大阪高等裁判所 平成19年(ネ)2853号 判決 2010年3月30日
控訴人(原告)
X
訴訟代理人弁護士
寺沢勝子
川西渥子
大野町子
渡辺和恵
石田法子
宮地光子
長岡麻寿惠
紀藤正樹
越尾邦仁
島尾恵理
溝上絢子
中平史
相磯まつ江
大脇雅子
久米弘子
大国和江
杉井静子
角田由紀子
石井小夜子
竹川幸子
雪田樹理
梁英子
乘井弥生
有村とく子
射場かよ子
被控訴人(被告)
豊中市(判決中では「被控訴人市」と表記)
代表者市長
A
訴訟代理人弁護士
松浦武
畑村悦雄
被控訴人(被告)
財団法人とよなか男女共同参画推進財団
(判決中では「被控訴人財団」と表記)
代表者理事
B
訴訟代理人弁護士
上原理子
上原健嗣
主文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人らは各自,控訴人に対し,150万円及びこれに対する平成16年2月25日から支払済みまで年5分の割合による金銭を支払え。
3 控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,第1,2審を通じ,2分の1を控訴人の負担とし,その余を被控訴人らの連帯負担とする。
5 この判決の第2項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは,連帯して,控訴人に対し,1200万円及びこれに対する平成16年2月25日から支払済みまで年5分の割合による金銭を支払え。
3 仮執行宣言
第2事案の概要
1 控訴人は,東京都議会議員や大学の教員を務め,男女平等社会の実現に関する著作も多数にのぼる全国的に知名度の高い女性であるが,平成12年9月1日,とよなか男女共同参画推進センター条例に基づき設立された「とよなか男女共同参画推進センター○○」(以下「○○」という。)の運営を被控訴人市から委託されている被控訴人財団に,「○○」の館長として,期間を1年(当初のみ7か月)として雇用され,平成15年4月1日に3度目の雇用期間の更新を受けたものの,以後は組織変更後の館長に採用されることもなく,平成16年3月31日限り雇用契約が終了したものとされた(以下,この更新拒絶を「本件雇止め」という。)。
2 控訴人は,本件雇止めに至ったのは,控訴人が「○○」において,その目的である男女共同参画社会の実現について活発に活動を続けていたことから,反動勢力(いわゆるバックラッシュ勢力)の不当な攻撃の対象となり,被控訴人らがそれらの勢力に屈して,控訴人を疎外して「○○」の組織変更を行うなどしたためであって,本件雇止め及び新館長についての不採用(以下「本件不採用」という。)は違法であると主張して,雇用契約における債務不履行又は共同不法行為による損害賠償請求権に基づき,慰謝料1000万円及び弁護士費用200万円の支払を求めた(遅延損害金の起算日は,新館長の採用試験において不合格とする通知が行われた日)。
3 原判決は,「○○」の組織変更がバックラッシュ勢力に屈して行われたものとはいえず,本件雇止めの動機に不当な点はなく,また,控訴人を新館長に採用しなかったことも違法ではないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。
4 事案の概要及び争点に対する当事者の主張は,原判決「事実及び理由」欄「第2 事案の概要」及び「第3 争点に対する当事者の主張」(2頁19行目から36頁1行目まで)に記載のとおりである。
<以下,控訴審裁判所による付加,訂正を施したうえで原判決の「第2 事案の概要」を引用する。アミカケを施した部分が付加等の部分である。ただし,「第3 争点に対する当事者の主張」は省略した>
「第2 事案の概要
1 前提となる事実(証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがない。以下,証拠を引用するにあたって,枝番のある証拠について,特に枝番を明示しない場合は,全ての枝番を含む趣旨である。)
(1) 当事者等
ア 「○○」の開設
被控訴人豊中市において,「とよなか男女共同参画推進センター条例」が制定され,同条例が平成12年3月31日に公布された。同条例では,「社会のあらゆる分野への男女の均等な参画及び男女の人権の確立を図り,男女が社会の対等な構成員としてその責任をわかち合い,共に築く男女共同参画社会の実現をめざし,豊中市に男女共同参画推進センターを設置する。」と定められている(1条)。
被控訴人豊中市は,同条例に基づいて,「とよなか男女共同参画推進センター○○」(以下「○○」という。)を開設した。
イ 被控訴人財団
(ア) 被控訴人財団は,平成12年9月1日に設立された法人であり,上記条例に基づいて,被控訴人豊中市から「○○」の管理を委託されている。被控訴人財団の寄附行為(<証拠省略>)には,被控訴人財団の事務局に館長及び事務局長その他の職員を置く旨が,定められている。
(イ) C(以下「C事務局長」という。)は,被控訴人豊中市の職員であり,平成12年4月から人権文化部人権啓発課課長補佐の地位にあったが,平成13年4月,被控訴人財団に派遣され,被控訴人財団事務局長兼事業課長に就任した(<証拠省略>)。
ウ 被控訴人豊中市
(ア) 被控訴人豊中市は,被控訴人財団に全額出資している。
被控訴人豊中市において,被控訴人財団に関する事務を担当する部課は,人権文化部及び男女共同参画推進課である。
(イ) D(以下「D部長」という。)は,被控訴人豊中市の職員であり,平成8年4月から人権文化部文化国際課長の地位にあったが,平成13年4月,人権文化部次長兼人権啓発課長に就任し,平成15年4月,人権文化部長に就任した(<証拠省略>)。
(ウ) E(以下「E課長」という。)は,被控訴人豊中市の職員であり,平成10年4月から人権文化部女性政策課長の地位にあったが,同課の名称が,男女共同参画推進課に改称された(<証拠省略>)。
エ 控訴人は,平成12年9月1日,被控訴人財団に,「○○」の館長として雇用された者である。
(2) 控訴人と被控訴人財団との間の雇用契約の成立等
ア 被控訴人財団の設立発起人会等の設置
平成12年4月上旬ころ,被控訴人豊中市の市長(なお,平成10年5月15日から平成18年5月14日までの市長はFである。以下,単に「市長」という。),助役,人権文化部長等を構成員として,被控訴人財団の設立発起人会が設置された(<証拠省略>)。
また,同年4月下旬ころ,同発起人会において,発起人の一部や被控訴人豊中市の人権文化部女性政策課長等を構成員とする,職員採用選考委員会が設置された(<証拠省略>)。
イ 館長の募集要綱の内容
職員採用選考委員会は,「○○」の館長を全国公募することとし,平成12年5月1日,その募集要綱(<証拠省略>)を定めた。
同募集要綱においては,次の点が定められていた。
(ア) 募集職種等
a 職種等 館長(採用予定数は1名)
b 応募資格 男女共同参画社会の実現について,活動の実績があるとともに行動力や情熱があり,積極的に取り組む意欲のある人
c 職務内容 被控訴人財団が行う事業の企画・立案及び実施の統括。財団が実施する講座等の講師
(イ) 選考
1次選考は小論文により,2次選考は面接により実施する。
(ウ) 採用時期及び期間
被控訴人財団設立時から平成13年3月31日まで。就業規則等の基準により更新される場合がある。
(エ) 勤務時間
週22時間30分(週3日勤務。午前9時から午後9時30分までの間の変則勤務。土曜,日曜,祝日の変則勤務もある。)
(オ) 待遇
被控訴人財団の非常勤嘱託職員として採用される。
報酬月額は30万円(所得税等が控除される。)で,交通費,賞与の支給はない。
ウ 控訴人の採用(本件雇用契約)
(ア) 控訴人は,「○○」の館長の採用選考に応募し,1次選考及び2次選考を経た後,平成12年7月28日,職員採用選考委員会から,同年9月1日付けで館長として採用する旨の採用通知書を受領した(<証拠省略>)。
(イ) 控訴人は,同年9月1日,被控訴人財団から辞令書及び採用通知書の交付を受け,被控訴人財団に雇用された(<証拠省略>。以下「本件雇用契約」という。)。
同辞令書には,雇用期間が平成13年3月31日までであることと,注意書きとして,その雇用期間の満了時に任命権者からの別段の意思表示がない場合には再雇用しないものとする旨が記載されていた(<証拠省略>)。
また,同採用通知書には,「任命権者から別段の意思表示がない限り,雇用期間が延長された場合でも,労働条件に変更はない」旨が記載されていた(<証拠省略>)。
エ 「○○」のオープン
「○○」は,平成12年11月17日にオープンした。
オ 本件雇用契約の更新
(ア) 控訴人は,平成13年4月1日,被控訴人財団から,雇用期間を平成14年3月31日までとする辞令書及び雇用通知書の交付を受けた(<証拠省略>)。
(イ) 控訴人は,平成14年4月1日,被控訴人財団から,雇用期間を平成15年3月31日までとする辞令書及び雇用通知書の交付を受けた(<証拠省略>)。
(ウ) 控訴人は,平成15年4月1日,被控訴人財団から,雇用期間を平成16年3月31日までとする辞令書及び雇用通知書の交付を受けた(<証拠省略>)。
(エ) これらの辞令書には,注意書きとして,その雇用期間の満了時に任命権者からの別段の意思表示がない場合には再雇用しないものとする旨が明記されていた(<証拠省略>)。
また,これらの雇用通知書には,「任命権者(使用者)から別段の意思表示がない限り,雇用期間が延長された場合でも,労働条件に変更はない」旨が記載されていた(<証拠省略>)。
(3) 館長の就業規則の内容
被控訴人財団の「館長就業規則」(平成14年4月1日改正後のもの)には,次のような規定がある。
ア 雇用期間(3条)
館長の雇用期間は,1年以内とする。
イ 雇用期間の更新(4条)
雇用期間が満了した館長については,その者の能力及び経験等を考慮し,業務の効率的な運営を確保するため必要があると認められる場合は,その雇用期間を更新することができる。
ウ 休暇等(11条)
年次有給休暇の付与日数が「2年度目」ないし「8年度目以降」の各期間ごとに定められている。
(4) 控訴人が「○○」において行った企画や事業の概要
控訴人は,「○○」において,英語でフェミニズムを教える「英語でエンパワーメント」と題する講座や,北欧における男女共同参画に関する状況を伝える講演会,ポスター展や映画鑑賞会,男女共同参画に関する出前講座などの企画や事業を行った。
(5) 「○○」の活動に反対する動き
平成14年ころから,「○○」の活動に対する批判的な動きが現れるようになり,平成14年12月,C事務局長名義で「豊中市と○○へのバックラッシュ(ある勢力の攻撃)の件」と題する文書を被控訴人財団の理事らにファックス送信したところ,平成15年11月,その内容について,一部の豊中市議会議員と市民から強い抗議を受けた(なお,「バックラッシュ」とは,もともと,「反動」「逆流」という意味であるが,米国における女性解放への組織的攻撃に関する著作「バックラッシュ」から,男女平等への反動を意味する言葉として使用されることがある。)。
(6) 豊中市男女共同参画推進条例
ア 男女共同参画推進条例制定の提言
平成11年6月23日,男女共同参画社会基本法(平成11年法律第78号)が制定され,その後,各地方自治体は,次々と男女共同参画条例を制定していった。
被控訴人豊中市においても,平成14年3月,豊中市女性問題審議会が,「豊中市における男女共同参画社会の実現をめざす総合行政のあり方について」と題する答申(<証拠省略>)をまとめ,条例の必要性を被控訴人豊中市に提言した。
イ 本件推進条例の制定
被控訴人豊中市は,上記提言を受け,豊中市男女共同参画推進条例(以下「本件推進条例」という。)の制定の準備をし,平成15年3月の制定を予定していたが,上程を延期し,平成15年9月議会に条例案を上程し,平成15年10月10日,本件推進条例が制定された。
(7) 被控訴人財団事務局職員体制の見直し
ア C第1次試案
C事務局長は,平成14年8月19日付C試案として,「とよなか男女共同参画推進財団事務局職員体制の整備について」と題する文書(<証拠省略>)を作成し,これを被控訴人豊中市の人権文化部に提出した(以下「C第1次試案」という。)。
同試案には,課題として,非常勤館長職の見直し,事務局長・事業課長職のプロパー化,有期雇用職員の雇用契約更新期限などが記載されていた(ここでいう「プロパー」とは,豊中市職員による派遣ではなく,被控訴人財団が直接雇用契約を締結する職員のことをいう。)。
イ C第2次試案
C事務局長は,平成15年5月25日付C試案として,「とよなか男女共同参画推進財団職員体制の整備について」と題する文書(<証拠省略>)を作成し,これを被控訴人豊中市の人権文化部に提出した(以下「C第2次試案」という。)。
同試案にも,課題・問題点等が記載されていた。その内容は,C第1次試案とほぼ同内容であるが,留意事項が付加されるとともに,体制整備の方向が明示されていた。
ウ 職員体制の整備に関する協議と方針の決定
(ア) 事務レベルの協議
平成15年10月ころ,被控訴人財団と被控訴人豊中市との間で,被控訴人財団事務局の職員体制の見直しにつき事務レベルの協議がなされ,一定の方針が固まり,そのうち,非常勤館長職については廃止し,プロパー職員による事務局長に一本化することとされた。
(イ) 理事長の了承
平成15年10月30日,D部長とE課長は,被控訴人財団理事長に面談し,上記職員体制の見直しについての協議結果を報告し,了承を得た。
その際,理事長から,D部長らに対し,非常勤館長職を廃止する以上,控訴人は雇止めとなるため,控訴人に対し,説明しておくよう指示があった。
エ 控訴人への説明
D部長は,被控訴人財団理事長の指示により,平成15年11月8日,控訴人に面談し,上記ウの協議の結果(方針)を控訴人に説明した。
その際の説明内容と,控訴人の返答内容については,後記のとおり争いがある(控訴人の主張1(2)オ(ア),被控訴人らの主張1(2)カ参照)。
オ 被控訴人財団理事会(平成16年2月1日開催)による組織変更の決定
被控訴人財団では,平成16年2月1日,平成15年度第3回臨時理事会が開催され,被控訴人財団の事務局職員体制の変更が議案として審議され,館長職の常勤化などが可決された(以下「本件組織変更」という。なお,事務レベル協議の結果では,館長は事務局長と一本化し,名称も事務局長とする予定であったが,被控訴人財団の寄附行為に館長を置くことが定められているので,常勤の館長を配置し,事務局長を兼務させることとなった。)。
(8) 本件雇止め
被控訴人財団は,平成16年4月1日以降,「○○」の館長を常勤としたことから,平成16年3月31日で満了する控訴人の雇用を継続することをしなかった。
その結果,控訴人の本件雇用契約は,平成16年3月31日の満了をもって,終了した(以下「本件雇止め」という。)。
(9) 常勤館長の選考
ア 被控訴人財団は,平成16年度以降「○○」の常勤館長の選考について,公募ではなく,選考することとし,選考委員会を設置することとした(以下,この選考手続を「本件選考手続」という。)。
イ 候補者の決定
常勤館長の選考対象の候補者として,被控訴人豊中市からG(以下「G」という。)が推薦されていたが,控訴人が,常勤館長職への採用を希望していたことから,控訴人も候補者に加え,Gと控訴人に対し,選考試験を実施し,選考することとした。
ウ 選考結果
平成16年2月22日,Gと控訴人に対し,被控訴人財団の選考委員会において,選考試験が実施され,その結果,Gが合格し,原告は不合格となった(<証拠省略>。以下「本件不採用」という。)。
2 控訴人の請求
控訴人は,本件雇止め及び本件不採用がいずれも違法であり,その結果,精神的苦痛を受けたとして,本件雇止め及び本件不採用をした被控訴人財団並びにこれらを主導した被控訴人豊中市に対し,共同不法行為に基づく慰謝料1000万円及び弁護士費用200万円並びにこれらに対する遅延損害金(平成16年2月25日から支払済みまで年5%の割合による)を連帯して支払うよう求めている。
3 争点
(1) 本件雇止めの違法性
ア 本件雇用契約更新に対する期待
イ 本件雇止めの必要性(組織変更の必要性)
ウ 本件雇止めの動機(不当目的の有無)
(2) 本件不採用の違法性
ア 優先的採用の義務
イ 本件選考手続における不当目的(控訴人排除目的)の有無
ウ 本件選考手続における手続違反の有無
(3) 共同不法行為の成否
(4) 損害
第3 争点に関する当事者の主張(省略)」
<以上,引用>
第3当裁判所の判断
1 本件に至る事実関係については,原判決「事実及び理由」欄「第2 事案の概要」の「1 前提となる事実」(2頁20行目から10頁13行目まで)及び以下のとおりである(斜体文字部分が当裁判所の補正個所である。これとは別に,原判決認定事実から削った部分もある。<斜体文字部分を正体文字に直したうえでアミカケを施した>)。
(1) 被控訴人財団の設立と「○○」の設置
(1)-1 被控訴人市は,豊中市女性問題審議会から女性センター設置の答申(第4次答申,平成4年5月29日)(<証拠省略>)を受け,平成7年に学識経験者や市民等による「豊中市女性センター基本構想検討委員会」を設置し,平成8年12月12日,同委員会から「『(仮称)豊中市女性センター』の基本構想について(提言)」(<証拠省略>)を得た。
被控訴人市は,この提言に基づき,女性センターの設置の検討を進めてきたが,平成11年6月23日に男女共同参画社会基本法が施行されたことも受けて,地方公共団体として同基本法の理念や提言の実現を図るものとして平成11年秋ころ,次のことが構想された。
(ア) 男女共同参画社会の実現を目指す拠点施設として平成12年秋ころ,「とよなか男女共同参画推進センター○○(当時は(仮称)女性総合センター)」を開設する。
(イ) この施設を利用して男女共同参画を推進するための事業を展開する財団を設立し,豊中市はこれと連携し支援,助言等を行い,共に男女共同参画社会の実現を期する。
(1)-2 前記(1)-1の(ア)に基づき,平成12年3月「とよなか男女共同参画推進センター条例」が制定され(<証拠省略>),「社会のあらゆる分野への男女の均等な参画及び男女の人権の確立を図り,男女が社会の対等な構成員としてその責任をわかち合い,共に築く男女共同参画社会の実現をめざし,豊中市に男女共同参画推進センターを設置する。」(同条例第1条)とし,
名称 とよなか男女共同参画推進センター○○(「○○」)
位置 豊中市<以下省略>
として,設置されることとなった。
なお,この施設の床面積は4492m2であって全国有数の規模である。
(1)-3 前記(1)-1の(イ)に基づき,被控訴人市の市長を設立代表者とし,学識経験者,助役等を含む5名からなる「財団法人とよなか男女共同参画推進財団(仮称)設立発起人会」(以下「設立発起人会」という。)が発足し,財団の設立が進められ(<証拠省略>),平成12年9月,寄附行為の目的を「この法人は,豊中市及び関係団体等と連携をとりながら,豊中市域において社会のあらゆる分野への男女の均等な参画の推進及び男女の人権の確立を図る事業を行い,もって男女共同参画社会の実現に寄与することを目的とする。」(甲2の第3条)として被控訴人財団が設立された。
なお,被控訴人財団設立の際の基本財産1億5000万円は,すべて被控訴人市からの寄附によっている(<証拠省略>)。
また,設立後の運営資金についても,ほぼその全額を,被控訴人市が支出している。
(2) 館長の公募
(2)-1 前記設立発起人会は,財団職員採用選考委員会を設置し,職員の選考に当ることになり(<証拠省略>),平成12年5月,館長募集要綱を下記のとおり定め(<証拠省略>),そのころから,民間情報誌等に館長募集記事を掲載したり,市内公共施設,全国の女性センター等に館長募集のちらしを置くなどして広報活動をし,館長の公募を行った。
(ア) 採用時期及び期間
被控訴人財団の設立時(平成12年9月1日予定)から平成13年3月31日まで(就業規則等の基準により更新される場合がある。)。
(イ) 勤務時間
週22時間30分(週3日勤務。午前9時~午後9時30分までの間の変則勤務)。
(ウ) 待遇
被控訴人財団の非常勤嘱託職員として採用
報酬月額30万円(交通費,賞与の支給はない。)
(エ) 職務内容
財団が行う事業の企画・立案及び実施の統括。財団が実施する講座等の講師
(2)-2 「○○」の館長職を公募の非常勤にした理由
平成11年の秋ころ,被控訴人市は,平成12年度の開設をめざす女性総合センターの館長の採用・雇用形態について「公募と非公募」及び「常勤と非常勤」の是非について検討を行った(<証拠省略>)。その中で,公募の場合,地域性が欠けるおそれ,非常勤の場合,マネジメントに欠けるおそれなどのデメリットが指摘されたものの,全国公募の場合「○○」の業務を立上げる時期にふさわしい人材を求めることができること,また,非常勤の場合,業務を推進していく過程のなかで相当でないと認められる場合や職員体制の改正の必要が生じた場合等,これに対応して雇用関係の解消ができるメリットが指摘された。
設立発起人会は,こうした被控訴人市の検討結果を踏襲し,「○○」の館長を,非常勤職とした上で,全国公募することとした(<証拠省略>)。
(3) 館長就任
(3)-1 控訴人の経歴
控訴人は,大学(英米文学専攻)を卒業後,財団法人の企画部員や,都立高等学校の英語科教員を勤めた後,フルブライト奨学生となり米国コロンビア大学に留学し,比較教育学,女性学を専攻した。
帰国後,昭和62年,東京都議会議員に立候補し,当選後2期勤めた。
都議の任期終了後,女性政策や公共福祉政策の評論活動に携わるようになる一方,a大学社会福祉学科やb大学法学部政治学科において教鞭をとっていた。
なお,後述するように,控訴人は,平成12年9月1日から,被控訴人財団に雇用され,「○○」の館長に就任したが,その一方で,平成13年3月まで,b大学法学部政治学科での兼任教員を勤め,平成13年8月からは,c市男女共同参画センター名誉館長に(平成14年3月まで),平成14年6月からは,c市男女平等オンブッドに就任した。
(<証拠省略>)
(3)-2 控訴人の著作
控訴人は,昭和59年から,共著,翻訳を含め,「働く女が明日を拓く」「女たちは地球人」「見わたせばあらッ男ばかり」「マジョンナ・マジョリティ宣言」「O(オー)の物語」「アファーマテイブ・アクション」「桃色の権力」「セクハラ110番」「ママは大臣パパ育児ヨーロッパをゆさぶる男女平等の政治」「男女平等オンブッド」「男を消せ!ノルウェーを変えた女のクーデター」などの著作を有している。
また,新聞や雑誌,ホームページなどに多くの論文などが掲載されている。
(<証拠省略>)
(3)-3 控訴人の応募,採用(本件雇用契約の締結)
控訴人は,館長採用選考に応募し,小論文による第1次選考及び面接による第2次選考を経て,平成12年9月1日付けで被控訴人財団の事務局館長として採用する旨の財団職員採用選考委員会名の同年7月28日付け採用通知書を受け取った(<証拠省略>)。
被控訴人財団は,平成12年9月1日に設立され,同日,控訴人との間で,雇用期間を同日から平成13年3月31日まで,業務内容は財団事業の統括業務等,勤務時間は週22時間30分とする雇用契約(本件雇用契約)を締結した。
そして,控訴人に対し,「財団法人とよなか男女共同参画推進財団非常勤職員を命ずる。月賃金30万円を給する。財団法人とよなか男女共同参画推進財団事務局館長に補する。ただし,非常勤職員としての雇用期間は平成13年3月31日までとする。(注)上記雇用期間満了時に任命権者から別段の意思表示なき場合は再雇用しないものとする。」と記載された平成12年9月1日付け採用辞令を交付した(丙7,8)。
(4) 契約更新
(4)-1 控訴人は,平成12年9月1日から館長として勤務し,平成12年11月17日,被控訴人財団が運営する「○○」が開館した。
控訴人の知名度は高く,「○○」の館長として事業の企画・立案や講座の講師を務める等,本件センター立ち上げ段階の存在感を高めるという所期の目的には添うものであった。
(4)-2 本件雇用契約の更新
被控訴人財団は,控訴人の雇用期間の満了する平成13年3月31日の1か月以上前に,控訴人の日常の業務遂行状況を検討し,次年度も雇用の必要性を認めて,更新することとした。
被控訴人財団理事長が確認した後,被控訴人市人権文化部長が,被控訴人財団の理事として,被控訴人財団の雇用契約更新の意向を控訴人に伝えたうえで,控訴人の意向を確認し,その後,控訴人に対し,雇用期間を1年とすること等の労働条件を記載した平成13年4月1日付け雇用通知書及び採用辞令を交付した(甲3,丙9)。
平成14年3月及び平成15年3月の雇用期間満了時についても,同様,次年度も控訴人を非常勤館長として雇用する必要性が認められたので,それぞれ更新することとなり,初回更新時と同様の手続がとられた(甲4,5,丙10,11)。
(5) 「○○」館長としての活動
控訴人は,「○○」の館長として,次のような企画や事業を行った。
(5)-1 「○○」出前講座
控訴人は,市内の団体やグループの求めに応じて地域の中に,いわば出張して講演を行う「館長出前講座」を行っていた(<証拠省略>)。
控訴人が行ってきた「出前講座」は,女性問題に取り組む団体等だけを対象とするのではなく,自治会や老人会,学校,私企業等,広範な市民を対象としてきた(<証拠省略>)。
(5)-2 ジェンダー問題講座
控訴人は,平成12年11月から,「○○」内で開催するジェンダー問題基礎講座を企画して,実施してきた。
この講座では,ファッション,インターネット,スポーツ,PTAなど身近なテーマをジェンダーの視点で考えるというものであった。
控訴人は,企画運営だけでなく,自ら講師を3回,司会を5回務めた。
(<証拠省略>)
(5)-3 講座「世界のフェミニズム」
控訴人は,平成14年,「世界のフェミニズム講座」の企画に着手し,同年秋には3回シリーズでこれを運営し,司会も務めた。この講座は「地球規模で考えようパート1」の続編として行われたものである。
(5)-4 英語でエンパワーメント
控訴人は,市民の関心や要求を満たしつつ,併せて女性問題への関心を惹起する企画として,「英語でエンパワーメント」講座を企画,実施した。この企画では,控訴人自ら,英語教育の専門家としての知識を生かして,手作りでテキスト及び指導要領を作成した。
この企画は,インターネットの練習ができるし,ネィティブの英語に触れることができるとして,人気は上々で,毎年継続開催されていた。
(<証拠省略>)
(5)-5 「北欧の風をあなたに全4回シリーズ」
控訴人は,平成13年5月,自らがノルウェーで研究した関係から,ノルウェーの女性起業家や駐日ノルウェー外交官等を講師に招くなどの企画を実施した。
(5)-6 スカンジナビア政府観光局との共催セミナー
控訴人は,平成13年5月,スカンジナビア政府観光局との共催で「スカンジナビアからのメッセージ~女性の視点で語る~」を企画,開催した。
(5)-7 ノルウェー初の女性党首の講演,男女平等オンブッドの講演
控訴人は,平成15年5月,ノルウェーから同国で初めての女性党首で,クオータ制(性による割当制)を政党に導入した,オスロ大学名誉教授ベリット・オースを招聘して,講演会を企画,運営した。
また,同年11月,ノルウェーから男女平等オンブッドを招き,講演会を開催した。
(<証拠省略>)
(5)-8 学校や企業とのタイアップ
控訴人は,学校への出前講座等を通じ,教員との協議を重ね,学校における男女平等教育の実施のために,「○○」が副教材作りに協力するという構想を有していた。
(<証拠省略>)
(5)-9 女性議員との懇談会,市民との協力
控訴人は,「○○」の活動に理解を得るため,豊中市議会議員に企画への招待状を送付したりしていたが,更に,党派を超えた女性議員の懇談会を企画し,第1回目の企画を開催した。
(5)-10 ポスター展
控訴人は,平成13年6月,控訴人が16年間にわたり収集してきた各国の女性運動のポスター100枚をパネル化し,解説,展示するという「北欧・EUポスター展」を企画し,実施した。
当初,北欧のものが中心であったが,他の諸国のポスターも見たいという要望を受け,さらにポスターを収集しながら,継続的に行っていた。
記念事業での展示も含めると10回に及ぶ展示となった。
(<証拠省略>)
(5)-11 映画鑑賞
控訴人は,平成14年12月,「デンマーク初のシェルターができるまで~王妃が残したメッセージ」と題する会を企画し,ドキュメンタリー映画「ダナーとその娘たち」を上映した。この映画は,控訴人が,自ら監督の自宅に赴き購入したものであった。
(<証拠省略>)
(6) 一部勢力の動き
(6)-1 「○○」の活動に批判的な団体による動き
次のとおり,平成14年ころから,「○○」の活動に対する批判的な動きがあった(<証拠省略>)。
(ア) 貸室申込み
平成14年7月8日,Hと名乗る者が来館し,「ジェンダーフリーの危険性を学ぶ」という主旨の勉強会をするということで,「○○」の貸室の申込みがあったが,「○○」は,会合名から,「○○」の設立目的に反すると判断し,目的外使用であるとして使用を断った。
しかし,同人は,被控訴人市女性政策課に抗議し,貸せないなら文書で回答することを求めた。その結果,被控訴人市は,一般使用として認めるに至り,同年8月30日,一般使用がされた。
なお,「とよなか男女共同参画推進センター条例」は,「○○」の事業の1つとして施設の提供を定めており,目的使用と,一般使用がある。
目的使用とは,男女共同参画の推進に関する会議,研修,催しなどのための使用であり(同条例3条1項6号),一般使用とは,「○○」の設置目的を達成する事業に支障がなく,市長の承認を得た場合の使用である(同条例3条2項)。市長は,Hの活動が「○○」に対する嫌がらせを目的とすることを知悉しながら,さらなる同人の不当な攻撃を回避するため,上記8月30日の貸室使用を認めたのであり,これは「○○」の貸室としては上記条例に規定の一般使用としても許されないものといえる。なお,Hについてはその後,『教育再生・地方議員百人と市民の会の事務局長であるHが,平成20年12月と平成21年1月との2回にわたり,ほか1名とともに,西宮市内の女性の市立学校長を,「西宮市教職員組合の役員を務める男性教諭を処分しろ。入学式に街宣車を出して抗議活動をする」と脅迫した罪で逮捕された』ことが,新聞に報道されている(<証拠省略>)。
(イ) 平成14年7月18日,「△△サークル」の女性が来館し,「ジェンダーフリーについての勉強会」をしたいということで貸室の申込みがあったが,同年9月14日,一般使用がされた。
(ウ) 平成14年7月25日,豊中市議会7月臨時会本会議代表質問で,新政とよなか所属のI議員が「条例の制定」について,方向性,時期,検討段階での市民意見の反映は,宇部市の条例と比較してどうかなどと質問をした(<証拠省略>)。
(エ) 平成14年8月2日,豊中市議会7月臨時会総務常任委員会でI議員が,「条例」について,宇部市の条例(男らしさ・女らしさの尊重,専業主婦を評価)が良いかどうか,苦情処理機関の内容などの質問をした(<証拠省略>)。
(オ) 平成14年9月,「豊中教育改革市民会議」の男性が来館し,「男女共同参画社会をめざす家庭教育講演会」の名目で貸室の申込みがあり,同年11月16日,目的使用がされた。
同講演会では,小児科医師のJが講演し,その内容は,日本の伝統的子育てを是とし,保育・介護の社会化を進める北欧モデルを非難するものであった。控訴人は,同月17日における「○○」の会議において,貸室使用の判断基準について「○○」の設立趣旨に立ち返ってほしいと要望したが,被控訴人市からの反応はなかった。
(カ) 平成14年10月11日,「『男女共同参画社会』を考える市民の会」が豊中市役所前と豊中駅前で街宣活動(ちらし撒きと演説)をし,さらに,Hが来館の上,ちらしを「○○」に置いて欲しいと要求したが,断った。同月18日,I議員が,市議会において『「○○」や学校図書館の蔵書からジェンダーフリーの本を廃止せよ』と迫った。
(キ) 平成14年10月25日,豊中市議会決算委員会でI議員が「○○情報ライブラリーの選書」などについて質問をし,女性問題審議会の構成と人選方法や,ライブラリーに,家族を崩壊させたり,フリーセックスをすすめる本が多いが選書は誰がしているかなどと尋ねた(<証拠省略>)。また,I議員は,翌26日,『日本会議』傘下の団体が大阪市内で開催した集会において,「○○」がジェンダーフリーの拠点となっていると述べた(ここでは,ジェンダーフリーの用語を,フリーセックスを奨励し,性差をすべてなくして,家族を崩壊させ,社会を混乱に陥れるおそれのある思想と曲解して用いている。)。
(ク) 平成14年11月21日,被控訴人財団と豊中市社会福祉協議会の共催の「第4回ふれあい市民福祉講座-男女共同参画イロハのイ(講師:控訴人)」において,一市民と称する女性二人から,質問時間に,「結婚しているか。子供がいるか。子育てと介護は私には喜びだ。」「宇部市条例に賛成か否か,自衛隊への女性進出の是非は。」などと,講演内容と関係のない唐突で嫌がらせとしか理解できない質問,発言があった。控訴人は,全てに回答したが,会終了後も会場の女性一人が事務局前まで追いかけてきて,控訴人にもっと時間をとってくれ,「都議の□□先生と懇意である。」などと迫った。
交換した名刺によると,上記(ア)の男性と同じ事務所(「教育再生地方議員百人と市民の会」であり,I議員が理事長を務めていた。)が記載されていた。
(ケ) 平成14年11月22日,前記(ク)の女性の一人から控訴人宛に手紙があり,「質問したいことがあるから,会って話をしたい。29日までに返事を。」とあったが,控訴人は,同年11月29日,要望にそえない旨の返事を出した。
これに対し,同年12月2日,前記(ア)の男性から被控訴人市の女性政策課に対し「『○○』から会えないとの返事が来た。市から,会うように指導しろ。」との電話があった。
また,同年12月2日,前記(ア)の男性から「○○」に対し「なぜ会えないのか。税金を使っているところが,一市民の要望に応えないのか。」との電話があった。
(コ) 平成14年12月3日,「『男女共同参画社会』を考える市民の会」が,豊中市役所前で街宣活動(控訴人を名指しで,C事務局長を職名で中傷するちらし撒き(<証拠省略>))をし,前記(ア)の男性が,「税金を使ってる財団だから,館長に会うように市が指導監督しろ。」と言って,豊中市役所を訪れた。
(サ) 『男女共同参画を考える豊中市民の会』は,平成15年1月,ホームページにおいて後記本件推進条例に反対する署名活動に協力するよう呼びかけるとともに,その主催する講演会に市民を誘うビラ(<証拠省略>)を配布したが,その内容は男女共同参画の推進政策を中傷し,故意に誤解を与えるものであった。また,同年2月14日,同会の代表者K名義で,同条例に反対する立場からの要望書(<証拠省略>)が公にされた。同年夏には,匿名の嫌がらせの電話や,『L』や『M』を名乗る者が,「○○」の職員に対し,嫌がらせの電話をかけたり,来館したりした。同年9月1日には,I議員の所属する市議会会派「新政とよなか」の機関誌(<証拠省略>)に,後記本件推進条例を危険視する意見が登載された。
(6)-2 ファックス事件
(ア) ファックスの送信
前記(6)-1の出来事が続いたことから,控訴人やC事務局長は,「○○」の目的や事業内容に反対する者による攻撃であると考え,平成14年12月4日,被控訴人財団の理事,監事,評議員に対し,C事務局長名義で,「豊中市と○○へのバックラッシュ(ある勢力の攻撃)の件」と題する文書(<証拠省略>。以下「本件ファックス文書」という。)を交付もしくはファックス送信した。
その要旨は次のとおりである。
a 男女共同参画に対するバックラッシュが激しくなっている。
b 被控訴人市は,平成15年3月の市議会への条例提出に向けて準備しているが,こうした中,平成14年夏ころからバックラッシュの動きが見え始め,現在かなり顕著になっている。
c 被控訴人市を対象としたバックラッシュに関する動きの概要(前記(6-1)をまとめた一覧表)と,市役所前で撒かれたビラを添付する。
d 今後とも,「○○」事務局への理解,支援,協力をいただきたい。
(イ) I議員らからの苦情
ところが,このファックス文書が,外部に漏出し,I議員や,ファックス文書中イニシアルで記載された市民の知るところとなり,平成15年11月12日,上記市民らとともに,控訴人やC事務局長に面談したいとの申し入れがあった(I議員が,電話で,人権文化部長を怒鳴りつけたものである)。
控訴人と事務局長は,I議員の呼出を受け,同年11月15日(土曜日),人気の少ない豊中市庁舎において,午後7時から10時まで,被控訴人市男女共同参画推進課のE課長とN主幹の同席のもと(D部長は同席していない。),同議員や市民「男女共同参画社会を考える豊中市民の会」の女性3名から,「○○はXカラーに染まっている。」「私達はXさんを館長にしている市の責任を問題にしている。」などと時折,大声で口を挟み,最後に机を叩くなどして糾弾を受けるとともに,①文書に記載された個人への謝罪,②被控訴人市の広報及び被控訴人財団の機関紙である「○○ジャーナル」への謝罪文の掲載,③FAX送信記録の提出,④以上の要求に対する対処方法を文書で回答すること等を強く要求された。
(ウ) 被控訴人市の対応
被控訴人財団と被控訴人市は,前記(イ)の申し入れに対する対応策を協議し,①当該文書は,事務局長が職務上の必要から財団理事らに報告した内部文書であり,文書の内容自体には何ら問題はないので,文書の内容については謝罪しない,しかし,内部文書を外部に漏洩し易いファックス送信という手段を用いて送信したために,結果的に外部に漏洩し,迷惑を掛けたのであるから,かかる送信手段を用いたことが不適切であったという点について関係者に謝罪する,②謝罪は直接会って行うこととし,文書での回答はしない,③被控訴人市の広報や被控訴人財団の機関誌等には謝罪文を掲載しない,④事務局長に対し,ファックス送信という手段を用いたことについて注意を行うという方針を決定した。
被控訴人市と被控訴人財団は,I議員らに対し,上記趣旨に沿った回答をしたが,上記市民からは,文書の内容が問題なので,内容については謝罪せずに,送信手段をファックスで行ったことだけを謝罪するのであれば,謝罪しに来る必要はないと拒絶されるなど,納得を得られなかった。
結局,①,②の謝罪はせず,③については,既定の方針どおり,被控訴人市や被控訴人財団の広報等には謝罪文を掲載しなかった。そして,④については,C事務局長に対し,外部に漏洩し易いファックス送信という手段を用いたことについて,口頭による厳重注意処分を行った。
なお,館長としての控訴人の責任については,C事務局長の上司としての監督責任をD部長が問題とし,本件雇止めの直前に,被控訴人財団の理事長が控訴人に始末書の提出を求めたりもしたものの,もともとファックス事件における上記対処方針は,事案の本質から離れて一部勢力に迎合しようとするものであって,控訴人も当然のこととしてこれを拒否したこともあって,何の処分も行われなかった。
(<証拠・人証省略>)
(6)-3 講演会における控訴人の発言に関する噂を巡るやりとり
(ア) 平成15年9月9日,議会への本件推進条例の上程を目前に控えてD部長(被控訴人市人権文化部長)とE課長(男女共同参画推進課長)が各派へ説明に回った際,副議長から「館長が講演会で専業主婦は頭が悪いといっているとの噂がある。」との話を聞いた。D部長とE課長は「そのようなことを言うはずがありません。」と即座に否定した(<証拠省略>)。
(イ) D部長は,被控訴人市における今後の男女共同参画の推進及び被控訴人財団の今後の活動に大きくかかわる条例の上程前のことでもあり,その審議への影響も懸念して,念のためC事務局長にこの話を伝えたが,事務局長からはそのような発言はありえないとの回答を得た(<証拠省略>)。
(ウ) 一方,平成15年9月11日,事務局長から上記経緯の報告を受けた控訴人は,C事務局長と共にD部長とE課長を訪問し,「副議長の発言はX個人に対する名誉毀損というばかりでなく,○○の存在にもかかわる問題である。今から副議長に発言内容を質しに行きたいので同席してほしい。」と述べた。
D部長は,副議長が,控え室において,D部長とE課長に対して「噂がある。」と述べただけであるので,名誉毀損にあたるかどうか疑わしく,条例上程前に流された噂であり,条例案審議に影響を及ぼすための挑発活動として噂が流された等の意図的なものを感じたため,「館長の立場として慎重に対処した方がよい。」と制止した。さらに「1週間後に自分も同行するので,法務局へ人権侵害事件として調査を依頼した方がきっちり対応できて効果的であるので上程が済むまで1週間待ってほしい。」と依頼した。しかし,控訴人は,事を大きくしたがらないD部長の態度に反発し,あくまで副議長(O)との面談を望んだところ,D部長はやむを得ないものとして。いったんは控訴人個人として行くことについて同意し,その場で,Oに電話をかけて面談日を設定した。
しかし,その後,D部長は,やはり条例審議に影響が出ないかとの懸念があったため,控訴人に電話し,個人として副議長に面談しても,受け取る方は館長が抗議に来たということになる旨を伝えるとともに,市としては,再三(面談の中止を)要望したにもかかわらず,控訴人独自の判断で行動したと理解するしかない旨を伝えた。また,C事務局長も同様の考えから,何度か電話やメールで再考を依頼した。
これに対して,控訴人は,C事務局長に対し,副議長との面談に同席するよう求めたが,断られた。
結局,D部長やC事務局長からの再三の要請にもかかわらず,控訴人は,同年9月18日,副議長に面談した。
(<証拠省略>)
なお,I議員ら『新政とよなか』の市議会議員全員が,平成15年11月27日,控訴人が「男女平等オンブッド」を務めるc市を視察名目で訪れた。また,平成16年2月1日,『新政とよなか』の市議会議員が,c市議会議長に「cにもXが行っているやろ。あれはやめさせなければいかん」と話した。その後,c市では控訴人のオンブッドとしての再任を拒否した。
(7) 本件推進条例等の制定
(7)-1 豊中市女性問題審議会の答申
平成11年に男女共同参画社会基本法が制定され,各地方公共団体において,男女共同参画条例が制定されたが,被控訴人市においても,平成14年3月,豊中市女性問題審議会は,「豊中市における男女共同参画社会の実現をめざす総合行政のあり方について」と題する答申(<証拠省略>)をまとめ,条例の必要性を被控訴人市に提言した。
(7)-2 条例案の策定作業と上程の延期
被控訴人市は,「豊中市男女共同参画推進条例」(<証拠省略>)及び関連条例である「豊中市訴訟等に係る資金の貸付けに関する条例」(<証拠省略>)の制定に向け,準備を始め,平成15年3月の制定を予定し,同年2月ころまでには,条例案をまとめていた。
しかし,被控訴人市としては,平成14年3月の答申が出されてから,これを攻撃する議会での質問が数多く行われており,本件推進条例についても,I議員らの攻撃が激しく,このままでは同条例の議決に懸念がもたれる情勢にあった。
しかも,平成15年4月には市議会議員選挙も控えており,このまま上程して,審議が長期化して継続審議となった場合,議員の任期満了により,自動廃案となる可能性も否定できないと判断し,急遽,平成15年3月議会に上程することを延期した。なお,平成15年2月20日に被控訴人市と市民との条例制定をめぐる懇談会では,被控訴人市側の発言として,上程断念はバックラッシュ勢力の力が大きかったと述べられており(<証拠省略>),同月28日の『日本会議大阪女性部会』は条例上程延期を歓迎するとの声明を出している。
(7)-3 条例の制定
上記各条例案は,平成15年9月16日,豊中市議会に上程され,同年10月1日議会で承認議決を得て,同年10月10日公布された。同条例案が議決された市議会では,I議員は執拗に反対の討論を行ったが,議決に際しては賛成に回った(これより前,同年5月に,同人は被控訴人財団の評議員に就任した。)。
(7)-4 上記条例の特徴
本条例は,男女共同参画の推進を阻害する要因による人権侵害について相談に応じ,またその人権侵害を受けた市民が行う訴訟等に要する費用に充てる資金を一定の条件のもと50万円まで無利息で貸付けをする制度も設けている(<証拠省略>)。
また,上記による人権侵害による苦情についてその申出を受け調査,助言,調整,あっせん,勧告等を行う機関として男女共同参画苦情処理委員会を設置してこれにあたらせることとしている(<証拠省略>)。
(8) 職員体制の整備その1(計画の策定)
(8)-1 C第1次試案
C事務局長は,平成14年8月19日付C試案(C第1次試案)として,「とよなか男女共同参画推進財団事務局職員体制の整備について」と題する文書(<証拠省略>)を作成し,そのころ,これを被控訴人市人権文化部に提出した。
同試案には,課題として次の記載がされていた。
(ア) 館長職について
とよなか男女共同参画推進センター○○は,全国の女性関連施設としては比較的後発時期(2000年11月)に,政令指定都市を除く市町村立レベルでは最大規模の施設として財団運営方式で開設された。開設にあたり,「○○」の象徴的存在を兼ね事業展開の先導的役割を果たす館長職を非常勤嘱託(週22.5時間勤務)として財団組織内に置いた。しかしながら,週6日ペースで運営されている組織にあって週2~3日出勤の非常勤館長職が事業全体を統括していくには自ずと限界が生じ,実質的には事業課長職を兼ねている事務局長が統括せざるを得ない事態にある。現状の勤務形態と待遇,権能の館長職では例え誰が就任しても,「○○」の看板役以上に機能しないことが懸念される。
最終的な職員体制を構想するにあたっては,2002年度末に開設後2年半を経過することから,この間の館長職の配置効果について一定の評価を行うとともに,市立の施設,財団として地域密着型の事業展開が求められる中での看板役の必要性の是非も検討し,あらためて位置付けの確認を行う必要がある。
(イ) 事務局長・事業課長職について
現状では,非常勤の館長職を補佐する実務的な財団運営の責任者として市派遣職員を事務局長職に置き,事業課長職を兼ねることとしている。事務局長職の一番大きな役割は財団組織全体のマネジメントであり,事業課長職の一番大きな役割は事業コーディネートである。このため,事業課長職には男女共同参画に関する高い専門性と先見性が求められる。市派遣職員は最長3年の期間で交代することから,今後も市派遣職員を事務局長兼事業課長とする人事体制を維持するのであれば,市派遣職員に求められる資質と職務経験,経歴は極めて厳しい条件となり,派遣条例による本人同意の必要性も加味されて人材確保に困難が予想される。さらに,事務局長職,事業課長職のいずれも事業内容の決定に強い職務権限を持っており,職員の処遇に関しても影響力が強いことから,同一人がこれを兼ねることはポストバランス上好ましくない。財団運営の柔軟性と市派遣職員,プロパーそれぞれの特性を最大限活かせる体制構想を描く必要がある。
(ウ) 有期雇用職員の雇用契約更新期限について
2002年4月1日現在在職の嘱託職員のうち6名,パート職員のうち2名が2005年9月末に通算雇用期間5年を超え,以後の継続雇用は難しい状況となる。現状のままでは2005年度に新たに大量の職員を新規採用することになり,業務内容の継続性,安定性を一定確保する手立てを講じなければ市民サービスの質の低下は免れない。このため,一定時期に大量の職員の退職,新規採用が発生しないよう,無期雇用職員と有期雇用職員の割合,有期雇用職員の交代時期等をにらみながら年次的に入れ替えを図っていく必要がある。
(8)-2 被控訴人財団事務局の職員体制の変更の検討(各課ヒアリング)
平成14年度から「公益法人等への職員の派遣等に関する条例」が施行され,市職員の派遣には本人の同意が必要となり,派遣者の交替が困難になってきていた。
被控訴人財団では,事業主任(係長級)の交替にあたって,後任に同格の係長級職員が確保できず,やむを得ず一般職員を事業主任とした事態が生じた。また,平成15年4月には,被控訴人財団への市派遣職員である事務局次長兼総務課長(市課長補佐級)の復帰にあたって,全庁的に後任者を公募したが,対象者は約500人いたにもかかわらず,同格の交替要員が得られない事態となり,やむなく一般職員を総務主任として派遣し,総務課長職は前年に市から派遣されていた事業主任が兼務することとせざるを得ないということも生じていた。
C事務局長は,自身の被控訴人財団への派遣期間が平成16年3月末までであったが,市課長級であるため,対象者が少なく一層困難な状況であったことも併せると(<証拠省略>),被控訴人財団事務局の職員体制の整備の必要性が高まっていると考えていた。
このような状況から,C事務局長は,被控訴人財団事務局の職員体制の整備,組織変更は,平成15年度中にはぜひとも実現するように進めなければならないと考えていた。
C事務局長は,平成15年4月14日の人権文化部長(D部長)主宰の人権文化部各課(財団関係を含む)の課題ヒアリングにおいて,平成15年度の課題として,C第1次試案を添付して被控訴人財団事務局の職員体制の整備を第一順位の最重要課題として提出,説明し(<証拠省略>),部長及び担当課長の了承を得た。
(8)-3 C第2次試案
前記(8)-2の経緯から,C事務局長は,第1次試案を練り直し(このころI議員が被控訴人財団の評議員となっている。),更に踏み込んだ内容の平成15年5月25日付C試案(C第2次試案)として,「とよなか男女共同参画推進財団職員体制の整備について」と題する文書(<証拠省略>)を作成し,同年8月,被控訴人市人権文化部に提出した。
同試案にも,課題・問題点等として次の記載がされていた。その内容は,C第1次試案とほぼ同内容であるが,【課題1】「館長職の今後の位置づけ」には,C第1次試案に追加して,次の記載がされていた。「●館長職も下記の課題3(非正規職員の位置づけ)に述べる嘱託職員と同じ雇用期間の問題を抱えており,不安定な雇用身分にある。
●現状の勤務形態と雇用条件,権能では,中・長期的構想を持って財団運営に臨むためのリーダーシップを十分発揮できない。」
また,同試案には,体制整備の方向が明示されていた。
(8)-4 事務レベル協議
本件推進条例等が可決し,一段落した平成15年10月上旬ころから平成16年度の財団職員体制を含む補助金を予算要求するためその具体化についてD部長,E課長,C事務局長が協議した。
その結果,事務レベルの考えとして,同年10月中旬ころには,概ね次のような方向性が固まった(<証拠省略>)。
(ア) 事務局長の後任派遣を被控訴人市から求めることは,過去の経験から,職制に応じた適任者を確保することが困難であり,仮に派遣できたとしても管理監督者の3年毎の交替は,円滑な組織運営に支障をきたすことから,市派遣は総務課2人体制とし,実務の管理監督者としては財団法人とよなか国際交流協会(略称:国際交流センター)と同様に事務局長とし,常勤プロパー(正職員)を採用してこれにあてる。
(イ) 予算(人件費)的には,市派遣職員より常勤プロパーの方が低くなるので財政課の承認を得やすい。
(ウ) 非常勤館長職が日常の管理監督を行うことは困難であり,廃止の方向。
(エ) 事務局長が兼務している事業課長をプロパー化し,事業課長を中心とした事業展開が必要であるが,現下の財政状態から,事業課長のプロパー化は課題とする。
(8)-5 被控訴人財団理事長の了解
前記(8)-4の事務レベル協議の結果,「○○」館長職については廃止し,プロパー職員の事務局長に一本化する方向が固まり,平成15年10月30日,D部長とE課長は,被控訴人財団理事長に面談し,事務局体制の強化の必要性と体制変更案,特に非常勤館長職は廃止し,館長職と事務局長職を一本化しプロパー職員を充て職名は国際交流センターと同様に事務局長とすること,従って来年度は非常勤館長職の更新はないことを説明し,了承を受けた。
同時に事務局長候補者への打診について,被控訴人市人権文化部長であるD部長が行うことについても承認を得た。
その際,被控訴人財団理事長から,館長職が,事務局長に一本化され,常勤化されれば,非常勤館長職は廃止され,控訴人の来年度の更新がなくなるため,早急に,控訴人に上記の説明をしておくよう指示があった。
(9) 控訴人への対応
(9)-1 C事務局長との会話
C事務局長は,前記(8)のとおり,被控訴人財団事務局の職員体制の変更について,試案を作成していたが,「○○」の館長職を非常勤から常勤にした場合,控訴人が常勤館長として就任する意向を有しているかどうかを確かめておきたいと考え,平成15年7月,控訴人に対し,「Xさん。いつまで『○○』にいてくれますか。」と尋ねた際,控訴人は,少し考えてから「4年から5年ね。」と答えた。
また,同年8月,控訴人に対し世間話の中で「万一館長が常勤化された場合,第一義的にはXさんですが,Xさん常勤は可能ですか。」と尋ねると,控訴人は,即座に「私は無理ね。」と答えた。
C事務局長は,もともと,控訴人の生活の拠点が東京と長野にもあり,また,福井県c市の男女平等オンブッドに就任していたことや,全国各地で講演活動をしたりしていることから,「○○」の館長職が常勤化された場合,控訴人が新館長に就任する意思がないと表明してくれることを期待し,その言質を求めていたところ,C事務局長の誘導に乗って,控訴人がその旨を意図せず漏らしたことから(なお,これに先立つ同年6月9日における被控訴人財団の運営委員会においては,同被控訴人の組織変更については,差し迫った問題として議論されたことがなかったことから,控訴人としては,C事務局長との会話でも,次年度から館長が常勤化され,非常勤である自らが雇止めとなることは,現実の問題として認識していなかった。),C事務局長は早速,このことをD部長に伝えた。
(9)-2 平成15年11月8日の説明
前記(8)のとおり,事務レベルで,被控訴人財団事務局職員体制の整備(組織変更)の方針が固まり,被控訴人財団の理事長の了承も得たところ,同理事長の指示もあって,D部長らは,控訴人に上記方針を伝えることとした。
D部長とE課長が,平成15年11月8日午後9時ころ,「○○」に来館し,控訴人と面談し,①平成16年4月,被控訴人市から派遣されているC事務局長が任期満了で市に復帰するが,来年度の派遣は困難である,②この機に被控訴人財団事務局の体制整備を行うため非常勤館長職を廃止し,館長と事務局長を一本化してプロパー職員を充て,一本化後の名称は,国際交流センターのように「事務局長」を考えている,③組織変更により,非常勤館長職が廃止になるので,控訴人の来年度の更新はない,④これらは市として決定した案であり,トップの意向である,理事長に説明済みであるが,正式には理事会で決めることである,といった点について説明した(なお,控訴人は,この時点でも,組織変更の詳細は知らされず,また,新館長の人選が行われていることも告げられなかった。)。
控訴人は,説明を聞き終わった際,「残念である。」と述べた。
なお,控訴人が「仕方ない。」と述べたかどうかについて,当事者間で争いがあるが,控訴人の認識している事実が,上記説明の限りであれば,「仕方ない。」といった趣旨の発言が出ること自体不自然とはいえない。もっとも,被控訴人市及び被控訴人財団の上記方針決定の真意が争点であり,ここで,控訴人が「仕方ない。」と述べたかどうかを議論することに大きな意味はない。
(9)-3 平成15年11月8日の説明直後の会話
控訴人は,突然の話でもあったことから(被控訴人財団の体制の整備に関する話は聞いていたと思われるが,その後の応対からしても,控訴人が,その具体的時期についての認識を有していたとは思えず,また,館長職にまで影響があると認識していたとまでは考えられない。),C事務局長に「知っていた?」と尋ね,C事務局長が「知っていた。」と答えると,引き続き「館長はどうするの?」と尋ねた。C事務局長としては,前記(9)-1のとおりの認識を有していたにもかかわらず,上司である控訴人に対し,雇止めとなる予定であることを告げることができず,とっさに「第一義的にはXさんです。」と答えた。
(9)-4 平成15年12月15日,控訴人からの見直しの要望
控訴人は,前月15日にI議員ほか3名から市庁舎において威迫を受けたこともあり,C事務局長を同道し,被控訴人市を訪れ,D部長とE課長と面談し,D部長宛の組織変更計画見直し要望書(<証拠省略>)を提出した。
要望書の概要は,①組織変更を考え直して欲しい,②前助役の発言から最低4年は自然に更新されると考えていた,③組織改革はC試案として,夏ころ耳に入っており,もしそうなれば就任は無理であると回答したが,その後,C事務局長からも被椌訴人市からも,話し合いの場はなかった,④現職市議を中心とする「勢力」から,ファックス文書に対し不当な圧力がかかったが,当該議員が評議員に加わることとなり,少なくともある一定期間,これまでの事実・経緯を把握している人間(控訴人)が責任者にいることが,創成期の「○○」にとってきわめて大切である,また,某団体による「○○」事業への不当な介入がある,⑤控訴人が中心になって企画執行してきたプロジェクトには計画途上のものが多く,この3月までで終了するのは企画趣旨にそぐわないものが多い,などというものであった。
D部長は,控訴人の要望に対し,職員体制の整備(組織変更)は今後の財団運営上,必要不可欠であり,反対勢力の影響ではないと説明した上で,計画変更は難しいが,控訴人の意向は助役に伝えると回答し,翌日,助役と市長に,事情を伝えたが,財団運営に支障が出るので変更はできないと述べ,了承を得た。
(9)-5 平成15年12月19日,控訴人の要望に対する回答
D部長は,平成15年12月19日,「○○」を訪れ,控訴人と面談し,控訴人の要望(前記(9)-4)について,被控訴人財団事務局職員の体制の整備(組織変更)に関する計画を変更することはできない旨伝えた。なお,この時点で,D部長はGが新館長に就任することを内諾すると被控訴人市に伝えたこと(後記(10)-4)を知っていた。
(9)-6 C事務局長に対する詰問
控訴人は,被控訴人市が,控訴人の後任候補に接触しているという情報を独自に入手したことから,そのような情報が被控訴人市から伝えられないことに立腹し,平成16年1月10日午前10時ころ,C事務局長に対し,詰問し,候補者リストを見せるよう迫った。C事務局長は,当初,知らないと述べたが,最終的には,リストを見たことがあり,自分は,控訴人を裏切った,嘘を言ったと述べるに至った(<証拠・人証省略>)。
(10) 後任候補者の絞り込み
(10)-1 D部長は,前記(8)のとおり,平成15年10月中旬ころに,被控訴人財団の組織変更の方向性を固めたため,同月20日,市長に面談し,その説明をして,次年度の予算措置について了承を得るとともに,人権文化部における資料をもとに作成した新館長の候補者リストを示したところ,市長から『それで当たれ』との指示を受けた。そして,D部長とE課長は,前記(8)のとおり,被控訴人財団理事長の了承を得て,控訴人の後任候補者(この当時,館長と事務局長を一本化し,名称は事務局長とする予定であった〔前記(8)-5参照〕。)を選び出し,これらの候補者に対し,就任を依頼し,内諾をとる必要があると考え,前記(9)のとおり,控訴人に対し,被控訴人財団の体制変更の説明をし,控訴人が常勤館長となることはないと判断した上で,候補者の絞り込みを始めた。
(10)-2 一人目の候補者への打診
D部長とE課長は,平成15年11月11日,一人目の候補者への面談を実施し,被控訴人財団の体制整備,組織変更についての説明をし,「○○」の事務局長(館長職と一本化したもの)への就任を打診したが,1年後であれば目処がつくが,今は無理であるといって,断られた。
(10)-3 二人目の候補者への打診
D部長とE課長は,平成15年11月21日,二人目の候補者への面談を実施し,一人目と同様,「○○」の事務局長(一本化)への就任を打診したが,同年12月初旬に断りの電話が入った。
(10)-4 三人目又は四人目の候補者(G)への打診
D部長とE課長は,平成15年12月11日,d市男女共同参画推進センターを訪問し,Gに対し,控訴人が現行の館長を辞めることについて了解していると告げて,一人目と同様,「○○」の事務局長(一本化)への就任を打診した。
Gは,考える時間が欲しいと述べ,即答は避けたが,同年12月16日,豊中市役所を訪れ,E課長に面談し,事務局長(一本化)への就任を内諾する旨伝えた。
(10)-5 d市役所への訪問
D部長とE課長は,Gの事務局長(一本化)就任の内諾を受け,平成15年12月22日,d市の人・ふれあい部長を訪ね,挨拶をした。午後には被控訴人財団の理事長にGの内諾を報告し,1月ころに理事会を開催する必要があるとの指示を受けた。また,同日,人権文化部長名義で市職員組合に職員体制変更の事前協議の申入れが行われ,25日に組合交渉がもたれた。控訴人は,同月下旬ころ,D部長らから新館長就任の打診を受けた候補者から,控訴人が3年契約であるという説明を受けたと聞き及んだ。
(11) 職員体制の整備その2(計画の決定)
(11)-1 正・副理事長会議(平成16年1月10日開催)
被控訴人財団事務局の職員体制の整備について,理事会で議案を可決する必要があったため,理事会開催に向けて,同日,正・副理事長会議が開催された。
C事務局長がこれまでの経緯と事務局案を説明し,正・副理事長の承諾を得て,同年2月1日に,平成15年度第3回臨時理事会を開催することが決定されるとともに,上記理事会に提案する事務局体制強化の方針案が次のとおり確定した(<証拠省略>)。なお,平成15年10月の事務レベルでの方針決定の際は,館長は事務局長と一本化し,名称も事務局長とする予定であったが,寄附行為に館長を置くことが定められているので,常勤の館長を配置し,事務局長を兼務させることとなったものである(<証拠省略>)。
(ア) 常勤の館長(プロパー職員)を配置する。
(イ) 非常勤館長を廃止する。
(ウ) 事務局長は常勤の館長が兼務する。
(エ) 事業課長に常勤のプロパー職員を配置する。
(11)-2 控訴人の任期延長の検討
被控訴人財団理事長は,控訴人が前記(9)-4の要望を提出していることを受け,最大4年を限度として,雇用期間を延長することができるよう,被控訴人市に要望した。
D部長は,理事長の要望を受け,市長に予算確保の内諾を得た上,最終的な,正・副理事長会議の合意事項として,上記方針案に加え,次の事項を加えた。
(ア) 控訴人の非常勤館長としての任期について,事業課長のプロパー化が決定するまで,最大4年を限度に延長するよう被控訴人市は努力する。
(イ) 常勤館長の選考のため,職員選考委員を選任し,選考委員会を設置する。
(ウ) 選考された常勤館長(事務局長兼任)は,控訴人が退任するまでは,事務局長とし,事業課長を兼任する。
(エ) 事業課長が決定した段階で,非常勤館長職を廃止する(控訴人を雇止めする。)。
(11)-3 書面のやり取り
控訴人は,その日の1月10日,C事務局長に対し,前年の6月9日に配布したとする組織変更に関する文書を提出するよう求めたところ,3枚の書面(甲9)を交付されたが,同書面には1/9から3/9までの頁数が振られており,ほかに6枚の書面があることに気がついた。そこで,控訴人は,翌11日,C事務局長に対し,同事実を指摘して全部の資料を提出するように求めたところ,同人はしばらく相談室にこもった後,7枚の書面(甲9に相当する書面3枚と,原審時の甲47の4枚)を控訴人に交付した。しかし,同書面にはいずれも作成日付がなく,また,うち3枚の書面(甲9)に相当する書面からは頁数も消されており,残りの4枚については各頁に1/1と番号が振られていて全体の枚数が分からないように操作されていたので,控訴人は残りの2枚も提出するように求めたが,C事務局長は「私の立場では見せられません。」と言い張って,ついにこれを提出しなかった(<証拠省略>。被控訴人らの主張によっても,残余の2枚を提出しなかった合理的理由は見当たらない。)。
(11)-4 Gとの折衝
D部長は,その間の同月13日,市長に対し,正副理事長会議の結果を報告し,控訴人の雇用期間の数か月の延長について内諾を得た。同月15日にはd市広報にGの後任を募集する記事が掲載された。D部長は,同日,Gに対し,選考委員会を設けて新館長を選考することを伝えた。同月12日ころには控訴人の留任を望む市民から要望書が提出されるなどしていたが,同年2月9日には,D部長及びC事務局長がGと面談し,控訴人の留任を望むネット上の記事については心配しないように伝え,『控訴人が残りたいのなら行く気はない』旨を述べるGに対し,こもごも『Gさんしかいない』などと述べて,同人の翻意を止めた。一方,控訴人は,同年1月24日,C事務局長から理事会の議案(<証拠省略>)を受領し,館長の常勤化案を知り,常勤館長に応募することを決意した。
D部長は,同月15日,E課長とともに,大阪市内でGと面談し,正・副理事長会議の結果(前記(11)-1,2)を伝えた。
(11)-5 控訴人に対する説明
D部長は,同月19日,「○○」において控訴人と面談し,正・副理事長会議の結果(前記(11)-1,2)を伝えた。
(11)-6 議案書の発送
平成15年度第3回臨時理事会(平成16年2月1日開催)の議案書が,同年1月25日,各理事に対し郵送された(<証拠省略>)。
(11)-7 控訴人の申し入れ
控訴人は,同月29日付の申入書(<証拠省略>)を被控訴人財団の理事長及び理事宛に郵送した。
これによると,「被控訴人財団の体制強化のための議案に接するまで,不確かな情報しか与えられていなかった。議案は唐突に感じられる。しかし,被控訴人財団の事務局職員体制強化は自分の願うところでもある。自分(控訴人)が常勤館長として館長職を継続することが今回の議案の趣旨に合致する。パートタイム労働法の趣旨からも控訴人が館長として優先的に採用されるべきである。常勤館長に採用されれば,他の兼職は辞する。」というものであった。
(11)-8 平成15年度第3回臨時理事会(平成16年2月1日開催)
(ア) 同日,被控訴人財団の理事会が開催された。「財団法人とよなか男女共同参画推進財団事務局職員体制の変更について」と題する議案について審議された。
議案は,①「○○」館長に常勤プロパー職員を配置,②同事業課長に常勤プロパー職員を配置,③事務局長は常勤館長が兼務という内容であり,原案どおり可決された。
なお,控訴人も理事の一人として出席したが,D部長らが控訴人に秘して新館長の人選を進めており,雇止めを覆すことは困難であると考えて,すでに常勤館長職に応募することを決めていたので,原案に賛成した。
(イ) 理事会の途中に理事懇話会が開かれ,①理事による常勤館長採用選考委員会を設置し,常勤館長を選考により決定する,②選考委員は5人とし,委員の選任は理事長に一任する,③事業課長はできるだけ早く公募する,ことが合意事項として決定された。
(ウ) 一部の理事から,上記(イ)の選考にあたり,控訴人も候補者の一人とすべきでないかという意見が出たが,その日には結論は出ず,被控訴人財団理事長に一任することとなった。その後,理事長は,各理事に対し,意見を求めたところ,控訴人を候補者とすべきとする者とそうでない者とがともに5名ずつであったことから(ほか2名については理事長一任),控訴人を候補者とすることに決めた。
(11)-9 選考委員会の設置
平成16年2月2日,理事長のほか,D部長,C事務局長及びE課長が選考の方法を協議した。同月中旬ころ,C事務局長からD部長に,これまで被控訴人市の職務上の理事が選考委員となる慣例があるとして,同人を選考委員とすることでよいかとの連絡をし,同人は選考委員となると返答した。そして,被控訴人財団の理事長は,D部長らの意向に沿って,同月15日,被控訴人財団理事長は,被控訴人財団の理事の中から,労働組合関係者,報道関係者,企業経営者,学識経験者,市関係者(D部長)の5名(男女比は,女性3名,男性2名)の選考委員を選任した。
(11)-10 選考対象者の追加
同月16日,被控訴人財団の理事長により,控訴人を選考対象に含めることが決定された。
(12) 本件雇止め
前記(11)-7のとおり,被控訴人財団理事会において,体制強化に関する議案が可決されたことにより,「○○」の非常勤館長職は廃止されることとなり,控訴人は,同年3月31日までの雇用期間が満了することにより,同館長職を雇止めされることとなった。
(13) 採用選考(本件不採用)
(13)-1 被控訴人財団職員採用選考委員会は,職員採用選考実施要領と職員採用選考基準を作成した上(<証拠省略>),平成16年2月22日,選考対象者であるGと控訴人に対し,選考試験を実施した。
(13)-2 選考委員会は,選考の結果,Gを合格,控訴人を不合格とし,選考結果報告書(<証拠省略>)を被控訴人財団理事長に対し提出した。
(13)-3 被控訴人財団理事長は,上記選考結果報告を受け,Gを平成16年4月1日以降の「○○」新館長として選任した。
2 雇止め及び不採用の違法の有無
(1) 前認定の事実及び証拠(<証拠省略>)並びに弁論の全趣旨によると,
① 被控訴人財団は,被控訴人市の男女共同参画推進施策を実施するために,同被控訴人や関係団体等と連携をとりながら,男女共同参画社会の実現に寄与することを目的として,設立されたものであること,
② 「○○」は被控訴人市の施設であるが,その運営は被控訴人財団に委託されているところ(ただし,「○○」の利用については,それが被控訴人市の施設であることから,一般の利用については,市長の承認のもとに,事業の実施に支障のない限りにおいて可能であり(3条2項,4条),また,市長は使用制限,使用承認の取消し,入館の禁止を行うことができることが定められていて(5条ないし7条),被控訴人財団がその利用の許否を最終的に判断することはできない定めとなっており,実際にも「○○」の使用申込みについては被控訴人市が最終的な対応をしている。),その存立目的としては,社会のあらゆる分野への男女の均等な参画及び男女の人権の確立を図り,男女が社会の対等な構成員としてその責任をわかち合い,共に築く男女共同参画社会の実現を目指すため(とよなか男女共同参画推進センター条例1条),男女共同参画の推進に関する6項目の事業及び市長が必要と認める事業を行うこと(3条1項)にあること,
③ 被控訴人財団は,その基本財産1億5000万円の全額を被控訴人市から寄付を受けており,また,毎年,同被控訴人から1億円規模の補助金を支給され,収入のほとんどを同被控訴人に依存していること,
④ 被控訴人財団の人事についても,平成15年4月1日から本件雇止めの時期までをみると,被控訴人市において被控訴人財団に関する事務を担当する人権文化部の部長であるDが職務上の理事に就任して,その人事,予算その他の重要事項について,市長や吏員との折衝を行い,その承認のもとに,事実上の決定をし(本件組織変更や予算の折衝,新館長の選任などについても,同人が果たした役割は前認定のとおりである。),また,同被控訴人の課長級の職員でありD部長の部下であったCが事務局長として出向して,日常のマネジメントを行い,上記の重要事項などについてD部長との連絡役となっていたこと,
⑤ 控訴人が「○○」の館長に応募した際の「財団法人とよなか男女共同参画推進財団(仮称)館長募集要項」によると,募集の職種は「館長」,職務内容は「財団が行う事業の企画・立案及び実施の統括。財団が実施する講座等の講師」,応募資格は「男女共同参画社会の実現について,活動の実績があるとともに行動力や情熱があり,積極的に取り組む意欲のある人」,採用時期及び期間は「財団の設立時から平成13年3月31日まで(就業規則等の基準により更新される場合があります)」,勤務時間は「週22時間30分(3日間勤務,午前9時~午後9時30分までの間の変則勤務。土曜,日曜,祝日の変則勤務もあります)」,勤務場所は「○○」内,待遇は財団の「非常勤嘱託職員」「報酬月額30万円。交通費・賞与の支給はありません。雇用保険,労災保険に加入します。厚生年金,健康保険はありません。」というものであり,また,「館長就業規則」によると,雇用期間は1年以内とすること(3条),雇用期間の更新については,雇用期間が満了した館長については,その者の能力及び経験等を考慮し,業務の効率的な運営を確保するため必要があると認められる場合は,その雇用期間を更新することができること(4条),賃金は月額30万円とし,賃金の支給日その他については嘱託職員就業規則16条を準用すること(12条)とそれぞれ定められ,被控訴人財団の嘱託職員就業規則には,嘱託職員の採用は選考によるものとすること,雇用期間は1年以内とすること,雇用期間が満了した嘱託職員についてはその者の能力及び経験等を考慮し,業務の効率的な運営を確保するため必要があると認められる場合は,その雇用期間を更新することができることが定められていること,
⑥ 館長職が1年の雇用期間(当初は7か月)の定めのある「非常勤嘱託職員」とされたのは,館長が全国公募による選考を行うことと併せて,他の職との兼務を容易にして,優れた人材を登用するとともに,雇用関係の解消を容易にすることもその理由の一つとなっていたこと,
⑦ 控訴人は,e大学において英米文学を専攻し,都立高校の英語教員を務めたのち,米国コロンビア大学において比較教育学,女性学を専攻し,帰国後は東京都議会議員を2期務め,その後,女性政策や公共福祉政策の評論活動に携わり,a大学やb大学で教鞭をとっていたところ,「○○」館長の全国公募に応じ,一次及び二次選考を経て,応募者の中で被控訴人らの政策に最もふさわしい者として雇用され,その後はその専門的知見や経験,知名度,国内外の人脈などを生かして,地域に密着し,市民の目を惹き,幅広く質の高い活動を行ってきたこと(なお,控訴人の事業活動については予算の配分のないものもあったが,活動の企画立案や実施について,被控訴人らから指揮監督を受けることはなかった。また,予算の作成や執行,人事,労務管理などのマネジメント業務にはほとんど関与することがなかった。),
⑧ 控訴人は,被控訴人財団の理事長から,平成12年9月1日付けで,任用期間を同日から平成13年3月31日までとすることなどが記載された「採用通知書」(丙7)及び同被控訴人の非常勤職員を命じ,雇用期間を平成13年3月31日とする「辞令」(丙8)を受領したが,採用通知書には,任命権者から別段の意思表示がない限り雇用期間が延長された場合でも労働条件に変更がないこと,辞令には「上記雇用期間満了時に任命権者から別段の意思表示なき場合は再雇用しないものとする」ことの記載があること(いずれも原文には傍点はない),また,控訴人は,同被控訴人の理事長から,平成13年から平成15年までの各4月1日付けで,「雇用通知書」(甲3ないし5)及び「辞令」(丙9ないし11)を受領したが,雇用期間とその更新に関する記載は上記のものと同一であること(ただし,平成14年及び15年の雇用通知書においては,上記「任命権者」が「使用者」と改められている。),
がそれぞれ認められる。
(2) 以上のとおり,被控訴人財団や「○○」の設立の目的及び被控訴人市との関係,被控訴人財団の館長募集要項や就業規則の規定,更新期間1年(又は7か月)の定めのあることなどを記載した雇用(採用)通知書・辞令の文言,報酬(賃金)などの雇用条件の内容,被控訴人らが「○○」の館長を期間の定めのある非常勤嘱託職員とした理由,その雇用に当たっては被控訴人市の政策目的にふさわしい専門的知見や経験,知名度などが一番に考慮され,厳格な成績主義によらずに幅広い活動歴を持ち地位の高いポストにふさわしい控訴人を雇用した経緯並びに職務の独立性の度合いからすると,実質的に被控訴人市の行政の一部を担う部署に相当する被控訴人財団における「○○」の館長職の雇用関係は,地方公共団体の職務を行う特別職の非常勤の公務員の地位に準ずるものと扱われるべきであり,控訴人と被控訴人財団との雇用関係は,民事上の雇用関係の法理が適用されるよりも,被控訴人市の特別職の職員(地方公務員法3条3項3号参照)の任免についての法理が準用されると解するのが相当である。したがって,「○○」館長としての控訴人の雇用について,期限を定めたからといって,これを違法ということはできず,また,雇用期間経過後の更新についても解雇の法理は適用されないから,期限付き雇用が数回更新されても期限付きでない雇用に転化するものではなく,信義則から更新の権利義務が生じることもなく,更新拒絶(雇止め)については原則として雇用者の自由であり,特段の合理的理由を必要とするものでもないというべきである(控訴人が,館長への就任にあたり,当時の助役から「少なくとも4年は頑張ってもらわねばならない。」と激励されたことから,4年以上の多数回の雇用が法的に約束され,あるいは控訴人がこれを法的に保障されたと考えたと認めることはできないし,非常勤館長が常勤館長の試用期間に類似する期間であるということもできない。)。
(3) このように,控訴人と被控訴人財団との雇用が公法的な意味合いをもつ法律関係に準ずるものと解すべきであることのほか,本件組織変更が行われる前後の「○○」の館長職が,常勤・非常勤,雇用期間の定めの有無,業務の内容などにおいて,実質上,同一の職務であるとはいいがたいことに鑑みると,控訴人が本件雇止めの後,当然に新館長に雇用されなかったことが,パートタイム労働法の趣旨に反することなどにより,違法であるということはできず,また,新館長の雇用は,「○○」の存立の目的からして,同被控訴人の政策的又は政治的裁量・責任のもとに行われるべきことから,その選任は選任権者の自由な裁量によるのであり,本件組織変更の前に非常勤館長として3度,3年余にわたり雇用期間が更新されてきた控訴人が,当然に新館長に就任する権利を有していたとはいえないし,そのような期待を有していたとしてもそのこと自体について法的な権利を認めることはできない。
(4) したがって,本件雇止め又は本件不採用については,雇用契約上の債務不履行又は不法行為に該当するものということはできない。
3 雇止め及び不採用に至る経緯の違法性
(1) 控訴人は,豊中市議会議員であったIや,その配下であるH,あるいは同市議会副議長でありI議員と同一会派を組むO議員らのバックラッシュ勢力が,平成14年ころから,控訴人や被控訴人財団に対する中傷,脅迫,虚構の流布などの違法,不当な攻撃を繰り返し仕掛け,被控訴人市において平成15年3月に予定していた本件推進条例(豊中市男女共同参画推進条例)の上程を阻止する事態に至ったことから,被控訴人市は,I議員らとの間に,同年9月に同条例を成立させるのと引換えに,被控訴人財団において顕著な実績をあげていた控訴人を被控訴人財団から排除する合意を交わしたこと,そこで,従前から検討されてきた被控訴人財団の本件組織変更を急ぎ,次年度には控訴人を館長職から排除する方針を確定させたが,控訴人に対しては,その反発と市民の反対をおそれて,組織変更を行うことや,控訴人について館長職の更新を行わず,新館長としても採用しないことを秘して,控訴人の与り知らないところで,控訴人が新館長職を望んでいないという虚偽の情報を意図的に流布し,これを利用しながら被控訴人市の意向に沿う候補者を新館長に就任させることを画策したこと,しかしながら,控訴人が,自己を排除する目的で本件組織変更が行われることを察知し,新館長職の候補者に応募すると表明するや,採用する意図もないのに,公正さを装うため,控訴人を欺いて選考試験を受けさせ,これを不合格としたことは,控訴人の人間としての尊厳を傷つけ,精神的苦痛を与え,人格的利益を侵害する行為であり,被控訴人らは雇用契約上の債務不履行,あるいは不法行為により,控訴人の損害を賠償すべきであると主張する。
(2) なるほど,D部長は,被控訴人財団を管轄する被控訴人市の人権文化部長として影響力が強く,被控訴人財団の理事長においても,その発言は市長の意向を反映していると理解していたこと,このようなD部長が選考委員として主導し,そのもとで控訴人が予定どおり選考から排除されたとみる見方はあり得るかもしれない。被控訴人市の事務担当責任者にすぎないD部長において候補者に当たったのに反し,控訴人には当たらなかったのはもとより,被控訴人財団理事長にさえ説明を後回しにしている。D部長はむしろ,控訴人が候補者とはならない前提でGと接触し,候補者となるよう勧誘して就任内諾を取り付け,このことを被控訴人市の市長にも伝えたものである。結果としてGが館長に選任され,控訴人は選任されなかったものであり,その選考過程に違法とすべき点はないが,被控訴人市の担当者のこれらの動きが影響を及ぼさなかったと断言することはできないし,そもそもD部長自身が選考委員に就任したこと自体,公正さを疑わしめるものがある。
しかしながら,選考委員であったPは,選考ではGが新館長により適任であったことを述べる陳述書を作成している(<証拠省略>)。被控訴人らは,被控訴人財団の理事長の決定により控訴人をあえて新館長選考の候補者に加え,被控訴人財団の理事から選任された選考委員は,職種,地位などを考慮して5名が選任されたものであり,そのうちの一人として被控訴人市の人権文化部長が就任したのも,被控訴人市の被控訴人財団への支援・助言・連携の関係上必要であったとの被控訴人らの主張自体においては不合理な点はないから,選考委員による選考及びその結果は,次に説示するような,Gと接触して候補者としての内諾を得るなどした,同人の次期館長就任に向けてのD部長などの動きを,結果的に浄化したものと評価するのもやむを得ない。
(3) 他方で,前認定の事実によると,被控訴人財団の館長職を非常勤の嘱託職員から常勤のプロパーに転換する組織変更については,おそくともC第1次試案が提出された平成14年8月以前から,他の構想とともに検討されており,そのころのI議員らの攻撃を考慮しても,もともと控訴人を排除する目的のもとに,その検討が行われていたとは必ずしもいえないし,そのような組織変更について,当時から必要性,合理性あるいは緊急性があったことは否定しきれない。
しかし,前認定の事実及び弁論の全趣旨によると,おそくとも平成14年3月ころから,被控訴人市や市議会の内外で,控訴人や被控訴人らに対する,控訴人の行動に反対の勢力による組織的な攻撃が行われており,その方法は,直接に反抗することのできない被控訴人らの職員に畏怖感を与えるような行動に出たり,嫌がらせを行ったり,虚偽に満ちた情報を流布して市民を不安に陥れたりするなど,陰湿かつ執拗であったところ,次に説示する各事情を踏まえると,市議会において与党会派に属し,市長や市議会に対しても横暴な行動をもって一定の影響力を有するI議員を中心にした活動があったことや,平成15年3月に予定されていた本件推進条例が上程そのものを阻止されて成立をみなかったことから,被控訴人市やD部長においては,同年9月の次期市議会では,同被控訴人の面目をかけてその制定を図らねばならないとの思惑により,上記勢力を宥める必要に迫られていたことはある程度推測されるところである。結局のところ,被控訴人財団における男女共同参画推進の象徴的存在であり,その政策の遂行に顕著な成果を上げていた控訴人を被控訴人財団から排除するのと引換えに条例の議決を容認するとの合意を,I議員らの勢力と交わすに至っていたものとの疑いは完全に消し去ることはできない。少なくとも,D部長らがGと接触して候補者の内諾を得たのは,あってはならないところを一部勢力の動きに屈しむしろ積極的に動いた具体的行動であったということができる。
すなわち,本件においては,I議員が,「○○」に対する攻撃を続けながらも,同年9月開会の市議会において,条例制定に反対する討論を延々と行ったにもかかわらず,議決にあたって一転して賛成に回り,同条例案が議決されるに至ったという不自然な流れとともに(なお,その後もI議員は控訴人ほかに対し示威的行動に及んでいることは,前認定のとおりである。),D部長やC事務局長らは,本件推進条例が議決されるや,中断していた被控訴人財団の組織変更の検討を急ぎ再開し,同年10月中旬までに,「○○」の非常勤館長を廃し,プロパーによる常勤館長を置く(すなわち,控訴人を現館長につき雇止めとし,新館長にも採用しないで,控訴人を被控訴人財団から排除する)という組織変更を行う意思を固め,また,この間,C事務局長が単なる世間話の中で,控訴人から「常勤による館長への就任は無理である」との片言を引き出したのに乗じ,D部長において,人権文化部の資料を利用し,控訴人を外した新館長の候補者リストを作成し,同月20日に組織変更及び候補者リストからの新館長の選任,及びこれに伴う予算措置について市長の内諾を得て,平成15年2月1日に,被控訴人財団の臨時理事会を開催させて同案を確定させたとの事実関係の流れがあることが明らかである。
そうして,D部長,E課長及びC事務局長は,おそくとも平成15年11月11日から,新館長の候補者に対する打診を開始し,3人目又は4人目の候補者であったGに対し,同人が控訴人において新館長に就任する意思があるときは自らはその就任を固辞する意思を有していることを了知しながら,控訴人にそのような意思はないと告げて,同年中にGに就任の内諾をさせた上,上記理事会の開催までの間に,Gを事実上,新館長に就任させようと企図したものの,控訴人を館長として留任させようとする市民の動きがみられ,同時に上記勢力の動きを感じ取っていた控訴人が新館長への就任の意思を表明するに至ったため,選考試験を実施することとなったこと,しかし,被控訴人市においては,控訴人が新館長に選考されれば,一部勢力の勢いを止められないこととなって,さらなる攻撃を受けることが必定となるばかりか,他方の候補者であるGについては,d市男女共同参画推進センターの事務局長を務めていたところを,D部長らの強い要請により,同市の了解のもとに,同職を辞任させて新館長に就任することを応諾させた経緯からして,同人を新館長にしないことには,同人や同市に対する背信行為となり,いずれにせよ,D部長のみならず,被控訴人市の市長も政治責任を問われかねないことを懸念し,Gの新館長就任実現に向けて動いたものであることも,前認定の事実から窺うことができる。
(4) このような動きの中での控訴人の立場をみると,当時一部勢力による控訴人への攻撃活動が繰り返されていた中で,控訴人が館長として継続して就任していられるかどうかは,重大な関心事であったのは当然であり,上記攻撃活動が被控訴人ら関係者に対してされている中ではなおさら,被控訴人ら関係者から,館長職の在り方や候補者いかんについてその都度説明を受けてしかるべき立場にあったというべきである。職域内のローテーションで配置された職員や従業員とは異なり。特定の職に就くものとして応募採用され,就任後は,専門的知見や経験,知名度そして内外の人脈を生かして幅広く質の高い初代の館長職をこなしてきた控訴人として,「○○」の組織の在り方,次期館長候補者(自己を含む)について情報を得て,協議に積極的に加わり自らの意見を伝えることは,現館長職にある立場にあってみれば当然にあるべき職務内容として与えられるべきであるか取るべき態様ないし行動であって,これをないがしろにし,さらには控訴人の意向を曲解して行動する被控訴人ら担当者の動きがあった場合には,控訴人の人格権を侵害するものといわなければならない。
本件雇止め及び本件不採用について,雇用契約における債務不履行又は不法行為があったということはできないものの,上記のように,被控訴人財団の事務局長及び同被控訴人を設立し連携関係にある被控訴人市の人権文化部長が,事務職にある立場あるいは中立的であるべき公務員の立場を超え,控訴人に説明のないままに常勤館長職体制への移行に向けて動き,控訴人の考えとは異なる事実を新館長候補者に伝えて候補者となることを承諾させたのであるが,これらの動きは,控訴人を次期館長職には就かせないとの明確な意図をもってのものであったとしか評価せざるを得ないことにも鑑みると,これらの動きにおける者たちの行為は,現館長の地位にある控訴人の人格を侮辱したものというべきであって,控訴人の人格的利益を侵害するものとして,不法行為を構成するものというべきである。
(5) 以上の説示に関する被控訴人らの主張についてみるに,被控訴人らは,常勤館長職制度への体制変更は必要性があったものと主張する。非常勤館長職と常勤館長職とは,それぞれにメリット,デメリットがあるのは当然であり,常勤館長職体制にすることが被控訴人市の方針であったのならば,行政方針としてあり得べき選択である。しかし,現に「○○」が順調に稼働している中で被控訴人財団の目的推進に励み陣頭指揮をし館長職にあった控訴人に対して体制変更についての意見聴取がなかったのは,最終的には被控訴人市が決定すべき方針であるとはいえ,現館長の控訴人にとって尊厳を傷つけられたものとして不愉快に感じるのは当然で,控訴人が体制変更を進めるうえで排除されたものと考えたことは当然である。
控訴人は平成15年6月9日,被控訴人財団の運営委員会で,「取扱注意」と書かれたC第2次試案(<証拠省略>)の交付を受けており(<証拠・人証省略>),そこには館長職を常勤化する内容の記載がある。しかし,この試案については控訴人は口頭で説明を受けざっと目を通した程度でC事務局長に返却しているし,検討段階にすぎないものとしての説明があった程度であり,内容についてあらかじめ説明を受けていた事実はないし,具体的な構想として固まりつつあるものとして説明も受けていない(<証拠・人証省略>)。むしろ,前記1の(9)-2で認定したようにD部長が11月8日の深更にわざわざ,館長常勤職制度移行の件を「○○」に控訴人を訪ねて伝えたことは,D部長としても,控訴人がこの件が具体的な計画として煮詰まってきていたことを知らされないままに推移してきたものと認識していたことを窺わせる。その際には,控訴人がD部長らからの説明に対して「残念である。」と述べた事実があり,控訴人は否定するがこの際「仕方ない。」と発言した可能性もある。しかし,仮にその発言がそのままあったとしても,その趣旨は,D部長らの説明には,被控訴人財団事務局の体制整備から始まる話題であったのであり,控訴人が来年度の更新がないことまで了解するものとして発言したと認めることはできない。D部長が,重大な内容なのに,あいまいでどういう趣旨か一義的に明確でない控訴人のこの発言をとらえて来年度の更新のないことを控訴人が了解したものと理解したということは,控訴人の意向を曲解したものと評価することができるところ,D部長がその旨被控訴人財団の理事長に報告していること(<人証省略>)は,すなわち,D部長が,控訴人を排除しようと積極的に動いていたことを裏付けるものといわなければならない。
以上のように,常勤館長職制度への体制変更が被控訴人財団の事務局ないし被控訴人市の担当者の間で協議されていることが平成15年6月9日までに控訴人に伝わったことは非公式にはあったかもしれないが,明確に伝わったのはようやくその年の11月8日においてであった。管理業務に関する制度改革は別としても,館長職自ら現に就いている職の在り方の成行きが,それまでの間に,控訴人から意向聴取がされずに,しかも非公式にしか伝わらなかったことにおいて既に控訴人が不愉快な思いをしたであろうことは,推測に難くない。
被控訴人らは,常勤館長は非常勤館長の後任ではないとも主張し,体制変更後の館長職の候補者を選ぶのに控訴人の意見を聴かなかったことに違法はないとも主張する。しかし被控訴人財団の中核である「○○」の活動内容を陣頭指揮するのは館長であり,控訴人は積極的にその行動を担ってきたことは前認定のとおりである。その活動内容を自ら継続して行うのかも含めだれが継承するのかは現職の館長の職務内容として重大関心事であり,被控訴人財団としても重大な関心事である。C事務局長として,控訴人の留任運動への影響を懸念して候補者リストを控訴人に知らせなかったとの趣旨の被控訴人らの主張もあるが,この主張自体,控訴人に候補者リストを隠しておこうという意図がC事務局長にあったことを裏付けるものといわなければならない。もちろん,本件雇用契約は年単位のものであるから,控訴人としては雇止めのリスクを覚悟すべきであったが,反面においてその実績から次年度も継続して雇用されるとの職務上の期待感も有していたものといえるのであり,雇用契約が年単位であるからといって,常勤館長職制度への移行期において,その移行内容及び次期館長の候補者リストについて何らの説明,相談を受けなかったことについては,現館長の職にある者としての人格権を侵害するものであったというべきである。
4 共同不法行為及び損害額
上記控訴人の人格権侵害は,少なくとも被控訴人市のD部長と,被控訴人財団のC事務局長の共同行為によるものということができ,被控訴人らは連帯してこれによって控訴人が被った損害の賠償義務がある。
しかして,控訴人の慰謝料としては,一部反対勢力の動きに屈して積極的に動いた上記違法行為の態様に,控訴人が「○○」の館長に雇用されるまでの経歴,専門的知見と雇用されるに至った経緯,その後の3年余にわたる館長としての実績などを合わせて斟酌して,100万円をもって相当とするというべく,さらに,弁護士費用として50万円を被控訴人らの不法行為と因果関係のある損害として認める。
第4結論
以上によると,控訴人の本訴請求は,被控訴人らに対し,上記の損害金の各自支払(不真正連帯債務)を求める限度で理由があり,これを認容すべきであるが,その余は失当として棄却すべきものであるから,これと結論を異にする原判決を本判決のとおり変更することとし,主文のとおり判決する(遅延損害金の起算日は不法行為後の日)。
(裁判長裁判官 塩月秀平 裁判官 菊池徹 裁判官 鈴木陽一郎)