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大阪高等裁判所 平成20年(ネ)1189号 判決 2008年11月12日

控訴人・反訴被告(一審原告)

X(以下「控訴人」という。)

被控訴人・反訴原告(一審被告)

和歌山県行政書士会

(以下「被控訴人書士会」という。)

同代表者会長

被控訴人(一審被告)

日本行政書士政治連盟和歌山県支部

(以下「被控訴人県政連」という。)

同代表者支部長

上記二名訴訟代理人弁護士

月山純典

月山桂

藤井友彦

山本和正

田中志保

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

(1)  被控訴人書士会に対する会費支払義務不存在確認請求のうち平成一九年後期及び平成二〇年前期分に係る訴えを却下する。

(2)  被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して五万円を支払え。

(3)  控訴人のその余の請求を棄却する。

二  控訴人は被控訴人書士会に対し、七万二〇〇〇円及びうち三万六〇〇〇円に対する平成一九年一〇月一日から、うち三万六〇〇〇円に対する平成二〇年四月一日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  反訴状貼用印紙の費用は控訴人の負担とし、その余の費用は、第一、二審を通じこれを四分し、その三を控訴人の負担とし、その余を被控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求める裁判

一  控訴の趣旨

(1)  原判決中、被控訴人書士会に対する会費支払義務不存在確認請求及び被控訴人らに対する慰謝料請求(被控訴人県政連への加入及び会費支払強要に基づくもの)を棄却した部分を取り消す。

(2)  控訴人と被控訴人書士会との間で、同被控訴人が平成一三年七月一七日施行した同会会則第一八条及び別表第一に基づく会費の支払義務が月額五八〇〇円を超えて存在しないことを確認する。

(3)  被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して二〇万円を支払え。

(4)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  反訴請求(被控訴人書士会)

(1)  主文第二項同旨

(2)  反訴費用は控訴人の負担とする。

第二事案の概要

控訴人は行政書士であり、被控訴人書士会の会員である。被控訴人県政連は、政治活動を行うことを目的に日本行政書士政治連盟(以下「日政連」という。)の下部組織として政治資金規正法に基づき届出された任意加入の政治団体である。

本件は、控訴人が、①被控訴人書士会は、同県政連の経費を負担することにより、会員から徴収した会費を実質的に同県政連に対する寄附に使用しているから、上記会費の徴収は一部違法であり、控訴人はその支払義務を負わないと主張して、その不存在確認を求め(原審「事実及び理由」の「請求」第一項)、②被控訴人書士会の違法な会費徴収及び使用により、同県政連は控訴人の損失において利得したとして、同被控訴人に対して不当利得返還を、被控訴人書士会は控訴人に違法に損害を与えたとして、同被控訴人に対して不法行為による損害賠償をそれぞれ求め(同第二項)、③被控訴人書士会は、控訴人が同被控訴人に支払った会費を同県政連の活動に使うことにより控訴人をその意思に反する政治活動に組み込んだこと及び控訴人の立候補を妨害するための役員選任規則の改正によって、控訴人に精神的苦痛を与えたとして、不法行為に基づく損害賠償を求め(同第三項)、④被控訴人書士会の代表者が、会長選挙の際及び会長就任後に、控訴人の名誉を毀損するとともに被控訴人県政連への加入と会費の支払を強要し、被控訴人らの会員も、被控訴人県政連への加入と会費の支払を強要して精神的苦痛を与えたとして、被控訴人らに対し、不法行為(民法七〇九条、四四条一項、七一五条、七一九条、七二三条)に基づく損害賠償を求め(同第四項)、⑤被控訴人書士会が控訴人を排除する目的で役員選任規則を違法に改正し、施行したと主張して、改正の無効確認及び再改正を求めた(同第五項)事案である。

原審は、控訴人の訴えのうち、被控訴人書士会に対する役員選任規則無効確認及び再改正請求に係る部分(上記⑤)を却下し、その余の請求をいずれも棄却したので、これを不服として控訴人が控訴した。ただし、不服の対象は会費支払義務不存在確認請求(上記①)及び名誉毀損、被控訴人県政連への加入・会費支払強制による損害賠償請求(上記④)のみであり、かつ、これらの各請求は当審で減縮された。また、その余の請求に係る訴えは当審で取り下げられた。

これに対し、被控訴人書士会は、当審で、平成一九年後期及び平成二〇年前期の会費及び遅延損害金の支払を求めて反訴を提起した。遅延損害金起算日は各支払期限の翌日、率は民法所定の年五分の割合である。

前提事実、争点及び当事者の主張は、原判決「事実及び理由」中「第二 事案の概要」の「一 前提事実」「二 主要な争点」「三 当事者の主張」(ただし、請求の趣旨第一、第四項に関する部分)記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、以下のとおり付加・補正し、当審における当事者の主張及び反訴に係る主張を以下のとおり付加する。

一  付加・補正

(1)  原判決五頁二六行目の「現在の会費は月額四〇〇円である。」を「平成二〇年四月に会費額がそれまでの月額四〇〇円から六〇〇円に増額された。」に改める。

(2)  同六頁二〇行目から七頁一二行目までを削る。

(3)  同一二頁一四行目末尾に「少なくとも、被控訴人書士会の援助が見直された結果、被控訴人県政連の財政が悪化し、平成二〇年四月からその会費を二〇〇円増額したことにかんがみると、被控訴人書士会の援助は会員一人当たり二〇〇円であったと解されるから、同会会費規定は二〇〇円の限度で無効である。」を加える。

(4)  同頁一八行目「三〇〇〇円」を「五八〇〇円」に改める。

(5)  同一五頁二五行目「各々三〇万円」を「合計二〇万円」に改める。

(6)  同一八頁一二行目「一〇〇名を超える」の次に「被控訴人書士会」を加える。

(7)  同二〇頁八行目「占有部分(」の次に「段ボール箱三箱程度。」を加える。

二  当審における当事者の主張

(1)  控訴人

ア 被控訴人書士会の同県政連に対する援助及びそのための会費使用の違法性について

(ア) 被控訴人県政連の財政は平成一七年から急速に悪化し、二年連続で赤字を計上して過去の繰越金を取り崩し、平成二〇年四月から会費を四〇〇円から六〇〇円に二〇〇円値上げした。これは、控訴人の指摘を受けて被控訴人書士会による必要経費の肩代わりがなくなり、平成一七年四月から家賃を負担し始めたためであり、被控訴人書士会の援助なくして同県政連の運営が成り立たないことを示している。そうすると、上記値上げ分(月二〇〇円)は、被控訴人書士会から同県政連への寄附に対応するから、被控訴人書士会の会費の定めのうち、これに相当する部分は違法・無効である。

(イ) 被控訴人書士会は公共性の強い法人であり、同県政連は公共性のない政治団体であるから、営利団体同士の場合のように、事務量等に応じて費用を負担しているかだけではなく、被控訴人県政連の事務所・人員を同書士会から分離した場合との比較によるべきである。そして、被控訴人県政連の固定経費は年間一五六万円程度(月額で家賃四万円、人件費八万円、電話・光熱費一万円)必要であり、同被控訴人の年間収入一三〇ないし一四〇万円ではこれにすら満たないから、被控訴人書士会の寄附があると評価せざるを得ない。被控訴人県政連の同書士会に対する経費支払は、金額・支払日が年によってまちまちであり、人件費の負担が長年据え置かれたままである等、公正なものとはいえず、平成一四年から一六年まで被控訴人県政連が家賃を全く負担していないことからも、不当性は明らかである。

(ウ) 被控訴人書士会の会則に被控訴人県政連への寄附が明示されていなくとも、会費規定を一部無効とすべきである。本件で寄附に当たる行為は、少額の消極的支出(請求すべきものを請求しない)が長期間継続しているのであり、これらをいちいち訴訟で請求することは不可能である。また、行政書士法上、執行部の責任追及のための訴訟を認める規定はない。

イ 名誉毀損及び加入等強要について

(ア) 被控訴人書士会は、同会長選挙におけるA(以下「A」という。)の選挙公約が会員の名誉を毀損し、役員選任規則違反の可能性があったことを指摘して是正すべき義務があった。

(イ) 仮に被控訴人県政連への加入や会費支払を促す被控訴人らの行為が強要に当たらないとしても、控訴人の明確な加入拒否にもかかわらず加入扱いして文書を送付することは、控訴人の感情を害し、思想信条の自由を侵害する。

(ウ) 被控訴人書士会は、会報で、被控訴人らの会員数が同数であるとして、控訴人が被控訴人県政連の会員であるかのごとく発表した。

ウ 反訴請求原因に対する認否・反論

(ア) 反訴請求原因(ア)、(ウ)は認める。(イ)記載の会則は認めるが、支払義務の範囲は争う。

(イ) 被控訴人書士会の会費は、政治団体である同県政連に対する援助を織り込んで決められた額であるから、その限度(月額二〇〇円。上記ア(ア)の被控訴人県政連会費値上げに対応する分)で憲法一九条、民法九〇条に反し、無効である。

(2)  被控訴人ら

ア 被控訴人書士会の同県政連に対する援助及びそのための会費使用の違法性について

(ア) 被控訴人らの間で明確に区別できない事務・費用があるため、被控訴人県政連は同書士会に「負担金」を支払って応分の負担をしてきた。

(イ) 被控訴人書士会が同県政連の事務所賃料等を負担したことが違法であるとしても、これにより会費徴収規定が無効になるわけではない。同規定は、特定の政治団体に寄附することを定めているわけでもなく、憲法一九条や民法九〇条に反しない。また、控訴人の会費納入と被控訴人書士会による同県政連の費用負担との間には直接の結び付きはなく、控訴人の思想信条の自由に対する侵害にも当たらない。

イ 名誉毀損及び加入等強要について

(ア) 被控訴人ら職員が控訴人に送付した被控訴人県政連の会費請求書及び同県政連職員が送付した定期大会資料に威圧的な文言はなく、このような文書が数回送付されても強要その他の違法行為には当たらないし、控訴人に精神的損害も生じない。

(イ) Aは、会長立候補の所信で、複数の被控訴人書士会会員が同県政連の会費徴収を拒否していると述べたが、控訴人を名指しはしていない。仮にAの発言が控訴人を連想させたとしても、控訴人は自ら立候補の所信で被控訴人同県政連に加入していないことを明言していたから、上記発言は控訴人の社会的評価を左右しない。さらに、Aは、被控訴人書士会役員として発言したのではないから、同被控訴人が不法行為責任を負う理由はない。控訴人の主張イにいう是正の義務もない。

なお、Aは、被控訴人書士会会長・同県政連支部長就任後は上記のような発言をしていない。

(ウ) 被控訴人書士会・同県政連のBらは、被控訴人書士会総会の会場外ロビーで、控訴人に対し、被控訴人県政連に入会するよう勧誘したが、控訴人主張のように、控訴人を取り囲んで一時間近く会費相当額の寄附を迫ったことはない。

ウ 反訴請求原因(被控訴人書士会)

(ア) 被控訴人書士会は、和歌山県を区域とする行政書士会(行政書士法一五条一項)であり、控訴人はその会員たる行政書士である。

(イ) 被控訴人書士会会員は、月六〇〇〇円の会費納付義務を負い、前期(四月一日から九月三〇日)分と後期(一〇月一日から三月三一日)分各三万六〇〇〇円を各期の開始する日の前日までに納めなければならない(会則一八条)。

(ウ) 控訴人は、平成一九年後期及び平成二〇年前期分会費を支払っていない。

第三当裁判所の判断

一  被控訴人らの癒着について(争点一)

(1)  前提事実並びに《証拠省略》によれば次の事実が認められる。

ア 行政書士会は、会員の品位を保持し、その業務の改善進歩を図るため、会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的として、各都道府県に一箇ずつ設立することを義務づけられた法人であり、全国の行政書士会により設立された日本行政書士会連合会(日行連)は、行政書士会の会員の品位を保持し、その業務の改善進歩を図るため、行政書士会及びその会員の指導及び連絡に関する事務等を行い、行政書士の業務を行うためには日行連に備える行政書士名簿への登録が必要であり、登録を受けた行政書士はその事務所の所在する都道府県に設立された行政書士会の会員となり、行政書士事務を継続する間、強制加入団体である行政書士会からの脱退の自由を有しない。

イ 被控訴人書士会は、平成一八年一一月末日現在三七三名の会員を擁し(うち二名は廃業勧告対象者)、その財政は会員から納入される会費で賄われているところ、現在の会費は、月額六〇〇〇円、会則に違反した会員に対し必要な処分(訓告、一年以内の会員の権利停止、廃業勧告)を行うことができ、会費滞納者に対して廃業勧告を行うときには、会費納入の催告、綱紀委員会による業務継続の意思確認の手続を経ることとされている(会則九〇条の五第一項、二項)。

被控訴人県政連は、被控訴人書士会に加入している個人会員をもって構成される組織で、政治活動を行うことを目的に日本行政書士政治連盟(日政連)の下部組織として政治資金規正法に基づき届出された任意加入の政治団体であって、行政書士制度の充実発展を期するための政治活動等を行うことを事業内容としており、平成二〇年三月まで月額四〇〇円、同年四月から月額六〇〇円の会費を徴収し、平成一八年時点で少なくとも約三七〇名の会員を擁しているが、会員資格の定めが明確でなく、独自の会員名簿を作成しておらず、被控訴人書士会会員のうち一五名が被控訴人県政連への入会を拒否して会費支払いを拒絶し、五〇名ないし一〇〇名の被控訴人県政連会員が会費支払未納や延滞をしており、会務の運営上、被控訴人書士会との区別が明確でなく、トップ役員である支部長が同書士会会長、副支部長が同書士会副会長等、同書士会の役員がほとんどがそのまま役員となっており、同書士会の事務所内にわずかな専用物品を置き、同書士会の事務員による事務処理がされ、同書士会の事務用品・事務消耗品等が任意に使用され、同書士会と明確に区別されていない状況である。日政連は、日行連と連携して全政書士の社会的経済的地位の向上を期し、行政書士制度の充実・発展と行政書士の権益の擁護を図り、行政の円滑な推進に寄与するとともに、国民の福祉に貢献するために必要な政治活動を行うことを目的として設立された権利能力なき社団であり、行政書士の社会的経済的地位の向上、充実・発展を期するための政治活動、日政連と政策協定する国会議員及び同候補者を支持応援するための政治活動等を行うことを事業内容としており、平成一七年九月施行の衆議院選挙地方区で自民党議員を、比例区で自民党議員、公明党議員を推薦し、その財政的基盤は、日政連各支部から上納される、単位行政書士会会員一人につき一か月二〇〇円で計算される金額の会費である。

ウ 定期大会費用について

被控訴人書士会は昭和四六年一二月に設立され、昭和五七年二月に被控訴人県政連が設立される以前から、ホテルや旅館等で総会を行い、総会終了後には懇親会を行った。被控訴人県政連設立後、被控訴人書士会の総会(三時間ほど)の終了後に引き続き被控訴人県政連の定期大会(五〇分ほど)を行い、その後、被控訴人書士会の主催で懇親会を行うようになった。

平成一四年度の総会・懇親会費用は、総額七二万三一一四円、そのうちの会議費は一五万〇一六〇円で、五万円を被控訴人県政連が負担したが、被控訴人県政連名義の当該五万円の支出証ひょう書と被控訴人書士会名義の当該五万円の領収書とを同一事務員が作成した。

平成一五年度の総会・懇親会費用は、総額が七八万七七三八円、そのうちの会議費は八万九一三〇円で、被控訴人県政連は五万円を負担したが、被控訴人県政連名義の当該五万円の支出証ひょう書と被控訴人書士会名義の当該五万円の領収書とを同一事務員が作成した。

平成一六年度の総会・懇親会費用は、総額が七六万〇九〇一円、そのうちの室料は二万円で、被控訴人県政連は四万円を負担したが、被控訴人書士会の用紙を使用して被控訴人県政連名義の当該支出証ひょう書を作成した。

平成一七年度の総会・懇親会費用は、総額が九六万八二二二円、そのうちの会議費は一七万二二〇〇円で、被控訴人県政連は五万四二二〇円を負担した。

エ 事務所賃料、光熱費

被控訴人県政連は、被控訴人書士会の事務所を使用し、平成一六年度以前、その費用を負担せず、その後、控訴人の指摘を受けて、被控訴人書士会の事務所に関する経費の額(賃料月額一〇万円、同共益費五〇〇〇円、光熱費毎月平均一万五〇〇〇円)のうち、月額五〇〇〇円を支払っている。

オ 広報誌、印刷送付費等

被控訴人県政連は、被控訴人書士会の広報誌(会報)に政治連盟に関する記事を掲載し、コピーを使用し、被控訴人書士会に対し、平成一四年度及び同一五年度にコピー用紙代各一万円、平成一六年度に郵送料一万円、コピー用紙代一万円、平成一七年度のコピー用紙代八五三〇円、会報負担金一万一二五四円を支払った。

(2)  控訴人は、被控訴人書士会の同県政連に対する支出は民法四三条に反して無効であり、また、被控訴人書士会が同県政連に加入していない控訴人に加入者と同額の会費の支払を求めることは、控訴人の思想・信条の自由を侵害し、憲法一九条、民法九〇条に違反するから、被控訴人書士会会則一八条及び別表第一の会費規定は一部無効であると主張する。

ア 被控訴人書士会が政治資金規正法上の団体に金員の寄附をすることは、たとい行政書士に係る法令の制定改廃に関する政治的要求を実現するためのものであっても、行政書士会の目的の範囲外であり(最高裁平成八年三月一九日第三小法廷判決・民集五〇巻三号六一五頁参照)、実質的に金員の支出と同視できる行為もこれと同様に解すべきである。したがって、被控訴人書士会が同県政連に対する金員の寄附と同視しうる行為をした場合、その行為は同書士会の目的外の行為として違法・無効である。

しかし、仮に被控訴人書士会の同県政連に対する支出行為が違法・無効であるとしても、この支出行為は、被控訴人書士会が会員から徴収した会費のうちの一部につき具体的使途を定めて執行したにすぎず、これに相当する金員を別途会員から徴収したり、徴収するとしたものではないから、その違法・無効のために、会員の被控訴人書士会に対する会費支払義務の一部又は全部が無効となることはない(最高裁平成五年五月二七日第一小法廷判決・集民一六九号五七頁参照)。そして、上記認定事実によれば、事務所を平成一六年以前無償使用していた点が違法であるほか、事務員の事務処理等の区別がされていない点の違法があるが、同書士会の会則自体に負担の直接の根拠となる規定は認められず、同会則に基づいて会費が徴収された後に同書士会が負担を決定していると認められ、また、同会則における会費の定めが上記負担のためにされたと認めるに足りる証拠もないから、負担の違法が会則の違法・無効を来すことはないというべきである。

また、上記のとおり、被控訴人書士会会則が違法・無効と認められない以上、これに基づく会費の請求は、同会則に基づいて会員の義務の履行を求めるものにすぎず、控訴人の意に反する思想の表明を強要することにはならないから、憲法一九条・民法九〇条に反しない。

よって、被控訴人書士会会則中会費に関する規定の一部無効をいう控訴人の主張は失当である。

イ 控訴人は、被控訴人書士会幹部が被控訴人らは表裏一体で車の両輪である旨述べたから、人件費、事務所賃借料及び光熱費の負担割合一:一とすべき旨主張するが、被控訴人ら各自の事務量や事務所占有面積等、被控訴人県政連の負担すべき費用割合を特定するに足りる証拠はなく、仮に控訴人主張の発言があったとしても、それが単なる比喩にとどまらず、被控訴人らの事務量が同等であるという趣旨を含むとは解されず、原審証人Cの証言に照らしても、控訴人の上記主張は理由がない。

ウ 当審における当事者の主張に対する判断

(ア) 控訴人は、被控訴人県政連の財政が平成一七年から急速に悪化し、平成二〇年四月から会費を二〇〇円値上げしたのは、平成一七年四月から家賃を負担し始めたためであるから、上記値上げ分(月二〇〇円)は寄附分に相当し、その部分の会費の定めは違法・無効である旨主張する。

しかし、上記値上げと事務所賃借料負担(年六万円)との関係は必ずしも明らかでない。《証拠省略》によれば、平成一五年の単年収支は一三万六四六七円の黒字であったが、平成一六年の黒字額は三万三九六五円にすぎず、他方、平成一七年の赤字額は一七万六〇〇二円、平成一八年は一九万九四八八円と、いずれも上記賃借料負担を大きく上回り、平成一九年には単年赤字が四万三九九七円に減少していることが認められ、また、支出額を見ても、平式一六年の一四五万〇八四〇円に対し、平成一七年は一五七万八八〇八円であるが、平成一八年は一四七万六六九九円で、平成一六年との差は二万円強にすぎない。このような経過に照らすと、同被控訴人の収支には上記賃借料負担以外の原因が強く影響していると解され、同負担が直ちに財政悪化・会費値上げをもたらしたとは解しがたく、控訴人の上記主張は理由がない。

(イ) 控訴人は、被控訴人書士会の公共性等を根拠に、同県政連の事務所・人員を同書士会から分離した場合との比較によるべきである旨主張するが、そのように解すべき理由はない。また、被控訴人県政連の支払った経費の金額・支払日が年によってまちまちであること等から、直ちに負担が不公正であるとはいえない。被控訴人県政連は、平成一七年四月から事務所賃料を負担しているのであり、平成一四年から一六年までこれを負担していないからといって、現在の会費規定の不当性を根拠付けるともいえない。

二  被告県政連への加入等の強要について(争点二)

(1)  《証拠省略》によれば次の事実が認められる。

控訴人は、平成一四年四月一七日、あらかじめ被控訴人書士会の会費三万六〇〇〇円と被控訴人県政連の会費四八〇〇円を持参して支払うことなどを要請する旨記載された書面による通知を受けて被控訴人書士会事務所で入会面接を受けた際、同書士会総務部長から被控訴人県政連への入会勧誘を受け、思想、信条が異なるとして入会しなかったが、その後被控訴人県政連の会費振込書や郵便局の振替用紙を何回も送られ、二年分の県政連会費の請求を受け、被控訴人県政連の会議の議案が三回送られ、国政選挙の際には特定候補者への投票を依頼するファックス送信があり、平成一七年四月、被控訴人書士会副会長であったAは、控訴人も立候補した平成一七年五月の被控訴人書士会の会長選挙の所信表明において、被控訴人県政連の加入が自由であるからと言って数名が入会等せずに会費の徴収を拒否していると書面に記載し、当選後の就任挨拶において、会員諸氏にはその辺をご理解いただき、月四〇〇円、年間四八〇〇円をお支払いただきたい、約八〇%強の会員諸氏が文句を言わず支払っていただいており、残りの二〇%弱の方々にご理解、ご協力をお願いしますと述べ、平成一七年五月二五日、被控訴人書士会綱紀委員会副会長で被控訴人県政連会員であったBは、被控訴人書士会総会終了後、控訴人に対し、その直後に開催される被控訴人県政連の大会への出席を要求し、被控訴人県政連へ加入しないなどと言うことは認められないと言い、約四〇分間、控訴人と言い合いになり、被控訴人書士会綱紀委員会副委員長兼被控訴人県政連副支部長であったDは、被控訴人県政連に加入したくなければそれでよいから会費相当額を寄附するように言った。

(2)  上記一(1)、二(1)の認定事実によれば、被控訴人県政連は、政治活動を行うことを目的に日本行政書士政治連盟(日政連)の下部組織として政治資金規正法に基づき届出された任意加入の政治団体であって、行政書士制度の充実発展を期するための政治活動等を行うことを事業内容とし、特定政党を支持しているところ、会務の運営上、被控訴人書士会との区別が明確でなく、トップ役員である支部長が同書士会会長、副支部長が同書士会副会長等、同書士会の役員がほとんどがそのまま役員となっており、同書士会の事務所内にわずかな専用物品を置き、同書士会の事務員による事務処理がされ、同書士会の事務用品・事務消耗品等が任意に使用され、同書士会と明確に区別されていない状況であり、強制加入団体である行政書士会と組織、会務の運営の区別がされていない点において、違法、少なくとも、妥当でないというべきであり、上記認定事実中、少なくとも、思想、信条が異なるとして被控訴人県政連に入会しない態度を明確に表しているといえる控訴人に対してされた頻回にわたる会費支払要求、会議の議案送付、平成一七年五月二五日の勧誘は、その態様において、三七三名の会員中の一五名というごく少数の入会拒絶者に対し、組織、会務の運営の区別がされていない被控訴人書士会と被控訴人県政連との双方からされたものとして、これを受けた控訴人に主観的に強い圧迫感を与えるものであったと推認され、精神的苦痛を生じさせたというべきであり、被控訴人書士会と被控訴人県政連との明確な区別の意識なしに当該行為に至ったといえる点において、当該行為者に過失が認められる。

したがって、被控訴人らは、民法七一五条による責任を免れず、上記行為態様等を考慮し、控訴人が受けたと考えられる精神的苦痛に対する慰謝料として五万円の支払義務を負うが、これを超える慰謝料支払義務を負わない。

なお、控訴人は、Aの選挙公約は会員の名誉毀損に当たる可能性があったから、被控訴人書士会がこれを指摘・是正すべき義務があった旨主張するが、Aの所信が控訴人の名誉を毀損しないことは、原判決の説示(「事実及び理由」第三の四(2)イ)のとおりである。

三  反訴請求について

反訴請求原因(ア)及び(ウ)の各事実並びに(イ)記載の会則の定めはいずれも争いがなく、会費支払義務がない旨の控訴人の反論が失当であることは上記一に認定説示のとおりであるから、反訴請求は理由がある。

そして、本訴請求の会費支払義務不存在確認請求中反訴請求の対象に係る訴えは、訴えの利益がない。

四  結論

よって、控訴人の本訴請求(当審で維持された部分)のうち、平成一九年後期及び平成二〇年前期の会費支払義務不存在確認請求に係る訴えは不適法であり、その余の債務不存在確認請求は理由がなく、慰謝料請求は前記の限度で理由があり、その余は理由がなく、被控訴人書士会の反訴請求は理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 若林諒 裁判官 小野洋一 久保田浩史)

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