大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成19年(ネ)942号 判決 2007年9月20日

主文

一  一審被告らの一審原告X1及び一審原告東京海上日動火災保険株式会社に対する各控訴に基づき、原判決主文第一、第二、第七、第八項を次のとおり変更する。

二  一審被告Y1は、一審原告X1に対し、六三六八万二二二二円及びうち五七八八万二二二二円に対する平成一六年二月二四日から、うち五八〇万円に対する平成一四年七月七日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  一審被告株式会社損害保険ジャパンは、一審原告X1に対し、一審被告Y1に対する前項の判決が確定したときは、六三六八万二二二二円及びうち五七八八万二二二二円に対する平成一六年二月二四日から、うち五八〇万円に対する平成一四年七月七日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  一審被告Y1は、一審原告東京海上日動火災保険株式会社に対し、一四六万五七九六円及びこれに対する平成一五年八月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  一審原告X1、同X2及び同X3並びに一審原告東京海上日動火災保険株式会社のその余の請求をいずれも棄却する。

六  一審被告らの一審原告X2及び同X3に対する各控訴をいずれも棄却する。

七  一審原告X1、同X2及び同X3の各控訴をいずれも棄却する。

八  一審原告X1と一審被告らとの間に生じた訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを三分し、その二を一審原告X1の、その余を一審被告らの負担とし、一審原告東京海上日動火災保険株式会社と一審被告Y1との間に生じた訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを三分し、その二を一審原告東京海上日動火災保険株式会社の、その余を一審被告Y1の負担とし、一審被告らの一審原告X2及び同X3に対する各控訴に係る控訴費用は一審被告らの負担とし、一審原告X2の控訴に係る控訴費用は一審原告X2の、一審原告X3の控訴に係る控訴費用は一審原告X3の各負担とする。

九  この判決は、第二項ないし第四項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

(以下においては、「一審原告X1」を「一審原告X1」と、「一審原告X2」を「一審原告X2」と、「一審原告X3」を「一審原告X3」と、「一審原告東京海上日動火災保険株式会社」を「一審原告会社」と、「一審被告Y1」を「一審被告Y1」と、「一審被告株式会社損害保険ジャパン」を「一審被告会社」とそれぞれ表示する。)

第一当事者の求めた裁判

一  一審原告X1、同X2、同X3

(1)  控訴の趣旨

ア 原判決を次のとおり変更する。

イ 一審被告Y1は、一審原告X1に対し、一億五八三二万六四四七円及びうち一四三九万三三一三円に対する平成一四年七月七日から、うち一億四三九三万三一三四円に対する平成一六年二月二四日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

ウ 一審被告会社は、一審原告X1に対し、一審被告Y1に対する前項の判決が確定したときは、一億五八三二万六四四七円及びうち一四三九万三三一三円に対する平成一四年七月七日から、うち一億四三九三万三一三四円に対する平成一六年二月二四日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

エ 一審被告Y1は、一審原告X2に対し、五五〇万円及びこれに対する平成一四年七月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

オ 一審被告会社は、一審原告X2に対し、一審被告Y1に対する前項の判決が確定したときは、五五〇万円及びこれに対する平成一四年七月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

カ 一審被告Y1は、一審原告X3に対し、五五〇万円及びこれに対する平成一四年七月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

キ 一審被告会社は、一審原告X3に対し、一審被告Y1に対する前項の判決が確定したときは、五五〇万円及びこれに対する平成一四年七月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

ク 訴訟費用は第一、二審とも一審被告らの負担とする。

ケ 仮執行宣言

(2)  一審被告らの控訴の趣旨に対する答弁

ア 一審被告らの各控訴を棄却する。

イ 控訴費用は一審被告らの負担とする。

二  一審被告ら

(1)  控訴の趣旨

ア 原判決中、一審被告らの敗訴部分を取り消す。

イ 前項の取消部分に係る一審原告らの請求をいずれも棄却する。

ウ 訴訟費用は第一、二審とも一審原告X1、同X2、同X3、一審原告会社らの負担とする。

(2)  一審原告X1、同X2、同X3の各控訴の趣旨に対する答弁

ア 一審原告X1、同X2、同X3の各控訴をいずれも棄却する。

イ 控訴費用は一審原告X1、同X2、同X3らの負担とする。

三  一審原告会社

(1)  一審被告Y1の控訴を棄却する。

(2)  控訴費用は一審被告Y1の負担とする。

第二事案の概要

一  本件は、信号機による交通整理がされている交差点において一審原告X1が運転する自転車と一審被告Y1が運転する普通貨物自動車が衝突し、一審原告X1が負傷した交通事故(以下「本件事故」という。)について、

(1)  一審原告X1及びその両親である一審原告X2及び同X3(以上三名を併せて以下「一審原告X1ら」という。)が、

ア 一審被告Y1に対し、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条及び不法行為責任に基づき、本件事故による損害金として、(a)一審原告X1においては二億二一六〇万円及びうち弁護士費用二〇一〇万円に対する本件事故日である平成一四年七月七日から、うち弁護士費用を除く二億〇一五〇万円に対する自動車損害賠償責任保険金(後遺障害分)の支払日の翌日である平成一六年二月二四日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、(b)一審原告X2においては、損害金七七〇万円及びこれに対する上記平成一四年七月七日から支払済みまでの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、(c)一審原告X3においては、損害金七七〇万円及びこれに対する上記平成一四年七月七日から支払済みまでの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、

イ 一審被告Y1との間で自動車保険契約を締結していた損害保険会社である一審被告会社に対して、同保険契約の約款に基づき、一審被告Y1に対する上記各判決が確定することを条件に上記(a)ないし(c)と同額の保険金及び遅延損害金の支払を求め(以上、原審平成一六年(ワ)第三八一号・原審甲事件)、

(2)  一審原告X2との間で人身傷害補償条項のある自動車保険契約を締結していた損害保険会社である一審原告会社が、同保険契約に基づき人身傷害保険金を一審原告X2に支払ったとして、同保険契約の約款に基づいて取得した損害賠償請求権に基づき、一審被告Y1に対し、保険金支払額五三三万一五九三円から一審原告会社が受領したことを自認している自動車損害賠償責任保険金一二〇万円(傷害分)を控除した四一三万一五九三円及びこれに対する最終の保険金支払の日の翌日である平成一五年八月二九日から支払済みまでの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた(原審平成一六年(ワ)第五九一号 原審乙事件)事案である。

二  原審は、上記(1)(ア)及び(イ)の各(a)の一審原告X1の各請求については七七九七万七七二三円及びうち七〇八七万七七二三円に対する平成一六年二月二四日から、うち七一〇万円に対する平成一四年七月七日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払請求に限りこれを認容し(原判決主文第一、第二項)、上記(1)(ア)及び(イ)の各(b)の一審原告X2の各請求については一六五万円及びこれに対する平成一四年七月七日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払請求に限りこれを認容し(原判決主文第三、第四項)、上記(1)(ア)及び(イ)の各(c)の一審原告X3の各請求については一六五万円及びこれに対する平成一四年七月七日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払請求に限りこれを認容し(原判決主文第五、第六項)、その余の一審原告X1らの各請求をいずれも棄却し(原判決主文第八項)、上記(2)の一審原告会社の請求については二〇六万五七九七円及びこれに対する平成一五年八月二九日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払請求に限りこれを認容し(原判決主文第七項)、その余の一審原告会社の請求を棄却した(原判決主文第八項)ところ、一審原告会社は控訴の申立てをしなかったが、一審原告X1ら及び一審被告らがそれぞれ控訴を申し立て、一審原告X1らは当審においてそれぞれその請求を減縮し、第一の一(1)摘示の裁判を求めた。

三  前提事実

以下の事実は、当事者間に争いがないか、末尾に記載した証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められるものである。

(1)  当事者等

ア 一審原告X1(平成○年○月○日生)は、一審原告X2と一審原告X3の間の長男である(甲七)。

イ 一審被告Y1は、後記被告車両の運行供用者であり、自賠法三条に基づく賠償責任を負う。

(2)  本件事故の発生(甲一)

ア 日時 平成一四年七月七日午前七時五〇分ころ

イ 場所 兵庫県姫路市飾磨区細江五九三番地の一付近の東西に通じる国道二五〇号線、天神橋付近の十字型交差点(以下「本件交差点」という。)東側横断歩道

ウ 原告車 自転車

同運転者 一審原告X1

エ 被告車両 普通貨物自動車〔ナンバー省略〕

同運転者 一審被告Y1

オ 態様 本件交差点において、東側横断歩道を南進していた原告車と、東進中の被告車両が衝突したもの

(3)  一審原告X1の受傷

一審原告X1は、本件事故により、脳挫傷、頭部打撲、右第五中手骨頚部骨折、左上肢・左下腿挫滅創、全身打撲、びまん性軸索損傷等の傷害を負った(甲三)。

(4)  一審原告X1の治療経過等

一審原告X1は、上記傷害の治療のため、別表記載のとおり、姫路中央病院、兵庫県立総合リハビリテーションセンター・リハビリテーション中央病院(以下「リハビリテーション中央病院」という。)に、入通院した(甲三、四)。

(5)  自動車損害賠償責任保険における後遺障害の認定

一審原告X1の本件事故による症状は平成一五年五月二七日に固定し、その後遺障害は、同年八月二五日、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)の事前認定手続において「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」として、自賠法施行令二条別表第一(以下「障害等級」という。)二級一号に該当すると認定された(以下「本件後遺障害認定」という。甲四、五)。

(6)  一審被告会社の保険契約

一審被告会社は、本件事故当時、一審被告Y1との間で、被告車両によって第三者に加害を及ぼし損害を生ぜしめた場合は、一審被告Y1が当該第三者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額について、一審被告Y1と当該第三者間で判決が確定した時又は裁判上の和解若しくは書面による合意が成立した時、当該第三者から一審被告会社に対し直接に上記金額の損害賠償を請求できるとの約定で、自動車保険契約を締結していた(乙一五)。

(7)  一審原告会社の保険契約

一審原告会社は、本件事故当時、一審原告X2との間で、人身傷害補償条項を含む自動車保険契約を締結していたところ、同保険契約においては、同保険金を受領した者が他人に損害賠償を請求をすることができる場合には、一審原告会社において、その損害に対して支払った保険金の額の限度内で、損害賠償に係る権利を取得する旨の約定があった(丙一)。

(8)  損害のてん補

一審原告X1は一審原告会社から、(7)摘示の保険契約に基づき、本件事故による人的損害について、治療費一九九万一〇二七円、入院雑費として二九万四八〇〇円、一時帰宅時の介護タクシー費用二万九〇二〇円、付添介護費一六八万四〇〇〇円、装具費三二万六八四六円及び保険金内払一三五万円の合計五六七万五六九三円の支払を受けた(丙二、弁論の全趣旨(特に一審原告X1らの平成一八年五月二六日付け訴えの変更申立書))。

また、一審原告X1は、平成一六年二月二三日、本件事故による損害につき自賠責保険金三〇〇〇万円(後遺障害分)の支払を受けた(甲二九)。

四  争点及び争点に関する当事者の主張

本件の争点は、①一審原告X1と一審被告Y1の過失割合、②一審原告X1の後遺障害及び必要な介護の程度、③損害額であり、これに関する当事者の主張は以下のとおりである。

(1)  過失割合について

(一審被告らの主張)

本件事故は、一審被告Y1が被告車両を運転して、本件交差点を東西に走る国道二五〇号線(以下「本件国道」という。)を東進し、本件交差点において対面信号が青であったことからこれに従って同交差点内を時速約六〇キロメートル(当審での主張は時速五二キロメートルないし六三キロメートル)で直進しようとしたところ、一審原告X1が原告車を運転し、原告車の進行方向の対面信号が赤であるにもかかわず本件交差点内に進入してきたのを発見してブレーキを踏んだが間に合わず、被告車両が原告車に衝突したため発生したものである。

本件事故現場付近の本件国道は、交通量が多く、中央分離帯が設けられた幅員六・四メートルの片側二車線道路で、幅員四・六メートルの歩道も整備されているため歩行者及び自転車が本件国道を横断することは困難である上、見通しがよいことから、仮に自動車運転者が本件事故現場付近に学校が数校あって児童生徒の往来が多いことを知っていたとしても、当該運転者において、上記道路を走行するに当たり、一般の道路に比して高度の注意義務を課せられるものではない。なお、道路交通法二条三項は、同法の規定の適用について歩行者とみなす者を定めているが、本件事故当時の一審原告X1はこれに当たらない。また、一審原告X1は、本件事故当時中学生であり一般人と同程度に交通ルールを理解していたと考えられる。

以上によれば、本件の過失割合については、一審原告X1を八割、一審被告Y1を二割とすべきである。

(一審原告らの主張)

目撃者であるAが青信号を確認したと指示説明しているのは、被告車両が原告車に衝突した地点から四六メートル手前にいた段階であり、本件事故の衝突時に、被告車両の対面信号が青信号であったか、黄信号であったかは明らかでない。

本件事故現場における被告車両のスリップ痕が左タイヤ二一・三メートル、右タイヤ二三・八メートルであること、本件事故当時の事故現場は乾燥アスファルト路面であったことから、その推定速度は時速六六キロメートルないし七一キロメートルである。また、被告車両がブレーキをかけた地点から同車両が停止した地点までの距離は三八・五メートルであることから、その推定速度は時速六五キロメートルないし七〇キロメートル(当審での主張は時速六九キロメートル)である。そして、これらの推定速度は衝突による減速を考慮しておらず実際の速度は更に速かったと考えられること、一審被告Y1が一審原告X3に対し本件事故当日に時速八〇キロメートルで走行していた旨告白していたことを考え併せれば、被告車両の本件事故時における速度は少なくとも時速七〇キロメートル程度であったというべきである。したがって、被告車両は本件事故現場の制限速度(時速五〇キロメートル)を時速一五キロメートル以上超える速度で走行していたのであり、一審被告Y1には著しい過失がある。また、本件事故現場のすぐ北には飾磨工業高校及び姫路産業技術高校が、北西には飾磨小学校があることから、本件事故現場付近は児童生徒が頻繁に行き来することが予想される地域であった上、一審被告Y1は当該道路をほとんど毎日通行していたのであるから、一審被告Y1は、本件事故現場において被告車両を走行させるに当たっては特段の注意をするべきであった。

本件は、自転車と四輪車の事故であるが、一審原告X1の運転していた自転車がそれほどスピードの出ないいわゆる買い物自転車であること、横断歩道上の事故であることから、過失割合を検討するに当たっては、歩行者と四輪車の事故の場合に準じて考えることが相当である。

以上の事情に、一審原告X1が本件事故当時一二歳の児童であったことなどを総合考慮すれば、本件の過失割合については、一審原告X1を二割、一審被告Y1を八割とすべきである。

(2)  一審原告X1の後遺障害、必要な介護の程度について

(一審原告X1らの主張)

ア 高次脳機能障害の程度について

(ア) 交通事故被害者の脳外傷による高次脳機能障害を医学的・客観的に判断するためには、意識障害の有無とその程度・長さの把握と、画像資料上で外傷後ほぼ三か月以内に完成するびまん性脳室拡大・脳萎縮の所見が重要である。また、脳外傷による高次脳機能障害の程度を把握するためには、神経心理学的検査の結果や実際の診察に当たった医師の所見はもちろん、家族や介護者等被害者の周辺から得られる情報が有効である。これを一審原告X1についてみると、以下のとおりである。

(イ) 一審原告X1は、一二歳の時点で本件事故により脳挫傷及びびまん性軸索損傷の傷害を負い、病院に搬送された当初は昏睡状態(JCS―三〇〇)で、刺激しても開眼しない重度の意識障害が一週間以上続き、事故後一か月間は刺激すると覚醒するが刺激を止めると眠り込む状態(JCS二桁相当)であるなど、その受傷時の年齢、受傷内容並びに意識障害の程度及び期間に照らして、永続的な高次脳機能障害が残存することが当然といえる状態であった。

(ウ) また、一審原告X1は、平成一四年一一月六日の時点で画像所見として年齢に比し脳萎縮が目立つものと認められ、平成一六年三月一二日のCT検査により側脳室の拡大がみられ、同年八月一七日の画像所見として右大脳半球に萎縮が認められ、本件後遺障害認定においても、両側前頭葉、右視床、両海馬周辺部に脳挫傷痕、脳室拡大などの脳内病変の残存が認められている。

(エ) さらに、一審原告X1に関する神経心理学的検査結果及び医師の所見、介護者等による情報は以下のとおりである。

ウェクスラー成人知能検査法改訂版(WAIS―R)の結果は知能指数(IQ)四五と深刻な知能障害を示し、ミニメンタルステートの結果は二一点と認知障害があることを示している。リバーミード行動記憶検査の結果は七点であり、多くの日常生活上の行動に指示や監視を要する状態と認められ、遂行機能障害症候群の行動評価法(BADS)の結果は四点であり、前頭葉損傷群の下限を大幅に下回っている。

これらの検査結果から、B医師は、一審原告X1の高次脳機能障害について、重度の記憶障害、遂行機能障害、知的機能の低下を認め、注意障害、左側空間無視も認められるとし、日常生活の遂行に監視・助言の必要なレベルであると診断している。なお、半側空間無視については、無視症状による障害のみならず、全般的な不注意や病識の欠如といった多彩な劣後半球症状のため、ADL全体が不注意で落ち着きがなく雑な結果になり、周囲の忠告を意欲的に実行できず、このような行動上の問題や性格変化は介護者を二四時間束縛する結果となる。

また、C医師は、集中力の低下、計画的な行動を遂行する能力の障害が高度にみられ、物忘れ症状、新しいことの学習障害、複数の作業を並行処理する能力の障害等が中等度に認められることを指摘し、高次脳機能障害において目立つ症状として、注意障害、自発性低下、記銘力障害、左側視空間認知障害、構成障害、計算障害を挙げている。

さらに、近親者等からの報告によれば、一審原告X1の日常生活状況は以下のとおりである。すなわち、学力は小学校三、四年生かそれ以下のレベルであり、集中力、持続力、記憶力及び計画的な行動をする能力の低下が著しく、複数の作業を同時処理すること、状況に即した行動を採ること、服薬管理ができない。地誌的障害があり道に迷いやすく、交通の危険に住意を払うことができない。また、意欲・発動性が低下してものぐさになり、経済観念及び悲しむ感情が欠落しているほか、日付や曜日、時間の感覚がなく、易怒性がみられ、発想が幼児的で自己中心的になり、羞恥心もなくなった。

イ 身体障害及びてんかんについて

一審原告X1の左上下肢には高度の麻痺が残存しており、その後遺障害は生命維持に必要な身の回りの処理の動作について、随時介護を要する程度のものである。

また、一審原告X1は、抗てんかん薬フェノバルビタール及びエクセグランの投与を受けながらも、平成一七年四月までは一か月に五ないし二五回のてんかん発作を発し、二ないし三か月に一回は全身けいれんを発症していた。同年五月にマイスタンを追加投与してからは一か月に一、二回の発作を発する程度となった。一審原告X1がてんかん発作を起こした場合は、安全な場所に移動させて呼吸しやすい状況にし、救急車を呼ぶ必要があり、特に全身けいれんを発した場合は全く防衛反応が働かないので、転倒、転落、溺水などの事故が発生する可能性がある。

ウ 必要とされる介護の内容について

以上によれば、一審原告X1には重篤な高次脳機能障害が残存しており、かつてんかん発作に備える必要があることから、外出時には常に付添が必要であり、自宅においても常時の看視と適宜の声掛けが必要である。また、一審原告X1は上記身体障害により、身体的な介助として、入浴、排泄、ベッドから車いすへの移乗、床からの立上がり、衣服の着脱、食事の準備と後片づけ、片手では食べにくい物を食べる場合の介助、手足のリハビリが必要である。

(一審被告らの主張)

一審原告X1は、平成一四年一一月二六日ごろ友人との会話を問題なく行うことができており、一審原告X1らの主張する一審原告X1の学力の程度、その他の高次脳機能障害の内容については否認する。また、一審原告X1は、同日ころ車いすでの外出が可能となり、平成一五年四月五日ころ一審原告X3が付き添って中学校に登校し、「学校には友達がいるから本当に楽しい」と笑顔で語るなど、不自由なく会話を交わすこと及び支えをもって自力により起立することが可能となり、同月二一日までには学校で失禁することもなく、介助手すりがあれば四階まで上ることが可能であった。また、一審原告X1は、平成一六年四月二〇日から同月二二日まで長崎市内への修学旅行にも特段の支障なく参加し、平成一八年九月三〇日ころまでには、体育祭において一人で車いすを使用して移動することが可能な程度に身体の状況は回復していた。

以上によれば、一審原告X1の後遺障害は、常時看視又は介助を必要とする程度であるとは認められず、生涯にわたり近親者による随時介護を要する程度にすぎない。そして、一審原告X1の年齢、上述した従前の症状からの回復の程度を考慮すれば、現在の症状が将来にわたって永続的に継続するとは認められない。

(3)  損害額について

(一審原告X1らの主張)

ア 一審原告X1の損害

(ア) 治療費 一九九万一〇二七円

一審原告X1は、本件事故による傷害の治療のため治療費一九九万一〇二七円を負担した。

(イ) 入院雑費 四〇万八〇〇〇円

入院日数は別表のとおり合計二七二日であり、以下のとおり、日額一五〇〇円の入院雑費合計四〇万八〇〇〇円が損害として認められるべきである。

1,500円×272日=408,000円

(ウ) 症状固定日までの付添看護費

a 入院中の付添看護費 二七二万円

姫路中央病院入院中、本件事故日である平成一四年七月七日から同年八月二日までは、一審原告X1の容態はいつ悪化して死の危険に直面するか分からない状態であり、一審原告X3が毎日泊まり込んで待機していた。また同日一般病棟に移ってからも一審原告X3が毎日泊まり込み、手足のリハビリをしたり、話しかけたり、野球中継を聴かせるなどし、意識状態が回復してからは食事の介助をしたり、車いすで散歩に連れて行くなどした。また一審原告X2及び一審原告X3の実母も、見舞いや付添、一審原告X3の援助のために同院を訪れた。

リハビリテーション中央病院の入院中も、毎日午前九時三〇分ころから午後七時まで一審原告X3が付き添い、看護に当たった。

以上によれば、一審原告X1の入院中の付添看護費は、日額一万円を下らないとみるべきであり、以下のとおり、合計二七二万円となる。

10,000円×272日=2,720,000円

b 退院後の介護費 五三万円

退院後症状固定までは、一審原告X1の身体機能、知的機能、精神機能がいずれも回復途上であったため、現在よりもその介護の内容、程度は重かった。したがって、その間の介護費の日額は、後述する症状固定日以降の近親者による介護費の日額に相当する一万円とみるのが相当であり、退院後症状固定日までの日数は五三日であるから、その間の介護費は、以下のとおり、合計五三万円となる。

10,000円×53日(ただし、入院期間を除く。)=530,000円

(エ) 通院交通費 合計二二万一〇二〇円

一審原告X1は、平成一四年一〇月三一日から平成一五年三月三一日までリハビリテーション中央病院に一五二日間入院し(ただし、三日間は一時帰宅した。)、一審原告X3は付添看護のために自宅から片道四〇キロメートルある同病院まで自ら自動車を運転して通っていた。また、一審原告X1は、その後症状固定日まで一一日間、一審原告X3の運転する自動車で通院した。したがって、一審原告X1の介護のための通院交通費は、燃費を一リットル当たり八キロメートル、ガソリン価格を一リットル当たり一二〇円として、以下の計算式のとおり、合計一九万二〇〇〇円である。

(40km÷8km×120円×2[往復])×(152+11-3)日=192,000円

また、一審原告X1は、入院中に一時帰宅した際、介護タクシーを利用しており、通院交通費二万九〇二〇円を負担した。

(オ) 症状固定日以降の将来介護費 一億六五四九万四二二四円

a 一審原告X1に必要とされる介護内容等

前述のとおり、一審原告X1の後遺障害は、立上がり、移動、車いすへの乗降、自動車への乗降、装具の装着、洗顔、着替え、食事、入浴及び排泄の介助という身体介護のほか、高次脳機能障害に基づく知能及び情動面の障害及びてんかん発作の可能性があることから、屋内外における転倒・転落・衝突事故等の危険への接近防止のための常時監視、起床その他の一日の行動を促す行為を不可欠とする程度のものである。一審原告X1は現在身長一七二センチメートル、体重七五キログラムであり、今後の発育の可能性を考慮すれば、入浴介助には少なくとも職業介護人一名による介助を要する。

また、平日(月曜日から金曜日。ただし、祝日を除く年間二四〇日。以下同じ。)の日中における一審原告X1の介護には職業介護人を要する。すなわち、一審原告X1は、一審原告X2、同X3及び弟Fの四名で生活している。父一審原告X2は、従業員を雇わず、飲食店「○○」を経営しており、定休日は一か月に一回、勤務時間は午前八時三〇分から午後九時ころまでであり、一審原告X1の介護に当たることはできない。母一審原告X3は、本件事故以前、毎日午前九時から午後一時ころまで「○○」で一審原告X2の仕事を手伝い、月曜日から金曜日までの午後一時三〇分から午後四時ころまでパートとして勤務した後、四日勤務して一日休むという割合で午後一一時から一二時までアルバイトとして勤務していた。一審原告X3は、本件事故後は上記の手伝い・仕事等を辞めて一審原告X1の介護に当たっていたが、自己実現のため、少なくとも月曜日から金曜日の日中は働きに出ることを希望しており、その間は一審原告X1の介護に当たることはできない。

そこで、下記bないしeのとおり、一審原告X1の生活に応じて四つの時期に分類した上、一審原告X1の平日の日中の介護については職業介護人を要するという前提で、症状固定日以降の将来介護費を算出すべきである。

b 第一期(症状固定時から平成一七年三月まで)

一審原告X1は症状固定時の平成一五年五月二七日の時点で中学二年生であり、同年三月三一日に退院した後、同年四月から徐々に復学し平成一七年三月に卒業した。復学後の二年間は、一審原告X3が毎日通学、授業に付き添った。

上記の二年間、仮に平日午前九時から午後五時まで職業介護人が付き添った場合、介護費用は日額二万四九三七円である。また、一審原告X1が起床する午前六時一五分ころから午前九時ころまで及び午後五時から一審原告X1が就寝する午後一〇時ころまで(合計七時間四五分)の近親者介護費用は五〇〇〇円を下らない。したがって、第一期における介護費用日額は二万九九三七円である。また、休日(土曜日、日曜日及び祝日の年間一二五日。以下同じ。)の近親者介護費用は控えめに見積もっても日額一万円を下らない。したがって、第一期の介護費用年額は、以下のとおり、八四三万四八八〇円であり、二年間(ライプニッツ係数一・八五九四)の介護費用は合計一五六八万三八一五円である。

第一期年額 29,937円×240日+10,000円×125日=8,434,880円

第一期総額 8,434,880円×1.8594≒15,683,815円

c 第二期(平成一七年四月から平成二〇年三月まで)

一審原告X1は平成一七年四月から、兵庫県立a学校高等部(以下「a学校」という。)に入学しており、その三年後に卒業する見込みである。

(a) 通学日の介護費用年額

一審原告X1の自宅からa学校までは直線距離で約一七キロメートル、走行距離で約二〇キロメートルであり、送迎の必要がある。仮に一審原告X3が平日午前九時から午後五時まで仕事をする場合、一審原告X3が送迎を行うことは体力的に困難であり、一審原告X1の送迎のために介護タクシーを利用する必要がある。介護タクシーは、乗車・降車の際の介助料が一〇〇〇円、タクシー料金は、最初の一〇キロメートル二七五六円、その後一キロメートル当たり二七〇円であるから、一審原告X1の自宅からa学校までの介護タクシー料金は、以下の計算式のとおり一日当たり一万二九一二円である。

{2,756円+1,000円+(270円×10km)}×2(往復)=12,912円

また、一審原告X1が起床する午前六時一五分ころから通学までの午前七時四五分ころまで及び帰宅後の午後七時から一審原告X1が就寝する午後一〇時ころまで(合計四時間三〇分)の近親者介護費用は三〇〇〇円を下らない。したがって、養護学校に通う日の介護費用日額は上記介護タクシー料金と合わせて日額一万五九一二円である。一審原告X1は、一年当たり下記(b)の休暇日を除く一九〇日間a学校に通学する。したがって、一審原告X1の通学日の介護費用年額は、以下のとおり、三〇二万三二八〇円である。

15,912円×190日=3,023,280円

(b) 休暇日の介護費用年額

一年のうち、休日(一二五日)については一審原告X3による介護を要し、a学校の春・夏・秋の長期休暇の合計五〇日については、職業介護人による介護を要し、それぞれの介護費用日額は上記bのとおりであることから、一審原告X1の休暇日の介護費用年額は、以下のとおり、二七四万六八五〇円である。

10,000円×125日+29,937円×50日=2,746,850円

(c) 第二期の介護費用総額

以上により、第二期における一審原告X1の介護費用年額は、上記(a)及び(b)の合計五七七万〇一三〇円であり、第二期の介護費用総額は、以下のとおり、上記年額に症状固定時から五年間のライプニッツ係数から症状固定時から二年間のライプニッツ係数を控除した係数を乗じた一四二五万二二二一円である。

(3,023,280円+2,746,850円)×(4.3294-1.8594)≒14,252,221円

d 第三期(平成二〇年四月から一審原告X3が六七歳に達するまで)

a学校卒業後から一審原告X3が介護を行い得る六七歳に達するまでの間は、終日、一審原告X1を自宅で介護することとなり、平日は職業介護人による介護を要し、休日は一審原告X3が介護を担当し、それぞれの介護費用日額は上記bのとおりであることから、一審原告X1の第三期の介護費用年額は、以下のとおり、八四三万四八八〇円である。したがって、第三期の介護費用総額は、以下のとおり、上記年額に、症状固定時から一審原告X3が六七歳に達するまでの二九年間のライプニッツ係数一五・一四一〇から、症状固定時から五年間のライプニッツ係数四・三二九四を控除した係数を乗じた九一一九万四五四八円である。

第三期年額 29,937円×240日+10,000円×125日=8,434,880円

第三期総額 8,434,880円×(15.1410-4.3294)≒91,194,548円

e 第四期(一審原告X3が六七歳に達してから一審原告X1が平均余命に達するまで)

一審原告X3が六七歳に達した以降は、体力的に一審原告X3が介護に当たることは困難になると予想され、一審原告X1の介護を全面的に職業介護人にゆだねる必要があり、職業介護人の介護費用日額は上記bのとおりであることから、一審原告X1の第四期の介護費用年額は、以下のとおり、一〇九二万七〇〇五円である、したがって、第四期の介護費用総額は、以下のとおり、上記年額に、症状固定時から一審原告X1が平均余命に達するまでの六六年間のライプニッツ係数一九・二〇一〇から、症状固定時から一審原告X3が六七歳に達するまでの二九年間のライプニッツ係数一五・一四一〇を控除した係数を乗じた四四三六万三六四〇円である。

第四期年額 29,937円×365日=10,927,005円

第四期総額 10,927,005円×(19.2010-15.1410)≒44,363,640円

f 将来介護費用の総額

以上によれば、一審原告X1の将来介護費用の総額は、上記第一期ないし第四期の総額の合計一億六五四九万四二二四円である。

(カ) 住宅改造費 八八〇万六七〇〇円

一審原告X1らは、本件事故当時賃貸マンションに居住していたが、一審原告X1の介護を継続するためには車いすの使用できる介護仕様住宅が不可欠であることから、平成一七年九月一九日に一七八六万円で宅地を購入するとともに、一審原告X1と株式会社竹中HOUSEとの間で建物新築工事請負契約を締結した。上記請負契約に係る新築住宅の最終的な工事代金は二二〇一万六七五〇円となる見込みである。なお、このうち四七一万六七五〇円が障害者対応住宅とするために要した費用である。

本件事故がなければ、そもそも住宅を新築する必要がなかったのであるから、上記障害者対応建築に要する費用のみならず、新築工事費用の四割を本件事故と相当因果関係のある損害とみるべきである。したがって、二二〇一万六七五〇円の四割に相当する八八〇万六七〇〇円が本件事故と相当因果関係がある住宅改造費である。

(キ) 将来の住宅改造費 四〇三万九六三三円

上記新築住宅は木造住宅であることから、その耐用年数は二二年である。一審原告X1は症状固定時で満一三歳であり、その平均余命は六六年であることから、存命中に二二年後(ライプニッツ係数〇・三四一八)及び四四年後(ライプニッツ係数〇・一一六九)の二回にわたり住宅改造が必要となる。したがって、以下の計算式のとおり、将来の住宅改造費は四〇三万九六三三円である。

8,806,700円×(0.3418+0.1169=0.4587)≒4,039,633円

なお、電気設備の耐用年数は一五年、冷暖房設備の耐用年数は一三年、介護用浴槽の耐用年数は八年であるから、実際には二二年を待たずして改造を要することになるものと考えられ、上記の損害額は極めて控えめな主張である。

(ク) 装具等費用

a 症状固定日前について 三二万六八四六円

一審原告X1は、症状固定日(平成一五年五月二七日)までに装具介護器具費用として三二万六八四六円を支出した。

b 症状固定日以降について 一六九万三〇四六円

一審原告X1は、生涯にわたって別紙装具等一覧記載の装具・介護器具(以下「装具等」という。)を必要とし、一年当たりに換算した平均余命までに必要とされる装具等の費用は合計八万三二九三円である。なお、介護仕様の自宅建築後は自宅において室内用の車いすを用いる必要がある。

ただし、一審原告X1は、本件事故による後遺障害のために、平成一五年八月七日に長下肢装具を一六万一九一六円で購入したが、今後は上記のとおり短下肢装具を必要としており、症状固定日から最初の三年間の下肢装具費用としては上記長下肢装具費用を要し、その後は上記短下肢装具費用を要するというべきである。また、一審原告X1は、症状固定日以降に初めて購入したシャワーチェアーについて一万五七〇〇円の公的補助を受けた。

したがって、一審原告X1が症状固定日以降平均余命までに必要とする装具等の費用は、以下の計算式のとおり、一六九万三〇四六円である。

(83,293円×19.2010)+161,916円-52,478円-15,700円≒1,693,046円

(ケ) 成年後見申立費用 二一万三一八〇円

一審原告X1の知能の低下は著しく、同人が成人した際には成年後見の申立てを行う必要があるところ、当該申立てには、通常鑑定費用一〇万円、弁護士費用二〇万円を要すると考えられる。一審原告X1は、症状固定日において満一三歳であり、同人が二〇歳に達し成年後見申立てをするのは七年後(ライプニッツ係数(非累積)〇・七一〇六)である。したがって、本件事故による損害としての成年後見申立費用額は、以下の計算式のとおり、二一万三一八〇円である。

(100,000円+200,000円)×0.7106≒213,180円

(コ) 逸失利益 七九〇七万三六一九円

一審原告X1の症状固定日以降の基礎収入については、平成一四年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計・男子労働者平均賃金である年収五五五万四六〇〇円とみるべきである。また、一審原告X1は、本件事故により満一八歳から六七歳までの全就労可能期間において労働能力一〇〇パーセントを喪失した。したがって、その逸失利益は、以下の計算式のとおり、七九〇七万三六一九円である。

5,554,600円×(18.5651-4.3294)≒79,073,619円

(サ) 入通院慰謝料 四〇〇万円

入院期間が九か月と長期に及ぶこと、症状固定日までの通院期間は二か月であるものの、その後もリハビリやてんかん発作のために頻繁に通院及び入退院を続けていたこと、入院後一〇日ほど経過した段階においても主治医から七割の確率で死亡すると宣告されて集中治療室で一か月弱治療を受けなければならないほど重篤な容態が続いたことなどを考慮すると、入通院慰謝料額は四〇〇万円と認めるのが相当である。

(シ) 後遺障害慰謝料 三〇〇〇万円

一審原告X1の後遺障害が、前記のとおり、重い身体障害のみならず、重篤な知能・情緒障害をも含む極めて深刻なもので、一審原告X1がわずか一二歳にして将来の可能性を奪われたものであり、他方、一審被告Y1が本件事故当日に病院に来て以来、見舞いにすら来ないなど、その対応が誠意を欠くものであったことを考慮すれば、後遺障害慰謝料額は三〇〇〇万円と認めるのが相当である。

(ス) 既払金の充当について

自賠責保険金三〇〇〇万円については、まず、上記(ア)ないし(シ)の損害金合計額から一審原告会社により支払われた任意保険金を控除した残額二億九三八四万一六〇二円に対する平成一四年七月七日(本件事故の日)から平成一六年二月二三日(上記保険金の支払日)まで年五分の割合による遅延損害金二四〇二万四六六七円に充当されるべきであり、充当後の上記保険金残額五九七万五三三三円を上記損害の元金に充当した後の未払損害金額(弁護士費用を除く。)は二億八七八六万六二六九円である。

(セ) 弁護士費用 二八七八万六六二六円

一審被告らが負担すべき弁護士費用額は二八七八万六六二六円と認めるのが相当である。

(ソ) まとめ

よって、一審原告X1は、一審被告Y1に対し、本件事故による上記損害金の一部である一億五八三二万六四四七円及びうち弁護士費用の一部である一四三九万三三一三円に対する平成一四年七月七日(本件事故の日)から、うち一億四三九三万三一三四円に対する平成一六年二月二四日(自賠責保険金支払日の翌日)からそれぞれの支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、一審被告会社に対し、一審原告X1の一審被告Y1に対する上記支払の判決の確定を条件として、上記と同額の支払を求める。

イ 一審原告X2及び一審原告X3(以下「一審原告X2ら」という。)の損害

(ア) 慰謝料 各一〇〇〇万円

は、中学一年生の長男に終生介護が必要な重篤な後遺障害を負わされて、その介護を続けなければならない上、知能・精神面の障害により別人のようになってしまった息子と日々向き合わなければならず、その親としての心痛は計り知れないこと、一審原告X2らは、本件事故以来、一審原告X1の介護による過労のため身体に変調を来していることなどを考慮すれば、一審原告X2らに対する慰謝料額は少なくとも各一〇〇〇万円を下らない。

(イ) 弁護士費用 各一〇〇万円

一審被告らが負担すべき弁護士費用額は、各一〇〇万円と認めるのが相当である。

(ウ) まとめ

よって、一審原告X2ら各自は、一審被告Y1に対し、本件事故による上記損害金の一部である五五〇万円及びこれに対する平成一四年七月七日(本件事故の日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めるとともに、一審被告会社に対し、一審原告X2らの一審被告Y1に対する上記支払を命ずる判決の確定を条件として、上記同額の支払を求める。

(一審原告会社の一審原告X1らに係る損害の主張)

一審原告会社は当審において一審原告X1らの損害主張を援用している。

(一審被告らの主張)

ア 一審原告X1の損害について

(ア) 治療費

認める。

(イ) 入院雑費

日額一一〇〇円が相当である。

(ウ) 症状固定日までの付添看護費

a 入院中の付添看護費

一審原告X1の入院した病院は、完全看護体制を敷いており、付添看護費は必要ではない。仮に認めるとしても日額三〇〇〇円が限度である。

b 退院後の介護費

一日三〇〇〇ないし四〇〇〇円程度が相当である。

(エ) 通院交通費

一審原告X1の通院交通費については認める。介護人の通院交通費は前記介護費と合わせて考慮すべきである。

(オ) 将来介護費

上記のとおり一審原告X1の後遺障害の程度は、常時介護を要するものではなく(上記第二の四(2)(一審被告らの主張))、常時介護を要するとの前提で算出された一審原告X1ら主張の介護費は不当に高額なものである。

一審原告X1の介護については、生涯にわたり近親者による介護で十分であり、平均余命を通じて日額三〇〇〇円ないし四〇〇〇円程度で算定することが相当である。

また、一審原告X1は、現在までに介護タクシーを利用し又は職業介護人による介護を受けたことはない。したがって、一審原告X1が養護学校に通学する三年間においてこれらを利用することを前提に介護費用を計算することは不当である。

さらに、卒業後の介護費用については、近親者による介護の可能性を考慮すべきであり、一律に職業介護人の介護を前提に介護費用を算出することは不当である。

(カ) 住宅改造費

一審原告X1が生活するに当たり車いすを必要とし、これに応じた改造を行う必要があることについては認めるが、一審原告X2らは元来宅地及び建物を所有していなかったのであるから、従来の住居である賃貸マンションより広い新築家屋金部を基礎として、その四割を相当因果関係のある損害とみる根拠はなく、車いす用のトイレ・風呂・手すり・廊下等のうち、一審原告X1の後遺障害のために必要な改造費に限って本件事故との相当因果関係のある損害とみるべきである。

(キ) 将来の住宅改造費

一審原告X1の後遺障害のために必要とされる改造部分につき将来どの程度の住宅改修費を要するかについては予測不可能であり、本件事故による損害として認めるべき蓋然性はない。

(ク) 装具等費用

車いす、短下肢装具、多点杖、シャワーチェアの必要性については認めるが、その他の費用は一審原告X1の後遺障害に特有の費用ではないので損害として認めるべきではない。

(ケ) 成年後見申立費用

一審原告X1が成人した場合の成年後見申立ての必要性については明らかではなく、申立てに要する費用額も明らかではないので、本件事故による損害として認めるべき蓋然性はない。

(コ) 逸失利益

争う。

(サ) 入通院慰謝料

争う。

(シ) 後遺障害慰謝料

二三七〇万円を超える後遺障害慰謝料の発生根拠となるべき事実を否認し、慰謝料額について争う。

(ス) 弁護士費用

前記のとおり、本件事故は一審原告X1の信号無視という一方的過失により発生したものであり、弁護士費用は全額一審原告X1らにおいて負担すべきである。

イ 一審原告X2らの損害について

本件事故原因を考慮すれば、一審原告X2らの固有の慰謝料及び弁護士費用を損害として認めるべきではない。

第三当裁判所の判断

一  争点(1)(過失割合)について

(1)  前記前提事実、証拠(甲一、乙一、三、一審被告Y1本人)及び弁論の全趣旨によれば、一審原告X1と一審被告Y1の過失割合について、以下の事実が認められる。

ア 一審原告X1は、本件事故当時満一二歳(平成○年○月○日生)の中学一年生であった(甲一)。一審被告Y1(昭和○年○月○日生)は、本件事故当時、兵庫県姫路市飾磨区城南町所在の自宅から同市飾磨区妻鹿所在の職場への通勤のため、ほぼ毎日被告車両を運転して、本件国道を東進し本件交差点を通過していた。

イ 本件事故の現場付近の状況は、別紙交通事故現場見取図(以下「本件現場見取図」という。)記載のとおりである。本件交差点付近の本件国道は、幅員三・一ないし三・二メートルの車道四車線(片側二車線)、幅員二・七ないし二・八メートルの中央分離帯、南北両側端の幅員〇・六メートルの路側帯及び南北両側端の幅員四・五ないし五・三メートルの歩道から成る。本件交差点内で本件国道と交差して南北に走る道路(以下「南北路」という。)は、本件交差点北側付近の車線の幅員が合計九メートル、同南側付近の車線の幅員が五・五メートルである。本件交差点は、感知式の信号機による交通整理がされている交差点で、本件交差点の東詰めと西詰めには自転車横断帯及び横断歩道が設けられ、その対面に歩行者及び自転車運転者のための信号機が設置されており、本件事故当時各信号機は汚損等がなく視認性があり、正常に作動していた。

また、本件国道は、市街地にあり、アスファルト舗装された平坦な道路で、速度規制は時速五〇キロメートルであり、本件事故日である平成一四年七月七日午前八時八分から八時四五分まで行われた実況見分時において交通量は五分間に車両三〇台及び歩行者一〇名程度で南北路より交通量が多く、路面は乾燥していた。本件事故当時の天候は晴であった。

ウ 一審被告Y1は、平成一四年七月七日、職場に向かうため被告車両を運転し、午前七時五〇分ころ、本件交差点に差しかかったが、本件現場見取図記載①の地点で同図記載file_2.jpg地点の対面信号が青信号であることを確認しながら本件国道を東進し、その後も上記対面信号が青であることを確認しつつ、更に同図記載①’から同図記載②の地点まで時速約七〇キロメートルで進行を続けたところ、同図記載②の地点で、原告車が同図記載file_3.jpgの地点に進入したのを発見し、ハンドルを右に切ってブレーキをかけたが間に合わず、同図記載③の地点で被告車両の前部を原告車に衝突させ、同図記載④の地点で停止した。本件事故後、本件交差点内の本件国道上に本件現場見取図記載朱線部記載のとおり被告車両のスリップ痕が残り、その長さは右二三・八メートル、左二一・三メートルであった。

一審原告X1は、原告車を運転し、その進路の対面信号が赤信号である間に、本件交差点の東詰め横断歩道に進入し、本件現場見取図記載file_4.jpgの地点で被告車両と衝突した。

(2)  上記認定事実によれば、一審原告X1は対面信号による交通整理に従って、本件交差点内に進入してはならない義務があるのにこれを怠り、漫然と上記のとおり進行した過失があり、本件事故の主たる発生原因は一審原告X1の上記過失にあるといわざるを得ない。他方、一審被告Y1は、本件交差点を通過するに際しては、制限速度を遵守し、前方の車両等の動向を注視して安全に進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、上記のとおり漫然と時速約七〇キロメートルで進行した過失がある。

これに、一審原告X1が本件事故当時満一二歳の児童(道路交通法一四条三項)であったこと、一審原告X1が自転車横断帯付近の横断歩道を進行していたことなどの事情を総合して考慮すれば、一審原告X1と一審被告Y1の過失割合は、一審原告X1を五割、一審被告Y1を五割とするのが相当である。

一審原告X1らは、原告車と被告車両の衝突時に被告車両の対面信号が青信号であったか、黄信号であったかは明らかではないと主張している。しかしながら、一審被告Y1の供述、実況見分時におけるA(目撃者(被告車両後続車両(隣り車線)の運転者))の指示説明等を総合すれば、上記認定のとおり、本件現場見取図記載②の地点においても、一審被告Y1の進行方向の対面信号は青信号であったと認められ、一審原告X1らの上記主張は採用し得ない。

二  争点(2)(一審原告X1の後遺障害、必要な介護の程度)について

(1)  前記前提事実、証拠(甲三ないし五、八、甲A一ないし一三、A一五〔以下、枝番を省略して表記する。〕、A一六、甲B一〇、B一三ないし一六、丙三ないし八、一審原告X3)及び弁論の全趣旨によれば、一審原告X1の後遺障害の程度に関し、以下の事実が認められる。

ア 一審原告X1の治療経過等

(ア) 一審原告X1は、平成一四年七月七日、本件事故により、脳挫傷、頭部打撲、右第五中手骨頚部骨折、左上肢・左下腿挫滅創、全身打撲、びまん性軸索損傷等の傷害を負い、救急車で姫路中央病院に搬送された時点において、昏睡状態(意識レベルはJCS―三〇〇。)で、呼吸障害があり、気管内挿管を施行され、人工呼吸器を装着された。

搬送後一週間は刺激しても開眼しない重度の意識障害が継続し、搬送後一か月を経過した時点でも刺激すると開眼する程度という意識障害が継続していた。

(イ) 一審原告X1は、同年九月六日に離握手に応じることも可能となり、同年一〇月初旬から意識レベルは徐々に上昇し、同月三一日から平成一五年三月三一日までリハビリテーション中央病院神経内科に入院してリハビリ、加療を継続した。その後、同年四月一日から同年五月二七日まで、同院に通院してリハビリを継続し、同日、症状固定と診断された。また、この間、けいれん発作を発症し、同月一七日から同月二〇日まで姫路中央病院に入院した。

(ウ) 上記入院期間、症状固定日までの通院期間を通じて、一審原告X3は毎日一審原告X1に付き添い、これを看護した。

(エ) 一審原告X1は同年五月三一日ころまでには中学校に復校したが、授業にはついていけず、けいれんの発作を起こす可能性もあったため、一審原告X3が授業中も付き添うなどし、平成一七年三月に同校を卒業した。

(オ) 一審原告X1は、同年四月にa学校に入学し、自宅から通学しており、午前八時二〇分ないし五〇分ころ一審原告X3の運転する乗用車で登校し、午後六時すぎに同様に帰宅している。なお、平成一八年四月から週二回程度、同校の寮に寝泊まりするようになった。

イ 後遺障害診断書その他診断書等の内容

(ア) リハビリテーション中央病院神経内科医師C作成の平成一五年五月二七日付け自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書(甲四)

a 傷病名

脳挫傷後遺症、症候性てんかん発作

b 自覚症状

左上下肢不全麻痺、排尿・排便障害、計算障害、記銘力障害

c 精神・神経の障害、他覚症状及び検査結果

(a) 身体障害

左上下肢不全麻痺(中等度、上肢は実用性困難)、左肘関節・左足関節可動域制限(長下肢装具固定にて介助歩行短距離なら可)、膀胱直腸障害

(b) 高次脳機能障害

・ 自発性低下、注意障害、記銘力障害、左側不注意(視空間認知障害)、構成障害、計算障害(二桁の加減が何とか可)

・ 頭部MRIによれば、右前頭葉、右視床に脳挫傷が認められる。

・ 右大脳半球に徐波(三ないし四Hz)

・ ミニメンタルテスト 一四/三〇点

(c) 症候性てんかんに対して抗てんかん薬投与

(イ) リハビリテーション中央病院神経内科医師C作成の平成一五年六月一七日付け「脳外傷による精神症状等についての具体的な所見」(甲A二)

a 精神障害、性格障害の内容について、症状固定時にみられた変化について

(a) 障害が高度とみられるもの

集中力が低下していて気が散りやすい、計画的な行動を遂行する能力の障害

(b) 障害が中等度とみられるもの

物忘れ症状、新しいことの学習障害、飽きっぽい、行動が緩慢、手の動きが不器用、複数の作業を並行処理する能力の障害、自発性や発動性の低下があり指示や声かけが必要

(c) 障害が軽度とみられるもの

短気、易刺激性、易怒性、粘着性、しつこい、こだわり、感情の起伏や変動が激しく気分が変わりやすい、感情が爆発的でちょっとしたことで「切れやすい」、発想が幼児的で自己中心的、話がまわりくどく話の内容が変わりやすい、行動を自発的に抑制する能力の障害、服装・おしゃれに無関心あるいは不適切な選択

(d) 障害なし

性的な異常行動・性的羞恥心の欠如、多弁・おしゃべり、暴言・暴力行為、睡眠障害・寝付きが悪い・すぐに目が覚める、社会適応性の障害により友達付合いが困難、人混みの中へ出かけることを嫌う、妄想・幻覚

b 上記a以外の脳外傷による精神症状等

注意障害、自発性低下、記銘力障害、左側視空間認知障害、構成障害、計算障害

(ウ) 平成一五年八月二五日付け本件後遺障害認定(甲五)

頭部外傷後の精神・神経障害の程度については、画像上、両側前頭葉、右視床、両海馬周辺部に脳挫傷痕、脳室拡大などの脳内病変の残存が認められること、脳波に全般的な徐波がみられること、脳外傷による精神症状等についての具体的な所見として、長谷川式簡易知能評価スケール一二点との結果、平成一五年三月三一日付けの具体的所見(上記(イ))、日常生活状況報告表に記載された生活状況等(下記ウ)、後遺障害診断書の記載内容等を総合的に勘案し、「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」として障害等級二級一号に該当する。

(エ) リハビリテーション中央病院神経内科医師B作成の平成一八年九月六日付け診断書及び同年一〇月一六日付け回答書(甲A八、A一五)

WAIS―Rの結果によれば言語性知能・動作性知能ともかなり低いレベルにあり重度の知能障害といえる。遂行機能障害症候群の行動評価法(BADS)の結果はかなり低い得点で重度の遂行機能障害といえる。その他、MMSE、リバーミード行動記憶テスト等の結果(下記ウ)も総合すれば、重度の記憶障害、遂行機能障害、知的機能の低下を認め、注意障害、線分消去法や臨床的観察による明らかな左側空間無視も認められており、日常生活の遂行に監視・助言の必要な程度の障害がある。

一審原告X3の観察結果として、①一つ一つの行動について声掛けをして促さないと自ら何一つ行動しようとしないこと、②待つことができず、依頼した事項を一審原告X3が直ちに行わないと怒り出す、③何事に対しても集中力、持続力が乏しく、勉強を始めても一〇分程度が限度である、との状況がみられることについて、上記①は精神発動性の低下、同②は抑制障害や人格低下、同③は注意障害に起因するものといえ、いずれも一審原告X1の障害からすると理解し得る。特に同③については一〇分ももつかどうか疑問である。

a学校教諭による観察結果として、①場所が分からなくなり校内でも迷子になる、②記憶力に障害が大きく五分前のことでも忘れていることがある、③次にすることを一つずつ指示しなければならず、段取りや手順を踏むべき事柄は一段ごと一手ごとに指示しなければならない、④交通に適切に注意を払うことができない、との状況がみられることについて、上記①は地誌的障害、同②は展望的記憶の障害、同③は遂行機能障害に当たり、同④は注意障害や問題解決能力の低下に起因するものであり、いずれも一審原告X1の障害からすると首肯し得るものである。

一審原告X1の学力レベル、精神レベルは、小学校低学年くらいである。

一般に脳外傷の患者については、受傷から半年ないし一年半くらいまでが回復の黄金期とされ、それ以降は目立った回復は期待できないといわれている。一審原告X1の場合、受傷から既に四年以上経過しており、学力レベルや精神レベルの目立った上昇は期待できない。

一審原告X1の重度の記憶障害を含む重度の知能障害や重度の遂行機能障害、注意障害、病識の欠落等からすれば、常時の監視と必要に応じた助言や促しが欠かせないと考えられる。

ウ 各種検査結果等(甲A二、A八、A一五)

なお、下記(イ)ないし(エ)の各検査等は平成一八年八月三日、同月一四日、同月一五日、同月一八日、同月二一日及び同月二八日の計六日間で実施されたものである。

(ア) HDS―R(長谷川式簡易知能評価スケール)

(二〇点以下は痴呆の疑いがあると評価される、甲B一〇・八〇頁)

平成一五年三月三一日 一二点

(イ) WAIS―R(ウェクスラー成人知能検査法改訂版)

(知能指数(IQ)と知能段階の関係は、九〇~一〇九は普通、八〇~八九は普通の下、七〇~七九は境界線、六九以下は精神薄弱とされる。甲B一四・三六、三七頁)

言語性IQ 六三(素点二五点)

動作性IQ スケールアウト(点数が低すぎて偏差値での評価が不能。素点一一点)

全IQ 四五(素点三六点)

(ウ) MMSE(ミニメンタルステート。甲B一三・八四頁)

(最高得点は三〇点、二三点以下は認知機能障害を有する可能性がある。甲B一〇・八一頁)

二一/三〇

(エ) リバーミード行動記憶テスト

(日常記憶や展望記憶の評価法であり、病棟内の自室やトイレ、訓練室への道順を間違えることがなくなるのは七点以上、九点以下では多くの日常生活上の行動に指示や監視を要する状態とされる。甲B一五)

標準プロフィール 七/二四

(オ) 遂行機能障害症候群の行動評価法(BADS)

(BADSは、前頭葉症状の中核である遂行機能障害に関する検査法である。甲B一六)

四/二四

(カ) 機能的自立度評価(FIM、丙七・一二二頁)

a 平成一四年一〇月三一日(合計二六点)

(a) 全介助・できない

整容(口腔ケア・整髪・洗顔・手洗等。以下同じ。)、清拭、更衣、トイレ動作・便尿器の使用、排泄コントロール、移乗、移動、社会的交流、問題解決

(b) 介助者の方がやっている・できない方が多い

記憶

(c) 患者の方がやっている・できる方が多い

コミュニケーション

(d) ほとんどやっている・少しできない

食事(配下膳含まない。以下同じ。)

b 平成一四年一一月二五日(合計三一点)

(a) 全介助・できない

清拭、更衣、トイレ動作・便尿器の使用、排泄コントロール、トイレ・浴槽への移乗、移動、問題解決

(b) 介助者の方がやっている・できない方が多い

ベッド・車いすへの移乗・起立動作、記憶、社会的交流

(c) 患者の方がやっている・できる方が多い

コミュニケーション

(d) ほとんどやっている・少しできない

食事、整容

c 平成一五年三月三〇日(合計五七点)

(a) 全介助・できない

階段の移動

(b) 介助者の方がやっている・できない方が多い

清拭(家庭浴)、更衣、社会的認知(社会的交流、問題解決及び記憶)

(c) 患者の方がやっている・できる方が多い

排便コントロール、浴槽への移乗

(d) ほとんどやっている・少しできない

整容、トイレ動作・便尿器の使用、排尿コントロール、トイレへの移乗、車いすによる移動、コミュニケーション

(e) 監視又は準備

食事、ベッド・車いすへの移乗・起立動作

エ 日常生活状況について

(ア) 平成一五年五月三一日付け一審原告X3作成の日常生活状況報告表の内容は、以下のとおりである(甲A三)。

a 今日は何月何日かわからない、同じことを何度もよく聞き返す、数分前の出来事をよく忘れる、前もって計画した行動ができない、同じミスや間違いを繰り返す、同時に複数のことを並行してできない、すぐに泣いたり怒ったり笑ったりする、わずかなことで興奮する、いらいらしやすい、興奮すると乱暴する、場所をわきまえずに怒って大声を出す、飽きっぽくて一つのことが続かない、一度気になるとこだわる、衣服を自分で着ることができない、トイレに行けない、何をやるにも指示が必要、指示通りに動かない、外出には付添がいつも必要である。

b 昨日の出来事は多少覚えている、知合いの人の名前を忘れることもある、話が多少まわりくどい、人の話を聞いてもすぐにはやや理解できない、新しいことを覚えて身につけることが多少できる、わけもなくはしゃぐこともある、気分が沈みがちになることもある、大きな音などをうるさがることもある、家族や周囲の人とのトラブルがときにはある、指示があれば家事を手伝うことができる、小便をもらすことがある、洗顔・歯磨きは指示があればできる。

c 事故以前のことを覚えている、同居の家族の顔と名前が分かる、一桁の足し算ができる、簡単な買い物で釣り銭の計算ができる、家族及び他人と話が通じる、電話を使って話ができる、本人の言葉が聞き取りにくいということはない、お金を持たせるとすぐに使ってしまうということはない、自己中心的ではない、昼夜逆転はしていない、家に閉じこもらない、親しい友達がいる、食事は自分で食べることができる、大便はもらさない。

(イ) 平成一八年八月二四日付けa学校教諭D作成の陳述書(甲A一二)によれば、一審原告X1の上記学内における生活状況等は以下のとおりである。

入学当初は病的な眠気などから集中力に欠け、小学三、四年生程度の計算を四五分間で五、六問するのがやっとであった。最近は、プリント二、三枚程度はできるようになり、学力レベルは小学校三、四年生のレベルであると考えられる。ただし、日常会話において意味を取り違えることがあり、日常生活に関わる知的レベルは更にもう少し低いと感じることもある。

時間の感覚がなく教室移動が必要でも気がつかず、すぐに場所が分からなくなり学校内で迷子になることがあり、記憶力に障害が大きく五分前のことでも忘れていることがあり、次にすることを一つずつ指示しなければできず、段取りや手順を踏まなければならない事柄については一段ごと一手ごとに指示をしなければならず、先を予測する行動ができないなどの事情により多くの場面で介助を要する。また、けいれん発作の可能性があるため、一人にしておくことはできず、交通に適切に注意を払うことができないため、学外で一人で歩くことはできない。

性格は、人に好かれる優しい性格である。

オ 身体障害について

(ア) 平成一五年六月一七日付けリハビリテーション中央病院神経内科医師Cの報告書(甲A二)によれば、一審原告X1の身体所見は、左上下肢不全麻痺(中等度、上肢は実用性困難)、左肘・肩・足関節可動域制限、長下肢装具を装着の上介助にて短距離歩行・階段昇降が可能な状態であったとされている。

(イ) 平成一八年七月五日付け姫路中央病院脳神経外科医師Eの回答(甲A六)によれば、一審原告X1の左上肢は、随意運動の顕著な障害により、五〇〇グラム程度の物を持ち上げること及び文字を書くことができず、三大関節及び五つの手指のいずれの関節も自働運動によっては可動させることができないか、これに近い状態にあり、また、左下肢は随意運動の顕著な障害により、下肢の支持性及び随意的な運動性のほとんどを失っている状態であるとされている。

(ウ) 平成一八年七月五日付け姫路中央病院脳神経外科医師E作成の日常生活動作表(甲A五)

a 可能なもの

寝返り、車いすによる移動、つたい歩き、立体保持、いすから立ち上がる、ベッドから降りる、装具をつけ手すりにつかまった状態での階段の昇降、装具をつけて敷居をまたぐ、さじ・フォーク・はしで食べる、茶碗を持って食べる、コップで水を飲む、洋式便器の使用、字を書く、引き出しを出す・しめる

b 不十分ながらある程度可能なもの

伸臥位から長座位になる・その逆、装具を使用した歩行、独歩、装具を付けて台(一〇センチメートル)に上降、シャツ・ズボンの着脱、浴槽に入る・出る

c 不可能なもの

這う、床上から立ち上がる、物(二キログラム)を持って歩く、坂道の昇降、手すりにつかまらない階段の昇降、バスへの乗降、ボタンをかける・外す、ひもを結ぶ・解く、靴下及び靴の着脱、日本式便器の使用、手拭を絞る

カ てんかんについて

平成一八年八月八日付け姫路中央病院脳神経外科医師Eの回答(甲A七)によれば、一審原告X1は、現在、フェノバルビタール散一〇パーセント、エクセグラン及びマイスタンを一日二回内服しており、平成一七年五月にマイスタンを追加投与する前は一か月に五ないし二五回の発作を起こし、二ないし三か月に一回全身けいれんを起こしていたが、上記追加投与後は一か月に一、二回程度のことが多く、将来抗てんかん薬の投与を必要としなくなる可能性もあるが、投与を継続しなければならない可能性もあるとされる。また、全身発作を起こした場合、全く防衛反応が働かないため、転倒・転落・溺水などを生ずる可能性が十分にあり、周囲の者は安全な場所に移動させて呼吸しやすい状況とし救急車を呼ばなければならないとされている。

(2)  一審原告X1の後遺障害の程度、必要な介護の程度

ア 上記(1)の事実を総合すると、一審原告X1は、症状固定日以降、身体機能の障害により、床からの立上がり、バスへの乗降、靴下及び靴の着脱、食事の準備と後片づけ、左手を使用する必要のある食事については全介助を要し、手足のリハビリを実施する必要があるとともに、高次脳機能障害、特に重度の知能障害・記憶障害・遂行機能障害・左側空間無視の影響により、かつ、てんかん発作の発症に備えるために、常時の監視を要する。他方、通常の食事、整容、排泄等については介助を要せず、上記のとおり全介助を要する動作以外の時間については、監視又は指示・声掛けで足り、かつ、一審原告X1は、軽度の易怒性・粘着性等の性格変化及び左側空間無視の影響があることは否定できないものの、一審原告X3の指示があればこれに従った行動をとることができるものと認められる。以上からすると、一審原告X1は日常生活の遂行につき随時の介護を要する状態にあるものと認められる。

イ 一審原告X1らは、一審原告X1が常時介護を要する状態である旨主張しているが、通常の食事、整容、排泄等については介助を要すものではないし、一審原告X1に必要とされる上記介護の内容は、医療行為を伴わず専門性の高いものとはいえないものであって、障害等級一級の後遺障害を負った者が必要とする介護とはその程度及び質において明らかに異なったものといわざるを得ない。

ウ 一審被告らは、現在の症状が将来にわたって永続するとは認められないと主張している。しかし、上記(1)の事実を総合すると、一般的に脳外傷の患者については受傷後一年ないし一年半を経過すると目立った回復を期待できないとされていること、一審原告X1の知的障害及び精神障害について受傷後一定期間は回復がみられたがその後目立った回復がみられないことなどが認められ、これらの事情によれば、主として高次脳機能障害等に起因する一審原告X1の症状等は将来にわたり継続する蓋然性が高いと認められる。したがって、一審原告X1の後遺障害に係る症状が永続するとは認められないとする一審被告らの上記主張は採用できない。

三  争点(3)(損害額)について

(1)  一審原告X1の損害

ア 治療費 一九九万一〇二七円

一審原告X1は、本件事故による傷害の治療のため治療費一九九万一〇二七円を負担した(争いのない事実)。

イ 入院雑費 四〇万八〇〇〇円

一審原告X1は本件事故による傷害のため、別表のとおり合計二七二日間の入院加療を要したものと認められ(甲三、弁論の全趣旨)、一日当たりの入院雑費としては一五〇〇円が相当である。したがって、以下の計算式のとおり、入院雑費合計四〇万八〇〇〇円が本件事故による損害として認められる。

1,500円×272日=408,000円

ウ 症状固定日までの付添看護費

(ア) 入院中の付添看護費 一七六万八〇〇〇円

前記認定のとおり、一審原告X3は上記入院期間中に一審原告X1の付添看護を行っていたこと、一審原告X1の年齢、受傷程度、入院中の症状、治療経過等に照らして、一審原告X1が入院中も近親者による付添看護を要したことが認められ、一審原告X3の通院のための交通費(甲一一ないし一四)等をも考慮して(後記エ)、上記期間における一日当たりの付添看護費は六五〇〇円と認めるのが相当である。したがって、以下のとおり、入院付添費は一七六万八〇〇〇円と認められる。

6,500円×272日=1,768,000円

(イ) 退院後の介護費 五三万円

症状固定日以前における一審原告X1の身体機能、高次脳機能障害等の状態は症状固定日以降のそれに比して回復の程度が低いものと認められ、退院後の五三日間において一審原告X3が自宅において一審原告X1を介護したこと(前記第二の三(4)、第三の二(1)ア、弁論の全趣旨)からすると、一日当たりの付添費は一万円と認めるのが相当である。したがって、以下のとおり、退院後の介護費は五三万円と認められる。

10,000円×53日=53万円

エ 通院交通費 四万二二二〇円

一審原告X1は、本件事故による傷害の治療等のためリハビリテーション中央病院に一一日間乗用車で通院しており、その通院交通費は、一万三二〇〇円であり、また、一審原告X1は、入院中に一時帰宅した際、介護タクシーを利用しており、その際負担した通院交通費は二万九〇二〇円である(争いのない事実)。したがって、上記の合計四万二二二〇円が通院交通費として認められる。なお、一審原告X1の入院付添のため一審原告X3が負担した通院交通費については、前記のとおり入院付添費の算定において斟酌している(上記ウ)。

オ 将来の介護費 四九八六万〇八二五円

一審原告X1の症状固定時から一審原告X1を介護する際に必要とされる介護の内容、家族の従前の就業状況等を総合すると、一審原告X1の介護に要する費用は以下のとおりと認められる。

(ア) 症状固定時から一審原告X3(昭和○年○月○日生)が六七歳に達するまでの二九年間

前記の認定、説示に係る一審原告X1に要する介護の内容、程度にかんがみると、一審原告X3による介護費としては一日当たり五〇〇〇円が相当と認められる。同金額を基礎とし、ライプニッツ方式で年五分の中間利息を控除してその現価を算定するのが相当であり、これによると、次の計算式のとおり二七六三万二三二五円が求められる。

5,000円×365日×15.1410=2763万2325円

(イ) 一審原告X3が六七歳に達してから一審原告X1の平均余命まで

一審原告X3が六七歳に達してから一審原告X1が平均余命(平成一七年簡易生命表によると一三歳の男性の平均余命は六五・九二歳である。)に達するまでの三七年間については、一審原告X3による介護は体力的に困難であると推認されるので、職業介護人による介護を要するものとして介護費を認めるのが相当である。そして、前記の認定、説示に係る一審原告X1に要する介護の内容、程度、障害者対応住宅内における介護であることなどを考慮すれば、職業介護人による介護費としては一日当たり一万円が相当と認められる。上記三七年間における介護費用の現価を(ア)と同様に算定すると次の計算式のとおり二二二二万八五〇〇円が求められる。

1万5000円×365日×(19.2010-15.1410)=2222万8500円

(ウ) 一審原告X1らは、症状固定時から職業介護人による介護を要する前提で介護費を算定すべきである旨主張している。

しかしながら、症状固定時以降一貫して一審原告X3が主として介護を行っていること、本件事故前後における一審原告X2らの稼働状況、生活状況等(甲八、三〇、A一〇、弁論の全趣旨)に照らして、一審原告X3が平日の日中介護を離れて他の仕事に従事しなければならない生活上の事情が認められないこと、一審原告X1が通常の食事等に介護を要せず、常時の監視又は指示・声掛けを行うことで足り、かつ、一審原告X1は一審原告X3の指示があればこれに従って当該行動をとることができること、必要とされる介護は二四時間の体調管理・医療行為等を伴わない程度のものであるなどの後遺障害及び必要な介護の程度(前記第三の二)を総合すると、症状固定時から一審原告X3が六七歳に達するまでの期間について、職業介護人による介護を要するものとは認められない。

(エ) まとめ

以上によれば、一審原告X1の将来介護費用の総額は、上記(ア)(イ)の合計四九八六万〇八二五円と認められる。

カ 住宅改造費 六六〇万五〇二五円

証拠(甲二〇ないし二二、三四、三五、A一四)及び弁論の全趣旨によれば、一審原告X1が本件事故後に住居として木造の障害者対応住宅を注文して建築したこと、上記工事代金見積額が二二〇一万六七五〇円であること、障害者対応建築に要する費用が四七一万六七五〇円であること、最終的な工事代金が確定していないこと等の事情が認められる。

前記認定のとおり、一審原告X1は、本件事故により前記のとおりの障害を負い、車いすによる生活を余儀なくされており、介護のためには生活に適した上記住居を新築して転居する必要があったものと認められ、障害者対応住宅の新築費用の一部は本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。そして、上記認定事実のほか、住宅新築は居住する建物が広くなるなど一審原告X1のみならず一審原告X1と同居する家族の便益にも資すること等の事情をも考慮すれば、上記工事代金見積額の三割に相当する六六〇万五〇二五円を本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

キ 将来の住宅改造費 三〇二万九七二四円

上記カのとおり、一審原告X1の住居として建築された障害者対応住宅は木造であること、耐用年数は二二年程度であること(甲二五)に加えて、一審原告X1の症状固定時の年齢、平均余命等の前記認定事実を総合すれば、上記住宅の改修のため、二二年後、四四年後において上記カの住宅改造費に相当する費用を要すると認められる。これを前提に、カにおいて認定した六六〇万五〇二五円を基礎とし、ライプニッツ方式で年五分の中間利息を控除してその現価を算定するのが相当であり、これによると、次の計算式のとおり三〇二万九七二四円が求められる。

660万5025円×[0.3418(22年に対応するライプニッツ係数)+0.1169(44年に対応するライプニッツ係数)]=302万9724円(円未満切り捨て、以下同様)

ク 装具等費用

(ア) 症状固定日前について 三二万六八四六円

証拠(甲二七、丙二)及び弁論の全趣旨によれば、一審原告X1は、症状固定日(平成一五年五月二七日)までに装具介護器具費用として三二万六八四六円を支出したものと認められる。

(イ) 症状固定日以降について 一六九万三〇四六円

一審原告X1が装具等として、車いす、短下肢装具、多点杖、シャワーチェアを要することについては当事者間に争いがなく、証拠(甲二六ないし二八)及び弁論の全趣旨によれば、リハビリシューズ及び滑り止めマットは一審原告X1の前記身体機能障害の程度に照らして、それぞれ一審原告X1の装具等として必要であること、上記装具等の耐用年数は別紙装具等一覧の耐用年数欄記載のとおりであること、その一年当たりの金額は同一覧の該当欄記載のとおりであること、一審原告X1が症状固定日から三年間は平成一五年八月七日に一六万一九一六円で購入した長下肢装具を利用すること、一審原告X1が症状固定後に初めて購入したシャワーチェアーにつき一万五七〇〇円の公的補助を受けたことが認められる。したがって、一審原告X1が症状固定日以降平均余命までに必要とする装具等の費用をライプニッツ方式によりその現価を算定すると、以下のとおり、一六九万三〇四六円と認められる。

(83,293円×19.2010)+161,916円-52,478円-15,700円=1,693,046円

ケ 成年後見申立費用 認められない。

将来における成年後見申立に関する損害はいまだ確定しておらず、かつ、その損害額につき高度の蓋然性をもって相当額を認めることも困難である。したがって、上記費用を本件事故による損害として認めることはできない。

コ 逸失利益 七九〇七万三六一九円

一審原告X1の症状固定時の年齢、職業(生徒)、前記後遺障害の程度等の前記認定事実及び弁論の全趣旨を総合すれば、その逸失利益を算定するに当たっては、基礎収入年収額は平成一四年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計・男子労働者平均賃金である年収五五五万四六〇〇円とするのが相当であり、また、一審原告X1は、本件事故により満一八歳から六七歳までの全就労可能期間において労働能力一〇〇パーセントを喪失したと認められるから、これを前提にライプニッツ方式で年五分の中間利息を控除してその現価を算定すると、その逸失利益は、次の計算式のとおり、七九〇七万三六一九円と認められる。

5,554,600円×(18.5651-4.3294)=79,073,619円

サ 入通院慰謝料 三五〇万円

前記認定のとおり、一審原告X1は受傷後一か月程度重篤な意識障害の状態が継続したこと、その後も意識障害が継続したこと、リハビリやてんかん発作のために長期間にわたり入通院を継続したことなどを総合考慮すれば、入通院慰謝料として三五〇万円を認めるのが相当である。

シ 後遺障害慰謝料 二五〇〇万円

一審原告X1の後遺障害の内容、程度、本件事故当時一審原告X1が満一二歳の児童であったこと等の前記認定事実を総合して考慮すれば、後遺障害慰謝料として二五〇〇万円を認めるのが相当である。

ス 損益相殺

以上のとおり、本件事故による一審原告X1の弁護士費用を除く損害額は一億七三八二万八三三二円であり、同金額に五割の過失相殺をすると八六九一万四一六六円が求められ、同額から既に支払われた任意保険金五六七万五六九三円(前記第二の三(8))を控除した額は八一二三万八四七三円であり、これに対する平成一四年七月七日(本件事故の日)から平成一六年二月二三日(自賠責保険金の支払日)までの年五分の割合による遅延損害金は六六四万三七四九円(8123万8473円×0.05×597日÷365日)であるから、自賠責保険金三〇〇〇万円を同遅延損害金と上記損害額のうち二三三五万六二五一円に充当すると、未てん補の損害額の合計は五七八八万二二二二円となる。

なお、一審原告X1は一審被告Y1に対する損害賠償請求に当たって控除することができるのは一審原告会社から支払われた保険金五六七万五六九三円に一審被告Y1の過失割合を乗じた金額に限られる旨主張しているが(一審原告X1らの控訴状五頁)、この主張によると一審被告Y1は当該保険が締結されていない場合に比べ不利益を受けるので(生じた損害のすべてについて保険金が支払われた場合を想定するとこのことは明らかである。)、上記主張は採用できない。

セ 弁護士費用 五八〇万円

一審原告X1は、本訴追行を弁護士に委任しており、スに摘示した未てん補の損害額、請求額、本件事案の内容等にかんがみると本件事故と相当因果関係がある弁護士費用として五八〇万円を認めるのが相当である。

ソ まとめ

よって、一審原告X1は一審被告Y1に対し、自賠法三条に基づき、上記五七八八万二二二二円に弁護士費用五八〇万円を加えた合計六三六八万二二二二円、及びうち弁護士費用を除く五七八八万二二二二円に対する平成一六年二月二四日(自賠責保険金支払日の翌日)から、弁護士費用五八〇万円に対する平成一四年七月七日(本件事故日)から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができ、一審被告会社に対しては、一審被告らの間の保険契約に基づき、一審被告Y1に対する上記支払を命ずる判決が確定したときは同額の金員の支払を求めることができる。

(2)  一審原告X2らの損害

ア 慰謝料 各三〇〇万円

本件事故により一審原告X2らの事故当時中学一年生の長男に前記のとおり重篤な後遺障害が残ったこと、主として一審原告X3がその介護に当たらなければならないことなど、前記認定事実を総合考慮すれば、一審原告X2らに対する慰謝料として各三〇〇万円を認めるのが相当である。

イ 弁護士費用 各一五万円

一審原告X2らは本訴追行を弁護士に委任しており、相当弁護士費用として各一五万円を認めるのが相当である。

ウ まとめ

よって、一審原告X2らは、一審被告Y1に対し、自賠法三条に基づき、上記慰謝料三〇〇万円に五割の過失相殺をした一五〇万円及び弁護士費用一五万円の合計各一六五万円及びこれに対する平成一四年七月七日(本件事故の日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができ、一審被告会社に対しては、一審被告らの間の保険契約に基づき、一審被告Y1に対する上記支払を命ずる判決が確定したときは、同額の金員の支払を求めることができる。

四  一審原告会社の請求について

前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、一審原告会社は、平成一五年八月二八日までに、少なくとも一審原告会社主張に係る保険金五三三万一五九三円を支払ったことが認められるところ、同金額に上記認定に係る一審被告Y1の過失割合五割を乗じた上、一審原告会社自認に係る自賠責保険のてん補額一二〇万円を差し引くと一四六万五七九六円が求められる。そうすると、一審原告会社は一審被告Y1に対し、一四六万五七九六円及びこれに対する最終の保険金支払の日の翌日である平成一五年八月二九日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

五  以上の認定及び判断の結果によると、一審原告X1の一審被告らに対する請求は、六三六八万二二二二円及びうち五七八八万二二二二円に対する平成一六年二月二四日から、うち五八〇万円に対する平成一四年七月七日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払請求に限り理由があるからその限度でこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却すべきである。また、一審原告X2及び同X3の一審被告らに対する各請求については一六五万円及びこれに対する平成一四年七月七日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払請求に限り理由があるからその限度でこれを認容し、その余の各請求は理由がないからこれを棄却すべきである。一審原告会社の一審被告Y1に対する請求は一四六万五七九六円及びこれに対する平成一五年八月二九日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払請求に限り理由があるからその限度でこれを認容すべきである。そうすると、一審原告X1及び一審原告会社の各請求について一部当裁判所の判断と異なる原判決を一審被告らの一審原告X1及び一審原告会社に対する各控訴に基づき上記の趣旨に変更することとし、一審原告X1の控訴は理由がなく、一審原告X2、同X3の各請求についての原審の判断は相当であるから、一審原告X1、同X2及び同X3の各控訴並びに一審被告らの一審原告X2、同X3に対する各控訴をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡邉等 八木良一 樋口英明)

(別紙) 別表 入院日数明細 省略

(別紙) 装具等一覧 省略

(別紙) 様式(基本)第五号 交通事故現場見取図 省略

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例