大阪高等裁判所 平成19年(ネ)2217号 判決 2008年11月20日
別紙一当事者目録記載のとおり。
主文
一 原判決を次のとおり変更する。
二 被控訴人野村證券株式会社は、
(1) 控訴人X4に対し、四八九万七三七八円及びこれに対する平成一三年二月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員
(2) 控訴人X2に対し、三〇万一〇三七円及びこれに対する平成一二年一〇月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員
(3) 控訴人X5に対し、一八六万三九八二円及びこれに対する平成一二年一〇月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員
をそれぞれ支払え。
三 上記控訴人三名のその余の請求をいずれも棄却する。
四 その余の控訴人らの本件各控訴をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は、第一、二審を通じて、控訴人X4と被控訴人野村證券株式会社との間においては、これを二分し、その一を同被控訴人の負担とし、その余を同控訴人の負担とし、控訴人X2と同被控訴人との間においては、これを五分し、その二を同被控訴人の負担とし、その余を同控訴人の負担とし、控訴人X5と同被控訴人との間において、これを二分し、その一を同被控訴人の負担とし、その余を同控訴人の負担とし、その余の控訴人らと被控訴人らとの間においては、全部その余の控訴人らの負担とする。
六 この判決の第二項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人らは、別紙二「請求の趣旨一覧表」記載のとおり、各控訴人に対し、同別紙の「請求金額」欄記載の各金員及びこれに対する同別紙の「遅延損害金起算日」欄記載の各日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要及び当事者の主張
一 本件は、証券会社である被控訴人らを通じて株式会社マイカル(以下「マイカル」という。)の社債を購入したものの、後にマイカルが会社更生手続開始の申立てをしたことからマイカルの更生計画に基づいて一部のみの弁済を受けるにとどまった控訴人らが、被控訴人らに対し、当該社債の購入に当たり、控訴人らを担当した被控訴人らの従業員に説明義務違反があり、かつ、その説明義務違反行為は被控訴人らの組織的行為として行われたものであるとして、被控訴人野村證券株式会社(以下「被控訴人野村證券」という。)及び同新光証券株式会社(以下「被控訴人新光証券」という。)に対しては、主位的に被控訴人ら自身の不法行為責任(民法七〇九条)、予備的に使用者責任(民法七一五条)に基づき、同いちよし証券株式会社(以下「被控訴人いちよし証券」という。)及び同日興コーディアル証券株式会社(以下「被控訴人日興コーディアル証券」という。)に対しては、使用者責任(民法七一五条)に基づき、購入額と弁済額との差額などの損害及びこれに対する社債の購入日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原審裁判所は、被控訴人らの従業員に説明義務違反はないとして、控訴人らの請求を全部棄却したため、これを不服とする控訴人らが控訴したものである(なお、乙事件原告A12及び同事件原告A13から控訴はなく、確定した。)。
控訴人らは、当審において、説明義務違反の内容を本件各社債勧誘時(購入時)の説明義務違反に絞り、購入後の情報提供義務及び助言義務違反については説明義務違反としては主張せず、その違法性の程度や過失相殺に関する事情として主張するにとどめる旨訂正した。そして、被控訴人野村證券及び同新光証券の組織的不法行為(民法七〇九条)の主張を撤回し、被控訴人らすべてについて使用者責任(民法七一五条)に基づく損害賠償請求に絞るとともに、新たに被控訴人ら自身の債務不履行(説明義務違反)に基づく損害賠償責任を選択的主張として追加した。
二 前提事実、争点及び争点に対する当事者の主張は、以下のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」欄第二「事案の概要」の一ないし三(原判決二頁八行目から三三頁一五行目まで)に摘示のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決六頁二四行目の「本件各社債発行についての幹事証券会社であって」を「被控訴人野村證券及び同新光証券にあっては本件各社債発行についての幹事引受証券会社であって」と改める。
(2) 同一一頁五行目の「債権」を「債券」と改め、二九頁二三行目から三一頁一二行目まで、同頁一八行目から二一行目まで及び同頁二四行目から三二頁三行目までをいずれも削除する。
三 当審における控訴人らの主張
(1) 不法行為構成に関する補充主張
ア 被控訴人らの従業員は、控訴人らが説明が必要であったと主張する事項(投機級の格付の存在やマイカルの財務状況等)についての認識がなく、ただ投資適格の安全な社債と思いこんで勧誘や説明を行っていたものであるが、このような点は説明義務違反という不法行為の成立を阻害するものではなく、むしろこの成立を裏付ける事実である。
被控訴人らの従業員は控訴人らに、マイカル債のリスクの程度を理解させ、あるいは、最低限相対的なリスクの高さについて注意喚起となり得るだけの説明ないし情報提供を行うべき義務を負っていたというべきである。このような説明義務との関係において、従業員が現に認識できていた事実のみを前提とするのではなく、従業員が知り又は知り得べきであった事柄全般について、説明の有無を問題とする必要がある。専門家である証券会社及びその従業員が、素人顧客に対して、特定の商品ないし銘柄を推奨して勧誘を行う場合には、当該推奨についての合理的な根拠が必要であり、ここでいう合理的根拠とは、証券会社が通常有しているレベルの情報を基礎に専門的な判断能力を駆使したものである必要がある。
これは、アメリカでは看板理論と呼ばれ、我が国では合理的根拠の法理とも呼ばれ、証券会社の誠実公正義務(証券取引法三三条)に由来する。すなわち、証券会社が専門家としての看板を掲げて、これに対する素人顧客の信頼を得て勧誘活動を行っている以上、専門家に通常求められるレベルの情報や判断に基づいた勧誘であることが必要であり、かようなレベルの情報すら知らないまま勧誘を行うことなどあってはならず、「知らなかったから説明できなかった」などという弁明は許されるものではない。
イ これを本件についてみれば、控訴人らが説明が必要であったと主張する事項(投機級の格付の存在やマイカルの財務状況等)は、市販の投資情報誌等にも掲載されており、各証券会社が現に保有していたレベルの情報であり、従業員が社内の端末で極めて容易に確認できるレベルの情報であった。また、社債の格付につき、複数の格付機関により異なった格付がなされる場合があることは、証券会社の従業員にとって常識というべき事柄であり、発行会社の財務状況が信用リスクの投資判断において重要な意味を持つことも明らかである。したがって、少なくとも安全志向が強い素人顧客に勧誘を行う場合には、これらについても確認をした上で推奨を行うかどうかを判断すべきことは当然である。
ウ そうすると、被控訴人らの従業員が投機級の格付の存在やマイカルの財務状況等を認識しておらず、本件マイカル債をただ投資適格の安全な社債と思い込んで勧誘を行っていたケースにおいても、かかる従業員は当然に確認すべき情報、容易に確認できる情報を確認せずに勧誘を行い、その結果、説明すべき事項を説明しなかったのであるから、この点において過失があり、当該勧誘に説明義務違反があることは明らかである。
この点に関して、十分な説明が行われなかった点に過失があるとするか、勧誘や説明の前提として求められるリスクの情報の確認を怠った点に過失があるとするかは、結論に影響を与えるような問題ではなく、かような勧誘行為が全体として過失ある違法行為であることこそが重要なのであり、これを情報提供義務違反、リスク情報の確認(調査)義務違反、あるいは誠実公正義務違反と呼称しても、違法性の実態は変わるところはない。
(2) 被控訴人ら自身の債務不履行(説明義務違反)に基づく損害賠償責任
ア 被控訴人らの債務
専門家たる証券会社である被控訴人らは、顧客である控訴人らに対し、契約準備段階における信義則上の義務あるいは証券取引契約の付随義務として、安全志向の強い素人顧客に対して特定の商品(銘柄)を推奨して勧誘するにあたっては、顧客毎の属性、投資経験及び投資意向との関係において、当該商品に関して現実に入手している情報に照らして、勧誘の是非を検討し、安易に有利性や安全性を印象づける偏った説明をすることを避けるとともに、顧客が自らの経験や意向に合致するか否かを含めた投資判断をするに際して重要となるリスク情報の提供や説明をするなどして、顧客が当該商品の安全性の程度やリスクの程度を的確に認識できず(あるいはこれらを誤解したまま)、自己責任による投資判断によらずして当該商品を購入して不測の損害を被ることのないように配虜すべき義務がある。
そして、上記配慮義務が現実に尽くされるために、被控訴人らは、従業員に対し、顧客を勧誘する際にこれらを遵守できるよう適切な情報を与え、適切な指導監督を行うなどの十分な内部統制をしなければならず、このこと自体も顧客に対する配慮義務の一内容となっているというべきである。
イ 本件における債務不履行
ところが、被控訴人らは、本件マイカル債には相対的なリスクの高さを示す情報(投機級の格付の存在やマイカルの財務状況等)が存在しており、被控訴人らにおいて現にこれらの情報を保有していたにもかかわらず、これらの情報のうち投資適格の格付だけを勧誘の前提とし、他の有意なリスク情報を一切無視する営業方針で、従業員に本件マイカル債の勧誘を行わせていた。仮にそうでないとしても、少なくとも被控訴人らは、従業員に対し、顧客の属性、経験及び意向との関係において、依頼格付以外の各指定格付機関の格付やマイカルの財務状況の概要等をも確認した上で勧誘の是非を検討し、十分なリスク情報を説明すべきことについての指導を行わないまま、投資適格の格付だけが記載された書面を勧誘用の資料として与えるなどして、勧誘をさせていた。
そのため、被控訴人らの従業員は、社内において本件マイカル債の相対的なリスクの高さを示す情報を容易に入手できたのにこれらを入手しようともせず、これらを認識しないまま、顧客の属性、経験及び意向が如何なるものであったかにかかわらず、ただ会社から付与された資料の投資適格の格付だけを信頼し、投資適格の安全な社債との前提で、勧誘することとなった。
ウ その結果、被控訴人らの従業員は控訴人らに対し、投資適格の安全な社債との前提で、重要なリスク情報を告げたり、その情報の存在についての注意喚起を行うことなく、安全性や有利性を印象づける内容の勧誘を行い、これによって控訴人らは、本件マイカル債をただ安全な社債と認識して購入することとなって、多額の損失を被ったものである。
したがって、控訴人らは、被控訴人らの使用者責任に加えて、選択的に債務不履行責任を主張する。
(3) 被控訴人らの損益相殺、過失相殺に対する認否及び反論
ア 被控訴人野村證券の損益相殺に関する主張のうち、同被控訴人主張にかかる各控訴人らの利金の受取額については認め、税引前利金額は不知。控訴人らの損害額の算定に当たり、税引前利金額を控除すべきであるとの主張は争う。取引上の実損という観点からして、控除されるべきはあくまで税引後受取額である。
イ 被控訴人新光証券の損益相殺に関する主張のうち、同被控訴人主張にかかる各控訴人らの利金の受取額については認める。
ウ 被控訴人日興コーディアル証券の損益相殺に関する主張のうち、同被控訴人主張にかかる控訴人X6の利金の受取額については認める。
エ 被控訴人らの過失相殺に関する主張はいずれも争う。
四 当審における被控訴人野村證券の主張
(1) 控訴人らは、当審において上記のとおり主張するが、本件における問題の本質は、証券会社たる被控訴人らにおいて、自ら積極的に投資家に提供しなければならない法的責任を問われることとなる情報がいかなる範囲のものかという点にあり、これは法律構成によって異なるものではない。すなわち、控訴人らのいう、従業員において確認すべきであった情報、被控訴人らにおいて、従業員に対し、控訴人らへの提供を指導すべきであった情報とは、結局いずれも、証券会社が投資家に対し自ら積極的に提供しなければ法的責任を問われる情報と一致するものであり、同情報が、従業員から控訴人らに提供されている限り、その伝達過程での義務違反による損害賠償の問題はおよそ生じ得ない。
そして、被控訴人野村證券の従業員が、控訴人らの自主的、適切な投資判断に必要かつ十分な情報提供をしている(ここに、控訴人らの主張する「投機級の格付の存在やマイカルの財務状況等」の情報は含まれない。)ことは明らかである。
(2) 損益相殺
控訴人らは、本件マイカル債の購入後、下記のとおり、利金を受け取っているから、控訴人ら主張の損害額からこれを控除すべきである。
記
控訴人X1 一二万円(税引後受取額九万六〇〇〇円)
同X7 三万二五〇〇円(税引後受取額同額)
同X4 一三万七五〇〇円(税引後受取額一一万〇〇一〇円)
同X8 一五万円(税引後受取額一二万円)
同X9 三万円(税引後受取額二万四〇〇〇円)
同X2 一万六二五〇円(税引後受取額一万三〇〇一円)
同X10 三二万五〇〇〇円(税引後受取額二六万〇〇二〇円)
同X5 八万一二五〇円(税引後受取額六万五〇〇五円)
同X3 四万八七五〇円(税引後受取額三万九〇〇三円)
五 当審における被控訴人新光証券の主張
(1) 被控訴人新光証券は、顧客が普通社債という商品の証券取引の損益について責任を負担するのに必要な限度で、説明又は情報の提供をする義務の存することは認めるが、本件マイカル債の信用リスクはマイカルが倒産した場合に、元利金の全部又は一部が償還されない可能性のあることであり、価格変動リスクは、償還期限までに途中売却した場合に、売却価格が元本を下回る可能性のあることであるから、これらの事項を説明すれば足りるところ、同被控訴人はかかる義務を尽くしているから何ら義務違反はない。のみならず、同被控訴人は顧客に対して、本件マイカル債の依頼格付を含めた格付機関による複数の格付を記載したリーフレットや目論見書を交付して、顧客が投資判断を行うのに必要な情報を提供している。
そして、被控訴人新光証券が控訴人らに対して負担する説明義務の内容は、当審における控訴人らの主張のような内容ではないし、そもそも同被控訴人に説明義務違反は存しない。また、同被控訴人に控訴人らの主張するような説明義務違反を前提とする配慮義務の債務不履行も存しない。
(2) 損益相殺
控訴人らは、本件マイカル債の購入後、平成一三年四月一二日、下記のとおり、利払いを受けているから、控訴人ら主張の損害額からこれを控除すべきである。
記
控訴人X11 一万三〇〇一円
同X12 二万六〇〇二円
同X6 一万六二五〇円
六 当審における被控訴人いちよし証券の主張
控訴人X13が購入したのは、現に市場で流通している既発行の第九回転換社債であり、発行市場における普通社債の問題とは市場も商品も全く異なっており、控訴人らが主張するような説明義務が妥当する余地はない。
加えて、転換社債は、予め株式に転換できる価格(転換価格)が設定されており、転換請求期間内であればその発行企業の株式に転換できる金融商品であるが、転換価格よりも株価が上昇すれば転換社債の価格も上昇し、逆に株価が下落すれば転換価格の価格も下落し、ある程度株価と連動する性質を有している。抽象的なリスクという意味において価格変動リスク・信用リスクがあるという点で普通社債と変わらないが、最も重要な相違点は、転換社債が金融商品取引所に上場しており、これらのリスクをも反映した市場価格が存在し、かつ、その価格は毎日新聞紙上にも掲載されていることにある。
したがって、一般に、転換社債の具体的な信用リスクに関して説明を要する度合いは、普通社債のそれに比してより低いというべきであり、被控訴人いちよし証券が、投資経験豊富な控訴人X13の代理人A5に対して説明すべき内容としては、第九回転換社債の商品内容としての時価、利率及び償還日をもって足りるというほかない。
七 当審における被控訴人日興コーディアル証券の主張
(1) 被控訴人日興コーディアル証券の関係で問題となるのは、新規発行の社債ではなく既発行の第九回転換社債であるところ、このように上場している既発行の転換社債にあっては、証券取引所での転売が容易であり、その時価は日々、一般紙上にも公表される。また、経営状況や財務状態といった信用リスク情報を含む市場の評価は、上記時価にも如実に反映される。要するに、既発行の転換社債のリスクは、格付に加えて上記時価にも反映されており、顧客の立場からすれば、新規発行の普通社債にはない、時価という極めて理解・実感しやすい判断材料が存在するのである。よって、既発行の転換社債の説明義務の内容については、当然、上記のような商品内容の特性をも考慮して捉えられなければならない。しかるに、控訴人らは、既発行の転換社債にも、終始、新規発行の普通社債を前提とした説明義務論を展開しているのであり、その主張には合理的根拠がない。
(2) 損益相殺
控訴人X6は、本件マイカル債の購入後、平成一三年二月二八日及び同年八月三一日、各一万九二〇〇円、合計三万八四〇〇円の利金を受け取っているから、同控訴人主張の損害額からこれを控除すべきである。
八 被控訴人ら共通の主張(過失相殺)
仮に、被控訴人らに説明義務違反による不法行為責任があるとしても、控訴人らの職業・経歴、年齢、財産状況、投資経験や取引期間等の属性、本件マイカル債購入に夏る経緯等を考慮すれば、大幅な過失相殺がされるべきである。
第三当裁判所の判断
一 判断の前提となる事実については、原判決「事実及び理由」欄第三「当裁判所の判断」の二「原告らに共通する認定事実」(原判決三三頁二〇行目から四六頁一六行目まで)に認定するとおりであるから、これを引用する。但し、原判決四一頁一行目の「格付が異なることがあること」を「格付が異なることがあるため、個別の銘柄毎に確認すること」と改める。
二 本件各社債の販売における説明義務の内容について
(1) 説明義務の内容の一般論
証券取引は、基本的に投資家自らの判断と責任に基づいて行うことが要請されるが、証券会社は、証券取引における専門家として、証券発行会社の業績や財務状況に関する多くの情報、証券取引に関する豊富な経験及び当該証券取引に係る商品に関する高度で専門的な知識を有する者であり、それ故に、一般投資家は証券会社を信頼し、その提供する情報、勧奨等に基づき証券市場に参入し、証券取引を行うのであるから、証券会社及びその従業員は、一般投資家に対し、証券取引を勧誘するに当たっては、当該顧客が自主的な判断に基づいて当該取引を行うか否かを判断する前提として、顧客の年齢、知識、投資経験、投資傾向及び理解力等その属性に応じて、当該証券取引の内容、仕組み及び取引に伴うリスクの内容とその仕組みについて説明すべき信義則上の義務を負っているというべきである。
(2) 社債の内容の一般論
社債は、その発行する企業(発行体)が一定額を借り入れて同じ額の返済を約束するものであり、一般的に、これに一定率の利息が付されるものである。また、転換社債は、社債に、当該発行体の株式に転換する権利の付されたものである。
社債に内在する主なリスクは、①発行体の経営成績、財務状態が悪化することで、元利の支払がされないか、遅延すること(信用リスク、デフォルトリスク)、②信用リスクが低下した場合、社債の時価が下がり、途中売却をする際に、売却価格が低下するし、流通市場が存在しないため証券会社に買い取ってもらうことになるが、場合によってはその買取りをしてもらえない可能性があること(流動性リスク)である。
また、転換社債については、①信用リスクの点は、普通の社債と同様であるが、②流動性リスクについては、流通市場が存在するものもあるため、その場合には売却価格の低下のリスクのみがあることになる。
(3) 発行体の抽象的信用リスクについて
社債は、上記のとおり発行体である企業が金員を借り入れて、その元金及び利息の返済をするものであるところ、そのような社債の仕組みや、発行体が倒産すれば元金及び利息の返済を受けられなくなる可能性があることは、抽象的には一般投資家にとって了解可能なものといえる。したがって、証券会社は、一般投費家の年齢、知識、経験及び勧誘時の状況等により、一般投資家が社債の上記リスクを理解できていないおそれがあるような特段の事情がない限り、社債の仕組み及びその仕組みに内在するいわば抽象的信用リスクについての説明義務を負うということはできない(但し、上記特段の事情がある場合には、そもそも適合性の原則違反が問題とされるべきである。)。
(4) 本件各社債の具体的信用リスクについて
ア 個々の社債については、発行体である企業の経営状況や財務内容を反映した具体的信用リスクを有するものである。そして、当該社債のリスクの有無及び程度といった具体的信用リスクに関する重要な情報について、証券会社は一般投資家に対して、その年齢、職業、知識、投資経験及び投資傾向等当該投資家の属性に応じて、これを提供し、説明すべき義務を有する場合があると解するのが相当である。
そして、このような説明義務の違反があったかどうかは、当該投資家の属性に照らして、そのような情報提供及び説明が当該投資家の投資判断を左右するに足りるものであったかどうかが検討されるべきである。
イ 本件各社債の商品特性
本件各社債は、無担保・無保証の社債ないし転換社債であり、マイカルが破綻した場合に社債管理会社による買取りないし肩代わりが行われることはない状況であった。そして、本件各社債には、その勧誘当時、具体的信用リスクを示す重要な情報として、以下の情報が存在したことは前記認定のとおりである。
(ア) マイカルの経営状況
平成一一年二月期に連結ベースで三五五億八一〇〇万円の当期赤字を計上し、同月に計画された再建計画の「中期経営計画」の実施後も一兆円を超える有利子負債は減少するどころか増大し、平成一二年の第二六回債、第二七回債の発行は、再建資金の調達であり、機関投資家を対象とせず個人向け一般投資家を対象とするものであった。そして、平成一三年一月には中期経営計画であるCMPを策定し、抜本的な改革に着手したが、売上が伸び悩み、取引先に信用不安が広がり、平成一三年六月二〇日には株価が急落し、マイカル社債等の格付が低下した。
(イ) 格付の存在
指定格付機関四社によるマイカルの格付は、原判決別紙五「格付推移一覧表」のとおりであって、第二六回債発行の平成一二年一月二八日当時、四社中二社(ムーディーズ、S&P)が投機級の格付をしており、中でもS&Pは同年三月に投機級の中でもさらに低い等級への格下げをしていた。そして、第二七回債発行前の平成一二年八月三〇日には、R&Iが投資適格級を「BBB+」から「BBB-」に、同年九月六日には、JCRが投資適格級を「A-」から「BBB」に、いずれも上位格から下位格に見直した。
(ウ) 信用リスクの増大
第二六回債及び第二七回債の流通利回りの推移は、原判決別紙七の一、二のとおりであって、国債と社債との決定的な相違点が信用リスクにあるとの観点から、国債との利回り格差に意味があるとされる流通利回りは、上昇し続けているほか、その格差は、平成一二年九月一日時点では一・七二%であったが、同年一〇月一二日時点では三・三四%に拡大し、平成一三年五月末時点では九%程度まで拡大した(甲二三)。
ウ したがって、証券会社である被控訴人らは、控訴人らの属性に応じて、上記のような具体的信用リスクを示す重要な情報のうち、少なくとも上記(イ)の格付の存在及び上記(ウ)の信用リスクの増大に関する情報を提供し、かつ説明すべき義務を有する場合があると解される。この点に関して、控訴人らは、上記(ア)のマイカルの経営状況についても情報を提供し、かつ説明すべき義務を有する旨主張し、他方、被控訴人らは、上記(イ)の格付の存在及び上記(ウ)の信用リスクの増大について説明義務を負わない旨主張するので、検討する。
(ア) 控訴人らの上記主張について検討するに、当該社債の発行体企業の財務状況に関する情報が重要であることはいうまでもないが、発行体企業の財務状況に関する情報は膨大であり、かつ内容も多岐に亘り、投資者の必要とする情報の範囲・内容も異なり得るから、このような情報について説明義務を負わせることになると、その説明義務の範囲は不明確とならざるを得ず、ひいては円滑かつ迅速な社債市場取引を阻害し、普通社債による資金調達が困難となるおそれが生じることは否定できない。
そして、発行体企業の財務状況に関する情報は目論見書に集約され、当該社債に関する評価は格付機関による格付によって集約されているとみられることからすると、格付機関による格付時から当該社債の勧誘時までの間に、当該社債の発行体企業の財務状況を左右すべき重大な客観的事情の変化がない限り、証券会社に、マイカルの経営状況について、顧客に対する情報提供及び説明義務を認めることはできないというべきである。
したがって、控訴人らの上記主張は採用することができない。
(イ) 他方、被控訴人らは、本件各社債には、勝手格付より信頼性の高いJCRによる取得格付(依頼格付)があり、証券会社はこの取得格付について情報提供すれば足り、それ以外の勝手格付については、顧客サービスとしてするのはともかく、これを提供して説明すべき法的義務を負わせるべきではない旨主張する。
取得格付と勝手格付のいずれが信頼性が高いかどうかはともかく、社債には格付があり、その信用度のランクは投資適格級から投機適格級まで数種類に格付分類されること、本件各社債には指定格付機関四社による格付がされており、各格付機関によって投資適格級とするものから投機適格級とするものまでランク付けが異なっていることについては、一般投資家が自己責任のもとに投資判断をするに当たり極めて重要な情報であるというべきであり、一般投資家の属性を無視して、取得格付(依頼格付)による格付ついてだけ情報提供すれば足りるとする被控訴人らの上記主張は採用することができない。
(ウ) また、被控訴人らは、証券会社が一般投資家に対し、流通利回りの上昇や利回り格差の増大という信用リスクの増大について説明義務を負うとなれば、証券会社は、同種商品や類似の商品について、有利不利を比較しながら個別に調査した上で特定の商品を販売しなければならないことになりかねず、著しく過大な義務を課すことになるばかりか、市場における有価証券取引が著しく困難になる旨主張する。
しかしながら、社債の信用リスクは、リターンは数%の利息であるのに比し、リスクは投資元本の全喪失あるいは大幅な喪失というものであって、わずかなリターンを目論みながら大きなリスクを被ることがありうることは否定できないのであるから、信用リスクの増大についての情報も、一般投資家が自己責任のもとに投資判断をするに当たり重要な情報であることはいうまでもなく、また、信用リスクの増大について説明義務を課したとしても、同種商品や類似の商品についてまで個別調査を要求することになるものではなく、証券会社にこのような情報について説明義務を課すことが、過大な負担となり、市場における有価証券取引が著しく困難になるとまで断ずることはできない。
三 そこで、上記のとおり、証券会社は一般投資家に対し、本件各社債の販売において、当該投資家の属性に応じて、上記の格付の存在及び信用リスクの増大について情報提供及び説明義務を負う場合があることを前提に、被控訴人らの控訴人らに対する各説明義務違反の有無について、判断をすすめる。
(1) 控訴人X7及び同X1について
ア 上記控訴人らについて判断の前提となる事実は、次のとおり補正するほか、原判決別紙四の一第三項「当裁判所の判断」の(1)(原判決六三頁一二行目から六六頁一〇行目まで)に認定するとおりであるから、これを引用する。
(ア) 原判決六三頁二〇行目の「同行の定年後」を「平成元年一二月に同行を定年退職した後、平成二年一月から平成一一年末まで」と改める。
(イ) 同六四頁八行目の「余裕資金の運用」の後に「、金融資産欄では五〇〇~一〇〇〇万円に」と、一一行目から一二行目にかけての「余裕資金の運用」の後に「、金融資産欄では三〇〇〇~五〇〇〇万円に」とそれぞれ加える。
(ウ) 同六五頁四行目の「(乙ア二号証)であるところ、」の後に、「同説明書には、債券の格付の意味、低格付債とそのリスク、格付の変更及びR&Iによる格付記号の意味等についての説明が記載され、その最下段には「同じ銘柄であっても格付機関によって格付が異なることがありますので、個別の銘柄毎にご確認下さい。」との注意書きがあり、」と加える。
(エ) 同頁八行目の「A6社員は、」の後に「新規顧客として来店した」と、二三行目の「A7社員は、」の後に「被控訴人野村證券京都支店FA課に所属し、ファイナンシャルアドバイザー(FA)として、顧客に対するポスティングや訪問外交による営業活動をしていた者であるが、その営業活動の成果として平成一二年三月一四日付けで控訴人X7から同人名義の証券取引口座を開設してもらい、最初に大成建設社債(二〇〇万円)を購入してもらっていたが、」とそれぞれ加える。
(オ) 同六六頁一〇行目の後に行を改めて次のとおり加える。
「オ 控訴人X7は、上記のような職歴のため、墓石広告という用語も知っており、債券の格付について一般的な知識を有していた(なお、同控訴人は、格付BBなら投資不適格で投資すべきでないという知識はなかった旨供述するが、上記低格付債に関する確認書を被控訴人野村證券に提出した上で実際に低格付債であるブラジル連邦共和国円貨債券等を購入していることに照らして、上記供述部分は採用することができない。)。
カ ところで、A6社員の所属するCS(カスタマーサービス)課は、ポスティング等の営業により、又は店頭に常置してある商品のパンフレットを見て来店した顧客に対して店頭対応業務を担当する部署であり、顧客に対して積極的に商品を勧誘することを担当する部署ではない。」
イ 上記認定事実によれば、控訴人X7は、既に公社債及び株式の投資経験を有し、かつ、格付についての一般的な知識を持ち、墓石広告という用語も知っている者であり、本件取引後とはいえない低格付債券であるブラジル連邦共和国円貨債券等も購入しているというのであるから、同控訴人の年齢、職歴、投資知識及び投資経験等その属性に照らすと、A6社員による墓石広告に基づく説明、目論見書及び格付に関する上記説明書の交付等により、同控訴人が第二六回債及び第二七回債の具体的信用リスクを認識した上で、これを購入するとの投資判断をしたものと認めるのが相当であり、A6社員に説明義務違反があるとする同控訴人らの主張は採用することができない。
(2) 控訴人X4について
ア 同控訴人について判断の前提となる事実は、次のとおり補正するほか、原判決別紙四の二第三項「当裁判所の判断」の(1)(原判決七〇頁二三行目から七三頁一行目まで)に認定するとおりであるから、これを引用する。
(ア) 原判決七一頁一六行目の「A8社員は、」の後に「主に債券、投資信託を取り扱う営業職として勤務し、平成一二年三月頃から同月末をもって退職する公務員に対する営業を行ってきた者であり、上記中期国債ファンド約一五〇〇万円の購入をした控訴人X4もA8社員がその営業活動により獲得した顧客であって、継続して控訴人X4に対し営業活動をし、アポイントを取った上で、」と、一七行目の「投資信託と」の後に「A8社員の所属部署で既発社債の参考銘柄になっていた」と加える。
(イ) 同七二頁一行目の「説明しなかった。」の後に「これは、被控訴人野村證券(宮崎支店)では、低格付社債であれば格付について説明した上で、顧客から確認書をもらうようにしていたが、適格債であれば格付について説明を要しないとの方針を採っており、第五回債は当時適格債であったことによる。また、A8社員は、第五回債の発行企業体であるマイカルの業績及び財務内容についても説明しなかった。」と加える。
(ウ) 同頁五行目から一九行目までを削除する。
イ 上記認定事実によると、控訴人X4は、平成一二年五月に被控訴人野村證券で中期国債ファンドを購入するまで証券取引の経験がなく、かつ、それ以降も、A8社員の営業活動を受けながら、中期国債ファンド及び第五回債のほかは、購入に至ったものはないのであり、このような同控訴人の取引内容及び第五回債の購入原資が同控訴人の退職金であったことに照らすと、同控訴人は、安全志向の高い顧客であったといえる。
しかも、同控訴人は、その職歴からして、社債の一般的仕組みや内容を理解する能力を有しており、社債について発行会社が満期まで倒産する等しなければ満期の時点で額面全額が償還されること等について説明を受けていたと認められるものの、第五回債の勧誘時に、A8社員から、格付については全く説明を受けていなかったというのであるから、A8社員が格付に関する情報を提供してこれを説明する義務を怠ったことは明らかである。中期国債ファンド以外に投資経験のない同控訴人が、第五回債の購入という投資判断をするに至ったのは、元本償還の確実性についての質問に対して、A8社員が「今までそんなことはありませんから、大丈夫ですよ。」との回答をしたことが大きいとする同控訴人の供述部分及び陳述書記載部分は十分信用することができ、これに反するA8社員の証言部分及び陳述書記載部分は上記認定に照らして採用することができない。
したがって、同控訴人の上記属性に照らすと、A8社員の上記格付に関する説明義務違反がなければ、第五回債の購入という投資判断をしなかったものと認めるのが相当である。
(3) 控訴人X8について
ア 同控訴人について判断の前提となる事実は、次のとおり補正するほか、原判決別紙四の三第三項「当裁判所の判断」の(1)(原判決七九頁六行目から八一頁二三行目まで)に認定するとおりであるから、これを引用する。
(ア) 原判決七九頁一三行目の「担当した。」を「担当し、平成一〇年から二年間米国に駐在し、現地子会社を立ち上げる事業に関与した経験を有していた。」と改める。
(イ) 同頁一六行目末尾に「同控訴人は、証券投資に関する情報を、証券会社からの情報のほか、朝日新聞、日経新聞及び投資に関する週刊誌等から得ていた。」と加える。
(ウ) 同頁一七行目の「同原告は、」の後に「自宅ポストに投函されていた被控訴人野村證券天王寺駅支店からの近鉄ユーロ米ドル建て社債のチラシを見て興味を持ち、同被控訴人同支店に電話し、証券貯蓄課所属のA9社員から近鉄社債の商品説明を受けて、同被控訴人との間で証券取引を始めることとし、」と加える。
(エ) 同八〇頁二六行目の「目論見書(甲一七号証)を」の後に「債券の格付についての説明書(乙ア二号証)同封の上」と加え、同八一頁一行目末尾に次のとおり加える。
「この点に関して、同控訴人は上記格付についての説明書を見たことも送られてきたこともない旨供述するが、証人A9の証言によれば、同被控訴人同支店では、顧客に交付ないし送付するために目論見書に上記格付についての説明書を挟んで用意してあったというのであるから、同控訴人に対して、ことさら上記格付についての説明書のみを送付しないといったことは考えがたいから、同控訴人の上記供述は採用することができない。」
イ 上記認定事実によれば、控訴人X8は、投資経験年数が豊富で、その投資額も高額に及んでおり、その職歴からしても社債のリスクについて十分理解していたものと推認することができる上、証券会社ないし自ら収集した情報を下に自己の判断により投資判断することのできる投資家であると認められ、A9社員による墓石広告に基づく説明、目論見書及び格付に関する上記説明書の交付等により、同控訴人が第二六回債の具体的信用リスクを十分認識した上で、これを購入するとの投資判断をしたもの認めるのが相当であり、A9社員に説明義務違反があるとする同控訴人らの主張は採用することができない。
(4) 控訴人X9について
ア 同控訴人について判断の前提となる事実は、次のとおり補正するほか、原判決別紙四の四第三項「当裁判所の判断」の(1)(原判決八六頁一八行目から八八頁二一行目まで)に認定するとおりであるから、これを引用する。
(ア) 原判決八七頁二行目の後に「その際、同控訴人が作成した同月二七日付け証券総合サービス申込書(乙アF一)には、年収につき二〇〇~五〇〇万円、金融資産につき二〇〇〇~三〇〇〇万円、資金の性格は余裕資金である、投資経験として株式、中国ファンド、公社債投信及び転換社債につき一年未満の経験ありと記載がされている。」と加える。
(イ) 同頁八行目の「その際、」の後に「A10社員から「債券の格付についての説明書」(乙アF四)を示されてその説明を受けた上、同月一三日付け」と加える。
(ウ) 同頁一三行目末尾の後に次のとおり加える。
「この点に関して、同控訴人は、A10から債券の格付について説明を受けたことはなく、上記確認書も外国債の購入のため形式的に必要であると言われ署名押印した旨供述するが、同控訴人の職歴及び投資経験等に照らすと、上記格付についての説明書の記載内容自体理解困難なものとはいえないし、顧客が低格付債を購入するに際しては、証券会社社員は必ず債券格付について説明しなければならないとされており、同控訴人に対しても説明した旨の証人A10の証言に不合理、不自然な点はないから、同控訴人の上記供述部分を採用することはできない。」
(エ) 同頁一五行目の「A10社員が」を「被控訴人野村證券京都支店資産管理課所属のA10社員が前任のA11から引き継ぎ」と改め、一六行目の「A10社員は、」の後に次のとおり加える。
「事前に同控訴人宅に訪問し、不在であったが、営業活動の一環として、第二六回債の墓石広告、債券の格付についての説明書を挟んだ目論見書(乙ア一の一、乙ア二、甲一七)を置いてきた。その数日後の」
(オ) 同頁二五行目の「供述をするが、」から同八八頁二行目までを次のとおり改める。
「供述をするところ、A10社員も、格付A-というものについて同格付のある大手企業の名を引き合いに出して説明していること、メインバンクである第一勧業銀行がマイカルを支援していたという客観的事実からすると、A10社員が同控訴人の供述するような説明をしたとしても何ら不合理、不自然とはいえない。しかしながら他方で、A10社員は同控訴人に対し、野村證券のアナリストが作成したファイナンスメモ等の情報を参考にして、マイカルの財務内容について、前年度の決算は経常利益ベースで黒字であるが、特別損失の発生により最終的に赤字であること、今期については黒字決算の予定であること等も説明していることが認められる(証人A10)。」
(カ) 同八八頁五行目から六行目を削除する。
イ 上記認定事実のとおり、A10社員は控訴人X9に対し、第二六回債の勧誘に際し、マイカルの財務内容及び第二六回債の格付について情報を提供して説明していること、同控訴人は、第二六回債の購入後まもなくして、低格付債であるブラジル連邦共和国円貨債券を額面三〇〇万円分も購入していることが認められ、これに控訴人X9の年齢、職歴、投資経験を併せ考えると、A10社員からの情報提供及び説明により、同控訴人が第二六回債の具体的信用リスクについて認識した上でこれを購入するという投資判断をしたものと認めるのが相当であり、A10社員に説明義務違反があるとする同控訴人の主張は採用することができない。
(5) 控訴人X2について
ア 同控訴人について判断の前提となる事実は、次のとおり補正するほか、原判決別紙四の五第三項「当裁判所の判断」の(1)(原判決九三頁一七行目から九五頁二四行目まで)に認定するとおりであるから、これを引用する。
(ア) 原判決九四頁一二行目から一三行目にかけての「チェックをした。」の後に「なお、A14名義の上記証券サービス申込書(乙アH三)には、公社債、転換社債の投資経験ありとの欄にチェックがされているが、これは投資信託との区別についてのA14の理解不足によるミスである可能性が高く、同人には公社債、転換社債の投資経験はない。」と加える。
(イ) 同頁一五行目の「A14は、」の後に「その数日前に、中期国債ファンドの利率が年一%台とする被控訴人野村證券の新聞広告記事を読み、これを購入するつもりで、二歳の子供を自転車に乗せて、」と加える。
(ウ) 同頁一九行目の「その際、」の後に「A14の上記中期国債ファンドの購入手続に対して窓口対応した被控訴人野村證券西宮支店のCS課所属の」と加え、同行目から二〇行目にかけての「募集期間であったことから、A14に対して」を「募集期間であって、来店した顧客すべてに同社債の墓石広告を渡していたことから、「こういうのがありますよ。よろしかったらどうぞ。」などと言って、A14に対して」と改める。
(エ) 同頁二五行目の「第二七回債を案内した。」を「店頭に備え付けの格付の説明資料を示すとともに、第二七回債の格付がBBBであること、発行体リスクとしてマイカルが倒産した場合元本が返ってこない可能性があること、価格変動リスクとして途中売却の際は時価になることを説明する一方で、利率の高い商品は早く売れる傾向があること、第二七回債も条件のいい社債であるとの認識の下に「販売枠が決まっているので、遅くなったらなくなるかもしれない。」旨申し向けて、第二七回債を案内した。」と改め、その後に「この案内の中で、A14は、A15社員に対し、元本償還の確実性について質問したが、A15からこれを否定する回答もなかったことから、第二七回債について償還期間三、四年で年三・二五%の利率を得られるので、定期預金と比べてもいい商品であるとの認識を持った。」と加える。
(オ) 同九五頁二行目から二一行目までを次のとおり改める。
「A15社員のA14に対する第二七回債の説明内容に関して、証人A14はこれを否定する証言をするが、A15社員は、当時外務員の資格を有する者であり、上記認定にかかる社債に関する発行体リスクや価格変動リスクの説明及び格付の説明は、顧客から商品説明を求められたときに通常行っている業務内容であり、殊更A14に対してのみこれを省略するような事情は見いだしがたいから、同人がA14に対する説明についての具体的記憶に乏しいとしても、A15社員のこの点に関する証言部分は、A14の証言部分よりも信用することができる。
また、控訴人X2は、A14が「これは主人のお金なので少しでもリスクがあったら困ります。この商品は元本保証ですね。戻ってこないことはないですね。」などと聞いたことに対し、A15社員が「元本保証で必ず戻ってきます」などと説明した旨主張し、A14もそれに沿う陳述ないし供述をするが、第二七回債が元本保証のものでないことは証券会社の従業員にとっては自明のことであって、A15社員があえて事実と異なる「元本保証である」との虚偽の事実を述べる理由はないから、上記A14の陳述ないし供述を信用することはできない。
しかしながら、上記案内当時、A15社員は、マイカルの業務内容や財務状況及び第二七回債の格付について格付機関によっては投機級であるとの格付がされていることを知らず、高利率のいい社債であるとの認識を持っていたというのであるから、第二七回債の具体的信用リスクについてまでA14に説明したとは考えがたく、また、控訴人X2名義の取引について元本の安全性にこだわるA14が上記認定のような認識を持って第二七回債を購入したことに照らしても、元本償還の確実性を否定するまでの発言はなかったとみるのが合理的かつ自然である。」
イ 上記認定事実によると、控訴人X2は、平成九年から投資信託、株式取引(但し、A14名義)等の証券取引の経験はあるが、元本割れした投資信託を直ちに解約するなど、同控訴人名義での投資について安全志向の高い顧客であったといえる。
しかも、同控訴人は、社債の一般的仕組みや内容を理解する能力を有しており、社債について発行会社が満期まで倒産する等しなければ満期の時点で額面全額が償還されること等について説明を受けていたと認められるものの、元本の安全性にこだわるA14に対するA15社員の第二七回債の勧誘時の上記説明は、A14による元本償還の確実性にかかる具体的信用リスクの有無、程度といった検討を不要ならしめるものであったというべきであり、A15社員には具体的信用リスクに関する情報を提供してこれを説明する義務を怠ったものと認められる。
したがって、同控訴人の上記属性に照らすと、A15社員の上記元本償還の確実性にかかる具体的信用リスクに関する説明義務違反がなければ、第二七回債の購入という投資判断をしなかったものと認めるのが相当である。
(6) 控訴人X10について
ア 同控訴人について判断の前提となる事実は、次のとおり補正するほか、原判決別紙四の七第三項「当裁判所の判断」の(1)(原判決一一一頁九行目から一一四頁三行目まで)に認定するとおりであるから、これを引用する。
(ア) 原判決一一一頁二二行目の「その後、」の後に「平成七年八月、資産相談課の統廃合により被控訴人野村證券岸和田支店から同堺支店FA課に配置換えとなったA16社員から営業活動を受けて、」と加える。
(イ) 同一一二頁一四行目の「しかし、」から一六行目末尾までを次のとおり改める。
「そして、証人A16の証言によれば、同控訴人は投資証券の利率に敏感な顧客であったというのであり、当時、マイカル債と同様BBB格付の国内社債で三・二五%という高利率の社債は見当たらなかったことがうかがえるところからすると、同控訴人が、この高利率のマイカル債に疑問を抱いたとしてもあながち不自然ではないし、これに対して、A16において第二七回債の格付が投資適格級のBBBであることから、「投資適格として安全な位置にある」旨回答したことは十分あり得ることである。しかしながら、同証人の証言に照らすと、A16が上記のような回答をしたとしても、それ以上に断定的に「第二七回債の元本返還は確実であるとか、大丈夫である」などと説明したことまでは認めることはできず、上記のような断定的説明があったとする同控訴人の供述部分を採用することはできない。」
(ウ) 同一一三頁六行目の「知っているいる限り」を「知っている限り」と改める。
イ 上記認定事実のとおり、A16社員は控訴人X10に対し、第二七回債の勧誘に際し、その格付について墓石広告に基づいて説明し、目論見書及び債券の格付についての説明書も交付しているのであり、これに同控訴人によるそれまでの社債の投資経験を併せ考えると、A16社員からの情報提供及び説明により、同控訴人が第二七回債の具体的信用リスクについて認識した上でこれを購入するという投資判断をしたものと認めるのが相当であり、A16社員に説明義務違反があるとする同控訴人の主張は採用することができない。
(7) 控訴人X5について
ア 同控訴人について判断の前提となる事実は、次のとおり補正するほか、原判決別紙四の八第三項「当裁判所の判断」の(1)(原判決一一九頁一一行目から一二一頁一一行目まで)に認定するとおりであるから、これを引用する。
(ア) 原判決一一九頁二〇行目の「本件取引において、」を削除し、その後に次のとおり加える。
「平成一二年当時、年収約六五〇万円を得ており、資産としては住宅ローンで購入した自宅マンション、約三〇〇万円の銀行預金のほかに亡父の遺産である不動産を有していたところ、その遺産である不動産の売却によって約九〇〇万円の現金を得たことから、その現金資産の運用として、」
(イ) 同頁二二行目の「(乙アK一号証)において、」の後に「投資方針欄には、「安全性と収益性のバランスに配慮したいが、安全性をより重視したい。」に、投資目的欄には、「将来のための資産形成」及び「余裕資金の運用」にそれぞれチェックし、」と加える。
(ウ) 同一二〇頁九行目の後に次のとおり加え、同頁一一行目から一四行目までを削除する。
「このような説明を受けた控訴人X5は、証券取引そのものが初めてであったため、マイカルが倒産するようなことはないかと尋ね、A17社員からこれを否定する発言を得た。この点に関して、証人A17は、控訴人X5からそのような質問自体なかったし、倒産を否定するような回答をしたことはない旨証言する(陳述書[乙アK二]も同旨)が、上記のような抽象的信用リスクの説明を受けた者であれば、第二七回債の発行体であるマイカル自体の倒産の可能性について質疑することは自然であるし、当時、A17社員自体、マイカルの財務状況については把握しておらず、格付についても格付機関によっては投機級の格付をしていたことについては覚えていない、控訴人X5にこれを説明したことはないというのであるから、A17社員自体、第二七回債の具体的信用リスクについての認識を有していたとは考えられず、断定的判断の提供に陥らない程度に、マイカルの倒産可能性を否定する発言をしたとしても何ら不自然ではないというべきである。」
(エ) 同頁一五行目の「同原告は、」の後に「被控訴人野村證券堺支店から交付ないし送付された目論見書も参考として、第二七回債の購入を決断し、」と加える。
(オ) 同一二一頁八行目から一一行目までを削除する。
イ 上記認定事実によると、控訴人X5は、本件取引が証券取引として初めてであって、それまで投資経験がなく、同控訴人において、社債の一般的仕組みや内容を理解する能力を有し、社債について発行会社が満期まで倒産する等しなければ満期の時点で額面全額が償還されること等について説明を受けて、これを理解していたと認められるものの、A17社員の第二七回債の勧誘時の上記説明は、同控訴人による元本償還の確実性にかかる具体的信用リスクの有無、程度といった検討を不要ならしめるものであったというべきであり、A17社員には具体的信用リスクに関する情報を提供してこれを説明する義務を怠ったものと認められる。
したがって、同控訴人が証券取引について投資未経験であるという属性に照らすと、A17社員の上記元本償還の確実性にかかる具体的信用リスクに関する説明義務違反がなければ、第二七回債の購入という投資判断をしなかったものと認めるのが相当である。
(8) 控訴人X11について
ア 同控訴人について判断の前提となる事実は、次のとおり補正するほか、原判決別紙四の一〇第三項「当裁判所の判断」の(1)(原判決一三二頁冒頭から一三四頁二行目まで)に認定するとおりであるから、これを引用する。
(ア) 原判決一三二頁二一行目の「A18社員は、」の後に「控訴人X11とは、平成一〇年一二月に関西電力社債をA19を通じて購入してもらって以来の被控訴人新光証券堺支店のCS課に所属の担当者であったところ、」と加える。
(イ) 同一三三頁九行目の「注文を出した。」の後に「これを受けて、A18社員は同控訴人宛に、目論見書を郵送した。」と加える。
イ 上記認定事実によると、A18社員に同控訴人に対する説明義務違反があったということはできないところ、その理由は、次のとおり補正するほか、原判決一三四頁四行目から一四行目までに説示するとおりであるから、これを引用する。
同頁七行目の「購入していたところ、」を「購入しており、投資経験が比較的短いとはいえ、第二七回債の購入に当たり、その具体的信用リスクについて認識した上、投資判断をしていることが認められるところ、」と改める。
(9) 控訴人X12について
ア 同控訴人につき判断の前提となる事実は、次のとおり補正するほか、原判決別紙四の一一第三項「当裁判所の判断」の(1)(原判決一三八頁冒頭から一三九頁二四行目まで)に認定するとおりであるから、これを引用する。
(ア) 原判決一三八頁一四行目の「被告新光証券京都支店で、」の後に「いずれもA20社員の勧誘を受けて、」と加える。
(イ) 同頁一九行目の「A20社員は、」の後に「被控訴人新光証券京都支店で、営業部に所属し、個人相手の営業を担当し、平成一一年四月頃、上場企業の役員名簿登載者に宛てて、債券の発行日、償還期限、格付等を記載した社債のダイレクトメールを送付するという営業活動をする中で、控訴人X12から、上記三洋電機クレジット社債の購入に始まり、上記の各社債及び投資信託の購入をしてもらっていたところ、平成一二年九月頃、上記と同様ダイレクトメールを送付して、」と加える。
(ウ) 同一三九頁六行目の「他方証人A20は」から一〇行目までを「定期預金と社債とが全く異なる金融商品であることはいうまでもなく、同控訴人自身、社債には発行会社の信用リスクがあり元本保証のない証券であることの認識を有していたことを自認しているのであり、同控訴人の上記職業上の地位を認識しているA20社員が上記のような幼稚とも言える発言をするとは考えがたく、同控訴人の上記供述部分は到底採用することができない。」と改める。
(エ) 同頁二三行目の「上記同原告の」から二四行目までを「証券会社として、このような相場状況において、顧客に対して売却する、しないの指示をすることを禁じており、A20社員もこのような証券会社の指示を無視するような発言をしなければならない事情もないことに照らすと、同控訴人の上記陳述及び供述部分を採用することはできない。」と改める。
イ 上記認定事実によると、A20社員に同控訴人に対する説明義務違反があったということはできないところ、その理由は、次のとおり補正するほか、原判決一三九頁二六行目から一四〇頁一〇行目までに説示するとおりであるから、これを引用する。
同一四〇頁四行目の「勧誘に当たり」から五行目の「照らすと、」までを「加えて、A20が同控訴人に対して、京都府債や京都市債を勧誘した際には、面白くない(つまり、長期債でかつ利回りが低い)として、その勧誘を断っていること(原審証人A20)に照らすと、同控訴人は、第二七回債の購入に当たり、A20社員による勧誘をきっかけにしながらも、その具体的信用リスクについて認識した上、自己の投資判断でこれを決定したものと認めることができ、」と改める。
(10) 控訴人X13について
ア 同控訴人につき判断の前提となる事実は、次のとおり補正するほか、原判決別紙四の一二第三項「当裁判所の判断」の(1)(原判決一四五頁三行目から一四七頁三行目まで)に認定するとおりであるから、これを引用する。
(ア) 原判決一四五頁二二行目の「各取引がある。」を「各取引のほか、野村公社債投信、ソブリン債券等の投資信託、ドレスナー銀行外債の証券取引がある。」と改める。
(イ) 同一四六頁一行目の「A21社員は、」の後に「平成八年六月、被控訴人いちよし証券針中野支店に配属となり、顧客であったA5の担当となっていた者であり、控訴人X13名義の野村公社債投信の分配方法が予想分配型実績分配型に変更されることになり、低金利時代でもあったため、A5から高利回りで安全な商品の案内を求められていたところ、この要望に沿う商品として、」と加える。
(ウ) 同頁一五行目の「証人A21は」から一八行目の「証拠がないこと」までを「第九回転換社債は高利回りで安全な商品であるとの認識を有していたA21が、その発行企業であるマイカルについて倒産の具体的危険性があるとの認識を持っていたはずはなく、A5においてもA21と同様の認識を有していたことがうかがわれる勧誘当時に、倒産を前提とした山一証券の社債の例が話題に上るとは考えがたく、A21の上記発言は、マイカル倒産後のことであるとみるのが合理的かつ自然であること」と改める。
イ 上記認定事実によると、A21社員に同控訴人に対する説明義務違反があったということはできないところ、その理由は、次のとおり補正するほか、原判決一四七頁五行目から一五行目までに説示するとおりであるから、これを引用する。
同頁九行目の「照らすと、」の後に「同控訴人は、第九回転換社債の購入に当たり、A21社員による勧誘をきっかけにしながらも、その具体的信用リスクについて認識した上、自己の投資判断でこれを決定したものと認めることができ、」と改める。
(11) 控訴人X3について
ア 同控訴人について判断の前提となる事実は、次のとおり補正するほか、原判決別紙四の一三第三項「当裁判所の判断」の(1)(原判決一五一頁一八行目から一五三頁二二行目まで)に認定するとおりであるから、これを引用する。
(ア) 原判決一五一頁二三行目の「同原告は、」の後に「昭和五四年から、株式会社ダイエーからグループ企業でスーパーマーケット業を営む丸栄商事株式会社に移り勤務し、本件取引当時、マネージャー(フロアー長)の地位にあった者であるところ、」と加える。
(イ) 同一五二頁三行目の「(乙アP一号証)では、」の後に「給与年収欄では五〇〇~一〇〇〇万円に、金融資産欄では二〇〇〇~三〇〇〇万円に」と、七行目の「経験ありに」の後に「、株式、信用取引、先物・オプション等の『経験はないが商品性・リスクを理解している』の項に、」と加える。
(ウ) 同頁二一行目末尾の後に「この点に関して、同控訴人は、A22社員から、上記低格付債に関する確認書に基づく格付及びリスク説明を受けたことはなく、同確認書は形式的に必要であると言われて署名・押印したにすぎない旨供述するが、前記のとおり同確認書は債券の格付についての説明書(乙ア二)と一体のものであって、同説明書は切り取られて顧客に交付され、同確認書は顧客の署名・押印をもらった上、被控訴人野村證券の下に徴求されることになっているものであり、低格付及びそのリスクについて説明したとする証人A22の証言に照らして、同控訴人の上記供述部分は採用することができない。」と加える。
(エ) 同頁二五行目の「その後」の後に「A23社員は同年四月に異動してきたばかりで、同控訴人において、同社員による証券の案内及び勧誘について満足できず、A23社員のインストラクター的立場にあったA22社員に証券案内の窓口を一本化することを要望したため、」と加える。
(オ) 同一五三頁四行目から五行目までにかけて「大丸や阪神百貨店など同業他社の格付も説明した。」とあるを「さらには、第二六回債の商品説明に際し、同被控訴人の店舗に備付けの同業他社との比較という資料を用いて関西地域の複数の百貨店(大丸や阪神百貨店等)との比較を説明するとともに、営業社員向けに同被控訴人から出されていたマイカルの財務状況及び経営状況が記載された内部資料に基づいてマイカルが経営再建中である旨の説明した。これに対し、同控訴人も、職業柄及び新聞及び週刊誌等の情報から、流通業界であるマイカルはダイエー同様有利子負債を抱えて前途多難な状況にあるとの認識を有していたが、経営再建について期待も抱いていた。」と改める。
イ 上記認定事実によると、A22社員に同控訴人に対する説明義務違反があったということはできないところ、その理由は、次のとおり補正するほか、原判決一五三頁二四行目から一五四頁一六行目までに説示するとおりであるから、これを引用する。
同一五四頁三行目の「照らすと、」の後に「同控訴人は、第二七回債の購入に当たり、A22社員による勧誘をきっかけにしながらも、その具体的信用リスクについて認識した上、自己の投資判断でこれを決定したものと認めることができ、」と改める。
(12) 控訴人X6について
ア 同控訴人について判断の前提となる事実は、次のとおり補正するほか、原判決別紙四の一四第三項「当裁判所の判断」の(1)(原判決一六一頁一二行目から一六三頁一九行目まで)に認定するとおりであるから、これを引用する。
(ア) 原判決一六二頁九行目の「A24社員は、」の後に「証券外務員資格を有し、被控訴人日興證券堺支店証券貯蓄係に所属し、平成三年三月頃から、控訴人X6を担当することになり、同控訴人の意向に沿い、約二〇程度の既発行の転換社債銘柄について高利回り順に利率、格付機関、格付、償還日、時価等が記載された「利回り順CBスクリーニング」と題する同被控訴人作成の一覧表を交付して、その中から数種の銘柄を取り上げて、利回りが望める転換社債を案内していたところ、」と加える。
(イ) 同頁一七行目から一八行目の「第九回転換社債について」の後に「時価と最終利回りを説明したが、」と加える。
(ウ) 同頁二〇行目の後に行を改めて「なお、A24社員は、本件取引の勧誘に際して、マイカルの経営情報や第九回転換社債についての他の格付機関による格付情報について備付けのパソコンの端末等から入手してこれを同控訴人に説明したことはない。」と加える。
(エ) 同頁二二行目の「A25社員は、平成一二年九月二八日ころ、」を「A25社員は、被控訴人新光証券堺支店に営業職として勤務し、平成九年頃から、控訴人X6の顧客担当を前任者から引き継ぎ、平成一二年九月下旬、電話で、墓石広告(乙イ一)を用いて第二七回債を案内したところ、同控訴人から、マル優で買いたいとの希望を示されたことから、同控訴人宅を訪問する約束を取り付けた上、平成一二年九月二八日ころ、自宅を訪問し、」と改める。
(オ) 同一六三頁二行目の後に行を改めて「なお、A25社員は、本件取引の勧誘に際して、マイカルの経営情報や第二七回債についての他の格付機関による格付情報について備付けのパソコンの端末等から入手してこれを同控訴人に説明したことはない。」と加える。
イ 上記認定事実によると、被控訴人日興コーディアル証券のA24社員及び同新光証券のA25社員に同控訴人に対する説明義務違反があったということはできないところ、その理由は、次のとおり補正するほか、原判決一六三頁二一行目から一六四頁六行目までに説示するとおりであるから、これを引用する。
同一六四頁一行目の「照らすと、」の後に「同控訴人は、第九回転換社債の購入に当たり、A24社員による勧誘をきっかけにしながらも、その信用リスクについて認識した上、自己の投資判断でこれを決定したものと認めることができ、」と、五行目の「照らすと、」の後に「同控訴人は、第二七回債の購入に当たり、A25社員による勧誘をきっかけにしながらも、その信用リスクについて認識した上、自己の投資判断でこれを決定したものと認めることができ、」とそれぞれ改める。
(13) 以上のとおりであって、控訴人X4、同X2及び同X5に対する被控訴人野村證券の各担当者には、それぞれ説明義務違反が認められるが、その余の控訴人らに対しては、これに対応する各被控訴人らの各担当者に説明義務違反を認めることはできない。
したがって、被控訴人野村證券は、説明義務違反の認められる上記各控訴人らの被った損害について、民法七一五条に基づく損害賠償責任を負わなければならない。
四 被控訴人野村證券において賠償すべき損害額について
(1) 控訴人X4について
ア 原判決別紙三の「原告らの損害一覧表」のとおり、同控訴人は、本件取引により九〇〇万四七六七円の損害を被ったところ、被控訴人野村證券主張の利金一三万七五〇〇円のうち一一万〇〇一〇円を同控訴人が受け取っていることは当事者間に争いがないから、これを損益相殺として損害から控除すると八八九万四七五七円となる。
なお、損益相殺の対象となるべき控訴人の受けた利益に係る税は、本来控訴人が負担すべきものであるから、税引後の受取額を損益相殺とすべきであるとする同控訴人の主張は採用できないが、乙アD第六号証によっても、同被控訴人主張の税引前の受取額を確定することはできず、ほかには、同被控訴人の主張額を認めるに足りる証拠はない。
イ 過失相殺
同控訴人の年齢、職歴及び投資経験からすると、社債の一般的仕組みや抽象的リスクについて理解する能力を有していたのであるから、第五回債の購入という投資判断をするに当たり、A8社員に対して、その具体的信用リスクについてその説明を求めることは可能であって、そうであれば、A8社員あるいは同社員が所属する被控訴人野村證券宮崎支店からその情報の提供を受けることができ、これを検討して第五回債の購入という投資判断に至らなかった可能性も指摘できるのであり、上記投資判断には同控訴人の落ち度も働いていることは否定できないところ、A8社員による上記説明義務違反の内容及び程度をも斟酌すると、同控訴人の過失は五割とするのが相当である。
したがって、同被控訴人が賠償すべき損害額は四四四万七三七八円(八八九万四七五七円×〇・五、円未満切り捨て、以下同じ)となる。
ウ 弁護士費用
同被控訴人が負担すべき損害としての弁護士費用は、上記損害の約一割に当たる四五万円とするのが相当である。
エ 合計
以上によると、被控訴人野村證券は控訴人X4に対し、民法七一五条に基づく損害賠償として、四八九万七三七八円及びこれに対する不法行為後である平成一三年二月二一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべきである。
(2) 控訴人X2について
ア 原判決別紙三の「原告らの損害一覧表」のとおり、同控訴人は本件取引により六九万〇五九四円の損害を被ったところ、被控訴人野村證券主張の利金一万六二五〇円のうち一万三〇〇一円を同控訴人が受け取っていることは当事者間に争いがないから、これを損益相殺として損害から控除すると六七万七五九三円となる。なお、乙アH第五号証によっても、同被控訴人主張の税引前の受取額を確定できないことは前同様である。
イ 過失相殺
同控訴人を代理したA14の年齢及び投資経験からすると、同人は社債の一般的仕組みや抽象的リスクについて理解する能力を有していたのであるから、第二七回債の購入という投資判断をするに当たり、A15社員に対して、その具体的信用リスクについてその説明を求めることは可能であって、そうであれば、A15社員あるいは同社員が所属する被控訴人野村證券西宮支店からその情報の提供を受けることができ、これを検討して第二七回債の購入という投資判断に至らなかった可能性も指摘できるのであり、上記投資判断には同控訴人の落ち度も働いていることは否定できないところ、A15社員による上記説明義務違反の内容及び程度をも斟酌すると、同控訴人の過失は六割とするのが相当である。
したがって、同被控訴人が賠償すべき損害額は二七万一〇三七円(六七万七五九三円×〇・四)となる。
ウ 弁護士費用
同被控訴人が負担すべき損害としての弁護士費用は、上記損害の約一割に当たる三万円とするのが相当である。
エ 合計
以上によると、被控訴人野村證券は控訴人X2に対し、民法七一五条に基づく損害賠償として、三〇万一〇三七円及びこれに対する不法行為後である平成一二年一〇月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべきである。
(3) 控訴人X5について
ア 原判決別紙三の「原告らの損害一覧表」のとおり、同控訴人は本件取引により三四五万二九七〇円の損害を被ったところ、被控訴人野村證券主張の利金八万一二五〇円のうち六万五〇〇五円を同控訴人が受け取っていることは当事者間に争いがないから、これを損益相殺として損害から控除すると三三八万七九六五円となる。なお、乙アK第三号証によっても、同被控訴人主張の税引前の受取額を確定できないことは前同様である。
イ 過失相殺
同控訴人の年齢、職歴及び投資経験からすると、社債の一般的仕組みや抽象的リスクについて理解する能力を有していたのであるから、第二七回債の購入という投資判断をするに当たり、A17社員に対して、その具体的信用リスクについてその説明を求めることは可能であって、そうであれば、A17社員あるいは同社員が所属する被控訴人野村證券堺支店からその情報の提供を受けることができ、これを検討して第二七回債の購入という投資判断に至らなかった可能性も指摘できるのであり、上記投資判断には同控訴人の落ち度も働いていることは否定できないところ、A17社員による上記説明義務違反の内容及び程度をも斟酌すると、同控訴人の過失は五割とするのが相当である。
したがって、同被控訴人が賠償すべき損害額は一六九万三九八二円(三三八万七九六五円×〇・五)となる。
ウ 弁護士費用
同被控訴人が負担すべき損害としての弁護士費用は、上記損害の約一割に当たる一七万円とするのが相当である。
エ 合計
以上によると、被控訴人野村證券は控訴人X5に対し、民法七一五条に基づく損害賠償として、一八六万三九八二円及びこれに対する不法行為後である平成一二年一〇月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべきである。
五 控訴人らは、被控訴人らの使用者責任とは別に、選択的に債務不履行責任を主張するところ、被控訴人らに控訴人ら主張にかかる信義則上の義務あるいは付随義務として一般投資家に対する配慮義務を負っているとしても、結局、その配慮義務の実質的内容は、被控訴人らの従業員が一般投資家である顧客に対し、その属性に応じて負担するべき情報提供義務及び説明義務に収斂されるものというべきであり、これを超えて証券会社である被控訴人らが抽象的に想定される一般投資家に対して、控訴人ら主張の配慮義務等の債務を措定することは困難であるというほかない。したがって、被控訴人らの使用者責任の有無に関する上記のとおりの判示とは別に、その使用者責任が認められない控訴人らについて、被控訴人らの債務不履行責任を求める請求は理由がない。
六 結論
以上の次第で、控訴人らの請求のうち、控訴人X4、同X2及び同X5の請求は、前記の限度でいずれも理由があり、その余は失当であるから、これをすべて棄却した原判決は変更を免れないが、その余の控訴人らの請求はいずれも理由がなく、これらを棄却した原判決は相当であるから、同控訴人らの本件各控訴をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大和陽一郎 裁判官 黒岩巳敏 市村弘)
別紙一 当事者目録
控訴人(甲事件原告) X1<他4名>
控訴人(乙事件原告) X2<他5名>
控訴人(丙事件原告) X3<他1名>
控訴人ら訴訟代理人弁護士 別紙控訴人ら代理人目録のとおり
被控訴人(甲・乙・丙各事件被告) 野村證券株式会社
代表者代表執行役 A1
訴訟代理人弁護士 高坂敬三 辰野久夫
同訴訟復代理人弁護士 尾崎雅俊 藤井司 阿部宗成 和田慎也 堀村佳奈子
被控訴人(乙・丙各事件被告) 新光証券株式会社
代表者代表取締役 A2
訴訟代理人弁護士 中井康之 山本淳
被控訴人(乙事件被告) いちよし証券株式会社
代表者代表執行役 A3
訴訟代理人弁護士 畑良武 佐野正幸 堀井昌弘 上田憲 小池裕樹 隈元暢昭 村岡友一 渡邉直貴
被控訴人(丙事件被告) 日興コーディアル証券株式会社
代表者代表取締役 A4
訴訟代理人弁護士 板東秀明 田中英行 宮﨑誠司 伊藤真紀 竹内直久 冨田陽子 藤野慶治 名取伸浩 谷井秀夫 本間亜紀 大久保敏雄 関聖
別紙 控訴人ら代理人目録
控訴人(甲・乙・丙各事件原告)ら訴訟代理人弁護士 武井共夫 片岡利雄 三木俊博 松田繁三 山崎敏彦 田端聡 大槻哲也 今井孝直 吉岡康博 古川幸伯 塚田裕二 丸山裕司 田中富美子 上柳敏郎 桜井健夫 田中清治 藤村眞知子 青木知巳 星野秀紀 芳野直子 古澤眞尋 西本暁 石井琢磨 戸張雄哉 大田清則 鋤柄司 正木健司 城野雄博
別紙二 請求の趣旨一覧表《省略》