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大阪高等裁判所 平成19年(行コ)26号 判決 2008年6月27日

主文

1  原判決を次のとおり変更する。

2  被控訴人は、Z1に対し,2194万6899円及びこれに対する平成16年6月26日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。

3  控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。

4  訴訟費用(参加に要した費用を含む。)は、第1、2審を通じ、これを5分し、その3を被控訴人の、その余を控訴人の各負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人は、Z1(以下「Z1」という。)に対し,3694万6899円及びこれに対する平成16年6月26日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。

(3)  被控訴人は、被控訴人補助参加人Z2(以下「Z2」という。)に対し,3694万6899円及びこれに対する平成16年6月26日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。

(4)  被控訴人は、被控訴人補助参加人Z3(以下「Z3」という。)に対し,3694万6899円及びこれに対する平成16年6月26日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。

(5)  訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。

2  被控訴人及び被控訴人補助参加人ら

(1)  本件控訴をいずれも棄却する。

(2)  控訴費用は控訴人の負担とする。

第2事案の概要

1  本件は、奈良県斑鳩町の住民である控訴人が、斑鳩町(以下「町」又は「斑鳩町」という。)が、斑鳩町<以下省略>の住民で構成するZ3の地域集会所(後記の本件集会所)の土地取得資金及び建物建築資金にするために、付近にマンションを建築した開発業者である株式会社aから施設協力金として1440万円の寄付を受けると共に、土地開発公社に事業用地として先行取得させた土地の一部を購入し、その後に町所有となった同土地をZ3に無償譲渡するなどし、更に、町からZ3に対し、2度に亘り、391万3000円及び1500万円の各補助金を交付したことにつき、それらは、町が自ら地域集会所施設整備費の補助の要件を定めた補助金交付要綱(後記の本件要綱)を潜脱してこれに違反するもので、町長であったZ1がした上記の土地無償譲渡(契約)、2度に亘る補助金の交付決定は、いずれも違法な財務会計行為としての財産処分又は契約の締結行為であり、Z1は町に対して損害賠償義務を負うなどと主張し、被控訴人(町長)に対し、地方自治法(以下「法」ともいう。)242条の2第1項4号に基づき、①Z1が同号の「当該職員」に該当するものとして、Z1に対して損害賠償請求をすること、②Z3会長であったZ2がZ1と共謀して上記違法な財務会計行為をし、又はZ1の違法な財務会計行為を惹起させたもので、Z2に対して損害賠償又は不当利得返還請求をすること、③Z3が同号の怠る事実の相手方であるとして、Z3に対して不当利得返還請求をすること、以上を求めた住民訴訟であり、Z3及びZ2が被控訴人に補助参加した事案である。

2  原判決は、控訴人の請求をいずれも棄却したが、これに対し、控訴人は、その取消しを求めて控訴した。

3  争いのない事実等、争点及び当事者の主張の骨子は、次のとおり付加訂正するほか、原判決の「事実及び理由」中の第2の1ないし3(原判決2頁24行目から17頁25行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決4頁5行目冒頭から同8行目末尾までを次のとおり改める。

「斑鳩町土地開発公社(代表者理事長・Z1、以下「公社」という。)は、公有地の拡大の推進に関する法律(以下「公有地拡大法」という。)に基づいて設立された法人である。

公社は、平成11年6月7日付けの町の依頼により、都市計画道路事業(法隆寺線)の用地を確保するための代替用地を取得することになり(甲9、10)、同年7月26日、分合筆前の原判決別紙物件目録記載1ないし3の各土地(以下、番号に従って、それぞれ「本件土地①」「本件土地②」などという。)を含む代替用地を1平方メートル当たり5万6200円の割合による代金で取得し、以後、これを所有するようになった(甲11ないし16)。

公社は、平成12年2月17日の理事会において、上記代替用地のうちの60坪を代金1440万円で町が買い取ることを承認した。」

(2)  原判決4頁11行目の「公社は、」から同14行目末尾までを次のとおり改める。

「そこで、公社(常務理事A)は、平成12年3月28日、町(代表者町長Z1)との間で、上記代替用地のうちの合計約75坪分に相当する本件土地②③の各土地を代金1440万円で売却する契約をすることを決定した(甲20)。」

(3)  原判決4頁17行目冒頭から同21行目末尾までを次のとおり改める。

「(オ) Z1は、公社理事長として、平成12年6月5同付けで、本件土地①につき「私所有にかかる上記土地は、Z3が使用することを承諾します。」との土地使用承諾書(甲31)を、町長として、同日付けで、本件土地②③につき「私所有にかかる上記土地は、Z3が使用することを承諾します。」との使用承諾書(甲30)をB又はZ3に交付した。」

(4)  原判決8頁23行目の「斑鳩町においては、」の次に「平成11年3月までは斑鳩町公民館等施設整備費補助金交付規程(昭和59年斑鳩町教委規程第1号)が定められていたが、同年4月から、」を加える。

(5)  原判決9頁5行目冒頭から7行目末尾までを次のとおり改める。

「(1) Z1は、本件無償譲渡(契約)並びに本件補助金交付①②(決定)が財務会計法規上違法であることにより、不法行為又は債務不履行に基づき、町に対し、それによって町が被った損害の賠償責任を負うかどうか。Z2は、Z1と共謀して上記違法な財務会計行為をし、又はZ1に同行為を惹起させたことにより、町に対して損害賠償責任を負い、法242条の2第1項4号所定の怠る事実の相手方に該当するかどうか。

(2) Z3は、違法な財務会計行為により利得を受けたもので、町に対し、不当利得返還義務を負っており、法242条の2第1項4号所定の怠る事実の相手方に該当するかどうか。」

(6)  原判決9頁9行目から10行目にかけての「(Z1及びZ2の本件無償譲渡行為並びに本件補助金交付①及び②に関する不法行為責任の有無)」を削る。

(7)  原判決12頁20行目冒頭から同21行目末尾までを次のとおり改める。

「したがって、Z1がした本件無償譲渡(契約)及び本件補助金交付①②(決定)は、いずれも財務会計法規上違法であって、Z1は、法242条の2第1項4号所定の当該職員として、不法行為又は債務不履行に基づき、それにより町が被った損害を賠償する責任を負う。」

(8)  原判決13頁2行目冒頭から3行目末尾までを次のとおり改める。

「(ウ) したがって、Z2は、Z1と共謀して上記違法な財務会計行為をし、又はZ1に同行為を惹起させたことにより、町に対し損害賠償責任を負い、法242条の2第1項4号所定の怠る事実の相手方に該当する。」

4  控訴人の当審における補足主張

(1)  Z2は、Z1と共謀の上、本件要綱に違反するなどの違法な本件無償譲渡(契約)や本件補助金交付①②(決定)をしたもので、不法行為等により、町に対して損害賠償責任を負い、法242条の2第1項4号本文の怠る事実の相手方である。

(2)  Z3は、違法な財務会計行為により利得しているから、不当利得返還義務を町に対して負っており、法242条の2第1項4号本文の怠る事実の相手方である。

(3)  本件集会所は公共施設ではなく、町が本件集会所建設用地を公社に取得依頼したこと自体が公有地拡大法の趣旨に反するものであるし、本件無償譲渡(契約)及び本件補助金交付①②(決定)は、法232条の2、本件要綱に反するもので、Z3において発言力を高めたいとの意思を有していたBとZ1との癒着の結果、Z3に属する一部の者及び建設業者に利益を与える目的でされたものであり、いずれにしても違法である。

(4)  本件無償譲渡(契約)の対象となった本件土地②③の価格は、公社の施工した造成工事により増加しており、本件土地①のZ3への売却代金の単価と同額の1平方メートル当たり7万2732円であり、合計1803万3899円(7万2732円×247.95平方メートル)である。

(5)  Z3は、その構成員も不分明であり、自治会規約も成立していたとはいえず、権利能力なき社団にすら該当しない。峨瀬地区には、Bをトップとしたb会と、従来のZ3とに分裂した2つの自治会がある。Z3の構成員であったcマンションの住民も、現在はその大半が脱会している。

(6)  被控訴人及びその補助参加人らの当審における補足主張はいずれも争う。

本件無償譲渡(契約)及び本件補助金交付①②(決定)は、法232条の2の寄附又は補助であり、その要件が必要であるのにそれを欠いているから違法である。

5  被控訴人の当審における補足主張

(1)  a社からされた本件施設協力金1440万円の寄付は、平成11年度の町の一般会計予算の歳入に計上され、公社からの本件土地①②の購入財源に充てられた。したがって、町が本件土地①②を本件無償譲渡(契約)しても、実質的には、a社がZ3に本件施設協力金を土地として提供したのと同様に評価できる。

(2)  Z3は、多数の地域住民により構成される峨瀬地区の重要な地域団体であり、地域の社会生活、地域コミュニティーの中核団体といえる存在であって、町と地域住民の重要な接点となる団体である。

(3)  本件無償譲渡(契約)は、上記(1)の事実経過等について、議会で出席議員から賛否の意見も述べられた後に、賛成多数で可決された。本件無償譲渡(契約)は、法237条2項、96条1項6号の要件を充たしており、この場合には、法232条の2の適用はないから、この観点からも、本件無償譲渡(契約)は適法である。

(4)  Z3は、従来から権利能力なき社団の実態があり、自治会規約も自治会員によって少なくとも黙示の追認によって承認されて有効に成立したことは明らかで、しかも、適法に地縁団体の認可を受けた。

(5)  控訴人の当審における補足主張はいずれも争う。

6  被控訴人補助参加人らの当審における補足主張

(1)  Z3の自治会規約の成立前は、成文化された規約はなかったが、構成員は明確であった。平成12年10月8日の臨時総会の当時の会員数は320名であった(甲26)。区域は町が線引きしたものを利用して自治会が線引きをした。

(2)  本件集会所の建設は、Z3の会員から要望された。cマンションⅢ番館とⅤ番館の相当数の住民がZ3を脱会したのは、平成19年3月のことで、本件無償譲渡(契約)や本件補助金交付①②とは無関係である。現在でも、Z3の会員は201名である。

第3当裁判所の判断

1  判断の前提となる事実関係

前記争いのない事実等、甲1ないし49、乙1ないし70、丙1、原審証人Z2、同B、同Cの各証言、原審控訴人本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により認められる事実関係は、次のとおり付加訂正するほか、原判決18頁6行目冒頭から36頁15行目末尾までのとおりであるからこれを引用する。

(1)  原判決18頁6行目の「Z3」を「Z3等」に、同7行目の「区域と構成員」を「区域と構成員等」に改め、同8行目冒頭から同9行目末尾までを「Z3は、奈良県生駒郡斑鳩町<以下省略>の区域に世帯を有する者によって構成されて、会員相(互)の親睦と連携を図り文化生活の向上と明るい地域社会をつくることを目的とするとされており(本件自治会規約・丙1、1条、3条)、その構成員の大部分は、cマンションの住民である。なお、本件自治会規約8条には、構成員が区域内に住所を有しなくなった場合、本人より別に定める退会届が会長に提出された場合には、退会したものとする旨が定められている。町内には、自治会が141あり、自治会集会所は51箇所ある。」を加える。

(2)  原判決20頁6行目の「公民館等施設整備計画書」の次に「(乙25・参考資料2)」を加え、同8行目の「記載されていた。」を「記載され、構造は木造で2500万円とされ、合計4760万円と記載されていた。」に改める。

(3)  原判決21頁6行目から7行目にかけての「本件要綱以前に施行されていた」から同9行目末尾までを次のとおり改める。

「本件要綱以前に施行されていた斑鳩町公民館等施設整備費補助金交付規程によれば、町が町内の自治会のために補助金を交付する場合の限度額が規定されていたところ、それでは町が交付する補助金によって大型施設である本件集会所の敷地と建物の建築費用を賄うことができず、Z3側からの要望に応えることができなかったので(甲4には、土地と建物のそれぞれの上限額が533万円であったとの記載がある。)、町は、前記交付規程による制限を大幅に緩和して町から交付される補助金でZ3の本件集会所の敷地の取得費用と建築費用の相当部分を賄えるようにするため、平成11年4月1日、本件要綱(乙6)を制定した。このように、本件要綱自体が、Bらから町にされていた本件集会所建設のための補助の要望に応じられるように、補助の要件を緩和するために制定されたものであった。

本件要綱によれば、自治会等が町内の地域集会所の新築等を行うに当たり、予算の範囲内において、斑鳩町地域集会所施設整備費補助金を交付するものとし(1条)、新築及び既存の建物の購入については、実際に要する費用の2分の1以内の額で1500万円を限度とし、土地の購入については、購入価格の2分の1以内の額で、1500万円を限度とする(4条)などと規定されている。」

(4)  原判決21頁23行目末尾の次に「上記基金は、法241条に基づき、斑鳩町公共施設整備基金の設置、管理及び処分に関する条例(甲49)によって設置された基金であって、法241条3項によって、その基金の財産は、その目的のためでなければこれを処分することができないとされていたもので、同条例においては、その2条で、財産の種類について、基金に属する財産は、開発事業等に関して受けた寄付金をもってこれに充てるものとする、その6条で、処分について、町の公共施設等のうち、道路、公園、保育所、コミュニティー施設、ごみ集積施設の整備事業を行うための財源に充てる場合、その他、町長が必要と認める場合は、予算の定めるところにより、基金の全部又は一部を処分することができる、などと規定されていた。」を加える。

(5)  原判決21頁25行目冒頭から22頁6行目までを次のとおり改める。

「公社は、平成11年6月7日付けの町の依頼により、都市計画道路事業(法隆寺線、通称いかるがパークウエイ整備事業)の用地を確保するための代替用地を取得することになった(甲9、10)。しかし、この依頼については、すでに、平成11年5月21日に開催された町議会の総務常任委員会において、前記事業を進めるための代替用地とする土地のほかに、Z3のための本件集会所の建設用地の取得も合わせて公社に取得を依頼することについて説明がされ、本件集会所用地として約40坪の用地を取得する予定であること、すでに峨瀬地区には集会所があるが、それに補助金が交付されたのが10年以上前であり、今回、それとは別に本件集会所の建設のために補助金を交付することは問題がないこと等の説明がされていた(乙63)。そして、本件集会所の建設用地の取得については、町においては、a社からされた前記の1440万円の寄付を一旦一般会計予算に受け入れた後に、更に同額の予算を支出して町が取得することにされていた。

しかし、このように、上記の依頼の時点で、本件集会所建設用地の取得の趣旨も含まれており、公社の理事長で町の町長でもあるZ1は、そのことも十分に承知していたにも拘わらず、公社への代替用地取得依頼書(甲9)のその目的の欄には上記事業のための代替用地の取得とのみ記載され、他の公社の関係書類にも本件集会所の建設用地の取得であることは記載されなかった。

公社は、平成11年7月26日、斑鳩町<以下省略>所在の分合筆前の本件土地①ないし③を含む同所<以下省略>の各土地(公簿地積合計1690平方メートル、以下、この4筆を「旧4筆の土地」という。)を9497万8000円(1平方メートル当たり5万6200円)でそれらの所有者であったDから取得し(甲11ないし16)、同月29日、その旨の所有権移転登記を了し(乙48ないし51)、これを所有するようになった(甲11ないし16)。

そして、公社は、1日4筆の土地について、通路を付けるなどして造成工事を施工するなどし、各土地の価格は増加したが、その後、公社と町は、旧4筆の土地のうちから60坪(約198平方メートル)を、上記事業とは無関係に、当初からの予定どおり、代金1440万円(1平方メートル当たり約7万2727円)で町が買い取ってZ3のための本件集会所用地とすることにし、公社の平成12年2月17日の理事会においてこれを承認し、その余の大部分の土地を上記のとおり関係書面で明記されたとおりの上記事業の用地として町等に譲渡することにした。平成11年10月12日付けの公社作成の伺書(甲15、上記の代替用地として取得した土地を、事業地地権者から代替用地として取得したいとの要望があったので、その者に処分する計画ですすめてよいかどうかを伺う趣旨の文書)に添付された土地利用計画平面図には、本件土地①ないし③の各土地に該当する範囲は「集会所用地」と記載されていた。」

(6)  原判決22頁16行目の「1440万円」の次に「(1平方メートル当たり5万8076円)」を加える。

(7)  原判決36頁9行目の「完了した旨の」を「総工費3316万5500円で完了した旨の」に改める。

2  争点(1)について

(1)  争点(1)のうち、控訴人が、被控訴人に対し、Z2に金員の支払を請求することを求める法律上の根拠は必ずしも明確ではないが、Z2が、Z1と共謀して違法な財務会計法上の行為をし、あるいはZ2がZ1に違法な財務会計行為を惹起させたことによって町に対して損害賠償債務を負い、町がその損害賠償請求権の行使を怠ったもので、その相手方となるとの趣旨と解し得るとしても(法242条の2第1項4号によってそのような請求ができるのかどうかはともかく)、本件無償譲渡の契約をしたり、本件補助金交付①②の決定をする法律上の権限は、町長であるZ1にあったもので、Z2は、前記のとおり、町の職員ですらなく、Z3の会長であった者であり、町長としてのZ1の上記の権限行使について、Z2が上記のような行為をして町に対して不法行為又は債務不履行責任を負うことを肯認し得る事実があったことなどは、証拠上、これを認めるに足りないというべきであり、他に、控訴人の請求として、法242条の2第1項4号所定の請求として、被控訴人に対し、Z2に金員の支払を請求することを求める法的根拠は認められない。そうすると、控訴人の本件請求のうち、被控訴人に対し、Z2に金員の支払を請求することを求める控訴人の請求は、理由がない。

(2)  控訴人は、Z1が、町長として、法260条の2に基づいて、Z3を地縁による団体と認可した本件認可が無効であり、Z3は権利能力の主体になり得ないから、本件無償譲渡(契約)及び本件補助金交付①②(決定)は違法であるなどと主張する。しかし、本件認可がされた以上、それに重大かつ明白な瑕疵があって無効であるとするまでの事情は、証拠上も認められず、本件認可は有効というべきであり、控訴人の主張は採用できない。のみならず、この点に関する控訴人の主張を採用することができないことは、原判決36頁17行目冒頭から38頁5行目末尾までの理由説示と同じであるから、これを引用する。

(3)  Z1が町長としてした本件無償譲渡(契約)及び本件補助金交付①②(決定)が財務会計法上違法であるかどうかを検討する。

ア 前記認定事実によれば、町は、平成10年10月31日に、Z3のB会長から集会所用地の取得とその建設の要望を受け、平成11年にa社から寄付された1440万円を歳入予算に計上し、公社に本件集会所建設のための用地取得を依頼し、公社から本件土地①②をその用地として代金1440万円で買い受け、同代金を歳出予算の執行として支出し、その後に、これらを本件無償譲渡し、また、Z3は公社から本件土地①を代金782万6615円で購入し、町から本件補助金交付①(391万3000円)及び本件補助金交付②(1500万円)を受けたもので、本件土地②③の代金が上記寄付金1440万円で賄われたものであるとして、上記の町の予算への組み入れと支出を除外して全体としてみると、町は、本件集会所の建物建築費を3316万5500円とし、そのうちの1500万円に充てるために本件補助金交付②をしたもので、Z3が本件土地①を取得するために要した782万6615円のうちの391万3000円を本件補助金交付①としたことになり、本件集会所建設のために制定した本件要綱によれば、本件補助金交付②は、本件集会所の建物建築費用の2分の1以下でその上限額である1500万円であって、本件補助金交付①②(決定)は、法232条の2所定の「その公益上必要がある場合」に該当するのはむろん、町がその裁量基準として定めた本件要綱で定められた要件にも合致するものであって、法(地方自治法)上も、地方財政に関する他の法規上も、一見、問題がないようにもみえる。

イ しかしながら、前記認定事実によれば、町においては、予め、Z3からの要望に基づき、Z3のために、本件集会所の用地を取得してこれをZ3に無償で譲渡する予定であったもので、町長及び公社理事長であったZ1は、それらの事情を知りながら、都市計画道路事業の代替用地の取得を公社に依頼することがあったのを利用して、その依頼の中に本件集会所建設予定地分も含め、公社がそれを取得した後に、本件集会所予定地である本件土地②③を、同事業の代替用地から区別して、公社から町の公金1440万円を支出して取得し、それが町所有の普通財産となった後に、公有地として使用するのではなく、町の一部地域の住民が自主的に組織する親睦等を目的とするZ3に無償譲渡したもので、これらの一連の手続は、地方公共団体の所有する土地(公有地)の拡大の計画的な推進等を趣旨とする公有地拡大法の趣旨に反するのみならず、本件土地②③の取得代金1440万円を町の公金として町全体のために使用せずに、本件集会所の用地としてZ3に無償譲渡するために支出し、町の一地域の任意加入団体に町有の相当の価値のある不動産を無償で譲渡したもので(後記認定のとおり、本件不動産①②の価格が公社の造成工事等によって1440万円以上になっていたことが認められる。)、これは、実質的には、Z3に同額以上の補助金を交付したのと変わりはないものであり、法232条の2の寄附又は補助に当たることは明らかである。そして、町自らが各地域の自治会の集会所等の建設に関する用地取得の補助の基準を定めた本件要綱との関係では、町が別にZ3に交付した本件補助金交付①の391万3000円を前記1440万円に加えた合計1831万3000円以上の額になり、本件要綱による限度額1500万円を大きく超えるもので、同時に、本件土地①の取得価格の合計額の2分の1の金額をも大きく超える金額となり、少なくとも本件要綱に反するものであることは明らかである。

そして、本件要綱は法232条の2の「その公益上必要な場合」という長の裁量基準を設定したもので、それはすでに町の住民にも周知させたものであること(弁論の全趣旨から認められる。)にかんがみても、これら一連の措置は、少なくとも、法232条の2、本件要綱にも違反するものである。そうすると、Z1が町長としてした土地の取得に関する本件補助金交付①(決定)及び本件無償譲渡(契約)は、町所有地の取得に関して公社との間で実体と相違する内容の書面を作成して財務会計法規に反する手続を進めたことになるから手続的にも違法であり、また、実体法的にも、法232条の2、本件要綱に反して「公益のため必要があるとき」との同規定の裁量の範囲を逸脱した違法な財務会計行為であるといわざるを得ない。

ただし、前記認定事実によれば、本件集会所の建物建築費用のための補助金に関する本件補助金交付②(決定)は、前記認定の経緯はあるものの、法232条の2の裁量基準を定めた本件要綱には一応合致したもので、その交付決定は、法232条の2の要件を逸脱した財務会計法上違法な行為とまではいえないと解される。

ウ 被控訴人及びその補助参加人らは、公有地拡大法は、公社の本来業務を妨げず、一定の公益性を帯びた目的に供する土地の取得処分を認めるものであり、本件無償譲渡(契約)は法237条2項、96条1項6号という独立した根拠規定に基づくもので、議会による承認議決を経たものであり、また、本件補助金交付①(決定)については、本件要綱に基づくもので、いずれも違法ではないなどと主張するところ、前記認定事実によれば、本件無償譲渡(契約)を含め本件集会所の建設については、町の議会において相当程度に説明、討議され、承認されたものであることは認められる。

しかしながら、一部地域の住民による任意加入団体である自治会に土地を取得させるために公社にその土地の取得を依頼することは、公有地拡大法の趣旨に反するものといわざるを得ず(前記認定のとおり、町は、本件集会所用地の取得を目的とすることを依頼の文書に記載していない。)、また、地方公共団体がその所有する土地を自治会その他の者に無償譲渡することも、金員を補助金として交付するのと同様に、法232条の2所定の補助又は寄附に該当するもので、そのように解しなければ地方公共団体の財務の適正な運営をその趣旨とする同条の趣旨は没却されるというべきである。したがって、本件無償譲渡(契約)についても、法237条2項及び法96条1項6号の各要件のほかに、更に、その実体上の要件として、法232条の2の要件が必要であると解すべきであり、本件無償譲渡(契約)は、本件集会所の用地を取得させるためのものであるから、町長の裁量基準を定めた本件要綱による要件及びその制約が当然に課せられるものと解される。前記認定事実によれば、本件無償譲渡(契約)については、前記のとおり議会の議決があるものの、それは手続要件の1つを充足したことを意味するに過ぎず、法232条の2及び本件要綱のような実体要件を不要とする法的効果はなく、前記のとおり実体要件がない違法な本件無償譲渡(契約)が議会の議決があるからといって適法になるものではないものと解される(昭和37年3月7日最高裁大法廷判決・民集16巻3号445頁、昭和39年7月14日最高裁第3小法廷判決・民集18巻6号1133頁参照)。そうすると、本件補助金交付①(決定)も違法であることは、前記説示のとおりであるから、この点に関する被控訴人及びその補助参加人らの主張はいずれも採用できない。

エ また、被控訴人は、本件無償譲渡(契約)は、それに至る一連の事実経過に照らせば、町が、本件施設協力金1440万円をもって、本件集会所用地として本件土地②③を購入し、議会の議決も得てされたもので、実質的には、a社がZ3に本件施設協力金分を土地として提供したものともいえ、合理的で適正な処理であったことは明らかであるなどとも主張する。

しかし、前記認定事実によれば、町内の自治会は141あり、自治会集会所は51箇所あること、Z3は、町の一地域の住民らによる親睦を目的とする団体であって、強制加入団体ではなく、平成12年10月当時の構成員の人数は320人であったが、前記のとおり、その規約からみても、その地域の住民であってもその住民の一方的意思表示により脱会することができる任意加入団体であったことが認められる(なお、平成17年4月26目最高裁第3小法廷判決・最高裁裁判集民事216号239頁、判例時報1897号10頁、判例タイムズ1182号160頁参照)。そして、法260条の2に基づき、本件認可がされたとはいっても、同条の2第6項に明記されているとおり、Z3を公共団体その他の行政組織の一部とすることを意味するものと解釈してはならないのであって、本件集会所は、町の公共施設ではなく、Z3が本件集会所の土地建物を所有し、それを使用することは、公共性がないとはいえないものの、それは、町自体が施設を所有し、公の目的のためにそれを使用する場合とは、顕著な差異があるものというべきである。現に、弁論の全趣旨によれば、平成19年3月、cマンションⅢ番館とⅤ番館の住民の相当数がZ3を脱会したもので、Z3は、本件自治会規約が定める地域においても、なお一部の住民により構成されているにすぎないものとなったことが認められる。

のみならず、町が本件土地②③を取得した代金1440万円は、あくまで町の一般予算から支出されたものであって、a社から本件施設協力金として1440万円の寄附がされたとはいっても、それは一般会計予算に組み入れられたもので、地方公共団体である町の処理としてそのような処理手続がとられた以上、前記の支出された金員は、町の公金として町全体の予算として執行すべきもので、法的には、a社からの本件施設協力金によって町が本件土地②③を取得したとか、又は本件無償譲渡(契約)によって町の財産が減少したことにはならないとか、更には、a社からZ3に本件土地②③が提供されたなどと評価することは到底できない。しかも、前記認定事実によれば、Z1は、町長及び公社の理事長として、a社が本件集会所用地を取得することは困難で、しかも、町が本件施設協力金の寄附を受けただけでは、Z3の本件集会所建設の要望に応じることができなかったため、あえて、公社との関係で公共事業の代替用地取得の目的であるかの如く手続上の体裁を整え(この点、原審証人Cの証言中には前記認定と異なる部分(同証人調書38頁、39頁)があるが、平成20年3月12日付け被控訴人第4準備書面2頁以下の主張や弁論の全趣旨に照らして採用できない。)、また、補助金の限度額も本件要綱の施行以前の斑鳩町公民館等施設整備費補助金交付規程の補助金交付の限度額を、Z3側からの要望により、大幅に緩和する内容の本件要綱を定めるなどして手続を進め、結局、Z3側の要望にできるだけ沿うように取得する土地の面積等が決定され、移転登記手続ができるようにするための本件認可申請を促すなどし、本件無償譲渡(契約)や本件補助金交付①に至ったもので、このような事実経過をみれば、それらは、いずれも財務会計上も相当不明朗な手続であったというほかなく、実質的に合理的で適正な処理であったなどといえないことは明らかである。したがって、被控訴人の主張は採用できない。

(4)  このようにみてくると、Z1のした本件無償譲渡(契約)及び本件補助金交付①(決定)は、いずれも、違法な財務会計行為であるといわざるを得ず、前記認定事実、町議会の参考資料(乙25)、原審証人Cの証言及び弁論の全趣旨によれば、Z1は、前記認定に係る事実経過の大部分を知った上で、本件無償譲渡(契約)及び本件補助金交付①(決定)をしたものと推定され、前記のとおり議会の議決を経ていたとしても、少なくとも過失があるものと認められ、また本件無償譲渡(契約)の対象となった本件土地②③の当時の価格は、公社の造成工事等で、少なくともZ3が公社から購入した本件土地①の代金と同程度の単価(控訴人が主張する1平方メートル当たり7万2732円)にまで増加していたものと認められるから、町は、Z1の上記の違法行為によって、本件補助金交付①による391万3000円と本件土地②③の無償譲渡時の価格1803万3899円(7万2732円×本件土地②③の地積合計247.95平方メートル)の合計額である2194万6899円相当の損害を被ったものと認められ、Z1は、町に対し、違法な財務会計行為による損害賠償として、同額及びこれに対する上記の不法行為の後である平成16年6月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負うものというべきである。

争点(1)に係る控訴人の請求は、被控訴人に対し、Z1に上記の金員の支払を請求することを求める限度で理由があり、Z2に金員の支払を請求することを求める部分はいずれも理由がない。

3  争点(2)について

(1)  控訴人は、Z3は、違法な財務会計行為によって利得を受けたもので、町に対し、その返還義務があるから、法242条の2第1項4号の怠る事実の相手方であると主張し、被控訴人に対し、Z3への金員の支払を請求することを求める。

しかし、前記の認定判断のとおり、本件無償譲渡(契約)及び本件補助金交付①(決定)は、財務会計法規上違法であるが、当然には町とZ3との間の私法上の効果までなくなるものではなく、それらの各法律行為が無効であることを肯認する事実関係までは認められない。したがって、本件無償譲渡(契約)及び本件補助金交付①(決定)はいずれも有効であって、Z3は、法律上の原因に基づいて本件無償譲渡(契約)を受け、本件補助金交付①(決定)を受けたことになる。

(2)  そうすると、Z3が町に対して不当利得返還義務を負うことを前提とする控訴人のZ3に金員の支払を請求することを求める請求は、その余の点を考慮するまでもなく、理由がない。

4  結論

(1)  以上によれば、控訴人の本件請求のうち、被控訴人に対し、Z1に2194万6899円及びこれに対する平成16年6月26日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求することを求める部分は理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないからこれを棄却すべきである。

(2)  よって、これと異なる原判決を上記の趣旨に従って変更することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安原清藏 裁判官 八木良一 本多久美子)

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