大阪高等裁判所 平成19年(ネ)3147号 判決 2008年3月13日
大阪市<以下省略>
控訴人
株式会社コムテックス
上記代表者代表取締役
A
大阪府豊中市<以下省略>
控訴人
Y1
上記2名訴訟代理人弁護士
後藤次宏
京都市<以下省略>
被控訴人
X
上記訴訟代理人弁護士
長谷川彰
同
B
主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は,控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 控訴人ら
(1) 原判決中,控訴人ら敗訴部分を取り消す。
(2) 被控訴人の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
主文と同じ
第2事案の概要
1 事案の要旨
(1) 本件は,商品取引員である控訴人株式会社コムテックス(以下「控訴人会社」という。)を通じて商品先物取引を行った被控訴人が,同取引において,控訴人会社及びその被用者が行った不法行為により損害を被ったとして,控訴人会社に対しては民法709条又は715条に基づき,上記被用者の1人である控訴人Y1(以下「控訴人Y1」という。)に対しては同法709条に基づき,上記損害933万9245円(財産的損害,慰謝料及び弁護士費用)の賠償及びこれに対する不法行為の日である平成16年5月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
(2) 原審は,控訴人Y1が被控訴人に対して行った両建の勧誘及び仕切の拒否は不法行為であるとして,控訴人Y1に対し民法709条に基づき,控訴人会社に対し同法715条に基づき財産的損害557万6785円,弁護士費用55万円の合計612万6785円及び不法行為の日又はその後である平成16年5月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で被控訴人の請求を認容する判決をした。
(3) これに対し,控訴人らは,被控訴人に対し,原判決の敗訴部分を不服として本件控訴を提起した。
2 「争いのない事実等」,「争点」及び「争点に関する当事者の主張」は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事実の概要」の「2 争いのない事実等」,「3 争点」及び「4 争点に関する当事者の主張」と同じであるから,これを引用する。
(1) 2頁13行目の「証人C」を「証人C」に,「証人D」を「証人D」にそれぞれ改める。
(2) 6頁7行目の「本件取引では,」の次に「控訴人会社が」を加える。
(3) 6頁末行目から7頁1行目にかけての「原油と連動」を「原油のそれと連動」に改める。
(4) 9頁3行目の「原告に対し,」の次に「本件取引に先立ち,」を加える。
(5) 10頁7行目末尾に次のとおり加える。
「また,両建それ自体は禁止されたものではなく,その適否の基準としては,慣習法的存在となっている全国商品取引連合会の受託業務に関する指示事項及び指導基準によるべきであり,これによれば,①同時両建,②常時両建の状況にあるもの,③因果玉の放置の態様については無意味な売買の危険があるとされるが,被控訴人が違法な両建と主張する取引は上記①から③までのいずれにも該当しないので,違法ではない。」
(6) 16頁5行目の「10枚仕切って」の前に「同日の」を加える。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所の判断は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第3 争点に対する判断」と同じであるから,これを引用する。
(1) 18頁18行目の「証人C」を「証人C」に,「証人D」を「証人D」にそれぞれ改める。
(2) 19頁15行目の「理解出来た」を「理解できた」に改める。
(3) 24頁1行目冒頭から6行目末尾までを次のとおり改める。
「5月19日の大阪アルミの売建は,既に大阪アルミの買玉が存在しているにもかかわらず行われたものであり,いわゆる両建である。ところで,商品先物取引において両建がおよそ意味のない取引であるか否かという点はさておき,被控訴人のように商品先物取引の経験がなく,したがって確たる相場観も判断力もない者にとっては,新たな資金や手数料を必要とし,また,どの段階でいずれの建玉を仕切って両建を解消するかというより複雑で困難な判断を重ねて強いられることをも考慮すると,被控訴人にとって両建をしてまで建玉を維持することに合理性を見い出し得る特段の事情がない限り,違法な行為というべきである。」
(4) 24頁12行目の「照らせば,」の次に「当時までの実入金が478万3160円であり(乙15),損切りしても,相場がなお悪化して損金が増大しても,実損となることはなかったのであるから,」を加える。
(5) 24頁18行目末尾の次に次のとおり加える。
「控訴人らは,当時,大阪アルミは下げ傾向にあって値洗損が更に増大しつつある状況にあったことから,値洗損の増加を防止しようとする行為としての両建は無意味ではないと主張するが,被控訴人のように商品先物取引の経験がなく,したがって確たる相場観も判断力もない者にとって,両建が上記のとおりの性質をもつ行為であることを考慮すれば,他に取りうる手段が十分に可能である場合には,仮に値洗損の増加を防止するという目的があったとしても,それをもって両建をしてまで建玉を維持することに合理性を見出し得る特段の事情があるものということはできない。
また,控訴人らは,両建それ自体は禁止されたものではなく,その適否の基準としては,慣習法的存在となっている「全国商品取引連合会の受託業務に関する指示事項及び指導基準」(以下「連合会基準」という。)によるべきであり,これによれば,①同時両建,②常時両建の状況にあるもの,③因果玉の放置の態様については無意味な売買の危険があるとされるが,被控訴人が本件において違法な両建と主張する取引は,上記①から③までのいずれにも該当しないので違法ではないと主張する。しかしながら,両建の適否を判断するにつき,連合会基準が慣習法的存在になっていると認めるに足りる事情はないし,また,同判断につき,本件の被控訴人にみられるような,本件取引前に商品先物取引の経験がなく,したがって確たる相場観も判断力もないとの特性を考慮することなく,両建についての一般的基準にすぎないというべき連合会基準を機械的・一律に適用すべきとするのは,相当でないので,控訴人らの上記主張は失当といわざるを得ない。」
(6) 26頁9行目の「なくなっています」を「なくなってしまう」に改める。
(7) 27頁3行目の「ほかはないこと)」の次に「(控訴人らは,当審に至って,控訴人Y1が被控訴人に対し140万5100円あるいは140万円程度と説明した旨を控訴人Y1作成の陳述書(乙68)に記載したのは,5月20日大引計算を基礎に試算すべきところを,誤って同日朝の計算を基礎として試算したことによるものであって,その説明部分の記載内容は誤っており,実際には,前記の大引計算を基礎とした試算結果どおりの正しい数字の説明をしたはずであると主張するが,仮に控訴人らの主張のとおり陳述書の記載に何らかの誤りがあったとしても,そのことから直ちにDや控訴人Y1が被控訴人に対し前記の大引計算を基礎とした試算結果どおりの数字を説明したものと認めることはできない。)」を加える。
(8) 31頁14行目の「控えめな損害算定という見地から,原告に最も不利な条件で算定せざるを得ない。」を「少なくとも被控訴人に最も不利な条件で算定した額による損害があったと認定することができる。」に改める。
2 以上によれば,被控訴人の控訴人らに対する請求は,612万6785円及びこれに対する不法行為以後の日である平成16年5月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容すべきであり,その余は理由がないから棄却すべきである。よって,これと同旨の原判決は相当であり,本件控訴をいずれも棄却することとする。
(裁判長裁判官 中路義彦 裁判官 川谷道郎 裁判官 古財英明)