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大阪高等裁判所 平成19年(行コ)108号 判決 2009年12月24日

主文

1  本件各控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は,控訴人ら及び参加人らの負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  控訴人ら

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人は,P1に対し,43億6612万7170円及び内11億6000万円に対しては平成17年4月7日から,内32億0612万7170円に対しては平成18年1月31日から各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。

(3)  被控訴人が,P2株式会社に対し,原判決別紙物件目録記載1の土地について,原判決別紙登記目録記載1の所有権移転登記の抹消登記手続請求を怠ることは違法であることを確認する。

(4)  被控訴人が,P3株式会社,P4株式会社,P5株式会社,P6株式会社,P7株式会社及び特定目的会社P8に対し,原判決別紙物件目録記載2ないし4の各土地について,原判決別紙登記目録記載2の所有権移転登記の抹消登記手続請求を怠ることは違法であることを確認する。

2  参加人ら

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人は,P1に対し,32億0612万7170円及びこれに対する平成18年1月31日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。

(3)  被控訴人が,P3株式会社,P4株式会社,P5株式会社,P6株式会社,P7株式会社及び特定目的会社P8に対し,原判決別紙物件目録記載2ないし4の各土地について,原判決別紙登記目録記載2の所有権移転登記の抹消登記手続請求を怠ることは違法であることを確認する。

第2事案の概要

1  事案の要旨

(1)  第1事件は,神戸市の住民である控訴人らが,被控訴人に対して,①原判決別紙物件目録記載1の土地(以下「α車庫跡地」という。)の売却及び②原判決別紙物件目録記載2ないし4の各土地(以下「P9高校跡地」という。)の売却について,神戸市が採用した譲渡先決定方法等が違法であり,①については11億6000万円の,②については32億0612万7170円の損害が神戸市にそれぞれ生じていると主張して,上記各土地の売却当時の市長個人に対して合計43億6612万7170円及びこれに対する年5分の割合による遅延損害金分(うち11億6000万円についての起算日は平成17年4月7日,うち32億0612万7170円についての起算日は平成18年1月31日)の損害賠償請求をすることを求めるとともに,被控訴人がP9高校跡地及びα車庫跡地についてそれぞれなされた所有権移転登記の各抹消登記手続請求を怠ることが違法であることの確認を求めた住民訴訟である。

(2)  第2事件は,控訴人らによる第1事件提起後に,神戸市の住民である参加人らが,P9高校跡地について控訴人らと同様の判決を求めて提訴した事件である。原審は,これを第1事件の控訴人らへの共同訴訟参加の申立てとして適法と認めたが,当裁判所もこれを適法と判断する。

(3)  原審は,第1事件の訴えのうち,α車庫跡地の売却が違法であることに基づいてP1に対して11億6000万円及びこれに対する遅延損害金の支払を請求することを求める部分及びα車庫跡地についての原判決登記目録記載1の所有権移転登記の抹消登記手続請求を怠る事実が違法であることの確認を求める部分については,適法な監査請求を経ていないことを理由に不適法として却下し,その余の控訴人らの請求及び参加人らの第2事件にかかる請求については,いずれも理由がないとして棄却した。

(4)  これを不服として,控訴人ら及び参加人らが本件控訴に及んだものである。なお,原審における控訴人らの選定者のうち,P10,P11,P12,P13は,当審における選定者には含まれない。

2  争いのない事実等

(1)  当事者等

ア 控訴人ら,選定者ら及び参加人らは,神戸市の住民である。

イ P1は,平成13年11月以降,現在まで引き続いて神戸市長の地位にある。

(2)  α車庫跡地の売却

神戸市は,その所有するα車庫跡地について,平成16年12月20日に開催されたα車庫跡地事業者選考審査委員会の答申を受けて,P2株式会社を買受事業者とすることを決定した(買受価格20億円)(乙1,3)。神戸市とP2株式会社は,平成17年1月21日に同土地について売買契約を締結し,同社は同年4月7日に売却代金の支払を終え,同月8日に同土地の所有権移転登記(原判決別紙登記目録記載1)がなされた(甲2,11)。

(3)  P9高校跡地の売却

神戸市は,その所有するP9高校跡地について,平成17年11月7日に開催されたP9高校跡地事業者選考審査委員会の答申を受けて,P3株式会社を代表とする共同事業者(その他の構成員企業は,P4株式会社<以下「P4」という。>,P5株式会社,P6株式会社,P7株式会社及び特定目的会社P8)を買受事業者とすることを決定した(買受価格84億1587万2830円)(甲2,乙4,5)。神戸市と上記共同事業者は,平成17年12月22日に同土地について売買契約を締結し,同共同事業者は平成18年1月31日に売却代金の支払を終え,同日に同土地の所有権移転登記(原判決別紙登記目録記載2)がなされた(甲2,12)。

(4)  監査請求

ア 控訴人らは,平成18年4月28日(控訴人ら以外の選定者らについては,同日以外に同年5月8日,同月9日,同月15日,同月30日,同月31日及び同年6月2日)に,神戸市監査委員に対し,α車庫跡地及びP9高校跡地に関するP1への損害賠償請求等の措置を求める住民監査請求を行ったところ,神戸市監査委員は,同年6月22日付けで,α車庫跡地については監査請求期間の徒過を理由に却下し,P9高校跡地については措置の必要を認めないとして控訴人らの監査請求を棄却した(甲1,2)。

イ 参加人らは,平成18年5月26日に,神戸市監査委員に対し,P9高校跡地に関するP1への損害賠償請求等の措置を求める住民監査請求を行ったところ,神戸市監査委員は,同年7月13日付けで,措置の必要を認めないとして参加人らの監査請求を棄却した(丙1,2)。

(5)  本訴提起

ア 控訴人らは,平成18年7月18日,第1事件について訴えを提起した。

イ 参加人らは,同年8月11日,第2事件について訴えを提起し,同年10月24日の原審第2回口頭弁論期日において,第2事件の「訴状」につき,標題を「共同訴訟参加申立書」と,「原告」とあるのを「参加人」とそれぞれ訂正し,「参加の趣旨」として,「神戸地方裁判所平成▲年(行ウ)第▲号事件に共同訴訟参加する。」を加える旨記載した同年9月11日付けの「訂正申立書」を陳述した(原審裁判所が,参加人らから適法な共同訴訟参加の申立てがなされたものと認めたこと,この処置が適法と認めるべきことは前記(2)のとおりである。)。

3  争点

(1)  α車庫跡地に関する監査請求の適法性

監査請求期間徒過について正当な理由(地方自治法242条2項ただし書)はあるか(争点1)

(2)  P9高校跡地の売却について

ア 同土地売却についての違法性(争点2)

イ 同土地売却時のP1の過失の有無(争点3)

ウ 損害(争点4)

(3)  α車庫跡地の売却についての違法性,P1の過失及び損害(争点5)

4  争点に関する当事者の主張

(1)  争点1<α車庫跡地に関する監査請求の適法性-監査請求期間徒過について正当な理由はあるか>について

(控訴人らの主張)

ア 控訴人らはα車庫跡地について,α車庫跡地事業者選考審査委員会による審査前にP14市議が市幹部に圧力を加えて同審査を行ったことを,平成18年4月17日付けのP15新聞の記事で初めて知った。そこで,控訴人らはP14市議らによる口利きの圧力があった違法な審査であったことを知ってから66日以内に監査請求を行ったから,相当な期間内に監査請求を行ったものである。

イ 最高裁判決(最高裁平成14年9月12日判決・民集56巻7号1481頁)は,正当な理由として「監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内容を知ることができた」かどうかを要件としている。α車庫跡地売却の存在を市民が知ることができたとしても,それが違法不当であることを知り得なければ,監査請求をなすことを市民に期待することはできないから,監査請求をすることができたといえるためには,当該行為の存在のみならず,当該行為が違法不当であることを基礎付ける事実を知り得ることが必要というべきである。そして,α車庫跡地の土地売却は,神戸市議会で議題となっておらず,同議会を通じて市民が知ることになったのは,P9高校跡地が低額で売られた事件の際である。まして,総合評価方式を採用したにもかかわらず随意契約で買受人と契約したという神戸市の主張を知ったのは,平成18年6月8日の神戸市議会,政治倫理確立委員会の場である。

ウ 被控訴人は,価格点50点の事業者が落選したことを認識することが可能であるとか,最高譲受申出価格が31億6000万円となることは逆算できたなどと主張するが,神戸市が違法な総合評価方式を採用した上で,しかも総合評価方式が随意契約であるとの言い逃れまでしていることをこの段階では想像だにできないことは明らかである。

エ 総合評価方式が随意契約であるという被控訴人の主張を裏付ける書面は,平成18年6月8日以前には存在せず,神戸市は,同日前に「随意契約」という言葉を使用したこともなかった。

また,α車庫跡地の売却について平成16年12月23日のP15新聞,同日のP16新聞,同月25日のP17新聞に記事があるが,同土地の買受事業者の選考方法についての記述はなく,買受人と価格1位グループに差があることすら記述がない。これだけの報道では違法であることは想定できず,違法の有無の調査の必要性さえ感ずることはできない。

オ 被控訴人は,α車庫跡地の売却に関して総合評価方式を採用したが,これはβ地区まちづくり協議会役員と市議及び設計会社代表の提案によるものである。α地区に何の関係もないβ地区まちづくり協議会役員は,P9高校跡地に総合評価方式の土地売却を持ち込む目的で,上記提案をしたものであり,これを採用した被控訴人には,上記の者らと共謀したか,過失により,上記行為に加担したものであるから,不法行為により損害を賠償する義務があるにもかかわらず,被控訴人はP1個人に対する損害賠償を怠っている。

このような損害賠償請求を怠る行為は,いわゆる真正怠る事実(別個に違法な財務会計上の行為がなく,怠る事実のみが存在する場合)に該当し,監査請求の期間制限はない。

(被控訴人の主張)

ア 本件の住民監査請求は平成18年4月28日に行われているが,α車庫跡地の売却は平成17年4月8日までに履行を終えており,住民監査請求は当該行為が終わった日から1年を経過した後に行われている。

イ 控訴人らは,平成18年4月17日の新聞記事によってα車庫跡地売却に関する違法事由の存在を初めて知ったかのように主張する。

しかし,控訴人らがα車庫跡地の売却が違法である根拠とする最高譲受価格申出人を買受事業者として選定しなかった事実は,平成16年12月22日に公表されているため,「正当な理由」は認められない。

ウ α車庫跡地の買受事業者は平成16年12月20日開催のα車庫跡地事業者選考審査委員会で決定され,選考方法及び決定結果は同月22日に報道機関に公表されるとともに,記者発表資料は,神戸市のホームページの記者発表資料の欄に掲載されている。そして,神戸市による発表に基づいて,同月23日のP16新聞及びP15新聞の各朝刊,同月25日のP17新聞朝刊に,買受事業者の決定や買受事業者の事業計画の記事が掲載されている。同月22日に公表された記者発表資料では,買受事業者の価格点は31.65点,内容点は38.52点であったのに対し,次点の事業者は価格点が42.72点,内容点が26.67点であることが公表されている。この記者発表資料のみからでも,少なくとも,買受価格20億円を提示した事業者が価格点31.65点で当選し,価格点50点満点を取得した事業者が落選したことを認識することが可能である。

また,価格点の算定方法は,平成16年9月1日に一般に配布された事業者募集要項に以下のとおり記載されているのだから,最高譲受価格申出事業者の申出価格が約31億6000万円となることを逆算することができた。

価格点=50点×当該応募者の譲受申出価格/全応募者中の最高譲受申出価格

エ また,控訴人らは監査請求が遅れた理由として,α車庫跡地の売却が議会で審議対象とされなかったことにより売買契約の存在及び内容を知ることができなかったことを主張する。しかし,上記ウに記載のとおり,買受事業者の選考方法及び選考結果の記事がホームページ及び新聞紙上に掲載されたこと,平成17年4月8日受付の所有権移転登記によって売買契約締結及び履行の事実が登記記録上で公開されていること並びにこれらの公開されている事実に基づいて公文書の公開請求を行うことが可能であったことからすれば,控訴人らが相当の注意力をもって調査を尽くしていれば,遅くとも平成17年5月ころには監査請求をするに足りる程度に売却行為の存在及び内容を知ることが可能であった。

オ したがって,監査請求が財務会計上の行為が完了してから1年以内に行われなかったことについて「正当な理由」は存在しない。

カ 控訴人らが違法確認を求めている事実は,α車庫跡地の所有権移転登記の抹消登記手続請求を怠る事実であり,α車庫跡地の売却が違法・無効であるために所有権移転登記の抹消登記手続の請求を行わなければならないのに,その行使を怠っていると主張するものであって,「当該行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実としているもの」に該当するから,住民監査請求の期間制限が適用される。控訴人らは,α車庫跡地の売却による不法行為に基づく損害賠償請求権の行使を怠ると主張しているが,かかる主張は,α車庫跡地について所有権移転登記の抹消登記手続請求を怠っていることが違法である旨の確認を求める請求の趣旨との整合性を欠き失当である。

(2)  争点2<P9高校跡地の売却についての違法性>について

(控訴人らの主張)

ア P9高校跡地売却を総合評価方式で行ったことは違法であること

P9高校跡地の売却については総合評価方式で行われたところ,総合評価方式は支出の場合にのみ行われる競争入札であるから(地方自治法施行令167条の10の2第1項),土地の売却に適用したのは違法である。

そして,P9高校跡地の売却方式について,神戸市は度々「総合評価方式」と明言しており,後になってから随意契約であると主張しだしたが,これは総合評価方式であるとする神戸市の従前の主張と矛盾する。また,審査基準を設定していること,企業名を隠して入札させていること,随意契約は「不特定多数の者の参加を求め競争原理に基づいて相手方を決定する」ものではないが,競争原理を導入していること,以上の諸点からみても本件は随意契約ではない。

P9高校跡地の売却が随意契約の方式によるものであることに関しては,募集要項(甲16)や「質問回答の送付について」(甲50)などには記載がない。

神戸市契約規則(甲52)26条によれば,随意契約によろうとする場合は,なるべく二人以上の者から見積書を徴しなければならないとされているが,このような見積書の提出がないし,また同規則27条の12によれば,市長は,随意契約の相手方を決定したときは,随意契約であることの理由を公告することが必要であるとされているが,そういった公告がない。

イ 本件は随意契約の要件を満たしていなかったこと

(ア) 地方自治法施行令167条の2第1項2号は,随意契約ができる条件として「不動産の買入れ又は借入れ」を挙げているが,不動産の売却は挙げていない。すなわち,P9高校跡地の売却は,「不動産の買入れ又は借入れ,普通地方公共団体が必要とする物品の製造,修理,加工又は納入に使用させるため必要な物品の売払いその他の契約」にそもそも当たらないため,随意契約の要件を満たさない。

(イ) 仮に,土地売却が「不動産の買入れ又は借入れ,普通地方公共団体が必要とする物品の製造,修理,加工又は納入に使用させるため必要な物品の売払いその他の契約」に当てはまるとしても,本件のように貴重な一等地における市有土地財産を売却する場合が「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」(地方自治法施行令167条の2第1項2号)に該当しないことは明らかである。

また,随意契約について規定している地方自治法施行令167条の2の他の項目のいずれにも本件は当てはまらない。随意契約の要件に該当しないのに随意契約が締結された場合は違法である。

(ウ) 上記のように,随意契約が認められる例外規定のいずれにも当たらないことが何人の目にも明らかであり,当該契約の効力を無効としなければ随意契約の締結に制限を加える法令の規定の趣旨を没却する結果となるから,P9高校跡地についての売却契約は無効になる。

ウ 最高価格の応募者と契約をしなかったこと

(ア) 収入の原因となるような土地売却には,「予定価格の制限の範囲内で最高の価格をもって申込みをした者を契約の相手方とするものとする。」との地方自治法234条3項が当てはまる。

しかるに,P9高校跡地については116億円で購入を希望する企業もあったにもかかわらず,応募者の中で最低の84億円を申し出た応募者への売却を決めた。これは明らかに違法である。

32億円の差額は売却価格の38%にも相当し,最高裁判所昭和62年3月20日第二小法廷判決のいう「多少とも価格の有利性を犠牲にする結果」とはいえない。

(イ) 本件の場合,随意契約の要件に該当しないにもかかわらず,違法な総合評価方式を導入し,競争入札によるならば,最高価での譲渡申出価格を落札価格としなければならないのに,下位の価格申出者と契約したものであって,かかる者との契約価格は,とうてい地方自治法237条2項の「適正な対価」といえる価格ではない。

エ 議会の適正な議決がないこと

P9高校跡地の売却に関しては適正な対価のない譲渡であり,また施行令の定める基準を超えた処分であるから,議会の議決が必要である(地方自治法96条1項6号,8号,237条2項,同施行令121条の2第2項)。議会の議決は平成17年12月22日に行われているが,この際には随意契約であることの説明はなかったのであるから,適正な対価がなかったことを前提として審議がなされておらず,また,議員に配布された資料を見ても,当選者と次点者との間に32億円もの価格差があるとは気がつかないから,本件P9跡地売却の必要性や妥当性の審査をする前提が適正でない違法がある。なお,適正な対価とは時価をいうところ,時価とは競争入札の最高価格を指すのであるから,最高価格の入札者を落札者としなかったP9高校跡地の売却の場合は適正価格によるものではない。

オ P9高校跡地の売却については議員介入があったこと

P9高校跡地の買受事業者の決定に関しては,斡旋収賄容疑で検挙されたP14市議の介入が新聞紙上で取り沙汰されているところであり,同議員の介入によって,審査が歪められた可能性がある。

(参加人らの主張)

ア 地方自治法施行令167条の2第1項2号の「その他の契約」には,その前の例示で「不動産の売買」とせずに「不動産の買入れ」と限定していること,同じく「売払い」の対象を「物品」に限定していること等からして,「不動産の売却」を含まないと解すべきである。また,P9高校跡地の売却は,同施行令同条項の他の各号のいずれにも該当しない。地方自治法では,売買などの契約は一般競争入札で行うことが原則であり,随意契約をすることが許されるのは施行令で定める場合に限られる(地方自治法234条2項)。随意契約は例外であり,地方自治法施行令で定めた場合に限り許されるところ,随意契約が必要な場合はすべて施行令に規定しておく必要があるにもかかわらず,何ら立法措置が採られていないから,不動産の売却は随意契約によることができない。

神戸市は,P9高校跡地の売却のわずか4か月後の平成18年度から市有地を売却する方式を大幅に変更し,買受事業者の計画内容と購入価格の審査を分け,価格調書を開封する前に計画内容を審査し,それを通過した事業者に限って価格を公開し,最高価格を提示した事業者が当選する仕組みに変更しており,これは本件の方式の違法性を自認したことにほかならない。

イ 仮に,不動産の売却が随意契約でなしうるとしても,本件には随意契約の要件である「その性質又は目的が競争入札に適しない」場合に該当しない。そもそもP9高校跡地の売却の目的は,新設高校の建設財源に充当するためであったから,できるだけ高く売るためには競争入札(条件付一般競争入札)の方法で行うべきであった。また,βまちづくり協議会は地元住民の意見を反映する組織ではなく,その意見を反映させることは随意契約による必要性を根拠付けることにはならない。

したがって,P9高校跡地の売却は,随意契約の要件を欠くから違法である。

ウ 本件の審査における次点者の提案は,施設内容,建築・外交計画,事業遂行能力,全体評価のいずれにおいても,当選者の案よりも優れており,当選者の相手方には32億円もの価格差を犠牲にするに足りる優位性は認められない。

エ 買受事業者の選定過程には,次のとおりの違法事由がある。

(ア) 募集開始1か月前に,β地区まちづくり協議会に「神戸市立P9高校跡地土地利用事業者募集要綱案」が提示されたが,その中に当選者グループの1社であるP4が入っていた。しかも,本件の募集要項には動線計画が必要であるが,駅との接続方法の内容は明示されておらず,かつ駅につながるデッキの計画を立案するには事業者は多くの情報を必要としていることを知りながら,その情報を示さず放置しており,その結果,P4と組んだP3グループが有利になった。審査ではデッキのプランが高く評価され,当選の大きな原動力になったのであるから,きわめて不公正な審査である。

(イ) 当選者を決める第2回審査委員会で,応募者の内容点の審査を行う前に価格点を公表した結果,内容点の審査に影響を与えた。内容審査は,一次と二次の2回行っているが,審査の途中で得点を見せることによって,内容評価に影響を与えることになるから公平な評価を妨げる。

(ウ) 価格点の算出方式は価格を軽視したものである。

価格点と内容点は50対50となっているが,価格点は公表された土地売却参考価格を上回っておりさえすれば何点かは獲得できる。ところが,内容点の方はいずれかの項目で著しく劣り不適と判断された場合には失格となる。これでは内容点の評価の比重が重くなりすぎて均衡を失する。この点を詳論すると,今回の価格点の点数化の計算式は次のとおりである。

得点 =50点×当該応募者の譲受申出価格÷ 全応募者中の最高譲受申出価格

しかし,公平な基準としては次のようなものがある。

得点 =50点×(当該応募者の譲受申出価格-参考価格)÷(全応募者中の最高譲受申出価格-参考価格)

このような算式を用いるならば,今回の当選者は4位に後退する。

内容点の採点方法も各審査委員の持ち点配分ではないうえ,各委員の採点は,施設内容に20点,建築外構計画に10点,事業遂行能力に10点,全体評価に10点を配点し,以上の4項目について,「特に優れている」ものには◎,「優れている」ものには○,「普通」は△,「評価できない」ものは×を付ける方法によるものとし,◎は3点,○は2点,△は1点,×は0点として,項目ごとに獲得点数を集計し,それを配点に応じて換算すること(点数化の方法:配点×獲得合計点/満点)とされたので,総配点数が55点の審査委員がいれば,29点の審査委員もいる結果になった。これは一人の審査委員が◎を総計11個付けたのに対し,別の審査委員は◎を零という両極端な評価をした結果である。このような審査基準は審査委員の判断が的確に反映できず,公平ではない。

(エ) 審査委員会の構成は神戸市側に偏向していた。審査委員長のP18氏は,本件以外にも神戸市のコンペの委員長に選出されて選考に参加している。同氏は神戸市の建築審査会,都市計画審議会の会長をも兼務し,市の意向に反した行動はとりにくい。また市の職員3名及び元市の職員1名も同様の立場にあり,これら5名が市の意向を受けて審査をすれば容易に意図した結果を得ることができる。

(オ) 審査委員は,一つの分野の専門家にすぎないところ,専門外の事柄を審査し,評価するということは素人に判断を委ねているに等しいことになる。

例えば,事業遂行能力の採点基準は,α車庫跡地売却に関する審査基準では,当初,①資金計画,事業計画が健全かつ確実か(5点),②事業の実施に必要な知識,経験,資力,信用,技術的能力を有するか(5点),③事業遂行の確実性があるか(5点)であったが(丙70),事業遂行能力を判断することは専門的な高度の知識を必要とし,審査基準に含めることに疑問の声が挙がり,最終的には,事業遂行能力等(①事業遂行スキームの適切性,②事業計画,資金計画の健全性,確実性,安定性,③事業の実施に必要な実績・資金・技術等の能力)として大括りにされ,それが本件のP9高校跡地売却の審査基準にも踏襲された。項目別に点数を細かく分ければ審査委員にとって能力的に採点できないことを,大括りにすれば専門家以外でも点数を付けることができるというのは,恣意的であり違法である。

(カ) P9高校跡地の買受事業者の審査については,P14市議が唱えていた方式によって導入されたものであり,特定の事業者を当選させる目的で働きかけ,これに屈した神戸市が採用したものである。

(被控訴人の主張)

ア P9高校跡地の売却方法は随意契約であること

(ア) P9高校跡地の売却は,随意契約の方法によるものであり,随意契約の相手方の選考方法として,買受希望者が提示した買受後の土地利用方法の内容及び買受申出価格を総合評価する方式を採用した。公有資産の売却に際して,売却価格と利用計画の提案内容を総合して評価する「総合評価」の方法には,法的性質が一般競争入札である「総合評価一般競争入札」と随意契約である「総合評価公募型プロポーザル」の方法がある。神戸市が,P9高校跡地の売却において行ったのは後者であり,法的性質は随意契約である。

神戸市は,本件における売却先の選考方法を「総合評価方式」と呼称することがあるが,これは,随意契約の方法による契約相手の選定方法を,価格と内容を総合的に評価することによって決定したために,その実体を表す呼称として用いたものであり,随意契約であることを殊更隠ぺいしようとした事実はない。

本件の土地売却方法は,価格と提案内容を総合的に評価するという点で,地方自治法施行令167条の10の2が規定する総合評価一般競争入札と共通するが,支出原因となる契約締結の場合ではないから,法的には別個の方法である。

また,随意契約の選定作業においても常に企業名の開示をした上で選定作業を行わなければならないものではないし,より好ましい者を選定するために競争的要素を考慮すること,そのために審査基準に基づいて審査することも随意契約の性質と矛盾しない。

P9高校跡地の売払いについては見積書を徴していないが,そもそも見積書を求める神戸市契約規則26条は,神戸市公有財産規則5条1号により適用を除外されている上に,応募者が提出した各書面が見積書の実質を有している。また,随意契約によったことの公告がなされていない点については,P9高校跡地の売却は特定調達契約に該当しないために理由の公告は不要である。

(イ) 不動産の売払いは地方自治法施行令167条の2第1項2号の「その他の契約」に含まれるものであって,不動産の「買入れ」しか例示されていないのは,不動産の「買入れ」は随意契約の方法による場合の典型例であり,入札によることは通常は想定されないのに対し,不動産の「売却」を随意契約の方法によって行う事例は「買入れ」の場合ほど一般的ではないと想定されたため,その性質又は目的が競争入札に適しない契約の例として不動産の「買入れ」だけを示したにすぎない。

(ウ) 随意契約の方式によって不動産の売払いを行うためには,地方自治法施行令167条の2第1項2号の「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」に該当する必要がある。

そして,「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」とは,「競争入札の方法によること自体が不可能又は著しく困難とはいえないが,不特定多数の者の参加を求め競争原理に基づいて契約の相手方を決定することが必ずしも適当ではなく,当該契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても,普通地方公共団体において当該契約の目的,内容に照らしそれに相応する資力,信用,技術,経験等を有する相手方を選定しその者との間で契約の締結をするという方法をとるのが当該契約の性質に照らし又はその目的を究極的に達成する上でより妥当であり,ひいては当該普通地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合」を含み,そのような場合に該当するか否かは,「契約の公正及び価格の有利性を図ることを目的として普通地方公共団体の契約締結の方法に制限を加えている前記法(地方自治法)及び令(同法施行令)の趣旨を勘案し,個々具体的な契約ごとに,当該契約の種類,内容,性質,目的等諸般の事情を考慮して当該普通地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量判断により決定されるべきものと解するのが相当である」(最高裁判所昭和62年3月20日判決・民集41巻2号189頁)とされている。

イ P9高校跡地売却後のより望ましい土地利用の実現及び利用方法の制限が必要であったこと

(ア) P9高校跡地が所在する神戸市γ区では,P29δ駅周辺を区の中心核としており,P4ε駅周辺を区の中心核に次ぐ生活拠点として位置づけている。P4ε駅は特急停車駅であり,駅前のバスターミナルとともに主要な交通結節点となっており,γ区は区別計画において,同駅周辺を区南西部の中心的な商業ゾーンとして整備に努めることを目指している。

(イ) P9高校跡地は,P4ε駅の真正面に立地することから,駅前にふさわしい景観,デザインや駅へのアプローチが配慮されなければならないことは当然であるし,ε駅北側から国道×号線に至る2万4648.41m2もの広大な土地を一体として開発することで,商業,業務施設等と住宅のバランスのとれた配置,構成によるにぎわいの空間を創出することによって,β地域全体の活性化をもたらし,既存の周辺商業施設とも共存を図ることが期待される。また,既存の樹木の活用等による地域の環境との調和,高齢者に優しく,来街者を含めた市民の快適な暮らしの実現,青少年の健全育成のためのコミュニケーションスペースの整備,酒蔵,澤の井,だんじりなどの古き良きβの面影への配慮などが期待される。

(ウ) 平成12年10月11日,P9高校廃止に伴い,β地区まちづくり協議会が発足し,神戸市と同協議会との間で跡地の利用方法について協議が行われるとともに,同協議会から跡地利用の方法に関する要望書が4通神戸市に提出されている。神戸市は,平成16年12月2日付けの同協議会からの要望書に対し,平成17年2月7日付けで神戸市の考え方を説明しており,説明内容はβ地区まちづくり協議会広報誌「○○」第9号に掲載され,周辺住民に配布されている。

以上の経緯から,神戸市としては,買受事業者に対し,地元住民の意向を踏まえて平成17年2月7日付けで説明した考え方に基づく土地利用を求める必要があった。

ウ 土地売却後のより望ましい土地利用の実現,利用方法の制限が必要な場合の売却方法について

(ア) 神戸市としては,売却後のより望ましい土地利用を実現するため,土地利用計画を有しており,当該計画内容を実現するための資金力,実績等を有する事業者を売却先として選定する必要があった。

売却した土地のより望ましい土地利用を実現する方法としては,神戸市が土地の利用方法を特定した上で,当該条件を受諾する事業者のみで競争入札を行う条件付一般競争入札があるが,神戸市が土地の利用方法を考案するのでは発想内容に自ずと限界があるし,買受申出価格のみによって売却先を決めるため,事業計画・資金計画の健全性等を神戸市が判断する機会がない。

(イ) P9高校跡地の売却については,競争入札の方法によることが絶対的に不可能又は著しく困難であるとまではいえない。しかし,同土地は,上記のように売却後の土地利用方法が街づくりに与える影響が重大であるため神戸市が売却後の土地利用に関与せず,単なる価格競争のみによって又は民間の創意工夫を活用せずに売却の相手方を決定するのは相当ではなく,多少とも価格の有利性を犠牲にしても,街づくりにとってより望ましい土地利用方法を提案した事業者を売却の相手方として選定する必要があった。

したがって,P9高校跡地の売却は,「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」に該当するため,神戸市が随意契約の方法によったことは適法である。

エ 本件における売却方法の適法性について

(ア) 土地の利用方法を神戸市が示す指針及び条件の枠内で民間事業者の自由な発想に委ねることによってより望ましい利用方法を実現するとともに,売却価格についても可及的に高額での売却を目指すという双方の要請を満たす方法として考案されたのが,買受希望者が提示した買受後の土地利用方法の内容及び買受価格を総合的に採点評価し,総合評価の点数が最も高かった事業者を売却先に決定して,当該事業者と随意契約の方式によって売却する方式である。地方公共団体が随意契約を行うには,契約の相手方として当該契約の目的,内容に照らしそれに相応する資力,信用,技術,経験等を有する相手方を選定する必要があるが,随意契約の相手方をどのような方式によって選定するかは法令上の制約は存在せず裁量に委ねられており,上記のような総合評価一般競争入札と類似する方法によって不動産売却の相手方を決定することも可能である。

(イ) 本件の選定方法は,選定方法の透明性を高めるために,①候補者を公募制にしたこと,②価格及び内容の評価基準・点数配分を事前に作成して公表したこと,③価格及び内容の評価のために学識経験者を中心とした選考審査委員会を設置したことなどに特徴があるが,価格と内容を総合的に評価するという手法自体は,複数の候補者から随意契約の相手方を選定する場合に一般的に行われている方法である。

(ウ) 土地利用計画の内容と買受価格とを総合評価して買受人を決定するに当たっては,最高価での申出人に売却することになるとは限られず,多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になることが想定される。

そこで,土地利用方法を公平に審査するため,上記のとおり,審査基準を定めて事前に公表するとともに,事業者選考審査委員会(審査委員は6名の学識経験者と3名の神戸市職員で構成)を設置し,同委員会での審査によって当選者の選考を行っている。

また,神戸市は,買受事業者の募集に当たっては土地売却参考価格を定め,同価格を最低価格と捉えるように求めている。この土地売却参考価格は,不動産鑑定士による鑑定評価額を参考に,神戸市不動産評価審議会に付議して評定を得た価格に基づいて設定した適正な価格である。P9高校跡地については,鑑定評価額は63億3460万円であり,同審議会の評定に基づいて75億円を土地売却参考価格と定めている。そして,土地売却参考価格は,P9高校跡地の時価として適正に評価された金額を基に設定したものであるから,買受事業者として決定された者の買受申出額が土地売却参考価格を上回っておれば,最高価格を提示した事業者に売却されないことになったとしても,それによる価格面での犠牲は許容される範囲内であり,最高価での提示額と売却価格との差額を理由に随意契約の方法によって売却したことが違法とはならない。

(エ) 神戸市は,売却後の土地利用計画をより望ましい方向へ誘導するとともに利用方法に最低限の制約を加えるために,土地利用指針及び土地利用計画提案条件を定め,事業者募集要項に,土地利用指針及び土地利用計画提案条件の内容並びに土地利用指針等に対応した審査項目及び配点によって当選者を決定する旨を記載し,応募希望者に事業者募集要項を配布している。なお,土地利用計画提案条件に合致しないものについては,自動的に落選となり審査の対象とはしないこと,いずれかの審査項目において著しく劣り「不適」と判断された提案は,総合得点のいかんにかかわらず,失格とすることがあることを定めている。

(オ) P9高校跡地については6者の応募があり,審査の結果,当選者の提案概要は土地利用指針に最もよく合致した内容となっており,内容点50点満点のうち44.44点を獲得した。一方,次点となった応募者の提案内容は,住宅の比重が高く,商業施設の計画内容において,核となる店舗が小規模であり,商業施設全体としての規模も小さいため,広域からの集客が見込めず,駅前の顔としての魅力,にぎわいの点でP3株式会社を代表とする共同事業者の提案より劣ると評価され,内容点は28.89点にとどまった。なお,P9高校跡地事業者選考審査委員会においては,当選者の提案内容が当選者と次点者の申出価格の差額を埋め合わせるだけの優れた計画であるかも議論されたが,当該議論を踏まえた採点によっても,P3株式会社を代表とする共同事業者が最高点を獲得している。

オ 買受事業者の選定過程の適法性

(ア) その判断基準

P9高校跡地の売却を随意契約の方法によって行うために相手方をどのような方法で選定するかは,契約締結権者の裁量に属する。選考委員会の構成,点数の配分,審査の手順等については契約締結権者の裁量によって定めることが可能な事情であり,本件で行われた以外にも方法があり得なかったわけではないが,最も適切な選定方法であったか否かと違法であったか否かは次元を異にする。考えられる選定方法の中で最も適切な方法であったか否かは,法的責任を追及する訴訟の場ではなく,行政的責任・政治的責任を問う場で行うべきである。

(イ) P4を含む事業者が有利であったこと

控訴人らは,β地区まちづくり協議会にP4が参加していたことを問題視するが,β地区の活性化にP4ε駅が果たす役割は大きいし,地域の重要な構成員であるP4がβ地区まちづくり協議会に参加することは何ら不当なことではない。

当選者の事業者集団にP4が加わっていることにより,当選者が連絡デッキについて具体的な提案を行うことができたのは,P4を取り込むことに成功したグループが有利な結果になっただけのことである。

(ウ) 価格調書の開封について

審査委員は応募者の提出書類を精査して,価格調書を開封しなくとも,収支計画書における用地費の記載内容によって各応募事業者の予定している用地価格を認識できる。そのため,審査途中で価格調書を開封したことと,採点前に譲受申出価格が認識されていたことによって内容点の審査が恣意的になるわけではない。

また価格調書の開封後に,ある審査委員から次点者が最高価格を提示していることの重みを指摘する意見が出され,内容面の良い点も改めて指摘され(乙5),2回目の採点では次点者の内容点が上積みされているが,かかる事実は当選者に便宜を図るために価格調書を開封したとの主張とは整合しない。

(エ) 価格審査

価格点と内容点の配分をどのようにするかについては裁量に委ねられている。また審査項目を細分化するか大項目とするかについても,いずれか一方のみが正当な方法というわけでもなく,いずれの方法であっても契約締結権者の裁量の範囲内である。また価格点と内容点を各50点としていても,その算出方法によって点数への反映の度合いが異なるが(応募者の申出価格の差を価格点の点数にどのように反映させるかは計算式の分母と分子の内容によって異なる。),P9高校跡地で採用された方法は,分母を最高譲受申出価格,分子を当該応募者の申出価格として算出するものであり,この方法もまた合理的な算出方法の一つである。

採点方法についても持ち点制も一つの方法であるが,絶対的な正当性を有する方法ではない。優れている提案に◎をつける数が制限されていない本件の採点方法にも,複数の優れた提案が行われた場合には,それ以外の提案との間に相応の点数差を生じさせることができるという利点があり,持ち点制を採用しなかったことは裁量の範囲内である。

(オ) 審査委員の構成

控訴人らは,審査委員会の審査はP3グループを当選させるために不正が行われたと主張するが,審査委員の氏名は事前に公表されていないので応募者が働きかけるのは不可能である。また審査委員が高度の清廉性を有することはその立場・経歴に照らして明らかである。

(カ) 審査能力

本件の審査委員は,P9高校跡地の売却・利用に関係する分野から相応の知見を有する者から選考されている。各分野の立場からの意見を合成・総合してより良い結論を得ようとする方法は,価値観が多様化した現代社会において可及的に多くの者の賛同を得ることができる方法である。また,特定部門の専門家は,専門以外の分野についても相応の見識を有しているのが一般である。

事業遂行能力の審査は,公認会計士や不動産鑑定士でなければ行えないものではない。

カ 市議会の議決

本件では,神戸市が不動産鑑定士に依頼して行ったP9高校跡地の不動産鑑定価格を超えて売却されており,適正な対価による譲渡であるから,地方自治法237条2項による議会の議決は必要はない。同法96条1項8号に基づく議決は,平成17年12月22日の市会においてなされており,その際市会議員に対して,「神戸市立P9高校跡地土地利用事業者募集について」(甲44)及び「神戸市立P9高校跡地土地利用事業者募集における買受事業の決定について」(乙22)の資料が配付され,必要な情報が開示されている。

キ 次点者案との比較

P9高校跡地の利用に当たっては,地域の賑わい・活性化の実現が最大の関心事であり,百貨店を駅前に配置した当選者の提案内容は高く評価できる。これに対し,次点者案は,駅前にタワー型マンションを配置し,総戸数598戸のマンションを建築する計画であるが,これは人口を密集させるだけで,駅前の活性化に結びつかない。駅前から北側へのモール沿いに配置された商店も個店が並列されただけであるし,入店が予定される店舗の業種にも目新しさはなく街の魅力として十分ではない。その他の商業施設も集客力は乏しい。当選者案を高く評価した審査委員会の結論は正当である。

第3当裁判所の判断

1  争点1<α車庫跡地に関する監査請求の適法性-監査請求期間徒過について正当な理由はあるか>について

(1)  前提となる事実関係

前記第2,1,(2)の事実,証拠(甲1,2,11,15,28~30,乙2~4)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

ア(ア) 神戸市は,その所有するα車庫跡地を売却することとし,売却先の土地利用事業者募集について,平成16年9月1日から募集要項の一般への配布を開始した。

(イ) 同募集要項には審査基準が掲載されており,同基準によれば,価格点50点,内容点50点の合計を総合得点とし,買受事業者の選定をするα車庫跡地事業者選定審査委員会は総合得点の高い者を当選者とし,神戸市は,同審査委員会の審査結果に基づいて買受事業者を決定するとされていたところ,価格点に係る点数化の計算式は

価格点=50点×当該応募者の譲受申出価格/全応募者中の最高譲受申出価格

とされていた。

(ウ) また,同募集要項には,買受事業者決定後の予定として,契約締結を平成17年1月21日に行うこと,売買代金の支払を同年3月29日に行うこと,売買代金完納と同時に同土地の所有権が買受人に移転すること等も記載されていた。

イ 神戸市は,平成16年12月20日に開催されたα車庫跡地事業者選考審査委員会の答申を受けて,P2株式会社を買受事業者とすることを決定した。なお,買受価格は20億円であったが,これは応募者7名の中で4位であり,応募者が提示した譲受申出価格の最高価格は31億6000万円であったため,最高価格との差額は11億6000万円であった。

ウ 神戸市は,平成16年12月22日ころ,同市のホームページに,「α車庫跡地土地利用事業者募集における買受事業者の決定について」と題して,α車庫跡地の買受事業者が決まったこと,買受価格,選定方法の概要,審査結果(応募者全員の価格点,内容点及び総合点。ただし,当選者及び次点者以外の応募者の結果については,匿名で表示されている。)等を掲載した。この表示された結果は,次のとおりである。

価格点

内容点

総合得点

A(当選者)

31.65

38.52

70.17

B(次点者)

42.72

26.67

69.39

50.00

17.04

67.04

39.92

22.22

62.14

31.37

24.07

55.44

27.37

23.70

51.07

27.37

17.78

45.15

エ 同月23日のP16新聞及びP15新聞の各朝刊,同月25日のP17新聞朝刊に,α車庫跡地の買受事業者が決定したことや買受事業者の事業計画の記事が掲載された。

オ 神戸市とP2株式会社は,平成17年1月21日にα車庫跡地について売買契約を締結し,同社は同年4月7日に売却代金の支払を終え,同月8日に同土地の所有権移転登記がなされた。

カ 控訴人ら及び選定者らは,平成18年4月28日から同年6月2日にかけて,神戸市監査委員に対し,α車庫跡地の売却について最高額31億6000万円に対し,20億円での売却を決定したこと,当選者の価格は応募した7社の中で4番目であったこと等を理由として,P1への損害賠償請求等の措置を求める住民監査請求を行ったところ,神戸市監査委員は,同年6月22日付けで,監査請求期間の徒過を理由に監査請求を却下した。

(2)  検討

ア(ア) 上記のとおり,α車庫跡地の売却については,平成17年4月8日までに履行を終えているところ,監査請求は,原則として当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過したときは,これをすることができない(地方自治法242条2項本文)が,正当な理由があるときは,この限りでない(地方自治法242条2項ただし書)。しかるところ,控訴人らが,監査請求をしたのは,上記1年経過後の平成18年4月28日であるので,「正当な理由」の有無について検討することとする。

(イ) 控訴人ら及び選定者らのしたα車庫跡地についての監査請求は,被控訴人のした財務会計上の行為である同土地の売却が財務会計法規に違反して違法,無効であることに基づき発生する実体法上の請求権の不行使を対象とする,怠る事実についての監査請求と解されるところ,普通地方公共団体の長の財務会計上の行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実とする住民監査請求については,当該財務会計上の行為のあった日又は終わった日を基準として地方自治法242条2項の規定を適用すべきであるから(最高裁判所昭和62年2月20日第二小法廷判決・民集41巻1号122頁参照),上記監査請求については同条項の適用があり,監査請求期間の起算点は上記のとおりとなる。

(ウ) これに対して,控訴人らは,控訴人がα車庫跡地の売却に関して総合評価方式を採用したことについて不正があり,P1には不法行為に基づいて損害を賠償する義務があるにもかかわらず,被控訴人はP1個人に対する損害賠償を怠っているとして,そのような損害賠償請求を怠る行為は,いわゆる真正怠る事実に該当するので,監査請求の期間制限はないと主張している。

控訴人らの主張するP1の不法行為の内容は必ずしも明確ではないが,要するに,α車庫跡地の売却に関して採用すべきではない総合評価方式を神戸市が採用したことには,市議等による何らかの働きかけがあり,そのためにα車庫跡地を不当に低い額で売却したとし,その行為にP1が共謀又は加功したというものと解される。しかし,α車庫跡地売却において採用された選考方式が違法でないならば,その採用を市議等が働きかけたことについても違法ということはできず,結局,上記の事実について監査委員が監査請求について監査を遂げ,監査請求に理由があるかないかを判断するためには,監査委員においては,α車庫跡地売却の方式が適法な方式であったか否か,α車庫跡地の売却代金が不当に低額であったか否か等の論点を検討せざるを得ず,その上でその契約締結や代金額の決定が財務会計法規に違反する違法なものであったと判断されて初めて,損害賠償請求権の発生を肯認することとなる。そうである以上,控訴人ら及び選定者のしたα車庫跡地についての監査請求は,被控訴人の行ったα車庫跡地の売却が,財務会計法規に違反して違法,無効であることに基づき発生する実体法上の請求権の不行使を対象とする,怠る事実についての監査請求であると理解しなければならず,いわゆる不真正怠る事実というべきであるから,監査請求の期間制限に服するというべきである。

(エ) 地方自治法242条2項本文は,普通地方公共団体の執行機関,職員の財務会計上の行為は,たとえそれが違法,不当なものであったとしても,いつまでも監査請求又は住民訴訟の対象となり得るものとしておくことが法的安定性を損ない好ましくないとして,監査請求の期間を定めている。そして,当該行為が秘密裡にされた場合に限らず,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内容を知ることができなかった場合には,上記の趣旨を貫くのは相当でないというべきである。したがって,そのような場合には,上記正当な理由の有無は,特段の事情のない限り,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて上記の程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものである(最高裁判所平成14年9月17日第三小法廷判決・裁判集民事207号111頁)。

(オ) 前記(1)によれば,α車庫跡地の売却については,平成16年12月22日ころには,買受事業者,買受価格,選定方法の概要,審査結果が神戸市のホームページ上で公表され,その翌日には各紙朝刊にα車庫跡地についての記事が掲載されていたのであるから,同月22日ころには,同土地売却の概要について,普通地方公共団体の住民は知り得べき状態にあったといえる。そして,審査基準の掲載された募集要項は,平成16年9月1日から公表,配布され,そこに記載された計算式によれば,価格点50点の買受価格を簡易な計算によって算出することができるのだから(20億円÷31.65×50≒31億5956万円),α車庫跡地について普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査すれば,平成16年12月22日ころには,最高譲受申出価格が約31億6000万円であって,買受事業者の申出価格は7名の応募者の中で4番目であること等の事項を知り,同土地の売却の存在及び内容につき客観的にみて監査請求が可能な程度に知ることができたといえる。

控訴人ら及び選定者らは,α車庫跡地の売却につき,上記時点から相当期間内に監査請求をしたとはいえないから,上記「正当な理由」があったとは認められない。

イ(ア) この点,控訴人らは,監査が可能といえるためには,当該財務会計行為が違法不当であることを基礎付ける事実を知り得ることが必要というべきであるとし,①α車庫跡地の違法な土地売却について神戸市民が議会を通して知ることになったのは,P9高校跡地が低額で売られた事件に関連して議会で話題になった際の平成18年4月17日ころであり,②総合評価方式を採用したにもかかわらず随意契約で買受人と契約したという神戸市の主張を知ったのは,同年6月8日(神戸市議会,政治倫理確立委員会)であるから「正当な理由」があると主張する。

しかし,監査請求が可能といえるために,議会での審議があったことは必要ではないところ,前記(1)のとおり,α車庫跡地が売却されたことが報道された時点で,募集要綱(甲15)が公表されており,同要綱には(「総合評価方式」という呼称で書かれている訳ではないが)審査基準及びα車庫跡地事業者選考審査委員会を設置し,同委員会が審査基準に基づいて先行審査を行い,価格点と内容点の総合得点の最も高い者を当選者とする旨の審査方式が記載されており,相当の注意力をもって調査を行えば,同要綱から監査請求が可能な程度に当該財務会計行為の存在及び内容を知ることができたというべきである。したがって,控訴人らの主張に理由はない。

(イ) また,控訴人らは,α車庫跡地について,①P14市議が神戸市幹部に圧力を加えたことを平成18年4月17日付けのP15新聞の記事で知ってから66日以内に監査請求を行ったから,相当な期間内に監査請求を行ったものであり,正当な理由がある旨主張する。

確かに,控訴人らは,監査請求時に,α車庫跡地売却について,P14市議の違法な圧力のかかった審査であった旨を主張しているが(甲1),その一方でα車庫跡地の売却価格が不当に安い旨も主張しており,結局のところα車庫跡地の売却価格が不当に低額であったことを問題としていると理解できる。そうであれば,上記(ア)のとおり,監査請求が可能な程度に当該財務会計行為の存在及び内容を知ることができたというべきであるので,控訴人らの主張に理由はない。

2  争点2<P9高校跡地の売却についての違法性>について

(1)  P9高校跡地の買受事業者決定に至る過程

前記第2,2,(3)の事実,証拠(甲2,16,41,乙5,8~10,14,16,27,丙5,7,15,16,47)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

ア 平成12年10月11日,P9高校廃止等に伴い,β地区まちづくり協議会が発足した。なお,まちづくり協議会は,神戸市地区計画及びまちづくり協定等に関する条例(昭和56年12月23日条例第35号)に基づき,まちづくり提案の策定,まちづくり協定の締結等により,専ら,地区の住み良い街づくりを推進することを目的として住民等が設置した協議会であり,市長が一定の要件(①地区の住民等の大多数により設置されていると認められるもの,②その構成員が,住民等,まちづくりについて学識経験を有する者その他これに準ずる者であるもの,③その活動が,地区の住民等の大多数の支持を得ていると認められるもの)に該当することを条件として認定した団体をいう。

P9高校跡地はP4ε駅前北側に所在する広大な土地であり(実測面積2万4648.41m2),その利用方法が近隣地域に与える影響が大きいことから,神戸市と同協議会との間で跡地の利用方法について協議が行われるとともに,同協議会から同土地利用の方法に関する要望書が神戸市に提出された。

平成17年2月7日開催されたβ地区まちづくり協議会全体会議において,地元の要望を最大限反映させたものとして神戸市教育委員会がまとめた「神戸市の考え方」が発表された。β地区まちづくり協議会からの要望事項に対する「神戸市の考え方」は,①商業・住宅のバランスのある土地利用計画,②地域交流スペースの確保,③公共・公益施設の整備,④景観デザイン等の整備,⑤P4ε駅改善の電鉄に対する具体的指導,⑥地元要望確保の確認システム等の各項目について記載されていた。

イ 神戸市では,平成16年当時からα車庫跡地及びP9高校跡地の売却が懸案事項となっており,その担当部局である行財政局財政部において具体的な売却方法が検討されていた。まず,α車庫跡地売却方法についての選択肢として,①一般競争入札,②土地利用条件指定型入札(土地利用条件を指定し,その条件を満たせば入札価格で決する方式),③価格指定・内容審査型事業コンペ(価格を固定して内容を審査し,買受事業者を決する方式),④価格・内容総合評価型事業コンペ方式があると考えていた。このうち,①の一般競争入札については,街づくりとの関係で,価格面以外の土地利用内容の考慮も必要であるとの点から排除された。②の土地利用条件指定型入札方式については,民間が持つ創意工夫・事業遂行能力を活用することによってより良い土地利用を実現するためには,行政による土地利用条件の設定が障害となること,応募者が最終的には価格で勝利しないといけないために,採算性を最大限確保しようとして街づくりにとって何が望ましいかの観点が軽視されるおそれがあり,仮に内容的に良い提案があってもその良否に関係なく,最終的には金額の要素で決定されることは好ましくないとの判断で選択肢から除外された。③の価格指定・内容審査型事業コンペ方式は,街づくりにとって最も望ましい土地利用計画を選定することができるが,その代償として,適正な価格として行政が設定した価格よりもより高く売ることができる可能性を喪失させてしまうという欠点があったことから,これもまた選択肢から除かれ,最終的に④の価格・内容総合評価型事業コンペ方式が採用された。④の方式の利点は,内容的に大差がなければ価格が高い事業者に決まる可能性が高く,価格に大差がなければ内容の良いところに決まる可能性が高く,良い街づくりを行うことができることであり,また,内容的に良くても価格が相対的に低いものと,内容的に平凡でも価格が相対的に高いものが競合した場合は,あらかじめ定めたルールで買受事業者を決めることになり,内容か価格かの少なくとも一つのメリットは享受でき,かつ最低売却価格と街づくりの上で必須の要請を条件提示しておくことで,上記競合が生じた場合における弊害を最小限にすることができると考えられた。

神戸市は,株式会社P19鑑定所P20支所に対して,P9高校跡地の評価を依頼した。同鑑定所所属不動産鑑定士P21,P22,P23は,平成17年6月20日付け鑑定書を提出し,P9高校跡地の価格を63億3460万円と査定した。神戸市担当者は,神戸市不動産評価審議会に付議して評定を得た価格に基づいて,P9高校跡地の最低売却価格を75億円とすることを決定した。

ウ 神戸市は,平成17年7月付けで「神戸市立P9高校跡地土地利用事業者募集要項-神戸市γ区η-」を策定した。同募集要項には,事業者の募集要項として大要次のような内容が記載されていた。

(ア) 土地の売却条件

a 土地売却参考価格

75億円(当該参考価格は,譲受価格の申出にあっては最低価格と捉えること)

b 土地利用指針

駅前という立地条件を活かしたβにふさわしいまちづくりを行っていくため,以下の視点にたって,土地利用計画を提案すること。

① γ区の主要な交通結節点であるP4ε駅の北側に位置している当地域は,神戸市総合基本計画(区別計画)では,区南西部の中心的な商業ゾーンとして整備に努めるものとされている。P9高校跡地については,商業・業務施設等と住宅のバランスのとれた配置・構成によりにぎわい空間を創出するとともに,地域の環境とも調和するような土地利用計画を求める。土地利用及び施設整備に当たっては,高齢者に優しく,来街者を含め市民の快適な暮らしの実現に資するものが望ましい。

また,β地域全体の活性化につながり,既存の周辺商業施設とも共存を図る工夫を求める。

なお,後記により条件付けられた青少年の健全育成のためのコミュニケーションスペースの整備に当たっては,利用しやすく魅力的な配置・構造となることが望ましい。

② 施設の建設計画に際しては,酒蔵・澤の井・だんじりなど古き良きβの面影や,駅前にふさわしい景観・デザインに配慮するとともに,駅へのアプローチ,周辺地域も含めた防災,既存の樹木の活用など緑豊かな環境,すべての人に利用しやすいユニバーサルデザインへの配慮などを求める。

c 土地利用計画提案条件

土地利用計画の提案に当たっては,必ず次の条件を遵守すること。これを満たさない場合は,審査対象としない。

① P9高校跡地南東部に,P4ε駅前の玄関口として,また,市民の憩える場所として,面積1000m2以上の広場を確保すること。

なお,この広場については,防災機能をもたせ,地域の催物(だんじり等)の際にも提供できる形態とし,事業者において管理するものであること。

② 商業業務施設等及び住宅を必ず配置すること。

Ⅰ 商業業務施設等については,特定の者の利用に限定されず広く市民来街者に開かれたにぎわいや集客性,利便性に配慮した機能を,少なくとも3000m2(床面積の合計)以上必ず含むこと(ただし,上記床面積は容積対象床面積とし,他の機能と共用する部分及び(立体)駐車場の面積は,算入しない。また,後記③の面積500m2程度は別途確保を要する。)。

Ⅱ 住宅については,世帯向けを中心とした住戸とし,駅前にふさわしい良質な共同住宅を少なくとも100戸以上配置すること。ただし,住宅には,ワンルームマンションを含まないこと。

③ 地域の方も利用できる青少年の健全育成のためのコミュニケーションスペースを計画整備すること。

(主な条件)

Ⅰ 用途:音楽スタジオ,多目的室,フリースペース等

Ⅱ 延べ床面積:500m2程度

Ⅲ 場所・階数:商業業務施設区域内,一層

Ⅳ エレベーター:2階以上に計画整備する場合は,地上からエレベーター(エスカレーター)による利用を可能とすること

Ⅴ 運営:完成後は,神戸市の選定する運営主体(NPO法人等)に無償貸与すること

④ 主たる商業業務施設への来客用自動車駐車場の出入口は,P9高校跡地西側に面して計画整備すること。また,P9高校跡地の南側からの車両の出入りはできないものとする。なお,駐車場は一般にも利用できる形態とすること。

⑤ 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律2条1項に定める風俗営業,同条5項に定める性風俗関連特殊営業の用に使用してはならないこと。また,いわゆるラブホテルに類する施設の設置,営業も行わないこと。

⑥ 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律2条2号に定める暴力団その他の反社会的団体及びそれらの構成員がその活動のために利用するなど公序良俗に反する利用を行わないこと。

⑦ P4ε駅北地区地区計画に従うこと。

d その他の土地売却条件

① 土地利用の用途

買受事業者は,申込時に提出した土地利用計画書等に従い,平成22年3月31日までに必要な工事すべてを完了し,P9高校跡地全体を土地利用計画に基づく用途に供しなければならない。

なお,事業を行うに当たって,やむを得ない事情により,申込時に提出した土地利用計画案を変更する場合には,事前に文書により申請し,市の承認を得ること。ただし,本事業者募集の趣旨を損なうような変更は認めない。

また,開発許可,建築確認等の諸手続前には,建築計画の概要を示す書類を提出すること。

② P9高校跡地南側の道路及び公共駐輪場等周辺整備について(省略)

③ 青少年の健全育成のためのコミュニケーションスペースの運営について(省略)

④ 既存校舎等の解体,撤去について

(省略)

⑤ 契約上の主な制限条項

Ⅰ 平成22年3月31日までに必要な工事を完了し,選考された土地利用計画に基づいた土地利用の用途(以下「指定用途」という。)に供すること。

Ⅱ 契約から10年間は,神戸市の承認を得ないでP9高校跡地及びP9高校跡地の上に建築された建物に関する所有権,地上権,使用貸借権,賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利の設定又は移転をしてはならないこと。ただし,土地利用計画,事業計画で予定されている場合はこの限りではない。

Ⅲ 風俗営業等の用に使用してはならないこと及びその承継義務

Ⅳ 公序良俗に反する利用を行わないこと及びその承継義務

Ⅴ 違約金及び契約解除

上記制限条項に違反したときは,土地売買代金の30%の金額を違約金として徴収する。その上で,契約を解除する場合がある。

⑥ 土地の売買契約及び引渡し等

Ⅰ 買受事業者に決定した者は,平成17年11月15日までに売買代金の5%を契約保証金として支払わなければならない。

Ⅱ 平成17年11月15日に神戸市の定める様式により仮契約を締結する。買受事業者に決定した者が仮契約を締結しない場合には,次点者の事業者と仮契約を締結する。

この仮契約は,P9高校跡地の処分に係る議会の議決があったときに本契約としての効力を生ずる。

(以下省略)

(イ) 買受事業者の決定等

a 買受事業者を選定するために「P9高校跡地事業者選考審査委員会」を設置する。同審査委員会は,学識経験者と神戸市職員10名以内で構成する。

b 同審査委員会は,後記審査基準により選考審査を行い,価格点と内容点の総合得点の最も高い者を当選者,2番目に高い者を次点者とする。

c 神戸市は,同審査委員会の選考結果に基づき,買受事業者を決定する。

d 選考審査の結果については,公表するとともに,書面により応募者全員に通知する。

(ウ) 審査基準

別紙「審査基準」記載のとおり

エ P9高校跡地売却について,応募者は最終的には6者となった。そこで,平成17年11月7日,P9高校跡地事業者選考審査委員会による第2回審査委員会が開催された(なお,第1回審査委員会は,審査基準の設定を行うものであり,ここで定まった審査基準は上記のとおり募集要項(甲16)で公開済みであった。)。審査委員会の委員は,神戸大学工学部教授P18委員長を始めとして,大学の経営学部教授,不動産鑑定士,弁護士等の審査委員6名及び神戸市職員の審査委員3名の合計9名から構成されていた。

(ア) 応募者によるプレゼンテーション等も行われたところ,審査結果は次のとおりとなり,応募者A(P3株式会社を代表とする共同企業体,以下「P3グループ」という。)が当選した。なお次点者Bは。P24グループ(以下「P24グループ」という。)であった。

応募者

価格点

内容点

総合得点

A(当選者)

36.21(84億1587万2830円)

44.44

80.65

B(次点者)

50.00(116億2200万円)

28.89

78.89

41.64(96億7900万円)

32.22

73.86

45.60(106億円)

27.04

72.64

36.98( 85億9657万4000円)

24.07

61.05

38.77(90億1058万5000円)

15.19

53.96

(イ) 当選したP3グループの提案概要は次のとおりである。

a 施設内容

P25百貨店(売場面積約6000m2)

物販,飲食,サービス店舗(売場面積約9000m2)

カーショールーム(ショールーム面積約600m2)

青少年の健全育成のためのコミュニケーションスペース(約800m2)

分譲住宅(408戸)

住宅型有料老人ホーム(98室)

だんじり広場(約1300m2)

b 施設規模

商業棟 鉄骨造5階建 延床面積約4万1000m2

住宅棟 鉄筋コンクリート造50階建 延床面積約6万4000m2

(ウ) 当選者は,価格点では他の応募者より劣っていたものの,次点者と比べて次の10点が高く評価されたため内容点としては最高点を取得して当選した。

① 商業と住宅の配置,構成に優れ,提案全体としてバランスのとれた計画となっていること

② 百貨店を核店舗とし,多様な専門店を配置する商業施設は,広域からの集客が期待でき,区南西部の中心的な商業ゾーンとして,にぎわいの拠点を創出していること

③ 百貨店及び専門店からなる対面接客重視の商業施設は,周辺の既存商業施設との共存が可能な計画となっていること

④ 駅前に商業施設を配置して空間的広がりを確保しつつ,ランドマークとしてタワー型マンションを北側に配置していること

⑤ 敷地北西部に地域住民の憩いの場となる緑地広場を設置するなど,地域環境との調和にも配慮されていること

⑥ 青少年の健全育成のためのコミュニケーションスペースについても,利便性が高くアクセスしやすい位置に,適切な内容で計画されていること

⑦ 建築・外構計画では,御影石や水を効果的に利用しβのイメージの継承を図るほか,モニュメントの設置や緑化等により優れた景観を創出していること

⑧ 敷地南東部に整備を条件付けた広場は,屋根を備え,多様なイベントに対応しつつ防災機能も発揮することができること

⑨ 駅施設を始めとする周辺との連携にも積極的に取り組む計画で実現性も高いと認められ,地域全体のポテンシャルを上げる工夫が見られること

⑩ 地元商店街,NPOやグループ企業等とともにイベント開催や情報発信を行うなど,竣工後の運営面についても工夫がなされていること

(エ) なお,当選者案については,「全体の配置は一番良い」「町のイメージを上げる効果がある」「駅前の構え,町の構えとして良い」などと内容においては審査委員全員から高く評価されたが,価格点では応募者の中で最下位であった。この点については,後記の1回目の審査と2回目の審査の間に,同委員会の審査委員から(次点者については)「最高価格を提示していることには重みがあります。また,東側商店街に通路を抜く工夫や,いろいろ多様な施設を含む提案をしていることなどを考えると,内容点が少しマイナスに振れすぎているきらいも感じないではありません。」との指摘があったが,他方,「金額の低い応募者が高い応募者をしのいでしまいますが,これだけ内容点で差がつくといかんともしがたいでしょう。」との意見も出された。同委員会では,2回の審査が行われたが,総合点での1位は2回とも応募者A(P3グループ)であった(次点者は,一次審査では応募者Cであったが,二次審査では応募者BのP24グループとなった。)。

オ 神戸市は,P3グループとの間に,平成17年11月7日,土地売買仮契約を締結し,同年12月22日,神戸市会(第4回定例市会)第66号議案土地売却の件として提案議決され,本契約として発効した。

(2)  P9高校跡地の売却に関する契約締結方式

ア P9高校跡地の売却は,上記のように募集要項に基づき,募集要項の条件を備えた一定の応募者の売却希望価格やその提案に係る土地利用方法等を総合勘案して相手方を選ぶものであり,「総合評価方式」と呼称されることがあったとしても,総合評価一般競争入札及び総合評価指名競争入札(地方自治法施行令167条の10の2,167条の13)とは異なり,随意契約の一形態であると認められる。

イ この点,控訴人らは,P9高校跡地の売却は総合評価方式で行われたところ,総合評価方式は支出の場合にのみ行われる競争入札であるから(地方自治法施行令167条の10の2第1項),土地の売却払下げに適用したのは違法であるなどと主張する。

地方自治法が認める地方公共団体の契約締結方法は,一般競争入札,指名競争入札,随意契約及びせり売りであるが(同法234条1項),一般競争入札,指名競争入札及びせり売りは,競争を行わせて地方公共団体に最も有利な価格の申込をした者を契約の相手方に選定する方法であるのに対し,随意契約は,競争の方法によらないで,任意にある特定の相手方を選定して契約を締結する方法であり,特定者との協議による契約である。換言すると,随意契約という特定の契約締結方法があるわけではなく,地方公共団体が締結する契約のうち競争入札又はせり売りでないものはすべて随意契約に属することになる(参加人らは,以上のいずれにも含まれない契約締結方法があるかに主張するが,採用できない。)。

本件で問題となる契約の相手方を価格とその他の条件の総合評価により選定する方法は,競争入札的な要素を含むが価格のみを選定要素としない点で当然に競争入札になるとはいい難い。しかし,随意契約の場合は,随意契約によるための一定の要件が満たされれば,相手方選定のための具体的方法の選択及び価格の決定等は,原則として,契約締結権者の裁量に委ねられていると解されるところ,価格とそれ以外の条件を総合評価して契約の相手方を選定する上記方法については,少なくともこれを随意契約として行うことが許されないと解する理由はない。随意契約とは,前記のとおり競争の方法によらないで,任意に特定の相手方を選択して締結する契約方式であり,この「任意」の選択方法については法規上特段の覊束はなく,その選択をする際において,契約の相手方の価格とその他の条件を総合評価して行うことは,無方式に,いわば成り行きで選定したりするより遙かに合理的であることはいうまでもないからである。したがって,本来,支出原因契約又は収入原因契約のいずれであろうと,契約の相手方を価格とその他の条件の総合評価で選定することは随意契約として許容されていたと解される。ただ,地方自治法及び同法施行令は,支出原因契約については,価格とそれ以外の条件を総合評価して契約の相手方を選定する方法を競争入札の一態様と位置付け,手続の透明化を図り,不正を防止するため,その要件及び具体的手続等を法定した(同法234条3項ただし書,同法施行令167条の10の2,167条の13)。したがって,現在,支出原因契約について随意契約として価格とそれ以外の条件を総合評価して契約の相手方を選定する方法を採ることが許容されるかどうかはともかく,収入原因契約については,上記のような立法措置が採られておらずこれを禁止又は制限する規定も存在しない以上,依然として,随意契約として上記の相手方選定方法を採ることができると解するのが相当である。したがって,P9高校跡地の売却についても,それが随意契約の要件を満たす限り,原則として契約締結方法に違法はないというべきである。

ウ 以上と異なり,価格とその他の条件を総合評価して契約の相手方を選定する方法が採れるのは,地方自治法施行令167条の10の2,167条の13所定の支出原因契約に限定されることを前提とする控訴人らの主張は採用できない。

また,神戸市がいつから「随意契約」という用語を使用し出したかなどということや,募集要項又は「質問回答の送付について」などに随意契約の方式によることの記載がないことも,P9高校跡地の売却方法の性質を何ら左右するものではない。

エ 控訴人らは,審査基準を設定していること,競争原理を含むこと,企業名を隠して入札させていることをもって,P9高校跡地の売却に用いられた方式が,競争入札であると主張するようであるが,随意契約の相手方選定については,契約締結権者の合理的な裁量に委ねられていると解されるところ,一定の競争的要素を導入することにより公共団体に有利な契約を締結できる可能性が増加することから,公益に資するものであるといえるし,多くの競争者から1名の買受事業者を決定する場合に,その透明性・客観性を担保するために審査基準を設け,さらにその要請を一層確実にするために企業名を明らかにしないで入札することを求めたとしても,それが不合理であるとの非難を受けるいわれはないし,随意契約の性格に矛盾するところはないというべきである。

さらに,控訴人らは,①神戸市契約規則26条によれば,随意契約であればなるべく二人以上の者から見積書を徴しなければならないが,このような見積書の提出がないこと,また②同規則27条の12によれば,随意契約であることの理由の公告が必要であるが,そういった公告がないこと,を理由に挙げて,本件は,随意契約として実施されていないと主張する。しかしながら,P9高校跡地のような普通財産の売払い契約については神戸市契約規則26条の適用を排除されているし(神戸市公有財産規則5条),甲16によれば,土地利用事業者募集に際し,神戸市は,応募者に対して,①応募申込書,②譲受申出価格調書のほか,③提案趣意書,④土地利用計画書(土地利用ゾーニング図,建築・外構計画図,動線計画図,広場整備計画図,青少年の健全育成のためのコミュニケーションスペースの整備計画図,等時間日影図,完成予想図,施工計画),⑤事業計画書(事業実施の仕組み等にかかるもの,収支計画書),⑥会社概要等,といった詳細な必要書類の提出を求めているものであり,実質的に見積書の提出はあったということができる。また,神戸市契約規則27条の12によれば,市長は,随意契約の相手方を決定したときは,「随意契約の理由」についても公告することを要する旨定めているが(甲52),同条は,特定調達契約(地方公共団体の物品等又は特定役務の調達手続の特例を定める政令4条に規定するもの)について適用があるものとされているところ(同規則27条の2),P9高校跡地の売却は特定調達契約には該当しないから,同規則27条の12の規定が適用される余地はなく,控訴人らの主張は理由がない。

(3)  不動産の売払を随意契約によることの可否

控訴人ら及び参加人らは,地方自治法施行令167条の2第1項2号は,随意契約ができる条件として「不動産の買入れ又は借入れ」を挙げているが不動産の売却は挙げていない,あるいは,不動産の売却は同条同項同号にいう「その他の契約」に含まれないから,P9高校跡地の売却は,随意契約としては行うことができないと主張する。

しかし,地方自治法及び同法施行令には不動産の売却を随意契約の対象から排除する明文規定は存在せず,同法施行令167条の2第1項2号が不動産の買入れを例示しながら売却を例示しなかったのは,不動産売却を随意契約で行うべき場合が少ないと想定されたからにすぎないと解され,そこでいう「その他の契約」に「不動産の売却」が含まれないと解すべき合理的な理由はないから,控訴人ら及び参加人らの上記主張は採用できない。

(4)  「その性質又は目的が競争入札に適しないこと」該当の有無

ア 随意契約の要件として,その性質又は目的が競争入札に適しない(地方自治法施行令167の2第1項2号)とあるところ,その性質又は目的が競争入札に適しない場合とは,契約を締結するに当たり,競争入札の方法によることが不可能又は著しく困難というべき場合のみならず,これが不可能又は著しく困難とはいえないが,不特定多数の者の参加を求め競争原理に基づいて契約の相手方を決定することが必ずしも適当ではなく,当該契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても,当該契約の目的,内容に相応する資力,信用,技術,経験等を有する相手方を選定してその者との間で契約を締結する方法を採るのが当該契約の性質に照らし又はその目的を究極的に達成する上でより妥当であり,ひいては当該地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合も同法施行令167条の2第1項2号にいう「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」に該当すると解すべきであり,そのような場合に該当するか否かは,契約の公正及び価格の有利性を図ることを目的として契約締結方法に制限を加えている同法234条2項及び同法施行令の上記規定の趣旨を勘案し,具体的な契約ごとに,当該契約の種類,内容,性質,目的等諸般の事情を考慮して,契約担当者の合理的な裁量判断により決定されるべきものと解するのが相当である(最高裁判所昭和62年3月20日第二小法廷判決・民集41巻2号189頁参照)。そしてこの基準は支出原因契約のほか,収入原因契約においても妥当すると解されるので,以下において,上記の基準に従い,P9高校跡地の処分方法について神戸市の契約担当者に裁量権の逸脱がなかったかどうかにつき検討を加えることとする。

イ 確かに,P9高校跡地の売却は,これを単に土地の売却として見る限り,一般競争入札によることが不可能又は著しく困難であるとはいえない。しかしながら,前記(1)で認定したところによれば,上記土地は,神戸市γ区の主要な交通結節点であるP4ε駅の北側に位置する広大な土地であり,同土地を含む付近一帯の地域は,神戸市総合基本契約(区別計画)では,区南西部の中心的な商業ゾーンとして整備に努めるものとされていて,地域や市民に与える影響がきわめて大きいことから,神戸市は,P9高校跡地の売却に当たり,同土地の利用については,人間を中心に据えた魅力ある都市空間を創出し,都市における良好な市街環境の形成,保全を図るため,β地域を対象として,地域内の土地利用及び公共施設の配置と建築物の形態等について,一体的,総合的な計画を策定する必要があるとの認識から,①商業・業務施設と住宅のバランスのとれた配置・構成により,にぎわい空間を創出するとともに,地域の環境とも調和するような土地利用であること,②土地利用及び施設整備に当たっては,高齢者に優しく,来街者を含め市民の快適な暮らしの実現に資するものであること,③β地域全体の活性化につながり,既存の周辺商業施設とも共存を図るものであること,④青少年の健全育成のためのコミュニケーションスペースの整備に当たっては,利用しやすく魅力的な配置・構造となるものであること,⑤施設の建設計画に際しては,酒蔵・澤の井・だんじりなど古き良きβの面影や,駅前にふさわしい景観・デザインに配慮するとともに,駅へのアプローチ,周辺地域も含めた防災,既存の樹木の活用など緑豊かな環境,すべての人に利用しやすいユニバーサルデザインに配慮するものであること等の視点に基づいた,β地域にとってより望ましい土地利用を実現するとの政策判断に立脚し,かかる政策目的に沿う相手方を選定するため,随意契約の方法により,価格の有利性をある程度犠牲にしてでも,神戸市が立脚・推進する街づくりにとって望ましい土地利用の方法を提案した事業者をP9高校跡地の売却の相手方として選定することが必要・不可欠であると判断したものと解され,その判断には十分合理性を認めることができる。この街づくりの内容として,P9高校跡地の周辺地域の一定程度の住民の意見を表していると考えられるβ地区まちづくり協議会での意見を事業遂行者の募集要項に反映させ,同要項に沿わない計画をしている応募者はそもそも審査の対象とせず,事業を行うに当たって,やむを得ない事情により,申込時に提出した土地利用計画案を変更する場合には,事前に文書により申請し,市の承認を得ることとされ,指定用途に供しない場合には,違約金を徴収し契約を解除するなどの事後的な規制もなされて,神戸市が考えるあるべきβの街づくりに即した土地利用が実現されるような担保がなされている。そして,このような街づくりの目的に沿うようにするためには,被控訴人が主張するとおり,神戸市が土地の利用方法を考案するのでは発想内容に自ずと限界があり,むしろこれを民間事業者の創意工夫と事業能力に委ねる方がより有効な土地活用を行い得る可能性が増大するであろうし,また,神戸市が申込者の事業遂行能力,経営の健全性等の諸般の要素を判断した上で相手方の選定をなし得る点でも条件付一般競争入札に勝ると考えられる。この点からして,土地の利用方法を神戸市が示す指針及び条件の枠内で民間事業者の創意工夫と事業能力に委ねてより有効な土地活用方法を実現するとともに,可及的に高額での売却を目指す方法として,買受希望者が提示した買受後の土地利用方法の内容及び買受価格を総合的に採点評価し,総合評価の点数が最も高かった事業者を売却先に決定するという神戸市の採用した本件の売却方式は,契約の性質又はその目的を究極的に達成する上でより妥当であり,ひいては神戸市の利益の増進につながるといい得る。

参加人らは,P9高校跡地の売却は,新設高校の建設財源に充当するためであったというが,そうであったとしても望ましい土地利用に誘導する必要性との調和を図るためには,価格のみで事業者を決定することはできなかったのであるから,P9高校跡地売却については競争入札を採用しなければならない理由はない。また,参加人らは,β地区まちづくり協議会が地元住民の意見を反映していないと主張するが,前記(1)ア認定のとおり,β地区まちづくり協議会は,神戸市地区計画及びまちづくり協定等に関する条例に基づき市長が認定した団体であり,証拠(乙8~10,丙7,10,13~16,26,41,42,61)及び弁論の全趣旨によれば,関係地区の自治会,財産区管理会,婦人会,青年会,商店会などが参加団体として加入し,β地区の一定数の住民を組織したもので,P9高校跡地の問題に関してアンケート活動や意見の集約,広報活動などの積極的な活動を行っていたのであると認められるから,その意見が地元住民の意向を反映していないということはできない。

したがって,P9高校跡地の売却は,上記にいう「その性質又は目的が競争入札に適しない」に該当するといえるから,神戸市が同土地の売却を上記のような随意契約の方法で行い,買受事業者を選定したことに不合理な点や裁量権の逸脱は認められず,適法と解すべきである。

なお,参加人らは,神戸市の市有地の売却方式が平成18年度から変更されたことを挙げて論難するが,証拠(丙12,60)によれば,市議会においてP9高校跡地の方式が問題となった経緯から,より透明性を高める狙いから変更したことが認められるが,神戸市が本件の方式についての違法性を自認した上での変更ではなく,方式変更の事実が上記の判断を左右するものではない。

ウ 控訴人らは,神戸市が最高価格の応募者と契約をしなかったことをもってP9高校跡地の売却が違法であるとも主張するが,価格の競争によらない随意契約である以上,最高価格の応募者と契約しなければならないとの制約は存在しないから,失当である。

(5)  当選者案と次点者案との比較

ア 前記(1)エ認定のとおり,当選者となったP3グループの申出価格は84億1587万2830円(価格点36.21)であり,次点者となったP24グループの申出価格は116億2200万円(価格点50.00)であるから,その間に約32億円の大差があり,しかもP3グループの提示額は応募者中の最低額であったにもかかわらず,P3グループの提案内容が他の応募者よりも優れているとして内容点44.44を獲得した結果,総合で第1位となって当選者となったことが明らかである。

イ 以上のように,次点者との価格の差が約32億円と大きな額となっていることにかんがみれば,当選者ではなくて次点者を選ぶべきではなかったかとの疑問も生じ得るところではあるが,前記(1)エ認定のとおり,不動産鑑定士も構成員とする上記審査会においても,上記価格の差があるにもかかわらず,最高価格を提示した次点者ではなく当選者を選定することの是非が議論されたが,土地利用の内容の優位性が高く評価された結果,当選者(応募者A・P3グループ)が2回目の審査でも第1位となったことが認められる。加えて,当選者の買受価格は次点者に比べれば低額ではあるが,当該価格は,神戸市の提示した参考価格(75億円)を上回るところ,この参考価格自体が不動産鑑定評価額(正常価格)を11億円以上上回っていたというのである(乙16)から,決定された価格が不当であるとは認められない。

控訴人ら及び参加人らは,神戸市の提示した参考価格の基礎となった不動産鑑定評価額の妥当性を争うようであるが,乙16によれば,P9高校跡地の鑑定評価は,取引事例比較法に基づく比準価格と開発法による価格を関連づけ,公示価格等との均衡を図りながら決定するという手法によっていることが認められ,その鑑定手法及び鑑定結果までの導出過程に不合理な点を見出すことはできない。

ウ さらに,参加人らは32億円の差額は売却価格の38%にも相当し,最高裁判所昭和62年3月20日第二小法廷判決のいう「多少とも価格の有利性を犠牲にする結果」ではないと主張する。

しかしながら,まず,上記判決の「多少とも」の意義は,結局のところ生じた差額が社会通念上許容できないほど多額ではないことと理解すべきである。しかるところ,P9高校跡地の売却については,単に高額の土地売却を図れば足りるというものではなく,β地区周辺の将来像に大きな影響を与えるものであって,神戸市が描いている街づくり政策や近隣住民の生活等との総合的な調和・整合性が図られなければならない状況にあり,その故に,随意契約として扱われることになったものである。その結果,本件のような買受事業者決定方法が策定,実施されたものであって,不動産鑑定結果を上回る最低価格が指定されていることなどを勘案するならば,その決定方法の合理性は肯認することができる。価格だけをみれば,当選者と次点者との間で32億円の差額が生じたとしても,前記(1)エ(ウ)認定のとおり,それは街づくり政策や近隣住民の生活等との調和,整合性といった内容面で代償され,上回る優秀性があると判定された結果であり,またその判定方法に合理性があり欠陥がないのであれば,やむをえないというべきである。このような観点からみると,この差額の範囲は社会通念上許容できないほど多額なものであるとまではいえない。

これらの点にかんがみれば,価格の点においても,裁量権の逸脱濫用があったとまではいえない。

エ 参加人らは,P24グループによる提案は,施設内容,建築・外交計画,事業遂行能力,全体評価のいずれにおいても,当選したP3グループ案よりも優れており,P3グループ案に32億円もの価格差を犠牲にするに足りる優位性はないと主張し,これに沿う意見書(丙77,78,82,83)を提出する。しかし,選考審査委員会の選考した結果が妥当であるとの意見書(乙25,26)も被控訴人から提出されているところであり,双方の見解は大きく相違している。このように全く異なった意見が表明されるのは,判断の基礎となる価値観や立脚点が大きく異なることに由来すると考えられ,その当否を論ずることは相当ではない上に,そもそも,各応募者の提案内容の優劣を判断することは裁判所の法的司法審査に馴染まず,これ以上の内容に関わる判断を行う必要はないというべきである。司法権の及ぶところは,P9高校跡地売却において行われた選考方法,選考過程に不合理が潜むか否かであると解されるが,上記の各資料のほかP3グループ及びP24グループの提出書類を精査しても,その提案内容の比較から,P9高校跡地売却にかかる選考方法,選考過程に不合理があるとまで認定することはできない。

(6)  選定過程の違法性について

随意契約における具体的な相手方選定方法等が契約締結権者の裁量に属することは上記のとおりであるところ,参加人らは,選定過程に違法があったと主張し,その理由を縷々主張するところであるので,以下,この点を検討する。

ア P4がP3グループに入っていることについて

参加人らは,当選者となったP3グループの構成企業にはP4が加入しているところ,P4は,β地区まちづくり協議会に入っていたために早期に募集要綱案を知ることできたものであるし,また,駅(P4ε駅)との接続方法を示すための情報がP4と共同したP3グループが有利となった点を挙げ,そのことが不公正な審査であると主張する。

しかしながら,すでに認定したように,β地区まちづくり協議会は,神戸市地区計画及びまちづくり協定等に関する条例に基づき,街づくり提案の策定,まちづくり協定の締結等により,専ら,地区の住み良い街づくりを推進することを目的として住民等が設置した協議会であり,その会員として,地域内の居住者のほかに地域内において事業を行う者,地域内の土地及び建築物の所有者をもって構成されている(丙41)上に,同協議会の最大の懸案事項は,P4ε駅に近接するP9高校跡地の利用をβ地域発展の拠点として位置づけ,P4特急停車駅の駅前として,P4ε駅,駅前ロータリー,バスターミナル,駐輪場,駐車場並びに道路拡幅等の一体整備を行う全体計画の下に開発を行うことにあったのであるから,ε駅の所有者であり鉄道事業者であるP4がβ地区まちづくり協議会に加入することは,より良い街づくりのために有益なことであったと考えられるところであって何らの不審もない。したがって,P4がβ地区まちづくり協議会の一員として,早期にP9高校跡地の利用方法に関する神戸市の意向を知ることになったとしても,そのこと自体を非難できるわけではない。もっともP4は,上記のようにまちづくり協議会のメンバーとして得られた資料を保持している上に,P4ε駅とP9高校跡地に建設される建築物との間の動線策定の上で,重要な資料を有していることは容易に推測できるから,P4が加わったグループが有利な位置を得たと考えられることは否定し得ないところである。しかし,このような格差を確実に遮断するためには,P9高校跡地利用に関して何らかの情報を持つ可能性のある企業や事業者をすべて排斥し,さらにはあらゆる関連情報を神戸市において管理統制するか,逆にこれをすべて開示しなければならないが,それは利害関係があって事業者となろうとする有力な企業を排除することになるから(一般的にいえば,利害関係があるからこそ事業者として名乗りをあげようとすると考えられる。),P9高校跡地の適切な開発のためには有害となる可能性もあるし,何よりも非現実的というべきである。結局のところ,P4と共同・連合することに成功したグループが一定のアドバンテージを得ることは,事の本質上,当然の結果であるといえるし,競争者間にこの程度の情報格差があるからといって不公正な審査であるということはできない。

イ 価格調書の開封について

証拠(丙5,48)及び弁論の全趣旨によれば,P9高校跡地事業者選考審査委員会(以下「選考審査委員会」という。)は,平成17年6月23日と同年11月7日開催されたこと,その第2回会合において,選考審査委員会は,各応募者のプレゼンテーションを受けて質疑を行った後に,一次審査として内容点の仮採点を行い,その後審査委員間で意見交換をした上で最終的な採点を行ったこと,一次審査後の意見交換の直前に,価格調書の開封を行い,事務局に金額と点数換算した価格点を発表させたことが認められる。

参加人は,内容点の最終審査を行う前に価格点を公表した結果,内容点の審査に影響を与えたものであって公平な評価を妨げるものであると主張する。

しかし,そもそも採点の方式については選考審査委員会の合理的な裁量に委ねられているところであるが,証拠(丙5,48)によれば,選考審査委員会は,一次審査で採点を仮集計し,その後にその結果を見ながら,特に評価が分かれた点などについてそれぞれの専門分野の観点を含めて議論を行い,その成果を斟酌しつつ最終的な採点を行う方法を採用したことが認められ,そのような審査方法が,付与された裁量権の範囲を逸脱したことになるとは到底考えがたいところである。

しかも,丙5によれば,一次審査の仮採点時と最終審査結果とを比較すると,総合点の一位はP3グループで変わっておらず,ただ次点者が変わったというにすぎないのであって,P3グループの当選という結果においては何ら影響がなかったというべきである。また,応募者の提出した収支計画書には用地費が記載され,そこでは各応募者が予定している用地価格が記載されているのであるから,審査委員としては,応募者の譲受申出価格を価格調書の開封以前から認識することが可能であったことが認められる。したがって,いずれにせよ,価格調書を審査過程において開封したことによって,本件審査に悪影響を与えたということはできず,公平な審査ではなかったなどということはできない。

ウ 価格点の算出方式について

参加人らは,価格点については,公表された土地売却参考価格を上回っておりさえすれば何点かは獲得できるのに対して,内容点の方は零から50までの範囲があるから,内容点の評価の比重が重くなりすぎて均衡を失するし,各審査委員の持ち点方式ではないので,各審査委員の付け方によって各審査委員の評価に重み付けの相違が生じると主張している。

この点についても,そもそも価格点と内容点をどのような比重にするか,また各審査委員の採点の仕方,あるいは重み付けや配分をどのようにするか,についても,地方自治体ないしは選考審査委員会の合理的な裁量に委ねられていると解されるものであって,本件全証拠によるもその裁量権を逸脱したと認めるに足りる事情はない。なお,価格点と内容点との比重の問題を敷衍するならば,丙48によれば,第1回選考審査委員会において,価格点と内容点の採点方法が討議され,両者との均衡問題についても議論された上で,本件で実施された方式が採用されていることが認められる。この点に加えて前記(1)認定の事実を勘案するならば,要するに,神戸市及び選考審査委員会は,P9高校跡地の売却については,価格については参考価格を下回らないことを指示することにより価格の最低線を確保しつつ,内容面での優劣を重視した採点方式を採ったものと考えられるところであり,前記(1)アで認定したところからみてそれが合理性を欠くものではないし,付与された裁量権を逸脱したとの点を根拠づけるものではない。さらに,このような採点方式が採られることは,神戸市が作成した平成17年7月付け「神戸市立P9高校跡地土地利用事業者募集要項-神戸市γ区η-」の中に,審査基準(その内容は別紙のとおりである。)として公開・開示されており,各応募者は,その審査基準を解析することにより,神戸市及び選考審査委員会がどのような指向をもって事業者の選定を行おうとしているかを認識することができるのであるから,条件としても公平であるというべきである。

エ 選考審査委員会の構成について

(ア) 参加人らは,選考審査委員会の構成は神戸市側に偏向しており,審査委員長のほか,市の職員3名及び元職員1名が市の意向を受けて審査をすれば容易に意図した結果を得ることができると主張する。

証拠(丙5)によれば,選考審査委員会は,学識経験者と市職員の9名から構成されており,各審査委員の職業資格は,①公認会計士・税理士,②大阪大学大学院工学研究科助教授,③弁護士,④P26大学経営学部教授,⑤財団法人P27研究所P28支所長・不動産鑑定士,⑥神戸大学工学部教授,⑦神戸市生活文化観光局生活文化部長,⑧神戸市都市計画総局計画部長,⑨神戸市γ区副区長兼まちづくり推進部長であったことが認められ,都市計画・建築・不動産,会計・経営,法律・商業・行政というバランスとなっているが,このように学識経験者と神戸市の職員から選考審査委員会が構成されていたことが不合理であるわけではない。

さらに審査委員長が神戸市の別件の審査委員長又は審査委員を歴任しているとしても,その故をもって同委員長が市の意向に沿って審査結果を誘導したことを推認できるものではないことは当然であり,市の職員等が何らかの意図的な審査を行ったことを立証する証拠は皆無である。結局,審査が偏頗に行われたとは本件全証拠によるもこれを認めるに足りず,偏向した審査で当選者が決定されたとの参加人らの主張は揣摩憶測の域を出るものではない。

(イ) 次に参加人らは,一つの分野の専門家である審査委員が,専門外の事柄を審査し,評価しているが,これは素人に判断を委ねていることに等しいとし,特に事業遂行能力の採点基準については,細項目にして採点することが困難であるために大括りにして採点をしたというのは,恣意的であり違法であると主張している。

神戸市が,P9高校跡地のような大規模用地の売却について,選考審査委員会を設立し,その審査により売却先及び売却価額を決定しようとする所以は,売却先の決定過程に各分野の専門的知見を導入し,それらの意見を統合することでより高次の判定結果を得ようとしているものであり,ひいては多様な価値観がある中で選定過程を透明化し,客観化することにより施策の円滑な実施を図ることにあると解される。しかるところ,本件においては,証拠(丙5,48)によれば,選考審査委員会は,第1回会合において採点方式について協議し,さらに第2回会合においては,一次審査で採点を仮集計し,その後にその結果を見ながら,特に評価が分かれた点などについてそれぞれの専門分野の観点を含めて議論を行い,その成果を斟酌しつつ最終的な採点を行っていることが認められる。すなわち,各審査委員が専門的知見を持ち寄って意見を交換し,その上で各人が有する見識に従って判断することにより,選考審査委員会としての役割を果たし,所期の目的に寄与していると考えられるのであって,その構成が多様な専門家からなることには何ら違法の廉はない。

参加人らは,各採点項目ごとに,その分野の専門家のみに判断を委ねるべきであると主張するようであるが,少数の者に判断を委せることは個性に由来するバイアスを生みかねないし,専門家はその分野に詳しいがためにかえって偏りが生じることも考えられるから,個々の審査委員の価値観や専門性に過剰に左右されないためにも,さまざまな分野の審査委員がすべての項目の採点に参加することには合理性がある。

また事業遂行能力の採点基準を,細項目で分けずに,比較的大きな項目で審査することにしたことは認められるが,採点基準をどのようにするかについては選考審査委員会の裁量に委ねられるところであるし,各審査委員が大項目の評価に際しては細項目を念頭に置きながら審査することが考えられるのであるから,それが恣意的であり違法であるわけではない。

オ P14市議の介入について

控訴人ら及び参加人らは,P9高校跡地の買受事業者の決定に際しては,P14市議の介入があり適正な審査が行われなかったとの疑いを指摘する。しかし,その根拠とするところは基本的には新聞記事等にとどまるところであるし,α車庫跡地,そしてP9高校跡地の売却について,総合評価型の随意契約方式の提案が,P14市議らによりなされたものであるとしても,それは地元の意見をより反映させるためという観点からなされた可能性も否定できないし(丙11),適正な審査が行われなかったことまでを直ちに認定できるものではない。

(7)  議会の議決について

ア 控訴人らは,地方自治体が,その財産を適正な対価なくして譲渡する場合には,議会の議決が必要であるところ(地自法96条1項6号,237条2項),P9高校跡地の売却が適正な対価のない譲渡であると主張する。

しかしながら,前記認定のとおり,P9高校跡地の売却価額は,神戸市の提示した参考価格(75億円)を上回り,この参考価格自体が不動産鑑定評価額(正常価格)を11億円以上も上回っていたというのである。しかも,P9高校跡地の利用方法を神戸市が示す指針及び条件の枠内で民間事業者の創意工夫と事業能力に委ねることによって,より有効な土地活用方法を実現するとともに,可及的に高額での売却を目指して,買受希望者が提示した買受後の土地利用方法の内容及び買受価格を総合的に採点評価し,総合評価の点数が最も高かった事業者を売却先に決定しているのであるから,価格の有利性がある程度犠牲になったとしても,決定された価額をもって適正な対価と評価することの障害になるものではない。

よって,P9高校跡地の譲渡は,適正な対価によるものと認めることができ,この面で議会の議決は必要とはされていない。

イ ところで,「その種類及び金額について政令で定める基準に従い条例で定める財産の取得又は処分をすること」は議会の議決を要するところ(地自法96条1項8号),P9高校跡地売却は,政令の定める基準(地方自治法施行令121条の2)に従い条例で定めたところの価額及び面積(予定価額8000万円以上の不動産の売払いで1件1万m2以上,市会の議決に付すべき契約及び財産の取得又は処分に関する条例<甲25>3条)を超えているから,議会の議決を経ることが必要である。そして,前記(1)オの事実及び甲41によれば,P9高校跡地に関しては,同法96条1項8号に基づく議決は,平成17年12月22日の市会においてなされたことが認められる。

控訴人らは,市会議決時には随意契約であることの説明はなく,議員に配布された資料を見ても,当選者と次点者との間に32億円もの価格差があるとは気がつかないから,必要性や妥当性の審査をする前提が適正でないと主張する。しかし,証拠(甲44,乙22)並びに弁論の全趣旨によれば,神戸市は市会議員に対して,「神戸市立P9高校跡地土地利用事業者募集について」及び「神戸市立P9高校跡地土地利用事業者募集における買受事業の決定について」の資料を配付しており,買受事業者の決定方法,決定までの経緯,審査結果,選考理由が示されているところである。これらの資料には当選者と次点者の価格の差についての明記はないが,価格点及び内容点については示されている上に,証拠(丙27,28)によれば,神戸市会総務財政委員会及び定例市会においては,当選者と次点者との価格差が32億円であることを前提に討議され,その上で可決されていることが明らかである。したがって,控訴人らの主張は理由がない。

3  結論

よって,原判決は相当であり,本件控訴は,その余の点に判断を加えるまでもなく,理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三浦潤 裁判官 森宏司 裁判官 中村昭子)

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