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大阪高等裁判所 平成19年(ネ)2042号 判決 2008年9月26日

当事者の表示 別紙当事者目録<省略>記載のとおり

なお,本判決における当事者の呼称は次のとおりである。

(1) 原審における原告らのうち控訴人を,別紙当事者目録<省略>においては「控訴人<1審原告>」と,本文中においては「1審原告控訴人」という。

(2) 原審における原告らのうち被控訴人(附帯控訴人)を,別紙当事者目録<省略>においては「被控訴人(附帯控訴人)<1審原告>」と,本文中においては「1審原告被控訴人」あるいは「1審原告附帯控訴人」という。

(3) 1審原告控訴人(ら)と1審原告被控訴人(ら)を併せて,あるいはそれぞれを単に,「1審原告(ら)」ともいう。

(4) 原審における被告を,別紙当事者目録<省略>においては「控訴人(附帯被控訴人)・被控訴人<1審被告>」と,本文中においては「1審被告」という。

主文

1  別紙控訴審認容金額等一覧表1<省略>の「摘要」欄に,「1審原告の附帯控訴による変更」とある1審原告被控訴人らについて,その各附帯控訴に基づき,原判決中同1審原告被控訴人らに関する部分を次のとおり変更する。

(1)  1審被告は,同表「1審原告被控訴人」欄記載の上記各1審原告被控訴人に対し,同表の「認容金額」欄記載の各金員及びこれに対する平成13年4月17日から支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。

(2)  (1)の1審原告被控訴人らのその余の各請求(附帯控訴による拡張請求を含む。)を棄却する。

2  1の各1審原告被控訴人らに対する1審被告の控訴を棄却する。

3  別紙控訴審認容金額等一覧表1<省略>の「摘要」欄に,「1審被告の控訴及び1審原告の附帯控訴による変更」とある1審原告被控訴人らについて,1審被告の控訴及び同1審原告被控訴人らの各附帯控訴に基づき,原判決中同1審原告被控訴人らに関する部分を次のとおり変更する。

(1)  1審被告は,同表「1審原告被控訴人」欄記載の上記各1審原告被控訴人に対し,同表の「認容金額」欄記載の各金員及びこれに対する平成13年4月17日から支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。

(2)  (1)の1審原告被控訴人らのその余の各請求(附帯控訴による拡張請求を含む。)を棄却する。

4  別紙控訴審認容金額等一覧表1<省略>の「摘要」欄に,「1審被告の控訴による取消し」とある1審原告被控訴人らについて,1審被告の控訴に基づき,原判決中同1審原告被控訴人らに関する1審被告の敗訴部分を取り消す。

5  4の1審原告被控訴人らの各請求(附帯控訴による拡張請求を含む。)及び各附帯控訴を棄却する。

6  別紙控訴審認容金額等一覧表2<省略>の「適要」欄に,「1審原告の控訴による変更」とある1審原告控訴人らについて,その各控訴に基づき,原判決中同1審原告控訴人らに関する部分を次のとおり変更する。

(1)  1審被告は,同表「1審原告控訴人」欄記載の上記各1審原告控訴人らに対し,同表の「認容金額」欄記載の各金員及びこれに対する平成13年4月17日から支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。

(2)  (1)の1審原告控訴人らのその余の各請求(当審拡張請求を含む。)を棄却する。

7  別紙控訴審認容金額等一覧表2<省略>の「摘要」欄に,「1審原告の控訴の趣旨の限度の認容」とある1審原告控訴人らについて,その各控訴に基づき,原判決中同1審原告控訴人らに関する部分を取り消す。

8  1審被告は,7の1審原告控訴人らに対し,同表の「認容金額」欄記載の各金員及びこれに対する平成13年4月17日から支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。

9  別紙控訴審認容金額等一覧表2<省略>の「摘要」欄に,「1審原告の控訴の棄却」とある1審原告控訴人の控訴及び当審拡張請求を棄却する。

10  訴訟費用の負担は,次のとおりとする。

(1)  1の1審原告被控訴人らと1審被告との間では,第1,2審を通じて,これを5分し,その1を同1審原告被控訴人らの負担とし,その余を1審被告の負担とする。

(2)  3の1審原告被控訴人らと1審被告との間では,第1,2審を通じて,これを5分し,その2を同1審原告被控訴人らの負担とし,その余を1審被告の負担とする。

(3)  4の1審原告被控訴人らと1審被告との間では,第1,2審を通じて,全部同1審原告被控訴人らの負担とする。

(4)  6の1審原告控訴人らと1審被告との間では,第1,2審を通じて,これを5分し,その2を同1審原告控訴人らの負担とし,その余を1審被告の負担とする。

(5)  7の1審原告控訴人らと1審被告との間では,第1,2審を通じて,各請求減縮分を除き,全部1審被告の負担とする。

(6)  9の1審原告控訴人と1審被告との間では,第1,2審を通じて,全部同1審原告控訴人の負担とする。

事実及び理由

目次 別紙目次(事実及び理由)のとおり

第1当事者の求める裁判

1  1審被告

(1)  控訴の趣旨

ア 原判決中,1審被告敗訴部分をいずれも取り消す。

イ 1審原告被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

ウ 訴訟費用は,第1,2審とも1審原告被控訴人らの負担とする。

(2)  附帯控訴に対する答弁

ア 1審原告附帯控訴人らの本件附帯控訴をいずれも棄却する。

イ 1審原告附帯控訴人らの当審で拡張された請求をいずれも棄却する。

ウ 附帯控訴費用は,1審原告附帯控訴人らの負担とする。

(3)  1審原告控訴人らの控訴及び請求の拡張に対する答弁

ア 1審原告控訴人らの本件控訴をいずれも棄却する。

イ 1審原告控訴人らの当審で拡張された請求をいずれも棄却する。

ウ 控訴費用及び拡張請求にかかる訴訟費用は,1審原告控訴人らの負担とする。

エ 仮執行の宣言は相当でないが,仮に仮執行宣言を付する場合は,

(ア) 担保を条件とする仮執行免脱宣言

(イ) その執行開始時期を判決が1審被告に送達された後14日経過した時とすること

を求める。

2  1審原告被控訴人ら

(1)  控訴の趣旨に対する答弁

ア 1審被告の本件控訴をいずれも棄却する。

イ 控訴費用は,1審被告の負担とする。

(2)  附帯控訴の趣旨(附帯請求の拡張)

ア 原判決中,1審原告附帯控訴人らの附帯請求に関する部分を次のとおり変更する。

イ 1審被告は,1審原告附帯控訴人らに対し,別紙原審認容金額等一覧表1・2<省略>の「原審認容額」欄記載の各金員に対する平成13年4月17日から各支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。

ウ 訴訟費用は,第1,2審とも1審被告の負担とする。

エ 仮執行宣言

3  1審原告控訴人ら(附帯請求については,当審で請求を拡張)

(1)  原判決中,1審原告控訴人らに関する部分を取り消す。

(2)  1審被告は,1審原告控訴人らに対し,別紙控訴審請求一覧表<省略>の「損害額合計」欄記載の各金員及びこれに対する平成13年4月17日から支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。

(3)  訴訟費用は,第1,2審とも1審被告の負担とする。

(4)  仮執行宣言

第2事案の概要

以下,本判決における略称は,特記するものを除き,原判決に準ずる。これらを便宜一覧表にすると,おおむね別紙省略称一覧表<省略>のとおりである。また,書証の記載方法も原判決に準ずることとし,特に明示しない限り枝番を含む。なお,本判決本文及び別紙控訴審損害計算一覧表1・2<省略>においては,訴訟承継があった場合にも,参照の便宜上,原則として本件訴訟提起当時の当事者名をそのまま使用することとし,原審あるいは当審における訴訟承継の事実は,別紙控訴審認容金額等一覧表1・2<省略>の段階で反映することとする。

1  事案の概要

(1)  本件は,A社から平成10年1月以降に抵当証券を購入したとする原審における原告ら721名が,平成18年法律第66号による廃止前の抵当証券業の規制等に関する法律に基づきA社の監督規制権限を有していた近畿財務局長が平成9年12月21日付けで違法に同社の更新登録(本件更新登録)を行ったことなどにより,抵当証券購入額,慰謝料及び弁護士費用の損害を被ったと主張して,国家賠償法1条1項に基づき,1審被告に対し,1部請求として,平成10年1月以降に購入した抵当証券の購入額の半額と,同各原告につき10万円の慰謝料及び各10%の割合による弁護士費用(原審における原告ら総額で39億8777万5000円)の損害賠償を求めた事案である(なお,原審における訴訟承継後の原告らの総数は722名である。)。

(2)  原判決は,本件更新登録は国賠法1条1項の適用上違法であって近畿財務局長には少なくとも過失が存したと認定判断した上,平成10年1月以降の抵当証券購入原資に,本件更新登録以前にA社グループから購入していた金融商品の償還金が含まれていないと認められる原審における原告ら260名(訴訟承継後261名)について,その各購入額から過失相殺の規定の趣旨に照らしてその6割を控除した上,担保物件の売却やA社に対する民事再生手続(本件再生手続)による回収額を控除し,これに5%の弁護士費用を加算した金額の限度で,その請求を認容した(なお,慰謝料請求は棄却した。遅延損害金を除く認容総額は6億7443万9087円。)。そして,原審における原告らのうち上記承継後の261名以外の者(461名)については,損害の立証がない,あるいは,過失相殺規定の趣旨に照らした控除後の被害額が上記回収額を上回らないとして,請求を全部棄却した。

(3)  そこで,1審被告は,請求を一部認容された原審における原告ら261名(1審原告被控訴人ら。なお,当審における訴訟承継により,1審原告被控訴人らの総数は263名である。)に対し,上記請求認容部分を不服として控訴を提起し,請求の全部棄却を求めた。

また,請求を全部棄却された原審における原告らのうち371名(なお,その後3名が控訴を取り下げたため,1審原告控訴人らの総数は368名である。)は,上記請求棄却判決を不服として控訴を提起し,一部請求として,平成10年1月以降に新規に(すなわち,乗換購入ではなく)購入した抵当証券の購入額のうち4割から,本件再生手続による配当分相当として上限の4.856%を控除し,これに対する5%の割合による弁護士費用相当額を付加した額(上記控訴取下げ後の総額9億9433万9727円)の限度での支払を求めて,控訴を提起した。なお,請求を全部棄却された原審における原告らのうち上記以外の90名からの控訴はない。

さらに,1審原告らは,原審においては,附帯請求たる遅延損害金の起算日を訴状送達の日の翌日としていたが,当審において,1審原告控訴人らは請求拡張の申立てにより,1審原告被控訴人らは附帯控訴の上での請求拡張の申立てにより,それぞれ同起算日をA社に対する会社整理手続開始命令の日の翌日である平成13年4月17日に変更して,請求を拡張した。

2  前提となる事実

抵当証券業規制法の制定に至る経緯,同法の規定等,本件の経緯その他の当事者間に争いがないか又は書証により容易に認定できる事実は,別紙原判決補正表<省略>のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」(原判決20頁下から13行目~80頁下から8行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。

3  争点及びこれに関する当事者の主張

(1)  原審争点等

争点及びこれに関する当事者の主張は,後記(2)のとおり当審における主要な争点及びこれに関する当事者の補充主張を付加し,別紙原判決補正表<省略>のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第3 争点に関する当事者の主張」(原判決80頁下から7行目~277頁12行目)に摘示されたとおり(ただし,慰謝料請求に関する部分を除く。)であるから,これを引用する。

なお,原審における争点(以下「原審争点」という。)を再掲して示すと,以下のとおりである。

ア 原審争点1

1審原告らは,近畿財務局長のA社に対する本件更新登録について国賠法上の違法をおよそ問い得るか。問い得るとする場合,その判断基準は何か。

イ 原審争点2

本件更新登録時において,A社は更新登録拒否事由である財産的基礎の欠如(抵当証券業規制法6条1項7号)の要件を満たしていたか。

ウ 原審争点3

本件更新登録時において,A社は更新登録拒否事由である人的構成の欠如(抵当証券業規制法6条1項7号)の要件を満たしていたか。

エ 原審争点4

本件更新登録にあたりA社が提出した更新登録申請書及び添付書類(本件申請書等)に,更新登録拒否事由である重要事項の虚偽記載(抵当証券業規制法6条1項柱書後段)があったか。

オ 原審争点5

本件更新登録時において,近畿財務局長はA社に更新登録拒否事由があるとしてこれを拒否すべき職務上の注意義務を1審原告らに負っていたか。

カ 原審争点6

近畿財務局長には,本件更新登録を行うについて故意又は過失があったか。

キ 原審争点7

遅くとも平成9年12月までに近畿財務局長がA社に対して業務停止命令又は登録抹消を行わなかったことは,国賠法上違法か。

ク 原審争点8

近畿財務局長は,平成7年8月21日にA社への平成7年業務改善命令を違法に撤回することで,1審原告らに損害を与えたか。

ケ 原審争点9

近畿財務局長による違法行為によって,1審原告らはいかなる損害を被ったか。

(2)  当審争点等

当審における主要な争点(以下「当審争点」という。)及びこれらについての当事者の補充主張は,別紙「当審における主な争点とこれに関する当事者の主張」<省略>のとおりである。その骨子を要約して示すと,以下のとおりである。

ア 当審争点1-本件更新登録に至る事実経過等

(1審原告ら)

(ア) 本件更新登録の「真の理由」が,①Bによる政治的圧力と,②平成7年の本件命令撤回事件を隠蔽する必要にあったことは,原審で主張のとおりであり,これを退けた原判決の認定は誤りである。

(イ) また,当審における<証拠省略>により,本件更新登録は,当時のC近畿財務局長が,当時のD近畿財務局理財部次長の抵当証券業規制法に基づく購入者保護のために尽力する取組みを踏みにじり,平成9年業務改善命令を骨抜きにし,A社の平成8年3月28日付けの55億円の抵当証券発行特約付き融資(本件貸付金)の架空融資問題を隠蔽するなどした上,大阪府警の動きを封じ,A社に業務改善命令の内容をリークするなどして,悪意ともいうべき態様で適切な監督権限の行使を妨害し,抵当証券業規制法に違反するという悪質な違法行為の結果,招来されたものであることが明らかになった。

(1審被告)

(ア) 当審において提出された<証拠省略>によれば,平成9年検査以降,近畿財務局は,当時のA社及びグループ6社の状況を踏まえて,業務改善命令をきっかけとして破綻処理に至ることまでを視野に入れて,A社が破綻した場合の抵当証券購入者の保護をも念頭におきつつ,抵当証券業規制法上の権限の範囲内において,最大限の監督権限を行使していたことは明らかである。近畿財務局長が,A社に対し本件更新登録を行うために,平成9年検査,同年業務改善命令及び同年経営健全化計画の提出という手続を形式的に履践するにとどめ,財産的基礎の有無に関する調査・検討をあえて避けたなどとする原判決には,基礎となるべき具体的事情について重大な事実誤認がある。

(イ) 1審原告らの補充主張は,根拠のない憶測をつなぎ合わせて構築したもので,書証の記載や客観的な事実経過とも整合せず,全く根拠がない。

イ 当審争点2-本件更新登録の国賠法上の違法性の有無~実質的審査義務の存否等

(1審被告)

(ア) 更新登録においては,更新登録の申請書及び添付書類の記載に照らして登録拒否事由の有無を判断すれば足りるのが原則であり,例外的に,財務局長等において立入検査等によって把握した事実をもって貸借対照表の記載を修正することが可能であるときは,修正の上で資本欠損等の有無を判断することが必要となるが,本件においては,かかる例外的に貸借対照表の修正が必要となる事由もなかった。本件更新登録にあたりA社から提出された書類(本件申請書等)からすれば,更新登録拒否事由は存在しなかったのであるから,近畿財務局長には,更新登録を拒否すべき義務はなく,むしろ,本件更新登録をしたことは,抵当証券業規制法に則った適切な措置であった。したがって,本件更新登録は,同法上の義務に従った措置であって,何ら違法性はない。

(イ) 原判決は,実質的審査義務が生ずる根拠として,①A社が破綻する危険が切迫している事態を容易に認識できたこと及び②抵当証券業規制法の予定する情報開示の水準に達していなかったことを挙げている。

しかし,①につき,平成9年当時,A社は客観的に破綻する危険が切迫していたとは到底いえないし,近畿財務局長において,A社が詐欺的商法の発覚により破綻することを予見する義務も可能性もなく,近畿財務局において,A社が破綻する危険が切迫している事態を容易に認識することができたとする原判決の認定は誤りである。

また,②につき,抵当証券業規制法に予定する情報開示は行われていたし,仮に当時の抵当証券業規制法の予定する情報開示の程度が現時点においては不十分なものであると評価できたとしても,そのことは実質的審査義務が生ずる根拠となるものではない。原判決は,抵当証券業者の事業報告書に虚偽記載がある場合には,自己責任を問う前提は崩れているのであるから,財務局長等は積極的に監督権限を行使することが期待されるとするが,債務者や抵当物件に係る情報開示が抵当証券業規制法上不十分であったとしても,それ自体が抵当証券という金融商品のリスクであって,自己責任を問う前提が崩れているなどということはできず,それを根拠に実質的審査義務が生ずるということはできない。

(ウ) 抵当証券業規制法上の検査・監督権限は,抵当証券業者本体にしか及ばないなど限定されており,グループ6社の総勘定元帳を返還したことを理由に国賠法上の違法を認めるべきではない。

(エ) 平成9年業務改善命令の内容に問題はなく,同年経営健全化計画について実現性がないと断定することは困難であり,これを受理した近畿財務局長の判断が不合理であったということはできず,更新登録を拒否しなかった近畿財務局長の判断が「許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く」などということは到底できない。

(オ) <証拠省略>に基づく1審原告らの補充主張は,具体的に本件の争点,結論とどのように結びつくか明らかでないなど,失当である。

(1審原告ら)

(ア) <証拠省略>によれば,抵当証券業規制法は,参入の場面で登録制という極めて緩やかな参入規制を採用したため,監督機関は,購入者の保護という目的を達成するため,業者の監督に当たり相当の努力や工夫を行うことが要求されており,こと不正行為と悪質業者については,監督権限における行政裁量の余地は極めて限定的であって,近畿財務局長がかかる裁量を逸脱したことは明らかであるというのであり,1審被告に国賠法1条1項の違法性があることは明らかである。

(イ) この点に関する1審被告の補充主張はいずれも理由がない。A社が破綻する危険性が切迫しており,これを近畿財務局長において認識し得たことは明らかであるし,抵当証券購入者の自己責任の問題であるとする1審被告の主張が失当であることは論ずるまでもなく,近畿財務局は,適法に取得したグループ6社の帳簿類を正当な理由なく返却してその検査を放棄したものであり,平成9年業務改善命令に至る事実経緯等に照らしても,同命令の内容は不合理であり,また具体的現実性がないことなどが明らかな平成9年経営健全化計画を受理したこと自体不当であって,違法な監督権限の不行使である。

ウ 当審争点3-近畿財務局長は,貸倒引当金を追加設定しなければ平成9年3月末当時の「公正ナル会計慣行」に反するとして,資本欠損を認定することができたか

(1審被告)

平成9年当時,抵当証券業者においては,当該債権にかかる債務者の営業実態がなくなり,貸倒れが確定したような場合でなければ,税法基準による法定繰入率に相当する金額さえ貸倒引当金として計上していれば,「公正ナル会計慣行」に反するとはいえなかったのであり,グループ6社は,E社を除き,そのような状態ではなかった。原判決の判示する「実質的破綻」の内容は,金融検査マニュアルにおける「実質破綻先」の解釈とも,その前提となった平成9年当時の金融検査実務及びそれと結びついた当時の実務慣行とも乖離する独自の解釈であって,これを前提に貸倒引当金を計上すべきとする「公正ナル会計慣行」があったということはできない。原判決が平成9年当時の金融検査実務と「公正ナル会計慣行」の認定根拠としているF社の事案は,本件とは全く事案が異なる上,関東財務局は,この段階で同社の貸借対照表を修正の上資本欠損を認定して更新登録を拒否することは考えておらず,そのようなことを可能にする「公正ナル会計慣行」があるとの考えがあったものでもない。したがって,近畿財務局長において,本件更新登録当時,A社の経理処理が「公正ナル会計慣行」に反しているとする根拠はなく,財産的基礎の要件の欠如を認定して更新登録を拒否しなかったことをもって,国賠法上違法であるとは到底いえない。

(1審原告ら)

A社の実態は,単に抵当証券をモーゲージ化して販売し,一般消費者から集めたお金で,モーゲージの利払とグループ会社全体の運営を行っていたのであり,抵当証券業の登録の維持や更新登録のために,グループ会社間の経理上の操作でA社本体のみを資本欠損でない状況に仮装していることは明らかである。事実を直視すれば,グループ6社が実質的に破綻していることは誰の目にも明らかであって,貸倒引当金の追加計上にかかる原判決の判断は極めて妥当であり,これ以外の判断はあり得ない。A社が,財産的基礎を欠くことは明らかである。

エ 当審争点4-近畿財務局長は,特約付き融資に係る利払の仮装を認定し財産的基礎の欠如を認定すべきであったか

(1審原告ら)

A社の融資先には利払を行えるだけの収益がないこと,仮装の利払を計上してA社の貸借対照表を資本欠損でない状態に保っておく利益が大きいこと,そもそも再三にわたり会計書類の提出を求められているのに現金の移動が確認できない経理など許されるはずがないことに鑑みれば,利息の支払は否定されて当然である。

オ 当審争点5-近畿財務局長は,本件貸付金が架空融資であると認定して財産的基礎の欠如及び虚偽記載を認定すべきであったか

(1審原告ら)

本件貸付金が架空融資であることについて,近畿財務局は認識していた。本件貸付金にかかる融資が存在しないことにより,その債権は否認されるべきであるから,貸借対照表の資産の欄の55億円が否認されることにより,A社の平成9年3月期の貸借対照表(本件貸借対照表)は,資本欠損となる。また,55億円の記載は,更新登録拒否事由としての虚偽記載にもあたる。この融資問題は,本質的には抵当証券業者にあってはならないカラ融資による抵当証券の発行とそれを元にする無価値なモーゲージの販売であり,抵当証券業者として存立を拒否すべきことは明らかであって,このような抵当証券業者を虚偽記載により更新登録拒否しないなどということがあれば,抵当証券業者の規制権限を財務局長等に与えた意味がなくなる。

カ 当審争点6-損害論

(1審原告ら)

(ア) 1審被告が抵当証券の購入事実自体を否認又は不知とする抵当証券についても,1審原告らが同抵当証券を購入した事実は,提出済みの書証により明らかである。

(イ) 損害認定の枠組み(主張・立証責任の分担)として,1審原告らの主張立証すべき請求原因事実は,抵当証券代金相当額(A)の出捐であり,1審原告らの請求にかかる抵当証券は,いずれも管財人回答書(<証拠省略>)において「新規」又は「追加」と区分されていることにより,新規資金による抵当証券の購入が立証されている。

管財人回答書の正確性を否定し,1審原告らの損害の相当因果関係を争う1審被告の攻撃防御活動は,時機に後れたものとして却下されるべきである。

当該代金相当額を出捐して購入したモーゲージ証書にかかる利息相当額の収益や本件再生手続における支払等は,損益相殺ないし損害のてん補であり,1審被告が主張立証すべき抗弁事実である。また,1審原告らの損益相殺を行う上では,1審原告らは,A社被害者弁護団(以下「被害者弁護団」という。)との委任契約(本件委任契約)に基づき一律の被害回復を受けたのみであるから,担保物件ごとに個別の弁済額を充当することは正しくない。

1審原告らの購入原資(A)のうちに,本件更新登録以前の金融商品の償還金(B)が含まれていること及びその回収不能額((1-k)B)は,損益相殺ないし損害のてん補等と同様に,抗弁事実(ないし間接反証)として,1審被告が主張立証責任を負う。仮に,購入原資(A)のうちに本件更新登録以前の金融商品の償還金(B)が含まれていないことについて1審原告らが主張立証責任を負うとしても,管財人回答書の「新規」「追加」区分の抵当証券には,乗換購入による抵当証券は含まれていないとみるべきであり,乗換購入であるという例外的な事実は,1審被告において主張立証すべきである。

(ウ) 1審原告らが別紙受取利息算出表1の1・1の2<省略>の受取合計額欄記載の利息を現実に受領したことは争わないが,利息相当額を控除すべき旨の1審被告の主張は,時機に後れた攻撃防御であり,また当事者間の公平な損害分担という観点から見ても著しく不当であって,失当である。

(エ) 6割の過失相殺を行うことは争わないが,本来,公平の理念に基づく実質的妥当性の観点から,1審原告らの購入金額全額(A)から,被害者弁護団の一律配当(8.73639%)を差し引いた差額に対して,過失相殺を行い,これに弁護士費用相当額を加算すべきものである。ただし,本件控訴においては,一部請求として,また便宜上簡易な損害計算として,購入金額の4割相当額(別紙控訴審請求一覧表<省略>②欄)から,管財人による一律配当の上限4.856%の弁済(同表③欄)を控除し,これに弁護士費用5%相当(同表④欄)を加算した金額(同表「損害額合計」欄記載の金額)について,支払を求める。

なお,慰謝料及び弁護士費用についての原判決の判断については,迅速な被害救済の観点から,これを争わないこととする。

(オ) 遅延損害金は,本来的に,また公平の理念からしても,各購入代金の支出時から起算すべきであるが,複雑な計算をさけるため,一律に,A社が会社整理手続開始命令を受けた日の翌日である平成13年4月17日以降支払済みまでの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(カ) 仮に,原判決の判断枠組みを維持するとしても,少なくとも別紙「原判決の判断枠組みによっても認容されるべき1審原告一覧表」<省略>記載の1審原告控訴人ら合計42名については,その抵当証券の購入原資に本件更新登録以前の金融商品の償還金が含まれているはずはなく,当審で提出の書証によってもこれが裏付けられているから,その損害は認定されるべきである。

なお,1審被告の指摘する1審原告被控訴人X3(原告番号A16)及び同X4(同B225)の各原判決認容額の誤りについては認める。

(1審被告)

(ア) 別紙受取利息算出表1の1・1の2<省略>に記載の抵当証券については,1審原告らがA社から購入した事実を認める。

同表2の1・2の2記載の抵当証券のうち,①1審原告被控訴人X5(原告番号C21)の平成10年3月31日付け500万円,②1審原告被控訴人X6(同C84)の平成12年4月10日付け300万円,③1審原告控訴人X7(同C77)の平成10年3月31日付け800万円,④1審原告控訴人X8(同C138)の平成11年3月31日付け1000万円,⑤同1審原告控訴人の同年4月10日付け300万円,⑥1審原告控訴人X9(同C148)の同年3月31日付け300万円の,各抵当証券の購入の事実については,否認する。

同表2の1・2の2記載の抵当証券のうち,平成13年以降に購入した分(網掛けした欄)については,購入の事実は不知である。

(イ) 抵当証券の購入金額相当額が直ちに損害となるものではなく,同購入により得られた利益が控除された残額(券面額のうち償還を受けられなくなった金額)をもって,損害というべきものである。本件更新登録が拒否されたと仮定した場合の回収可能額及び現実の回収可能額は,損害発生額自体の算定の問題であって,損益相殺や発生後の損害のてん補の問題ではない。

本件更新登録以降に新規資金によって抵当証券を購入した場合は,抵当証券の購入金額と,同抵当証券の購入者として回収可能な金額との差額が,1審原告らの主張立証すべき損害となる。本件更新登録後に新規資金によって抵当証券を購入したことについても,1審原告らが主張立証責任を負う。

本件更新登録以前に購入していたA社及びその融資先各社の金融商品の償還金等を原資として,本件更新登録後に抵当証券を購入した場合,1審原告らの主張立証すべき損害は,本件更新登録がなかったと仮定した場合に,その当時,同金融商品について法的に回収可能であった金額と,同抵当証券について現実に回収可能な金額との差額である。本件更新登録時点で保有していた抵当証券又は金融商品の償還から,次の抵当証券の購入までにしばらく期間があったとしても同じである。

管財人回答書で「追加」と区分されていても,本件更新登録時にA社及びグループ会社の金融商品を保有していた可能性は否定できないから,この区分は意味がなく,本件更新登録以前にA社及びグループ会社から当該1審原告が購入していた金融商品の償還金が当該抵当証券の購入原資に含まれていないことまで,1審原告らにおいて別途立証する必要がある。

(ウ) 管財人回答書の「新規」「追加」の区分の正確性には疑問があり,1審原告らによる新規書証の提出によっても,購入の原資は不明である。

(エ) 担保不動産の換価により本来弁済を受けられたはずの金額と,被害者弁護団との本件委任契約による実際の配当額との差額は,本件委任契約により生じた損害であるから,担保物件ごとに回収額を認定することを論難する1審原告らの主張は理由がない。

なお,原判決における1審原告被控訴人X3(原告番号A16)と同X4(同B225)の損害額から控除すべき担保物件からの回収額の認定には誤りがあるから,原判決の損害額の認定方法をもってしても,上記1審原告らの認定されるべき損害額には誤りがある。

(オ) 国家賠償請求において過失相殺がされる場合の損害賠償義務は,過失相殺がされた後の損害額について生ずるものであり,公務員の違法行為後に損害のてん補等がされた場合,過失相殺後の損害額から控除すべきことも当然である。本件では,(イ)のとおり,抵当証券の購入金額,又はその当時購入していた抵当証券若しくは金融商品からの回収可能額,と担保物件からの回収額及び本件再生手続からの回収額との差額を対象に,過失相殺をし,過失相殺後の額から,損益相殺として受取利息相当額を控除した額をもって損害認定額とすべきである。

(カ) 別紙受取利息算出表1の1・1の2・2の1・2の2<省略>に各記載の平成12年12月末日までの1審原告らの受取利息額は,少なくとも損益相殺として損害から控除すべきである。

(キ) 平成10年以降にA社の抵当証券を購入したとしても,その後もこれを解約して全額の償還を受けることは可能であったから,抵当証券購入時には損害が発生しておらず,購入時点においては,いまだ不法行為は成立していない。したがって,A社の抵当証券販売行為の時点を起算日として遅延損害金の請求が可能であるとする1審原告らの主張は,失当である。

第3当裁判所の判断

1  判断の大要

当裁判所は,大要次のとおりの理由で,1審原告らの請求は,それぞれ別紙控訴審認容金額等一覧表1・2<省略>の「認容金額」欄記載の金員とこれに対する1審原告らの請求どおりの遅延損害金の限度で理由があり,その余の請求は理由がないと判断する。理由の詳細は,2項以下のとおりである。

(1)  本件の具体的事実関係の下では,本件更新登録前の段階で,A社の営業継続を許せば新たな購入者被害が多発する現実的危険性が切迫していて,これを近畿財務局長においても認識しており,近畿財務局長による本件更新登録に係る監督規制権限の不行使に合理性は認められず,かつその裁量逸脱の程度は著しく,また被害者においてその被害の回避を図ることを現実的に期待することができたともいえないのであって,これらの事情と本件における監督規制に関する経緯等を総合的に考慮すると,近畿財務局長による本件更新登録は,抵当証券購入者の保護を目的として財務局長等に監督規制権限を定めた抵当証券業規制法の趣旨,目的や権限の性質等に照らし,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く。したがって,本件更新登録は,その後にA社から抵当証券を購入することによって被害を受けた個々の国民との関係において,国賠法1条1項の適用上違法となると解すべきである。そして,近畿財務局長には少なくともこの点について過失があるから,1審被告は,国賠法1条1項により,その損害を賠償する義務がある。

(2)  抵当証券購入者の保護を図るため本件更新登録時期を越えてA社の営業継続を許さないとして,その場合にいかなる措置を執るべきかは,近畿財務局長の裁量にかかるが,本件では少なくとも,本件貸付金55億円の架空性及びグループ6社からの利払約37億円中の相当部分の仮装を認定することにより,容易に更新登録拒否事由である重要事項の虚偽記載を認定することができた(なお,原判決が述べる「公正ナル会計慣行」や貸倒引当金計上の要否及びその額等については,あえて論じない。)。

(3)  損害については,1審原告らがそれぞれ,①本件更新登録以後に,乗換購入ではなく,購入代金を現実にA社に払い込んで抵当証券を購入し,同社の破綻時までにその償還を受けていないこと,及び,②その抵当証券の購入のために拠出した金額とその抵当証券についての権利の実行を通じて法的に回収可能な額との差額(購入代金相当額-担保物件からの回収額-再生手続による回収額-受取利息による回収額)を,立証する必要がある。なお,上記①については,管財人回答書において「新規」又は「追加」に区分されている抵当証券は,具体的な反証がない限り,購入代金を現実に払い込んで購入したものであると認めることができる。他方,1審原告が,本件更新登録によりその当時保有していた他の金融商品等について全額の償還を受け得たことによる利益は,損益相殺の問題として,1審被告においてこれを主張立証する必要がある。また,上記の差額に対し,過失相殺規定の趣旨に照らして6割の控除をするのが衡平である。

2  本件更新登録についての国賠法上の違法性の判断基準(原審争点1,5関係)

(1)  検討

まず,本件更新登録についての国賠法上の違法性の判断基準を検討すると,この点に関する判断は,以下のとおり一部判断を変更しつつ補正するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第4 争点に対する判断」の1(1)~(4)(原判決277頁下から10行目~298頁末行)及び同5(2)のうち原判決404頁下から7行目~412頁9行目に説示のとおりであるから,これらを引用する。

ただし,わかりやすいように原判決の判文を以下に再掲した上で,それを直接補正し,あるいはその一部を要約して示すこととする。なお,再掲にあたっては,原告を1審原告,被告を1審被告とするほか,主な補正部分及び要約部分をゴシック体で表記し,また,削除部分については「…」で表記することがある。要約された引用部分の補正は,別紙原判決補正表<省略>のとおりである。

(原判決の引用)

『(1) いわゆる職務行為基準説について

国賠法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が職務を行うについて故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは国又は公共団体が賠償責任を負う旨定めるが,(以下要約)具体的には,当該行政処分の法的要件が充足されていなかったことのみならず,当該行政処分に係る権限を定めた法令の趣旨,目的やその権限の性質,当該行政処分自体及びそれに至る過程において行政庁の有する裁量の有無及びその広狭,侵害行為の態様及びその原因,並びに侵害されたとする利益の種類,性質(殊に,被侵害者において当該不利益を回避することができたであろう可能性の高低)及びその侵害の程度等に照らし,当該行政処分を行う公務員が,それによって損害を受けたと主張する個別の国民との関係で,当該行政処分を行ってはならないという職務上の注意義務を負っていたにもかかわらず,その義務に違反して当該行政処分を行ったと評価することができる場合に,初めて当該行政処分の国賠法上の違法性が肯定できるというべきである(以上,原判決278頁12行目まで)。

(2)  更新登録の国賠法上の位置付け

本件において,(以下要約)更新登録を行うという財務局長等の判断は,抵当証券業への参入を拒否する方向での規制権限を行使しないという実質を有するものであって,それ自体が規制権限の不行使という性格を有することは否定できない。そして,更新登録に係る財務局長等の規制権限の不行使は,その権限を定めた法令の趣旨,目的や,その権限の性質等(後記(3)において個別に検討する諸点)に照らし,具体的事情の下において,その不行使(更新登録を行うこと)が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更新登録をしたものとして,これにより被害を受けた者との関係において,国賠法1条1項の適用上違法となると解すべきである。そこで,以下,本件更新登録が上記のような意味における国賠法上の違法性を備えているか否かを具体的にいかなる枠組みで判断すべきか検討することとする(以上,原判決280頁6行目まで)。

(3)  本件更新登録に係る近畿財務局長の職務上の注意義務違反の判断枠組み

ア 抵当証券業規制法の趣旨及び目的並びに更新登録の性質

前記前提となる事実において原判決を引用して示したとおり,抵当証券業規制法は,抵当証券業を営む者について登録制度を実施し,その事業に対し必要な規制を行うことにより,その業務の適正な運営を確保し,もって抵当証券の購入者の保護を図ることを目的とし(1条),悪質業者や抵当証券業務を適確に遂行する能力を有していない業者の参入を規制するために登録制度を設けている(第2章)。そして,(更新)登録拒否事由は6条1項各号及び同項柱書後段に列挙されているところ,同項各号の事由は,いずれも原則として登録申請書及び添付書類のみから客観的に判断し得る事由であるから,これらは,財務局長等による参入規制権限の行使に対する抵当証券業者や抵当証券業を営もうとする者の予測可能性を担保しつつ,悪質業者や財務基盤等の十分ではない企業の抵当証券業への参入を可及的に排除しようとする趣旨のものと解される。殊に,同法が定める監督権限は,既に登録されている抵当証券業者のみを対象としていることが規定上明らかである点に照らすと,財務局長等が最初に申請者の登録を認めるか否かを判断するに当たっては,当該申請者の登録申請書及び添付書類をその主要な資料とせざるを得ないことが明らかである。以上に加えて抵当証券業の規制等に関する法律案の国会における審議経過を併せ考えると,前記のとおり,抵当証券業規制法は,モーゲージ証書を用いた販売方式を含む抵当証券の販売業(抵当証券業)が営業の自由の保障の下にあることを前提に,適正に抵当証券業を営もうとする抵当証券業者の営業の自由を可能な限り尊重し,制度の効率性を維持しつつ,その業務の適正な運営を確保し,もって抵当証券の購入者の保護を図るという立法目的を達成するために必要最小限の規制を行う趣旨から,開業規制として登録制を採用したものであると解される。そして,同法6条1項7号の登録拒否事由(抵当証券業を適確に遂行するに足りる財産的基礎及び人的構成を有しない法人)は,抵当証券業者が抵当証券を投資家に販売する際に多くの場合保証をしている実情にかんがみ,抵当証券の購入者の保護の観点から,抵当証券業者の財産的及び人的基盤を確保する趣旨に出たものであり,当該事由の該当性の有無については,会計学上の概念である資本欠損の有無等という客観的,外形的な基準によりみていくことを予定しているものと解される。

また,後記5(3)イにおいて原判決を補正引用して説示するとおり,同法6条1項が,各号列記事由とは別に,同項柱書後段において,「登録申請書若しくはその添付書類のうちに重要な事項について虚偽の記載があり,若しくは重要な事実の記載が欠けているとき」を独立した登録拒否事由として掲げた趣旨は,登録申請書及びその添付資料の記載の正確性・十分性を確保し,このことを通じて,登録審査の実効性を担保するのみならず,当該申請業者に関する資料を可及的に充実させ,その潜在的な問題点を事前に財務局長等が知ることにより,登録後における当該業者に対する行為規制ないし監督権限の行使を実効あるものとすることにもその主眼があるものと解される。

ところで,同法は,登録を受けた抵当証券業者に対し,一定の類型の行為を禁止するとともに,抵当証券業者の情報開示を行わせるべく行為規制を定め(第3章),上記のような開業規制・行為規制を実効あるものとするために財務局長等に対して立入検査,業務改善命令,業務停止命令及び登録取消し等の権限を付与し(第4章),これらの規制権限をさらに罰則によって担保している(第8章)。しかるところ,同法第3章が定める行為規制は,(以下要約)抵当証券業者から交付されるモーゲージ証書に法務局から発行された抵当証券の裏付けが存在することを最低限確保し,実効ある登録制度によって問題のある業者を可及的に排除した上で,情報開示により個々の顧客が抵当証券を購入するか否かを自己の自由な判断と責任において決する機会を保障することを通じてこれを保護することを目指したものであって,金融商品としての抵当証券が本来的に内包するリスクを財務局長等による行為規制を通じて減少させることをその直接の目的としているとまでは解し難い(以上,原判決282頁11行目まで)。

また,同法第4章が定める監督権限は,財務局長等が,抵当証券業者の業務に関する資料を収集し(20条(業務に関する帳簿書類),21条(事業報告書の提出),22条(立入検査等)),抵当証券業者の更新登録申請書及びその添付書類がある場合にはこれも参考にしつつ,更に可能であれば任意に当該業者から資料の提出を受けた上で,当該抵当証券業者が,(以下要約)① 事後的に6条1項各号に列記された登録拒否事由の一部に該当することとなったとき,② 不正の手段により登録若しくは登録更新を受けたとき,又は③ 抵当証券業規制法若しくは同法に基づく命令若しくはこれらに基づく処分に違反したときは,登録取消し又は6月以内の業務停止を命ずることができるとしている(24条1項)が,同法は,6条1項7号の登録拒否事由(抵当証券業を適確に遂行するに足りる財産的基礎及び人的構成を有しない法人)については,24条1項の登録の取消し又は業務の全部若しくは一部停止の要件として規定していない。その趣旨については,抵当証券業者の財務内容や人的構成は業務の遂行過程で常時変動し得るものであることにかんがみ,行政側の事務負担や確認を受ける事業者の立場等をもしんしゃくして,登録の有効期間を通じて抵当証券業を適確に遂行するに足りる財産的基礎及び人的構成が確保されていることまでは要求せず,原則としては3年ごとの更新の登録(7条,8条)の際にその具備の有無を審査すれば足りるものとし,ただ,登録の有効期間中であっても,財産的基礎又は人的構成を欠くことにより抵当証券の購入者の利益を欠くに至っていると認められるときは,23条の規定に基づく業務改善命令をすることができるものとし,必要に応じ業務改善命令違反による業務停止あるいは登録取消し(24条1項)に至るまでの監督処分によって,抵当証券の購入者の保護を図ろうとしたものであると解される(実質的にみても,財産的基礎や人的構成が欠けたときに直ちに業務停止等の措置を講じるべきこととすれば,当該業者がその時点で破綻することにより,それまでに当該業者から抵当証券を購入した者の利益をかえって害することになりかねない。)。

このような抵当証券業規制法による規制の仕組みに照らすと,同法の定める登録制度は,その目的は抵当証券の購入者の保護にあるものの,そのために抵当証券業者や抵当証券業を営もうとする者の営業の自由を過度に犠牲にすることまでは志向していないものと解されるから,登録主体である財務局長等が,抵当証券の購入者に対し,当該抵当証券を販売すべき抵当証券業者の財務基盤や企業としての誠実性・廉潔性につき,その欠如が外形的に明らかでない場合にまでその存在を一般的に保証するとの趣旨は有していないものと解される。しかし,抵当証券業者の財産的基礎及び人的構成については,同法は,抵当証券業者が抵当証券を投資家に販売する際に多くの場合保証をしている実情にかんがみ,抵当証券業者の財産的及び人的基盤を確保することによって抵当証券の購入者の保護を図る趣旨から,その欠缺を抵当証券業の登録及び更新登録の拒否事由として規定して,少なくとも3年に1度の更新登録時期には,財務局長等において当該抵当証券業者が抵当証券業を適確に遂行するに足りる財産的基礎及び人的構成を具備しているか否かを審査することとし,なお登録の有効期間中であっても,財産的基礎又は人的構成を欠くことにより抵当証券の購入者の利益を害するに至っている事実が判明した場合には,監督処分としての業務改善命令を発令し,必要に応じて最終的には登録取消しに至るまでの監督処分を適時に発動することによって,抵当証券購入者の保護を図ることが予定されているものと解される。

イ 更新登録自体及びそれに至る過程において近畿財務局長の有する裁量の有無及びその広狭

前記のとおり,抵当証券業規制法8条1項,6条1項が定める更新登録拒否事由は,いずれも基本的には客観的かつ外形的な基準によって判定することが可能である。しかしながら,基準自体がいかに明確であっても,これに当てはめるべき事実の認定が常に容易であるとは限らず,例えば,財産的基礎の要件の判断については,これを通常は基本事項通達の定めるように会計学上の概念である資本欠損の有無でみるとしても,資産の合計額から負債の合計額を控除して純資産額を算出する過程において必然的に会計学的な判断が必要となることに照らし,その認定(…「公正ナル会計慣行」に照らして判断すべきであるが,その内容は必ずしも一義的に明確ではない。),並びにその認定に当たって必要とされる資料の範囲の確定及びその調査方法については,財務局長等の専門技術的判断に基づく合理的裁量にゆだねざるを得ないものと考えられる(もっとも,基本事項通達は,財産的基礎を具備しているとは,当該業者が「貸借対照表において」資産の合計額から負債の合計額を控除した額が資本の額以上であることを指すとしており,これが常に登録申請者の提出する貸借対照表上の計算で足りるという趣旨であればその内容は常に一義的に明確であることになるが,1審被告も財務局長等が立入検査等により別途把握した事実をもって更新登録申請者から提出された貸借対照表の記載を否認する可能性を認めており,…1審被告の上記解釈はこの限度で正当と認められる。)。現に,抵当証券業規制法は,抵当証券業者に対し,その業務若しくは財産に関して報告若しくは資料の提出を命じ,又は当該職員に,抵当証券業者の営業所若しくは事務所に立ち入り,その業務若しくは財産の状況若しくは帳簿書類その他の物件を検査させ,若しくは関係者に質問させることができる(22条1項)とするものの,その具体的な方法については同法はもとより法施行令・法施行規則にも規定がないし,財務局長等がこれとは別に,任意に上記規定の対象とならない資料の提出を受けることも当然適法と解される。また,財務局長等による監督権限の行使は,その対象となる抵当証券業者にとっては不利益処分となり得る上,その内容によっては既存の一般取引者の利害にも必然的に影響を与えるから,行政法の一般原則に従い,必要かつ合理的と認められる限度で行使される必要があり,その適合性についての判断も,第一次的には財務局長等によって行われるものである。また,同法8条1項,6条1項柱書後段の更新登録拒否事由(虚偽記載等)については,その要件に該当するか否かの判断にあたっては,「重要な事項についての虚偽の記載」「重要な事実の記載」といった規定上の文言に照らし,前記同項各号についての判断に比して,財務局長等により広い裁量があるものと考えられる。加えて,証拠(乙142ないし145,168,<証拠省略>)によれば,近畿財務局において,平成9年ころ,A社を含む管轄下の抵当証券業者に対する日常的な監督業務を担当していた金融第3課では,課長,上席調査官,担当調査官及び課員の4名が,必要に応じて上司である近畿財務局長,理財部長,理財部次長に相談・報告し,決裁を仰ぎつつ,他のいわゆるノンバンク等の監督と掛け持ちでその任に当たっており,同課を大蔵本省において指導していた本省金融会社室では,主に,抵当証券業を担当する係長と自治省からの出向者である課長補佐の2名が,必要に応じて上司に相談・報告しつつ,近畿財務局に対して主に法的な観点から助言を与えたり,時に個別の指示を出すなどの体制で臨んでいたものと認められるところ,そのような限られた人的体制をその所管事務の一つにすぎないA社の監督のみに当てることは到底不可能であるから,同社に対する監督権限行使の適切性は,このような人的・物的制約という文脈の中で検討される必要があるというべきである。

したがって,同項各号の登録拒否事由については,その要件を具備しているか否かに係る財務局長等の判断それ自体について裁量が認められる余地は事実上ほとんどないといえるものの,同項柱書後段の登録拒否事由を含めて,更新登録時までに財務局長等がその認定の用に供するために収集した資料の範囲や資料の収集方法が相当であったか否かについては,裁判所は,財務局長等がその選択や時期等について専門技術的判断に基づく裁量権を有することを前提に,監督対象である抵当証券業者の正当な利益をも考慮に入れ,かつ,財務局長等による監督権限の行使に人的・物的制約等が伴うことをも念頭に置いて判断することが必要というべきである。<原判決277頁下から10行目~286頁下から11行目>』

『ウ 更新登録に係る抵当証券業規制法上の監督権限の性質及び裁量の広狭

…既に説示したとおり,抵当証券業規制法は,営業の自由を可及的に尊重するとの見地から登録制を採用した上,6条1項で登録拒否事由を限定的に列挙し,これらの事由がない場合には登録を義務付けている(5条)。このような開業規制は,例えば,免許制を採用する銀行法が,免許を付与する上で,その申請者が「銀行の業務を健全かつ効率的に遂行するに足りる財産的基礎を有し,かつ,申請者の当該業務に係る収支の見込みが良好であること」(同法4条2項1号)等の基準に適合するかどうかを審査しなければならないとしているのと比較して,営業を許可するか否かについての監督官庁の裁量を狭く捉えていることは明らかである。加えて,既に説示したように,抵当証券業規制法が列挙する登録拒否事由はいずれも外形的な判断になじむ事項であるから,登録許否の審査において財務局長等が考慮すべき事項の範囲は自ずから限定され,その用に供すべき資料が登録申請書及びその添付書類のみで十分であることも多いと考えられる…が,外形的判断になじむ事項であるからといって,これに当てはめるべき事実の認定自体も申請書等のみから常に形式的に行い得るとは限らず,例えば,会計的事象に係る判断が必要となる財産的基礎(6条1項7号)については,これを通常は基本事項通達の定めるように会計学上の概念である資本欠損の有無という客観的外形的基準でみるとしても,その認定に困難が伴う場合があることは同法も当然に予定していると解される。また,抵当証券業規制法の定める監督権限(第4章)が,開業規制(第2章)及び行為規制(第3章)の双方の実効性を担保するためのものであって,その業務又は財産に関する抵当証券業者への立入検査・報告徴求・資料提出要求・検査・質問等の各権限(22条1項)が更新登録審査の充実をもその目的としていること,抵当証券業者の業務の運営に関し抵当証券の購入者の利益を害する事実があると認めて発する業務改善命令(23条)の対象が行為規制違反の点に限られないことは,いずれも明らかというべきである(立入検査等の権限を定めた同法22条の規定が同法の登録の章ではなく監督の章に置かれているからといって,当該権限が登録に関する権限の適切な行使を担保することを目的とするものでないと解するのは困難であり,当該規定が登録の章及び業務の章に続いて監督の章に置かれていること及び「この法律の施行に必要な限度において,抵当証券業者に対し,その業務若しくは財産に関して報告若しくは資料の提出を命じ,」という規定の文理からしても,当該権限が抵当証券業者の開業及び業務に関する同法の規制の実効性を担保することを目的として規定されたものと解するのが素直というべきである。実際に,抵当証券業者に対する検査においては,被検査会社の資産と負債の帳簿上の金額と現物(現金,小切手等)の確認を行い(<証拠省略>),A社に対する平成12年検査結果通知では端的に更新登録拒否事由たる財産的基礎の状況について指摘している(<証拠省略>)し,関東財務局におけるF社の検査においても,業務運営状況と並んで,抵当証券業規制法6条1項7号に規定する財産的基礎・人的構成の要件を満たしているか否かを「平成9年検査の検査結果報告書」として報告しており(<証拠省略>),この報告内容すなわち検査内容は,近畿財務局においても異ならないものと推認される。また,抵当証券業者が財産的基礎を欠くことにより抵当証券の購入者の利益を害する事案があると認められるときに業務改善命令をすることができると解されることは既に説示したとおりである。…

もとより,抵当証券業規制法が財務局長等に付与している監督権限は,例えば銀行法が子会社への立入検査権限(25条2項)まで規定していることと比較すれば狭いものであることは明らかであるが,このことは,財務局長等が,具体的事情の下で登録許否の判断を行うに当たり,上記のように限定された監督権限すら行使できないとか,行使する必要がないと解する根拠とはなり得ず,抵当証券業規制法にも,その更新登録に当たり,財務局長等は,更新登録申請書及びその添付書類の記載に加え,監督権限の行使により現に入手した資料を基礎にした審査を行いさえすれば,当該監督権限の行使がいかに不十分,不適切なものであったとしても,国賠法上免責されるとの結論を正当化するような規定は見当たらない。かえって,財団法人大蔵財務協会が発行している抵当証券業規制法の手引き書においては,登録制であっても,適切な行為規制と不正な行為に対する監督官庁の速やかな対応によって,悪質業者に対する対処は十分可能であり,購入者保護を図ることができる旨解説されており(<証拠省略>),抵当証券業の規制等に関する法律案の国会審議においても同様の説明が政府委員からされていた経緯が存することは,前記前提となる事実において原判決を引用して摘示したとおりである。

確かに,財務局長等の監督権限の内容が限定されていることから,更新登録拒否事由の存否に係る判断に必要な資料が収集し切れない場合が生じることは容易に想定されるが,そのような事案においては,財務局長等は,その専門的技術的知識に基づき,経験則や論理法則を駆使するなど合理的な手法を用いて可能な範囲で事実を認定した上,それに基づいて更新登録拒否事由の有無を判断することが求められるというべきであり,抵当証券業規制法が抵当証券業者の営業の自由を尊重する観点から開業規制につき登録制を採用した上でその登録拒否要件を客観的,外形的基準を基調とするものにとどめ,また,財務局長等の監督権限を限定的に規定しているとしても,そのことから財務局長等の更新登録の許否に当たっての上記のような判断を不要とする趣旨を読み取ることは困難であり,抵当証券業の規制等に関する法律案の国会における審議経過からもそのような立法政策を看取することはできない。現に,(以下要約)近畿財務局長は,平成12年検査において,A社の抵当権付き債権一部譲渡に係る資金交付を否認し,未収利息についても資産性を否定することで簿外債務の存在を認定したが,近畿財務局長が上記判断に至ったのは,A社が説明を不自然に変遷させた事実や,同社の説明が不十分であった事実自体から,その主張が全体として信用することができないと合理的に判断したことに負う部分も大きいと解されるのである(以上,原判決408頁7行目まで)。

これに対し,1審被告は,① 実質的審査をすべき場合は,免許制・許可制等,登録制より強度の規制をしている場合である,② 抵当証券業規制法の制定過程において,財産的基礎について実体的にみていくことを予定している旨の議論がされていない,③ 支払不能という,資本欠損より実質的判断を要する概念が規定されている著作権等管理事業法ですら形式的審査で足りるとされている,などとして,抵当証券業規制法の下における更新登録に際しては財務局長等には実質的審査を行う義務はない旨主張(以下要約)し,他方,1審原告らは,更新登録拒否事由の存否が不明である場合には,その存在を認定すべきである旨主張するが,いずれも採用できない(以上,原判決411頁下から7行目まで)。

したがって,財務局長等は,更新登録申請書及びその添付書類の記載,並びに立入検査等によって別途把握した事実に照らし,当該抵当証券業者の更新登録を拒否すべきことが明らかである場合はもちろん,そうでない場合にも,財務局長等がそれまでに監督権限の行使等を通じて収集した資料に基づき,当該抵当証券業者が不適正な業務運営を行い財産的基礎を仮装するなど,購入者の利益を害する事実の徴候を把握した場合には,抵当証券業規制法の下で認められた立入検査等の調査権限を,その合理的裁量に基づいて当該抵当証券業者に対して適時にかつ適切に行使し,必要に応じてその専門的知見に基づく合理的推認等の手法をも用いて事実を認定した上,通常必要とされる程度の慎重さをもって更新登録の可否を判断すべき職務上の注意義務を,当該抵当証券業者からその更新登録後に抵当証券を購入する個々の国民に対して負っていると解されるのである。<原判決404頁下から7行目~412頁9行目>』

『エ 侵害行為の態様及びその原因

本件更新登録は,更新登録申請者であるA社に対してされたものであるが,1審原告らは,それによって同社が抵当証券業規制法上の登録業者として適法に抵当証券業務を継続することを許されたために,同社から抵当証券を購入したところ,同社がその後に破綻した結果,購入額相当の損害等を被った旨主張している。このように,1審原告らが主張する近畿財務局長による侵害行為とは,A社による抵当証券の販売行為を介していわば間接的に財産的損害を発生させたというものであって,1審原告らの主張によっても,1審原告らに財産的損害をもたらした第一次的な責任がA社にあることは明らかであり,このような財産的損害は,現行法秩序の下においては,債務不履行,不法行為などといった民事的方法によりてん補されるべきことが予定されているものというべきである。このことに加えて,既に説示した抵当証券業規制法所定の監督権限や更新登録制度の趣旨,内容,性質をも併せ考えると,近畿財務…局長は,購入者の利益を保護する目的を有する同法の下で与えられた監督権限や更新登録制度等の適時かつ適切な運用を通じ,A社から抵当証券を購入する者が負担するリスクを同法の許容する範囲内にとどめるよう努力すべき責務を有していたと解されるものの,上記のような責務を果たすに際して近畿財務局長がA社から抵当証券を購入する個々の国民との関係において負っていた職務上の注意義務の程度を高度なものと観念することができないのは明らかというべきである。

しかしながら,仮に,当該抵当証券業者が架空融資に係る抵当証券や担保の過大評価による抵当証券の発行を繰り返した上,後の抵当証券の販売代金でもってそれに先行する抵当証券の利息ないし償還金の支払を行うなどの詐欺的商法を組織的かつ継続的に行っている場合などには,今後当該業者から抵当証券を購入する者は,当該業者が詐欺的商法の破綻や発覚により破綻した場合には,詐欺的商法の被害という,通常の抵当証券の予定する範囲を超えるリスクを負担することになる。また,実質資本欠損に陥っていながら,グループ会社内の経理操作などにより,表面上は抵当証券業者本体を資本欠損でない状態に仮装して登録業者の地位を保持するといった,いわば抵当証券業規制法や基本事項通達の基準を悪用した不適正な業務運営を行っている業者については,悪化した財務状態の表面化により当該業者が破綻した場合には,登録制により抵当証券業者の財務基盤を確保しようとした同法の予定する範囲を越えたリスクを,抵当証券購入者に負担させることになる。そして,上記のような業者は,その詐欺的商法の実態や本来の財産状態を隠蔽しているのであるから,抵当証券の潜在的購入者においてそのリスクを認識してこれを回避する現実的可能性はないということができるのであって,これを放置すれば当該業者が抵当証券の販売を続けて,同法の予定する範囲を超えたリスクを含有する抵当証券の購入者が新たに生じる現実的危険性がある場合には,監督官庁による適切な監督権限の行使によってかかる業者からの潜在的購入者の保護を図る必要性が,飛躍的に高まるということができる。

したがって,財務局長等において,抵当証券業者において上記のような詐欺的商法を組織的かつ継続的に行っていたり,財産的基礎を仮装するなどいわば同法等を悪用する不適正な業務運営を行っており,これを放置すれば新たな抵当証券購入者が生じる現実的な危険性を示す有力な徴表の存在を把握し,又は把握し得たような場合には,財務局長等に監督権限及び更新登録に係る規制権限を付与した抵当証券業規制法の趣旨,目的に照らしても,財務局長等には,更新登録後に抵当証券を購入すべき個々の国民との関係において,更新登録申請の適否を所与の人的・物的制約の下において同法によって与えられた権限を適切に行使して審査し,その結果として当該業者に更新登録拒否事由を認定することができる場合には当該業者の更新登録を拒否するなどして,当該業者からの購入者の新たな被害の発生を適時に防止すべき職務上の注意義務が発生するというべきである。

オ 1審原告らが侵害されたとする利益の種類,性質(殊に,1審原告らにおいて当該不利益を回避することができたであろう可能性の高低)及びその侵害の程度

1審原告らは,本訴において,主に,平成10年以降にA社から購入した抵当証券の購入代金相当額を損害として主張しているところ,これが財産的利益に対する侵害であることは明らかである(…)。そして,本件のように行政庁の権限の行使ないし不行使が問題となる場合において,一般的には,行政庁の権限行使(又はその不行使)によって被った損害が取引に伴う財産的利益に対するものであれば,生命や健康といった利益と異なり,その利益の帰属主体が十分な注意を払うことによってその危険の発現を防止し得る余地が大きいものと解され,これを行う第一次的な責任はその帰属主体が負担するものというべきであるから,財産的利益の帰属主体が有する行政庁に対する適切な権限行使への期待については,それが正当なものといえるか否かを慎重に検討することが必要となるというべきである。

もっとも,(以下要約)抵当証券の購入者が,その購入に先立って抵当証券が表彰する債権の債務者や抵当目的物を知る機会は制度的に保障されておらず,また,購入後の閲覧によっても抵当権付き債権自体の確実性についての情報開示は不十分であるから,抵当証券を購入しようとする者は,抵当証券業者が融資審査について十分な能力を持っており,万一融資先に債務不履行が生じ,抵当目的物にも担保割れが発生した場合であっても,当該抵当証券業者が元利金の支払を保証すると約束していることに対する高い期待を有しているものと推認することができる。加えて,モーゲージ証書の形式による抵当証券の販売を行っていた抵当証券業者の大部分(A社を含む。)は,その購入者に対して元利金の支払を保証しており,また多くの場合は中途解約にも応じていたのであって,顧客にとっては,抵当証券の債務者の信用や抵当不動産の担保価値と並んで,又はそれ以上に,抵当証券業者自身の財産的信用や融資審査能力が重視されていると解すべきである。そうすると,抵当証券業規制法の定める購入者保護制度の中でも,顧客に対して,抵当証券業者の決算書をその中に含む事業報告書の閲覧の機会を保障する仕組み(抵当証券業規制法17条,平成9年大蔵省令第83号による改正後の法施行規則14条1項)は,重要な地位を占めるものというべく,この保障が不十分である場合には,同法が購入者の自己責任を問う前提として整備している情報開示制度の根幹が揺らぐことになるというべきである。もとより,財務局長等は,その事業報告書の正確性について保証するものではないし,通常はその内容に不備がないものと解してよいものと思われるから,抵当証券業者に不正確な事業報告書を備え付けさせていたことのみをもって直ちにその職務上の注意義務違反を認めることができないのは明らかである。しかしながら,事業報告書の閲覧の機会の保障が購入者保護制度に占める重要性に照らすと,事業報告書に虚偽記載等が含まれていた場合には,顧客に自己責任を問うために抵当証券業規制法が予定している制度的前提は既に崩れているのであるから,当該抵当証券業者から抵当証券を購入し,その後に当該抵当証券業者が破綻したことによって損害を被った個々の購入者は,当該抵当証券業者の事業報告書を現実に閲覧したか否かにかかわらず,具体的事情の下ではなお救済の対象となり得るものと解される(以上,原判決292頁下から5行目まで)。

したがって,抵当証券業規制法の下では,抵当証券を購入し,又は購入しようとした者に対し,同法が予定している適正な情報開示がされている場合には,抵当証券の自由金利による利得と,抵当証券業者がその後に破綻することによって損失が生じる可能性とを勘案する機会を与えられた上で当該抵当証券を購入するか否かの判断を行った顧客自身が,その最終的な結果に対して責任を負うべきであるということができるが,グループ会社間の意図的な経理操作などによって事業報告書に含まれる決算書と実態に重大な齟齬があり,財務状態がよりよく仮装されている場合など,情報開示の程度が同法が予定する水準にまで達しておらず,上記のような判断を顧客に求めるための制度的前提が欠けていると解される場合には,単に当該顧客の受けた被害が財産的損害にとどまることのみをもってしては,財務局長等はその権限行使(不行使)の結果につき責任を免れるものではないと解すべきである。殊に,<証拠省略>によれば,遅くとも平成9年9月の段階で,近畿財務局においても,抵当証券業規制法の下において,債務者及び担保について抵当証券の購入前に情報開示が保証されていないことが,クーリングオフ制度が存在しないことや,債務者の経営が悪化し又は担保割れが生じている抵当証券が販売されていることと並んで制度上の問題として意識されていたことが認められる。

また,抵当証券業規制法に基づく登録業者である以上,少なくとも同法に基づいて適正な業務運営を行っているはずであるとの抵当証券購入者の信頼は,同法1条の目的に照らしても,一般に保護に値するものであるといえるから,抵当証券業者が,架空融資による抵当証券や,抵当物件の過大評価による担保価値に見合わない高額の抵当証券の発行を繰り返した上,後の抵当証券の販売代金でもってそれに先行する抵当証券の利息ないし償還金の支払を行うなどの詐欺的商法を組織的かつ継続的に行っているといった場合にも,抵当証券購入者の受けた被害が取引に伴う財産的損害にとどまることのみをもってしては,財務局長等は,その権限行使(不行使)の結果につき責任を免れるものではないと解すべきである。

したがって,少なくとも,抵当証券の潜在的な購入者を同法が制度的に許容している範囲を超えるリスクにさらすこととなる,前記のような詐欺的商法を組織的かつ継続的に行っている業者や,事業報告書において抵当証券業者の財産状態を仮装しているような業者に対しては,近畿財務局長は,その監督規制権限を適時かつ適切に行使することが特に期待されていたというべきである。

これに対し,1審被告は,そもそも抵当証券の信用の裏付けとなるのは,主に債務者の返済能力及び抵当目的物の換価価値にあるというべきであり,抵当証券業者の信用や融資審査能力がそれと同じか又はそれ以上に重視されるとか,事業報告書の閲覧制度が情報開示制度の根幹をなすとするのは,抵当証券の本質についての理解を誤るものであるし,財務局長等には事業報告書の正確性を確認する義務も権限もなく,仮に事業報告書に虚偽記載があったとしても,それは抵当証券業規制法の予定する範囲内であるなどと補充主張する。

しかし,前記説示のとおりのモーゲージ証書形式の販売業という現実に行われている抵当証券業の実態をみれば,抵当証券業者の信用や融資審査能力が重視されることは当然であるし,そもそも,前記前提となる事実において原判決を引用して説示した抵当証券業規制法制定時の国会審議における議論や<証拠省略>によれば,抵当証券業規制法において抵当証券業者の財産的基礎の欠如が登録拒否事由として定められたのは,抵当証券業者が多くの場合保証をしていることから,その保証の基礎に十分な財産的基盤がなければならず,また,抵当証券業者が販売する抵当権付き債権が信用のない債権である場合には仮に抵当権がついていても購入者保護に問題が生ずるおそれがあることなどを考慮してのものであり,人的構成の欠如が登録拒否要件とされたのも,抵当証券業者においては債務者の返済能力や担保評価を適正に行うことのできる人材があることが重要であるからであると認められ,抵当証券業規制法自体,抵当証券業者の財務基盤や人的基盤を重視していることは明らかである。そして,財務局長等において,抵当証券業者の財務基盤や人的基盤を保証するものではないことは既に説示したとおりであるが,抵当証券業規制法において,これら財務基盤や人的基盤が仮装されることも予定の範囲内であるとは到底いえないのであって,これが仮装されている以上,監督官庁たる財務局長等における適切な監督規制権限の行使が期待されることになるのは当然というべきである。これらの点に照らし,上記1審被告の補充主張は採用できない。

また,1審被告は,抵当証券業規制法15条,16条に定める契約前書面の交付や契約内容を明らかにする書面の交付等の当時の法律上の情報開示制度が不十分であったとはいえないし,仮に不十分であったとしても,それが当時の抵当証券業規制法の定めであって,同法の予定する情報開示がなされていなかったとすることはできないなどとも補充主張するが,制度として十分であったといはいえないことは,その後にA社の件をも考慮して適正な情報開示を進める方向での法施行規制の改正があったこと(<証拠省略>)にも照らせば,これを認めざるを得ないものというべきであるし,いずれにせよ適正な情報開示が前提の制度であることは当然であって,1審被告の上記補充主張は採用できない。

さらに,1審被告は,そもそも抵当証券業規制法は,情報開示が不十分であることを前提に,その不十分な部分を監督によって補うことを予定して立法されたものではないなどとも補充主張する。しかし,一般に情報開示が不十分な点を監督によって補うことが予定されているとまではいえないことは1審被告の主張するとおりであるが,具体的な事案において,情報開示が同法の予定する水準にまで至っておらず,これを財務局長等が把握し得た場合には,適切な監督規制権限の発動が期待されるというべきことは前記説示のとおりであって,結局1審被告の上記補充主張は採用できない。

カ 小括

以上によれば,財務局長等は,更新登録の可否を決するに当たっては,原則として更新登録申請書及びその添付書類の記載に照らして登録拒否事由の有無を判断すれば,結果的にその判断が誤っていたとしても,直ちに個々の抵当証券購入者との関係で職務上の注意義務違反に問われることはないというべきである。しかしながら,財務局長等が必要な監督規制権限の行使を怠って漫然と更新登録を行い,それが更新登録に係る財務局長等の権限を定めた抵当証券業規制法の趣旨,目的や当該権限の性質等に照らし,具体的事情の下で許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと判断される場合には,当該更新登録は財務局長等の職務上の注意義務違反の結果と捉えられるから,これによって抵当証券業の継続を認められた抵当証券業者から抵当証券を購入した者が,後に当該抵当証券業者に係る登録拒否事由が顕在化したことによって損害を被ったときは,財務局長等の帰属主体である1審被告は,当該損害を賠償すべき国賠法上の義務を負うものと解すべきである。そして,財務局長等による当該更新登録が著しく合理性を欠き国賠法1条1項の適用上違法であるといえる場合とは,本件に即していえば,例えば,…当該抵当証券業者が,前記のような詐欺的商法を組織的かつ継続的に行い,実質的に財産的基礎を欠いているがこれを仮装していることを示す具体的な徴表を財務局長等において把握しながら監督規制権限の行使を先延ばししてきていて,これをそのまま放置すれば抵当証券業規制法が予定する範囲を超えたリスクを有する抵当証券が販売されることとなって,購入者の新たな被害が発生する現実的危険性が切迫しており,…当該抵当証券業者からの潜在的購入者においてはその危険を認識して回避する現実的可能性がなく,他方,抵当証券業規制法の趣旨,目的からいって,当該具体的事情の下では,もはや3年に1度の更新登録審査の時期を越えて当該抵当証券業者の営業継続を許すことはできず,財務局長等において,同法上の調査権限を含む監督規制権限をその人的・物的制約の下で適時かつ適切に行使すれば更新登録拒否事由を認定して更新登録を拒否することができたにもかかわらず,財務局長等が当該事由の存在をあえて看過し,合理的な理由もなく漫然と更新登録を行ったような場合などがこれにあたると解すべきである。

(4)  1審被告の主張について

これに(以下要約)対する原審における1審被告の主張は,いずれも採用できない(以上,原判決298頁末行まで)。<原判決286頁下から10行目~298頁末行>』

(2) 小括

以上によれば,近畿財務局長によるA社に対する本件更新登録が著しく合理性を欠くものとして国賠法1条1項の適用上違法と解されるか否かは,①本件更新登録審査の当時,A社が,架空融資や担保の過大評価に係る抵当証券の発行を繰り返した上,後の抵当証券の販売代金でもってそれに先行する抵当証券の元利金の支払を行うなどの詐欺的商法を組織的かつ継続的に行っており,抵当証券業を適確に遂行するに足りる財産的基礎を実質的に欠いているがこれを仮装しているなどして,3年に1度の本件更新登録時期を越えてその営業の継続を許せば,新たな抵当証券購入者が生じて新たな被害が発生する現実的危険性が切迫しており,これを近畿財務局長においても認識し又は認識し得たといえるか(後記3項),②近畿財務局長による監督規制権限の行使に係る方法・時期等の選択における合理性の有無及びその裁量逸脱の程度(後記4項),③更新登録拒否事由の認定可能性(後記5項),並びに④本件更新登録によって惹起された損害の規模及び性質(特に,被害者においてその回避を図ることを現実的に期待することができたか否か)(後記6項)を,本件更新登録前後の具体的な経緯及び事実関係等に照らして,総合的に判断して決すべきものと解される。

そこで,以下3~6項において,上記判断基準に沿って,本件における具体的事情を順次検討した上,7項において,本件更新登録の違法性について総合的に判断することとする。

3  本件更新登録審査の当時,A社が,詐欺的商法を組織的かつ継続的に行い,実質的に財産的基礎を欠いているがこれを仮装しているなどして,本件更新登録時期を越えて営業継続を許せば抵当証券購入者の新たな被害が発生する現実的危険性が切迫しており,これを近畿財務局長も認識し又は認識し得たといえるか

(1)  検討順序

以下では,まず,A社グループの営業実態と近畿財務局等の対応に関して,本件更新登録に至るまで及びその前後の具体的な経緯及び事実関係について検討し(後記(2)),次に,同社における業務運営の実態に関して,問題となり得る具体的な事例を検討する(後記(3))。さらに,A社の財産的基礎とその仮装に関して,A社グループの帳簿上の財務状態及び経営状況と経理操作の実態を検討し(後記(4)),その上で,近畿財務局長が本件更新登録までに知り,又は適時かつ適切な監督権限の行使によれば知り得た情報に照らして,A社が本件更新登録審査の当時,詐欺的商法を組織的かつ継続的に行い,実質的に財産的基礎を欠いているがこれを仮装しているなどして,本件更新登録時期を越えて営業の継続を許せば抵当証券購入者の新たな被害が発生する現実的危険性が切迫していたといえるかについて検討し(後記(5)),最後に本項を小括する(後記(6))。

(2)  本件更新登録に至るまで及びその前後の具体的な経緯及び事実関係

そこでまず,A社グループの業務運営の実態と近畿財務局の対応に関して,本件更新登録に至るまで及びその前後の具体的な経緯及び事実関係について検討する。

後記引用中に掲記の証拠等及び前記前提となる事実を総合すると,本件更新登録前後の事実関係及び当該事実についての当裁判所の認定ないし判断は,当審における補充主張・立証を踏まえて一部判断を変更し,補正しあるいは評価を付加するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第4 争点に対する判断」の5(3)ア~ケ(413頁3行目~534頁末行)に認定説示するとおりであると認められるから,これらを以下に再掲して引用する(補正等の方式については前同。また,原判決は,1審被告が本件更新登録までに容易に把握したとまではいえない事実関係を〔 〕で囲むことによって区別しているが,近畿財務局長の認識及び認識可能性については別に検討する(後記(5))ので,ここでは,まず,本件証拠上客観的に認められる事実関係を網羅的に認定説示することとし,〔 〕の記載をすべて削除する。)。

(原判決の引用)

『ア 平成6年検査まで

(ア) A社の前身の発足

Gは,「H社」の代表取締役として不動産の仲介・販売業を営んでいたが,経営規模を拡大すべく,高校の後輩を通じて知り合った行政書士で,不動産全般について知識が豊富なため知恵袋としていたIに資金調達の方法を相談したところ,同人から,他人に資金を貸し付けて,他人の不動産に抵当権を設定すれば,それに基づいて抵当証券の発行を受け,これを販売して資金を集めることができるとの助言を受けた。そこで,Gは,昭和50年ころからGの下で働いていたJに対し抵当証券について研究するよう命じ,同人は,大阪法務局や司法書士の下を訪れ,その発行手続について教示を受けるなどした。Gは,昭和60年2月には前記会社の商号を「K社」へと変更し,抵当証券業に乗り出すことを決めた。(<証拠省略>)

(イ) Gによる抵当証券業の開始

K社は,昭和60年3月15日付けで,自らを債権者,L社を債務者とした約2億円の金銭消費貸借契約書を作成した上,これを被担保債権としてMの所有する<所在地省略>所在の山林に抵当権を設定し,同年4月15日に総額2億2440万円の抵当証券の発行を受け,これを販売した。しかしながら,L社は金融会社としてH社が物件を押さえるための手付金数千万円をH社に対して貸し付けていた債権者であり,Mも同社の取引先であった。Gは,同融資金を返済するためであるなどとして取引先の協力を取り付けた上,自己資金を用いることなく実体のない抵当証券の発行を受け,これをすべて販売することにより資金を調達し,新たにその償還債務を負担することとなったものの,当初からの計画どおり,L社に対し,旧商号時代の融資金を返済した上,これを上回る新たな資金を調達することができたのである。(<証拠省略>)

(ウ) グループ会社に対する特約付き融資の開始

Gは,昭和60年7月6日付けで,K社が,自らが実権を握っていた「N社」に対して金銭を貸し付けたとして,同人と,これも同人が統括していた「O社」が各所有していた<省略>市山林に抵当権を設定し,同年8月1日に総額1億5420万円の抵当証券の発行を受けた。しかしながら,当時既にN社は不動産売買業をほとんど行っていない休眠会社となっており,資金需要はなかった。Gは,同年9月,O社をP社へと商号変更した上,Iをその代表取締役に就任させ,同社が所有する物件を担保とした抵当証券の発行を受けて販売することを繰り返したが,<省略>市山林にしても,同年12月に1590万円の抵当証券の発行を受けた<所在地省略>所在の土地にしても,A社グループが破綻する平成13年まで全く運用されずにそのままの状態で放置されており,毎年Jが草刈りに出向いていたのが実情であった。また,Q外は,店舗付きマンションの1階部分にあったスーパーマーケット(同名のコンビニエンス・ストアのフランチャイズ店ではない。)を買い取って営業を継続していたものでその売上げは伸びず,本社ビルは,A社及びR社の本社事務所等として利用していただけで,直接収益を上げるための物件ではなかった。(<証拠省略>)

(エ) カラ融資の横行と抵当証券業規制法制定の機運の高まり

昭和61年10月から昭和62年3月にかけて,債権債務がないのにあったようにみせかけて金銭消費貸借証書を作成し,抵当証券の交付を受けた(カラ融資)という公正証書原本等不実記載や,抵当証券の裏付けのないモーゲージ証書を販売した(カラ売り)という詐欺等の被疑事実で警察の摘発を受ける抵当証券業者(純金ペーパー商法で摘発されたS社事件の残党が多いとされている。)が続出するようになり,抵当証券に対する法規制を行う必要性が広く認識されるようになった。なお,抵当証券業規制法施行以前にみられた悪質な抵当証券業者の行為として,カラ売り,二重売りと並んでカラ融資があり,その典型的な手法は,ダミーの別会社を作り,融資を実行した外形を整えるというものであったことは,平成3年5月に日本経済新聞社から発行された「抵当証券の実際」と題する書籍(その著者である小幡琢也は,大蔵省理財局次長等を経て,日本抵当証券株式会社の社長や会長を歴任した人物であり,同人は,抵当証券業規制法の制定作業にも主体的に関与していた。)の中でも紹介されていた。こうした中で,抵当証券の購入者保護策等を検討してきた大蔵・法務両省の抵当証券研究会は,昭和62年6月11日に「抵当証券取引について」と題する報告書を発表し,抵当証券業を規制するための法律を早期に制定するよう提言した。(<証拠省略>)

(オ) R社の設立

Gは,昭和62年ころ,知人から,ゴルフ場を造成してゴルフ会員権を販売し,150億円前後の資金を得たが,ゴルフ会員権は,その時価が上がる限り,償還期日に預託金の返還を要求する会員はいないため,これを返還する必要が事実上なくなるという話を聞き,自らもゴルフ場の経営に参画しようと思い立った。そこで,Gは,昭和62年7月,K社の商号をA社に変更するとともに,実際にゴルフ場の経営を行う会社として,昭和62年8月にR社を設立した。Gは,同社の代表取締役に長男であるT(<年月省略>に出生し,昭和60年3月に○○大学工学部を卒業し,一時アルバイトなどをしていたが,同年5月にK社に就職した。就職時の月収は約20万円,R社の代表取締役に就任したころの月収は約30万円で,後者の原資はA社からの融資金であった。),監査役にTの妻Uを昭和63年1月から就任させた。上記代表取締役就任当時,Tは○○歳である。(<証拠省略>)

(カ) <省略>町土地の購入

Gは,昭和62年9月,かつて雇い主であったVから紹介を受け,1万8700坪の面積を有する平坦な雑種地である<省略>町土地を,個人経営の産業廃棄物業者であるWから約8億円でP社に購入させた。Gは,<省略>町土地を購入するに当たり,6ホールのミニゴルフ場にすることを念頭に置いていたが,購入後にミニゴルフ場の建設費用を建設業者に見積もらせたところ,約10億円を要するとのことであったため,その建設を断念した。Gは,<省略>町土地の購入に先立ち,当該物件につき,その地目が山林であるにもかかわらず,境内地及び墓地に転換可能な熟成度の高い墓地見込地としての不動産鑑定評価を依頼し,60億0300万円(価格時点:同年8月26日)との評価額を得て,これを基に,A社からP社に対して同年11月2日に弁済期を昭和72年(平成9年)11月2日,利率を年12パーセントとして20億円を貸し付けたとして<省略>町土地に抵当権を設定し,昭和62年12月10日に同額の抵当証券の発行を受け,さらに,昭和63年2月17日にも弁済期を昭和73年(平成10年)2月17日,利率を年12パーセントとして10億円を貸し付けたとして,同様に昭和63年3月18日に同額の抵当証券の発行を受けた。もっとも,A社グループが破綻する平成13年まで,<省略>町土地について墓地開発の許可が下りることはなく,ほとんど利用されないまま放置されていた。(したがって,何らの事業実態もなく収益を期待できない物件について30億円の抵当証券が発行され,当初約定利率で年間3億6000万円もの利息負担が生じていたことになる。)近畿財務局は,遅くとも平成7年ころまでに,<省略>町土地を含むA社の複数の担保物件が未利用の状態にあることを実地調査によって把握し,本省金融会社室にも報告していた。(<証拠省略>)

(キ) A社の抵当証券業者登録簿への登録

A社は,昭和63年11月1日の抵当証券業規制法の施行に伴い,同年12月21日,近畿財務局長によって抵当証券業者登録簿に登録された。

(ク) ゴルフ場建設への着手

Gは,<省略>町土地を担保に発行した抵当証券で集めた資金等を元手に平成元年ころからゴルフ場建設を希望していた市町村を探し,<所在地省略>をゴルフ場建設予定地と定めてその用地取得に乗り出し,平成2年までに約20億円を費やし,R社名義でその買収を終えた。また,同人は,同じころ,P社名義により<省略>区土地を約20億円で買収するとともに,「AA社」を設立して,同土地に係るゴルフ場開発の許可申請業者に擬した。しかしながら,<省略>区土地については,緑地保全地域に指定されていたために宮城県からゴルフ場の開発許可が下りず,Gは保守系の複数の○○市議会議員に働きかけを依頼したものの,結局状況は打開できなかった。(<証拠省略>)

(ケ) 信用照会電話の多発

抵当証券保管機構に対し,平成3年10月以降,A社の信用状況についての照会の電話が多発するようになった。(<証拠省略>)

(コ) ABカントリークラブのオープン

R社は,ABカントリークラブのオープンに先立ってそのゴルフ会員権を販売し,平成3年6月期までに70億円余りの預託金を集めたが,それ以降は,バブル崩壊の影響でゴルフ会員権はほとんど売れない状態となった。そのため,R社ではABカントリークラブの造成費用の調達に苦慮するようになった。しかしながら,抵当証券法施行令(平成3年政令第340号)が平成4年4月1日から施行され,その8条及び附則により,郡部の不動産を担保にして抵当証券を交付申請することも可能になったことから,A社は,R社に資金を融資した外形をとり,工事(平成6年6月までに造成費用として約100億円以上を要した。)の進捗状況に応じて,ABゴルフ場を担保に,平成4年11月16日付けで18億円,平成5年2月19日付けで24億8000万円,同年6月17日付けで9億円(利率はいずれも年10パーセント),同年11月4日付けで19億4000万円(利率は年9パーセント)の各抵当証券の発行を受け,順次これを販売した(なお,上記ゴルフ場については,平成5年10月1日付けの不動産鑑定評価書で,101億9500万円との評価(価格時点:同年9月30日)がされていた。)。その結果,R社は,平成6年6月期までに貸借対照表上において80億円以上の長期借入金を負担するに至ったが,抵当証券の販売を通じて獲得した資金を投入してABカントリークラブの造成工事を続け,平成6年4月に仮オープン,同年7月に正式オープンにこぎ着けた。(もっとも,ゴルフ会員権販売は,登録料収入を伴う上,預託金は無利息であるのに対し,抵当証券は金利負担を伴うから,ゴルフ場造成代金のために特約付き融資金を用いれば,その金利負担に耐える収益をあげない限り財務内容を悪化させることになる。その上,ゴルフ場は預託金償還の担保としての意味ももっているため,ゴルフ場を担保に抵当証券を販売すると,実質的に担保を二重に評価して本来の担保価値以上の多額の資金を集めることになり得るという構造的な問題点を有するものであった。)(<証拠省略>)

(サ) <省略>町土地に係る評価書の不備の指摘

近畿財務局は,平成4年度に実施したA社に対する立入検査(検査基準日:平成4年12月3日。以下「平成4年検査」という。)の結果,<省略>町土地に係る不動産鑑定評価書は,適正価格把握参考のための墓地見込地としての評価(墓地とすることについて行政の許可を得たことを前提とする評価)であり,抵当証券交付申請書添付のための鑑定評価としては到底約60億円には及ばないとみられるとして,平成5年初めころ,当該評価書の不備を指摘した。この指摘を受けて,A社が宅地見込地(ゴルフ練習場敷地)としての適正価格について上記物件の再鑑定を依頼した結果,平成5年12月20日,21億円との評価(価格時点:同月17日)が出された。これを受けて,抵当証券保管機構と近畿財務局,大蔵本省とが協議し,A社による<省略>町土地を担保とするモーゲージ証書の販売総額が21億円の8割に当たる16億8000万円を超える場合には,抵当証券保管機構が保管証の交付を拒否するとともに,大蔵省側にもその旨を連絡するとの手順が確認された。近畿財務局も,上記金額を超える部分のモーゲージ証書の販売中止をA社に指導した。Gは,近畿財務局の担当者に掛け合い,<省略>区土地について乗換え用の抵当証券を発行すればよい旨の言質を得て,上記土地(一部は地上権)の評価(価格時点:同年3月18日)を22億1353万円とする平成5年3月23日付け不動産鑑定評価書と,同年4月23日付けのA社からP社に対する弁済期を平成15年4月23日,利率を年10パーセントとする15億4000万円の金銭消費貸借抵当権設定契約書とを作成した上,平成5年5月27日付けで同額の抵当証券の発行を受けて販売した。なお実際には,このころ,A社からP社に上記金額が移動した事実はなかった。ちなみに,<省略>区土地は虫食い状態となっており,A社グループには更に用地買収を進める資金的余裕もなかったことから,結局そのまま放置された。(したがって,ここでも,何らの事業実態もなく収益を期待できないような物件について,高額の金利負担のある抵当証券が販売されていたことになる。)(<証拠省略>)

(シ) AC社等の買収

A社グループは,平成5年9月,ADの実兄の仲介で,R社を通じて,AE社から,<省略>市内のAFカントリークラブ(AFゴルフ場。後にAGカントリークラブと改称した。)を所有するAC社と,<省略>市郊外に<省略>町ゴルフ場用地(平成3年2月5日付けで○○知事による特定開発行為(ゴルフ場,スキー場,テニス場の建設及び宅地の造成)の許可が下りていた。)を所有するE社とを各法人ごと計約27億円で買収した(AC社は,平成6年1月にAG社へと商号を変更した。)。買収の時点で,AG社は65億円余りの預託金を会員から集めており,第5期(平成5年8月期)の決算報告書において,既に当期損失約9億円,債務超過額約25億8000万円という経営状態であった。しかるところ,A社は,AFゴルフ場について,その評価額(価格時点:平成5年9月15日)を101億4820万円とする不動産鑑定評価を得た上,同年9月27日付けでAC社に対し,弁済期を平成15年9月27日,利率を年10パーセントとして70億円を貸し付ける旨の金銭消費貸借抵当権設定契約書を作成し,これを基に,AFゴルフ場を担保として,平成5年10月18日付けで同額の抵当証券の発行を受け,さらに,再鑑定評価書を得た上で,平成6年1月10日付けで同社に対し,弁済期を平成16年1月10日,利率を年9パーセントとして10億円を貸し付ける旨の金銭消費貸借抵当権設定契約書を作成し,同様に平成6年2月1日付けで同額の抵当証券の発行を受けてそれぞれ販売した。抵当証券の販売によって得られた資金は,Gの指示により,適宜資金を必要とするグループ会社へと回されていたが,帳簿上の整合性を保つため,A社からAC社へ,同社からP社やR社へと転貸された形式を装っていた。また,A社は,E社が保有する<省略>町ゴルフ場用地につき,その評価額(価格時点:平成5年12月16日)を4億8010万円とする不動産鑑定評価(ゴルフ場予定地であることを付加価値として評価に見込んだもの。)を得た上,同年12月24日付けで,同社に対し,弁済期を平成15年12月24日,利率を年9パーセントとして3億8000万円を貸し付ける旨の金銭消費貸借抵当権設定契約書を作成して同額の抵当証券の交付申請をしたが,釧路地方法務局から,開発許可を得た事実を評価の要素とすることはできない旨告げられたため,抵当証券の申請額を1億9000万円に減額することを余儀なくされ,平成6年3月2日釧路地方法務局受付第4849号をもって錯誤を原因とする債権額1億9000万円の更正登記を経た上,同月28日,これと同額の抵当証券の発行を受けて販売した。GがAC社を買収したのは,手元資金から買収額約27億円さえ支払えば,預託金の償還時期まではまだ間があり,償還時期が来ても金額にして3分の1程度しか返還を求められないであろうと予測し,その間にAFゴルフ場を担保に抵当証券を発行して集めた資金を消費者金融事業で運用して収益を上げることを目論んだからであったが,金融事業への進出は準備不足のために結局実現しなかった。(<証拠省略>)

(ス) 手形商品の販売開始

Gは,平成6年夏ころ,Vから,いずれも国際金融ブローカーを自称する「AH」「AI」と名乗る人物の紹介を受け,同人らより,AJを窓口として譲渡性預金やファンドを購入することで,年20ないし40パーセントの利益を上げることができるという投資案件の説明を受けた。Gは,VやAHをA社の会議室に呼び寄せるとともに,T,J,I,AK会計士らを集めて意見を求めた。AK会計士は,そんなうまい話があるはずがないなどと反対したが,他の幹部らが特に異を唱えなかったため,Gはこの投資案件を実行に移すこととした。上記投資案件用の資金を数十億円単位で調達するため,Gは,Vを通じて知り合ったAL弁護士の助言を受けて,ゴルフ場の修理やホテルの建設など外注需要が発生するR社を振出人とする約束手形をA社が裏書保証し,利息分(当初は年利8パーセント。その後の販売利率は本判決別紙「金融商品等の販売時期及び販売利率表」のとおりである。)を割り引いた形式で顧客に販売するという手形商品を考案し,同年8月からその販売を開始した。手形商品は,既にA社からモーゲージ証書を購入している顧客に対して乗換え用商品として売り込まれ,中途解約されたモーゲージ証書は,更に別の顧客へと販売された(抵当証券保管機構は,同月26日には約25億円分に相当するA社発行に係るモーゲージ証書の中途解約申出を受けた)。R社は,手形商品の販売によって得た資金を3回(平成6年8月,同年9月及び同年11月)に分けて各25億円ずつ,合計75億円をAJの同社名義の口座に米ドル建てで送金した。なお,大蔵省国際金融局金融業務課は,平成8年10月3日,A社がR社の名義でアメリカ国内において7500万米ドル(1米ドル115円換算で86億2500万円)の預金をする旨申請している事実を把握したとして,これを本省金融会社室に連絡した。(<証拠省略>)

(セ) 特約付き融資の急増

A社は,平成5年4月から平成6年6月までの間に,上記記載のものに加え,以下の物件についてそれぞれ抵当証券の発行を受けて販売した(…)。

証券作成日(平成) 債務者名 債権金額(円) 年利(%) 担保物件概要

5年4月15日 P社 9億8000万 10 AM駐車場

5年7月7日 同上 18億4000万 10 ANビル

5年8月27日 同上 9億6000万 10 AO駐車場

6年1月13日 AP社 12億4000万 9 AQ共同住宅

6年4月28日 同上 6億4000万 8 AR共同住宅

同 同上 5億2000万 8 AS共同住宅

6年5月11日 同上 8億2000万 8 AT共同住宅

6年5月30日 P社 1億8000万 8 AUビル敷地

6年6月1日 R社 2億9000万 8 AV

以上のうち,AO駐車場はA社グループの駐車場として使用されていたもの,AVは同グループで福利厚生施設として使用されていたものであって,いずれも収益を期待することができる物件ではなかった。(<証拠省略>)

(ソ) 平成6年検査の端緒

近畿財務局は,抵当証券業界全体が伸び悩む中で,A社が,上記のように高金利による抵当証券の販売残高を急増させている上(抵当証券保管機構が記録していた同社に対する抵当証券保管証の発行残高は,平成5年3月には89億3500万円であったのに対し,平成6年3月には248億7900万円に達していた。),平成6年8月11日,抵当証券業協会から,A社が詐欺まがいの商品を販売して大口のモーゲージ証書購入者に乗換えを勧めている旨の情報を入手したことから,同年10ないし12月に実施を予定していた検査日程を前倒しして,同年9月9日から同社の立入検査に着手した。(<証拠省略>)

イ 平成6年検査

(ア) 平成6年検査の着眼点

近畿財務局は,平成6年検査の着眼点を,① モーゲージ証書の中途解約手続等の検証を通じた手形商品の実態把握,② A社の資金繰り状況の把握,③ 融資先であるグループ会社を含めた財務状況の把握,④ 前回検査(検査基準日:平成4年12月3日)における指摘事項の改善状況の把握,に置いた(他方,それ以前の検査は,行為規制や融資審査体制に関するものが中心であり,融資先の経営状況までは特段関心が払われていなかった。)。(<証拠省略>)

(イ) 平成6年検査の着手

AW検査官外4名は,平成6年9月9日,A社に対する立入検査を開始した(AW検査官を含む3名が本店に,2名が東京支店に赴いた。)。AW検査官らは,同日冒頭より現物検査を実施し,通常の手順に従い,検査基準日(立入検査開始日の前日であるため,平成6年検査においては同月8日。以下同じ。)におけるA社の資産と負債の帳簿上の金額を確認するとともに,A社の本店及び東京支店における現物(小口現金,小切手等)の帳簿残高と実際の残高とを照合して確認しようとした。しかしながら,A社側は,同社では税理士が定期的に伝票から帳簿を整理しており,現金の入出金については日次では管理しておらず,正確な残高を証明することができる資料もない旨の説明があり,実際に,伝票が積み重なっている状況が現認された。そのため,AW検査官らは,手元の小口現金残高についての確認は行ったものの,帳簿残高との照合までは行うことができなかった。もっとも,AW検査官らは,現物検査において,金庫から手形商品のスキーム図を発見して入手したほか,登録標識が店内に掲示されていること(抵当証券業規制法12条1項によれば,抵当証券業者は,これを「公衆の見やすい場所」に掲示しなければならない。),パンフレットに同封されている「抵当証券の御案内」と題する書面に,「法務局による厳正な鑑定評価に基づいた確実な担保」との不適切な表現があること(同法14条,法施行規則10条6号によれば,抵当証券業者は,その行う抵当証券業に係る広告に際し,抵当証券に記載された抵当権の目的等に関する事項について著しく人を誤認させるような表示をしてはならない。),などを把握した。AW検査官らが立入検査でA社の本店に入ったのは9月9日(現物検査),13日及び14日(一般検査)の3日間であり,その後は確保した資料の分析,同社役員からのヒアリング,関係資料の追加徴求等により検証を進めた。(<証拠省略>)

(ウ) Gによる抗議

Gは,手形商品についてAL弁護士から話を聞こうとしたAW検査官に対して,「何の権限があって弁護士に話を聞くんだ。」と電話で抗議したほか,東京支店で行った現物検査についても,女性社員の机を開けたなどとして抗議を行った。(<証拠省略>)

(エ) 手形商品についての検査

AW検査官らは,平成6年検査の着眼点の1つである手形商品について,Gからヒアリングを行うとともに,その契約関係書類のひな形を入手した。Gは,手形商品について説明した上,手形商品は,弁護士等専門家の意見を踏まえて検討した結果,出資法には抵触しないと判断している旨主張した。近畿財務局では,A社が手形商品の購入者に元本が保証されているかのように思わせていたことから,出資法2条(預り金の禁止)に違反する疑いがあるとの認識を深め,当時の金融第3課BA課長(以下「BA課長」という。)が手形商品に関するヒアリング結果をファックス送信して本省金融会社室に意見照会したところ,同室でも,手形商品が出資法2条に違反するとの見解であった。もっとも,出資法に関する大蔵省の権限に関しては,大蔵省設置法4条に「預り金となるべき金銭の受入れについての情報の収集に関すること」と規定されているのみであり,現に行われている出資法違反の疑いのある個別,具体的事実の解明あるいは取締りは捜査当局の所掌と解されていたことなどから,AW検査官は,平成6年10月11日,A社に対し,手形商品は出資法に違反する疑いがある旨の注意喚起を行った。AW検査官は,同月21日にもG,AL弁護士等に対するヒアリングを行って同様の注意喚起をしたところ,AL弁護士は,手形商品の合法性を主張し,疑いというだけで規制するのは妥当ではないなどと反論した(同日のヒアリング内容について近畿財務局が作成した連絡記録票は,後に<省略>新聞の記者が入手するところとなった。)。結局,A社が手形商品の販売を直ちに中止することはなく,抵当証券保管機構は,同年12月7日,A社の営業員から勧められて抵当証券から手形商品に全額乗り換えたものの心配になったという顧客からの相談の電話を受けたほか,平成7年2月13日には,同社のモーゲージ証書に関し約9億円の中途解約の申出を受け,「不自然な大口の中途解約金額は合計で100億円を突破した。」と業者状況表に記録していた。同年3月末におけるA社の貸借対照表上の受取手形割引高(簿外保証債務)は,約125億円に達していた。

本省金融会社室は,同年4月7日,法務省刑事局に対し,近畿財務局は,同月13日,大阪地検に対し,それぞれ手形商品についての情報提供を行い,出資法違反か否かの検討を依頼した(大阪地検は,アメリカ司法当局に対し,A社が手形商品の担保としている預金債権の有無について照会を行い,その結果を踏まえ,平成8年4月18日,大蔵省側に対し,「AJに平成7年6月末現在で約80億円の残高があったことが確認された。被害届の出ていない段階で詐欺を被疑事実として直ちに捜査に入ることは考えていない。」旨の回答を行った。)。

なお,AW検査官らは,手形商品に関連して,モーゲージ証書の解約手続を検証したが,乗換えに際して解約手数料を徴求するなどの購入者に不利益を与える行為をA社が行っていた事実は確認することができなかった。

(<証拠省略>)

(オ) 資金繰りについての検査

AW検査官らは,平成6年検査の着眼点の1つであるA社の資金繰りを検証するため,手元の小口現金・伝票・預金通帳と総勘定元帳の記載とを照合する作業を行ったものの,前記のとおり,現金の入出金を帳簿残高と照合・確認することはできなかった。そして,当時,A社においては,前記のようなグループ6社からの抵当証券受取利息に加え,後述するG個人からの借入れ,グループ会社に対する特約付き融資の多くは預金勘定ではなく現金勘定で処理されていたところ(その詳細は後記3(4)カで引用する原判決イ(ア)記載のとおり。),現金による資金授受については伝票以外に客観的な資料がなかったため,これを実際に確認することができず,A社の帳簿上は,グループ会社からの利払にも延滞は認められなかった(A社の総勘定元帳のうち平成6年4月から同年8月までの間において,抵当証券受取利息の相手科目の大半が未収入金となっているが,これは,P社以外のグループ会社からの抵当証券受取利息が半期ごとの一括受領とされていたことに起因するものであり,本来的には未収入金勘定で毎月処理する必要がないものと推認することができた。)。しかし,実際には,A社は,グループ会社から融資に対する利払を受け,これと顧客らに対する支払利息との差額を収益としているとの外形を帳簿上整えていただけで,グループ会社は,いずれもさして収益の上がる事業をしていなかったため,A社に対して特約付き融資に係る利息に相当する金員が現実に支払われることはほとんどなかった。A社から抵当証券購入者に対する利息やグループ会社に発生する経費は,Gの指示により,A社やグループ会社名義の預貯金口座等に一時的にプールしている資金からその都度支払われており,これによって生じた資金不足は別の金融商品を販売して得られた資金等によって穴埋めされていた。もっとも,抵当証券の発行を受けるためには,A社がグループ会社に融資をした形式をとる必要があった上,A社が抵当証券業者として登録を受け続けられるようにするには,同社だけは常に黒字の形にしておく必要があったことから,同社は,グループ会社から融資に対する利払を受け,これと顧客らに対する支払利息との差額を収益としているとの外形を整えていた。このため,A社が抵当証券購入者に対して行う過大な利払は,帳簿上はそのままグループ会社の負担に付け替えられ,グループ会社の財務内容を圧迫していた。もっとも,AK会計士は,グループ会社の収益を水増しする等の経理操作は特段行っていなかったため,A社グループ全体としてみた場合の収支や資産状態は,ほぼ現実に合致していた。

また,A社は,Gからの借入れによって資金調達を行っている旨説明し,総勘定元帳においてもその旨の記載がされていたが,AW検査官らがその原資についてGに問いただしても,同人は,不動産業で培ってきた人脈を活かして,何人ものスポンサーから資金を調達している旨述べるだけで,Gは,それに対する詳細な説明を一切拒否した。近畿財務局は,資金調達先に関するGの主張に対しては強い疑義を抱いていた。Gのスポンサーに係る主張は虚偽であった。ADは,平成7年ころから,グループ会社からの利払が滞っているにもかかわらず更にA社からこれらの会社に資金援助を行っている実態を隠すため,AK会計士から助言を受け,A社とグループ会社の間で資金を移動させる際に仲立ちとしてG勘定を入れるようにし,A社の銀行別入出金台帳にも,資金の移動先としてグループ会社名に代えてGと記載し,グループ会社から資金をA社に移動する際にも,同様にG勘定を通して行うようになっていた。

もっとも,当時,A社のグループ会社に対する特約付き融資が合計292億2000万円に上っていた一方で,融資先であるグループ会社の累積損失が後述のとおり合計約73億円に達していたことから,近畿財務局は,このままグループ会社の経営状況に改善がみられなければ,特約付き融資の元本償還期日を迎える平成8年7月以降,特に大口の元本償還が始まる平成9年以降は,A社の資金繰りは非常に厳しくなるものと予想した。

(<証拠省略>)

(カ) A社グループ全体の財務状況についての検査

AW検査官らは,平成6年検査の着眼点の1つであるA社グループ全体の財務状況を把握するため,融資審査用の書類をA社から入手しようとしたが,同社には,他の抵当証券業者と異なり,特約付き融資先の経営状況に係る資料が何ら収集・保管されておらず,Gは,これがうちのやり方である,などと説明していた。そこで,AW検査官らは,立入検査時に,A社に対し,同社は,表面上グループ会社からの抵当証券受取利息で収益を上げ黒字を保っているが,A社の融資先はグループ会社に限られ,そのグループ会社はどこも赤字決算となっており,A社の財務状況の実態が分からないとして,融資先であるグループ会社の決算書等を任意に提出させるよう求めた。Gは,当初は融資先に関する一切の資料提出を拒否したため,近畿財務局は,AK会計士に要請して平成6年9月時点でのA社グループ全体の累積損失を算出させる一方(AK会計士は,これを受けて改めて同グループの財務状況を調査した結果,同グループが全体で70億円を超える債務超過の状態であり,年間約30億円の当期損失を発生させている事実を把握し,GやJにもその旨説明した。),Gからグループ会社の業況等の概略についてヒアリングすることができたのみであったが,AW検査官が更に説得した結果,融資先であるグループ会社の直近の貸借対照表・損益計算書等の提出を受けることができた。近畿財務局がこれらの資料を分析した結果,P社,R社,AG社,E社及びAP社の累積損失の合計が約73億円に達しており,上記グループ各社のこれに対応する期の売上高の合計が約5億円強にすぎない一方,同期の営業収支の合計が約9億円超の赤字,営業外収支(そのほとんどはグループ会社間の貸付から得られる受取利息と,これに対応する支払利息及び抵当証券支払利息の差額)の合計が約5億円超の赤字であることが明らかとなった。そこで,AW検査官は,平成7年2月3日,A社の今後5年間の収支計画・資金繰り表,グループ会社の収支計画,グループ会社への金利減免措置の確認資料の提出を求めたが,後に述べる金利減免措置関連の資料を除けば,平成6年検査の期間中に十分な資料の提出を受けることができなかった。また,A社における融資審査体制について,AW検査官がその不備を指摘したところ,Gは,「融資決定については役員会に諮って決定している。そもそも貸付先の業況は自分が一番良く知っており,何も問題はない。書類審査をするかどうかは単なる形式の話であって,書類を残せばよいというものではない。」などと反論した。(<証拠省略>)

(キ) A社に対する更新登録

平成6年検査が継続中の平成6年12月21日,近畿財務局は,A社について,① 平成6年3月期の決算において,特約付き融資額267億6960万円の約0.2988パーセントに当たる8000万円の貸倒引当金を計上しており,同期の純資産額である約5億2000万円が資本金額4億5000万円を上回っていること,② 当時取締役であったBB(昭和60年ころK社に入社した。)が9年余りの抵当証券販売実績を有し,融資業務経験者としてもG及びADがいること,等を確認することができたため,同社には更新登録拒否事由はないとして,その更新登録を行った。(<証拠省略>)

(ク) 本件合意書に関するやり取り

AK会計士は,A社グループの決算書類を近畿財務局に提出する際,グループ会社の赤字を帳簿上減らすために,特約付き融資の利率を2年程度さかのぼって一律年6.5パーセントへ引き下げ,近畿財務局に対しては,グループ会社による弁済が困難なために過去にさかのぼって利率変更契約を締結した旨説明するようGに助言し,これに基づく計算に従って決算書を作成した。AW検査官らは,A社の平成6年3月期の損益計算書に抵当証券受取利息として17億5414万9579円が計上されていたのに対し,特約付き融資の額や約定利率から概算すればこれが約20億円になっているべきことから,損益計算書に計上漏れがあると考え,A社に説明を求めたところ,同社からは,グループ会社との合意により利率を引き下げたため,損益計算書における抵当証券受取利息の計上額が当初の約定利率による計算よりも少なくなっている旨の説明があった。そこで,近畿財務局が,平成7年2月3日にグループ会社に対する金利減免措置の確認資料の提出を求めたところ,A社は,複数の特約付き融資について,利率変更合意書(本件合意書)を提出した。しかしながら,うちR社に対する19億4000万円の融資(変更前の利率年9.0パーセント)については,利率変更日(平成5年10月1日)が融資の日(同月14日)よりも前に,AP社に対する12億4000万円の融資(変更前の利率年9.0パーセント)については,利率変更日(平成5年12月21日)が融資の日と同日に,AC社に対する70億円の融資(変更前の利率年10.0パーセント)については,利率変更日(平成5年10月1日)が融資の日(同年9月27日)の4日後となっていた。そこで,AW検査官が,平成7年4月14日,Jに対してヒアリングを行い,上記各合意書について,通常では考えられないので説明ありたいとただしたところ,Jは,…融資先の弁済が困難であるために,過去にさかのぼって利率変更契約を締結したものである旨回答したものの,実際にはこれはGやAK会計士の指示に従ったものであり,利率変更日と融資日との日付が前後することは事前に知らされていなかったため,詳細は再度確認する旨述べた。(<証拠省略>)

(ケ) BC社の買収

Gは,平成6年検査がなお途上であった平成7年1月24日,BD社から,BC社を,法人ごと27億5000万円(ただし,ゴルフ会員権預託金約63億円も承継するとの約定)でR社に購入させた。Gは,BCゴルフ場について約140億円の鑑定評価が出ると見込んでいたため,110億円程度の抵当証券を販売することができ,しかも,預託金のうち実際に償還を求められるのは3分の1程度であると計算したことから,BC社の購入を決断した。そして,A社は,BCゴルフ場について,その評価額(価格時点:同年1月18日)を140億円とする同年2月1日付け不動産鑑定評価書を得た上,同月7日,BCゴルフ場を担保に,弁済期を平成22年2月7日,利率を年8パーセントとする約定で110億円をBC社に貸し付けた旨の金銭消費貸借抵当権設定契約書を作成し,これを基に平成7年3月6日,山口地方法務局美祢出張所から抵当証券の発行を受けて,その販売を開始した。もっとも,BC社には資金需要はなく,決算書上も,平成8年3月末までに同社に対して貸し付けられた資金の大部分(約78億円)はそのままR社に転貸されていた。(<証拠省略>)

(コ) 平成6年検査の終了

平成6年検査の終了は,A社の非協力的な対応や,阪神・淡路大震災の影響により,平成7年3月1日までずれこんだ。その後も,AW検査官は,引き続きA社からのヒアリングを行うなどして,事実関係の確認に努めた。(<証拠省略>)

(サ) 平成6年検査結果通知の発出

近畿財務局長は,平成7年5月26日,A社に対して平成6年検査結果通知を発出し,概要下記のような指摘をするとともに,グループ会社の経営見通しを正確に把握し,少なくとも今後5か年度分のA社の収支見込等を踏まえた経営健全化計画及び財源計画の策定,融資審査体制の整備等を求め,その文書による回答期限を同年6月26日と定めた。

① 特約付き融資は,すべてA社グループの5社に対して行われているが,その経営状況はいずれも多額の累積欠損金を抱えるなど極めて悪化している状況にある。このようなグループ各社の経営状況にもかかわらず,その状況を追認した上で更なる特約付き融資を繰り返し,当該融資に係る抵当証券を積極的に販売している結果,A社の資産内容は著しく不健全となるなど,その経営状況は誠に憂慮すべきである。現状では,A社の経営そのものが立ちゆかなくなる危険性が極めて高く,抵当証券購入者の保護の観点から問題がある。

② A社は,その融資について,申込者の返済能力や事業計画を判断するための資料や担保価値を調査するための資料等,審査に必要な資料の収集・検討を行っておらず,審査をほとんど行わないまま融資を実行しており,これまでの当局からの指摘にもかかわらず,あらかじめ定めた審査手続等に基づき審査を行った後に融資を実行するという融資の審査方法や審査体制に関するルールが依然として確立されていない。

③ A社においては,抵当証券購入代金受入口座が専用口座になっていないために,抵当証券購入者から受け入れた購入代金が他の資金と混同して取り扱われており,募金途上において抵当証券購入者から受け入れた購入代金が払込期日前にもかかわらず事務管理費等の諸経費の支払のために払い出されているなど,抵当証券購入者の保護の上で不適切な資金管理が行われている。

また,BA課長は,同日,A社(G,J)に対して上記検査結果を示達する際,手形商品について,出資法に違反する疑いがあるとの認識を重ねて表明した。また,BA課長は,抵当証券の販売残高が担保物件の処分相当額の範囲に収まらない懸念があるとして,A社に対し,担保物件の処分相当額を試算した上で,処分相当額を販売残高の上限とする前提で経営健全化計画を策定するよう,平成6年検査結果通知に対する回答書を作成するに当たっての留意事項として伝達した。

これに対し,A社は,平成6年検査結果通知の指摘①につき,グループ会社の表面上の累積赤字のみを取り上げ,裏に隠れている経営事情(税金対策など)を反映していないなどとして不満を表明した上,併せて伝達された留意事項に対しても,今これを行おうとすれば,不動産を処分するか買戻しのための資金調達を他に求めるほかなくなり,土地の有効活用による事業収益をもって財源を確保しようとする当社の経営方針にそぐわない,販売額を抑制するとなると,融資先に貸付金の返済を求めることになるが,融資先の経営状態からして無理であるなどとして難色を示した(なお,R社の譲渡性預金について,3つの銀行に分散して計約120億円が預託されているが,年利30から40パーセントを予定していた運用益については,現状では5.8パーセントの複利で約8パーセントの年利しか見込めない旨の説明があった。)。また,A社は,同通知の指摘②についても,審査の重要性については十分認識している,当社は,不動産について,単に処分を目的とするのではなく,将来事業活用を図っていく上で価値あるものかどうか等を基準に検討し,融資対象としての是非を判断しているのであり,単純に融資基準がないからルールに欠けているとの指摘は心外である,平成7年8月からの手形商品の償還期や平成8年8月からの特約付き融資の返済についても,回収したモーゲージ証書の再販売でつないだ上,今秋からの景気回復を見越して平成8年3月からゴルフ会員権を売り出す予定であるとし,ABカントリークラブは300万円から400万円で売り出せば2000から2500名程度,BC社は500万円で売り出せば3000名程度,AGカントリークラブは300万円で売り出せば2000名程度はすぐに売却できるとの認識を示した。BA課長は,グループ会社の経営実態は,多額の累積欠損金を抱えていることから債権保全等が十分ではなく,抵当証券購入者の保護の点で問題があるとの認識を示した上で,(事前に調査していた周辺ゴルフ場の会員権相場を基に)Gの認識は甘すぎる,近畿財務局で内々に調査したところ,ABカントリークラブの会員権相場は130万円程度,AGカントリークラブとBC社のそれは100万円程度である,実態を御社で再調査し検討されたい旨述べ,既に提出されていたグループ会社の収支5か年計画を再度見直すよう指示した。(<証拠省略>)

ウ 平成6年検査後から平成8年5月まで

(ア) 平成7年5月29日のヒアリング

Gらは,平成7年5月29日,近畿財務局を訪れ,① 抵当証券販売残高の抑制を指示されているが,不動産価格の下落が続いている今こそグループ会社に不動産を買わせてその有効活用を図っていきたい,ついては,税理士や公認会計士の意見も聞いて今後の収支見通し等を立てたいので,平成6年検査結果通知への回答を検討する期間として2か月ほど頂きたい,② 手形商品に出資法違反の疑いがある旨の指摘があるが,我々も事前に研究し,法律家の意見も聞いた上で販売しているところであり,約10億円の経費を費やしていることから,中止するのであれば弁護士に費用を返還してもらわねばならない,などと述べた。近畿財務局は,①について,経営健全化計画については,購入者保護の見地から早急に策定して頂く必要があるが,内容を精査したいというのであれば回答期限は弾力的に考えたい,②について,出資法は法務省との共管であるが,大蔵省としては手形商品は同法違反の疑いがあると考えていることは,過去に伝達したとおりである,などと応じた。なお,A社は,同年6月26日の回答期限を徒過し,近畿財務局からはJに対して何度も催促の電話があったが,Gは軽い問題としか考えていなかった。

(<証拠省略>)

(イ) 本件物件明細表等の提出

G,J及びAK会計士は,平成7年7月7日,平成6年検査結果通知に対する回答書及び本件物件明細表を提出した。しかしながら,同日提出された回答書は,平成6年検査結果通知における指摘①について,「関連会社の経営状況が悪化しつつあるのであれば,その立て直しに救済の手を差し出すのが,当社としての責務であると考える。」などとし,政府や日本銀行の政策によって近い将来に景気が回復し,不動産市況も改善することに期待するとの内容にとどまっており,同じく②について,「当社は常に公示価格,路線価格,周辺の実勢価格を充分審査の上,事前に鑑定士の鑑定を基にして幹部会議を開き,融資の審査を行っている。しかし,文書において,それまでの審査経過をのこしていないが,鑑定士の鑑定評価証明書にそれら総て,網羅されていると判断している。」などとするのみで,いずれも何ら具体性がなかった。もとより,A社グループにおける資金運用はGが独断で行うものであり,融資に当たって幹部会議が開かれることはなかった。本件物件明細表にしても,例えばABカントリークラブについては

「持続する。

経済情勢を的確に判断し会員権を販売する。

会員権販売予定総額は

○ 奇数会員権 1,000名×500万=50億円

○ 偶数会員権 1,000名×500万=50億円

○ 婦人会員権 1,000名×350万=35億円

合計 135億円

以上の会員権価格は今後新設されるホテル・スポーツ施設の建設を行い,ゴルフ場としてのグレードアップを計り,経済情勢の好転を考えれば十分に達成されるものである。」

などとするのみで,融資先グループ会社の財務状況の詳細については全く触れられていなかった。同日,Gが口頭で説明した内容も,不動産市況の回復によってグループ会社の状況は良くなる,地価下落によって収入の減少が見込まれるが,不動産事業は先行き見通しの上でやっていく業界である,特にP社が地を這うような状況で貸付金利の引き下げを余儀なくされているため,A社の利ざやも1パーセント程度しかなく厳しい状況である,ゴルフ会員権については今でも売って売れないことはないが,タイミングを計って来年の今ころから販売すれば120億円以上は見込まれる,ゴルフ場の価値は年数が経てば上がってくるのが一般であるが,鑑定価格の見直しは売買実例もほとんどなく困難である,などというものにとどまった。このとき着任したばかりであったBE課長は,A社に抵当証券購入者保護のための措置を講じさせるには,前提としてグループ会社を含めた経営状況やA社の資金繰りなどの詳細について十分な資料を揃えることが必要であり,これらをいかにして把握するかが課題である,との認識の下に,現状のままグループ会社の財務状況が改善されなかったらどうなるのか,不動産鑑定士が判断しているのだから大丈夫というのはいかがなものか,などと指摘した上,本日提出のあった回答書は総論部分のみで各論については述べられていないので,抵当証券及び手形商品の販売抑制という近畿財務局の方針に沿って経営改善計画及び財源計画を策定し,早急に提出されたい旨指示した。(<証拠省略>)

(ウ) 近畿財務局における業務改善命令発出へ向けた検討

BE課長らは,独立系の抵当証券業者であるA社には金融機関からの資金繰りの支援を期待することができないことから,融資先であるグループ会社の経営見通しを正確に把握した上でA社の経営健全化計画を作成,提出することを内容とする業務改善命令を発出することにより,何とかグループ会社を含めた経営状況やA社の資金繰りなどの詳細を把握するとともに,抵当証券購入者保護のための措置を講じさせることができないか,上司であるBF理財部次長(以下「BF次長」という。)や本省金融会社室とも相談の上,検討を進めていた。その際には,抵当証券業規制法23条が,業務改善命令の処分要件について「抵当証券の購入者の利益を害する事実があると認めるとき」と定める一方,A社の本体は黒字で,購入者に対する利払も滞りなく行われていることから,抵当証券購入者が(将来的に)被害を被る蓋然性がどこまであれば業務改善命令を発出することができるのかが,特に検討の課題とされた。そこで,大蔵省は,内閣法制局に対し,抵当証券会社の融資先関連企業が資金繰りに窮しかねないほど経営状況が悪化しており,かつ,好転する要素が現状では見いだせない状況にあるため,結果的に当該抵当証券会社の経営が行き詰まる可能性が極めて高い場合には,その経営が危機的状況にあり,購入者に被害が生じる蓋然性が高いことをもって,抵当証券業規制法23条にいう「購入者の利益を害する事実」に該当する,との見解について意見照会を行ったところ,その適法性について了解が得られた。また,A社が業務改善命令に従わず,業務停止命令が発出された場合,いわゆる取付け騒ぎが起き,これが引き金となって同社が破綻し,結果的に抵当証券購入者に被害が及ぶことも懸念されたが,BE課長は,A社グループ全体の経営状況等を確認することができない現状を放置しておくべきではないとの考えから,A社が非協力的な姿勢をとり続ける以上,業務改善命令を発出し,強制的に資料を提出させることは避けられないと認識していた。(<証拠省略>)

(エ) 平成7年7月20日のヒアリング

Jは,平成7年7月20日,A社に係る平成7年から同12年までの年別収支予想表と,平成7年2月から同年6月までの販売額及び抵当証券買戻し額の実績等,同年7月までの月別の収支予想に関する資料とを近畿財務局に提出した。しかしながら,平成6年検査結果通知において近畿財務局が求めたグループ会社を含めた収支の内訳の詳細等は依然示されていなかったことから,BE課長は,同年7月28日を目処に経営健全化計画及び財源計画等を1日でも早く提出してもらいたいと述べるとともに,仮にこれらが提出されない場合には,抵当証券業規正法にのっとって対応せざるを得なくなる旨告げた。Jは,AK会計士を中心に現在作業を進めており,何とか28日までには提出したい旨述べた。なお,この時行ったヒアリングにおいて,Jは,グループ会社の中で現在事業着手中なのはP社がAUビル敷地に直営の「BG」店を建設している程度であり,直近の抵当証券販売額も多くはない旨述べ,BE課長は,期中の買戻抵当証券残高等からみると,A社は新規の抵当証券販売や手形商品への乗換えは考えておらず,今のところ資金繰りはついているようである,との認識を持った。(<証拠省略>)

(オ) A社に対する行政処分方針案の作成

A社からは,その後,平成7年7月28日までには経営健全化計画等の提出が間に合わないため更に提出期限を延ばして欲しい旨の連絡があったが,BE課長は,その時点で平成6年検査結果通知から2か月が経過し,それまでも近畿財務局が求めるような具体的な回答がされなかったことから,このころには,検査結果に対する回答書という手段を通じては,具体的な経営健全化計画及び財源計画による融資先グループ会社の経営状況の把握や経営改善指導は現実的ではないと認識するに至っていた。そこで,BE課長は,BF次長や本省金融会社室とも協議し,その了承を得た上,同年7月31日までに,近畿財務局からA社に対し,行政手続法30条に基づき業務改善命令に係る弁明の機会の付与を通知する方針を決め,BH調査官(以下「BH調査官」という。)に命じてその旨の決裁文書を作成させ(もっとも,BH調査官は同月16日に着任したばかりであったため,決裁文書のうち,(A社行政処分方針案)の「1.会社概要」「2.経緯等」「3.検査により把握した問題点等」及び「4.当局のこれまでの対応」についてはAW検査官が,「5.今後の対応」についてはBE課長とBF次長とが本省金融会社室と協議の上で作成した。),同年8月1日,近畿財務局長から委任を受けたBI理財部長(以下「BI部長」という。)の決裁を得た。

上記行政処分方針案の概要は,以下のとおりである。

① 経緯等

A社の融資先は同族会社であるP社外の計5社であるが,役員の状況等から融資先と抵当証券会社の経営,財務は一体となっており,融資先の資金はすべてA社により賄われている。また,同業他社が事業を縮小・撤退している状況の下,同社は高金利により顧客を勧誘し,積極的な抵当証券の販売を行っており,同社の抵当証券販売残高は平成5年以降においても2.7倍に急増していた。ところが,平成6年8月下旬,同社が多数の大口顧客の抵当証券モーゲージを中途解約させ,詐欺まがい商品に乗り換えさせている旨の情報が入ったことから,同年9月,投資家保護のため急きょ同社に対する立入検査を実施した。立入検査では,同社自身の財務状況のほか,手形商品を乗換え用に売買していることを契機として,グループ会社の財務状況等に関しても資料提出を命じ,ヒアリングや資料徴求等を行った。

② 検査により把握した問題点等

A社は,抵当証券販売により調達した資金のほぼ全額をグループ会社5社の運営資金として融資しているが,各社とも経営内容は悪く,赤字決算を余儀なくされており,累積欠損金はグループ全体で約72億円に達している。また,グループ会社は銀行取引等を有しないため,その資金繰りはA社を通じて抵当証券販売代金等を充当する以外にないが,同社の抵当証券発行額が限度一杯に達したことから,平成6年8月以降,同社は手形売買の形式をとりつつ米国銀行に対する預金債権で元本保証を行っているように見せかけた手形商品の発売を開始し,抵当証券の購入者を同商品に乗り換えさせた(平成7年3月末現在 124億円)。

③ 当局のこれまでの対応

A社本体の財務状況は表面上悪くないが,グループ会社の財務状況が深刻である上,A社は独立系の抵当証券会社で金融機関からの支援を期待することができないため,グループ会社が倒産等の事態となれば,A社の倒産等の事態をも招きかねないため,検査結果の示達に当たってグループ会社を含めた経営改善計画の策定等を厳しく指導したが,同社からは具体的な改善計画についての回答はされず,平成7年7月24日,同社の公認会計士から,具体的な計画の作成は難しい旨の内々の連絡があった。

④ 今後の対応

A社の経営状況は,グループ会社の経営悪化から時間の経過とともに累積欠損金が拡大しているにもかかわらず,検査結果通知書を通じた改善指導によっては同社の経営改善を期待することができない。また,大阪地検の違法性についての検討は遅れており,強制捜査に近々着手することは見込めない状況にあり,強制捜査まで同社を放置することはできない。したがって,以下のとおり,同社に対して行政処分を進めることとする。

8月1日 業務改善命令についての弁明の機会の付与の通知

8月17日 弁明書の提出期限

8月21日 業務改善命令発出

9月4日 業務改善命令に対する回答期限

[それでもなお,経営改善化計画の提出等が行われない場合]

9月6日 業務停止命令(6か月)についての弁明の機会の付与の通知

9月22日 弁明書の提出期限

9月26日 業務停止命令,官報掲載

また,これと同時に決裁された同年8月1日付け弁明の機会の付与に係る通知書(近財金3秘第95号)の概要は,以下のとおりである。

1.予定する処分の内容及び根拠法令

抵当証券業規制法23条に基づき,別紙1及び2のとおり,業務の運営の改善に必要な措置をとるべきことを命ずること。

2.処分の原因となる事実

平成6年検査の結果によれば,貴社の貸付先は,いずれも経営状況が極めて悪く,結果的に貴社の経営が行き詰まる危険性が極めて高い。このような貴社の経営状況により,貴社の抵当証券の購入者は被害を被る蓋然性が高く,抵当証券購入者の利益を害する事実があると認められる。

3.弁明書の提出先及び提出期限

提出先:金融第3課

提出期限:平成7年8月17日(木)

別紙1

① 別紙2の指示に基づき,グループ6社の今後の経営見通しを正確に把握し,貴社の経営健全化計画(少なくとも5か年度分)を作成,提出した上で,その内容を確実に実施すること

② 別紙2の指示に基づき,毎月の収入及び支出を算出し,今後の毎月の買戻しに対する財源計画(少なくとも5か年度分)を作成,提出した上で,その内容を確実に実施すること

③ 融資決定前に行うべき審査の方法や手続等に関するルールを確立し,当該ルールに基づく審査を経て融資決定を行うという融資審査体制を確立するため,その具体的内容及び実施時期について書面で提出すること

④ 顧客に対し,国が保証を行っている等の誤解を与えるような勧誘行為等を行わないこと(中略)

⑥ ①から⑤の各事項に関する実施状況については,別紙2の指示に基づき報告すること

別紙2

A.グループ6社の今後の経営見通しの把握に当たっては,以下の点に従い,グループ6社各社の今年度を含めた今後少なくとも5か年度分の収支見込みを作成し,提出すること

ア.新たに施設整備を行うことにより収入を得ることを予定しているグループ会社については,当該施設に係る整備予定地の位置,現況,都市計画法上の区域の区分等及び開発許可状況について分かる資料を提出するとともに,地方自治体等の許可が必要な施設整備については,現時点で許可がされている場合に限り当該施設に係る収入を見込むこと

イ.不動産の売却や賃貸による収入を見込む場合には,過年度の実績や近隣の複数の類似物件の価格,賃料や需要の実態等客観的な資料に基づき算出すること

ウ.飲食物や製品等の売上収入を見込む場合には,過年度の実績等客観的な資料に基づき算出すること

エ.ゴルフ場の利用収入を見込む場合には,過年度の実績や近隣又は競合関係にある複数の類似のゴルフ場の料金や利用者数の実態等客観的な資料に基づき算出すること

オ.ゴルフ場の会員権収入の見込みについては,近隣や競合関係にある複数の類似ゴルフ場の価格や販売件数の実態や最近のゴルフ会員権の相場の状況等客観的な資料に基づき算出すること

カ.その他の収入や経費の見込みについても,過年度の実績等の客観的な資料に基づき算出すること。

なお,イないしカの積算方法及び積算過程において用いた基礎数値の根拠を示す資料を添付すること

B.別紙1の①及び②に係る計画は,過去3か年度分の貴社の収支状況等客観的資料に基づくとともに,上記A.に基づき作成されたグループ会社の収支見込みと整合性を図り,今年度分を含め少なくとも今後5か年度分のものを作成し,提出すること

別紙1の②の財源計画については,少なくとも今後5か年度分のものを各月ごとに作成することとし,貴社の収入及び支出の各月ごとの内訳を明記したものとすること

C.毎月15日までに,別紙1の命令事項に関し前月に実施した具体的内容及び別紙1の①及び②に係る計画等の前月の進捗状況について書面で報告すること

(<証拠省略>)

(カ) 平成7年収支計画の提出

他方,A社側では,AK会計士が中心となって,平成7年収支計画の策定作業を行っていた。平成7年収支計画は,A社及びグループ6社の平成7年度から平成11年度までの資金収支に係る予測を,グループ6社の事業計画等を踏まえて資料化したものであった。それによると,① ゴルフ場経営3社(R社,AG社,BC社)については,売上高が前年比5パーセントから20パーセントの割合で定期的に増加すること,ゴルフ会員権の販売により,平成8年度から平成10年度までの3年間で既に発行済みの会員権の総額を大きく上回る計430億円(登録料65億円,預託金365億円)の収入があること(ゴルフ会員権を販売することができる見込みがあるのであれば,利払を伴う抵当証券を販売する代わりに,無利子でかつ登録料収入を伴うゴルフ会員権の販売を行う方が合理的であるから,A社グループがゴルフ場を担保にした抵当証券を販売して資金を集めてきたこと自体,このような大々的なゴルフ会員権販売計画の合理性を疑わせるものであった。),余裕資金が年1割の運用益を生むこと,を前提に,近い将来大幅な黒字に転化することとされ,② その他の事業も,実現可能性がない収入を見込んだ新規計画(<省略>町土地におけるゴルフ練習場経営,<省略>区駐車場における立体駐車場と飲食店の経営,AUビル敷地におけるBGビルの経営,AP社による産業廃棄物処理事業等)か,抵当証券の支払利息額に及ばない若干の収入が得られるにすぎないもの(AP社の各共同住宅,ANビル,Q外等)であり,③ A社の収支計画は,このような予測上の収益を計上したグループ会社(BCカントリークラブは平成7年度から,R社及びAG社は平成8年度から,P社は平成10年度からそれぞれ黒字に転換する予定となっていた。)から順調に抵当証券受取利息を得て安定的な事業収支を維持するとの仮定の上に成り立っており,特約付き融資の弁済期到来により見込まれた平成7年度で51億円余り,平成8年度以降は120億円ないし170億円程度のグループ会社の償還財源も,そのほとんどを新たな抵当証券の販売によって賄うことが予定されていた。総じて,平成7年収支計画は,Gが専ら更新登録を得る目的で策定させた机上の計画にすぎず,過年度の実績等からみてその実現可能性は極めて乏しいものであることは,A社の経営陣やAK会計士にとって共通の認識であった。

Gは,J及びAK会計士を伴って,平成7年8月1日,修正前の平成7年収支計画を提出した上,その内容を近畿財務局に説明したが,近畿財務局は,計面自体は非常に立派であるが,実現性には疑問がある旨の指摘をするとともに,既に回答書の提出期限を徒過していたことから,上記弁明の機会の付与の通知をするとともに,弁明書の提出期限である同月17日までに計画の見直しを行い,近畿財務局が求めるような計画を再度策定した上で提出するよう指示した。

A社は,同月15日,弁明書及び平成7年収支計画を近畿財務局に提出したが,平成7年収支計画の内容は同月1日に提出されたものから実質的な変更がなく,弁明書の内容も,① 担保となるべき物件(不動産)の価値については,不動産鑑定士の評価はもとより当社として20年に及ぶ宅地建物取引業者としての経験と実績により,厳選した物件(特に将来性に重点)のみに貸付けを行い,抵当証券の発行と販売を行ってきたところである,② 現状は,一般的な見方としては融資先のグループ会社の経営状況は悪いといえようが,平成7年収支計画にみられるとおり,今後の経済情勢の好転と相まって,前途が洋々たるものであることは確信できる,などとするものにすぎず,依然として具体性の乏しいものであった(なお,平成7年収支計画の中でA社グループが平成7年度中に現実に着手したのは,AUビル敷地における同ビルの建設と,<省略>区駐車場における立体駐車場及び鉄板焼き店の建設のみであった。鉄板焼き店は建設したのみで営業は開始されず,立体駐車場も7割程度の契約数にすぎなかった。)。このため,近畿財務局は,既定の方針どおり,平成7年業務改善命令を発出すべきとの結論に至った。

(<証拠省略>)

(キ) 平成7年業務改善命令のてん末

近畿財務局は,平成7年8月21日,Gが反発を強め,行政不服審査請求の申立てや弁護士等による働きかけを行ってくることを予測しつつも,A社がこれに従わないとして業務停止命令を発出するかどうかは,回答書の提出を待って大蔵本省と協議する,との方針の下に,同社に対し平成7年業務改善命令(その内容は,平成7年業務改善命令に係る弁明の機会の付与の通知書記載の別紙1を命令本文,別紙2をその別紙とし,命令本文④は,顧客に対し,国が抵当権を設定されている不動産の評価を行っているという誤解を与えるような勧誘行為を行わないことと改め,その別紙の指示事項の別紙2A.カの次項として,「グループ6社各社の貸借対照表及び損益計算書を,少なくとも過去3か年度分提出すること」を付加するほか,ほぼこれと同一である。同命令の別紙は,融資先のグループ会社に対する決算書や詳細な資料の添付やこれに基づく分析を求めるものであるが,これらの資料は融資を業とする法人であれば通常当然に借入申込書や事業計画書の形式で融資審査に必要な資料として取得しているべきものであること,前記認定のとおり,BE課長も,A社が非協力的な姿勢をとり続ける以上,業務改善命令を発出し,強制的にグループ会社に関する資料を提出させることは避けられないと認識していたこと,A社とその融資先とが人的・資本的に密接な関係にあり,前記認定のとおり,BE課長も同グループが実質的にG一人の統括下にあると認識していたこと,などに照らせば,平成7年業務改善命令の内容にはその別紙も含まれると解すべきである。)を発出する決裁を終えた。

BE課長は,平成7年業務改善命令を発出するためにGを近畿財務局に招致したところ,同人は,同日夕刻,単身来訪してきた。近畿財務局側は,AW検査官とBH調査官とが同席していた。BE課長が,Gの目前に上記命令に係る命令書を置き,手元の同命令書の写しを読み上げて告知したところ,同人は,「今回の命令は行政処分であるが,当社が処分を受ける理由はない。命令書を受け取る必要はない。行政指導ということであれば受け取る。」「当局の検査によって不備が指摘された事項についてはこれまでも改善を図っており,弁明書等で回答しているにもかかわらず,既に改善・回答済みの内容まで命令書に記載されていることには納得がいかない。特に,命令書本文の④(顧客に対し,国が抵当権を設定されている不動産の評価を行っているという誤解を与えるような勧誘行為等を行わないこと)はいまだ顧客を騙して商売をしているかのような表現であり,当社の名誉を傷つけるものである。書き直すか削除すべきだ。命令書の別紙で指示されている資料も,既に提出されているはずだ。」「当社が顧客に対する利息を支払えない,償還に応じられないといった状況であればともかく,そのような状況にない中での処分は,つぶれなくてもよい会社を当局がつぶすことと同じである。」「独立系で業務改善命令を出されている会社はないはずだ。当社を狙い打ちしているのか。」などと声高に述べるとともに,同和団体とおぼしき団体名を記載した名刺を見せ,「こういう者や。」など,自分が当該団体に属しているかのように示した上,「当局があくまで,当社の業務改善命令にこだわるのであれば,訴訟を始め,組織を挙げて徹底的に闘う覚悟である。」などと告げると,興奮状態で席を立ち,BE課長らが制止する間もなく,命令書をその場に置いたまま退去した。

BE課長らは,Gが平成7年業務改善命令の受入れを拒否するような事態は事前に全く想定していなかったので,当日のうちにBF次長に経過を報告し,両名は,一両日中にBI部長,BJ近畿財務局長(以下「BJ局長」という。)及び本省金融会社室に報告して,その後の対応について協議した(本省金融会社室は,その時点では,Gから資金がある旨の弁明が出されたために平成7年業務改善命令の発出を見合わせた旨の報告を受けていた。)。内容証明郵便で改めて平成7年業務改善命令に係る命令書を送付する案も検討されたが,結局,Gが平成7年業務改善命令を交付された席上において,行政指導であれば従う,顧客への利払等には問題がないなどと強弁していた点を捉えて,「A社から資金繰りについての新たな弁明が出たため,資金繰りに問題があることが確認されるまで,平成7年業務改善命令の発出を暫時留保した」との扱いにする方針が決定された(既にみたとおり,同年7月20日の時点で,BE課長はA社の当面の資金繰りには問題がないとの認識を有しており,それにもかかわらず平成7年業務改善命令の発令に向けた部内の意思形成を図っていたこと,同社が今後非協力的な態度を改めると期待することのできる根拠や資金繰りについての資料は同年8月21日までの時点で何も示されていなかったことからみて,上記方針決定の実際の理由は,同和団体との関係まで示したGの気勢に気圧されたこと,後述するBK信用組合関連業務に忙殺されるようになったことなどから,近畿財務局内において,郵送で平成7年業務改善命令を改めて送りつけるというような手段を執ってGをこれ以上刺激するのを避け,本件の処理をしばらく先送りしようとの意見が大勢を占めるようになったことにあったと推認することができる。)。

Gが平成7年業務改善命令の撤回に係る経緯を特段説明しなかったため,JらA社の経営陣にとっては,同命令がなぜ発出されないこととなったのか,その理由は不明のままであった。

(<証拠省略>)

(ク) BK信用組合等の破綻と本件資金繰り表の作成

<省略>に本店を置くBK信用組合は,平成7年7月末には業務停止命令の発出が検討されるなど破綻寸前の状態にあったが,同年8月10日ころになって,本省金融会社室及び金融第3課は,BK信用組合の破綻処理スキームから系列のBL抵当証券を切り離すことを決めた。このため,BL抵当証券からの抵当証券購入者はBK信用組合の預金者等と同様の保護を受けることを期待することができなくなったが,抵当証券保管機構は,抵当証券会社が法的に破綻する事態の発生をそれまで具体的には予期していなかったため,抵当証券業規制法28条1項2号に規定されている弁済受領業務に関する処理体制をほとんど整備しておらず,ようやく同月25日になって,同機構の理事会において,その初動段階のルール(① 大蔵大臣の指示があって初めて弁済受領業務に係る手続を開始,② 金額ベースで購入者の過半数の同意が必要,③ 融資先の同意は不要)を定めたものの,人員面や資金面の手当てが付かないままであった。そうした中で,BK信用組合及びBM銀行の破綻が同月30日に表面化したことから,本省金融会社室のBN室長は,同日,抵当証券保管機構を訪れ,BL抵当証券及びBM銀行系の抵当証券会社2社について,弁済受領業務を開始するようにとの大蔵大臣の指示書を手交した。抵当証券保管機構は,翌31日,急きょ入居している建物の空きフロアを借りて弁済受領等業務室を新設するなど,その対応に追われた。また,金融第3課も,BL抵当証券の破綻に先立つ同月28日,同社に対して業務改善命令を発出するなどし,同社等が同月末に破綻してからは,個別事案としてその処理問題を抱えることになった。

BF次長は,BL抵当証券等が破綻したことを受けて,A社の抵当証券購入者にも中途解約を求める動きが広がるのではないかと懸念し,同社の業況を特に注視するようBE課長に指示した。そこで,BE課長は,A社に対し,抵当証券の満期買戻し状況と中途解約への対応状況を随時報告させる方針を決めた。

他方,Gも,同年9月に入り,BL抵当証券等の破綻で抵当証券に対する顧客の信用が揺らいだことに危機感を覚え,営業員より顧客からよく受ける質問を聞き取った上,これに対する回答という形式で,自らが主体となって「抵当証券Q&A」を作成するとともに,抵当証券購入者全員に手紙を出すなどしてその信用のつなぎ止めを図った。…上記小冊子は,抵当証券に係る一般的な記述の部分はおおむね誤りはないが,A社の販売するモーゲージ証書に関しては,「当社抵当証券3年満期年利3.5%は,決して高利率ではなく,企業努力,合理化を積み重ね,将来を充分に見通した,自信の有る好利率であります。」「当社の抵当証券は,バブル崩壊後に販売(発行)されたものであり,しかも収益性を伴っているものがほとんどです。」「抵当証券の担保物件の市場性,収益性,将来的換金性について,充分すぎる日数をかけ,長いものは一年以上もかけて調査の後,抵当証券発行に至っていますので,何ヶ月も販売の予約期間を設けざるを得なかった事も有るのです。即ち,それだけ充分な担保の裏付けを持った,A社抵当証券と申し上げることが出来ます。」「最も,申し上げたいのは,今日,銀行系の抵当証券会社数社が,破綻を生じても,当社は,健全に発展的に抵当証券事業を行っていることです。」「万一の場合でも,元本割れのないことを,堅く誓約するものです。」などと,極めて正確性を欠く記述が随所にみられるものであった(なお,上記小冊子は,後にその使用の中止を指導された。)。

Gは,同月13日,近畿財務局を訪れ,BE課長らに対し,中途解約は5,60件,約10億円に達しているが,当社には50億円程度の資金がある旨申し立て,同月22日には,同月1日以降直近までの間に,満期償還分として61件・2億5540万円,中途解約分として269件・8億5240万円の払出しが生じた旨報告した。

そこで,BF次長,BE課長らは,同月27日,本省金融会社室とも協議の上,A社の平成7年3月期の貸借対照表における現金預金残高(約11億7400万円)を基に,同年4月ないし6月までの抵当証券の販売額,償還額については同年7月20日にJから提出のあった資料の数値を用い,抵当証券受取利息及び顧客に対する支払利息は約定どおり存在すると措定し,平成7年収支計画における平成7年度末の財務収支予測に係る数値(買戻抵当証券約51億4700万円,借入金返済50億円,売渡抵当証券約101億4700万円,期末資金残高約14億1400万円)をそのまま採用し,同年9月22日までに同社から報告を受けた満期買戻し・中途解約実績を加味するとの条件で同社の資金繰りを試算したところ,平成7年9月末時点で手元資金が約58億円あるとの結果が出た(本件資金繰り表においては,同様に平成7年収支計画からそのまま採用した人件費・広告宣伝費・その他支出計約7億1200万円及び法人税等約2億4000万円の支出は欄外に記載され,近畿財務局が残高解消を指導していた手形商品の償還は織り込まれていなかった。)。さらに,A社が,同年10月20日,同年9月23日以降同年10月17日までの間に,満期償還分として43件・8360万円,中途解約分として70件・1億8040万円の払出しが生じた旨に加えて,同年9月28日にR社に対しBOゴルフ場を担保にした特約付き融資(後記(ケ)記載のもの)を実行した旨を報告したことから,BF次長とBE課長とは,同年10月末ころ,① A社には中途解約に問題なく応じることのできる支払余力がある,② 平成7年9月末現在で約58億円の手元資金がある,③ 特約付き融資を行うことのできる資金調達力がある,などの観点からすれば,A社の資金繰りには問題はないとの結論も正当付けられ得るとして,当面は引き続きヒアリング等で指導していくこととし,同年11月初めころ,BJ局長及びBI部長へも報告し,上記結論について了承を得た。その結果,このころ,平成7年業務改善命令については,近畿財務局において廃案処理に準じた手続が執られた(なお,A社の手元資金残高を確認したいのであれば,後述する平成9年検査の際のように同社の預金残高証明書を提出させれば済む(A社の平成7年3月末期の貸借対照表においても,同社の現金残高は預金残高の0.5パーセント程度にすぎない。)ことに加え,前記のように,本件資金繰り表の基礎とした平成7年度末における数値には近畿財務局が平成7年業務改善命令の発出の直前まで実現可能性が乏しいとして批判していた平成7年収支計画のものがそのまま採用されていること,人件費等の経費や手形商品の償還が本件資金繰り表の計算から除外されていること,A社から報告のあった中途解約額・満期償還額について裏付けが取られた形跡がないこと,<証拠省略>のいずれもが本件資金繰り表の計算根拠を十分に説明することができないことなどから推して,本件資金繰り表は,Gによる「A社には約50億円の手元資金がある」との言明の裏付けを近畿財務局が自ら作り出すことで,A社の資金繰りには当面問題がなく,ひいては平成7年業務改善命令を当面発出する必要がないとの結論を正当化する目的を持って作成されたと推認することができるというべきである。)。

(<証拠省略>)

(ケ) BOグリーンコースの買収

Gは,平成7年夏ころ,AHらに指示されて送金した75億円の所在が一時不明になったことから,同人らに騙されているのではないかと考えるようになり,自ら渡米するとともにニューヨーク在住の弁護士に依頼し,アメリカにある銀行口座から上記75億円を回収した。こうして,同国における投資案件は失敗に終わり,Gは一時期非常に落胆した。(<証拠省略>)

一方,Gは,平成7年夏ころ,知人から,いわゆるBPグループに属するBQ社が資金に困ってゴルフ場を手放すことを考えている旨告げられ,同社の担当者を紹介された。Gは,同社のゴルフ場のうち,子会社であるBR社が保有するBOゴルフ場について,名門とされている上,敷地内に借地がほとんど含まれておらず高額の鑑定評価(平成7年9月1日付け不動産鑑定評価書で約202億円(価格時点:同年8月20日))が得られたこと,BP系列の管理下から離れることを知った会員の多くがBQ社に預託金の償還を求め,A社グループが承継すべき預託金の額が約2億5000万円にすぎなかったことなどから,160億円程度の抵当証券に加え,ゴルフ会員権も販売することができ,財務収支の面で魅力があると見込み,当該ゴルフ場の買収に乗り出した。AK会計士は,収益面から採算が取れる可能性が少ないなどとして反対したが,ゴルフ場の買収にステータスをも感じていたGに容れられることはなく,同年9月28日,BQ社とR社との間で,BOゴルフ場の買収価格を130億円とすることが合意された。同日,BR社が抵当権設定者となり,BOゴルフ場を担保としてA社がR社に対し弁済期を平成22年9月28日,年利7パーセントの約定で130億円を貸し付ける旨の同日付け金銭消費貸借抵当証券発行特約付抵当権設定契約証書が作成されたが,BQ社は,BR社が抵当証券販売と関連付けられることを避けるため,同社を含む法人ごとではなくBOゴルフ場のみを売却することとした上,BR社,A社及びR社の三者による合意書を準備し,抵当証券の販売についてBR社が責任を負わないことなどを取り決めた。上記設定契約証書を基に,平成7年10月2日宇都宮地方法務局那須出張所受付第9633号をもってBOゴルフ場に抵当権者A社,債務者R社とする債権額130億円の抵当権が設定され,そのころ同額がA社グループからBQ社に支払われたが,A社が同額の抵当証券の発行を申請したところ,同出張所の登記官は,法務鑑定委員会に諮った上,鑑定価格が高額すぎるとして申請を受理しなかった。その後,同社は,同年11月2日受付第10713号をもって錯誤を原因として上記抵当権の債権額を100億円に更生する旨の登記を経て,同月8日,同額の抵当証券の発行を受けた。(<証拠省略>)

(コ) ベストモーゲージの販売開始

A社は,平成7年11月1日から,年利を上げる代わりに中途解約ができないベストモーゲージという名称の抵当証券の販売を新たに開始した。その販売利率は,本判決別紙「金融商品等の販売時期及び販売利率表」<省略>のとおりである。この抵当証券は,BL抵当証券の破綻等による金融不安から中途解約が増えたことに対処するためのものであった。(<証拠省略>)

(サ) 平成7年12月6日のヒアリング

BE課長らは,平成7年12月6日,GからA社の業況等についてヒアリングを行った。BE課長らが,BL抵当証券等の破綻に伴う影響について改めてただしたところ,Gは,当社の中途解約はほぼ止まった状態であり,満期買戻しについても継続率は落ちたが,新規販売による穴埋めにより若干のマイナスにとどまっており,「抵当証券Q&A」によって顧客からの照会に当たっているなどと説明した。また,BE課長らが同社の直近の資金繰りについて質問したところ,Gは,前回報告した50億円の手元資金に加え,BOゴルフ場を担保とした新たな抵当証券の販売開始による資金を併せると,当社の資金繰りには全く問題がない旨強調するとともに,詳しくは毎月の資金繰り表を持参すると言明した。さらに,BE課長らが,A社の借入金(平成7年収支計画では,平成8年3月末に50億円を返済することとなっていた。)についてただすと,Gは,借入先は同人個人で,借入残高は91億円まで膨らんでいるが,返済期限付きではなく利息さえ支払えば足りるとしつつ,その資金の調達先は17名のスポンサーであり,永年の不動産取引で培った人脈であるとするだけで,それ以上詳細な説明は避けた(近畿財務局は,その資金調達内容,特にその利息や収支計画との関係について後日の説明を求めた。)。次いで,BE課長らは,A社グループの財務内容について,融資先は実質的に債務超過にあるなど,グループ全体としては危機的状態にあるとして懸念を表明したところ,Gは,これまでは投資の期間であり赤字覚悟でやってきたが,これからはゴルフ会員権を販売して早期に黒字転換するとした上,今後の経営見通しについて,平成8年4月からBOグリーンコースの会員権をAGカントリークラブの会員権とタイアップした共通会員権として東京地区で500万円(うち登録料70万円)で5400名に販売し,販売経費を控除しても250億円の収入を見込み,その後も様々な共通会員権を販売し,5年間で合計600億円の収入を得て,これを消費者金融で運用する予定であるなどと述べるとともに,これらが実現すれば抵当証券業は今後縮小し,消費者金融を開業して方向転換を図っていきたい旨説明した。BE課長らは,平成7年12月11日付けで,A社に対し,「抵当証券Q&A」,A社の毎月の資金繰り表,グループ会社の直近決算書等の提出を要請した。(<証拠省略>)

(シ) 平成7年12月26日のヒアリング

BE課長らは,平成7年12月26日,G及びJから,A社の業況等についてヒアリングを実施した。同社は,当面の資金繰り表(A社の同月末における手元資金は約113億円)を提出した上,モーゲージ証書の継続率を6,7割で見積もると,平成8年3月末における手元資金は159億円となり,借入金50億円の返済も行わないので,先行きも資金の心配はないなどと説明したが,Gからの借入金91億円については,A社から年3パーセント前後の利息の支払を受ける予定で調整している旨述べたものの,資金調達先については依然として相手方との信頼関係を理由に説明しなかった。また,BOグリーンコースの会員権販売について,同社は,既存会員が地元関係者80名のみであることから5320名に対する会員権の販売計画は表現可能であり,第1次販売の1000名は500万円での販売を予定しているが,状況を見ながら200万円ずつ価格を上げていくことも視野に入れており,平成8年4月から同年6月までの3か月で約100億円を売る予定であるとしたが,ABカントリークラブやBCカントリークラブのゴルフ会員権の販売を開始しなかった理由については,平成7年4月からの販売を予定していたが,景気が今ひとつであったことや,BOグリーンコースを手に入れることで頭が一杯であったことから開始することができず,平成8年4月から販売していくことで現在その準備を行っている旨述べた。また,A社は,ゴルフ会員権販売による資金で平成8年4月から消費者金融業を始める考えを示すとともに,融資先であるグループ会社の決算書(グループ会社全体の赤字が単年度で約40億円,累計で110億円に達しており,グループ全体の財務状況がさらに悪化しているもの。)を提出したが,内容についてはAK会計士に後日説明させると述べた。(<証拠省略>)

(ス) 平成8年1月8日の営業会議

Gは,平成8年1月8日の営業会議で,A社は集めた資金の9割を4つのゴルフ場に融資しているため,BOグリーンコースのゴルフ会員権を何としてでも売り,融資資金を回収して消費者金融事業に転用することを当社の戦略とするなどと述べ,A社グループを挙げてゴルフ会員権販売に取り組む姿勢を示した。しかしながら,ゴルフ会員権の販売は引き続き低調であった。(<証拠省略>)

(セ) 平成8年1月19日のヒアリング

BE課長らは,平成8年1月19日,G,J及びAK会計士から,グループ会社の決算内容についてヒアリングを行った。BE課長らは,グループ会社全体の赤字が40億円増加して110億円となっていることを指摘した上,R社の赤字拡大要因についてただしたところ,AK会計士らは,R社の赤字拡大要因は支払利息割引料の増加が主であるが,外貨預金の取崩しによる受取利息約10億円の計上等が見込まれるので赤字幅は大幅に縮小するなど,決算書の計数は必ずしも実態を反映していない,ついては実態を反映した計数をまとめて後日提出する旨述べるとともに,ゴルフ会員権の販売によって資金繰りが,その運用によってグループ会社の収支がそれぞれ好転するとの考えを示した。BE課長は,A社に対して同月24日付け「ご連絡文書」を送付し,次回のヒアリングではグループ6社の平成7年度の決算数字を基礎にして,平成7年12月末現在でどの会社のどの勘定科目がどのように改善し,更に平成8年度に向けてどのように経営改善を図るのかを聴取するため,A社グループ各社の主要勘定科目の対前年比較,赤字増加要因の現状把握及び分析表,連結決算一覧表,今後の具体的な赤字改善策の一覧表等を作成するとともに,手元資金の具体的な運用先等についても説明するよう依頼した。(<証拠省略>)

(ソ) 平成8年2月29日のヒアリング

BE課長らは,平成8年2月29日,G,J,AK会計士及びIから,グループ会社の赤字改善策等についてヒアリングを行った。BE課長らは,グループ会社全体の赤字が毎年40億円程度増えると考えられることになるとした上で,その解消策についてただしたところ,AK会計士らは,グループ会社の連結資金繰り表(平成8年1月末現在の現金預金残高:96億円),連結貸借対照表(平成7年6月末現在の累積欠損:107億円),連結損益計算書(平成6年7月1日から平成7年6月30日までの年間経常損失額:34億円),4ゴルフ場の平成8年から平成10年までの収支予測等を提出した上(なお,「連結決算書類」と総称されていたものの,連結財務諸表等規則に基づいて作成されたものではなく,各グループ会社の決算を単純に合算し計上したものを便宜的にそのように称していたにすぎない。),① 平成8年1月末現在の現金預金残高96億円に加え,抵当証券の販売玉もまだ約50億円分残っており,BOグリーンコースのゴルフ会員権も同年4月10日から月間10億円程度販売していく予定であるので,現状のまま推移しても3年分の損失をカバーできる,② グループ会社間の相互取引を修正し,AG社のスキー施設の売却損等22億円を考慮すると,A社グループ全体の累積欠損金の実態は37億円となる,③ グループ会社はリストラ等によって収支改善に努力しており,BC社及びBOグリーンコースは平成9年に,AB及びAG社は平成10年に,それぞれ単年度黒字に転換する見込みである上,ゴルフ会員権の販売資金を海外資産,貸金業,不動産等で運用することで20から30パーセントの利益を見込んでいる旨主張した。BE課長は,A社に対して平成8年3月6日付け「事務連絡文書」を送付し,同月中に,平成7年6月30日を作成基準日とした平成11年度までの5年間におけるA社グループの赤字解消計画(資金調達や資金運用の予測を具体的に数値化し,累積赤字がどのように解消し,いつ黒字に転換するのか試算したもの。)を提出するよう求めた。(<証拠省略>)

(タ) 平成8年経営健全化計画の提出

A社は,平成8年4月12日,平成8年1月1日から平成12年12月31日までの期間を対象とした平成8年経営健全化計画を近畿財務局に提出した。この計画では,A社グループ全体で平成8年末には約70億円ある当期末処分損失が平成12年末には約5億円に縮減するとしており,その主たる要因を,ゴルフ会員権販売(① BOグリーンコースにつき,平成8年度から平成10年度まで毎年1800口ずつ,1口500万円ないし700万円で販売し,3年間で総額324億円の売上げ,② ABカントリークラブにつき,平成10年度から平成12年度まで800口ないし1200口ずつ,1口350万円ないし600万円で販売し,3年間で総額146億3000万円の売上げ,③ AGカントリークラブにつき,平成10年度から平成12年度まで毎年1500口ずつ,1口250万円ないし400万円で販売し,3年間で総額146億円の売上げ)に求めていた。また,上記計画は,平成8年1月1日以降に満期が到来するモーゲージ証書については買戻し分と同額を販売し,同日現在でモーゲージ証書が未販売である分については新たな販売をしない,特約付き融資の元本について返済期日が到来したものは融資金の回収を図り,新たな抵当証券の発行は行わない,としていた。

BE課長らは,同年5月2日,G,J及びAK会計士から平成8年経営健全化計画についてヒアリングを行った。AK会計士は,① ゴルフ会員権販売計画が主であり,他の事業の推移は大勢に影響がない,② 平成12年末までに元本返済期日の到来する34億円余りの特約付き融資については融資額を回収し,新たな抵当証券の発行は行わない,③ 設備投資としては,会員権販売促進のための環境整備として平成8年にBCカントリークラブのクラブハウスの改修に4億円,平成9年にABカントリークラブのホテル新築に5億円を投じるのみである,④ ゴルフ会員権の販売によって得た資金から平成9年に手形商品によるR社の借入金125億円を返済する,⑤ ゴルフ会員権の販売計画が達成されれば資金残高が借入金残高を上回ることになり,要は会員権の販売いかんである,などと説明した。これに対し,BE課長らが,ゴルフ会員権の預託金部分をどのように運用して年利20から30パーセントの資金運用益を上げるのかただしたところ,Gは,消費者金融等をやりたいが現段階で収益を見込むのは時期尚早である,ただ年利20から30パーセントの収益を計上することができることは間違いない,外国預金は年利60パーセント程度を見込めるが,元本保証を確保する方法で苦慮しており,来週初めころ結論が出る予定である,余資運用の具体的な内容や収支予測は時間がなくて作成できなかった,などと述べた。また,BE課長らが,Gが個人的に調達している借入資金のレートを尋ねたところ,銀行レートにプラスアルファ程度である旨述べた。さらに,BE課長らが,ゴルフ会員権の販売時期は4月からではなかったかと尋ねたところ,A社側は,5月7日から東京地区で開始する,そのために当社のスタッフも派遣した旨述べた。現に,A社本社の営業員は同月から東京に赴いてゴルフ会員権の販売を行ったが,結局,ほとんど売れなかった。

(<証拠省略>)

エ 平成8年5月から平成9年検査まで

(ア) BS補佐の着任

近畿財務局は,平成8年5月2日のヒアリング結果等を踏まえ,平成8年経営健全化計画につき,直ちにその合理性がないと判断する材料は持ち合わせていないとして,A社から継続的にヒアリングを行いつつその進捗状況を注視するとの方針を引き続き取ることとし,本省金融会社室にも上記計画の写しを送付したが,同室からは上記計画の再提出を求められなかったため,大蔵本省も近畿財務局の上記方針に納得しているものと解釈していた。

ところで,本省金融会社室には,平成8年5月に抵当証券業等を担当する課長補佐としてBS補佐が自治省からの交流人事で着任したが,当時,同室は,いわゆる住専国会への対応で多忙を極めている状態であった。BS補佐は,やはり自治省からの出向者であった前任の課長補佐から,抵当証券業に関し,① 個別個社の監督は財務局長等の担当であるが,近畿財務局監督下のA社及び関東財務局監督下のF抵当證券の2社(大蔵省内では,前者を○社,後者を○社との符牒で呼ぶことがあった。)は独立系の業者でかつ自分が支配している会社へ融資している上に経営状況が極めて悪化しているという共通の問題を抱えていることから,特に本省金融会社室と各財務局との間で相談しながら対応することとされており,銀行局長への報告事項ともなっているので,何か動きがあれば直ちに報告する必要があること,② 近畿財務局は,A社に対して平成7年業務改善命令を一度は発出しようとしたが,Gが同和団体との関連を示して騒ぐなどしたためにこれを撤回してしまい,その後,同人には同和団体との関連が実際には存在しないことが判明したにもかかわらず,再度同社に業務改善命令を発出するよう近畿財務局に指示しても,担当者が同人の特異な性格を畏怖してこれに従わないこと,などの説明を受け(なお,②に関し,一般に,行政官庁において本省と出先とで意見が食い違ったとしても,前者が後者に正式な職務命令を発してまでその意向に従わせるようなことはかなり例外的である。),犯罪者まがいの所に関わって気の毒である旨のコメントとともに,A社に関するファイル5冊程度(その中には,近畿財務局が同社の担保物件の状態を撮影した写真や,抵当証券保管機構が作成した同社に関する業者状況表,原券持込状況一覧表等の資料が含まれていた。)と,不動産抵当證券に関するファイル2冊程度とを引き継いだ。

(<証拠省略>)

(イ) 平成9年検査までの本省金融会社室及び金融第3課の陣容

BS補佐は,着任後1,2か月の間は,住専問題に関して国会に提出する資料の準備に追われた。同人が本省金融会社室で所掌した分野は,抵当証券のほか,プリペイドカード,商品投資事業,特定債権譲渡,消費者金融,信用情報等に及んでおり,このうち平成9年7月までは主として抵当証券,信用情報,プリペイドカードを,同月以降は抵当証券に代えて商品投資事業,特定債権譲渡等を担当するようになった。BS補佐の下には,平成8年7月以降,BT抵当証券業係長(以下「BT係長」という。)及びBU商品投資事業係長等がおり,後者は,平成9年7月以降,抵当証券業係長となった。また,平成8年7月19日には,BS補佐の上司としてBV室長が着任した(BS補佐及びBT係長は,着任したBV室長に業務内容を説明するに際し,A社に対する平成7年業務改善命令について,Gが同和団体との関連を示したので,近畿財務局がこれを撤回してしまった旨説明した。)。

金融第3課においても,同月1日,BE課長の後任としてBW課長が,同月16日,AW検査官(上席調査官)の後任としてCA検査官(同)がそれぞれ着任した。

抵当証券に関しては,日常的な業務は抵当証券業係長が金融第3課の調査官と,重要な案件に関しては抵当証券業担当の課長補佐が金融第3課長とそれぞれ連絡を取り合うのが一般的であった。なお,同様に,本省金融会社室長の近畿財務局におけるカウンターパート理財部長であった。

(<証拠省略>)

(ウ) 一般人からの通報

本省金融会社室は,平成8年8月2日,不可解な販売をしている抵当証券会社がある,として善処を求める一般人(リース会社の法人調査関係者)からの通報に接した。それによると,① A社が顧客に対して,当社の1000万円の手形を1年預かってくれたら1070万円で買い取る,といったような商売をしている,② 自分の父親がこの商品を勧められ,抵当証券から乗り換えさせられた,③ 同社の抵当証券については,融資先が子会社しかなく,解約しないよう一筆入れるとただでさえ高い金利を1パーセント上乗せし,社員がグループ会社と兼職していてそのゴルフ会員権を販売するなど,金融機関としておかしいとしか考えられない営業内容である,④ 同社では1週間に3回も帝国ホテルで会議との名目で会食したこともあるそうであり,金遣いが荒いが,儲からなくても次々抵当証券を発行すれば金が入るので,それを使っているのではないかとさえ考えられる,ということであった。BS補佐は,BW課長にこの情報を伝えるとともに,A社はまだ手形商品を売っているようであるが,とただしたところ,同課長は,指導はしている旨述べた。なお,この時の応接録は本省銀行局内や近畿財務局に広く配布されたが,後記のように後に近畿財務局長となることになった銀行局C参事官は,BV室長の指示で配布先から外された(その理由について,BS補佐は,銀行局総務課長等を歴任し,従来からA社の問題性について認識していた同参事官には,面倒な案件について関与を避けようとする傾向が特に顕著であるとの認識が同局内で広く共有されていたため,と考えていた。)。(<証拠省略>)

(エ) 55億円の抵当証券販売自粛問題

BOグリーンコースのゴルフ会員権が思うように販売することができないことから,BOゴルフ場を担保とする抵当証券の発行額が買収価格を下回る100億円に押さえられたことに改めて不満を募らせたGは,債務者兼抵当権設定者R社が,債権者兼抵当権者A社から,元本の一括弁済期を平成22年9月28日等と定めて55億円を借り入れ,その担保としてBOゴルフ場に抵当権を設定するとともに,これにつき抵当証券の発行を承諾するとした平成8年3月28日付けの本件貸付金証書を作成させ,これに基づき,同年5月14日受付第4558号をもって上記ゴルフ場に本件貸付金に係る抵当権を設定した。本件貸付金証書は,55億円分の抵当証券をA社が販売することができるように便宜的に作成されたものであり,これに見合った資金をこのころA社からR社に移動した事実はなかった。当時,R社の代表取締役であったTは,同社が55億円の資金を必要とした事情は全くなかったことから,本件貸付金証書は仮装のものであって,単に抵当証券を追加発行するための形式を整えるにすぎないものであると認識していたが,JがR社の代表取締役印を本件貸付金証書に押印することを許した。そして,A社は,同年5月14日,宇都宮法務局那須出張所に抵当証券55億円相当分の追加発行を申請したところ,同出張所では人事異動があり,平成7年11月に法務鑑定委員会に諮った上で同社に対する抵当証券の発行を減額させた経緯が十分に引き継がれていなかったため,平成8年6月6日,同社の申請どおりの発行が認められてしまった。しかしながら,法務本省は,A社が追加発行分の前期抵当証券を販売しようとした同年8月に至って上記追加発行の事実を把握し,法務鑑定委員会に対して再度担保評価についての意見を求めるとともに,同月7日,大蔵本省に通報し,再評価が出るまで当該抵当証券に係るモーゲージ証書の販売を自粛させるよう協力依頼を行った(BT係長は,この時点で,本件貸付金については,そもそも架空融資である可能性が高いとの強い疑いを持った。)。

これを受け,CA検査官が同月13日,G及びJに対し,電話で抵当証券原券の抵当証券保管機構への持込みを自粛するよう行政指導を行ったところ,同社は,追加発行を受けた抵当証券の原券を同日同機構に持込んだが,販売は当面自粛すると述べた。Gは,同月16日,CA検査官に対し,200億円の評価に自信を持っており,法務鑑定委員会が不当な評価を行った場合には,法務省を追及するつもりであるなどと述べた(Gからは販売を自粛しても資金繰りに当面問題はない旨の発言があったため,金融第3課は,55億円相当のキャッシュフローをどのように穴埋めするつもりかという肝心な点についてそれ以上確認しなかった。)。法務本省は,同月22日,法務鑑定委員会においてBOゴルフ場の担保価値が120億円と評価されたことを受け,本省金融会社室に対し,今回の追加発行によって抵当証券発行総額が担保評価額の8割を超えることになる旨口頭で伝達した。同室は,近畿財務局に対し,購入者の保護が図られていない担保不足のモーゲージ証書を販売してはならない旨A社を指導するよう指示した。そこで,近畿財務局は,本省金融会社室からの指示であると述べた上で,同月23日,Jに対し,追加発行分の抵当証券原券に係る抵当証券保管機構に対する保管要請を任意に取下げるようA社に要請した。

これに対し,Gは,同月26日,BW課長に電話し,BOゴルフ場についてはA社の依頼した不動産鑑定士から約200億円という評価を得ていることを強調し,評価が過大であるという根拠を示すよう求めた上で,「抵当証券原券の返還とは何事だ。」「前回は工事中(改修)であり面積も確定していないこともあったが,今回,これらが完了しており,改めて第2次抵当証券を発行してもらった。」「宇都宮(地方)法務局にも確認したが,抵当証券発行後,2,3か月何も法務省から言われなかった。このような再評価の例もないとのことである。当社は狙われているとしか言いようがない。」「腹わたが煮えかえる思いである。」「BS補佐に8月23日に6回電話したが,会議中であるとかで1回もつながらなかった。」「法務鑑定委員会から評価の根拠を示した文書をもらいたい。」「そのようなことで,行政指導は受けられない。」などと述べ,強く反発した。BW課長は,当局としては,今回法務鑑定委員会から評価が示されたので,これに基づき販売する必要があると申し上げている,評価の件については法務省に言って頂きたい旨応じた。これに対し,Gは,さらに本省金融会社室に直接抗議の電話をしてきたところ,同室は,販売につながらないのであれば,原券を返却するか否かは貴社の判断である旨回答した(Gは,このころ,BS補佐の名前を近畿財務局から聞き出し,本件等に関し,本省金融会社室まで,強い調子による苦情や,これを認めてもらえないと困るというようなクレームの電話を長々と掛けてくることがあった。)。

本省金融会社室からの回答を受けて,A社は,追加発行分に係る抵当証券の販売自粛は続けつつ,その原券の取下げを行わないでいたところ,同年12月16日,大蔵省出身のCB参議院議員からの紹介であるとして,「CC中小企業政治連盟本部事務局事務総長」を名乗るCD(後に,いわゆる<省略>事件で贈賄罪により有罪判決を受けた。)がBS補佐を訪れ,A社からの依頼であると前置きした上で,BOゴルフ場に関し再度不動産鑑定評価をとったが190億円以上の評価が出ている,なぜ販売が認められないのか,10億円程度減額して発行するというような政治的な解決ができないか,などと述べた。しかしながら,BS補佐は,これは土地鑑定の問題であり,クレームは日本土地鑑定協会に言うように,などとして応じなかった。

(<証拠省略>)

(オ) 本件内部資料の作成

平成8年8月末ころ,BS補佐は,CE銀行局長(以下「CE局長」という。)に対してBOゴルフ場を担保とするA社に対する追加発行分抵当証券55億円分に係る販売自粛指導の件を報告するため,BT係長に命じて本件内部資料(着任後間がなく,A社について予備知識をほとんど持っていないと思われるCE局長の頭作りのため,前半部分は前任者の引継書をそのまま用い,A社の概要やこれまでの経過等も盛り込んだ上で,BOゴルフ場に係る抵当証券の追加発行分についての説明を書き加えた報告用の文書であって,何らかの対処方針を決定するためのいわゆる「局議ペーパー」ではない。)を作成させ,自ら加筆修正した上,これをCE局長に交付して同人に直接経緯を報告した。その概要を再掲すると,以下のとおりである。

[A社について]

① 会社の概要

A社は,昭和63年12月に近畿財務局で登録を受けた独立系の抵当証券会社であり,その融資先は同族会社であるP社外5社であるが,役員の状況等からみて,融資先と抵当証券会社とが一体となった極めて特異な状況(実質上の自己融資)となっている。また,A社は,バブル経済崩壊後低迷を続ける抵当証券業界(平成8年7月末現在の全業者の抵当証券販売残高は3兆5505億円であり,前年比20パーセント減である。)にあって年々抵当証券の販売残高を伸ばしており(かなりの高利率をつけて販売している。),業界においても上位(133社中15位)にランクされている。

② グループ全体の経営状況

A社は,金融機関等との取引はなく,抵当証券販売による調達資金のほぼ全額をグループ会社の運営資金として融資している。しかし,グループ会社の経営内容は悪く,各社とも赤字決算を余儀なくされており,多額の累積赤字を抱えている。A社グループの連結決算状況は,約63億円の欠損の状態にあり,同グループ全体の経営状態は極めて厳しい。

また,資金繰りについては,A社が,抵当証券や新商品(乗換え商品)の販売によって調達した資金によって手当てする以外には,Gからの個人借入金しかなく,長期借入金勘定に91億円(平成7年3月期)が計上されている。この借入れの資金源は,Gが17名のスポンサーから調達しているものとしているが,詳細は不明である。今のところA社を中心に,グループ会社間でどうにか資金を回転させてはいるが,特約付き融資の元本償還を迎える平成9年以降,資金繰りが厳しくなることが予想される。

③ 出資法違反の疑いのある金融商品の販売について

A社は,平成6年8月下旬以降,多数の抵当証券購入者に対し,中途解約を勧めるとともに,手形商品の購入を勧めていたことが判明した(中途解約された抵当証券については,新たに別の顧客に販売されている。)。手形商品についてGから聴取したところによれば,A社を貸主,R社を借主とする極度額25億円の金銭消費貸借契約を締結し,R社がA社に対して25億円以内で約束手形を振り出し交付するとともに,A社は,R社がAJに有する譲渡性預金債権に担保権を設定し,これらの事項が確実に実行されることを目的にAL弁護士(元<省略>党代議士)との間に業務委託契約を締結し,A社が約束手形を投資家に裏書譲渡するが,当該約束手形は弁護士名義の金融機関貸金庫に保管し,投資家に対しては弁護士が手形保管証を交付するというものである。手形商品に対しては,不特定多数の者に対して販売が行われ,かつ,販売の際あたかも元本保証しているかのように購入者に説明してきていることから,出資法違反の疑いもある旨A社に対し口頭で指摘してきたほか,平成7年4月,法務省刑事局及び大阪地検に対し,出資法違反等の観点から早急に検討するよう要請した。Gによれば,上記新商品の販売残高は124億円,購入者数約500人とのことであった。

なお,大阪地検は,アメリカ司法当局に対して預金債権の有無につき照会を行った結果,平成8年4月18日,AJに平成7年6月末現在で約80億円の残高があったことが確認されたとして,被害届の出ていない現段階において詐欺罪で直ちに捜査に入ることは考えていない旨回答してきた。

④ 抵当証券販売の状況について

A社の経営状況は,抵当証券購入者が被害を被る蓋然性が高く,購入者の利益を害する事実があると認められたことから,平成7年8月1日付けをもって業務改善命令(経営健全化計画の作成・実施,抵当証券買戻しについての財源計画の作成・実施等)発出のための弁明の機会の付与通知を行い,同月21日付けで業務改善命令書を交付しようとしたが,同社はその受領を拒否するとともに,同和関連団体に属している旨を告げたため,近畿財務局長は業務改善命令を撤回してしまった(その後,近畿財務局では業務改善命令を交付していない。)。

⑤ BOゴルフ場を担保とした抵当証券の発行について

平成7年11月,A社は,新たにBOゴルフ場に抵当権を設定し,R社へ新たに130億円の特約付き融資を実行し,法務局へは当初130億円の抵当証券の発行を申請したが,法務局は法務鑑定委員会に諮った上,鑑定評価が高すぎるとして申請を受理しなかった。その後,同社は100億円の発行を再度申請し,同額の抵当証券が交付された。法務局における審査の過程で,法務省民事局に対してCF衆議院議員(旧<省略>2区・<省略>党)より,早期の交付要請があった。

平成8年6月,A社は,BOゴルフ場について,200億円の価値があるとして再度抵当証券の発行を申請したところ,法務局の担当者が交代し,過去の経緯を承知しないことから,申請された55億円満額の抵当証券を発行してしまった。これが,当該抵当証券のモーゲージ証書を販売しようとした同年8月になって法務本省の確認するところとなり,同月7日に当局に対して第一報があった。法務省は,法務鑑定委員会に対し,BOゴルフ場の再評価を行わせることにし,当局に対して「不動産担保評価に疑義がある。」との連絡をするとともに,再評価が出るまで当該抵当証券のモーゲージ証書の販売を差し控えさせるよう協力依頼があった。同月22日に再鑑定の結果が判明し,法務省よりBOゴルフ場の評価額は120億円であったとの口頭による連絡があった。これを受け,近畿財務局は,大蔵本省から指示があったとした上で,購入者に不利益となる抵当証券モーゲージ証書の販売を自粛するよう指導したところである。

⑥ BOゴルフ場を担保とした抵当証券の抵当証券業規制法における問題点

130億円(上記に照らし120億円の誤記と思われる。)の価値しかない土地を200億円の価値があるものとして抵当証券の発行を受けたもの(平成8年8月15日,<省略>・CG氏から(後に近畿財務局長となる)C参事官に,「何故,大蔵省が止めているのか」と圧力があった。)。元本割れの抵当証券を販売することは,「購入者の利益を害する事実があると認められ」(抵当証券業規制法23条),業務改善命令を出すことができる。

業務改善命令に従わないときは登録取消し(同法24条)及び罰則規定の適用がある。元本割れの抵当証券を故意に「安全確実」などと銘打って販売したとき(偽計による販売(同法19条))も同様である。

(<証拠省略>)

(カ) 手形商品に係る警察に対する協力依頼

BS補佐は,CE局長に本件内部資料によって経緯を報告した際,同局長より,手形商品については,法務省のみならず警察庁に対しても通報するようにとの指示を受けたことから,BS補佐は,その直後,A社についての資料を持参して警察庁生活安全局に自ら赴き,平成7年業務改善命令を発令した際の経緯を含め一切の経過を説明するとともに,BW課長に対しても,CE局長からの指示があるのでこの件に関して警察には最大限協力するよう連絡した。

CH補佐は,平成8年9月24日,金融第3課を訪れ,A社の顧客から,抵当証券の満期時に手形商品に切り替えてくれと勧誘され,困っているとのクレームが警察庁生活安全局に入っているほか,当局が業務改善命令を出したようにも聞いており,手形商品に違法性がないか捜査するようにとの指示が8月に文書であった,現在は手形商品に違法性があるかどうか基礎調査に着手する段階である,ついては,抵当証券業者登録簿の内容について照会したい旨述べた。これに対し,CA検査官らは,CH補佐に対し,あたかも平成7年業務改善命令は発令されていないかのような反問をした上,A社の登録の有無,信用等の照会は時々あるが,クレームといったものは特にない,抵当証券業者登録簿の登録内容は,ある程度法人登記簿で確認することができると思う,と応じるなど,総じて非協力的と取れるような姿勢を見せた。そのためもあって,CH補佐は,今回の照会は取りやめ,今後お願いすることがあればよろしく頼む,と述べて同局を辞去した。上記のような会話内容を記載した連絡記録票は,同日夜,金融第3課から本省金融会社室にファックスで送信され(BS補佐は,金融第3課の中で,同課のA社に対する対応方針に不満を持つ何者かがあえて大蔵本省に送信した可能性が高いと認識していた。),BS補佐は,同課の担当者が本省金融会社室からの協力要請を無視するような態度を取ったことに憤慨し,「クレームといったものは特にない」との部分に「明らかに嘘」と書き込んだ上(同人がそのように判断したのは,元本保証といわれて手形商品を購入したが安全性は大丈夫か,抵当証券から無理矢理手形商品に乗り換えさせられてしまった,といったA社の顧客からの相談が本省金融会社室に寄せられたことがあり,そうした相談は原則として近畿財務局に回送する扱いにしていたためである。),上記連絡記録票に簡単な経緯を記した頭書を付けて銀行局内の回覧に付すとともに,金融第3課に(自ら又はBT係長を通して)連絡して,手形商品に関する警察の捜査に協力するよう再度釘を刺した。その後も,BS補佐は,BW課長に対し,A社の経営状況を把握するためにも,手形商品の新規販売高,販売残高の推移,その解消の方法等についてA社に確認するよう度々指示したが,同課長は,手形商品は所管外である,指導はしているなどとして消極的な姿勢を示し続けた(平成9年2月にも,<省略>市消費生活センターの相談員から本省金融会社室に対し,A社が元本保証,確定利回りということで手形商品を販売しており,解約にも応じないとの相談が寄せられた。)。結局,A社は,平成9年8月ころまで手形商品の販売を続けた。

BI部長は,平成8年9月末ころ,本省金融会社室を訪れ,BV室長に対し,大阪府警が平成7年業務改善命令を撤回した経緯を知っているようであるが,近畿財務局としては非常に困る旨述べた。その後,BV室長は,BS補佐及びBT係長に対し,平成7年業務改善命令は撤回したわけではなく,資金繰りが付いているために留保したというのが大蔵省としての公式見解である旨念を押した。

(<証拠省略>)

(キ) 会社整理手続の調査

BS補佐は,平成8年末ころ,既に平成7年11月13日付けで抵当証券の買戻し資金の確保を命ずる業務改善命令が関東財務局長から発出済みであり,業務停止命令又は登録取消しの可能性があったF社について,そうした措置を講じる際には同社が財産の隠匿を行う危険があるため,同時に商法上の会社整理通告を行うことでそうした危険を未然に防ぐことができないか相談する目的で,関東財務局の担当者らとともに東京地方裁判所民事第8部を数回訪れた。その際,関東財務局は,F社の融資先など,その関係会社全体の最新の財務状況に関する資料を持参していた。(<証拠省略>)

(ク) 平成8年12月20日のヒアリング

BW課長は,平成8年11月29日付けA社宛て文書において,① 平成8年経営健全化計画初年の実行見通し(特に,ゴルフ会員権の販売状況,グループ会社の直近決算状況,経営健全化計画変更及び新規の発行特約付き融資の有無等),及び② 抵当証券の販売状況…についてヒアリングを行う旨予告した上,同年12月20日,約7か月ぶりに,G,J及びAK会計士から業況一般についてヒアリングを行った。AK会計士らは,BOグリーンコースの会員権について,平成8年度内に500万円で1800口,合計90億円を売り上げるとの当初計画を,同年度内に390万円(AGカントリークラブとのタイアップを外したもの)で100口(12月時点の実績:80口),500万円で50口(同:15口)の合計6億4000万円を売り上げるとの内容に修正した上,計画達成時期を平成10年度から平成11年度にずれこませた「BOグリーンコース会員権販売実績及び修正計画」を提出し,平成8年中の会員権販売の低調さについて,① コースの改修工事により販売の開始が4月から9月になったこと(同年4月に提出されていた平成8年経営健全化計画には,同年のBCゴルフ場と平成9年のABゴルフ場の改修は盛り込まれているのに,なぜ上記改修工事が織り込まれていなかったのか,なぜ繁忙期に改修をしたか,なぜ改修と平行して会員権を販売しないかなどについて,BW課長らは特段追及しなかった。),② 会員権業界が低迷していたこと,及び③ 当社営業社員がゴルフ会員権販売に習熟していなかったこと,が原因と説明するとともに,完売には自信を持っている旨強調した。もっとも,AK会計士からみて,平成9年度からゴルフ会員権が大きく売れるようになる要素は特になかった。なお,A社からは,会員権販売代金の運用は特に考えておらず,7500万米ドルの外貨預金は米国弁護士の意見で止めている旨の発言があった。

また,Gらは,当面の新規事業として,① 全国展開中のパチンコチェーン(約50店舗)を買収するべく契約締結の段階まで行っている(総年間売上約1500億円,税引き後利益率約3パーセント),② ファッションホテル事業への進出を計画中である(利益率15から20パーセント),③ P社がCIビル敷地を買収し,消費者金融等をテナントとするビルの建設を計画中である,などと説明した上,リストラの進展状況について,① <省略>区土地の売却を20億円程度で折衝中,② <省略>町土地を<省略>市に公園墓地として20億円で売却予定,③ <省略>区駐車場を10億円で売却予定,などと述べた。さらに,Gらは,各ゴルフ場の売上げについてはトータルとして収支トントンといった状況であるが,BCカントリークラブのクラブハウス改修が終わり,BOグリーンコースのクラブハウス改修も予定していることから,今後は入場者数や会員権販売の増加を期待することができるなどと説明した。加えて,BW課長らは,従前のヒアリングにおいて抵当証券は当面現状を維持し,今後は縮小していくとの発言があったが,と問いただしたところ,平成8年10月に購入したCIビル敷地に係る同年11月1日付け7億8000万円の特約付き融資は,優良物件に対する一時的なものであり,抵当証券の販売残高を減らしていく方針に変更はないと述べた。(なお,A社は,上記抵当証券を最後に抵当証券の発行を受けていない。)また,手形商品について,A社は,当初平成9年中に全額回収を予定していたものの,ゴルフ会員権の販売状況からみて計画どおりの回収は困難であると述べた。なお,同日,A社グループの実績ベースでの連結損益計算書(仮締めのもの)が提出され,グループ合計での赤字幅が拡大していたが,AK会計士がこれはあくまで仮締めの数字であるなどとしたため,近畿財務局は,A社グループ全体の貸借対照表及び損益計算書の提出を求めた上,本年末に実績が確定するので,遅くとも来年2月ころには再度ヒアリングを実施したい旨申し入れ,同会計士も協力を約した。最後に,A社側からは,現在も手持ち資金は約100億円あり,資金繰り表が必要であれば何時でも提出する,当社は絶対に倒れないなどの発言があった。

BS補佐やBT係長は,A社が依然として手形商品の販売を継続していることに加え,抵当証券発行額を漸次縮小させるとしていた方針に反して新たにP社に対する新規の特約付き融資を行ったこと,BOゴルフ場に係る追加発行分の抵当証券の販売自粛指導を撤回するよう政治家を使って圧力を掛けてきたことなどから,A社の資金が尽きかけているのではないかとの危機感を持ち,金融第3課に対し,同社の財務状況を実地に確認するとともに,その収益計画についても裏付けを取るよう何度も指示した。特に,BS補佐は,BW課長に対し,関東財務局はF社の財務状況を関係会社に至るまで的確に把握し,会社整理通告の準備まで行っている段階であるのに,なぜ近畿財務局では同様の調査ができないのかなどと再三にわたりただすとともに,抵当証券保管機構(本省金融会社室に2週間に1度程度担当者が出入りしており,A社について非常に問題のある業者とみなしていた。)が同社の抵当証券に係る担保物件の一部を簡易鑑定した結果(おおむね,抵当証券発行時に同社が提出した不動産鑑定評価額の半分程度の価格しかなかった。)を知らせ,近畿財務局においても必要であれば同機構の協力も得て同様の方法で同社の担保物件の状況を調べるよう指示したが,金融第3課は積極的に動こうとはしなかった。また,同課は,A社からのヒアリング結果等に係る連絡記録票について,本省金融会社室の側からの督促がないと迅速に送付してこないことがあるなど,本省金融会社室が危機感をもって対応しているのに比べ,総じてA社の監督に消極的な対応であった。

その後,A社は,AK会計士の都合などを理由に速やかに資料を提出せず,平成9年4月15日になって,ようやく平成8年12月31日時点におけるA社グループの貸借対照表(平成8年1月1日から同年12月31日までの1年間で各社合計44億0213万円余の当期損失を出し,同年12月31日時点での債務超過額が147億6282万円余に増加しているもの。なお,同日時点における現金・預金は約77億5700万円となっている。)及び平成9年上期の資金繰り表(平成9年6月末時点で約75億円の資金残高があるとするもの。)を提出した。資金繰り表の脚注欄には,同年11月前後にP社の<省略>町土地に霊園事業用地としての許可が下りる予定であること(販売予想総額89億2800万円),R社の系列会社において同年6月以降消費者金融を開業する準備を完了しており,年利30パーセントで貸し出して利益を得ること,同年7月以降AP社のメイン事業であるごみ焼却灰のリサイクル事業が<省略>市との提携により本格化すること,などの記載があったが,これらは,AK会計士が,Gの言った内容をそのまま資料化したものにすぎず,同会計士からみて,これらの計画が実現する具体的な見通しはなかった。しかしながら,平成8年経営健全化計画に対する損益計算書ベース,資金収支ベースの実績資料は提出されなかったことなどから,CA検査官らは,早急にこれらの資料を提出するよう指示した。

その後,A社は,近畿財務局に対し,マスコミに同社の情報を流出させているのではないかという趣旨の抗議をするようになるとともに,グループ会社に係る資料の提出要請に対しても強い警戒感を示すようになった。

(<証拠省略>)

(ケ) 平成8年経営健全化計画の初年度実績の報告

G,J及びAK会計士は,平成9年5月20日,近畿財務局に対し,A社グループ全体の損益計算書(平成8年経営健全化計画の初年度実績が,全社合計で約4億3181万円の当期損失であり,累積損失が,約108億2667万円から約112億5848万円に増加したとするもの。なお,上記計画上では,初年度末の累積損失は,約93億円から約23億円減少して70億円にとどまり,A社グループの財務状況は改善するとされていたにもかかわらず,むしろ財務状況はさらに悪化していることが明らかになったというべきである。)を提出した。BW課長らは,同日,GらからA社の業況についてヒアリングを行い,A社グループの経営改善方策についてただしたところ,① BOカントリークラブのゴルフ会員権販売(平成9年中に41億円の販売見込み),② <省略>町土地におけるR社と<省略>市との第3セクター方式による霊園墓地販売(同年11月に正式決定される予定で,総額130億円強の収入見込み),③ 消費者金融業への参入(同年6月に<省略>に店舗を設置するのを手始めに,年間10億円の運用利ざや見込み)及び④ AP社のリサイクル事業の本格化(<省略>市との間で独占的契約を結んでおり,今後2年間で10億円の利益見込み)の4点に注力して収益を確保していきたい,累積損失の発生は今後につながる先行投資である旨の説明があった。加えて,Gは,資金繰りに関し,現預金残高がグループ全体で約77億5700万円存在することから,2年程度は問題ない旨説明した。また,A社からは,新聞記者が主に手形商品について取材に来たが,金にしようとしているのではないか,業務改善命令が発出されればマスコミが知るところとなり,当社は倒産してしまう,との旨の発言,及び,抵当証券及び手形商品の販売はいずれ止めたい,との旨の発言があった。近畿財務局は,同年5月26日付けでA社に対し前記A社グループ全体の損益計算書等に関する個別質問事項を交付し,Jは,同年6月10日,近畿財務局に対しその回答を持参したが,同回答書においては,A社の借入先はGで借入金は91億9100万円,利率年8パーセントなどと記載されていた。(<証拠省略>)

(コ) 手形商品等に対する捜査

A社の営業社員らは,平成9年5月ころから,顧客を通じ,近畿財務局や大阪府警が,手形商品等に関する事情を顧客から聞き出していることを把握し,これを経営陣に伝えていた。(<証拠省略>)

なお,前記ウ(ケ)及びエ(オ)記載のとおり,大阪地検は,平成7年6月末現在で,手形商品の担保とされる米国預金残高があることなどを理由に,捜査を進めていなかったが,平成7年夏ころには,Gは米国預金を引き上げており,近畿財務局は,後述の平成9年検査の過程でこの米国預金がなくなっていることを把握し,これを大阪府警に情報提供していた。近畿財務局は,同年8月初旬ころには,大阪府警がA社の手形商品について出資法違反で捜査を進めており,同年年末にかけて強制捜査を考えているとの情報を得た。(<証拠省略>)

オ 平成9年検査

(ア) 平成9年検査に向けた検討

平成8年経営健全化計画の初年度実績が大幅な未達であったことを受けて,平成9年6月までには,本省金融会社室及び近畿財務局の間では,現状のままA社の自主的な経営改善努力に期待することは困難であり,何らかの手だてを講じる必要があるとの限度で共通の認識が醸成された。BS補佐は,平成7年業務改善命令の時点よりも財務状況が悪化していることが明らかとなっている以上,直ちにA社に対して業務改善命令を発出するよう主張したが,BW課長は,A社の財務状況が明確に悪化しているか否かはなお不明であるなどとしてこれに反対した。そこで,BS補佐が,そうであれば直ちにA社に対する立入検査に入るべきである旨主張したところ,BW課長は,更新登録(同年12月に予定されていた。)まではまだ時間があり,現在の時点で同社に対する立入検査を開始するのは不自然であるなどとしてこれにも抵抗した。最終的に,BV室長が,同社に対する立入検査を速やかに実施する方針を決定した。(BW課長がA社の財務状況が明確に悪化しているか否かはなお不明であるとした根拠は明らかでない。ともかく,以上のように,当時の金融第3課は,A社に対する監督につき,終始消極的な姿勢であった。)

A社グループの業務運営につき危機感を強めていたBS補佐及びBT係長は,事前通報なく現物検査を開始してグループ会社を含めた総勘定元帳,現金出納簿等の帳簿の記載を確認した上,これらを相互に突合するなどしてA社グループ全体の財務状況を正確に把握し,粉飾決算や架空融資の疑いがないかどうか,特に同社が実際にグループ会社から利払を受けているか否かをまず確認するよう指示した。これに対しても,金融第3課は,グループ会社の帳簿の提出を求める権限は抵当証券業規制法上認められていないなどとして難色を示したが,BS補佐は,平成7年業務改善命令の発出の際の検討資料等も参考にした上,① A社グループが実質的にGの統轄下にあること,② 平成7年業務改善命令においてもグループ会社の資料を提出するよう求めていたこと,などの観点から,少なくともA社グループについてはA社に対する立入検査においてグループ会社の帳簿類の提出を求めることも同法上の権限に含まれるとする旨の1枚紙程度の検討ペーパーを作成した上,BV室長にもその内容を説明して了解を得た。そこで,BS補佐がその旨を口頭でBW課長に説明するとともに,BT係長が近畿財務局に対し,A社に対する立入検査の際の着眼点をまとめた「O社の検査に当たって特に注意していただきたい点」とのペーパーをファックス送信し,何度かファックス等でやり取りした後,近畿財務局側も最終的にこの方針を了承した。

その結果,近畿財務局は,平成9年検査の着眼点を,① A社グループ全体の財務状況の実態及び資金繰り状況の確認,② 手形商品への乗換え時における中途解約手続等の検証,③ 法令遵守状況,並びに④ 前回検査(検査基準日:平成6年9月8日)における指摘事項の改善状況の把握等に置いた。

なお,平成9年検査開始の直前になって,BS補佐は,A社の担当を外れるようBV室長から指示された。

(<証拠省略>)

(イ) 平成9年検査の着手

CA検査官ら6名の検査官は,平成9年6月19日,A社に対する立入検査に着手した(CA検査官を含む3名が本店に,残り3名が東京支社に赴いた。)。平成9年検査は,平成6年検査が終了まで長期化したことにかんがみ,現物検査に2日間,現物検査から本店への一般検査までの準備期間(作成・提出要求資料の作成等のための期間)を10日間,本店への一般検査を4日間実施することを当初から予定していた。

CA検査官は,立入検査初日の午前9時すぎ,A社本店において,Jに対して検査命令書を提示するとともにその写しを交付して立入検査に着手しようとした。しかしながら,Jは,CA検査官に対し,責任者が不在であり,検査に対応するにはGの了解が必要である,などと主張し,その後,Gも「いつも不在時に検査に来る。」「オフィスに入られると社員が不安がるし,お客さんに無用の心配を掛けるので応接室でやってくれ。」などと電話で抗議してきた。結局,CA検査官らは,融資実務等の責任者であるADが出勤するまで待つことにし,実際に本店における現物検査に着手することができたのは午前11時すぎとなった。CA検査官らは,午後1時ころから,A社に対し,同社及びグループ6社の検査基準日(平成9年6月18日)現在における預金の残高証明書,同じく直近2ないし3期分の決算書及び総勘定元帳,平成9年3月末時点における連結決算書などの提出を求めた。しかしながら,Gが,午後2時ころにCA検査官に再度電話し,「社員から聞いたが,『財務局が検査に来ているだろう。』とマスコミが確認に来たようだ。なぜ財務局検査がマスコミに漏れるのだ。事の真相が明確になるまで中断してくれ。」などと強硬に抗議してきたため,CA検査官らは一時的に立入検査の中断を余儀なくされた。Gは,BW課長や,本省金融会社室にも同様な抗議の電話を執拗に繰り返して立入検査を中止するよう迫ったが,大蔵省側はこれに応じず(BS補佐は,ここで止めればつけ込まれる,と後任の課長補佐に助言した。),結局,午後4時すぎになってGが立入検査の継続を容認する姿勢を示したことから,CA検査官らは現物検査を再開し,午後6時すぎまで継続した。同様に,東京支社に赴いた検査官らも,Gの抗議で2時間以上立入検査を中断し待機することを余儀なくされた(なお,東京支社に現物検査に赴いた検査官らは,翌20日は名古屋支社で現物検査を行った。)。

以上のような経緯で,本店の現物検査に着手した時期が午前11時をすぎており,当日の入出金により現金残高に異動の可能性があったこと,手元の小口現金が一見して少額であったことなどを理由として,CA検査官らは,小口現金,小切手等の残高と帳簿上の金額との照合までは行わなかった(なお,A社側も,平成6年検査の際と同様,税理士が定期的に伝票から帳簿を整理しており,現金の入出金については日次では把握,管理しておらず,正確な残高を証明することができる資料はない旨説明していた。)。もっとも,現物検査では,融資先からの借入申込書,申込者の返済能力や事業計画の妥当性を判断するための必要資料が存在しないこと,取締役会の議事録にも審査した事実の記載がないことが判明し,不備不適事項となるべきその余の事項(モーゲージ証書に係る保証料率が広告と実態とで異なること,東京支社及び名古屋支社において抵当証券原券の写しの一部が閲覧可能な状態で備え付けられていなかったことなど)も発見された。

(<証拠省略>)

(ウ) 国家公務員法違反の指摘

A社側は,平成9年6月25日,AL弁護士らを伴って近畿財務局を訪れ,同月3日に<省略>新聞記者が手形商品について同社関係者に取材を行った際,同記者が平成6年10月21日に行われた近畿財務局のAL弁護士らに対する手形商品に関するヒアリングに係る連絡記録票の記載を引用していたこと,これは近畿財務局の担当者から取材した結果である旨上記記者が認めていたこと,などを告げ,これらの事実から近畿財務局の担当者が国家公務員法100条(守秘義務)に違反したことは明らかである旨主張するとともに,上記取材の際の録音テープを提出する用意があるとした。A社は,後日,実際に上記録音テープを反訳書付きで近畿財務局に提出するとともに,同局内部において情報漏洩の有無について調査の上,必要な処置を執るよう申し入れた。(<証拠省略>)

(エ) グループ6社の総勘定元帳の提出と回収

Jは,立入検査の立会をしていた際,CA検査官らからA社及びグループ6社の決算書や総勘定元帳等の提出を求められ,不在であったGに連絡をとって確認して了解を得た後,グループ6社の直近数期分の総勘定元帳等の帳簿類を任意に提出した。そこで,CA検査官らがこれらを検証したところ,「(借方)長期借入金/(貸方)受取利息」等,それ自体では資金の移動を確認することができない仕訳が多数認められた。また,CA検査官らは,グループ6社が債務超過であり,その営業も振るわないことなどから推して,グループ各社の利払の原資のうちA社からの特約付き融資によるものが主要な割合を占めているであろうことは認識していた。しかしながら,CA検査官らは,A社が従来から借入れ,融資,利息受取りの多くを現金勘定で処理している旨説明していたため,預貯金口座の検証をしても余り意味がないと考えられること,Gの資金調達先についても同人が以前から明言を避けており,任意の協力を望むべくもないこと,グループ6社の経営状況は極めて悪化しているが,現に事業を継続している旨の説明があり,いずれも実質的に破綻しているとか経営改善の見込みがないなどと断定することができる状況ではないと考えられること,過去においてグループ6社が利払を延滞した事実もないと認められること,などを理由として,グループ会社はもとより,A社の預貯金口座の検証も行わず,同社グループ間における資金移動の実態も調査しないまま,同社に対するグループ6社の利払に延滞の事実は認められない旨の結論を下した。

もっとも,CA検査官は,平成9年7月1日ころ,補佐官の1人から,本件貸付金について,R社の総勘定元帳には記載されていない旨の報告を受けた(A社の総勘定元帳には,平成8年4月1日の欄に,摘要欄をいずれも「R社」として,(借方)抵当証券貸付金5,500,000,000/(貸方)長期借入金5,500,000,000との仕訳(本件仕訳)が記載されていた。)。そこで,CA検査官が,AK会計士に事実関係をただしたところ,AK会計士はしばらく事実関係を確認する時間が欲しい旨申し出た。その後間もなく,A社から,グループ会社の帳簿類を調査したことについての抗議があったため,近畿財務局は,前記(ア)記載のとおり,平成9年検査開始前に,A社についてはグループ会社の帳簿類の提出を求めることも抵当証券業規制法上の権限内であることが本省金融会社室との間で確認されており,同社グループ全体の財務状況の実態及び資金繰り状況の確認が検査の着眼点とされていたにもかかわらず,本省金融会社室に特段諮ることなく,平成9年7月7日,コピーを含めてグループ会社の帳簿類をA社に返還した(近畿財務局は,A社の総務部長であるJ(平成9年検査当時は,グループ会社の役員を兼務してはいなかった。)からこれら帳簿類の提出を受けたものであるところ,同法2条1項により,近畿財務局長にはA社に対してその所持する帳簿類の提出を命じる権限があったことは明らかであるから,同局長は適法にこれらの帳簿類を保持していたのであり,A社から抗議されたからといって,同法上これを返還するまでの必要はなかった。なお,金融第3課は,同月8日,A社の平成7年3月期,平成8年3月期及び平成9年3月期の3期分の決算書,グループ6社の直近数期分の決算書等については,A社から任意に提出を受けた。)。

しかしながら,帳簿類の調査を通じてグループ会社の財務状況を近畿財務局に把握されることを恐れたG,J,AK会計士,AL弁護士,T及びIは,平成9年7月8日,近畿財務局を訪れ,Gにおいて,「今回の検査では,今までの検査ではないことをしている。グループ会社の帳簿まで持って来させて調査した。法人にも個人と同じように犯してはならないプライバシーというものがある。」「帳簿を見せられたことによって人格,法人格が踏みにじられたことになる。」「私は今回の検査は捜査だと思っている。私の承諾なしにグループ会社の資料まで持って帰られた。」などと強く抗議した。また,Gらに同道したTは,なぜR社の帳簿まで調べるのか,当社にとって大事な書類をメモ1枚で持っていくことに疑問を感じる,資料を押収されたような感じだ,近畿財務局から当社に融資するなと言われれば死活問題となる,などと近畿財務局に抗議し,同じくIは,近畿財務局にいう筋合いではないことは分かっているが,自分が文句を言いたいのはGであるなどとした上,「社長がたとえ了解のうえ見せたとしても,私は社長を怒りたい。」「自分は自分で商売をしている。(P社は)赤字決算であるが,決して赤字と言って商売をしているわけではない。」などと述べた<原判決の記載位置移動及び補正>。上記抗議は近畿財務局に対する牽制の趣旨であり,TやIをあえて同行し,同人らにグループ会社としての立場を主張させたのは,Gの指示によるものであった。

これに対し,近畿財務局は,「グループ会社の了解を得たかどうかは内部の問題ではないのか。当方は当然得ていると考えていた。」「商法上の子会社ではないにしろ,人的な繋がりや取引関係,資金供給等から実質ベースでは関連会社であるとみている。これまでの社長の発言も関連会社として資金繰りに問題はないなど関連会社であると明言されている。検査の立場からはあくまで任意に見せてもらっている。」と主張したが,Gは,さらに「グループ会社の社長からも了解をとったか,と駄目を押すべきではないか。グループ会社の帳簿まで見ることについて抵当証券業規制法でできるのか。例えば大蔵本省には確認しているのか。」などと抗議を続けた。近畿財務局は,「当方はグループ会社を含めた資金繰りを見ているのであり,本省にも確認している。」「通常,融資先については稟議書類等の決算書類で融資先の内容は判るが,A社の場合,融資先で関連会社でもあるが一切(資料として)徴求していないことから,A社グループ全体の資金繰りの確認のためにお願いした。」旨説明するとともに,「今回のお話があったので,コピーはすでに昨日お返ししている。」とも述べたが,Gは,「グループ会社の帳簿は公的には検査対象としないということに願いたい。」と念を押し,近畿財務局は,趣旨は分かった旨応じた。

また,AK会計士は,本件貸付金について,「A社がR社に55億円の小切手を渡していたが,この件に関しては私は知らなかった。臨時株主総会を開いてでも,確定決算を変えようかと考えている。」などと釈明した(その後,後記(サ)のとおり,A社から近畿財務局に対し,同年10月22日付けAK会計士のR社に対する報告書(同社の総勘定元帳に本件貸付金の計上がないとの指摘を受けていることに関し,自身の会計事務所の不注意による仕訳漏れが生じ,記帳漏れになったことを詫びるとともに,計上漏れについては平成8年9月1日の時点で判明し,同社においても記帳済みであるとの趣旨のもの)及び平成9年10月28日付け同社のA社に対する報告書(本件貸付金の計上がないとの指摘を受けていることに関して,経理事務処理をAK会計事務所に一任していたために記帳漏れに気づくのが遅れたことを詫びる趣旨のもの)が提出された。)。CA検査官は,小切手であれば55億円の資金移動の方法としてあり得ること,R社とA社との間には双方が記名押印した本件貸付金証書が存在すること,本件仕訳も,現金預金勘定を省略した中間省略仕訳として理解できないではない旨の補佐官の説明があったことなどを理由に,本件貸付金の存在については疑義があるとしつつも,R社の当座預金口座の入金状況についてはもとより,当該小切手の振出人がだれであるか,A社の当座預金口座に対応する出金状況が記録されているか等の点についても,それ以上調査しようとはしなかった。…(本件貸付金は,前記エ(エ)(オ)や後記(オ)のとおり,近畿財務局において平成8年以来販売自粛指導を行い,Gが政治家をも使うなどして抗議を繰り返していた抵当証券に係るものであり,55億円という額からしても,単なる不注意による記帳漏れは容易に想定し難く,また,平成8年経営健全化計画の連結資金収支予測においては,R社の抵当証券借入金は平成8年中には存在しないものとされていたから,この点からも,資金需要には疑問があることから本件貸付金の実在性を疑うこともできたはずであるが,CA検査官は,これらの点も追及しなかった。)

(<証拠省略>)

(オ) 抵当証券販売自粛行政指導に係る文書の交付

Gは,平成9年7月8日の抗議の場で,BW課長に対し,BOゴルフ場に係る追加発行分抵当証券の販売自粛指導につき,抵当証券業規制法で指導することができる根拠について改めて疑義を示したため,BW課長より,「大蔵本省から,専門家が集まっている法務鑑定委員会から過大であるとの鑑定結果が出たので,販売を自粛させるよう指示があり,当局から社長に対し販売自粛等の要請を行ったものである。」と応じたところ,A社側は,「『55億円を販売してはならない,との指導の時期,その内容及び根拠』を文書をもって回答をするよう,口頭ではあるが正式に要請する。行政指導である限り,行政手続法上,文書要求できるはずである。55億円のものが死金になっており,一刻も早く出していただきたい。訴訟の検討にも入っている。」「55億円あれば,資金繰りは永久に大丈夫である。なければ正直言って苦しい。」などと述べた。

ところで,平成8年7月1日から平成10年6月21日までの間,近畿財務局理財部次長を務めたD(D次長)は,当初1年間は,検査及び融資業務等担当次長を務め(その間はA社について担当したことはない。),後半1年間は金融証券行政担当次長を務めたが,金融証券行政担当次長であった平成9年8月ころ以降,A社の監督を担当することとなって,後述する業務改善命令発出等の事務を自ら中心となって立案し,直接大蔵本省や局幹部との調整を行うようになった。D次長によるA社の担当が,着任後1か月程度経過した平成9年8月ころ以降となったのは,A社の件が複雑な事案であったため,平成8年度のCJ近畿財務局長の指示により,前任のCK次長が,平成9年7月の異動後もしばらくの間A社を担当し,その後に引き継ぎを受けたからであった。また,同月には,上記CJの後任として,C局長が近畿財務局長に着任した。ちなみに,前記のとおり,近畿財務局では,このころまでに,大阪府警がA社に対し年末にかけて強制捜査に踏み切る方針であるとの情報を得ていた。

そこで,近畿財務局は,本省金融会社室とも協議の上,販売自粛要請は抵当証券業規制法上に明確な根拠を持つものではなく,A社から抵当証券の販売を妨害されたとして訴訟提起される可能性も考えられるが,行政手続法35条2項の文言上,自粛指導を継続するのであれば文書を出さざるを得ないし,自粛指導を撤回すれば,A社が破綻した場合に厳しい批判が寄せられるとして,文書で自粛指導を発出することを決め,BW課長名の同年8月8日付け事務連絡文書をもって,下記のような行政指導をA社に対して行った。

「趣旨:平成7年11月8日第70号をもって宇都宮地方法務局那須出張所から交付を受けた100億円の抵当証券に係る物件とほぼ同じ物件に関し,平成8年6月6日第71号をもって同出張所から追加交付を受けた55億円分の抵当証券について,当該交付申請に添付された不動産鑑定評価書の評価額としては120億円が妥当であり,抵当証券発行手続上の担保物件の価値の上限を上回る可能性が極めて高い旨,法務省民事局第3課から連絡を受けており,このような抵当証券を販売することは,抵当証券業規制法23条に規定する抵当証券の購入者の利益を害する事実に該当するおそれがある。

内容:平成8年6月6日第71号で宇都宮地方法務局那須出張所から交付を受けた55億円の抵当証券の販売を行わないこと。」

その間も,A社は,AL弁護士も伴って,手形商品に係る情報漏洩の問題や,BOゴルフ場に係る追加発行分の抵当証券の販売自粛を求められていることなどを持ち出し,繰り返し近畿財務局に対する抗議を行った。

(<証拠省略>)

(カ) 融資審査体制に対するやり取り

CA検査官が,平成9年検査における現物検査の結果,A社の融資審査体制が依然として未整備であると認められたことについて指摘したところ,Gは,融資先はグループ会社であり,すべて把握しているから問題はない,融資に当たっては自分が自ら担保物件を調査して判断している,書類審査をするか否かは単なる形式の話であって,書類を残せばよいというものではないなどと反論した。

(<証拠省略>)

(カ-2) D次長による検討と弁明の機会の付与等

前記のとおり,このころA社対応の陣頭指揮を執るようになったD次長は,前任者からの引き継ぎ及び金融第3課の担当者からの説明等により,平成9年8月から9月にかけて,A社の融資先であるグループ6社がいずれも債務超過で,かつA社から提出された平成8年経営健全化計画の実績が初年度から大幅に未達となっていることを把握し,平成9年検査においてA社がグループ全体で約60億円の現預金を有しており資金繰りが直ちに破綻する状況にはないことを確認していたものの,これをそのまま放置すれば,A社が破綻をして,抵当証券購入者に大きな被害が生じ,抵当証券購入者の利益を害する事実が発生する可能性があると考えた。そのため,D次長は,抵当証券業規制法の範囲内で迅速な対応が必要であると考えたが,資産査定によってA社の債務超過を認定し同年12月の本件更新登録を拒否することは,そもそも当時抵当証券業者について資産査定を行う仕組みがなく,またその人員体制も整備されていなかったため,資産査定を行うこと自体が事実上困難であるし,仮に資産査定を行ったとしても,融資先であるグループ6社が回収可能性のないⅣ分類に区分されることはないだろうと考え,資産査定により更新登録を拒否することは困難と考えた。そこで,D次長は,行政当局として可能な措置としては,早急に業務改善命令を発出し,それを契機に,本件更新登録前にA社を破綻処理することが,抵当証券業規制法に定める購入者保護に沿うための方策であると考えた。他方で,近畿財務局内では,前記のとおり,大阪府警が手形商品について出資法違反の捜査を進めており,年末にかけて強制捜査が予想されるとの情報を得ており,またマスコミ報道がそれに先行する可能性もあると把握していたところ,強制捜査やマスコミ報道から取付け騒ぎが起きて破綻に陥ると,近畿財務局として業務改善命令を発出するタイミングを失することにもなりかねないとの懸念もあったため,D次長は,可能な限り早い段階で業務改善命令を発出し,大阪府警による強制捜査による事実解明と,財産保全のための会社整理の通告をセットとして破綻処理することを計画し,大阪府警との打ち合わせを行ったり,大阪地方裁判所へ会社整理通告について相談に赴き,さらに大蔵本省及び近畿財務局内での説明や調整を行うなどした。

こうした作業を一応一通り終えた上で,D次長は,同年9月2日付けで,業務改善命令に先立つ弁明の機会の付与にかかる決裁文書(乙183の1)を実質的に起案した。その当初の起案内容は,概要下記のとおりであるが,そのうち『 』内は,その決裁の過程で削除された。なお,削除された経緯や理由について,D次長は,詳細な記憶はない旨証言している。

(A社行政処分方針案)

1.A社の状況

(1) 概要

A社は,昭和63年12月に近畿財務局で登録を受けた独立系の抵当証券業者である。バブル経済崩壊後低迷を続ける抵当証券業界にあって,年々販売残高を伸ばしており,平成9年3月末現在の抵当証券販売残高479億円(業界127社中15位),販売件数約2万件,購入者数約1万人となっている。

(2) 関連会社への融資

A社の融資先は,ゴルフ場の経営等を行っているグループ6社(5社の社長はA社社長の長男,1社は同社社長の友人)であり,融資先と融資している抵当証券業者とが一体となった極めて特異な状況(実質上の自己融資)となっている。

A社自身は,利益を計上(平成9年3月期当期利益1700万円)しているものの,グループ6社はいずれも多額の債務超過となっており,グループ全体の経営状況は極めて厳しい状況(平成8年12月末グループ連結債務超過額105億円,同年グループ合計売上高67億円)にある。また,グループ各社とも,銀行取引がほとんどなく,A社が抵当証券及び手形商品によって調達した資金等によって,資金繰りを行っている。

(注)A社には,この他,社長個人からの長期借入金81億円(平成9年3月末)があるが,その資金源は不明。

(3)  手形商品

A社は,平成6年8月以降,多数の抵当証券購入者に対し,中途解約を進めるとともに,グループ会社の振り出した約束手形にA社が裏書きし,これを弁護士が保管しているという手形保管証を購入者に交付する新しい商品(手形商品)の購入を勧めている(平成9年3月末販売残高約150億円,購入者800~900人)。この商品は不特定多数の者に対して販売が行われ,かつ,元本保証しているかのように説明している模様であり,出資法違反の疑いがある。

(4)  BOゴルフ場を担保とした抵当証券の発行

A社は,平成7年11月,R社の保有するBOゴルフ場に抵当権を設定し,130億円の抵当証券の発行を申請したが,法務局は鑑定評価額が高すぎるとして,100億円の抵当証券を交付した。さらに,平成8年6月,同ゴルフ場を担保としてA社が55億円の抵当証券の追加発行を申請したところ,法務局は担当者が変わったこともあり,申請通り,の抵当証券を発行してしまった。

その後,法務本省より大蔵本省に対し当該担保物件の鑑定評価は過大であるとの連絡があり,近畿財務局がA社に対し,追加分の販売を自粛するよう指導している(当初口頭指導,平成9年8月8日にA社の求めに応じ指導内容を文書で交付)。

また,この55億円の追加融資(本件貸付金)については,融資先のR社側の帳簿に記載がないことから,架空融資の疑いもある。

2.行政対応の経緯

(1) A社については,業界全体が伸び悩む中で高金利により抵当証券の販売残高を急増させていること,また抵当証券業協会より手形商品に関する情報を入手(平成6年8月11日)したことから,近畿財務局は同年9月9日に立入検査に着手した(平成6年検査)。手形商品については,近畿財務局は,同年10月11日,A社に対し出資法違反の疑いがある旨を伝達するとともに,平成7年4月13日,大阪地検に情報提供を行った。

(2) 平成7年5月26日,A社に対し,平成6年検査の検査結果通知を交付し,① 経営健全化計画の策定,② 資金繰り財源計画の策定,③ 審査体制の整備,④ 事務管理体制の確立について同年6月26日までに回答するよう求めた。その後,A社から経営健全化計画,財源計画の提出が行われないことから,同年8月21日,近畿財務局は業務改善命令書を交付しようとしたが,A社は受取を拒否した。

(3) 平成7年12月以降,近畿財務局はA社の経営状況について逐次ヒアリングを実施しており(平成9年5月までに7回実施),また,平成8年4月12日にはA社より同年経営健全化計画が近畿財務局に提出されている。なお,同年8月,前記のとおり,BOゴルフ場に係る抵当証券の鑑定評価が過大であるとの法務本省からの連絡を受け,行政指導により当該抵当証券の販売の自粛を要請した。

(4) 平成9年6月19日,平成8年経営健全化計画の初年度である平成8年度の実績が出たこと等を踏まえ,近畿財務局は,A社に対する平成9年検査に着手した。

近畿財務局は,グループ全体の状況を把握する必要があることから,① グループ各社の預金残高証明書,及び② A社グループ全体の平成9年3月末の連結決算書の提出をA社に対し求めており,預金残高証明書は提出されたが,連結決算書については,当初A社は同年8月末に提出するとしていたが,担当の公認会計士の病気を理由に結局同月中には提出されなかった。A社は同年9月17日までに提出するとしているが,この申し出が守られる保証もないので,速やかに業務改善命令を発出する観点から,検査は8月末をもって終結した。

3.業務改善命令の発出

(1) 発出の必要性

グループ6社が破綻した場合,A社も破綻することが予想され,また担保となっている不動産からの回収も一部にとどまると予想されることから,抵当証券の購入者に多大の被害が発生することが予想される。したがって,その被害を最小限に抑えるとともに,被害の拡大を防止することが,購入者保護の観点から極めて重要と考えられる。また,A社が破綻した場合,国会でこれまでの監督の経緯について厳しく追及されるほか,被害者から国家賠償請求訴訟を提起される可能性が否定できないことから,行政当局としてできる限りの措置を行っておくことが必要である。

(2) 抵当証券業者に対する検査・監督のあり方

基本的には,抵当証券業規制法は,営業の自由をできる限り尊重し,規制を必要最小限にとどめるとの観点から登録制を採用し,主として二重売り・カラ売り等不適切な販発等を規制し,抵当証券の購入者保護を図ろうとするものである。したがって,立入検査においても,業務上の行為規制(広告規制,情報開示等)が遵守されているかどうかを検査することに主眼がある。こうした法令の趣旨及び検査体制の現状(限られた人員)を踏まえれば,一般的に各抵当証券業者について,免許制をとる銀行等と同様の経営の実態把握を行うことは,今後においても適当とは考えられないが,行政当局として個別に購入者保護を損なう恐れのある経営状況を把握した場合には,法令に照らして適切な対応を行うことは当然である。

(3) A社の状況

平成9年検査の結果等によれば,以下の点が指摘できる。

① A社は,グループ6社に対する融資に当たり,従前からの指摘にもかかわらず借入申込書,財務内容,資金使途等を示す書面を徴求しておらず,役員会議議事録にも融資に係る記載がないなど,融資審査体制が未整備である。『また実行した融資の債権管理についても,融資先が債務超過であり,担保についても地価下落等により大幅な担保割れが想定されるにもかかわらず,何らの対応も行われていない。』

② 平成8年12月末のA社グループ全体の連結決算では,グループ6社はいずれも債務超過となっており,かつ,平成8年経営健全化計画の達成状況は,初年度(平成8年度)が大幅な未達となっており,結果的に同社の経営が行き詰まる可能性がある。

(4) 購入者利益との関係

業務改善命令は,抵当証券の購入者の利益を害する事実があると認めるときに発出することができるとされており,A社の状況がこれに該当するか検討する必要がある。

まず,融資の審査『・管理』体制が不備であることについては,抵当証券は基本的に債務者から元利の弁済が確実に行われること及び担保価値が十分にあることが期待されている商品であり,抵当証券業者において,『担保を含めた』融資の審査『・管理』体制が不備であることは抵当証券の購入者の利益を害する事実に該当するおそれがあると認められる。

また,グループ6社の経営状況が極めて悪いことから,A社の経営が行き詰まる可能性が極めて高い状況にあるところ,抵当証券については融資先が元利の負担者であり,抵当権が設定されている不動産により元利が回収されるべきものであることから,抵当証券業者の破綻は購入者保護の観点から問題とならないとの考え方もできるが,抵当証券業者は融資先から元利を受領し,抵当証券の購入者に支払をするという業務を的確に遂行する役割を担っており,抵当証券業者が破綻した場合には,抵当証券保管機構はあるものの,円滑な元利金の受領弁済が受けられなくなることから,購入者の利益を害することになると考えられる。

なお,抵当証券業者は,購入者に対し抵当証券の元利を保証し,さらに一定期間(1ないし5年)後に買戻すという約定で販売するのが通常であるが,抵当証券保管機構が元利の弁済受領等業務を行う場合には,元金の弁済は抵当証券原券の弁済期日(通常1ないし30年後)となってしまうことからも,抵当証券業者の経営破綻は購入者利益を害することとなる。また,同社に対し平成7年業務改善命令を発出しようとした際には,融資先の関連企業が資金繰りが窮しかねないほど経営状況が悪化しており,かつ,好転する要素が現状では見いだせない状況にあることから,結果的に抵当証券業者の経営が行き詰まる危険性が極めて高い場合には,購入者に被害が生じる蓋然性が高いから,「購入者の利益を害する事実」があると認められ,業務改善命令を発出することができる,との考え方で内閣法制局の了解を得ている。

また,「2年前には業務改善命令の発出を見合わせたにもかかわらず,今回はなぜ発出することとしたのか」と問われた場合,「当時はA社の自主的な経営改善努力に期待する余地があったが,現状をみると,業務運営体制の不備は何ら改善されておらず,また,自主的な経営健全化計画も初年度より大幅未達となっており,もはや同社自身による積極的な対応を期待することができないことから,法令に基づく命令により同社の対応を求めることとした。」と説明してはどうかと考える。

(5) 業務改善命令の内容

業務改善命令の内容については,その根拠条文で与えられている裁量の範囲や,抵当証券業規制法上,業務改善命令に違反した場合には,登録の取消し又は業務停止命令の対象となることから,命令先が具体的に何をすべきか不明確であり,また,明らかに実行不可能なものは,業務改善命令として不適切であると考える。

購入者保護の観点から,具体的に以下の命令事項が考えられる。

① 融資審査『・管理』体制の整備

融資決定前に行うべき審査の方法や手続を定め,当該手続に基づき融資決定を行うなど融資に関する審査体制の確立を図る『とともに,融資後の担保を含む債権管理に万全を期す』よう求める。

なお,A社の融資先はいずれも債務超過であり抵当証券の元利弁済が滞る危険性が高いことから,直接的に債務超過先に対する抵当証券の販売自粛又は買戻し等を求めることも考えられるが,直ちに経営破綻又は命令違反となりかねないという問題がある。

また,A社の抵当証券の担保不動産は,地価下落の影響を受けるとともに,ゴルフ場のほか墓地公園予定地等も含まれ流動性に乏しいことから,最終的に換価処分した場合に大幅な元本割れを生じる可能性が高い。したがって,購入者保護の観点から,同社に対し,各融資の担保物件について処分価格で再評価を行わせ,それぞれの担保価値に見合った額まで抵当証券の販売額を抑制するよう求めることも考えられる。しかしながら,地価下落等による担保割れは全抵当証券業者に共通の問題であり,本来抵当証券とはこうしたリスクを内在しているとも考えられることのほか,この場合も直ちに経営破綻又は命令違反となる可能性がある。

② 経営状況の改善

A社の経営破綻を回避するため,グループ6社の今後の経営見通しを正確に把握した上で,経営健全化計画を策定し,その内容の確実な実施を求める。

③ 抵当証券買戻し資金の確保

今後の抵当証券の買戻しに係る資金の確保を図る『ため,毎月の資金繰りを把握し,資本の充実等の措置を講ずるなど,財源計画を策定した上で,その内容の確実な実施』を求める。これは,抵当証券の購入者を直接的に保護するための措置であり,盛り込むことが適当と考えられる。

(6) 発出の時期

年末にかけて捜査当局の強制捜査が予想され,またマスコミ報道の可能性(強制捜査に先行する可能性もあり)に鑑みれば,当局としての対応をできるだけ早く行っておく必要がある。すなわち,強制捜査等によりマスコミ報道がなされると,取付け騒ぎから破綻に陥り,業務改善命令を出すタイミングを失することにもなりかねない。

なお,A社は平成9年12月に登録の更新時期を迎えるが,仮に更新後に破綻した場合,購入者等からA社は更新時点で実質的に債務超過に陥っていたにもかかわらず近畿財務局は更新したとして厳しい批判が予想される一方,破綻前に資産査定によってA社自身の債務超過を認定し,更新を拒否することも困難と考えられる。したがって,強制捜査による事実解明が速やかに行われることが望まれ,こうした観点から当方より捜査当局に対し手形商品等の情報提供を積極的に行っているところである。

一方,近畿財務局はA社に平成9年8月末を期限としてグループ全体の連結決算の提出を求めていたが,担当の公認会計士の病気を理由に提出されなかった。A社は,同年9月17日までに提出するとしているが,この申出が守られる保証もないので,速やかに業務改善命令を発出するとの観点から検査は同年8月末をもって終結し,弁明の機会の付与(同年9月4日頃)を経て同年9月11日頃発出することとしたい。なお,業務改善命令の発出がマスコミ報道のきっかけとならないよう,非公表とするとともに,行政内部における情報管理の徹底を図ることとしたい。

4.破綻時の対応

(1) 抵当証券保管機構による弁済受領等業務

抵当証券保管機構は,購入者との間の契約により,弁済受領等業務を行うことができるので,対外的にはその旨説明していくことになる。

なお,抵当証券保管機構が行う弁済受領等業務に要する費用は,同機構の定款上,全額購入者負担が原則となっており,著しく担保割れを起こしているものについては,実質上購入者の手取りがゼロになるものもありうることから,そのようなケースについては,抵当証券保管機構がその旨購入者に説明し,それでも抵当証券保管機構による弁済受領業務を希望するかどうか購入者の意向を確認した上で弁済受領業務を行うのが適当である。

(2) 財産保全

破綻に際し,抵当証券の購入者に渡すべき原債務者からの元利金の滞留分や抵当証券購入者が一般債権者としての権利を有するA社の財産について,その隠匿,流出を防止することが,購入者保護の観点から望ましい。しかし,抵当証券業規制法上,抵当証券業者の財務内容を理由として業務停止や財産保全命令を行うことができないので,商法381条に基づき近畿財務局より大阪地方裁判所に対し支払い不能等の通告を行い,裁判所の職権による整理開始命令とともに,業務制限及び財産保全処分(商法386条)を行うことを求めることが考えられるが,通告を行うためには,債務超過又は支払不能を証明する資料を用意する必要があり,また,通告を行ったとしても,裁判所が会社整理の開始を命じない可能性もあるといった問題があり,今後早急にこれによる対応が可能かどうかを含め,検討したい。

5.再発防止のための制度の見直し(参考)

現在,購入者保護の観点から,一般論として言われている制度上の問題点としては,抵当証券の債務者及び担保に関し抵当証券の購入前に情報開示が行われていないこと(クーリングオフ制度もない),債務者の経営が悪化している抵当証券や地価下落等により担保割れを起こしている抵当証券の販売が行われていること,などが指摘されている。これらの制度整備については,法律改正を要するものもあり,本省金融会社室では,事態の推移を見ながら検討を行っていく必要があるとしている。

6.今後の対応

平成9年9月4日 業務改善命令についての弁明の機会の付与の通知

同月10日 弁明書の提出期限

同月11日 業務改善命令発出

同月25日 業務改善命令に対する回答期限

以上が,D次長が実質的に起案し同月2日付けで決裁に付した決裁文書<証拠省略>の内容及び決裁過程で削除された本文中の内容の概略である。なお,同決裁文書には,現在は,決裁における変更を経て現実に発令された弁明の機会の付与に係る通知書(その中には,予定する処分の内容として,業務改善命令の具体的内容が記載されている。)のみが添付されているため,D次長の当初起案当時の弁明の機会の付与に係る通知書案(すなわち,業務改善命令の当初案)は,現在では存在しない。

上記起案のとおり,D次長としては,直ちに手続を進めるため,これ以上の検査は打ち切り,同年9月4日には弁明の機会を付与して同月11日には業務改善命令を発出する予定であり,その後の可能性としては,業務改善命令をA社が受けず,直ちに業務停止命令に移行するか,あるいは,業務改善命令がマスコミに漏れて報道され,それを契機に取付け騒ぎとなり,資金繰り破綻する可能性が極めて高いと考えており,いずれにせよ,同年12月の本件更新登録前のこの時点でA社を破綻処理せざるを得ないとの認識の下に,大きな決意をもって,上記起案と調整を行っていた。また,業務改善命令の内容については,A社が近畿財務局の指導等に対し法的措置も辞さない姿勢を示す業者であるとの認識を有していたため,業務改善命令違反を理由に業務停止命令を発出した後,A社からの訴訟において業務改善命令が違法であると判断される可能性を排除しておく必要があることを考慮して,直接的に債務超過先に対する融資に係る抵当証券の買い戻しを求めることや,担保物件の担保価値に見合った額まで販売額を抑制させることなどは,命令の内容として盛り込まないこととしたものの,大幅な担保割れが想定されるにもかかわらず何らの対応も行われていないことを考慮して,「融資後の担保を含む債権管理に万全を期す」ことを求めると共に,A社グループ全体の連結決算でグループ6社がいずれも債務超過となっており,かつ平成8年経営健全化計画が初年度から大幅未達となっていることなどを考慮して,抵当証券の購入者を直接的に保護するための措置として,「毎月の資金繰りを把握し,資本の充実等の措置を講ずるなど,財源計画を策定した上で,その内容の確実な実施」を求めることなどを,命令の内容として盛り込んだ。また,D次長は,経営健全化計画の提出については,平成7年業務改善命令と同様の内容を考えており,同命令の別紙指示事項と同様,グループ6社の収支見込み自体についての裏付け資料の添付を求めることとしていた。

ところが,これを決裁に付したところ,C局長から,A社が業務改善命令を受けて改善報告書を出してきた場合や,これを出してこない場合の対応,また,どの程度の改善報告書が出てくれば当局として受理するか,改善報告書の内容を精査する過程でどのような問題が生じ得るか,これを受理することになった場合の対応など,いろいろの場合を想定して,その対応や問題点を更に詰めるべきであるとの指示が出された。そのため,D次長は,金融第3課のメンバーと共に,上記の各場合における対応について詳細なシミュレーションを行って,これをC局長に説明し,またこれに基づいて本省金融会社室とも相談をした。その過程で,経営健全化計画の提出にあたり,平成7年業務改善命令と同様の指示事項を付してグループ6社の事業計画自体の裏付け資料の添付を命ずると,グループ6社の協力が得られない場合に経営健全化計画の策定自体が不可能となり,不可能な内容を命ずるものとして命令の違法性が問われかねないとして,平成7年業務改善命令の別紙指示事項に相当する策定・提出にあたっての指示は付さないこととされ,経営健全化計画の提出にあたって求める資料としては,最低限A社の平成9年度から13年度までの予想貸借対照表及び予想損益計算書並びに改善内容の具体的な説明書を要し,さらにA社が提出に応じるのであれば,裏付け資料として,グループ6社の上記機関の予想貸借対照表及び予想損益計算書が提出されれば望ましい(すなわち,A社本体の事業計画の裏付け資料(説明書等)を求めるのみであって,グループ6社の収支見込み自体の裏付け資料(その積算根拠となる客観的な資料)の添付は求めない)とされ,この内容で本省金融会社室の了承も得られた。また,C局長からは,業務停止命令に至った場合の行政としての対応も更に詰めて準備をするようにとの指示があり,これを受けて,D次長は,大阪府警と更に打ち合わせを行い,大阪府警が強制捜査の予定を早め,業務停止命令の発出と同時に強制捜査に入る段取りを取り付け,また業務停止命令にあたっての記者会見等の想定問答集の準備や,取付け騒ぎに対応するためにA社の各営業店に人を張り付ける人的な手当やホテル等の手配を行い,さらに,国会での説明の準備として,本省金融会社室に対し必要書類を送付し,想定問答の内容についても調整をし,また,大阪地方裁判所への会社整理の通告の準備を行った。

こうした準備は,D次長の当初の予想を大幅に超えて時間を要するものであり,上記弁明の機会付与の起案は,D次長の起案から50日程度を経た同年10月20日に至って,ようやく決裁された。しかも,その決裁の間に,前記のとおり,「A社の状況」の記載中から,融資先が債務超過でかつ大幅な担保割れが想定されるにもかかわらず何らの対応も行われていない,との,A社の財産的基礎に係る問題の根幹の部分が,また,「業務改善命令の内容」から,担保を含む融資後の債権管理に万全を期すことや,毎月の資金繰りを把握した上での財源計画の策定とその確実な実施を求める,との,A社の財産的基礎の実効的な確保やグループ内の資金の流れの把握にかかる部分が,その他の前記『 』内の部分と共に削除され,また,平成7年業務改善命令の別紙に相当する経営健全化計画策定・提出にあたってのグループ6社の収支見込み自体の客観的裏付け資料の添付を求める指示事項が,削除された。その上で,同月21日,上記削除部分を除いた業務改善命令を前提とした弁明の機会の付与にかかる通知書(近財金3秘第39号)が,下記(コ)のとおり,平成9年検査結果通知と同日に発出された。その際,弁明書の提出期限は,A社が来庁を拒否した場合には同月29日,来庁に応じた場合には同月28日とし,同月31日に業務改善命令を発出あるいは郵送し,同年11月14日あるいは同月18日を業務改善命令に対する回答期限として,業務改善命令に違反した場合には直ちに業務停止命令について検討するとのタイムスケジュールが組まれた。

なお,以上のように弁明の機会の付与について決裁中の同年9月29日に,下記(キ)のとおり,近畿財務局は平成9年検査を終了し,また,上記弁明の機会の付与の決裁がなされた日と同日の同年10月20日には,下記(ケ)のとおり,A社からの更新登録申請がなされている。

(<証拠省略>)

(キ) 平成9年検査の終了

A社からは,平成9年検査で提出を求め…たその余の書類のうち,…A社及びグループ6社の検査基準日現在における各預金残高証明書(グループ全体で約64億円。なお,平成9年度中に弁済期を迎える特約付き融資は2口計30億円であり,これに対する検査基準日現在のモーゲージ証書販売額は計約7億9800万円であった。)は提出されたが,当初同年8月末までに提出するとされていた連結決算書は,AK会計士の病気を理由として提出されず,その後,A社からは,マスコミに財務内容等が漏洩するおそれがあるなどとして,グループ各社の平成9年3月末における決算書の試算表(貸借対照表及び損益計算書)が同年9月29日に提出されたのみであった。近畿財務局は,同日に上記試算表が提出されたことを受けて,前記(カ-2)の弁明の機会付与の決裁中である同日に,平成9年検査を終了した。

なお,平成9年検査においては,A社による貸倒引当金の適切性の検証,商法特例法に基づく会計監査を受けているか否かの確認,不動産鑑定評価額の適否についての検証などはいずれも行われなかった。

(<証拠省略>)

(ク) チケット制会員権の販売開始等

Gは,平成9年8月ころ,ようやく手形商品の回収を決意し(Gは,平成8年夏ころに米国預金を引き上げているが,そうなると,手形商品の販売は,詐欺そのものといえる。なお,A社の経営陣は,平成9年5月ころから,大阪府警が手形商品等に関する事情を顧客から聞き出しているとの情報を営業社員から聞いていた。),償還による資金の流出を可及的に避けるべく,R社において,登録料部分を無料としたBOグリーンコースの会員権に年間に24枚の利用券を付した上,顧客が希望すれば,グループ会社の一つでそれまで休眠会社であったCL社を窓口に(これは,R社が直接顧客から買い取ることにすると,出資法違反となるおそれがあるためである。),A社グループが利用券を額面の70パーセントで買い取るという,実質的に年利約6.4パーセントの金融商品の性格を有する「BOグリーンチケット」と称するチケット制会員権の販売を開始し,同年9月までに約83億円の販売実績を上げた。ただし,販売実績の相当部分が手形商品からの乗換えによるものであった。また,G自身,当初から,上記会員権の販売は収益面ではA社グループにとりむしろマイナスになると覚悟していた。

このころ,抵当証券保管機構は,同年8月に入ってからA社の販売抵当証券の中途解約が急増している(同月のみで約8億3000万円)事実を把握し,また,<省略>町土地に係る特約付き融資(原券)の弁済期が同年11月(第1順位。20億円)及び平成10年2月(第2順位。10億円)に迫ってきたことから,同社の資金繰りが懸念されるとして,平成9年8月28日,業務部長らが抵当証券保管機構理事長の近畿財務局長宛て同月27日付け「A社の<省略>町物件の最近の動向並びに販売枠管理の現状と今後の対応検討事項について」と題する文書等を持参して近畿財務局を訪れ,BW課長らと面談し,同月に入って抵当証券の中途解約が急増しA社の資金繰りが懸念される旨伝えた。BW課長は,<省略>町土地に係る抵当証券の販売枠管理について,個別の業者の販売枠についてまで財務局が立ち入る立場ではないが,抵当証券保管機構がいうように過去に販売枠について指導したというならば,現状は第1順位,第2順位と合算で16億8000万円の販売枠管理でよいのではないか,上記20億円(第1順位)の特約付き融資が弁済期日に完済された場合の販売枠管理については,評価額が16億8000万円で債権額が10億円であることから,上限を10億円としてよいのではないか,財務局がそう指導したというのではなく,自然にそのように考えられるのではないか,財務局に再評価(再鑑定)の権限はなく,特段問題がなければ,A社に対し再評価(再鑑定)を要請することもできないから,再評価(再鑑定)をした上で新たに販売枠を設定し直すこともできない,などとA社に対する指導に消極的な回答をした。これに対し,抵当証券保管機構側は,<省略>町物件の抵当証券の販売については従来から近畿財務局の販売枠指導を受けていたものであり,今回も近畿財務局から同年10月末までは第1順位,第2順位合計で16億8000万円,第1順位に係る原券の期日完済(同年11月1日)後は10億円の販売枠指導を受けたことをBW課長に再確認した。また,<省略>町土地に係る上記特約付き融資(原券)の弁済期ごとの完済要請の依頼について,BW課長は,期限延長が認められている以上,両原券の弁済期ごとの完済をA社に強制することはできないし,その都度個別具体的に完済要請をすることもできないなどとその依頼を断ったため,抵当証券保管機構側は,完済となっても,その代わり以前拒絶したBOグリーンコースに係る抵当証券が持ち込まれる懸念がなくはなく,弁済期限を延長して再度保管の申出があった場合は,これを拒絶することができないので,事前に弁済期に完済するよう指導して欲しい,それが無理であれば,資金繰りを聴取することで情報収集に努めA社を誘導して欲しい旨重ねて依頼したが,BW課長は,完済指導はできないが資金繰りは聴取してみると答えるにとどまった。抵当証券保管機構は,同日の面談の経過を覚書にまとめた上,同年9月30日付けで本省金融会社室に送付した。(これは,A社について問題のある業者として危機感を持っていた抵当証券保管機構が,BW課長の消極的な対応に不安を感じ,本省金融会社室の指導力の発揮を期待してとった行動と考えられる。)

(<証拠省略>)

(ケ) 本件申請書等の提出

A社は,平成9年10月20日,近畿財務局長に対し,更新登録を申請した。本件申請書等の一部として,G及びADが,いずれも昭和60年3月12日より一般融資業務及び特約付き融資を担当していた融資業務経験者として記載され,抵当証券業務に関する組織図として,代表者及び役員の下に,庶務・支払を担当する総務部門(9名),特約付き融資・一般融資を担当する融資部門(16名),並びに,いずれも抵当証券の販売を担当する,販売部門(12名),東京支社(13名),名古屋支社(6名)及び横浜支店(5名)が並列的に置かれている旨の組織図が添付されていた。また,本件貸借対照表上,資産の合計額が約57,338,903千円,負債の合計額が約56,759,423千円で,その差額である純資産約579,480千円は,資本金額450,000千円を上回っていた。(<証拠省略>)

(コ) 平成9年検査結果通知及び弁明の機会の付与通知の発出

近畿財務局長は,平成9年10月21日,平成9年検査結果通知を発出し,① 前回検査で指摘したとおり,今回検査においても融資審査体制が未整備であることが認められたため,特約付き融資に関する審査体制の確立を図る必要がある,② 平成8年経営健全化計画は初年度から大幅未達となっていることから,融資先グループ会社の今後の経営見通しを正確に把握し,A社の経営健全化計画を作成するとともに,今後の抵当証券買戻しに係る資金の確保を図る必要がある,③ 本件貸付金についてはR社の総勘定元帳にその計上が認められないなど,融資の実行が疑われる内容となっており,経理処理の明確化を図る必要がある,④ 保証料の利率が広告と実態とで異なっている例がみられるなど,その他の不備不適事項がある,とした上で,「速やかに適切な対応を図られたい。」と示達した。

また,近畿財務局長は,同日付けで弁明の機会の付与に係る通知書(近財金3秘第39号)を発した。その概要は,以下のとおりである。

1.予定する処分の内容

抵当証券業規制法23条に基づき,別紙のとおり,業務の運営の改善に必要な措置をとるべきことを命ずること。

2.処分の原因となる事実

平成9年検査の結果等によれば,貴社の特約付き融資に係る審査体制が不備であり,また,融資先であるグループ会社は,いずれも経営状況が極めて悪く,かつ,平成8年経営健全化計画は初年度から大幅未達となっていることから,結果的に貴社の経営が困難となる可能性がある。このような貴社の業務運営体制及び経営状況により,貴社の抵当証券の購入者は被害を被る蓋然性が高く,抵当証券購入者の利益を害する事実があると認められる。

3.弁明書の提出先及び提出期限

提出先:金融第3課

提出期限:平成9年10月28日(火)

別紙

① 融資審査体制の確立

特約付き融資に関する審査体制の確立を図ること。このため,融資決定前に行うべき審査の方法や手続を定め,当該手続等に基づき融資を行うこと。

② 経営状況の改善

貴社の経営状況の改善を図ること。このため,グループ6社の今後の経営見通しを正確に把握した上,平成9年度から平成13年度までの5か年度について各年度ごとの貴社の経営健全化計画を作成し(ただし,平成9年度については同年10月から平成10年3月までの間の計画とする。),その内容を確実に実施すること。なお,平成10年度から平成13年度までの各年度ごとの計画については,各年度の5月末までに当該年度と残存年度についての経営健全化計画の見直しを行うこととする。

③ 抵当証券買戻し資金の確保

今後の抵当証券の買戻しに係る資金の確保を図ること。

④ 上記②の経営健全化計画については,平成9年度は平成9年11月の指定する日までに提出し,平成10年度から平成13年度までの各年度は各年度の5月末までに提出することとする。なお,提出は裏付けとなる資料を添付して書面で行うこととする。

以上のとおり,予定する業務改善命令の内容としては,弁明の機会付与の決裁の過程で削除された部分は含まれておらず,具体的には,①からは,担保を含む融資後の債権管理に万全を期すという,A社の財産的基礎にかかる問題の根幹の部分が,②からは,グループ6社の収支見込みの積算根拠の客観的な資料の添付を求めるという,健全化計画の実現可能性を担保するための措置が,③からは,毎月の資金繰りを把握し資本の充実等の措置を講ずるなど財源計画を策定した上でその内容を確実に実施することという,A社の財産的基礎の実効的な確保とグループ内の資金の流れの把握をするための措置が,それぞれ削除されており,また,③については,上記のとおりの抽象的な命令のみで,毎月の資金繰りを明らかにした上での財源計画の毎月の提出は命じられず,近畿財務局による具体的な検証や把握も予定されなかった。(上記のような命令内容の変更は,A社にとって実行が容易ではないと考えられ,抵抗が予想される命令事項を,あえて除くための措置であったと評価できる。)

(<証拠省略>)

(サ) A社による弁明書の提出等

Gは,前記通知書を受け,AK会計士に依頼して,平成13年度までにA社グループの経営状況を大幅に改善させる経営健全化計画の策定を急がせた。Gは,更新登録の時期が平成9年12月に迫っていることから,「どうしても登録を更新せんといかん。登録さえ受けられたらええんや。そのためにも健全化計画を出さんといかんのや。」などと述べ,更新登録を受けるために,形だけでも経営状態が大幅に改善することを見込めるような経営健全化計画を作成するようAK会計士に指示した。また,A社は,平成9年10月28日,① 融資審査体制の確立について,特約付き融資については従来より極めて厳重な審査を行い,特に不動産鑑定士による鑑定評価を中心として取締役会において徹底議論を行い,融資の可否を決定してきたが,今後審査手続や体制についても早急に成文化する,② 経営状況の改善について,ゴルフ場を経営しているR社,AG社及びBCカントリークラブ,並びにゴルフ場未開発のE社は,順次ゴルフ会員権を販売することにより,十分な資金の確保と経営の健全化を確実に実施する,P社及びAP社にも,遊休地の活用や売却なども念頭に置きながら改善措置を講じるよう申し入れる,③ 抵当証券買戻し資金の確保について,「逐次万全に遂行できるものと確信しております。」などとする弁明書を近畿財務局長に提出した。

また,同月21日付けの平成9年検査結果通知で,近畿財務局において融資の実行が疑われると指摘した55億円の本件貸付金については,AK会計士の会計事務所の不注意による仕分漏れが生じ,記帳漏れになったことをお詫びする旨の同月22日付けのAK会計士名義のR社宛ての報告書と,R社としては全ての経理事務処理をAK会計士の会計事務所に一任していたため,仕分漏れ・記帳漏れに気づくのが遅れ,A社に迷惑をかけたことを陳謝する旨の,同月28日付け,R社名義のA社宛ての報告書が,いずれもそのころ近畿財務局に提出され,以後,近畿財務局においては,本件貸付金の架空融資問題を取り上げることはなくなった。しかし,上記のような,いわば表面上の辻褄合わせともいうべき報告書を,いつ,誰が,何のために徴求したかについては,D次長は知らず,そのような幕引きは,D次長の関与しないところでなされたものであった。

(<証拠省略>)

(シ) 平成9年業務改善命令の決裁

D次長は,平成9年10月29日,改めて概要下記のとおりのA社に対する業務改善命令発令の決裁のための起案をし,近畿財務局は,同日中に,A社に対する業務改善命令(平成9年業務改善命令)の発令を決裁した。

1.A社の状況(省略)

2.行政対応の経緯(省略)

3.業務改善命令の発出

(前記(カ-2)記載の弁明の機会の付与にかかる決裁文書の起案内容と基本的に同様であるが,同起案内容から『 』内が削除され,また(6)以降は以下のとおりであって,「発出の時期」の項から「年末にかけて捜査当局の強制捜査が予想され」との部分が削除され,また,「破綻時の対応」の項全体が削除されている。これは,弁明の機会付与の決裁の過程で,大阪府警との間で,業務停止命令と同時に強制捜査に入る段取りが取り付けられ,他方で,同じ決裁の過程で,A社が業務改善命令を受け入れて経営健全化計画を提出し,これを受理するという場合もシミュレーションをするなどして想定されることとなった(したがって,破綻の場合の対応のみを決裁文書に記載することがそぐわなくなった)ことに基づくものと考えられる。)

(6) 発出の時期

平成9年11月上旬にマスコミ報道の可能性(強制捜査に先行する)が高いことに鑑みれば,当局としての対応をできるだけ早く行っておく必要がある。すなわち,強制捜査等によりマスコミ報道がなされると,取付け騒ぎから破綻に陥り,業務改善命令を出すタイミングを失することにもなりかねない。

なお,A社は平成9年12月に登録の更新時期を迎えるが,仮に更新後に破綻した場合,購入者等からA社は更新時点で実質的に債務超過に陥っていたにもかかわらず近畿財務局は更新したとして厳しい批判が予想される一方,破綻前に資産査定によってA社自身の債務超過を認定し,更新を拒否することも困難と考えられる。したがって,強制捜査による事実解明が速やかに行われることが望まれ,こうした観点から当方より捜査当局に対し手形商品等の情報提供を積極的に行っているところである。

一方,近畿財務局はA社に平成9年8月末を期限としてグループ全体の連結決算の提出を求めていたが,担当の公認会計士の病気を理由に提出されなかった。さらにA社は,同年9月17日までに提出するとしたが,この申出が守られず各社の試算表を提出してきている。当局は,速やかに業務改善命令を発出するとの観点から検査を終了し,検査結果通知とともに弁明の機会の付与(同年10月21日付け)を交付したところである。

(7) 弁明書の検討

A社は,平成9年10月28日に弁明書を提出してきたが,その内容は不十分であり,既定方針どおり業務改善命令を発出することとする。なお,業務改善命令の発出がマスコミ報道のきっかけとならないよう非公表とするとともに,行政内部における情報管理の徹底を図ることとしたい。

4.再発防止のための制度の見直し(参考)

(略・前掲の弁明の機会の付与の決裁書と同じ内容である。)

5.業務改善命令のスケジュール

平成9年10月21日 業務改善命令についての弁明の機会の付与

同月28日 弁明書の提出期限

同月31日 業務改善命令発出

同年11月14日 業務改善命令に対する回答期限

なお,相手方が来局できないときは,郵便により送付することとし,その場合の回答期限は同年11月18日とする。

(<証拠省略>)

(ス) 平成9年業務改善命令の発出

近畿財務局長は,平成9年10月31日,A社に対し,同日付け内容証明郵便で平成9年業務改善命令(近財金3秘第49号。非公表)を送付した(その内容は,前記(コ)記載の同月21日付け弁明の機会の付与に係る通知書に記載されたものと同様である。ただし,前記(シ)の決裁文書のとおり,平成9年度の経営健全化計画の提出締め切り日は,同年11月18日とされた。)。なお,A社に提出を求める経営健全化計画の提出については,前記(カ-2)のとおり,グループ6社の平成9年度から13年度の収支見込みを過年度の実績等客観的な資料に基づき算出した上,当該積算方法及び積算過程において用いた基礎数値の根拠を示す資料を添付することなど,平成7年業務改善命令の別紙に相当する指示事項は,業務改善命令の内容としてあえて盛り込まれず,裏付け資料としては,…最低限,平成9年度から平成13年度までのA社の貸借対照表及び損益計算書並びに同社の経営状況の改善が可能であることを具体的に説明した書面が必要であり,もし,A社が提出に応じるのであれば,グループ6社の今後の経営見通しを正確に把握した上でA社の貸借対照表及び損益計算書が作成されたことの裏付け資料として,この期間に対応するグループ6社の貸借対照表及び損益計算書が提出されれば更に望ましい,とすることで本省金融会社室の了解も得られていた。平成9年業務改善命令がGの下に届いた数日後,同人は,郵送されてきた業務改善命令の封も切らない状態で,AL弁護士を伴って,近畿財務局に抗議に赴いた。しかし,その後,A社はD次長の予期に反し,業務改善命令を受け入れ,近畿財務局の指示に従って経営健全化計画を提出する姿勢を示した。

(<証拠省略>)

(セ) <省略>新聞の報道

<省略>新聞は,平成9年10月31日,1面で,大阪の金融会社が,高利を約束した手形商品の販売で多数から百数十億円集めており,出資法に抵触しているおそれがある旨報道した。同新聞は,翌11月1日も,手形商法を行っていた金融会社が,抵当証券業規制法に基づく業務改善命令を近畿財務局から受けた旨報道した。D次長は,業務改善命令の発出後,情報漏洩による取付け騒ぎによるA社の破綻を懸念して,全国にある同社の各営業所に財務局職員を配置し,情報収集や監視にあたらせていたが,上記報道がA社の名称を伏せての報道であったためか,取付け騒ぎは起きなかった。(<証拠省略>)

(ソ) 平成9年経営健全化計画の策定

AK会計士,Tらは,R社の事務所に集まり,平成9年経営健全化計画の策定作業に取り組んだ。作業は,おおむね,Gが計画に盛り込む事業の内容,金額,時期を,「ゴルフ場の売上げは毎年1割増しでいく。」「BOグリーンコース及びABカントリークラブにはリゾート施設を建設し,リゾート会員権を平成11年度から平成13年度までの間にこれだけ売る。」「E社は平成12年度を目処に10億円で売却する。」のように実現可能性を特段考慮することなく口頭で告げ,これを各社の事業計画・予想財務諸表・新規事業の詳細資料という構成に落とし込んでいくというものであった。グループ6社はほとんど実績がなかったため,計画の策定は困難を極めたが,収益等の上昇率を高めにするため,例えば主に手形商品からの乗換え需要により平成9年夏からの数か月で約120億円を売上げたチケット制会員権が,その後も同様に販売することができることを前提にするなどし,ゴルフ会員権だけで販売経費を差し引いても約243億円以上の資金を調達して,これらをリゾート施設建設など他の計画の資金にするとともに,余剰資金を外債投資に充てて年利10パーセント以上の資金運用益を生むことなどを前提に,主に平成11年度以降に大幅な利益を出し,平成13年度にA社グループの債務超過を解消するという結論になるよう調整を行っていった。上記計画の中には,<省略>市山林の建売分譲事業,AM駐車場における賃貸マンション事業,<省略>区土地の土砂採取事業など,実際には事業化が具体的に検討されていなかったものも多く盛り込まれていた。GやT,AK会計士らは,いずれも上記経営健全化計画の達成は極めて困難であろうとの認識を有していた。(もっとも,平成9年経営健全化計画がこのようにして作成されたなどの内部事情は,近畿財務局長において知るよしもなかったが,計画内容や後記(タ)のようなその内容の訂正過程自体から,実現可能性に多大な疑問のあることは,従前からヒアリングを通じて指導を継続していた近畿財務局長にも明らかであったというべきである。)(<証拠省略>)

(タ) 平成9年経営健全化計画の提出

G及びAK会計士は,平成9年11月18日,近畿財務局に平成9年経営健全化計画(後述の修正前のもの。)を提出した上,AK会計士から,BOグリーンコースの会員権販売について,平成9年8月から10月までの実績が118億円であり,同年11月から平成10年3月までで48億円の予定であるなどとその内容を説明し,Gも,余資運用益の実現可能性に疑問を示す近畿財務局に対し,100億円の原資で10パーセント以上の運用益が上げられなければ経営者として失格である,消費者金融で運用すれば10パーセントは十分達成可能である,などとして,その合理性を主張した。これに対し,近畿財務局は,事業計画が示されているにもかかわらず収支見込みに計上されていないものがあることなどを指摘した。AK会計士は,先の話なので同会計士の判断で計上していないなどと説明したが,これに対しGは,実現可能なので経営健全化計画に計上する必要があるなどと口頭で説明し,近畿財務局において,実現可能な計画であればA社の判断で計上されたいなどと指示したところ,Gらは,平成9年11月25日,これらの事業計画を収支見込みに盛り込んだ平成9年経営健全化計画を再度提出した(その際,Gは,平成9年8月以降ゴルフ会員権販売が好調となった理由は,転売可能なチケット制会員権の販売を始めたからである旨説明した。)。しかしながら,この時点での計画では,平成13年度末においても債務超過を完全には解消することができない内容となっており,近畿財務局がその旨を指摘したところ,AK会計士は,実現可能性のある固めの計画を作成したためであると回答したが,これに対しGは,AK会計士との意見調整が取れていなかったためであるとして,持ち帰って最終確認をするなどと申し出たため,近畿財務局は,明日提出するよう申し向けた。Gは,その2日後である同年11月27日,平成10年4月から平成11年11月までの間に200億円規模のファッションホテル購入事業を盛り込むことで平成13年度までに65億円の収益を上乗せするなどの修正を施した上,A社グループが平成9年9月末時点において全体で約144億円ある債務超過額を解消し,平成13年度末には約22億円の黒字に転ずるとした平成9年経営健全化計画の最終版を提出した(ファッションホテル事業に係る参考資料については同年12月1日に提出された。)。近畿財務局は,平成9年経営健全化計画に係るヒアリングの過程で,ゴルフ会員権の販売見込みの合理性を裏付ける資料を求めることはもちろん,自ら調査することもなく,また,上記計画と,同年5月までにA社が行っていた平成8年経営健全化計画に係る説明(全国展開中のパチンコチェーン(約50店舗)の買収計画,平成9年11月に<省略>市において正式決定されるはずであった<省略>町土地におけるR社と<省略>市との第3セクター方式による霊園墓地化計画,<省略>区土地の20億円での売却計画,<省略>区駐車場の10億円での売却計画等)との整合性や,それが頓挫している理由等についてただすことはせず,<省略>町土地を霊園墓地化する計画に係る<省略>市との協議経過や,<省略>市とAP社との間でのリサイクル事業計画の進展状況等についてGから口頭による説明を受けたのみで,その裏付けとして<省略>市に対し必要な問い合わせをすることもしなかった。(なお,近畿財務局は,<省略>町土地について,抵当証券保管機構から,前記同年8月27日付け「A社の<省略>町物件の最近の動向並びに販売枠管理の現状と今後の対応検討事項について」と題する文書により,「担保物件は,墓地予定地(一部,産業廃棄物処理場?)とのことではあるが,現況がどうなっているのか,実態を把握しておく必要があるのではないかと思料する。」旨の指摘を受けていた。)。(近畿財務局としては,形式上内容齟齬があるとか,計画上でも債務超過が解消できないといった計画については受理はできず,また実現可能性のある計画とするよう抽象的な指示はするものの,実現可能性があるか否かの判断は全面的にA社にゆだねるとの立場であって,計画受理に至るヒアリングの過程は,机上の数字合わせと評価せざるを得ないものであったというほかはない。)

(<証拠省略>)

(チ) 本件告発文書の送付

A社の社員を名乗る人物は,平成9年11月ころ,大蔵本省や報道機関に対し,本件告発文書(「近畿財務局の反社会的行為と罪について」)を送付した(その内容に照らし,当該人物がA社グループの内情に詳しい者であることは明らかである。)。その抜粋は以下のとおりである。

「私は<所在地省略>に本社があるA社の社員です。あまり知られていない会社ですが,10月31日の<省略>新聞の一面でスクープされた『手形販売の金融会社』とはうちのことです。あの記事はもちろん,翌日,翌々日と大々的に取り上げられましたが,すべて本当のことです。いえ,実態はもっと最悪です。」

「しかし,今は手形は販売していません。お客様には『もっと得な商品ができた。』とか,『税制面で得な商品がある。』と言っていますが,本当は手形を出していた<省略>銀行<省略>支店が手形を出さなくなったため,チケット制のゴルフ会員権を販売しているのです。社長は,利息さえつければ客は買うものだと言っています。410万の預託金を払ってチケット制の会員になると,1年間に12枚のプレー券がついてきて,これを系列のチケットショップ(今まで存在を知らなかった)で換金すれば,376,000円になるという計算です。預託金が410万で,年会費が12000円ですから,同封の試算表のように6.41パーセントの利息が入るようになっています。年会費などをとっているのは,『金融商品ではない』と言い訳するためですが,客には,前よりお得な商品と言ってかわせているので同じことです。登録料も,とったりすればだれも買うはずがないので,今なら無料と言っています。しかも70歳の人たちにゴルフ会員権を売るなんてばかげた話です。」

「<省略>新聞の記事が出たとき,これで大阪府警や近畿財務局が何らかの処罰をするだろうと思っていました。そうすれば,担保に押さえている不動産で少しはお客さんに返せると思っていました。(全額は無理だと思いますが,無いよりましです)しかし,一向に動きがありません。このままでは,抵当証券や手形を買っていたお客さんがみんなゴルフ会員権を買ってしまいます。うちのG社長は,『会員権で利息さえしっかり出していれば,再交付,再交付でつなげられる。そのうち死ぬだろう』という考え方です。抵当証券も出来るだけ5年間,解約ができない商品を売るように言われています。」

「こんな営業をしなくてすむために,期待していたのが財務局の処罰ですが,改善計画も受け取ったそうです。金融に詳しい知人からは『12月20日に登録の更新があるから,あれだけ問題になったら更新されないやろ。そうすれば,自主廃業かな。社長はぱくられるやろ。』と言っていましたので,それに少し期待していたのですが,まだ財務局は何も言ってこないようなので,このままいくような気がします。社長が弁護士に電話していたのや,財務局に電話をしているのを聞くと,改善計画のポイントは『ゴルフ会員権をどんどん売って経営を立て直す』ということです。つまり,あくどいことをやると宣言しているのです。」

「だから,私は東京(お客さんは東京が圧倒的に多いのです)や大阪のマスコミ,大蔵省の幹部にこの手紙を書くことにしました。何か起きたときに,お客さんのお年寄りたちに恨まれたくありません。一人の力ない社員の声です。何とかして下さい。」

(本件告発文書等を契機にさらにA社から聴取するなどすれば,近畿財務局においても,この時点で,チケット制会員権の実態が高利の金融商品に過ぎないことを把握できたはずであることは,後述のとおりである。)

(<証拠省略>)

(ツ) 抵当権付き債権一部譲渡の販売開始

A社は,抵当証券の発行に関する法務局の関与を回避すべく,平成9年12月12日付けで,55億円の抵当証券の販売自粛指導を受けていたBOゴルフ場に,R社を債務者とする10億円単位で計8個の抵当権仮登記(合計80億円)を設定した上,これを担保にした債権を細分化した抵当権付き債権一部譲渡という,いわば抵当証券まがい商品というべき新たな金融商品を開発して,同月中からその販売を開始し,その後も,A社を債権者,グループ会社を債務者とし,グループ会社が所有する不動産を担保にした抵当権付き債権を次々と販売していった。もっとも,80億円が現実にR社に貸し付けられた事実はなかった。Jは,近畿財務局等から担保価格に疑問があるため追加の抵当証券を販売しないよう指導を受けていたBOゴルフ場を担保にA社が新たな金融商品の販売を開始したことなどに照らし,このころには,同社グループがいよいよ自転車操業の状態になっており,顧客からの資金が途絶えれば,確実に破綻に追い込まれるであろうと考えるようになっていた。(<証拠省略>)

(テ) 平成9年経営健全化計画の受理

近畿財務局は,平成9年12月1日までにA社から提出された平成9年経営健全化計画について検討した上,① 平成8年経営健全化計画と比較して,通常のゴルフ会員権に加えて大量のチケット制会員権の販売を行うこととしたほか,新たな事業計画として,ABカントリークラブのゴルフ会員権販売,リゾートマンションやレジャースポーツ施設を建設するリゾート計画,E社の売却やP社による高収益物件購入の促進等により収益の確保や含み損の解消を図るとしており,より累積損失の解消に前向きな計画が策定されている,② 平成8年経営健全化計画の実績が初年度から大幅未達であったことから,その実効性について懸念もあるが,平成9年経営健全化計画の実効性について,当局がその当否を予測することは困難であり,当局としては経営健全化計画の見直し時期に計画の進捗状況をフォローしていくこととしたい,③ A社及びグループ6社の平成9年度から平成13年度までの貸借対照表及び損益計算書はすべて提出されているほか,グループ6社の経営状況の改善計画について具体的に説明した書面が提出されている,として,同月11日,これを受理する旨の決裁を了した。(しかし,後述のとおり,平成9年経営健全化計画が実現して予想された収益を上げ得る客観的可能性は極めて乏しく,その内容及び訂正過程からして,近畿財務局長においても,簡単な裏付けをとるなどすれば,同計画によって収益が改善する見込みはないと認定することは可能であったというべきである。)(<証拠省略>)

(ト) 本件更新登録

近畿財務局長は,平成9年12月16日,A社につき,財産的基礎・人的構成等の要件をすべて満たすとして,更新登録をする旨の決裁をし,同月21日,本件更新登録をした。(<証拠省略>)

(ナ) AK会計士による説明

AK会計士は,このころ,G,T,J,I,V,AL弁護士らを一同に集め,A社グループが全体で約150億円の債務超過に陥っていること,顧客に対する利払その他の経費で年間50ないし60億円が必要であるが,みるべき収益がないために,経費がほぼそのまま累積損失として積み上がっていく状態であることを説明した上,資金集めばかり重視するのではなく,現実に収益を上げていかなければ近い将来に経営破綻が表面化するおそれがある旨述べた。(<証拠省略>)

カ 平成9年検査及び本件更新登録以降

(ア) C局長は,平成10年4月28日,大蔵省の内部調査によると平成7年5月以降,民間金融機関から,会食90回以上,ゴルフ22回以上で合計約180回,680万円(同内部調査で接待額は最高であった。)という多数回・多額の接待を受けたという理由で,国家公務員法に基づく懲戒処分である「減給」処分(20%・6か月)を受け,同日付けで近畿財務局長の職を解かれ,「官房付」とされた。なお,同日には他の大蔵省幹部も多数処分を受けたが,C局長の処分は,大蔵省内では,当時の銀行局審議官の停職処分に次ぎ,当時の証券局長と共に,省内で2番目に重い処分であった。上記審議官と証券局長の2名は,上記処分後辞表を提出して受理されたとされる。(<証拠省略>)

(ア-2)平成9年経営健全化計画の初年度実績の報告

A社は,平成10年6月8日,平成9年経営健全化計画の平成9年度実績と,平成10年度以降の計画見直しに係る追加書類等を近畿財務局に提出したが,それによると,当期利益(半期)はA社グループ全体で計画を8億円下回り,平成9年度末の資本合計も計画から27億円債務超過が拡大し,A社グループ全体の債務超過額は約180億7000万円となっていた。G,J及びAK会計士は,同月9日のヒアリングにおいて,① R社について,平成9年度の利益(半期)は計画を4.5億円下回った,従来のゴルフ会員権販売は中止し,ゴルフ場に加えてレジャー施設を共通利用できる「CM会員権」の販売に変更するが,平成12年度までに8000口,169億円の会員権を販売する計画は十分に達成可能である,② P社について,平成9年度事業はほぼ計画どおりの実績を計上し,好利回り物件投資は物件を慎重に選定しているところである,③ BC社について,計画していたゴルフ会員権販売を見合わせたことなどから,平成9年度の利益(半期)は計画を5億円下回った,④ AG社について,スノーボード場を休止したことにより売上げは減少したが,経費も不要となったために平成9年度の実績はほぼ計画どおりである,⑤ AP社について,産業廃棄物処理事業において,決算期の関係から平成9年度下期内の売上げを計上することができなかったことから,平成9年度の利益(半期)は計画を少し下回ったなどと説明した。(<証拠省略>)

(イ) 平成9年経営健全化計画の2年度実績の報告

A社は,平成11年5月31日,A社グループの平成10年度実績と,平成11年度に係る見直し計画を近畿財務局に提出した。それによると,平成10年度の当期利益は計画を約13億円下回り,債務超過額は計画より約16億円拡大して,同年度末において平成9年度末の約180億7000万円から約203億6000万円へと悪化し,平成11年3月末時点における同グループの現金預金額は約14億5000万円まで減少していた。G及びJは,同日に行われたヒアリングにおいて,BC社,AG社,AP社,E社では経費節減等によって当期利益が計画を上回ったものの,R社の当期利益がCM会員権から名称変更した「CN会員権」の販売不振等によって計画を約12億円下回り,P社も<省略>市山林に係る建売分譲等の新規事業をすべて平成11年度に先送りした上,<省略>区土地の土砂採石事業は平成11年度からの着工は困難である,<省略>町土地の公園墓地事業は一般霊園として平成12年度よりの分譲を計画している,好利回り物件への投資については平成11年度から実行予定である,などとしていた。(<証拠省略>)

(ウ) COファンドの販売開始

A社グループは,平成11年12月から,COファンドという金融商品の販売を開始した。これは,グループ会社でTが代表取締役を務めていたCP社を営業者とする匿名組合への出資名目で顧客から資金を集めるもので,A社によるコンサルタントや公認会計士による監査等による信用力を背景に集められた資金のほとんどは,投資事業ではなく抵当証券等の既存金融商品を購入した顧客に対する利払その他の経費に流用されていた。(<証拠省略>)

(エ) 平成9年経営健全化計画の3年度実績の報告

G及びJは,平成12年6月8日,平成11年度実績及び見直し計画資料を持参して近畿財務局を訪れ,① R社につき,CN会員権は,計画3000口に対し実績650口にとどまった上,BOグリーンリゾート計画及びABカントリーリゾート計画は当面凍結するが,新規に日本の企業に対する石油,天然ガス等の貿易の仲介等を行ってコンサルタント料を得る事業の計画があるなどとし,② P社につき,<省略>市山林の建売分譲や<省略>区土地の土砂採石事業は停止しているが,<省略>町土地についてはある宗教法人と既に契約を交わして境内墓地として開発する,好利回り物件投資は,不動産不況を無視できず,納得できるような物件もないので凍結せざるを得ないなどと説明し,③ AP社は,産業廃棄物収入は<省略>市からの下請けのみで計画を大きく下回り,本格稼働は先行投資が大きすぎて難しいとし,④ BCカントリークラブにつき,抵当証券支払利息に苦しんでいる,などと現状を説明した。なお,AK会計士は,平成12年4月ころ,A社グループとの関係を絶っていた。(<証拠省略>)

(オ) グループ社員を名乗る者の告発

「A社のグループ社員として,ごく最近まで勤めていた者」と名乗る人物は,平成12年6月18日付けで,金融庁や近畿財務局等に文書を送付した。同文書には,① A社グループに属する各社は形式上別法人であるが,実態はGの個人商店であり,A社が傘下の会社(息子が社長をしている。)に融資したかのように装って抵当証券を発行し,一般投資家に販売している,② 10億円で購入した不動産を70億円に鑑定してもらって50億円の抵当証券を発行し,その50億円で購入した不動産には200億円の抵当証券を発行するなどしてその発行残高を飛躍的に伸ばしている,③ 集めた資金から利息を支払っているので出金より入金が多いうちは被害が出ないが,このような自転車操業では早晩行き詰まり,大変な被害が出ることが予想される,④ この会社は資金を運用せずに経費や利息を賄い,毎晩何十人もの社員が豪遊しており,全く返済する意思がないように見受けられる,⑤ こんな会社を大蔵省や財務局はなぜ放置しておくのか,といった内容が記載されていた。

同月20日付けで,「内部告発者 元社員」と名乗る人物は,「告発第二弾」と題した文書を関係先に送付した。同文書には,① A社グループの社員はほとんど全員が,債権者であるA社の仕事も,債務者であるP社,R社,AG社,BCカントリークラブなどの仕事も兼務しており,A社グループに属する各社の印鑑や預金通帳はすべてGが管理し,グループ各社の社長で息子であるTや知人は元来名目のみの存在で何の権限もなかったが,Tは解任され,現在は行方不明である,② 各ゴルフ場に架空や水増しの抵当権を付けているため倒産すれば抵当証券の購入者にはほとんど配当がないことが明らかである,③ 公認会計士や税理士等顧問も手を引いたようであり,経理担当社員や有能な社員も一斉に辞めつつある,といった内容が記載されていた。

(<証拠省略>)

(カ) 中近東におけるコンサルタント事業等に係る説明

Gは,平成12年6月22日,近畿財務局に対し,R社による新規事業の概要につき,中近東に会社を2社設立し,うち1社では石油,天然ガスに関して日本企業と中近東の会社との貿易を仲介(コンサルタント事業),残り1社ではR社等が販売した会員権預り金を中近東の銀行に定期預金するというものである(余資運用事業)などと説明し,「既に中近東のある国(後に,アラブ首長国連邦(UAE)を指すことが判明した。)の王族と懇意にしてもらっており,会社設立も認められている。ただし,余計な話をするとアラブから排斥される可能性があり,口頭でしか説明できない。信じてもらえないかもしれないが,予約の金額だけでも1兆円近い話があちこちから来ている。」などと主張するようになり,その後のヒアリングでも同様の説明を繰り返した。これに対し,近畿財務局は,A社から上記新規事業についての具体的な資料が提出されないことから,とりあえずお伺いしておくが,まだまだ不明な点が数多くあり,十分な疎明がされていない旨応じていた。(<証拠省略>)

(キ) 報告徴求命令の発出

近畿財務局長は,平成12年3月末時点での決算を踏まえたものとしてA社から同年6月に提出された経営健全化計画は,内容について不明な部分が多々存在し,継続的なヒアリングによっても明確な回答がなく,計画数値を説明する資料等の提出もないとして,同年9月26日,A社に対し,抵当証券業規制法22条1項に基づいて報告を求めるので,具体的な資料や説明を付して,① R社において計上している「コンサルタント料」利益の内容について,② 余資運用益について,③ A社及びグループ6社の計画内容について,④ A社及びグループ6社の会計処理について,⑤ A社及びグループ6社の決算処理について,及び⑥ A社及びグループ6社における経営健全化5か年計画と決算報告書との相違について,同年10月10日までに報告されたい旨の報告徴求命令(近財金1第134号)を発出した。うち,①については,「「コンサルタント料」は,UAEからの石油・天然ガス・ジュエリー等の輸入に伴う仲介・マネジメントに対する収益としているが,当該仲介・マネジメントの具体的内容(スキーム並びに今後の取引見込み)」を報告するとともに,A社が同年8月28日付けで提出した「報告書」において「100%A社の関連企業が持株会社となっています。」と記載されている現地法人に係る当該関連企業の企業名並びに資本金の調達手段及びこれを証明する書類を添付するよう要求し,②については,「R社,AG社,BC社,P社において計上している「余資運用益」は,「UAEにおいてファイナンスカンパニーを設立し,・・・預金並びに投資で運用を図ることとしているが,預金並びに投資による運用で当該「余資運用益」を確保する具体的内容及びこれを証明する書類」を添付するよう要求していた。しかしながら,A社が同年10月10日に提出した報告書は,収益額の試算表が付されていたものの,その具体的な根拠(石油や天然ガスの輸出入事業に係る取引量や取引額,それに対する手数料額の根拠等)までは説明されておらず,近畿財務局は,現在提出されている資料のみでは計画に合理性があるとは判断することができないとした。(<証拠省略>)

(ク) 平成12年検査の開始等

近畿財務局は,平成12年10月12日,理財部上席金融証券検査官であったCQ検査官を主任検査官として,A社に対する平成12年検査を開始した。

CQ検査官らは,初日の現物検査でA社の本社屋内において現金出納帳のコピーを発見したところ(なお,1審被告は,それが偶然発見されたものである旨主張するが,その主張を裏付ける客観的な証拠はなく,前記のとおり平成12年検査の直前にはA社から顧問税理士等が離反したり,社内から内部告発とみられる動きが相次いでいたことなどに照らすと,その発見が偶然によるものか,何者かの協力によるものかはいずれとも確定することができない。),その残高と手元小口現金有高とが一致し,通帳の記載ともそごがなかった上,ADからもこれが真実の出納帳であることの確認を得られた。そこで,CQ検査官らは,同出納帳につき平成4年度以降分の提出を求めた。そして,同検査官らが,総勘定元帳と預貯金通帳・現金出納帳との照合を進めたところ,抵当証券受取利息については,平成10年3月期から平成12年3月期までの3期合計で決算書上は約91億5700万円が計上されていたものの,当座預金の記載等から実際に確認された受入額は約8億2700万円にとどまっていたほか,本件3融資及び抵当権付き債権一部譲渡の大半につき,資金の交付を確認することができなかった。また,本件貸付金については,平成9年11月28日に弁済を受けたとされていたものの,やはり預貯金通帳の記載等からはその事実を確認することができなかった。

CQ検査官が,CQ要約においてこれらの点を指摘したところ,A社は,本件3融資については,「融資実行は,現金,振込,手形保証にて行っている。金銭消費貸借契約における金銭の貸付は,手形を含めて行える。」などと主張したが,抵当権付き債権一部譲渡に係る貸付け総額118億円余(平成12年3月末現在)については,平成13年3月21日,本件上申書を提出し,平成7年4月以降の融資先であるグループ会社からの抵当証券受取利息153億円余(同上)が未収であり,これらを関係会社勘定で処理しているとして,抵当証券受取利息はすべて収受していたとの当初の説明を翻し,その一部を上記貸付けとの相殺で処理している旨主張するに至った。また,A社は,本件貸付金についても,「取消」を理由として平成9年11月28日に返済を受けている旨主張した。

(<証拠省略>)

(ケ) 平成12年検査結果通知の発出

近畿財務局長は,平成12年12月20日付けでA社に対し,更新登録を保留する旨の通知をした上,平成13年4月9日,概要以下のとおりの平成12年検査結果通知を示達した。

A社の販売した抵当権付き債権に係る金銭消費貸借契約のうち,少なくともR社及びP社に対する51億2500万円の貸付けについては,資金の交付を伴っていないことから,同額の負債が発生することとなる。これに対して,A社は,受取利息等があったとして当該負債を減少させる会計処理をしているものの,当該受取利息は,収益として認識することができないものであるなど,会計処理に合理性を欠いており,同額の負債が残存するものと認められるにもかかわらず,貸借対照表に計上されていない。また,実質的に破綻しているE社に対する債務保証については,少なくとも5億2000万円の債務保証損失引当金の計上が必要と認められるにもかかわらず,計上されていない。一般に公正・妥当と認められる会計処理に基づき,少なくとも検査上判明している当該負債及び債務保証損失引当金のみを計上した場合においても,A社の平成12年3月期における貸借対照表において資産の合計額から負債の合計額を控除した額が資本の額を下回ることになると見込まれ,抵当証券業規制法8条2項において準用する同法6条1項7号に該当するものと見込まれる。

グループ6社については,少なくとも2ないし6期にわたり赤字決算を繰り返しており,債務超過額を拡大させているなど財務内容が著しく悪化し,実質的な延滞状態にある。こうした中,これら6社に対するA社の特約付き融資などの利息支払を確認することができない状況にあり,これらに対する債権については,最終の回収又は価値に重大な懸念が存在し,損失の発生の可能性が極めて高いと認められる。しかしながら,A社は,当該債権に係る貸倒引当金などの計上を全く行っていないほか,担保不動産の評価の見直しを適切に行っていないことから,一般に公正・妥当と認められる会計処理に基づき貸倒引当金などを計上した場合,同社の財務内容は,さらに悪化するものと見込まれる。

(<証拠省略>)

(コ) A社に対する更新登録拒否等

近畿財務局長は,平成13年4月16日,抵当証券業規制法8条2項で準用する6条1項7号該当(財産的基礎の欠如)を理由として,近財金1秘第5号をもって,A社に対し,その更新登録を拒否した旨の通知をするとともに,同日,近財金1第89号をもって,大阪地方裁判所に対し,会社整理通告をした。(<証拠省略>)

キ 1審被告の主張について

(ア) <省略>町土地に係る販売枠指導(前記ア(サ))

1審被告は,近畿財務局が<省略>町土地について抵当証券の販売中止を求める行政指導を行ったことはなく,したがってこれと<省略>区土地に係る抵当証券の発行とを交換条件とした事実もない旨主張する(以下要約)が,BW課長自身の証言内容や,抵当証券保管機構の態度(<証拠省略>)のほか,Gの信用性のある捜査段階の供述からして,採用できない(以上,原判決<省略>518頁下から4行目まで)。

(イ) 平成7年業務改善命令の内容(前記ウ(オ),(キ))

1審被告は,平成7年業務改善命令の別紙における詳細な指示事項は,それまでにA社から具体的な回答が一切されなかったことにかんがみ,同社に対して経営健全化計画の作成要領を示す観点からあえて付したものであり,仮にこの指示事項に沿わない計画が提出されたとしても,直ちに命令違反を問うことができるような位置付けのものではない旨主張する。

しかしながら,仮に平成7年業務改善命令がその本文のみであれば,A社は,後に近畿財務局に提出した平成8年経営健全化計画のような,何らの具体的裏付けのない予測に満ちた経営改善案を提出するだけで命令違反に問われないことになるのであり,こうした結果は,検査結果通知書を通じた改善指導によってはA社の経営改善が期待できないとして,同社が命令に従わない場合における業務停止命令(6か月)の発令及びその日程まで決めた上で業務改善命令の発令手続を進めようとした近畿財務局の方針(<証拠省略>)や,A社が破綻する可能性をも視野に入れつつ,それでも強制的に同社から資料を提出させようとしていた,同命令発令前におけるBE課長の意図(<証拠省略>)とはかけ離れたものというほかはない。のみならず,近畿財務局長は,平成12年9月26日にA社に対して発出した報告徴求命令において,R社が行う仲介業務等の具体的内容や,グループ会社の余資運用益の具体的内容及びこれを証明する書類等について報告ないし提出を求めているところ(前記カ(キ)),報告徴求命令も業務改善命令も,これに違反することが業務停止等の処分要件となることにおいて差異はなく,上記報告徴求命令において,グループ会社に関する資料の提出を求める部分が同命令の内容に含まれていないものと解する余地はない。なお,平成12年検査結果通知において,A社が上記報告徴求命令に違反した事実が法令違反事項として指摘されていないことは1審被告の主張するとおりであるが,前記カ(ケ)のとおり,平成12年検査結果通知においては,検査の結果判明したA社の過去における抵当証券受取利息が一部未収であることや,抵当権付き債権一部譲渡に係る資金交付がないことのみで同社の財産的基礎の欠如を認定するに十分であったことに照らすと,上記の判断に影響しない,いわば傍論にすぎない上記報告徴求命令違反の事実の有無を検討していないとしても特段不自然ではないから,このことは,前記認定を覆すに足りるものではない。したがって,1審被告の前記主張は,採用することができない。

(ウ) 平成7年業務改善命令撤回の有無(前記ウ(キ))

1審被告は,平成7年業務改善命令は,A社から資金繰りに問題がない旨の強い弁明があり,また,必要な資料は提出するとの申出があったことから,同社の資金繰りを含めて慎重に検討する必要が生じるとともに,更に指導を行って資料の提出を受け,これらを踏まえて業務改善命令の是非を改めて検討するのが妥当と認められたため,その発出を見合わせることにしたのであって,発令したものを撤回したわけではない旨主張する。

しかしながら,既に認定したように,平成7年8月21日以前において,A社は,近畿財務局も実現性に疑問があるとみていた平成7年収支計画や,抽象的,主観的な意気込みを示すにすぎない弁明書等を提出するのみであって,融資先であるグループ会社の経営見通しについて具体的な根拠のある資料を何ら提出しなかったために,行政指導では限界があり,取付け騒ぎ等により同社が破綻するリスクをあえて冒してでもこれらの資料を強制的に提出させることが平成7年業務改善命令発出の目的であった上,命令に従わない場合には業務停止処分まで予定されていたこと,同日の命令交付の席でもGは資料を提出する期限,提出すべき資料の内容等について何ら言及せず,「必要な資料は提出する」とした同人の主張を信じるに足りる客観的,具体的根拠も全く付されていないこと,同日の連絡記録票(<証拠省略>)においても,Gが上記命令の受取りを拒否した事実やその経緯は詳細に記載されているものの,近畿財務局がこれを留保する扱いとした事実やその理由等には何ら言及がないこと,平成9年業務改善命令の決裁文書(<証拠省略>)においても,平成7年業務改善命令については,「その後,○社から経営健全化計画,財源計画の提出が行われないことから,8月21日,当局は業務改善命令書を交付しようとしたが,○社は受取を拒否した。」とのみ記載され,その文面からは近畿財務局がその意思に基づいて業務改善命令の発令を留保したとは理解できないこと,1審被告主張に沿う<証拠省略>(その内容は,BS補佐からはGに同和団体との関連を誇示された近畿財務局が平成7年業務改善命令を撤回したと聞かされていたが,後にBI部長に電話で確認したところ,A社から資金繰りについての強い弁明があったために発令を留保しただけであると聞かされ,後者の説明を信じた,というものである。)も,平成7年業務改善命令の撤回についてのBS補佐の説明ではなく前記のとおりその内容自体一見して不自然,不合理なBI部長の説明を信用した理由が必ずしも明らかではないことなどにかんがみると,その信用性が認め難いこと,前記ウ(ク)において認定した本件資金繰り表の作成経過及びその内容などに照らし,前記認定に反する1審被告の主張は採用することができない。そして,平成7年業務改善命令の発令に係る前記認定の事実経過からすれば,近畿財務局においてGの気勢に気圧されたため同命令の発令を撤回したと評価されてもやむを得ないというべきであり,本件内部資料における「近畿財務局長は業務改善命令を撤回してしまった」との記述は,前記認定の事実経過を踏まえた近畿財務局及び大蔵本省の認識を率直に表現したものということができる。なお,1審被告は,Gが同和団体との関連を示したことは上記命令の撤回(1審被告の主張によれば留保)とは無関係であるとし,その根拠として,仮にそうであるとすれば,同人はその後も折に触れて同和団体との関連を持ち出すはずであるところ,以降の連絡記録票にはその旨の記載はないとも主張する。しかしながら,平成7年8月21日にGが同和団体との関連を持ち出したことは1審被告も争っていないにもかかわらず,同日の連絡記録票には同和団体に関する直接的な記述はなく,ただGが組織をあげて闘う旨の発言をしたことを示す記載があるのみであることに照らすと,その後の連絡記録票等に同人が同和団体との関連を示した旨の記載がないことは,同人がそのような言及を行わなかったと認定すべき根拠とはならない。もっとも,前記認定のとおり,近畿財務局が同人に対していわば苦手意識を有するに至ったのは,同人が同和団体に属している旨信じたからというよりは,同人らがしばしば行っていた,近畿財務局等に対する業務妨害にもなりかねないような執拗な抗議や,同人がいわば子飼いにしていた専門家の威を借り,国家公務員法違反や行政手続法違反の疑いを指摘したり,時には政治家まで動員して近畿財務局を揺さぶる手法,折に触れて示す気勢等に影響された面が大きいと認められるのであり,平成7年業務改善命令を文書を受領できる状態において口頭で告知したことにより一旦は発令しながらもこれを撤回するに至ったのも,Gのこのような気勢に気圧されたことによるところが大きいと推認されることは,前記ウ(キ)において説示したとおりである。したがって,1審被告の上記主張もまた採用することができない。

(エ) 平成9年検査に対する近畿財務局の態度(前記オ(ア))

1審被告は,平成9年6月ころの本省金融会社室との協議において,近畿財務局は,A社が提出した資料のみによって平成8年経営健全化計画の未達を認定して業務改善命令を発出した場合,A社が後になって別の資料を提出して反論してくるおそれがあると考え,そのような事態が生じることを避けるために,正式に立入検査を行って,A社の有している資料,グループ会社の業況等を正確に把握した上で行政処分を検討したいという意見を述べ,BV室長がこれを採用したのであって,平成9年検査に対しては積極的な態度で臨んでいた旨主張する。

しかしながら,A社が提出した資料によって平成8年経営健全化計画の未達を認定して業務改善命令を発出した後,同社が仮に「購入者の利益を害する事実」がないことを基礎付けるような資料を提出して反論してくる事態が想定されるとして,そのような事態をなぜ回避しなければならないのかについて,1審被告が具体的な主張をしないこと(本来非公表である業務改善命令発出の事実が何らかの理由で表面化した場合に取付け騒ぎが起こる可能性は当時の状況からして否定することができなかったものと思われるが,同社が近畿財務局の指導に従わない以上はやむを得ないというのが平成7年8月時点における近畿財務局の認識であったことは前記認定のとおりであり,平成8年経営健全化計画の初年度実績が大幅な未達であることが明らかとなっていた当時においては,同社の経営状況はその時点より更に悪化していたのであるから,上記のような認識を変更する必要性,合理性は基本的に存在しないと認められ,他にこれを覆すに足りる証拠もない。また,業務改善命令を発出した後,仮にその前提となる事実認定に誤りがあったことが判明したとしても,そのような資料を提出させることもまた業務改善命令を発出する目的の一つということができる上,抵当証券業規制法24条1項の「命ずることができる」との文言から明らかなとおり,被命令者がこれに違反したからといって財務局長等が必ず業務停止命令等の追加措置を講じる必要が生じるわけでもない。),既に認定したような平成9年検査の経緯に照らすと,同検査において,近畿財務局がグループ会社の財務状況を把握しようとして積極的な姿勢で調査を遂行したとは到底認めることができない。かえって,近畿財務局が,本省金融会社室から具体的な指示を受けて一度は適法に入手したグループ会社に係る帳簿類を,A社グループからの抗議を受けてその必要もないまま独断で返却してしまった上,平成6年検査や平成12年検査では行い,争いなく抵当証券業規制法による調査権限の範囲内であるA社の預貯金通帳と同社の総勘定元帳との照合すら行わなかったことなどに照らすと,むしろ,立入検査の早期実施は,業務改善命令の発出に難色を示す近畿財務局に対し,本省金融会社室が次善の策として指示したと解する方がはるかに自然である。したがって,1審被告の主張は採用することができない。

(オ) 平成9年検査で近畿財務局がグループ会社の帳簿類を返還した経緯等(前記オ(エ))

1審被告は,近畿財務局は,平成9年検査においてJから任意に提出を受けたグループ会社の帳簿類について,グループ会社からその検証については了解していないなどとの抗議があり,融資先グループ会社に対する検査権限のない近畿財務局はその返還を余儀なくされた旨主張する。

しかしながら,既に説示したとおり,グループ会社の帳簿類等であっても,A社が所持しているものについては近畿財務局長に抵当証券業規制法22条1項に基づく検査権が及ぶことは明らかであり,その際に帳簿類又はその写しを被検査者に提出した第三者の承諾を必要とするような規定は見当たらない(前記のとおり,近畿財務局も,同局の権限の範囲に関するGらの抗議に対し,グループ会社の帳簿類に対する検査を行う権限を有することについては大蔵本省にも確認している旨返答している。)上,実務として1審被告主張のように運用されていることを認めるに足りる証拠もない。かえって,BE課長及びBV室長がともに,原審法廷において,A社が所持している資料であれば特段その作成名義人を問うことなく近畿財務局の検査権限は及ぶ旨の証言をしていること,前記認定のとおり,グループ会社の帳簿類を検査の対象に含めることについては本省金融会社室がBW課長の消極姿勢を押し切って進めさせた経緯があること,CA検査官及びBW課長が,帳簿類を返還するについては近畿財務局の上層部が大蔵本省とも協議したと思う旨証言しながら,その具体的な協議先等についてはあいまいにしか供述することができず,他方,BV室長の証言及び陳述書のいずれからも,グループ会社の帳簿類を返還することについて了承したという事実はもとより,近畿財務局とその点を協議した事実もうかがわれないこと,に照らすと,近畿財務局がA社側からの抗議にあって独断でグループ会社の帳簿類を返却したことが優に推認されるというべきである。

なお,前記認定事実によれば,TやIが近畿財務局に抗議に赴いたのは,Jがグループ会社の帳簿を近畿財務局に提出した際,同局がグループ会社の同意を得ていなかった事実を強調してみせるためであり,その目的は,本件貸付金がR社の総勘定元帳に記載されていない事実について指摘を受けたことを契機として,グループ会社の帳簿の検査を通じて本件貸付金を含めた架空融資の実態ひいてはグループ内の経理操作の実態が白日の下にさらされ,A社が苦況に陥ることを防ぐことにあったにすぎないのは明らかであるから,Iらが抗議に赴いた事実やその際の発言をもって,グループ会社がその帳簿類についてA社を離れた独自の利害を有する証拠と解することはできない。この点につき,1審被告は,TやIの上記のような抗議内容から,CA検査官らがグループ会社はGの支配から相当程度自由な状態で経営を行っていると認識したことには一定の合理性がある旨主張し,証人CAも当法廷においてこれに沿う証言をする。しかしながら,そのような認識は,平成9年検査を受けて発出された平成9年業務改善命令に係る決裁文書における「融資先と融資している抵当証券業者とが一体となった極めて特異な状況(実質上の自己融資)となっている」との記載はもとより,A社グループはGの統括下にあったという平成7年当時におけるBE課長の認識や,既に摘示した平成13年の会社整理通告書(甲2)における,グループ会社各社はGによる実質支配会社であるとする旨の近畿財務局長自身の指摘(前記前提となる事実において引用した原判決第2の4(22))とも異なっている上,証拠(<証拠省略>)によっても,R社の社長としての立場で抗議を行っていたT自身,これに対する近畿財務局側の対応について,「会長や私達の抗議・主張が全く取るに足らないものだとして,さりげなく聞き流すような対応しかされなかったように思います。」と捜査機関に供述していたものと認められること,その他前記認定のような本件の経緯に照らすと,グループ会社の独立性を殊更強調したIらの主張が真意に基づくものであると信じたとする同証人の供述自体信用するに足りず,したがって,これに依拠する1審被告の主張も採用することができない。

そして,前記認定のとおり,平成9年検査においてはA社グループ全体の財務状況の実態及び資金繰り状況の確認が主要な着眼点の一つとされていたのであり,グループ6社の総勘定元帳等の帳簿類はその確認のため必要不可欠な資料であったということができる上,特約付き融資に係る融資先であるグループ6社のこれらの帳簿類はその融資元であるA社において融資審査の過程等で取得していたとしても一般的には何ら不自然でないものということができることにもかんがみると,近畿財務局は,平成9年検査の目的を達成するために不可欠な資料として適法に取得していたグループ会社の帳簿類をA社側からの抗議を受けて合理的な理由なしに返却しその更なる検証を不可能にしたものといわざるを得ない。

以上のとおりであるから,1審被告の前記主張は採用することができない。

1審被告は,当審においても,グループ6社の総勘定元帳は,融資先各社から(A社を介して)提出されたに過ぎないものと理解しており,グループ6社の総勘定元帳を写しを含めて返還したことは,抵当証券業規制法上の検査・監督権限が抵当証券業者本体にしか及ばないことや,A社に対する今後の実効的かつ速やかな監督処分が行えなくなることを防止する観点から,やむを得ない判断であり,もともと領置の権限はないのであるから,いつ返還するかは検査官の裁量の範囲内であるし,結果としても,返還時において既に架空融資の疑いを指摘できるまでに元帳の内容を精査しており,検査結果通知にも架空融資の疑いを指摘できたのであるから,総勘定元帳の返還により検査に著しい支障が生じたともいえず,したがって,元帳の返還は職務上の注意義務を漫然と怠った結果ではなく,国賠法上違法とまではいえないなどと補充主張する。しかし,前記認定の事実経過に照らせば,グループ6社の総勘定元帳は,A社が所持していたものと解する方が自然であるし,仮に1審被告が主張するようにグループ6社からA社を介して提出されたに過ぎないものであるとしても,これが現実にA社から提出された以上,同帳簿類を検査対象とすることは,A社の資産内容の検査として当然許容されるものであるから,検査権限がグループ6社まで及ばないことを理由に返還がやむを得ない判断であったとの1審被告の当審主張は採用できない。もっとも,写しを含めて早期に返還したとしても,実質的に検査に支障がなければ,検査方法の裁量の範囲内の行為として特段違法等の問題を生ずるものでないことは,1審被告の主張するとおりであるし,本件においては,グループ6社の帳簿類を返還した行為それ自体について,国賠法上違法であるなどというものではない。しかしながら,帳簿類の早期返還の結果,本件貸付金が架空融資であることや受取利息が未収であることの認定をよりしづらくなったことは否定しがたいのであって,かかる返還という行為も,近畿財務局が本省金融会社室の指導にもあえて抵抗してなす,検査についての消極的な姿勢の現れの一つであって,最終的には本件更新登録の違法性を判断するについての一つの事情となるものというべきである。

(カ) 平成9年検査でA社の預貯金通帳を調査しなかった理由(前記オ(エ))

1審被告は,立入検査の方法については主任検査官の専門技術的な裁量にゆだねられるというべきところ,A社がグループ会社との資金移動を預貯金口座を通して行っているとの前提がなければ,預貯金口座を調査しても実益がない上,Gやグループ会社の預貯金口座を調査する権限は抵当証券業規制法によって与えられていなかったから,CA検査官がA社の預貯金口座を調査しなかったことは特段不合理ではない旨主張する。

しかしながら,平成12年検査の結果等からみて,少なくともA社の預貯金口座を調査すれば,グループ会社からの入金は抵当証券受取利息相当額を大きく下回るものでしかない事実,その入金の時期や金額が帳簿上の記載と符合していない事実等は最低限確認することができたと優に推認することができる上,特約付き融資に係る利息額の規模からみて,現金でその出入金が行われていたとみるのも通常は不自然というべきである。また,前記認定のとおり,本件貸付金についても,AK会計士は,A社からR社に対して55億円相当の小切手を交付した旨供述していたのであるから,その供述どおりとすれば,A社の当座預金口座に55億円の出金についての痕跡が残るのが通常であり,R社の総勘定元帳に本件貸付金の記載がなかったためにCA検査官がその実在性について疑義を持ったというのであれば(しかも,カラ融資が悪質な抵当証券業者が行う典型的な詐欺行為の一つであるという事実は,遅くとも平成3年から公知の事実であって,まさに抵当証券購入者の利益を害する行為であり,監督官庁として,単に架空融資の疑いを指摘し経理処理の明確化を指示するのみで終わらせてはならない事実であったことは明らかである。),少なくとも上記の点を確認するためA社の当座預金口座を調査するのがむしろ当然であるにもかかわらず,同検査官は,あえてこれをしなかった積極的な理由について何ら証言又は陳述するところがない。1審被告は,A社の総勘定元帳に本件仕訳が記載されていたことを根拠に,直接Gから55億円が小切手でR社に交付されたと考えるのが自然である旨主張するが,そもそも,そのような可能性は,A社の当座預金口座に55億円の出金についての痕跡が存在しないことが確認されて初めて検討の対象となるべきものである。この点を措くとしても,前記認定事実によれば,Gは,平成6年検査当時から一貫して,近畿財務局に対し,A社の同人からの借入れに係る同人の資金調達先(スポンサー)について,その氏名ないし名称を始めその詳細を明らかにしない態度をとり続けていた上,個人が数十億円ないしそれ以上の資金をその調達先を明らかにすることができないスポンサーから相当な金利(前記ウ(タ)のとおり,Gは,近畿財務局が平成8年5月2日に実施したヒアリングにおいて,同人が個人的に調達している借入資金のレートは銀行レートにプラスアルファ程度である旨述べていた。)で借り受けるといった事態は通常考え難いことである上,借入条件にかかわるGの説明も一貫していないのであり(平成7年12月26日のヒアリングにおいて,Gからの借入金91億円についてはA社から年3パーセント前後の利息の支払を受ける予定で調整しており,金利の支払については約定どおりきちんと支払っている旨述べ(乙28),平成9年5月26日付け個別質問事項に対する回答においてはA社のGからの借入金91億9100万円の利率は年8パーセントであるなどと記載していた。),近畿財務局においてもスポンサーがいるとのGの主張については平成6年検査当時から一貫して疑問を持って対応していたというのであるから,CA検査官らにおいてAK会計士の上記供述内容からGから直接R社に55億円が交付されたと合理的に推認し得たということもできない。しかも,平成9年検査は,平成6年検査より1名多い6名の検査官を投入し,立入検査期間も倍の6日間を予定して行われたのであって,被検査金融機関に係る預貯金通帳の調査という基本的な調査につき人的手当てが困難であったと解すべき合理的な理由も特段見いだせない。そうすると,CA検査官らが平成9年検査においてA社の預貯金通帳を調査しなかったことには,何ら合理的な理由は認められず,その重要性にかんがみればむしろ不可解というほかない。

(キ) 平成9年業務改善命令の内容(前記オ(シ)(ス))

1審被告は,業務改善命令の対象は抵当証券業者であって,その融資先は対象となり得ないから,抵当証券業規制法の権限に基づいてグループ会社の事業に係る客観的資料の提出を求めることはできないと判断し,大蔵本省及び内閣法制局とも協議の上,平成9年業務改善命令においては,平成7年業務改善命令の別紙のような詳細な指示事項を付さなかったものである旨主張し,当審においても,平成9年業務改善命令にグループ会社の収支見込みの客観的な根拠資料の添付を求める詳細な指示事項を付さなかったのは,A社が法的措置も辞さない反抗的業者であることを勘案し,同社より「かかる指示は抵当証券業規制法上の権限を逸脱している」などの抗弁がなされて所要の行政処分の円滑な遂行が困難になり,あるいは,業務改善命令違反を認定しても,A社から業務改善命令が違法であるとして訴訟を提起され,これが裁判所によって取り消されることを回避するためである旨補充主張し,証人Dは,これに沿う証言をする。

しかしながら,近畿財務局が,平成12年にはR社が行う仲介業務等の具体的内容や,グループ会社の余資運用益の具体的内容及びこれを証明する書類等について報告ないし提出を求める報告徴求命令を発出したことについては既に認定したとおりであり,これと平成9年業務改善命令に係る1審被告の上記説明との整合性は何ら明らかにされていない(1審被告は,提出を求めるグループ会社に係る資料に関する説明を付した業務改善命令を発出すること自体が不適切であると主張しているが,仮にそうであれば,それら資料の提出を端的に要求している報告徴求命令の発出がより不適切であるのは明らかである。)。のみならず,平成9年業務改善命令にかかる弁明の機会の付与及び同改善命令発出の決裁文書(<証拠省略>)においても,平成7年業務改善命令において,融資先であるグループ会社の経営状況が悪化しており,かつ好転する要素が見出せない状況にあることをもって融資元である抵当証券業者が「購入者の利益を害する」と認定することのできる根拠について内閣法制局と協議した事実は記載されているものの,平成7年業務改善命令において付した別紙指示事項を平成9年業務改善命令において付さないことについて内閣法制局と協議した事実については何ら記載されておらず,そのような協議が存在したことを裏付けるに足りる客観的証拠も存在しない。しかも,同じA社に対しておおむね同一の理由で発令する平成7年業務改善命令と平成9年業務改善命令とでその精密さの度合いに大きく差異があることは,通常であれば決裁文書の中で説明を行うべき事項と考えられるところ,その理由が内閣法制局の意見にあるとすれば,これを決裁文書において一切引用しないことはにわかに考え難い。…かえって,D次長は,弁明の機会付与にかかる起案(平成9年9月2日付け)において,業務改善命令の内容の適切性について改めて検討し,例えば債務超過先に対する抵当証券の販売自粛や新規融資停止,担保物件の再評価と担保価値に見合った額までの抵当証券販売額の抑制などは,命令内容として問題がある旨明示的に検討しているのに対し,経営健全化計画の策定と確実な実施については,その内容について個別の検討を加えた形跡がなく,これは,前例である平成7年業務改善命令の内容をそのまま踏襲することを考えていたためであったが,その後,前記のとおり,平成9年10月20日の決裁までの過程で,業務改善命令の内容について変更が加えられ,平成7年業務改善命令の別紙指示事項に相当する指示は付さないこととなったため,弁明の機会付与の決裁文書(<証拠省略>)にも,その後の業務改善命令発令のための決裁文書(<証拠省略>)にも,平成7年業務改善命令との内容の差異についての検討内容が記載されていないものと考えるのが,より自然である。なお,同じく弁明の機会付与の決裁中に変更された,担保を含む融資後の債権管理や,毎月の財源計画の策定・実施等の削除については,決裁文書(<証拠省略>)の本文中に加削の跡が残っているのに対し,平成7年業務改善命令の別紙指示事項と同様の指示の削除については,その痕跡は残っていないけれども,後者の削除は,D次長の起案当時,決裁文書に添付されていた弁明の機会付与通知書案(具体的な業務改善命令案がその内容として含まれる。現在は残っていない。)になされたものと考えれば,何ら不思議はない。また,D次長は,当審において,平成7年業務改善命令の別紙指示事項と同様の指示を付すことは,抵当証券業規制法の権限を逸脱する過度の制約を設けるものであるとか,実行不可能な命令内容となって命令自体の違法性が問われかねないと判断したなどと証言するが,D次長の証言は,その全体を通じて,弁明の機会付与のための起案(平成9年9月2日付け)時までの検討事項と,その起案の決裁過程及び業務改善命令の発令のための起案(同年10月29日付け)時の検討事項とが判然としないものが多く,D次長の上記証言は,上記判断を覆すものではないというべきである。

また,1審被告は,「業務改善命令に基づく経営健全化計画の受理について」と題する決裁文書(<証拠省略>)において,「もし,○社が提出に応じるのであれば○社の関連会社6社の今後の経営見通しを正確に把握した上で○社のB/S,P/Lが作成されたことの裏付け資料として関連会社6社の○社と同じ期間のB/S,P/Lが提出されれば更に望ましいと考えていたところである。(本省金融会社室と協議済)」との記載があることをもって,A社に対してグループ6社の決算書等の資料の提出を強制的に求めることができないとの判断について本省金融会社室と近畿財務局との間で共通の理解が存した根拠である旨主張しているが,上記の「同じ期間」とは平成9年度から平成13年度であり,上記記載からも明らかなとおり,上記決裁文書が「提出されれば更に望ましい」としているのはグループ6社の将来の収益見込みを反映した予想貸借対照表・予想損益計算書のことであって,既に作成され,現にA社が所持している過去のグループ6社の決算書等のことではない。したがって,1審被告の上記主張も採用することができない。

加えて,1審被告は,平成9年以前に抵当証券業者に対して業務改善命令を発出した事案は,いずれも資金繰りの悪化を理由に発出したものであり,平成9年業務改善命令のように資金繰りの破綻が認められないにもかかわらず融資先の経営悪化をもって業務改善命令を発出するということ自体,相当踏み込んだ判断をした結果である旨主張する。しかしながら,融資先の経営悪化による抵当証券業者の経営破綻の可能性をもって業務改善命令を発出すること自体を積極的な判断であると評価することを否定するものではないが,その命令の内容が充実していなければ監督権限の適切な行使としては意味がなく,むしろ後日のための弁解作りともいえるのであって,1審被告の上記主張は,近畿財務局長における適時かつ適切な監督権限の行使を基礎づけるものとはいえない。

そして,前記認定のとおり,平成9年業務改善命令の内容は,その弁明の機会付与の決裁の過程で,D次長の当初の起案内容から大幅に後退させられたものであるところ,D次長は,当審において,その後退させられた経緯や局内での議論の経緯については詳細な記憶はなく,あえて推測を述べれば,平成9年検査において融資審査体制については具体的な問題点を把握できていたものの,債権管理については具体的な問題事項が把握できておらず,また担保割れ状況についてはA社のみに限られない問題であることなどを証言する。しかし,かかる証言によっても,グループ6社が債務超過であるとの問題点や,毎月の資金繰りの把握と財源計画の策定・提出を削除したことの説明とはならないし,債権管理の問題にしても,当初の起案の内容及び削除内容並びにそもそも詳細な記憶はないなどと曖昧な証言であることに照らし,上記部分のD次長の証言は採用することができない。結局,前記認定のとおり平成9年業務改善命令の内容を大幅に後退させた合理的な理由はないというほかなく,この点は,A社の実質的な財産的基礎の解明や,グループ内の資金の流れの把握を事実上放棄し,また経営健全化計画の内容の実現可能性の審査を事実上放棄していたものとして,本件更新登録の違法性を裏付ける要素の一つと評価できるというべきである。

(ク) 平成9年経営健全化計画の実現見込み(前記オ(テ))

1審被告は,平成9年経営健全化計画について,内容を確認し,A社に対してヒアリングを行って追加資料の提出を求めるなど,必要な検討を行ったが,達成度に応じて適宜変更していくことが前提の融資先の事業計画について,その実在性を疑うとか計画が架空のものであると断定することはできなかったし,弁護士や公認会計士が同計画の作成に関与していたから,確たる証拠もなくA社が組織ぐるみで詐欺的な行為を行っているとまで想定することには躊躇せざるを得ず,これまでも従前の経営健全化計画が大幅未達といった事案を隠さずに報告していたA社の融資先各社の事業について,全く架空の計画を提出しているとの疑いをもつことは合理的ではなく,ファッションホテル事業についても,将来の計画について架空のものと判断する根拠も存在しなかったし,<省略>町土地の公園墓地化計画や産業廃棄物のセラミック化事業についても,根拠となる不動産自体は存在するのであるから構想自体が架空のものと断定することはできず,計画が架空であることなどの同社にとって不利益な事実の存在を明確かつ客観的な根拠をもって立証することが不可能であれば,計画の受理を拒否した対応が違法と評価されかねないし,A社が非協力的であったために,抵当証券業規制法の権限が及ばない融資先各社の事業計画を裏付けるまでの十分な資料提出を期待することができず,事業計画が架空であることを明確かつ客観的な根拠をもって立証できるだけの資料を収集することは不可能であり,仮に裏付け資料を提出させても,将来の収益を予想することは難しく,融資先各社の事業計画を前提とした経営健全化計画の実現性について明確に判断を下せるのは,1年間ないし2年間にわたり計画に沿った営業をさせてみて,計画が未達であることが判明した時点であって,計画提出段階で裏付け資料を提出させたとしても,それをもって実現性がないなどと断定することは困難であったと補充主張する。そして,証人Dも,平成8年経営健全化計画などの過去の資料との数値の連続性を検証したものの,平成9年経営健全化計画に明らかにおかしな点はなく,整合性に欠ける点も認められず,AK会計士から「A社はこれまでの経営方法が悪かったが,ファッションホテルを経営すれば持ち直す。」などと具体的な事業計画の説明を受けたこともあり,そのような現実的な改善方法もあるかもしれないと考え,計画書は公認会計士のチェックを経たものであり,内容的に全く実現可能性がないとか,虚偽の内容が含まれているとは考えなかった旨証言する。

しかし,近畿財務局が,平成7年業務改善命令を撤回して以来,ヒアリングを続けてA社グループの実態把握に努めていた事実(前記ウ(キ)(ク)(サ)(シ)(セ)~(夕),エ(ク)(ケ)等)を踏まえると,上記1審被告の主張が採用できないことは明らかであり,また,後記(4)オにおいて詳述するとおりである。Dのこの点の証言も採用できない。そして,平成9年経営健全化計画を受理したこと自体を国賠法上違法とまではいえないものの,この点は,平成9年業務改善命令の内容の後退とあいまって,更新登録の前提となるA社の財産状態の正確な把握を全く放棄していたものとして,本件更新登録の違法性を裏付ける一つの要素となるというべきである。

ク 1審原告らの主張について

(ア) D次長における更新登録拒否の可否についての認識(前記オ(カ-2))

1審原告らは,D次長は,A社に対して本件貸付金に関する販売自粛指導文書を交付した平成9年8月8日の後にA社の担当となったものであり,D次長はA社の実態に即した資産査定をすべきだと考えていたから,同社の破綻前に資産査定により近畿財務局だけで同社の更新登録拒否をすることも困難とは考えていなかったのであって,決裁文書(乙183)中のその旨の文書の起案者は,A社の監督に終始消極的な姿勢であったBW課長である旨補充主張する。

しかし,まず,上記販売自粛指導文書の交付についても自身で担当した旨の明確なD次長の証言や,D次長は同年7月には金融証券行政担当次長となったことに照らすと,同年8月中旬ころに担当となった旨の同人の陳述書(<証拠省略>)の記載内容の方が正確性に劣るものであると考えられる。また,D次長が,A社については,融資内容の実態把握をすべきであって同社の実態に即した資産査定をすべきであると考えていたことまでは認められるものの,D次長としては,より早期に業務改善命令を端緒としてA社の破綻処理をする可能性が高いと考えていたため,資産査定通達に形式的な則った審査以上の対応が可能か否かまでの厳密な検討はしなかったものと考えれば,(これが適切であったか否かは別として,)特段不思議はなく,更新登録拒否が困難であると考えたとのD次長の証言が虚偽であるとはいえない。この点の1審原告らの補充主張は採用できない。

(イ) CQ要約と平成12年検査結果通知とのそご(前記カ(ク)(ケ))

1審原告らは,CQ要約が本件3融資の架空性について指摘していたのに対し,平成12年検査結果通知ではこの点が抜け落ち,平成10年以降に発生した抵当権付き債権一部譲渡の架空性のみを問題点として示達したのは,本件更新登録の違法性を近畿財務局が隠匿するためであった旨主張する。しかしながら,本件3融資については,事後的にもA社から融資先のグループ会社(BC社,R社,P社)に対して資金移動が存在しなかったと断定するに足りる証拠はないのは後記(3)ウのとおりであることに加え,本件上申書においてA社が抵当証券受取利息との相殺を主張していたのが抵当権付き債権一部譲渡に係る貸付債務のみであったことからすると,平成12年検査結果通知で本件3融資についての指摘が脱落していたことのみから,その理由が本件更新登録の違法性の隠匿にあったと推認することまではできないというべきである。

(ウ) 本件更新登録の「真の理由」

1審原告らは,近畿財務局長が本件更新登録を行ったのは,① B議員からの圧力があったこと,② 非常な不祥事である本件命令撤回事件を隠ぺいする必要があったこと,から,平成9年業務改善命令を発出する代わりに更新登録は認めるという旨の裏取引がA社との間に成立したからである旨主張する。

そこで検討するに,証拠(<証拠省略>)によれば,旧大蔵省出身のB議員は,平成13年11月20日に行った記者会見において,① 平成9年ころ当時の○○大蔵大臣の紹介でGと知り合ったこと,② A社に対する調査の進捗状況を知りたいとして近畿財務局長に数回電話をしたこと,③ 平成12年11月から平成13年3月まで,R社から事務員の給与名目で政治献金約97万円の振込みを受け,この事実を政治資金収支報告書に記載しなかったこと,を認めたこと,同議員は,平成15年3月28日,大手職業訓練会社や建設会社から政治献金を受け取りながら,自身の資金管理団体の収支報告書に上記政治献金による1億6800万円の収入を記載しなかった政治資金規制法違反の罪で起訴され,平成16年12月24日,東京地方裁判所で同法違反及び詐欺により懲役2年8月の実刑判決を受けたこと,が認められる。しかしながら,同時に,上記証拠によれば,B議員が平成12年検査に際しても近畿財務局長に数回電話をしたと記者会見で述べたことが認められるところ,平成12年検査結果通知においてA社の財産的基礎が否定されたことは前記のとおりであること,既に説示したように,BOゴルフ場に係る抵当証券追加発行分の販売自粛問題についても本省金融会社室等に対して政治家からの圧力ともとれる介入が数回あったものの,販売自粛の行政指導自体は継続して行われていたことなどを考慮すると,上記認定事実によっても,B議員による近畿財務局長に対する問い合わせがあった事実自体が本件更新登録の主要な理由であったとまでは解し難い。

また,本件命令撤回事件についても,前記認定によれば,BS補佐が警察庁生活安全局に対して手形商品に係る捜査を依頼し,その際に本件命令撤回事件について言及した平成8年8月末ころの時点では,少なくとも本省金融会社室にとっては,一般の問い合わせ等に対してはともかく,官庁間の情報共有等の過程でも本件命令撤回事件の存在そのものを絶対的な秘匿事項としていたとまでは認められず,その後,大阪府警からこの件についての問い合わせを受けた近畿財務局BI部長の依頼で,BV室長がBS補佐とBT係長に大蔵省としての平成7年業務改善命令についての公式見解を念押しした経緯があったとしても,その態様からみてそのことが直ちに上記事件が大蔵省を挙げて秘匿すべきような重大な秘密事項であったとまで推認することはできない上,平成9年12月の段階でA社の更新登録を拒絶したとしても,必然的に本件命令撤回事件の存在が明らかになるというわけではないから,1審原告らが主張するように,本件命令撤回事件を秘匿するために本件更新登録を行ったと判断するのは証拠上無理があるといわざるを得ない。

これに対し,1審原告らは当審において,① 平成12年には本件命令撤回事件を隠匿する必要がなくなったという新事情があるから,同年検査の際にはB議員からの電話だけでは更新登録拒否に至らなかったというだけのことであり,同年検査に際してもB議員からの電話があったことは,B議員からの電話が本件更新登録の理由の一つとなったことを否定する根拠とはならないし,抵当証券の販売自粛の行政指導に対する政治家の圧力に立ち向かったのはBS補佐であり,近畿財務局及び大蔵本省は,BS補佐をA社の担当から更迭した上で,A社の内情を以前から職務上当然認識していたCを平成9年7月に近畿財務局長に据えて,政治家からの圧力を受容した結果,本件更新登録に至ったものである,② 平成8年8月末ころの時点では,本省金融会社室にとっては本件命令撤回事件は絶対的な秘匿事項としていなかったとしても,近畿財務局とは温度差があるのであって,近畿財務局は,同年9月の大阪府警による捜査照会に対し,本件命令撤回事件が明るみに出ることを避けるため,「明らかに嘘」の回答をして捜査の芽を摘み,A社に対する捜査の進展・被害拡大の防止よりも本件命令撤回事件の隠匿を選択し,本省金融会社室もこれを追認したのであるし,平成9年更新登録を拒否するにあたっては,平成6年更新登録以降の経過の子細を明らかにする必要があるのは自明である,などと補充主張する。しかし,これらの補充主張は,仮説としては考えられなくはないものの,未だ前記判断を覆すに足るものとはいえず,1審原告ら指摘の諸事情を勘案しても,本件更新登録の「真の理由」がB議員からの圧力や本件命令撤回事件の隠ぺいにあると証拠上認めることは,やはり困難である。この点の1審原告らの補充主張は採用できない。

ケ 小括

以上によれば,A社は,抵当証券業の登録当初より,資金需要がなく収益性もない物件や,既にゴルフ会員権を販売しているゴルフ場等を担保として,グループ会社に対する融資の外形を作出し,過大な不動産評価に基づく抵当証券も含めて多額の抵当証券を販売し,抵当証券の発行が困難になると抵当証券以外の詐欺まがい商品も販売して,顧客から多額の資金を集めつつ,A社グループとして抵当証券やその他の金融商品の購入者への利払負担を賄うに足りる収益性のある事業を行っておらず,したがって構造的にグループ全体の累積債務は増大する一方であったことが明らかであり,遅くとも平成4年ころからは,近畿財務局もA社についてその本体の抵当証券商法の問題性(不動産鑑定の過大評価等)を認識し,当初は検査と指導を通じてその監督を図っていたものの,グループ会社の1社が出資法違反の疑いが強い手形商品の販売を開始したことで,平成6年検査以降,グループ会社全体を含めた収益状況を監視する姿勢を強め,それがA社の非協力的な姿勢によって拒絶されたことを受けて業務改善命令を含めた強い措置を執る方針を一度は決定したが,同和団体との関連をも示して威迫するGの気勢に気圧されて平成7年業務改善命令を撤回し,またBL抵当証券の処理や住専国会等の他案件に忙殺されたこともあってA社については継続的なヒアリングを通じて指導することとして問題を先送りしていたところ,大蔵本省は手形商品に対する出資法違反による捜査を行うよう司法当局に情報提供することで突破口を開こうともしたが平成7年当時は捜査機関が迅速に動かず,平成8年夏以降は,本件貸付金に係る抵当証券の販売自粛指導に対するGの執拗な抗議への対応の矢面に立つ近畿財務局の金融第3課が同社に対する監督にいよいよ及び腰となり,単体としてのA社の当面の資金繰りを検証することへと監督の範囲をわい小化させ,平成9年検査では,国家公務員法(守秘義務)違反等を理由とするA社側の揺さぶりもあってこのような金融第3課の消極姿勢が頂点に達し,手続的な違反事由を認定したのみでグループ全体の財務状況の実態把握はほとんど行わなかったが,そのころ,近畿財務局においても捜査機関が手形商品についての捜査を進めており同年年末にかけて強制捜査に入る見込みであるとの情報に接し,A社の破綻が現実味を帯びたことから,A社に対して及び腰であった金融第3課の担当課長としても破綻前にできる限りの監督をしたとの形を残す必要があると考えるようになり,かつ,そのころ近畿財務局において直接陣頭指揮を執るようになった担当課長の上司であるD次長においては,このまま放置しては抵当証券購入者に多大な被害が生ずる可能性があるため,平成9年12月の更新登録の前に,業務改善命令を発令し,これを契機として業務停止命令を発令することなどによる破綻処理をすることもやむを得ないと考え,関係機関とも連絡をとって業務改善命令の発令の日程等も定めて弁明の機会付与の決裁をあげるまでに至ったものの,その段階で,C局長が介入してこれを抑制する動きがあり,D次長の当初の熱意も削がれ,同時にA社が予期に反して業務改善命令に応ずるという(D次長にとって非常に意外な)対応もあって,近畿財務局として,提出された経営健全化計画の実現可能性に踏み込んで業務停止等の措置を執ることも,A社の営業実態に踏み込んで更新登録拒否事由を認定することもないまま,形式的審査により本件更新登録をしたが,その後,A社グループの経営状態がますます悪化し,資金繰りの不安が顕在化するとともに,将来の経営立て直しに向けてGが示す青写真が荒唐無稽の度合いを増すにつれ,遂に同社を放置することができなくなり,更にA社が抵当権付き債権一部譲渡など抵当証券業規制法上の規制が直接及ばない抵当証券まがい商法まで行うようになったことから,平成12年検査においてグループ内の資金の不自然な動きを追及していった結果,最終的に,A社側の釈明を逆手に取る形で抵当証券受取利息の資産性を否認するとともに簿外債務を認定し,平成13年4月に同社の更新登録拒否に踏み切った,というのが本件の大まかな経緯ということができる。

これに対し,1審原告らは,当審において,近畿財務局や本省金融会社室は金融監督・検査のプロ集団であるから,Gの気勢に威圧されたからという理由で本件更新登録を決断するなどということはあり得ないし,忙しいことを理由に監督が不十分になるということもあり得ない,大阪府警も本件更新登録時までには捜査を展開しており,迅速に動かなかったというのは事実に反する,Gへの対応の矢面に立たせていたのはBS補佐であり,本当にGに対する対応に苦慮していたのであれば,BS補佐を更迭させるはずがない,国家公務員法違反等を理由とするA社側の揺さぶりもGの言いがかりの一つでしかなく,これが本件更新登録の原因とは到底認められない,などとして,近畿財務局は1審原告らの主張する前記「真の理由」によって,A社に対する監督権限を放棄したのであると補充主張する。しかし,近畿財務局として,当初のD次長の大きな決意とは異なって本件更新登録を許容する方向となった理由は,証拠上は不明というほかないが,その点を措いても,前記認定の一連の事実経過を通して見れば,上記のとおりの本件における大まかな経緯は優に認定できるのであって,これに反する1審原告らの上記補充主張は採用できない。<原判決413頁3行目~534頁末行>』

(3) 本件貸付金,本件3融資及び抵当証券の担保保全状況

ア 検討順序

前記(2)では,A社の設立当初から事実上破綻するに至るまでの具体的な経緯及び事実関係を認定して,A社グループの営業実態及びこれに対する近畿財務局等の対応を通観したが,ここで,A社の不適正な営業実態として,特に1審原告らにおいて問題点を指摘する,本件貸付金(後記イ)及び本件3融資(後記ウ)に関する客観的な事実関係並びにA社による担保評価の実態に関し,抵当証券の担保物件による保全状況(後記エ)を,改めて検討しておくこととする。

イ 本件貸付金について

本件貸付金が架空融資であったことは,前記(2)エ(エ)において認定したとおりであるが,本件貸付金についての事実関係を改めて認定,整理すると,この点の判断は,一部補正するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第4 争点に対する判断」の2(5)ア(原判決365頁下から11行目~368頁下から2行目)に説示のとおりであるから,これを以下に再掲して引用する(補正等の方式については前同。)。

(原判決の引用)

『ア 本件貸付金に関する事実関係

証拠(<証拠省略>)によれば,本件貸付金に関し,以下の事実を認めることができる。

(ア) 本件貸付金に関し発行された抵当証券の帰すう

本件貸付金については,平成8年3月28日付け金銭消費貸借抵当証券発行特約付抵当権設定契約証書(以下「本件貸付金証書」という。)が存在し,これによれば,債務者兼抵当権設定者R社が,債権者兼抵当権者A社から,同日付けで元本の一括弁済期を平成22年9月28日等と定めて55億円を借り入れ,その担保としてBOゴルフ場に抵当権を設定するとともに,これにつき抵当証券の発行を承諾するとされていた。そして,これに基づき,平成8年5月14日受付第4558号をもって上記ゴルフ場に本件貸付金に係る抵当権が設定され,A社は,同年6月6日,宇都宮地方法務局那須出張所の登記官から抵当証券55億円相当分の追加発行を受けた。しかしながら,BOゴルフ場については,従前にA社が192億9190万円の不動産鑑定評価を得た上で130億円分の抵当証券の交付申請を行っていたものの,宇都宮地方法務局那須出張所において法務鑑定委員会に諮った上で平成7年11月にこれを100億円に減額させて交付した経緯があった。法務本省は,A社が追加発行分の前記抵当証券を販売しようとした平成8年8月に至って上記追加発行の事実を把握し,法務鑑定委員会に対して再度担保評価についての意見を求めるとともに,同月7日,大蔵本省に通報し,再評価が出るまで当該抵当証券に係るモーゲージ証書の販売を自粛させるよう協力依頼を行った。これを受け,近畿財務局が同月13日,A社に対して抵当証券原券の抵当証券保管機構への持込みを自粛するよう行政指導を行ったところ,同社は同日中に原券を同機構に持ち込んだ上で,販売自体は当面自粛すると述べた。同月22日,法務鑑定委員会において上記ゴルフ場の担保価値が120億円と評価されたことを受けて,近畿財務局は,本省金融会社室の指示で,同月23日,担保掛け目を8割としても追加発行分の抵当証券55億円は担保割れとなるとして改めてその原券を抵当証券保管機構から任意に取下げるようA社に指導した。Gはこれに強く反発したものの,最終的にその販売自粛の継続には応じた。

(イ) 本件貸付金に係るその後の経緯

平成9年検査において,A社の総勘定元帳には,平成8年4月1日の欄に,摘要欄をいずれも「R社」として,

(借方)抵当証券貸付金5,500,000,000/(貸方)長期借入金5,500,000,000との仕訳(本件仕訳)が記載され,他にも「長期借入金/受取利息」等,本件仕訳と同様,現金預金勘定を相手方としないために資金の移動を確認することができない仕訳が多く認められた。

そこで,CA検査官は,Jに対し,任意でグループ会社の会計帳簿の提出をするようしょうようし,Jは,Gらに諮った上でこれを提出した。しかるところ,近畿財務局は,このようにして提出を受けた会計帳簿を用いて上記のような仕訳を更に調査したところ,本件貸付金がR社の平成8年6月期の総勘定元帳には計上されていなかったため,平成9年7月1日ころ,この点をAK会計士に確認した。これに対し,G,I,T,AL弁護士,AK会計士らは,同月8日,近畿財務局はグループ会社の帳簿を調査した際,グループ会社側の承諾を得ておらず,抵当証券業規制法に根拠を有しない違法な調査に当たるとして抗議するとともに,本件貸付金についてはR社の側における経理上のミスにすぎない旨弁明し,AK会計士は,本件貸付金についてはA社がR社に55億円の小切手を渡していたが自分は知らなかった,R社で臨時株主総会を開いてでも確定決算を変更しようと思っている旨説明した(近畿財務局は,その前日,グループ会社の会計帳簿をコピーを含めて返還していた。)。近畿財務局は,A社の預貯金口座を調査するなど,上記AK会計士の説明の裏付けを確認することはなく,平成9年10月21日付けの平成9年検査結果通知においては,本件貸付金についてはR社の総勘定元帳にその計上が認められないなど,融資の実行が疑われる内容となっており,経理処理の明確化を図る必要があるとのみ指摘した。

その後,A社側から近畿財務局に対し,同年10月22日付けAK会計士のR社に対する報告書(R社の総勘定元帳に本件貸付金の計上がないとの指摘を受けていることに関して,自身の会計事務所の不注意による仕訳漏れが生じ,記帳漏れになったことを詫びるとともに,計上漏れについては平成8年9月1日の時点で判明し,R社においても記帳済みであるとの趣旨のもの)及び平成9年10月28日付けR社のA社に対する報告書(本件貸付金の計上がないとの指摘を受けていることに関して,経理事務処理をAK会計事務所に一任していたために記帳漏れに気づくのが遅れたことを詫びる趣旨のもの)が提出され,以後,近畿財務局において本件貸付金の架空融資問題が取り上げられることはなくなった。

本件貸付金証書に基づく抵当権については,平成9年12月12日受付第12931号をもって,同年11月28日弁済を原因としてその抹消登記がされた。しかしながら,CQ検査官は,平成12年検査の過程でA社の預貯金通帳や現金出納簿等を調査した上,平成12年11月14日,A社に対して交付したCQ要約の中において,本件貸付金の弁済については弁済を確認することができる資料の提示がなく,当該弁済が行われていない疑いがあると指摘していた。

(ウ) A社関係者の認識等

本件貸付金証書は,55億円分の抵当証券をA社が販売することができるように便宜的に作成されたものであり,これに見合った資金をこのころA社からR社に移動した事実はなかった。当時,R社の代表取締役であったTは,同社が55億円の資金を必要とした事情は全くなかったことから,本件貸付金証書は仮装のものであって,単に抵当証券を追加発行するための形式を整えるにすぎないものであると認識していたが,JがR社の代表取締役印を本件貸付金証書に押印することを許した。

また,平成9年検査において,近畿財務局から,R社の総勘定元帳に本件貸付金に関する記載がないことを指摘された後,Gは,A社の社長室にT,I,AK会計士,Jらを集めて対策を協議した。その際,IがGに対し,「何で金を移動させんのや。形だけでも移動させんとあかんやろう。」などと注意したのに対し,Gは「別にかまへんやないか。」などと答えていた。<原判決365頁下から11行目~368頁下から2行目>』

以上のとおり,本件貸付金は,R社に資金需要はなく,本件貸付金に見合った資金が同社に移動した事実もなく,本件貸付金証書は仮装のものであり,本件貸付金に係る融資は,単に,抵当証券を追加発行するための外形を整えるに過ぎないもので,これはすなわち,抵当証券業規制法制定前から度々摘発されていた,いわゆるカラ融資の事案そのものであった。しかし,近畿財務局は,A社の預貯金口座を調査することもなく,A社グループによる表面上の辻褄合わせともいうべき報告書等を受領し,それ以上の追及をすることはなかった。

ウ 本件3融資について

これに対し,本件3融資(平成7年2月7日付けBC社に対するBCゴルフ場を担保とした110億円,同年9月28日付けR社に対するBOゴルフ場を担保とした100億円,平成8年11月1日付けP社に対するCIビル敷地を担保とした7億8000万円の各融資)については,これがいずれも帳簿上融資が実行されたとされる時日に実際にA社から融資先に対する資金の移動が実施されていなかったことは認められるが,本件貸付金とは異なり,事後的な資金移動までも全く伴わないものとまで認めるに足りる証拠はないというべきである。その理由は,原判決「事実及び理由」中の「第4 争点に対する判断」の2(6)イ,ウ(原判決370頁下から6行目~376頁下から9行目)のとおりであるから,これらを引用する。ただし,別紙原判決補正表<省略>のとおり補正する。

エ 抵当証券の担保保全状況

(ア) まず,A社の抵当証券発行時の担保評価の実態として問題となる事例を挙げると,以下のとおりである。

<省略>町土地につき,A社は,抵当証券交付申請書添付の不動産鑑定書として,地目が山林であるにもかかわらず,境内地及び墓地に転換可能な熟成度の高い墓地見込地としての不動産鑑定評価を依頼し,昭和62年8月26日を価格時点として60億0300万円の評価額を得て,これに基づき,合計30億円の抵当証券を販売した。しかし,上記評価額は,抵当証券交付申請書添付のための評価としては不適正であり,その旨近畿財務局から指摘を受けて,A社において宅地見込地(ゴルフ練習場敷地)としての適正価格を再鑑定したところ,平成5年12月17日を価格時点とする21億円の評価が出された。なお,これを受けて,近畿財務局は,その8割に相当する16億8000万円を超える部分のモーゲージ証書の販売中止を指導した。そこで,A社は,販売中止を指導された抵当証券の乗換用として,<省略>区土地について約22億円の鑑定評価を得て,15億4000万円の抵当証券の発行を受け,これを販売したが,<省略>区土地は虫食い状態であり,何らの事業実態も収益も期待できない物件であった。

また,<省略>町ゴルフ場用地につき,A社は,平成5年12月,ゴルフ場予定地であることを付加価値として見込んだ上で4億8010万円の不動産鑑定評価を得て,3億8000万円の抵当証券についての交付申請をした。しかし,釧路地方法務局から,開発許可を得た事実を評価の要素とすることはできない旨の指摘を受けて,抵当証券の申請額を1億9000万円に減額することを余儀なくされた。

さらに,A社は,平成7年10月,BOゴルフ場につき,約202億円の鑑定評価を得て,130億円の抵当証券の交付申請をしたところ,宇都宮地方法務局那須出張所の登記官は,法務鑑定委員会に諮った上,鑑定評価が高額すぎるとして同申請を受理せず,抵当証券の申請額を100億円に減額することを余儀なくされたが,A社は,平成8年5月,改めて55億円の抵当証券の追加発行を申請して,同年6月,上記経緯が十分に引き継がれていなかった同出張所から同額の抵当証券の発行を受けた。しかし,A社がこれを販売しようとした同年8月に至って,事情を知った法務本省が再度法務鑑定委員会に対して担保評価について意見を求めるとともに,大蔵本省に対し販売自粛の指導を依頼し,近畿財務局において販売自粛を指導した。上記法務鑑定委員会の再鑑定においては,BOゴルフ場の担保価値は120億円と評価された。

また,上記担保物件以外のいずれの担保物件も,特約付き融資の利払負担を賄うに足りる収益性はなかった。

(イ) 次に,平成9年3月末時点の抵当証券の担保保全状況として,同時点の特約付き融資の担保物件による回収不能見込み(無担保部分)を概算する。

まず,平成9年3月末時点のA社の帳簿上の特約付き融資は,原判決別表2記載のもの及び本件貸付金であって,その概要は以下のとおりである。

融資先 融資口数 融資総額 担保物件

P社 13口 105億1530万円 Q外,本社ビル,<省略>町土地,<省略>市山林,AM駐車場,<省略>区土地,ANビル,AO駐車場,AUビル敷地,CIビル敷地

R社 8口 234億3430万円 <省略>区駐車場,ABゴルフ場,AV,BOゴルフ場

AG社 2口 80億円 <省略>ゴルフ場

AP社 4口 32億2000万円 AQ共同住宅,AR共同住宅,AS共同住宅,AT共同住宅

E社 1口 1億9000万円 <省略>町ゴルフ場用地

BC社 1口 110億円 BCゴルフ場

(グループ6社合計 29口 563億5960万円)

そこで,以上の特約付き融資についての平成9年3月ころ時点の担保物件による保全状況を検討すると,この点の判断は,一部補正するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第4 争点に対する判断」の5(4)ケ及びコの一部(原判決346頁2行目~359頁下から9行目)のうちの貸倒引当金の算定に関する部分を除いた部分のとおりであるから,これらを以下に再掲して引用する(補正・要約等の方式については前同。)。

(原判決の引用)

『ケ グループ6社の担保の状況

(ア) 担保物件に係る不動産鑑定評価の合理性

(<証拠省略>)によれば,(以下要約)グループ6社に対する特約付き融資については,いずれもA社が各法務局に対して抵当証券の発行申請を行った直近の時期において,その融資額を2割以上程度上回る額の不動産鑑定評価書が存在していたことが明らかであるから,平成9年3月ころの時点における各担保物件に対する不動産鑑定評価の合理性を検証する必要があるところ,このうち,AG社及びBC社に対する特約付き融資の担保物件のすべて,並びにR社に対する特約付き融資の担保物件の大部分を占めるゴルフ場については,証拠上各ゴルフ場の平成9年3月時点における価値を合理的に算出する方法は見いだせない。

また,1審原告らによる計算(原判決別紙8)によっても,R社に対するゴルフ場を担保物件としない2件の特約付き融資のうち,AVに係るものについては担保割れが生じておらず,<省略>区駐車場に係るものについても約1000万円の無担保部分が生じているだけであって,この程度のかい離は誤差の範囲にとどまる可能性もある。

そこで,以下,その担保物件の中にゴルフ場が含まれていないE社,P社及びAP社に対する債権について検討する(以上,原判決349頁1行目まで)。

(イ) E社に対する特約付き融資の回収不能見込み

しかるところ,(以下要約)E社に対する特約付き融資については,1審原告らによる計算(原判決別紙8,10)によっても回収不能見込額が存在せず,証拠(<証拠省略>)によっても,担保物件である<省略>町ゴルフ場用地の平成9年当時の適正価格が,その債権額1億9000万円を下回っていたとは断定できない(以上,原判決350頁10行目まで)。

(ウ) P社に対する特約付き融資の回収不能見込み

P社に対する特約付き融資の担保物件のうち,<省略>市山林,AM駐車場,AO駐車場及びAUビル敷地については,平成9年までに抵当証券保管機構による再評価が行われている。そして,…<証拠省略>によれば,P社が上記各不動産を取得した時期は昭和60年7月から平成6年4月にかけてであったこと,抵当証券保管機構が行った再評価(BS補佐がその内容をBW課長に伝え,他の不動産についても簡易鑑定による再評価をするよう促したことが認められること,<証拠省略>右肩に(H.9.4.30分に添付)との記載があることから推して,その価格時点は平成9年4月ころと推認される。)は路線価や公示地価を基にしたいわゆる簡易鑑定であるが,銀行からの出向者がその職員の多くを占める同機構の不動産担保評価の手法には一般的に信頼性があると推認することができるところ,同機構の再評価によって帳簿価額より価格が下落していたとされた4筆の土地はいずれも大阪圏の市街地に所在しており(<省略>市山林も,住宅都市整備公団(当時)によって<省略>ニュータウンとして開発され,平成6年ころまでに順次換地を受けており,平成13年ころの現状は6区画約500坪の宅地であった。),大阪圏の商業地における公示地価は,これらの土地のうち3筆が購入された平成5年度から平成8年度までの間に約5割,残り1筆が購入された平成6年度から平成8年度までの間に約3割下落しているから,このことからも上記再評価の結果には不合理な点はないと解される。なお,法的整理手続中の売却という特殊事情や約5年の時期の違いがあるが,…A社グループの破綻以降に抵当証券保管機構を通じて処分がされたものの処分価格は,原判決別表3のとおり,AM駐車場が2億0010万円(なお,特約付き融資の債権額は9億8000万円,上記抵当証券保管機構による再評価額は7億2500万円),AO駐車場が1億4100万円(同様に,債権額は9億6000万円,再評価額は4億6400万円),AUビル敷地が約2453万円(同様に,債権額は1億8000万円,再評価額は1億0500万円)であった。

また,<省略>町土地についてみると,抵当証券発行時の昭和62年8月26日を価格時点とする不動産鑑定書での評価額は60億0300万円であったが,近畿財務局が同不動産鑑定書の不備を指摘して改めて提出された平成5年12月17日を価格時点とする不動産鑑定評価書での評価額は,21億円とされている。なお,P社の破産手続においては,<省略>町土地は,評価額を上回る産業廃棄物の除去費用が見込まれ換価性がないことを理由に,破産財団から放棄されている(<証拠省略>)。

ところで,証拠(…<証拠省略>)によれば,…関東財務局が平成9年10月にF社のCR社に対する債権につき回収不能見込額を算定した際には,担保物件のうち簡易鑑定の行える不動産についてはこれを行い,これが行えない不動産については不動産鑑定評価をそのまま用いていることが認められる。そこで,ここでもそうした手法にならって検討すると,平成9年までに抵当証券保管機構による再評価が行われていた上記各土地(<省略>市山林,AM駐車場,AO駐車場及びAUビル敷地)についてその評価額は,原判決別紙7の1頁の上記各土地に係る評価額(Aの符合が付されているもの)のとおりであって,その合計は約16億2200万円である。そして,これらの土地を担保とする特約付き融資の債権額は合計26億4830万円であるから,その差額である10億2630万円が無担保となる。また,<省略>町土地については,再提出された不動産鑑定評価21億円と債権額30億円との差額9億円が無担保となる(もっとも,抵当証券の販売自体は近畿財務局の指導により16億8000万円までとされていたから,販売された抵当証券についての担保割れはない。)。

……

(エ) AP社に対する特約付き融資の回収不能見込み

…AP社に対する特約付き融資に係る担保物件(AQ共同住宅,AR共同住宅,AS共同住宅,AT共同住宅)については,そのすべてで平成9年までに抵当証券保管機構による再評価が行われていたところ,抵当証券保管機構による簡易鑑定が一般的に信頼可能であると推認することができること,これらの担保物件がいずれも大阪圏の市街地にあることは,いずれもP社の場合と同様である。なお,原判決別表3のとおり,A社グループの破綻以降に抵当証券保管機構を通じて処分がされたものの処分価格は,AQ共同住宅が2億3560万円(特約付き融資の債権額は12億4000万円,上記再評価額は6億0300万円),AR共同住宅が1億8100万円(同様に,債権額は6億4000万円,再評価額は5億3800万円),AS共同住宅が1億7680万円(同様に,債権額は5億2000万円,再評価額は3億1700万円),AT共同住宅が2億2008万円(同様に,債権額は8億2000万円,再評価額は3億8600万円)であった。

そこで,ここでも担保物件のうち簡易鑑定の行える不動産についてはこれを用いるとの上記手法にならうとすれば,A社のAP社に対する債権計32億2000万円については,原判決別紙7の同社に係る「優先弁済額」欄に記載されたとおり,抵当物件によって担保されていたと評価し得るのは約18億4400万円にとどまることになるから,その差額である約13億7600万円が無担保というべきこととなる。…

(オ) 小括

以上のとおり,抵当証券保管機構による再評価額があるものについてはそれにより,その他は抵当証券発行当時の不動産鑑定価格(<省略>町土地については再提出された不動産鑑定価格)によるものとして担保物件による回収不能額を概算すると,P社に対する特約付き融資については19億円以上(抵当証券販売額でみても10億円以上),AP社に対する特約付き融資については13億円以上がそれぞれ無担保となる。これに加えて,平成9年ころまでの全般的な地価下落状況や,そもそもゴルフ場や墓地公園予定地等は流動性に乏しく,不動産競売等を前提とすれば,その価額が大幅に下落するであろうことは,容易に予想することができる。なお,前記前提となる事実において原判決を引用して示したとおり,平成13年4月のA社グループの破綻後に,抵当証券保管機構の申立てによる不動産競売等によって売却された担保物件の処分価格及び回収率等は,原判決別表3(補正後のもの)及び本判決別紙担保物件別回収率一覧表のとおりであって,各ゴルフ場からの回収率は,0%(<省略>ゴルフ場の2番抵当権等)ないし12.915%(ABゴルフ場の一部)であり,その他,東京都所在の物件について同回収率が50%前後となった以外は,同回収率は0.618%(<省略>区土地)ないし27.735%(AS住宅)に過ぎなかった。以上のとおり,平成9年3月末当時,その回収不能見込額を明確に算定し得たか否かは別として,少なくともA社の特約付き融資(したがって販売されている抵当証券)が基本的に著しく担保割れの状況であったこと自体は,常識的にみて明らかであった。

コ 1審被告の主張について

1審被告は,グループ会社が保有する不動産の評価額は,抵当証券発行申請時に不動産鑑定士が提出した不動産鑑定評価額を無視すべきではないと主張する。しかしながら,不動産鑑定評価額に一般的な合理性を肯定するとしても,それらの評価時点はいずれも抵当証券発行申請時に近接する時点であって,平成8年6月末ないし平成9年3月末の時点ではその後の地価下落の影響を受けざるを得ない。…近畿財務局も,平成5年ころ,<省略>町土地には不動産鑑定評価額である30億円の価値があるとは思われないとして,これを担保とした抵当証券の販売額が,改めて提出された鑑定評価書の評価額の8割にあたる16億8000万円を超えないようA社に指導していた上,遅くとも平成9年9月の段階では,同局の担当者も,A社の各担保不動産は,地価下落の影響を受けるとともに,ゴルフ場のほか墓地公園予定地等も含まれ流動性に乏しいため,最終的に換価処分した場合に大幅な元本割れを生じる可能性が高いものと明確に認識していたことがそれぞれ認められるから,1審被告の前記主張は採用することができない。<原判決346頁2行目~359頁下から9行目>』

(ウ) そして,以上のような特約付き融資の担保状況は,平成9年当時,近畿財務局においても認識可能であった。その理由は,一部補正するほか,原判決「事実及び理由」中の「第4 争点に対する判断」の5(7)ア(エ)(原判決580頁3行目~583頁下から11行目)及び同(オ)のうち原判決586頁下から10行目から587頁4行目までのとおりであるから,これを以下に再掲して引用する(補正等の方式については前同。)。

(原判決の引用)

『(エ) 回収不能見込について

既に説示したとおり,AP社及びP社に対する特約付き融資の無担保部分に係る算定は,その担保物件の価格について,① 抵当証券保管機構による簡易鑑定の結果が利用できるものはそれにより,② それ以外は…A社による抵当証券発行申請時の不動産鑑定評価額をそのまま採用しただけでも,容易に認定できるものである。…これらのうち,少なくとも本省金融会社室が平成9年更新登録時点で①の抵当証券保管機構による簡易鑑定の結果が記載された保管抵当証券明細表(<証拠省略>)を取得し同簡易鑑定の結果を近畿財務局に伝えていた事実は前記認定のとおりであり,同簡易鑑定による評価額は,抵当証券保管機構が路線価や公示価格を基にして行ったものであるところ,<証拠省略>によれば,関東財務局がF社のCR社に対する特約付き融資のうち抵当物件によって担保されていない部分の価額の評価を路線価又は不動産鑑定評価書によって行っていること,保管抵当証券明細表からは同簡易鑑定の評価額が抵当証券発行時にA社が提出した鑑定評価書の評価額を大きく下回っている状況が容易に理解できたことからすれば,近畿財務局において少なくとも抵当証券保管機構による簡易鑑定がされている物件については当該簡易鑑定の結果を用いることが容易にできたはずであり,また,これを用いるのが合理的な手法であったということができる(AP社に対する特約付き融資に係る担保物件についてはすべて上記の簡易鑑定がされている。)。…また,P社の<省略>町土地については,前記のとおり,平成5年12月を評価時点とする21億円の鑑定評価が出されていた上,これに基づく抵当証券の販売枠管理が行われてきたのであるから,近畿財務局は,<省略>町土地の評価額としては,当該鑑定評価額(21億円)を用いることが容易にできたはずであり,また,これを用いるのが合理的な手法であったということができる…。そして,以上説示したところからすれば,P社の<省略>区土地を含むその余の物件についても,少なくともこれを全体としてみれば当時の時価が被担保債権額を相当程度下回っていたことは容易に推認することができたというべきである(なお,<省略>区土地が本件更新登録時点においてなお遊休資産のまま放置されていた事実は,平成9年経営健全化計画の内容及びこれに関する近畿財務局のヒアリング内容からも明らかであった。)。<原判決580頁3行目~583頁下から11行目>』

『 これに対し,1審被告は,担保物件には不動産鑑定評価書が存在した以上,簡易鑑定等によってその評価額を安易に否認することは近畿財務局には行い得なかった旨主張する。しかしながら,不動産鑑定評価書といえども評価時点が異なる以上担保の回収見込額を判断するに際してはこれを離れて合理的な評価額を再度算定する必要があり,関東財務局もF社の債権に係る回収不能見込額を算定する際には同様の作業を行っていることは既に説示したとおりである上,現に,前記認定に係る本件の経緯のとおり,平成4年検査において,近畿財務局も<省略>町土地の不動産鑑定評価額が高額にすぎるとして再度の鑑定を行わせ,販売枠管理という形でA社にも上記土地を担保とするモーゲージ証書の販売高を抑制するよう指導していたこと,BE課長も,平成7年業務改善命令の撤回前においては,A社に対し,その担保物件に対する不動産鑑定評価額について疑義を示す場面もあったことからして,1審被告の上記主張も採用することができない。

1審被告は,近畿財務局は平成9年当時,抵当証券保管機構が行った再評価に係る保管抵当証券明細表を入手しておらず,また,そもそも同評価について,抵当証券保管機構が銀行からの出向者がその職員の多くを占めるからといって,不動産担保評価の手法には一般に信頼性があるなどと推認することはできず,簡易鑑定をもって回収不能額を合理的に見積もり,それを根拠として抵当証券業者に不利益処分を課すことなど,およそ不可能である旨補充主張する。

しかし,そもそも近畿財務局は,平成9年当時,保管抵当証券明細表を入手していたというべきことは前記認定のとおりであるし,仮に現実に入手していなかったとしても,抵当証券保管機構において簡易鑑定が可能であってこれを活用すべきことはBS補佐から指示されていたのであるから,むしろ入手していなかったことは,適切な調査権限行使の懈怠ともいえるものである。さらに,同機構の評価額はあくまで簡易鑑定であって,これをもとに正確な回収不能見込額を算定することはできないとしても,そのおおよその具体的状況を掴むことができれば,抵当証券の購入者に被害が生じる現実的危険性を把握することは十分に可能なのであって,上記1審被告の主張は採用できない。<原判決586頁下から10行目~587頁4行目>』

オ 小括

前記イのとおり,本件貸付金は,抵当証券を販売するためだけに融資の形式が整えられた全くの架空融資であり,これはすなわち,抵当証券業規制法制定前から度々摘発されていたカラ融資による抵当証券の販売であって,A社の抵当証券業の不適正な営業実態を端的に示すものであった。また,本件3融資は,前記ウのとおり,本件貸付金とは異なり,事後的な資金移動を全く伴わないものとまで認めるに足りる証拠はないものの,少なくともBC社に対する融資は,債務者とされる同社には資金需要がなく,その主眼が抵当証券の販売にあたったことが強くうかがわれるし,その余の融資も,現実の資金需要があったとしても,その融資日や融資額,貸付金証書等は抵当証券を発行するために形式を整えたにすぎないものであることは,ほぼ間違いないものと考えられる。

また,A社においては,前記エのとおり,度々法務局等から指摘を受けながらも,過大な不動産鑑定評価に基づく過大な抵当証券の発行やその試みを繰り返しており,その後の全般的な地価下落もあいまって,平成9年3月末現在で概算すると,A社の抵当証券は,少なくとも24億円の担保割れが生じていて,これを近畿財務局においても把握できていたというべきである。

(4) 平成9年3月末時点までのA社グループの財務状態及び経営状況と経理操作

ア 検討順序

前記(2)においては,A社グループの営業実態と近畿財務局等の対応に関して,具体的な事実経緯を通観し,前記(3)においては,A社の不適正な営業実態として問題となり得る本件貸付金等の架空融資問題及び抵当証券の担保保全状況について具体的に検討した。

そこで,次に,A社の財産的基礎とその仮装に関して,まず,本件更新登録申請の添付書類(前事業年度の貸借対照表,損益計算書)となる平成9年3月期までのA社とグループ6社の帳簿上の財務状態及び同グループの経営状況(後記イ,ウ)を検討し,さらに,財産的基礎の仮装の実態として,抵当証券受取利息の帳簿上の支払原資と(後記エ),同グループの収益改善見込みの有無(後記オ)を検討した上で,抵当証券受取利息の現実の収受の有無(後記カ)を検討し,最後に本項を小括する(後記キ)。

イ A社の帳簿上の財務状態

まず,A社本体の財務状態を,その帳簿上の記載を前提に検討すると,平成6年3月期から平成12年3月期までにおけるA社の貸借対照表及び損益計算書は,前記前提となる事実で原判決を引用して説示したとおり,原判決別紙4のとおりであって,そのうち平成9年3月期までの概要は,以下のとおりである。

平成6年3月期

貸借対照表 資産合計 268億5226万2182円

(うち抵当証券貸付金 267億6960万0000円)

負債合計 263億3440万8247円

(うち売渡抵当証券 249億2910万0000円)

(うち長期借入金 13億6296万2596円)

資本合計 5億1785万3935円

(うち資本金 4億5000万0000円)

(うち剰余金 6785万3935円)

損益計算書 売上高(抵当証券受取利息) 17億5414万9579円

売上原価 10億1442万9893円

(うち抵当証券支払利息 7億0739万5659円)

(うち借入利息 3億0703万4243円)

売上総利益 7億3971万9686円

販売費及び一般管理費 7億1689万7922円

営業利益 2282万1764円

平成7年3月期

貸借対照表 資産合計 421億4133万4213円

(うち抵当証券貸付金 402億1960万0000円)

負債合計 416億0186万8102円

(うち売渡抵当証券 324億7000万0000円)

(うち長期借入金 91億0206万6441円)

資本合計 5億3946万6111円

(うち資本金 4億5000万0000円)

(うち剰余金 8946万6111円)

損益計算書 売上高 30億8394万2864円

(うち抵当証券受取利息 23億7887万8788円)

(うち割引料収入 7億0506万4076円)

売上原価 21億6839万7632円

(うち抵当証券支払利息 15億5958万5820円)

(うち借入利息 2億2533万7073円)

売上総利益 9億1554万5232円

販売費及び一般管理費 8億7951万4577円

営業利益 3603万0655円

平成8年3月期

貸借対照表 資産合計 520億5114万7342円

(うち抵当証券貸付金 502億1960万0000円)

負債合計 514億8904万1185円

(うち売渡抵当証券 440億3380万0000円)

(うち長期借入金 73億0187万2572円)

資本合計 5億6210万6157円

(うち資本金 4億5000万0000円)

(うち剰余金 1億1210万6157円)

損益計算書 売上高 47億3594万9702円

(うち抵当証券受取利息 32億3925万1078円)

(うち割引料収入 14億9669万8624円)

売上原価 35億9797万7370円

(うち抵当証券支払利息 18億5099万1846円)

(うち借入利息 7億2407万4463円)

売上総利益 11億3797万2332円

販売費及び一般管理費 11億3015万0304円

営業利益 782万2028円

平成9年3月期

貸借対照表(本件貸借対照表)

資産合計 573億3890万3336円

(うち抵当証券貸付金 563億5960万0000円)

負債合計 567億5942万3307円

(うち売渡抵当証券 479億0560万0000円)

(うち長期借入金 81億4728万6449円)

資本合計 5億7948万0029円

(うち資本金 4億5000万0000円)

(うち剰余金 1億2948万0029円)

損益計算書(本件損益計算書)

売上高 49億6422万3218円

(うち抵当証券受取利息 37億2037万2451円)

(うち割引料収入 12億4385万0767円)

売上原価 40億7040万6501円

(うち抵当証券支払利息 22億5814万6650円)

(うち借入利息 7億9663万8030円)

売上総利益 8億9381万6717円

販売費及び一般管理費 8億7417万1221円

営業利益 1964万5496円

以上のとおり,A社の決算書上は,毎期資産超過であり,純資産額は,平成6年3月期が約5億2000万円,平成7年3月期が約5億4000万円,平成8年3月期が約5億6000円,平成9年3月期が約5億8000万円と,毎期増加している。そして,売上高の大半は抵当証券受取利息(その余は手形商品に係る割引料収入)であって,A社の抵当証券業者としての収益は,特約付き融資先からの受取利息と,抵当証券購入者に対する支払利息との差額であるところ,前記前提となる事実のとおり,平成9年3月末時点の特約付き融資の融資先は,グループ6社のみである。

そこで,次に,このグループ6社の平成9年3月末までの決算書上の財務状態と現実の経営状況を検討する。

ウ グループ6社の帳簿上の財務状態及び経営状況

この点の判断は,一部補正するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第4 争点に対する判断」の2(4)ア~クの本文21行目まで(原判決319頁下から5行目~344頁16行目)及び5(7)ア(オ)のうち原判決583頁下から9行目から584頁14行目までのとおりであるから,これらを以下に再掲して引用する(補正・要約等の方式については前同。)。

(原判決の引用)

『(4) 平成9年3月期末時点までにおけるグループ6社の財務状態及び経営状況

証拠(以下要約)によれば,R社は,手形商品等の販売スタッフの給与等の固定費が多額であるという構造的要因により,平成8年6月期までの5事業年度において一貫して営業損失を計上し,平成6年6月期以後はA社に対する特約付き融資の利払額だけで同期の売上高を超えるなどして,平成8年6月期の売上総利益が約4億3000万円であるのに対し,同期の累積債務は約58億円に上っていた。AG社は,平成8年8月期までの4期連続して営業損失を計上し,いずれの期においても,A社に対する特約付き融資の利払額だけで同期の売上高を上回っており,平成8年8月期の売上総利益は約2億円であるのに対し,同期の累積債務は約31億5000万円に上っていた。BC社は,平成7年3月期と平成8年3月期には営業利益は赤字で,平成9年3月期の営業利益が約240万円の黒字となったに過ぎず,A社に対する特約付き融資の利払額(約定利率で年7億円以上)は,同社が現実的に期待できる営業利益の規模を確実に凌駕しており,平成9年3月期の累積債務は約2億7000万円であった。P社は,既に平成4年6月期において同期の売上高の約2.5倍の累積債務約8億円を抱え,その後は,営業利益を計上する期もあったものの,特約付き融資の利払額を超える収益を上げられる事業はなく,平成8年6月期の売上総利益は約1億5000万円に対し,同期の累積債務は約14億5000万円に達していた。AP社も,平成9年3月期までの4事業年度おいて,おおむね営業利益は計上しているものの,特約付き融資の利払額だけで各期の売上高を上回り,平成9年3月期の累積債務約1億7000万円は,同期の売上総利益約1億6000万円を上回っていた。そして,上記5社はいずれも,平成9年3月ころまでの時点で,容易に事業が好転する見込みはなかった。さらに,E社は,平成8年9月期までの4期において何らの営業利益を上げていない休眠会社であって,A社に対する特約付き融資等の支払利息負担により,累積債務は毎期拡大し,平成8年9月期累積債務は約3億4000万円に達していた(以上,原判決343頁下から7行目まで)。

ク グループ6社の経営状態

以上によれば,グループ6社は,その帳簿上の記載を前提とした場合,平成9年3月末の時点において,いずれも累積債務を抱えていた上,その事業の継続によって独力でこれを解消させる見込みもなかったこと,特にE社は既に事実上休眠状態にあったことが認められる。…

もっとも,キ記載のとおり,A社は,平成9年3月期末において,その財務活動によって顧客からのキャッシュインフローを得ていた上,グループ全体ではなお約60億円の現預金を所持していたから,これらの資金をグループ会社に融資することによって,既に事実上休眠状態にあったE社を除く各社にとっては,その営業活動を当分の間継続させること自体はなお可能であったといわざるを得ない。そして,既に説示したところに照らせば,A社がグループ各社に対する融資を停止すればそれら各社が即座に破綻することは確実であったから,このことを考慮して,回収可能性をかえりみることなく更なる追加融資を行うか否かは,最終的にA社グループを統括するGの経営判断に属することであったということもできる。

しかしながら,グループ6社については,その本来の事業収入から特約付き融資の利払を行うことはできず,後記にも説示するとおり将来的な収益の回復によって弁済できる見通しがあるともいえない状態であって,このような融資先に対し,利払のための追加融資を行うことは,経済的に不合理な行為というほかない。前記のとおり,グループ6社は,A社がグループ各社に対する融資を停止すれば即座に破綻する状態だったのであるから,これは,金融検査実務等においていずれの債務者区分に分類されるかはさておき,その実態は,既に破綻した状態であったというべきである。

また,グループ6社は,前記のとおりいずれも営業利益を上回る担当証券支払利息を負担していた上,銀行取引がほとんどなかったことから,A社に対する特約付き融資の利息の支払原資は,グループ会社間において融通し合うほか,最終的にはA社からの融資を仰ぐ以外にその調達先がなく,<証拠省略>によれば,平成9年検査の当時において,近畿財務局も同様の認識であったことが認められるし,帳簿の精査によっても客観的にこれを確認できたことは,後記エのとおりである。そして,このことはすなわち,A社が購入者から得た資金が,特約付き融資等とその利払という形でグループ6社を通してA社へ環流しているにすぎない状態であって,このことは,近畿財務局においても当然認識していたというべきである。<原判決319頁~344頁16行目>』

『 これに対し,1審被告は,グループ会社が資金繰りをする中で,特約付き融資や手形商品から得た資金の一部をA社に対する支払利息の原資にしていたとしても,グループ会社にはそれぞれ事業収入があり,A社に対する支払利息のすべてが購入者から得た資金で賄われていると認定することはできなかったから,グループ会社が利息額に見合う収益を上げておらず,銀行から借入金もほとんどなかったからといって,近畿財務局は,A社が購入者から得た資金が同社に環流しているにすぎないと判断することはできない旨主張する。しかしながら,たとい支払利息の原資の全額をA社からの融資が占めているとまではいえなくても,継続的にその原資の大部分をA社からの融資で賄っているとみるほかない事実が認められるのであれば,融資先であるグループ会社を延命させるために経済的に不合理な追加融資を繰り返している状況を推認させるに十分というべきである。そして,グループ会社がその事業収入では到底利払が行えなかったことは明らかであって,その大部分がA社からの特約付き融資を原資としているとみざるを得ないこと…は既に説示したとおりである。…したがって,1審被告の主張は採用できない。<原判決583頁下から9行目~584頁14行目>』

エ 抵当証券受取利息の帳簿上の支払原資

前記のとおり,グループ6社は,いずれも営業利益を上回る抵当証券支払利息を負担していた上,銀行取引がほとんどなかったことから,これらの事実からだけでも,A社に対する特約付き融資の支払原資は,帳簿上,グループ会社間において融通しあうほか,最終的にはA社からの融資を仰ぐ以外にその調達先はなかったことは近畿財務局においても十分に認識できたというべきであり,現実に平成9年当時,近畿財務局においてもそのように認識していたことは,前記説示のとおりである。そして,A社グループ各社の総勘定元帳を精査すれば,このことはさらに明確になるというべきであって,特に,平成6年ころ以降のP社及びAP社の利払原資の環流状況が帳簿上明らかであることは,原判決「事実及び理由」中の「第4 争点に対する判断」の5(7)ア(イ)~(オ)(原判決563頁7行目~587頁下から11行目)のとおりであるから,これらを引用する(ただし,別紙原判決補正表<省略>のとおり補正する。)。

オ A社グループの収益改善見込み

以上のとおり,グループ6社のA社に対する特約付き融資の利息の支払原資は,最終的にはA社からの融資を仰ぐ以外にない状態であることは,その収益構造からして明らかであり,総勘定元帳の精査によっても客観的に裏付けることができたはずであった。そうすると,グループ6社は,平成9年3月ころの段階で,A社からの融資金等による環流が止まれば,直ちに破綻するほかない状態だったということができ,そして抵当証券業者としてのA社は,融資先であるグループ6社からの利払と抵当証券購入者への支払利息額との差額を収益とする会社であったから,今後もグループ6社の本来的な事業収益が上がらずA社からの資金の環流を当てにするほかないのであれば,A社もいずれ破綻する以外にないことは明らかであった。そして,平成9年3月ころの時点で,グループ6社の事業が容易に好転する見込みがなかったことは前記認定説示のとおりであるが,本件更新登録までの時点において,A社から提出された平成9年経営健全化計画を検討しても,グループ6社の今後の収益改善見込みがあるとすることはできなかったというべきである。その理由は,一部補正するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第4 争点に対する判断」の5(7)ア(ウ)(原判決570頁下から6行目~580頁2行目)のとおりであるから,これを以下に再掲して引用する(補正等の方式については前同。)。

(原判決の引用)

『 <証拠省略>によれば,A社は,平成9年経営健全化計画において,現にゴルフコースを運営しているR社,AG社及びBC社について,BOグリーンコース及びABカントリークラブの会員権販売による登録料収入,ABリゾート計画やBOリゾート計画によるリゾート会員権登録料利益,これらの会員権販売に伴う無利子預託金の余資運用益等で当期利益が平成11年に黒字化する(R社),経費節減や関東地区旅行会社とのタイアップによる売上げの増加で赤字を抑制しつつ,平成14年度以降の会員権を販売していく(AG社),会員権販売による登録料収入や無利子預託金の余資運用益等で平成9年度中に債務超過額を解消する(BC社)などとしている。

これらのうちゴルフ会員権の販売計画についてみると,前記認定のとおり,BOグリーンコース(R社)については,平成9年10月以降平成10年3月までに約2000口(登録料計約3400万円,預託金計82億6000万円),ABカントリークラブ』(R社)については,平成10年1月から3月まで900口(登録料計約4億6000万円,預託金計36億9000万円)を売り上げ,これによって集めた資金を年10パーセント程度の収益が上がるとする外債投資やBOグリーンコースのリゾートホテル建設資金15億円等に充てるとするものであり,BC社については,平成10年1月から3月までに900口,同年4月以降の1年間で500口(登録料計6億2580万円,預託金計51億5000万円)を売り上げるとともにその余資運用益を上げるというものであったところ,確かに,BOグリーンコースのゴルフ会員権については,近畿財務局が平成9年11月18日に実施したヒアリングにおいて,A社側から,同年8月から10月までの販売実績が118億円に上っているとの説明を受けていたところであるが,近畿財務局が同年11月25日に実施したヒアリングにおいて,Gは,ゴルフ会員権販売が好調となった理由について,会員権に年間24枚の転売可能なプレー券を付けたからである旨の説明をしていた上で,近畿財務局は,同年8月28日の時点で,抵当証券保管機構から,同月に入ってA社の抵当証券の中途解約が急増している事実を知らされていたのであり,同年11月ころ,チケット制会員権の詳細について記載された本件告発文書が大蔵本省等に送付されていたこと,近畿財務局が同社が平成6年にも多数の抵当証券購入者に中途解約させて金融商品としての手形商品を購入させた経緯を承知していたことやゴルフ会員権取引をめぐる当時の客観的経済情勢をも併せ考えると,近畿財務局において当該ゴルフ会員権の実質が手形商品類似の高利率の金融商品であることを容易に想到し得たものというべきであり,ヒアリング等においてGら関係者に問いただすことにより当該ゴルフ会員権の高利金融商品としての実態を正確に把握することが容易にできたはずである。そして,近畿財務局においてそのような調査を遂げていれば,当該ゴルフ会員権の販売が最終的にはその購入者からの高利による借入れにほかならず,収益面での寄与が乏しい上,その販売対象も乗換えの対象となるような抵当証券,手形商品その他の同社の金融商品の購入者を除いては現実的可能性が少ないことを容易に認識し得たものというべきである。また,その余のゴルフ会員権についても,前記のとおり,平成8年経営健全化計画におけるBOグリーンコースのゴルフ会員権の販売計画が大幅未達に終わった経過に加えて,ゴルフ会員権取引をめぐる当時の客観的経済情勢にもかんがみると,これらのゴルフ会員権を登録料を除いて1口350万円(BCカントリークラブ)ないし410万円(ABカントリークラブ)の価格<証拠省略>で上記の計画口数販売することが客観的にみて実現可能性が極めて乏しいことは明らかということができ,近畿財務局においても,これらのゴルフ場の周辺のゴルフ場の会員権相場を調査するなどすればこれら販売計画の非現実性が更に容易に裏付けられたというべきである(前記認定のとおり,平成6年検査においては,近畿財務局は,平成6年検査結果通知の指摘を受けてA社が示したABカントリークラブ,BCカントリークラブ及びAGカントリークラブのゴルフ会員権の販売見通しについて,事前に周辺ゴルフ場の会員権相場を調査した上で,A社の認識が甘すぎるので実態を再調査しグループ会社の収支5か年計画を再度見直すよう指示していたところである。)。これらに加えて,平成9年経営健全化計画に盛り込まれたR社及びBC社の前記余資運用益が何ら具体的な裏付けを伴うものではなかったこと並びに平成9年当時におけるR社及びBC社の累積損失の額の大きさなどにもかんがみると,本件更新登録時点において近畿財務局が把握し及び容易に把握することができた事実関係のみに基づいても,R社及びBC社についてその収益が近い将来急激に改善する見込みはないと断定するに足りる合理的な根拠が存したというべきであり,ましてや,これら2社がP社及びAP社に対してその利払資金の相当部分を貸し付ける等の資金的余裕など生じ得ないことも明らかであったというべきである。なお,前記のとおり,AG社については,平成9年経営健全化計画において,ゴルフ会員権の販売計画すら策定されておらず,旅行会社とのタイアップによる来場客の増加や航空運賃の自由化による北海道外からの集客に期待するといった希望的観測が記載されているにすぎず,その収支予想は平成13年度までに営業損失を解消することができず,債務超過額も同年度までに約48億円に拡大するとされていたのであって,同社がP社及びAP社に対してその利払資金の相当部分を貸し付ける等の資金的余裕など生じ得ないことも客観的に明らかであった。

もっとも,平成9年経営健全化計画においては,ABリゾート計画及びBOリゾート計画が新たに盛り込まれていた上,A社が「融資先会社新規事業計画案詳細資料」として,建設予定であるホテルやコテージ等の概要や建設費,人件費等の概算的な見積書,宿泊施設料金表やリゾート内施設利用料金等が提出されていたが,そもそもこれらのリゾート施設の経営見通しはゴルフ場の営業実績と連動するものであると考えられる上,これらの計画がゴルフ会員権の販売計画が順調に推移することを前提にその一部を建設資金として充てることを内容とするものであることをも併せ考えると,当該計画が実現し予想された収益を上げ得る客観的可能性は極めて乏しいものというほかない。

以上のとおりであるから,本件更新登録時点において,近畿財務局が把握し及び容易に把握することができた事実関係のみに基づいても,P社及びAP社が近い将来収益の改善したR社,AG社及びBC社から資金援助を受けることによりその収益を改善する見込みはないと断定するに足りる合理的な根拠が存したというべきである。

そこで,次に,P社及びAP社が平成9年経営健全化計画において計画された事業を展開することにより近い将来その収益を改善する見込みが存したか否かについて検討する。

上記証拠によれば,A社は,平成9年11月25日に改訂前の平成9年経営健全化計画を提出した際,同計画が平成13年度までにグループ全体の債務超過がなお解消しない内容となっている旨の指摘を受けたことから,その2日後の同月27日に,平成13年度においてグループ全体で約22億円の資産超過となるとした最終版の平成9年経営健全化計画を提出したこと,その最大の変更点は,P社が平成10年4月から平成11年11月までの間に200億円の資金を投じて中古ファッションホテルを購入する計画を打ち出した点にあり,これによって平成10年度に7億円,平成11年度に18億円,平成12年度と平成13年度に各20億円,計65億円の収益を上げるとしていたこと,この結果,P社の資本勘定は,改訂前の計画では平成13年度末にようやく約3400万円の資本超過となるはずであったものが,改訂後の計画では同年度末における資本超過額が約20億7800万円へと急増したこと,ファッションホテル投資物件についての参考資料(平成9年11月20日に存在した<省略>地方における中古ホテルの売却物件1件についての概要と,それを購入した場合において必要な改装工事の概要及び収益計画が仮定の形で記載されたもの)は同年12月1日に提出されたこと,上記200億円の原資の大部分は,新規の特約付き融資で賄う方針が示されたこと,がそれぞれ認められる。しかしながら,<証拠省略>によれば,ファッションホテル事業への進出は,平成8年12月20日の業況ヒアリングで言及されていたものの(同日の連絡記録票には,A社側の発言として,「立地条件や経営効率等を考慮し,優良物件を探している。50億円規模で,利益率15~20%」との記載がある。),その後は特段の進展がなく,平成9年経営健全化計画の当初案にも盛り込まれていなかったものであって,その4倍の投資規模のものがわずか2日の間に改訂された最終案に急きょゴルフ会員権販売と並ぶ経営健全化計画の柱として盛り込まれたという経緯や,その収益性の高さからみて,その計画としての合理性のみならず,実在性自体に強い疑問が生じるものというべきであり,少なくとも,業務改善命令において資料の添付を明示的に求めていなくとも,平成10年に購入する予定の中古ファッションホテルの購入希望物件リスト(前記のとおり,平成9年経営健全化計画に参考資料として添付されていたのは,直近の売り物件を例にとってその開業までの費用や収益を計算してみせた試算表にすぎない。)やその不動産鑑定評価書等を提出させることは必要かつ容易であったと考えられ,前記認定の経緯に明らかなように,平成13年にA社グループが破綻するまで,同グループによるファッションホテルに対する何らの投資も行われた形跡がないことに照らすと,同グループから十分な疎明資料が提出された可能性はないから,これらの事実を総合することによって,ファッションホテル事業への進出計画自体が単なる数字合わせのための架空のものである,と合理的に認定することは容易であったと考えられる。また,P社の経営再建のもう一つの柱は,<省略>町土地の公園墓地化計画であるが,これは,平成8年経営健全化計画では,ゴルフ練習場とすることによって平成11年度から3億1000万円以上の収益を上げる予定となっていた上記土地につき,平成8年12月20日のヒアリング<証拠省略>では,公園墓地として<省略>市に20億円で売却予定であるとされ,平成9年5月20日のヒアリング<証拠省略>では,<省略>市とR社との第3セクター方式による霊園墓地としての開発を行う予定であり,同年11月を目処に<省略>市から開発許可の正式決定が出る予定であるとされ,平成9年経営健全化計画<証拠省略>では,P社が<省略>町土地を霊園墓地として開発した上,A社と<省略>市とが設立した第3セクターに平成12年度に売却し,墓地経営の利益を同社と<省略>市とで収受するとの計画に順次変更されるとともに,その提出に際しての説明では,まだ正式の開発許可は下りていないが,<省略>市議会には根回しを行っており,平成10年秋には実現するとの見通しが述べられていたものである。しかしながら,前記認定に係る本件の経緯及び前記ウで原判決を要約引用して設定説示したところに照らせば,平成9年の段階でA社と<省略>市との間に第3セクターを設立する具体的な協議など実際には存在しなかった事実は優に推認することができるところ,前記認定のとおり,近畿財務局は,本件更新登録に先立ち,抵当証券保管機構から現況がどうなっているのか実態を把握しておく必要があるのではないかとの指摘を受けていたにもかかわらず,<省略>市との間の協議の存在を示す証拠(契約書草案や完成予想図等を含むより詳細な事業計画書,<省略>市側の担当者の氏名及び連絡先,<省略>市議会や地元住民に対する説明資料等)の提出を求めることはもとより,そのような協議が存在するか否かについて<省略>市に任意で問い合わせることすらしていなかったのであって,そうした簡単な裏付けを取る最低限の努力を払っていれば,<省略>町土地の利用計画に係るA社側の説明が変遷し,開発許可の取得予想時期も遷延している事実と相まって,それがせいぜいA社グループ内における単なる構想の域を出るものでなく,<省略>市との協議も具体的な形では存在していなかった事実を容易に認定し得たことが明らかであったというべきである。

さらに,AP社についてみると,<証拠省略>のとおり,その不動産賃貸事業は,平成9年経営健全化計画においても平成13年度まで現状を維持するとの見込みであり,それだけでは特約付き融資に係る利払(年間約1億9320万円)に及ばない水準の営業黒字(年間約1億2040万円)を発生させるだけであって,その経常収支は,平成9年11月以降本格稼働するという産業廃棄物セラミック化処理事業によって初めて好転する計画となっていたところ(同事業は,平成9年10月には月40万円以上の赤字であったものが,同年11月以降は販売経費に変化がないにもかかわらず月43万円以上の黒字になり,その後の月平均黒字額は平成10年度が約534万円,平成11年度が約576万円,平成12年度が約1700万円,平成13年度が約1990万円へと推移するという野心的なものであった。),前記ウで原判決を要約引用して認定説示したとおり,そもそも,上記事業は,平成7年収支計画でも,平成7年度から5000万円の収入を得る計画となっていたものの,この計画には具体的な裏付けがなく,その後も現実化しなかったのであって,平成9年5月20日のヒアリングにおいても,<省略>市との間で廃棄物リサイクル事業に係る独占的契約を締結しており,今後2年間の間に10億円の利益が見込める旨の説明をしていたにもかかわらず,平成9年経営健全化計画の提出に際し,廃棄物リサイクル事業についてはなお<省略>市と協議中であり,平成10年2月に同市と契約し,同年度以降は有望な事業となる旨の説明をするにとどまっており,同計画上で平成12年度以降毎期2億円の利益を計上する予定となっていたことについても,<省略>市との間にそのような契約が可能であることについての裏付けは何ら提出されなかったのであって,その後も何ら事業が進展した形跡がないことに照らすと,そもそも事業が実体として存在せず,<省略>市との契約に関する協議も架空のものであったことは優に推認することができるところ,近畿財務局は,事業計画書(平成9年経営健全化計画においては,上記事業の予想損益計算書のほかには,「産業廃棄物のセラミック化(トーマスセラミック:レンガ,壁材等に利用)事業を中心に,更なる事業の充実・拡大について,現在<省略>市と協議中です。」との説明があるにとどまり,その事業の具体的内容は全くといっていいほど明らかとなっていない。)や<省略>市との間の協議の存在を示す証拠(契約書草案や<省略>市側の担当者の氏名及び連絡先等)を提出するようA社に指示したり,そのような協議が存在するか否かについて<省略>市に任意で問い合わせすることすらしていなかったのであって,そうした簡単な裏付けを取る最低限の努力を払っていれば,廃棄物リサイクル事業に係る説明が変遷し,その本格開始予想時期も遷延している事実と相まって,それがせいぜいA社グループ内における単なる構想の域を出るものでなく,<省略>市との協議も具体的な形では存在していなかった事実は容易に認定し得たことが明らかというべきである。

したがって,平成9年経営健全化計画中,少なくともP社及びAP社に係る部分については,その再建策の重要部分が架空のものであることは通常必要とされる注意を払えば近畿財務局において容易に認定することができたというべきであり,そうであるとすれば,本件更新登録時点において,近畿財務局が把握し及び容易に把握することができた事実関係のみに基づいても,P社及びAP社がその事業を展開することにより近い将来その収益を改善する見込みはないと断定するに足りる合理的な根拠が存したというべきである。

以上検討したところによれば,グループ6社は,本件更新登録時点において,近畿財務局が把握し及び容易に把握することができた事実関係のみに基づいても,その事業を展開し,あるいは近い将来収益の改善した他のグループ6社から資金援助を受けることにより,近い将来その収益を改善する見込みはない…と断定するに足りる合理的な根拠が存したというべきである。…

1審被告は,当審において,上記判断が,平成13年にA社グループが破綻するまでファッションホテルに投資した形跡がないなど,本件更新登録時には判明していない事実にも基づいている点を非難するが,本件更新登録に先立ち適切な監督権限を行使すれば当時においても当然知り得た事情を,後日の客観的事実をも加えた論証しているに過ぎないものであって,反論たり得ない。<原判決570頁下から6行目~580頁2行目>』。

以上のとおり,平成9年3月ころの時点において,グループ6社のA社に対する特約付き融資の利息の支払原資は,その収益構造からして,帳簿上,最終的にはA社からの融資を仰ぐ以外にない状態であることが明らかであったのであるが,その後に提出された平成9年経営健全化計画を検討しても,グループ6社がその事業の展開により収益を改善する見込みはなく,これを近畿財務局長においても認識し得た。したがって,本件更新登録までの時点においても,A社グループは,帳簿上,A社の顧客から集めた資金(及び帳簿上はGからの借入金。もっとも,これは実在しないものである。)を,グループ6社に対する融資及びグループ6社からA社に対する利払という形で環流させるしかない状態が継続する見込みであることが明らかであった。そして,以上のとおり資金が環流しているような外形が帳簿上整えられていたのは,抵当証券を発行するためには,抵当証券業者から他の会社に対する融資という外形を整えなければならず,したがってグループ会社を延命させる必要があり,また抵当証券業者として登録を受け続けるためには,A社本体は貸借対照表上資本欠損でない状態を保たなければならないため,融資先からの受取利息を収益として計上しなければならなかったためであって,A社グループにおいては,上記のとおり帳簿上は資金を環流させているものの,現実には,前記(2)で引用する原判決中のイ(オ)のとおり,これに対応する現実の資金の移動はほとんどなされていなかったものである。

そこで,以下,項を改めて,本件更新登録の添付書類となる平成9年3月期の貸借対照表及び損益計算書上の抵当証券受取利息について,具体的にその収受の有無を検討する。

カ 抵当証券受取利息の現実の収受の有無

平成9年3月期におけるA社の抵当証券受取利息の収受についての客観的な事実関係は,一部補正するほか,原判決「事実及び理由」中の「第4 争点に対する判断」の2(7)イ~エ(原判決379頁11行目~388頁12行目)に説示のとおりであるから,これらを以下に再掲して引用する(補正等の方式については前同。)。

(原判決の引用)

『イ 平成9年3月期におけるA社の抵当証券受取利息収受に関する事実関係について

<証拠省略>によれば,以下の事実を認めることができる。

(ア) 抵当証券受取利息に係るA社グループの会計処理

A社の平成4年3月期から平成9年3月期までの総勘定元帳上の抵当証券受取利息に係る会計処理は,下記のとおりである。

平成4年3月期

P社,R社からの抵当証券受取利息合計4億6353万2547円は,すべて現金を相手科目として計上されている。

平成5年3月期

P社,R社からの抵当証券受取利息合計7億2612万9506円のうち,P社からの1781万4000円及びR社からの4007万5040円が未収入金を相手方として計上されているほかは,すべて現金又は普通預金を相手科目として計上されている。

平成6年3月期

P社,R社,AC社,E社,AP社からの抵当証券受取利息合計17億5414万9579円は,すべて現金又は普通預金を相手科目として計上されている。

平成7年3月期

グループ6社からの抵当証券受取利息合計23億7887万8788円のうち,平成6年4月から7月までのP社からの受取利息の一部合計8461万5176円については現金を相手科目としているが,同年8月におけるP社からの受取利息の一部2150万0577円は長期借入金を相手科目として計上されている。また,平成6年4月から8月までのグループ6社からその余の受取利息合計8億5058万8173円は,いったん未収入金を相手科目として計上された後,平成7年3月に相手科目が長期借入金へと一括して振り替えられている。また,グループ6社からの受取利息のうち平成6年9月以降に発生した合計14億2217万4862円については,すべて長期借入金を相手科目として計上されている。

平成8年3月期

グループ6社からの抵当証券受取利息合計32億3925万1078円のうち,P社からの受取利息の一部を除く平成7年4月から同年8月までのグループ6社からの受取利息12億0802万9267円は,いったん未収入金を相手科目として計上された後,相手科目が長期借入金へと一括して振り替えられている。また,同期におけるその余の受取利息は,当初から長期借入金を相手科目として計上されている。

平成9年3月期

グループ6社からの抵当証券受取利息合計37億2037万2451円は,各社について当初から長期借入金を相手科目として計上されているものと,平成8年12月末に未収入金を相手科目として計上されているものとに大別されるが,後者についても平成9年3月に相手科目が長期借入金へと一括して振り替えられている。

(イ) 近畿財務局の立入検査とA社側の説明

平成6年検査(同年9月9日開始)において,AW検査官らは,検査基準日におけるA社の本店及び東京支店における現金の帳簿残高と実際の現金残高の照合,確認を行おうとしたが,A社からは,税理士が定期的に伝票から帳簿を整理しており,現金の入出金については日次では把握・管理しておらず,正確な残高を証明することができる資料もない旨の説明があり,実際に伝票が積み重なっている状態であった。そのため,AW検査官らは,手元の小口現金残高・伝票・預金通帳について,これらと総勘定元帳の記載とを照合する方法での確認は行ったものの,現金の入出金を帳簿残高と照合・確認することはできなかった。そして,当時,A社は,その帳簿上,前記のようなグループ6社からの抵当証券受取利息の支払に加え,G個人からの借入れ,グループ会社に対する特約付き融資の多くは預金勘定ではなく現金勘定で処理していたところ,現金による資金授受については伝票以外に客観的な資料がないので,これを実際に確認することができなかった。

次いで,平成9年検査(同年6月19日開始)において,CA検査官らは,A社の総勘定元帳を調査し,前記のように,借方に長期借入金,貸方に抵当証券受取利息が記載されているというような,資金移動の確認ができない仕訳を多数発見した。しかしながら,上記の資金移動について,預貯金口座を通してこれが行われているとの確証はなく,平成6年検査の際にも資金移動については主に現金勘定が用いられていた事実が判明しているとして,CA検査官らは,A社の当座預金口座における資金の移動状況について,当座預金照合表等を通じて検証することはしなかった。

これに対し,平成12年検査(同年10月12日開始)において,CQ検査官らは,初日の現物検査でA社の本社屋内において現金出納帳のコピーを発見したところ,その残高と手元小口現金有高とが一致し,通帳の記載ともそごがなかった上,ADからもこれが真実の出納簿であることの確認を得られた。そこで,CQ検査官らは,同出納簿につき平成4年度以降分の提出を求めた。そして,同検査官らが,総勘定元帳と預金通帳・現金出納簿との照合を進めたところ,抵当証券受取利息については,平成10年3月期から平成12年3月期までの3期合計で決算書上は約91億5700万円が計上されていたものの,当座預金の記載等から実際に確認された受入額は約8億2700万円にとどまっていた(例えば,平成10年3月期におけるR社からの抵当証券受取利息の合計額は約12億9000万円であったが,A社から提出された当座預金照合表には約6億2593万円分の入金の記載しかなく,平成11年3月期以降の分については預金通帳自体が提出されなかった。)CQ検査官らが,CQ要約においてこの点を指摘したところ,A社は,抵当証券受取利息はすべて収受していたとの当初の説明を翻し,一部を現金・預金で受領し,残りは貸付金との相殺で処理している旨主張するに至った。

(ウ) 本件キャッシュフロー調査

本件キャッシュフロー調査の過程において,A社の損益計算書上の平成8年3月期における抵当証券受取利息・割引料収入合計約47億円のうち収入を確認することができたのは約3億円,同じく平成9年3月期における抵当証券受取利息・割引料収入合計約50億円のうち収入を確認することができたのは約3億円であった。

(エ) AK会計士らの捜査機関に対する供述等から認められる事実

AK会計士は,平成元年にR社の顧問税理士に就任したのを皮切りに,平成5年ころから平成12年ころまで,A社グループの顧問税理士を務めた。同会計士の捜査機関に対する供述等によれば,A社グループの会計処理は以下のとおりであった。

A社グループは,実質的にA社の社長でありグループ内で「会長」と呼称されていたGが実質的に統括しており,グループ会社の代表者は,いずれもGの指示に従って行動していた。A社から抵当証券購入者に対する利息やグループ会社に発生する経費は,Gの指示により,A社やグループ会社名義の預貯金口座等に一時的にプールしている資金から支払われており,これによって生じた資金不足は別の金融商品を販売して得られた資金等によって穴埋めされていた。もっとも,抵当証券の発行を受けるためには,A社がグループ会社に融資をした形式をとる必要があった上,A社が抵当証券業者として登録を受け続けられるようにするには,同社だけは常に黒字の形にしておく必要があったことから,同社は,グループ会社から融資に対する利払を受け,これと顧客らに対する支払利息との差額を収益としているとの外形を整えていた。このため,A社が抵当証券購入者に対して行う過大な利払は,帳簿上はそのままグループ会社の負担に付け替えられ,グループ会社の財務内容を圧迫していた。しかるところ,Gは,資金集めには手腕を発揮するものの,集めた資金によって地道に収益を上げることには余り関心を示さなかったため,グループ会社が取得した資産の中には,<省略>町土地のように放置されたり,A社グループの事務所や駐車場として利用され,グループ外からの収入をもたらさないものが多くあった。結果的に,平成6年9月ころ,A社グループ全体で70億円以上の債務超過に陥っていることが確認された。グループ各社の資金繰りは一層苦しくなっていき,A社に対する抵当証券の利払や償還のため資金が必要となったグループ会社に対し,A社が金融商品の販売を通じて集めた資金等が適宜融通されていたが,会計処理上の整合性を保つため,グループ会社の1社に対してA社が特約付き融資を行い,同社から更に真の資金需要先へと融資する方法をとることがあった。AG社に対する特約付き融資はその典型であり,同社から,特に資金繰りの苦しかったR社やP社に順次融資が行われ,帳簿上,AG社はA社に抵当証券に係る利息を支払い,他方で融資先のグループ各社から利息を受け取っていることになっていた。

また,A社の取締役として昭和60年ころから同グループの資金管理を担当し,A社の預貯金通帳や社印(一時期まではこれらに加えてグループ各社の代表取締役印)を管理し,A社が顧客から集めた資金について,Gの指示を受けて,同社従業員の人件費,業者への支払経費,顧客に対する利息及び償還金等の支払に充てたほか,グループ会社が従業員の人件費,ゴルフ場の管理費用等の支払を行うための資金の手当ても行っていたADの捜査機関に対する供述等によれば,A社とグループ会社との資金のやり取りは,概要以下のとおりであった。

平成7年ころから,グループ会社からの利払が滞っているにもかかわらず更にA社からこれら会社に資金援助を行っている実態を隠すため,AK会計士から助言を受け,ADは,A社とグループ会社の間で資金を移動させる際に仲立ちとしてG勘定を入れるようにし,A社の銀行別入出金台帳にも,資金の移動先としてグループ会社名に代えてGと記載し,グループ会社から資金をA社に移動する際にも,同様G勘定を通して行うようになった。グループ会社は,いずれもさして収益の上がる事業をしていなかったため,A社に対して特約付き融資に係る利息が現実に支払われることはほとんどなく,グループ会社にゴルフ会員権の販売収入等,グループ外部に対する売上げがあった場合に,G勘定を通じて適宜A社に環流させるとの形式をとっていた。

なお,Gは,捜査機関に対し,A社からR社に対してABカントリークラブの造成費用に充てるために抵当証券の販売代金を移動させる際,R社の代表者であった実子Tに特段知らせることなくこれを行ったこと,並びに,特約付き融資のうちAG社に対する平成6年の10億円,及びE社に対する1億9000万円については,いずれも各融資先からR社へ資金を移動させたことをそれぞれ認めている。

ウ 抵当証券受取利息の存否

前記イで認定した事実に,既に認定した事実を総合すると,① A社は,担保を有するグループ会社に対する融資について抵当証券の発行を受けて外部で販売し,顧客に対して約定どおりの利払を現に行い,その主要な原資は同社が融資先から受ける抵当証券受取利息であるとの外形を帳簿上整えていたが,実際には,抵当証券上の記載どおりの融資の実体はなく,これに対するA社からの資金交付が約定どおり行われることもなく,A社グループの資金はグループ会社のものも含めてGが一元的に管理し,顧客に対する利払やグループ会社を通じた不動産購入等により資金が必要な場合には,その都度グループ内の余剰資金をもってこれに充てる体制をとっていたこと,② A社グループは全体として恒常的にグループ外への支出がグループ外からの収入を上回っており,市場金利を超える高利の金融商品の販売等を通じて資金の獲得に努めていたものの,その保有する現預金の額も次第に減少していったため,担保余力があると見込まれるグループ会社に対してその資金需要とは無関係に名目的な融資を行って顧客に抵当証券を販売した上,上記融資先から真の需要先に対して当該資金を転貸するという方法を用いたり,又はグループ各社間で必要な資金を融通し合うか若しくは少なくとも帳簿上融通し合ったことにして資金繰りがついている旨の外形を取り繕っていたこと,③ A社は,平成6年検査のころまでは,総勘定元帳の記載上で現金勘定を多用し,かつ,実際には作成されていた現金出納帳の存在を近畿財務局に対して秘匿することで上記のような詐欺的な運営の発覚を免れていたこと,④ 同社は,遅くとも平成7年ころ以降,現金勘定による上記のような隠ぺい方法に加えて,グループ会社に対して不動産購入等の資金を移動する際,実際にはA社又は他のグループ会社名義の預貯金口座からの資金を移し替えているにもかかわらず,帳簿上,Gからの長期借入金を示すG勘定を介在させることで,あたかもGが外部のスポンサーから調達した長期資金をA社に貸し付け,これを同社がグループ会社に更に貸し付けるとともに,グループ会社からA社に対して支払われる抵当証券受取利息等も直接Gに対する借入金の返済に充てられているとの外形を作出し,債務超過に陥っている融資先に手元資金で追い貸しする不自然さを緩和すると同時に,帳簿上容易に資金の移動の存否を確認することができないように工作していたこと,⑤ グループ会社からA社に対する資金移動には口座振替が使用されることが多かったが,グループ会社の営業活動によるキャッシュフローは構造的に赤字であったため,平成10年3月期以降でみれば,現実にグループ会社からA社に資金が環流された額は抵当証券受取利息として帳簿上記載されていた額の1割以下であったこと,⑥ 大阪府警が公認会計士の協力を得てA社グループの決算書・確定申告書を精査した結果でも,平成9年3月期にA社が収受すべき抵当証券受取利息・割引料収入約50億円のうち,現に確認することができたのは約3億円にとどまったこと,が認められる。

したがって,グループ会社からA社に対して約定どおり利払がされていた旨のA社の総勘定元帳の記載は仮装のものであって,実際には,A社グループの資金は,その名目上の所在がどの会社の名義の預貯金口座であるにせよ,Gが一元的に管理し,個々の会社の資金需要に応じて使用していたところ,A社グループにおいて,グループ外からの収入としては抵当証券等の販売を行っているA社本体の財務収入が突出しており,軒並み営業赤字か,わずかな営業黒字を出していたにすぎないグループ会社にはグループ外からの収入が乏しかったため,抵当証券購入者に対する利払等に充てるためにグループ会社からA社に実際に環流したと認められる資金は,帳簿上の抵当証券支払利息相当額の1割以下であったことが明らかである。

以上によれば,どのように保守的に見積もったとしても,A社が本件損益計算書において収受したと記載する抵当証券受取利息合計37億2037万2451円のうち,少なくとも30億円については,同事業年度内におけるその現実の収受がないものと推認され,これを覆すに足りる証拠はないというべきである。

エ 1審被告の主張について

1審被告は,グループ6社がすべて大幅かつ継続した債務超過に陥っており,その営業もさしたる実業をしていない状況であること,平成9年3月期におけるA社の抵当証券受取利息計上時の会計処理の際,その相手方勘定が現金預金ではなく長期借入金であったことのみから,抵当証券受取利息の収益としての計上が仮装であることを認定することはできない旨主張する。しかしながら,1審被告が指摘する理由に加えて,上記①ないし⑥に列記した点を総合すれば,G勘定を始めとするA社グループの会計帳簿の記載の信ぴょう性は認められず,グループ会社からA社への実際の資金移動は帳簿上の記載に比して著しく少額であったこと自体は明らかである(もっとも,本件更新登録の時点において,近畿財務局が上記①ないし⑥のような事情を認識し得たか否かは別論であり,後に検討する。)。<原判決379頁11行目~388頁12行目>』

以上のとおり,グループ6社からA社に対して,約定どおりの特約付き融資の利払がされていた旨のA社の総勘定元帳の記載は,A社が抵当証券業規制法上の登録を受け続けられるようにするために同社を黒字の形にしておくための経理操作であり,A社の財産的基礎の仮装そのものであった。

キ 小括

以上によれば,A社グループにおいては,その帳簿上の記載を前提とした場合,A社(本体)については一貫して資産超過を保っている(前記イ)一方で,特約付き融資の融資先であるグループ6社の業況は悪化の一途をたどり(前記ウ),A社グループ全体としてみると,平成9年3月末ないしその直近の各社の決算期における累積債務は単純合計で111億円を超え,営業を継続すれば毎期債務が累積する状態であり,同グループのいわば事業部門であるグループ6社は,平成9年経営健全化計画を検討しても,事業の継続によって収益を改善させる見込みはなかった(前記オ)。また,グループ6社のA社に対する特約付き融資の利息の支払原資は,その帳簿上,最終的にはA社からの融資を仰ぐ以外にない状態であり,A社グループは,A社がその顧客から集めた資金をグループ6社への融資及びその利払として帳簿上環流させていることが明らかであったが(前記エ),現実には,A社グループでは,その帳簿上の利払に相当する現実の資金移動もなされておらず,A社のみが貸借対照表上資産超過を保っているのは,受取利息の収受を帳簿上で仮装したグループ内の経理操作の結果に過ぎなかったことが明らかである(前記カ)。

(5) 近畿財務局長における認識可能性

ア 検討順序

前記(2)では,A社の営業実態及び近畿財務局等の対応を通観し,前記(3)では,A社の不適正な営業実態として特に問題となり得る本件貸付金,本件3融資及び抵当証券の担保評価の実態と担保保全状況を検討し,さらに前記(4)では,本件更新登録申請書の添付書類となる貸借対照表等の事業年度である平成9年3月末時点までのA社グループの帳簿上の財務状態及び経営状況並びに経理操作の実態を検討して,A社の実質的な財産的基礎とその仮装の状況を検討した。

そこで,前記(2)~(4)において認定した事実及び既に事案の概要において原判決を引用して認定した事実,後掲証拠並びにこれらの事実から容易に推認できる事実を照らし,本件更新登録審査当時,A社が,架空融資による抵当証券や担保の過大評価による担保価値を上回る高額の抵当証券の発行を繰り返した上,後の抵当証券の販売代金でもってそれに先行する抵当証券の元利金の支払を行うなどの詐欺的商法を組織的かつ継続的に行っており,抵当証券業を適確に遂行するに足りる財産的基礎を実質的に欠いているがこれを仮装しているなどして,本件更新登録時期を越えてその営業継続を許せば,抵当証券購入者の新たな被害が発生する現実的危険性が切迫しており,監督権限の適時かつ適切な行使を前提とすれば,これらを本件更新登録までの間に,近畿財務局長において認識し又は認識し得たといえるかについて,改めて整理して検討する。

イ 抵当証券購入者の新たな被害が発生する現実的危険性の切迫を示す徴表

まず,上記具体的な事実のうち,A社が本件更新登録審査の当時,上記のような詐欺的商法を組織的かつ継続的に行っており,抵当証券業を適確に遂行するに足りる財産的基礎を実質的に欠いているがこれを仮装しているなどして,本件更新登録時期を越えてその営業継続を許せば,抵当証券購入者の新たな被害が発生する現実的危険性が切迫していたことを示す徴表としてあげられる事情を挙げると,この点の判断は,当審補充主張に対する判断を含めて以下の引用中に補正するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第4 争点に対する判断」の5(4)ア(ア)~(ソ)(原判決535頁12行目~543頁末行)及びイのうち原判決544頁1行目~546頁3行目の説示のとおりであるから,これらを以下に引用する(補正等の方式については前同。)。

(原判決の引用)

『ア(ア) A社グループの一体性とGの役割

平成9年当時,グループ6社の代表取締役はT又はIが務めていた。TはGの長男であり,本件更新登録時は○○歳であったが,昭和60年3月に○○大学工学部を卒業して以降の職歴のほとんどはA社グループにおけるものであって,就職後約2年(○○歳)でグループ6社の中核であるR社の代表取締役に就任し,同社が他のグループ会社を子会社化するにつれ,順次その代表取締役に就任した。Iは,遅くとも昭和55年からGの知己であり,同人の知恵袋となっていた。また,AG社,BC社及びE社はR社の100パーセント子会社であり,GとTの両名で,A社の90パーセント,P社の95パーセント,R社とAP社のそれぞれ100パーセントの株式を各保有していた。このような人的物的関係を通じて,A社の代表取締役であるGは,同社グループに属する全企業を完全に掌握下に置いており,A社のグループ6社に対する特約付き融資は,事実上,A社グループにおける資金調達部門としてのA社が,事業部門であるグループ6社に対して,抵当証券の販売によって集めた資金を移動させたという構図と同視することができ,正に自己融資であった。(ちなみに,この基本的な構造は,前記(2)で認定したとおり,近畿財務局においても,平成6年検査でその概要を把握し,平成7年業務改善命令の弁明の機会付与の決裁文書(行政処分方針案。<証拠省略>)の中で明確に記述されているところであり,以後本省金融会社室及び近畿財務局の共通の認識になっているというべきである。)

また,A社グループ全体の顧問税理士は,平成9年当時,AK会計士が務めており,同会計士は,平成7年収支計画,平成8年経営健全化計画及び平成9年経営健全化計画の策定に主導的に携わっていた。

(イ) A社における融資審査体制の不備

A社は,平成6年検査の以前から,特約付き融資に当たって融資先の事業計画書,返済能力や担保に関する資料等を一切徴求しておらず,近畿財務局からもその不備を度々指摘されていた(したがって,グループ各社に特約付き融資を必要とするいかなる資金需要があるのかは近畿財務局にも判然としていなかったことが明らかである。)。Gは,近畿財務局からの上記指摘に対し,これがうちのやり方である,書類さえ徴求すればよいというものではないなどと反論し,融資審査体制を容易に改めようとしなかった。

(ウ) A社の近畿財務局に対する非協力的な態度

A社は,① 平成6年検査において,手形商品についてAL弁護士から話を聞こうとしたAW検査官に対し,「何の権限があって弁護士に話を聞くんだ。」と電話で抗議し,東京支店で行った現物検査についても,女性社員の机を開けたなどとして抗議を行ったほか,当初は融資先に関する一切の資料提出を拒否するなどし,② 平成7年業務改善命令の発令に対して,「(同和団体の)組織をあげて闘う」などと猛然と抗議した上で命令書の受取りすら拒否してその撤回に追い込み,③ BOゴルフ場を担保として追加発行された抵当証券の販売自粛指導に対しても近畿財務局や本省金融会社室,法務省民事局等に繰り返し抗議の電話を掛けるなどして抵抗し,④ 平成9年検査においても,「なぜ財務局検査がマスコミに漏れるのだ。」などと抗議して立入検査の開始を遅らせたり,近畿財務局がJから任意に提出を受けたグループ会社の帳簿を検査したことに対して強く抗議してその返還を受けたり,当初は提出するとしていた連結決算書をAK会計士の病気やマスコミに財務内容が漏洩するおそれがあることを口実に提出しないなど,近畿財務局による監督権限の行使に対して総じて非協力的な態度を取っていたのみならず,威力を示して牽制するなどの行動に出ることもしばしばであった。

(エ) A社における預貯金通帳の記載

平成9年検査において,近畿財務局はA社の預貯金通帳を調査していないが,当時,預貯金通帳の記載上,グループ各社からの入金額は,A社の総勘定元帳に記載された抵当証券受取利息の額を大幅に下回っていたことは明らかである。また,本件貸付金は,A社の帳簿上は平成9年11月28日に返済されたことになっているが,同社の預貯金通帳の記載上からは上記返済は確認することができなかった。

(オ) A社における総勘定元帳の記載

平成9年3月期におけるA社の総勘定元帳には,

(借方)抵当証券貸付金/(貸方)長期借入金

(借方)長期借入金/(貸方)抵当証券受取利息

といった,それ自体では資金の移動の有無を確認することができない仕訳が多用されていた。また,グループ会社の総勘定元帳においても,A社に対する特約付き融資に係る利息の支払は,その多寡を問わずに現金勘定で処理されていたのが通例であったところ,A社は,近畿財務局に対し,現金の入出金については日次では把握,管理しておらず,税理士が定期的に伝票から帳簿を整理しており,正確な残高を証明することができる資料はない旨説明していた。

(カ) A社グループによる資金集め

A社は,バブル経済の崩壊後は低迷を続けていた抵当証券業界(平成8年7月末現在の全業者の抵当証券販売残高は前年と比較して約20パーセント減少していた。)にあって,平成9年3月期まで年々抵当証券の販売残高を伸ばしていた<証拠省略>。のみならず,その販売利率も,おおむね4パーセント台という定期預金その他の金融商品はもとより抵当証券業者の中でも高い方であった(本件内部資料においても「当社の抵当証券の販売については,バブル経済崩壊後低迷を続ける抵当証券業界にあって,年々残高を伸ばしており(かなりの高利率をつけて販売している),業界においても上位にランクされるに至っている。」旨記載されている。)。

また,A社グループは,同社の抵当証券発行額が限度一杯に達したことから,平成6年8月から手形商品の販売を開始し,抵当証券の購入者を同商品に乗り換えさせ,近畿財務局から度々出資法違反の疑いがある旨指摘されたにもかかわらず,それから約2年間にわたってその販売を継続し,平成9年3月末現在でその販売高は約150億円に達していた。同グループは,手形商品の販売中止とほぼ軌を一にして,その乗換え商品の性格をも有するチケット制会員権の販売を開始したが,これは,チケットがグループ会社で換金可能となっており,実質的には金融商品であって,本件更新登録時ころのその実質年利は6.41パーセントであったため,やはり出資法違反の疑いが濃いものであった。そのほか,A社は,平成7年11月から,年利を上げる代わりに中途解約ができないベストモーゲージという名称の抵当証券の販売を新たに開始していた(ベストモーゲージという名称の抵当証券の販売については,平成8年8月2日の一般人からの本省金融会社室に対する通報で触れられており,また,チケット制会員券の販売については,本件告発文書に記載されていたほか,平成9年11月25日にA社が平成9年経営健全化計画(修正版)を近畿財務局に提出した際にGが同局側にその事実を説明していた。)。

(キ) A社の特約付き融資に係る担保評価の実態等

近畿財務局は,平成4年検査において,墓地見込地であることを前提に約60億円として評価されていた<省略>町土地につき,抵当証券交付申請書添付のための鑑定評価としては不適当である旨指摘した。そこで,A社において宅地見込地としての適正価格について改めて鑑定を行ったところ,21億円との評価が出された。これを受けて,抵当証券保管機構と近畿財務局及び大蔵本省とが協議の上,近畿財務局においてA社に対しその8割に相当する16億8000万円を超える部分のモーゲージ証書の販売中止を指導した。

また,A社は,平成5年12月,<省略>町ゴルフ場用地につき,ゴルフ場予定地であることを付加価値として見込んだ上で4億8010万円とする不動産鑑定評価を得て,3億8000万円の抵当証券について交付申請をしたが,釧路地方法務局から評価の前提に誤りがある旨の指摘を受けたため,抵当証券の申請額を1億9000万円に減額することを余儀なくされた。

さらに,A社は,平成7年10月,BOゴルフ場につき約202億円の不動産鑑定評価を得て130億円の抵当証券の発行を申請したところ,宇都宮地方法務局那須出張所から鑑定評価が高すぎるとされたため,同年11月,抵当証券の申請額を100億円に減額することを余儀なくされたが,平成8年5月,改めて55億円の抵当証券の追加発行を申請し,同年6月,上記経緯の引き継ぎが十分にされていなかった同出張所から55億円の抵当証券の発行を受け,その後事情を知った法務本省からの通報を受けた大蔵省(近畿財務局)の指導を受けて当該抵当証券に係るモーゲージ証書の販売を自粛した。

そのほか,抵当証券保管機構が,本省金融会社室からの依頼で平成9年4月ころにA社による特約付き融資の担保物件の一部について簡易鑑定を実施したところ,その価格はおおむね同社が抵当証券の発行に際して法務局に提出していた不動産鑑定評価額の半額程度しかないとの結果が出ていた。

そして,近畿財務局も,A社の抵当証券の担保不動産は,地価下落の影響を受けるとともに,ゴルフ場のほか墓地公園予定地等も含まれ流動性に乏しいことから,最終的に換価処分した場合に大幅な元本割れを生じる可能性が高いことは認識していた。

(ク) A社グループの経営状態

本件更新登録直前の数期分のA社及びグループ6社の決算書によれば,グループ6社がいずれも債務超過の状態にあり,平成6年ないし7年ころには,グループ全体で年間30億ないし40億円程度の当期損失を発生させる状態であって,平成8年12月末時点におけるA社グループ全体の債務超過額は約105億円に達していた上,その額は一貫して増加傾向にあった。また,本件更新登録直前の期におけるグループ各社の営業外費用(その大部分がA社に対する抵当証券支払利息である。)は,いずれも各社の売上総利益(販売費・一般管理費を控除する前の営業利益)をも上回っており,特に主力のR社では前者(約28億円)が後者(約4.3億円)の6倍以上に達していた。

また,A社グループは銀行等の支援先を持たない独立系の企業群であって銀行取引自体もほとんどなく,グループ各社の資金は,会計帳簿上,同グループ所属の各社(特にA社本体)からの融資でその大部分が賄われていた。また,グループ会社に対する特約付き融資はすべて元本を弁済期に一括して返済する方式であり,平成9年中には20億円(P社),平成10年中には10億円(同上),平成11年中には計3億4460万円(同上)をそれぞれA社に返済する予定となっていた。

(ケ) 平成9年経営健全化計画の実現可能性

平成8年12月に行われたヒアリングにおいて,A社グループの平成8年経営健全化計画の初年度の実行見通しは未達となる見込みであることが明らかとなり,平成9年5月には,初年度実績はグループ全体の累積損失が計画を約43億円上回り,大幅未達であることが明らかとなっていた。A社は,平成9年12月までに平成9年経営健全化計画を提出したが,その内容は,実質的にみて顧客からの高利による借入れにほかならない大量のチケット制会員権の販売と具体性を欠いた年10パーセント程度の余資運用,ゴルフ会員権の販売で調達した資金によるBOグリーンコース等既設ゴルフ場隣接地のリゾート計画,E社の売却,近畿財務局の指摘によりわずか2日間で盛り込まれた事業計画であるP社による高収益物件購入等によって収益を確保し,平成13年度末までにA社グループ全体で約22億円の黒字に転ずるという内容であって,到底実現可能性は認められなかった。また,A社が平成9年5月までに間もなく実現する見込みであるとして説明していた,極めて収益性の高いとされる事業計画(全国展開中のパチンコチェーン(約50店舗)の買収計画,同年11月に<省略>市が正式決定するはずであった同市とR社との<省略>町土地における第3セクター方式による霊園墓地化計画等)は平成9年経営健全化計画でもなお計画のままであるか又は放棄されており,それについてA社から特段合理的な説明はなかった(そもそも,平成9年経営健全化計画は,Gの口頭での指示により,事業化の具体的な検討もされていない事業も多く取り込んで作成されたもので,GやAK会計士ら自身,達成は極めて困難であると認識していたものであった。)。

したがって,平成9年経営健全化計画を検討しても,本件更新登録当時,A社グループ全体の収益が近い将来改善する見込みはなかった。

(コ) 本件告発文書等の存在

大蔵本省には,平成9年11月ころ,A社グループの事情を良く知る者の手による本件告発文書が寄せられ,同グループにおいて売り出し中のチケット制会員権の実質は高利の金融商品であること,現状のままではいずれ購入者に多額の被害が出る可能性があること等を警告していた。また,本省金融会社室は,平成8年8月,手形商品を購入した父親を持つリース会社の法人調査関係者から,A社の社員が融資先の業務を兼職していること,採算を度外視して経費を使用していることなどから推して,抵当証券を次々に販売してそのまま経費に充てている可能性があるので善処して欲しい旨の通報を受けていた。

(サ) カラ融資の摘発例

抵当証券業者が,債権債務がないのにあったようにみせかけて金銭消費貸借証書を作成し,抵当証券の交付を受けて販売したというカラ融資の事案は,公正証書原本等不実記載罪等の被疑事実で昭和61年ころから度々摘発されており,その典型的な手法は,ダミーの別会社を作ってこれに対する融資の外形を整えるというものであった。

(シ) G勘定の実在性

A社は,平成6年検査以降,Gが不動産業で培ってきた人脈を活かして何人ものスポンサーから調達してきた多額の資金を借り入れ,これを特約付き融資等の原資としている旨近畿財務局に説明していたが,スポンサーの詳細については度重なるヒアリングに対しても説明を拒否しており,近畿財務局は,スポンサーの存在に強い疑念を抱いていた。

(ス) 担保物件の収益性

特約付き融資に係る担保物件のうち,<省略>町土地,<省略>市山林,<省略>区土地及び<省略>町ゴルフ場用地は平成9年当時において遊休地となっており,実質的には抵当証券の販売による資金集めのための手段として用いられていたにすぎなかった。また,AO駐車場,AV及び本社ビルは,いずれもA社グループ内において利用されていただけで,直接同グループ外からの収入を生むものではなかった。

(セ) 本件合意書の矛盾

平成6年検査において,A社は,近畿財務局に対し,複数の特約付き融資について利率変更合意書(本件合意書)を提出したが,うちR社に対する19億4000万円の融資について,利率変更日(平成5年10月1日)が融資の日(同月14日)よりも前に,AP社に対する12億4000万円の融資については,利率変更日(平成5年12月21日)が融資の日と同日に,AC社に対する70億円の融資については,利率変更日(平成5年10月1日)が融資の日(同年9月27日)の4日後となっていた。

(ソ) R社の総勘定元帳の記載等

R社の総勘定元帳には本件貸付金に係る記載はなかった(一般的に,本件貸付金が実際に交付されていたのであれば,決算書を作成する過程で帳尻が合わなくなり,総勘定元帳の記載は遅くともその時点で修正されるのが通常と思われる。)。この点について,AK会計士は,A社がR社に小切手で55億円を渡していたが,自分はこの件に関しては知らなかった旨の弁明をした(同会計士はA社グループの顧問税理士であり,平成8年経営健全化計画の策定作業等にも主体的に関わっていたのであって,仮にA社からR社への55億円の特約付き融資が実行されていたにもかかわらずそれを知らないとすれば,極めて不自然である。)。A社からは,小切手による上記の資金移動を裏付けるに足りる客観的証拠は何ら提出されなかった上,融資目的や返済原資についての合理的な説明があったことをうかがわせる証拠もない。<原判決535頁12行目~543頁末行>』

『イ 上記アの事実についての近畿財務局長の認識

以上の事実とこれまで認定説示した事実を総合すれば,近畿財務局長は,本件更新登録審査の時点において,① グループ6社はA社の代表取締役であるGの完全掌握下に置かれ,A社と一体性を有していたこと,② A社グループは銀行等の支援先を持たない独立系の企業群であって,グループ会社の資金はその大部分が最終的にA社からの融資金で賄われており,A社のグループ6社に対する特約付き融資は,事実上,A社グループにおける資金調達部門としてのA社が事業部門であるグループ6社の事業資金を抵当証券の販売によって調達する…ものとなっていたこと,③ A社グループの事業部門であるグループ6社は,全体として売上総利益を大きく上回る累積損失を計上していた上,A社グループ全体の債務超過額も一貫して増加傾向にあり,平成8年12月末時点におけるA社グループ全体の債務超過額は約105億円に達していたにもかかわらず,A社のみが資産の合計額が負債の合計額を上回り,かつ,その差額である純資産額が資本金額を上回る資産超過の状態に帳簿上保たれていたこと,④ グループ6社の事業内容は,ゴルフ場の経営を除けば,飲食店等営業,賃貸,産業廃棄物処理などといったものにすぎず,その規模からしても借入額に見合うだけの資金需要が存するような状況にはなかった上,遊休資産も相当数抱えており,近畿財務局の指導や業務改善命令を受けて提出した経営健全化計画においても客観的な裏付けのある具体的な事業計画を示すことができず,平成9年経営健全化計画も実現可能性がなくあるいは実在性に多大な疑問があるものであったこと,⑤ そのような状況の下において,A社は,定期預金その他の金融商品よりもはるかに高い金利を設定した抵当証券の販売を継続し,年々その販売残高を伸ばしていたのみならず,抵当証券の発行額が限度一杯に達すると,出資法違反の疑いのある手形商品の販売を開始して抵当証券の購入者を手形商品に乗り換えさせ,近畿財務局から度々指導を受けたにもかかわらずその販売を継続し,さらに,金融商品の実質を有する高利のチケット制会員権の販売を開始したこと,⑥ A社は,平成4年検査において<省略>町土地を担保とする特約付き融資に係る抵当物件の鑑定評価額が過大であるとして過大部分に係るモーゲージ証書の販売中止の指導を受け,平成5年には<省略>町ゴルフ場用地を担保とする特約付き融資に係る抵当物件の鑑定評価の前提に誤りがあるとして抵当証券の申請額の減額を余儀なくされ,平成7年にもBOゴルフ場を担保とする特約付き融資に係る抵当物件の鑑定評価(202億円)が過大であるとして抵当証券の申請額の減額(130億円から100億円への減額)を余儀なくされ,平成8年には同じBOゴルフ場を担保とする新たな特約付き融資を行ったとして55億円の抵当証券の追加発行を申請してその発行を受けたが,その経緯を知った近畿財務局の指導により当該抵当証券に係るモーゲージ証書の販売の自粛を余儀なくされるなど,過大な担保評価に基づく担保価値に見合わない高額の抵当証券の販売を度々試みていたこと,⑦ BOゴルフ場を担保とする上記55億円の抵当証券に係る特約付き融資(本件貸付金)について,融資先であるR社の総勘定元帳に計上されておらず,平成9年検査においてその事実が発覚するや,Gらにおいて近畿財務局に対する猛烈な抗議を行って,R社を含むグループ会社の帳簿類を返却させ,更なる調査を拒んだこと,⑧ 平成6年検査においても,複数の特約付き融資に係る利率変更合意書(本件合意書)の日付が融資日より前又は融資日と同日という不可解な記載になっていることが判明したこと,⑨ A社は,総勘定元帳においてそれ自体では資金の移動の有無を確認することができない仕訳を多用していた上,グループ会社も含めて特約付き融資の受取利息は現金勘定で処理するのを通例とし,現金の入出金については日次で把握,管理していないと説明し,また,独立系抵当証券業者としてのA社の抵当証券販売以外の資金調達方法であるGからの借入れについて,帳簿上その額が数十億円ないしそれ以上に及んでいた上,Gは,一貫して,その資金調達先(スポンサー)について,その氏名ないし名称を始めその詳細を明らかにしない態度をとり続けていたこと,などといった事実を把握していたものと認められる。<原判決544頁1行目~546頁3行目>』

ウ A社の状況と近畿財務局長の認識可能性

以上ア,イの認定判断を前提として,本件更新登録審査時において,A社について本件更新登録時期を越えて営業継続を許せば,新たな抵当証券購入者が生じて新たな被害が発生する現実的危険性が切迫していたこと及びこれについての近畿財務局長の認識可能性について検討する。

これまで認定説示したところによれば,A社及びグループ会社は,Gの掌握する一体のA社グループとみるべきところ,同グループは,資金調達部門であるA社が抵当証券等を販売して顧客から資金を調達し,その資金を用いて事業部門であるグループ6社がゴルフ場経営や飲食店等営業,不動産賃貸,産業廃棄物処理等を営み,その収益をもって顧客に対する利払を賄う構造となっていたものの,事業部門であるグループ6社は,全体として顧客への利払負担を賄うに足りる営業利益を上げられるような事業を営んでおらず,平成6年ないし7年ころには,グループ全体で年間約30億ないし40億円程度の当期損失を発生させる状態であって,近畿財務局は,平成7年業務改善命令を撤回して継続的なヒアリングを通じて様子を見ることとしたが,平成8年経営健全化計画は初年度から大幅未達であり,平成8年末のグループ全体の債務超過額は105億円に達しており,さらに平成9年経営健全化計画を検討しても,近い将来グループ全体の収益が改善する見込みはなかったのである。しかし,A社が抵当証券の発行を受けるためには,A社が他の会社に融資をした形式をとる必要があった上,A社が抵当証券業者として登録を受け続けられるようにするには,同社だけは貸借対照表上資本欠損でない状態にしておく必要があったことから,同社は,グループ会社への特約付き融資を行ってこれに対する利払を受け,これと顧客らに対する支払利息との差額を収益としているとの外形を整えていた。このため,A社が抵当証券購入者に対して行う過大な利払は,帳簿上はそのままグループ会社の負担に付け替えられ,グループ会社の財務内容を圧迫していた。そして,A社は,販売自粛指導等を受けながらも,カラ融資や担保の過大評価による抵当証券の過大販売を度々試み,抵当証券が発行できなくなると,近畿財務局等の規制のない抵当証券の手形版ともいうべき出資法違反の疑いのある手形商品や,金融商品の実質を有するチケット制会員権を販売するなどして,巨額の資金集めに奔走し,帳簿上はグループ6社への融資とその利払という形で資金を環流させた上,顧客への元利金支払原資に充てていた。したがって,A社グループは,顧客からの資金集めが止まれば,ほどなく資金が枯渇して破綻に至るほかない状態であり,営業を継続すればするほど,グループ全体の債務が累積し,財産的基礎が実質的に蝕まれていく状態であった。現に,上記のとおり平成8年末現在のグループ全体の累積債務は約105億円であり,本件更新登録当時,A社が,グループ全体としてみれば抵当証券業を適確に営むに足りる財産的基礎を有していないことは明らかであり,その改善の見込みもなかったのである。

それにもかかわらず,A社は,抵当証券業規制法上の登録を受け続けるため,グループ6社からA社への利息を収受しているものとしてA社の収益を計上し,A社本体のみは表面上資産超過を保っていたのであるが,前記のように,資金調達部門としてのA社と事業部門としてのグループ6社という関係及びグループ全体の一体性からして,グループ全体が巨額の累積債務を抱えながら,A社のみが資産超過を保つことは通常では考えられない。これに加えて,近畿財務局は,平成6年検査及び平成9年検査を通じて,BOゴルフ場を担保とする55億円の融資(本件貸付金)が融資先の総勘定元帳に記載されていないとか,特約付き融資に係る利率変更合意書の日付が融資の日に先行するなど整合しないといった,グループ会社に対する融資の実行やグループ会社からの利払の少なくとも一部が仮装されているのではないかとの疑念を裏付ける客観的な徴表を入手していたこと,A社グループが資金の流れを正確に把握すること自体を難しくする透明性を欠いた会計処理を行っていた上,近畿財務局による検査等に対し資金の流れの解明を妨げる方向での言動を繰り返していたことなどをも併せ考えると,本件更新登録審査時点において,A社が資金集めのために,その統括下にあり,事実上一体とみるべきグループ会社に対する融資の外形を作出し,実際の担保価値を上回る高額の不動産鑑定評価を得るなどもしながら,高額の抵当証券の発行を受けた上でモーゲージ証書を販売し,その利払ないし償還資金を調達するために同様の方法による更なる抵当証券の発行とモーゲージ証書の販売を繰り返すという詐欺的商法を行いつつ,グループ会社内部の経理操作により,A社の貸借対照表上は資本欠損ではない状態を作出し,財産的基礎を仮装しているのではないかとの強い疑いが存したものというべきであり,かかる認識に基づいて適切に調査権限を発動すれば,後にも述べるとおり,近畿財務局長において容易にその状況を把握できたものというべきである。

そして,以上のようなA社が抵当証券業の継続を許せば,A社が抵当証券の販売を続ける以上,いわば詐欺的商法の道具に過ぎず,また実質的な価値が仮装された抵当証券を購入させられ,最終的に被害を被る者が新たに多発してゆくことは明らかであって,本件更新登録審査の時点で,新たな被害発生の現実的危険性が切迫しており,これを近畿財務局長において把握していたことは明らかである。

エ 1審被告の主張について

この点に関し,1審被告は,抵当証券業者がその関連会社に融資することは抵当証券業規制法によって禁じられていたわけではなく,それ自体は何ら不自然ではない旨主張する。

確かに,抵当証券業者が抵当証券の販売によって外部からの資金調達を担い,これを関連する事業会社に融資して収益を上げさせ,その利払の一部を抵当証券購入者に還元するというビジネスモデルには違法な点はなく,むしろ,いわゆる独立系の抵当証券業者の多くは,多かれ少なかれこれと類似する業務形態を採用していたものと思われる。そして,このような場合においては,関連会社で構成するグループ全体を一つの企業体とみることができ,グループ内の取引も同一企業における本支店間の取引などと実質的には同じと考えられるから,融資先である関連会社が一時的に困窮しているのであれば,利払の減免等によってグループ内において利益を付け替えることも経済的合理性に適う商行為と解する余地は十分にある。

しかしながら,このような実質上の自己融資は,そもそも経理操作が容易であって,カラ融資あるいは過大な担保評価の温床となる可能性が大きい。また,融資先である関連会社の収益が更に悪化し,かつ,これが容易に改善する見込みがないにもかかわらず,抵当証券業者が関連会社に対し利払による収受分を超える追加融資を繰り返し,実質的に資金の流れがほぼ抵当証券業者から融資先に対する一方通行となっている状態が相当期間継続しているような場合には,こうした商取引はもはや経済的合理性では説明をすることができないというべきであり,特段の事情がない限り,融資先は関連会社であるがゆえに経済的に不合理な形でその延命が図られていると解するのが通常と解される。のみならず,融資先の大部分がこのような関連会社である抵当証券業者の場合であれば,融資先は,むしろ抵当証券業者の抵当証券販売継続のため(だけ)に存続させられているとみるのが自然である上,融資先と融資元である抵当証券業者との関係が,そのまま抵当証券業者と抵当証券購入者との関係に投影され,当該抵当証券業者,及びそのグループ全体が,抵当証券の販売という形式による顧客からの借入資金によって先行する借入金の返済原資を調達するという自転車操業により延命しているにすぎないとみるのが自然である。したがって,このような場合には,抵当証券購入者の保護を図るためには,抵当証券業者の財産的基礎をグループ全体で見ることが実態に即したものであり,むしろ不可欠であることが明らかとなるのである(そして,近畿財務局が平成6年検査以来把握していた事実関係のみによっても,A社グループが平成9年当時において上記のような図式に当てはまっていったと推認し得ることは明らかである。また現に,近畿財務局自身,A社の財務状況をグループ全体として合算ベースで把握してきたのである。)。

また,1審被告は当審において,前記イで引用する原判決中のア記載の各事情は,総合的に見ても破綻の危険性の切迫を示す事情たり得ず,A社が平成9年当時,グループ全体で約60億円の現預金を有しており,特約付き融資の元本償還予定や利払を考慮しても,営業活動による現金収入をも考慮すれば直ちに資金がひっ迫するような状況にはなく,抵当証券購入者に対する利払延滞の事実もなく,詐欺等の被害届もなかったし,現実に平成13年まで営業を継続し,その時点でも約16億円の現預金を有し,抵当証券購入者への利払の遅延もなかったことからすると,平成9年当時A社に破綻の危険性が切迫していたとはいえない,また,前記のような詐欺的商法自体は更新登録拒否事由とされているものではないし,平成9年当時,近畿財務局において,かかる詐欺的商法の合理的な疑いを持つことなどできなかったなどと補充主張する。

確かに,A社は平成13年まで営業を継続しており,前記のような詐欺的商法を継続し,回収した抵当証券の再販売や新たな金融商品等の販売によって顧客から次々と新たな資金を得て,その自転車操業状態を継続させている限り,破綻が表面化することはなく,その意味で,破綻の危険性が切迫していたとはいえないとの考え(まさに,Gの考えでもある。)もあり得る。しかし,これは,新たな潜在的被害者を限りなく生み出し拡充していくことによってのみ可能なものであって,これを切迫性否定の根拠とするのは,少なくとも抵当証券購入者の保護,被害の防止を責務とする近畿財務局としては,本来許されない論理であって相当とは言い難い。もっとも,これまでに説示したとおり,前記イで引用する原判決中のア記載の各事情を総合すれば,A社は,更新登録を受けるためにその財産的基礎を仮装しているものの,実質的には抵当証券業を適確に遂行するに足りる財産的基礎が欠如しており,営業を継続すればその欠如の程度がさらに大きくなってゆくのであるから,本件更新登録後に,いわば実質的に価値が仮装された抵当証券を購入させられることにより最終的に被害を被る者が多発する現実的危険性が切迫していたことは,明らかというべきである。なお付言するに,上記のとおり,A社は,その営業を継続すれば実質的な財産的基礎の欠如の程度がさらに大きくなっていくのであるから,営業の継続は,既存の抵当証券購入者の利益をも害する結果になるものであって,平成9年経営健全化計画にわずかなりとも実現性が期待できたなどというのは,先に詳述したとおり到底採り得ない判断である。

(6) 小括

以上のとおり,A社グループの経営実態は,特約付き融資の融資先と融資している抵当証券業者が一体となった実質上の自己融資であり,形の上では,融資先であるグループ6社は,A社が抵当証券や手形商品等によって集めた資金を運用するための事業会社として存在していたが,実際上は,グループ6社は特約付き融資の約定利息を支払うに足りるような事業収益をあげておらず,今後これが改善する見込みもなく,その営業を継続するほどに,グループ全体の債務が累積する状態であって,A社は,実質的にみて,抵当証券業を適確に遂行するに足りる財産的基礎が欠如した状態であった。しかし,A社は,抵当証券業規制法上の登録を受け続けるために,その貸借対照表上は資本欠損でない状態を保つ必要があるため,グループ6社は,そのA社グループ内で環流を受けた利払資金をもって,A社への利払を行う状態を帳簿上整えていた。すなわち,グループ6社は,顧客から資金を集めるための金融商品を生み出すための道具として利用されていたにすぎなかった。そして,A社は,資金集めのために,その掌握下にあるグループ6社に対する融資の外形を作出し,架空融資や担保の過大評価により,抵当物件の担保価値に見合わない高額の抵当証券の発行を受けてこれを販売しあるいはその試みを繰り返し,その元利金支払資金を調達するために同様の方法による更なる抵当証券の発行や販売・再販売を繰り返して巨額の資金を集めるという詐欺的な営業を行い,また,抵当証券の発行ができなくなると手形商品等の他の金融商品をも販売して,従前の顧客への元利金支払資金を生み出すという自転車操業状態となっていた。そしてこのような状態は,平成9年経営健全化計画によっても改善する見込みはなかった。

そして,近畿財務局長は,本件更新登録審査の時点で,①A社がその掌握下にあるグループ会社を利用して上記のような詐欺的な営業を行い,他方でグループ会社において顧客への利払資金を賄うに足りる事業収益をあげられず,したがって,営業を継続すること自体によって同グループ全体の債務が累積して実質的な財産的基礎が蝕まれていく状態にあったことの強い疑いが存していたこと,②事実,グループ全体の累積債務が平成7年当時に比べても増加の一途をたどり,平成8年末には105億円に達し,その回復の見込みもなかったこと,しかし,③A社本体の貸借対照表のみは,表面上,資本欠損でない状態であって,これが仮装であることの強い疑いが存していたこと,さらに,④平成6年検査によりA社グループの上記のような営業実態を把握し,業務改善命令を発することとしたものの,これを撤回してヒアリングによる指導を通じて様子を見ることとしたが,平成9年時点では,平成8年経営健全化計画が初年度から大幅未達であることが明らかになったこと,を把握しており,したがって,A社について,もはやこれ以上の猶予は許されず,同社の営業継続を許せば,抵当証券購入者の新たな被害が多発する現実的危険性が切迫していたことを把握していたものというべきである。これに加え,後記のとおり,購入者の側においてかかる危険を回避する現実的可能性は乏しかったから,このような具体的事情の下では,購入者保護を目的とする抵当証券業規制法上の監督官庁である近畿財務局長においては,同法の趣旨,目的からして,本件更新登録に際しては,法令の許容する範囲内で,かつ,与えられた人的物的制約の下で,抵当証券業規制法に基づく調査権限や更新登録の許否に係る規制権限を含むあらゆる監督規制権限を適時かつ適切に行使して,同社の抵当証券業の継続による購入者の新たな被害の発生を防止すべき注意義務が,本件更新登録後に抵当証券を購入すべき者に対する関係で,具体的に生じていたというべきである。

4  近畿財務局長による監督規制権限の行使に係る方法・時期等の選択における合理性の有無及びその裁量逸脱の程度

そこで,次に,近畿財務局長の本件更新登録の違法性の判断基準の2番目として,近畿財務局長による監督規制権限の行使に係る方法・時期等の選択における合理性の有無及び裁量逸脱の程度について検討する。

この点の判断は,一部補正するほか,原判決「事実及び理由」中の「第4 争点に対する判断」の5(5)(原判決549頁8行目~557頁2行目)に説示されたとおりであるから,これを以下に再掲して引用する(補正等の方式については前同。)。

(原判決の引用)

『(5) 近畿財務局長による監督規制権限の行使に係る方法・時期等の選択における合理性の有無及びその逸脱の程度

前記3のとおり,本件更新登録に至るまでの間において,近畿財務局長は,A社の営業の継続を許せば,抵当証券購入者の新たな被害が多発する現実的危険性が切迫していたことを把握しており,購入者においてこれを回避する現実的可能性も乏しかったから,近畿財務局長には,抵当証券業規制法の趣旨,目的からして,A社について,本件更新登録に際し,法令の許容する範囲内で,かつ,与えられた人的物的制約の下で,同法上のあらゆる監督規制権限を適時かつ適切に行使して,同社の抵当証券業の継続による新たな購入者被害の発生を防止すべき注意義務が生じていたというべきである。そして,上記のような本件の具体的な状況の下で,新たな購入者被害の発生を根本的に防止するためには,本件更新時期を越えてA社に抵当証券業の継続を認めることはできず,抵当証券業規制法の趣旨,目的からして,もはやA社に対し本件更新登録をすることは許されない状況であったというべきである。

…このような状況の下においては,近畿財務局長は,本件更新登録の許否を判断するに当たり,A社が財産的基礎の要件を満たしているか否か,すなわち,いわゆる資本欠損の状態に陥っていないか否か,あるいは他の更新登録拒否事由に該当していないかについて,同法により付与された権限を所与の人的,物的制約の下で適切に行使して,…慎重に審査すべき職務上の注意義務を負っていたものというべきであり,また,それに先立つ平成9年検査時においては,3年に1度の登録更新審査の時期を控えていることにもかんがみ,同法22条の権限を適切に行使して,A社の直近の貸借対照表等の決算書類が適正に作成され,実態を反映しているか,具体的には,提出を受けられる限りのA社及びグループ会社の総勘定元帳,現金出納簿,預貯金通帳等の帳簿書類の記載内容を確認し,これらを相互に突合するなどして,A社グループ全体の財務状況及び資金の流れを可能な限り解明し,グループ会社に対する特約付き融資に係る貸倒引当金が適切に計上されているか否か,A社がグループ会社から特約付き融資に係る利息の支払を現実に受けているか否か,さらには,そもそもこれらの特約付き融資について架空融資でないか否かについて,慎重に検査すべき職務上の注意義務を負っていたというべきであり,実際にも,既に説示したとおり,平成9年検査において,近畿財務局は,本省金融会社室から,事前に,グループ会社を含めた総勘定元帳,現金出納簿等の帳簿の記載を確認した上,これらを相互に突合するなどしてA社グループ全体の財務状況を正確に把握し,粉飾決算や架空融資の疑いがないかどうか,特に同社が実際にグループ会社から利払を受けているか否かをまず確認するよう指示されていたものである。しかるに,前記のとおり,近畿財務局は,Jから提出を受けて適法に取得していたグループ会社の総勘定元帳を独断で早々に返還した…のであり,近畿財務局は,平成9年検査の目的であるA社グループ全体の財務状況及び資金の流れの解明にとって不可欠な資料として適法に取得していたグループ会社の上記帳簿類の更なる検査を合理的な理由なしに放棄し…たものといわざるを得ない(…)。

また,近畿財務局は,平成9年検査において,グループ会社はもとよりA社についてもその預貯金通帳や当座預金照合表等の記載内容を確認し総勘定元帳等の帳簿と突合するなどの検査をしていない。この点,A社側は,総勘定元帳においてそれ自体では資金の移動の有無を確認することができない仕訳を多用していた上,グループ会社も含めて特約付き融資の受取利息は現金勘定で処理するのを通例とし,現金の入出金については日次で把握,管理していないと説明していたが,そもそも,特約付き融資に係る利息額の規模からみてその入出金が現金で行われるということは通常あり得ないことであり,A社の上記のような帳簿処理や説明自体が同社が真実の資金の流れを隠ぺいしていることの証左というべきであって,それゆえにこそ,前記のとおり,近畿財務局は,本省金融会社室から,同社が実際にグループ会社から利払を受けているか否かをまず確認するように指示されていたのである。そして,前記のとおり,平成12年検査の結果等からみて,少なくともA社の預貯金口座を調査すれば,最低限,グループ会社からの入金は抵当証券受取利息相当額を大きく下回るものでしかない事実及びその入金の時期や金額が帳簿上の記載と符合していない事実等を確認することができたと推認されるのであり,近畿財務局は,帳簿上利払があるとされているにもかかわらず預貯金通帳に入金の記載がないものについては,更に,帳簿の記載の正確性を裏付ける資料の提出や説明を求めてその合理性を検証すべきであったということができる。

また,既に説示したとおり,近畿財務局は,平成9年検査において,R社の総勘定元帳に本件貸付金55億円についての記載がないことが判明したにもかかわらず,AK会計士の説明は,GがR社に55億円の小切手を交付した趣旨と理解することができ,そうであればA社の当座預金口座を本件貸付金が通過していないこともあり得ること,R社とA社との間には双方が記名押印した本件貸付金証書が存在すること,本件仕訳も,現金預金勘定を省略した中間省略仕訳として理解できないではない旨の補佐官の説明があったことなどを理由に,本件貸付金の存在については疑義があるとしつつも,R社の当座預金口座の入金状況についてはもとより,当該小切手の振出人がだれであるかやA社の当座預金口座に対応する出金状況が記録されているか等の点についても,それ以上調査していない。

しかしながら,前記のとおり55億円もの資金の移動が誤って移動先会社の総勘定元帳に記載されていないということは通常考え難い事態であることに加えて,本件貸付金に係る特約付き融資が,A社において過去に抵当物件の鑑定評価額が過大であるとして抵当証券の申請額の減額を余儀なくされたBOゴルフ場用地について抵当証券の追加発行を受けてモーゲージ証書を販売しようとしたところ法務本省の知るところとなって近畿財務局から販売自粛の行政指導を受けていたものであること,本件貸付金の原資がGからの借入金であることの説明についても,Gは,近畿財務局に対し,同人自身の資金調達先(スポンサー)の詳細を明らかにしない態度を一貫してとり続けていた上,そもそも個人が数十億円ないしそれ以上の資金をその調達先を明らかにすることができないスポンサーから相当な金利で借り受けるといったこと自体が通常考え難いこと,A社とグループ会社との関係からみて融資の外形を作出する目的で実体を欠く契約書類を作成することは容易と考えられ,また平成8年経営健全化計画の連結資金収支予測においては,R社の抵当証券借入金は平成8年中には存在しないものとされていたから,この点から資金需要にも疑問を持つことができたことなどをも併せ考えると,平成9年検査当時近畿財務局が把握するに至った事実関係のみからしても,本件貸付金が資金の移動を欠いた架空融資であるとの強度の疑いが存したものというべきである。そうであるとすれば,前記のとおり,近畿財務局は,少なくとも,A社の当座預金口座を調査し,本件貸付金に係る出入金が記録されていないことを確認した上,本件貸付金の原資について,A社に対し,Gと同社との間の消費貸借契約書等の契約書類の提出を求めたり,通常であれば融資審査の過程で取得しているはずのR社の本件貸付金に対する資金需要等を裏付ける資料の提出を求めるなどして調査を尽くすべきであったということができる。

以上のとおり,近畿財務局は,平成9年検査の目的であるA社グループ全体の財務状況及び資金の流れの解明のために必要不可欠でかつ基本というべき預貯金口座の検証を合理的な理由なく怠った上,それを手掛りとする更なる検査の可能性を自らあえて封じてしまったということができる。

さらに,前記のような平成9年検査の目的からすれば,近畿財務局は,本件貸付金にとどまらず,その他のグループ会社に対する特約付き融資について,A社に対し,通常であれば融資審査の過程で取得しているはずのグループ会社の資金需要を裏付ける事業計画書その他の資料の提出を求めたり,A社において把握している資金需要についての説明を受け,その説明内容についての裏付け調査をするなどすべきであったにもかかわらず,これをしていない。

のみならず,近畿財務局は,平成9年検査の結果を受けた平成9年業務改善命令の発令において,前記のとおり,A社に対し経営健全化計画の提出を求めるに当たり,グループ会社6社の将来の収益見込を反映した予想貸借対照表,予想損益計算書が提出されれば望ましいとするにとどめ,グループ会社6社の収支見込みを過年度の実績等客観的な資料に基づき算出した上当該積算方法及び積算過程において用いた基礎数値の根拠を示す資料を添付することなど平成7年業務改善命令の別紙に相当する指示事項をあえて命令の内容として盛り込まなかった上,平成9年経営健全化計画について,大量のチケット制会員権(その実質が出資法違反の疑いのある高利の金融商品であることは容易に認識することができたことが明らかである。)の販売,ABカントリークラブのゴルフ会員権販売,リゾートマンションやレジャースポーツ施設を建設するリゾート計画,E社の売却やP社による高収益物件購入の促進等により収益の確保や含み損の解消を図る累積損失の解消に前向きな計画であり,その実効性について当否を予測することは困難であるなどとして,実現の見込みについて必要な裏付け調査を行うなどその合理性についての判断を行うことのないまま受理している。しかしながら,既に説示したところに照らせば,平成9年経営健全化計画の大部分が単なる数字合わせの域を出ず,その実現可能性のみならず実在性すら具体的に疎明されていないことは容易に認識することができたものというべきであるし,上記計画が順調に進捗せず,グループ6社の収益が改善しないのであれば,特約付き融資の元利金の返済が近い将来において極めて困難となることは,本件更新登録審査の時点で既に自明なことであったということができる。しかるに,前記認定事実によれば,近畿財務局は,計画の内容自体や当時の社会,経済情勢からみて実現の具体的な見込みがあるとは通常考え難い計画について,A社による机上の数字合わせともいうべき計画の修正を受け容れ,裏付けとなる資料の追加提出を求めたり官公庁に照合したりするなどの必要な調査をあえて怠って,計画を受理したのである(…)。

以上検討したところによれば,近畿財務局は,本件更新登録に先立つ平成9年検査において,抵当証券業規制法22条の権限を適切に行使して,提出を受けられる限りのA社及びグループ会社の総勘定元帳,現金出納簿,預貯金通帳等の帳簿書類の記載内容を確認し,これらを相互に突合するなどして,A社グループ全体の財務状況及び資金の流れを可能な限り解明し,グループ会社に対する特約付き融資に係る貸倒引当金が適切に計上されているか否か,A社がグループ会社から特約付き融資に係る利息の支払を現実に受けているか否か,さらには,そもそもこれらの特約付き融資について架空融資でないか否かについて,抵当証券の購入者保護の視点から慎重に検査すべき職務上の注意義務を負っていたにもかかわらず,適法に取得していたグループ会社の上記帳簿類の検査を早々に放棄し…,また,A社の預貯金口座の検証を怠るなど,平成9年検査の目的を達成するために必要不可欠でかつ基本というべき検査を合理的理由なしに怠ったほか,グループ会社に対する特約付き融資について,A社に対し,通常であれば融資審査の過程で取得しているはずのグループ会社の資金需要を裏付ける事業計画書その他の資料の提出を求めたり,A社において把握している資金需要についての説明を受け,その説明内容について裏付け調査をするなどといったことすらしていない。そして,平成9年検査を受けた平成9年業務改善命令の発令においては,…A社に対し経営健全化計画の提出を求めるに当たり,グループ会社6社の将来の収益見込みを反映した予想貸借対照表,予想損益計算書が提出されれば望ましいとするにとどめ,グループ会社6社の収支見込みを過年度の実績等客観的な資料に基づき算出した上で当該積算方法及び積算過程において用いた基礎数値の根拠を示す資料を添付することなど,平成7年業務改善命令の別紙に相当する指示事項をあえて命令の内容として盛り込まなかった上,業務改善命令を受けてA社が提出した,単なる数字合わせの域を出ない,その内容自体や当時の社会,経済情勢からみて実現の具体的な見込みがあるとは通常考え難い平成9年経営健全化計画を必要な裏付け調査を行うことなく受理し,A社について,抵当証券業規制法8条2項,6条1項7号の財産的基礎の要件を満たすとして,それ以上特段の調査を行うことなく,あえて本件更新登録を行ったものということができる(…)。

のみならず,本件更新登録に至る一連の経過事実にかんがみると,近畿財務局の監督規制権限不行使の過程は不可解というほかない。すなわち,前記認定のとおり,近畿財務局は,平成6年検査以来,前記A社グループの実態を把握していた。そして,平成9年検査時点では,平成7年業務改善命令を撤回してから継続的にヒアリングを通じて指導することとしていたにもかかわらず,平成8年経営健全化計画が初年度から大幅未達であることが明らかとなっていたから,もはやA社グループの事業部門というべきグループ6社について,その収益の大幅な改善を望むことはできない状態であることが明らかとなっていた。また,A社グループは,その営業を継続するほどに債務が累積する状態であって,事実,平成8年末のグループ全体の累積債務は105億円を超えていたのであって,ただグループ会社間の経理操作によって,A社の貸借対照表上は資本欠損でない状態が仮装されているのみであり,近畿財務局は,そのことについて強い疑いを有しており,適切な監督権限の発動によれば,これを容易に把握することができた。

さらに,A社は,手形商品という出資法違反の疑いのある詐欺まがい商品の販売を,近畿財務局の度重なる指導にもかかわらず平成9年段階でも継続していた上,平成9年検査により,従来から担保割れ抵当証券であるとして販売自粛を指導していた抵当証券に係る本件貸付金が架空融資である疑いが濃厚となったところ,このような,カラ融資や担保の過大評価による抵当証券の販売は,そもそも抵当証券業規制法の制定前から問題とされていた行為であり,A社が,手形商品のみでなく,抵当証券業務自体においても,抵当証券業規制法上看過できない不適正な業務を行って資金集めに奔走している問題のある業者であることが明確となっていた。

したがって,平成9年9月段階では,既にA社グループの営業の継続を許せば,抵当証券購入者の新たな被害が発生する現実的危険性が切迫しており,後記のとおり購入者においてこれを回避する現実的可能性も乏しく,抵当証券業規制法の趣旨,目的からいって,A社は,もはや3年に1度の本件更新登録時期を越えて抵当証券業の営業継続を許すことはできない業者であり,近畿財務局の人的物的制約の下で,法令上のあらゆる監督規制権限を適時かつ適切に行使して,新たな購入者被害の発生を防止する必要があることが,近畿財務局長にも明らかとなっていたのである。

そして実際に,平成9年8月に近畿財務局内においてA社の監督の担当となったD次長は,当初,同年9月2日までには,A社について,上記のような状況を把握した上で,多額の債務超過となっているグループ6社が破綻した場合にはA社も破綻することが予想され,抵当物件からの回収も一部にとどまることが予想され,抵当証券購入者に多大の被害が発生することが予想されることから,購入者保護の観点から,その被害を最小限に抑えるとともに,被害の拡大を防止するため,同年12月の更新登録時期を待たずにA社の破綻処理をすることもやむを得ないと考え,弁明の機会の付与を経た上で,同年9月11日には,融資審査・管理体制の整備,グループ6社の今後の収支見込み自体についての客観的な根拠資料を付した上での経営健全化計画の策定とその確実な実施,毎月の資金繰りを把握した上で財源計画の策定とその確実な実施を求める業務改善命令を発出し,その命令違反に基づく業務停止命令を発出すると共に,強制捜査及び会社整理通告を行って,A社について破綻処理をすることを検討して,関係機関とも協議をしつつ,具体的な準備を進めていたのである。以上のようなD次長の認識は,平成6年検査以来の近畿財務局における担当官の認識からすれば必然的なものであり,上記のように,A社について更新登録時期を待たず速やかに業務停止命令を発出し,それを契機として同社について破綻処理をすることは,実際的であり,かつ,A社に対する監督規制権限の行使として,購入者の被害の拡大を防止するために,適切かつ合理的な方法であったと認められる。

それにもかかわらず,近畿財務局内での決裁の過程で,業務改善命令の発出時期が約1か月遅らされるとともに,業務改善命令の内容からは,資産管理の点が削除され,グループ6社の収支見込み自体についての客観的な根拠資料の添付は不要とされ,毎月の資金繰りの把握と財源計画の提出が削除されるなど,内容が大幅に後退させられ,D次長の予想に反し,Gは同命令を受け入れるに至った。そして,前記のとおり,A社が平成9年業務改善命令に対する回答として提出した平成9年経営健全化計画には,少なくともその一部に同社グループとしても実施する予定すらない虚構のものが含まれており,通常必要とされる注意を払えば(必要な裏付け調査を行えば),近畿財務局においても実現可能性や実在性がないことを容易に認定することができたにもかかわらず,近畿財務局は,机上の数字合わせともいうべきヒアリングを重ねるのみで同計画を受理して,業務改善命令違反による業務停止命令等の監督処分を発令することはなかった。さらに,前記のような利息収受の実在性や本件貸付金の架空性についての強度の疑いに基づいて必要な調査を行えば,後記のとおり更新登録拒否事由を認定することができたにもかかわらず,これも行わなかった。そして,合理的な理由もないまま,漠然と本件更新登録をしたものである。その過程は極めて不可解というほかない。

ちなみに,前記認定の事実経過に照らせば,同年8月ころから本件更新登録時点までの間に,A社について,購入者の新たな被害発生防止の必要性が解消されたとの事情は全く認められず,その他,最終的に本件更新登録をすることが合理的であったと認めるに足りる事情は全くうかがわれない。また,営業継続は既存の抵当証券購入者の利害にかかわるところが大きいが,その既存購入者の保護について,新たな被害者から集めた資金を回す形でなく保護を図ることの見通しやそのための方策の有無等について,具体的に検討された形跡なども全くない。

そうすると,購入者の被害拡大を防止するための適切かつ合理的な監督権限の行使について,合理的な理由もなくこれを消極的な内容に変更した上,業務改善命令違反を問うこともなく,適時かつ適切な調査権限の行使によれば認定可能な更新登録拒否事由の認定を回避し,抵当証券業規制法の趣旨,目的に照らして許されない本件更新登録を,あえて漫然とした近畿財務局長の行為は,監督規制権限の行使に係る方法・時期等の選択における合理性は何ら認められず,むしろ不可解なもので,その裁量を逸脱した程度は著しいというほかない。』

5  更新登録拒否事由の認定可能性

(1)  検討

前記4のとおり,近畿財務局長が,A社に対して本件更新登録をしてその営業継続を許し,新たな購入者被害の発生を止めなかったことは,監督規制権限の行使に係る合理性が認められず,不可解というほかない。しかし,具体的に,いつ,いかなる監督規制権限をいかに行使して新たな購入者被害の発生を防ぐかは,まずは近畿財務局長の専門技術的な裁量に属するところであり,近畿財務局長において,その裁量の範囲内で,上記購入者の被害の拡大を防ぐためにいかなる手段を執るべきであったかについて,当裁判所においてこれをすべて特定するものではない。ただし,以下では,前記4で説示したような適時かつ適切な権限行使によれば,現に少なくとも本件更新登録を拒否することによりA社の営業継続を許すことによる被害拡大の防止が可能であったことについて,念のため検討しておく。

(2)  貸倒引当金の追加設定について

この点,1審原告らは,グループ6社に対する特約付き融資については,平成9年当時の「公正ナル会計慣行」に基づき,少なくとも6億円以上の貸倒引当金を追加設定すべきことは明らかであって,少なくとも5億円以上の資本欠損となるから,A社は,本件更新登録当時,更新登録拒否事由である財産的基礎の欠如(抵当証券業規制法第6条1項7号)の要件を満たしていたと主張し,原判決は,平成9年3月末ころに「公正ナル会計慣行」として妥当していたと解される税法基準の下においても,本件貸借対照表上,少なくとも約11億4200万円以上の貸倒引当金を追加設定することが要求されており,これによれば資本欠損が生じることになるから,A社が客観的に財産的基礎の要件を欠いていたことが明らかであり,近畿財務局長においても,少なくとも平成9年3月期の余剰金1億2948万0029円を上回る貸倒引当金の追加設定が必要であるとして,A社の資本欠損を認定せざるを得なかったことは確実であると判断した。これに対し,1審被告は,本件更新登録当時,本件貸借対照表について貸倒引当金を追加設定しなければ平成9年当時の「公正ナル会計慣行」に反するなどとは到底認定できなかったとして,平成9年当時の「公正ナル会計慣行」について,特に当審において詳細に主張立証を補充している。そして,1審被告の補充主張にかかる貸倒引当金算定に関する当時の「公正ナル会計慣行」の内容は,当時の抵当証券業者の実務慣行や金融検査実務,税法上の処理,当時が会計慣行の過渡期であったことなどに照らすと,それなりに肯首されるべきものではある。

しかしながら,本件更新登録の問題点は,これまで説示のとおり,単に会計技術的な会計慣行の如何の点に限られるものではなく,むしろ,A社グループの営業実態や,同社がグループ全体としてみれば財産的基礎を欠如しているにもかかわらず意図的にその間の経理操作等を通じて財産的基礎を仮装していることを前提に,それまでの近畿財務局における監督経緯等を総合して判断されるべきものであって,A社の財産的基礎の問題を,A社グループの帳簿処理の的確性やグループ6社の独立性を前提に,貸倒引当金計上の要否に関する会計慣行や金融検査実務における資産査定・債務者区分等という技術的な問題に置き換えてこれを判断することは,かえって,本件更新登録の問題点の本質や,購入者の保護を図るため業務の適正な運営を確保し,財産的基礎の充足を登録要件とした抵当証券業規制法1条,6条1項7号等の趣旨から遠のくものと考えられる。

また,そもそも,これまで説示したとおり,本件更新登録当時,A社は,グループ間の経理操作により単体としては財産的基礎を仮装しているものの,グループ全体としてみれば抵当証券業を適確に遂行するに足りる財産的基礎を欠如していることが明らかな状態だったのであり,原判決の行った貸倒引当金の追加設定による財産的基礎の欠如の認定は,かかるA社の実態を会計学的に捉えることにより,更新登録拒否事由を認定しようとする試みの一つと十分に評価することができる。そして,前記のとおり,購入者の保護を図るため本件更新登録時期を越えてA社の営業継続を許さないとして,その場合に具体的にいかなる措置を執るべきかは,近畿財務局長の裁量にゆだねられているのであるから,当時の近畿財務局長において,必ずしも原判決の判示するような形で貸倒引当金の追加設定を認定しなければならないとするものではないが,近畿財務局長としては,A社グループの財務状況をその実態に即して的確に把握し,「抵当証券業を適確に遂行するに足りる財産的基礎」の有無を適切に判断する方向での議論を模索すべきであり,仮に原判決の試みが他の金融検査の基準や課税実務等との整合上問題なのであれば,それに代わる方策を探求すべきなのである。1審被告のこの点の補充主張は,A社の実態を会計学的に捉えようとする試みを否定する方向でのみ議論するものであって,こと本件に適用する限り,あえてA社の実態把握等を避けて本件更新登録をした当時の近畿財務局長の行動と軌を一にする方向での主張といわなければならず,相当とは思われない。

以上に加えて,本件においては,貸倒引当金の追加設定額を厳密に算定しなくても,後記(3)のとおり,本件貸付金の架空性を認定し,あるいはA社に対するグループ6社の特約付き融資の利払の仮装を認定することにより,より容易に更新登録拒否事由を認定することができることから,本判決においては,平成9年3月当時における「公正ナル会計慣行」の内容並びに貸倒引当金の追加設定の要否及び額については,あえてこれ以上論じないこととする。

(3)  本件貸付金及び抵当証券受取利息収受の仮装(虚偽記載)について

ア 次に,1審原告らは,本件貸借対照表では55億円の本件貸付金が資産として計上されているが,本件貸付金は架空であったから,これを資産から除外すれば,それだけで資本欠損として更新登録拒否事由である財産的基礎の欠如に該当することとなるし,更新登録拒否事由である虚偽記載(抵当証券業規制法6条1項柱書後段)に該当することも明らかである上,グループ会社からA社に対する抵当証券貸付利息の授受は会計帳簿上の仮装にすぎないことが明らかであり,少なくともA社の平成8年3月期及び平成9年3月期に長期借入金勘定を相手方として計上された特約付き融資にかかる受取利息合計69億円余りについては,これを否認すべきであったから,これにより同社は優に資本欠損に陥っていたと主張して,当審においても,1審被告の責任は抵当証券受取利息の否認においても認められるべきであると補充主張するので,この点について検討する。

まず,本件貸付金が本件貸借対照表に計上されていることは当事者間に争いがなく,本件貸付金が客観的には存在しないものであったことは,これまでに認定したとおりである。また,抵当証券受取利息については,本件損益計算書に37億2037万2451円が計上されているところ,客観的に,そのうち少なくとも30億円については,同事業年度内におけるその現実の収受はなかったと認められることも,既に説示したとおりである。

そして,前記4で説示したとおり,近畿財務局は,平成9年検査前において,グループ6社からA社への利払が帳簿上の仮装ではないかを確認するよう,特に本省金融会社室から指示されており,少なくとも同検査においてA社の預貯金口座を調査すれば,最低限,グループ会社からの入金が,A社の帳簿上の抵当証券受取利息額を大きく下回るものでしかない事実及びその入金の時期や金額が帳簿上の記載と符合していない事実を確認することができたと推認されるのであり,近畿財務局において,帳簿上利払があるとされているにもかかわらず預貯金通帳に入金の記載がないものについて,更に帳簿の記載の正確性を裏付ける資料の提出や説明を求めてその合理性を検証すれば,少なくとも本件貸借対照表上の剰余金約1億2948万0029円を上回る程度の受取利息の仮装が,容易に認定できたものというべきである。

また,本件貸付金に関しても,前記4のとおり,平成9年検査において,これが架空融資であるとの強度の疑いが存したものであるから,近畿財務局としては,少なくともA社の当座預金口座を調査し,本件貸付金に係る出入金が記録されていないことを確認した上,さらに調査を尽くすべきであって,このような調査を尽くせば,本件貸付金が架空融資であることは,容易に認定できたものというべきである。なお,1審被告は,長期借入金勘定であったために,A社の口座を確認しても本件貸付金に係る資金移動がなかったことは明らかとはならなかった旨主張し,証人CAはその旨証言するが,A社の業務である特約付き融資の実行に直接関わるものであるから,R社の口座に関しても,その残高証明などの資料の提示を求められるものというべきであるし,そのそも,同証人は,A社の預貯金口座を直接確認すらしなかったとも証言するところ,いずれにせよ,A社の口座すら確認しなかったことが正当化される理由はない。

イ ところで,これまでの説示に照らせば,本件貸借対照表及び本件損益計算書は,故意に,実際は存在しない本件貸付金や過大な抵当証券受取利息が存在する前提で作成されていたことが明らかであるところ,本件貸付金について資金の移動がないとの事実や,抵当証券受取利息が未収であるとの事実が,貸借対照表上,A社の財産的基礎に計数の上で影響を及ぼすか否かはさておき,これらの事実は,更新登録拒否事由たる重要事項の虚偽記載(抵当証券業規制法8条2項,6条1項柱書後段)に該当することは明らかというべきである。その理由の詳細は,以下の引用中に補正するほかは,原判決「事由及び理由」中の「第4 争点に対する判断」の4(1)~(4)(原判決394頁下から11行目~401頁下から11行目)のうち,貸倒引当金に関する説示を除いた部分のとおりであるから,これらを以下に再掲して引用する(補正等の方式については前同。)。

(原判決の引用)

『4 争点4(本件申請書等の重要事項に虚偽記載(抵当証券業規制法6条1項柱書)があったか。)について

(1) 抵当証券業規制法6条1項柱書後段の趣旨について

抵当証券業規制法6条1項柱書後段は,(以下要約)登録申請書若しくはその添付書類のうち重要な事項について虚偽の記載があり,若しくは重要な事実の記載が欠けているときを,同項各号列記事由とは別の独立した登録拒否事由として掲げており,同法8条2項は更新登録においてもこれを準用している。その虚偽記載について,同規定への違反と不正の手段による登録とで刑事罰に格段の差異を設け,後者については無登録営業等と同列の違法性を認めているのに対し,前者についての罰則は同法に規定する各種の行為規制に係る規定に形式的に違反した場合と同じである上,前者は後者と異なり登録取消事由ともなっていないことからすると,抵当証券業規制法6条1項柱書後段の趣旨が,1審被告の主張するように,登録拒否事由があるにもかかわらずこれを秘して登録を得ようとする行為を禁圧することによって同項各号列記事由の審査の正確性を担保することのみにあるとは解し難い。他方,記載欠落については処罰規定の適用もないことからすると,虚偽記載に係る登録拒否事由の趣旨が,1審原告らの主張するように,虚偽資料を提出して不正に登録を得ようとするような業者はそれ自体で抵当証券をもって広く一般から金員を集める事業にふさわしくないとした点にあると解することも困難である。

しかるところ,同法52条1号の形式犯としての性格を重視すれば,登録拒否事由としての虚偽記載及び記載欠落(虚偽記載等)を規定した同法の目的は,登録申請書及びその添付資料の記載の正確性・十分性を確保することそれ自体にあると解すべきである。すなわち,抵当証券業規制法6条1項柱書後段の趣旨は,上記のように,登録申請書及びその添付書類の記載の正確性を確保することにあり,このことを通じて,登録審査の実効性を担保するのみならず,当該申請業者に関する資料を可及的に充実させ,その潜在的な問題点を事前に財務局長が知ることにより,登録後における当該業者に対する行為規制ないし監督権限の行使を実効あるものとすることにもその主眼があるものと解される。

そうであるとすれば,同法6条1項柱書にいう「重要な事項」及び「重要な事実」とは,登録審査のみならず,登録後の監督権限の行使に影響があったり,当該抵当証券業者に係る財務の健全性について顧客を誤信させるおそれがある事項を広く含むと解すべきである(以上,原判決398頁10行目まで)。

(2) 虚偽記載の意義

抵当証券業規制法6条1項柱書後段の前記のような趣旨に照らすと,「登録申請書若しくはその添付書類のうちに重要な事項について虚偽の記載があ・・・るとき」とは,(更新)登録拒否事由の有無に影響を与える場合のみならず,(更新)登録申請者が(更新)登録申請書又はその添付書類に事実と異なる記載をすることによって,(更新)登録後の当該業者に対する財務局長等による監督の態様に影響を与え得るような場合を含むと解すべきである。このように解することで,財務局長等は,(更新)登録申請者が提出した(更新)登録申請書及びその添付書類の記載内容を一応前提として,そこからうかがわれる当該業者の潜在的な問題点の有無を適確に把握し,問題点がある業者に対しては当該分野に係る監督を重点的に行うことを通じ,限られた人的物的体制をより一層効率的に活用することのできる可能性が高まる上,(更新)登録申請書及びその添付書類の記載が不十分である場合には,同項柱書の存在がその補正を財務局長等において当該申請者に促す事実上の契機ともなると考えられる(同法,法施行令及び法施行規則には,(更新)登録申請書の補正等に関する手続的な規定は見当たらない。)。もっとも,虚偽記載が,同時に同項各号列記の(更新)登録拒否事由を隠ぺいする目的でされた場合(すなわち,「不正の手段」に当たる場合)についても,これが同時に(更新)登録拒否事由としての虚偽記載にも当たることは当然であり,…これを貸借対照表等の計算書類についていえば,「重要な事項」についての記載が事実と客観的に異なっていれば虚偽記載に該当するものと解すべきである。

(3) 本件申請書等における虚偽記載の存否

本件についてこれをみるに,前記のとおり,少なくとも…本件損益計算書は,特約付き融資に係る受取利息を過大に計上し…ている点において事実と異なっており,これは,抵当証券業者であるA社の売上高そのものを仮装するものであり,剰余金の額などにも影響を与え,したがって,A社の財務の健全性について顧客を誤信させるおそれがあり,近畿財務局長による監督権限の行使の態様に影響を及ぼす事項に係る虚偽記載に該当すると解される。また,これまで説示したところによれば,これがA社が組織的に行った故意による抵当証券受取利息の過大計上であることは明らかである。

また,本件貸借対照表は,実際に存在しないR社に対する本件貸付金を故意に資産として計上しているところ,…その計上によってA社の抵当証券貸付金が約508億円から約563億円へと約1割…増加しているから,損益計算書上,本件貸付金に基づく抵当証券受取利息が今後とも安定的に発生し,同社の収益の改善又は同社に対するキャッシュフローの増加に対する誤った期待を抱かせる可能性…を…否定することができないから,本件申請書等における本件貸付金の計上は,客観的にみて,近畿財務局長による監督権限の行使の態様に影響を及ぼす事項に係る虚偽記載に該当すると解される。

……

したがって,少なくとも上記の2点において,本件申請書等には重要な事項に関し虚偽記載が含まれていたものと解すべきである。

(4)  1審被告の主張について

これに対し,1審被告は,(更新)登録申請書等に虚偽記載等があるか否かは,登録申請書の記載自体,又は立入検査等によって別途に財務局長等が把握した事実によって,その存在が明らかといえるか否かによって判断すべきである(以下要約)などと主張するが,いずれも採用することができない(以上,原判決401頁下から11行目まで)。』

以上によれば,本件申請書等には,少なくとも,①本件損益計算書において抵当証券受取利息を過大に計上している点,及び②本件貸借対照表において本件貸付金を資産の部に計上している点で,その添付書類のうちに,更新登録拒否事由である重要な事実についての虚偽の記載があるというべきである。

ウ 小括

近畿財務長において,本件更新登録にあたり,職務上通常必要とされる注意義務を尽くして審査すれば,本件貸付金が資金移動のない架空のものであったこと,及び平成9年3月期の余剰金約1億2948万円を上回る程度の相当額の未収の抵当証券受取利息が計上されていることを認識し得たことは前記のとおりであるから,近畿財務局長は,少なくとも,本件貸付金が資金移動のない架空のものであることを指摘し,あるいは抵当証券受取利息が過大に計上されていることを指摘して,抵当証券業規制法6条1項柱書後段(重要事項の虚偽記載)に基づき,本件更新登録を拒否することができたというべきである。

(4)  その余の更新登録拒否事由について

以上のとおり,近畿財務局長において少なくとも虚偽記載を認定して本件更新登録を容易に拒否することができた以上,その余の更新登拒否事由(本件貸付金,抵当証券受取利息及び本件3融資の否認による財産的基礎の欠如,人的構成の欠如及び組織図に関する虚偽記載)の存否及び認定可能性については,判断する必要がない。

6  本件更新登録によって惹起された損害の規模及び性質(特に,被害者においてその回避を図ることを現実的に期待することができたか否か)

次に,本件更新登録の違法性の判断基準に沿って,本件更新登録によって惹起された損害の規模及び性質について検討する。この点の判断は,一部補正するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第4 争点に対する判断」の5(6)(原判決557頁3行目~560頁10行目)に説示のとおりであるから,これを以下に再掲して引用する(補正等の方式については前同。)。

(原判決の引用)

『(6) 本件更新登録によって惹起された損害の規模及び性質

本件更新登録がされていなければ,A社の抵当証券業者としての登録が失効して以降は,同社は適法に抵当証券を販売することはできなかったことが明らかであるところ,現実には本件更新登録が認められたことから,それ以降に同社から抵当証券を購入した者は,最終的に同社が破綻したことによって,抵当証券購入額の相当部分を回収することができなくなるという財産的損害を受けたことが明らかである。

ところで,抵当証券業者が抵当証券業規制法等に則って適正な業務運営を行っている場合であれば,同業者が破綻したことによって抵当証券購入者が財産的損害を被っても,それは基本的には自己責任の範囲内のものということができる。しかしながら,前記説示のとおり,抵当証券業者が,同法を悪用するなどして,詐欺的商法を組織的かつ継続的に行っている場合や,グループ会社間の経理操作などによって事業報告書に含まれる決算書から読み取ることのできるA社の財務状態と実態とに重大な齟齬があり,財務状態がよりよく仮装されている場合などには,潜在的な抵当証券購入者の自己責任を問う前提に欠けているということができ,実際にも抵当証券購入者の側でこれを把握して危険を自ら回避する現実的可能性はなく,監督行政庁が購入者保護のために積極的に同法より付与された監督規制権限を行使することが期待されているというべきであるし,同法に基づく登録業者である以上,適正な業務運営を行っているはずであるとの抵当証券購入者の信頼は,同法1条に照らし,一般に保護に値するものであるといえる。

しかるところ,これまでに説示のとおり,A社は,本件更新登録時の前から自転車操業状態に陥り,実質は大幅な債務超過に陥っていたにもかかわらず,グループ会社からの受取利息を過剰に計上して黒字の状態を仮装して,その事業報告書において,自社の抵当証券が「抵当証券Q&A」で標榜していたような安全性を有していること,すなわち,A社抵当証券の年利は決して高利率ではなく,企業努力,合理化を積み重ね,将来を十分に見通した自信の有る好利率であること,A社抵当証券は,バブル崩壊後に販売され,しかも収益性を伴っているものがほとんどであること,A社が健全かつ発展的に抵当証券事業を行っているというその宣伝文句(上記パンフレットの使用を中止するよう指導された後においても,同社の営業員が類似の勧誘文言で抵当証券の売り込みを図っていたことは証拠<証拠省略>から推認することができる。)を裏付けるように,平成9年3月期において当期利益約1740万円,当期未処分利益約1億2948万円を計上している旨の虚偽の記載を行っていたのである。そして,A社が債務超過であることが潜在的顧客に広く知られていれば,上記のような営業が奏功する現実的な可能性はほとんどなかったことは優に推認することができる。反対に,1審原告らが実際にA社が事業報告書の一部として閲覧させていた本件貸借対照表や本件損益計算書を閲覧したとしても,1審原告らが同社から抵当証券を購入することを再考するような契機にはなり得ず,むしろその宣伝が正当なものであると信じる方向に作用した可能性が高いものというべきである。

また,抵当証券購入者が,その購入前に抵当証券の債務者や担保物件を知ることは不可能であり,購入後であってもその概要しか知り得ないことは既に…説示したとおりである上,A社が販売していたモーゲージ証書の額面が最低30万円程度にまで分割されていることを併せ考えると,そのような証書を購入した者が債務者や担保物件の詳細を費用を掛けて調査することを期待するのはおよそ現実的ではないことが明らかというべきである(まして,グループ6社が債務超過の状態であり,事実上利払を延滞している可能性があること,A社が受領しているとする抵当証券受取利息が架空のものである可能性があること,本件貸付金が架空の債権であること等については,モーゲージ証書の購入者が非常な注意を払ったとしても容易に想到することができないのは明白である。)。仮に,モーゲージ証書の購入者が債務者や担保物件を調査したとしても,債務者とされるグループ会社はE社を除けば一応実体を伴う形で存在しており,担保物件についてもその大部分を占めるのは営業中のゴルフ場であって,いずれもA社の協力がなければその財務状況や担保価値の正確な把握は不可能に近いこと,平成12年検査において監督官庁である近畿財務局からの同様の要請を拒否した同社が,一購入者に対してそのような協力をするはずがないことは,いずれも優に推認することができる。

さらに,A社から抵当証券購入者が,購入後にその抵当証券に不安を感じて中途解約をしようとし,又は満期に継続することなく償還を受けようとしたとしても,前記のとおり,A社の抵当証券には利率が高い代わりに中途解約できないベストモーゲージという商品があり,営業員はなるべくこの商品を販売するよう指示されていたこと,<証拠省略>によれば,抵当証券業協会にはA社がなかなか中途解約に応じてくれないといった苦情が複数件寄せられており,その都度Jから事情を聞くなどして対応していたこと,1審原告らの中にも,満期を迎えた抵当証券について償還を受けようとしたものの,A社の営業員に説得されて継続させられ,結果的に被害を受けた者がいること,同社の営業員は,顧客ごとに固定しており,折にふれてお中元やお歳暮を持参するなどして個々の顧客と親密となることを目指す営業手法を用いていた上,抵当証券業界への信頼が動揺するような事件が発生した際などにはGもA社の健全性を強調する趣旨の自己名義の書簡を個々の顧客に宛てて発送するなどの手段で顧客の信頼をつなぎ止めようとしていたこと,が認められ,これらによれば,中途解約や満期償還によっても,A社からの抵当証券購入者が損害を回避することは約款上不可能であったか,そうでなくとも心理的に容易ではなかったことが明らかである。

加えて,<証拠省略>によれば,1審原告らにおいては,A社が登録業者であることに対する信頼が大きかったことが認められ,A社も,その点と抵当証券が法務局の発行にかかる点を営業上最大限利用していたことが明らかである。

以上によれば,A社の抵当証券に関しては,抵当証券業規制法が予定する購入者保護制度,特に事業報告書の閲覧によっては,A社の顧客が同社の財務内容を正しく認識し,同社の販売する抵当証券を購入するか否かの正確な判断材料を与えることは到底期待することができず,むしろ誤って償還義務等の不履行の危険性の著しく高いモーゲージ証書を購入させられる可能性があったということができ,また,現実に1審原告らにおいて,A社が財務状態を仮装して登録を受けて営業を継続している業者であることを認識してそれによる損害を回避することを現実的に期待することは合理的ではなかったというべきであるから,本件においては,顧客の自助努力によって被害を回避することを期待するのは困難であったというべきである。

1審被告は,購入者は,債務者や抵当物件を調査することができない場合等には投資を控えるべきであるし,中途解約ができないベストモーゲージの購入者は,あらかじめ中途解約の権利を放棄して高金利の商品を購入しているといえること,A社においては,償還を申し出た顧客に対しては最終的には返金に応じている実績が示されていることなどからして,自己の判断で抵当証券を購入した以上は,そこから生じる損失は自己責任の範囲内というほかないなどと補充主張する。しかし,上記のように,本件の具体的事情の下では,A社の抵当証券から生じた被害のすべてが購入者の自己責任の範囲内のものであるとはいえないのであって,1審被告の主張するような事情を過失相殺等の考慮事由として斟酌することは格別,本件更新登録の違法性を全く否定する事情ということはできないというべきであって,1審被告の上記補充主張は採用できない。』

7  本件更新登録の国賠法上の違法性の有無(まとめ)

前記2~6のとおり,A社グループの営業実態は実質上の自己融資であり,A社は,その掌握下にあるグループ6社をいわば金融商品を生み出すための道具として利用して,それ自体で不適正な業務運営であるカラ融資や担保の過大評価による高額の抵当証券の販売やその試みを繰り返して顧客から巨額の資金を集め,従前の顧客への元利金支払資金を生み出すという詐欺的商法を,組織的かつ継続的に行っていた。しかし,抵当証券業規制法上の登録を受け続けるためには,A社の貸借対照表上は資本欠損でない状態を保つ必要があるため,グループ会社間の経理操作により,A社のみは資本欠損でない状態を仮装していた。しかし,グループ全体の財務状況からして,A社は,3年に1度の本件更新登録審査時点で,実質的にみれば抵当証券業を適確に遂行するに足りる財産的基礎を欠如していることは明らかであった。

近畿財務局は,平成6年にはA社の上記のような実態をおおよそ知ったものの,平成7年業務改善命令を撤回してヒアリングを通じて指導することとして問題を先送りしていたところ,平成9年時点では,平成8年経営健全化計画が初年度から大幅未達であることが明らかとなったから,A社グループの収益構造からして将来的な収益改善の見込みはなく,その営業を継続するほどに実質的な財産的基礎が蝕まれていくものであることを把握し,本件更新登録時期を越えてその営業の継続を許せば,いわば詐欺的商法の道具であり,また実質的に価値が仮装された抵当証券を購入させられることにより最終的に被害を被る者が多発する現実的危険性が切迫していることを把握していた。そして,後記のとおり,抵当証券購入者において自ら危険を回避する現実的可能性を期待できないことなども考慮すると,平成9年9月の時点で,抵当証券業規制法の趣旨,目的からいって,もはやA社は,本件更新登録時期を越えて営業の継続を許すことはできない状態であって,近畿財務局長においてもこれを認識していた。

したがって,近畿財務局長は,本件更新登録に際して,新たな抵当証券購入者の被害の発生を防止するため,その人的物的制約の下で,抵当証券業規制法上のあらゆる監督規制権限を適時かつ適切に行使して,新たな被害の発生を防止すべき注意義務があり,具体的には,本件更新登録の許否を判断するに当たり,A社が更新登録拒否事由に該当していないかについて慎重に審査すべき職務上の注意義務を負っており,また,それに先立つ平成9年検査においては,同法上の調査権限を適切に行使して,同社の財務状況の実態を慎重に検査すべき職務上の注意義務を負っていた。

それにもかかわらず,近畿財務局は,平成9年検査において,グループ会社の帳簿類の検査を早々に放棄し,A社の預貯金口座の検証すら怠って更なる検査の可能性を自らあえて封じるなど,グループ全体の財務状況及び資金の流れを解明するための基本というべき検査を合理的理由なしに怠ったほか,グループ会社の資金需要を裏付ける資料や説明を求めたり,また自ら裏付け調査をしたりすることもなかった。

さらに,D次長においては,本件更新登録前にA社の破綻処理に入ることを考え,その契機となってもやむを得ないという強い決意をもって,業務改善命令を速やかに発するための準備を行っていた。しかも,そのころには同グループの財務を圧迫する新たな金融商品の販売も開始され,また,平成9年経営健全化計画を検討しても収益改善の現実的見込みはなかったことなどから,本件更新登録を認めて営業継続を許すことの合理性は全くなかった。

それにもかかわらず,C局長の介入により,業務改善命令の発出の時期は遅れ,業務改善命令の内容は大幅に後退させられ,近畿財務局は,平成9年経営健全化計画をその実現可能性に踏み込んだ検討もしないままに受理し,また,上記のような適切な調査によれば容易に認定できたはずの本件貸付金の架空性や抵当証券受取利息の未収受を認定して更新登録拒否事由を認定することも回避して,あえて漫然と本件更新登録をしたものである。これは,いわば監督規制権限の恣意的不行使ともいえるものであり,その過程は不可解というしかなく,裁量逸脱の程度は著しいというほかない。

そして,上記詐欺的商法が組織的かつ継続的に行われ,財産的基礎が仮装されているA社のような場合には,潜在的購入者の自己責任を問う前提に欠け,購入者自らが危険を回避する現実的可能性は合理的に期待できず,また抵当証券業規制法1条に照らし,同法上の登録業者であることへの購入者の信頼も一般に保護に値するものといえるから,近畿財務局長による監督規制権限の行使が期待され,かつその必要性は大きい。

これらを総合的に考慮すると,近畿財務局長による本件更新登録は,本件具体的事情の下においては,抵当証券購入者の保護を目的として財務局長等に監督規制権限を定めた抵当証券業規制法の趣旨,目的に照らし,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くものであって,その余の主張をみるまでもなく,本件更新登録後にA社から抵当証券を購入することにより被害を受けた個々の国民との関係において,国賠法1条1項の適用上,違法となる解すべきである。

8  1審被告の補充主張について

(1)  1審被告は,近畿財務局は,平成9年検査以降,当時のA社及びグループ6社の状況を踏まえて,業務改善命令をきっかけに破綻に至ることまで念頭におき,A社が破綻した場合の抵当証券購入者の保護も念頭におきつつ準備を行っており,業務停止命令も視野に入れて業務改善命令を発出し,同社の提出した平成9年経営健全化計画についても厳正に対処して必要な検討を行ったものの,事業計画の実在性を否定することなどできず,実現可能性については1,2年営業させてみないと判断できないことであって,受理を拒否し得る法的根拠もなかったことから,これを受理したものであり,近畿財務局は,抵当証券業規制法によって与えられた権限の範囲内において,最大限の監督権限を行使していたことは明らかである旨補充主張する。

しかし,D次長による当初の検討段階では,破綻に至ることや購入者保護を念頭においていたことは認められるが,現実に業務改善命令を発出した時点では,その内容は当初の検討段階のものより大幅に後退しており,したがって,A社が業務改善命令に応じて経営健全化計画を提出する姿勢を示す以上は,もはや経営健全化計画の不受理や業務停止命令の発出の現実的な可能性はなくなっていたということができる。近畿財務局が,既に平成7年には,同年業務改善命令を撤回して継続的なヒアリングを通じて様子を見ることとして,処分を先送りしてきたことを考慮すれば,平成9年経営健全化計画について再度その様子を見るなどということはできない状況にあったというべきであり,以上のような諸事情を考慮すると,本件更新登録が,監督権限の恣意的不行使というほかないことはこれまで説示したとおりであって,近畿財務局が最大限の監督権限を行使していたなどという1審被告の補充主張は,到底採用できない。

1審被告は,平成9年当時,業務改善命令は極めて重い処分だったのであり,破綻を引き起こす可能性が高いと認識していた業務改善命令の発令をC局長が認めた事実は,A社の延命目的を有していなかったことを端的に示すものであるなどとも補充主張する。

しかし,仮に近畿財務局がA社の本件更新登録を認めることを既定方針としていたとしても,捜査機関の強制捜査等によってA社が破綻に陥った場合の購入者等からの批判に耐えるために,業務改善命令を発令していたなどの監督権限行使の形を残す必要はあったと考えられるから,業務改善命令の発令を認めたこと自体が近畿財務局長にA社の延命目的がなかったことを示すものであるとの1審被告の主張は採用できない。もっとも,前記認定判断のとおり,近畿財務局長が,当時A社に対する本件更新登録を既定方針としていたとまで認めるに足りる証拠はなく,むしろ,近畿財務局長としては,業務改善命令の内容を大幅に後退させるなどA社が対応しやすくなる措置はとった上で,A社がこれに応じて最低限必要な対応をとれば(すなわち,少なくとも机上の計算にせよ5年間で債務超過を解消できる計画を業務改善命令に応じて提出するなどすれば),本件更新登録を許容した上で引き続きその実行状況を見守ることにして処分を先送りしようとしていたものと考えられる。

(2)  また,1審被告は,A社グループは専門家であるAK会計士が指導していたから,近畿財務局が同グループの会計処理は適正に行われていたと信頼したとしても無理からぬものがある旨主張するが,これが採用できないことは,以下の引用中に一部補正するほかは,原判決567頁5行目から同頁下から11行目に説示されたとおりであるから,これを以下に再掲して引用する。(補正等の方式については前同。)。

(原判決の引用)

『 さらに,1審被告は,A社グループは専門家であるAK会計士が指導していたから,近畿財務局が同グループの会計処理は適正に行われていると信頼していたとしても無理からぬものがある旨主張する。しかしながら,R社の総勘定元帳に本件貸付金の記載がなく,同会計士が本件貸付金については知らなかった旨説明していたこと,前記のとおりグループ会社の会計処理のうちに減価償却費の計上を適正に行っていなかったものが散見されること,近畿財務局によるヒアリングの際にも,AK会計士の説明をGがその場で覆すなど,Gが同会計士よりも優位な立場にいた事実がうかがわれたであろうこと,などに照らすと,同会計士の存在によっては,A社グループにおける会計処理の適正が実質的に担保されているとは近畿財務局も到底評価し得なかったと解されるから,1審被告の上記主張もまた失当である。ちなみに,平成9年検査においては,直近の前事業年度の貸借対照表上の負債総額が200億円以上であるA社(及びR社)について,商法特例法に基づく会計監査人の会計監査を受けているか否かの点の確認もなされていないことは前記認定のとおりである。』

1審被告は,A社には,弁護士や公認会計士といった専門性や職務上高い倫理性を要求されている専門家が関与していたから,A社が組織ぐるみで詐欺的な行為を行っているとまでは想定できなかったなどとも補充主張するが,これまで認定説示したA社グループの収益構造や帳簿上の記載と,Gの言動等を総合すれば,Gが,むしろ弁護士や公認会計士といった専門家のほか政治家等をも利用して,A社グループとして詐欺的商法を継続していたことは容易に想定し得たものというべきであるから,1審被告の上記補充主張は採用できない。

(3)  加えて,1審被告は,更新登録においては,更新登録の申請書及び添付書類の記載に照らして登録拒否事由の有無を判断すれば足りるのが原則であり,ただ,財務局長等において,立入検査等によって把握した事実をもって,貸借対照表の記載を修正することが可能であるときは,修正の上で資本欠損等の有無を判断することが必要となるにすぎず,本件において,例外的に貸借対照表の修正が必要となる事由もなかったから,原則どおり書面審査をもって足りるというべきであるし,本件では,①A社が破綻する危険が切迫している事態を容易に認識できたこと,及び②抵当証券業規制法の予定する情報開示の水準に達していなかったこと,を理由に更新登録の実質的審査義務が生ずる(原判決)とすることもできない,抵当証券業規制法上の検査・監督権限は,抵当証券業者本体にしか及ばず,またあくまで任意の協力を求めることができるものにすぎないから,近畿財務局長が,平成9年検査当時,グループ6社の帳簿類を返還したことが国賠法上違法とまではいえない,近畿財務局長は,平成9年においては,平成9年経営健全化計画の実現可能性を検討している段階であり,同計画を受理した判断が不合理であったとはいえず,したがって,本件更新登録を拒否しなかった近畿財務局長の判断が「許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く」などということは到底できないなどと補充主張する。

しかし,これまでの説示から明らかなとおり,近畿財務局長の本件更新登録が国賠法上違法であるのは,平成6年検査から本件更新登録に至るまでの事実経過を通観すれば,本件更新登録をすることは抵当証券業規制法の趣旨,目的からして許されない状態だったのであり,同法上の監督規制権限を適時かつ適切に行使すれば本件更新登録を行わないことができたしまたそうすべきであったにもかかわらず,あえて漫然と更新登録をしたというほかない本件更新登録は,同法の趣旨,目的や同法上の監督規制権限の性質等に照らし,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるからであって,単に,本件更新登録の審査においてその審査義務に違反したということのみを理由とするものではないし,グループ6社の帳簿を返還したことのみを理由とするものでも,平成9年経営健全化計画を受理したことのみを理由とするものでもない。1審被告の上記主張は採用できない。

9  近畿財務局長の故意,過失の有無(原審争点6)について

本件において国賠法上の過失が認められるためには,近畿財務局長において,監督規制権限を定めた法令の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められることを予見し,これを回避する可能性がなければならないことは,原判決「事実及び理由」中の「第4 争点に対する判断」の6(1)(原判決593頁下から11行目~594頁6行目)に説示されたとおりであるから,これを引用する。

そして,これまで説示したところを総合すれば,近畿財務局長は,本件の具体的事情の下において,本件更新登録が,監督権限や更新登録に係る財務局長等の規制権限を定めた抵当証券業規制法の趣旨,目的や当該権限の性質等に照らし,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠き,国賠法1条1項の適用上違法となることを予見し,かつ,これを回避する可能性があったことは明らかというべきであるから,近畿財務局長は,本件更新登録を行うについて,少なくとも過失が存在したものというべきである。

この点,1審原告らは,当審において,C局長について故意又は少なくとも重過失を認定すべきと補充主張する(ただし,一方では被害者の早期救済が強調されている。)が,同局長の故意又は重過失とは直接かかわりなく,本件の具体的事情のもとでは,過失相殺をすべきであることは,後記で原判決を補正引用して説示するとおりである。そうである以上,故意又は重過失の有無が本件の結論を直接左右することはないのであるから,証拠もいまだ不十分な本件において,これをあえて判断する必要はない。

また,1審被告は,原審において,本件更新登録は基本事項通達にのっとって行われたものであるから近畿財務局長に過失はないとか,近畿財務局長は1審原告らの損害発生を予見していなかったなどと主張する。しかし,本件における違法性は,抵当証券業規制法の究極的な目的である抵当証券購入者保護のため,A社からの抵当証券購入者の被害の拡大を防止するためには,本件更新登録をする余地はなく,そのために同法に基づくあらゆる監督規制権限を行使すべきであったのに,これを適時かつ適切に行使せずに最終的に本件更新登録を行った点にあるのであるから,単に基本事項通達にのっとって更新登録を行ったからといって,国賠法上の過失が否定されることにはならない。また,当時近畿財務局においても,平成6年検査以来,A社を放置すれば被害が拡大すると具体的に認識していたことは,その決裁文書などから明らかであり,これまでの認定説示からして,損害発生を予見できなかったなどとする1審被告の主張は,到底採用できない。

10  近畿財務局長が,遅くとも平成9年12月までにA社に対し業務停止命令又は登録抹消を行わなかったことは国賠法上違法か(原審争点7)について

この点の判断をする実益がないことは,原判決第4の7のうち,原判決600頁2行目から末行までに説示されたとおりであるから,これを引用する(ただし,別紙原判決補正表<省略>のとおり補正する。)。

11  近畿財務局長は,平成7年8月21日にA社への平成7年業務改善命令を違法に撤回することで1審原告らに損害を与えたか(原審争点8)について

この点の1審原告らの主張が採用できないことは,原判決第4の8のうち,原判決601頁1行目から下から6行目までに説示されたとおりであるから,これを引用する(ただし,別紙原判決補正表<省略>のとおり補正する。)。

12  近畿財務局長による違法行為によって1審原告らはいかなる損害を被ったか(原審争点9)について

(1)  判断枠組み

ア 本件における損害

前記2ないし9で検討したところによれば,A社は,平成9年12月の本件更新登録時点で,その営業を継続すれば抵当証券購入者に新たな被害を及ぼす現実的危険性が切迫していたにもかかわらず,近畿財務局長の監督規制権限の不行使である本件更新登録という違法行為によって,その後も適法に抵当証券業を営むことが許された結果,1審原告らは,平成10年1月以降に同社から抵当証券を購入したものである。そして,A社は,本件更新登録後の営業によりますます経営状況を悪化させ,最終的に,平成12年検査によって,いわば同社の財産的基礎の実質的な欠如が表面化することにより,平成13年4月16日の更新登録拒否と会社整理手続開始によって事実上破綻したものであって,これにより,平成10年1月以降に同社から抵当証券を購入し,同社の破綻時までにその償還を受けていなかった抵当証券の購入者は,その全額の償還を受けられなくなるという損害を被ったということができる。

ところで,国賠法1条1項の違法に基づく損害賠償請求における公務員の違法行為と相当因果関係のある損害とは,公務員の違法行為がなかったと仮定した場合のあるべき財産状態と,公務員の違法行為の結果としての現実の財産状態との差額であって,これを賠償を請求する原告側において主張立証しなければならないと解される。したがって,本件においては,1審原告らにおいて,本件更新登録がなかったと仮定した場合のあるべき財産状態と,本件更新登録の結果としての現在の財産状態との差額を,主張立証する必要がある。

そして,本件更新登録がなければ,A社は本件更新登録時期後は適法に抵当証券業を営むことができず,1審原告らが平成10年1月以降に同社から抵当証券を購入することがなかったことは明らかであるから,当該抵当証券に関しての本件更新登録がなかったと仮定した場合のあるべき財産状態とは,その購入代金を出捐していない状態(0)である。他方,当該抵当証券に関しての本件更新登録の結果としての現在の財産状態とは,その抵当証券の購入代金について,A社の破綻により一部しか法的に回収できない状態{-(購入のために出捐した額-法的回収可能額)}であり,その差額とは,次の算式のとおり,A社の破綻時に未償還だった平成10年1月以降に購入された抵当証券について,その購入のために出捐した金額から,法的に回収可能な金額を控除した額(すなわち,法的に回収が不能な額であり,客観的な実損害額にあたる。なお,ここで「法的に回収可能な額」などといい,端的に「回収額」としないのは,後記(4)エのとおりの事情により,現実には両者に差が生じているからである。)であるというべきである。

算式:0-{-(購入にあたり出捐した額-法的回収可能額)}

=購入にあたり出捐した額-法的回収可能額

=法的回収不能額(=客観的な実損害額)

そして,前記前提となる事実において原判決を引用して示したとおり,抵当証券(原券)は,抵当権及び被担保債権を表章する講学上の有価証券であるから,その共有持分権利者であるモーゲージ証書の購入者は,その本来的な権利として,(抵当証券(原券)の裏書交付を受けている抵当証券保管機構を通じて)抵当目的物及び被担保債権の債務者(特約付き融資先)から弁済を受領することができるほか,一般に抵当証券業者は元利金の支払を保証しているから(<証拠省略>),抵当証券業者からの抵当証券の購入者は,抵当証券業者に対するモーゲージ証書の額面額及び同証書上の約定利息の保証債務履行請求権を有しているということができる。このことは,A社についても異ならない(<証拠省略>)。

したがって,平成10年1月以降に購入され,A社の破綻時に未償還だった各抵当証券について,その購入のために出捐した額から,当該抵当証券について上記の権利の実現を通じて法的に回収が可能な額(その内容については,後記(4)において具体的に検討する。)を控除した金額が,1審原告らの主張立証すべき損害額であるということができる。

イ 乗換購入の場合

これに対し,平成10年1月以降にA社から購入され,同社の破綻時に未償還だった抵当証券が,本件更新登録より前に同社グループから購入した抵当証券その他の金融商品等の満期による切替え(更新)や乗換えによるものであった場合には,当該抵当証券の購入のための新たな資金の拠出・払込みはなく,購入者としても,利率等の条件の見直しはあるとしても,基本的に従前からA社に預けていた資金の償還時期を延長し,これを更新したに過ぎないものとの認識が強かったことがうかがわれる(<証拠省略>)。なお,ここでいう切替えあるいは乗換えとは,従前保有していた金融商品等について満期又は中途解約による償還金を一旦現実に受領することなく,購入申込書を提出するなどの手続のみで,そのまま同額(あるいはそれ以下)の新たな金融商品等を購入することをいうものとする(以下「乗換購入」という。)。このような抵当証券の乗換購入は,平成10年1月以降のA社への現実の払込みがなく,その実質はそれ以前の金融商品等の継続であるから,当該抵当証券に関して本件更新登録により新たな被害が発生したものとみることは必ずしも実態に沿わないというべきである。

もっとも,これまでに認定したA社の資金繰り状況及びその資産の状態に照らすと,本件更新登録が行われなかったとすれば,近畿財務局への登録業者というその信用の核心部分を失ったA社の経営は直ちに行き詰まり,会社整理通告等の手段をとるまでもなく,同社及びグループ会社は直ちに破綻したであろうこと,同社グループの経営状態や担保となる不動産の価格からみて,本件更新登録ころの時点において,同社グループから購入していた抵当証券その他の金融商品等について,その購入者が全額の償還を期待することが既に到底不可能な状態であったことは,いずれも優に推認することができる。そうすると,乗換購入の場合であっても,本件更新登録がなかったと仮定した場合の従前の金融商品等についての法的回収可能見込額が,乗換購入後の抵当証券についての法的回収可能額より大きかった場合には,1審原告らは,本件更新登録により,その差額分だけ損害を被ったとみることができる。そして,その方が本件更新登録により従前からA社と取引のあった者が被った被害の実態に合うものと考えられる。しかし,本件更新登録がなかったと仮定した場合の従前の金融商品等の法的回収可能見込額は,本件全証拠によっても結局は不明というほかないから,この場合の1審原告らにおける損害の発生及び損害額の主張立証は,やはり,ないというしかない(現に,1審原告らも,当審では,乗換購入の抵当証券に関しては損害を請求しないとしている。)。

したがって,1審原告らは,本件更新登録後に購入した抵当証券について損害の賠償を求めるとすれば,平成10年1月以降に,その購入代金全額をA社に現実に払い込んで抵当証券を購入したこと(すなわち上記のような乗換購入ではないこと)までを,主張立証する必要があるというべきである。

ウ 購入原資に従前の金融商品等の償還金が含まれる場合

他方,平成10年1月以降に購入した抵当証券について,乗換購入によるものではなく現実に購入代金を払い込んで購入したものではあるが,その購入原資のうちに,本件更新登録より前に購入していたA社グループの金融商品等の満期又は中途解約による償還金が事実上含まれているという場合も考えられる。そして,従前の金融商品等の償還が本件更新登録の後であった場合には,前記のとおり,本件更新登録がなければその全額の償還を受けることはできなかったのであるから,前記イの場合と同様に,本件更新登録がなかったと仮定した場合の財産状態を確定することはできないようにも思える。

しかしながら,まず,このような場合は,仮にその購入原資の全額が従前の金融商品等の償還金であったとしても,その購入者は,その抵当証券の購入のために,一旦受領していた資金を改めて出捐し,購入代金を新たに,かつ現実に払い込んでいるのであるから,その抵当証券に関しては,前記アの場合と同様に,本件更新登録により新たな被害が発生したとみることが可能である。そして,この場合に1審原告らにおいて主張立証すべき損害額は,前記アの場合と同じく,当該抵当証券の購入のための現実に出捐した額から,当該抵当証券についての権利の実現を通じて法的に回収可能な額を控除した額(すなわち法的回収不能額)であるというべきである。

もっとも,前記のとおり,本件更新登録が行われなかった場合には,その当時保有していた金融商品等について,本件更新登録後にその全額の償還を受けることができなかったことは明らかであるところ,本件更新登録により,その後に全額償還を受けることができたのであるから,その購入者は,本件更新登録がなされたことにより,A社グループがその時点で破綻したと仮定した場合に比べ,当該従前の金融商品等に係る本件更新登録時の回収見込額と全額償還額との差額分の利益を得ているということになる。そうすると,上記抵当証券購入者は,本件更新登録という違法行為により,その後に購入した新たな抵当証券については法的回収不能額分の損害を被る一方で,従前の金融商品等については,本件更新登録当時に破綻したと仮定した場合の回収不能見込額分の利益を得ていることになるから,この利益は,これを損害額から控除するのが衡平にかなう。

ところで,これまで認定の本件の具体的事情や証拠(<証拠省略>)を踏まえると,A社においては,特に本件更新登録後は,資金の流出を避けるため乗換購入を積極的に勧めており,顧客としても,一旦償還金を受領した上期間をおいて再度抵当証券を購入するよりは,金利の高い抵当証券を継続的に購入しておいた方が有利であるし,一旦償還金を受領した上再び購入代金を支払うには払込手数料を負担する必要も出てくることなどを考えると,継続的に抵当証券を購入する意思のある顧客は,基本的には乗換購入をしていたことが認められ,上記のように,同社の営業員の勧めを断って一旦現実の償還を受けながら,その資金を用いて再度抵当証券を購入するという購入形態は,後記のとおり1審原告X1においては満期償還金を受領した後一定期間後に再度抵当証券を購入していることを考慮しても,むしろ例外的な形態であったと考えられる。なお,後記のとおり,管財人回答書(<証拠省略>)においては,A社被害者弁護団に委任した者の保有する抵当証券中,回答し得た抵当証券のうちの約47%が,新規購入資金の現実の払込みのない乗換購入であるとされている。しかも,A社は,空いた抵当証券の販売枠を新規の顧客へ回すため,既存の抵当証券購入者に対しては,他の金融商品への乗換えをさらなる高利によって誘導していたことがうかがわれるところ,上記回答は抵当証券についてのみのものであるから,同社の顧客の間では,乗換購入は,上記の数字からうかがわれる以上に一般的な購入形態であり,逆にいえば,一旦償還金を受領した後改めて抵当証券購入代金を現実に払い込むことは例外的であったことが,上記管財人の回答結果からも看取し得る。以上のような事情と,一般的な主張立証責任の分配や本件の具体的な事情に基づく衡平の観点を併せ考慮すると,現実の払込みをした1審原告らが,他方で従前の金融商品等の全額償還を受け得たことにより利益を受けていたこと及びその額は,損益相殺の問題として,これを1審被告において主張立証すべきものと解するのが相当である。この点は,抵当証券その他の金融商品等の取引の当事者ではない1審被告においてその具体的な主張立証をすることが著しく困難であろうことを考慮しても,異ならないというべきである。

エ 小括

以上によれば,1審原告らは,本件訴訟において,平成10年1月以降に購入した抵当証券に関する損害の賠償を求めているところ,1審原告らは,本件更新登録という違法行為と相当因果関係のある損害の発生及びその額として,①請求に係る抵当証券について,平成10年1月以降に,その購入代金を現実に払い込んで(すなわち,乗換購入ではなく)購入し,A社の破綻時までにその償還を受けていないこと,及び②その抵当証券の購入のために拠出した金額とその抵当証券についての権利の実行を通じて法的に回収可能な額との差額(法的回収不能額),とを主張立証する必要がある。

そして,仮に過失相殺をすべき場合には,過失相殺は,このようにして算定された差額としての損害額(法的回収不能額)に対してすべきである。

また,1審原告らが,本件更新登録によりその当時保有していた他の金融商品等について全額の償還を受け得たことによる利益(当該金融商品等についての,本件更新登録が拒否されたと仮定した場合の回収不能見込額)は,損益相殺として,これを上記過失相殺後の損害賠償額から控除すべきである。

オ 1審原告らの主張について

この点,1審原告らは,本件更新登録がなかったと仮定した場合の財産状態は,抵当証券購入代金相当額を出捐しなかったこと(0)であるとしつつ,本件更新登録の結果としての現実の財産状態は,当該代金相当額(A円)を出捐したこと(-A)であって,その差額である購入代金相当額を出捐したこと自体(0-(-A)=A)が,本件更新登録という違法行為と相当因果関係のある損害であり,これは,金員詐取の場合に金員の出捐・交付自体が損害であるとされるのと同じであると主張した上,その抵当証券に係る利息相当額の収益や本件再生手続における支払等は,損益相殺ないし損害のてん補として,1審被告において主張立証すべきであると主張する。

しかし,本件更新登録以後に購入された抵当証券であっても,抵当証券としては有効に存在したものであって,A社の破綻によっても全くの無価値物となったものではなく,本件更新登録という違法行為による損害は,A社が破綻したことにより,その全額の回収は困難になったというところにある。したがって,本件更新登録の結果としての現実の財産状態が,購入代金相当額を出捐した状態(-A)であるということはできない。また,本件は,1審被告が直接1審原告らに対し抵当証券の販売を装って購入代金相当額を詐取したといった場合とは異なり,購入代金相当額の出捐自体が,直ちに本件更新登録という違法行為と相当因果関係のある損害であるととらえることもできない。この点の1審原告らの主張は採用しない。

1審原告らは,乗換購入の場合を含めて,平成10年1月以降に1審原告らが購入した抵当証券の購入原資のうちに,本件更新登録以前に購入した金融商品等の満期又は中途解約による償還金が含まれており,本件更新登録がなければ同償還金は全部又は一部回収不能となることは,損益相殺ないし損害のてん補と同様に,抗弁事実(ないし間接反証)として,1審被告が主張立証責任を負う旨主張するが,乗換購入の場合にはこれを採用できないことは,前記説示のとおりである。このことは,立証の難易や公平の理念,本件がパイロット訴訟であることなどの1審原告らの主張する事情を考慮しても異ならない(なお,前記のとおり,1審原告控訴人らは,乗換購入の抵当証券に関する損害に関しては,控訴にあたりこれを取引事実から除外して,請求していない。)。

カ 1審被告の主張について

他方,1審被告は,本件更新登録時に保有していた金融商品等について,一旦償還を受けた後,期間をおいて再度抵当証券を購入した場合(前記ウの場合)であっても,従前の金融商品等については本件更新登録を拒否しても損害を被ったと認められ,その分は因果関係のある損害とは認められないから,本件更新登録時に保有していた金融商品等の償還金が抵当証券の購入原資に含まれていないことまでを,1審原告らにおいて主張立証する必要があると主張する。

しかし,一旦受領され一般財産に混入した償還金が新たな抵当証券の購入原資に含まれるか否かは判断困難なことであるし,本件更新登録による被害は,各抵当証券や金融商品ごとに,その代金を払い込んだことによって発生するものと観念されるのであるから,その損害額の算定において,他の金融商品等について被った損害や利益を当然に通算すべきとはいえないのであって,前記のとおり損益相殺としてこれを考慮すれば足りるとするのが相当である。1審被告の上記主張は採用できない。

さらに,1審被告は,抵当証券の購入により得られた利益が控除された残額をもって損害というべきものであるから,担保物件からの回収額及び本件再生手続からの回収額等が控除された後の額が,本件における損害額として過失相殺の対象となると前記エで示したと同様に主張しながら,他方では,公務員の違法行為後に損害のてん補等がされた場合,過失相殺後の損害額からこれを控除すべきことは当然であるとし,1審原告らの受取利息相当額については,過失相殺後の損害額から損益相殺として控除すべきであると補充主張する。

しかし,その主張は一貫していないというべきである。利息の受領についても,当該抵当証券自体の権利の実現の一つであり,抵当証券の有する価値の一部が実現したものであって,これを担保物件からの回収額等と区別すべき理由はないと解すべきことは,前記説示から明らかである。上記1審被告の補充主張も採用できない。

キ 検討の順序

そこで,以下項を改めて,まず前記①のうち,購入の事実が当事者間に争いのない抵当証券について,これに対する代金の払込みの事実と未償還の事実を検討し(後記(2)),次に,購入の事実を1審被告において認めていない抵当証券について,その購入,代金払込み及び未償還の事実を検討し(後記(3)),次いで,各抵当証券についての前記②の額を具体的に検討する(後記(4))。その上で,過失相殺及びその他の控除(後記(5)),弁護士費用相当損害額(後記(6)),遅延損害金(後記(7))について検討し,最後に損害について小括する(後記(8))。

(2)  前記①(代金払込みによる購入及び未償還の事実)のうち,購入の事実が当事者間に争いのない抵当証券について

ア 購入及び未償還の事実

1審原告らの請求に係る抵当証券のうち,別紙受取利息算出表1の1<省略>(1審原告被控訴人ら分)・1の2<省略>(1審原告控訴人ら分)に記載された各抵当証券については,その購入の事実は当事者間に争いがない。なお,同表においては,購入日が同一の抵当証券について,その額が合算して記載されているものがある(原告番号<省略>)が,同額の抵当証券を購入したという意味で,購入の事実自体は争いのないものと認める。これらの抵当証券の購入時期は,その購入日欄のとおり,いずれも平成10年1月以降である。

そして,<証拠省略>によれば,上記抵当証券はいずれも,本件再生手続においてCS管財人によりA社に対する元本債権の存在が認められたものであるから,同社の破綻時に未償還であったことも認められる。

なお,1審原告被控訴人X3(原告番号A16。なお,以下においては,「原告番号」との記載を省略して単に「A16」などと記載し,また原告番号のみで1審原告を表示する場合もある。)の平成11年12月15日購入の30万円,同X10(A58)の平成12年4月25日購入の220万円の各抵当証券に関しては,管財人回答書<証拠省略>の認める債権額欄の記載は,認めない債権額欄が0円であること及び抵当証券保管機構の保有するデータの内容(当審調査嘱託の結果)などに照らし,明らかな誤記であると認める。

イ 購入代金払込みの事実(乗換購入ではないこと)

(ア) 次に,上記抵当証券について,その購入代金を1審原告らが現実に払い込んで購入した(すなわち,乗換購入ではない)と認められるか否かについて検討すると,1審原告らは,この点の立証として,管財人回答書(<証拠省略>)を提出し,同回答書の正確性にかんがみれば,同回答書において「新規」又は「追加」とされている抵当証券については,乗換購入ではなく,1審原告らが直接新規資金を払い込んで購入したものであることが立証されていると主張する。これに対し,1審被告は,そもそも同回答書には,その精度を100%保証できない旨の記載があり,同回答書の作成者において,「新規」に区分されていても過去に取引がある可能性があること,「追加」に区分されていても過去の満期償還金に新規の資金を追加して購入している可能性もあることを認めているのであって,その区分の正確性には疑問がある旨主張する。

(イ) そこで,管財人回答書の「新規」又は「追加」区分の正確性について順次検討する。

管財人回答書は,A社被害者大阪弁護団が平成15年3月19日(<証拠省略>),同名古屋弁護団が同年4月10日(<証拠省略>),同東京弁護団が同月17日(<証拠省略>),それぞれCS管財人に対し,係属中の1審被告を相手方とした調停手続が不調となって裁判手続へ移行することが予想されるため,平成10年以降の抵当証券被害について,現実の出捐を行った被害者及び被害額を調査していることを明示した上で,上記各弁護団への委任者のうち,「新規に抵当証券を購入した顧客(従前から抵当証券・その他商品を保有し,満期もしくは乗り換え購入した顧客ではない,新規の購入者)」について照会したことに対し,上記大阪弁護団に対し同月9日(<証拠省略>),上記名古屋弁護団及び東京弁護団に対しそれぞれ同年5月1日(<証拠省略>),CS管財人(ないし管財人グループ)が,それぞれのA社被害者「弁護団委任者のうち,平成10年以降,新規購入資金により抵当証券を購入したと思われる顧客及び商品(抵当証券)の一覧」を,一覧表を添付する形式で回答したものであり,添付一覧表の「販売区分」欄のうち,「新規」が「従前取引がない顧客の新規購入」を,「追加」が「従前取引のある顧客の新規購入資金による購入」を指すとされている。ただし,同回答書中に,注意事項として,会社整理開始直近の販売について,モーゲージ証書が発行されていない取引についてはデータが存在しないため回答できないことのほか,添付の「一覧表について,その精度を100%保証はできません。(過去に取引があるにもかかわらず,新規に区分されている場合や,追加購入時に過去の満期償還金に新規資金を追加して購入している等の場合があるため)」と記載されている。このことと,上記各一覧表の形式や弁論の全趣旨を総合すると,上記一覧表は,訴訟において証拠として用いられることを前提にした上で,CS管財人の管財業務を補助していたA社の元経理担当者により,管財人事務所に保管された同社の帳簿や預貯金口座のデータ等に基づき,A社に現実に購入代金の全額が振り込まれ,あるいは現金で受領したものを,「新規」又は「追加」として区分して表示したものであって,現実に購入代金の払込みの確認できない乗換購入については,新規でも追加でもない「 」(空白)(以下「空白」と記載する。)と区分されているものと認められる。ちなみに,同回答書によれば,大阪弁護団への委任者のうち,回答のあった抵当証券3499件総額78億8470万円のうち,購入総額にして約42億円(約53%)が「空白」と区分されている。同様に,名古屋弁護団分は,回答のあった抵当証券1908件総額41億3930万円のうち,「空白」区分は約10億円(約24%),東京弁護団分は,回答のあった抵当証券3267件総額76億6810万円のうち,「空白」区分は約40億7000万円(約53%)であって,全弁護団を合計すると,回答のあった抵当証券総額の約47%が,代金払込の確認できない「空白」区分である。

同回答書の購入者名や販売日,債権額等のデータは,前記の誤記と認められる部分を除き,基本的に抵当証券保管機構の保有するデータ(当審調査嘱託の結果)とも整合性があると認められる。

(ウ) 次に,管財人回答書における個別の「新規」「追加」区分について,他の証拠により認められる事実との整合性を検証する。

a 1審原告控訴人X1(A1)の請求に係る3件の抵当証券(①平成10年5月31日購入の1000万円,②平成11年11月25日購入の300万円,③平成12年4月20日購入の700万円)は,管財人回答書(<証拠省略>)においては,すべて「追加」と区分されているところ,<証拠省略>によれば,同1審原告は,平成9年4月28日に従前保有していた抵当証券の償還を受けていること,そして,平成10年5月29日に1000万円,平成11年11月24日に300万円,平成12年4月18日に合計700万円を,それぞれA社名義の預金口座に振込送金して,上記①~③の抵当証券を購入していることが認められ,同回答書の「追加」区分はかかる事実と符合している。

b <証拠省略>によれば,X11(原審における原告(A2)で,控訴人あるいは被控訴人とはなっていない。)は,平成12年4月10日に同人の亡父CT名義で満期となった400万円の抵当証券について,A社から償還金を現実に受領することなく,そのままX11名義の同額の抵当証券に切り替えていることが認められるところ,管財人回答書(<証拠省略>)においては,X11の平成12年4月10日購入の400万円の抵当証券は「空白」に区分されており,上記事実と符号している。

c <証拠省略>によれば,1審原告被控訴人X12(C167)は,A社との初めての取引が平成11年10月25日の200万円の抵当証券の購入であり,また訴外CUは,同年7月20日にA社との初めての取引として200万円の抵当証券を2件購入し,さらに同年8月25日に200万円の抵当証券を買い増していることが認められるところ,管財人回答書(<証拠省略>)においては,同1審原告の同年10月25日購入の200万円の抵当証券は「新規」と,CUの同年7月20日購入の各200万円の抵当証券は1件が「新規」,他の1件が「追加」と,同年8月25日購入の200万円の抵当証券は「追加」と,それぞれ区分されており,上記事実と符合している。

d <証拠省略>によれば,1審原告控訴人X13(B201)は,平成7年7月15日に初めてA社の抵当証券を60万円購入し,平成10年7月15日にこれが満期を迎えたため切り替えて再度抵当証券を購入し,平成10年11月30日には,貯金等を原資とした購入代金をA社に送金して50万円の抵当証券を購入し,また平成11年4月20には以前購入した100万円の抵当証券を切り替えて再度抵当証券を購入していることが認められるところ,管財人回答書(<証拠省略>)においては,平成10年11月30日購入の50万円の抵当証券は「追加」と,同年7月15日購入の60万円及び平成11年4月20日購入の100万円の抵当証券はいずれも「空白」と区分されており,上記事実と符合している。

e <証拠省略>によれば,1審原告控訴人X14(B138)は,平成4年11月ころに初めてA社の抵当証券を購入し,その後抵当証券を含め金融商品等を買い増していっていたことが認められるところ,管財人回答書(<証拠省略>)においては,抵当証券のうち平成10年6月20日購入の100万円は「追加」,同年7月31日購入の300万円は「空白」,同年9月10日,同年12月5日,平成11年1月25日購入の各200万円,同年4月5日購入の100万円はいずれも「追加」,同年7月8日購入の200万円は「空白」,同年9月10日購入の200万円,平成12年4月10日購入の100万円,同年5月15日購入の200万円はいずれも「追加」と区分されており,区分は細密であって,上記事実と矛盾もない。

f <証拠省略>によれば,1審原告被控訴人X15(B233)は,平成11年11月10日に100万円,同月20日に500万円の抵当証券を,定期預金を解約して購入し,これがA社との初めての取引であったことが認められるところ,管財人回答書(<証拠省略>)においては,平成11年11月10日の100万円の抵当証券は「新規」,同月20日の500万円の抵当証券は「追加」と区分されており,上記事実と符合している。

g <証拠省略>によれば,原告番号A10,A13,A22,A52,A54,A67,A73,A82,A87,A89,A91,A92,A100,A102,A110,A126,A135,A142,A144,A148,A161,A162,A163,A169,A187,A188,A202,A203,A204,B7,B24,B27,B35,B43,B47,B67,B68,B95,B101,B102,B127,B153,B155,B232,B234,B239,B245,B252,B264,B280,B288,C11,C17,C37,C38,C57,C121,C129,C138,C164,C166の1審原告控訴人ら61名は,その保有する抵当証券のうち管財人回答書において「追加」又は「新規」と区分されている抵当証券の全部又は一部について,その購入日の当日から20日程度前までの間に,購入代金の全額を,振込送金するなどして現実にA社に払い込んでいることが認められ,管財人回答書の上記区分が客観的証拠により裏付けられている。

h 続いて,原判決において,主に各1審原告の陳述書(<証拠省略>以下,その全部又は個々の陳述書を「定型陳述書」ともいう。)の記載内容に基づいて,平成10年以降にA社から抵当証券を初めて購入したか,又は少なくともこれに対する対価を支払ったものと認められた抵当証券のうち,管財人回答書においては「空白」と区分されている抵当証券について,以下に検討する。

(a) 1審原告被控訴人X16(B36)については,定型陳述書(<証拠省略>)によれば,同陳述書7項「(A社グループを知った時期・経緯)」においてA社を初めて知った時期は「平成10年8月ころ」であるとされているから,これによれば,平成10年9月1日購入の300万円の抵当証券は「新規」の可能性が高いと考えられるが,管財人回答書(<証拠省略>)においては「空白」と区分されている。また,同年12月10日購入の150万円の抵当証券については「追加」と区分され,さらに平成12年7月15日購入の400万円及び同年9月25日購入の400万円の各抵当証券はいずれも「空白」と区分されている。

1審原告被控訴人X17(B74)については,定型陳述書(<証拠省略>)によれば,上記7項においてA社を初めて知った時期は「平成11年2月ころ」であるとされ,同15項「(最後に)」の欄でも「平成11年に初めて購入したのですから」と記載されているから,これによれば,同年3月5日購入の1000万円の抵当証券は「新規」の可能性が高く,同年8月10日購入の500万円は,短期間で他の金融商品等を中途解約して乗り換えたといった事情は記載されていないから,「追加」である可能性が高いと考えられるが,同回答書においては,同年3月5日購入の1000万円の抵当証券は「追加」,同年8月10日購入の500万円の抵当証券は「空白」と区分されている。

1審原告被控訴人X18(B75)については,定型陳述書(<証拠省略>)によれば,上記7項においてA社を初めて知った時期は「平成10年6月ころ」であるとされているから,これによれば,同年6月30日の100万円の抵当証券は「新規」の可能性が高く,その後平成12年3月までに購入した6件の抵当証券は,短期間で他の金融商品等を中途解約して乗り換えたといった事情は記載されていないから,「追加」である可能性が高いと考えられるが,同回答書においては,平成10年6月30日購入の100万円は「追加」,同年8月31日購入の200万円,平成11年4月5日購入の200万円,同年6月25日購入の100万円,平成12年3月10日購入の300万円の抵当証券は各「追加」と区分されているものの,平成11年2月10日購入の100万円,同年12月20日購入の200万円の抵当証券はいずれも「空白」と区分されている。

1審原告被控訴人X19(B93)については,定型陳述書(<証拠省略>)によれば,上記7項においてA社を初めて知った時期は「平成9年10月ころ」とされており,また同陳述書10項「(購入時の年齢)」においては,A社から初めて抵当証券を購入した時の年齢は「○○歳」(昭和○年○月○○日生まれ)とされているから,これらによると,平成10年5月20日(当時満○○歳)購入の270万円の抵当証券は「新規」の可能性が高く,その後平成11年11月30日までに購入した5件の抵当証券は,短期間で他の金融商品等を中途解約して乗り換えたといった事情は記載されていないから,いずれも「追加」である可能性が高いと考えられるが,同回答書においては,平成10年5月20日購入の270万円と同年8月10日購入の200万円の抵当証券はいずれも「追加」と,同年7月15日購入の1200万円,同年11月1日購入の1200万円,同月30日購入の450万円,平成11年11月30日購入の250万円の抵当証券はいずれも「空白」と区分されている。

しかしながら,そもそも1審原告らの定型陳述書の記載内容については,各陳述書に添付されている「A社被害記入票」に記載されたA社の破綻時に保有する金融商品等の内容については,1審原告らにおいて保管しているモーゲージ証書等に基づいて正確に記載することは容易であるはずであり,同記入票への「証書なし」といった書き込みや弁論の全趣旨によれば,被害者弁護団において実際に確認作業を行っていることもうかがわれ,誤記等はあるとしても,その基本的な信用性は一般に高いと認められるのに対し,同陳述書本文中の7項「(A社グループを知った時期・経緯)」や10項「(購入時の年齢)」の記載内容及びA社の破綻時までに中途解約あるいは満期により既に償還を受けた金融商品等については,客観的資料による確認は容易ではないものと考えられる。その上,定型陳述書においては,それぞれの購入に至る経緯や購入時の事情等の詳細が明らかでないものが多いから,少なくとも上記7項「(A社グループを知った時期・経緯)」や10項「(購入時の年齢)」の記載内容は,一般に正確性が高いとは認められないというべきである。そして,上記1審原告ら(B36,B74,B75,B93)の各定型陳述書についても,そのA社を知った時期についての記載を裏付けるに足りる証拠はなく,これを根拠に管財人回答書の「新規」又は「追加」区分が不正確であるとすることはできない。

また,仮に上記1審原告ら(B36,B74,B75,B93)の各定型陳述書の上記7項におけるA社を知った時期についての記載内容が正確であったとしても,少なくとも,管財人回答書<証拠省略>は,購入代金の払込みの確認できない抵当証券について,「新規」又は「追加」と区分したものではないから,これによって,同回答書において「新規」又は「追加」に区分されている抵当証券が,少なくとも購入代金全額の現実の払込みがあった抵当証券であると認めることを防げるものではないというべきである。

(b) また,1審原告被控訴人X20(B57)について,平成11年11月11日購入の2800万円の抵当証券については,原判決において平成10年以降にA社から抵当証券を初めて購入したか,又は少なくともこれに対する対価を支払ったものと認められているが,管財人回答書においては「空白」と区分されているところ,同1審原告の定型陳述書(<証拠省略>)によれば,同陳述書7項においてA社を初めて知った時期は「平成9年8月ころ」とされており,同陳述書添付のA社被害記入票によれば,同月6日には1230万円の,同年11月5日には1640万円の,各金融商品等(会員権)を購入したと記載されているから,これらが本件破綻時まで未償還であったとしても,そのころ他に2800万円程度の金融商品等を購入していた可能性は否定できず,したがって,仮に同陳述書の記載内容が正確であるとしても,平成11年11月11日購入の2800万円の抵当証券が,平成9年11月ころに購入した他の金融商品等の乗換えである可能性は否定できず,他に,平成11年11月11日購入の2800万円の抵当証券について,平成10年1月以降に現実に購入代金を払い込んだものと認めるに足りる証拠はない。なお,このように現実の払込みを証拠上認めるに足りない抵当証券については,別紙控訴審損害計算一覧表1・2<省略>の「①購入金額」欄に「*」を付することとする(例:「*28,000,000」)。

さらに,1審原告被控訴人X21(B73)についても,原判決においては以下の4件の抵当証券についていずれも平成10年以降に初めて購入したか少なくともこれに対する対価を支払ったものと認められているが,管財人回答書においては,平成11年9月10日購入の650万円,平成12年8月31日購入の400万円,平成12年12月5日購入の350万円の各抵当証券は「追加」と区分される一方,同年10月20日購入の780万円の抵当証券は「空白」とされている。同1審原告の定型陳述書(<証拠省略>)によれば,10項「(購入時の年齢)」において,初めてA社から抵当証券を購入した時の年齢は「○○歳」(昭和○○年○○月○日生まれ)であるとしているから,上記平成11年9月10日購入の抵当証券が初めて購入した抵当証券であるとするようであるが,他方で,A社からは,同人の母が同1審原告の名義で金融商品等を購入していたもので,同1審原告は,同人の母がいつ頃からA社を知っていたかは知らず,購入の詳細は全く知らないというのであるから,単にA社破綻時に保管されていたモーゲージ証書のうち最も購入時期の早い平成11年9月10日という購入時期に基づき,上記10項の購入時年齢を記載した可能性は否定できず,同陳述書の記載内容によって,同1審原告が初めてA社から抵当証券を購入したのが平成11年9月であると認めることはできない。他に,同1審原告の平成12年10月20日購入の780万円の抵当証券が,現実に購入代金を払い込んで購入されたものであると認めるに足りる証拠はない。

したがって,上記2名の1審原告の事情も,管財人回答書の「新規」又は「追加」区分の正確性を否定するものではない。

(c) 以上のとおり,上記6名の1審原告らの事情によって,管財人回答書の「新規」又は「追加」区分の正確性が否定されるものとはいえない。

i その他,管財人回答書において「新規」又は「追加」に区分されていながら,現実には購入代金の払込がないことが明らかであるなど,同回答書の「新規」又は「追加」区分が購入代金全額の払込みがあった抵当証券であるとの事実の正確性を否定するような個別の事情は,本件訴訟においては見当たらない。

(エ) 以上によれば,管財人回答書は,前記のとおり,認める債権額について明らかに誤記と考えられる記載はあるものの,前記認定の作成過程からすれば,その内容は一般的に機械的な正確性を有するものと認められる上,特にその「新規」又は「追加」区分について,他の証拠から明らかな事実関係に照らして検証しても,その区分の正確性を否定するような具体的な事情は認められないから,同回答書における「新規」又は「追加」区分は基本的に正確なものとして信用性が高く,同回答書において「新規」又は「追加」に区分されている抵当証券は,具体的な反証がない限り,その購入代金の現実の払込みがあったと認めるのが相当である。

そして,本件において上記具体的な反証はないから,管財人回答書において「新規」又は「追加」と区分されている抵当証券については,これを1審原告らにおいて現実に購入代金をA社に払い込んで購入したものと認められる。

なお,1審原告らは,定型陳述書の記載に基づき判断するとしても,別紙「原判決の判断枠組みによっても認容されるべき1審原告一覧表」<省略>記載の1審原告控訴人ら42名については,同人らの各定型陳述書によれば,A社から初めて抵当証券を購入したのは平成8年以降であり,同年又は平成9年に購入した抵当証券の満期は平成13年又は平成14年であって,A社の破綻時まで中途解約せずモーゲージ証書を保有しているから(<証拠省略>),平成10年1月以降に購入した抵当証券の購入原資の中に,本件更新登録以前に購入した金融商品等の満期又は中途解約による償還金が含まれている可能性はなく,また,A社を知ったのは本件更新登録以前でも,実際に抵当証券を初めて購入したのは平成10年1月以降であることなどから,上記1審原告らの平成10年1月以降に購入の抵当証券は,いずれもその購入原資のうちに本件更新登録以前に購入していた金融商品等の償還金は含まれていないことが明らかである旨主張する。しかし,上記1審原告ら42名において,本件更新登録前に,モーゲージ証書が前掲証拠(<証拠省略>)として提出されている抵当証券以外の他の金融商品等を購入していた可能性は否定できないから,同人らが平成10年1月以降に購入した抵当証券のすべてが,新規に代金を払い込んで購入した抵当証券であるとは断定できないのであって,上記1審原告らの主張は採用できない。現に,管財人回答書においても,たとえばB8,B22,B47,B102等の1審原告らは,別紙「原判決の判断枠組みによっても認容されるべき1審原告一覧表」<省略>に記載されている以外の,平成10年1月以降に購入した抵当証券を保有しているとされ,これらは乗換購入を示す「空白」区分とされている。もっとも,以上のとおりであるから,少なくとも前掲証拠は,管財人回答書の「新規」又は「追加」区分の正確性を妨げるものではない。

(オ) これに対し,管財人回答書において「空白」に区分されている抵当証券は,CS管財人の調査において購入代金全額の現実の払込みが確認できなかった抵当証券である。しかし,その中には,乗換購入の場合のほか,実際には払込みはあったものの,A社の資料の欠落等によりその払込みの事実を確認できないとか,あるいはA社の社員において顧客から預かった購入代金を同社に渡さなかったなどの可能性も考えられる。したがって,他の証拠によって,A社への購入代金の払込みの事実が認められれば,「空白」区分であっても,現実に購入代金をA社に払い込んで購入したものと認めることができるというべきである。ちなみに,上記のとおり払込みが確認できなかった抵当証券については「新規」又は「追加」に区分していないというのみであるから,現実には購入代金を払い込んでいるにもかかわらず「空白」区分とされているケースがあったとしても,その事実は,管財人回答書の「新規」又は「追加」区分の持つ,払込みが確認できたという意味での正確性を否定するものとはならない。

もっとも,前記(ウ)h記載の1審原告被控訴人ら6名の抵当証券のうち,管財人回答書において「空白」と区分されている抵当証券については,前記のとおり定型陳述書における「A社を知った時期」や「購入時の年齢」についての記載は一般的に信用性が高いとはいえず,他に同1審原告らの定型陳述書の上記記載を裏付けるに足りる具体的な記載や証拠もなく,他に払込みの事実を認めるに足りる証拠もない。1審原告らにおいても,上記抵当証券については,乗換購入であることを認めている(1審原告らの原審における平成16年8月31日付け訴状訂正申立書,平成18年12月14日原告第28準備書面,当審における主張等)。したがって,上記1審原告被控訴人ら6名の合計12件の抵当証券のうち「空白」区分の抵当証券については,平成10年1月以降に現実に代金を払い込んで購入したものと認めることはできない。

(カ) 1審被告は,管財人回答書にその精度を100%保証はできない旨の記載があって回答内容の正確性は担保されていないこと,「新規」又は「追加」に区分されていても過去に受領した満期償還金に新規の資金を追加して購入している可能性があることを理由に,管財人回答書の正確性を論難するところ,同回答書の作成者において100%の正確性が担保されていないことによっても,前記のとおりの検討によれば,その高度の信用性を認めることができるのであるし,前記のとおり,同回答書の「新規」又は「追加」区分は,現実に購入代金全額が払い込まれたことを表すに過ぎず,過去に受領した満期償還金がその購入原資に含まれていることを否定するものではないから,上記1審被告の主張は反論となり得ない。

(キ) また,1審原告らは,管財人回答書の正確性を争う1審被告の主張は時機に後れた攻撃防御である旨補充主張するが,審理経過に照らし,採用しない。

ウ 小括

以上のとおり,購入の事実が当事者間に争いのない抵当証券については,前記イ(ウ)h記載の1審原告らの抵当証券のうち管財人回答書において「空白」と区分されている抵当証券を除き,1審原告らにおいて,平成10年1月以降に現実に購入代金を払い込んで購入し,A社の破綻時も未償還だったことが認められ,本件更新登録により損害が発生することが一応認められる。

(3)  前記①(代金払込みによる購入及び未償還の事実)のうち,前記(2)以外の抵当証券について

前記(2)において検討した以外の本件請求に係る抵当証券(すなわち,1審被告において購入の事実を否認し,不知とし,あるいは認否をしていない抵当証券)としては,購入日がA社の破綻直前である平成13年3月31日から同年4月13日までとされる場合(後記ア)と,満期償還日(約定の買戻日)がA社の破綻直前である同年3月31日又は同年4月10日とされる場合(後記イ)とがある。そこで,以下この二つの場合に分けて,順次検討する。

ア 購入日が平成13年3月31日から同年4月13日までとされる抵当証券について

(ア) <証拠省略>によれば,A社は,顧客がモーゲージ証書の購入代金を支払った後に,特定の抵当証券の共有持分を各顧客に割り付けていたが,同社の破綻に近接した時期に販売した抵当証券については,同社の破綻時に同社内部での上記割付作業が終了しておらず,たとえモーゲージ証書が購入者に交付されていたとしても,同社内部のデータ上では,購入者の取得すべき抵当証券の共有持分権の内容を確定することができない状態の抵当証券が存在したこと,こうした抵当証券については,管財人回答書においては,データが存在しないため回答できないとされていること,しかし,本件再生手続においては,こうした抵当証券についても,「抵当証券割付未了」としてCS管財人により額面額と同額の債権の存在が認められ,分配の対象とされていることがそれぞれ認められる。したがって,A社内部での割付作業が未了の抵当証券に関しても,その購入あるいは購入申込みの事実が認められ,本件再生手続において債権の存在が認められており,その購入代金を現実に払い込んだ事実が認められれば,平成10年以降に現実に代金を払い込んで購入し未償還だった抵当証券の購入と同様に,本件更新登録による損害が発生すると一応認めて差し支えないというべきである。

(イ) そこで,以下,購入あるいは購入申込みの事実,購入代金の現実の払込みの事実及び本件再生手続において債権の存在が認められているかを,以下個別に検討する。これらの抵当証券については,管財人回答書にそもそも記載がないから,乗換購入ではなく購入代金を現実に払い込んで購入されたものと認められるか否かは,別途証拠に基づき検討する必要がある。

a 1審原告被控訴人X22(C16)の平成13年4月10日購入の500万円の抵当証券については,<証拠省略>によれば,同1審原告がこれを購入したことが認められ,本件再生手続においても債権の存在が認められている。しかし,同証拠によっても,購入代金の払込みの事実は不明であり,平成12年12月10日に購入した200万円の抵当証券は管財人回答書(<証拠省略>)においては「追加」と,平成13年1月20日に購入した500万円の抵当証券については「空白」と区分されていることからすると,同年4月10日購入の500万円についても,切替え(乗換購入)の可能性がある。もっとも,平成10年1月以降に代金を払い込んで購入した抵当証券の切替えであれば,いずれにせよ本件更新登録による損害として考慮することができるところ,同1審原告の定型陳述書(<証拠省略>)によれば,その7項「(A社グループを知った時期・経緯)」において,同1審原告がA社を知ったのは「平成10年3月ころ」と記載されている。しかし,定型陳述書における上記時期についての記載の信用性が一般的に高いとはいえないことは前記のとおりであって,他に,平成13年4月10日購入の500万円の抵当証券について,代金を払い込み,あるいは平成10年1月以降に代金を払い込んで購入した抵当証券の乗換購入であると認めるに足りる証拠はない。したがって,平成13年4月10日購入の500万円の抵当証券に関しては,本件更新登録と相当因果関係のある損害の発生を証拠上認めることはできない(なお,上記平成12年12月10日購入の200万円の抵当証券に関しては,本件訴訟において請求の対象とされていない。)。

b 1審原告被控訴人X23(C20)の平成13年4月10日購入の300万円の抵当証券については,<証拠省略>によれば,同1審原告がこれを購入したことが認められ,本件再生手続においても債権の存在が認められている。また,同証拠のみでは,購入代金の払込みの事実は不明であるが,同1審原告の定型陳述書(<証拠省略>)によれば,同1審原告が初めてA社を知ったのは平成10年1月ころとされているところ,管財人回答書(<証拠省略>)においては,同年10月31日に購入した500万円の抵当証券が「新規」と区分されていて,上記陳述書の記載を裏付けているといえるから,平成13年4月10日に購入した300万円の抵当証券が,仮に他の金融商品等からの切替え(乗換購入)であったとしても,少なくとも平成10年以降に同額の現実の払込みをしたものとして,本件更新登録により損害が発生するものと一応認めることができる(ここで一応としたのは,差額としての損害発生の検討が未了であるからに過ぎない。以下同じ。)。

c 1審原告X24(C30)の平成13年3月31日購入の300万円の抵当証券については,<証拠省略>によれば,同1審原告がこれを購入したことが認められ,本件再生手続においても債権の存在が認められている。また,同証拠のみでは,購入代金の払込みの事実は不明であるが,同1審原告の定型陳述書(<証拠省略>)によれば,同1審原告が初めてA社を知ったのは平成12年12月ころとされているほか,「住宅を購入しようと計画的にためてきた資金でした」「低当証券を購入して半年もたたないうちにA社は破綻いたしました」などと具体的な事情が記載されており,初めて抵当証券を購入し,その証書の交付も受けないうちに破綻した事実は,記憶として鮮明なはずであるところ,<証拠省略>によれば,同1審原告において,A社の破綻時に,他のA社グループの金融商品等を保有していた事実はないことが認められ,上記陳述書の記載が裏付けられている。したがって,同1審原告については,上記抵当証券の購入がA社との初めての取引であり,現実にその購入代金を払い込んだものと認められ,本件更新登録により損害が発生するものと一応認めることができる。

d 1審原告被控訴人X25(C39)の平成13年3月31日購入の500万円の抵当証券については,<証拠省略>によれば,同1審原告がこれを購入し,本件再生手続において債権の存在が認められていること,さらに,同1審原告が,同月30日に,上記抵当証券の購入代金として,500万円をA社に現実に送金していることが認められ,本件更新登録による損害の発生が一応認められる。

e 1審原告被控訴人X26(C81)の平成13年3月31日購入の500万円の抵当証券については,<証拠省略>によれば,同1審原告がこれを購入したことが認められ,本件再生手続においても債権の存在が認められている。また,同証拠のみでは,購入代金の払込みの事実は不明であるが,同1審原告の定型陳述書(<証拠省略>)によれば,同1審原告が初めてA社を知ったのは平成13年2月ころとされているほか,購入原資は退職金とされ(購入時年齢○○歳),初めて抵当証券を購入し,その証書の交付も受けないうちに破綻した事実は,記憶として鮮明なはずであるところ,<証拠省略>によれば,同1審原告において,A社の破綻時に,他のA社グループの金融商品等を保有していた事実はないことが認められ,上記陳述書の記載が裏付けられている。したがって,同1審原告については,上記抵当証券の購入がA社との初めての取引であり,現実に購入代金を払い込んだものと認められ,本件更新登録による損害の発生が一応認められる。

f 1審原告被控訴人X27(C82)の平成13年4月5日購入の300万円の抵当証券については,<証拠省略>によれば,同1審原告がこれを購入したことが認められ,本件再生手続においても債権の存在が認められている。また,同証拠のみでは,購入代金の払込みの事実は不明であるが,同1審原告の定型陳述書(<証拠省略>)によれば,同1審原告が初めてA社を知ったのは平成12年1月ころとされているところ,管財人回答書(<証拠省略>)においては,同年4月5日に購入した150万円の抵当証券が「新規」と区分されていて,上記陳述書の記載を裏付けているといえるから,平成13年4月5日に購入した300万円の抵当証券が,仮に他の金融商品等からの切替え(乗換購入)であったとしても,少なくとも平成10年以降に同額の現実の払込みをしたものとして,本件更新登録による損害の発生を一応認めることができる(なお,上記平成12年4月5日購入の150万円の抵当証券に関しては,本件訴訟において請求の対象とされていない。)。

g 1審原告被控訴人X6(C84)の平成13年4月10日購入の300万円の抵当証券については,<証拠省略>によれば,同1審原告がこれを購入したことが認められ,本件再生手続においても債権の存在が認められている。しかし,同証拠によっても,購入代金の払込みの事実は不明である。そして,<証拠省略>によれば,同1審原告は,平成12年4月10日に300万円で約定買戻日を平成13年4月10日とする抵当証券を購入しており,<証拠省略>によれば,本件再生手続において抵当証券割付未了として同1審原告に認められた債権は300万円であることからすると,上記平成13年4月10日購入の300万円の抵当証券は,平成12年4月10日購入の上記抵当証券の切替え(乗換購入)であると認められる。もっとも,平成10年1月以降に代金を払い込んで購入した抵当証券の切替えであれば,いずれにせよ本件更新登録による損害として考慮することができるところ,同1審原告の定型陳述書<証拠省略>によれば,同1審原告がA社を知った時期は平成12年3月ころとされている。しかし,定型陳述書における上記時期についての記載の信用性が一般的に高いとはいえないことは前記のとおりであって,他に,上記時期についての定型陳述書の記載を裏付けるに足りる記載ないし証拠はなく,他に,同年4月10日購入の300万円の抵当証券について,現実に代金を払い込み,あるいは平成10年1月以降に代金を払い込んで購入した金融商品等の乗換購入であると認めるに足りる証拠はない。したがって,平成13年4月10日購入の300万円の抵当証券に関しては,本件更新登録と相当因果関係のある損害の発生を証拠上認めることはできない。

h 1審原告被控訴人X28(C87)の平成13年4月10日購入の500万円の抵当証券については,<証拠省略>によれば,同1審原告がこれを購入し,本件再生手続において債権の存在が認められていること,さらに,同1審原告が,同月6日に,その購入代金として,500万円をA社に現実に送金していることが認められ,本件更新登録による損害の発生が一応認められる。

i 1審原告被控訴人X29(C95)の平成13年4月10日購入の160万円の抵当証券については,<証拠省略>によれば,同1審原告がこれを購入し,本件再生手続において債権の存在が認められていること,さらに,同1審原告が,同月3日に,上記抵当証券の購入代金として,160万円をA社に現実に送金していることが認められ,本件更新登録による損害の発生が一応認められる。

j 1審原告被控訴人X30(C115)の平成13年3月31日購入の200万円の抵当証券については,<証拠省略>によれば,同1審原告がその購入申込みをし,本件再生手続において債権の存在が認められていること,さらに,同1審原告が,同月27日に,上記抵当証券の購入代金として,200万円をA社に現実に送金していることが認められ,本件更新登録による損害の発生が一応認められる。

k 1審原告被控訴人X31(C124)の平成13年4月12日購入の200万円の抵当証券については,<証拠省略>によれば,同1審原告がその購入申込みをし,本件再生手続において債権の存在が認められていること,さらに,同1審原告が,同月に,上記抵当証券の購入代金として,200万円をA社に現実に送金していることが認められ,本件更新登録による損害の発生が一応認められる。

l 1審原告被控訴人X32(C125)の平成13年4月10日購入の500万円の抵当証券については,<証拠省略>によれば,同1審原告がこれを購入し,本件再生手続において債権の存在が認められていること,さらに,同1審原告が,同月9日に,上記抵当証券の購入代金として,500万円をA社に現実に送金していることが認められ,本件更新登録による損害の発生が一応認められる。

m 1審原告被控訴人X33(C139)の平成13年3月31日購入の300万円の抵当証券については,<証拠省略>によれば,同1審原告がこれを購入したことが認められ,本件再生手続においても債権の存在が認められている。また,同証拠のみによっては,購入代金の払込みの事実は不明であるが,同1審原告の定型陳述書(<証拠省略>)によれば,同1審原告が初めてA社を知ったのは平成12年7月ころとされているところ,管財人回答書(<証拠省略>)においては,同年7月15日に購入した300万円の抵当証券が「新規」と区分されていて,上記陳述書の記載を裏付けているといえるから,平成13年3月31日に購入した300万円の抵当証券が,仮に他の金融商品等からの切替え(乗換購入)であったとしても,少なくとも平成10年以降に同額の現実の払込みをしたものとして,本件更新登録により損害が発生するものと一応認めることができる。

n 1審原告被控訴人X34(C153)の平成13年4月13日購入の1000万円の抵当証券については,<証拠省略>によれば,同1審原告が,その購入申込みをし,本件再生手続において債権の存在が認められていること,さらに,同1審原告が,同日に,上記抵当証券の購入代金として,1000万円をA社に現実に送金していることが認められ,本件更新登録による損害の発生が一応認められる。

他方で,同1審原告の同年3月31日購入の500万円の抵当証券については,<証拠省略>によれば,同1審原告がこれを購入したことは認められるが,同証拠のみによっては,購入代金の払込みの事実は不明である。そして,<証拠省略>によれば,同1審原告は,平成12年3月31日に500万円で約定買戻日を平成13年3月31日とする抵当証券を購入しており,<証拠省略>によれば,本件再生手続において抵当証券割付未了として同1審原告に認められた債権は1000万円(上記平成13年4月13日購入分)と500万円の合計1500万円であることからすると,上記平成13年3月31日購入の500万円の抵当証券は,平成12年3月31日購入の上記抵当証券の切替え(乗換購入)として購入され,本件再生手続においても債権の存在が認められたものであると推認することができる。もっとも,<証拠省略>によれば,同1審原告は,平成12年3月31日の上記500万円の抵当証券を購入するに際して,同月30日,現実にA社にその購入代金として500万円を送金していることが認められるから,その切替えである平成13年3月31日購入の500万円の抵当証券についても,少なくとも平成10年以降に同額の現実の払込みをしたものとして,本件更新登録により損害が発生するものと一応認めることができる。

o 1審原告被控訴人X35(C157)の平成13年4月13日購入の300万円の抵当証券については,<証拠省略>によれば,同1審原告がその購入申込みをし,本件再生手続において債権の存在が認められていること,さらに,同1審原告が,同月13日に,上記抵当証券の購入代金として,300万円をA社に現実に送金していることが認められ,本件更新登録による損害の発生が一応認められる。

p 1審原告被控訴人X36(C158)の平成13年4月13日購入の300万円の抵当証券については,<証拠省略>によれば,同1審原告がその購入申込みをし,本件再生手続において債権の存在が認められていること,さらに,同1審原告が,同日に,上記抵当証券の購入代金として,300万円をA社に現実に送金していることが認められ,本件更新登録による損害の発生が一応認められる。

q 1審原告被控訴人X37(C159)の平成13年4月10日購入の50万円の抵当証券については,<証拠省略>によれば,同1審原告がこれを購入し,本件再生手続において債権の存在が認められていること,さらに,同1審原告が,同月6日に,上記抵当証券の購入代金として,50万円をA社に現実に送金していることが認められ,本件更新登録による損害の発生が一応認められる。

イ 満期償還日(約定の買戻日)が平成13年3月31日又は同年4月10日とされる抵当証券について

(ア) <証拠省略>によれば,後記(イ)において個別に検討する抵当証券は,いずれも平成10年1月以降に1審原告らにより購入され,未償還のまま平成13年3月31日又は同年4月10日の満期償還日(約定の買戻日)を迎えたものの,元金の支払がないままにA社が破綻したため,本件再生手続においては,「抵当証券割付未了」としてCS管財人により額面額と同額の債権の存在が認められ,分配の対象とされていることが認められる。したがって,これらの抵当証券に関しても,その購入代金を平成10年1月以降に現実に払い込んだ事実が認められれば,本件更新登録により損害が発生するものと一応認めることができる。

(イ) そこで,購入代金の現実の払込みの事実を,以下個別に検討する。これらの抵当証券については,管財人回答書にそもそも記載がない(A社の破綻時に既に約定買戻日を過ぎていたため,あるいは同社の破綻時の混乱等の理由により,同社においてこれらの抵当証券に関するデータが整理保管されていなかったものと考えられる。当審調査嘱託の結果によれば,抵当証券保管機構においても,約定買戻日が平成13年4月14日までのA社の抵当証券については,データを保有していない。)から,乗換購入ではなく購入代金を現実に払い込んで購入されたものと認められるか否かは,別途の証拠に基づき検討する必要があるのである。

a 1審原告被控訴人X5(C21。なお,前記のとおり,当審あるいは原審において訴訟承継があった場合にも,本文及び別紙控訴審損害計算一覧表1・2<省略>の「1審原告被控訴人」あるいは「1審原告控訴人」欄には,本件訴訟提起当時の抵当証券購入者を記載し,訴訟承継後の訴訟当事者は,別紙控訴審認容金額等一覧表1・2<省略>の上記各欄においてを記載する。)の平成10年3月31日購入の500万円の抵当証券<証拠省略>について,同証拠によっても,その購入代金の払込みの事実は不明である。もっとも,1審原告被控訴人X5(C21)の定型陳述書<証拠省略>によれば,同人が初めてA社を知った時期は平成10年1月ころ,初めて同社の抵当証券を購入した時の年齢は○○歳であって,購入原資は退職金であるとされているところ,定型陳述書の上記時期についての記載の信用性が一般的に高いとはいえないことは前記のとおりであるが,同人の妻X23(1審原告被控訴人(C20))の定型陳述書<証拠省略>においても,A社を初めて知った時期は平成10年1月ころとされ,管財人回答書<証拠省略>によれば,1審原告被控訴人X23の同年10月31日購入の500万円の抵当証券は「新規」に区分されていて上記時期の記載を裏付けていることなどからすれば,上記X5の定型陳述書の時期についての記載内容も,信用性を認めることができるというべきである。したがって,上記X5の平成10年3月31日購入の500万円の抵当証券については,同年1月以降に同額の現実の払込みをしたものとして,本件更新登録により損害が発生するものと一応認めることができる。

b 1審原告被控訴人X38(C33)の平成10年4月10日購入の500万円の抵当証券<証拠省略>について,同証拠によっても,その購入代金の払込みの事実は不明である。また,同1審原告の定型陳述書<証拠省略>によれば,同1審原告が初めてA社を知った時期は平成10年11月ころとされているが,上記抵当証券の購入事実からして,その時期についての記載の信用性を認めることはできない上,管財人回答書<証拠省略>においては,同1審原告の平成10年12月10日購入の500万円の抵当証券についても「空白」に区分されているから,同年4月10日購入の500万円の抵当証券についても乗換購入であった可能性は否定できず,他に,同抵当証券がA社との初めての取引であるなど,少なくとも平成10年1月以降に同1審原告が同額の現実の払込みをしたものであると認めるに足りる証拠はなく,本件訴訟で請求の対象とされている上記同年4月10日購入の500万円の抵当証券に関しては,本件更新登録による損害の発生を証拠上認めることはできない。

c 1審原告控訴人X7(C77)の平成10年3月31日購入の800万円の抵当証券<証拠省略>について,同証拠によっても,その購入代金の払込みの事実は不明である。また,同1審原告の定型陳述書<証拠省略>によれば,同1審原告はA社の破綻時に平成9年に購入した未償還の抵当証券を複数保有しており,管財人回答書<証拠省略>においては,同1審原告の平成10年10月31日購入の1100万円の抵当証券も「空白」に区分されているから,上記平成10年3月31日購入の800万円の抵当証券についても,乗換購入であった可能性は否定できない。他に,同抵当証券について,少なくとも平成10年1月以降に同額の現実の払込みをしたものであると認めるに足りる証拠はなく,同抵当証券に関しては,本件更新登録による損害の発生を証拠上認めることはできない。

d 1審原告控訴人X8(C138)の平成11年3月31日購入の1000万円<証拠省略>及び平成11年4月10日購入の300万円<証拠省略>の各抵当証券については,同証拠によっても,その購入代金の払込みの事実は不明である。また,同1審原告の定型陳述書<証拠省略>によれば,同1審原告が初めてA社を知った時期は平成8年1月ころとされ,管財人回答書<証拠省略>においても,同1審原告の平成11年や同12年中に購入された複数の抵当証券について「空白」に区分されているから,上記平成11年3月31日購入の1000万円及び同年4月10日購入の300万円の各抵当証券についても,乗換購入であった可能性は否定できない。他に,上記1000万円及び300万円の各抵当証券について,少なくとも平成10年1月以降に同額の現実の払込みをしたものであると認めるに足りる証拠はなく,上記各抵当証券に関しては,本件更新登録による損害の発生を証拠上認めることはできない。

e 1審原告控訴人X9(C148)の平成11年3月31日購入の300万円の抵当証券<証拠省略>については,同証拠によっても,その購入代金の払込みの事実は不明である。また,同1審原告の定型陳述書<証拠省略>によれば,同1審原告が初めてA社を知った時期は平成6年8月ころとされ,管財人回答書<証拠省略>においても,同1審原告の平成11年や同12年中に購入の複数の抵当証券について「空白」に区分されているから,上記平成11年3月31日購入の300万円の抵当証券についても,乗換購入であった可能性は否定できない。他に,同抵当証券について,少なくとも平10年1月以降に同額の現実の払込みをしたものであると認めるに足りる証拠はなく,同抵当証券に関しては,本件更新登録による損害の発生を証拠上認めることはできない。

ウ (2)及び(3)の小括

以上のとおり,購入の事実について当事者間に争いがない抵当証券については(前記(2)),未償還の事実は明らかであり,かつ信用性の高い管財人回答書の「新規」又は「追加」区分に基づき,代金払込みの事実を認定することができるのに対し,購入日あるいは満期償還日がA社の破綻の直前であった上記(3)ア,イの抵当証券については,管財人回答書にそもそも記載がないため,別途個別の証拠に基づき,購入,未償還及び代金払込みの事実を認定する必要がある。

そして,上記の結果,平成10年1月以降に現実にその購入代金を払い込んで購入し,A社の破綻時に償還されていないものとして,本件更新登録による損害の発生が一応認められる抵当証券は,別紙控訴審損害計算一覧表1・2<省略>のうち,「①購入金額」欄の数字の前に「*」を付していない抵当証券のとおりであり,その額面総額は,1審原告被控訴人らについて20億2420万円,1審原告控訴人らについて26億7060万円であり,1審原告ら合計で46億9480万円である。

なお,当裁判所の判断方法によれば,例えば1審原告被控訴人X39(B273)については,原判決において認容された5件の抵当証券のほか,原判決において購入による損害の発生がおよそ認められないとされた3件の抵当証券についても,平成10年1月以降にその購入代金を払い込んで購入したものとして損害の発生が一応認められることとなるが,同1審原告からの控訴はないから,それらについては判断の限りでない。

(4)  前記②(法的回収不能額)について

ア 法的回収可能額

前記(1)のとおり,1審原告らは,損害の発生及びその額として,請求に係る抵当証券の購入,未償還及び代金払込みの事実(前記(2),(3))のほか,購入のために拠出した額とその抵当証券についての権利の実行を通じて法的に回収可能な額との差額(法的回収不能額)を主張立証する必要がある。そして,A社の抵当証券の購入者は,A社の破綻に伴い,抵当証券保管機構を通じて抵当目的物及び特約付き融資先から弁済を受ける権利並びにA社に対しモーゲージ証書の額面額及び約定利息の保証債務履行請求権を有している。そこで,これらの権利の実行を通じて,抵当証券購入者として当該抵当証券について法的に回収可能な額を,以下具体的に検討する。

イ 担保物件及び本件再生手続による回収額

(ア) 本件においては,前記前提となる事実において原判決を補正しつつ引用して示したとおり,A社の破綻によりグループ6社も破綻し,それぞれ民事再生手続あるいは破産手続に付され,その法的手続において,A社グループの資産はできる限りA社(本体)に集中させた上で同社から一元的に配当を実施することが最も衡平の理念に適うとの処理方針の下,抵当証券の購入者に対しては,抵当証券保管機構により担保物件についての抵当権の実行又は民事再生手続における担保権消滅手続に伴う配当等の支払がなされ,同機構の抵当権の実行手続又は担保権消滅請求手続によって回収できなかった残余部分の債権は,A社が抵当権設定者たるグループ会社の倒産手続に参加して弁済又は配当を受け,これをA社の弁済原資とし,抵当証券購入者は,A社の民事再生手続において配当を受けることとされた。そして,A社の本件再生手続において,一般再生債権のうち利息請求権は全額免除を受け,元本については,競売配当率(抵当証券(原券)に基づく競売あるいは上記担保権消滅の実施により抵当証券保管機構が当該抵当証券について受ける配当等の額の,当該抵当権の被担保債権の元本額に占める割合)が7%以上のものにつき弁済率を1%,競売配当率が7%未満のものにつき弁済率を原則2%等として弁済をし,残元本は免除を受けること,などを内容とする再生計画案が認可・可決され,その後同計画に従って弁済がなされた。

前記前提となる事実と<証拠省略>によれば,抵当証券保管機構は,抵当証券(原券)に係る担保物件の不動産競売又は上記担保権消滅の実施による配当等を受けて回収した額(競売配当額)のうち,被害者弁護団への委任者分については,同弁護団に対して一括して振込送金していたこと,その回収率は,前記前提となる事実において原判決を補正引用して示したとおり,補正後の原判決別表3<省略>の「回収率」欄のとおりであること,CS管財人は,同弁護団への委任者に係る全抵当証券に関して,競売配当率が7%以上の抵当証券について債権額の1%,競売配当率が7%未満の抵当証券及び「抵当証券割付未了」として認めた債権について債権額の4.856%として計算した額の合計を,同弁護団に一括して振込送金していたことがそれぞれ認められる。

以上によれば,担保物件及び本件再生手続を通じた各担保物件ごとの抵当証券額面額に対する回収率は,別紙担保物件別回収率一覧表<省略>の各該当欄のとおりとなる。

(イ) そこで,各抵当証券の表章する担保物件を個別に検討する。

1審原告らの請求に係る各抵当証券の表章する担保物件は,A社内部での割付作業が未了だった場合を除き,1審原告らに交付されたモーゲージ証書<証拠省略>に表示された抵当証券(原券)に基づき判断することができるはずであるが,1審原告らの定型陳述書に各添付の「A社被害記入票」の抵当証券の「法務局名」(あるいは「登記所名」),「原券番号」(あるいは「証券固定番号」),「共有割合」,「保管証番号」には,(以下に指摘するような誤記等を除き)同モーゲージ証書の表示が転記されているものと考えられるから,同陳述書記載の「法務局名」・「登記所名」,「原券番号」・「証券固定番号」及び「共有割合」(ただし,「共有割合」欄のない形式の記入票もある。)等を基本として,必要に応じて保管証番号を管財人回答書等のその他の証拠と照合するなどして,抵当証券ごとの担保物件を特定することとする。なお,同陳述書の当該部分の記載内容については基本的に信用性が高いといえることは,前に説示したとおりである。また,本来最も信頼性が高いものの一つと考えられる抵当証券保管機構において保有するモーゲージ証書の保管証番号ごとの担保物件に関するデータは,本件訴訟においては,その一部が<証拠省略>から判明するのみで,その全ては証拠として提出されていないが,少なくとも,上記のように1審原告らの定型陳述書の記載等に基づき特定した各抵当証券ごとの担保物件のうちに,上記<証拠省略>から判明する保管証番号ごとの担保物件との間で齟齬するものはない。

なお,例えば,A146の平成11年8月5日100万円の抵当証券は,定型陳述書<証拠省略>記載の原券番号及び共有割合から,同陳述書記載の法務局名(那須)を誤記と認める。また,A147の定型陳述書<証拠省略>記載の購入日は,管財人回答書等に照らし,誤記と認める。C138の平成13年3月25日購入の330万円と170万円の抵当証券の内訳については,定型陳述書<証拠省略>記載の原券番号と共有割合から,それぞれの担保物件を認定した。その他についても,明らかな誤記あるいはその記載中に一部不明なものがある場合は,他の証拠等に照らして認定した。

これに対し,定型陳述書自体が証拠として提出されておらず,あるいは提出されていても定型陳述書の「原券番号」欄も「法務局名」欄も空欄であるなどし,上記抵当証券保管機構の保有するデータも証拠として提出されておらず,その他の証拠に照らしても,そのモーゲージ証書の表章する担保物件が証拠上不明であったり(総額1億1400万円),又は,ABゴルフ場若しくは<省略>ゴルフ場であることまでは判明しているものの,前者につき4種類,後者につき2種類存在する抵当証券(原券)のうちいずれについての共有持分権を表章するモーゲージ証書であるかが証拠上不明である場合がある。このような場合,そもそも法的回収不能額の主張立証責任は前記(1)のとおり1審原告らにあり,法的回収が可能な場合が考えられる額については,損害の立証があるということはできず,現実にも,仮に購入者がモーゲージ証書を紛失した場合であっても,被害者弁護団や抵当証券保管機構の有するデータによれば,1審原告らにおいて保管証番号等から担保物件を特定することは容易なはずであり(<証拠省略>からしても,同弁護団がかかるデータを保有しているはずであると認められる。),さらに,1審原告らは,1審被告から担保物件ごとの金額を明らかにすべき旨の補充主張を受けながらも,当審においてもその主張立証を全く行っていないこと,などを考慮すると,証拠上担保物件が全く不明の抵当証券(別紙控訴審損害計算一覧表1・2<省略>においては,「担保物件概要」欄に「不明」と表示する。)については,最も回収率の高い「CIビル敷地」の回収率により,また,ABゴルフ場1~4及び<省略>ゴルフ場1・2のうちのそれぞれいずれかが不明な場合(同欄には「ABゴルフ場」又は「<省略>ゴルフ場」と表示する。)には,それぞれ最も回収率の高い「ABゴルフ場1」「<省略>ゴルフ場1」の回収率により,それぞれ損害額を計算すべきである。

また,前記のとおり,購入あるいは購入申込み後まもなくA社が破綻したために,既に1審原告らに対し特定の抵当証券(原券)が表示されたモーゲージ証書が交付されている場合でも,A社の会社内部での抵当証券(原券)の割付作業が未了であった抵当証券の購入者は,抵当証券保管機構を通じた回収を受けることはできず(担保実行回収率0%),本件再生手続においては,抵当証券割付未了の損害賠償請求権として購入額の4.856%の弁済を受けたものと認められる。これらについては,別紙控訴審損害計算一覧表1・2<省略>の「担保物件概要」欄には「割付未了」と表示する。

同様に,前記のとおり,満期償還日がA社の破綻の直前であり,同社から償還金の支払がないまま同社が破綻した抵当証券の購入者は,抵当証券保管機構を通じた回収を受けることはできず(担保実行回収率0%),本件再生手続においては,抵当証券割付未了の損害賠償請求権として額面額の4.856%の弁済を受けたものと認められるから,これらについても,同欄には「割付未了」と表示する。

(ウ) ところで,1審原告被控訴人らについては,原判決において,1審原告らの定型陳述書を基本とした上,その他の証拠を総合して担保物件が特定されているところ(原判決別紙損害目録1・2<省略>の担保物件概要欄のとおり),そのうち,1審原告被控訴人X3(A16)の平成12年3月31日購入の80万円の抵当証券(ABゴルフ場4へ),同X4(B225)の平成10年4月20日購入の500万円(BOゴルフ場へ)及び平成12年10月5日購入の100万円(ABゴルフ場4へ)の各抵当証券については,いずれも1審被告の主張のとおりに担保物件を改める(別紙控訴審損害計算一覧表1・2<省略>の「担保物件概要」欄のとおり)。

このほか,1審原告被控訴人X3(A16)の平成11年12月15日購入の20万円(<省略>ゴルフ場1へ),同X40(B86)の平成12年3月10日購入の300万円(AT共同住宅へ)及び同日購入の2300万円(<省略>ゴルフ場2へ)の各抵当証券についても,それぞれ定型陳述書の記載等に基づき,担保物件を改める(別紙控訴審損害計算一覧表1・2<省略>の「担保物件概要」欄のとおり。)。

さらに,原判決においては,1審原告被控訴人X5(C21)の平成10年3月31日購入の500万円の抵当証券について,担保物件を「BCゴルフ場」と特定しているが,同抵当証券は,前記のとおり,A社の破綻直前に満期償還日が到来したものの,償還金の支払がないまま同社が破綻したものであるから,前記のとおり,「割付未了」と改める。

また,原判決においては,1審原告被控訴人X34(C153)の平成13年3月31日の500万円の抵当証券については「<省略>区土地」と担保物件が特定されているが,この抵当証券は,前記のとおり,販売後まもなくA社が破綻したため,A社の会社内部での抵当証券(原券)の割付作業が未了であったため,抵当証券保管機構を通じた回収を受けることはできず(担保実行回収率0%),本件再生手続においては,抵当証券割付未了の損害賠償債権として,4.856%の弁済を受けたものと認められるから,これについても,別紙控訴審損害計算一覧表1・2<省略>の該当欄のとおり,「割付未了」と改める。

さらに,定型陳述書等の証拠によっても,担保物件がABゴルフ場の4種類若しくは<省略>ゴルフ場の2種類のいずれであるかが不明である,1審原告被控訴人X21(B73)の平成12年8月31日購入の400万円(<省略>ゴルフ場),同X41(C92)の同年3月25日購入の500万円(<省略>ゴルフ場),同X42(C99)の同年2月20日購入の600万円(ABゴルフ場)の抵当証券は,原判決においては,「ABゴルフ場3」又は,「<省略>ゴルフ場2」と扱うものとされているが,前記のとおり,これは「ABゴルフ場1」又は「<省略>ゴルフ場1」の回収率によるべきである。

(エ) 以上に基づき特定した各抵当証券の担保物件と,これに基づき計算した各抵当証券ごとの担保実行回収額及び再生手続回収額は,別紙控訴審損害計算一覧表1・2<省略>の「担保物件概要」「②担保実行回収額」「③再生手続回収額」欄記載のとおりである。なお,前記(2),(3)において購入代金の払込みの事実が認められないとされた抵当証券(前示のように,「①購入金額」欄に「*」を付してある。)については,損害額の計算を行わないので,上記②以下の各欄は空欄とした。

ウ 受取利息回収額

1審原告らが,少なくとも別紙受取利息算出表1の1・1の2<省略>の受取合計額欄記載の各利息を受領したことについては,当事者間に争いがない。また,同表2の1及び2の2の受取合計額欄記載の各利息についても,その受取利息の計算方法については当事者間に争いがなく,<証拠省略>により,1審原告らは,少なくともこれらの利息については受領したものと認められる。

したがって,1審原告らの請求に係る各抵当証券のうち代金払込みの事実が認められるものについて,その損害算定に際して払込購入代金から控除すべき受取利息としての回収額は,別紙控訴審損害計算一覧表1・2<省略>の「④受取利息回収額」欄記載のとおりである。なお,前記(2),(3)において購入代金の払込みの事実が認められないとされた抵当証券については,前記と同様に,同欄を空欄とした。

エ 1審原告らの主張について

ところで,1審原告らは,モーゲージ証書はA社によって一方的に割り当てられたものであり,担保物件が異なることによって購入者に対する配当額に大きな差異を生じることは著しい不平等を招くため,1審原告らは被害者弁護団と平等配当を実現する委任契約を結び,同弁護団を通じて一律の平等な被害回復(購入代金相当額の8.73639%の按分配当)を受けたのみであるから,本来の損害額は購入代金相当額から上記一律配当分の損益相殺を行った額を基準にすべきであり,担保物件ごとに個別の弁済額を充当すること(原判決)は正しくない旨主張する。そして,<証拠省略>によれば,1審原告らは,抵当証券保管機構や本件再生手続による弁済額等を直接受領せず,同弁護団との委任契約を通じ,本件訴訟の当事者とはなっていない同弁護団への委任者も含め,抵当証券以外のA社グループの金融商品についても区別することなく,全委任者の保有する抵当証券に対する抵当証券保管機構からの分配額や本件再生手続による弁済額のほか,同弁護団によるA社の役員・従業員や弁護士・不動産鑑定士等に対する責任追及による回収額等を含めた合計額から,保有する全ての金融商品等の購入代金相当額の8.73639%の按分配当を受けたことが認められる。

しかし,これまで説示したとおり,本件更新登録と相当因果関係のある損害額は,平成10年以降に現実に代金を払い込んで購入した抵当証券についての法的な回収不能額であり,その額は,本来的には当該抵当証券の担保物件の客観的価値や,特約付き融資の債務者及び元利金の支払を保証するA社の資力により定まるものである。具体的には,それは,各抵当証券ごとの抵当証券保管機構を通じた各担保物件からの回収額や,本件再生手続を通じた弁済額等により個別に定まるものであって,1審原告らがその購入にあたって担保物件を選択できたか否かや,抵当証券購入者間で回収可能額に大きな差異が生じてしまうといった事情によっては,左右されないものといわざるを得ない。そして,1審原告らがその保有する抵当証券について現実に回収することができたのは,上記のとおりの同弁護団との委任契約を通じた按分配当分のみであったとしても,1審原告らは,本来抵当証券購入者として法的に受領することが可能であった抵当証券保管機構や本件再生手続を通じた弁済等について,上記委任契約を締結することによって,その一部の権利を放棄してこれを他の委任契約者へ分配したとみるほかない。そうすると,これを本件更新登録による損害とみることはできない。したがって,1審原告らの上記主張は採用できない。

また,1審原告らは,受取利息の損益相殺について,1審原告らが本件訴訟において抵当証券購入日以降の遅延損害金を請求していないのに,利息相当額の損益相殺を認めることは,二重に損益相殺を受けるのと等しい結果となり,当事者間の公平な損害の分配という観点から見ても著しく不当であると主張するが,本件においては,後記のとおり,そもそも購入日から遅延損害金が発生するとの1審原告らの主張を採用することができない上,前記のとおり,受取利息相当額は損害額算定の問題であって損益相殺の問題であるとはいえないから,上記1審原告らの主張は採用できない。さらに,1審原告らは,受取利息の損益相殺を主張する1審被告の主張は時機に後れた攻撃防御である旨主張するが,審理経過や上記のとおりそもそも損益相殺の問題ではないことに照らし,採用しない。

(5)  過失相殺及びその他の控除について

ア 過失相殺の趣旨に照らした控除

(ア) 本件の具体的事情のもとでは,1審被告が賠償すべき額は,過失相殺規定の趣旨に照らし,前記(1)ないし(4)により算出した1審原告らの計算上の損害額のうち,その6割を控除した額を限度とするのが相当であるというべきである。その理由は,一部補正するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第4 争点に対する判断」の9(3)(原判決616頁2行目~619頁下から6行目)のとおりであるから,これを以下に再掲して引用する(補正等の方式については前同。)。

(原判決の引用)

『(3) 過失相殺

1審被告は,① 抵当証券は,特約付き融資先の返済能力に係るリスク,抵当権の目的である不動産等の価値下落に係るリスク,一般に抵当証券の買戻しを約定し,元利金の返済を保証している抵当証券業者の支払能力に係るリスクを有する一方,銀行預金等と比較して高めの金利が設定されているという,いわゆるハイリスク・ハイリターンの商品であること,② 本件更新登録以前において,既に抵当証券業者を含めた金融機関が複数破綻している状況であったこと,③ 抵当証券業規制法では抵当証券業者及び購入した抵当証券に係る情報開示についての定めがあり,これに基づいて顧客は抵当証券業者の財務状況等を閲覧することができ,抵当証券の購入者も担保物件の明細及び債務者の住所氏名を知ることができたこと,④ 抵当証券取引証・保管証の裏面には抵当証券業協会の苦情相談窓口の電話番号が明記してあり,抵当証券の購入者は,抵当証券についての疑義につき同協会から回答を得ることができたこと,などによれば,相応の過失相殺がされるべきである旨主張する。

確かに,<証拠省略>によれば,全抵当証券業の四半期末平均約定利率は,平成10年度が年1.27ないし1.31パーセント程度,平成11年度が年0.85ないし1.11パーセント程度,平成12年度が年0.79ないし0.87パーセント程度であったのに対し,A社の抵当証券に係る販売利率は,平成10年度が年4.44ないし4.73パーセント程度,平成11年度が年4.46ないし4.88パーセント程度,平成12年度が年4.24ないし4.37パーセント程度と,いずれの時期も業界平均を大幅に上回っていたのみならず,定期預金その他の一般的な金融商品の金利をもはるかに上回るものであったところ,一般的にいえば,このような高利率の抵当証券を販売する抵当証券業者が顧客に約定どおりの金利を支払ってなお利益を生み出すためには,それを上回る運用益ないし事業収益を上げなければならないが,当時そのような運用益等を容易に上げ得る経済情勢になかったことは定期預金等の一般的な金融商品の利率の低さ等からも容易に認識し得たところであり,当該抵当証券業者の資金繰りがひっ迫しているか又は当該抵当証券業者が詐欺的商法等の正常でない取引方法を行っている疑いを抱いたとしても不合理ではないというべきであって,このような抵当証券を購入しようとする者は,少なくとも当該抵当証券が高利率に見合うだけの高いリスクを内包する可能性を認識すべきであったということができる(なお,代表的な抵当証券会社の利率については,日本経済新聞等にも毎週掲載されていた。)。また,既に説示したとおり,平成7年8月にはBL抵当証券等が破綻していたのであって,抵当証券会社から抵当証券を購入しようとする者は,当該抵当証券会社が破綻し,当該会社によって元本保証がうたわれている抵当証券の相当部分が回収不能になるリスクが存在することについては具体的に知り,又は知り得たというべきである。もっとも,このような1審原告らの事情は,1審原告らの損害に係る緒靴の加害者であるA社に対する損害賠償請求訴訟においては,これを被害者の過失としてしんしゃくすることが必ずしも損害の公平な分担の観点から適当とはいい難いところもあるが,当該直接の加害者であるA社に対する抵当証券業規制法に基づく規制権限の不行使の違法を理由とする1審被告に対する本件損害賠償請求訴訟においては損害の公平な分担の見地からこれをしんしゃくせざるを得ないというべきである。すなわち,既に説示したとおり,そもそも,抵当証券の内包するリスクが当該抵当証券を販売する抵当証券業者の詐欺的商法に起因するものである場合など同法が織り込んでいるリスクを超えたリスクに顧客がさらされ,当該リスクが顕在化した結果,当該抵当証券の購入者が損害を被ったような場合であっても,このような損害は,現行法秩序の下においては,本来的に債務不履行,不法行為などといった民事的方法により填補されるべきことが予定されているものというべきである。そして,抵当証券業規制法は,抵当証券業者の営業の自由を可能な限り尊重し,制度の効率性を維持しつつ,その業務の適正な運営を確保し,もって抵当証券の購入者の保護を図るという立法目的を達成するために必要最小限の規制を行う趣旨から,開業規制として登録制を採用したものであって,更新登録に係る規制権限の行使によって保護される抵当証券の購入者の利益については,これを…一般的公益の中に吸収解消させて保護する趣旨のものであると解されるのである。したがって,抵当証券業者との個々の具体的な取引におけるリスクは,本来的には抵当証券購入者自身が負うべきものである。このような同法の規制の仕組みの下における監督規制権限の不行使の違法を理由とする本件損害賠償請求訴訟においては,直接の加害者であるA社に対する損害賠償請求訴訟の場合とは異なり,損害賠償制度の根幹を成す損害の公平な分担の見地からして,上記のような被害者側の事情を相当程度しんしゃくせざるを得ないというべきである。

これに対し,情報開示に係る抵当証券業規制法の定めは,既に…説示したとおり,抵当証券を現実に購入するまではその担保物件や債務者について知ることができないなど,抵当証券購入者の保護のための規定としては必ずしも十全とまではいえないことに加えて,本件では顧客の保護のための情報開示規定の中で最も重要と目されるA社の貸借対照表等に虚偽記載がされていたこと(本件損益計算書のみならず,平成10年度以降の損益計算書が示す抵当証券受取利息額も大幅に過小であったことは<証拠省略>に照らして明らかである。),さらに,当時,抵当証券のリスクが一般の抵当証券購入者に必ずしも十分に認識されていたとはいえず,むしろ,抵当証券業規制法が悪質業者の出現に対応して立法され,国による登録・監督制度が設けられたため,国民がこれを信頼し,期待したとしてもある程度無理もないといえることなどにかんがみると,1審原告らの自己責任によるリスク負担のみを一方的に求めるのも,また相当ではない。

ちなみに,<証拠省略>によれば,1審原告控訴人X43(A12)がA社に対して抵当証券業規制法に基づいて財務諸表の閲覧を請求したものの,同社はその開示を拒絶していたこと,1審原告控訴人X44(B319)が同社に対して抵当証券(原券)の閲覧を請求した際にも,同社の担当者は,素人が見ても分からないなどといってその開示を拒絶していたことが認められるから,現実にも,抵当証券業規制法における情報開示の規定は,A社に関しては必ずしも適切に機能していなかったことがうかがわれるところである。

また,<証拠省略>によれば,抵当証券業協会は,顧客からA社に関する問い合わせがあった場合でも,抵当証券についての一般的な説明や資料の送付を行ったり,同社が抵当証券業協会に加入している事実を告げることはあっても,同社の信用状態等についての回答はしておらず,平成9年10月31日と同年11月1日の<省略>新聞に業務改善命令を受けた抵当証券会社として載っている会社はどこか,といった個別具体的な質問については,当方では分からない旨の回答をしていたことが認められる(なお,<証拠省略>によれば,近畿財務局も,1審原告控訴人X45(A6)がA社の経営状況について電話で問い合わせたのに対し,プライバシーに関わる問題だから答えられない旨回答していたことが認められる。)。そうすると,1審原告らが抵当証券業協会に問い合わせをしたとしても,抵当証券に関する一般的な説明はともかく,A社の経営状態等について有益な情報が得られた現実的な可能性はなかったとみるべきであるから,この点を過大視することもできないというべきである。

以上のような諸事情を考慮すると,本件事実関係の下では,1審被告が賠償すべき額は,1審原告らの損害額のうち,過失相殺の規定(民法722条2項)の趣旨に照らし,その6割を控除した額を限度とするのが相当というべきである。』

(イ) 1審原告らは,当審で明らかになった近畿財務局長の悪意,本件更新登録の悪質性にかんがみれば,過失相殺規定の準用はなされるべきではない旨補充主張するが,本件更新登録の事情如何にかかわらず,高金利の金融商品としてのA社の抵当証券そのものに固有のリスクが伴うこと自体は否定しがたいところであり,国家賠償においてそのすべてをてん補することが衡平であるとは到底いえないのであって,上記1審原告らの主張は採用できない。

イ 損益相殺

また,前記(1)で説示のとおり,1審原告らが,本件更新登録当時保有していた金融商品等について,本件更新登録がなされたために全額の償還を受けて利益を受けていた場合には,その利益の額(すなわち,当該金融商品等についての,本件更新登録が拒否されたと仮定した場合の回収不能見込額)は,損益相殺として,これを上記過失相殺後の損害賠償額から控除するのが衡平にかなう。

この点に関し,1審被告は,1審原告控訴人X1(A1)の事例について,従前保有していた抵当証券の満期償還金は,これを受領してから2,3か月か長くても6か月程度後の時点で,当該償還金あるいはそれに新規資金を足して再度抵当証券を購入していたという同1審原告の原審における供述内容や,A社は1年満期の抵当証券も販売していたことなどを考慮すると,同1審原告は,本件更新登録時に2000万円程度の抵当証券を保有していた可能性が高く,上記供述内容を前提とすると,①平成10年5月29日に1000万円を振り込んで購入した抵当証券は,平成9年12月ころ以降に満期を迎えて償還を受けた金員を購入原資としたものであり,②平成11年11月24日に300万円を振り込んで購入した抵当証券は,同年5月ころ以降に満期を迎えて償還を受けた金員を購入原資としたものであり,③平成12年4月18日に700万円を振り込んで購入した抵当証券は,平成11年10月ころ以降に満期を迎えて償還を受けた金員を購入原資としたものということになり,1審原告ら提出の<証拠省略>もこれを否定する根拠にはならないと補充主張する。

しかし,同1審原告が本件更新登録時に2000万円程度の抵当証券を保有していたと認められるとしても,その抵当証券についての本件更新登録がなかったと仮定した場合の回収不能見込額(すなわち,本件更新登録による利益)は不明というほかないから,これを損益相殺として控除することはできず,1審被告の上記補充主張は,結論に影響を及ぼすものではない。この点を措いたとしても,<証拠省略>によれば,同1審原告がA社の破綻時に保有していた上記抵当証券3件の利息は全て,書証として提出されている同一の銀行口座に入金されており,平成9年4月28日に償還を受けた1000万円の抵当証券の元利金も上記口座に入金されているから,同1審原告は,他に金融機関口座を保有していることを前提としても,A社との取引については,上記同一の口座において行っていたものと考えるのが自然であり,上記口座の入出金明細によれば,同日にA社から1000万円の抵当証券の元利金の振込送金がなされた後は,平成10年5月31日に購入した1000万円の抵当証券の利息が同年11月30日に振込送金されるまでの間,A社からの送金はないことが認められるから,平成9年4月28日から平成10年5月31日までの間は,同1審原告はA社の抵当証券を保有していなかったと考える方が自然であって,むしろ,同1審原告の原審における上記供述の方が,抵当証券購入の時期や期間については正確性を欠くものであったと考えられる。したがって,同1審原告が本件更新登録当時に抵当証券を保有していたと認めるには足りない。

その他,本件全証拠によっても,本件更新登録後に現実の払込みをして抵当証券を新たに購入した1審原告らが,本件更新登録当時保有していた金融商品等について本件更新登録により全額償還を受け得たことによる利益を受けたこと及びその額(すなわち,1審原告らの利益額)は,不明であるというほかない。ちなみに,前記のとおりのA社における乗換購入の実態からうかがわれるとおり,従前からの購入者の多くは,そのような利益を現実に手にすることはなく,形の上では本件更新登録後に償還を受けながらも,ほとんどの場合は,乗換えによってこれを再び吸い上げられていたと考えられるのである。そうだとすれば,上記結論は,実情にも沿うものということができよう。

(6)  弁護士費用相当損害額

本件の具体的事情のもとでは,前記(1)ないし(5)によって算出された損害賠償額の5%に相当する額について,本件更新登録と相当因果関係のある損害として,1審被告においてこれを賠償する責任があると認められる。その理由は,原判決「事実及び理由」中の「第4 争点に対する判断」の9(5)のうち原判決622頁下から10行目~623頁下から7行目のとおりであるから,これを引用する。ただし,別紙原判決補正表<省略>のとおり補正する。

上記により認容される弁護士費用の額は,別紙控訴審損害計算一覧表1・2<省略>の「⑤弁護士費用額」欄のとおりであり,その総額は,1審原告被控訴人らについて3522万2391円,1審原告控訴人らについて4383万2540円であり,1審原告ら合計で7905万4931円である。

(7)  遅延損害金

本件更新登録による損害は,A社の破綻により現実に発生し,遅滞に陥るというべきである。したがって,1審被告は,1審原告らの拡張後の請求のとおり,A社が事実上破綻した日である会社整理手続開始命令の日の翌日からの民法所定の年5分の割合による損害金を賠償する必要がある。

1審原告らは,購入資金を支出したこと自体が本件における損害であることや公平の理念などから,本来,支出時が遅延損害金の起算点となる旨当審において補充主張するが,そもそも本件における損害は,平成10年1月以降にその代金を払い込んで購入した抵当証券について,その全額の償還を受けられなくなったことにあり,実際にも,平成10年1月以降に購入代金を払い込んで抵当証券を購入したとしても,A社の破綻前に満期又は中途解約により償還を受けていれば,損害の発生はなかったのであるから,上記1審原告らの補充主張は採用できない。もっとも,1審原告らは,上記のとおり,本件訴訟においては,A社の上記破綻の日の翌日である平成13年4月17日からの遅延損害金を請求しているから,その起算点については1審原告らの請求どおり認めることができる。

(8)  まとめ

以上によれば,1審原告らの請求に係る抵当証券(いずれも平成10年1月以降に購入されている。)のうち,乗換購入ではなく購入代金を現実に払い込んで購入したものと認められる抵当証券について,その購入のために出捐した額(額面額)から,担保物件及び本件再生手続による法的回収額並びに1審被告主張のとおりの受取利息額をそれぞれ控除した額(当該抵当証券についての客観的な実損害額)につき,過失相殺規定の趣旨に照らして6割を控除した額を,損害賠償の額と定めた上,同損害賠償額の5%相当の弁護士費用相当損害額を加えた額並びにこれに対する平成13年4月17日から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金について,1審被告は,国賠法1条1項に基づき,これを賠償する義務があるというべきである。

上記に基づいて算出した当審において認容し得る損害額(元本)は,別紙控訴審損害計算一覧表1・2<省略>の「⑥控訴審認定損害額」及び「各人集計額」欄のとおりである。また,1審原告らのうち受継の申立てのあった者(A120,C21,C119)についての相続及び訴訟承継の事実は,当時者間に争いがない。

そこで,1審原告控訴人らについては,1審原告控訴人らの控訴審における各請求額の限度で,1審原告被控訴人らについては,1審原告被控訴人らの附帯控訴は附帯請求部分に限られ,損害元本額についての(附帯)控訴はないから,各原審認容額の限度で,それぞれ請求を認容することとする。最終的な認容額は,別紙控訴審認容金額等一覧表1・2<省略>の「認容金額」欄のとおりである。なお,前記のとおり,当審及び原審において訴訟承継又は氏名の変更があった場合にも,別紙控訴審損害計算一覧表1・2<省略>の「1審原告控訴人」「1審原告被控訴人」欄においては,参照の便宜上,抵当証券購入者名を記載することとし(氏名変更のあった者は括弧書きで両氏名を併記することもある。),別紙控訴審認容金額等一覧表1・2<省略>の上記各欄には,受継後の訴訟当事者名を記載している。

以上によると,当審における認容額(元本)の総額は,1審原告被控訴人らについて6億4497万0948円,1審原告控訴人らについて9億1382万9747円であって,1審原告ら合計で15億5880万0695円となる。ちなみに,判決言渡日までの遅延損害金を付すると,1審原告ら合計で約21億3940万円となり,被害者弁護団への全委任者の被害総額(598億7730万円・<証拠省略>)に対する割合は,約3.573%となる。

第4結論

よって,これと異なる原判決を一部変更することとし,主文のとおり判決する。

なお,仮執行宣言の申立ては,その必要がないものと認めてこれを付さない。

(裁判官 小田耕治 富川照雄 剱持淳子)

(別紙)

別紙の目録

1 当事者目録<省略>

2 控訴審認容金額等一覧表1<省略>

3 控訴審認容金額等一覧表2<省略>

4 目次(事実及び理由)<省略>

5 原審認容金額等一覧表1<省略>

6 原審認容金額等一覧表2<省略>

7 控訴審請求一覧表<省略>

8 略称一覧表<省略>

9 原判決補正表<省略>

10 金融商品等の販売時期及び販売利率表<省略>

11 原判決別表6-2<省略>

12 当審における主な争点とこれに関する当事者の主張<省略>

13 受取利息算出表1の1・1の2・2の1・2の2<省略>

14 原判決の判断枠組みによっても認容されるべき1審原告一覧表<省略>

15 担保物件別回収率一覧表<省略>

16 控訴審損害計算一覧表1<省略>

17 控訴審損害計算一覧表2<省略>

更正決定

控訴人<1審原告> X1外367名

被控訴人(附帯控訴人)<1審原告> X2外262名

控訴人(附帯被控訴人)・被控訴人<1審被告> 国

上記当事者間の頭書事件について,平成20年9月26日当裁判所言渡しの判決(以下「本件判決」という。)に,明白な誤りがあったので,職権により次のとおり更正決定をする。

主文

1 本件判決445頁上から10,11行目に「1審原告被控訴人らについて6億4497万0948円」とあるのを「1審原告被控訴人らについて6億4497万0947円」と,同頁上から13行目に「1審原告ら合計で15億5880万0695円」とあるのを「1審原告ら合計で15億5880万0694円」とそれぞれ更正する。

2 本件判決530頁別紙控訴審認容金額等一覧表1<省略>中「小計(名古屋)」の認容金額欄に「261,090,875」とあるのを「261,090,874」と,同頁同一覧表1<省略>中「合計(原審一次提訴分)」の認容金額欄に「609,692,580」とあるのを「609,692,579」とそれぞれ更正する。

3 本件判決531頁別紙控訴審認容金額等一覧表1<省略>中「総合計(1審原告被控訴人ら分)」の認容金額欄に「644,970,948」とあるのを「644,970,947」と更正する。

平成20年10月15日

(裁判官 小田耕治 富川照雄 剱持淳子)

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