大阪高等裁判所 平成19年(ネ)292号 判決 2007年9月11日
主文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、200万4125円及びうち195万5114円に対する平成17年12月1日から支払済みまで年21.9パーセントの割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。
4 この判決は第2項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 控訴人
主文同旨。
2 被控訴人
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1 本件は、控訴人が被控訴人に対し、貸金債務に係る保証債務履行請求権に基づき、元利金合計200万4125円及びうち残元金195万5114円に対する期限の利益喪失日の翌日である平成17年12月1日から支払済みまでの利息制限法所定の範囲内である年21.9パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原審は、控訴人の請求を棄却したところ、控訴人が控訴を申し立てた。
2 当事者間に争いのない事実
(1) 当事者
控訴人は、主に労働者派遣や軽作業等の業務請負を事業内容とする事業者に対し、事業資金を貸し付けるなどを業務内容とする株式会社である。
被控訴人は、労働者派遣や軽作業等の業務請負を主な事業内容とする有限会社ハイユニット神戸(以下「ハイユニット神戸」という。)の代表取締役であったものである(平成17年3月1日就任)。
(2) 消費貸借契約の締結
控訴人は、平成17年5月2日、ハイユニット神戸に対し、以下のとおり、金銭を貸し付けた(以下「本件消費貸借契約」といい、本件消費貸借契約に係る債務を「本件貸金債務」という。)。
① 貸付額 400万円
② 最終返済期日 平成18年2月28日
③ 利息 年18パーセント(年365日の日割計算)
④ 利息及び元金の返済方法 平成17年5月以降、平成18年2月まで、各月末日限り、元金の内金40万円及び経過利息(前期元金残高から当期支払期日までの日割計算によるもの)を支払う。
⑤ 遅延損害金 年25パーセント
⑥ 期限の利益喪失 債務の履行を2回以上怠ったときは、当然に期限の利益を喪失し、即時に残債務を支払う。
(3) 保証契約の締結
被控訴人は、本件消費貸借契約を締結する際、控訴人との間で、ハイユニット神戸が本件消費貸借契約に基づき負担するすべての債務を保証し、ハイユニット神戸と連帯して、その債務を履行する旨の連帯保証契約を締結した(以下「本件保証契約」といい、本件保証契約に係る債務を「本件保証債務」という。)。
(4) 期限の利益喪失
ハイユニット神戸は、平成17年10月末日及び同年11月末日の支払期日に、元金及び経過利息の支払をせず、期限の利益を喪失した。なお、ハイユニット神戸がそれまでに支払った金額は、平成17年5月31日に46万1151円、同年6月30日に45万3260円、同年7月31日に44万8921円、同年8月31日に44万2805円、同年9月30日に43万5507円である。
(5) 利息制限法の超過による再計算
本件消費貸借契約の利率は利息制限法所定の上限を超過しているため、これを上限(年15パーセント)に修正した上で、本件消費貸借契約に基づく残元金、未収利息金を計算すると、別表「Y:利息制限法再計算シート(ユニティーキャピタル)」のとおり、平成17年9月30日時点で残元金が195万5114円であり、同年11月30日時点の未払利息金が4万9011円(同年10月分が2万4907円、11月分が2万4104円)であり、総合計が200万4125円となる。
3 争点
本件保証契約は公序良俗違反(民法90条)、心裡留保(民法93条ただし書)により無効か、本件保証債務の履行請求が信義則違反(民法1条2項)又は権利濫用(同条3項)に該当するか否か。
4 争点に対する当事者の主張
(1) 被控訴人の主張
ア 控訴人によるハイユニット神戸の管理、支配
(ア) 控訴人やハイユニット神戸の属するグループの組織形態
以下のとおり、ハイユニット神戸は、ピラミッド構造をなすグループの末端に位置していた。
まず、控訴人の実体は、株式会社ユニティー(以下「ユニティー」という。)の財務部門であり、ユニティーを離れた独立の企業体ではない。
ハイユニット神戸は有限会社ユニティーグループ(組織変更後の株式会社UGP。以下「UGP」という。)の100パーセント出資会社である。UGPはユニティーと実質的に同一の企業体である。これらの会社のグループは、ユニティーないしUGPを頂点とし、次いで株式会社ハイユニットグループ(以下「ハイユニットグループ」という。)らの会社、その下にハイユニット神戸などの末端組織、というピラミッド状の組織構造を形成している。
ハイユニット神戸のほか、有限会社ハイユニット京都(以下「ハイユニット京都」という。)、有限会社ハイユニット大阪(以下「ハイユニット大阪」という。)などといった下部組織は、ユニティーなどの上部組織によって、売上げや経費支払をすべて管理されていた。
上部組織と下部組織の間にある中間組織的な立場の会社がハイユニットグループと有限会社ゼネラル・マネージメント(以下「ゼネラル・マネージメント」という。)である。ハイユニットグループは下部組織の人事、総務面を管理し、ゼネラル・マネージメントは経理面を管理していた。
(イ) 控訴人らによるハイユニット神戸の管理・支配態様
以下のとおり、控訴人ら上部組織は、ハイユニット神戸を経済的に従属させ、売上げの報告・管理や人事の管理などの面でも具体的に管理、支配していた。
ハイユニット神戸ら下部組織は、当期予算の提出を事前に指示されていた。しかも、当初から「売上げは1億2000万円に設定」「利益は2パーセントかトントンに」などといった指示がされていた。上部組織に支払うべき金額も定まっていた。提出した予算の内容が上部組織の了解を得られなければ、再提出を指示された。月次の売上報告の提出を指示されており、上記予算の達成率が上部組織によってチェックされていた。
ハイユニット神戸ら下部組織は、自社名義の預金通帳や会社印を自社で保有することができず、すべて上部組織に管理され、売上金も上部組織の管理する口座に振り込まれていた。下部組織の側で上部組織の意に沿わないことがあれば、資金移動を止めるなどといった脅しを受けていた。
ハイユニット神戸とユニティーとの間で締結された経営顧問契約証書(甲7の1)では、経営顧問料が随時変動することがあり、ユニティーは一切の責任を負わない旨定められているといった不公平なものとなっている。その他、ハイユニット神戸ら下部組織は、上部組織から、経営顧問料、経理代行料、経営支援料、システム使用料、借入金利息等の名目で実質的な営業利益をはるかに超えるノルマを課された。
このように、ユニティーら上部組織が下部組織の生殺与奪の権利を握っていたため、被控訴人には、ハイユニット神戸の経営において、代表者としての裁量権を用いる余地が全くなかった。
イ 被控訴人が本件保証契約を締結した経緯
被控訴人は、平成16年11月1日にハイユニット神戸で従業員として勤務を始めたころから、ユニティーの役員であるC(以下「C」という。)らの業務命令により、ハイユニット神戸名義の貸金債務のすべてにつき、保証債務の負担を強要されていた。本件保証契約もその一環である。
その後、被控訴人は、ハイユニット神戸の代表者となったが、実質はユニティーの末端の従業員に過ぎなかった。ハイユニットグループの代表者でUGPの取締役でもあるC(被控訴人がハイユニット神戸の代表者を辞任した後、同社の代表者に就任している)が、ユニティーの意向を受け、被控訴人に対し、恫喝してハイユニット神戸の代表者に就任させた。被控訴人は、代表取締役就任に当たり、職務履歴書(甲3)と挨拶状(甲5)を作成したが、これらはCの指示命令でやむなく作成したものである。被控訴人は業務命令を受けてやむなく形式上ハイユニット神戸の代表取締役に就任したのであり、ハイユニット神戸が破綻必至であることを入社当初から認識していたため、同社の代表取締役に就任する気はなかった。このことは、被控訴人が就任前の平成17年1月の時点で、ハイユニット神戸が近い将来ショートする旨上部組織に訴え(乙11参照)、ハイユニット神戸の責任者への就任を再三拒み、Cからの恫喝行為を日常的に繰り返し受けたことからも裏付けられる。
ユニティーら上部組織は、構造的に、上部組織が不当な利益を得るため、下部組織にグループの従業員を代表者に形式上就任させ、営業上の経費について貸付けの形を取り、当該従業員にその保証契約の締結を強要して、従業員に経費負担の危険を負わせ、最前線部署に拘束することを繰り返したのである。
ウ 本件貸金債務の内容・使途
ハイユニット神戸の貸金債務の内容は、本来企業本体であるユニティーないし控訴人が、事業の必要経費として、同社の名義と計算で負担すべき性質のものであった。しかし、ユニティーないし控訴人は、これを企業間貸付けと従業員による保証の形をとることにより、不採算の危険を従業員個人に負担させた。
上記アのとおり、ハイユニット神戸ら下部組織は、ユニティーのような上部組織から、売上げや経費をすべて管理されており、経営顧問料等の名目で、実質的な営業利益をはるかに超えるノルマが徴収されていた(会計帳簿上は外注費等の名目で計上されている)。このノルマは不当・過当なもので、ハイユニット神戸の資金繰りは初めから無理があったため、赤字が出れば新たにユニティーないし控訴人から新たな借入金名目の経費を得るか、被控訴人個人の名義で資金調達するしか方法がなかった。
しかも、控訴人は、ハイユニット神戸に利息制限法違反の高利の貸付けをしているところ、グループ企業内でかかる高利の設定をしていること自体、取引内容の異常さを示している。
エ 以上にみたとおり、控訴人及びユニティーは、グループ組織の末端の従業員である被控訴人に対し、企業間貸付けの保証人の形をとって末端部署に縛り付け、その不採算の危険を負担させたのであり、本件保証契約は反社会性が高く、公序良俗に違反するものとして無効である(民法90条)。また、本件保証契約に基づく請求は信義則違反(民法1条2項)又は権利濫用(同条3項)に当たるため、許されないというべきである。
また、被控訴人は、真意から保証人としての義務を負担する意思など全くなく、かつ、そのことはユニティー及び控訴人において十分知っていたか、少なくとも知り得た状況にあったことは明らかである。したがって、本件保証契約は心裡留保の規定(民法93条ただし書)により無効である。
(2) 控訴人の主張
以下の点を考慮すれば、本件保証契約に公序良俗に違反するところや心裡留保に当たる点はないし、権利濫用や信義則違反にも当たらない。
ア 控訴人によるハイユニット神戸の管理、支配
控訴人やハイユニット神戸らが属する業務請負事業のグループは、上意下達の組織ではない。同グループは、経営戦略上、人材ビジネス会社の緩やかなネットワークを構築し、そのネットワークを活かして、発注元のニーズに確実、迅速、適切に対応できるようにしているのである。
すなわち、今般、収益力強化、人件費削減、専門性重視のニーズ等があるため、多くの企業でアウトソーシング(外部化)が企業戦略として用いられている。こうした企業ニーズに応じる受け皿としての業務請負事業(人材ビジネス)がビジネスチャンスとなっている。人材ビジネスでの業務には、イベント(展示会等)や販売促進等に関連する作業、工場や製造部門内の運搬、荷役等の軽作業等が挙げられるところ、こうした人材ビジネスでは、発注元の求める人材を確実、迅速、適切に手配する態勢を整えておく必要がある。そのために、人材ビジネス会社では多くの多彩な人材、労働力を登録社員として確保することが求められる。他方、個々の会社で予め募集、確保できる登録社員数には限界がある。そこで、人材ビジネス会社同士の緩やかなネットワークを構築することがビジネスチャンスを得る有力な手段となる。ネットワークを活用することにより、自社の登録社員では対応しきれない注文に対し、ネットワークを結んだ他社と共同受注したり、登録社員の紹介を受けるなどして発注元のニーズに応えることができ、さらに得意先を幅広く開拓していくことができる。また、こうしたネットワークが背景にあれば、個々が低資本で人材ビジネス会社を起業することもできるのである。
さらに、このネットワークに参加した企業では、受発注や人の手配等のコンピュータシステム、入出金業務などの定型化したシステムや業務を共通化してコスト低減を図り、さらに顧客の紹介や経営アドバイスも行うなどして、各企業の若手経営者をサポートする体制も整えられている。ネットワークに属する企業が、売上高等の報告や一部の書類等の預かりをユニティーらに行ってもらっているが、これは経理代行等の必要上行われているに過ぎず、これをもってネットワーク参加企業の独自性や独立採算性を否定することにはならない。
ハイユニット神戸は、このようなユニティーを中核とする緩やかなネットワークに加わっているのであって、ユニティーや控訴人の下部組織にあるのではない。
被控訴人もこのような事業環境について熟知していた。
イ 被控訴人が本件保証契約を締結した経緯
以下のとおり、被控訴人は、自発的にハイユニット神戸の代表取締役に就任し、本件保証契約を締結した。
被控訴人は、人材派遣や業務請負を業とする会社に勤務した経歴を有していたところ、ハイユニットグループの代表者であったCから「経営者としてハイユニット神戸の経営をしないか」と誘われてこれに応じ、平成16年11月にハイユニット神戸が設立されるのと同時に同社に入社した。
被控訴人は、ハイユニット神戸が自己資金なしで開業した会社であり、開業当初から関係グループ各社との相互支援(得意先の紹介、譲り受け、業務処理コンピュータシステムの利用等を含む)など、ネットワークを活用しながら運営されていることを熟知しており、被控訴人自ら年間の予算計画(甲12)を立案して事業運営に取り組んでいた。被控訴人は、当初ハイユニット神戸の営業部長の肩書で勤務したが、自分の会社を持って事業拡大を図りたいとの志を持って事業運営に取り組んでいたのであり(実質は経営責任者)、十分な熟慮期間を経て、自分なりの手応えと見通しを持ち、平成17年3月1日同社の代表取締役に就任するに至った。被控訴人がCからの業務命令や恫喝を受けてハイユニット神戸の代表者に就任したのではない。なお、被控訴人の後にCがハイユニット神戸の代表者に就任したが、これは、同人が、被控訴人の欠勤状態に対する責任を痛感し、従業員を守り、得意先に迷惑をかけないようにするため、事態収拾に向け就任したものである。
ハイユニット神戸のような人材ビジネス会社を経営するには、常に一定程度運転資金を確保する必要がある。なぜなら、得意先からの請負代金の入金までには30日ないし60日程度の信用期間(サイト)があるのに対し、登録社員への給料の支払は、短期アルバイト等が多いため2、3日後や週末の支払が一般的であり、入金と出金とで時期のずれがあるからである。得意先や顧客からの受注高が一定であれば運転資金計画は狂わずにすむが、逆に受注見通しが崩れると運転資金がショートするおそれもある。ハイユニット神戸は、運転資金を必要としたために平成17年2月22日にユニティーから300万円の借入れをし、さらに同年5月2日に本件の400万円の借入れをした(なお、前者の借入れについては返済済み)。被控訴人は、人材ビジネス会社の経営には一定の運転資金が必要であることを熟知した上で、上記ハイユニット神戸の代表者として借入れをするとともに、個人で本件保証契約を締結したのである。担保余力のない会社において、その経営者が個人で保証債務を負うことはよくあることである。また、被控訴人は、保証契約書に自署し、自ら実印を押印し、印鑑登録証明書を控訴人へ提出している。
このように、本件保証契約は、被控訴人の任意かつ真意に基づいている。被控訴人は、得意先の開拓等で十分な成果を上げられず、自ら立案した予算を達成できずに支払ができなかっただけである。ハイユニット神戸が破綻必至であることを前提に貸し付けることはあり得ない。ネットワーク参加企業が破綻すれば、その得意先に迷惑がかかり、ネットワーク全体の信用失墜にもつながるからである。むしろ、このネットワークに参加する企業の中には、ネットワークの利点を活かして独自の裁量で経営戦略を立て、経営努力をして成長を続ける企業も豊富に存在する。
ウ 貸金債務の内容・使途
以下のとおり、ハイユニット神戸からグループ各社への経費支払に不合理な点はなく、具体的かつ合理的な裏付けのある費用であった。
ハイユニット神戸は、当初からユニティーやハイユニットグループのビジネスモデルを倣い、そのネットワークを活用してビジネス展開している。ハイユニット神戸は、被控訴人を含め実働3人であるにもかかわらず、設立から11か月後である平成17年9月末の売上高は7150万円を超えていた。この実績は、グループにおけるビジネスモデルが確立していたことのほか、グループから従前の顧客を多く紹介してもらい、顧客を譲ってもらう経営支援を受け、スタッフを他のグループに外注するなど、ネットワークを駆使した結果である。
こうした経営支援の経費として、ユニティーGPN(グループネットワーク)事業部やハイユニットグループへの経営顧問料(甲7、8)、有限会社TMへのコンサルティング委託料(甲6)、その他被控訴人が主張する管理諸費が生じたのである。
また、ハイユニット神戸は、主な経理業務をUGPに委託し代行してもらっていた。実働3人では、日々の経理業務や各種経理・管理書類の作成、確定申告やその費用負担等に手が回らなかったためである。UGPへの外注費とはこのことを指す。
そのほか、ハイユニット神戸のビジネスモデルをコンピュータシステムとして構築しているのがIBCシステムであり、ハイユニット神戸はそのシステム導入に伴う利用料を有限会社IBCに支払っていた。事務所の什器備品類は主にユニティーからリースしてもらっていた。ハイユニット神戸が受注した業務請負につき、自社登録スタッフでは手配しきれなかった際、ネットワークを活かして外部スタッフを利用したため、その外注費用も生じた。
これらの費用は、ハイユニット神戸が自前で設備や人材を調達するなどのコストと比較しても決して割高ではない。このネットワークに関連した管理費用を負担する企業は30社以上に及び、各社はそれぞれ創意工夫をしながら成長している。
第3当裁判所の判断
1 公序良俗違反、権利濫用、信義則違反について
(1) 被控訴人は、控訴人ないしユニティーによってハイユニット神戸が管理、支配されていたこと、被控訴人が本件保証契約を締結した経緯において強制力が働いたこと、本件貸金債務の内容・使途、ハイユニット神戸の収支状況に関する事情を挙げて、控訴人がグループ組織の末端の従業員である被控訴人に対し、企業間貸付けの保証人の形をとって末端部署に縛り付け、不採算の危険を負担させたもので本件保証債務の有効性ないし本件保証債務の履行を認めることは許されない等の主張をしている。
その趣旨は次のようなものと解される。すなわち、ハイユニット神戸は形式的には法人格を有するもののユニティーないし控訴人の完全な支配下にあってハイユニット神戸の代表取締役である被控訴人の地位もユニティーないし控訴人の従業員に等しい立場にあること、控訴人は、被控訴人が控訴人にとっては一従業員でありその指揮命令に従うことを利用して半ば強制的に代表取締役に就かせ、本件保証契約を締結させたものであること、本件貸金債務は企業本体であるユニティーないし控訴人が、事業の必要経費として、同社の名義と計算で負担すべき性質のものをハイユニット神戸が法人格を有することを利用して同社に負担させたものであること、以上の諸点からすると、同社の予想された破綻の危険を実質的には一従業員にすぎない被控訴人に負担させる結果になる本件請求は許されないという趣旨と解される。
したがって、以下では、①ハイユニット神戸及び同社の属するグループの組織形態、②被控訴人がハイユニット神戸の代表取締役となり、本件保証契約を締結した経緯、③本件貸金債務の内容、ハイユニット神戸の収支状況の各点からみて本件保証契約の効力に問題が生じるか否かにつき検討する。
(2) まず、ハイユニット神戸及び同社の属するグループの組織形態に関して判断する。
(認定事実)
甲第4号、第6ないし第10号証の各1、第12、第13、第15号証、乙第1ないし第7、第11ないし第15、第17、第18、第21、第22、第24、第25号証、証人E、同D、控訴人代表者、被控訴人及び弁論の全趣旨を総合すると以下の事実が認められる(以下、括弧内には認定に供した主たる証拠を示す。)。
ア 株式会社ワールドグリーンスタッフ
平成15年6月ころに被控訴人が入社した株式会社ワールドグリーンスタッフ(以下「ワールドグリーンスタッフ」という。)は、ユニティーの関連会社で、人材派遣や業務請負を業としており、梅田、神戸、京都、広島、名古屋などに支店を持っていた。代表取締役はA(以下「A」という。)であった。ワールドグリーンスタッフは、各支店にノルマを課し、支店間で仕事やスタッフの回し合いをするといった経営をしていた。ワールドグリーンスタッフは、平成16年ころ、同社の支店を別会社として法人化するようになった(乙22、24、25)。
ワールドグリーンスタッフの事業を株式会社エニースタッフが引き継ぎ、その後、ハイユニットグループが平成17年1月4日に設立されて同社がその事業を引き継いだ。これに伴い、上記のワールドグリーンスタッフの各支店から別会社として法人化された会社は、ハイユニットグループのグループに組み込まれることになった。ハイユニット神戸やハイユニット大阪、ハイユニット京都などがそれである(乙6、22、24、25)。
なお、ハイユニットグループはUGPの100パーセント出資会社である。代表取締役はC(UGPの取締役でもあった)が務め、その他の取締役にはD(以下「D」という。)、F、Gらがおり、監査役はH(平成18年2月に死亡。以下「H」という。)であった(乙6)。
イ ユニティーら
ユニティーは、平成4年12月18日に設立された会社で、代表者はA、その他の取締役にはI(現在の控訴人代表者、以下「I」という。)らがおり、Hも取締役であった。ユニティーは、平成15年から16年にかけて内部の事業部門を以下のとおり別法人化していったが、別法人化した会社も本店所在地や役員構成で共通している。ユニティーには他に多数の支店があった(乙2、22、24、25、控訴人代表者)。
① UGP(乙5)
設立は平成15年6月6日で、本店所在地はユニティーと同じである。
代表取締役はAであり、その他の取締役にB、C、監査役にHが、同人死亡後はIが就任した。
② 控訴人(乙3)
設立は平成15年9月1日で、本店所在地はユニティーと同じである。
代表取締役はIであるが、それ以前、Aが、次いでHが代表取締役を務めていた。ユニティーの財務部門を担当し、グループ会社にのみ金銭の融資をする会社であり、株主はA1人である(控訴人代表者)。
③ ユニティーコンサルティング(乙4)
設立は平成16年9月9日で、本店所在地はユニティーと同じである。代表取締役はIであり、その前はHが務めていた。監査役はAであり、同社のその他の役員は、IとHが相談して選んだものである(控訴人代表者)。
④ ゼネラル・マネージメント(乙21、証人E)
設立は平成16年1月5日で、本店所在地はユニティーと同じであり、代表取締役はBである。
ウ ハイユニット神戸の設立
ハイユニット神戸はワールドグリーンスタッフ神戸支店が独立する形で、平成16年11月に設立された。資本金300万円はUGP(組織変更前の商号は有限会社ユニティーグループ)が全額出資した。設立当初のハイユニット神戸の取締役はDとFであった(乙1、5、7、22、控訴人代表者、被控訴人本人)。しかし、勤務場所や業務実態、顧客は変わっていない(乙22、控訴人代表者、被控訴人本人。)。ハイユニット神戸の代表取締役にはDがCからの指示で就任し、Dはハイユニット大阪の代表取締役と兼務することになった。他の取締役にFのほかCも就任した。こうした役員構成はCとAの間で取り決められた(甲4、控訴人代表者、証人D)。
ハイユニット神戸のほかにも全国各地において、ユニティーと関連する多くの支店等が法人化したが、そのような方針が採られたのは、人材派遣の市場は顧客獲得に向けての営業次第で大きく業績が伸びる市場であるとの認識に基づき、その営業は従業員という立場に立つ者によるのではなく、各地域に独立して活動できる拠点を置いて、独立志向が強い者に任せた方が市場の開拓に適しているとの判断によるものであった(甲13、控訴人代表者)。
エ 印鑑、預金口座の管理
ハイユニット神戸の代表者印や銀行届出印、預金口座の通帳は、ゼネラル・マネージメントが保管していた。上記預金口座には、ハイユニット神戸の売上げも入金されていた。そのため、登録スタッフへの給与や費用の支払などもゼネラル・マネージメントを通じて行われていた(乙22、控訴人代表者、被控訴人本人)。
オ 予算、業績の報告
ハイユニット神戸は、Cらから、当期予算を事前に提出するよう指示されていた。その際、ハイユニット神戸は、Cらから「売上げは1億2000万円に設定」「利益は2パーセントかトントンに」といった目標設定を受け、その目標設定に向けた努力が求められていた(乙11ないし14、18、22、被控訴人本人)。
また、ハイユニット神戸は、売上報告をするとともに、予算の達成率を報告することが求められていた。売上報告には月次報告書だけでなく、日次の売上げも添付資料として提出していた(乙12ないし14、22、控訴人代表者、被控訴人本人)。
カ ハイユニット神戸とユニティーらとの間の契約書
ハイユニット神戸とユニティーらとの間には以下の契約書が存在する。
ユニティーとの間で経営顧問契約証書(甲7の1)、UGPとの間で管理業務委託契約書(甲9の1。ハイユニット神戸の設立日である平成16年11月1日付けで、経理業務・人事労務その他付帯関連する管理業務をUGPに委託する旨の内容)、有限会社TMとの間でコンサルティング委託契約書(甲6の1。有限会社TMの代表取締役はA、本店所在地は控訴人やユニティーと同一)、ハイユニットグループとの間で経営顧問契約証書(甲8の1)、有限会社IBCとの間で「IBC手配管理システム利用契約書」(甲10の1。有限会社IBCの代表取締役はA、本店所在地は控訴人やユニティーと同一)である(乙22)。
また、上記ユニティーやハイユニットグループとの経営顧問契約証書では、ハイユニット神戸が両社に対して軽作業請負業務上の経営顧問全般を依頼する(経営顧問料はユニティーにつき月25万円、ハイユニットグループにつき月10万円)旨の内容となっているが、それぞれの内容は酷似しており、将来損失、損害が発生してもユニティーやハイユニットグループは一切の責任を負わないとする旨の約定がある(甲7の1、8の1)。これらの顧問料等の支払はゼネラル・マネージメントを通じて行われていた(控訴人代表者)。
キ メール等による指示
AやCらは、ハイユニット神戸やハイユニット大阪らに対し、電子メールを使って指示している。
具体例は次のとおりである。
(ア) Cからハイユニット神戸やDらに宛てて、各社の売上げが確定したら、売上高、利益、外注費等をメールでCに送信するよう要請していた(乙14、被控訴人本人)。
(イ) ゼネラル・マネージメントの取締役JがCやDらに「経理ソフトとIBCの取引先(クライアント・データ)登録確認をさせてほしいため、登録書若しくは名刺をゼネラル・マネージメント宛てにFAXしてほしい」旨求めたところ、Aからゼネラル・マネージメントに、登録用紙と名刺の両方を出させるべく伝達するよう指示するとともに、登録用紙のない取引があればAに伝え、登録用紙がないなら取引はさせないよう指示した。ゼネラル・マネージメントはその指示に従い、CやDらにその旨メール送信した。その後さらにA自ら、ゼネラル・マネージメントやハイユニット神戸、C、Dらに対し、上記クライアント・データの提出要請への対応が遅れた者を想定して、「管理会社の対応が各社なされない場合資金移動とめてください」と警告した(乙15、22、被控訴人本人)。
(ウ) ゼネラル・マネージメントの代表者Bが、Dらに対して管理資料提出に関する電子メールを一斉に送信しているところ、そこには、社員データや出勤簿(タイムカードも含む)、経費、売上げの確定、外注費の確定など細部にわたる報告をゼネラル・マネージメントにするよう求め、その提出方法(FAX、メール等)についても細かく伝え、「上記の期日を逸脱して守ってもらえない場合、経費は破棄、報酬や給与は、20日もしくは25日払いに変更していただきます」「上記、(有)ユニティーグループにも了承を得ていますので、私の判断で決行していきますのでよろしくお願いします」との注意喚起が含まれている(乙17、被控訴人本人)。
ハイユニット神戸は、金銭面の管理についてはAから直接の指示を受け、人事異動についてはCから指示を受けることが多かった。また、被控訴人やDらは、営業成績を上げられないなどAやCらの意に沿わないことをした場合には、暴言を受けるなどしたことがあった(乙22、24、25、被控訴人本人、証人D)。
(判断)
以上の事実が認められ、ユニティーを中心とする企業グループに属する各会社が資本面でも、役員構成の面でも密接なつながりを持ち、また、前記認定に係る顧問契約等によってハイユニット神戸が控訴人やグループに属する会社から経営にわたる事項についても相当強力な指示を受けていたことが認められる(控訴人は、控訴人やハイユニット神戸らが属するグループは、上意下達の組織ではなく、緩やかなネットワークを構築している旨主張しているが、採用できない。)。しかし、会社がその組織の一部をその一部門にとどめるか、それを子会社(会社法2条3号、4号、会社法施行規則3条1項、2項)として別個の法人とするか、別個の法人とした場合に元の会社から新法人に対する支配の方法、程度をどのようなものにするかについては広くその経営裁量に任されているのであって、新しく設立された会社の法人格が全く形骸化したものであったり、法人格の利用が濫用に当たらない限りは、子会社設立後にその親会社ないしそのグループ会社と子会社との間に締結された消費貸借契約の効力が否定されるようなことはないのであって、このことは、親会社の子会社に対する役員人事等の決定方法いかん、業務面での指揮、命令あるいは指示のあり方が緩やかであろうと、強力なものであろうと同様である。そして、指揮命令あるいは指示のあり方が強力な場合には子会社の代表者の裁量は必然的に相当狭められることになり、また、その子会社の業績の悪化は親会社を含むグループ全体の利益の減少につながるため、親会社の役員等から子会社の代表者等に叱責に等しい行為があったとしても、これらによって直ちに子会社の法人格の独立性が否定されるわけではない。また、ハイユニット神戸の法人化の目的は、前記ウにおいて認定したとおりであるが、それに加え、会社の支店が赤字に陥った場合に親会社が負わなければならない危険を避けようとする意図があったとしても、そのこと自体は何ら違法ではなく、この意図があれば法人格の濫用と認められるともいい難い(ただし、法人化の目的が専ら赤字部門の切り捨て等にある場合は別論でありこの点は、(4)において検討する。)。
そして、前記認定事実からはハイユニット神戸の経営面での独立性が小さく、代表者の経営裁量も狭かったことは認められるが、その裁量を働かせる余地が全くなかったとか独立採算制が失われていたとまでは認められず、その法人格が形骸化していたとはいい難いし、ハイユニット神戸の法人化が濫用の目的であったとも認められない。
(3) 次に、本件保証契約の締結の経緯について検討する。
(認定事実)
甲第1ないし第5、第12号証、乙第7、第11、第16、第22、第26号証、証人E、同D、控訴人代表者、被控訴人及び弁論の全趣旨を総合すると以下の事実が認められる。
ア 被控訴人のワールドグリーンスタッフ入社
被控訴人(昭和55年9月22日生)は、平成15年6月ころ、ワールドグリーンスタッフの神戸支店にアルバイトとして入社し、同年11月から同社の内勤(日給アルバイト)となった。同社の代表者はAで、Cが同社の大阪支店長、関西統括部長などといった肩書を有していた(甲3、乙22、証人E、被控訴人本人)。
その後、株式会社エニースタッフがワールドグリーンスタッフの事業を引き継ぎ、被控訴人は、同社神戸支店の正社員として勤務するようになった(甲3、被控訴人本人)。
イ ハイユニット神戸の設立
被控訴人は、ハイユニット神戸設立当初、同社の営業部長の肩書きを有していた。ハイユニット神戸は、事業開始時、被控訴人を含め実働3名であり、被控訴人が実質的な経営責任者として中心的に働き、予算計画(甲12)を立てるなどしていた(甲3、12、乙11、22、被控訴人本人)。
ウ 被控訴人のハイユニット神戸の代表取締役就任
被控訴人は、平成17年1月末ころ、Cから、ハイユニット神戸の代表取締役に就任するよう強い誘いを受けた。被控訴人はハイユニット神戸の経営が成り立っていくかどうか、自分の能力がその責任に耐えられるかどうかを含め不安も強かったが、機会を得た以上、代表取締役に就任しようと決意し、平成17年3月1日付けでハイユニット神戸の代表取締役に就任した(甲3ないし5、乙22)。
エ 本件消費貸借契約、本件保証契約の締結
ハイユニット神戸は、平成16年12月20日付けで、UGPから300万円を借り入れたが、これは後に弁済された。
平成17年4月末ころには、ハイユニット神戸は経費を精算できず、資金繰りに追われ、被控訴人は、自ら銀行回りするなどして資金調達を試みたがかなわなかった。そこで、被控訴人がCに資金繰りの相談をしたところ、同人から、控訴人から借入れをし、被控訴人がその保証人になるよう指示を受け、平成17年5月2日、本件消費貸借契約及び本件保証契約が締結された(甲1、2、乙16、22、被控訴人本人)。
オ 被控訴人の代表者辞任
被控訴人は、神戸弁護士会に相談に赴いてK弁護士に依頼してハイユニット神戸の代表取締役を辞任したい旨の平成17年5月6日付け通知書をハイユニット大阪のD宛に送付してもらい、同年6月15日も同様の通知書を出した。被控訴人は、同月中にはハイユニット神戸に出社しなくなった。ハイユニット神戸では、被控訴人が代表取締役を辞任した後、Cが同年8月1日付けで代表取締役に就任した(乙7、26、控訴人代表者、被控訴人本人)。
(判断)
上記の認定事実に照らしても、本件貸金債務ないし本件保証債務が公序良俗に違反していることや、その請求が権利濫用に当たると認めるべき事情は認められない。被控訴人がハイユニット神戸の代表取締役に就任するに当たって、Cから強い誘いを受けた際にも、また、本件保証契約を締結する際にも、被控訴人に強い逡巡があったことは認められるが、若年で経験も浅い被控訴人が代表取締役という重い責任を負うことや、保証契約の性質上、逡巡や不安があることは通常のことであって、このことは本件保証契約が公序良俗に反していることや、本件保証債務の請求が権利濫用に当たるとする根拠足りえない。また、被控訴人は、Cを恐れていたためやむを得ず就任した旨供述するが、具体的にCに何をされると恐れていたのかは不明であり、その供述の具体的な内容は、語気強く代表取締役に就任するようにいわれたというにとどまるものであって、上記の公序良俗違反、権利濫用性を基礎づけるに足りるものではない。
(4) 次に、本件債務の内容、ハイユニット神戸の収支状況について判断する。
(認定事実)
甲第12号証、乙第7、第9ないし第11、第22、第26号証、控訴人代表者、被控訴人及び弁論の全趣旨を総合すると以下の事実が認められる。
ア ハイユニット神戸の第1期(平成16年11月1日から平成17年9月30日まで)の損益計算書上、その売上高は7154万1944円となったが、営業損益の段階では512万3798円の赤字、経常損益で560万5529円の赤字であり、予算表作成時の予想よりも大幅に下回る業績となった(甲12、乙9)。
イ 第1期の支出のうち売上原価が5842万0816円であるが、そのほとんどは、ユニティー(GPN事業部4215万1747円)及びハイユニットグループ(133万1890円)への外注費で占められている(乙10)。
販売費及び一般管理費(総額1824万4566円)のうち、UGPに外注費252万円、ユニティーに賃借料55万5660円、有限会社IBCに賃借料94万5000円が支払われている(乙9、10)。
ウ 被控訴人は、平成17年1月ころ、「有限会社ハイユニット神戸資金繰り表」(乙11)を作成し、Cに対して、近い将来ハイユニット神戸の資金がショートする旨報告した。
エ 被控訴人は、ハイユニット神戸の資金繰りに窮して、ハイユニット神戸の代表者として、平成17年5月2日、控訴人との間で本件消費貸借契約を締結し、この借入金400万円は、ゼネラル・マネージメントが管理するハイユニット神戸名義の預金口座に入金され、ゼネラル・マネージメントによってハイユニット神戸の債務の支払に充てられた(乙22)。
オ ハイユニット神戸では、被控訴人が代表取締役を辞任した後、Cが代表取締役に就任したが、同年11月ころには、事業停止に追い込まれた(乙7、26、控訴人代表者、被控訴人本人、弁論の全趣旨)。
(判断)
本件消費貸借契約に係る借入金の使途はエにおいて認定したとおりであり、本件消費貸借契約の締結がハイユニット神戸にとって不要なものであった、あるいは借入金がその事業経費の支払に充てられなかったことをうかがわせる証拠はない。被控訴人は、本件貸金債務がユニティーないし控訴人が、事業の必要経費として同社の名義と計算で負担すべき性質のものであると主張しているが、これは、ハイユニット神戸がユニティーの一部門であった場合には、ユニティーで負担すべき性質のものであるとの主張にすぎず、ハイユニット神戸の法人格を前提としても、なおハイユニット神戸に必要な資金でなかったと主張しているわけではない。そして、ハイユニット神戸の法人格が否定される事情が認められないことは(2)において説示したところである。確かに、会社の一部門が破綻必至であるような場合に会社が専らそのことから生じる負担を免れる目的でその部門を法人化するようなことは法人格の濫用と評価される場合もあろうし、またそのような場合ならば、本件消費貸借契約がその高利性に照らして予想されるハイユニット神戸の窮状を利用して高利を得ようとする目的にでたもので公序に反すると評価される場合や、上記の状況を秘して保証をさせたことなどをとらえて本件保証債務の履行請求について権利濫用の法理又は信義則の適用をすることも想定できなくはない。
そこで検討するに、前記認定のように、被控訴人が平成17年1月ころ、Cに対して、近い将来ハイユニット神戸の資金がショートする旨報告した事実が認められるが、被控訴人供述及び控訴人代表者供述によると、人材ビジネスの会社においては得意先から請負代金の入金までには30日ないし60日程度の期間があるのに対し、登録社員への給料の支払は短期アルバイトが多いため2、3日後や週末の支払が多く、入金と出金とでは時期にずれが生じるため、最終損益として利益が出てくる場合においても運転資金がショートして借入れをする必要が生じることが認められるのであって、運転資金がショートすることと破綻することとは別であるから、運転資金がショートする旨の報告がなされたことからハイユニット神戸の破綻が確実であったとの事実を認めるには足らず、ハイユニット神戸の収支状況に関する関係各証拠(乙8ないし10、12、13)からも設立当初又は被控訴人の代表取締役就任時から破綻が確実であったことを認めるに足りる資料は得られない。
この点について、被控訴人は、ハイユニット神戸ら下部組織は、上部組織から、経営顧問料、経理代行料、システム使用料等の名目で実質的な営業利益をはるかにこえるノルマを課されているため破綻が必至であった旨の主張をしている。しかし、ハイユニット神戸が実働3人の会社であったにもかかわらず、設立から11か月後である平成17年9月30日期末の通期売上高は7150万円を超えていたのであり、証人Eの証言、控訴人代表者供述によれば、この実績は、グループにおけるビジネスモデルが確立していたことのほか、グループから従前の顧客を多く紹介してもらい、顧客を譲ってもらう経営支援を受け、スタッフを他のグループに外注するなど、ネットワークを駆使した結果であること、ハイユニット神戸がグループ内の会社に対して負担する債務は、それぞれ経営顧問料や経理等の代行業務、コンピュータシステムの利用の対価であって、上記ネットワークを活用するために必要な経費であることが認められるのであって、経費の固定化という問題はあるものの、それ自体は不当なものとはいえず、これらの負担によってハイユニット神戸が破綻することが必然であったと認めるに足りる証拠もない。
そもそも、破綻が必至の営業部門ないし支店を300万円もの出資をして法人化し、しかも、そこにいくら高利とはいえ回収見込みの得られない貸付けをすることは通常考え難いことがらである。ハイユニット神戸が結局、破綻に至ったことは上記のとおりであるが、その破綻の原因が控訴人が主張するように被控訴人の営業先の開拓が不十分であったことのみに起因するとまでは認められないものの、甲第13、第14、第16号証の1ないし10、証人Eの証言によれば、ハイユニット神戸と同様に支店が独立する形で設立された企業のうち多くの企業が現在も破綻に至らずに存続していること、その中には相当高い業績を上げている企業があることがうかがわれることに照らしても、ハイユニット神戸がその設立当初又は被控訴人の代表取締役就任時から破綻必至であったが故に破綻に至ったということは認め難い。
(5) 以上の次第であり、上記いずれの観点から見ても、本件保証契約が公序良俗に反し無効であるとも、本件保証債務の履行請求が信義則に反しあるいは権利濫用に当たるとも認められない。
2 心裡留保の主張について
被控訴人がハイユニット神戸の代表取締役に就任するに当たっても、本件保証契約を締結するに際しても、直ちにこれを決意したわけではなく、逡巡の上その決断に至ったことは1(3)において認定したとおりであるが、被控訴人が本件保証契約締結時にこれに基づく保証責任を負う意思がなかったことをうかがわせる証拠はなく、むしろ被控訴人は「保証人に入っているので、会社が倒産したら自分にも降りかかってくるだろうなということは分かっていた。」と供述している(同調書36頁)。そして、保証契約を締結するに当たっては逡巡や不安があり、その立場や人間関係等からこれを断ることができず保証契約を締結することはありがちなことであって、このように締結された保証契約を真意でなかったと言うことが言葉の使い方として間違っているとはいえないが、心裡留保に関する法的主張としては意味がないことは明らかである。被控訴人の心裡留保についての主張は理由がない。
3 以上の認定及び判断の結果によると、控訴人の請求は理由があるからこれを認容すべきである。そうすると、当裁判所の上記判断と結論を異にする原判決は不当であるから、これを取り消し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 渡邉等 裁判官 八木良一 樋口英明)
(別表)Y:利息制限法再計算シート(ユニティーキャピタル)<省略>