が行われた事実を指摘するところ,本件計画の実施後,大阪支店と兵庫支店,大阪支店と京都支店との間で,相当数の配転がなされたことは前記5(1)ア(キ)のとおりであるし,これと併せて,大阪支店内でも,複数のビルをまたがる配転がなされたことが窺えるけれども,前記5(2)イで説示したとおり,60歳満了型の従業員に担当させるべき業務は,大阪北・中央・南の各ソリューション営業部の特定の営業担当で担当することとされていたことからすると,その配置に伴う配転が生じることはやむを得ないことであるし,そうでなくとも,複数の事業所の間で適宜人員を交替させることは,企業において日常的に行われていることであるから,上記のような支店間での,又はビルをまたがる配転が行われたからといって,そこから直ちに不当労働行為意思があることを推認することはできない。

以上のとおり,一審原告らの主張はいずれも採用できない。

8  争点8(本件配転命令において適正な手続が執られていたか否か)について

一審原告らの主張は,異職種配転や遠隔地配転の際,使用者には,労働者の受ける不利益に配慮して,配転の必要性等について十分な説明をすべき義務と,労働者からの事情聴取義務があるのに,一審被告はそれを履践していないというものである。

たしかに,本件配転命令1及び2にあたって,一審被告は,一審原告らに対して,個別の配転の必要性や,配転先での担当業務,各一審原告の復帰の時期について説明をしたとは認められず,本件計画が策定された平成13年11月ないし平成14年1月上旬の段階で,構造改革により業務の抜本的なアウトソーシングを行うこと,これに伴って労働条件諸制度が見直されることを明らかにし,60歳満了型について,一審被告の本社若しくは支店において,企画・戦略や法人営業等の業務に従事し,市場性の高いエリア等を中心として勤務地を問わない雇用形態であることを告知したにとどまるものである(前記引用の原判決摘示の前提事実(2)ア(エ)(オ),前記5(1)ア(イ))。

したがって,その点では,一審原告らが主張するような意味での説明義務を尽くしたとまではいうことができない。

しかしながら,まず,本件配転命令1を含む地方の支店から京阪神及び名古屋地区への配転については,繰り返し説示するとおり,本件計画の実施により担当すべき業務がなくなった60歳満了型の従業員に対して,担当すべき業務を創出して,それを担当させるためになされたものである。そうすると,その配転は,その性質上,一審被告の認めた少数の例外(57歳以上,特段の個人的事情のある者,組合活動上必要とされる者など)を除いて,すべて実行されざるを得なかったものであり,その点で,通常の業務の過程でなされる個別の配転(労働者個人の特性,キャリアパスの形成等を考慮してなされる業務分担の変更)とは,性質を異にするものであったというべきである。

このような配転にあっては,結局のところ,個別の労働者に対する関係においても,その配転の理由・必要性とは,構造改革に伴って本件計画が実施されることにより業務分担を変更する必要があるというに尽きるのであって,それ以上のものではなかったというべきである(むしろ配転をしないことに積極的な理由が要求されるものといえる。)。この観点からすると,一審被告は,上記のとおり,構造改革の趣旨を明らかにした上,60歳満了型の従業員の性質を述べ,勤務地を問わない配転があり得ることを告知しているのであるから,本件配転命令1についても,その理由及び必要性を説明したというべきである。

また,本件配転命令2については,一部の一審原告については職種の変更を伴うものであるが,遠隔地配転ではないから,上記の説明により,その配転の理由及び必要性を説明したというべきである。

加えて,一審原告らは,労働者からの事情聴取義務があるとも主張するところ,たしかに,使用者が職種の転換や遠隔地配転を命じようとする場合には,それを避けるべき労働者個人の事情の有無について,事前に,労働者個人から事情を聴取することを含めて(ただし,それに限るものではなく,それを必須とするものでもないというべきである。),情報を収集すべき義務があるということはできる。しかしながら,後記9において,個別に検討するとおり,本件配転命令1を受けた一審原告X1他3名については,結局のところ,本件配転命令1の発令を差し控えるべき事情があったとは認められないのであるから,本件配転命令1の発令にあたって,一審被告において,労働者個人からの事情聴取が十分でなかったとしても,そのことによって本件配転命令1が直ちに違法となるものではないというべきである。また,そのことは,遠隔地配転を含まない本件配転命令2においても同様であって,本件配転命令2の発令にあたって,一審被告において,労働者個人からの事情聴取が十分でなかったとしても,そのことによって本件配転命令2が直ちに違法となるものではないというべきである。

9  争点9(各一審原告らが本件配転命令により受けた不利益の程度等)及び争点10(各一審原告らの損害額)について

(1)  本件配転命令1について

一審被告が,60歳満了型を選択した従業員及びこれを選択したとみなされた従業員につき営業職への転換を命じることに業務上の必要があったこと,及び,同従業員につき,京阪神及び名古屋地区への配転を命じることに業務上の必要があったことは,既に説示したとおりである。

したがって,一審原告X1,同X2,同X3に対し,営業職への転換を命じた上,同一審原告ら及び一審原告X4に対して,大阪支店又は兵庫支店への配転を命じる本件配転命令1を発したことは,業務上の必要があってなされたものと認められる。

そこで,以下においては,上記各一審原告につき,本件配転命令1が権利の濫用と認められるべき特段の事情の有無について検討する。

なお,上記の検討にあたっては,使用者としては,配転命令の時点において認識していた事情を考慮の上で,当該従業員の生活関係にどの程度の影響が生じるかを検討し,配転命令に及ぶか否かを判断することになるのであるから,原則として,その時点において使用者が認識し,あるいは通常の業務の過程で容易に認識することのできた事情を基礎として判断することとする。

また,育児介護休業法26条は,事業主に対して,労働者の就業場所の変更に当たって,当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない旨を定めているところ,本件配転命令が行われた平成14年5月以降当時には,同条が既に施行されていたのであるから,本件配転命令が権利濫用に当たるかを判断するに当たっては,同条の趣旨を踏まえて検討することが必要である(一審原告らは,ILO第156号条約3条に違反する旨も主張するが,その文言から明らかなとおり,同条は,各加盟国に対して国の政策の目的とすべき事項を定めたもので,直ちに国内法的効力を有するものではないと解されるから,国内における使用者と労働者との間の具体的な紛争の解決に当たっては,これを国内法として具体化した上記育児介護休業法の趣旨に基づいて判断することで足りるというべきである。)。

ア 一審原告X1(一審原告番号1)について

本件全証拠を検討しても,一審原告X1について,本件配転命令1及びこれに先立って営業職への転換が命じられた当時,子の養育又は家族の介護などといった事情を含め,遠隔地への配転を避けなければならないような個人的事情が存したと認めるに足りる証拠はない。

たしかに,証拠(<証拠省略>,原審一審原告X1)によれば,一審原告X1の妻は,脊髄性小児麻痺による右下肢機能障害により身体障害者等級表5級の障害を有していること,一審原告X1が単身赴任したことにより,その妻の家事や地域生活上の負担が増大したことが認められるが,他方で,同人は,32年間,知的障害者の施設に勤務し,輪番制の職務をこなしていたことも認められる(<証拠省略>)。そうすると,一審原告X1において,妻に対して日常的に援助することが必要不可欠とまではいうことができず,妻が障害者である事実をもって,本件配転命令1が,使用者の権利の濫用に当たるとまではいえない。

このほか,一審原告X1は,単身赴任を余儀なくされたことによる,自己及び家族の負担等を述べるが,そのような負担は,一般的な単身赴任に伴う負担として甘受すべき範囲を超えるものとまでは認められず,単身赴任を余儀なくされたというだけで,本件配転命令1が権利の濫用に当たるということはできない(以下,本件配転命令1にかかる各一審原告らについても同様である。)。

なお,一審原告X1は,平成17年8月に冠攣縮性狭心症の発作を起こし,一時勤務軽減の措置を受けるなど,健康を害した事実も認められる(<証拠省略>)が,それは本件配転命令1の後に生じた事情であり,再び自宅から通勤可能な職場への再配転をすべきという事情にはなり得ても,本件配転命令1が権利の濫用に当たることを裏付ける事情となるものではない。

また,一審原告X1は,遠隔地への配転による労働組合活動上の不利益を述べるが(<証拠省略>),前記7のとおり,本件配転命令1が不当労働行為に該当すると認めることはできない以上,一審原告X1が,自己の労働組合活動上の不利益を受けたとしても,これを通常甘受すべき程度を著しく超える不利益ということはできない。

イ 一審原告X2(一審原告番号2)について

本件全証拠を検討しても,一審原告X2について,本件配転命令1及びこれに先立って営業職への転換が命じられた当時,子の養育又は家族の介護などといった事情を含め,遠隔地への配転を避けなければならないような個人的事情が存したと認めるに足りる証拠はない。

一審原告X2は,同人が単身赴任することによる共働きの妻の家事や地域生活上の負担を述べるほか,本件配転命令1以前からあった妻の腰痛が悪化したこと,同一審原告が平成15年3月に大腸ポリープの摘出手術を受けたり,同年7月にうつ病の診断を受けて一時休職したことを主張する。しかしながら,単身赴任に伴う負担については,一般的な単身赴任に伴う負担として甘受すべき範囲を超えるものとまでは認められない。妻の腰痛については,そのような事実が認められるものの(<証拠・人証省略>),妻自身がそれを勤務先(一審被告)に届け出ておらず,健康管理区分の指定も受けていなかった(<人証省略>)というのであるから,本件配転命令1にあたって,一審被告がその点を考慮しなかったからといって,本件配転命令1が権利の濫用に当たるということはできない。さらに,同一審原告の疾病についても,そのような事実が認められるものの(<証拠・人証省略>),これらは,本件配転命令1の後に生じた事情であり,本件配転命令1が権利の濫用に当たることを裏付ける事情となるものではない。

このほか,一審原告X2は,平成17年に徳島支店に再配転された後に,短期取次店の開拓とこれを通じた販促の営業活動で好成績を上げているから,同人を遠隔地に配転する必要はなかったとも主張するが,従業員個人の地の利や人脈を生かした営業活動に期待するかどうかは,使用者の裁量判断に係る事柄であり,それに期待することなく従業員を配転したからといって,当該配転が権利の濫用となるということはできない。

ウ 一審原告X3(一審原告番号3)について

本件全証拠を検討しても,一審原告X3について,本件配転命令1及びこれに先立って営業職への転換が命じられた当時,子の養育又は家族の介護などといった事情を含め,遠隔地への配転を避けなければならないような個人的事情が存したと認めるに足りる証拠はない。

一審原告X3は,単身赴任に伴う負担や,組合活動上の不利益を述べるほか,妻が平成15年7月に関節リウマチを発症して日常生活上の介護を要する状態になったことを主張する。

しかしながら,単身赴任に伴う負担については,一般的な単身赴任に伴う負担として甘受すべき範囲を超えるものとまでは認められないし,組合活動上の不利益も,4人という少人数で結成された通信労組岡山支部が,同一審原告が本件配転命令1を受けることにより,さらに少人数となったことは認められる(<証拠省略>)ものの,前記7のとおり,本件配転命令1が不当労働行為に当たらない以上,同一審原告が,自己の労働組合活動上の不利益を受けたとしても,これを通常甘受すべき程度を著しく超える不利益ということはできない。

さらに,妻の疾病についても,そのために同一審原告が介護休職を取得し,そのために収入が減少した事実は認められるものの(<証拠省略>),これらは,本件配転命令1の後に生じた事情であり,本件配転命令1が権利の濫用に当たることを裏付ける事情となるものではない。

エ 一審原告X4(一審原告番号4)について

(ア) 本件全証拠を検討しても,一審原告X4について,本件配転命令1の当時,子の養育又は家族の介護などといった事情を含め,遠隔地への配転を避けなければならないような個人的事情が存したと認めるに足りる証拠はない。

一審原告X4は,単身赴任に伴う負担に加えて,本件配転命令1の当時,既にHTLV-Ⅰ(成人T細胞白血病ウイルスⅠ型)のキャリアであり,その発症を防止するには,毎日の生活リズムを規則正しくし,バランスの取れた食事,十分な睡眠,ストレスを溜めないことなどにより免疫力を高める必要があるが,本件配転命令1は,そのような事実に配慮せずになされたものであると主張する。

たしかに,証拠(<証拠省略>,原審及び当審一審原告X4)によれば,同一審原告が上記キャリアであること,同ウイルスによる年間発症率は低率であるが,一旦発症すると予後が不良であること,一審被告の健康管理医は,平成16年4月に,同一審原告について,発症の危険度が高いと思われるので,定期的なチェックが必要であること,常に規則正しい食生活をするよう指導していること,職場においても,本人のストレス緩和ができる環境を整備するよう配慮が望まれる,との意見を述べていること,の各事実が認められるが,同時に,同一審原告は,本件配転命令1以前に,一審被告に上記キャリアであることを説明したことがないこと,一審原告X4自身がこのウイルスの保有が自己の健康上重大なことであることを知ったのは本件訴訟提起に際してであり,本件訴訟の提起によって初めてこの健康上の事情を一審被告に示したことも認めることができる。

そうすると,一審被告においては,本件配転命令1の当時にこの一審原告X4の健康上の事情を考慮することはできなかったのであるから,その事情を考慮することなく本件配転命令1をしたことをもって,使用者としての権利を濫用したということはできない。

また,証拠(<証拠省略>,原審及び当審一審原告X4)によれば,一審原告X4は,本件配転命令1の以前から睡眠時無呼吸症候群の症状が窺われることや,本件配転命令1後に,シックハウス症候群を発症したり,平成19年6月には抑うつ状態に陥って,平成20年1月21日まで病気休職を取得したことが認められるが,睡眠時無呼吸症候群の症状については,医師の明確な診断を経たものではなく,本件配転命令1以前に一審被告がこれを知っていたとも認められないし,シックハウス症候群や抑うつ状態については,本件配転命令1の後に生じた事情であり,本件配転命令1が権利の濫用に当たることを裏付ける事情となるものではない。

(イ) 一審原告X4は,当審において,同一審原告が平成14年4月まで従事していた業務は,アウトソーシングされたものの,業務自体が消滅したわけではないこと,一審被告大分支店において60歳満了型の従業員で法人に対するソリューション営業に従事している者がいること,その1名が平成19年3月末で退職して欠員が生じていることなどを挙げ,一審被告は,遅くとも原判決言渡時には,一審原告X4を大分支店に再配転する義務があることを認識したのに,そのような再配転をせず,同一審原告を大阪支店に配置したまま定年退職させたから,一審被告は,その不法行為又は債務不履行による損害賠償義務を負うと主張する。

そこで,この点について検討するに,上記のとおり,一審原告X4は,従前から健康管理医によってHTLV-Ⅰウイルスによる白血病の発症予防のための環境整備が求められている状態で,平成19年6月には,抑うつ状態を発症している事実を認めることができることに加えて,証拠(<証拠省略>,当審一審原告X4)及び弁論の全趣旨によれば,

a 同一審原告は,平成18年7月1日付けで,一審被告本社マーケティング部マーケティング推進部門に異動になったこと

b 同部門は,同時期に,一審被告と関連会社との業務運営体制の見直しがなされ,新たな支店の設置,地域会社の統合,支店業務のアウトソーシング化の拡大などが行われた際に,株式会社マーケティングアクト(営業系統括会社)が担当していたマーケティングリサーチ業務を一審被告が引き取り,顧客のニーズや市場動向の調査業務と,これによって販売戦略を策定し,営業活動につなげていく営業とを一連のサイクルとして捉える「調査営業」という業務を行うためとして設置された部署であること

c 同部門は,関西圏に5センタ(拠点),550人規模で開設され,同年7月から稼働し,次いで,名古屋エリアと福岡エリアにも拠点を設けて同年12月から稼働することとなったものであること

d 同部門での一審原告X4の業務は,住宅地図を見て戸別に訪問し,インターネット関連商品のアンケートを行って,反応がよければ商品を売り込むというものであったこと

e このような調査営業の活動によって,平成18年7月から同年11月末までに約4000通,平成19年4月までには約1万5000通のアンケートの回収がなされ(ただし回答者の過半数が50歳以上であり,回答者の属性に偏りがある。),その分析により,いくつかの仮説とその検証を経て,営業における顧客に対する訴求点(Promotion),価格(Price),営業方法(Place),商品構成(Product)についての提案がなされたこと

f 平成18年10月から平成19年6月までの一審原告X4の営業成績は,Bフレッツ等の受注が6件,アンケートの回収が26件というものであったこと(アンケートの回収数と前記部門の人員体制からすると,この程度で平均的な成績であったと思われる。)

g 一審原告X4は,平成19年6月19日,組合交渉を通じて福岡支店への配転が予定されていることを知り,翌20日に通信労組を通じて再配転を止めるよう要求したものの,聞き入れられず,同月22日には,福岡支店への配転の内示を受けたこと

h 一審原告X4は,上記により福岡配転の予定を知った後,大阪において独身寮から社宅に転居した際に,シックハウス症候群を発症したことが思い出されて,不眠,動悸,食欲減退などの症状を呈し,前同月22日に抑うつ状態で,休業を要するとの診断を受けたこと

i 一審原告X4が,上記診断結果を一審被告に通知したことにより,同一審原告に対する福岡支店への配転の発令は一時留保される一方,同一審原告自身は,別府市の自宅に帰って休養することとなったこと

j 一審原告X4は,平成20年1月22日から職場に復帰し,前記部署に所属のまま,同年3月31日に定年退職したこと

k 一審被告大分支店では,前記(2項目)の見直しに際して,従前の支店業務を,大規模ユーザーに対するソリューション営業を含めて大幅に新たな地域会社に移行させ,支店では,一審被告の義務的な業務や,入札関連業務のみを担当するという体制になったが,それでも,入札関連業務や,顧客との契約業務は支店に残存し,これに伴う庶務・総務業務も残されることとなったこと

l 一審被告大分支店では,平成14年5月以降も,60歳満了型の従業員で,営業経験のない者数名が配置されており,その中には,営業の業務を担当していた者がいたこと

m 一審被告では,平成16年ごろには,監理技術者,主任技術者の不足が懸念され,特に主任技術者については,一定の実務経験を有する従業員に資格を取得させるべき指示がなされていたこと

の各事実を認めることができる。

以上の事実によれば,一審原告X4は,本件配転命令1の後,HTLV-Ⅰウイルスによる白血病発症の危険を抱えつつ,また,シックハウス症候群の発症という不運な出来事がありながら,大阪での業務を続け,平成18年7月以降は,配置転換と営業手法の変更により,訪問営業という業務の基本は変わらず,営業の対象も従前同様に営業の成果を余り期待できない顧客層であったものの,顧客に対するアンケートの実施という新たな業務の負担を抱えていた状況下で,福岡支店への配転の内示により抑うつ状態に陥ったものであるところ,その時点で,一審原告X4を大分支店に配転することに明白な支障はなかったとはいうことができる。しかし,原判決が,一審原告X4について適切な配慮を求める説示をしたからといって,そのことにより直ちに,一審被告において,一審原告X4を大分支店に配転すべき義務が生じるということはできないし,一審原告X4が前記のように抑うつ状態に陥った後には,一審原告X4を大分支店に配転することによって,生活環境が改善して,白血症発症の危険が低減したり,抑うつ状態が改善する可能性が増大するとは考えられるものの,それをせずに,一審原告X4を大阪に配置したまま,病気休職として復職を待つということも,一審被告の人事上の裁量権を逸脱し,あるいはこれを濫用した違法な措置とまではいえないというべきである。

そうすると,上記の一審原告X4の主張については,その前提となる,一審被告において一審原告X4を大分支店に配転するべき作為義務の存在が認められないから,同主張を採用することはできない。

(2)  本件配転命令2及び同3について

一審被告が,60歳満了型を選択した従業員及びこれを選択したとみなされた従業員につき営業職への転換を命じること,及び,同従業員につき,京阪神地区内での配転を命じることに業務上の必要があったことは,既に説示したとおりである。したがって,一審原告X5ほか16名の一審原告ら(一審原告番号5~16,18~20,22,23)に対し,現に営業職になかった者については営業職への転換を命じた上,大阪支店又は兵庫支店の営業担当部署への配転を命じる本件配転命令2を発したことは,業務上の必要があってなされたものと認められる。

他方,大阪支店又は兵庫支店において営業の業務に従事していた上記一審原告らについて,小規模マンションに対するBフレッツマンションタイプの販売促進のため,あるいは保守手引書の修正又は作成を内容とするMIサポート業務のために,これを名古屋支店に配転することについては,その配転によって生じる労働者の不利益を前提としてもなおこれを行わなければならない程の業務上の必要性が認められないことも,既に説示したとおりである。したがって,上記一審原告らについて,上記各業務のため名古屋支店への配転を命じた本件配転命令3は,業務上の必要なくなされたものといわなければならない。

そこで,以下においては,上記一審原告らにつき,本件配転命令2が権利の濫用と認められるべき特段の事情の有無,並びに,本件配転命令3によって生じた損害に関し,各人に共通と考えられるもの,及び個別に考慮すべき事情の有無について検討する。

ア 本件配転命令3につき,これを受けた各一審原告に共通の損害と考えられるものについて

(ア) 本件配転命令3を受けた一審原告ら(一審原告番号5~16,18~20,22,23)は,本件配転命令3により,新幹線通勤を選択した者は,長時間の長距離通勤による肉体的・精神的負担,経済的負担(高額の通勤費の支給による標準報酬の増加に伴う社会保険料の増加を含む),自宅で過ごし余暇や地域活動に充てる自由時間の減少,睡眠時間の減少を,単身赴任を選択した者は,単身赴任に伴う精神的ストレス,日常生活のための自由時間の減少,二重生活及び帰省の必要による経済的負担を,それぞれ挙げるほか,共通の不利益として,地域活動や社会的活動への支障,組合活動の支障を挙げているところ,これらの事実は,上記一審原告らの陳述書(<証拠省略>),標準報酬の通知書(<証拠省略>)等により,上記各一審原告につき,多少の差はあるものの,いずれもこれらを共通の不利益として認めることができる。

(イ) そして,証拠(<証拠省略>)によれば,長時間の鉄道による通勤が,自律神経に影響を与えるなど,身体に対するストレスとなっていること,長時間の拘束を含む加重労働がいわゆる脳心疾患のリスクファクターとして意識され,その防止のための事業者による取組も国の政策として求められていること,単身赴任者についても,単身赴任に伴うストレスが心身にさまざまな影響を及ぼしていることが,統計上も認められていること,50歳以上の年齢層では,より若年の年齢層に比べて,全体の有訴率(自覚症状を訴える者の割合)が上昇するほか,糖尿病,白内障,高血圧,狭心症等による通院者率が目立って増加する傾向がみられていること,との事実を認めることができる。

(ウ) これらの事実からすると,本件配転命令3によって,上記各一審原告らが受けた不利益のうち,特に長距離通勤や単身赴任によって同一審原告らが肉体的・精神的なストレスを受けたことは,その年齢とも相まって,軽視できないものがあるといわなければならない。

イ 一審原告X5(一審原告番号5)について

(ア) 本件全証拠を検討しても,一審原告X5について,本件配転命令2の当時,子の養育又は家族の介護などといった事情を含め,異職種への転換及び近隣の事業所への配転さえ避けなければならないような個人的事情が存したと認めるに足りる証拠はない。

(イ) 一審原告X5に対する本件配転命令3に関して,証拠(<証拠省略>,原審一審原告X5)によれば,次の事実が認められる。

a 一審原告X5の実父は,本件配転命令3の当時86歳であったが,脳梗塞後遺症やパーキンソン症候群等を患い,壁伝いに体を支えて歩くことができる程度であり,通院等の外出の際には車椅子が必要であるなど,介護が必要な状況であり(本件配転命令3の後,要介護2に認定された。),トイレで倒れて救急車によって搬送されたこともあった。そのため,原告X5は,自宅(大阪府○○市)に実父を引き取り,一審原告X5が家にいる間は,入浴やトイレなどの世話をし,土曜日には医療機関に通院させるなどしていた。

また,一審原告X5の実母は,本件配転命令3の当時84歳であったが,以前に脳梗塞を患い,その後遺症に苦しんでいた上,痴呆の症状が出ていた。そのため,一審原告X5は,実母からの電話を受けて話をしたり,年休(時間休)を取得して実母の居宅(大阪府△△町)に出向き,通院などの世話をする必要があった。

b 他方,一審原告X5の妻は,本件配転命令3の当時,住宅ローンの支払のためもあって大阪市所在の会社に勤務しており,次女や三女の妊娠や出産が相次いだことや,その実父(大正○年生まれ)も高齢でひとり暮らしをしており,その兄弟らと分担して夕食の世話をしなければならなかったために,一審原告X5の実父母の介護に当たることができる状況ではなかった。また,一審原告X5には3人の娘がいたが,次女や三女は前記のような状況であった上,長女についても大阪市内で勤務していた。

このように,一審原告X5以外の家族が一審原告X5の実父母の介護を行うことは実際上困難な状況にあった。

c そこで,一審原告X5は,本件スキル転換研修を受講していた平成14年10月上旬ころ,所属の課長(H課長)に対して前記a及びbの実情を告げた。

また,一審原告X5は,同年10月30日,名古屋支店への配転についての打診を受けた際に,再び,同課長に対して,前記a及びbの実情を説明し,名古屋支店への配転を行わないようにと申し入れた。

しかし,一審被告は,一審原告X5に対して本件配転命令3を行った。その反面,通勤時間が2時間を超える場合には新幹線通勤を認めないこととされており,一審原告X5の自宅は大阪府○○市にあるため,本来であれば新幹線通勤を認めることができなかったが,特例として新幹線通勤を認めた。

その結果,一審原告X5は,転居(単身赴任)を避けることができたものの,通勤時間が片道2時間25分となったため(本件配転命令2による配転先の勤務場所である曽根崎ビルと,新大阪駅と,原告X5の自宅との位置関係からすると,ほぼ,新幹線通勤分の通勤時間が加算されることとなったことが推認される。),実父母の介護のための時間を確保することが困難となった。

d その後,一審原告X5の実父は,平成15年9月26日,入浴中に脳梗塞の症状が出たために死亡した。

また,一審原告X5の実母は,平成15年8月ころから,脳梗塞及び痴呆と診断され,日常的な介護を要する状況に至っていた。そのため,一審原告X5は,介護休職を申請して,平成16年2月ころからは6時間勤務となり,同年5月ころからは4時間勤務となった。

一審原告X5は,平成16年7月1日,大阪支店に配転された。

(ウ) 以上によれば,本件配転命令3の当時,一審原告X5の実父が介護を要する状況にあり,実母についても頻繁に世話をすることが必要な状況にあったが,一審原告X5の他にその介護を行う余力のある者が家族の中にいなかったことが認められ,この事実に,育児介護休業法26条の趣旨も踏まえて検討すれば,一審原告X5に対する本件配転命令3は,一般に長距離・遠距離通勤を余儀なくされる労働者が受ける負担に加えて,上記の介護ができなくなったことによる負担を負わせるものであったというべきである。

(エ) この点につき,一審被告は,一審原告X5の介護の負担は大きいものではなく,新幹線通勤となっても介護に要する時間をとることができるし,他にこれを代替できる家族がいるとか,仮に介護の必要があるとしても,その必要性についての申告を受けていないと主張する。

しかしながら,同居・別居の老親の介護は,身体的に介助することに尽きるものではなく,親族が身近にいて精神的な支えになったり,緊急の場合の対応ができる状態にあることが重要であると考えられるところであって,現に,一審原告X5の実父が救急車で搬送されたことや,同一審原告が,年休を取得して実母を医療機関に通院させていることもあり,平成16年2月以降は,実母のために介護休職を取得する必要まで生じているのであるから,平成14年10月当時にあっても,同一審原告が両親の近傍に勤務する必要性は大きかったというべきである。一審被告の上記主張は,このような介護の実情に配慮しないものであって,採用することができない。

また,一審原告X5は,上記認定のとおり,平成14年10月に,2回にわたって上司に介護の実情を訴え,実父の身体状況,家族による介護の負担,実母のための年休の取得といった事実が含まれていたのであるから,一審被告としても,同一審原告の介護の負担については,必要な認識を有していたものというべきである。

ウ 一審原告X6(一審原告番号6)について

(ア) 本件全証拠を検討しても,一審原告X6について,本件配転命令2の当時,子の養育又は家族の介護などといった事情を含め,近隣の事業所への配転さえ避けなければならないような個人的事情が存したと認めるに足りる証拠はない。

(イ) 一審原告X6に対する本件配転命令3に関して,証拠(<証拠省略>,当審一審原告X6)によれば,

a 一審原告X6は,平成13年5月に登山をした際に体調の異常に気付き,医療法人I1病院(泉大津市所在)で糖尿病の診断を受けた,その後,同病院からJ1内科クリニック(高石市所在)に通院して,当初は食事療法及び運動療法の指導を受け,時に投薬も受けて,治療を継続していたが,平成14年9月以降の受診時には,おおむね薬剤が処方されることとなったこと

b なお,同一審原告の上記医療機関への通院は,本件配転命令3の後も継続し,比較的短期間で通院することもあれば,長く空くこともあって,不規則であったところ,おおむね血糖値が高い時は短期間での通院が多く見られる一方で,血糖値が低下すると通院間隔が空くという傾向があるものの,中には,仕事が多忙で通院ができないと訴えている時もある(平成15年1月31日)こと

c このようにして,同一審原告は糖尿病の治療を継続していたが,同一審原告の血糖値は,上記発症時から本件配転命令3を経て,現在に至るまで,上下を繰り返しており,安定していない状態にあるものの,血糖値400mg/dlを超えるような極端な高血糖値は,名古屋勤務時の平成15年中にのみ見られ,平成19年ごろ(大阪支店への再配転後約2年を経過した後)からは,比較的低値(100mg/dl)で安定した状態が見られていること

d 同一審原告は,運動療法のため,平成16年11月から,1日の歩行歩数をノートに記録している(<証拠省略>)が,それによると,おおむね自宅近辺を30分ないし1時間,名古屋の勤務先周辺を20分ないし30分程度の歩行をしていたこと,また,大阪支店への再配転後は,エアロビクスを行ったり,100キロウォーキングに参加した日もあること

e 糖尿病の治療は,食事療法が基本であり,これに薬物療法と運動療法を併用することが適当であるとされているところ,食事療法の留意点としては,腹八分にする,食品の種類をできるだけ多くする,脂肪を控え目にする,食物繊維を多く含む食品をとる,3食を規則正しく,ゆっくりよく噛んで食べる,間食をしない,夕食から朝食まで12時間以上空けるといった点が挙げられており,栄養分の組み合わせやカロリー量を簡易に見積もるため,食品交換表といった書物も市販されていること,運動療法の留意点としては,歩行運動では,15分ないし30分の歩行を1日2回,男性で9200歩を目安とすること,日常生活における身体活動量を増やすことなどが指摘されていること,さらにこれと併せて,肉体的・精神的ストレスが血糖値の上昇を招くので,休養・睡眠をはじめとするストレスの解消に努めることが重要であると指摘されていること

f 同一審原告は,糖尿病にり患している事実を,平成14年10月26日ごろには上司に口頭で伝え,さらに同月31日には文書で申入れをしたこと

g 同一審原告は,本件配転命令3により,新幹線通勤を選択し,午前5時半起床で,午前6時過ぎに自宅を出,午後8時過ぎに帰宅するという生活となったこと

の各事実を認めることができる。

これらの事実によれば,本件配転命令3の時点において,同一審原告は,糖尿病により,少なくとも食事療法及び運動療法を行わなければならない状態にあったことは明らかであり,本件配転命令3により,長時間の通勤によるストレスを受けるとともに,自宅で生活することのできる時間が短縮され,食事を規則正しく間隔を空けて摂ることや,運動療法に充てる時間等に,相当程度の制約を受け,また,医療機関を受診するのにも不便な状態となったものと認められる。

このような同一審原告の受けた不利益は,本件配転命令3を受けて新幹線通勤を選択した他の一審原告らにはみられないものであり,本件配転命令3によって一審原告らに共通に生じた損害とは異なるものであるから,一審原告X6に係る慰謝料の算定においては,この事情を考慮すべきこととなる。

(ウ) この点について,一審被告は,一審原告X6の糖尿病の程度は投薬が必要とされない程度であったこと,通院が不規則であること,食事療法について理解がないこと,このように同一審原告は治療に対する意欲・意識が低かったことなどを指摘して,同一審原告の糖尿病には,本件配転命令3による悪影響はないと主張するところ,たしかに,上記認定のとおり,同一審原告の糖尿病に対する対応は,必ずしも模範的な患者の在り方ではなかったというべきであるが,そうであっても,本件配転命令3により,一審原告X6に対し,糖尿病の日常的な治療の妨げとなる各種の不利益を与えたことは否定することができないから,上記の一審被告の主張を採用することはできない。

エ 一審原告X7(一審原告番号7)について

(ア) 本件全証拠を検討しても,一審原告X7について,本件配転命令2の当時,子の養育又は家族の介護などといった事情を含め,近隣の事業所への配転さえ避けなければならないような個人的事情が存したと認めるに足りる証拠はない。

(イ) また,一審原告X7について,本件配転命令3によって,一般に長時間の遠距離通勤を余儀なくされる労働者が受ける負担を超える著しい負担が生じたことを認めるに足る証拠もない。

(ウ) 一審原告X7は,本件配転命令2及び同3につき,経験や資格が生かされないこと,従来から高尿酸血症の症状があるところ,本件配転命令3による長時間通勤が健康維持の障害となっていること,同様に従前から親しんできたスポーツ活動をすることの障害となっていること,高額の通勤費の支給を受けることに伴う経済的不利益を挙げる。

たしかに,証拠(<証拠省略>)によれば,同一審原告は,平成10年に営業職に転換するに当たって,長時間の研修を受け,本来の意味でのソリューション営業に有益と思われるソフトウェアベンダー系の各種資格を取得している事実を認めることができ,そのような者を,1,2回線ユーザーに対するインターネット商品の営業に就けたり,MIサポートの業務に就けることは,人材の無駄遣いであり,従業員のモチベーションの維持の面からも不都合であるともいえるけれども,労働者の配置や担当業務の割振りは,使用者の権限であって,労働者の能力に見合う業務を与えなかったからといって,直ちにそれが使用者の権利の濫用に当たるということはできない(同一審原告は,大阪北ソリューション営業部第13営業担当では,そのような経験・資格を生かして,提案活動を行い,職場のリーダー的役割を果たしている。)。

また,同一審原告の主張する通勤費の支給に伴う経済的不利益,健康維持の障害や,余暇活動の制約は,一般に長時間の遠距離通勤を余儀なくされる労働者が多かれ少なかれ受けている負担であって,本件配転命令3を受けて新幹線通勤を選択した一審原告らに共通の不利益として考慮されるべきものである。

オ 一審原告X8(一審原告番号8)について

(ア) 本件全証拠を検討しても,一審原告X8について,本件配転命令2の当時,子の養育又は家族の介護などといった事情を含め,近隣の事業所への配転さえ避けなければならないような個人的事情が存したと認めるに足りる証拠はない。

(イ) また,一審原告X8について,本件配転命令3によって,一般に長時間の遠距離通勤を余儀なくされる労働者が受ける負担を超える著しい負担が生じたことを認めるに足る証拠もない。

(ウ) 一審原告X8は,本件配転命令3につき,時間的制約,家族の負担,町内会活動への支障,健康状態の悪化等を挙げるが,これらはいずれも,一般に長時間の遠距離通勤を余儀なくされる労働者が受ける負担を超える著しい負担とまでいうことはできず,新幹線通勤を選択した一審原告らに共通の不利益として考慮されるべきものである。

カ 一審原告X9(一審原告番号9)について

(ア) 本件全証拠を検討しても,一審原告X9について,本件配転命令2の当時,子の養育又は家族の介護などといった事情を含め,異職種への転換及び近隣の事業所への配転さえ避けなければならないような個人的事情が存したと認めるに足りる証拠はない。

(イ) また,一審原告X9について,本件配転命令3によって,一般に長時間の遠距離通勤を余儀なくされる労働者が受ける負担を超える著しい負担が生じたことを認めるに足る証拠もない。

(ウ) 一審原告X9は,本件配転命令3につき,時間的制約,家族の負担等を挙げるが,これらはいずれも,一般に長時間の遠距離通勤を余儀なくされる労働者が受ける負担を超える著しい負担とまでいうことはできず,新幹線通勤を選択した一審原告らに共通の不利益として考慮されるべきものである。

キ 一審原告X10(一審原告番号10)について

(ア) 本件全証拠を検討しても,一審原告X10について,本件配転命令2の当時,子の養育又は家族の介護などといった事情を含め,異職種への転換及び近隣の事業所への配転さえ避けなければならないような個人的事情が存したと認めるに足りる証拠はない。

(イ) また,一審原告X10について,本件配転命令3によって,一般に単身赴任を余儀なくされる労働者が受ける負担を超える著しい負担が生じたことを認めるに足る証拠もない。

(ウ) 一審原告X10は,本件配転命令3につき,受験を控えた子を抱えている家族の負担や,単身赴任に伴う生活費や帰省旅費等の経済的不利益等を挙げるが,これらはいずれも,一般に単身赴任を余儀なくされる労働者が多かれ少なかれ受けている負担であって,本件配転命令3を受けて単身赴任を選択した一審原告らに共通の不利益として考慮されるべきものである。

また,同一審原告は,鹿児島にいる妻の父に対する介護の必要性や,同一審原告自身の健康状態の悪化(歯のぐらつき,神経性の下痢,脳動脈瘤)を挙げるが,前者については,本件配転命令3の時点で現実に介護を行う必要が生じていたわけではないこと,後者については,本件配転命令3による単身赴任の結果生じた症状であるとまでは認められないことに照らして,これらは同一審原告につき個別に考慮しなければならない事情とまではいえないというべきである。

ク 一審原告X11(一審原告番号11)について

(ア) 本件全証拠を検討しても,一審原告X11について,本件配転命令2の当時,子の養育又は家族の介護などといった事情を含め,異職種への転換及び近隣の事業所への配転さえ避けなければならないような個人的事情が存したと認めるに足りる証拠はない。

(イ) また,一審原告X11について,本件配転命令3によって,一般に長時間の遠距離通勤を余儀なくされる労働者が受ける負担を超える著しい負担が生じたことを認めるに足る証拠もない。

(ウ) 一審原告X11は,本件配転命令3につき,高額の通勤費の支給に伴う経済的不利益,時間的制約,職場のレクリエーションへの差支え等を挙げるが,これらはいずれも,一般に長時間の遠距離通勤を余儀なくされる労働者が受ける負担を超える著しい負担とまでいうことはできず,新幹線通勤を選択した一審原告らに共通の不利益として考慮されるべきものである。

また,同一審原告は,従前から網膜色素上皮剥離等の持病があり,MIサポート業務による眼の負担が大きいことや,高齢の両親がいることも挙げているところ,証拠(<証拠省略>)によれば,同一審原告は,平成3年初診で網膜色素上皮剥離・開放隅角緑内障・視神経萎縮の治療を継続してきていること(ただし,それによる勤務制限の申出をしているとは認められない。),そのことは自己申告表等により,一審被告に伝えられていること,これにより,2つの医療機関に月1回程度の通院をしていること,本件配転命令3により,通院のために1日の年休の取得が必要となったこと,同一審原告の両親は,80歳を超えているため,同一審原告が時々両親宅を訪ねて様子を見ていること,本件配転命令3の当時には,両親は同一審原告の姉夫婦と同居していたこと,の各事実を認めることができる。

これらの事実によれば,同一審原告は,本件配転命令3により,上記疾病に係る通院や,両親宅の訪問についていくらかの負担が増加したとはいえるものの,その負担の増加は,年休の取得によって対応することのできる範囲のもので,著しい負担の増加とまではいうことができないし,パソコンを使用する業務は,本件配転命令3がなくとも命じられる可能性のある業務であるといえるから,同一審原告の挙げる上記の各事情は,同一審原告につき個別に考慮しなければならない事情とまではいえないというべきである。

ケ 一審原告X12(一審原告番号12)について

(ア) 本件全証拠を検討しても,一審原告X12について,本件配転命令2の当時,子の養育又は家族の介護などといった事情を含め,異職種への転換及び近隣の事業所への配転さえ避けなければならないような個人的事情が存したと認めるに足りる証拠はない。

(イ) また,一審原告X12について,本件配転命令3によって,一般に単身赴任を余儀なくされる労働者が受ける負担を超える著しい負担が生じたことを認めるに足る証拠もない。

(ウ) 一審原告X12は,本件配転命令3につき,単身赴任に伴う一般的な不利益に加えて,妻の両親の介護の必要があることや,それを前提とした同一審原告の単身赴任に伴う家族の負担,同一審原告自身の健康状態の悪化を挙げるが,証拠(<証拠省略>)によれば,同一審原告の妻が,その両親の介護のために,和歌山市から守口市まで通っている事実を認めることはできるものの,同一審原告の単身赴任により,その負担の加重の程度を具体的に認めるには足りないし,同一審原告の健康状態の悪化についても,それが単身赴任の結果生じたものであるとも断定できない。

よって,同一審原告の主張する上記の事情は,同一審原告につき個別に考慮しなければならない事情とまではいえないというべきである。

コ 一審原告X13(一審原告番号13)について

(ア) 本件全証拠を検討しても,一審原告X13について,本件配転命令2の当時,子の養育又は家族の介護などといった事情を含め,異職種への転換及び近隣の事業所への配転さえ避けなければならないような個人的事情が存したと認めるに足りる証拠はない。

(イ) また,一審原告X13について,本件配転命令3によって,一般に単身赴任を余儀なくされる労働者が受ける負担を超える著しい負担や,一般に長時間の遠距離通勤を余儀なくされる労働者が受ける負担を超える著しい負担が生じたことを認めるに足る証拠もない。

(ウ) 一審原告X13は,本件配転命令3につき,従来から同居していた義母が,骨粗しょう症や肺ガンに罹患しており,介護の必要があることを挙げるが,証拠(<証拠省略>)によるも,同一審原告が介護を行うべき具体的な必要性については明らかでない。

よって,同一審原告の主張する上記の事情は,同一審原告につき個別に考慮しなければならない事情とまではいえないというべきである。

サ 一審原告X14(一審原告番号14)について

(ア) 本件全証拠を検討しても,一審原告X14について,本件配転命令2の当時,子の養育又は家族の介護などといった事情を含め,異職種への転換及び近隣の事業所への配転さえ避けなければならないような個人的事情が存したと認めるに足りる証拠はない。

(イ) また,一審原告X14について,本件配転命令3によって,一般に長時間の遠距離通勤を余儀なくされる労働者が受ける負担を超える著しい負担が生じたことを認めるに足る証拠もない。

(ウ) 一審原告X14は,本件配転命令3につき,ライフワークであった空手や太極拳ができなくなったことや,高血圧症を発症したことを挙げるが,前者は,一般に長時間の遠距離通勤を余儀なくされる労働者が受ける負担を超える著しい負担とまでいうことはできないし,後者も,新幹線通勤の結果生じた症状であるとまでは認められない。

よって,同一審原告の主張する上記の事情は,同一審原告につき個別に考慮しなければならない事情とまではいえないというべきである。

シ 一審原告X15(一審原告番号15)について

(ア) 本件全証拠を検討しても,一審原告X15について,本件配転命令2の当時,子の養育又は家族の介護などといった事情を含め,異職種への転換及び近隣の事業所への配転さえ避けなければならないような個人的事情が存したと認めるに足りる証拠はない。

(イ) また,一審原告X15について,本件配転命令3によって,一般に長時間の遠距離通勤を余儀なくされる労働者が受ける負担を超える著しい負担が生じたことを認めるに足る証拠もない。

(ウ) 一審原告X15は,本件配転命令3につき,疲労の蓄積による健康への悪影響,経済的不利益,従前の経験を生かすことができない職業生活上の不利益,組合活動上の不利益,地域活動上の不利益を挙げるが,既に上記の各一審原告について説示したとおり,これらはいずれも,一般に長時間の遠距離通勤を余儀なくされる労働者が受ける負担を超える著しい負担とまではいえない。同一審原告は,椎間板ヘルニアの持病があり,本件配転命令3により,その治療に支障を来しているとも主張するについて,本件配転命令3により,かかりつけの医師を変えることになったり,治療のために帰宅が遅くなることがあったとしても,これもまた,一般に長時間の遠距離通勤を余儀なくされる労働者が受ける負担を超える著しい負担に当たるとまではいえないというべきである。

よって,同一審原告の主張する上記の事情は,同一審原告につき個別に考慮しなければならない事情とまではいえないというべきである。

ス 一審原告X16(一審原告番号16)について

(ア) 本件全証拠を検討しても,一審原告X16について,本件配転命令2の当時,子の養育又は家族の介護などといった事情を含め,異職種への転換及び近隣の事業所への配転さえ避けなければならないような個人的事情が存したと認めるに足りる証拠はない。

(イ) また,一審原告X16について,本件配転命令3によって,一般に長時間の遠距離通勤を余儀なくされる労働が受ける負担を超える著しい負担が生じたことを認めるに足る証拠もない。

(ウ) 一審原告X16は,本件配転命令3につき,疲労の蓄積及びそれによる肝機能障害の悪化の恐れ,経済的不利益,地域活動上の不利益,職業上の不利益,組合活動上の不利益を挙げるけれども,疲労の蓄積,経済的不利益,町内会等の一般的な地域活動上の不利益,職業上の不利益,組合活動上の不利益は,本件配転命令3を受け,新幹線通勤を選択した一審原告らに共通の不利益として考慮されるべきものである。また,同一審原告の肝機能障害については,その存在や,それが新幹線通勤を原因として悪化したことを認めるに足る客観的な証拠はない。

同一審原告の主張の中には,講演・出版活動をしていた全盲の老女性の援助活動をしていたのについて,本件配転命令3によりできなくなったことが含まれているが,証拠(<証拠省略>)によるも,その具体的な内容は明らかでなく,同一審原告の援助が不可欠であると認めることもできないから,これを同一審原告が本件配転命令3によって被った不利益として個別に考慮するまでには至らない。

よって,同一審原告の主張する上記の事情は,同一審原告につき個別に考慮しなければならない事情とまではいえないというべきである。

セ 一審原告X19(一審原告番号18)について

(ア) 本件全証拠を検討しても,一審原告X19について,本件配転命令2の当時,子の養育又は家族の介護などといった事情を含め,異職種への転換及び近隣の事業所への配転さえ避けなければならないような個人的事情が存したと認めるに足りる証拠はない。

(イ) 一審原告X19に対する本件配転命令3に関して,証拠(<証拠省略>,当審一審原告X19)によれば,

a 一審原告X19の妻は,平成13年7月ころ,肺ガンのために右肺上葉切除手術を受けたものであるところ,主治医からは,手術後5年間再発しなければ大丈夫であるが,早期に発見されたため,再発の確率は低いと言われていたこと

b 同人は,一審原告X19が本件配転命令3を受けた時点では,何とか家事もこなせるところまで回復していたが,従前のようにパートタイムで稼働することはできない状態にあり,同一審原告も,家事の一部を手伝っていたこと

c このようなことから,同一審原告は,平成14年10月30日に,上司に実情を訴えて名古屋支店への配転の再考を求めたが,妻が寝たきりで常時介護を要する状態でないことや,長女が同居していることから,上司からは消極的な返答しか得られなかったこと

d 同一審原告は,本件配転命令3により名古屋に配転されるに当たって,新幹線通勤を希望したが,通勤時間が129分となり,社内規定で新幹線通勤が認められる限度である120分を超えるため,これが認められず,当初は単身赴任したこと

e 本件配転命令3の後である平成15年11月25日の定期検査で,同一審原告の妻の肺ガンの再発が判明し,同月27日から同年12月24日まで入院し,化学療法を受け,さらに平成16年1月7日から再度入院して,同年3月30日に退院したこと

f そのため,同一審原告は,妻の入院に当たって年休を取得して妻に付き添うほか,その後は金曜日に帰宅して妻の看護に当たり,日曜日に名古屋に帰る,ライフプラン休暇を取得して年末に妻の看護をするなどという対応をしたこと

g このようなことから,同一審原告については,特例として,平成16年1月20日から新幹線通勤が認められることとなったが,その申請に当たって,上司から,申請書の余白に,新幹線通勤の必要がなくなれば単身赴任に戻る旨の注記を求められて,弁護士と相談してこれを拒絶し,結局,そのような注記をすることなく,新幹線通勤が認められたこと

h さらに,同一審原告は,妻の介護のための短時間勤務を申請して,これが認められ,同年3月1日からは,午後4時までの勤務となり,これによって,午後6時30分頃から短時間,入院中の妻を見舞うことができるようになったこと

i 同一審原告は,同年4月1日に,大阪支店へ再配転となったが,その後も,同一審原告の妻は入退院を繰り返し,同年11月12日に死亡したこと

の各事実を認めることができる。

以上の事実によれば,本件配転命令3の時点において,一審原告X19は,肺ガン手術後で,再発の可能性のある妻を抱えており,介護を要する状態ではなかったものの,家族として,家事の援助や精神的な援助を求められている実情にあったものといえるところ,本件配転命令3により,同一審原告が単身赴任を強いられたため,少なくとも週日にはこれができなくなったことに加えて,妻の肺ガンが再発した後には,家族としての十分な対応をとることができず,新幹線通勤や勤務時間の短縮が認められた後にも,妻の見舞等に大きな制約があったと認められるものである。

このような同一審原告の受けた不利益は,他の本件配転命令3を受けて単身赴任を選択したり,新幹線通勤を選択した他の一審原告にはみられないものであり,本件配転命令3によって一審原告らに共通に生じた不利益とは異なるものであるから,一審原告X19に係る慰謝料の算定においては,この事情を考慮すべきこととなる。

(ウ) この点について,一審被告は,家事の分担や病院への付添は,同居の長女にもできることや,精神的サポートは極めて抽象的かつ主観的なものにすぎないと主張するが,そのような主張は,現実に再発の不安を抱えた患者を擁する家族の心情に思いを致さず,家族が身近にいることの意味を軽視するもので,到底採用することができない。

ソ 一審原告X18(一審原告番号19)について

(ア) 本件全証拠を検討しても,一審原告X18について,本件配転命令2の当時,子の養育又は家族の介護などといった事情を含め,異職種への転換及び近隣の事業所への配転さえ避けなければならないような個人的事情が存したと認めるに足りる証拠はない。

(イ) また,一審原告X18について,本件配転命令3によって,一般に単身赴任を余儀なくされる労働者が受ける負担を超える著しい負担が生じたことを認めるに足る証拠もない。

同一審原告は,余暇時間の減少,住居の変化,経済的不利益,地域活動上の不利益,職業上の不利益,組合活動上の不利益を挙げるが,これらはいずれも,本件配転命令3を受け,単身赴任を選択した一審原告らに共通の不利益として考慮されるべきものである。

同一審原告は,平成16年に,同一審原告が喘息を発症したことや,妻がうつ病と診断されたこと,市会議員への立候補を断念したことを挙げるが,上記各疾病が本件配転命令3による単身赴任の結果発症したと認めるに足る客観的な証拠はないし,市会議員への立候補の点についても,いまだ当選に至っている訳ではないから,これを一般に単身赴任を余儀なくされる労働者が受ける負担を超える著しい負担とまでは断言できないというべきである。

よって,同一審原告の主張する上記の事情は,同一審原告につき個別に考慮しなければならない事情とまではいえないというべきである。

タ 一審原告X20(一審原告番号20)について

(ア) 本件全証拠を検討しても,一審原告X20について,本件配転命令2の当時,子の養育又は家族の介護などといった事情を含め,異職種への転換及び近隣の事業所への配転さえ避けなければならないような個人的事情が存したと認めるに足りる証拠はない。

(イ) また,一審原告X20について,本件配転命令3によって,一般に長時間の遠距離通勤を余儀なくされる労働者が受ける負担を超える著しい負担が生じたことを認めるに足る証拠もない。

(ウ) 一審原告X20は,本件配転命令3につき,生活時間の変化や新幹線通勤に伴う苦痛,経済的不利益,地域活動上の不利益を挙げるが,これらはいずれも,一般に長時間の遠距離通勤を余儀なくされる労働者が受ける負担を超える著しい負担とまでいうことはできない。

また,同一審原告は,実母が高齢であることを挙げるが,証拠(<証拠省略>)によれば,実母は87歳に達しているが,主として同一審原告の兄が同居して介護しているもので,本件配転命令3がなかったとしても,同一審原告にできることは,実母を訪ねる回数を増やすことができる程度であるとの事実を認めることができるところ,そのような事情は,一般に長時間の遠距離通勤を余儀なくされる労働者が受ける負担を超える著しい負担とまでは断言できないというべきである。

よって,同一審原告の主張する上記の事情は,同一審原告につき個別に考慮しなければならない事情とまではいえないというべきである。

チ 一審原告X22(一審原告番号22)について

(ア) 本件全証拠を検討しても,一審原告X22について,本件配転命令2の当時,子の養育又は家族の介護などといった事情を含め,近隣の事業所への配転さえ避けなければならないような個人的事情が存したと認めるに足りる証拠はない。

(イ) 一審原告X22に対する本件配転命令3に関して,証拠(<証拠省略>,原審及び当審一審原告X22)によれば,

a 一審原告X22の妻の父は,84歳で,指定難病である潰瘍性大腸炎を患っているほか,喘息や下肢静脈瘤があり,同母は,81歳で,心臓機能障害で心臓ペースメーカーを装着して身体障害者等級表1級の障害を有しているほか,膠原病にもり患して投薬治療を受けていたもので,他に介護することのできる親族もないことから,平成14年以前から,同一審原告の妻が週に2,3回,同一審原告も週末には,妻の両親宅に出向いて,身の回りの世話をしていたこと

b 同一審原告は,本件配転命令3の発令に先立って,上司に上記の実情を訴えたが,聞き入れられず,本件配転命令3が発令されたことから,実際には奈良県○○郡に居住しているのに,大阪府××市に居住しているとして新幹線通勤を申請して,これが認められ,新幹線通勤を選択したこと

c それでも,同一審原告が名古屋支店に通勤することにより,妻の両親に対する妻の介護の負担は増加し,長時間通勤の疲れもあって,同一審原告が妻を援助することにも支障が生じたこと

d 同一審原告は,平成16年10月に突発性難聴を発症し,地元の耳鼻咽喉科に,週3,4回程度の通院をして,同年末に一旦治癒するという経過を辿ったが,帰宅後の受診となるため,その受診は,午後9時を過ぎることがしばしばであり,平成17年6月からは,勤務先の健康管理医の助言により,時間病気休職を取得することとなったこと

e 同一審原告は,平成17年3月29日に,混合性難聴,耳鳴り,めまいを訴えて,再度耳鼻咽喉科に通院することとなり,当初は週2,3回,その後は週1回程度にまで減少しているものの,現在まで通院を続けていること

f 潰瘍性大腸炎は,原因不明の大腸粘膜の慢性炎症で,下痢,粘血便,腹痛等の症状を示し,緩解と再発を繰り返す疾患であり,緩解の維持には,投薬と心理療法が有効とされ,精神的・身体的ストレスが増悪要因となるとされている疾患であること,また,膠原病は,自己免疫作用により全身の結合組織に異常が生じる疾患であり,ステロイド剤の投与が基本的な治療方法であるが,副作用の危険があって,定期的なチェックが必要とされる疾患であること

g 突発性難聴は,原因不明の内耳の障害による難聴で,発症後直ちに治療を開始すれば,聴力の回復が期待できる疾患であるが,過労が原因とされることもあり,現に,同一審原告を診療している医師は,その後に再発した混合性難聴や耳鳴りを含め,仕事による多大なストレス,疲労が,内耳障害,耳鳴りという症状を引き起こした可能性が高いと考えていること

の各事実を認めることができる。

以上の事実によれば,本件配転命令3の時点において,一審原告X22は,妻の両親の介護について,妻を補助し,自らも介護を手伝う必要があったところ,本件配転命令3により,従前どおりにそのような介護をすることに差支えが生じたほか,配転後に発症した難聴については,夜遅い時間を割いたり,時間休を取得して,受診せざるを得ない状態に置かれたものである。

このような同一審原告の受けた不利益は,本件配転命令3を受けて新幹線通勤を選択した他の一審原告らにはみられないものであり,本件配転命令3によって一審原告らに共通に生じた不利益とは異なるものであるから,一審原告X22に係る慰謝料の算定においては,この事情を考慮べきこととなる。

(ウ) この点について,一審被告は,一審原告X22の妻の父の潰瘍性大腸炎は,現実の発症がみられず,定期検診により管理されていた程度であること,同母の膠原病も特に介護を必要とする状態ではなかったことなどを指摘して,同一審原告には,その主張する介護の負担はなかったと主張するが,上記のとおり,潰瘍性大腸炎や膠原病は,緩解状態であったり,投薬で症状が抑制されていても,常に再発や副作用の危険を有するものであり,両親の年齢からしても,その介護の必要性があったことは明らかといわなければならず,一審被告の主張は採用できない。

ツ 一審原告X23(一審原告番号23)について

(ア) 本件全証拠を検討しても,一審原告X23について,本件配転命令2の当時,子の養育又は家族の介護などといった事情を含め,異職種への転換及び近隣の事業所への配転さえ避けなければならないような個人的事情が存したと認めるに足りる証拠はない。

(イ) また,一審原告X23について,本件配転命令3によって,一般に長時間の遠距離通勤を余儀なくされる労働者が受ける負担を超える著しい負担が生じたことを認めるに足る証拠もない。

(ウ) 一審原告X23は,長距離通勤による肉体的負担,経済的不利益,職業上の不利益,家族の負担,組合活動上の不利益,人間関係の切断等を挙げるが,これらはいずれも,一般に長時間の遠距離通勤を余儀なくされる労働者が受ける負担を超える著しい負担とまでいうことはできない。

よって,同一審原告の主張する上記の事情は,同一審原告につき個別に考慮しなければならない事情とまではいえないというべきである。

テ 慰謝料の額について

以上の事実によれば,本件配転命令3を受けたことによる慰謝料の額は,考慮すべき個人的事情の認められる一審原告X5については120万円,同X6については80万円,同X19については120万円,同X22については60万円とすることが相当であり,その余の本件配転命令3を受けた一審原告ら(一審原告番号7~16,19~20,23)については,各40万円とすることが相当である。

第4結論

以上によれば,原判決中一審原告X1,同X2,同X3,同X4の各請求を棄却した部分は相当であって,同一審原告らの控訴は理由がないから,これをいずれも棄却することとし,一審原告X5,同X6,同X19の各請求を一部棄却した部分,同X7,同X8,同X9,同X10,同X11,同X12,同X13,同X14,同X15,同X16,同X18,同X20,同X22,同X23の各請求を棄却した部分は,それぞれ一部不当であるから,これらの一審原出らの控訴に基づいて,原判決の当該部分を変更することとし,一審被告の控訴は理由がないからこれをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡邉安一 裁判官 安達嗣雄 裁判官 松本清隆)

(別紙)

当事者目録

(判決文中では,一審原告らは,原則として「一審原告X1」のように略称し,場合により,住所冒頭の番号を用いて「一審原告番号1」のように略称する。なお,一審原告番号は,原判決の原告番号と同一である。一審被告は,「一審被告」と略称する。)

1 控訴人(第1事件一審原告) X1

2 同 X2

3 同 X3

4 同 X4

5 控訴人兼被控訴人(第2事件一審原告) X5

6 同 X6

7 控訴人(第2事件一審原告) X7

8 同 X8

9 同 X9

10 同 X10

11 同 X11

12 同 X12

13 同 X13

14 同 X14

15 同 X15

16 同 X16

18 控訴人兼被控訴人(第2事件一審原告) X19

19 控訴人(第2事件一審原告) X18

20 同 X20

22 同 X22

23 控訴人(第3事件一審原告) X23

一審原告ら訴訟代理人弁護士 河村武信

同 田窪五朗

同 出田健一

同 横山精一

同 城塚健之

同 西晃

同 増田尚

同 中西基

同 井上耕史

同 成見暁子

同 大前治

被控訴人兼控訴人(第1事件・第2事件・第3事件一審被告) 西日本電信電話株式会社

同代表者代表取締役 I

同訴訟代理人弁護士 高坂敬三

同 夏住要一郎

同 田辺陽一

同 加賀美有人

同 鈴木蔵人

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