大阪高等裁判所 平成2年(行コ)62号 判決 1992年3月05日
控訴人
大阪府地方労働委員会
右代表者会長
清木尚芳
右訴訟代理人弁護士
寺浦英太郎
右指定代理人
加藤敏夫
同
黒田嘉次郎
同
中谷英明
同
横溝幸徳
控訴人補助参加人
総評全国一般大阪地連文祥堂労働組合大阪支部
右代表者支部長
尾崎勲
右訴訟代理人弁護士
村田喬
被控訴人
株式会社文祥堂
右代表者代表取締役
佐藤克夫
右訴訟代理人弁護士
河村貞二
右当事者間の頭書控訴事件につき、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
第二事案の概要
事案の概要は、次のとおり訂正、付加するほかは原判決「事実及び理由」第二(二枚目表四行目(本誌本号<以下同じ>9頁4段25行目)から八枚目表末行(11頁2段26行目)まで)のとおりであるから、ここに引用する。
1 原判決三枚目裏末行の「一四日」(10頁2段17行目)を「一七日」と改める。
2 本件救済命令主文第1項記載の合意の有無、協定書作成拒否による不当労働行為の成否等についての当事者の主張として、次のとおり加える。
(一) 控訴人及び控訴人補助参加人(以下「補助参加人」という。)
(1) 被控訴人も合意内容を書面化することを前提として交渉してきたものである。
(2) 被控訴人の協定書作成拒否は、不当労働行為となる。
<1> 被控訴人と補助参加人間に成立した合意の内容は、努力義務を宣明したものではなく、合意内容を実現するという義務を前提としたものである。
<2> 仮に、努力義務を負う旨の合意でも、産業平和が回復されるので、書面化することにより労働協約としての法的効力をもち得ると解すべきである。
<3> 本件団交は、被控訴人の業績悪化を理由として首都圏以外を切り捨てるとの方針のもとで、近い将来大阪支店が閉鎖され、整理解雇あるいは配転か退職かの選択を余儀なくされるのではないかとの不安を補助参加人が抱いていた状況下で行われたものである。したがって、仮に合意の内容が通常の労働協約とはいえず、被控訴人の努力義務を宣明したものにすぎないとしても、右のような状況のもとにおいては、成立した合意事項は大きな意味をもっている。すなわち、右合意内容が労働協約に定められていれば、将来整理解雇あるいは企業合理化を理由とする配転が問題となった場合、企業がそれを回避すべく努力を尽くしたか否かを判断するにあたって、労使間で本件地労委命令主文第1項(1)、(2)の合意が労働協約に定められているときと、そうでないときとでは、大きな差が生じてくるのは明らかであるから、本件の場合、成立した合意事項は、労働協約としての法的効力を付与されるべき労使間の合意事項と同視すべき「特別の事由」が存するというべきである。
<4> 仮に、右「特別の事由」が認められないとしても、被控訴人が成立した合意内容について協定書作成を拒否するのは、それによって本件団交を全く意味のないものにし、補助参加人に無力感を与えることによって組合員らの信頼を失わせ、補助参加人を弱体化することを意図したものである。
(二) 被控訴人
被控訴人は、本件救済命令主文第1項記載のような合意とか、約束をしていない。
被控訴人は、交渉事項の全項目がまとまった段階で、それを一体として妥結するという前提をあらかじめはっきり断ったうえで、各項目の内容について説明したもので、その趣旨説明の際に「かくかくの努力をしたい。」といっても、それは、全項目が一体としてまとまったあかつきには、その項目について、説明に添った努力をするという約束をしたことになるにすぎない。したがって、合一的な妥結があるまでは、いかに趣旨説明をしても、それは交渉段階の一場面であって、それだけでは当事者を拘束するような「宣明」をしたことにはならないし、まして「合意」、「約束」をしたことになるものでもない。
第三争点に対する判断
当裁判所も被控訴人の本訴請求はこれを認容すべきものと判断する。
その理由は、原判決一〇枚目裏四行目の「一四日」(11頁4段30行目)を「一七日」と改め、左記のとおり敷衍するほかは、原判決の「事実及び理由」第三(八枚目裏二行目(11頁2段28行目)から一二枚目うら一〇行目(12頁3段11行目)まで)と同一であるから、ここに引用する。
なお、前記各証拠から認められる一連の団交の経緯によると、本件団交にあっては、会社再建の一方策として、大阪支店の改革を図ることが中心課題であったところ、もともと被控訴人の提示した再建策の帰趨と運命を共にすべき一部の合意のみを抽出し、右の再建策について成案をえないまま、その部分だけを書面化することは、予想されていなかったというべきであるから、全体の妥結がないことや、一定の留保ないし条件をつけていることを理由とする被控訴人の書面化拒否は、不当労働行為に当たらないと解するのが相当である。
以上によれば、被控訴人の本訴請求は、理由があるから、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石田眞 裁判官 古川行男 裁判官 山下郁夫)