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大阪高等裁判所 平成19年(ネ)2535号 判決 2008年1月23日

控訴人

被控訴人

X1ほか一名

主文

一  控訴人の本件控訴及び当審における請求の減縮により、原判決中被控訴人X1と控訴人に関する部分を取り消す。

二  被控訴人X1の控訴人に対する請求を棄却する。

三  控訴人の被控訴人X2に対する控訴を棄却する。

四  控訴人と被控訴人X1に関する訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とし、控訴人と被控訴人X2に関する当審における訴訟費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決中控訴人と被控訴人ら関係部分を次のとおり変更する。

二  控訴人は、被控訴人X1に対し、二三八万六一五三円及びこれに対する平成一七年一一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  控訴人は、被控訴人X2に対し、二五二万二五四五円及びこれに対する平成一七年一一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

第二事案の概要及び訴訟の経過

一  本件は、控訴人運転車両が交通事故による衝突後店舗に飛び込むという事故(以下「本件事故」という。)によって、物的損害を被った被控訴人らが、控訴人に対し、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。

争点は、本件事故態様、控訴人の過失の有無、被控訴人らの損害額である。

二  原審は、本件事故につき、控訴人の過失を認め、被控訴人X1については、請求を全部認容し、被控訴人X2については、三六四万五五四五円及びこれに対する平成一七年一一月二一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容した。

三  これに対し、控訴人が控訴を申し立てた。

四  被控訴人X1の当審における請求の減縮

被控訴人X1は、原判決後、原審相被告Aから支払を受けた五〇〇万円を請求元本に充当したとして、控訴人に対する請求を「控訴人は、被控訴人X1に対し、三三万四三二〇円及びこれに対する平成一七年一一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。」に減縮した。

五  本件事案の概要は、六項のとおり付け加え、次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」中「第二 事案の概要」のうち控訴人と被控訴人ら関係部分記載のとおりであるから、これを引用する。

(一)  原判決三頁四行目「本件交差点」を「交通整理の行われていない本件交差点」に、一〇行目「トップ」を「TOP」に改める。

(二)  同九頁二四行目「されたいるため」を「されているため」に改める。

六  被控訴人X1の当審における充当に関する主張

被控訴人X1は、原判決後、Aから支払を受けた五〇〇万円を請求元本に充当した。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所は、被控訴人X1の控訴人に対する本件請求は、理由がなく、被控訴人X2の控訴人に対する本件請求は、原判決主文第二項の限度で理由があると判断するが、その理由は、以下のとおりである。

二  本件事故態様及び控訴人の過失の有無について

以下のとおり付加・補正するほかは、原判決一一頁一一行目「(一)」から一二頁二四行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

(一)  原判決一一頁一一行目「甲一一ないし一三」の次に「(枝番を含む。)」を加える。

(二)  同一一頁一九行目「被告Aは、」の次に「A車両を運転して、」を加える。

(三)  同一二頁一七行目「妨げてはいけない」を「妨げないようにすべき」に改める。

三  被控訴人X1の損害について

(一)  証拠(甲二、三、一〇の一・二)及び弁論の全趣旨によれば、本件建物は、被控訴人X1が所有する(登記簿上の所有者の表示は、「 命連」)平成一五年一二月六日新築の鉄骨・木造合金メッキ鋼板葺三階建店舗・居宅(床面積一階九八・四九平方メートル、二階一〇六・五二平方メートル、三階二七・六四平方メートル)であること、被控訴人X1提出の御見積書(甲三、一〇の一)によると、本件事故による本件建物の損壊の補修工事費用としては、合計四八八万四三二〇円(消費税込み。)を要する見込みであることが認められる。

(二)  控訴人は、上記補修費用のうち、二三八万六一五三円の限度でのみ損害の発生を認める旨主張し、その裏付け証拠として、丙二、一一及び一二を提出する。

(三)  そこで、本件事故と相当因果関係のある本件建物の補修工事費用について検討する。

ア 共通仮設工事について

上記証拠(丙二、一一)によれば、「被控訴人X1提出の御見積書(甲一〇の一)に計上されている共通仮設工事については、本件建物の補修では外部高所での作業はなく、簡易足場にて十分対応できる内容の外部工事となるため、大がかりな足場組は必要ない。工事場所が店舗駐車場に面している外部・内部工事であることと、専用駐車場に面している建物面での工事となるため、ガードマンの配置の必要性はない。内部足場工等について範囲過剰」などの指摘がなされている。

しかし、他方において、本件建物のような鋼製プレハブ構造物については、重量鉄骨ラーメン構造(柱・梁の接点が剛接合で一体となっている構造)と異なり、軽量鉄骨柱とブレース(風などの外力に対し、建物の軸組を強化するために入れる斜め材)を使用し、耐力を持たせて全体のバランスを取っている構造であるため、一部に損傷があると、建物全体への致命的な問題となる場合がよく見受けられ、また、軽量鉄骨を使用していることにより、設計の強度にも元々余裕がないため、今回のような事象が起こった場合には各部を詳しく調査し、少しでも問題が見受けられた場合、予防保全的になるようであっても、損傷箇所を新作交換することが推奨されているとの見解が示されているところ(甲一〇の二)、上記見解は相応の合理性を有するものと認められ、また、本件事故におけるY車両の本件建物への衝突の状況及びその程度は上記認定のとおりであって、丙三ないし五の各写真によっても、本件建物の柱やサッシ等にかなりの損傷が生じており、本件建物全体に相当の衝撃が加わっている可能性も高く、控訴人が主張するような軽微なものとまでは言い難いこと(控訴人は、本件建物の構造は鋼材で成り立っているもので、角柱部分にわずかに擦過痕が認められるに過ぎないことからすると、そもそも角柱自体には具体的な損傷は認められず、建物自体は他のいくつもの角柱によって全体的に支えられているのであるから、なおさら角柱の取替えはもちろん、そのための調査も必要性がないと主張するが、丙三ないし五の各写真によっても、本件建物の柱やサッシ等にかなりの衝撃が加わっていることが窺え、角柱自体にも相当程度の衝撃が加わっている可能性も否定できず、本件建物の損傷状況が、控訴人が主張するような軽微なものとは認められないし、かつ、単なる目視のみで、本件事故による損傷について、建物全体に致命的な問題が生じている可能性がないと判断することはできない。)などを考慮すると、本件建物の全体の損傷状況等の調査等のため、外部高所での作業の必要性は否定できず、したがって、また、ガードマンの配置の必要性も否定できないし、その余の共通仮設工事についても、範囲過剰であるとは認められない。

イ 内装仕上げ工事について

上記証拠(丙二、一一)によれば、「内部工事においては、店舗全面改装内容となっているが、店舗オープン直後であり、内装天井・壁面の部分貼り替え対応に対し、被控訴人X1が懸念する色違いの発生は極めて少ないものと考えられることと、店内什器棚の高さはH一二〇〇~H二〇〇〇と、壁面・天井面を覆うものであり、部分的な施工範囲であったとしても、美観的には、何も配置されていない店内と比較しても、色違いは目立たない。美観を重視した内装全面改装となっているが、美観も含めた復旧を行うとなると、原状復旧の定義(機能回復)を超えた過剰復旧となる。店内埋め込み型エアコンについては、間接的な損傷もなく、店内天井工事に伴った新規交換は過剰復旧である。」などの指摘がなされている。

しかし、本件建物は、不特定多数の顧客の出入りするビデオ等のレンタルショップであり、その内装の状況や美観に対する配慮も、店舗として重要な要素であって、被控訴人X1が、部分補修の場合、新旧継ぎ目が目立つため、床材、壁、天井クロスの貼り替え等につき全面施工を希望するのも無理からぬことであり、店内埋め込み型エアコン取り替え工事を除き、甲一〇の一記載の内装仕上げ工事の内容・程度等が過剰復旧であるとまではいえない。

もっとも、甲一〇の一記載の店内埋め込み型エアコン取り替え工事については、本件事故によりエアコンが取り替えを要する程度の損傷を受けたことや、天井復旧に伴い、エアコン取り替えが必要不可欠であることを認めるに足りる証拠はないから、エアコン取り替えを含めた費用である四五万八〇〇〇円(消費税を除く。)全額を本件事故と相当因果関係のある損害として認めるのは相当ではない。

結局、諸般の事情を考慮し、上記店内埋め込み型エアコン取り替え工事費用については、一〇万円(消費税を除く。)の限度で本件事故と相当因果関係のある損害と認める(なお、丙二においては、上記工事の査定金額は五万円とされている。)。

ウ 外部改修工事について

上記証拠(丙二、一一、一二)によれば、「本件建物は、骨組みが鋼材で成り立っており、屋根・床が建物を支えているものの、重量・建物自体の重さ・風圧・地震時に生じる慣性力等を構造物の機能を失うことなく、地盤に伝達する構造体である。鋼の特質は、非常に大きな力が作用しても急に破断することなく、また、弾性範囲ならば元に戻る性質であるところ、本件は、駐車場に駐車している車両にY車両が衝突してそのまま正面から店内にぶつかったと思われる損害であるが、そのときの衝撃はウインドウの四方向に分散し、縦胴縁(間柱)の変形からはあまり大きな力がかかっていないように思われ、その力が柱に伝達されたとしても、弾性許容範囲であり、柱までも取り替える必要性があるかは疑問である。主要構造部分である角柱損傷の有無に対する調査は必要ない。」などの指摘がなされている。

しかし、本件事故におけるY車両の本件建物への衝突の状況及びその程度は上記認定のとおりであって、また、鋼製プレハブ構造物については、一部に損傷があると、建物全体への致命的な問題となる場合がよく見受けられるとの上記見解を考慮すると、柱の取り替えや主要構造部分である角柱損傷の有無に対する調査の必要性を否定することはできない。

甲一〇の一の外部改修工事の内容及び額は、本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

エ 現場管理費・諸経費について

甲一〇の一の外部改修工事の内容及び額は、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

(四)  したがって、被控訴人X1の本件建物の損害合計額(消費税込み。)は、四五〇万八四二〇円((共通仮設工事費73万6863円+内装仕上げ工事費219万7244円+外部改修工事81万8800円+現場管理費22万5345円+諸経費31万5482円)×1.05)(円未満切り捨て)となる。

また、上記認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、四五万円が相当である。

(五)  そうすると、被控訴人X1は、控訴人に対し、合計四九五万八四二〇円の損害賠償請求権を有するところ、甲一七及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人X1は、原判決後、Aから支払を受けた五〇〇万円を請求元本(弁護士費用を含む。)に充当したことが認められるから、被控訴人X1の損害はすべて填補されたことになる(なお、当審における請求の減縮については、上記充当の主張及び減縮後の請求内容に照らすと、当初の請求のうち、元本五〇〇万円(弁護士費用を含む。)とこれに対する遅延損害金すべてにつき、訴えを取り下げたものと認められる。)。

四  被控訴人X2の損害について

以下のとおり補正するほかは、原判決一四頁一行目「ア(ア)」から一七頁二一行目まで記載のとおりであるから、これを引用する。

(一)  原判決一六頁九行目から一〇行目「多く見積もっても二か月を上回らないものというべきである。」を「二か月を下回らないものというべきである。」に改める。

(二)  同一六頁一二行目「もっとも」から一四行目「合理的というべきである。」を「しかし、甲九、丙三ないし五によって認められる本件店舗の規模、内容等に照らし、一か月あたり五〇万円ほどの利益があったという被控訴人X2の供述(甲一一)は、信用性があるものと認められるから、一か月の休業損害額は五〇万円と認定する。」に改める。

(三)  同一七頁二〇行目「被告らに対し、各自」を「控訴人に対し、」に改める。

三  したがって、控訴人は、民法七〇九条により、被控訴人X2に対し、三六四万五五四五円及びこれに対する平成一七年一一月二一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

第四結論

よって、控訴人の本件控訴及び当審における請求の減縮により、原判決中被控訴人X1と控訴人に関する部分を取り消し、被控訴人X1の控訴人に対する請求を棄却することとし、控訴人の被控訴人X2に対する控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

なお、控訴人と被控訴人X1に関する訴訟費用は、民訴法六四条ただし書により、第一、二審とも全部控訴人の負担とする。

(裁判官 渡邊安一 安達嗣雄 明石万紀子)

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