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大阪高等裁判所 平成20年(ツ)82号 判決 2009年3月25日

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上告人兼被上告人

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同訴訟代理人弁護士

石田真美

内海陽子

高橋敬

辰巳裕規

田中秀雄

前田修

増田祐一

松山秀樹

吉井正明

吉田維一

横浜市青葉区荏田西一丁目3番地20

上告人兼被上告人

株式会社ライフ

同代表者代表取締役

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同訴訟代理人弁護士

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主文

1  本件各上告をいずれも棄却する。

2  上告費用は,各上告人の負担とする。

理由

1  本件は,上告人兼被上告人●●●(以下「上告人●●●」という。)が,貸金業者であり,会社更生法(平成14年法律第154号による廃止前のもの。以下同じ。)に基づき平成12年6月30日に東京地方裁判所において更生手続開始決定(以下「本件更生手続開始決定」という。)を受けた上告人兼被上告人株式会社ライフ(以下「被上告人ライフ」という。)に対し,本件更生手続開始決定の前後にわたり基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引によって利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの。以下同じ。)1条1項所定の利息の制限額を超えて支払った部分を順次元本に充当すると,過払金が発生していると主張して,不当利得返還請求権に基づき,その支払を求めた事案である。

2  原審は,本件更生手続開始決定前の上告人●●●の被上告人ライフに対する過払金債権は,更生債権であり(会社更生法102条),上告人●●●がこれを更生債権届出期間に債権届出をしなかったことから,被上告人ライフの更生計画認可決定により失権した(会社更生法241条本文)といえるが,本件では,被上告人ライフの更生手続における保全管理人・管財人が,過払金債権者が多数存在し,更生債権として届出をする必要のあることを認識していながら,過払金債権者を含むカード会員に対して特に手続をとる必要がない旨を黙示的に告知したということができる事情があるから,被上告人ライフにおいて上告人●●●が更生債権届出期間に債権届出をしなかったことをもって上記過払金返還請求権が全面的に失権したと主張することは信義則に反して許されないとして,上記過払金返還請求権のうち更生計画の一般更生債権に対する弁済率54.298パーセントを超える範囲に限って失権したことを認めた上,上記過払金債権の額(本件更生手続開始決定前の最終取引日である平成12年6月9日時点での過払金5万3179円及びこれに対する同月10日から本件更生手続開始決定日の前日である同月29日までの民法所定の年5分の割合による法定利息145円(円未満切捨て。以下同じ。))に上記弁済率を乗じた額である2万8953円について,上告人●●●の被上告人ライフに対する過払金返還請求を認容した(なお,本件更生手続開始決定後の取引に基づいて発生した上告人●●●の過払金債権については別途認容した。)。

3  上告人●●●の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は,原判決挙示の証拠関係に照らし,正当として是認することができ,その過程に所論の違法はない。

論旨は,(1)上告人●●●と被上告人ライフとの間において基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引があっても,本件更生手続開始決定がされた場合には,本件更生手続開始決定前に発生していた過払金を本件更生手続開始後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意が含まれているとはいえないとした原審の認定判断には,最高裁判所平成18年(受)第1887号・平成19年6月7日第一小法廷判決(民集61巻4号1537頁)違背ないし利息制限法1条1項,会社更生法163条1号あるいは「充当の合意」の法律解釈に重大な誤り又は判断遺漏の違法がある,(2)過払金の法的性質は不当利得返還請求権であり,上記不当利得返還請求権は,法律上の原因なくして利得とこれに対応する損失が生じた時に直ちに発生しているとして,本件更生手続開始決定前の取引に基づいて発生した上告人●●●の被上告人ライフに対する過払金債権が更生債権になるとした原審の判断には,最高裁判所平成20年(受)第468号・平成21年1月22日第一小法廷判決(裁判所時報1476号2頁)違背ないし過払金債権の発生時期あるいは会社更生法102条についての法律解釈に誤りがある,(3)被上告人ライフの更生手続開始の申立てに基づき平成12年5月19日に保全処分命令が発せられた後,本件更生手続開始決定前である同年6月5日,上告人●●●が被上告人ライフに対して弁済した2万円及びその法定利息を共益債権と認めなかった原審の判断には,会社更生法119条の3の法律解釈に誤りがある,(4)上告人●●●の被上告人ライフに対する過払金返還請求権が,被上告人ライフの更生計画認可決定によって一部失権したとの原審の認定判断は,被上告人ライフの更生手続は過払金債権者の犠牲を当然の前提として,被上告人ライフないしそのスポンサーとなったアイフル株式会社に多大の利益をもたらしたものであることに照らせば,憲法29条1項又は同法31条に違反し,民法1条2項の解釈に誤りがある等縷々述べるが,その実質はいずれも,最高裁判所の判例違反,憲法違反をいう点を含め,原審の専権に属する事実の認定を非難するか,独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず,採用することができない。

4  被上告人ライフの上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は,原判決挙示の証拠関係及びこれによる認定事実に照らし,正当として是認することができ,その過程に所論の違法はない。

論旨は,被上告人ライフにおいて上告人●●●の本件更生手続開始決定時の過払金返還債権が失権したと主張することは信義則に反して許されないとした原審の認定判断は,民法1条2項の解釈及び適用を誤っている旨縷々述べるが,その実質は,最高裁判所の判例違反をいう点を含め,原審の専権に属する事実の認定を非難するか,独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず,採用することができない。なお,被上告人ライフの指摘する上告受理の申立てを上告審として受理しない旨の最高裁判所の各決定は,必ずしも最高裁判所の確定した判例とまでいうことができない。また,上記最高裁判所の各決定は,その各原審が,本件更生手続開始決定前の原因に基づいて発生した更生債権である過払金返還請求権について被上告人ライフにおいて失権(免責)を主張することは信義則に反しないと判断する前提として認定した信義則の適用についての評価根拠事実及び評価障害事実と,本件の原審が,被上告人ライフの上記失権(免責)の主張は信義則に反すると判断する前提として認定した信義則の適用についての評価根拠事実及び評価障害事実とが異なっており,その意味で本件と事案を異にするというべきである。

5  よって,本件各上告はいずれも理由がないから,これらをいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 横田勝年 裁判官 塚本伊平 裁判官 山本善彦)

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