大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成2年(ネ)1735号 判決 1990年10月30日

主文

原判決を取り消す。

本件訴を却下する。

訴訟費用は、第一、二審を通じ、控訴人の負担とする。

事実

第一  申立

一  控訴人

原判決を取り消す。

被控訴人は、控訴人に対し、金一二一万二一六〇円及びこれに対する平成元年八月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二項について仮執行の宣言

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

第二  主張

原判決の事実摘示と同一であるから、ここに引用する。但し、次の訂正、削除、挿入をする。

一  原判決一枚目裏五行目の「審判」を「確定審判」と改める。

二  同二枚目表三行目冒頭の「いものである、」を「いから、控訴人は、被控訴人に対し、同差押命令の執行不許を求める。」と改め、同枚目表一〇行目の「平成元年八月二九日、」を削る。

三  同枚目裏七行目を削り、そこに次項を挿入する。

「棄却の判決を求め、請求原因に対する認否として、

(1)  訴の変更前の請求原因一、二の各事実は認める。

同三のうち、被控訴人が、一〇度にわたり、債権差押命令を得て、被差押債権の取立をした事実は認め、その余の事実は否認する。

同四のうち、被控訴人が取立権を有しないとの主張は争う。

(2)  訴の変更後の請求原因(一)のうち、被控訴人が、差押命令に基づく取立権を有せず、そのことを知っていた事実は争い、その余の事実は認める。

同(二)のうち、被控訴人の取立てが、不法行為に当たり、控訴人が右取立ての額と同額の損害を被った事実は争う、と述べた。」

第三  証拠関係(省略)

理由

一  変更前の訴(以下「本件訴」という。)の管轄について

本件訴は、本件各審判の執行力ある正本に基づく具体的執行としてなされた、被控訴人から控訴人に対する神戸地方裁判所尼崎支部平成元年(ル)第三三八号債権差押命令(以下「本件差押命令」という・甲第一二号証。)の執行不許を求めるものである。このように、債務名義の執行力の排除を目的としないで、現実になされた具体的執行の不許を求めることも、請求異議の訴として許容して差支えないと解するのが相当である。

そうすると、本件訴は、民事執行法三五条、三三条二項により、第一審裁判所として本件審判をした神戸家庭裁判所(尼崎支部)の管轄に属する。

二  訴の変更について

変更後の訴は、訴訟の目的の価額が九〇万円を超える損害賠償請求であるから、神戸地方裁判所(尼崎支部)の専属管轄に属する。

ところで、家庭裁判所での審理中に、地方裁判所の専属管轄に属する訴に変更することは、相手方の同意の有無にかかわらず、許されない。したがって、本件訴の変更は、不適法であるから、本件訴がそのまま係属している関係になる。

三  本件訴の利益について

本件記録によると、本件差押命令に基づいて、被差押債権の取立がなされ(当事者間に争いがない。)、既に債権執行手続が終了していることが認められる。

そうすると、本件訴は、本件差押命令の執行不許を求める余地がなく、この点で本件訴は、訴の利益を欠き不適法として却下を免れない。

四  原判決の正当性

原判決は、本件訴の変更を不適法として許さなかったこと自体は正当であった。したがって、原審は、本件訴について判断すべきであるのに、本件訴が家庭裁判所に属さないことを理由に、原告の「本件請求を却下する」旨の判決をした。

そうすると、この措置は、手続的に誤ったものであることは、多言を要しない。

五  むすび

本件訴は、三に述べた理由で不適法として却下を免れないから、これと異なる原判決を取り消して、本件訴を却下することとし、民訴法九六条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例