大阪高等裁判所 平成20年(ネ)1455号 判決 2011年2月25日
控訴人(被告)
株式会社Y製作所
同代表者代表取締役
A
同訴訟代理人弁護士
矢島正孝
同
山内明
同
藤井長弘
同
益田哲生
同
勝井良光
被控訴人(原告。本人兼亡X1訴訟承継人)
X2
同法定代理人成年後見人
X3
被控訴人(原告。本人兼亡X1訴訟承継人)
X3
被控訴人(原告。亡X1訴訟承継人)
X4
上記3名訴訟代理人弁護士
下川和男
同
岩城穣
同
伴城宏
同
鳥居玲子
主文
1 原判決を次の第2項以下のように変更する。
2 被控訴人X2の請求について
(1) 控訴人は,被控訴人X2に対し,1億2555万5278円及びこれに対する平成13年4月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 控訴人は,被控訴人X2に対し,82万5000円及びこれに対する平成13年4月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 控訴人は,被控訴人X2に対し,26万3500円及びこれに対する平成15年5月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人X3の請求について
(1) 控訴人は,被控訴人X3に対し,330万円及びこれに対する平成13年4月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 控訴人は,被控訴人X3に対し,165万円及びこれに対する平成13年4月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被控訴人X4の請求について
控訴人は,被控訴人X4に対し,82万5000円及びこれに対する平成13年4月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。
6 控訴人と被控訴人X2との間に生じた訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを100分し,その78を被控訴人X2の負担とし,その余は控訴人の負担とし,控訴人と被控訴人X3との間に生じた訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを10分し,その7を被控訴人X3の負担とし,その余を控訴人の負担とし,控訴人と被控訴人X4との間に生じた訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを10分し,その7を被控訴人X4の負担とし,その余を控訴人の負担とする。
7 この判決の第2項から第4項までは,仮に執行することができる。
事実及び理由
(以下においては,被控訴人X2を「被控訴人X2」,被控訴人X3を「被控訴人X3」,被控訴人X4を「被控訴人X4」という。)
第1控訴人の控訴の趣旨
1 原判決中控訴人敗訴部分をいずれも取り消す。
2 上記1の取消部分に係る被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
第2事案の概要
1 本件の要旨及び訴訟経過
(1) 本件は,平成13年4月1日の異動で控訴人の生産企画課に勤務していた被控訴人X2が,同課で勤務中の同年4月13日午後2時15分ころに先天的な脳動静脈奇形(AVM)部分からの出血(以下「本件発症」という。)によって常時半昏睡という重篤な後遺障害が残存する状態になったことについて,被控訴人X2並びにその両親である亡X1(以下「X1」又は「亡X1」という。)及び被控訴人X3が,本件発症は控訴人が被控訴人X2に過重な業務に従事させたことに原因があると主張して,不法行為又は安全配慮義務の不履行に基づき控訴人に損賠賠償を求めるとともに,被控訴人X2が,控訴人を退職したのは公傷病によるものであると主張して,控訴人に対し退職金残金の支払を求めた事案である。
(2) 被控訴人X2の損害賠償請求は,将来の介護費用,逸失利益等5億0961万3315円と弁護士費用5458万4328円との合計5億6419万7643円とこれに対する本件発症の日である平成13年4月13日以降の民法所定年5分の遅延損害金の支払を求めるものであり,退職金請求は,退職金残金26万3500円及びこれに対する履行期の翌日である平成15年5月1日以降の商事法定利率年6分の遅延損害金の支払を求めるものである。
また,被控訴人X2の実父X1及び実母被控訴人X3の請求は,それぞれ,不法行為に基づき固有の慰謝料等1013万3181円及び弁護士費用101万3328円の合計1114万6509円とこれに対する本件発症日である平成13年4月13日以降の民法所定年5分の遅延損害金の支払を求めるものである。なお,X1は本件訴訟が原審に係属中に死亡したので,被控訴人X3,被控訴人X2及び被控訴人X4が法定相続分(上記の順に2分の1,4分の1,4分の1)の割合で権利関係及び訴訟を承継し,被控訴人X3は557万3254円,被控訴人X2及び被控訴人X4は各278万6627円と各金員に対する平成13年4月13日以降の民法所定年5分の遅延損害金の支払を求めている。
(3) 原審裁判所は,①被控訴人X2自身の損害について,20%のいわゆる素因減額をし,損害のてん補等の処理を行った上で,同損害を合計1億8989万4235円と認定し,不法行為に基づく損害賠償請求を,同金額及び平成13年4月13日以降の年5分の遅延損害金の限度で認容し,②退職金請求については,全額を認容した。また原審裁判所は,亡X1及び被控訴人X3に生じた各損害を各400万円と弁護士費用各40万円と認定し,これらの請求を同金額及び平成13年4月13日以降の年5分の遅延損害金の支払を求める限度で認容した(なお,亡X1に生じた損害については,相続人である被控訴人らの相続分に応じて請求を認容した。)。
(4) 控訴人は,原判決を不服として控訴を提起し,被控訴人らの請求を棄却するよう求めた。
2 「前提事実」及び「争点及び争点についての当事者の主張」は,次のように原判決を訂正し,後記3のように「当審における控訴人の補充主張」を,後記4のように「当審における被控訴人らの補充主張」を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の「2 前提事実」,「3 争点及び争点についての当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の訂正)
原判決6頁13・14行目を次のように改める。
「(イ) 傷病補償年金(当審口頭弁論終結時〔平成22年4月20日〕における傷病補償年金受領額)
合計1274万8906円」
3 当審における控訴人の補充主張
(1) 本件発症と被控訴人X2の業務との間の因果関係について
ア 被控訴人X2が引継ぎを受けた業務内容等について
生産企画課の業務は,①生産計画書の作成,②生産計画書に基づいて生産日程表を作成する業務及び③納期を販売課に回答する業務である。被控訴人X2がBから引継ぎを受けた業務は,販売課からの問い合わせに対して納期を回答するという業務(納期検討依頼に対する回答)であり,対象となる鋼球の種類は特殊鋼球のうちの5種類程度であった。特殊鋼球は販売量が少なく,納期検討依頼に対する回答業務の量も少なかった。それは,入社1年目のBが担当することとなった業務と同じ程度である。したがって,被控訴人X2は,平成13年4月2日から同月4日までの3日間で引継ぎを終え,その後同月7日(土)に被控訴人X2自身が引継ぎの確認をして,同8日(日)に残された引継ぎをBが行って引継ぎは完了した。
イ 被控訴人X2が引継ぎ後に行った業務内容について
引継ぎ後の平成13年4月5日,6日,9日から12日まで合計6日間は,5種類の特殊鋼球の納期検討依頼に対する回答を行うのが被控訴人X2の業務ということになり,この業務と本件発症との因果関係が認められるためには,上記業務がその内容や密度において過重であると認められる必要がある。
納期検討依頼に対する回答業務を行うためには,販売課からの顧客注文内容の確認,対象となっている鋼球の在庫の有無,在庫がなく原材料を調達してこれを製造する場合にはどの程度の期間を要するか,製造が開始された後は,製造工程の進捗状況を把握し,納期に間に合うかどうかを確認することが必要である。このように,納期検討依頼に対する回答業務は,販売課(営業課),購買課(資材課)及び製造課(製造工場)との間の簡単な連絡や確認が主であって,同人が単独で何らかの判断を示さなくてはならないものは存在しない。しかも,回答業務の対象となる鋼球は,特殊鋼球のうちの5種類程度であって,生産量も少なく,納期検討依頼自体の数が少ないから,被控訴人X2が行っていた業務は,質及び量とも負担の極めて軽いものであった。
ウ 被控訴人X2は,情報システム課に在籍していたときに,生産企画課の仕掛在庫把握システム開発のための準備を行っており,仕掛在庫に携わる各部署の業務の調査をしていた。具体的には,生産企画課担当者や製造工場作業者に対する業務内容や各種帳票類の記入方法,製造工程との関係などについてヒアリングを行い,こうして収集した資料や情報に基づいて,資料(フローチャート等。<証拠省略>)を作成していた。このように,被控訴人X2は,生産企画課に来る前から生産企画課の業務内容に相当通じていた。また,製造工程の現場主任との必要な人脈も作っていた。
エ 被控訴人X2は,上記のような知識と経験を生かして,Bから引き継いだ業務を3日間で理解し,その後独りでその業務をこなしていたのであって,このことは当時被控訴人X2が使用していたポケットノート(<証拠省略>)の記載からも明らかである。すなわち,上記ノートの記載は,被控訴人X2が以前に生産企画課の業務内容を調査研究していたときに作成し,仕掛在庫把握システム確立のための部内の勉強会での発表に使用されたレジメとフローチャートとは共通しているところが多く,被控訴人X2はBから引継ぎを受けた業務内容については,以前の調査研究によってあらかじめ知識,経験を有していたことがうかがえる。
オ 被控訴人X2の労働時間について原判決がその認定の根拠としている申述書(<証拠省略>)は,本件発症後相当時日が経過してから作成されたものであり,通話履歴(<証拠省略>)も,その時間帯に通話があったことを示すにとどまり,会話の内容を明らかにするものではない。とりわけ終業時刻は甲第3号証を唯一の証拠とするもので,原判決は,不確かな証拠を基礎として安易に推論を重ねた結果,実態とかけ離れた労働時間を認定した。実際の労働時間は,被控訴人X2本人の申告が正しいというべきである。
カ 原判決は,1か月未満の期間における時間外労働時間数を1か月にふくらませて換算して,厚生労働省が発出した通達「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(平成13年12月12日付け基発第1063号。以下「本件認定基準」という。)に当てはめている。しかし,本件認定基準は,そのようなことは全く予定しておらず,本件のようなわずか12日間の労働を「長期間の加重業務」や「恒常的な長時間労働」とはとらえていない。本件認定基準は,発症時における疲労の蓄積がどの程度であったかという観点から判断するという考え方で設定されているものである。ちなみに,原判決によれば,本件発症前1か月間における被控訴人X2の時間外労働時間の合計は約88時間30分であったというのであり,12日間における時間外労働時間数を1か月当たりの数値に換算した結果得られたとする約152時間30分を大きく下回っているところである。原判決の換算の結果は,事実とかけ離れたフィクションである。
キ 以上のように引継ぎ後に被控訴人X2が行っていた業務は,その質及び量とも極めて軽微であり,また,生産企画課の業務について相当程度の予備知識を持っていたから,同課の業務に習熟するためにことさら残業を余儀なくされるようなことはあり得ない。むしろ,同人はあらかじめ有していた知識を更にグレードの高いものにしようとする向上心から自主的に残業していたのであって,このような残業が精神的負担や疲労となるものではない。
被控訴人X2は若く,高血圧などの危険因子も有していなかったのであり,後に述べる医学的見地からすれば,本件発症はAVMを有していた被控訴人X2であるからこそ発生したものというべきである。同じような年齢で,高血圧などの危険因子も持たず,AVMも存在しない者であれば,被控訴人X2の実際の業務への従事によって本件のような重篤な症状に陥ることは通常考えられない。
(2) AVMによる脳出血は自然経過の中で起きる危険性が高いことについて
ア AVMの自然出血率について
(ア) 「脳卒中治療ガイドライン2004」(<証拠省略>)では,AVMの未出血例の年間出血率は1.7%~2.2%であったとされている。また,「脳ドックのガイドライン2003」(<証拠省略>)では,自然経過の中でのAVMからの出血率は年間2%~3%と報告され,また,AVMの非出血例での出血率は年間2.2%であったとされている(70頁)。
(イ) Grafらの報告(<証拠省略>)では,AVMの患者71人を対象とした調査によると,初回の破裂出血のピークは16歳から40歳までにあり,40歳までに69%の患者が出血している。特に25歳までに28.2%が,30歳までに42.3%が,35歳までに56.3%の患者が破裂出血している(<証拠省略>,TABLE1,翻訳部分4頁)。また,AVM患者のうち,年間の平均出血率は2~3%とされているが,けいれんなどの症状の全くなかった患者は,けいれんの症状のあった患者に比べて出血率が高く,年間出血率は6%になっている。
(ウ) そして,AVMの初回出血の最も重要な因子は,ナイダスのサイズである。ナイダスの大きさが3cm以下の場合は,3cm以上の場合よりも出血率がかなり高くなっている(Grafらの報告によると,3cm以下では出血率は,1年間で10%,5年間で52%であるのに対し,3cm以下では,1年間で0%,5年間で10%になっている。)。
(エ) 無症候性のAVMの年間出血率が仮に2%であるとすると,AVMと診断された患者のうち統計上は,毎年2%の確率で出血するということであり,これをごく単純化して説明すると,26歳でAVMが発見されると40歳までには,28%の患者が,60歳までには78%の患者が出血するということである。そして,この出血率は,保存的治療を行った症例と経過観察をした症例との間で有意な差はない(脳動静脈奇形残存例の自然経過〔<証拠省略>〕)。自然経過での生涯にわたる出血率は,発症時の年齢が25歳の場合では出血率を年間2%としたときには65%,出血率を3%としたときには80%,出血率を4%としたときには88%とされている(<証拠省略>)。このことは,被控訴人ら提出の意見書(<証拠省略>)に引用されている参考文献(<証拠省略>)でも指摘されており,この文献では,生涯出血率については,年間出血リスクを2%~4%とした場合のAVMを伴う頭蓋内出血の生涯リスク(%)を「105-年表示の患者年齢」として概算している。これによると,26歳のAVMを有する者の生涯出血リスクは79%(105-26)になる。
(オ) 以上から,AVMは自然経過のうちに(保存的治療を行ったとしても)出血発症するというのが医学的知見である。原判決が「無症候性脳動静脈奇形が,自然経過の中で増悪するものではなく,何らかの他の要因が加わって初めて脳出血を発症するもの」と認定しているのは,明らかにこの医学的知見に反する。
イ AVMそのものが自然経過の中で出血する危険性が高い理由
AVMへの流入動脈の血管壁は極めて薄く脆弱である。また,AVMは周囲の動脈をナイダスへ引き込みつつ成熟を続け,その自然経過の中で破裂出血に至るものである。
ウ AVMの出血因子
(ア) 出血しやすいAVMには一定の特徴がある。その出血因子としては,①AVMが小さいこと,②深部に局在すること,③深部流出静脈があることなどが指摘されている(<証拠省略>)。
(イ) Grafらの報告(<証拠省略>)によると,AVMの初回出血の最も重要な因子はナイダスのサイズである。ナイダスが3cm以下の症例の出血率は,1年間で10%,5年間で52%であったのに対し,3cm以上の症例の出血率は,1年間で0%,5年間で10%にすぎなかった。
(ウ) 深部流出静脈に流出するAVMは,その51%が出血し,他方で表在流出静脈を有するAVMの出血率は33%であるとされている(<証拠省略>)。
(エ) 深在性及び後頭蓋窩のAVMは出血しやすい。大脳のAVMの出血率が65%であるのに対し,深在性及び後頭蓋窩のAVMの出血率は80%とされている(<証拠省略>)。これらの部位のAVMは比較的小さいものが多いので,部位特異性というより大きさが関係していると考えられる。
(オ) 上記出血因子の組合せによって,さらにAVMからの出血率は高くなる。この点について,Kaderらによる多変量解析では,①小さなAVMと深部流出静脈の組合せでは,96%と最も出血しやすい。②次いで,中から大のAVMと深部流出静脈の組合せでは,80%となる。③小さなAVMと表在流出静脈の組合せでは,69%となる。④中から大のAVMと表在流出静脈の組合せでは,29%となる(<証拠省略>)。
(カ) AVMからの出血好発年齢は,30歳未満と60歳以上である。「脳動静脈奇形の疫学・自然史」(<証拠省略>)では,17%が20歳未満,20%が60歳~79歳に発症している。そして,30歳未満と60歳以上で出血発症の比が高いとされる(各74%と83%)。「脳卒中データバンク2005」(<証拠省略>)では,AVMの発症年代について,年齢分布では20歳代と50歳代にピークを示しており,高血圧性脳内出血2304例とAVM64例との比較において,30歳未満での発症例が占める割合は,高血圧性脳内出血は0%であるのに対し,AVMでは26%となっている。
(キ) 心理的ストレスはAVMの出血因子とはならない。AVMからの出血が生じた患者のうち,36%は睡眠中に出血しているのに対し,活動中(重い物を持ち上げた時,排便や性交中,ストレス負荷時など)に出血したものは25%と報告されている(<証拠省略>)。睡眠中などの安静時の血圧は通常は安定しているのに対して,活動中の血圧は,安静時に比較すると上昇するから,身体の血圧の上昇によってAVMの出血傾向が高くなるのであれば,活動中に出血した患者の方が多くなるはずである。ところが実際は睡眠中の出血発症が多くなっている。この事実は,活動していることやストレス負荷がかかっていることがAVM出血の危険因子とはならないことを示している(<証拠省略>)。この点は,大阪労災病院のC医師も北大阪労働基準監督署宛ての意見書(以下「C意見書」という。<証拠省略>)においても指摘しているところである。
エ 被控訴人X2がAVMの出血因子を兼ね備えていることについて
(ア) 被控訴人X2のAVMのナイダスは小さい(2cm程度)部類に属している(<証拠省略>。甲31では最大径2.5cm×2cmとされている。)。被控訴人X2のAVMの流入動脈は左小脳動脈及び左後下小脳動脈の2本が確認され,これに対して流出静脈は下小脳半球静脈への1本だけである(<証拠省略>)。このことから,流出静脈には2本分の流入動脈からの血流が合流することとなるので,必然的にナイダスの血管内圧は高くなり,出血の危険性は増大する。
被控訴人X2のAVMは小脳にある(<証拠省略>)から,深在性であり(<証拠省略>),後頭蓋窩のAVMの60~80%を占めるとされている。また,同人のAVMはびまん性である。発症時の年齢は26歳であって,好発年齢であった。
(イ) 以上からすると,被控訴人X2のAVMの特徴の組合せでは,96%と最も出血しやすい。さらに,出血因子としての深在性,AVMがびまん性であるなどの特徴を有しているから,被控訴人X2のAVMは自然経過の中で出血したものであって,これを避けることはできなかった。
(3) 損害について
ア 将来の介護費用等について
原判決は,被控訴人X2の将来の介護費用などの実損害額を計算するに当たり,厚生労働省の簡易生命表による平均生存余命を用いて,平均生存余命の期間継続して同人の介護が必要であるとして,一時金による賠償を命じている。
しかし,被控訴人X2のAVMは,既に述べたように再出血の可能性が大きい。すなわち,今後の年間出血率は9%に達し,その危険性は毎年累積することになる(<証拠省略>)。そして,被控訴人X2のAVMは小脳に位置しているから,ひとたび出血発症すると脳幹が損傷する可能性が高く,最悪の経過をたどる危険性も高い。このように,上記平均生存余命と被控訴人X2の現実の余命とは異なっており,被控訴人X2の平均生存余命の期間継続して同人の介護が必要であるという前提に基づき一時金で将来の介護費用を負担させる場合には,介護期間について合理的な限定が加えられなければならない。
また,被控訴人X2の平均生存余命に基づいて将来の介護費用を一時金で賠償させる場合には,現実に介護費用を支出して被る損害に比して賠償額が不当に過多となり,当事者間における損害の公平な分担を著しく阻害するおそれがある。被控訴人X2の余命期間にわたって継続して必要となる同人の介護費用や将来の消耗品費等の現実損害については,現実の生存期間にわたり定期的に支弁して賠償をする定期金賠償方式が採用されるべきである。
イ 後遺障害逸失利益について
前記のように被控訴人X2については,早晩脳出血を来たし労働能力を喪失することが明らかであるから,労働能力喪失期間を健常者と同様に67歳とすることには合理的な理由がなく,その終期の設定には合理的な限定が加えられるべきである。
ウ 素因減額について
被控訴人X2の生産企画課での業務は,同人にとって質的にも量的にも過重でなかったことは明らかである。一方,前述のとおり,被控訴人X2のAVMはその特徴から一般のAVM患者と比較して相当に出血しやすいものであった。これらの事情は,寄与度・素因減額の検討に当たっても極めて重要な事実である。本件のような僅か12日間における量的・質的に過重性の認められない業務に従事した者のうち,脳出血を来す者は極めて少数であると思われるし,被控訴人X2のAVMは多くの出血因子を兼ね備えていたから本件発症に至ったと見ざるを得ないものである。よって,素因減額を20%にとどめることは不当である。
4 当審における被控訴人らの補充主張
(1) 業務の過重性について
ア 被控訴人X2は,情報システム課では補助的な作業あるいは単純作業しか指示されていなかったが,生産企画課においては,初めて責任を持った業務を任された上,その内容も情報システム課での業務とは全く異なっており,しかも前任者のBからの引継期間は3日間しかなく,この短時間に被控訴人X2はこれから自己が担当することとなる業務の説明を受け,これを理解し,その後は独りでその業務を行わなければならなかったから,この間に強いられる精神的緊張は同人にとってかなりの負担となった。
(ア) 引き継いだ業務の量について
引き継いだ業務の量は,生産企画課に5年3か月勤務していたBの業務であり,仮にその6割であったとしても,生産企画課で初めて勤務する被控訴人X2にとっては,短期間で引き継ぐにはかなりの負担であった。
(イ) 引継期間等について
B自身,同人が担当していた特殊球の業務を2週間で完全にマスターすることは難しいと労働基準監督署へ提出した書面(<証拠省略>)に記載しており,また,同人は,1週間くらいは引継期間があるかと思っていたとも証言している。3日間という引継期間は引継ぎを受ける業務内容に比べて短すぎたのであって,このため被控訴人X2はそれを十分理解することができず,何度もBに対して質問をせざるを得なかったのである。
(ウ) 被控訴人X2の残業の理由
被控訴人X2は,平成13年4月7日(土)と8日(日)に休日出勤をし,また,恒常的に長時間の残業をしていた。それは,引継ぎを受けた業務の内容を被控訴人X2が十分理解することができなかったからであり,自主的に残業していたものではない。
イ 業務の過重性に関する控訴人の当審における補充主張に対する反論
(ア) ポケットノートから推測される被控訴人X2の行った業務について
控訴人は,ポケットノートの記載から,被控訴人X2の業務内容が少なかったと主張するが,控訴人の指摘は失当である。
被控訴人X2がポケットノートに記載したのは,行った業務の一部である可能性があるし,同ノートには疑問点や分からないことをBに確認したことが記載されている。被控訴人X2がそのようなメモを作成したことは,むしろ,引継期間が短く,業務内容を十分理解できず,1つ1つ確認していったからであることを推測させるものである。また,記載されている内容は,習熟するためには一定の時間を要する事柄であったり,本来被控訴人X2が引き継ぐ業務に含まれていなかったはずの特大寸球についての記載であったりする上,同ノートには工程の進捗を把握して生産の順番まで指示していることがうかがえる記載もある。このように,同ノートの記載からは,被控訴人X2の当時の業務が同被控訴人にとって責任と緊張の伴う業務であったことが裏付けられている。
(イ) 被控訴人X2が作成したとされる資料(フローチャート等)について
控訴人は,フローチャート等(<証拠省略>)を被控訴人X2が作成したと主張するが,疑問である。被控訴人X2は,情報システム課では単純作業しかしておらず,入社1,2年目で生産管理全般にわたる深い知識や情報システムについての知識がない同人が上記資料を単独で作成できたとは考え難いからである。
また,被控訴人X2が仕掛在庫把握システム構築のための検討メンバーの一員であったとしても,補助的な役割を果たすに留まっていたと考えられる。そして,被控訴人X2が生産企画課の業務フローについて一定の知識を得ていたとしても,そのことは個別具体的な業務に習熟していたということにはならない。また,被控訴人X2はエクセルで表を作成している(<証拠省略>)が,それは,検討段階の仕掛在庫把握システムの構築を完遂させることを控訴人から期待されていると考え,生産企画課に異動した後も仕掛在庫把握システムの構築という観点から業務内容やその効率化について検討したものであり,そのことが上記の事情と相まってかえって過重労働を招いたとも考えられる。
(2) AVMに関する補充主張
ア 控訴人の主張
控訴人の主張の中心は,①無症候性AVMが自然経過の中で出血する可能性が高いこと,②被控訴人X2のAVMが出血性の高いものであること,の2点である。そして,これらの主張の裏付けとして,控訴人は,file_2.jpgAVM患者の相当数が無症候性であるとするD意見書(<証拠省略>)及び原判決の認定が誤りであること,file_3.jpgAVMのナイダスが大きいことが出血発症危険因子であるとするD意見書及び原判決の認定が誤りであることを主張しているものと解される。
イ D意見書Ⅱ(<証拠省略>)の参考文献2,3からも明らかなように,剖検例を対象としたMcComickの報告によれば,生涯を無症状で経過する動静脈奇形の方がより多く存在することは明らかであり,D意見書が,「脳動静脈奇形の中には無症状のままで経過する例が存在し,しかも,その頻度が高いことを示唆している」としているのは十分な医学的根拠に依拠している。控訴人は,「AVM患者の生涯にわたる出血発症率は相当高く,自然経過の中で発症することがむしろ常態であるということができる。」と主張しているが,この主張は医学的な根拠に基づかないものである。
ウ 控訴人は,D意見書参考文献3(306頁)の公式を援用して「乙第3号証のGrafらの研究における未出血AVMの年間出血率2~3%を前提にすれば,26歳までにAVMが出血する確率は約41~55%である。」などと主張する。しかし,この公式を適用するためには同文献が上げるような3つの前提条件(①どのAVMも生下時から存在し,②どのAVMもリスクの大きさが同等で,③生涯のどの時期にあってもリスクの大きさには変化がない。)が必要とされるが,②,③は成り立たないし,控訴人が引用する出血率はAVMと診断された症例についての年間出血率であり,無症候性のAVMを含めた年間出血率ではない。
また,控訴人の計算結果は,McComickの論文において報告された「無症候で生涯を終えた脳動静脈奇形が剖検で発見された脳動静脈奇形の87.8%を占める」という事実からかけ離れたものである。
このように,控訴人が主張するような,統計学的な計算により未出血で無症候性のAVMが出血発症する確率を計算する方法は妥当でない。
エ AVMは,生下時から存在するが,その後の血行力学的因子にさらされることによって成長し,さらにそれが,血行力学的負荷と血管壁の防御との均衡が崩れることによって破裂に至るという点では,本件も多くの脳動脈瘤の破裂事例と異なるところはない。AVMを有する患者の87.8%は,無症候性で出血発症することなく生涯を過ごすのである。
D意見書(5,6頁)のとおり,被控訴人X2が生産企画課に配属されたことによって業務が著しく変化し,著しい長時間労働と精神的ストレスが加わったことから,被控訴人X2の血行力学的負荷が増大し,脳動静脈奇形が破裂し出血発症したのである。
オ 控訴人は,被控訴人X2のAVMが出血しやすいものであり,出血しやすいAVMの特徴として,①ナイダスが小さい(3cm以下),②深在性であり,流出静脈が1本である,③若年であることを指摘している。①については,これを否定する論文が存在し(D意見書Ⅱ〔<証拠省略>〕参考文献5),②のうち深在性であることは,将来の出血危険因子とはならず(D意見書参考文献2の2646頁),③についても同様である。被控訴X2のAVMの特徴で出血の危険率に関係のある因子は,②のうち流出静脈が1本であることのみである。したがって,被控訴人X2のAVMは,最も出血危険率の高いグループに属するものではない。
第3当裁判所の判断
1 認定事実
(1) 被控訴人X2の勤務状況及び本件発症に至る経緯について
次のア以下のように加除訂正するほかは,原判決「事実及び理由」中の第3の1(1)の認定説示と同一であるから,これを引用する。
ア 原判決19頁14行目から17行目までを次のように改める。
「 証拠(<証拠・人証省略>,原審・当審証人B,原審証人E,原審証人F,当審証人G,原審被控訴人X3本人)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人X2の勤務状況及び本件発症に至る経緯について,次のア以下の事実を認めることができる。」
イ 原判決19頁20行目の「同年7月1日から」を「同年9月から」に改める。
ウ 原判決19頁24行目から26行目までを次のように改める。
「 (ア) 情報システム課の業務内容
情報システム課は,各部署における業務の効率化を図るための情報処理システムを企画して提案し,各部署からの要望に応じて情報処理システムの開発と運用を行い,控訴人各部署の業務を支援する業務を行っていた。そのために,各部署がコンピュータ端末を利用して入力した情報を集約し,各部署の要請に基づき必要な情報を出力して提供するなどの業務を行っていた(以上,<証拠・人証省略>)。
(イ) 被控訴人X2が行っていた日常業務」
エ 原判決20頁19行目の次に改行して次のように加える。
「 (ウ) 被控訴人X2が行っていたその他の業務
当時控訴人では,仕掛在庫を電算管理する「仕掛在庫把握システム」の構築が検討されていたことから,検討グループが作られ,被控訴人X2もこの検討メンバーの一員として活動していた。検討メンバーは,今後このシステムの開発の開始決定がされた場合のことを考え,そのための準備を行っていたものであった。具体的には,検討メンバーは,それぞれの業務の手がすいたときに,仕掛在庫に携わる各部署の業務を調査し,各業務のフローチャートを作成するなどしていた。被控訴人X2も,この作業の関係で担当する生産企画課担当者や製造工場作業者に対する業務内容や各種帳票類の記入方法,製造工程との関係などについてヒアリングを行い,収集した資料や情報に基づいて,資料(フローチャート等。<証拠省略>)を作成していた(以上,<証拠・人証省略>)。」
オ 原判決20頁25行目の「また」から21頁2行目までを次のように改める。
「納期回答業務は,販売課が顧客から注文を受けた場合,販売課から生産企画課に対していつごろ当該製品を納品できるかの見込みについて問合せ(納期検討依頼)があり,それに対して回答をする業務であった。この場合,生産企画課では,在庫で対応できるか否か及び在庫で対応できない場合には原材料の調達日数を購買課に問い合わせ,さらに製造に必要な日数を製造課に問い合わせて,どの程度の期間がかかるかを調査した上で販売課に回答を行い,販売課ではこの回答に基づき顧客と協議して,契約が成立すると製造が開始されるというシステムがとられていた。さらに,製造が開始された後には,販売課から納期に間に合うかどうかの照会があり,この照会があると,その製品の担当者が何度か工場へ赴いて現物を確認し,製造工程の進捗状況を把握し,納期までに完成できるかどうかを確認して,その進捗状況を販売課に回答することになっていた(以上,<証拠・人証省略>)。」
カ 原判決21頁3行目から18行目までを次のように改める。
「 (イ) 生産企画課では,平成13年3月末まで,Bが控訴人全体の鋼球生産量の約2割に相当する特殊球について,生産計画の策定及び納期の回答業務を担当していた。同年4月分の生産計画はE係長とBが既に策定しており,被控訴人X2は同年4月1日に生産企画課に異動した後は,主として,この業務を除く上記特殊球に関する納期検討依頼への回答業務を担当することになった。そして,作業内容が複雑であるなどの理由から,小径セラミック,ジャイロ球,特大寸法球が被控訴人X2の担当から除かれ,また,上記特殊球の中には発注件数がほとんどないものも含まれていた関係で,被控訴人X2が実際に担当することになった特殊球は5種類程度であった。
以上により,被控訴人X2がBから引き継ぐことになった業務は,特殊鋼球5種類程度に関する①販売課からの納期検討依頼書に対する納期回答,②製造にかかった製品についての販売課からの納期の確認に対する回答をするための各工場のロット加工状況,仕掛品の進行進捗状況の確認,③販売課からの生産依頼書による材料生産手配,④生産計画書による指定寸法差日程表の作成と生産チェックであった。
被控訴人X2のこの業務分担は,E係長とBの判断によるものであった。その理由は,被控訴人X2が生産企画課の業務担当が初めてであったことから慣れるまでは同人の業務を軽減する必要があると判断されたこと,及び一般鋼球の担当者に引き継ぐのが相当なもの(特大寸法球)があったことによるものであった。E係長とBは,被控訴人X2に担当させる業務量は,Bが担当していた業務量の6割程度に当たると判断していた。E係長は,被控訴人X2が生産企画課の業務に慣れるに従ってBが担当していた程度の業務量に徐々に修正していくつもりであった。」
キ 原判決22頁8行目の「引継ぎを行ったが,」を次のように改める。
「引継ぎを行った。そして,被控訴人X2は,引継ぎを受けた内容をポケットノート(<証拠省略>)に記載していた(以上,<証拠・人証省略>)。」
ク 原判決22頁13行目から18行目までを次のように改める。
「 (オ) Bは,平成13年4月5日に異動先の海外管理課に移って業務を開始した。生産企画課と海外管理課は同一のフロアにあり,Bは,被控訴人X2に対し,不明な点は自分に聞きに来るように指示した。そして,被控訴人X2は,4月5日から実際に生産企画課の業務を開始した。
被控訴人X2は,Bから受けた引継ぎの内容や,4月5日から本件発症までの間に独りで行った業務の内容をポケットノート(<証拠省略>)に記載していた。業務に関する記載内容は,販売課からの納期検討依頼を受けて鋼球を加工している工場での加工状況や生産進捗状況を調査して回答したこと,製造工場に対し,サイズ切替えや加工順序の変更の連絡,完成した製品の出荷の指示,納期短縮の依頼をしたりしたことなどであった。それら記載のうちには,抹消線が引かれた部分,記載の横などに「OK」,「済」,「未」,「至急」,「アウト」といった記載が付け加えられている部分がある。また,被控訴人X2は,本件発症の日までの間に,2,3回Bに対して質問を行った。これに対しBは,被控訴人X2と現場に赴き,担当者とともに被控訴人X2に説明するなどした(以上,<証拠・人証省略>)。」
(2) 被控訴人X2の基礎疾患等について
証拠(<証拠省略>,原審被控訴人X3)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人X2のAVM,AVMに関する医学的知見等について,次のア以下の事実を認めることができる。
ア 脳動静脈奇形(AVM)について
AVM(arteriovenous malformation)は,動脈と静脈が毛細血管を経由せずに直接連続する血管構築上の異常であり,多くの場合,変形・拡張した血管が動脈と静脈の接続部分周辺で集積する結節状病変(この集積を「ナイダス」〔nidus。病巣中核〕という。)を呈している。AVMは,胎児早期(約3~4週間ころ)に形成されると考えられている。
(<証拠省略>,弁論の全趣旨)
イ 被控訴人X2のAVMについて
(ア) 被控訴人X2は,先天的にAVMを有していたが,本件発症後に発見されたものであり,本件発症前には出血等の症状は見られなかった。
(イ) 被控訴人X2は,本件発症日(平成13年4月13日)に行われた脳血管造影検査ではAVMの存在が確認できなかったが,その後,5月30日に再度行われた同検査により,左上小脳動脈及び後下小脳動脈から流入動脈があり,小脳半球静脈に流出静脈があるAVMが認められた。
なお,本件発症後に行われたCT検査により,被控訴人X2の左小脳の左椎骨動脈付近に血腫が認められた。同血腫の発見部位は,前記AVMの部位の近傍であった。
(<証拠省略>)
(ウ) 被控訴人X2は,平成10年ころ歩行中に目が回るような症状を自覚したため,2,3回程度通院したところ,メニエル病の疑いがあると診断され,投薬を受けた。被控訴人X2が服薬をしたところ,症状は見られなくなった。その後は同種の症状は発生していなかった。
(<証拠省略>)
ウ AVMの出血に関する医学的知見
(ア) AVMの年間発生率について
AVMの発生率に関しては,Jessurunらのオランダ領アンティネル島についての報告,及びBrownらの米国ミネソタ州オルムステッド郡についての報告がある。なお,この「発生率」とは「ある人口中で一定期間内に新たにAVMと診断される症例の率」をいう。
Jessurunらの報告では,オランダ領アンティネル島において,1980年から1990年の間に,人口15万5000人に対し17例の症候性AVM症例が見つかり,AVMの年間発生率は毎年1.1人/10万人であった。一方Brownらの報告では,米国ミネソタ州オルムステッド郡において,1965年から1992年の27年間に26例のAVMが発見されており,これを年齢,性別を補正して人口10万人比で示すと発生率はやはり1.1人/年となる(<証拠省略>)。
また,人口98万6000人の地域を単独でカバーしているスウェーデンの施設からの報告では,1989年から1999年の11年間に発見されたAVMは135例で,AVMの発生率は1.24人/10万人/年となっている(<証拠省略>)。
日本脳ドック学会の代表者らで構成された新ガイドライン作成委員会の「脳ドックのガイドライン2003」(<証拠省略>)によると,AVM発生率は人口100万人当たり12.4人/年(人口10万人当たりにすると1.24人/年になる。)とされている。
(<証拠省略>)
(イ) 無症候性のAVMについて
a J.P.Mohrほか「Vascular Malformations of the Brain:Clinical Consideration」(<証拠省略>〔D意見書Ⅱ〕参考文献3の687・688頁)では,McCormickが4530例の連続した剖検例から196例の動静脈奇形を発見し,その発生率は4.3%であり,その196例のうちわずか24例(12.2%)のみが動静脈奇形に由来する症候を呈していたにすぎないとして,McCormickの論考を引用している。
また,Christopher S.Ogilvyほか「Recommenda-tions for the Management of Intracranial Arteriove-nous Malformations」(<証拠省略>)にも,脳腫瘍の剖検例3200例を対象とした報告によると,3200例中46例(1.4%)でAVMが検出され,剖検で発見されたAVMの症例のうちの12.2%が症候性のもの(symptomatic)であったとされている。この部分の記述に関する参照文献(<証拠省略>)は,D意見書Ⅱ(<証拠省略>)参考文献2のことであり,後者の文献はMcCormickの文献(同文献の参照文献18)を引用しているから,「剖検で発見されたAVM症例中12%程度の症例が症候性であった」との甲31参考文献2の記述は,最終的にはMcCormickの報告に依っていることになる(D意見書Ⅱ〔<証拠省略>〕の2~9頁)。
(上記事実認定についての補足説明)
上記事実の前段と後段とでは剖検例やAVMの検出例の数が異なっているところ,本件証拠上その理由や経緯を解明することはできない。しかし,上記認定の各論考はそれぞれが専門誌等に掲載された公式の論文や報告であるから,これらをいずれも医学的知見として認定することとした。
b Al-shahi Rほか「A systematic review of the frequency and prognosis of arteriovenous malfor-mations of the brain in adults」(Brain 124:1900-1926,2001)(<証拠省略>)によると,AVMの発生頻度(発生率)は人口10万人当たり1.1人/年,AVMの発見時,少なくとも15%は無症状,3分の2が出血による発症,5分の1がてんかん発作による発症であるとされている(<証拠省略>)。
c 落合慈之「脳動静脈奇形の疫学・自然史」(<証拠省略>)は,海外の報告を引用して,AVMが発見された時の状況は,出血69.4%,てんかん発作14.8%,神経脱落症状5.9%,偶然発見4.4%,頭痛3.7%,三叉神経痛0.7%,その他0.7%としている。
(ウ) AVMの出血率について
a 「脳動静脈奇形残存例の自然経過」(脳神経外科20巻9号〔1992年9月〕。<証拠省略>)によると,AVMの結紮術やその他の治療を行ったもののAVMが残存する状態で退院した症例35例と,手術等をせず保存的治療のみを行い経過観察をした症例80例について追跡調査をした結果,上記35例については,初回治療後10年間の累積出血率は22%,15年間で33%,上記80例については,発症後10年間で25%,15年間で30%であって,差はほとんど認められなかったとされている。
b 「Bleeding from cerebral arteriovenous malfor-mations as part of their natural history」Carl J.Graf,M.D.ほか(Grafほか「自然経過の一部としての脳動静脈奇形による出血」。(証拠省略)。なお,このGrafらの報告は,後記eのMastらの報告とともに有名なものとされている〔<証拠省略>〕。)によれば,当初は非破裂AVMであった71例(この71例は,けいれん,頭痛,頭蓋内雑音,視覚障害,虚弱,吐き気,嘔吐,協調運動不適応,失神などの何らかの症状があって入院した患者であった。)のうち入院後に追跡できた66例について初回出血リスクを分析すると,累積リスクは,1年目終わりで2%,5年間で14%,10年間で31%,20年間で39%,平均年間出血リスクは2~3%であったとされている。また,けいれんのない16例では出血リスクが高く,17%が初期診断から5年以内に,45%が10年で出血したとされている。
c 脳卒中合同ガイドライン委員会作成の「脳卒中治療ガイドライン2004」(<証拠省略>)は,海外の文献を引用して,AVMの未出血例(出血以外で発症した症例を指すものと推測される。)の年間出血率は1.7%~2.2%であるとしている。
d また,「脳ドックのガイドライン2003」(<証拠省略>)では,上記bのGrafらの報告(<証拠省略>)などを引用して,自然経過の中での脳動静脈奇形から出血以外で発症した症例の出血率は年間2%~3%としている(この記載は,上記bのように,非破裂AVMであった66例についてその後に出血するリスクを追跡調査して得た出血率を指すものと解される。)。また,同書は,Mastらの報告(後記e参照)などを引用して,非出血発症例での出血率は年間2.2%であったとしている。
e 上記(イ)c記載の落合滋之「脳動静脈奇形の疫学・自然史」(<証拠省略>)も,Grafらの報告(<証拠省略>)やMastらの報告(Mast H,Young WL,et al:Risk of spontaneous haemorrhage after diagnosis of cerebral arteriovenous malformation. Lancet 350:1065-1068 1997.)を引用して,出血以外で発症した症例が出血を生じる危険はいずれも2~3%とされているとしている。
f さらに,落合慈之「脳動静脈奇形の疫学」(<証拠省略>)は,てんかん発作で発症したAVMの年間出血率がXである場合,そのAVM患者がY年間のうちに出血する確率は1-(1-X)yになるとしている(もっとも,この確率計算は,①どのAVMも生下時から存在し,②どのAVMのリスクの大きさは同等で,③生涯のどの時期にあってもリスクの大きさには変化がないなどの仮定に基づいているとされている。)。
(エ) AVMの出血因子について
a 前記(ウ)bのGrafらの報告(<証拠省略>),脳卒中治療ガイドライン2004(<証拠省略>)によると,動静脈のからまりあった本体(ナイダス)が3cm未満のAVMはそれより大きいものより出血しやすいとされている。その理由は,ナイダスが小さいと血流が遅くなり,その分ナイダス部分の血管内圧力が上昇して出血しやすくなり,逆にナイダスが大きいと血流は早くなり,その分血管内圧が下がり,出血しにくくなるからだと説明されている(<証拠省略>)。
この見解は広く知られたものであり,現在においてもそのように説明されることが多い(<証拠省略>)。
b これに対して,D意見書Ⅱ(<証拠省略>)は,2002年にされたStefaniらの調査(<証拠省略>)によると,小さなAVMは出血しやすいとする知見を将来の出血の危険予測因子としては明確に否定し,むしろ,大きなAVMの方が出血しやすいことが明らかにされたと指摘し(<証拠省略>),また,D意見書Ⅲ(<証拠省略>)は,Langerらの論文「高血圧,小型及び深部静脈流出は脳動静脈奇形の出血発症の危険因子と関連している」(Neurosurgery 42巻3号。1998年3月。<証拠省略>)が,小さなAVMは大きなAVMと同じくらい出血しにくい可能性があるとしているとして魏医師の意見書(<証拠省略>)を批判している(<証拠省略>)。
c 落合慈之「脳動静脈奇形の疫学」(<証拠省略>)は,Stefaniらの報告を引用して,独立の要因として有意にAVMの出血発症に関連したのは,静脈の異常拡張,局在が深在性(脳幹,視床,脳梁,小脳),流出静脈が1本であることという3要因であったとしている。
他方,上記bのLangerらの論文(<証拠省略>)は,小脳AVMは,テント上のAVMより出血の危険性が高いと結論することは誤りである可能性があるとしている。
d さらに,Kaderらによる多変量解析では,上記各出血因子の組合せによってさらに出血率が高くなるとされている。小さなナイダス(2.5cm以下)と深部流出静脈の組合せでは,96%と最も出血率が高く,次に中(2.5cmから5cm)から大(5cm)のAVMと深部流出静脈の組合せで出血率は80%になるとされている(<証拠省略>)。
e AVMの好発年齢については,落合慈之「脳動静脈奇形の疫学・自然史」(<証拠省略>)では,30歳未満と60歳以上で出血発症が高いとされており,落合慈之「脳動静脈奇形の疫学」(<証拠省略>)でも,30歳未満と60歳以上で出血発症の比が高く,30歳~40歳では出血発症の比が低いとされており,「脳出血の原因別・部位別・年代別・性別頻度」(<証拠省略>)によると,出血発症は,20歳代と50歳代にピークを示したとされている。
f 窪田惺「脳血管を究める」(<証拠省略>)は,出血しやすいAVMを次のようにまとめている(383頁)。
① 出血の既往
② 女性
③ 小児
④ 小さいAVM
⑤ 流出静脈では,file_4.jpg1本のもの,file_5.jpg深部流出静脈のみの場合,file_6.jpg流出静脈系の場合あるいは50%以上の狭窄を有する例
⑥ 深在性AVM
⑦ ナイダス内のAVM
⑧ びまん性のAVM
エ 被控訴人X2のAVMの特徴
被控訴人X2のAVMのナイダスの大きさは,血管造影画像から判読すると約2cmであり(<証拠省略>),またD意見書(<証拠省略>)では,長径約2.5cm,短径約2cmと推定されている。
被控訴人X2のAVMは小脳に局在し(<証拠省略>),流入動脈は左上小脳動脈及び後下小脳動脈の2本が確認され,これに対して流出静脈は小脳半球静脈への1本だけであった(<証拠省略>)。
オ 三友堂病院脳神経外科D医師の意見書(<証拠省略>。D意見書)
D医師は,上記のD意見書により次の(ア)以下のような意見を述べている。
(ア) AVMの発症率は,人口10万人当たり年間1.1人とされている(参考文献1)。しかし,剖検例を対象とした報告では,AVMの検出率は4.3%であったとされ(参考文献2),この間の差異は,AVMの中には無症状のままで経過する例が存在し,しかもその頻度が高いことを示している。剖検例を対象とした報告中,検出されたAVMのうち症候性のものは12.2%のみであった(参考文献2)ことから,残りの87.8%は無症候性のものであったと考えられる。
AVMの出血発症率は,58%を占めるとされている(参考文献3)が,この数値もまた,全く無症状のまま存在しているAVMを含めた出血発症率ではないのであり,このことは,AVMの自然経過を論じる場合に考慮すべき重要な点である。
(イ) AVMの出血発症年齢は,本邦における最近の調査では,20歳代より50歳代が多く,必ずしもAVMの出血発症が若年者に限られないことが明らかである(参考文献4)。
(ウ) 被控訴人X2のAVMは,小脳虫部から左歯状核に存在しており,ナイダスの大きさは,長径が約2.5cm,短径が約2.0cmと推定される。流入動脈は,左後下小脳動脈が主で,左上小脳動脈に加え,左前下小脳動脈も関与していると考えられる。流出静脈は,主要なものが横静脈洞に流入し,一部直静脈洞への逆流が認められる。流出静脈に狭窄はなく,脳動脈瘤の合併は認められない。
(エ) AVMの自然出血リスクを増大させる要因は,流出静脈が1本という特徴だけであり,その他のナイダスの大きさ,AVMの存在している場所や発症年齢は出血リスクを増大させる要因ではない。
(オ) AVMから出血が起こる機序は未だ明らかではないが,血管壁の脆弱化が関与していることは明白である。すなわち,AVMでは,本来,静脈にかかる圧力を減少させる毛細血管が存在しないために,静脈側に高い圧力がかかっている。このため,出血を防ぐために静脈の壁が動脈のように肥厚するという動脈化現象が起こっている。AVMは,このような機序により,高い血行力学的負荷に対する防御を行っているが,圧力の負荷と血管壁の防御との均衡が崩れることにより,破裂が惹起されるものと考えられる。
(カ) 長時間の労働は,睡眠時間を短縮させる結果,日中覚せい時の血圧を上昇させるのみならず,夜間睡眠時の血圧の低下を妨げるということが知られている(参考文献5)。また,血管壁の脆弱化を防止するには,この夜間睡眠時の血圧低下が重要な役割を果たしていることが明らかになっており,高血圧者のみならず,正常血圧者でも,夜間睡眠時の血圧の低下度が5%減少すると,心血管疾患の危険率が20%増大することが明らかにされている(参考文献6)。また,仕事に由来するストレスと血圧との関係についても,仕事上の緊張によって血圧は上昇し,その効果は,仕事中のみならず,家庭においても,また睡眠中においても有意に持続しているとの報告がある(参考文献7)。
(キ) 本件発症日以前13日間における被控訴人X2の業務による睡眠不足とストレスは,同被控訴人の血圧の上昇及び血行力学的負荷の増大を介して,本件発症の強力な誘因になったと判断される。
(ク) 被控訴人X2がめまい,耳鳴り,難聴の発作を訴えたとしても,これらの症状がAVMによるものであると考えるべき根拠は全くない。しかも,上記各症状が一過性のものであったことを考えれば,AVMとの関係は否定されるべきである。
カ 大阪南脳神経外科病院H医師の意見書(<証拠省略>。以下「H意見書」という。)
H医師は,上記のH意見書により,次の(ア)以下のような意見を述べている。
(ア) Grafらは,1946年から1980年までのAVM191例についてナイダスの大きさが3cm以下と3cm以上に分けて出血の危険性を検討すると,小さい方が出血の危険率が高いと報告した。また,高倉公朋監修の「脳神経外科シリーズ脳・脊髄動静脈奇形の治療」でも,上記見解は一般的とされている。被控訴人X2のAVMは,椎骨動脈領域にあり,深部静脈に排出されており,逆流があるなど深部静脈圧の亢進が示唆されるため,破れやすいものと考えるべきである。
また,被控訴人X2にめまい,耳鳴り,難聴などの発作があれば,無症候性とはいえない。
(イ) AVMの破裂の最大の原因は,血圧の上昇と考えられる。しかし,AVMより破れやすいくも膜下出血の要因に関する報告では,種々のストレスと気候的な要素を分析したところ,軽いストレス群では気候による有意差が出たが,重いストレス群では気候による有意差は出ず,ストレスに比べて,気候の変化の方が破裂に関与するとされている。
D意見書が睡眠不足による睡眠時の血圧低下が得られないために出血したとしている点については,睡眠不足による血圧低下は緩やかであることと,覚せい時の血圧が10~16mmHg高い程度の変化であることから,そのことによって出血の危険性が増すと考えるのは根拠がない。
(ウ) 被控訴人X2において超過勤務により身体に変調を来し,著明な血圧上昇が生じたとは考えられない。被控訴人X2について,動悸,顔のほてりなど,血圧上昇を疑わせる症状の報告は見られていない。また,本件発症は,普段どおり仕事の打合せをした後,デスクワーク中に起こったものであり,特別強いストレス(会社存亡の重要事項,本人にとっての死活問題,生命に関わる問題などによる異常興奮状態)下にあったかどうかが重要な点であって,このような引継ぎのストレスは,ごく軽度のものと考えられ,超過勤務が直接AVMの破裂を起こしたとする根拠はない。
(エ) D意見書では,被控訴人X2のAVMが無症候性のものとされているが,同被控訴人が22歳時に罹患したとされるメニエル病がめまい,耳鳴り,難聴などの発作であったとすれば,AVMのStealあるいは小出血による症状も十分考えられ,そうであるならば,同被控訴人のAVMは,無症候性ではなく,出血の危険性の高いAVMといえる。
(3) 被控訴人X2の労働時間について
当裁判所も,被控訴人X2の平成13年3月1日から同年4月13日までの労働時間は,原判決別紙「労働時間等一覧表(裁判所認定)」(ただし,「時間外労働時間」欄の数字を除く。)及び本判決別紙(58頁)の「労働時間等一覧表(控訴審裁判所認定)」に記載のとおりであったと判断する(原判決別紙「労働時間等一覧表(裁判所認定)」には「時間外労働」欄の数値に誤りがあったことから,本判決別紙の「労働時間等一覧表(控訴審裁判所認定)」のように訂正するものである。「時間外労働」とは,本件では業務の過重性をみるための指標の1つであることに照らし,法定労働時間を超える労働時間を指すものとする。また,本判決の別紙の「始業時刻,終業時刻,休憩時間及び労働時間の各欄の数値は,原判決の別紙の対応する各欄の数値と同一である。)。その理由は,次のア以下のように付加訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の第3の1(3)の説示と同一であるから,これを引用する。
ア 原判決32頁4行目から8行目までを次のように改める。
「b 証拠(<証拠省略>)によれば,被控訴人X2は4月3日,4日には原判決別紙労働時間等一覧表(裁判所認定)の「帰宅時刻」欄記載の各時刻に帰宅したこと,4月11日には午後12時ころに帰宅したことが認められる。また,証拠(<証拠省略>)と弁論の全趣旨(原判決別紙労働時間等一覧表(当事者主張)の「被告の主張」欄の「備考」欄参照)によれば,4月7日には被控訴人X2は午後7時30分ころまで控訴人で仕事をしたことが認められる。」
イ 原判決32頁25行目から33頁4行目までを次のように改める。
「イ 以上によれば,平成13年3月1日から本件発症日までにおける被控訴人X2の労働時間は,原判決別紙「労働時間等一覧表(裁判所認定)」及び本判決別紙「労働時間等一覧表(控訴審裁判所認定)」の各「労働時間」欄に記載のとおりであり,本件発症前1か月(平成13年3月14日から4月13日まで)における時間外労働時間(1週間当たり40時間を超えて労働した時間数。休日における労働も含む。)は合計約102時間35分,生産企画課所属時(同年4月2日から同月13日までの12日間)における時間外労働時間は合計約64時間05分になる。」
ウ 原判決34頁7行目の次に改行して次のように加える。
「 (エ) 控訴人は,生産企画課への異動から本件発症までの12日間(平成13年4月2日から同月13日まで。ちなみに,4月1日は日曜日であった。)における被控訴人X2の時間外労働時間が61時間であったとの原審裁判所の認定について,その認定の根拠となった申述書(<証拠省略>)及び通話履歴(<証拠省略>)は不確かな証拠であって,実態とかけ離れた認定になっていると主張する。
引用した原判決「事実及び理由」中の第3の1(1)オ(イ)(23頁21行目以下)のとおり,控訴人は従業員の残業時間や休日に勤務した時間数を従業員の事前又は事後申告によって把握していたところ,一般に,従業員の申告は必ずしも正確な残業時間等を反映しているとは限らないものと考えられる。また,申告に基づく勤怠簿(<証拠省略>)記載の被控訴人X2の時間外労働時間は3時間(4月2日,3日,4日,9日,11日,12日)又は2時間(4月6日,10日)になっているところ,被控訴人X2が生産企画課に異動後は原則自動車通勤に切り替えていたこと,帰宅時刻等を連絡するための電話の時刻や帰宅時刻等に関する被控訴人X3の供述(<証拠省略>,原審本人尋問)及び亡X1作成の申述書(<証拠省略>)に照らすと,上記勤怠簿(<証拠省略>)記載の時間外労働時間は実際のそれの一部である疑いを払拭できず,これを採用することはできないものというべきである。
他方,証拠(<証拠省略>,原審被控訴人X3)によれば,亡X1作成の申述書(<証拠省略>)は,労災の認定を申請するに際し,被控訴人X2の携帯電話の通話履歴(<証拠省略>の料金明細内訳書)などを手がかりに,亡X1,被控訴人X3及び被控訴人X4の3人で記憶喚起しながら作成したものと認められるところ,この記載内容は,通話履歴を基礎に,前後の諸事実等と関連させながら事実経過を復元したことによるものと認められ,そこに記載された内容が具体的で自然なものであることをも併せると,その記載内容は信頼することができるというべきである。
そこで,この申述書(<証拠省略>)を含め原審裁判所が摘示する各証拠等を総合すれば,被控訴人X2の実際の始業時刻及び終業時刻は原判決別紙「労働時間等一覧表(裁判所認定)」のとおりと認めることができる。控訴人の上記主張はこの認定を左右しない。」
2 争点1(本件発症と本件業務との間の因果関係の有無)について
上記1の(1)から(3)までの事実を前提として,本件発症と本件業務との間の因果関係の有無について判断する。
(1) 業務の過重性について
ア 情報システム課における業務について
前記認定事実によれば,情報システム課における被控訴人X2の業務は,オペレーションと呼ばれる業務で,具体的には,他の課員の指示のもと,手順書に従って端末機を操作して情報を集計したり,出力された内容を一次資料と照合して確認したりすることを内容とするものであって,慣れさえすれば業務の負担としてはさほど重いとはいえないものであったと考えられる。そして,被控訴人X2は,生産企画課への異動直前の平成13年3月の時点で既に約2年6か月間情報システム課に在籍し,作業内容にも相当程度熟練していたものと認められるから,情報システム課における業務は,被控訴人X2にとって困難なものであったとは認められない。
もっとも,情報システム課における時間外労働時間をみると,平成13年3月1日から31日までの1か月で,本判決別紙「労働時間等一覧表(控訴審裁判所認定)」のとおり,1日の休日労働を含め21日間の労働で64時間30分(1日当たり約3時間4分),1日(3月20日)の休日労働(10時間)を除くと20日間の労働で54時間30分(1日当たり約2時間43分)であったと認められる。この時間外労働時間は,少ない時間数ではないものの,労働の内容をも考慮すると,これが直ちに過重な負荷を与えるものであったとまでは認め難い。なお,同課では,毎月20日及び末日が締め日とされており,締め日の前後は多忙であったが,被控訴人X2は,締め日に関する業務そのものを担当しておらず,終業時刻が午後8時以降であったという事情を加味したとしても,同課における業務が量的及び質的に過重なものであったと認めることはできない。
以上から,被控訴人X2の情報システム課における業務が過重な負荷を伴うものであったと認めることはできない。
イ 生産企画課における業務について
(ア) 引継業務(平成13年4月2日~4日,7日,8日の業務)について
被控訴人X2がBから引き継いだ業務は,前記1(1)のとおり,5種類程度の特殊鋼球に関する①販売課からの納期検討依頼に対する納期の回答,②製造にかかった製品についての販売課からの納期の確認に対して回答をするための各工場のロット加工状況や仕掛品の進行進捗状況の確認,③販売課からの生産依頼書による材料生産手配,④生産計画書による指定寸法差日程表の作成と生産チェックなどであったところ,被控訴人X2がこれらを理解し独りでそれを行うことができるようにするために,Bは平成13年4月2日から4日までの間に,引用した原判決「事実及び理由」中の第3の1(1)ウの(ウ)から(カ)まで(ただし,本判決による訂正後のもの。)のように上記業務に関する説明を行った。
すなわち,Bは,①の業務については,実際の納期検討依頼に対する回答の仕方を説明し,②の業務については,同業務を円滑に遂行するためには,特殊鋼球の製造の流れを見て発注を受けた製品が製造工程のどの段階にあるかを把握することが必要であったことから,Bは被控訴人X2を伴って各製造工程の加工現場に赴いて各担当者を紹介した上で,製品加工の進捗状況やその確認の方法,通常の納期,その他注意すべき点などを説明した。次にBは,③の業務については,実際の購買課への材料購入時期の確認方法を説明し,④の業務については,生産日程表,生産実績表等の書類の作成方法やチェックの方法を説明した。②の業務に関する説明は,工場が稼働している就業時間内に行われ,その後に①,③及び④の業務についての説明が行われた。被控訴人X2は,4月7日(土)には,Bから説明を受けた上記業務内容を再確認するなどのために出社した。さらに8日(日)には,Bが休日出勤して,引継期間内に説明できなかった航空機用の耐熱鋼球についての仕様や工程,材料の調達,検査部門への問合せ等について説明した。
(イ) 引き継いだ業務の遂行(4月5日,6日,9日~13日)について
前記のとおり,被控訴人X2は平成13年4月5日から引継ぎを受けた前記業務を独りで行うようになった。その業務は前記(ア)記載の①~④の業務であって,具体的には,販売課からの納期検討依頼を受けて鋼球を加工している工場での加工状況や生産進捗状況を調査して回答すること,また,製造工場に対して,加工状況や加工時期の確認,サイズ切替えや加工順序の変更の連絡,完成した製品の出荷や出荷先を指示したり,納期短縮の依頼をしたりするものであった。
(ウ) 被控訴人X2の労働時間
a 被控訴人X2の平成13年4月2日から13日までの間の労働時間,時間外労働時間等は,本判決別紙「労働時間等一覧表(控訴審裁判所認定)」に記載のとおりである。
b 4月2日から4日までにおいては,被控訴人X2は,おおむね午前8時から午後10時30分ないし11時ころまで労働しており,時間外労働時間は1日当たり平均約5時間53分(6時間弱)であった。
4月5日は,歓迎会のために午後5時25分の終業であったが,6日以降はまた長時間の時間外労働に戻ったということができる。4月5日以降においては,休日出勤が2日(労働時間は,1日当たり平均9時間20分であった。),その他の週日においては,午前8時ころから午後10時ころまで労働した日が1日(4月6日),同じく午後11時ころまで労働した日が3日(4月9日,11日,12日)であり,午後9時20分ころ終業の日(4月10日)が1日あった。4月5日から12日までの時間外労働時間は合計46時間25分で,1日当たりは平均約5時間48分である。
c 結局,4月2日から12日までの11日間の時間外労働時間は合計64時間05分であり,被控訴人X2は1日当たり平均約5時間49分の時間外労働をしていたことになる。
(エ) 異動から本件発症までの間の業務の過重性について
a 引継期間についてみると,引継ぎを行うBは,本来は1週間かけて引継ぎをすべきであって,引継期間が3日間では短いと感じており(<人証省略>),実際に3日間の引継ぎでは航空機用の耐熱鋼球についての説明まで行うことができず,引継期間後である4月8日(日)に被控訴人X2は,休日出勤の上Bから上記事項の引継ぎを受けたものであった。したがって,引継ぎについては,短期間に過密な引継ぎが行われたものと考えられる。そのようなことから,被控訴人X2は,Bから引継業務に関する説明を受けたその日に残業し,あるいは,その後に休日出勤をして,それらを整理していたものと考えられる。また,被控訴人X2は,引継ぎ終了後にもBに対し2,3回程度引継事項について質問をした事実があった。したがって,説明時間がそもそも不足気味であったことも手伝い,被控訴人X2は,引継期間内に説明を受けた業務の内容を十分に理解するには至らなかったものと推測される。そこで,この一連の引継ぎにより,被控訴人X2には,過密な引継ぎに伴う長時間の労働と,それを理解しなければならないものの十分理解できていないという心理的負荷が生じていたものと考えられる。
その後は,前記のとおり,被控訴人X2はBから引継ぎを受けた業務について十分理解したとはいえない状態であったことから,これを理解しながら現実の業務を行っていかなければならない状態になり,必然的に長時間の労働を必要とし,また,早くそれを理解し円滑に業務を遂行しなければならないという心理的負荷が被控訴人X2に加わっていたものと考えられる。
b まとめ
被控訴人X2が4月2日に生産企画課で業務を開始してから4月13日の本件発症に至るまでの期間は12日間という比較的短期間であったし,また,被控訴人X2が業務を行う際に使用していたポケットノート(<証拠省略>)には,同人が業務を着実に遂行していったとも思われるような記載(業務内容に関する記載に,抹消線,OK,済といった記載が付加されていた。)がされている。しかし,これらの事情を勘案しても,被控訴人X2の業務は,長時間の時間外労働を伴う長時間労働及び休日出勤が継続し,業務量も多く,質的にも理解が十分にはできないものであったと評価するのが相当である。
すなわち,被控訴人X2は,4月2日から本件発症日である同月13日までの間には,1日の休みもなく長時間の時間外労働を余儀なくされていたものということができる。この間の時間外労働時間(休日労働を含む。)は合計64時間05分であり(1日当たり平均約5時間49分),極めて長時間の時間外労働をしていたものということができる。
ところで,本件発症前1か月間(3月14日~4月13日)の時間外労働時間をみると,合計102時間35分になる。厚生労働省の本件認定基準は,業務の過重性を検討するに当たり,労働時間については発症日を起点とした1か月単位の連続した期間をみて,発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働時間が認められる場合は,業務と発症との関連性が強いと判断できることを踏まえて判断する旨を定め,脳・心疾患に関する業務上の疾病の判断について基準を示している。本件では,本件発症前1か月間にまんべんなく長時間の時間外労働がされたというものではなく,4月2日以降に極めて長時間の時間外労働が集中的に連続して行われたものであったが,3月14日以降にも比較的長い時間外労働が行われており,その上に4月2日以降更に長時間の時間外労働が積み重なったものと評価することができるから,本件認定基準によっても本件は業務と発症との関連性が強いとされる事例であったと解することができる。
ちなみに,4月2日から13日までの時間外労働時間約64時間05分を1か月に換算してみる(12日間を30日に換算する。)と,約160時間になるから,この12日間の労働は,時間外労働時間数でみると極めて長時間のものであったということになる。
以上によれば,4月2日から13日にかけての被控訴人X2の業務は過重な身体的,精神的負荷を伴うものであったと認めるのが相当である。
ところで,E係長は,被控訴人X2の担当業務量はBが担当していた業務量の6割程度であると判断していたもので,習熟すれば被控訴人X2においてもこれをこなすことができるものであったと推認することができる。しかし,通常の能力の持主であっても,初めての業務を担当する際にはその遂行に困難を伴うことがあることは当然のことであって,被控訴人X2の場合(弁論の全趣旨によれば,同人も通常の能力の持主であったと認められる。)にも,当時の同人の状態を基準にして業務の過重性を検討するのが相当である。そうであれば,前段のように4月2日から13日にかけての被控訴人X2の業務は過重な身体的,精神的負荷を伴うものであったと認めるのが相当である。
(オ) 控訴人は,被控訴人X2は,情報システム課に在籍していた当時に生産企画課のために仕掛在庫把握システム開発のための準備を行って,生産企画課に異動する前から同課の業務内容に相当通じており,また,製造工程の現場主任との必要な人脈も作っていたから,Bから引き継いだ業務を3日間で理解し,その後自らその業務をこなしていたと主張する。
確かに,前記認定のとおり,被控訴人X2は仕掛在庫把握システム開発の準備作業を行っていた事実があり,具体的には,生産企画課担当者や製造工場作業者に対し,業務内容や各種帳票類の記入方法,製造工程との関係などについてヒアリングを行い,こうして収集した資料や情報に基づいて,資料(フローチャート等。<証拠省略>)を作成するといった作業を行っていたものと認められる。しかし,情報システム課時代に被控訴人X2が行ったヒアリング等は,あくまで上記システム開発のためにフローチャート等を作成して業務の流れを分析するという観点からされていたものであって,そこで得られた知識は,実際に生産企画課で特殊鋼球の担当者になって具体的な日常業務を遂行していくのに必要な知識やノウハウとは内容が大きく異なるものであったと解されるところである。上記システム開発の準備によって得られた知識がBから引き継いだ業務の理解に大いに役立つものであったとすれば,被控訴人X2はこれほどの残業や休日出勤をせずに済んだものと考えられるが,実際にはそうでなかったものといえる。結局,控訴人の上記主張は採用することができない。
(2) 本件業務と本件発症との因果関係の判断基準
一般に,脳血管疾患は,その発症の基礎となる血管病変等の基礎的病態が長い年月の生活の営みの中で形成され,それが徐々に進行し増悪するといった自然経過をたどり発症に至るものとされている。しかし,業務による過重負荷が加わることによって血管病変等がその自然経過を超えて増悪して脳血管疾患が発症することがあり,そのような場合には当該業務と脳血管疾患の発症との間に相当因果関係があると解するのが相当である。
すなわち,被控訴人X2は業務遂行中に基礎疾患であるAVMの破裂によって本件発症に至ったものであるところ,業務による過重な身体的,精神的負荷が被控訴人X2の基礎疾患をその自然の経過を超えて増悪させ,この発症に至ったものと認められる場合には,業務と基礎疾患の発症との間に相当因果関係があるものと認めるのが相当である(最高裁判所平成12年7月17日第一小法廷判決・裁判集民事198号461頁,最高裁判所平成16年9月7日第三小法廷判決・裁判集民事215号41頁各参照)。
そこで,上記の観点から,被控訴人X2について本件業務と本件発症との間に相当因果関係が認められるかどうかを以下に検討する。
(3) 基礎疾患であるAVMの態様等について
ア AVMの年間発生率について
AVMの年間発生率(1年間に新たにAVMと診断される症例の率)は,人口10万人当たり1.1人程度であって,頻度の少ない特異な疾患ということができる(前期1(2)ウ(ア)。<証拠省略>)。
イ AVMの出血率について
AVMの症例の出血率は,いずれも「出血以外で発症した症例」又は「出血を発症した症例」がその後出血を生じる率として問題にされている。これは,無症候のままでのAVMが発見されることは極めて少なく(前記1(2)ウ(イ)c参照),何らかの症状が発症しAVMが存在することが確認された症例を追跡するという方法によるしか,現実的には出血率を検討することが困難であるという事情によるものと思われる。このような症例を基礎とする年間出血率については,前記1(2)ウにみたように,2~3%,1.7~2.2%,2.2%など様々な数値が公表されている。
甲31の参考文献1は,てんかん発作で発症したAVMを持つ患者がY年間のうちに出血を起こす危険率は,その年間出血率がXである場合,1-(1-X)yであるとしており,この計算式を使用して,被控訴人X2が発症した年齢である26歳を基準に,26年間のうちに未出血発症のAVM患者が出血を起こす危険率を試算してみる。未出血発症のAVM患者が1年間で出血を起こす率を仮に2%とした場合,被控訴人X2の発症年齢である26歳までに出血発症する確率は40.8%と計算される。もっとも,この計算式は,前記1(2)ウ(ウ)のfのとおりいくつかの仮定の上に立っているとされるし,更に重要なこととして,この数値には無症候性のAVMが含まれていないということを指摘することができる。無症候性のAVMについては,次に述べるように,例えば無症候のまま生涯を過ごす事例も相当数存在する可能性があるから,無症候の被控訴人X2にこの数値が直ちに当てはまるものではない。
すなわち,無症候性のAVMがAVM全体に占める割合や,無症候性のAVMの年間出血率を直接かつ的確に示す文献などは本件では証拠提出されていない(もともと,そのようなデータは得にくいものであるように推測される。)。被控訴人らは,AVMを有する患者の多くは無症候性で出血発症することなく生涯を過ごすと主張しており,D意見書及びD意見書Ⅱはこれに沿うものである。このD意見書Ⅱ参考文献3が指摘するMcCormickの報告は,4530例の連続した剖検例から196例のAVMを発見し,そのうちの24例(12.2%)のみが症候を呈していたにすぎなかったというもので,McCormickの各種論考は様々な文献で引用され,また対象となった剖検例及び症例も多い。また,D意見書参考文献1の303・304頁では,McCormickの報告に符合する報告(Brownらの報告,Halimらの報告)が紹介されている。もっとも,同文献には,McCormickの報告に符合しない報告(Hillmanの報告)も紹介されている。以上のとおり,符合しない報告があるものの,一般にMcCormickの報告は相当の信頼性を有すると理解されているものと認められる。
このMcCormickの報告は,AVMを持つ者でも無症候のまま生涯を過ごす者が多いという見解に符合するものであり,H意見書(<証拠省略>)も,一般論としては,無症候のままで生涯を過ごす者がいることに反対するものではないと解される。
以上によれば,AVMを持つ者のうち無症候のまま生涯を過ごす者も少なからず存在する可能性が相当程度以上あり,そうであれば,AVMを持つ者全体(この中には,出血した者,未出血ではあるが症状が出た者のほか,無症候性〔未発症〕のAVMを持つ者が含まれる。)を分母とする出血率は,前記の数字よりも大幅に下がることなる。
ウ AVMの出血要因
(ア) 一般に,ナイダスが3cm未満のAVMは,それより大きいものより出血しやすいとされている(<証拠省略>)。その理由は,ナイダスが小さいと血流が遅くなり,その分ナイダス部分の血管内圧力が上昇して出血しやすくなり,逆にナイダスが大きいと血流は早くなり,その分血管内圧が下がり,出血しにくくなる(<証拠省略>)からだと説明されている。
これに対して,ナイダスが小さいことが出血リスクを高めるとの所見は誤っていると指摘する論文も存在する(<証拠省略>)し,D医師もそのような意見を述べている(D意見書Ⅱ,Ⅲ)。しかし,Langerらの論文「高血圧,小型及び深部流出静脈は脳静脈奇形の出血発症の危険因子と関連している」(<証拠省略>)は,小さなAVMは大きなAVMと同じくらい出血しにくい可能性を示唆しているにとどまるものと解される。また,従来からの一般的考え方に反する報告等が出されているにもかかわらず,現時点においても一般的には,ナイダスが小さいものは大きいものより出血しやすいとされているのであるから,この後者の見解が現在でも一般的ないし支配的であると解される。したがって,本件でもそのような前提で検討を進めるのが相当である。
(イ) Stefaniらの論文によると,AVMが脳の深部(脳幹,視床,脳梁,小脳)に存在すること,流出静脈が1本であることが有意にAVMの出血発症に関連しているとされており(<証拠省略>),この見解は合理的に了解可能であり,一般にもそのように理解されているところである。そして,流出静脈が1本であることがAVMの出血の危険性を増大させることついては,D意見書及びH意見書も一致している。
エ 被控訴人X2のAVMの特徴について
そこで,被控訴人X2のAVMの特徴を列挙すると次のようになる。
(ア) 無症候性のものであった。
(イ) ナイダスの大きさが3cmより小さかった。
(ウ) 流出静脈が1本であった。
(エ) 小脳虫部の脊髄背面かつ小脳扁桃前縁付近に存在しており,深在性であったといえる。
オ まとめ
被控訴人X2の基礎疾患であるAVMは,出血のリスクを高める因子(上記エの(イ)~(エ))を含んでいたといえるものの,他方では無症候性のもの(上記エの(ア))であったことから,出血のリスクを引き下げる因子もあったといえる。この状況における被控訴人X2の出血の危険の程度を数字で表すことはできないが,本件発症当時において,同人のAVMは,可能性としては一定の出血の危険が想定されるものであったとはいえるものの,しかし,出血の危険が現実のものとして間近に迫っていたようなものであったとはいえないと評価するのが相当である。
(4) 本件業務と本件発症との間の因果関係
ア そこで,上記(1),(3)の説示を踏まえ,生産企画課における過重な身体的,精神的負荷を伴う被控訴人X2の業務が同人の基礎疾患であるAVMをその自然の経過を超えて増悪させ本件発症に至ったものと認められるかどうかを検討する。
イ AVMが脳出血を引き起こす機序は,AVMには動脈からの血圧を減少させる機能を有する毛細血管が備わっていないために,血行力学的な負荷が増大することにより血管壁が脆弱化して破裂に至るというものと考えられる。そして,D意見書もH意見書も,このことを前提に,ともにその負荷を増大させる最大の要因は基本的には血圧であるとしている。
ウ 既に(1)において説示したとおり,被控訴人X2は,生産企画課に異動後の初出勤の平成13年4月2日から本件発症日である同月13日までの間においては,1日の休みもなく合計約64時間05分という極めて長時間の時間外労働を余儀なくされていたものであった。
そして,甲第3号証,第38号証及び被控訴人X3の原審本人尋問の結果をも併せると,被控訴人X2は,同月10日ころには帰宅してすぐ就寝するといった状態であり,同月11日の朝はなかなか起床することができず,その後も帰宅してすぐ就寝するといった状態になっていたものと認められるから,被控訴人X2は生産企画課に異動直後から本件発症に至るまでの間に疲労が蓄積するとともに,本件発症時にはかなりの睡眠不足になっていたものと認められる。さらに,前記のとおり,被控訴人X2は引継業務及びその後の業務を行うについて身体的な負荷に加えて心理的な重圧をも感じ,双方の過重な負荷がかかっていたものと認めるのが相当である。
そして,D意見書(<証拠省略>)は,仕事による睡眠不足は,日中覚せい時の血圧を上昇させるのみならず,血管壁の脆弱化を防止するのに重要な役割を果たしている夜間睡眠時の血圧低下を妨げ,また,仕事上のストレスによって血圧は上昇し,その効果は仕事中のみならず,家庭においても,また睡眠中においても有意に持続しているとしており,この意見はいくつかの文献(<証拠省略>)によっても裏付けられており,かつ,合理的に了解可能なものと考えられる。
したがって,被控訴人X2の生産企画課での業務による過重な身体的,精神的負荷とこれに起因する疲労や睡眠不足とによって,血圧の上昇や夜間睡眠時の血圧低下を妨げられる状態がもたらされ,このことが本件発症に関わったと考えることに不合理な点はないといえる。
エ これに対し,控訴人は,本件発症と本件業務との間には因果関係が認められない旨を主張し,H意見書(<証拠省略>)中には,これに沿う部分がある。すなわち,H意見書(<証拠省略>)は,睡眠不足による血圧上昇については,被控訴人X2に血圧上昇を疑わせる症状がなく,また,D意見書が言及している血圧上昇の程度ではAVMからの出血の危険性を増大させるものではないとしている。また,大阪労災病院のC医師は,北大阪労働基準監督署長に宛てて提出したC意見書(<証拠省略>)の中で,「原疾患である脳動静脈奇形による脳出血は本来は業務内容とは因果関係が乏しい疾患である」としている。
しかしながら,睡眠不足による血圧上昇の可能性についてはこれを否定し得る証拠はない上,被控訴人X2の勤務状況や生活状況からすれば,その具体的な程度を認定することはできないものの,業務の過重性及びこれによる疲労の蓄積と睡眠不足から,日中時の血圧上昇と睡眠時の血圧低下への障害が生じていたと考えて不合理はないということができる。
また,H意見書(<証拠省略>)は,AVMからの出血要因としてのストレスについて,AVMより出血しやすいとされるくも膜下出血の要因に関する報告を引用して,軽いストレス群では気候による有意差が出たが,重いストレス群では気候による有意差が出なかったとしている。しかし,AVMとくも膜下出血とを同一視できるかどうかは明らかでないし,また,H意見書自身AVMの出血の最大の要因が血圧であるとしているのであり,その前提と上記のデータとの関係が明らかではないものの,この前提自身を否定しているものとは解されない。
結局,H意見書は,長時間労働を含む過重な業務のストレス負荷や睡眠不足がAVMの出血要因になったと考えることに不合理はないとの判断を左右するものとはいえない。ちなみに,C意見書も,本来AVMと業務とは関係が乏しいとしながらも,最終的には「多少とも発症に関与した可能性は否定しがたい」としているところである。
オ また,控訴人は,被控訴人X2が以前にメニエル病様の症状を訴えたことがあったことから,これがAVMに起因するものであるとすれば,同人のAVMは症候性のものということになり,その場合には,脳出血を発症する確率が高まる旨を主張し,H意見書(<証拠省略>)中にはこれに沿う部分がある。そして,被控訴人X2がそのような症状を訴えたことがあったことは,前記認定のとおりである。
しかしながら,被控訴人X2は,2,3回通院し服薬した後はメニエル病様の症状を訴えることがなくなったのであるから,同症状は一過性のものであったといえる上に,服薬の効果があった可能性も十分あるから,同症状がAVMに起因するものである可能性は,全く否定することまではできないというレベルにとどまり,本件の証拠関係から同症状がAVMに起因すると認定することはできない。そうすると,上記の症状があったことにより被控訴人X2のAVMが症候性であり出血発症の確率が高まっていたとは直ちにいえないから,控訴人の上記主張は採用できない。
カ 以上によれば,被控訴人X2の生産企画課における上記のような業務が過重な身体的,精神的負荷を伴うものであり,この過重な負荷によって被控訴人X2は疲労が蓄積し睡眠不足に陥っていたところ,このような負荷及び疲労・睡眠不足は日中時の血圧上昇をもたらし,また睡眠時の血圧低下を妨げる要因になり得るものであったということができる。
他方,被控訴人X2の疾患であるAVMは一般論としては出血のリスクを高める因子を抱えていたといえる反面,出血のリスクを引き下げる因子である無症候性のものであった。これらの諸点を考えると,被控訴人X2のAVMがその自然の経過により一過性の血圧上昇等があれば直ちに出血を来す程度にまで増悪していたものとみるのは相当ではない。そこで,他に確たるAVMの増悪要因を見出せない本件においては,被控訴人X2の業務による過重な身体的,精神的負荷及びこれに基づく疲労や睡眠不足が同人の基礎疾患であるAVMをその自然の経過を超えて急激に増悪させ,本件発症に至ったものと認めるのが相当である。したがって,被控訴人X2の本件業務と本件発症との間には相当因果関係が存在するものと認めることができる。
3 争点2(控訴人の不法行為上の注意義務違反又は安全配慮義務違反の有無)について
当裁判所も,控訴人に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する生産企画課長は,使用者である控訴人の事業の執行について,労働者である被控訴人X2の生命,身体,健康を危険から保護するよう配慮すべき注意義務を怠り,被控訴人X2を本件発症に至らせたものと認められるから,控訴人は被控訴人らに対し,民法715条に基づき本件発症によって生じた損害を賠償すべき義務を負うものと判断する。その理由は,原判決「事実及び理由」中の第3の3の説示のとおりであるから,これを引用する。
ただし,原判決43頁11行目の「本件認定基準」から13行目の「認められる」までを「過重な身体的,精神的負荷を与えるものであり,疾患を持たない者についても脳血管疾患や虚血性心疾患の発症を一般的には危惧すべき程度のものであったと認めることができる」に改める。
4 争点3(損害の発生及び損害額)について
(1) 当裁判所も,本件発症により被控訴人X2に後遺障害等級1級1号に該当する後遺障害が残存するなどの損害が発生し,被控訴人X2の損害額(弁護士費用に係る損害額を除く。)は2億7151万5323円と認めるのが相当と判断する。
その理由は,次の(2)のように当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決43頁25行目から54頁16行目までの説示と同一であるから,これを引用する。
(2) 当審における控訴人の補充主張に対する判断
ア 控訴人は,被控訴人X2のAVMが再出血する危険性が高く,現実の余命と一般的な平均余命とは異なるから,平均余命を前提に損害を算定するのは不当であると主張する。
確かに,将来被控訴人X2のAVMが再出血する一定の危険性があると解されるのは控訴人の主張するとおりと思われる。しかし,現在本件において判明している諸事実及び証拠から,被控訴人X2についての具体的な余命を推認することは不可能である。また,AVMの出血症例を分母とする平均余命のデータも証拠提出されていない(おそらく,そのようなデータは存在しないと思われる。)。そこで,本件の証拠関係からは,被控訴人X2の余命期間について平均余命を下回る期間とすることはできないというべきである。
イ 控訴人は,被控訴人X2の平均余命を採用するのであれば,定期金賠償方式が採用されるべきであると主張する。
しかし,損害賠償請求者が訴訟上一時金による賠償の支払を求める旨の申立てをしている場合には,定期金による支払を命ずる判決をすることはできないものと解される(最高裁判所昭和62年2月6日第二小法廷判決・裁判集民事150号79頁)。したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
ウ 控訴人は,被控訴人X2の労働能力喪失期間を健常者と同様に67歳とすることは合理的な理由がないと主張する。
しかし,上記アのように,被控訴人の余命は平均余命によるべきであるから,労働能力喪失期間も67歳までとするのが相当である。控訴人の上記主張は理由がない。
5 損害賠償額の認定に被控訴人X2のAVMをしんしゃくすること(いわゆる素因減額)の可否
(1) 被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とが共に原因となって損害が発生した場合において,当該疾患の態様,程度等に照らし,加害者に損害の全額を賠償させるのが公平を失するときは,裁判所は,損害賠償の額を定めるに当たり,民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して,被害者の疾患をしんしゃくすることができるものと解される(最高裁判所平成4年6月25日第一小法廷判決・民集46巻4号400頁,最高裁判所平成20年3月27日第一小法廷判決・裁判集民事227号585頁)。
(2) 本件業務と本件発症との間に相当因果関係が認められるから,本件業務が本件発症の原因になっているというべきであるが,他方では,前記認定のような被控訴人X2のAVMの態様・特徴,AVM破裂の状況,それが自然の経過の中で出血する危険性の程度等からすれば,AVMは本件発症の1つの,そして重要な原因になっていると評価すべきものである。したがって,被控訴人X2に生じた損害の全部について控訴人に賠償義務を負わせることは公平を失するものと認められる。そこで,被控訴人X2に係る損害賠償額を算定するに当たっては,民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用し,被控訴人X2のAVMをしんしゃくするのが相当である。そして,被控訴人X2の業務の過重性及び同人のAVMの態様・特徴,被控訴人X2の現在の状態等の諸般の事情を考慮すると,本件では,被控訴らの損害を算定するについて損害額の40%を減額するのが相当である。
そこで,減額すべき額は,引用した原判決「事実及び理由」中の第3の4(2)ア(セ)記載の被控訴人X2の損害額2億7151万5323円の40%である1億0860万6129円になり,これを控除した後の残額は1億6290万9194円になる。
6 損害のてん補等 てん補額4835万3916円
引用した原判決「事実及び理由」中の第2の2(5)(ただし,訂正後のもの)のとおり,被控訴人X2は,以下の(1),(2)の合計4835万3916円の支払を受けたものであり,これらはいずれも被控訴人X2の損害から控除するのが相当である。そこで,これらを控除した後の残額は,1億1455万5278円になる。
(1) 労災保険
ア 休業補償給付 268万7982円
イ 傷病補償年金 1274万8906円
(2) 控訴人からの給付
ア 公傷見舞金 291万7028円
イ 障害見舞金 3000万円
(3) (1)及び(2)の合計 4835万3916円
7 弁護士費用 1100万円
本件の事案の性質,認容額等諸般の事情を考慮すると,本件不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用相当額の損害賠償金は1100万円と認めるのが相当である。
8 被控訴人X2の損害の合計額 1億2555万5278円
損害のてん補等を行った後の被控訴人X2の損害額1億1455万5278円に弁護士費用1100万円を加えた被控訴人X2の損害額の合計は,1億2555万5278円になる。
9 亡X1及び被控訴人X3の損害額
(1) 固有の慰謝料 各500万円
亡X1及び被控訴人X3の子である被控訴人X2が後遺障害を負ったことによって亡X1及び被控訴人X3の被った精神的苦痛は重大であり,両名が被控訴人X2の介護に当たる立場になったこと等も併せ考慮すると,固有の慰謝料として各500万円を認めるのが相当である。
(2) 賃貸家賃,宿泊費 0円
当裁判所も,被控訴人らが被控訴人X2の入院期間中に被控訴人X2に付き添うためにマンションを賃借したりホテルに宿泊したりしたことによって支出した費用は独立した損害とは認められないものと判断する。その理由は,原判決56頁17行目から23行目までの説示のとおりであるから,これを引用する。
(3) 被控訴人X2のAVMをしんしゃくした損害額の減額
前記5に記載のとおり,被控訴人X2の本件発症に基づく損害については40%を減じるのが相当であるから,損害額(固有の慰謝料額)は各300万円になる。
(4) 弁護士費用 各30万円
本件の事案の性質,認容額等諸般の事情を考慮すると,本件不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用相当額の損害賠償金は各30万円と認めるのが相当である。
(5) 合計 各330万円
以上の合計は,各330万円になる。
(6) 相続
引用した原判決「事実及び理由」中の第2の2(1)アのとおり,亡X1は平成16年8月27日に死亡し,被控訴人X3が2分の1,被控訴人X4及び被控訴人X2が各4分の1の割合でそれぞれ亡X1の権利を相続したから,被控訴人X3は165万円,被控訴人X4及び被控訴人X2は各82万5000円の損害賠償請求権をそれぞれ亡X1から相続したことになる。
10 争点4(被控訴人X2の退職事由)について
当裁判所も,被控訴人X2が控訴人を退職した事由は公傷病によるものであって,控訴人は被控訴人X2に対し退職金残金26万3500円の支払義務を負っているものと判断する。その理由は,原判決「事実及び理由」中の第3の5の説示のとおりであるから,これを引用する。
11 被控訴人らの請求の当否
(1) 被控訴人X2の請求について
ア 不法行為に基づく損害賠償請求は,1億2555万5278円及びこれに対する本件発症の日である平成13年4月13日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,その他は理由がない。
イ 訴訟承継した亡X1の不法行為に基づく損害賠償請求は,82万5000円及びこれに対する本件発症の日である平成13年4月13日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,その他は理由がない。
ウ 退職金請求は,26万3500円及びこれに対する履行期の翌日である平成15年5月1日から支払済みまでの商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を求めるもので,全部理由がある。
(2) 被控訴人X3の請求について
ア 不法行為に基づく損害賠償請求は,330万円及びこれに対する本件発症の日である平成13年4月13日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,その他は理由がない。
イ 訴訟承継した亡X1の不法行為に基づく損害賠償請求は,165万円及びこれに対する本件発症の日である平成13年4月13日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,その他は理由がない。
(3) 被控訴人X4の請求について
同請求は,訴訟承継した亡X1の不法行為に基づく損害賠償請求であり,82万5000円及びこれに対する本件発症の日である平成13年4月13日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,その他は理由がない。
第4結論
以上の次第で,上記第3の11の説示と異なる原判決をこの趣旨に従って変更することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岩田好二 裁判官 三木昌之 裁判官今中秀雄は,差し支えにつき署名押印することができない。裁判長裁判官 岩田好二)
(別紙)
労働時間等一覧表(控訴審裁判所認定)
始業
時刻
終業
時刻
休憩
時間
労働
時間
時間外
労働
時間
時間外
労働
時間計
3月1日
木
9:00
19:40
1:00
9:40
1:40
14:20
3月2日
金
9:00
20:00
1:00
10:00
2:00
3月3日
土
3月4日
日
3月5日
月
8:00
20:00
1:00
11:00
3:00
3月6日
火
8:00
20:50
1:00
11:50
3:50
3月7日
水
8:00
20:50
1:00
11:50
3:50
3月8日
木
8:00
20:20
1:00
11:20
3:20
11:40
3月9日
金
8:00
20:30
1:00
11:30
3:30
3月10日
土
3月11日
日
3月12日
月
9:00
20:30
1:00
10:30
2:30
3月13日
火
9:00
20:20
1:00
10:20
2:20
3月14日
水
9:00
20:00
0:00
11:00
3:00
8:10
3月15日
木
9:00
20:10
1:00
10:10
2:10
3月16日
金
8:00
20:00
1:00
11:00
3:00
3月17日
土
20:30
3月18日
日
3月19日
月
0:00
0:00
3月20日
祝
9:00
20:00
1:00
10:00
10:00
3月21日
水
8:00
21:20
1:00
12:20
4:20
3月22日
木
8:00
20:10
1:00
11:10
3:10
3月23日
金
8:00
20:00
1:00
11:00
3:00
3月24日
土
9:50
3月25日
日
3月26日
月
9:00
20:00
1:00
10:00
2:00
3月27日
火
9:00
20:00
1:00
10:00
2:00
3月28日
水
9:00
20:00
1:00
10:00
2:00
3月29日
木
9:00
19:50
1:00
9:50
1:50
3月30日
金
9:00
20:00
1:00
10:00
2:00
3月31日
土
23:15
4月1日
日
4月2日
月
8:00
22:30
1:00
13:30
5:30
4月3日
火
8:00
23:00
1:00
14:00
6:00
4月4日
水
7:50
23:00
1:00
14:10
6:10
4月5日
木
8:00
17:25
1:00
8:25
0:25
4月6日
金
7:50
22:00
1:00
13:10
5:10
4月7日
土
8:00
19:30
1:00
10:30
10:30
40:50
4月8日
日
9:00
18:10
1:00
8:10
8:10
4月9日
月
8:00
22:50
1:00
13:50
5:50
4月10日
火
8:00
21:20
1:00
12:20
4:20
4月11日
水
8:00
23:00
1:00
14:00
6:00
4月12日
木
8:00
23:00
1:00
14:00
6:00
4月13日
金
8:20
14:15
1:00
4:55
0:00
3月14日~4月13日合計
102:35