大阪高等裁判所 平成19年(行コ)19号 判決 2007年10月19日
主文
1 原判決中,控訴人の敗訴部分を取り消す。
2 近畿経済産業局長が被控訴人に対し平成17年1月6日付けでした行政文書一部不開示決定(ただし,平成18年5月19日付け行政文書開示決定によって変更された後のもの)のうち,原判決別紙1不開示情報目録1記載の情報が記録された行政文書の部分を不開示とした部分の取消しを求める被控訴人の請求を棄却する。
3 前項の行政文書の上記不開示部分につき開示決定を求める被控訴人の訴えを却下する。
4 訴訟費用は,第1,2審を通じ,全部被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
主文と同旨
第2被控訴人の請求の趣旨
1 近畿経済産業局長が,被控訴人に対し,平成17年1月6日付けでした行政文書一部不開示決定のうち,原判決別紙1不開示情報目録1(以下「目録1」といい,同目録に記載された各情報を「本件数値情報」という。)及び同別紙2不開示情報目録2(以下「目録2」という。)記載の情報が記録された行政文書の部分を不開示とした部分を取り消す。
2 近畿経済産業局長は,被控訴人に対し,被控訴人の平成16年8月6日付け行政文書開示請求に基づいて,目録1及び2記載の情報が記録された行政文書の部分につき開示決定をせよ。
第3事案の概要及び当事者の主張
1 事案の概要
(1) 本件は,被控訴人が,処分行政庁である近畿経済産業局長に対して,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)3条に基づき,エネルギーの使用の合理化に関する法律(平成17年法律第93号による改正前のもの。以下「省エネ法」という。)11条に基づき各事業者から提出された定期報告書の開示請求をしたところ,同局長において,目録1,2記載の情報が記録された行政文書の部分が情報公開法5条2号イ所定の利益侵害情報に該当するとして不開示とする決定(以下「本件不開示決定」という。)をしたため,被控訴人が同決定の取消しを求めるとともに,同不開示部分につき開示決定の義務付けを求めた抗告訴訟である。
(2) これに対し,控訴人は,①被控訴人の請求の趣旨第1項のうち,目録2記載の情報に関する部分の訴えについては,その後処分行政庁による変更決定により開示されることになったため訴えの利益を欠くとして却下を求め,②目録1記載の情報に関する部分の請求については,本件不開示決定には理由があるとして棄却を求め,③被控訴人の請求の趣旨第2項については,本件不開示決定が上記のとおり正当であって取り消されるべきものではないから,行政事件訴訟法37条の3第1項2号の要件を欠き不適法であるとして却下を求めた。
(3) 原判決は,本件不開示決定のうち,目録1記載の本件数値情報が記録された行政文書の部分については,いずれも利益侵害情報には当たらないと判断して,同不開示決定の部分を取り消し,かつ,行政事件訴訟法3条6項2号,37条の3第5項に照らし,上記行政文書の不開示部分につき開示決定するよう命じ,他方,目録2記載の情報が記録された行政文書の部分は既に開示されているから訴えの利益を欠くとして,同部分に関する訴えを却下した。
そこで,これを不服とする控訴人が本件控訴をした。
なお,被控訴人は上記敗訴部分について不服申立てをしていないから,目録2記載の情報が記載された行政文書の部分に関する請求については,当審の審理の対象とはならない。
2 法令の定め,前提事実,本案の争点及び当事者の主張は,以下のとおり当審における双方の主張を付加するほか,原判決「事実及び理由」欄第2「事案の概要」の2,3及び5(原判決3頁8行目から7頁13行目までと,同頁19目から23頁9行目まで)に記載するとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決6頁24行目「前記(4)イ」を「前記(5)イ」と訂正する。)。
3 当審における控訴人の主張
(1) 利益侵害情報該当性の判断基準について
情報公開訴訟の特質及び情報開示の必要性と法人等の正当な利益の調整を図ろうとした情報公開法5条2号イの趣旨からすると,同条各号にいう「おそれ」があるというためには,当該情報が公にされた場合に,経験則上,一般的類型的に支障が生ずるおそれがあると判断されればそれで足りるというべきであり,一般的,類型的判断により,法人等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害する蓋然性が認められれば,その利益を保護する必要がない程度にその不利益が小さいというような例外的な場合でなければ,上記利益が害されるおそれがあると認められるべきである。
(2) 本件数値情報の利益侵害情報該当性について
そこで,上記判断基準に基づき,以下の点を踏まえ,事業者の置かれた競争社会・取引社会の実情に即した判断をすれば,本件数値情報は企業秘密に属し,利益侵害情報に当たる。
ア 本件数値情報は不特定多数人に開示されることを念頭におくべきこと
(ア) 情報公開法は,開示請求の主体を「何人も」とし(3条),誰でも行政文書の開示請求ができるとしているから,利益侵害情報に当たるか否かを判断する際には,当該情報がありとあらゆる者に利用されることを念頭に検討すべきである。
(イ) 当該業界の実情を知っている競業他社や取引先であれば,本件数値情報からエネルギーコスト等について精度の高い推計が可能である。
イ 利益侵害情報該当性を判断するに当たっては,競争社会・取引社会の実情や経験則に則した判断をすべきこと
(ア) 利益侵害情報該当性の判断は,過去の事実の有無を認定するのとは異なり,将来における可能性を判断するものである上,当該情報がありとあらゆる者に利用されることを考慮しなければならないため,幅広い経験則を用いた合理的な推認が重要である。
特に本件においては,定期報告書に記載された燃料及び電気の使用量等の本件数値情報を当該事業者の競業他社や取引相手等が入手した場合に,当該事業者の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるかどうかが問題とされているから,競争社会・取引社会の実情や経験則の認定・評価がとりわけ重要である。
(イ) 現在の企業活動において,他社の情報(中でもコスト競争力に関するもの)の収集,分析は必要不可欠であり,多くの企業において,情報の収集,分析を行う部署を設置するなどしているものであるが,この点,原判決は,エネルギーコスト等の推計の精度について,一般人が本件数値情報や公知となっている事実のみから推計した場合を想定して検証しているだけで,当該業界の実情に精通した者がその存する特別の知識を用いて推計した場合に相当高い精度となる可能性について考慮していない不当なものである。
原判決のいうように,エネルギーコストの製造品出荷額に占める割合が少ないとしても,その推計は,取引上重要な意味を有し,殊に,同コストの経年変化の分析結果は有力な価格交渉の資料となり,現に事業者の個別の事情を理由とした値下げ交渉の事実もある。
また,上記のような取引先との価格交渉の実例のほか,本件数値情報が開示された場合の燃料調達における不利益を考慮すべきであり,本件数値情報が開示されると,本件各事業者と供給者とでは,互いの情報量に大きな差が生じ,実際の交渉の過程において,本件各事業者が劣勢を強いられることは明らかである。
ウ 数値情報を開示した事業者の存在と省エネルギー優秀事例全国大会(以下「省エネ事例大会」という。)について
(ア) 本件数値情報の開示に反対しない事業者が存在しても,その事業者が開示により正当な利益を害されるおそれがないとか,あるいはそのおそれが大きくないと判断したと決めつけることはできない。
したがって,開示に反対しない事業者の存在と,開示自体が事業者の正当な利益を害するおそれが大きいという一般的性質を有することとは矛盾しない。
(イ) 省エネ事例大会において記載が要求されている事業所の年間のエネルギー消費量等の情報は,事業所の規模を示すことに主目的があるにすぎないため,記載方法等について統一的な定めは存在しないのに対し,本件数値情報のような定期報告書の数値情報は,省エネ法により内容・算出方法等が厳密に定められており,両者の数値情報は,その性質が全く異なる。
また,本件数値情報のような定期報告書の数字を経年的に分析することによって,エネルギーコストの経年変化が分析され,取引先との価格交渉において不利益を生じるのに対し,省エネ事例大会応募のデータでは経年的分析ができるものではない。
したがって,a社b製鉄所及びc社d製鉄所が省エネ事例大会に応募したのは,本件数値情報の開示によって不利益がないと判断したからではない。
(3) 以上によると,原判決の判断は,あまりにも社会常識を逸脱した恣意的な判断であり,情報公開法5条2号イの適用を誤っていることが明らかである。
4 当審における被控訴人の主張
(1) 利益侵害情報該当性の判断基準について
上記の判断基準について,単に事業者の利益が侵害され得るという抽象的な可能性が認められるだけでは足りず,法的保護に値する程度の蓋然性をもって利益侵害が生じ得ると認められることが必要であるとした原判決の判断は正当である。
(2) 本件数値情報の利益侵害情報該当性について
上記判断基準に基づき,原判決が本件数値情報が利益侵害情報に当たらないと判断したのは正当であり,以下の点を考慮すると,当審における控訴人の主張も理由がない。
ア 排出量半減への世界の流れ
(ア) 折しも原判決の直後である平成19年2月から5月にかけて,国連の機関であるIPCCより地球温暖化の原因,実態,見通し,影響に関する一連の報告書(第1ないし第3作業部会)が発表され(甲24ないし26),殊に第1作業部会報告書(甲24)では,気候システムの温暖化が起こっていると断定するとともに,人為起源の温室効果ガスの増加が温暖化の原因とほぼ断定されている。
(イ) 政府は,平成19年6月1日,21世紀環境立国戦略を閣議決定し,その中で,「大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させるという気候変動枠組条約の究極目的の達成のためには,世界全体の排出量を自然界の吸収量と同等のレベルに抑え込む必要がある。このため,『世界全体の排出量を現状に比して2050年までに半減する』という長期目標を,全世界に共通する目標とすることを提案する。現状の世界の排出量は,自然界の吸収量の2倍を超えており,大気中の濃度が高まる一方であることを考えれば,まず,この目標を国際的に共有すべき」との目標を掲げた。
(ウ) 平成19年6月7日,G8サミットにおいても,「2050年までに地球規模での排出を少なくとも半減させることを含む,EU,カナダ及び日本における決定を真剣に検討」し,「主要経済新興国に対して,この試みに参加するよう求める」ことが合意された。これは,地球温暖化の加速的な進行に対して,温室効果ガスの大幅な排出削減を早期に確実に達成することに向けて世界が動き出したことを示すものである。
(エ) 日本は,先進国としての国際的地位に照らし,温暖化対策のリーダーシップを発揮すべきであり,世界の温室効果ガスの半減のために,日本が半減以上の削減が求められることは自明であるところ,排出削減を実効的に推進する政策立案のためには,燃料別の排出実態の把握が不可欠である。すなわち,燃料や温室効果ガスごとに排出係数が大きく異なるため(甲14),燃料別の排出実態を把握してはじめて,排出係数の小さい燃料転換などの政策提言を行うことが可能となる。
また,先進国から途上国への省エネ技術の移転や資金供与も,地球規模での温暖化対策の重要な課題となっており,日本もこれを積極的に行うことが求められている。
こうした状況を所与の条件として,今後の企業・団体の事業活動や国民の生活が営まれる必要がある。温暖効果ガスの排出源ごとの排出情報は,そうした政策決定における最も基礎的な情報であり,国民的に共有されるべきものである。企業の内部情報との主張を過大視し,温暖化対策が進まないというようなことがあってはならない。
イ 本件数値情報の意義と温暖化防止対策における情報公開の必要性
(ア) 被控訴人による本件数値情報の開示請求は,わが国のとるべき温暖化政策について提言を行うための基礎資料とするとともに,温暖化防止への政策議論を国民的参加のもとに行う目的で行ったものである。
(イ) 本件数値情報は,当該報告事業所からの温室効果ガスである二酸化炭素の排出量を正確に把握するために必須の数値情報であり,その排出源である燃料別の使用量を知ることによって,当該事業所の排出削減の可能性やその取組状況を知ることができる情報である。
省エネ法に基づく定期報告の対象とされる発電所及び製造工場において使用される燃料及び電力の消費による二酸化炭素の排出量は,わが国の二酸化炭素排出の60%を占める。そして,燃料別の二酸化炭素排出係数は天然ガス1に対し,石炭や石油コークスは1.8にも及ぶことから,燃料別使用量は,その事業所の削減可能性や取組状況を検証し,わが国の実効性ある排出削減政策を適正に策定していくために必要不可欠の情報である。
(ウ) 被控訴人の情報公開請求に対し,経済産業省は,当初,約15%の事業所について不開示処分としたが,その理由は,当該事業所の要望に従ったにすぎないことが,これまでの審理の中で明らかにされている。
経済産業省は,本件訴訟の途中である平成18年6月から9月にかけて,石油精製業のe社f工場,セメント製造業のg社h工場,i社等に関する本件各情報と同様の情報を開示した。エネルギー消費量の多い業種である石油精製業及びセメント製造業では大手事業者が不開示であったが,ここでそろって開示に転じたことで,ほぼ全ての事業所について開示されるに至った。
上記の追加開示がされた結果,事業所数で92%,排出量で84%の事業所について数値情報が開示された。現在も不開示の事業所の数は約8%,413事業所であり,その排出量では約16%を占める。うち13%は高炉による製鉄業における17の製鉄所によるものであり,残り3%は396の事業所によるものである。いかに高炉による製鉄所のエネルギー消費量及び二酸化炭素排出量が大きいかがわかる。
このように,省エネ法による定期報告第1表の情報公開請求によって,対象事業所(2003年で約5000の事業所)による二酸化炭素の排出量は,日本全体の約60%を占め,上位約200事業所からの排出が日本全体の50%以上を占めるという状況がはじめて明らかになった。
(エ) 大規模排出事業所からの排出削減は,京都議定書の目標を達成するためにも,将来的な排出削減を実行するためにも,極めて重要な意味を持つが,同分野は今でも,経団連自主行動計画に委ねられている。しかし,同計画は,日本鉄鋼連盟など業種別の事業者団体が目標指標や目標数値を任意に設定しており,原単位指標による業種も多く,目標設定根拠や達成状況の数値情報が一部しか開示されていないため検証もできず,業界団体としても参加事業者としても,目標達成の法的責任を負っていないものである。このような経団連の自主行動計画ではなく,原単位目標だけでなく排出量の削減目標について,事業者と政府との間での協定としたり,EUや米国北東部の州で実施されているような排出枠を定めた排出量取引制度の導入が課題になっている。
(オ) 以上のとおり,本件数値情報は,発電所及び製造業の削減政策の情報基盤であり,地球温暖化問題の国民的な重要性と緊急性に照らせば,これらは国民的に共有されるべき情報である。
ウ 数値情報を開示した事業者の存在と省エネ事例大会について
(ア) 本件数値情報を開示した事業者の存在
多くの事業者が本件数値情報と同様の数値情報を情報公開しているのみならず,a社b製鉄所は,燃料別エネルギーの年間使用量,省エネルギー技術の詳細及びそのエネルギーの節減効果を平成14年度省エネ事例大会(甲22)において公表し,あわせて同事業所の平成13年度のエネルギー年間使用実績を具体的に公表した。同資料では,本件数値情報と同様の数値に加えて,省エネルギー対策の実施期間,対象設備の工程,対策の具体的かつ詳細な内容,対策後の具体的効果が金額換算ベースでもわかりやすく説明されている。これらの説明は,本件数値情報からは全くうかがうことができない技術情報,コスト情報であり,同製鉄所が省エネルギーセンターの募集に応募して自ら提供したものである。
また,c社d製鉄所においても,j工場のエネルギー年間使用量(15年度実績)の具体的数値が開示されている(甲23)。
以上は,高炉による製鉄業者である上記2社が,これらの情報が開示されることによって不利益を受けるおそれがあるとは考えていないことの証左であり,まさに本件数値情報と同様の数値情報が,同業事業者にとって秘密とすべき情報ではないことを自認したものといえるから,本件数値情報が開示されることによって,各事業者の正当な利益が害される蓋然性があるとする控訴人の主張に理由がないことは明らかである。
(イ) 省エネ事例大会における数値と定期報告データの関係
控訴人は,省エネ事例大会への応募の際に記載するエネルギー消費量の記載方法等に統一的定めは存在せず,本件数値情報のような定期報告書と同様の記載が求められていないと主張する。しかし,a社b製鉄所の平成14年度のエネルギー年間使用量については,上記のとおり数値が具体的に記載されている上(甲22),同数値の単位も本件定期報告書における書式(乙2,3)と同一である。
また,控訴人は,省エネ事例大会において公開されるエネルギー年間使用量の情報と本件数値情報とでは,情報としての性質が全く異なる旨主張する。しかし,上記製鉄所は,定期報告対象事業所として毎年,エネルギー種別に使用量の報告をしているのであって,上記応募の際に定期報告と異なる数字を記載することは考えられないから,甲第22号証の上記データは基本的に定期報告データと本来異なるものではないはずである。
なお,同データが公表されたのは平成14年であり,それから5年が経過するが,競争上の地位その他正当な利益を著しく害される具体的不利益がなかったことは,他の製鉄所においても,本件数値情報の開示によって具体的に不利益を受ける蓋然性があるとはいえないことを示している。
さらに控訴人は,定期報告と異なり,省エネ事例大会応募のデータでは経年的分析ができない旨主張するが,省エネ事例大会では受賞された技術が公表されるのであり,毎年受賞するとは限らないので,経年的なデータでないことは当然である。そうであるからこそ,被控訴人は,当該事業所の燃料転換等の温暖化対策の進捗状況を評価するために,排出量の推移だけでなく,電気・燃料等の使用量の経年的推移データが不可欠であると主張し,まさにそのために本件定期報告書記載のデータの開示を求めているのである。
なお,エネルギー使用量から「推計される製品毎のエネルギーコスト」による「不利益を受けるおそれ」は,それ自体が法的保護を受けるほどの精度はない。
(ウ) 国際競争上の不利益の主張について
高炉による製鉄業者は,全製鉄所について電気・燃料等使用量の開示に反対しているが,国際競争に曝されている業種は,高炉製鉄業だけではないから,同分野のみについて,特に電気・燃料等使用量を不開示とする理由はない。
(エ) 地球温暖化対策の推進に関する法律(以下「地球温暖化対策推進法」という。)による温室効果ガスの排出量算定,公表制度について
同法の改正により,平成19年から京都議定書に定める二酸化炭素など6種類の温室効果ガスを一定規模排出する事業所(省エネ法の定期報告書を提出する事業所と同一)について,毎年,事業所轄大臣に排出量を報告し,これを環境大臣と経済産業大臣においてとりまとめ,公表されることになった。また,同法21条の6の規定によって,大規模排出事業所についての温室効果ガスの排出量の開示を求めることができるようになった。
しかし,二酸化炭素については,省エネ法に基づく定期報告制度の燃料別・電力別使用量に排出係数をかけて換算した総量についてのみであって,本件開示請求にかかる数値情報についての開示ではない。二酸化炭素の排出削減のためには,石炭など排出係数の高い燃料から天然ガスなど低い燃料への転換が重要な対策の柱であるところ,地球温暖化対策推進法による温室効果ガスの排出量の算定・報告・公表制度では,その削減可能性や各事業所での取組状況は明らかにならない。
その他,同法21条の3で,環境大臣に対して合計した量による通知を行うよう請求できるなど不十分さを残した制度である(なお,同法21条の3以下の規定と,情報公開法5条2号ただし書該当性の判断,さらには不開示事由該当性の判断とは何ら関連性がない。)。
したがって,地球温暖化対策推進法の改正による上記制度によっても,本件開示を求める情報の開示の必要性は変わらない。
(3) 以上によれば,本件数値情報を開示しても,法人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがない以上,本件数値情報は全面的に開示されなければならない。
第4当裁判所の判断
1 当裁判所は,目録1記載の本件数値情報が記録された行政文書の部分がいずれも利益侵害情報に当たるとした処分行政庁の判断に裁量権を逸脱ないし濫用した違法があるとはいえず,本件不開示決定の取消しを求める被控訴人の請求は理由がなく,したがって,その義務付けとして上記不開示部分の開示決定を求める訴えは,その訴訟要件を欠き却下を免れないと判断するものであり,その理由は,以下に判断するとおりである。
2 利益侵害情報該当性の判断基準について
情報公開法は,情報公開の必要性と法人その他の団体(以下「法人等」という。)又は個人の正当な利益の調整を図るという観点から,その3条において,何人も,同法の定めるところにより,行政機関の長に対し,当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができる旨,5条において,行政機関の長は,同条各号に掲げる不開示情報が記録されている場合を除き,当該情報を開示しなければならない旨を規定し,不開示情報の1つとして同条2号イにおいて利益侵害情報を定める。
そこで,利益侵害情報に該当するか否かの判断にあたっては,同法の上記各規定の趣旨・目的に照らし,以下の諸点を考慮すべきである。
情報公開法は,上記のとおり,何人も行政文書の開示を請求することができるとし,その主体を何ら限定していないのみならず,その開示を求める理由・目的,情報の使途等についても制限を加えず(4条),行政機関の長にこれらの点に関する調査権限や開示条件を設定する権限も認めていないため,特定の者に開示された情報であっても,これが一般人,専門家,競業他社,取引先,外国企業等を含む不特定多数人に伝播することもあり得るのであり,いったん企業秘密等の利益侵害情報が開示されると,その性質上,原状回復はほぼ不可能であるといわなければならない。また,同法5条2号イは,利益侵害情報の要件として単に「害するおそれがあるもの」で足りるとしており,不開示の範囲を厳格に限定する規定形式・文言にはなっていない。さらに,上記「害するおそれ」の要件について,行政機関の長に対し,当該文書の個別具体的な文言等から当該法人等の権利が具体的にどのようにどの程度害される蓋然性があるかを主張立証することまで要求することは,実質上,不開示情報の開示を要求することと同様の事態を生じ不合理である上,本件請求の対象である本件数値情報が記載された定期報告書は,省エネ法11条に基づく,定期の報告義務の一環として作成されるものであるが,その主たる目的は,主務大臣に対し,エネルギー使用の合理化計画に係る必要な指示及び命令等を行うための基礎資料を提供するところにあり(同法12条,同条の2),定期報告書の公開制度も導入されておらず,情報公開法に基づく開示は「目的外使用」に当たるという面も否定できない。
以上の諸点にかんがみると,行政機関の長としては,第三者に関する情報の主体である法人等が意見書(情報公開法13条)において当該情報の開示に反対している場合にあって,当該情報が法人等の事業活動又は生産技術等に関わるものであるなど,その一般的,類型的な性質に照らして当該情報の開示が法人等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるかどうかを判断し,これに当たると判断した場合には,不開示決定をすることができると解され,また,本件数値情報が利益侵害情報に当たるかどうかは,省エネ法や地球温暖化対策推進法を含めた社会・経済政策の実施と法人等の競争上の地位等の保護との調整という政策的判断を要する事項であることにも照らすと,上記おそれの存否に関する行政機関の長の判断が社会通念上妥当性を欠きその裁量権を逸脱又は濫用したものと認められない限り,同判断は違法となるものではないと解するのが相当である。
したがって,これと異なる原判決の判断は相当ではなく,採用することができない。
3 本件数値情報の利益侵害情報該当性について
上記の観点から,本件において,本件数値情報が情報公開法5条2号イの利益侵害情報に当たると判断した処分行政庁の判断が違法であるか否かにつき判断する。
(1) 原判決前提事実(2)ないし(5),甲第1号証,第2号証の1ないし13,乙第1,第5号証によれば,以下の事実が認められる。
ア 被控訴人は,目録1記載の各情報について,平成16年8月6日付け行政文書開示請求書(乙1)によって,情報公開法3条,4条1項に基づき,同月9日までに受理した最新年度の省エネ法11条に基づく定期報告書の開示請求を行った。
イ そこで,近畿経済産業局長は,情報公開法13条1項に基づき,同月24日付けで,本件各事業者宛に行政文書の開示に関する意見書の提出を求めたところ,
① a社b製鉄所は,同月26日付け意見書により,燃料等の種類別の使用量,販売副生燃料等の量並びにそれらの合計及び原油換算,電気の種別使用量及びそれらの合計が不開示情報に該当すること,定期報告書にはエネルギー使用の実態(種類別使用量等)など事業所のエネルギーコストに関する情報や経営戦略に係わる情報が記載されており,本来社外秘とすべき情報であること,燃料等の種類別使用量,時間帯別購入電力,年度使用量は容易にコストが計算できる情報であること,合計原油換算使用量は,全国に複数,品種の異なる事業所を有しており,品種別の活動量やエネルギー効率等を推定できることを理由として,当該情報が開示された場合には,同社の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある旨の意見書を提出した。
② c社d製鉄所は,同月26日付け意見書により,燃料等の種類別の使用量,販売副生燃料等の量並びにそれらの合計及び原油換算,電気の種別使用量及びそれらの合計等が不開示情報に該当すること,定期報告書は法律に基づき提出したものであり,エネルギー使用の実態(種別使用量等)など本来社外秘とすべき情報が記載されていること,当該情報が公開され,競業他社が燃料,電力の使用量等のエネルギーコスト及び設備の稼働状況に基づく事業活動の詳細,将来における企業の投資戦略等の情報を知り得た場合,競争上著しく不利益を被ることが予想されること,顧客にコスト情報が公開された場合,製品価格の変更要請を招く可能性が多分にあり,当該情報が開示された場合には競争上の地位及び本来正当な競争によって獲得されるべき利益を著しく害するおそれがあることを理由として,当該情報が開示された場合には,当該法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるから,不開示情報とすべき旨の意見書を提出した。
③ k社l工場は,同年9月6日付け意見書により,燃料等の種類別の使用量,販売副生燃料等の量並びにそれらの量の合計及び原油換算,燃料等の使用量の合計の対前年度比,電気の種別使用量及びそれらの対前年度比並びに電気の使用量の合計の対前年度比の開示は企業として不利益であるとして不開示情報とすべき旨の意見書を提出した。
④ m社n工業所は,同月27日付け意見書により,燃料等の種類別の使用量,販売副生燃料等の量,それらの合計及び原油換算並びに燃料等の使用量の合計の対前年度比,電気の種別使用量及びそれらの合計並びにそれらの対前年度比から,エネルギーコスト,生産コストの推定が可能となることを理由として不開示情報とすべき旨の意見書を提出した。
ウ 近畿経済産業局長は,上記意見書を踏まえ,被控訴人に対し,平成17年1月6日付け「行政文書開示決定通知書」により,上記各文書について,燃料等の使用量,原油換算,対前年比,販売副生燃料等の量などの本件各事業者が不開示を求めている部分は,法人等に関する情報であって,通常一般には入手できない当該法人等の事業活動に関する内部情報であり,当該情報を競業他社が入手し,パンフレット等により生産量等の情報量を知り得た場合,製品当たりのエネルギーコスト等が推測され,製品当たりの製造コストが類推可能となり,競業他社との競争上の不利益や,販売先事業者との価格交渉上の不利益が生じること等が想定されること,したがって,これらの情報を公にすることにより,当該法人等の権利,競争上の地位,ノウハウ等正当な利益を害するおそれがあり,情報公開法5条2号イに該当するため,これらの情報が記載されている部分を不開示とする旨を通知した。
(2) 以上のとおり,本件各事業所が,前記各意見書において,本件数値情報を公にすることにより当該法人等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると判断したことを踏まえ,処分行政庁が本件数値情報をもって利益侵害情報に該当すると判断したことについては,乙第1,第5,第6号証,第11ないし20号証,当審提出の乙第24ないし32号証,原審証人o,同p,同q,同rの各証言により,①競業他社相互間では,シェア拡大のためには品質情報のみならず,製造コストが重要な情報であるところ,同コストは,材料費(燃料費を除く原材料費),労務費,経費(減価償却費)及びエネルギー費で算定されるため,競業他社の業界の実情に精通した者からみれば,定期報告書に基づき推計されたエネルギー費を合算することによって工場全体の製造コストが得られ,これを生産数量で除すると製品当たりの製造コストを推計できる可能性があること,②燃料種別の単価は,その使用量から各種統計(石油資料月報,石炭年鑑等)を使用し,電力費は時間帯別調整契約標準単価等により推定可能であるから,定期報告書の燃料種別燃料使用量にそれぞれの単価を乗じ,合計することにより,工場全体のエネルギーコストが算出でき,別途資料を用いて,当該工場での製品製造数(例えば,粗鋼生産量)が入手できれば,製品当たりのエネルギーコストを推計することが可能であること,③エネルギーコスト等を時系列(年度推移)で分析することにより,競業他社からは,その技術レベルが推測されるとともに,新技術の導入・新規設備の投資等による効果,操業改善の速度,今後の投資の方向等を推定されるほか,製造コスト等が明らかになることにより想定される競争上の不利益があり,殊に同程度の規模を有する競業他社の場合には,同社の材料費・労務費等のデータを活用することにより,より詳細な推計が可能であって,定期報告書が複数年にわたり公開されると,効率改善の速度や将来の到達点の予測など,競業他社の貴重な情報源になり,これを公開した側は不利な状況に置かれるおそれがあること,④外国企業は,定期報告書の開示により重要な情報を得ることが可能となる反面,同様の処置を講じないため,わが国の企業は外国企業に比較して不利な競争を強いられるおそれがあること,⑤鉄鋼製品の市場は,特定の製鉄所と特定の需要先のオーダーメイド生産・供給が特徴であり,個別事業所のエネルギー効率・コストが判明することによって,競業他社との市場競争上の実害が生じるおそれがあること,⑥取引先の調達コストの削減要求は厳しく,鋼材の製造コストやエネルギーコストの情報が得られると,価格交渉の材料にされることになり,価格低減(利益の低減)の交渉材料にされるおそれがあることがそれぞれ認められることからしても,不相当なものではなかったと認められる。
(3) そうすると,本件各事業者が本件数値情報を記載した定期報告書が公開されると,競業他社,取引先,専門家等による分析によって,製造コスト等の企業秘密に関する事項が推測され,競争上の地位等が害されるおそれがあるとして公開に反対していることを踏まえ,近畿経済産業局長において,同情報が本件各事業者の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると判断して不開示決定をしたことには合理的な理由があるというべきであり,同局長において本件数値情報は利益侵害情報に当たるとして上記決定をした判断が,その裁量権を逸脱ないし濫用した違法なものと認めることはできないというほかない。
この点に関し,被控訴人は,多くの事業者が本件数値情報と同様の数値情報を情報公開手続に応じて公開していることを根拠として当該数値情報が同業事業者にとって秘密とすべき事項ではないことを自認したものといえる旨主張する。
しかしながら,甲第4号証の1ないし29,第7号証の1,2,乙第9号証,当審提出の甲第28号証によると,上記公開した事業者も,対象情報の公開による製品の価格交渉,同業他社との競争上不利益になるおそれがあることを否定するものではなく,その中には,情報開示の社会的要請を勘案して環境情報の公開を優先すべきと判断した事業者,近時の環境問題に関する社会の関心の高さから企業のイメージ戦略として環境問題に対する取組姿勢自体をアピールすべきと判断した事業者,地球温暖化に対して積極的に取り組んでいるにもかかわらず,開示に同意しないことにより取組状況が不十分であるとの誤解を受け,企業のイメージダウンに繋がることを危惧して,開示に踏み切った事業者等も含まれていることが認められ,これらの事実に照らすと,定期報告書の開示に同意した事業者があることから,当該事業者が,当該数値情報を利益侵害情報でないことを自認したものということはできない。
また,被控訴人は,省エネ事例大会との関係において,a社b製鉄所やc社d製鉄所が本件数値情報と同様の数値情報及び省エネ情報を高炉事業者自ら公開していること(甲22,23)を根拠として,本件数値情報が開示されることによって,各事業者の正当な利益が害される蓋然性があるとする控訴人の主張は理由がない旨主張する。
しかしながら,当審提出の乙第31ないし35号証によると,①省エネ事例大会は,わが国のエネルギー・資源の効率的活用に資するため,省エネルギー意識の高揚及び省エネルギー技術の向上を通じて具体的な省エネルギー活動の推進を図ることなどを目的として開催されるものであって,応募は任意であり,毎年大会に参加する必要はないこと,②応募には,エネルギー消費量の記載に関して,統一的な定めがない上,エネルギーの種別の定義自体が明確ではなく,特定のエネルギーの種別のみが記載されたり,使用量の概数が記載されることもあるし,販売副生燃料等が含まれているか否かも不明であって,同一の応募者でも応募した年度ごとで記載方法が異なることもあること,③これに対し,定期報告書の場合には,省エネ法11条,同法施行規則10,11条により記載内容や算出方法が厳密・詳細に定められているほか,記載方法も記入要領(乙35)によって詳細に定められ,販売副生燃料等との区別も要求され,毎年提出する必要があることが認められ,これらの事実に照らすと,省エネ事例大会で公開されるエネルギー情報よりも,本件数値情報の方がより厳密・詳細なものであって,両者の情報量・内容には相当の相違があるから,その分析内容・正確性については同一視できないというべきである。
殊に,上記のとおり,省エネ事例大会の応募については,エネルギー消費量について開示しても応募を中止したり記載内容・程度を変更することも可能であるのに対し,定期報告書については,毎年記入要領によって詳細に報告せざるを得ず,継続的に情報開示を求めることによって経年変化の分析も可能になるという根本的な相違点があるから,省エネ事例大会において公開されるエネルギー年間使用量の情報に基づく分析は,本件数値情報による分析に比べれば質的に劣るものであり,その情報の開示の効果は,全く異なるというほかない。
したがって,上記のとおり省エネ事例大会に応募し,数値を開示した事実によって,直ちにa社b製鉄所やc社d製鉄所が本件数値情報が秘密とすべき情報でないことを自認したとはいえないから,被控訴人の上記主張は採用できない。
なお,被控訴人は,省エネ事例大会におけるデータによっては経年的分析ができないことは当然であり,そうであるからこそ本件定期報告書記載のデータの開示を求めているものである旨主張するが,本件数値情報を不開示とした本件決定に違法がないことは前記のとおりである。
(4) 以上のとおりであるから,本件数値情報が情報公開法5条2号イの利益侵害情報に当たるとした処分行政庁の判断に違法はないというべきである。
4 情報公開法5条2号ただし書該当性について
そこで,すすんで,本件数値情報が,情報公開法5条2号ただし書所定の「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」に該当するか否かにつき判断する。
(1) 甲第6,第8号証,第10号証の1,2,第11,第12号証,当審提出の甲第24ないし28号証によると,二酸化炭素等の温室効果ガスの急激な排出増加により,地球の平均気温の上昇とそれに伴う気候変動を引き起こすいわゆる地球温暖化が進行しており,将来的には,個人の生命,身体,財産に諸々の深刻な影響をもたらす可能性があることから,温室効果ガスの排出規制は,世界各国が真摯に取り組むべき重要な課題であることが認められる。しかして,被控訴人は,温暖化対策の政策立案やその検証のためには,一部情報の開示では足りず,多くの二酸化炭素を排出する事業者に関し,電気・燃料別の数値も含めた本件数値情報がすべて開示されることが必要不可欠であり,同情報が開示されることによって,二酸化炭素排出抑制の努力をいっそう促す効果があり,本件数値情報は,人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる旨主張する。
(2) しかし,二酸化炭素を中核とする温室効果ガスは,直ちに人の生命,健康,生活又は財産に対して直接,具体的な危険を及ぼすものとはいえない上,地球温暖化の原因である二酸化炭素等の排出規制のあり方については,国の外交政策や社会・経済政策の実施に委ねられるべき事項であるところ,現に控訴人は,地球温暖化が地球全体の環境に深刻な影響を及ぼすものであり,その防止が人類共通の課題であるとの観点から,社会・経済活動による温室効果ガスの排出の抑制等を促進するための措置を講ずること等により,地球温暖化対策の推進を図り,現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与し,人類の福祉に貢献することを目的として地球温暖化対策推進法を制定し(同法1条),事業活動に伴い温室効果ガスを排出する者につき,毎年度,事業所ごとに,排出した温室効果ガス算定排出量の報告義務を課し(排出者の権利利益が害されるおそれがあると思料されるときは,温室効果ガス算定排出量を合計した量。同法21条の2,3),環境大臣及び経済産業大臣は,集計された結果を公表し(同条の5第4項),その後,何人も公表に係るファイル記録事項の開示の請求を行うことができる(同条の6)とするなど積極的な規制を可能にする立法措置を講じている。
また,乙第23号証によると,日本鉄鋼連盟は,1996年12月に環境保全に関する自主行動計画を策定し,生産工程におけるエネルギー消費を2010年までに10%削減することを宣言するなど,省エネルギー対策を推進しており,また,甲第19号証,乙第14,第23 号証,当審提出の乙第36号証によると,a社,c社及びm社n工業所は法人単位で二酸化炭素の排出量を公開していることが,k社は事業所単位で二酸化炭素の排出量を公開していることがそれぞれ認められる。
(3) 以上によると,本件数値情報は,その性質上,直ちに人の生命,健康,生活又は財産に直接,具体的な危険を及ぼす情報とはいえない上,二酸化炭素を中核とする温室効果ガスの排出規制については,控訴人自身が上記立法政策を講じてその規制・防止対策に乗り出し,また,本件各事業者も上記のとおり自主的に二酸化炭素の排出量を公表しているのであるから,二酸化炭素の排出量に関する情報については,地球温暖化対策推進法に規定する上記の公表制度のほか,同法に基づき提出された資料について,情報公開法によってその公開を求めればよく(この場合には,当該情報が,情報公開法5条2号イの利益侵害情報に該当しないと判断される場合もあり得る。),したがって,省エネ法に基づき提出された情報である本件数値情報は,情報公開法5条2号ただし書にいう「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」には該当しないというべきである。
なお,被控訴人は,二酸化炭素については,地球温暖化対策推進法による温室効果ガスの排出量の算定・報告・公表制度では,その削減可能性や各事業所での取組状況は明らかにならない旨,同法21条の3で,環境大臣に対して合計した量による通知を行うよう請求できるなど不十分さを残した制度である旨主張するが,これらの主張も上記判断を左右するものではない。
第5結論
以上によれば,本件数値情報が情報公開法5条2号イの利益侵害情報に当たるとして,本件不開示決定をした近畿経済産業局長の判断が,その裁量権を逸脱ないし濫用した違法なものであるとはいえず,また,同情報は,同条2号ただし書に定める情報にも当たらないというべきであるから,本件不開示決定の取消しを求める被控訴人の請求は理由がなく,したがって,その義務付けとして不開示部分の開示決定を求める被控訴人の訴えは,行政事件訴訟法37条の3第1項2号所定の訴訟要件を欠く不適法なものといわなければならない。
よって,原判決中,控訴人敗訴部分を取り消した上,被控訴人の上記請求を棄却し,上記開示決定を求める訴えを却下することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大和陽一郎 裁判官 市村弘 裁判官 一谷好文)