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大阪高等裁判所 平成20年(く)340号 決定 2008年9月02日

主文

本件即時抗告を棄却する。

理由

本件即時抗告の趣意は,主任弁護人C,弁護人D共同作成の即時抗告申立書に記載のとおりであるから,これを引用するが,論旨は,要するに,原決定中,Bに対する処分結果を記載した書面(不起訴裁定書等)の証拠開示請求を棄却したのは,上記書面の刑訴法316条の20第1項該当性の判断を誤ったものであるから,原決定中当該部分を取り消すとともに,上記証拠の開示を命ずる旨の決定を求める,というのである。

そこで検討するに,本件公訴事実(訴因変更後のもの)の要旨は,被告人が自転車を運転し,夜間,暗く,見通しの悪い道路を前照灯を点灯せず,進路の安全を確認しないまま,漫然時速約15キロメートルで車道の右側部分を進行した重大な過失により,対向してきたB運転の自動二輪車を前方約36.8メートルの地点に認め,急制動の措置を講じたが及ばず,同車に自車の幼児用補助椅子に乗せた次男の左下腿部を接触させてBを転倒させるなどし,後遺症を伴う終生の加療を要する傷害を負わせた,というものであり,これまでの公判前整理手続により明らかにされた主たる争点は,本件事故の態様,被告人及びBそれぞれの過失の有無・内容・程度等であるところ,弁護人が開示を求めるBに対する処分結果を記載した書面(不起訴裁定書等)は,原決定が説示するとおり,本件事故の態様やBの過失に関する検察官の判断,評価を記載したに過ぎないものであって,本件公訴事実の存否を認定する上での証拠となるものではないのであるから,刑訴法316条の20第1項にいう主張との関連性及び開示の必要性は認められない。

所論は,弁護人の予定主張は事故態様の事実関係のみではなく重過失かどうかという法的評価そのものにも及んでいるのであり,被告人の過失とBの過失は表裏一体の関係にあるのであるから,検察官の「判断・評価」の在り方そのものが本件で吟味されるべき「事実」であり,争点そのものであるなどと主張する。しかし,検察官の「判断・評価」の在り方が本件で吟味されるべきものであり,本件の争点であるとしても,そこで問題となるのは検察官の証拠判断や法的評価の当否であって,それは証明されるべき「事実」ではないのであり,そして,このような検察官の証拠判断や法的評価の当否は,基本事件の判決においてまさに判断されるべき事項であって,証拠開示の問題ではないことが明らかである。所論は失当である。

そうすると,本件即時抗告は理由がないから,刑訴法426条1項によりこれを棄却することとし,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 森岡安廣 裁判官 松尾昭彦 裁判官 西田時弘)

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