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大阪高等裁判所 平成19年(ネ)595号 判決 2007年8月30日

控訴人(被告)

A野株式会社

同代表者代表取締役

B山太郎

同訴訟代理人弁護士

浦田和栄

山形康郎

伊藤隆啓

被控訴人(原告)

C川松夫

他3名

上記四名訴訟代理人弁護士

江口陽三

坂本勝也

山崎優

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決中、被控訴人らに関する部分を取り消す。

二  被控訴人らの請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第一・二審とも被控訴人らの負担とする。

第二事案の概要

一  事案の要旨

本件は、控訴人の経営するゴルフ場である有馬ロイヤルゴルフクラブ(以下「本件ゴルフ場」という。)について預託金制の会員権を有する法人株式会社D原(以下「D原社」という。)が特別清算手続に入ったため、同会員権を親会社である原審相原告株式会社E田(以下「E田社」という。)に譲渡したのに伴い、同会員権の法人登録記名者であった被控訴人らを引き続き登録記名者とする名義書換手続を申請したところ、控訴人がこれを拒絶したことから、控訴人に対し、①E田社は、預託金(計二五二〇万円)の返還請求権を有することの確認を求め、②被控訴人らは、法人会員登録記名者としての名義書換手続を求めた事案である。

なお、当初、E田社及び被控訴人らは、上記ゴルフ場の会員で構成される社交クラブ(一審相被告有馬ロイヤルゴルフクラブ<以下「本件ゴルフクラブ」という。>)に対しても、E田社がその法人会員であることの確認、被控訴人らがその法人登録会員であることの確認を求めていたが、本件ゴルフクラブ及び控訴人がともに本件ゴルフクラブには当事者能力がないと主張したので、E田社及び被控訴人らは、同主張を認めて、本件ゴルフクラブに対する訴えを取り下げた。

原審は、E田社及び被控訴人らの各請求を認容した。

そこで、控訴人は、被控訴人らの請求を認容した原判決部分につき不服があるとして、控訴を提起した。E田社に関する部分に関しては控訴の提起はなく、原判決が確定した。

控訴人は、原審において、名義書換請求権の行使主体が被控訴人らであることについて異論を述べることなく経過したが、当審において、被控訴人らは上記行使主体ではない旨主張するに至った。当裁判所は、当審における当事者双方の主張内容及び原・当審における審理の経緯にかんがみ、控訴人に対し、第二回口頭弁論期日において、上記主張を維持するのかどうかについて確認的に釈明を求めたところ、控訴人は、上記主張を撤回すると述べた。したがって、控訴人は、被控訴人らが本件名義書換請求権の行使主体であることを争わないこととなり、この点は本件訴訟の争点ではなくなった。

【以下、原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」の部分を引用した上で、当審において、内容的に付加訂正を加えた主要な箇所をゴシック体太字で記載し、それ以外の字句の訂正、部分的加除については、特に指摘しない。】

二  前提事実(争いのない事実以外は認定証拠を掲記)

(1)  当事者等

ア 控訴人は、ゴルフ場の経営等を目的とする株式会社であり、本件ゴルフ場を経営している。

イ 本件ゴルフクラブは、本件ゴルフ場施設を利用する会員で構成され、ゴルフを通じて健全スポーツの育成、会員相互の厚生親睦を図ることを目的とする社交クラブである。

ウ D原社は、衣料品等の販売等を目的としていた会社であり、被控訴人C川松夫(以下「被控訴人松夫」という。)は、その代表取締役を務めていた。

エ E田社は、衣料品等の製造・販売、遊技場の経営などを目的とする会社であり、被控訴人松夫が代表取締役を務め、同社の発行済株式総数の八割以上を保有している。

E田社は、D原社に対し一〇〇%の出資をしていた親会社であった。

(2)  法人会員契約の締結

ア D原社は、平成二年七月一九日、控訴人との間で、会員の種別を法人会員とし、被控訴人松夫を登録者(登録記名者)とする入会契約を締結し、控訴人に保証金八三〇〇万円を預託して、本件ゴルフクラブに入会した(以下、このゴルフ会員権を「本件会員権」ともいう。)。

イ D原社と控訴人は、平成五年一〇月三一日、本件会員権を、預託金を各四一五〇万円とする会員権二口に分け、一口については被控訴人松夫を、他の一口については被控訴人C川花子(以下「被控訴人花子」という。)を登録者とすることを合意し、さらに平成一二年七月一九日、控訴人がD原社に上記預託金のうち二〇〇〇万円を返還した上で、本件会員権を、預託金各一五七五万円とする四口の法人会員権とし、被控訴人松夫らを各一口の登録者とすることを合意した。

(3)  控訴人の民事再生手続

ア 控訴人は、平成一四年一一月一三日、神戸地方裁判所で民事再生手続開始決定を受け、平成一五年一〇月一八日、再生計画認可決定が確定した。

イ 本件会員権の預託金は、六三〇〇万円であったが、控訴人の再生計画認可により、総額二五二〇万円に減額され、本件会員権は、額面四〇〇万円のもの五口、額面五二〇万円のもの一口の合計六口に分割された。

(4)  D原社の解散

D原社は、平成一四年一二月三一日、株主総会の決議により解散し、平成一五年二月五日、特別清算開始決定を受けて清算手続に入り、同年八月二六日、同手続の終結決定が確定した。

(5)  本件会員権の譲渡

ア D原社は、特別清算手続中の平成一五年三月二四日、同清算はいわゆる対税型であり、早期に清算を終了させる必要があるので、本件会員権を、唯一の債権者であるE田社に代金合計四八〇万円で売却するのが相当であるなどとして、大阪地方裁判所に対しその旨の許可を申請し、同日、同裁判所の許可を得た。

イ D原社は、平成一六年一月一七日到達の内容証明郵便で、本件ゴルフクラブに対し、本件会員権をE田社に譲渡した旨を通知するとともに、同月二二日到達の内容証明郵便で、控訴人に対し、同内容の通知をした。

ウ 控訴人は、民事再生手続中、同一法人会員内の会員登録変更を除き、第三者への名義変更手続を中止していたが、ゴルフ場施設利用の継続を選択した会員債権者に対しては、平成一六年二月一日から名義変更手続を再開した。

(6)  名義書換の拒絶

D原社及びE田社は、名義書換手続が再開されるのを待って、平成一六年四月一日付けで、控訴人を通じて、本件ゴルフクラブに対し、E田社を法人会員とし、被控訴人らを引き続き登録者とする旨の名義変更手続を申請した。控訴人は、同年六月九日付けで、同クラブを通じて、被控訴人らの入会を承認しないとの回答をした(以下「本件承認拒絶」という。)。

(7)  施設の優先的利用の拒絶等

ア それに先立ち、控訴人は、平成一五年一一月九日ころ、D原社の清算人に対し、D原社は既に特別清算手続を終結しており、法人会員としてのプレイ権の行使は法律上認められず、被控訴人らが登録者としてプレイ権を行使することもできないから、D原社又は被控訴人らからの会員としてのプレイ申込み等には応じられない旨通知し、以後、被控訴人らが本件ゴルフ場施設を利用することを拒絶している。

イ 被控訴人らは、控訴人において本件ゴルフ場施設の利用を不当に拒絶しているとして、控訴人を相手取り、ゴルフ会員権に基づく地位保全仮処分命令の申立てをしたが(大阪地方裁判所平成一五年(ヨ)第二三二〇号)、平成一六年三月二三日、同申立ては却下された。なお、同却下決定に対する抗告(大阪高等裁判所平成一六年(ラ)第三九一号)は、同年五月一二日、棄却され、同棄却決定に対する許可抗告(大阪高等裁判所平成一六年(ラ許)第六一号)は、同年六月四日、不許可とされ、同棄却決定に対する特別抗告(最高裁判所平成一六年(ク)第六〇五号)は、同年八月三〇日、棄却され、上記却下決定は確定した。

(8)  本件ゴルフクラブの会則

ア 本件ゴルフクラブには従前より会則が置かれていたが、控訴人の民事再生手続中に改定され、平成一五年一〇月一六日から新たな会則(以下「新会則」という。)が施行された。

イ 新会則には、会員資格の譲渡等に関し、次のような定めがある。

(ア) 法人会員、個人会員、週日会員は、会員二名以上の紹介をもって会社の定める所定の書類により入会申込みをし、会社による面接を経て、会社が推薦し、理事会において入会承認した者であり、会社の定める預託金・登録料その他の費用を納付した者とする(六条)。

(イ) 法人会員、個人会員、週日会員の地位は理事会並びに会社の承認を得て譲渡することができる(一〇条)。

(ウ) 理事長及び代表理事は、必要と認めた場合、第五条、第六条に定める入会承認のための決議等の理事会決議を書面持回りによる決議とすることができる(二〇条)。

ウ 新会則と同日施行の本件ゴルフクラブ細則(以下「細則」という。)には、「会社は、入会候補者を理事会に推薦する前に、面接を行い本件クラブ会員にふさわしい者であることを確認しなければならない。入会候補者は、理事会の承認を得て、名義書換料等の費用を会社に納付したときに会員になる。」(四条)との定めがある。

エ なお、本件ゴルフクラブの会則には、従前、会員たる資格の消滅事由として、「法人会員の解散」が規定されていなかったが、新会則(九条)において同事由が明記された。

三  争点とこれに関する当事者の主張

【被控訴人ら】

本件承認拒絶には正当な理由がない。

(1) 新会則一〇条には、会員権の譲渡について本件ゴルフクラブ理事会及び控訴人の承認が必要である旨規定されているが、このような譲渡制限が設けられたのは、会員となろうとする者を事前に審査し、会員としてふさわしくなく既存会員にとって好ましくない者の入会を阻止することで、ゴルフ場の健全な営業活動を維持するためである。そして、預託金会員制のゴルフクラブにおけるゴルフ会員権の自由譲渡性も併せ考慮すれば、会員となろうとする者に対する承認拒絶をゴルフ場経営会社の恣意的な判断で行うことは許されず、承認拒絶ができるのは、その者に客観的にみて会員の適格性を欠くと判断することが当然として是認されるような特段の事情が認められる場合に限られるべきである。特に本件において、被控訴人らは、既に本件ゴルフクラブの法人会員登録者としてこれまでもプレイし続けてきたもので、このような場合に入会承認を拒絶するのは実質的に本件ゴルフクラブから除名されるに等しいのであるから、当該会員に除名処分に該当するような極めて強い不適格事由が認められる必要がある。

(2)ア 本件会員権の譲渡人であるD原社は、E田社の一〇〇%子会社であり、被控訴人らは、その法人会員登録者として従前より他の会員らと友好的に接し、ゴルフ競技に参加してきた(被控訴人松夫は、平成五年度のクラブチャンピオンであり、本件ゴルフクラブの競技委員会、フェローシップ委員会等の委員を歴任していた。)。D原社の特別清算に伴って、その唯一の債権者である親会社のE田社に本件会員権が譲渡されたとしても、登録者となるのは被控訴人らであり、実質的には会員の変更はないと評価できる。とすると、本来であれば、入会審査すら不要であり、このような場合に承認拒絶する理由が認められないのは当然である。

イ また、控訴人については民事再生手続が開始されていたが、被控訴人松夫は、同手続が適正に行われるよう監視・監督するため、他の同種の債権者らに対し、「有馬ロイヤルゴルフクラブの再生をまじめに検証する会」(以下「検証する会」という。)の設立を呼びかけ、その代表世話役となり、同手続の中で種々の権利行使(監督委員への否認権付与の申立て、調査命令の申立て)をしてきた。そのような中、E田社において、本件ゴルフクラブに対し、E田社を法人会員とし、被控訴人らを登録者とする旨の名義変更手続を申請したところ、不承認との通知に接したもので、このような経緯からすると、名義変更申請の承認拒絶の実際の理由は、控訴人の民事再生手続に関する被控訴人松夫の行動に起因するものであることは明らかである。すなわち、被控訴人松夫が控訴人の民事再生手続に素直に同意せず、経営者らの経営責任を明らかにするため種々の権利行使をしたことから、控訴人代表者であるB山太郎らは、被控訴人松夫に対し、私怨を抱くようになったものである。被控訴人松夫の権利行使は、適切かつ公平な再生計画を求める再生債権者としての正当な権利の行使にほかならず、このような権利行使に対し、控訴人は私怨に基づき本件承認拒絶をしているので、許されない。

ウ さらに、控訴人の再生計画によると、即時の預託金返還請求権を選択すればその金額は九二%も免除させられることになる上に一〇年間での分割返済とされており、会員債権者に対し、事実上、預託金返還ではなくゴルフプレイ権の選択を余儀なくさせるものであった。また、ゴルフプレイ権を選択した場合でも、ゴルフ場利用権を保障する見返りに、預託金返還請求権を六〇%も減額した上でその返還を長期にわたって先送りするもので、実質的には預託金を返還しないも同然であった。このように控訴人は、自らの財政事情から会員の預託金返還請求を困難にさせておきながら、被控訴人らによる名義変更申請を承認拒絶し、ゴルフプレイ権までもはく奪しようとし、被控訴人らの権利が不当に制限される結果となっている。

エ のみならず、控訴人は、D原社が特別清算手続を開始したことを受け、平成一五年一〇月一六日から効力を発する新会則を制定し、D原社からの名義書換に対応することを視野に、わざわざ「法人会員の解散」という資格消滅事由を付け加え、これに基づき、被控訴人らの本件ゴルフ場利用を拒絶し、名義書換停止期間終了後も利用拒絶を継続した。

オ このような事情からすると、被控訴人らにおいて上記(1)の極めて強い不適格事由があるとは到底いえず、このような事由もなくされた本件承認拒絶は、権利濫用として、許されないことは明らかである。

【控訴人】

本件承認拒絶には正当な理由がある。

(1) そもそもゴルフ会員権は、預託金の返還請求権という金銭債権ではなく、継続的・優先的な施設利用権とともに年会費支払義務なども伴い、かつ継続的な信頼関係の上に立つ特殊な地位に基づく権利である。したがって、ゴルフ会員権は当然に譲渡性を有するものではなく、一身専属的な権利である以上、預託金会員制ゴルフクラブであっても、その譲渡は必ずしも自由ではなく、クラブ理事会の承認等は必要条件である。また、そうだとしても、会員権の取得者は、第三者に再譲渡し、あるいは退会後の預託金債権者として預託金の返還を請求するなどして投下資本を回収する道が残されている以上、会員権の自由譲渡性が失われるとはいえない。

会員権の譲渡について、クラブ理事会の承認等を要件としている場合において、ゴルフ場施設会社及びクラブ理事会は、任意団体制、預託金会員制というゴルフクラブの形態にかかわらず、広範な裁量を有するのは明らかである。すなわち、ゴルフ場施設会社との間の会員契約は、多数の会員が会則を通じて同一のゴルフ場施設を利用する契約を締結するという意味で集団性を有しているし、同一の事業者と会員契約を締結し、会員相互の厚生親睦という共通目的の下で結合しているという意味で一定の牽連性を有している。そうである以上、預託金会員制ゴルフクラブであっても、人的結合としての団体性を有しているのであり、当該ゴルフクラブの団体性の維持のために、ゴルフ場施設会社及びゴルフクラブが会員権の取得者の入会を認めるか否かにつき自由に判断できるのも当然の事理である(私的自治の原則)。

また、ゴルフ場施設会社は、契約自由の原則に従って、個々の会員との間の入会契約の中に、ゴルフ場施設会社の判断において譲渡の承認をしないこと等を定めることができるのである。なぜなら、ゴルフ場は多数の会員が一つのゴルフ場を利用することから、ゴルフ場施設会社としては、会員に一定のルールに従って利用を遵守させるとともに、他の会員に迷惑をかける行為をするような悪質会員を放逐する義務があるからである。

したがって、預託金会員制ゴルフクラブであっても、私的自治、契約自由の原則が妥当するのであり、ゴルフ場施設会社及びクラブ理事会がいかなる者を会員とするかという点について広範な裁量権を有することは明白である。

(2) もっとも、ゴルフクラブは一定の社会性をもった団体であることから、上記裁量権にも一定の限界があることは否めない。しかしながら、ゴルフ場施設会社及びクラブ理事会の広範な裁量権を前提とすれば、その承認拒絶が裁量権の逸脱といえるのは、クラブ理事会の運営の実情、入会承認手続の方法・内容、入会承認拒絶の実績等を総合考慮して、その拒絶が信義則に反すると評価できるような例外的な場合に限られるというべきである。

とりわけ、国内のゴルフクラブも一様ではなく、会員の属人的な部分には余り関心を示さず、名義書換につきほぼ九割以上の確率で承認を与えるクラブもあれば、当該人物の社会的地位を始め、性格、ゴルフのスキル等様々な属人的な部分を重視し、容易に承認を与えないクラブも存在するので、入会承認拒絶の当否を判断するには、当該ゴルフクラブの会則等を中心として、理事会の運営の実情、入会承認手続の方法・内容、入会承認拒絶の実績その他の事情に立ち入って個別具体的に検討すべきである。

これを本件承認拒絶についてみると、本件ゴルフクラブ理事会は、同クラブの運営団体としての実体を有しており、自主的な運営が行われている。また、本件ゴルフクラブへの入会承認手続は、会則に基づいて行われている上、会則には規定されていないものの、控訴人が本件ゴルフクラブ理事会に推薦しない場合において、非推薦者の氏名・人数等を本件ゴルフクラブ理事会に報告する等の慎重な運用がされている。本件ゴルフクラブは、平成一六年において三九三件の入会承認申請について三九件の拒絶を行っており、このことは本件ゴルフクラブがクラブの風格や会員の品位を保持する目的から、厳格な審査をしていることを如実に示すものである。そして、控訴人は、E田社について、書類審査の結果、入会を本件ゴルフクラブ理事会に推薦しないことを決定した。通常の運用であれば、控訴人は、E田社を推薦しなかった事実を本件ゴルフクラブ理事会に報告すれば足りるのであるが、E田社が申請した法人会員登録者が過去に会員であったD原社の法人会員登録者であったことから、名義書換拒否の決定については、より慎重な判断を要すべきとの判断の下に、本件ゴルフクラブ代表理事であるB山太郎が、新会則所定の書面持回り決議に諮り、各理事の入会承認の諾否を求めたものである。

以上のとおり、控訴人及び本件ゴルフクラブ理事会は、公正な手続を行った結果、E田社の入会承認を拒絶するに至ったのであり、これが自由裁量の範囲を超えていないことは明らかである。

(3) このように本件承認拒絶は、控訴人及び本件ゴルフクラブ理事会の自由裁量の範囲内でされたものである以上、その実質的な理由を告知すべき義務はなく、このような私的団体への入会承認の当否については、私的自治、契約自由の原則が妥当するから、およそ裁判所が関与すべきではない。

なお、念のため付言すると、控訴人及び本件ゴルフクラブ理事会が、E田社の入会承認を拒絶(本件承認拒絶)したのは、E田社を会員としてふさわしいと判断しなかったからであり、その判断の根拠となる事情は、次のとおりである。すなわち、① 被控訴人らは、D原社の登録者として、特別清算開始後には法律上施設優先利用権が認められないものであったが、この点を控訴人が繰り返し説明したにもかかわらず、これに納得せず、控訴人に対し、仮処分命令申立てを行った。② 被控訴人松夫は、再生手続についての自らの主張、控訴人に対する糾弾活動及び自らの所属する検証する会等への勧誘活動を、口頭ないしビラ配り等により、営業時間内にクラブハウス内で行った。この活動を見た多数の会員から、クラブハウス内での雰囲気が害されると多くの苦情が寄せられただけでなく、自粛を求めた控訴人従業員の注意にも従わず、大声で従業員らを非難する行動をとったり、にらみつけるなどの態度が見られた。③ 被控訴人松夫が代表となって配布したビラ・口頭での勧誘・説得活動等において、控訴人の再生手続に理解を示す他の会員や理事者を誹謗中傷したり、検証する会の活動から離脱した会員をクラブハウス内で多数の来場者がいる前で大声で非難する行動をとったりすることがあったため、対象となった会員のみならず、誹謗中傷を聞かされた会員らからクラブ内の雰囲気・品位が害されるとの苦情が多数寄せられていた。④ 控訴人の民事再生手続の議決票を回収する時期において、会員のもとを訪れ、反対の議決票を渡すよう執拗な説得活動を行うことから、そうした会員債権者から控訴人宛てに多数の苦情が寄せられていた。

なお、D原社の施設優先的利用権が消滅したのは、本件ゴルフクラブの規約とは関係なく、清算中の法人の行為能力に起因するものである。資格消滅事由に「法人会員の解散」を加えたのは、通常の規約であれば規定されているものを補充したにすぎない。

第三当裁判所の判断

一  上記のとおり、控訴人は、被控訴人らが名義書換請求権の行使主体でないとの主張を撤回し、被控訴人らが本件名義書換手続をすることを争ってはいないし、当裁判所も被控訴人らが本件においては本件名義書換請求権の行使主体であると判断するところであるが、上記のような経緯にかんがみ、以下においてその理由を判示しておく。

(1)  《証拠省略》によれば、控訴人における名義書換手続は、法人会員の変更であっても、申請者欄に現会員と新会員が連署し、本文中に現会員と新会員の氏名欄がある名義変更申請書を使用していたことは、被控訴人らに関しては、同申請書の申請者(現会員)欄には「株式会社D原 清算人山崎優」と記載し、申請者(新会員)欄には「株式会社E田 C川春子」のように記載し、本文中の現会員と新会員の氏名欄にも同一の記載をしていたこと、法人会員の登録者の変更の場合には、「名義変更申請書(法人)」と題する別の申請書を使用し、申請者の新会員欄には法人を記載し、本文中の新会員登録者欄に登録者個人の氏名を記載する形式となっていること、また、法人内の名義変更の場合には、「法人内名義変更申請書」と題する別の申請書を使用し、申請者欄には法人名のみを記載し(現会員欄なし)、本文中の現会員・新会員欄に登録者個人の氏名を記載する形式となっていることが認められる。

このように、D原社からE田社への法人会員権の譲渡に伴う名義変更手続に関しては、申請者の新会員(譲受人)欄には、法人としてのE田社ではなく、各登録記名者の個人名が記載されている(法人の記載であれば、代表者の表示が不可欠であるが、その表示はない。)のであって、上記の「株式会社E田」なる記載は、個人名の肩書にすぎないと認めるのが相当である。

そうであれば、控訴人及び本件ゴルフクラブにおける法人会員権の名義書換手続では、登録記名者個人を各別に名義書換申請者として扱っていたのが実際の運用であったと認められるから、本件会員権の名義変更手続に関しても、被控訴人ら各人を名義書換請求権者と扱うのが相当である。このことは、原審において、控訴人が被控訴人らに本件名義書換請求権の行使権者としての適格を欠くとの主張をすることなく経過した事実にも適合するというものである。

(2)  のみならず、原審においては、(ア) 当初、E田社が、控訴人に対し、預託金返還請求権を有することの確認を、本件ゴルフクラブに対し、法人会員であることの確認を求め、被控訴人らが、同クラブに対し、法人登録会員であることの確認を求めていた(平成一六年八月二六日付け訴状訂正の申立書)ところ、(イ) 後に、E田社及び被控訴人らが、控訴人に対しても、(ア)と同様に、法人会員及び法人登録会員であることの確認を求め(訴えの追加的変更、平成一七年八月二三日付け請求の趣旨変更の申立書)、(ウ) 次いで、被控訴人らが、控訴人及び本件ゴルフクラブに対し、法人登録会員権につき被控訴人らへの名義書換手続を求め(訴えの交換的変更、平成一八年二月二四日付け請求の趣旨変更の申立書)、(エ) さらに、原審第九回弁論準備手続期日(平成一八年六月一三日)において、本件ゴルフクラブに対する訴えが取り下げられ、(オ) 原審第三回口頭弁論期日(平成一八年一一月七日)において、E田社が、法人会員であることの確認請求を取り下げ、控訴人がこれに同意したことから、最終的に、E田社が、控訴人に対し、預託金返還請求権を有することの確認を求め、被控訴人らが、控訴人に対し、名義換手続を求める訴えが残ったことが認められる。

(3)  上記(2)(ウ)において、被控訴人らが名義書換手続請求への訴えの変更を行った後、同(オ)において、E田社が、法人会員であることの確認請求を取り下げた理由につき、被控訴人らは、原審第三回口頭弁論期日において、E田社の同確認請求が、被控訴人らの名義書換手続請求の先決関係にあるとの指摘があり、控訴人も被控訴人らもともにそれを是認したことから、取下げをした旨主張するところ、原審における双方の主張内容を検討しても、控訴人が、上記(2)(ウ)の訴えの変更以後、同取下げの前後において、名義書換請求権の行使主体につき改めて主張した形跡はないことからすれば、取下げの経緯は被控訴人ら主張のとおりであったと認めるのが相当である。

してみると、控訴人が、上記(2)(オ)において、取下げに同意しながら、改めて当審で名義書換請求権の行使主体を争うのは、訴訟上の信義則に反し許されないものというべきである。

(4)  なお、控訴人は、名義書換料等の費用の納付が名義書換承認の要件であるかのような主張をするが、新会則六条では、会員とは、控訴人の面接を経て、控訴人が推薦し、理事会で入会を承認した者であり、会社の定める預託金・登録料その他の費用を納付した者とされており、また、細則四条後段では、入会候補者は、理事会の承認を経て、名義書換料等の費用を会社に納付したときに会員となると定められていることが認められるから、名義書換につき控訴人ないし理事会の承認を得た後に名義書換料等の費用を納付すれば足りるのであって、費用の納付が名義書換承認の要件でないことは明らかである。

二  すすんで、本件争点について判断する。

前提事実に《証拠省略》を総合すれば、次の事実が認められる。

(1)  被控訴人松夫は、D原社が平成二年七月に本件会員権を取得して以来、法人会員権の登録記名者として本件ゴルフ場でプレイを続け、平成五年度には、本件ゴルフクラブのクラブチャンピオンにも選ばれた。(前提事実(2)ア)

被控訴人松夫は、頻繁に本件ゴルフ場に通ううちに、控訴人代表者とも懇意となり、米国のゴルフ場を一緒に視察に出向いたり、同代表者が作った名門ゴルフ場を巡る会の会計を手伝う等して、親しい関係を築いていた。

そして、被控訴人松夫は、控訴人の推薦を受けて、平成一三年二月から平成一四年三月まで本件ゴルフクラブのエチケット・フェローシップ委員会の委員を務め、同年四月からは同クラブの競技委員会の委員も務めていた。

このように、被控訴人松夫は、同年一〇月二九日に控訴人が民事再生手続を申し立てるまでは、その言動を問題視されることはなく、控訴人代表者やほかの会員らと友好的にプレイを楽しんでいた。

(2)  控訴人は、同年一一月一三日、民事再生手続開始決定を受けた(前提事実(3)ア)、これに対し、被控訴人松夫は、控訴人が民事再生手続に至った原因は、経営者による乱脈な経理等のずさんな経営にあると考え、同月二八日付けで、控訴人の民事再生手続が適正に行われるよう監視・監督するとして、他の会員債権者に対し、検証する会の設立を呼びかけ、その代表世話役となった。そして、平成一五年一月九日、神戸地方裁判所に対し、控訴人が倒産前にした金融機関への担保設定につき、監督委員に否認権を与えるよう申し立てるとともに、控訴人の経理状況につき、調査命令の申立てをするなどした。

その結果、裁判所は、同年三月、否認権付与の決定をし、監督委員は、同年七月一五日、控訴人の経営者らに約五〇億円の弁済責任があるとの報告書を提出した。

(3)  同年一〇月一六日、本件ゴルフクラブ理事会が開催された。同理事会に先立ち、控訴人代理人の浦田和栄弁護士(以下「浦田弁護士」という。)は、同年九月二六日に報告書を控訴人に提出した。その内容は、同理事会の議題について説明するもので、その中には被控訴人松夫の言動についての懲戒処分が挙げられていた。同理事会では、控訴人の民事再生計画認可後のスケジュールの報告、新会則等の制定、特別清算会社D原社を会員として認めるべきかどうか等が議題とされ、また、民事再生手続開始決定以後の被控訴人松夫の言動につき懲戒処分をすべきかどうかも議論されたが、浦田弁護士から、D原社は既に解散して法人会員の資格を喪失しているのでプレイ権はなく、登録会員の被控訴人松夫もその資格を失っているとの説明があったので、除名等の懲戒処分にまでは決議されなかった。

(4)  被控訴人松夫は、上記理事会の開催以降も、本件ゴルフ場でプレイするなどその施設を利用し続けていた。

ところが、控訴人は、同年一一月九日ころ、D原社の清算人に対し、D原社は既に特別清算手続を終結しており、法人会員としてのプレイ権の行使は法律上認められず、被控訴人らが登録者としてプレイ権を行使することもできないから、D原社又は被控訴人らからの会員としてのプレイ申込み等には応じられない旨通知し、以後、被控訴人らが本件ゴルフ場施設を利用することを拒絶している。

(5)  D原社及びE田社は、控訴人が名義変更手続を再開するのを待って、平成一六年四月一日付けで、控訴人を通じ、本件ゴルフクラブに対し、E田社を法人会員とし、被控訴人らを引き続き登録者とする旨の名義変更手続を申請した。

(6)  これに対し、控訴人は、入会審査の結果、E田社を本件ゴルフクラブ理事会に推薦しないことを決定したが、被控訴人らが過去にD原社の法人会員登録者であったことから、より慎重な判断を求めて、同決定の当否を同理事会の書面持回り決議に付することとし、平成一六年五月一九日付けで、各理事に対し、その旨の通知をし(回答期限は、同月二五日)、回答に必要な資料(名義書換申請書及び経歴書)を送付した。

この通知書には、「C川松夫氏の言動につきましてはクラブハウス内で大声を上げたり、他の会員に対して脅迫まがいの暴言や、恫喝的に睨みつける、等の著しくエチケットマナーに違反し、クラブライフを損ねる、当クラブの会員としてふさわしくない逸脱した行為が多々ございました。現実に『顔を合わせたくない』ということでご来場が遠のいた会員様も多数いらっしゃった、という判断により、会則第六条に基づき理事会に対して推薦しない事を決定致しました。しかしC川松夫氏他三名は元々当クラブの登録名義人であったことから念の為、弊社の決定につきまして理事会のご承認を求めるものでございます。」と記載されている。

上記通知に対する回答の集計結果は、理事一七名のうち回答したのは一五名であり、回答者一五名のうち、E田社の入会を認めるとしたのが○名、認めないとしたのが一三名、無回答者が二名であった。

そこで、控訴人は、上記集計結果に基づき、本件ゴルフクラブ名義で、平成一六年六月九日付けで、被控訴人らに対し、入会を承認しない旨通知(本件承認拒絶)をした。

なお、本件ゴルフクラブ細則には、「会社は、入会候補者を理事会に推薦する前に、面接を行い本クラブ会員にふさわしい者であることを確認しなければならない。」(四条前段)とされているところ、控訴人は、被控訴人らと面接せず、上記書面持回り決議を通知するに際しても、本来添付すべき名義変更申請者面談状況表を添付せず、また、各理事には、被控訴人らの履歴等も知らされなかった。

三(1)  前提事実及び上記認定の事実によれば、被控訴人らは、従前、D原社の保有する法人会員権の登録記名者であったところ、同社の特別清算手続に伴い、その法人会員権が親会社のE田社に譲渡されたことから、引き続き同社の登録記名者となるべく、本件ゴルフクラブに対して名義変更手続を申請したこと、これに対し、控訴人及び本件ゴルフクラブは、控訴人の民事再生手続開始後の被控訴人松夫の言動に照らして、被控訴人松夫には本件ゴルフクラブの会員としての適格性に欠け、ひいては同人が代表者を務めるE田社も法人会員としてふさわしくないと判断して、名義変更申請を拒絶したことが認められる。

(2)  ところで、控訴人は、名義変更を認めるかどうかについては、一定の制限はあるものの、控訴人及び本件ゴルフクラブ理事会に広範な裁量権がある旨主張するので検討する。

新会則一〇条に、ゴルフ会員権の譲渡については本件ゴルフクラブ理事会及び控訴人の承認が必要である旨規定され、同六条に、会員として入会するには、控訴人による面接を経て、控訴人が推薦し、同理事会が承認した者に限られる旨のみが規定されて、承認の要件について何ら規定がないとはいえ、新会則において、譲渡あるいは入会の承認の規定が設けられている趣旨は、一般にゴルフ競技の性質上、会員の多数にとって好ましくない者が会員に加わり、その雰囲気、品位、技術的水準等が低下しないようにするためであると解されるのであって、このような趣旨からすれば、ゴルフクラブ会員権の譲受人から名義変更申請があった場合には、常に入会(譲渡)を承認するわけではないとしても、上記のような規定の趣旨にかんがみ、客観的にみて会員(法人会員の場合は登録記名者)の適格性を欠くと判断することが当然のこととして是認されるような特段の事由のない限り、ゴルフ場経営会社である控訴人としては入会(譲渡)承認を拒否できないと解するのが相当である。

これを本件についてみてみるに、被控訴人松夫は、控訴人の民事再生手続が開始されるまでは、本件ゴルフクラブの平成五年度のクラブチャンピオンになり、控訴人の推薦で、同クラブのエチケット・フェローシップ委員会の委員(平成一三年二月~平成一四年三月)や競技委員会(平成一四年四月~退会)の委員を歴任するなど、その言動が同クラブ内で問題視されたことはなく、平成一五年八月二六日にD原社の特別清算手続が終結した後はもとより、同年一〇月一六日の本件ゴルフクラブ理事会後も、本件ゴルフ場でプレイを続けていた。このように、被控訴人松夫は、既に法人会員権の登録記名者として承認を受け、長期間にわたり平穏に本件ゴルフ場の利用を継続していたことに加えて、本件ゴルフクラブの各種委員も歴任するなど積極的な貢献を見せていたことからすれば、法人会員権の譲渡に伴って、被控訴人らについて、改めて登録記名者として名義変更申請を行わなければならない場合においては、その承認の可否は、控訴人や同理事会の自由な裁量に委ねられていると解すべきではない。仮に、自由な裁量によって入会(譲渡)承認を拒絶できるとすれば、登録記名者に何らの非違行為がないにもかかわらず、譲渡を契機に、控訴人あるいは本件ゴルフクラブ理事会の意思のみによって、除名に等しい処分が可能になるからである。

(3)  加えて、本件ゴルフクラブは、理事会は存するものの、会員による総会は存在せず、代表理事は、控訴人の代表者が自動的に就任するため、会員の意思を反映した運営が行われているとは直ちに言い難く、運営費はすべて控訴人が負担し、資産管理も控訴人が行っている団体であることは、一審相被告の本件ゴルフクラブが自認し、控訴人も原審で自認していた(原審第九回弁論準備手続調書)ところである(なお、新会則一八条によれば、理事は、控訴人が推薦して理事会が承認して選任される)。したがって、本件ゴルフクラブは、任意の団体であるとはいえ、控訴人から完全に独立した団体とはいえず、控訴人に付属する一機関と認めるのが相当である。

そして、控訴人は、これまでの運用では、会員からの名義変更申請につき、自ら書類審査及び面接審査を実施した上、承認を相当とする場合にのみ本件ゴルフクラブ理事会に推薦し、不承認の場合には、通常は同理事会に諮ることなく、名義変更を拒絶していたのであり(上記争点に関する控訴人の主張(2)、細則四条前段)、本件ゴルフクラブの理事長である証人A田も、入会を承認しないという書面決議は異例のことであると証言しているように、名義変更の不承認については、控訴人が実質上決定していたということができる。

被控訴人らに関しても、控訴人は、E田社について、書類審査の結果、入会(譲渡)を本件ゴルフクラブ理事会に推薦しないことを決定したが、被控訴人らが過去にD原社の法人会員登録者であったことから、より慎重な判断を求めて、理事会に入会承認の諾否を諮った旨主張している(上記控訴人の主張)のであって、被控訴人らの名義書換を拒絶したのも実質は控訴人であったと認められる。

この点につき、控訴人は、あくまで本件ゴルフクラブが会員の入会承認の判断主体であると主張する。しかし、同主張は、新会則六条や細則四条前段の定め、原審における控訴人の主張(原審準備書面(4)一一頁、同(7)一一頁参照)に見られる運用の実際と相容れないもので採用できない。

四  以上の観点から、控訴人が本件承認拒絶の実質的理由として主張する事由につき検討する。

(1)  まず、控訴人は、①被控訴人らが、D原社の登録者として、特別清算開始後には法律上施設優先利用権が認められないとの控訴人からの再三の説明にもかかわらず、これに納得せず、仮処分命令の申立てまで行った旨を主張する。しかし、被控訴人らは、本件訴訟における被控訴人らの主張と同様の見地から、自らに施設優先利用権が帰属すると考えていたものであり、このように考えること自体何ら不合理とはいえない上、前記認定事実によれば、控訴人にあっても、本件ゴルフクラブ理事会で被控訴人らにプレイ権がないことが確認されてからも、しばらくの間、被控訴人らが有馬ロイヤルゴルフクラブでプレイするのを黙認していたことが認められ、これらからすると、上記①の事情が前記特段の事由に該当するとは言い難い。

(2)  次に、控訴人は、②被控訴人松夫は、民事再生手続についての自らの主張、控訴人に対する糾弾活動及び自らの所属する検証する会等への勧誘活動を営業時間内にクラブハウス内で行い、多数の会員から苦情が寄せられただけでなく、自粛を求めた控訴人従業員の注意にも従わなかった旨や、③被控訴人松夫が代表となって配布したビラ・口頭での勧誘・説得活動等において、控訴人の再生手続に理解を示す他の会員や理事者を誹謗中傷したり、検証する会の活動から離脱した会員をクラブハウス内で多数の来場者がいる前で大声で非難する行動をとったりすることがあった旨、④控訴人の民事再生手続の議決票を回収する時期において、会員のもとを訪れ、反対の議決票を渡すよう執拗な説得活動を行ったことから、そうした会員債権者から控訴人宛てに多数の苦情が寄せられていた旨を主張する。

確かに、証人B山夏夫の証言中には、「被控訴人松夫の問題行動は民事再生手続が始まってからの平成一四年一〇月以降である。被控訴人松夫の苦情は、民事再生手続に反対するよう強要される、風呂場で声高に会社の悪口を言い募り、聴くに堪えない、ゴルフを楽しめる雰囲気ではなくなっているなどというもので、従業員からは、民事再生手続に反対する文書を突きつけられて読めと強要される、『お前ら、よくこんな社長の下で働けるな』とか言われ、非常に仕事がしにくい、理事からは、フロント横で、ある会員に対しクラブハウス内に響き渡るような大声で、『お前、わしをはめる気か』と発言し、すごい形相で睨みながら恫喝されたのを見て、常識外の振る舞いで会員にあんな人が居るんかと言われた。」、「苦情はメモに残すこともあるが、ほとんど口頭で理事会に報告する。処分や警告をしたことはなく、メモ類は再生計画認可後に処分した。被控訴人松夫の妻や子に問題なかった。」旨の証言があり、また、控訴人代表者本人の供述中にも、「フロントで会員を迎えるとき、被控訴人松夫は非常な眼力で睨みつけたり、二階のレストラン、フロント、マスター室で、荒声に『これ見とけ』という感じでビラを配布されたことを聞いている。」「被控訴人松夫とは、米国のゴルフ場を一緒に視察に出向いたり、名門ゴルフ場を巡る会の会計もしてもらう等、親しくしていたが、民事再生手続の方針を巡って意見が相違した。被控訴人松夫は、株主会員制を唱え、経営責任をとるべきとの考えで、自主再建をめざす代表者と対立し、再生計画認可の票数を争う渦中で、被控訴人松夫の問題行動が起きた。それまでは問題はなかった。外車で乗り付けてサングラスを掛けて睨みつけられ、恐怖感を覚えた。」旨の供述部分がある。

これらの証言や供述部分から認められるように、被控訴人松夫の問題行動とされる言動は、控訴人の民事再生手続が開始されて以降であり、民事再生手続の方針を巡る意見対立を契機とするものである。

《証拠省略》によれば、被控訴人松夫は、控訴人の再建は民事再生手続によるのではなく、乱脈経営の責任を追及するためにも、会社更生法の適用によるべきであるとの考えから、検証する会(後に「有馬ロイヤルゴルフクラブを会社更生法で会員のためのゴルフ場にする会」と改称)を結成し、種々の活動を行うとともに、民事再生手続中でも、監査委員に否認権付与の申立てをしたり、調査命令の申立てをするなど、控訴人代表者らと対立関係にあったことが認められ、そのため、《証拠省略》によれば、再生計画認可を巡って、控訴人と検証する会との票争いが激しくなり、平成一五年九月二五日には、被控訴人松夫らのグループから、控訴人代理人弁護士に対し、B山夏夫支配人が、クラブハウスの玄関で、検証する会のメンバーを睨みつけたり、逆に無視する行動があるとの抗議文が寄せられ、これを受けて、控訴人代表者が同支配人の言動を注意し、同支配人も言動を改めたことが認められるのであって、このように、民事再生手続の方針を巡る意見の相違から、控訴人代表者や同支配人と被控訴人松夫とが互いに非友好的な関係になり、相手方を非難する言動が生じたものと認められる(なお、控訴人が主張し、証人B山夏夫が証言し、控訴人代表者が供述するような糾弾活動や、誹謗中傷については、これを裏付ける客観的証拠は一切なく、証人B山夏夫は、苦情についてはメモを残したと言いながら、後日処分したと言うなど、その証言は不自然であって信用し難く、ほかにこれらを裏付けるに足りる証拠もない。)。

そうであれば、控訴人の再建方針の相違から、被控訴人松夫に行き過ぎた言動があったとしても、一面では正当な権利行使に付随したものともいえるのであって、そのことのみで、除名に等しい本件承認拒絶を正当化し得る十分な理由とは言い難い。

(3)  のみならず、被控訴人松夫以外の被控訴人らに関しては、控訴人は、被控訴人松夫と一体化して考慮したと主張し、控訴人代表者本人の供述中には同旨の部分がある。しかし、本件ゴルフ場施設を現実に利用するのは登録記名者の各個人であることからすれば、本件承認拒絶の正当理由も個人毎に判断すべきであり、家族とはいえ、被控訴人松夫とその妻子を一体として評価することはできないところ、証人B山夏夫も、被控訴人松夫の妻や子に問題行動はなかったと証言しているのであって、ほかに被控訴人松夫以外の被控訴人らにつき、本件承認拒絶を正当化し得る理由が主張立証されていない以上、同被控訴人らに関しても、本件承認拒絶を正当化することはできない。

(4)  そして、本来であれば、新会則や細則に従い、被控訴人ら四名の面接を実施すべきであるのに、面接を実施せず、意見陳述の機会を与えないまま本件承認拒絶の決定をするに至ったことをも考慮すれば、本件承認拒絶は、正当な理由なく行われたもので、効力を有しないものというべきである。

五  以上によれば、控訴人は、本件会員権につき、被控訴人らを法人会員登録者として名義書換する義務を負うものというべきである。

六  結論

以上の次第で、被控訴人らの本件請求は、いずれも理由があるから認容すべきところ、これと同旨の原判決は正当であって、本件控訴は理由がないから、棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松山恒昭 裁判官 小原卓雄 小倉真樹)

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