大阪高等裁判所 平成19年(行ス)23号 決定 2007年9月21日
主文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
第1 抗告の趣旨
1 原決定を取り消す。
2 大阪市α区長は,仮に抗告人の住所を大阪市α区β×-44とする旨を住民票に記載せよ。
第2 事案の概要
1 本案訴訟は,申立人が,「大阪市α区β×-44(以下「本件住所地」という。)をその住所とする旨の住民異動届(以下「本件異動届」という。)を提出したのに対し,大阪市α区(以下「α区」という。)の区長が,申立人には本件住所地に居住の実態がないことを理由として,本件異動届を受理しない旨の処分(以下「本件不受理処分」という。)をしたのは,住民基本台帳法(以下「住基法」という。)に反し違法であるなどと主張して,その取消しを求める(処分取消しの訴え)とともに,本件異動届の記載に基づく住民登録を求めた(義務付けの訴え)事案である。
本件仮の義務付けの申立は,申立人が,行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)37条の5第1項に基づき,本件異動届にかかる住民登録処分がされないことにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり,かつ,本案について理由があると見えるときに当たる上,本件異動届どおりの住民登録を行うことにより公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときに当たらないなどと主張して,本件異動届の記載に基づく住民登録を仮に義務付けるよう求めた事案である。
原審は,平成19年8月10日,抗告人の上記申立を却下した(原決定)ので,抗告人は,これを不服として抗告した。
2 争点
(1) 本件申立について,適法な本案訴訟の係属を欠くか。
(2) 本件異動届にかかる住民登録処分がされないことにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があるか。
(3) 本案について,理由があるとみえるか。
3 本件抗告の理由と相手方の意見
(1) 本件抗告の理由
別紙抗告理由書及び反論書のとおりである。
(2) 相手方の意見
別紙意見書のとおりである。
第3 当裁判所の判断
1 法令の定め
原決定の「第3 当裁判所の判断」欄の1(原決定2頁22行目から同7頁6行目まで)のとおりであるから,これを引用する。
2 本件に係る事実関係
以下のとおり補正するほかは,原決定の「第3 当裁判所の判断」欄の2(原決定7頁7行目から同12頁4行目まで)のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原決定8頁9・10行目の「疎甲3」を「疎甲3の1・2」と改める。
(2) 同頁18行目の「【疎乙7」を「【疎甲23,疎乙7」と改める。
(3) 同9頁15・16行目の「屋根代わりに波板を被せた」を「屋根として波板を載せ,その上に合成繊維製のシートを被せた」と,同21行目の「詩集,ろうそく」を「本,ろうそく,衣類,寝具」と各改める。
(4) 同10頁7行目の「過ごしている。」の次に,「抗告人は,飲み水や炊事用の水を同センターで調達している。」を加える。
(5) 同11頁7・8行目の「疎乙7」を「疎乙6,7」と改める。
(6) 同頁22行目の「疎甲7」を「疎甲6,7」と改める。
(7) 同12頁4行目の次に,改行して次のとおり加える。
「また,平成20年2月に大阪府知事の任期が満了するため,その直前には同知事選挙(以下「大阪府知事選挙」という。)の実施が予想される。【申立の全趣旨】」
3 争点(1)及び(3)(本件申立について,適法な本案訴訟の係属を欠くか,及び本案について,理由があるとみえるか)について
以下のとおり補正するほかは,原決定の「第3 当裁判所の判断」欄の3(原決定12頁5行目から同24頁14行目まで)のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原決定13頁4行目の「同法12条」を「同法12条の3」と改める。
(2) 同14頁5・6行目の「同項にいう住所」を「同項及び住基法4条にいう住所」と改める。
(3) 同14行目,同21行目の各「本件選挙」を「本件選挙又は大阪府知事選挙」と改める。
(4) 同15頁7行目の「本件訴え」を「本件処分の取消しの訴え」と改める。
(5) 同10行目の「本件訴え」を「本件義務付けの訴え」と,同16頁22行目から同23行目までを「きない。」と,同17頁12行目の「実体」を「実体を有するもの」と各改める。
(6) 同18頁9行目の「疎甲18」を「疎甲18の1・2」と改める。
(7) 同26行目・同19頁1行目の「のみならず」から同4行目までを削除する。
(8) 同21行目から同21頁15行目までを,次のとおり改める。
「しかし,住民基本台帳制度は,選挙人名簿登録の基礎となるものであるにとどまらず,住民基本台帳に住民の居住に関する正確な記録をすることによって,住民の居住関係の公証,学齢簿の編成(学校教育法施行令1,2条),国民健康保険(住基法28条,国民健康保険法9条10項),介護保険(住基法28条の2,介護保険法12条5項),国民年金(住基法29条,国民年金法12条3項),児童手当(住基法29条の2,児童手当法施行規則8条)等様々な国民の公的権利義務関係の事務処理の基礎とされるものであるから,専ら選挙権の行使を確保するためにのみ,生活の本拠以外の場所を住所として住民基本台帳の記載等をすることは,住基法の定める住民基本台帳制度の趣旨,目的を損なうことになり,許されないというべきである。」
(9) 同22行目から同23頁12行目までを,次のとおり改める。
「しかし,住民基本台帳制度の趣旨,目的に関して上記(4)に述べたところに加え,住居表示に関する法律(昭和37年法律第119号)1,2条の規定内容をも参酌すると,住基法にいう住所は,個々の建物等により表示される地域的にごく限定された場所を予定しているものと解される。」
(10) 同18行目の「同法」を「公選法」と改める。
(11) 同24頁11行目の「本件訴え(本案訴訟)が全体として適法に係属している」を「本件義務付けの訴え(本案訴訟)が適法に係属している」と改める。
(12) 同14行目の次に,改行して次のとおり加える。
「(7) 抗告人は,本件住所地が抗告人の住所と認めるに相応しいとか,住基法上の住所の意味内容を柔軟に解釈すべきである旨を種々の観点から主張するが,これら主張に照らして検討しても,上記判断を左右するに足りない。」
4 よって,その余の点について判断するまでもなく,本件仮の義務付けの申立は理由がないから却下すべきであり,これと同旨の原決定は相当であるから,本件抗告は理由がないのでこれを棄却することとして,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 大谷正治 裁判官 高田泰治 裁判官 西井和徒)