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大阪高等裁判所 平成19年(ラ)840号 決定 2008年3月18日

東京都千代田区麹町5丁目2番地1

抗告人(原審相手方・基本事件被告)

株式会社オリエントコーポレーション

上記代表者代表取締役

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上記訴訟代理人弁護士

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相手方(原審申立人・基本事件原告)

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主文

1  本件抗告を棄却する。

2  抗告費用は,抗告人の負担とする。

理由

第1抗告の趣旨

1  原決定を取り消す。

2  相手方の文書提出命令の申立てを却下する。

第2事案の概要

1  基本事件は,相手方が,抗告人との間で継続的金銭消費貸借契約を締結したとし,昭和58年3月から平成18年2月2日まで継続的に返済と借入れを繰り返してきたが,同契約で定められた利率を利息制限法所定の利率に引き直して計算すると過払いになっているとして,抗告人に対し,不当利得に基づく過払金の返還及びこれに附帯する遅延損害金の支払を求めた事案である。

2  相手方は,民訴法220条3号に基づき,抗告人を所持者とする「抗告人の業務に関する商業帳簿(貸金業法19条に定める帳簿)又はこれに代わる同法施行規則16条3項・17条2項に定める書面のうち,抗告人と相手方との間の継続的消費貸借の取引開始から平成元年7月3日までの借入・入金履歴及び平成元年7月3日から平成6年1月27日までの借入記録に関する事項(入金・貸付年月日及び入金・貸付金額)が記載された部分の全部(電磁的記録を含む)」(以下「本件文書」という。)の提出命令を求めた。

3  原審は,本件文書は民訴法220条3号後段所定の法律関係文書に当たる旨判断し,抗告人の「本件文書は廃棄したので所持していない。」との主張を採用せず,本件文書の提出を命じた。

4  抗告人の主張は,別紙のとおりで,原審での主張を敷衍するものであるが,要するに,本件文書は廃棄済みであって存在しない,抗告人の社内では,貸付情報の記録媒体は10年の経過で廃棄処分している,廃棄手続の具体的な社内規程は設けられていないが,貸金業法上の保管義務を超えた期間について具体的な規定を設けなくても法令遵守にもとることはない,具体的な手続規定がないのに廃棄の立証を求められるのは,抗告人に不可能を強いるもので不当である,記録媒体が期間経過後に残っていることも事務処理上ありうる,などというものである。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も,原決定と同様,本件文書について,廃棄したとの抗告人の主張を認めるに足りる十分な証拠はなく,その提出を命じるのが相当であると判断する。

その理由は,抗告人の当審主張に対する判断を次に付加するほか,原決定の理由説示のとおりであるから,これを引用する。

2  抗告理由は,採用できない。すなわち,

本件においては,抗告人主張の保存期限が経過し,抗告人の主張を前提にすれば,廃棄されているはずの相手方との取引履歴が存在しているところ,これについて,抗告人は種々の主張をするが,その主張によっても,当該取引履歴が存在し,それ以前のものが廃棄されたとすることについて十分に合理的な説明がされているとはいい難いことのほか,本件における抗告人の廃棄手続に関する立証の程度,その他本件記録上認められる諸事情を総合考慮すると,未だ本件文書を廃棄したとの抗告人の主張を認めるに足りる十分な証拠はないものというべきである。

3  よって,原決定は相当であり,本件抗告は,理由がないから棄却することとし,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 田中壯太 裁判官 松本久 裁判官 齋木稔久)

別紙

抗告の理由

1 抗告人が主張する記録の保管状況につき、原決定がそれを信用できないと判断した1番の理由は、「ウ 相手方の主張によれば、平成18年2月以降に相手方の手元に残されている最古のカード計算書コムは平成7年4月分以降のものであり、それ以前のものは破棄されているはずであるであるのに、相手方は、申立人に対し、平成18年3月13日に、平成6年2月13日の貸付から始まる取引履歴を開示しているし(甲第2号証)、他に顧客に対しても、平成18年6月14日に、平成4年5月23日の貸付から始まる取引履歴を開示している(甲第14号証)。」(4頁4行目以下)ことであると思われる(それ以外の理由は、如何様にも評価でき決め手に欠ける)。

しかし最古のカード計算書コムには、当月分の請求の記録が残されているところ、そこに分割金の請求があれば、その分割金に対応する貸付の記録が残っている。従ってカード計算書コムに分割金の請求があれば、カード計算書コムの日付より当然古い日付の日に貸し付けられた貸付金の記録が残っており、その貸付の記録と入金履歴(甲第3号証)と照合させながら、10年を多少でも遡る取引履歴を作成しているものである。

抗告人は、10年分の取引履歴であれば、コンピューターにより瞬時に提出ができるが、可能な限り遡った取引履歴を作成し提出しようと、カード計算書コムと入金履歴から手計算をして取引履歴を作成しているものである。平成6年2月13日の貸付が記録されている最古のカード計算書コムは現在取り寄せ中であり、手に入り次第提出する。

2 抗告人の記録管理について、さらに詳述する。

(1) 抗告人は、貸金業法19条に基づき個々の債務者ごとに契約年月日、貸付金額、受領金額などを記載したカード計算書を作成しているが、同法施行規則17条によると、貸金業者は同法19条の帳簿を、貸付の契約ごとに、当該契約に定められた最終の返済期日(当該契約に基づく債権が弁済その他の事由により消滅したときにあっては、当該債権の消滅した日)から少なくとも3年間保存しなければならない旨規定されている。

なお、被抗告人は、本件文書が商業帳簿に該当するとした上で、本件においては商法36条に定める保存期間(10年間)を経過していない旨主張するのかもしれないが、本件文書が商業帳簿に該当しないことは明らかである。この点に関し、東京地裁平成13年10月10日判決は、商法が個々の債務者ごとに契約年月日、貸付金額、受領金額などを記載した帳簿書類まで保管義務の対象とする趣旨とは考えられない旨判示した。

(2) 抗告人の情報処理量及び情報処理能力

ところで、抗告人の貸付に関する文書管理は、コンピュータ管理を併用して、貸金業法上の貸付帳簿に該当する帳簿管理を行っている(つまり、抗告人のように貸付金総額が数千億円にも達する企業において、いわゆる書面だけによる綴り式の帳簿など存在しない)。抗告人は、カード会員だけでも約1000万人を擁しており、会員ごとの保有データは多数項目にわたり、日々、会員ごとの貸付金の管理と請求処理等を行っている。また、抗告人の債権管理システムとの連動による全体システムの規模は膨大であり、提携銀行、提携生命保険会社、提携カード会社の約12万台のCD/ATMを通じた融資金の決済、抗告人内での資金の移動、そして定期的な決算を行っている。かかる抗告人における顧客管理、決算業務等には休みがなく、毎日、異なる数十種類のデータ処理を並行して行っているのである。

もちろん、抗告人の業務は融資業務、クレジットカード業務だけでなく、他に個品割賦購入あっせん業務、保証業務、集金代行業務などを行っており、常時約3000万件以上の利用可能な顧客の基本データを保有しているのである。

現時点における抗告人のホストコンピュータのCPU(中央処理装置)が直接読み書きできる作業領域であるところの主記憶装置(メインメモリ)の容量は、1.5テラバイト(1,536GB)を優に超え、日本有数の規模を誇るが、かかる規模の容量をもってしても、管理・請求処理業務が完了し、包括データとして決算データ等に反映された後のデータを速やかに削除・抹消しなければ、抗告人における顧客管理、決算業務等に著しい支障をきたすこととなるのである。

(3) 抗告人の文書管理

① 既述のとおり、抗告人において管理・請求処理業務に際し行われる情報処理量は膨大なものであり、そのすべてにわたり、貸付に関するデータを永年保管することは実際上できないため、一定年限を区切り、廃棄処分をしている。

具体的には、抗告人は、顧客がカードキャッシングをする都度、コンピュータ上に当該貸付の契約内容(貸付日、貸付額、貸付利率、返済方法、当月請求額、残存元本額等をいい、以下「貸付情報」という)をカード計算書として記載し(以下「コンピュータ上のカード計算書」という)、以後当該顧客に対する請求を管理している。

一方、当該貸付情報は毎月CD-ROMまたはマイクロフィルム(以下「記録媒体」という)に落とされた上、当該請求月ごとに10年間保存しており、10年の経過をもって廃棄している(なお、ここでいう10年は、年度毎に管理しており、例えば平成16年5月28日現在であれば、抗告人が保存している最古のカード計算書は平成6年4月分以降のものである)。

コンピュータ上のカード計算書は、当月請求にかかる個々の借入れごとの利用残のあるものだけであるが(コンピュータ上のカード計算書は、当該個々の借入れが完済された時から3ヶ月後にコンピュータ上から削除される)、記録媒体は個々の利用残の有無にかかわらず10年を経過すると、抗告人は、当該記録媒体を社内規定(社外秘)に基づき廃棄処分している。

また、金銭消費貸借契約書(いわゆる証書貸付)の契約書原本は、完済時において、原則として債務者に返却しており、完済後においては抗告人は契約書を所持していない。ただし、完済後3年間は貸金業法の規定に基づき、当該証書貸付にかかる所要の記録を保存している。

② 抗告人は、カード契約自体は包括契約であるものの、顧客がカードキャッシングを利用するごとに個別の金銭消費貸借契約が成立するとの考えの下に貸付情報管理をおこなっている。

すなわち、各貸付は独立した金銭消費貸借契約であり、その貸付が完済されれば、その債権は消滅したこととなる。

そして、上記のとおり、抗告人はある時点から10年以内に完済された個別貸付を記録した記録媒体を保有している。

③ 抗告人における各文書の保管

抗告人は、オートローン、ショッピングクレジット等の立替払契約、証書貸付契約、クレジットカード会員契約、ローンカード会員契約等、多岐にわたる商品を取り扱っていることから、加盟店との契約書や顧客との契約書、取引履歴等、様々な書類・データを保管している。これらすべての書類・データを永久に保管することは物理的に不可能であるし、完済後一定期間を経過した取引履歴については、債権管理上も与信上も保管管理の必要性がなくなり、これを永久に保管することはかえって個人情報保護の観点から好ましくないため、抗告人は社内規程で各書類の保管期間を定めている。

④ 抗告人におけるカード計算書コムの保管期間

抗告人社内規程のうち、カード保有者に関する書類の保管期間を規定しているものが、「文書保存年限一覧」である。抗告人は、貸金業法関連法規定に配慮しつつ、文書の内容や抗告人にとっての重要性を加味して、保管を不要とするものから永年保管を要するものまで、各文書の保管期間を規定しているのである。

同文書保存年限一覧によると、顧客が提出命令を申し立てている文書(取引履歴)のうち、貸付に関する情報が記載されているカード計算書コムの保管期間は、当該カード計算書コムを作成した直後の4月1日を起算日として10年とされている。

⑤ 保管期間経過後のカード計算書コムの廃棄手続

抗告人が保管している文書につき、保管期間の経過の点検、廃棄は文書の種類ごとに、その文書の保管業務に携わる担当者が行ない、所定の期間経過後にシュレッダーにかけて順次廃棄処理している。

カード計算書コムについては、株式会社ビジネスオリコに委託し、作成年月を表示したものを同社保管センターにおいて保管し、同センター担当者が保管期間の経過したCD-ROMを抽出して、シュレッダーにかけて廃棄している。

なお、本来であれば、現時点で10年を経過した分はすべて廃棄され、平成7年4月以降分については平成18年3月の経過をもって廃棄されることとなるが、最高裁平成17年7月19日判決を考慮し、現時点においては廃棄を留保している。

⑥ カード計算書コムの廃棄手続規定について

上記のとおり、カード計算書コムはオリコの社内規程により、10年の保管期間経過後に廃棄されるが、この廃棄について、廃棄手続等の具体的な社内規程は設けられていない。これは、以下のような抗告人の認識に基づくものである。

すなわち、貸金業法上、業務帳簿の保管を義務づけられている期間は3年間にすぎない。他方、抗告人は、社内規程により、それよりはるかに長い期間(10年間)、カード計算書コムを保管することとしており、貸金業法上の業務帳簿の保管義務の遵守としては十分である。

そもそも、抗告人が社内規程により、10年間という貸金業法条の保管期間よりもはるかに長い保管期間を定めたのは、債権管理上あるいは与信上の必要性という抗告人側の要請に基づく任意的なものにすぎない。

したがって、社内規程による保管期間経過時においては、既に貸金業法所定の保管義務を果たしており、抗告人において、カード計算書コムの廃棄手続について具体的な規定を設けて、社員にその遵守を求めることまでしなくても、法令遵守にもとることはないと考えられる(なお、平成17年4月以降は個人情報保護法の施行を受け、同法に基づき、上記受託会社に廃棄ルールが設けられている)。

その結果、抗告人は、保管期間が経過したカード計算書コムを適宜シュレッダー等で廃棄処分しているのである、顧客が提出命令を申し立てている開示済みの分以前の取引履歴は、既に廃棄済みであって、抗告人は保管していない。

⑦ 結論

顧客は、取引履歴は貸金業法上保管義務が課せられている文書であるから、それを廃棄したのであれば、その廃棄手続等を具体的に立証すべきである旨主張するが、上記のおおり、抗告人においては具体的な廃棄手続規定を設けておらず、それにもかかわらず、廃棄手続を立証せよをいうのは、抗告人に不可能を強いるものであり、まったく不当である。

⑧ 抗告人はなぜホストコンピュータから、完済分の取引履歴を削除するのか

抗告人が現在使用しているコンピュータシステムである「オリオンシステム」は、昭和60年ころから、新たに大規模な業務システムとして開発企画され、昭和61年ころから本格開発に着手し、平成元年までに完成し、平成2年1月5日より運用を開始した。

オリオンシステムは、当初、富士通のM-780/30という当時の大型コンピュータ3台をホストコンピュータにターミナルプロフェッサ(K-300R)約200台を全国に配置し、その下に約3000台のワークステーション(K-10R)を接続する大規模なシステムであり、ノンバンク業界では、このような大規模なシステム開発を行なった経験がなく、抗告人は、NTT、日本長期信用銀行において大規模システム開発に関与した技術開発者を責任者としてスカウトし開発を行った。

抗告人は平成元年に旧社名の「オリエントファイナンス」から社名変更したが、すでに当時から、クレジットカード付帯のキャッシングサービス、メーンロール、フリーローン等の名称で無担保融資を行っており、その弁済方法は、有担保の住宅ローン、証券担保ローンと同様に、分割返済方法であり、リボルビング方式の返済方法はシステムとして設けていなかった。

第29期有価証券報告書によれば、平成元年3月期のクレジットカード(総合あっせん)の取扱高は、686億円と幣制18年3月期の8077億円と比較すると10分の1以下の規模であったが、クレジットカード取引は、多数の会員がいくつもの異なる加盟店で商品を購入したり、キャッシングサービスを利用するため、一つの契約であっても、基本契約の下で、個別のカード利用(取引)ごとに、加盟店に立替払いを行い、金融機関との精算や手数料を支払う必要があり、取引ごとに売上連番を設けて、これを管理しなければならず、大規模な契約管理システムが要請されていた。

しかし、このコンピュータでは、システム本体で大量のデータを保存できず、大量のデータを保存するには、「補助記憶装置」を使う必要がある。「補助記憶装置」には、記憶内容の任意の場所に自由に直接にアクセスできる「直接アクセス」方式と先頭から順番にしかアクセスできない「順次アクセス」方式によるものがある。直接アクセス方式を「直接アクセス記憶装置」(DASD:direct access storage device)といい、「磁気ディスク装置」などがこれにあたる。一方、順次アクセス方式としては「磁気テープ装置」がある。いずれかの補助記憶装置を含めた記憶媒体に記録されたデータを利用してデータ処理を行うが、抗告人は補助記憶装置は、容量が大きいほど高価であること、処理時間を早くする必要があることから、直接アクセス方式である上記DASDを採用し、対応することになった。しかし、当時の技術では、顧客とのデータを長期間保有することは、DASDを採用し、対応することになった。しかし、当時の技術では、顧客との取引データを長期間保有することは、DASDの規模を大きくするだけで、高価なうえ、非常に大きなスペースをとるため、品川にあったNTTツインビルという最新鋭のインテリジェントビルのワンフロアの大部分を抗告人のコンピュータ本体とDASDとして使用しても、一定範囲の機能とボリュームに限定せざるをえない状況にあった。

DASDに保存できるデータ量が、一定量に制限されることから、記憶装置に記録保存されるデータを業務上特に使用頻度の高いデータに個別に選定せざるをえず、売上処理業務、立替・精算関係業務、請求関係業務、督促関係業務、問い合せ対応業務等抗告人の基本業務を遂行するのに必要なデータに絞り、その他のデータは、システムの対象外にすることなどを対応の基本とすることで、オリオンシステムの開発にとりかかった。

以上の経緯から、完済された売上データ、立替済みの立替データ、請求済みの個別請求データなど、その後において抗告人における業務として使用することのないデータを一定期間経過後にDASDから削除する設計が採用されることになったのである。

このように設計しなければならなかった主な原因は、前記のとおり、当時の記憶媒体が高価であったことと抗告人における取扱想定データ数が膨大であったことにあるが、さらに、データ記憶方式が、現在のように「データを圧縮しての保存」形式ではなく、オリジナルデータを原型のままで保存する形式であるため、膨大なボリュームになったことも大きな原因にあげられる。

以上から、オリオンシステムにおけるホストコンピュータのデータは、すでに使用済みのデータ(請求し、入金され完済された売上・貸付の記録がその典型例)をできるだけ速やかに削除するシステムとして開発することが承認されたのである。

⑨ 抗告人における取引データの保存方法の変遷

クレジット関係の取引データは、現行のシステムであるオリオンシステムの開発以前から、基本的に同じであり、利用日(貸付日)、利用金額(貸付金額)、返済方法、返済回収、各回の返済金額がその内容であり、リボルビング方式が追加された平成2年以降も同様である。

請求関係のデータは、アドオン方式(ショッピング利用分の利息計算方式、オリオン以前のキャッシングの利息計算方式)で算出された手数料・利息を支払回数で割って得た支払額とリボルビング方式であるときには、定額返済額(利息・手数料を含めている)の双方を合算した請求内容になっていた。

この請求関係のデータは、ホストコンピュータ内で作成さるが、オリオンシステム構築以前は、オリコの会員数も少なく、規模が10分の1以下の小規模なシステム(富士通の汎用機であるM-180)で対応しており、請求が終わると、EDP出力され、毎月紙の束(後になってマイクロフィルム化)で保存されていた(ホスト内にもデータが残っていた)。

オリオンシステムは、前記のとおり、3ホストコンピュータ併用、24時間稼働の500万ステップにのぼる大規模なシステムであったが、当時から約3000万件もの顧客情報を管理する必要があることから、当時の非圧縮型の補助記憶装置(DASD)での顧客データ保有には限界があり、また今後のカード利用の拡大が予想されていたことから、2ヶ月程度でカードの各利用毎に、完済するたびに、DASDから削除されなければならなかった。ただし、削除後のデータは、以前のように紙束による保管は保管コストや、郵送コストが高くなるので、システムから削除されるのと同時に、マイクロフィルムに記録して、保管されていた。

この当時は、請求データ等の取引データを貸金業規制法が帳簿の保管を完済後少なくとも3年間と定めていたことから、個別債権関係残存説にたつ抗告人としては、個別の完済から、10年程度の期間保管していたが、データの内容を頻繁に検索し、個別データを解読することまではまったく想定されておらず、保管期間が終了すれば順次廃棄していた。

ところが、マイクロフィルムによる保管は、フィルムが薄く、小さいため取扱を丁寧にしないと破損したり、癒着して解読不能になったり、解読後保管場所を間違えて検索不能になるなどの問題が発生していた。

そこで平成5年10月以降は、マイクロフィルムによる保管からその画像を取り込んだCD-ROMによる保管に変更し、現在に至っている。

⑩ 抗告人における取引履歴ほか記録の廃棄

抗告人には、古くから事務の取扱いに関する手順書的なものとして、クレジットの買取承認手続き、契約書に基づく契約データの入力・立替金の集計業務、請求業務、債権管理業務、顧客対応業務、データの変更・修正・廃棄業務などの手続きを規定していた(以下「事務取扱手続」と呼ぶが、社外に公表されるものではない)。

平成2年ころ事務取扱手続には、クレジットや証書貸付の契約書、カード売上伝票などの書類の受け渡し、保管と抽出、保存年限規定、契約完済時の抽出と完済処理、そして廃棄に関する規定がすでに存在している(当時これ以前にも事務の取扱手順書等は、存在していたが、旧システムに基づくものであり、オリオンシステムとは、処理方法がまったく異なるため、不要と判断され、廃棄されており、現在は存在していない)。

平成5年ころ、不正競争防止法が改正され、営業秘密に関する規定が設けられたことから、各企業において文書管理規定を作る動きがあり、抗告人においても、当時「文書管理規定」を作成したが、同規定は、主に明確に文書管理が実施されているかの観点から作成されたものであった。

抗告人では、オリオンシステム導入以前から月数百万件の請求データを保有し、そのデータを主に紙に出力して各支店において紙の束で保存していたが、すぐに支店の保管庫等がいっぱいになるため、その帳票類を第一勧業銀行(当時)の系列会社である「書庫センター」(現社名株式会社データキーピングサービス)に委託して定期的に保管していた。しかし、保管委託料金がかさむため、契約時の保管料を増やすことはせず、法定の保存年限を超えているものを順次廃棄するなどして対応していた。

しかし、担当者が変わることでその判断に齟齬が生じる懸念があったことから、統一的な基準として、「文書保存年限表」を作成し、同表基準により運用するようにした。

平成3年になり、抗告人は、現在の埼玉県鶴ヶ島市に「OA研修センター」としてビルを建設して、新入社員や職種変更の社員にオリオンシステムの研修を行う設備を設けたが、同ビルを併せて、重要書類の保管場所とし、上記文書保存年限表に基づき、文書を収納した段ボール箱毎に、バーコードで収納物、保存年限を管理し、抽出依頼に応えるとともに、迅速に保存年限経過後の文書を廃棄する体制を整備した。これに伴い、前記「書庫センター」におけるデータの保管は、保存年限の経過とともに漸減し、最終的に同センターとの契約を終了した。

文書保存年限表は、契約書、入力原票など社員や顧客が作成した文書、コンピュータから出力された文書を対象としているが、その内容は、帳票の新設・廃止等に伴って毎年のように見直しがされている。

また、コンピュータのデータは保存容量とデータの最新性、利用可能性の観点から、当初の設計の段階でデータの保有期間(すなわち、それ以降は記憶装置から削除されることになる)が定められていたが、その後の抗告人のクレジット会員の飛躍的な増大、取扱高の10数倍への伸張に伴い、随時見直しが行われている。

近年IT技術の進展により、データ保存量の拡大や比較的廉価な媒体の提供があり、抗告人は、これらの都度取り入れ、開発初期の保有データの数倍の規模にまで拡大し続けているが、これ以上にカード会員数とこれに対応する取扱高が拡大するとともに、新しい顧客サービスの拡充、加盟店管理の必要性などから開発当初予定していなかった種類のデータ保存の必要性も生じるなど環境も変化しており、このような状況からコンピュータ処理した情報をすべて本体または補助記憶装置に保存し続けることはとうてい困難であり、現状においてはかえって、データ保有期間の短縮が要請されている状況である。

このような状況にあったことから、既に業務上使用することが予定されないデータの種類を特定し、これらのデータをホストコンピュータ・補助記憶装置から削除し、マイクロフィルムに移し変えるということが保有データの容量の逼迫時において随時検討され、様々なデータに関して実施されてきたのである。これらの削除されたデータの一部に請求記録等データが含まれており、これらのデータは外の媒体に移し変えられ、かつての紙ベースでの記録と同様に、上記保管センターで定められた保存期間保存され、これを経過すると他の帳票・書類などとともに、定期的に、順次廃棄されてきたのである。

なお具体的な廃棄方法については、OA研修センターの設立当時から「株式会社ワンビシアーカイブス」という業者に委託しており、業務委託契約に基づき月ごとに完済分契約書、売上表、集計用紙、EDP伝票などとともに、マイクロフィルムなどのデータの廃棄を行っていた。

廃棄委託書類の具体的内訳については、引渡しのときには、内容を明記し実施されるが、既に委託終了から相当期間を経過しており、書類も廃棄されているので、証拠として提出することができない(個人情報保護法が施行されてからは委託業者の管理責任の観点で、手続厳格になったが、個人情報保護法施行時点では、当該業者との契約はすでに終了していた)。

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