大阪高等裁判所 平成19年(行コ)111号 判決 2008年6月26日
控訴人
兵庫県
同代表者兼処分行政庁
兵庫県労働委員会
上記委員会代表者会長
A
同指定代理人
B
ほか1名
控訴人補助参加人
Z農業協同組合
同代表者代表理事
C
同訴訟代理人弁護士
竹林竜太郎
同
畑守人
同
山本寅之助
同
芝康司
同
藤井勲
同
山本彼一郎
同
泉薫
同
阿部清司
同
出口みどり
同
奥田直之
同
安田正俊
同
井上敏志
同
今井佐和子
同
西野航
同
山口崇
同
西川暢春
同
井川慶子
同
髙野史恵
同
松葉健
被控訴人
Y労働組合
同代表者執行委員長
D
同訴訟代理人弁護士
西田雅年
同
白子雅人
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用のうち,補助参加により生じた費用は補助参加人の負担とし,その余の費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1 本件は,処分行政庁が,平成15年(不)第6号,平成16年(不)第3号及び同第5号不当労働行為事件につき平成17年9月15日付けで被控訴人に対してした命令のうち,原判決別表の申立て①及び申立て③ないし⑦の救済命令の申立てを棄却した部分について,被控訴人がその取消しを請求した事案である。参加人が控訴人に補助参加した。
2 原審は,被控訴人の請求につき,原判決別表<労判950号43頁参照>の申立て①及び④の救済命令の申立てを棄却した部分を取り消し,その余の請求を棄却した。これに対し,控訴人が敗訴部分を不服として控訴した。
3 当事者の主張は,以下のとおり付加・訂正するほか,原判決「事実」摘示中の「第2 当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決4頁5行目(労判950号<以下同じ>33頁右段下から1行目)の「平成13年協定」の次に「のうち組合長ら常勤役員の団体交渉出席及び労働組合の女性会の就業時間内開催についての条項」を加える。
(2) 原判決4頁21行目(34頁左段24行目)の「態勢」を「体制」と改める。
(3) 原判決5頁14行目(34頁右段1行目)の「変更」を「変動」と改める。
(4) 原判決7頁11行目(35頁左段26行目)の「労労働組合員」を「労働組合員」と改める。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所も,本件請求は,処分行政庁のした本件命令のうち,原判決別表の申立て①及び④を棄却した部分の取消しを求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却すべきであると判断する。その理由は,以下のとおり付加・訂正するほか,原判決「理由」説示のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決16頁15行目(38頁右段32行目-(<証拠省略>)中)の「乙10」の次に「,33」を加える。
(2) 原判決17頁14行目(39頁左段19行目)の「E部長」を「E課長」と改め,22行目(39頁左段30行目-(<証拠省略>)中)の「丙6」の次に「,14」を加える。
(3) 原判決18頁1行目(39頁左段36行目)の「移動」を「異動」と改め,2行目(39頁左段38行目-(<証拠省略>)中)の「甲49」の次に「,丙7,15」を加える。
(4) 原判決23頁7行目(41頁左段下から11行目)の末尾に「このことは,基本協定(<証拠省略>)において「職員の労働条件の変更については,Z農協は,Y労組と事前に協議をする」とされていることからも裏付けられる。」を加える。
(5) 原判決23頁21行目(41頁右段11行目)から24頁5行目(41頁右段26行目)までを次のとおり改める。
「1 前記認定事実のとおり,E課長及びF支店長らは,G及びHに対し,脱退を勧奨し,組合活動を行うことで人事上の不利益を受ける旨を告知している(以下,前記認定の脱退勧奨と不利益の告知を併せて「本件脱退勧奨等」という。)。
参加人は,E課長及びF支店長らによる本件脱退勧奨等の事実を否認し,E及びFはそれに添う供述をするが(<証拠省略>),G及びHの陳述書の記載(<証拠省略>)及び兵庫県労働委員会の審問における証言(<証拠省略>,以下これらの陳述記載及び証言を併せて「供述」という。)は,本件脱退勧奨等の発言内容やその際の状況,その後思い悩んだ結果,ついには被控訴人(労働組合)の役員らに相談するに至った経緯を極めて具体的に述べるものであり,その供述内容に不自然,不合理な点は全くうかがわれない。また,同人らにとってF支店長やE課長は第1,第2考課者で直属の上司であり,特に兵庫県労働委員会の審問という公の場でそのような証言をするについては,有形無形の不利益を受ける可能性があるし,その後毎日の職場での仕事上のないし精神的な軋轢も予想され,相当の勇気と覚悟を要するものと考えられる。
控訴人は,G及びHが被控訴人の支部長を務める活動的な組合員であるから,強い立場にあって上記のような証言をしたからといって不利益な取扱いを受ける可能性は低く,かえって,被控訴人の利益のために事実を曲げて証言するおそれがある旨主張する。しかし,Gは以前勤務した支店で被控訴人支部長を1回務めたことがあるというだけであり(<証拠省略>),Hは西脇支店の被控訴人支部長であるが,ほかになり手もないので順番でいつの間にか支部長になっていたというのが実態であるし(<証拠省略>),またそもそも,参加人には当時支店や事業所等の出先機関が63か所もあり(<証拠省略>),そのうちの1支店における被控訴人支部長の立場がさほど強いものであったとは到底考えられない。また,同人らが特に活発な組合活動を行っていたことをうかがわせる証拠もない。したがって,同人らの立場が,対参加人との間の力関係において,一般の組合員とさほど差異のあるようなものであったとは認め難いから,控訴人の主張は理由がない。
参加人においては,平成12年4月の設立当時の被控訴人組合員数は291名,同年9月当時は299名と当初は増加気味であったが,平成13年から脱退者が出始め,平成14年ころから急激に減少し(同年の脱退者は44名),平成15年11月1日時点では199名となり,その後も脱退するものが続出し,平成16年9月時点では156名,平成17年12月時点では97名,平成18年12月時点では69名,平成19年6月時点では58名となっている(<証拠省略>,弁論の全趣旨)。そして,少なくとも平成15年及び16年の脱退者の多くから脱退に際して一定の類型の脱退届,チェックオフ中止申込書が提出されている(<証拠省略>)。これらのことは,参加人側から脱退者らに対し何らかの働きかけが行われている可能性をうかがわせる事情である。さらに,参加人と被控訴人との間では,平成15年に被控訴人がコンプライアンス闘争を提起してから対立が特に激しくなり,参加人の対応も厳しくなって,同年8月12日被控訴人に対し,団体交渉に常勤役員が出席しないことを通知し(<証拠省略>),同月28日メール便の被控訴人による使用を原則として禁止し(<証拠省略>),同年9月17日平成13年協定の解約を通告し(<証拠省略>),同年9月22日以降基本協定を無視してLAの始業・就業時刻の変更を業務命令によって実施する(<証拠省略>)などした。これに対して,被控訴人は,同年12月16日(同年(不)第6号)から平成16年10月4日(同年(不)第3号),同年11月12日(同年(不)第5号)にかけて処分行政庁に相次いで不当労働行為の救済申立てを行った。
以上のような参加人の職場での客観的な対立状況をも踏まえれば,G及びHの前記供述には十分な信用性が認められるというべきであって,同供述によって本件脱退勧奨等の存在を優に認定することができる。」
2 以上によれば,本件請求は,処分行政庁のした本件命令のうち,原判決別表の申立て①及び④を棄却した部分の取消しを求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却すべきである。
よって,原判決は正当であって,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 島田清次郎 裁判官 山垣清正 裁判官浅井隆彦は転補のため,署名,押印することができない。裁判長裁判官 島田清次郎)