大阪高等裁判所 平成2年(行コ)38号 判決 1991年11月29日
平成二年(行コ)第二九号事件控訴人、
学校法人奈良学園
同年(行コ)第三八号事件被控訴人
(以下「第一審原告」という。)
右代表者理事
伊瀬敏郎
右訴訟代理人弁護士
木下肇
同
中本勝
同
土谷明
平成二年(行コ)第二九号事件被控訴人、
奈良県地方労働委員会
同年(行コ)第三八号事件控訴人
(以下「第一審被告」という。)
右代表者会長
本家重忠
右訴訟代理人弁護士
佐藤公一
右指定代理人
黒瀬昌利
同
大井督三
同
笠谷哲也
第一審被告補助参加人
大阪私学教職員組合奈良学園分会こと
奈良学園教職員組合
右代表者執行委員長
梅木春興
右訴訟代理人弁護士
松岡康毅
同
相良博美
同
北岡秀晃
右当事者間の頭書控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
一 原判決を次のとおり変更する。
第一審被告が奈労委昭和六〇年(不)第二号奈良学園不当労働行為救済申立事件について昭和六二年一一月一六日付でした命令のうち主文第二項を取消す。
第一審原告のその余の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、第一、二審を通じこれを三分し、その一を第一審被告の負担とし、その余を第一審原告の負担とする。
事実及び理由
一 控訴の趣旨
1 第一審原告(平成二年(行コ)第二九号事件)
(一) 原判決を次のとおり変更する。
(二) 第一審被告が奈労委昭和六〇年(不)第二号奈良学園不当労働行為救済申立事件について昭和六二年一一月一六日付でした命令のうち主文第一ないし第三項を取消す。
2 第一審被告(平成二年(行コ)第三八号事件)
(一) 原判決中、第一審被告の敗訴部分を取消す。
(二) 第一審原告の請求を棄却する。
二 事案の概要
当事者の主張を次のとおり付加、敷衍するほか、原判決の事実及び理由第二項(原判決二枚目裏六行目(本誌五六七号<以下同じ>43頁2段12行目)から同五枚目裏三行目(44頁1段3行目)まで)のとおりであるから、これを引用する。
1 第一審原告の主張
(一) 当事者適格について
第一審被告補助参加人は、単一の企業内組合であり、次のとおり大阪私学教職員組合(以下「大私教」という。)とは別個の組織であって、大私教を本部とする奈良学園分会ではない。したがって、存在しない大私教奈良学園分会名義でなされた本件救済申立(主文第一項記載の不当労働行為救済申立事件)は不適法である。
(1) 第一審被告補助参加人の組合規約には、当初、同組合が大私教の分会であることを示す名称、性格に関する条項が存在しなかった。脱退手続に関する事項について、第一審被告補助参加人と大私教の各規約には整合性がなく、第一審被告補助参加人の組合員ではないが、大私教の組合員であるという状態が存在しうる。組合費に関する事項についても、両組合の規約は全く相互に関与せず、別個独立に規定されている。又、組合の権限事項について、両組合の規約には双方の組織の権限分配に関する条項が存在しない。
(2) 大私教は大阪総評を、第一審被告補助参加人は奈良総評を各上部団体とするということが、第一審被告による本件救済申立事件の審理の過程において明らかになっている。第一審被告補助参加人が、もし大私教の分会であるならば、大阪総評と奈良総評の同格の複数の上部団体を有するという通常考えられないことになる。むしろ、第一審被告補助参加人は、大私教の分会でなく、別個の組織であったからこそ、奈良総評に加盟したとみるべきである。
(3) 大私教と第一審被告補助参加人の各組合の構成員について、前記のとおり各組合の規約に整合性がないため第一審被告補助参加人の組合員中には、大私教の組合員資格のない者が存在する。
(4) 第一審被告補助参加人は、その作成文書において、本件救済申立の前までは、ほとんど奈良学園教職員組合の名称を、同申立後は右名称とともに大私教奈良学園分会の名称をも用いている。第一審被告補助参加人は、本来、経歴、職歴等の詐称に関するいわゆる植田問題を、組合の問題にすり替えるとともに、さらに、大私教の力を借りて右問題を有利な解決に導くために、大私教の分会という名称を用い始めただけのことである。
(5) 第一審被告補助参加人の組合員のほとんどは、同補助参加人を大私教の分会でなく、単一の企業内組合として意識している。
(二) 団体交渉拒否について
(1) 人事に関する事項
第一審原告は、いわゆる植田問題が同人の経歴に関する事項を含むことから、プライバシィーに関して事実の公開を拒む同人の意思を尊重して、団体交渉の場でとりあげることを拒否しただけであって、右拒否には正当の理由がある。
第一審原告は、植田の今後の処遇に関する問題については、団体交渉を拒否したことはなかった。ただ、第一審被告補助参加人より、右に関する問題でなく、植田に昭和六〇年四月一日付で短大附属研究所勤務を命じた処分が不当であるとして、その撤回を求めて団体交渉の申入れを受けたものであったから、もともとこのような団体交渉の申入れに応ずる理由がなかったのである。
(2) 大私教参加
(イ) 第一審被告補助参加人は、前記のとおり、単一の企業内組合であり、大私教の分会ではないから、大私教が第一審原告に対し、団体交渉を求める権限はなく、大私教の役員が団体交渉に参加する権限もない。
(ロ) 仮に、第一審被告補助参加人が大私教の分会であるとしても、大私教は、第一審原告と労働協約を締結する資格がなく、大私教の規約上、第一審被告補助参加人に対して統制力もなく、第一審原告との共同交渉に際しての同補助参加人との間での交渉権限の統一もしていないから、第一審原告に対して、団体交渉を求める権限がない。したがって、大私教の役員は合意の成立を目的とした交渉の場である団体交渉に参加する資格を有しない。
(ハ) 仮に、第一審被告補助参加人が大私教の分会であるとしても、第一審原告と同補助参加人との団体交渉は、第一審原告に勤務する教職員の労働条件等の問題に限定して行われており、右団体交渉の当事者適格者は第一審原告と第一審被告補助参加人のみであって、大私教、大私教の役員にはない。
(3) 人勧準拠の回答
第一審原告がベースアップについて人勧準拠方式を採用しているのは、奈良県私学の大部分において採用されていること、人勧が毎年の民間のベースアップを十分に斟酌して行われるものであり、それに準拠することが公平、妥当と考えられること、教育の分野では、私学も人勧に準拠することが私学と国公立学校相互の均衡のある発展につながることにある。そして、第一審原告は、この人勧準拠方式を以前から一貫して採用してきており、毎年第一審補助参加人も、この方式に基づくベースアップや諸手当の金額回答について、検討の上、交渉を妥結させてきているのである。
奈良県私立学校教職員組合協議会に加入している第一審被告補助参加人としては、右人勧準拠方式の採用理由を十分知っている筈である。又、第一審被告補助参加人は、従来から一貫してこの方式を採用してきている第一審原告から、団体交渉の席で繰り返し説明を聞いている筈である。
したがって、第一審原告は、本件で問題になっている団体交渉において、右方式の採用に関する説明に不十分な点があったとしても、従前の団体交渉における説明も加味すれば、誠実義務を尽くしているというべきである。
(三) 高校訪問について
(1) 高校訪問は、第一審原告が短大への入学志願者を募集するために行っている広報活動のひとつである。
高校訪問の目的は、短大の名称、所在、特色、設置、学科、学生募集要綱等をより広く知ってもらうこと、高校の先生との信頼関係を結び、より親密な関係を維持していくことであり、それによって短大への入学志願者の量的、質的向上を図ることであって、いわば短大の経営的行為ともいうべき仕事である。
短大では、高校訪問を毎年六月と九月の二回実施している。六月には、近府県(奈良、大阪、和歌山、京都、兵庫、三重)の高校のうち学生を応募させてくれた高校約二〇〇校を訪問し、応募の御礼と今後の支援、協力を依頼する。九月は右各高校のほか、中国地方(島根、鳥取、広島)、福井県の実績ある高校を中心に約四五〇校を訪問し、学校要覧、学生募集要項の説明、推薦入試及び試験入試の受験の依頼、進学説明会への出席要請、訪問高校の進学動向の聴取等を行なうことになっている。訪問先については、過去においては、入学志願者も地方出身者が多かったため、訪問府県も現在よりはるかに多かった(静岡、富山、滋賀、岡山、山口、愛媛、高知、香川等)が、最近では、入学志願者が近府県に集まる傾向があり、右各県の高校訪問は順次行われなくなったところ、入学志願者の近府県集中傾向がさらに強まり、昭和六三年度の入学者について約八五%が奈良、大阪、京都、和歌山の四府県で占められるに至り、訪問先もさらに縮小の方向で見直すべき段階にきているのである。
高校訪問という行為は、教員本来の教育活動、研究活動とは異なるもので、本来第一審原告の責任において行なうべき入学志願者の募集活動の一部を教員に協力してもらっているという要素の強いものであり、担当する個々の教員の了解があってはじめて成り立つものであることから、第一審原告が個々の教員に対し、使用者としての地位に基づき業務命令として担当させているものではない。具体的な人選、割り振りは、短大の学長が行っているものであり、理事会が決定するものではない。
高校訪問の担当者の委嘱は、訪問先の高校に対する地縁、人脈等を考慮しながら、高校訪問の目的を達成するためには、誰にどの地域を担当してもらうのが望ましいかという合目的考慮から適材適所主義で行われている。又、高校訪問の担当者の委嘱は、毎年、訪問府県の決定とともに新規に行われるものであり、あくまで、当該年度に関するものである。
教員は、高校訪問を担当することによって、昇給、昇格、給与等労働条件において何ら有利となるものでないことは勿論のこと、かかる業務を担当しないことによって何らの不利益もない。さらには、短大内において高校訪問を担当する教員が、担当しない教員と比べて客観的にも主観的にも評価が高いとされるような事情も風潮も一切存在しない。むしろ教員の中にはこのようないわば営業的行為を好まない、あるいは苦手な人もあり、また教員自身がこのような業務を行なうべきではないと考える人もあるくらいである。したがって、誰にどの地域の高校訪問担当を委嘱するかということは、そもそも差別的取扱の対象にはならず、さらに、これをもって組合に対する支配介入の手段とすることなどは、およそ考えられないことである。
(2) 植田は、昭和五五年までは主に富山県と京都府の高校訪問を担当していたが、昭和五六年以降は富山県への訪問自体がなくなったため、京都府のみの担当となり、昭和五九年度以降は京都府も担当しなくなった。これは、植田が第一審原告から、昭和五五年に富山県への高校訪問を行う際の旅費前渡金として二二万円を預りながら、その精算を行わず、放置していたことから、高校訪問を担当するのにふさわしくないと判断されたことによるものである。
藤善は、もともと本人の希望もあって高校訪問の担当をしていなかったところ、昭和五六年度から昭和五八年度まで大阪府の高校訪問を担当したが、その後は担当していない。これは、昭和五九年度に大阪府立高校で長年教職にあり、大阪府の高校教育界に精通していた毛利昭が第一審原告の短大教員として採用され、同人の方が藤善よりも大阪府の高校訪問に適任と判断されたためであり、又、昭和六〇年度以降は第一審原告の中学校と高等学校の兼務となった毛利昭に代って、大阪府立高校の教職一筋で、府立高校長や校長協会常務理事等を歴任した大阪府立高校界の重鎮である井之元春義が大阪府の担当に適任と判断されたことによるものである。
2 第一審被告の主張
大私教参加を理由とする団体交渉の拒否について
団体交渉の当事者と交渉担当者とは別個の問題である。本件では、第一審原告との団体交渉権の帰属主体は第一審被告補助参加人であるから、第一審原告が右団体交渉を大私教の参加を理由に拒否する正当理由があるかということが問題になる。
この点について、団体交渉の場に出席させる担当者は、専ら労働者側において決定し得ることで、使用者側と労働協約等の締結能力を有しない上部団体であっても、使用者側においてその出席を拒むことはできないのである。
又、第一審原告には、団体交渉において、大私教の役員の参加を拒否し得る正当な理由は存在しない。すなわち、大私教は、植田が大私教の役員であり、日教組の討議集会においても課題となっていたことから、植田処分問題に強い関心を持ち、さらに、この問題を契機として以前にも増して悪化しつつあった第一審原告と第一審被告補助参加人との関係を憂慮し、第一審被告補助参加人を指導する立場からその解決に積極的に取り組むために、直接、第一審原告との団体交渉を求めたのである。一方、第一審被告補助参加人も、第一審原告との団体交渉に際して、指導的立場にある大私教の応援を求め、その役員の参加を切望していたのである。したがって、第一審被告補助参加人としては、第一審原告から大私教の参加を排除され、単独で第一審原告との団体交渉によって問題の解決を図らざるを得ないことになると、交渉姿勢をくじかれ、交渉意欲を削ぐことになり、問題解決に著しい遅延・支障が生じることになって、正当な団体交渉が阻害されるおそれを生じることになる。
3 第一審被告補助参加人の主張
(一) 当事者適格について
第一審被告補助参加人は、結成の当初から、大私教の分会として発足し、現在に至るまで本部である大私教の指導と援助を受けて活動してきているのである。存在している大私教奈良学園分会名義にする本件救済申立は不適法ではない。
(二) 大私教参加を理由とする団体交渉の拒否について
(1) 大私教は、教職員によって構成される単位組合であり、単位組合の連合体ではない。したがって、大私教は、第一審被告補助参加人とは単位組合の本部と分会という組織的関係に立つのであって、本部である大私教が第一審原告との間で独立した団体交渉適格を有することは、労組法上自明のことである。
本件では、単位組合である大私教本部の独立した団体交渉権の有無を問題としているのではなく、第一審原告が単位組合である大私教本部の役員の参加を理由に、分会である第一審被告補助参加人との団体交渉を拒否し得るかどうかという問題である。したがって、大私教が第一審被告補助参加人に対し実質的統制力を有するかどうかの問題も生じないのである。
現に、大私教の役員は、第一審被告補助参加人の結成当初の一定期間及びその後においても重要な交渉において、第一審原告との団体交渉に出席して、第一審被告補助参加人とともに交渉に当たるとともに、第一審被告補助参加人に対して指導、助言、援護の役割を果してきており、又、過去の共同交渉において、第一審被告補助参加人との間で矛盾する交渉をしたことはなかった。
(2) 仮に、大私教が単位組合でなく、連合体であるとすると、その構成団体である単位組合との間に上部団体と下部団体という関係を生ずることになるが、このような上部団体も、単なる連絡協議機関でなく、各加盟単位組合に対し統制力を有し組織的統一性をもつものであれば、独自の労働組合であり、団体交渉の当事者となるというのが通説的見解である。
これを本件についてみると、大私教の前身である大阪市立学校教職員組合連合(以下「大阪私教連」という。昭和三五年結成)は、その名のとおり連合体組織であった。ところが、その後の運動の中で、構成員たる単位組合の連合が強化され、また個々の使用者に対する個別交渉の枠を越えた統一賃金闘争等の統一的機能を発展させることが運動の質的強化につながるとの認識をもつに至り、昭和四六年大私教(単一体)への組織変更を行ったものである。以後、大私教は、統一闘争を強化する一方で、大学部、小中高校部等の部を設置し、部を通じて各分会の日常闘争を指導するなどして、実態としても単位組合への移行を進めてきた。したがって、現在日常闘争のレベルでは、例えば大学教職員と高校教職員とは、分会よりもむしろ大私教の部を通じての団結がより強固なものとなっていると言っても過言ではない。したがって、大私教は、現時点において運用上あるいは対外的に一部連合体的残滓が見られるとしても、規約上はもちろん組織運営についても単一体組織としての形態を備えているのであって、実質的統制力の存在に関して組合の組織的性格を判断する場合には、単一体組織を前提に判断すべきである。
大私教の組織実態を右のように考えれば、規約上分会に対する統制に関する規定が存在しないことは、むしろ当然のことであり、何ら統制力の存在を否定する根拠とはならない。なお、大私教の組合規約の一つである闘争救援規定には、分会に対する統制の規定(同規定第二二、第二三条)が存在する。
大私教は、大阪府下並びに近辺の教職員によって構成される労働組合であり、大会及び中央委員会という決議機関を有し、そこで決定された組合の方針は、執行機関である幹事会から各部を通じて分会執行部に対し通達され実施されてきた。組合費についても、各分会が分会組合費を含めて組合員から徴収し、大私教に上納するという取り扱いがなされるなど、統一的意思を形成し実行するという意味において組織的統一のとれた運営が行われてきた。
このように、大私教は、分会に対する実質的統制力を有するに足りる統一した組織体制を整備し、実際にも説得という民主的運営を重視した形の統制力を発動してきた。したがって、大私教は、それ自体単なる連絡協議機関ではなく、まさに労働組合としての実態を有する組織であることは明らかであり、かかる団体が団交当事者適格を有し、第一審被告補助参加人の団体交渉に参加する権限を有することは当然である。
なお、単体組合と産業別単位労働組合がともに行なう共同交渉の例では、共同によるいわば両者が不離一体となって行なう交渉方式の場合は二重交渉ではないとされている。そして、仮に団体交渉の席上で上部と下部の見解が食い違ったとしても、使用者は労働組合の内部調整がなされるまで団体交渉を中断させることができるにすぎず、若干の不便があるからといって上部団体の交渉当事者適格を認めないことは許されないのである。本件の団体交渉における大私教の参加は、第一審被告補助参加人との共同交渉の形態であって、両者間に意思の不一致といった事情は全く存在しなかったものであるから、もともと交渉権限の統一を要求し得る場合ではないのである。
(三) 高校訪問について
(1) 高校訪問の担当をさせないことが、労働条件に差別を生じさせないからといって、不利益取扱いに該当しないものということはできない。
(2) 植田が昭和五九年度から高校訪問の担当をはずされたのは、第一審原告の主張する旅費前渡金の未精算を理由とするものではなく、植田、藤善らが昭和五九年六月一日に理事長に面談を求めて理事長室に侵入したことを理由とするものである。すなわち、植田は、昭和五九年五月、第一審原告から、高校訪問について、京都府の担当から滋賀県の担当に代るように求められ、これを了承したところ、同年六月、突如、取消す旨の通告を受けた。又、第一審原告の主張する旅費前渡金の未精算は昭和五五年度であるのに、昭和五九年度から高校訪問の担当をはずす合理的理由を見出し難い。
藤善が昭和五九年度から高校訪問の担当をはずされたのは、第一審原告の主張するように、同年度に採用された毛利昭が藤善よりも高校訪問に適任であることを理由とするものではなく、植田と同様の理由によるものである。すなわち、毛利昭は、その後、藤善に代って高校訪問を担当したといえる程の実績がない。又、第一審原告の主張する理由により高校訪問の担当を藤善から毛利昭に代えるのであれば、昭和五九年六月ではなく、毛利昭の採用された同年四月に行われるべき筈である。
三 争点に対する判断
1 当事者適格について
当裁判所も、第一審被告補助参加人に本件救済申立の申立適格を認めた原判決添付別紙記載の本件命令に第一審原告主張の違法はないものと判断するが、その理由は原判決六枚目表五行目(44頁1段22行目)と同六行目(44頁1段24行目)の「私大教」を「大私教」と訂正するほか、原判決の事実及び理由第三項一(原判決五枚目裏六行目(44頁1段6行目)から同七枚目裏一行目(44頁3段3行目)まで)のとおりであるから、これを引用する。
2 団体交渉の拒否について
(一) 人事に関する事項であることを理由とする拒否
当裁判所も、本件命令の主文第一項中、第一審原告は、人事は交渉議題にならないとの理由により、組合員の個別的な労働条件、処遇について第一審補助参加人の申し入れた団体交渉を拒否してはならない、との命令は適法であると判断するが、その理由は次のとおり付加するほか、原判決の事実及び理由第三項二、1(原判決七枚目裏五行目(44頁3段7行目)から同八枚目裏九行目(44頁4段15行目)まで)のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決七枚目裏末行目の「判断し、」(44頁3段17行目)の次に「又、プライバシーに関する事実の公表を拒む植田の意思を尊重し、」を加える。
(2) 原判決八枚目表一行目の「主張する。」(44頁3段18行目)の次に「さらに、第一審原告は、第一審被告補助参加人が植田に対して配転を命じた処分の撤回を求めて団体交渉を求めたものであるから、これを拒否しうるものである、と主張する。」を加える。
(3) 原判決八枚目裏二行目の「人事の適正配置」(44頁4段3行目)の前に「植田に対してなされた前記処分の撤回を含む」を加える。
(二) 大私教の参加を理由とする拒否
第一審原告は、昭和六〇年二月一八日、第一審被告補助参加人からの団体交渉の申入に対し、上部団体とは交渉しないとして大私教を加えた団体交渉を拒否し、それ以後も大私教参加の団体交渉を拒否している(弁論の全趣旨)。
この点につき、第一審原告は、第一審原告が第一審被告補助参加人の役員との間で団体交渉を行うことは労使間の確立した慣行であり、同補助参加人の大私教参加の団体交渉の申入に対し、大私教の参加を拒否し、労使間の慣行に従って団体交渉をもつべき旨を主張したことは正当である、大私教がその分会としての第一審被告補助参加人の本部ではないから、その役員が第一審原告との団体交渉に参加する権限はないし、大私教が本部であるとしても、第一審原告と労働協約を締結する資格がなく、第一審被告補助参加人に対する統制力もないから、同様に参加する権限はなく、第一審原告に勤務する教職員の労働条件等について団体交渉の当事者適格はない、と主張する。これに対し、第一審被告補助参加人は、組合結成後随時大私教役員が団交に出席してきたものであり、第一審原告主張の労使慣行は存在しない、また、同補助参加人が分会であるから、第一審原告と団体交渉を行う際、本部である大私教の役員が参加し得るのは当然である、第一審被告補助参加人が分会でないとしても、大私教が同補助参加人に対して統制力をもつから大私教の役員が参加しうるというべきである、と主張する。
大私教と第一審被告補助参加人との組織上の関係が本部と分会の関係にあるかどうかの点はしばらく置き、先に認定した事実から、少なくとも両者の間に密接な関連性のあることは否定できないものと認めることができる。そして、大私教は、昭和六〇年二月初めころ、植田が大私教の役員であり、日教組主催の集会においても採りあげられていたことなどもあって、植田問題について強い関心をもち、又、この問題を契機として第一審被告補助参加人と第一審原告との関係が悪化し始めていることに憂慮していたことなどから、植田問題を解決するために、第一審被告補助参加人と第一審原告との間の団体交渉に大私教の役員を参加させるように第一審原告に求めたこと、一方、第一審被告補助参加人も、第一審原告との団体交渉について交渉力を強化するために、大私教の役員を参加させるように第一審原告に求めたこと、したがって、大私教役員の参加した第一審被告補助参加人と第一審原告との間の団体交渉において、大私教と第一審被告補助参加人間に意思の不一致といった事態は予想されず、第一審原告が二重の対応を迫られるといった不都合は考えられないことが認められる。(証拠・人証略)
右事実によれば、大私教は、第一審原告との団体交渉において、独自の立場で交渉の当事者として関与することを求めているものではなく、第一審被告補助参加人の交渉力を強化するために、同補助参加人と密接な関連を有し、植田問題に関心をもっている立場に基づいて、その役員を交渉担当者として参加させることを求めているだけと認められるから、第一審被告補助参加人以外の者の参加を認めない慣行の存在等、その他特段の事情の認め難い本件のもとにおいては、第一審原告と第一審被告補助参加人との間の団体交渉における大私教の役員の参加は容認されなければならないものということができる。そうであれば、第一審原告が大私教の役員の参加を理由に第一審被告補助参加人との団体交渉を拒否することは労組法七条二号の不当労働行為にあたるものということができるから、本件命令の主文第一項中、大私教の役員の参加を理由に団体交渉を拒否してはならない旨の命令は適法であるというべきである。
(三) 文書回答
当裁判所も、本件命令の主文第一項中、文書回答について、団体交渉を誠実に行わなければならない、との命令は適法であると判断するが、その理由は原判決の事実及び理由第三項二、3(原判決一〇枚目裏末行目(45頁2段20行目)から同一一枚目裏八行目(45頁3段16行目)まで)のとおりであるから、これを引用する。
(四) ベースアップについての人勧準拠の回答
当裁判所も、本件命令の主文第一項中、ベースアップについての人勧準拠の回答について、団体交渉を誠実に行わなければならない、との命令は適法であると判断するが、その理由は原判決の事実及び理由第三項二、4(原判決一一枚目裏一〇行目(45頁3段19行目)から同一二枚目裏二行目(45頁4段10行目)まで)のとおりであるから、これを引用する。
3 高校訪問について
(一) 昭和五六年度から昭和五八年度まで、植田は、京都府の、藤善は大阪府の高校訪問を担当したが、いずれも昭和五九年度以降は高校訪問を担当していない(争いがない)。
第一審原告は、高校訪問の担当を委嘱するかどうかは、もともと不利益取扱いの対象とはならないものである、と主張する。
第一審原告は、植田、藤善が昭和五九年以降、高校訪問を担当しなくなった理由につき、植田については、昭和五五年富山県への高校訪問を行う際の旅費前渡金として二二万円を第一審原告から預かりながら、その精算を行わず、第一審原告から、昭和五六年三月三一日付で貸付金に振り替えられた右金員を再三にわたり請求を受けたにもかかわらずこれに応じず右金員を着服した形になったため、短大学長において高校訪問を担当するにふさわしくないと判断したからであり、藤善については、昭和五九年度に短大教員として採用された毛利昭が大阪府立高校で長年教職にあり大阪府の高校教育界に精通しているので、藤善よりも大阪府の高校訪問に適任と判断し、同人を大阪府の高校訪問担当者にしたからであって、いずれも組合員であることを理由とするものではない、と主張する。
(二) 第一審原告では、短期大学への入学志願者を募集するための広報活動のひとつとして、毎年六月と九月の二回にわたり高校訪問を実施していること、高校訪問の目的は、短大の名称、所在、特色、設置学科、学生募集要綱等をより広く知ってもらい、高校の先生との信頼関係を結び、より親密な関係を維持していくというだけのものであること、高校訪問の訪問先は、入学志願者が第一審原告所在地の近府県に集中する傾向がみられてきていることから、近府県に縮小する方向にあること、高校訪問の担当者の委嘱は、もともと第一審原告の責任において行うべき入学志願者の募集活動の一部を教員に協力してもらっているという性格もあって、第一審原告が使用者としての地位に基づく業務命令として行っているものでなく、短大学長と入試事務室が教員の了解のもとに、その協力を得て行っていること、高校訪問の担当者の委嘱は、適材適所という基本的方針によって決められ、より適任者があれば、前任者と替ることになり、あくまで当該年度に関するものであること、高校訪問の担当者と担当地域を決めるにあたっては、高校あるいは小学校において校長をしていた教員や元教育長であった教員等、ある程度高齢の教員、訪問先の高校、地域に縁故のある教員の方が適任と考えられており、その目的に照らして合理的な選択基準であること、高校訪問を担当するかしないかによって、昇給、昇格、給与等の労働条件において何ら有利、不利となるものではなく、又、短大の内部において、高校訪問を担当する教員の方が、担当しない教員よりも評価が高いといった意識が存在しているとまではいえないこと、それどころか、このような高校訪問の目的、実情から、高校訪問を担当することを嫌悪する教員も存在する程であること、が認められる。(証拠・人証略)
ところで、労組法七条一号の不利益取扱いとは、同様の取扱いを受けるという消極的保障を前提として、減俸、昇給停止等の単に労働関係上の待遇に関して不利な差別待遇を与えるだけでなく、広く精神的待遇等について不利な差別的取扱いをすることまでも含むものと解すべきである。しかし、右に認定した高校訪問の内容、目的、担当者の委嘱方法、担当しないことによる不利益の不存在等から、高校訪問を担当させるかさせないかは、労組法七条一号の不利益取扱いの対象にあたらないものというほかはない。
植田、藤善が昭和五九年度から高校訪問を担当しなくなったことについて、同人らが不利益取扱いを受けたという意識をもったからといって、(人証略)、先に認定した事実によれば、それはあくまで個人的感情の域を出ないものというほかはなく、又、同人らが昭和五九年度から高校訪問を担当しなくなった経過には、合理的な理由が存したというべきである。
そうだとすれば、本件命令の主文第二項の命令は違法であり、取消を免れないものというべきである。
4 支配介入発言について
当裁判所も、本件命令の主文第三項の命令は適法であると判断するが、その理由は原判決の事実及び理由第三項四(原判決一五枚目裏末行目(46頁3段24行目)から同一六枚目表二行目(46頁3段27行目)まで)のとおりであるから、これを引用する。
5 主文の抽象性について
当裁判所も、本件命令のうち第二項の命令を除き第一審原告主張の違法はないと判断するが、その理由は原判決一六枚目表四行目の「二項、」(46頁3段29行目)を、同末行目の「主文二項は」(46頁4段9行目)から同一六枚目裏四行目の「困難であるとはいえない。)」(46頁4段15~16行目)までをいずれも削除するほか、原判決の事実及び理由第三項五(原判決一六枚目表四行目(46頁3段29行目)から同裏一〇行目(46頁4段25行目)まで)のとおりであるから、これを引用する。
四 結論
以上の理由により、本件命令のうち、主文第二項は違法であり、取消されるべきであるが、主文第一、第三項はいずれも適法として維持されるべきである。
よって、第一審原告の本訴請求は右の限度で理由があるからその限度で認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却すべきものであり、右と一部結論を異にする原判決は不当であるから、主文のとおり変更する。
(裁判長裁判官 石田眞 裁判官 福永政彦 裁判官 山下郁夫)