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大阪高等裁判所 平成19年(ネ)3464号 判決 2008年7月10日

兵庫県姫路市●●●

控訴人(本訴原告・反訴被告)

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訴訟代理人弁護士

石井宏治

兵庫県姫路市●●●

被控訴人(本訴被告・反訴原告)

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訴訟代理人弁護士

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主文

1  原判決を次のとおり変更する。

(1)  被控訴人は控訴人に対し,100万円及びこれに対する平成18年8月9日から支払済みまで年5分の割合による金銭を支払え。

(2)  控訴人のその余の本訴請求及び被控訴人の反訴請求を棄却する。

2  訴訟費用は第1,2審を通じ,20分の1を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。

3  この判決の1項(1)は仮に執行することができる。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を次のとおり変更する。

2  被控訴人は,控訴人に対し,114万円及びこれに対する平成18年8月9日から支払済みまで年5分の割合による金銭を支払え。

3  被控訴人の請求を棄却する。

第2事案の概要

1  タクシー会社に勤める被控訴人は,別のタクシー会社に勤める控訴人に対し,原判決別紙消費貸借契約一覧表のとおり金銭を貸し付けた(本件各貸付。個別的に「本件第1貸付」などと略する。)。なお,本件各貸付については,本件第2貸付の交付額を除いて争いがなく,本件第2貸付の交付額については原審で争いがあったが(原判決の争点(3)),原審は,交付額が54万円であることについての被控訴人の自白を前提に,その自白が真実に反し,錯誤に基づくものであることの立証はないから自白の撤回は認められないとして,本件第2貸付の交付額を54万円と認めた。被控訴人は当審でこの点を争っていない。そして,控訴人は,平成18年5月15日,被控訴人に対し,本件第1貸付の弁済として100万円を支払った(争いがない。)。

控訴人は,本件各貸付が平成18年法律第115号による改正前の出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(出資法)で刑事罰を科される限度を上回る利率による利息の支払を約したもので,公序良俗に反する無効なものであり,かつ,その貸付行為自体が不法行為を構成すると主張し,被控訴人に対し,不当利得ないし不法行為に基づき,本件各貸付の弁済として交付した114万円(上記100万円を含む。)及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた(本訴)。他方,被控訴人は,消費貸借契約に基づき,控訴人に対し,本件第2ないし第7貸付の貸付金元金合計168万円の内金158万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた(反訴)。

原審は,本件各貸付が公序良俗に反する無効なものであるとはいえず,その貸付行為自体が不法行為を構成するともいえないとして,控訴人の本訴請求を全部棄却し,被控訴人の反訴請求を152万円(158万円から本件第2貸付に係る天引額6万円を控除した金額)及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容した。

2  争点及びこれに関する当事者の主張は,原判決4頁20行目の「被告」を「控訴人」と,5頁6行目の「158万円」を「168万円」と,6頁2行目の「第9貸付」を「第7貸付」と,同頁3行目の「158万円」を「168万円の内金158万円」とそれぞれ改め,次の3項に付加するほか,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」欄の2及び3に記載のとおりである。ただし,争点(3)(本件第2貸付に係る天引の有無)に関する部分を除く。

3  当審における当事者の主張

(1)  控訴人の主張

ア 事実関係について

本件の経過に関する原判決の認定には事実誤認等がある。すなわち,被控訴人は,ヤミ金業者であるから,控訴人を信用して貸付けをしたのではなく,借金のために生活に困窮している者であれば,誰に対しても貸付けをしており,控訴人もその1人であった。被控訴人は,サラ金業者から借入れをしてまで貸付けをしていたのであるから,自らの経済的能力に応じて貸付けをしていたとはいえないし,ヤミ金業者である以上,広告等をしていなかったことは当然である。被控訴人は,平成18年7月5日,入院先の病院から控訴人に電話し,控訴人を病院に呼び出して利息を支払うよう求めるなど(甲13),利息を厳しく取り立てていた。なお,その際,被控訴人は,控訴人に利息の支払を求めたのであり,貸付金自体の返済を求めたのではない。

また,控訴人は,①平成18年6月15日,被控訴人から本件第2貸付の利息9万円を支払うよう求められ,その一部として4万円を支払い,②平成18年6月16日,本件第3貸付の利息・遅延損害金として4万円を支払い,③同日,本件第4貸付の利息・遅延損害金として6万円を支払った。被控訴人はヤミ金業者であり,借主から返済を受けても領収証を交付していなかったから,領収証がないからといって被控訴人に有利な認定をするのは不当である。むしろ,上記のとおり,被控訴人は,平成18年7月5日,入院先の病院から控訴人に電話し,控訴人を病院に呼び出して利息を支払うよう求めるなど,利息を厳しく取り立てており,控訴人から利息の支払を受けていたことは明らかである。被控訴人がサラ金業者から借入れしてまで控訴人に貸付けをしていたことや,上記の時点で本件第1ないし第4貸付の返済日が経過していたことからすれば,利息の支払がないまま返済日が延期されたとは考えられない。

イ 公序良俗違反,不法行為の成否について

被控訴人は,控訴人のほか多数の者に反復継続して貸付けをしているのであるから,貸金業を営んでいるといえるし,無登録で貸付けを行い,出資法に違反する高利を取得しているのであるから,ヤミ金業者であることは明らかである。

本件各貸付は公序良俗に反する無効なものであり,かつ,その貸付行為自体が不法行為を構成する。すなわち,本件各貸付のうち本件第6貸付を除く貸付けは出資法5条1項に,本件第6貸付は同条2項にそれぞれ違反しており,被控訴人が無登録で貸金業を営んでいる点は,平成18年法律第115号による改正前の貸金業の規制等に関する法律(貸金業法)11条1項に違反するものであって,その貸付行為自体,刑罰法規に違反する違法性の高いものである。そして,被控訴人は,貸付元本の1割もの利息を天引きしながら,証拠が残ることをおそれて,借用証書(甲1ないし8)の利息欄を空欄とし,借用証書や領収証を控訴人に交付しておらず,貸金業法に違反している。しかも,控訴人が被控訴人から借り入れた金銭の多くの部分(61万円)は,控訴人から●●●への融通,同人から被控訴人への借入金の返済という流れで被控訴人に循環しており(甲15,16の1・2),被控訴人は,●●●が被控訴人に対する借入金の返済をするために控訴人が被控訴人から借入れをし,この借入金を●●●が連帯保証した事実を知っていた。このように,被控訴人は,顧客の1人に返済をさせるため,他の顧客に借入れをさせて,その金銭を他の顧客に融通させており,多重債務者の窮状につけ込み暴利を貪るもので,極めて悪質である。なお,被控訴人は,できるだけ深い詮索をせずに貸付けをしていたというのであるから(乙2,原審本人尋問),控訴人が借入れの際に使途を偽ったことがあったとしても,これを重要視すべきではない。

そして,本件各貸付は,元利金の約定が一体となった消費貸借契約であり,その貸付行為自体が貸付けに名を借りた違法行為であるから,利息契約のみが無効ではなく,全体として無効である。すなわち,借用証書(甲1ないし8)では利息欄が空欄であり,元金部分と利息部分が区分して記載されておらず,実際の貸付けの場面でも,元金部分と利息部分を分けて契約をしているわけではない。この点,出資法5条1項も,金銭の貸付行為,すなわち金銭消費貸借契約と利息の契約を一体とした犯罪構成要件を規定している。

(2)  被控訴人の主張

ア 事実関係について

本件の経過に関する原判決の認定は適切であり,事実誤認等はない。すなわち,被控訴人は,タクシー運転手として稼働して生活の糧を得ており,ヤミ金業者などではなく,●●●から,友人で同僚であるという控訴人を紹介され,タクシー運転手として売上げがトップクラスであるとの控訴人の説明を信用して,厚意で貸付けをしたものである。被控訴人がタクシー運転手数人に貸付けをしていたことや,サラ金業者から借入れをしていたことは事実であるが,タクシー運転手同士の付合い上,金銭的に困っている運転手に対し,借入れも含めて自分で資金を都合できる範囲内で貸付けをしていたにすぎず,広告等の営業活動もしていなかった。被控訴人は,平成18年7月5日,控訴人に返済日の到来した貸付金の返済を求めたが,これは心筋梗塞の治療ために入院・手術費用が必要だったからであり,控訴人の主張するように,利息の支払を求めたのではない。

また,被控訴人は,平成18年5月15日に控訴人から本件第1貸付の弁済として100万円の支払を受けたほかは,本件各貸付について弁済を受けたことはない。

イ 公序良俗違反,不法行為の成否について

被控訴人がタクシー運転手数人に貸付けをしていたことは事実であるが,本件の経過は上記アのとおりであって,被控訴人は,貸金業者であるとはいえず,指定暴力団の下部組織により運営されているヤミ金業者とも根本的に異なり,控訴人の主張はその前提を誤ったものである。

本件各貸付が公序良俗に反する無効なものであるとか,その貸付行為自体が不法行為を構成するとは到底いえない。すなわち,被控訴人は,当初から金利で儲けようという意図はなく,貸付けを行う過程で利息を天引きするようになったにすぎず,高金利であるとは認識していなかったし,控訴人から依頼されて厚意から貸付けをしたにすぎず,控訴人の窮状につけ込んだような事情はない。そして,被控訴人は,違法な高金利であることを認識した後は,貸付金元金の返済のみを求めており,利息の支払は求めていない。本件各貸付における利率は高くとも年130パーセント余りで,出資法5条1項で刑事罰の対象とされている年109.5パーセントを僅かに上回っているだけであり,ヤミ金業者によく見受けられる年1200パーセントや,年2000パーセントなどといった利率とはほど遠い。他方,控訴人は,被控訴人から借入れをするたびに,その使途につき,交通事故の示談金の支払やタクシーに載せるカメラ購入のためなどと虚偽の説明をしており,また,前記のとおり,平成18年5月15日に本件第1貸付の弁済として100万円を支払ったほかは,全く弁済をしていないのであり,むしろ,控訴人の方が悪質で,被控訴人は詐欺の被害者とも評価できる。これらの事情からすれば,原判決の説示するとおり,本件各貸付が社会的な相当性を逸脱したものとはいえない。

また,仮に本件各貸付が公序良俗に反する無効なものであるとしても,以上の事情からすれば,無効となるのは利息契約の部分だけというべきである。

第3当裁判所の判断

1  本件の経過

前記第2,1中の事実,証拠(甲1ないし8,13ないし15,乙1,2,原審証人●●●及び同●●●,原審における控訴人及び被控訴人各本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

(1)  控訴人と●●●は,平成18年当時,●●●タクシーに勤務し,タクシー運転手として稼働していた。●●●は,●●●タクシーの事務局長である●●●の紹介により,被控訴人から借入れをしており,控訴人は,●●●から紹介されて,被控訴人から借入れをすることにした。被控訴人は,平成18年4月中旬から同年6月16日までの間,控訴人に対し,原判決別紙消費貸借契約一覧表のとおり貸付けをした。

(2)  被控訴人は,平成18年当時,●●●タクシーに勤務していたが,●●●や●●●控訴人のほかにも,複数名のタクシー運転手に反復継続して貸付けをしていた。被控訴人は,貸金業法に定める登録を受けず,貸金業の広告もせずに,口コミで貸付けをしており,当初は無利息で貸付けをしていたが,その後,元金の1割を天引きして貸付けをするのを常とするようになった。被控訴人は,サラ金業者から借入れをして,これを資金として貸付けを行ったりもしていた。

(3)  被控訴人が貸付けをする場合,市販の借用証書をコピーして利用し,借用証書を1通しか作成せず,借主に借用証書を交付することはなく,借主が貸付金を完済したときに借用証書を返却していた。借用証書には,貸付金額(額面金額)及び返済日を記載するだけで,利息欄は空欄として,利息の約定の有無や利率等を記載していなかった。これらの点は,控訴人の場合も同様であった(甲1ないし8)。

(4)  控訴人は,被控訴人から借入れをした際,その使途について,交通事故の示談金を支払うためとか,運転するタクシーの車載カメラを購入するためなどと被控訴人に説明していたが,控訴人が交通事故の示談金を支払うべき状況にあったことはなく,少なくともこの部分の説明は虚偽であった。もっとも,被控訴人は,控訴人の使途に特に意を払っていたわけではなかった。控訴人は,平成8年に自己破産して,貸金業者から借入金の返済を求められており,年金証書やキャッシュカードを取り上げられていたが,これらの事情も被控訴人に説明していなかった。

(5)  被控訴人は,貸付金の返済日が経過した場合には,借主に利息の支払を求めていた。控訴人の場合も同様であり,被控訴人は,平成18年7月5日,心筋梗塞の手術を受けるため入院していた病院から控訴人に電話し,控訴人を病院に呼び出して利息を支払うよう求めた(甲13)。なお,被控訴人は,同日には返済日の到来した貸付金の返済を求めたのであり,利息の支払を求めたのではないと主張するところ,確かに,心筋梗塞の治療のために入院・手術費用が必要であったとの指摘にそれなりに合理性がないわけではないが,前記のとおり,被控訴人がサラ金業者から借入れをしてこれを資金として貸付けを行ったりもしていたことに加え,「平成18年7月5日の原告と●●●氏との対話」と題する書面(甲13)の内容は具体的で信用できることからすれば,被控訴人は控訴人を含めた借主に利息の支払を求めていたと認めることができる。なお,被控訴人は,借主から利息の支払を受けたときも,領収証を交付していなかった。

(6)  控訴人は,平成18年5月15日,被控訴人に本件第1貸付の弁済として100万円を支払ったが,現在に至るまでその余の返済をしていない。

なお,控訴人は,①平成18年6月15日,被控訴人から本件第2貸付の利息9万円を支払うよう求められ,その一部として4万円を支払った,②平成18年6月16日,本件第3貸付の利息・遅延損害金として4万円を支払った,③同日,本件第4貸付の利息・遅延損害金として6万円を支払ったと主張する。確かに,上記のとおり,被控訴人が控訴人に利息の支払を求めていたと認めることができ,被控訴人は借主から利息の支払を受けても領収証を交付していなかったから,領収証がないからといって利息支払の認定ができないものではない。しかし,上記各支払については,控訴人の陳述書(甲15)のほか,メモ等の裏付となる具体的な証拠が全くなく,控訴人は,原審本人尋問においても,上記各支払をしたことを具体的に供述していない。平成18年6月15日は本件第2貸付の返済日であり,その日に返済を延期してもらうために控訴人が利息を支払ったというのはそれなりに理解できなくはないが,同月16日には本件第3貸付及び本件第4貸付の返済日は到来しておらず,これらの貸付けに係る利息・遅延損害金を支払ったことが自然なことであるとして,控訴人の上記主張事実を認めることはできない。

2  公序良俗違反,不法行為の成否について

本件各貸付に係る利息の約定は,原判決別紙消費貸借契約一覧表のとおりであり,利率は本件第1貸付が年132.99パーセント(交付額を元本とすると年135.18パーセント),本件第2貸付が年128.63パーセント(交付額を元本とすると年130.82パーセント),本件第3貸付が年128.63パーセント(交付額を元本とすると年130.82パーセント),本件第4貸付も同様,本件第5貸付が年132.99パーセント(交付額を元本額とすると年135.18パーセント),本件第6貸付が年82.32パーセント(交付額を元本額とすると年84.49パーセント),本件第7貸付が年132.99パーセント(交付額を元本額とすると年136.18パーセント)であり,本件第6貸付を除く各貸付けについては,出資法5条1項で刑事罰の対象とされる年109.5パーセントを超えているし,前記のとおり,被控訴人は,複数名のタクシー運転手に反復継続して貸付けをしていたことから貸金業を営んでいるといえるところ,本件第6貸付の利率も貸金業者について規定する同条2項で刑事罰の対象とされる年29.2パーセントをはるかに超えている。また,被控訴人は,貸金業の登録をしていないから,貸金業法11条1項にも違反している。したがって,本件各貸付は,その貸付行為自体,刑罰法規に違反する違法性の高いものである。そして,前記のとおり,被控訴人は,貸付元本の1割もの利息を天引きしながら,借用証書(甲1ないし8)には,貸付金額(額面金額)及び返済日を記載するだけで,利息欄は空欄として,利息の約定の有無や利率等を記載していなかった上,借用証書や領収証を控訴人に交付しておらず,貸金業法に違反しているが,これらは証拠を残さないための方策であったと窺われる。しかも,被控訴人は,控訴人から依頼されて控訴人に対する貸付けを始めた後,サラ金業者から借入れをしてまで資金を用意し,使途に特に意を払うことなく,元金の1割もの利息を天引きして,短期間のうちに連続して控訴人に貸付けをしている。これらの事情に照らせば,本件各貸付は控訴人の無思慮に乗じて暴利を得る目的で行われたもので,利息契約の部分にとどまらず,消費貸借契約自体についても公序良俗に反する無効なものといわざるを得ない。

なお,前記のとおり,控訴人は,被控訴人から借入れをする際,その使途について虚偽の説明をしたり,平成8年に自己破産したこと等の事情を説明していなかったが,被控訴人が控訴人の使途に特に意を払っていなかったことに加え,本件各貸付そのものが違法性の強い犯罪行為であること等も考えると,これらの事情は上記判断を左右するものとはいえない。

3  本訴及び反訴の検討

(1)  本訴について

前記のとおり,被控訴人は,控訴人ほか複数のタクシー運転手に反復継続して貸付けをしていたことから貸金業を営んでいるといえるところ,貸金業法42条の2によれば,貸金業者が業として締結した金銭消費貸借契約において,年109.5パーセントを超える利息の約定をした場合には,当該消費貸借契約自体が無効とされるため,本件第1ないし第5貸付及び第7貸付はそもそも無効である。また,この点をしばらく措くとしても,前記のとおり,本件第6貸付を含めた本件各貸付は,控訴人の無思慮に乗じて暴利を得る目的で行われたもので,利息契約の部分にとどまらず,消費貸借契約自体が公序良俗に反する無効なものというべきである。そうすると,控訴人の被控訴人に対する本件第1貸付に係る100万円の弁済は,法律上原因のない支払ということができるから,控訴人は,被控訴人に対し,不当利得の返還として,100万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めることができる。

なお,控訴人は,被控訴人から本件各貸付に係る利息天引き後の金銭を受領しているが,上記のとおり,本件各貸付は,控訴人の無思慮に乗じて暴利を得る目的で行われたもので,利息契約の部分にとどまらず,消費貸借契約自体が公序良俗に反する無効なものというべきであり,後記(2)のとおり,被控訴人の反訴請求は理由がないとする以上,控訴人の不当利得返還請求において,控訴人が受領した金銭を利得として考慮する必要はない。すなわち,被控訴人の反訴請求は理由がないとする以上,その反射的効果として,控訴人は本件各貸付に係る利息天引き後の金銭を確定的に取得することになり,当該金銭をもって,控訴人の被控訴人に対する本件第1貸付に係る100万円の弁済による損失を補填する利得と観念することはできないからである。実際上も,上記のように解さなければ,控訴人のように弁済をした債務者と,いまだ弁済をしていない債務者との間で均衡を失することになるし,悪質な貸金業者による厳しい取立てを誘発しかねないことになる。

(2)  反訴について

被控訴人の反訴請求は本件第2ないし第7貸付に係る貸付金元金合計168万円の内金158万円の請求であるが,上記(1)のとおり,本件第2ないし第5貸付及び第7貸付は,そもそも貸金業法42条の2により無効であり,かつ,本件第6貸付も含めた本件各貸付は,控訴人の無思慮に乗じて暴利を得る目的で行われたもので,利息契約の部分にとどまらず,消費貸借契約自体が公序良俗に反する無効なものというべきであるから,被控訴人の反訴請求は理由がない。

4  結論

よって,控訴人の本訴請求は被控訴人に対し100万円及びこれに対する遅延損害金(始期は,催告を内容とする書面の到達日である平成18年8月8日の翌日であり,催告の到達は争いがない。)の支払を求める限度で理由があり,被控訴人の反訴請求は理由がないから,これと結論を異にする原判決を主文1項のとおり変更することとする。

(裁判長裁判官 塩月秀平 裁判官 菊池徹 裁判官 髙橋善久)

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