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大阪高等裁判所 平成2年(ラ)380号 決定 1990年12月10日

抗告人 小東一

<ほか一〇名>

上記抗告人ら代理人弁護士 宅島康二

相手方 岡田政夫

主文

原決定を取り消す。

本件を神戸地方裁判所伊丹支部に差し戻す。

理由

Ⅰ  本件抗告の趣旨と理由は別紙記載のとおりである。

Ⅱ  当裁判所の判断

相手方の抗告人らに対する本件間接強制の申立ての前提となる不作為義務が、相手方を申請人とし抗告人らを被申請人とする同裁判所平成二年ヨ第一三号仮処分命令申請事件にかかる仮処分決定(以下、「本件仮処分決定」という)の主文第一項によって抗告人らに命ぜられたものであって、その内容が、「被申請人(抗告人)らは、申請人(相手方)が兵庫県三田市波豆川二八一番地三田アスレチックに立入りこれを管理、運営するのを妨害してはならない。」というものであることは、記録により明らかである。

しかして、上記のとおり本件仮処分決定によって抗告人らに命じられた不作為義務は、相手方においてする三田アスレチックの「管理、運営」の妨害を禁止するという抽象的、包括的な内容のものである(禁止行為の具体的内容として立ち入ることの妨害禁止が例示されているが、これとても「三田アスレチック」の前の「兵庫県三田市波豆川二八一番地」の記載が仮処分の効力の及ぶ場所的範囲を特定したものではなく、単に三田アスレチックの営業所の所在地を表示したに過ぎないものであれば、立ち入ることの妨害を禁止された場所の特定を欠くきらいがあるといわざるを得ない。)が、このような抽象的、包括的な不作為義務を前提として民事執行法一七二条一項の支払予告決定をするに当たっては、金員支払義務発生の条件である債務者(抗告人ら)の不作為義務違反となるべき行為の態様を具体的に特定表示することが必要というべきである。けだし、そのようにしないと、抗告人らのどのような行為が支払予告決定に基づく金員支払義務発生の条件を充足することとなるのか明らかでない場合も生じ得るのであって、このため、却って間接強制決定の実行性を損なうおそれがあるばかりでなく、抗告人らの法的利益を不当に侵害する結果を生ずるおそれもあるからである。また、上記民事執行法一七二条一項にいう「債務の履行を確保するために相当とみとめ」られる金額や計算単位(侵害行為のされた日数によるのか、回数によるのか等)を決定するためにも、具体的な違反行為の態様を特定する必要があることも考慮されるべきである。

しかるに、原決定(支払予告決定)は、その主文第一項において本件仮処分決定の主文第一項と同一内容の抽象的、包括的な不作為義務を掲げ、第二項において金員支払義務発生の条件として単に「前項記載の債務を履行しないとき」と記載するだけであって、抗告人らの不作為義務違反となるべき行為の態様を具体的に特定表示していない。したがって、原判決は、この点において瑕疵があり、取消しを免れないというべきである。

Ⅲ  よって、本件各抗告は理由があるので、原決定を取り消し、上記の点について必要な審理、判断を尽くさせるため、本件を原裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 後藤文彦 裁判官 古川正孝 川勝隆之)

<以下省略>

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